(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】デモンストレーション用器具、及びデモンストレーション方法
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20240611BHJP
A61C 5/00 20170101ALI20240611BHJP
【FI】
G09B23/28
A61C5/00
(21)【出願番号】P 2024012022
(22)【出願日】2024-01-30
【審査請求日】2024-01-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 達哉
【審査官】池田 剛志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110634373(CN,A)
【文献】国際公開第2007/144932(WO,A1)
【文献】特開2009-053659(JP,A)
【文献】特開2019-211704(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104112387(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/28-23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工歯の欠損及び/又は窩洞に歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化するデモンストレーションを行うための器具であり、
欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)を含む人工歯(1)、及び
人工歯(1)を支持する構造物(2)を備え、
人工歯(1)を支持する構造物(2)は、人工歯(1)と結合しており、
人工歯(1)の角度は変更可能であ
り、
人工歯(1)が中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯、乳中切歯、乳側切歯、乳犬歯、第一乳臼歯、及び第二乳臼歯から選択される2種以上であり、
人工歯(1)を支持する構造物(2)が歯肉様構造である、
デモンストレーション用器具。
【請求項2】
人工歯(1)を支持する構造物(2)に結合された任意の1歯の人工歯の頬側面ないし唇側面を水平面に対して垂直にしたときの人工歯の角度を縦0°及び横0°であると仮定した場合、任意の1歯の人工歯の角度は、縦0°及び横0°の角度並びにそれ以外の角度の2種以上に変更可能であり、それ以外の角度が下記の条件における角度である、請求項
1に記載のデモンストレーション用器具。
(任意の1歯が唇側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-140°以上140°以下
(任意の1歯が右側頬側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-50°以上230°以下
(任意の1歯が左側頬側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-230°以上50°以下
【請求項3】
欠損及び/又は窩洞が、人工歯の咬合面、頬側面、及び唇側面から選択される2種以上の面の垂直方向から観察できる位置に設けられている、請求項1又は2に記載のデモンストレーション用器具。
【請求項4】
人工歯の欠損及び/又は窩洞に歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化するデモンストレーション方法であり、
欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)を含む人工歯(1)、及び
人工歯(1)を支持する構造物(2)を備え、
人工歯(1)を支持する構造物(2)は、人工歯(1)と結合しており、
人工歯(1)の角度は変更可能であ
り、
人工歯(1)が中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯、乳中切歯、乳側切歯、乳犬歯、第一乳臼歯、及び第二乳臼歯から選択される2種以上であり、
人工歯(1)を支持する構造物(2)が歯肉様構造である、デモンストレーション用器具の欠損及び/又は窩洞に対して歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化させ修復済み人工歯を得る工程を含むことを特徴とするデモンストレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デモンストレーション用器具、及びデモンストレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、細菌により産生された酸が歯質を脱灰することによって引き起こされる。う蝕にかかった虫歯の治療方法として、う蝕部分を機械的に削り、削った箇所に歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化することが行われている。
【0003】
歯科充填用コンポジットレジンの色調の良否やシリンジから歯科充填用コンポジットレジンを押し出す際の使用感の良否により治療の出来や難易度が大きく異なるところ、各社が販売している歯科充填用コンポジットレジンは色調や使用感が異なることが知られている。このことから歯科医や歯科衛生士等の歯科関係者は各社の歯科充填用コンポジットレジンを購入する前に、歯科充填用コンポジットレジンのサンプル品を、例えば咬合面に窩洞のある臼歯に対して充填し、硬化することで実際に色調の確認をデモンストレーションとして実施する場合がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際に発生するう蝕の箇所は様々であり、咬合面の他、頬側面や唇側面等多様な箇所に発生しうる。また、外部からの物理的な衝撃により歯の様々な箇所が割れることもある。そのような様々な箇所の欠損及び/又は窩洞に対して、歯科充填用コンポジットレジンの色調が適合するのか、形態安定性は良好といえるのか、シリンジの使用感は良好といえるのかについて、歯科充填用コンポジットレジン購入前にその性能を歯科関係者が実際に確認する方法はなかった。また、従来のデモンストレーションでは、歯根側が平面であり咬合面に窩洞を有する臼歯を用いることが通常であり、歯根側以外の面は通常の歯の形を模して凹凸があり、それらの面を底にした場合不安定であることから、咬合面以外に欠損や窩洞を設ける際の安全性も不安が残り、修復箇所を観察しにくいという課題もあった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、人工歯の任意の箇所に欠損及び/又は窩洞を安定して設けることができ、欠損及び/又は窩洞を有する人工歯を歯科充填用コンポジットレジンにより修復した後複数の方向から修復箇所を観察することができる、デモンストレーション用器具、及びデモンストレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定のデモンストレーション用器具、及びデモンストレーション方法によって、上記課題の一部又は全部が解決されることを見出した 。
【0008】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
人工歯の欠損及び/又は窩洞に歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化するデモンストレーションを行うための器具であり、
欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)を含む人工歯(1)、及び
人工歯(1)を支持する構造物(2)を備え、
人工歯(1)を支持する構造物(2)は、人工歯(1)と結合しており、
人工歯(1)の角度は変更可能である、
デモンストレーション用器具。
(項目2)
人工歯(1)が中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯、乳中切歯、乳側切歯、乳犬歯、第一乳臼歯、及び第二乳臼歯から選択される2種以上である項目1に記載のデモンストレーション用器具。
(項目3)
人工歯(1)を支持する構造物(2)に結合された任意の1歯の人工歯の頬側面ないし唇側面を水平面に対して垂直にしたときの人工歯の角度を縦0°及び横0°であると仮定した場合、任意の1歯の人工歯の角度は、縦0°及び横0°の角度並びにそれ以外の角度の2種以上に変更可能であり、それ以外の角度が下記の条件における角度である、項目1又は2に記載のデモンストレーション用器具。
(任意の1歯が唇側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-140°以上140°以下
(任意の1歯が右側頬側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-50°以上230°以下
(任意の1歯が左側頬側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-230°以上50°以下
(項目4)
欠損及び/又は窩洞が、人工歯の咬合面、頬側面、及び唇側面から選択される2種以上の面の垂直方向から観察できる位置に設けられている、項目1又は2に記載のデモンストレーション用器具。
(項目5)
人工歯の欠損及び/又は窩洞に歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化するデモンストレーション方法であり、
欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)を含む人工歯(1)、及び
人工歯(1)を支持する構造物(2)を備え、
人工歯(1)を支持する構造物(2)は、人工歯(1)と結合しており、
人工歯(1)の角度は変更可能である、デモンストレーション用器具の欠損及び/又は窩洞に対して歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化させ修復済み人工歯を得る工程を含むことを特徴とするデモンストレーション方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示のデモンストレーション用器具、及びデモンストレーション方法は、人工歯の様々な箇所に欠損や窩洞を設けやすく、修復箇所を観察しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】人工歯である臼歯の一部(黒線で囲んだ部分)に窩洞を設け、歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化した後の図(方眼紙側が水平面)
【
図2】人工歯である中切歯及び犬歯の一部(黒線で囲んだ部分)に欠損を設け、歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化した後の図
【
図3】人工歯である臼歯及び犬歯の一部(黒線で囲んだ部分)に欠損を設け、歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化した後の図
【
図4】人工歯である臼歯及び犬歯の一部(黒線で囲んだ部分)に欠損を設け、歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化した後の図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の全体にわたり、各物性値、含有量等の数値の範囲は、適宜(例えば下記の各項目に記載の上限及び下限の値から選択して)設定され得る。具体的には、数値φについて、数値φの下限としてA1、A2、A3等が例示され、数値φの上限としてB1、B2、B3等が例示される場合、数値φの範囲は、A1以上、A2以上、A3以上、B1以下、B2以下、B3以下、A1~B1、A1~B2、A1~B3、A2~B1、A2~B2、A2~B3、A3~B1、A3~B2、A3~B3等が例示される。なお、本開示において「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。以下、本開示で提供されるデモンストレーション用器具、及びデモンストレーション方法等について詳細に説明する。
【0012】
<人工歯(1)>
人工歯(1)は色調、形状及び触感の内少なくとも1つが天然歯と類似していればよく、人工歯(1)を構成する成分は限定されない。人工歯(1)は、好ましくは色調及び形状が天然歯と類似しており、より好ましくは色調、形状及び触感が天然歯と類似している。
【0013】
人工歯(1)の色として、A1、A2、A3、A3.5、A4、B1、B2、B3、B4、C1、C2、C3、C4、D1、D2、D3、D4、及びこれらに類似した色調から選択される1種等が例示される。1歯の人工歯(1)の色調は単色である必要はなく、グラデーションがあってもよい。人工歯(1)を支持する構造物(2)と結合する2歯以上の人工歯(1)の色は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0014】
人工歯(1)は成人の歯であってもよく、乳歯であってもよい。人工歯(1)を支持する構造物(2)に結合する人工歯(1)が複数である場合、それぞれの人工歯(1)は、好ましくは2種類以上の異なる形状の歯であり、より好ましくは中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯、乳中切歯、乳側切歯、乳犬歯、第一乳臼歯、及び第二乳臼歯から選択される2種以上である。
【0015】
人工歯(1)を支持する構造物(2)と結合する人工歯(1)の数の上限として、50、45、40、35、34、33、32、31、30、25、20、15、10、5、4、3、2歯等が例示され、下限として、45、40、35、34、33、32、31、30、25、20、15、10、5、4、3、2、1歯等が例示される。1つの実施形態において、人工歯(1)を支持する構造物(2)と結合する人工歯(1)の数は、好ましくは1歯以上である。人工歯(1)を支持する構造物(2)に結合する人工歯(1)の数が2歯以上である場合、歯と歯の間が空いていてもよく、空いていなくてもよい。
【0016】
人工歯(1)を支持する構造物(2)と結合する人工歯(1)が2歯以上である場合、歯列の形状は特に限定されない。任意の1歯の咬合面側から見て歯の左右の軸をx軸、前後の軸をy軸、奥行の軸をz軸とした場合、歯列の形状として、x軸に並んだ形状、y軸に並んだ形状、x軸上に並んだ歯列の少なくとも一部の歯をz軸側及び/又はy軸側にずらした形状、y軸上に並んだ歯列の少なくとも一部の歯をz軸側及び/又はx軸側にずらした形状、天然歯列と同一の形状、一部の歯をx軸側、y軸側及びz軸側から選択される1種以上の軸側にずらした天然歯列と類似の形状等が例示される。
【0017】
人工歯(1)の内少なくとも1つは欠損及び/又は窩洞を有する。欠損及び/又は窩洞を、顧客であるデモンストレーションの体験者(本開示において、単に「体験者」ともいう。)が設けてもよく、販売者であるデモンストレーションの提供者(本開示において、単に「提供者」ともいう。)が設けてもよい。欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)の本数の割合(欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)/人工歯(1))の上限として、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5%等が例示され、下限として95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1%等が例示される。なお、本開示において窩洞とは洞形状のもの全般を指し、欠損は歯の割れの他、歯の厚みが薄くなった状態も含める。欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)の数の上限として、20、18、16、14、12、10、8、6、4、2歯等が例示され、下限として、18、16、14、12、10、8、6、4、2、1歯等が例示される。1つの実施形態において、欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)の数は、好ましくは1~20歯である。本開示のデモンストレーション用器具は、複数の角度に変更可能であることから、異なる人工歯に欠損及び/又は窩洞を設けて、歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化した状態をデモンストレーションとして示すと、1度のデモンストレーションで種々の症例に歯科充填用コンポジットレジンが使用可能であることを示すことができるため好ましい。そのような観点から、欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)の数は、より好ましくは2~20歯である。上記同様の観点から、欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)の種類として、好ましくは中切歯、側切歯、犬歯、乳中切歯、乳側切歯、及び乳犬歯から選択される1種以上と、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯、第一乳臼歯、及び第二乳臼歯から選択される1種以上である。
【0018】
本開示の人工歯に設けられる欠損及び/又は窩洞として、歯冠部の破折、I級窩洞、II級窩洞、III級窩洞、IV級窩洞、V級窩洞及びVI級窩洞から選択される1種以上、2種以上、又は3種以上等が例示される。
【0019】
人工歯(1a)の窩洞の深さの割合(窩洞の深さ/人工歯(1a)の長さ)の上限として、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5%等が例示され、下限として、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1%等が例示される。1つの実施形態において、人工歯(1a)の窩洞の深さの割合(窩洞の深さ/人工歯(1a)の長さ)は、好ましくは1~50%である。人工歯(1a)の窩洞の深さの上限として、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1mm等が例示され、下限として、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5mm等が例示される。1つの実施形態において、人工歯(1a)の窩洞の深さは、好ましくは0.5~10mmであり、より好ましくは1~3mmである。
【0020】
人工歯(1a)の窩洞の表面積の割合(窩洞の表面積/窩洞を有する面全体の表面積)の上限として、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1%等が例示され、下限として、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0.5%等が例示される。1つの実施形態において、人工歯(1a)の窩洞の表面積の割合(窩洞の表面積/窩洞を有する面全体の表面積)は、好ましくは0.5~60%である。人工歯(1a)の窩洞面の直径の上限として、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1mm等が例示され、下限として、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5mm等が例示される。1つの実施形態において、人工歯(1a)の窩洞面の直径は、好ましくは1~4mmである。
【0021】
人工歯(1a)の欠損の割合(欠損させた体積/欠損前の人工歯の体積)の上限として50、45、40、35、30、25、20、15、10、5%等が例示され、下限として、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1%等が例示される。1つの実施形態において、人工歯(1a)の欠損の割合(欠損させた体積/欠損前の人工歯の体積)は、好ましくは50%以内である。人工歯(1a)の欠損の割合が高すぎると、1つの修復に長時間かかる可能性が高くなる。デモンストレーションでは、比較的短時間で理解しやすい様態で実施されることが重要であることから、人工歯(1a)の欠損の割合(欠損させた体積/欠損前の人工歯の体積)は高すぎない方が好ましい。
【0022】
人工歯(1a)に欠損及び/又は窩洞を設ける方法として、化学的方法、物理的方法等が例示される。化学的方法として、人工歯(1a)を溶解する液体を人工歯(1a)の任意の場所に付着させる方法等が例示される。物理的方法として、回転切削器具(ハンドピース等)を用いる方法、ドリルを用いる方法、切断器具(ペンチ、ハサミ、ナイフ、爪切り等)を用いる方法等が例示される。なお、ハンドピースはマイクロモーターであっても、エアタービンであってもよい。また、欠損及び/又は窩洞を設ける箇所に合わせて、コントラアングル型ハンドピースを使用してもよく、ストレート型ハンドピースを使用してもよい。
【0023】
本開示の人工歯(1)には、う蝕、歯石、及び歯垢から選択される1種以上に類似する構造ないし模様を設けていてもよい。
【0024】
人工歯(1)の構成成分は、従来の人工歯を製造するために使用される構成成分であれば特に限定されない。人工歯(1)を構成する成分として、金銀パラジウム合金、レジン、ジルコニア、セラミック等が例示される。さらにこれら構成成分に加えられる添加剤として、蛍光剤等が例示される。人工歯(1)及び歯科充填用コンポジットレジンの両方に蛍光剤を含む場合、異なる蛍光色であることが好ましい。
【0025】
<人工歯(1)を支持する構造物(2)>
人工歯(1)を支持する構造物(2)(本開示において、単に「支持構造物」ともいう。)は人工歯(1)と結合していれば特に限定は無い。結合する際には、少なくとも人工歯(1)の歯冠部分が露出していればよく、歯冠部分及び歯根部分が露出していてもよい。歯根部分が露出している場合、露出する面積の割合の上限として、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10%等が例示され、下限として、90、80、70、60、50、40、30、20、10、0%等が例示される。人工歯(1)を支持する構造物(2)に2歯以上結合している場合、歯根部分の露出割合は歯毎に異なっていてもよい。なお、歯冠部分にう蝕、歯石、及び歯垢から選択される1種以上に類似する構造ないし模様が設けられ、歯冠の表面が直接的には露出していなかったとしても、本開示においては歯冠部分が露出していると判断される。
【0026】
支持構造物の形状として、板状構造、棒状構造、及び椀状構造から選択される1種以上等が例示される。支持構造物は本開示の人工歯(1)1歯に対して複数あってもよく、例えば、板状構造を2つ用意し、人工歯(1)1歯を挟み込むようにして固定してもよい。その他の支持構造物の例として、板状構造と椀状構造を有する構造、すなわち板状構造上に人工歯(1)の歯根部分を固定する形状の椀状構造を備える支持構造物が例示される。支持構造物の具体的として、歯肉様構造が例示される。人工歯(1)に欠損及び/又は窩洞を設ける際、欠損及び/又は窩洞を設けるための器具が激しく振動するものや、繊細な操作を必要とするものであることもあり、それらの器具を使用したとしても人工歯(1)に対して安定して欠損及び/又は窩洞を設けることができることから、支持構造物は、好ましくは板状構造及び椀状構造から選択される1種以上であり、より好ましくは板状構造と椀状構造を有する構造であり、さらにより好ましくは歯肉様構造である。
【0027】
本開示の人工歯(1)は支持構造物に結合されている。本開示において「結合」とは固定的に結合していてもよく、作動的に結合していてもよい。本開示において「固定的に結合」とは、人工歯(1)と人工歯(1)を支持する構造物(2)とを異なる方向に動かすことができないことを指す。本開示において「作動的に結合」とは、人工歯(1)と人工歯(1)を支持する構造物(2)とを異なる方向に動かすことができることを指す。結合する方法として、化学的に結合する方法、物理的に結合する方法が例示される。化学的に結合する方法として、接着剤及び/又は粘着剤で結合する方法(両面テープを含む)、人工歯(1)と支持構造物が合わさった形状の型に対して樹脂を流し込み硬化する方法等が例示される。物理的に結合する方法として、面ファスナーにより結合する方法、人工歯(1)の歯根の形状に合う構造を設けた支持構造物に人工歯(1)の歯根を嵌め込む方法、(画鋲を壁に刺すように)画鋲様構造を有する人工歯(1)を支持構造物に刺す方法、(剣山に花を刺すように)人工歯(1)を剣山様構造を有する支持構造物に刺す方法、磁石により結合する方法、ネジ様の構造物で結合する方法、閂様の構造物で結合する方法、掛け金様の構造物で結合する方法等が例示される。なお、画鋲様構造は天然歯の歯根形状であってもよい。
【0028】
支持構造物の色調は特に限定されない。支持構造物の色調は、好ましくは人工歯と異なる色であり、より好ましくは歯肉色である。
【0029】
人工歯(1)と支持構造物の間の角度は、好ましくは結合点において人工歯(1)と支持構造物とを貫く線(歯軸)と水平面のなす角度である。人工歯と支持構造物の角度は、実際の症例に合わせた角度であってもよい。人工歯(1)が支持構造物と結合した際の水平面に対する人工歯の歯軸の角度の上限として、360°、350°、340°、330°、320°、310°、300°、290°、280°、270°、260°、250°、240°、230°、220°、210°、200°、190°、180°、170°、160°、150°、140°、130°、120°、110°、100°、90°、80°、70°、60°、50°、40°、30°、20°、10°等が例示され、下限として、350°、340°、330°、320°、310°、300°、290°、280°、270°、260°、250°、240°、230°、220°、210°、200°、190°、180°、170°、160°、150°、140°、130°、120°、110°、100°、90°、80°、70°、60°、50°、40°、30°、20°、10°、0°等が例示される。1つの実施形態において、人工歯が支持構造物と結合した際の水平面に対する人工歯の歯軸の角度は、好ましくは0~360°である。
【0030】
人工歯(1)及び支持構造物を合わせて歯列模型や顎模型と同一の構造であってもよい。
【0031】
<人工歯(1)の角度は変更可能であることについて>
「人工歯(1)の角度は変更可能である」の「変更可能」とは、人工歯(1)が特定の角度を向くよう人工歯(1)、支持構造物及び下記詳述する構造物(3)から選択される1種以上の位置及び/又は向きを調整することで変更可能となり、当該調整をした後、自立させるよう配置し手を離した際に揺動しないことでもって変更可能であると認定する。ゆえに、例えば歯根側のみが平面の人工歯(本開示でいう支持構造物を有さないが)はそれ以外の面が凹凸を有し、ぐらつくため角度は変更可能であるとはいえない。また、「人工歯(1)の角度は変更可能である」を満たすためのさらなる条件として、人工歯(1)が有する欠損及び/又は窩洞の少なくとも1つを、人工歯(1)のそれぞれの角度において特定の視点から観察できることも必要である。これを具体的に説明すると、人工歯(1)に対して45°の位置に視点がある場合、人工歯(1)の角度を縦0°及び横0°並びに縦90°及び横0°とした両方の角度において、欠損及び/又は窩洞を少なくとも1つ観察できなければならないということになる。このようにすることで体験者がいずれの角度においてもデモンストレーションを観察しやすいことから好ましい。本開示において人工歯(1)の角度は変更可能であることから、当然人工歯(1)は2種以上の角度を向くことが可能である。本開示において2種以上の角度とは、人工歯(1)を支持する構造物(2)に結合された任意の1歯の人工歯(1)の頬側面ないし唇側面を水平面に対して垂直にしたときの人工歯(1)の角度を縦0°及び横0°であると仮定した場合、縦0°及び横0°の角度並びにそれ以外の角度のことである。本開示において人工歯の「縦」とは、一般的な歯根の向きに対して平行な方向であり、頬側面ないし唇側面から見たものを指す。本開示において人工歯の「横」とは、一般的な歯根の向きに対して垂直な方向であり、頬側面ないし唇側面から見たものを指す。縦0°及び横0°の角度とは、例えば、本開示の
図1のような角度を指す。なお、本開示の図に示されている方眼紙が水平面である。
【0032】
本開示において、「それ以外の角度」の縦の角度の上限として、230°、220°、210°、200°、190°、180°、170°、160°、150°、140°、135°、130°、120°、110°、100°、90°、80°、70°、60°、50°、45°、40°、30°、20°、10°、0°、-10°、-20°、-30°、-40°、-50°、-60°、-70°、-80°、-90°、-100°、-110°、-120°、-130°、-140°、-150°、-160°、-170°、-180°、-190°、-200°、-210°、-220°等が例示され、下限として、220°、210°、200°、190°、180°、170°、160°、150°、140°、135°、130°、120°、110°、100°、90°、80°、70°、60°、50°、45°、40°、30°、20°、10°、0°、-10°、-20°、-30°、-40°、-50°、-60°、-70°、-80°、-90°、-100°、-110°、-120°、-130°、-140°、-150°、-160°、-170°、-180°、-190°、-200°、-210°、-220°、-230°等が例示される。1つの実施形態において、それ以外の角度の縦の角度は、好ましくは-230°~230°であり、より好ましくは-230°以上0°未満、又は0°超230°以下であり、さらにより好ましくは-140°以上0°未満、又は0°超140°以下である。本開示において、「それ以外の角度」の横の角度の上限として、230°、220°、210°、200°、190°、180°、170°、160°、150°、140°、135°、130°、120°、110°、100°、90°、80°、70°、60°、50°、45°、40°、30°、20°、10°、0°、-10°、-20°、-30°、-40°、-50°、-60°、-70°、-80°、-90°、-100°、-110°、-120°、-130°、-140°、-150°、-160°、-170°、-180°、-190°、-200°、-210°、-220°等が例示され、下限として、220°、210°、200°、190°、180°、170°、160°、150°、140°、135°、130°、120°、110°、100°、90°、80°、70°、60°、50°、45°、40°、30°、20°、10°、0°、-10°、-20°、-30°、-40°、-50°、-60°、-70°、-80°、-90°、-100°、-110°、-120°、-130°、-140°、-150°、-160°、-170°、-180°、-190°、-200°、-210°、-220°、-230°等が例示される。1つの実施形態においてそれ以外の角度が、好ましくは下記の条件における角度である。
(任意の1歯が唇側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-140°以上140°以下
(任意の1歯が右側頬側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-50°以上230°以下
(任意の1歯が左側頬側面にある場合)
縦:-140°以上0°未満、又は0°超140°以下
横:-230°以上50°以下
それ以外の角度は、より好ましくは下記の条件における角度である。
(任意の1歯が唇側面にある場合)
縦:90°
横:0°
(任意の1歯が右側頬側面にある場合)
縦:90°
横:0°
(任意の1歯が左側頬側面にある場合)
縦:90°
横:0°
それ以外の角度とは、好ましくは縦0°及び横0°の角度の際に視認しにくい唇側面、頬側面及び咬合面から選択される1種以上の面全体を視認できる角度のことであってもよい。
このようにすることで咬合面だけでなく、頬側面ないし唇側面に欠損及び/又は窩洞を設けやすくなり、観察もしやすくなる。
縦の角度の「プラス」とは、当該人工歯を個体に取り付け、後転した場合の角度を指す。縦の角度の「マイナス」とは、当該人工歯を個体に取り付け、前転した場合の角度を指す。横の角度の「プラス」とは、咬合面側から見て反時計回りに回転した場合の角度を指す。横の角度の「マイナス」とは、咬合面側から見て時計回りに回転した場合の角度を指す。
任意の1歯が唇側面にある場合の縦:90°、横:0°として、本開示の
図2が例示される。任意の1歯が右側頬側面にある場合の縦:90°、横:0°として、本開示の
図3が例示される。任意の1歯が左側頬側面にある場合の縦:90°、横:0°として、本開示の
図4が例示される。
【0033】
人工歯(1)の角度を変更可能にする方法として、下記(α)~(δ)の方法が例示される。
(α)支持構造物を特定の形状で作製すること
(β)人工歯(1)との結合箇所以外で支持構造物と結合する、さらなる構造物(3)を設け、構造物(3)で角度を調整すること
(γ)構造物(3)並びに、人工歯及び支持構造物から選択される1種以上に取り付けられた両者を結合するための構造物(4)を設けること
(δ)人工歯(1)と支持構造物とを作動的に結合すること
(α)として、支持構造物に複数の平面を設け、各平面を底面として配置すること等が例示される。
(β)として、バイスやクランプ等の器具である構造物(3)を設け、支持構造物と結合させ、バイスやクランプ等で角度を調整すること(β-1)が例示される。
(γ)として、人工歯、支持構造物、及び構造物(3)から選択される2種以上に構造物(4)(例えば、磁石等)が取り付けられており、任意の角度で相互作用させ互いに結合させること(γ-1)、人工歯、支持構造物、及び構造物(3)から選択される1種以上に構造物(4)(例えば、磁石等)が取り付けられており、構造物(4)が取り付けられていない人工歯、支持構造物、及び構造物(3)から選択される1種以上を構成する素材を構造物(4)と相互作用する素材(例えば、金属等)にし、任意の角度で結合させること(γ-2)等が例示される。
(γ)の具体例として、人工歯(1)及び/又は支持構造物に磁石を取り付け、鉄で構成される半球(構造物(3))上に磁力で付着させることで人工歯(1)の角度を変更することが例示される。
構造物(4)として、面ファスナ、差し込み構造(棒状構造)と差し込まれる構造(穴状構造)の組み合わせ(スナップボタン、ネジとネジ穴の組み合わせ等)等が例示される。
(δ)として、人工歯(1)と支持構造物との結合点に可動構造を設けること等が例示される。
(α)~(δ)の中でも、人工歯に対して欠損及び/又は窩洞を設けるために術野が確保されており、観察する際にも視野が確保しやすいという観点から、好ましくは(α)又は(γ)である。
このように人工歯(1)の角度は変更可能であることで、上述した課題を解決できるだけでなく、実際の現場で使用される角度、例えば、人が歯科用チェアーユニットに腰かけた際の角度と背もたれを倒した際の角度の両方を再現可能であり、歯科関係者が望む事項を網羅的に確認できることから好ましい。
【0034】
<その他の構造物>
本開示のデモンストレーション用器具の周りには、観察のしやすさ、窩洞や欠損の設けやすさを妨げない範囲で、上記詳述した以外の構造物を有していてもよい。その他の構造として、口腔内やその周辺を再現するための構造物等が例示される。観察のしやすさ、窩洞や欠損の設けやすさの観点から、人工歯(1)の咬合面、頬側面、及び唇側面の垂直方向上に構造物を設けないことが好ましい。
【0035】
<歯科充填用コンポジットレジン>
歯科充填用コンポジットレジンとして従来公知のものであれば特に限定されず使用できる。中でも高い色調適合性を示すという特長を有する歯科充填用コンポジットレジンを様々な箇所の欠損及び/又は窩洞に充填・硬化することで、あらゆる箇所へ、その高い色調適合性でもって自然に歯の修復ができることを示すことができることから、特に好ましい。なお、本開示において「高い色調適合性」や「良好な色調適合性」とは、目視により天然歯と硬化させた後の歯科充填用コンポジットレジンを見分けるには相当程度の注視を要する状態を指す。また、修復されるデモンストレーション用器具の人工歯がそれぞれ異なる複数の色調(A1~D4から選択される2種以上等)で構成されている場合、それらの人工歯の欠損及び/又は窩洞に歯科充填用コンポジットレジンを充填・硬化し、複数の色調に適合できることを示せば、高い色調適合性を示すことができるため、好ましい例として挙げられる。
【0036】
<デモンストレーション>
本開示においてデモンストレーションとは、人に見せる目的で実演することを指す。よって、実演の形態は特に限定されず、インターネット経由で実演を示してもよく、体験者の眼前にて実演を示してもよく、録画映像で実演を示してもよい。
【0037】
<デモンストレーション方法>
本開示では、人工歯の欠損及び/又は窩洞に歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化するデモンストレーション方法を開示する。
本開示のデモンストレーションとして、
(1)欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)を含む人工歯(1)、及び
人工歯(1)を支持する構造物(2)を備え、
人工歯(1)を支持する構造物(2)は、人工歯(1)と結合しており、
人工歯(1)の角度は変更可能である、
デモンストレーション用器具の人工歯(1)において、う蝕の構造及び/又は模様を設ける工程、
(2)う蝕の構造及び/又は模様の箇所を削る工程、
(3)削った箇所にプライマーないし接着剤を塗布する工程、
(4)削った箇所に歯科充填用コンポジットレジンを充填する工程、
(5)充填された歯科充填用コンポジットレジンを光硬化する工程、
(6)歯科充填用コンポジットレジンにより修復された箇所を確認する工程
が例示される。
(1)~(2)は、デモンストレーションの前に提供者が実施しておいてもよく、
(3)は実施しなくてもよく、
本開示のデモンストレーション方法は、少なくとも(4)~(5)が実施されていればよい。
(6)は、歯科充填用コンポジットレジン及び/又は人工歯に蛍光剤が含まれている場合は、蛍光剤を発光させて歯科充填用コンポジットレジンと人工歯との色の違いを強調してもよい。
以上より、本開示のデモンストレーション方法は、
欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)を含む人工歯(1)、及び
人工歯(1)を支持する構造物(2)を備え、
人工歯(1)を支持する構造物(2)は、人工歯(1)と結合しており、
人工歯(1)の角度は変更可能である、
デモンストレーション用器具の欠損及び/又は窩洞に対して歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化させ修復済み人工歯を得る工程を含むことを特徴とするデモンストレーション方法である。
【要約】
【課題】 本開示において解決しようとする課題は、人工歯の任意の箇所に欠損及び/又は窩洞を安定して設けることができ、欠損及び/又は窩洞を有する人工歯を歯科充填用コンポジットレジンにより修復した後複数の方向から修復箇所を観察することができる、デモンストレーション用器具、及びデモンストレーション方法を提供することにある。
【解決手段】人工歯の欠損及び/又は窩洞に歯科充填用コンポジットレジンを充填し、硬化するデモンストレーションを行うための器具であり、
欠損及び/又は窩洞を有する人工歯(1a)を含む人工歯(1)、及び
人工歯(1)を支持する構造物(2)を備え、
人工歯(1)を支持する構造物(2)は、人工歯(1)と結合しており、
人工歯(1)の角度は変更可能である、
デモンストレーション用器具。
【選択図】 なし