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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/04 20060101AFI20240612BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20240612BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H02K1/04 Z
F04B39/00 106E
H02K1/18 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019044351
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020150613
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 大佑
(72)【発明者】
【氏名】中 祥司郎
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-128016(JP,U)
【文献】登録実用新案第3215057(JP,U)
【文献】特開平01-234008(JP,A)
【文献】特開2003-065006(JP,A)
【文献】特開2016-140242(JP,A)
【文献】特開2012-244744(JP,A)
【文献】実開平05-009146(JP,U)
【文献】実開昭61-197321(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0026482(US,A1)
【文献】特開平11-266555(JP,A)
【文献】登録実用新案第3155761(JP,U)
【文献】実開昭61-041918(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/04
F04B 39/00
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(10)と、
前記モータ(10)によって駆動されて、冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、
前記モータ(10)及び前記圧縮機構(20)を収容するケーシング(30)と、
前記モータ(10)の固定子(12)を所定の支持部材(40)に締結する1又は複数の締結部材(60)と、
電気絶縁性を有する絶縁部材(70)と、
を備え、
前記モータ(10)は、前記ケーシング(30)内において前記冷媒に曝され、
前記固定子(12)には、前記固定子(12)を前記支持部材(40)に固定するための固定部(12a)が一体的、または別体として設けられ、
前記固定部(12a)には、1又は複数の貫通孔(13)が形成され、
前記絶縁部材(70)は、前記締結部材(60)と前記貫通孔(13)の壁面(13a)との間に設けられ、
前記絶縁部材(70)は、前記冷媒よりも誘電率が低く、
電気絶縁性を有する環状のワッシャ(80)を備え、
前記固定子(12)は、前記ワッシャ(80)によって前記締結部材(60)と絶縁され、
前記絶縁部材(70)は筒状であり、前記締結部材(60)の軸方向において対向する部材(90,96)に対して、前記軸方向の隙間(W1)を有しており、
前記支持部材(40)は、前記ケーシング(30)と電気的に接続され、
前記固定子(12)は、前記締結部材(60)、前記部材(90,96)、及び前記支持部材(40)と、電気的に絶縁されることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記軸方向における前記絶縁部材(70)の端面(71)は、前記軸方向から見て、前記ワッシャ(80)とオーバーラップしないことを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記絶縁部材(70)の材料は、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリブチレンテレフタレート、及びエポキシ樹脂の何れかであることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記ワッシャ(80)の材料は、セラミックであることを特徴とする圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気的絶縁を施す必要のある部材間の締結には、絶縁ボルトが用いられることがある(例えば特許文献1を参照)。特許文献1の例では、ボルトに対して、電気的絶縁性を有する絶縁管を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭60-128016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の例でも部材間の電気的絶縁は可能であるが、使用環境によっては、更なる絶縁性の向上が望まれる。
【0005】
本開示の目的は、圧縮機のモータにおける絶縁性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、
モータ(10)と、
前記モータ(10)によって駆動されて、冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、
前記モータ(10)及び前記圧縮機構(20)を収容するケーシング(30)と、
前記モータ(10)の固定子(12)を所定の支持部材(40)に締結する1又は複数の締結部材(60)と、
電気絶縁性を有する絶縁部材(70)と、
を備え、
前記モータ(10)は、前記ケーシング(30)内において前記冷媒に曝され、
前記固定子(12)には、前記固定子(12)を前記支持部材(40)に固定するための固定部(12a)が一体的、または別体として設けられ、
前記固定部(12a)には、1又は複数の貫通孔(13)が形成され、
前記絶縁部材(70)は、前記締結部材(60)と前記貫通孔(13)の壁面(13a)との間に設けられ、
前記絶縁部材(70)は、前記冷媒よりも誘電率が低いことを特徴とする圧縮機である。
【0007】
第1の態様では、絶縁部材(70)は、前記冷媒よりも誘電率が低い。そのため、本態様では、圧縮機のモータにおける絶縁性を向上できる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、
電気絶縁性を有する環状のワッシャ(80)を備え、
前記固定子(12)は、前記ワッシャ(80)によって前記締結部材(60)と絶縁され、
前記絶縁部材(70)は筒状であり、前記締結部材(60)の軸方向において対向する部材(80,90,96)に対して、前記軸方向の隙間(W1,W2)を有していることを特徴とする圧縮機である。
【0009】
本開示の第3の態様は、第2の態様において、
前記軸方向における前記絶縁部材(70)の端面(71)は、前記軸方向から見て、前記ワッシャ(80)とオーバーラップしないことを特徴とする圧縮機である。
【0010】
第2の態様、及び第3の態様では、絶縁部材(70)は、対向する部材(80,90,96)に対して、軸方向の隙間(W1,W2)を有している。そのため、本態様では、締結部材(60)による締結によって、絶縁部材(70)に、軸方向の応力が作用しない。
【0011】
本開示の第4の態様は、第2の態様において、
前記軸方向における前記絶縁部材(70)の端面(71)の少なくとも一部は、前記軸方向から見て、前記ワッシャ(80)とオーバーラップし、
前記絶縁部材(70)における前記ワッシャ(80)とのオーバーラップ部分は、前記軸方向において、前記ワッシャ(80)に対して、前記軸方向の隙間を有していることを特徴とする圧縮機である。
【0012】
第4の態様では、絶縁部材(70)は、対向するワッシャ(80)に対して、軸方向の隙間(W1,W2)を有している。そのため、本態様では、締結部材(60)による締結によって、絶縁部材(70)に、軸方向の応力が作用しない。
【0013】
本開示の第5の態様は、第1から第4の態様の何れかにおいて、
前記絶縁部材(70)の材料は、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリブチレンテレフタレート、及びエポキシ樹脂の何れかであることを特徴とする圧縮機である。
【0014】
本開示の第6の態様は、第2から第4の態様の何れかにおいて、
前記ワッシャ(80)の材料は、セラミックであることを特徴とする圧縮機である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態1にかかる圧縮機の断面図である。
図2図2は、圧縮機の他の断面図である。
図3図3は、固定子とブラケットとの固定状態を示す。
図4図4は、実施形態1の変形例に係る、ブラケット付近の断面図を示す。
図5図5は、実施形態2にかかる圧縮機の断面図である。
図6図6は、ワッシャの他の構成例である。
図7図7は、固定部の他の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《実施形態1》
図1は、実施形態1にかかる圧縮機(1)の断面図である。図1に示すように、圧縮機(1)は、モータ(10)、圧縮機構(20)、ケーシング(30)、ブラケット(40)、及び軸受(50)を備えている。図2に、圧縮機(1)の他の断面図を示す。図2は、図1の断面に直交する断面である。図2は、図1のII-II断面に相当する。図2では、モータ(10)が通常備える部材(永久磁石、コイル等)の図示を省略してある。
【0017】
ケーシング(30)は、両端が閉じた円筒状の部材である。ケーシング(30)は、鉄などの金属部材で形成されている。ケーシング(30)は、導電性を有している。ケーシング(30)には、冷媒を吸入するための吸入管(21)、及び冷媒を吐出するための吐出管(31)が設けられている。吸入管(21)及び吐出管(31)は、冷媒回路(図示を省略)の配管が接続される。
【0018】
モータ(10)は、この例では、いわゆる磁石埋込型のモータ(IPMモータ)である。モータ(10)は、回転子(11)、固定子(12)、及び駆動軸(15)を備えている。
【0019】
回転子(11)は、例えば、電磁鋼板を積層して形成される。回転子(11)には、永久磁石(図示を省略)が埋め込まれている。回転子(11)の中心には、駆動軸(15)が嵌め込まれている。この例では、回転子(11)と駆動軸(15)とは、いわゆる焼き嵌めで固定されている。駆動軸(15)は、一端が圧縮機構(20)に接続され、他端が軸受(50)で支持されている(図1参照)。
【0020】
固定子(12)は、例えば、電磁鋼板を積層して形成される。固定子(12)には、電磁石を形成する複数のコイル(図示を省略)が設けられている。固定子(12)の外側の周縁部分(いわゆるバックヨーク)は、固定子(12)を固定するための固定部(12a)として機能する。固定部(12a)には、複数の貫通孔(13)が周方向に等ピッチで形成されている(図2を参照)。この例では、貫通孔(13)は、90°ピッチで設けられている。これらの貫通孔(13)は、固定子(12)の固定に利用される(詳細は後述)。これらの貫通孔(13)は、丸穴である。貫通孔(13)(丸穴)は、後述の絶縁部材(70)を挿入できる直径を有している。
【0021】
モータ(10)は、ケーシング(30)内に固定されている。具体的には、固定子(12)が、ブラケット(40)を介してケーシング(30)に固定されている。モータ(10)(固定子(12))とケーシング(30)との固定については、後に詳述する。
【0022】
圧縮機構(20)は、この例では、いわゆるスクロール式の圧縮機構である。圧縮機構(20)は、ケーシング(30)に収容されている。具体的には、圧縮機構(20)は、ケーシング(30)に圧入されている。圧縮機構(20)には、吸入管(21)が接続されている。圧縮機構(20)は、駆動軸(15)で駆動される。
【0023】
モータ(10)が駆動すると、圧縮機構(20)は、吸入管(21)から冷媒(例えばR32,R410A等)を吸入する。圧縮機構(20)は、吸入した冷媒を圧縮する。圧縮機構(20)は、圧縮した冷媒をケーシング(30)内に吐出する。モータ(10)は、ケーシング(30)内において冷媒に曝される。ケーシング(30)内に吐出された冷媒は、吐出管(31)から吐出される。
【0024】
ブラケット(40)は、モータ(10)(より正確には固定子(12))をケーシング(30)に固定するための部材である。この例では、固定子(12)の貫通孔(13)と同数のブラケット(40)が設けられている(図2参照)。図1に示すように、それぞれのブラケット(40)は、断面がL字状の部材である。ブラケット(40)は、鉄などの金属部材で形成されている。ブラケット(40)は、導電性を有している。
【0025】
ブラケット(40)には、固定子(12)の貫通孔(13)に対応する貫通孔(41)が形成されている。これらのブラケット(40)は、ケーシング(30)の内周面(32)で、かつ、ブラケット(40)の貫通孔(41)と固定子(12)の貫通孔(13)とが対応する位置に、溶接によって固定されている。ブラケット(40)とケーシング(30)とが溶接されたことによって、両者は電気的に接続される。
【0026】
〈モータとケーシングの固定〉
既述の通り、固定子(12)は、ブラケット(40)を介してケーシング(30)に固定されている。この固定には、ボルト(60)、絶縁部材(70)、ワッシャ(80)、及びナット(90)が用いられている。
【0027】
ボルト(60)は、この例では、いわゆる六角ボルトである。ボルト(60)は、鉄などの金属で形成されている。ボルト(60)は、導電性を有している。ボルト(60)は、胴部(61)と頭部(62)とを備えている。胴部(61)には、雄ねじが形成されている。胴部(61)は、図1に示すように、ブラケット(40)に設けられた貫通孔(41)に挿入されている。頭部(62)は、貫通孔(13)を貫通しない大きさである。頭部(62)は、ブラケット(40)に接している。
【0028】
ナット(90)は、この例では、いわゆる六角ナットである。ナット(90)も、鉄などの金属で形成されている。ナット(90)は、導電性を有している。
【0029】
絶縁部材(70)は、筒状の部材である。絶縁部材(70)には、軸方向(前記筒状の形態における軸方向を意味する)に貫通孔(72)が形成されている。貫通孔(72)の直径は、ボルト(60)の胴部(61)を通すことができる大きさである。貫通孔(72)に胴部(61)を通した状態で、両者の間には、径方向の隙間はほとんどない。
【0030】
絶縁部材(70)は、電気絶縁性を有している。絶縁部材(70)には、冷媒よりも誘電率が低い材料が採用されている。具体的に、この例では、絶縁部材(70)は、ポリフェニレンサルファイド(Poly Phenylene Sulfide:略称PPS)によって形成されている。
【0031】
ワッシャ(80)は、環状の部材である。ワッシャ(80)は、一つのボルト(60)に対して二つ使用される。以下の説明において、ワッシャ(80)のように複数個ある部材を識別する必要がある場合には、参照符合に枝番を付す(例えば80-1、80-2)。
【0032】
ワッシャ(80)は、電気絶縁性を有している。この例では、ワッシャ(80)は、セラミックで形成されている。より具体的には、ワッシャ(80)は、アルミナで形成されている。ワッシャ(80)の貫通孔の内径は、絶縁部材(70)の外径よりも大きい。
【0033】
図3に、固定子(12)とブラケット(40)との固定状態を示す。本実施形態では、固定子(12)をブラケット(40)に固定した状態で、固定子(12)の外周面とケーシング(30)の内周面(32)との間には隙間ある。
【0034】
この例では、予め、ブラケット(40)がケーシング(30)に取り付けられている。それぞれのブラケット(40)には、ボルト(60)が取り付けられている。詳しくは、ボルト(60)は、頭部(62)がブラケット(40)に、溶接によって固定されている。ボルト(60)は、ブラケット(40)に固定された後、ワッシャ(80-1)が嵌め込まれる(図3参照)。
【0035】
この例では、ブラケット(40)、ボルト(60)、及びワッシャ(80-1)がケーシング(30)内に配置された後に、固定子(12)が取り付けられている。固定子(12)とブラケット(40)との間には、ワッシャ(80-1)が介在する。ボルト(60)の胴部(61)には、絶縁部材(70)が嵌められている。換言すると、絶縁部材(70)は、ボルト(60)と、固定子(12)の貫通孔(13)の壁面(13a)との間に設けられている。固定子(12)の貫通孔(13)に絶縁部材(70)を嵌めた状態で、両者の間には、径方向の隙間は、ほとんどない。
【0036】
ナット(90)は、ボルト(60)に締め付けられている。ナット(90)と固定子(12)とは、ワッシャ(80-2)によって電気的に絶縁されている。図3に示すように、軸方向(ボルト(60)の軸方向)における絶縁部材(70)の端面(71)は、軸方向から見て、ワッシャ(80)とオーバーラップしない。ワッシャ(80)の貫通孔の内径は、絶縁部材(70)の外径よりも大きいからである。絶縁部材(70)は、ボルト(60)の軸方向において対向する部材(ここではナット(90))に対して、軸方向の隙間(W1)を有するように、軸方向の長さが設定されている。
【0037】
以上をまとめると、本実施形態は、モータ(10)と、前記モータ(10)によって駆動されて、冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、前記モータ(10)及び前記圧縮機構(20)を収容するケーシング(30)と、前記モータ(10)の固定子(12)を所定の支持部材(40)に締結する1又は複数の締結部材(60)と、電気絶縁性を有する絶縁部材(70)とを備えている。
【0038】
前記モータ(10)は、前記ケーシング(30)内において前記冷媒に曝され、前記固定子(12)には、前記固定子(12)を前記支持部材(40)に固定するための固定部(12a)が一体的に設けられ、前記固定部(12a)には、1又は複数の貫通孔(13)が形成され、前記絶縁部材(70)は、前記締結部材(60)と前記貫通孔(13)の壁面(13a)との間に設けられ、前記絶縁部材(70)は、前記冷媒よりも誘電率が低いことを特徴とする。
【0039】
以上の締結構造により、固定子(12)は、ボルト(60)、ナット(90)、及びブラケット(40)と、電気的に絶縁される。
【0040】
〈本実施形態における効果〉
本実施形態では、絶縁部材(70)は、冷媒よりも誘電率が低い。この例では、冷媒の誘電率が23°Cで14.27、40°Cで11.27である。絶縁部材(70)の材料として用いたPPSの誘電率は、4.2である。本実施形態では、固定子(12)の貫通孔(13)内(ボルトと固定子の間の隙間)が冷媒で満たされる場合よりも絶縁性が向上する。本実施形態では、圧縮機(1)のモータ(10)における絶縁性を向上することができる。
【0041】
なお、絶縁部材(70)は、樹脂(この例ではPPS)に代えてセラミックを採用することも考えられる。ただし、セラミックよりも樹脂の方が誘電率(絶縁性)に関しては有利である。セラミックの一例であるアルミナの誘電率は、8.4である。
【0042】
絶縁部材(70)に不要な応力が作用すると、雰囲気(例えば潤滑油などの存在)によっては、絶縁部材(70)の耐力が低下する懸念がある。それに対して、本実施形態では、そのような懸念がない。本実施形態の絶縁部材(70)は、ボルト(60)の軸方向において、ナット(90)及びワッシャ(80)に対して、軸方向の隙間を有している。それにより、ナット(90)をボルト(60)に締め付けても、絶縁部材(70)には、軸方向の応力が作用しない。
【0043】
本実施形態では、ワッシャ(80)は、セラミックで構成されている。これにより、ボルト(60)とナット(90)とを締結してワッシャ(80)に応力が作用しても、十分に耐えることができる。
【0044】
《実施形態1の変形例》
図4に、実施形態1の変形例に係る、ブラケット(40)付近の断面図を示す。この例は、ワッシャ(80)の形状が実施形態1と異なっている。
【0045】
図4に示すように、本変形例では、ワッシャ(80)の貫通孔の内径は、絶縁部材(70)の外径よりも小さい。それにより、ボルト(60)の軸方向における絶縁部材(70)の端面(71)の少なくとも一部は、軸方向から見て、ワッシャ(80)とオーバーラップする。
【0046】
絶縁部材(70)は、ボルト(60)の軸方向において対向する部材(ここではワッシャ(80))に対して、軸方向の隙間(W2)を有するように、軸方向の長さが設定されている。それにより、ナット(90)をボルト(60)に締め付けても、絶縁部材(70)には、軸方向の応力が作用しない。換言すると、本変形例では、例えば潤滑油などの存在する雰囲気下でも絶縁部材(70)の耐力が低下する懸念がない。
【0047】
《実施形態2》
図5は、実施形態2にかかる圧縮機(1)の断面図である。本実施形態では、固定子(12)の締結構造が実施形態1等と異なっている。具体的に本実施形態では、ボルト(60)の代わりに、ピン(95)と固定リング(96)が用いられている。
【0048】
ピン(95)は、ブラケット(40)と一体的に形成されている。ピン(95)は、鉄などの金属で形成されている。ピン(95)は、絶縁部材(70)の貫通孔(72)に通される。貫通孔(72)にピン(95)を通した状態で、両者の間には、径方向の隙間は、ほとんどない。
【0049】
固定リング(96)は、環状の部材である。固定リング(96)には、ピン(95)を圧入するための貫通孔が形成されている。固定リング(96)の外径は、固定子(12)の貫通孔(13)を貫通しない大きさである。固定リング(96)は、鉄などの金属で形成されている。固定リング(96)は、導電性を有する。
【0050】
この例でも、ブラケット(40)が、予めケーシング(30)に取り付けられている。固定子(12)とブラケット(40)との間には、ワッシャ(80-1)が介在する。ピン(95)には、絶縁部材(70)が嵌められている。換言すると、絶縁部材(70)は、ピン(95)と、固定子(12)の貫通孔(13)の壁面(13a)との間に設けられている。固定子(12)の貫通孔(13)に絶縁部材(70)を嵌めた状態で、両者の間には、径方向の隙間は、ほとんどない。
【0051】
ピン(95)の先端には、固定リング(96)が圧入されている。固定リング(96)と固定子(12)とは、ワッシャ(80-2)によって電気的に絶縁されている。この圧入によって、固定リング(96)は、ワッシャ(80-2)を介して、固定子(12)を押さえつけている。
【0052】
この例でも、図5に示すように、ピン(95)の軸方向における絶縁部材(70)の端面(71)は、軸方向から見て、ワッシャ(80)とオーバーラップしない。絶縁部材(70)は、ピン(95)の軸方向において対向する部材(ここでは固定リング(96))に対して、軸方向の隙間(W1)を有するように、軸方向の長さが設定されている。
【0053】
〈本実施形態における効果〉
以上の締結構造により、固定子(12)は、ピン(95)、固定リング(96)、及びブラケット(40)と、電気的に絶縁される。本実施形態でも、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0054】
《その他の実施形態》
前記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0055】
実施形態1では、ナット(90)は、一部のボルト(60)に対してのみ締結するようにしてもよい。
【0056】
ボルト(60)とナット(90)の位置は、逆の関係にしてもよい。具体的には、ナット(90)をブラケット(40)に取り付けておいて、そのナット(90)にボルト(60)をねじ込むことによって、固定子(12)を固定してもよい。この場合においても、絶縁部材(70)、及びワッシャ(80)を実施形態1と同様に配置する。
【0057】
実施形態2では、一部のピン(95)に対してのみ固定リング(96)を設けるようにしてもよい。
【0058】
実施形態1のボルト(60)の数や実施形態2のピン(95)の数は例示である。ボルト(60)やピン(95)は、不等ピッチで設けてもよい。
【0059】
絶縁部材(70)の材料は、例示にすぎない。PPSの他に例えば、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate:略称PBT)、液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer: 略称LCP)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル類、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(Poly Ether Ether Ketone:略称PEEK)、ワニス、ポリアミド類(例えばナイロン)等を挙げることができる。なお、ポリエステル類としては、アルキド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephthalate:略称PET)、ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate:略称PEN)等などを挙げることができる。
【0060】
ワッシャ(80)の材料(セラミック)も例示である。アルミナに代えて、例えばジルコニアを用いてもよい。
【0061】
圧縮機構も例示である。スクロール式の圧縮機構の他に、例えば、ロータリ式の圧縮機構を挙げることができる。
【0062】
ワッシャ(80)の形状も例示である。例えば、ワッシャ(80)として、フランジつきスリーブを用いることも可能である(図6を参照)。図6の例では、ワッシャ(80)のスリーブ部分(81)(円筒部分)が固定子(12)の貫通孔(13)に嵌め込まれている。絶縁部材(70)の端面(71)と、スリーブ部分(81)の端面との間には、隙間(W3)が形成されている。これにより、ナット(90)をボルト(60)に締め付けても、絶縁部材(70)には、軸方向の応力が作用しない。図6のワッシャ(80)は、実施形態2にも適用できる。
【0063】
固定部(12a)は、必ずしも、固定子(12)と一体的に構成しなくてもよい。図7に固定部(12a)の他の構成例を示す。図7では、固定子(12)と固定部(12a)は、別体である。
【0064】
絶縁部材(70)は、筒状の部材を用いる代わりに、流動性を有する溶融樹脂を流し込んで形成したり、熱硬化性樹脂を流し込んで硬化させることによって形成したりしてもよい。
【0065】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本開示は、圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 圧縮機
10 モータ
12 固定子
13 貫通孔
13a 壁面
20 圧縮機構
30 ケーシング
40 ブラケット(支持部材)
60 ボルト(締結部材)
70 絶縁部材
71 端面
80 ワッシャ
90 ナット
96 固定リング
W1,W2 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7