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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】鋼構造物の保護または補修方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/14 20060101AFI20240611BHJP
   H05K 5/06 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F16B37/14 C
H05K5/06 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023198748
(22)【出願日】2023-11-24
【審査請求日】2023-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517133552
【氏名又は名称】MKエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長坂 康史
(72)【発明者】
【氏名】竹渕 敏郎
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-038764(JP,A)
【文献】特表2015-521796(JP,A)
【文献】特開2023-124563(JP,A)
【文献】特開平02-153739(JP,A)
【文献】実開昭49-043667(JP,U)
【文献】特開2021-037649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/14
H05K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、該鋼材に固定されたボルトおよびナットとを備えた鋼構造物の保護または補修方法であって、
片面に粘着剤を有する平面状防食シートを用い、ボルトおよびナットと前記鋼材のコバとを除く前記鋼材の平面に、前記平面状防食シートの粘着剤を有する面をあてがって貼り付ける工程と、
断面Z形の内面または外面に粘着剤を有するZ形防食シートを用い、前記平面状防食シートの下にまたは上から、前記鋼材のコバに沿うように、前記Z形防食シートの粘着剤を有する面をあてがって貼り付ける工程と、
粘接着剤を用い、ボルトナットキャップを、ボルトおよびナットの一方または両方の突出部を被覆するようにして前記平面状防食シートの上に固定する工程と、
を含み、
前記ボルトナットキャップは、熱可塑性樹脂を含有する組成物を射出成形して形成され、紫外線波長域315~380nmの範囲の透過率が10%以下であり、
前記平面状防食シートおよび前記Z形防食シートは、外面側にフッ素系樹脂層と、粘着剤を塗布する面に熱可塑性樹脂層と、を有し、紫外線波長域315~380nmの範囲の透過率が10%以下であり、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した可視光域波長の全光線透過率が75%以上であり、厚みが30~2000μmの範囲である、鋼構造物の保護または補修方法
【請求項2】
前記ボルトナットキャップは、半球状または円板状の天部と、前記天部が角をもたずに全周で一方端に接続する円筒状の胴部と、前記胴部の他方端に全周で接続する環状円板のフランジ部と、を備え、
天部および胴部の厚み公差が、-15%~+15%の範囲にある、請求項1に記載の鋼構造物の保護または補修方法
【請求項3】
前記ボルトナットキャップは、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した可視光域波長の全光線透過率が75%以上である、請求項1に記載の鋼構造物の保護または補修方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内外に設置されるボルト及び/又はナットの接合面からの突出部を被覆するためのボルトナットキャップに関する。また、本発明はボルトナットキャップを用いたボルトナットおよび鋼構造物の保護または補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、水門、建築物、海洋構造物及びプラント等の主要な部材が鋼材で構成される鋼構造物は、ボルト及びナットを使用した締結方法が採用されている。このボルトナット結合を使用した場合、ボルトの頭部、及びナットは、一般に、接合面から突出した状態となるため、太陽光、風雨、潮風等の劣化因子の影響を受けやすく、徐々に劣化が進行し、発錆から腐食に至り、鋼構造物の機能を損なうという問題がある。接合面から突出したボルトの頭部及びナットの表面には防食塗装が施されているが、ボルト及びナットの表面は複雑な形状を有していることが多く、均一な塗装が困難なため、適切な塗膜厚の確保が難しいだけでなく、雨水や飛来塩分が滞留しやすいことから、ボルトナット近辺の防食塗装が剥離してしまい、劣化が進行しやすいという問題がある。
【0003】
そこで、ボルト及びナットの突出部に樹脂製のキャップ(ボルトナットキャップ)を被せることで、ボルト及びナットを保護し、錆の発生を防止する手法が検討されている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-038764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、少なくともフッ素系樹脂層とフッ素系樹脂を含有しない熱可塑性樹脂層をこの順に備える必要があり、平面状であれば実現できるが、複雑なキャップ形状とするにはそれぞれの樹脂層の厚みの管理が難しい問題があった。
【0006】
また、平板上の基材を熱成形すると天板と胴をつなぐ肩部の厚みが薄くなってしまう問題があった。厚みの薄い部分は、強度や耐候性に劣り、紫外線や酸素が透過しやすくなるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、製造が容易で施工性と耐候性に優れたボルトナットキャップを提供することを目的としている。また、そのボルトナットキャップを用いたボルトナットおよび鋼構造物の保護又は補修方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を有利に解決する本発明のボルトナットキャップは、熱可塑性樹脂を含有する組成物を射出成形して形成されたボルトナットキャップであって、紫外線波長域315~380nmの範囲の透過率が10%以下であることを特徴とする。
【0009】
なお、本発明のボルトナットキャップは、
(a)半球状または円板状の天部と、前記天部が角をもたずに全周で一方端に接続する円筒状の胴部と、前記胴部の他方端に全周で接続する環状円板のフランジ部と、を備え、
天部および胴部の厚み公差が、-15%~+15%の範囲にあること、
(b)JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した可視光域波長の全光線透過率が75%以上であること、
などが好ましい解決手段になり得る。
【0010】
上記課題を有利に解決する本発明にかかるボルトおよびナットの一方または両方の保護または補修方法は、粘接着剤を用い、上記いずれかのボルトナットキャップを、ボルトおよびナットの一方または両方の突出部を被覆するようにして固定することを含むことを特徴とする。
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼構造物の保護または補修方法は、鋼材と、該鋼材に固定されたボルトおよびナットとを備えた鋼構造物の保護または補修方法であって、片面に粘着剤を有する平面状防食シートを用い、ボルトおよびナットと前記鋼材のコバとを除く前記鋼材の平面に、前記平面状防食シートの粘着剤を有する面をあてがって貼り付ける工程と、断面Z形の内面または外面に粘着剤を有するZ形防食シートを用い、前記平面状防食シートの下にまたは上から、前記鋼材のコバに沿うように、前記Z形防食シートの粘着剤を有する面をあてがって貼り付ける工程と、粘接着剤を用い上記いずれかのボルトナットキャップを、ボルトおよびナットの一方または両方の突出部を被覆するようにして前記平面状防食シートの上に固定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
なお、本発明にかかる鋼構造物の保護または補修方法は、前記平面状防食シートおよび前記Z形防食シートは、外面側にフッ素系樹脂層と、粘着剤を塗布する面に熱可塑性樹脂層と、を有し、紫外線波長域315~380nmの範囲の透過率が10%以下であり、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した可視光域波長の全光線透過率が75%以上であり、厚みが30~2000μmの範囲であることが好ましい解決手段になり得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明のボルトナットキャップによれば、耐候性に優れており、紫外線遮蔽力が高いので、塗装したボルトナットや接着剤の劣化が小さい。ボルトナットキャップの厚みが均一であるので、強度や耐候性の劣化が起きにくいので好ましい。ボルトナットキャップが可視光の透過性に優れるので、ボルトやナットの経時変化を観察しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかるボルトナットキャップの一例を示す図面であって、(a1)および(a2)はタイプAの正面図および平面図であり、(b1)および(b2)はタイプBの正面図および平面図である。
図2】上記実施形態にかかるボルトナットキャップの使用例を示す模式断面図である。
図3】上記実施形態にかかるボルトナットキャップをボルトおよびナットの保護に用いた使用例を示す斜視図である。
図4】ISO4892-2に準拠したプラスチックの耐候性試験後の変色レベル(黄変)を比較するグラフである。
図5】上記耐候性試験後の引張強度の推移を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための物や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
<1.ボルトナットキャップ>
(1.1 組成物)
本実施形態にかかるボルトナットキャップは、熱可塑性樹脂を含有する組成物を射出成形して形成されたものである。この組成物は、一種以上の熱可塑性樹脂を含有する。透明性及び成形性を確保するため、熱可塑性樹脂の合計で組成物中に70質量%以上含有することが好ましい。
【0017】
熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂(PC樹脂)、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)よりなる群から選択される一種又は二種以上を含有することが好ましい。
【0018】
ポリ塩化ビニル系樹脂には、ポリ塩化ビニルの他、塩素化ポリエチレン、及び、塩化ビニルとコモノマー成分を共重合させた樹脂(例:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体)が挙げられる。ポリ塩化ビニル系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
ポリイミド樹脂は、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドからなる樹脂である。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族がイミド結合を介して共役構造を持つために剛直で強固な分子構造を持つうえ、イミド結合が強い分子間力を持つためにすべての高分子中で最高レベルの高い熱的、機械的、化学的性質を持つ。ポリアミドを加熱、または触媒を用いて脱水・環化して合成する2段法またはテトラカルボン酸二無水物とジイソシアナートを直接反応させて合成する1段法を用いることができる。
【0020】
ポリカーボネート系樹脂は、モノマー同士の結合を主にカーボネート基が担う樹脂である。ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、1種以上のビスフェノール類とホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させたもの、或いは、1種以上のビスフェノール類とジフェニルカーボネート類とをエステル交換法によって反応させたもの等が挙げられる。前記ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールAに代表されるビス-(4-ヒドロキシフェニル)-アルカンの他、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロアルカン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルフィド、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-エーテル、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-ケトン、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-スルホン、ビスフェノールフルオレン等が挙げられる。また、加工特性を向上させる目的等でビスフェノール類以外の他の2価フェノールとしてハイドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェニル等の化合物をコポリマーとして共重合させたものも好適に用いられる。ポリカーボネート系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールをモノマーの主成分とする樹脂である。成形時の結晶化抑制、加工性改良等の為に、他のコモノマー成分を共重合させてもよい。コモノマー成分の具体例としては、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が、ジオール成分として、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ブタンジオール等が挙げられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ポリアミド系樹脂は、モノマー同士の結合を主にアミド基が担う樹脂である。ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環式ポリアミド樹脂及び芳香族ポリアミド樹脂の何れを使用することもできる。脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9、ポリ
アミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド66/610等が挙げられる。脂環式ポリアミドとしては、ポリ-1,4-ノルボルネンテレフタルアミド及びポリ-1,4-シクロヘキサンテレフタルアミド、及びポリ-1,4-シクロヘキサン-1,4-シクロヘキサンアミドが挙げられる。芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド4T、ポリアミド5T、ポリアミドM-5T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12T、ポリアミドMXD6、ポリアミドPXD6、ポリアミドMXD10、ポリアミド6I、ポリアミドPACMT、ポリアミドPACMI、ポリアミドPACM12、ポリアミドPACM14等が挙げられる。ポリアミド系樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを原料モノマーとして用い、共重合を行うことにより得られる樹脂の総称であり、各成分の比率は任意のものを用いることができる。ABS樹脂に用いられる原料モノマーには、スチレンに加えて又は置き換えて、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ビニルナフタレン等の単量体を含有するものも含まれる。またアクリロニトリルに加えて又は置き換えて、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等の単量体を含有するものも含まれる。また、ブタジエンに加えて又は置き換えて、(メタ)アクリル酸ブチルを主体としたアクリル系ゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン系ゴムであるエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等の単量体を含有するものも含まれる。従って、本明細書において、ABS樹脂とは、AES樹脂、ASA樹脂、ACS樹脂等を包含する概念である。
【0024】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)の重合法は、任意の方法を選択することができる。ABS樹脂の製造方法としては、ポリブタジエンにアクリロニトリル-スチレン共重合体をグラフトするグラフト共重合法が一般的ではあるが、例えば乳化グラフト法、塊状重合法、ポリマーブレンド法等で重合したABS樹脂を用いることができる。
【0025】
乳化グラフト法では、アクリロニトリル、ラテックス、スチレンおよび触媒や乳化剤を重合反応機内で重合させ、水分などを遠心分離機で取り除いた後、押出機でペレット化する。塊状重合法では、重合反応槽を使用してそれぞれを重合させ、未重合のモノマーを回収した後、押出機でペレット化する。ポリマーブレンド法では、AS樹脂にゴムと添加剤を加えてミキサーでコンパウンドした後、押出機でペレット化する。極端にブタジエン比率が高いABS樹脂をグラフト法にて製造し、AS樹脂とコンパウンドする手法も同法の一種にあたる。
【0026】
ABS樹脂としては、ABS樹脂を主成分とするものであれば如何なる樹脂、例えばABS樹脂ブレンド物、ABS樹脂アロイ等を用いることが可能である。そのようなものとしては、例えばPC樹脂とABS樹脂をブレンドしたPC/ABS樹脂が挙げられる。またABS樹脂の耐熱性向上や、PC/ABS樹脂ブレンドやポリアミド/ABS樹脂ブレンドの相溶性、相容性向上を目的として、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体をブレンドしてもよい。
【0027】
本実施形態にかかる組成物は、本発明の目的を損なわれない範囲において、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、本実施形態にかかる組成物におけるポリイミド樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)の合計含有濃度は70質量%以上であり、典型的には80質量%以上であ、より典型的には90質量%以上である。
【0028】
ボルトナットキャップのフランジ部は、後述するように、防食シートの上に重ね合わせる可能性がある。そこで、本実施形態にかかる組成物における防食シートと接触する側の面、つまり、母材接触面は、防食シートとの間に挟む粘着シートとの接着強度を高めるために、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理(大気圧、及び真空)、高周波スパッタエッチング処理、フレーム処理、イトロ処理、エキシマUV処理、プライマー処理などの表面処理がされていてもよい。また、サンドペーパーやケレン、ブラスト処理等で物理的に表面を削るような目粗し処理を行ってもよい。プライマーとしては、アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、ウレタン系及びエポキシ系等があるが、防食シートとの接着強度を高めるという観点からはアクリル系が好ましい。
【0029】
(1.2 紫外線吸収性能)
本実施形態にかかるボルトナットキャップは、その組成物に紫外線吸収剤を含み、紫外線波長域315~380nmの透過率が10%以下であることを特徴とする。これにより、ボルトナットキャップを構成する組成物の耐候性を向上させる。加えて、ボルトナットキャップによって保護されるボルトやナット、鋼構造物に施された塗装等の劣化を抑制することができる。さらに、ボルトナットキャップの母材接触面と防食シートなどとの接着に用いられる粘接着剤の劣化を抑制することができる。紫外線波長域315~380nmの透過率が7%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、0であってもよい。
【0030】
紫外線吸収剤は、紫外線吸収能や使用する組成物との相溶性等を考慮して選択することができる。例えば、ハイドロキノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、シアノアクリレート系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。組成物中の紫外線吸収剤の含有量は0.05~15質量%であることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量は0.05質量%以上とすることにより、好ましくは1質量%以上とすることにより、さらに好ましくは2質量%以上とすることにより、耐候性の更なる向上効果と共に、紫外線吸収効果、更にはUVカット性付与による塗装や鋼材表面の劣化抑制効果が期待できる。紫外線吸収剤の含有量は15質量%以下とすることにより、好ましくは10質量%以下とすることにより、さらに好ましくは5質量%以下とすることにより、紫外線吸収剤が組成物の表面にブリードアウトすることを防止し、粘接着剤との密着性低下を防止でき、また、コスト削減を実現することができる。
【0031】
さらに、光安定剤を加えてもよく、光安定剤は、使用する組成物との相溶性や厚み等を考慮して選択することができる。例えば、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾエート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0032】
(1.3 ボルトナットキャップの構成例)
以下、ボルトナットキャップの構成例について、図1および図2を参照しながら説明する。
図1(a1)および(a2)には本実施形態の一例にかかるタイプAのボルトナットキャップ(1A)の正面図および平面図を示す。タイプAのボルトナットキャップは、半球状の天部(11A)と、天部(11A)が角をもたずに全周で一方端に接続する円筒状の胴部(13A)と、ナットおよびボルトの突出部(50)を胴部(13A)へと導入するための開口部(15A)と、ボルト及びナットが固定される平面部(41B)側に接着されるフランジ部(14A)と、を備える。天部(11A)および胴部(13A)が構成する内部空間内に、座金(50A)、ナット(50B)およびボルトの先端(50C)のすべてが囲繞されている。フランジ部(14A)は、開口部(15A)から径方向に延出された形状を有している。
【0033】
図1(b1)および(b2)には本実施形態の他の例にかかるタイプBのボルトナットキャップ(1B)の正面図および平面図を示す。タイプBのボルトナットキャップは、円状の天部(11B)と、天部(11B)と胴部(13B)とを角をもたずに全周で接続する肩部(12B)と、円筒状の胴部(13B)と、ボルトの頭部(50D)を胴部(13B)へと導入するための開口部(15B)と、ボルトが固定される平面部(41C)側に接着されるフランジ部(14B)と、を備える。天部(11B)、肩部(12B)および胴部(13B)が構成する内部空間内に、座金(50A)およびボルトの頭部(50D)が囲繞されている。フランジ部(14B)は、開口部(15B)から径方向に延出された形状を有している。
【0034】
(1.4 透明性)
本実施形態にかかるボルトナットキャップは、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した全光線透過率が75%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上(例えば90~99%)である。また、本実施形態にかかるボルトナットキャップは、JIS K7136-2000で規定された測定方法に準拠して測定したHAZEが60%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下であり、さらにより好ましくは30%以下であり、更により好ましくは20%以下であり、更により好ましくは10%以下であり、最も好ましくは5%以下であり、例えば0.1~60%の範囲とすることができる。全光線透過率及びHAZEは透明性と関連するパラメータであるところ、高い全光線透過率及び低いHAZEを示すことはボルトナットキャップの透明性が高いことを意味する。これにより、ボルトナットキャップによってボルト及び/又はナットの突出部を被覆施工した場合でも、突出部の劣化が目視確認可能となるため、ボルト及び/又はナットが固定されている構造物の劣化予知保全作業が容易となる。なおボルトナットキャップの全光線透過率、HAZEはボルトナットキャップの任意の箇所を切り出し、測定する。例えばボルトナットキャップの円板状天部(11B)やフランジ部(14A、14B)のような平坦な箇所が好ましい。
【0035】
(1.5 ボルトナットキャップの厚み)
本実施形態のボルトナットキャップ(1A、1B)は、天部(11A、11B)、肩部(12B)および胴部(13A、13B)の厚み公差が、-15%~+15%の範囲であることが好ましい。より好ましくは-10%~+10%の範囲であり、さらに好ましくは-5%~+5%の範囲である。これにより、安定した耐候性や均質な強度が得られる。ボルトナットキャップの厚みは、ボルトナットキャップの保形性及び強度の観点から、最薄箇所において50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが更により好ましく、1,000μm以上であることが特に好ましい。一方で、ボルトナットキャップの厚みは、成形性、保形性、強度及びコストの観点から、最厚箇所において3,000μm以下であることが好ましく、2,500μm以下であることがより好ましく、2,000μm以下であることが更により好ましい。従って、本実施形態にかかるボルトナットキャップの厚みは、50~3,000μmの範囲とすることができる。なお、ボルトナットキャップの最厚箇所はフランジ部を除いた箇所から特定することとする。
【0036】
(1.6 粘接着剤)
本実施形態にかかるボルトナットキャップの母材接触面がボルトやナットを固定する鋼材の平面部側に接着するにあたり、平面部の保護のために後述の防食シートで覆われていることがある。その場合、ボルトナットキャップの組成物である熱可塑性樹脂と防食フィルムの表層のフッ素樹脂との接着性を得るため、粘接着剤を介在させる。本実施形態で粘接着剤とは粘着剤、接着剤又は両者の混合物を指す。本実施形態において、粘着剤と接着剤の違いは、粘着剤が貼り合わせ時からゲル状の柔らかい固体であり、そのままの状態で被着体に濡れ広がり、その後も態の変化を起こさず、剥離に抵抗する力を発揮する。つまり粘着剤は貼り合わせるとすぐに実用に耐える接着力を発現するのに対して、接着剤が貼り合わせ時は流動性のある液体で貼り合わせ界面に濡れ広がり、その後化学反応により固体に変化し、界面で強固に結びつき、剥離に抵抗する力を発揮する。接着剤は貼り合わせた後に、実用に耐える接着力を発現するまでに接着剤が化学反応により固化する時間が必要である。使用する粘接着剤の種類は、フッ素系樹脂層及び熱可塑性樹脂の材質により適宜決定すればよい。
【0037】
粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着
剤等を挙げることができる。このような粘着剤は、単独で使用してもよいし、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
粘着剤は、粘着形態で分類すると、ホットメルト粘着剤、二液混合型粘着剤、熱硬化型粘着剤、及びUV硬化型粘着剤などに分けることができるが、これらの中でも取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、二液混合型粘着剤が好適に利用可能である。
【0039】
これらの中でも、透明であること及び優れた粘着性を有しているという観点から、(メタ)アクリル系粘着剤やシリル化ウレタン樹脂系粘着剤は好適に使用可能である。
【0040】
粘着剤には、必要に応じて、架橋剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加物を添加することができる。
【0041】
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。特に好適な架橋剤はイソシアネート系架橋剤であり、粘着剤を構成するポリマーの構成単位となる
モノマー(例えば、BAとAAの合計)100質量部に対して、イソシアネート系架橋剤0.3~4質量部であり、好ましくは0.5~3質量部である。イソシアネート系架橋剤が0.3質量部以上であると、粘着剤の凝集力が向上し、粘接着剤層の強度を高めることができる。また、イソシアネート系架橋剤が4質量部以下であると、粘着剤に適度な柔軟性が得られる。
【0042】
粘着付与剤は、軟化点、各成分との相溶性等を考慮して選択することができる。例えば、テルペン樹脂、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、テルペン-フェノール樹脂、キシレン系樹脂、その他脂肪族炭化水素樹脂又は芳香族炭化水素樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。紫外線吸収剤および光安定剤は上述物を用いることができる。
【0043】
接着剤としては、(メタ)アクリル樹脂系接着剤、天然ゴム接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂溶剤系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム溶剤系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、変性シリコーン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、オレフィン樹脂系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤、ポリスチレン樹脂溶剤系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール系接着剤、ポリベンズイミダゾール接着剤、ポリメタクリレート樹脂溶剤系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤等が挙げられる。接着剤は、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
接着剤は、接着形態で分類すると、ホットメルト接着剤、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、及びUV硬化型接着剤などに分けることができるが、これらの中でも取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、二液硬化型接着剤、熱硬化型接着剤及びUV硬化型接着剤が好適に利用可能である。
【0045】
上記の接着剤の中では、取り扱いの容易さと安定した接着強度発現の理由により、シアノアクリレート系硬化型接着剤が好ましい。
【0046】
接着剤においても、必要に応じて、先述した架橋剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加物を添加することができる。また性能に影響がでない範囲で、揺変剤、顔料、消泡剤、希釈剤、硬化速度調整剤等を加えることもできる。
【0047】
<2.ボルトナットキャップの製造方法>
本実施形態にかかるボルトナットキャップは、射出成形によって製造する。射出成形とは、熱可塑性樹脂等の樹脂を加熱融解させてから、高圧で金型内に射出し、圧力を保ったまま冷却固化させて成形する成形方法であり、従来既知の任意の射出成形方法が用いられる。金型の隙間でボルトナットキャップの厚みを精度良く管理でき、上述の公差に収めることができる。
【0048】
<3.ボルトナットキャップを用いた保護又は補修方法>
ボルトナットキャップは、所定の粘接着剤を用い、ボルト及びナットの一方又は両方の突出部を被覆するようにして所望の表面(一般にはボルト及びナットが固定されている構造物の表面)またはその表面を被覆する防食シートに固定することで、ボルト及びナットの一方又は両方の保護又は補修を行うことができる。ボルトナットキャップ及び粘接着剤は共に透明であることが被覆した突出物(例:ボルト及びナット)の劣化状況を視認できるので好ましい。粘接着剤としては、上記粘接着剤層の説明で挙げた粘接着剤を好適に使用することができる。粘接着剤の詳細な説明は、既に述べた通りであるので、省略する。
【0049】
本実施形態にかかるボルトナットキャップは、例えば、新設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方を保護する用途で利用可能である。本実施形態にかかるボルトナットキャップを、新設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方に被せることで、防食性及び耐候性を高めることが可能となる。また、本実施形態にかかるボルトナットキャップは、既設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方を補修する用途で利用可能である。本実施形態にかかるボルトナットキャップを、既設の鋼構造物を構成するボルト及びナットの一方又は両方に被せることで、腐食や発錆等によるボルト及びナットの一方又は両方の劣化が現状よりも進行するのを遅らせることができる。
【0050】
従って、本発明の他の実施形態において、粘接着剤を用い、上記実施形態にかかるボルトナットキャップを、ボルト及びナットの一方または両方の突出部を被覆するようにして固定することを含むボルト及びナットの一方または両方の保護又は補修方法を提供する。
【0051】
また、本発明の別の実施形態において、鋼材と、該鋼材に固定されたボルトおよびナットとを備えた鋼構造物の保護または補修方法であって、片面に粘着剤を有する平面状防食シートを用い、ボルトおよびナットと前記鋼材のコバとを除く前記鋼材の平面に、前記平面状防食シートの粘着剤を有する面をあてがって貼り付ける工程と、断面Z形の内面または外面に粘着剤を有するZ形防食シート(コーナーフィルム)を用い、前記平面状防食シートの下にまたは上から、前記鋼材のコバに沿うように、前記Z形防食シートの粘着剤を有する面をあてがって貼り付ける工程と、粘接着剤を用い、上記実施形態にかかるボルトナットキャップを、ボルトおよびナットの一方または両方の突出部を被覆するようにして前記平面状防食シートの上に固定する工程と、を含む、鋼構造物の保護または補修方法を提供する。
【0052】
図2および図3を参照すると、鋼材(40)に形成されたボルト穴(43)に挿入されたボルトの先端部(50C)に座金(50A)を介してナット(50B)が螺合されている。また、タイプAおよびタイプBのボルトナットキャップ(1A、1B)を用いて鋼材(40)に固定されたナット及びボルトの突出部(50)、並びにボルトの頭部(50D)が被覆されている。ボルトナットキャップ(1A、1B)のフランジ部(14A、14B)の内表面は、粘接着剤(6)を介して、鋼材の表面(41)に貼り付けた平面状防食シート(2)などに接着することができる。
【0053】
また、ボルトナットキャップ(1A、1B)のフランジ部(14A、14B)の内表面を直接鋼材の表面(41)に接着してもよい。図2に示すように、平面状防食シート(2)の端部(本実施形態においては、穴(43)の外周に沿って形成された環状端部)にボルトナットキャップのフランジ部(14A、14B)を重ね合わせることで、平面状防食シート(2)とボルトナットキャップ(1A、1B)の間に未被覆部が存在しないように構成することが可能となる。代替的に、これとは逆に、ボルトナットキャップ(1A、1B)を鋼材の表面(41)に固定してから、平面状防食シート(2)の端部をボルトナットキャップのフランジ部(14A、14B)の上に重ね合わせるように貼り付けることで、平面状防食シート(2)とボルトナットキャップ(1A、1B)の間に未被覆部が存在しないように構成することが可能となる。
【0054】
ボルトナットキャップで被覆するボルトやナットには特に制限はないが、例えば高力ボルト、高力六角ボルト、トルシア形高力ボルト、溶融亜鉛めっき高力ボルト、防錆処理高力ボルト、耐候性鋼高力ボルト、耐火鋼高力ボルト、海浜海岸耐候性鋼高力ボルト、超高力ボルトなどが用いられる。規格としては、例えばJIS B1186:2013が挙げられる。
【0055】
ボルトナットキャップの構造は、ボルト及びナットの形状に応じて適宜変形することが可能である。例えば、図2には、鋼材に固定された六角ボルトと六角ナットの組み合わせをボルトナットキャップによって被覆したときのボルトナットキャップ(1A、1B)及び鋼材(40)の模式的な側断面図が示されている。この実施形態では、六角ボルト及び六角ナットは共に座金(50A)を挟んで鋼材(40)に固定されている。替えて、同じボルトナットキャップ(1A、1B)を用いて、鋼材に固定されたトルシア形高力ボルトを被覆することもできる。
【0056】
鋼材(40)の表面は、塗料が塗布されていなくてもよいが、一般には塗料が塗布されており、典型的には防錆塗料が塗布される。このため、鋼材の表面は一般に塗膜、典型的には防錆塗膜で保護されている。防錆塗料としては、限定的ではないが、例えば、フッ素樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、及びエポキシ樹脂塗料が挙げられる。これらは単独で使用してもよいが、防食性を高める上では、組み合わせて使用することが好ましい。塗装を行うに当たっては、鋼材の表面を予めブラスト処理等で下地処理しておくことが塗装の密着性を高める上で好ましい。
【0057】
好適な実施形態において、鋼構造物を構成する鋼材の表面には、防食下地、下塗層、中塗層、上塗層の4層からなる重防食塗装を施すことができる。防食下地用の塗料としては、例えば、無機ジンクリッチペイント及び有機ジンクリッチペイントが挙げられる。下塗層を形成する塗料としては、例えば、エポキシ樹脂塗料が挙げられる。中塗層を形成する塗料としては、例えば、エポキシ樹脂塗料及びフッ素樹脂塗料が挙げられる。上塗層を形成する塗料としては、例えば、フッ素樹脂塗料及びポリウレタン樹脂塗料が挙げられる。各層を形成する塗料は単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。重防食塗装の工程例としては、鋼道路橋塗装・防食便覧(公益社団法人日本道路協会)記載のC-5塗装系が挙げられる。
【0058】
鋼構造物には特に制約はないが、例えば橋梁、水門、鉄塔、パイプライン、海洋構造物、ガスタンク、プラント、風力発電プロペラ塔、ビル、工場、倉庫、駐車場、フェンス、屋根(例えば、高速道路内へのゴルフ場からの飛球防止のネットを支持する構造物)、起伏ゲート等の屋外に暴露した状態で設置される鋼構造物が挙げられる。屋外に暴露した状態で設置される鋼構造物は、水分や塩分の付着によって腐食しやすい環境に暴露されるため、本発明に係るボルトナットキャップを用いたときの効果が顕著に表れる。図3に鋼構造物の一部に本実施形態を適用した例を斜視図で示す。
【0059】
鋼構造物を構成する鋼材の表面には、所望の塗装膜厚を容易に確保できる部分と、所望の塗装膜厚を確保するのが難しい部分とが存在する。鋼構造物においては、塗装膜厚を確保するのが難しい部分を起点として錆及び腐食が発生することが多い。このため、このような塗装膜厚を確保するのが難しい部分に防食シートを貼り付けることが、鋼構造物の保護又は補修するにあたって好ましい。鋼構造物を構成する鋼材の表面全体に防食シートを貼り付けなくても、塗装膜厚を確保するのが難しい部分に防食シートを貼り付けることができれば高い保護又は補修効果が得られるので経済的である。
【0060】
塗装膜厚を確保するのが難しい部分としては、限定的ではないが、部材角部(コバ面)、溶接部、稜部、角部(多角形の頂点部分)などが挙げられる。なお、部材角部(コバ面)とは、鋼構造物を構成する鋼材が板状部分を有するときの当該板状部分の露出した板厚面を指す。部材角部(コバ面)の板厚方向の長さは、限定的ではないが、一般には1.6~100mmであり、典型的には9~50mmである。
【0061】
前記鋼構造物を構成する鋼材の部材角部(コバ面)へ、防食シートを貼り付ける際には、部材角部(コバ面)のみに防食シートを貼り付けることも可能であるが、図2に示すように、部材角部(コバ面)(41A)に隣接する一対の平面部(41B、41C)のそれぞれの少なくとも一部に跨って部材角部(コバ面)(41A)に貼り付けるコーナーフィルム(3)を用いることが、鋼構造物の耐久性を高める上でより好ましい。当該構成により、部材角部(コバ面)(41A)及び稜部に対して同時にコーナーフィルム(3)の貼り付け施工をすることができるので、効率的である。図2に示す実施形態においては、鋼材表面(41)の平面部(41B、41C)には、平面状防食シート(2)又はボルトナットキャップ(1A、1B)によって被覆されていない未被覆部が存在するが、当該未被覆部は塗装膜厚を容易に確保できる部分であるので、必ずしもこれらによって被覆しなくても大きな問題はない。
【0062】
防食シートとしては、樹脂製シート、特に、フッ素樹脂系シート、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系シート、高密度ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、ポリ塩化ビニルシート等が挙げられるが、これらのシートに限定されるものではなく、公知の防食シートを要求される特性に応じて選択すればよい。
【0063】
特に好適な防食シートとして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体よりなる群から選択される一方又は両方を含有するフッ素系樹
脂層及び粘着剤層を外側から内側に向かってこの順に備えた積層構造を有する防食シートが挙げられる。特に複数のフッ素樹脂層及び粘着剤層を外側から内側に向かってこの順に備えた積層構造を有する防食シートが好ましい。粘着剤層には、例えば上述した粘着剤を好適に含有可能である。この防食シートは粘着剤層を貼り付け側として鋼材の表面に貼り付けることで使用される。
【0064】
粘着剤を塗布する面に熱可塑性樹脂層を有することが好ましい。また、本実施形態で用いる防食シートは、紫外線波長域315~380nmの透過率が10%以下であり、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した可視光域波長の全光線透過率が75%以上であり、厚みが30~2000μmであることが好ましい。限定理由は、ボルトナットキャップの組成物に準じる。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて、比較例と対比しつつ詳細に説明する。
【0066】
タイプAのボルトナットキャップは、開口部内径50mm、フランジ部外形70mm、高さ46mm、厚さ1.5mmとした。タイプBのボルトナットキャップは、開口部内径50mm、フランジ部外形70mm、高さ26mm、厚さ1.5mm、肩部断面の内面曲率9.5mmとした。いずれのボルトナットキャップも天部および胴部の厚み公差が-5%~+5%の範囲にあった。平板状防食シートおよびコーナーフィルムは外面側から順にPVDF層、アクリル樹脂層およびシリル化ウレタン樹脂系粘着剤層を有するものを用いた。接着剤にはシアノアクリレート系硬化型接着剤を用いた。
【0067】
(紫外線透過性)
ボルトナットキャップに用いたものと同一の組成物を用いて、2mm厚さの平板を射出成型し、平板サンプルとした。この組成物サンプルについて、紫外線の照射試験を行った。紫外線波長域315~380nmの透過率が最大でも7%であった。母材接触面に塗布する粘接着剤の紫外線劣化が軽減され、長期暴露に適した材料といえる。また、防食シートも同様に300時間の紫外線照射試験を行い、透過率が10%未満であった。
【0068】
(可視光透過性)
上記平板サンプルを用い、JIS K7361-1-1997に準拠して、可視光域波長の全光線透過率を測定した。可視光域波長の全光線透過率は75%以上であった。JIS K7136-2000のHAZE値は2.5%であった。
【0069】
(耐候性試験)
上記平板サンプル(発明例)をISO4892-2に準拠して、キセノンアークランプを用いた暴露試験を行い、促進耐候性試験とした。300時間の促進耐候性試験後の黄変指数を調査した。比較例として、市販のボルトナットキャップの素材A、BおよびCとポリカーボネート(PC)とアクリル樹脂(PMMA)とを同様に300時間の促進耐候性試験後の黄変指数を調査した。結果を図4に示す。発明例は既存品(A,B,C)やポリカーボネートより黄変指数が小さく、アクリル樹脂と同様、耐候性に優れるといえる。
【0070】
(強度)
上記平板サンプルおよび市販の素材を同様の促進耐候性試験の前後で引張強度試験し結果を図5に示す。縦軸は、促進耐候性試験前の引張強度を100%としている。発明例は2万時間の促進耐候性試験後も強度低下がない。比較例は100時間以下で強度低下が始まっている。
【符号の説明】
【0071】
1 ボルトナットキャップ
1A (タイプA)ボルトナットキャップ
1B (タイプB)ボルトナットキャップ
11A、11B 天部
12B 肩部
13A、13B 胴部
14A、14B フランジ部
15A、15B 開口部
2 (防食シート)(平面フィルム)平面状防食シート
3 (防食シート)(コーナーフィルム)Z形防食シート
40 鋼材
41 鋼材の表面
41A 部材角部(コバ面)
41B、41C 平面部
43 ボルト穴
50 ナット及びボルトの突出部
50A 座金
50B ナット
50C ボルトの先端部
50D ボルトの頭部
6 粘接着剤
【要約】
【課題】製造が容易で施工性と耐候性に優れたボルトナットキャップを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含有する組成物を射出成形して形成されたボルトナットキャップであって、紫外線波長域315~380nmの透過率が10%以下である。半球状または円板状の天部と、前記天部が角をもたずに全周で一方端に接続する円筒状の胴部と、前記胴部の他方端に全周で接続する環状円板のフランジ部と、を備え、天部および胴部の厚み公差が、-15%~+15%の範囲にあること、JIS K7361-1-1997で規定された測定方法に準拠して測定した可視光域波長の全光線透過率が75%以上であることが好ましい。このボルトナットキャップを用いたボルトおよびナットの一方または両方の保護または補修方法および鋼構造物の保護または補修方法を提供する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5