(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20240612BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20240612BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240612BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C23C28/00 A
B32B15/18
B32B15/08 G
B32B3/30
(21)【出願番号】P 2020062720
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】二葉 敬士
(72)【発明者】
【氏名】石塚 清和
(72)【発明者】
【氏名】横道 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】久米 くるみ
(72)【発明者】
【氏名】上杉 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3192959(JP,U)
【文献】特開昭57-114695(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230716(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108138277(CN,A)
【文献】特開昭57-026154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
B32B 15/18
B32B 15/08
B32B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板であって、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成されて
いる溶融亜鉛めっき層と、
前記溶融亜鉛めっき層上に形成されている電気亜鉛めっき層とを備え、
前記溶融亜鉛めっき層の化学組成は、質量%で、
Al:0.1~60.0%、
Mg:0~12.5%、及び、
Zn:35.0%以上、を含有し、
前記電気亜鉛めっき層の化学組成は、質量%で、
Al:0.1%未満、及び、
Zn:64.9%以上、を含有し、
前記電気亜鉛めっき層の上方から見て、前記めっき鋼板の表面には、テクスチャが形成されている、
めっき鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載のめっき鋼板であって、
前記テクスチャはヘアラインである、
めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のめっき鋼板であってさらに、
前記電気亜鉛めっき層上に、コーティング被膜を備える、
めっき鋼板。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のめっき鋼板であって、
前記テクスチャは、
底が前記溶融亜鉛めっき層に到達している複数の凹部を含む、
めっき鋼板。
【請求項5】
請求項4に記載のめっき鋼板であって、
前記電気亜鉛めっき層の上方から見て、前記溶融亜鉛めっき層の露出率は3.5%~30.0%である、
めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、めっき鋼板に関し、さらに詳しくは、表面にテクスチャを備えるめっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器や建材では、外観に意匠性が求められる場合がある。このような物品の意匠性を高める手段として、めっき層を有する鋼板の表面にテクスチャを形成する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特表2010-509495号公報(特許文献1)、及び、特開2006-124824号公報(特許文献2)では、溶融亜鉛めっき単層が形成されためっき鋼板において、溶融亜鉛めっき層の表面に、テクスチャの一種であるヘアラインを形成して、めっき鋼板の意匠性を高めている。
【0004】
また、特開2017-136645号公報(特許文献3)、及び、特表2013-536901号公報(特許文献4)では、電気亜鉛めっき単層が形成されためっき鋼板において、電気亜鉛めっき層の表面にヘアラインを形成して、めっき鋼板の意匠性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-509495号公報
【文献】特開2006-124824号公報
【文献】特開2017-136645号公報
【文献】特表2013-536901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、意匠性を求められる鋼板のうち、特に建材用途の鋼板では、意匠性だけでなく、耐食性が求められる。したがって、めっき鋼板は、意匠性だけでなく、耐食性も優れることが求められている。特に建材用途の鋼板の場合、時間が経過しても、意匠性が低下しない方が好ましい。したがって、時間が経過しても優れた意匠性を維持しつつ、耐食性にも優れるめっき鋼板が求められている。
【0007】
特許文献1~4では、意匠性及び耐食性に優れためっき鋼板を開示している。しかしながら、これらの文献では、時間の経過に伴う意匠性の維持に関する観点での検討が十分になされていない。
【0008】
本開示の目的は、時間が経過しても優れた意匠性を維持でき、かつ、優れた耐食性を有するめっき鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によるめっき鋼板は、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成されており、質量%で0.1%以上のAlを含有する溶融亜鉛めっき層と、
前記溶融亜鉛めっき層上に形成されている電気亜鉛めっき層とを備え、
前記電気亜鉛めっき層の上方から見て、前記めっき鋼板の表面には、テクスチャが形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるめっき鋼板は、時間が経過しても優れた意匠性を維持でき、かつ、優れた耐食性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態のめっき鋼板の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すめっき鋼板を、電気亜鉛めっき層の上方から見た平面図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2に示すめっき鋼板の圧延方向に垂直な断面の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3と異なる、
図1及び
図2に示すめっき鋼板の圧延方向に垂直な断面の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1と異なる本実施形態のめっき鋼板の他の構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図3及び
図4と異なる、めっき鋼板の圧延方向に垂直な断面の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態のめっき鋼板の製造工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、時間が経過しても優れた意匠性を維持でき、かつ、優れた耐食性を有するめっき鋼板の検討を行った。
【0013】
上述のとおり、一般的に、意匠性及び耐食性を両立するために、溶融めっき単層のめっき鋼板、又は、電気めっき単層のめっき鋼板が提案されてきた。そこで、本発明者らは、初めに、経時的な意匠性、及び、耐食性の2つの観点から、溶融亜鉛めっき層、及び、電気亜鉛めっき層について、改めて検討を行った。その結果、本発明者らは、溶融亜鉛めっき層、及び電気亜鉛めっき層について、次の知見を得た。
【0014】
特許文献1及び2に代表される溶融亜鉛めっき鋼板に形成されている溶融亜鉛めっき層は、Al及びZnを含有し、さらに、必要に応じてMgを含有する。溶融亜鉛めっきはその製造方法からめっき層の厚みを厚くしやすく耐食性を高くできる。さらに、Al及びMgを含有することにより、溶融亜鉛めっき層の表面には、緻密なZn保護皮膜が形成される。これにより、溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性が高まる。しかしながら、溶融亜鉛めっき層は、含有しているAlに起因して、時間の経過に伴い表面が黒色に変化する黒変化現象が発生する。黒変化現象が発生しても、耐食性は低下しない。しかしながら、時間の経過とともに発生する黒変化現象は、溶融亜鉛めっき鋼板の意匠性を低下する。したがって、黒変化現象は、経時的に意匠性を低下する要因となる。
【0015】
また、溶融亜鉛めっき層では、スパングルや初晶Al相が生成しやすい。スパングルや初晶Al相はテクスチャの模様を阻害する。つまり、スパングルや初晶Al相はめっき鋼板の意匠性を低下する要因となる。
【0016】
さらに、溶融亜鉛めっき層はドロスを含有する場合がある。ドロスとは、溶融亜鉛めっき処理を実施する場合に溶融亜鉛めっき浴で生成する金属間化合物である。具体的には、溶融亜鉛めっき処理では、溶融亜鉛めっき浴中に浸漬された鋼板から、溶融亜鉛めっき浴中にFeが溶出する。鋼板から溶融亜鉛めっき浴中に溶出したFeが、溶融亜鉛めっき浴中に存在するAlやZnと反応すると、ドロスと呼ばれる金属間化合物が生成する。溶融亜鉛めっき処理において、溶融亜鉛めっき層にドロスが巻き込まれる場合がある。ドロスは、溶融亜鉛めっき層と比較して硬い。そのため、溶融亜鉛めっき層において、ドロスが存在する部分は、疵になりやすい。以降の説明では、ドロスに起因した疵を、「ドロス欠陥」ともいう。めっき鋼板にテクスチャを形成した場合においても、ドロス欠陥は視認できる。したがって、ドロス欠陥も、めっき鋼板の意匠性を低下する要因となる。
【0017】
一方、特許文献3及び4に代表される電気亜鉛めっき鋼板に形成されている電気亜鉛めっき層は、実質的にAlを含有しない。そのため、黒変化現象は発生しない。電気亜鉛めっき層はさらに、微細な結晶粒で構成され、スパングルが発生しにくい。さらに、実質的にAlを含有しないため、初晶Al相も生成しない。つまり、電気亜鉛めっき層は、スパングルや初晶Al相に起因した意匠性の低下が発生しない。さらに、電気亜鉛めっき処理では、ドロスが発生しない。したがって、電気亜鉛めっき層では、ドロス欠陥に起因して意匠性の低下が発生しない。
【0018】
しかしながら、電気亜鉛めっき層は、溶融亜鉛めっき層と比較して、厚く形成することが困難である。具体的には、電気亜鉛めっき層を厚く形成する場合、電気亜鉛めっき処理時間が非常に長くなり、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、電気亜鉛めっき層の厚さを、溶融亜鉛めっき層と同程度に形成することは困難である。
【0019】
以上の検討の結果、経時的に優れた意匠性の維持と、優れた耐食性との両立を図るために、本発明者らは、テクスチャを有するめっき鋼板において、耐食性機能として溶融亜鉛めっき層を活用し、経時的な意匠性維持機能として電気亜鉛めっき層を活用することを考えた。具体的には、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成し、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層を形成して、電気亜鉛めっき層の上方から見て、めっき鋼板の表面にテクスチャを形成することを考えた。この構成を有するめっき鋼板の場合、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層が形成される。したがって、溶融亜鉛めっき層で意匠性の低下の要因となる、黒変化現象、スパングル、初晶Al相、ドロス欠陥は、電気亜鉛めっき層で覆われる。そのため、優れた意匠性を実現でき、かつ、黒変化現象により、時間の経過に伴い意匠性が低下するのを抑制できる。さらに、テクスチャが形成された電気亜鉛めっき層の下層として形成されている溶融亜鉛めっき層により、優れた耐食性を維持することができる。
【0020】
特許文献1~4に代表されるように、従前のテクスチャを有するめっき鋼板では、溶融亜鉛めっき単層、又は、電気亜鉛めっき単層からなる構成を採用していた。しかしながら、経時的な意匠性の維持も含めたさらなる意匠性の向上と、耐食性との両立を考慮した場合、本発明者らは、2種類のめっき層を組み合わせる、つまり、溶融亜鉛めっき層を下層とし、電気亜鉛めっき層を上層とする2層のめっき層にするという、従来にない発想により、テクスチャを有するめっき鋼板において、時間が経過しても優れた意匠性を維持しつつ、耐食性も維持できることを見出した。
【0021】
以上のとおり、従来とは全く異なる技術思想により完成した本実施形態のめっき鋼板は、次の構成を有する。
[1]
めっき鋼板であって、
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成されており、質量%で0.1%以上のAlを含有する溶融亜鉛めっき層と、
前記溶融亜鉛めっき層上に形成されている電気亜鉛めっき層とを備え、
前記電気亜鉛めっき層の上方から見て、前記めっき鋼板の表面には、テクスチャが形成されている、
めっき鋼板。
【0022】
[2]
[1]に記載のめっき鋼板であって、
前記テクスチャはヘアラインである、
めっき鋼板
【0023】
[3]
[1]又は[2]に記載のめっき鋼板であってさらに、
前記電気亜鉛めっき層上に、コーティング被膜を備える、
めっき鋼板。
【0024】
ここで、コーティング被膜は、無機コーティング被膜であっても、有機コーティング被膜であってもよい。コーティング被膜はさらに、無機コーティング被膜と有機コーティング被膜とを積層させた複層被膜であってもよいし、有機及び無機を混合した有機無機複合被膜であってもよい。無機コーティング被膜はたとえば、クロメート被膜、酸化ジルコニウム化成皮膜、シリケート被膜、シランカップリング剤被膜等である。有機コーティング被膜はたとえば、有機樹脂からなる被膜である。無機コーティング被膜及び有機コーティング被膜のいずれも、透光性を有する。ここで、本明細書において透光性とは、晴天午前の太陽光相当(照度約65000ルクス)の環境にコーティング被膜を備えるめっき鋼板を置いたときに、めっき鋼板のテクスチャを視認できることを意味する。
【0025】
コーティング被膜を有していれば、電気亜鉛めっき層中のZnに起因して発生する可能性のある白錆の発生をさらに抑制することができる。その結果、意匠性をさらに高めることができる。
【0026】
[4]
[1]~[3]のいずれか1項に記載のめっき鋼板であって、
前記テクスチャは、
底が前記溶融亜鉛めっき層に到達している複数の凹部を含む、
めっき鋼板。
【0027】
この場合、テクスチャを構成する複数の凹部の底は溶融亜鉛めっき層に達しているため、時間の経過とともに、凹部の底が黒色に変化する。そして、めっき鋼板の表面のうち、凹部の底以外の部分は金属色のまま色が変化しない。そのため、めっき鋼板の表面において、凹部の底部分と底部分以外の部分とのコントラストが強くなり、鋼板の外観において、テクスチャがより強調される。その結果、意匠性がさらに高まる。
【0028】
[5]
[4]に記載のめっき鋼板であって、
前記電気亜鉛めっき層の上方から見て、前記溶融亜鉛めっき層の露出率は5.0%~30.0%である、
めっき鋼板。
【0029】
この場合、めっき鋼板の表面のうち、凹部の底部分と底以外の部分と間で適切なコントラストが得られ、鋼板の外観において、テクスチャが美麗に強調される。その結果、意匠性がさらに高まる。
【0030】
以下、本実施形態のめっき鋼板について詳述する。
【0031】
[めっき鋼板1について]
図1は、本実施形態のめっき鋼板1の断面図である。
図1において、紙面に垂直な方向を、めっき鋼板1の圧延方向RDと定義する。めっき鋼板1の厚さ方向を、板厚方向TDと定義する。めっき鋼板1のうち、圧延方向RD及び板厚方向TDに対して垂直な方向を、幅方向WDと定義する。
【0032】
図1を参照して、本実施形態のめっき鋼板1は、母材鋼板100と、溶融亜鉛めっき層10と、電気亜鉛めっき層11とを備える。溶融亜鉛めっき層10は、母材鋼板100の表面上に形成されている。電気亜鉛めっき層11は、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に形成されている。つまり、溶融亜鉛めっき層10は、母材鋼板100と、電気亜鉛めっき層11との間に配置されている。
【0033】
図2は、
図1に示すめっき鋼板1を、電気亜鉛めっき層11の上方から見た平面図である。
図2を参照して、めっき鋼板1の表面には、テクスチャT1が形成されている。
図2では、テクスチャT1はヘアラインである。ここで、ヘアラインとは、一方向(
図2では圧延方向RD)に延在する複数の溝T11(
図3参照)で形成された線状の凹凸模様である。ヘアラインは周知のテクスチャであり、研磨ベルト等で表面を一方向に磨くことにより形成される。
【0034】
以下、母材鋼板100、溶融亜鉛めっき層10、及び、電気亜鉛めっき層11、及びテクスチャT1について説明する。
【0035】
[母材鋼板100について]
母材鋼板100は、製造するめっき鋼板に求められる各機械的性質(たとえば、引張強度、加工性等)に応じて、めっき鋼板(電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等)に適用される公知の鋼板を使用すればよい。たとえば、母材鋼板100として、電気機器用途の鋼板を使用してもよいし、建材用途の鋼板を使用してもよい。母材鋼板100は熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0036】
[溶融亜鉛めっき層10について]
溶融亜鉛めっき層10は、母材鋼板100の表面上に形成されている。より具体的には、溶融亜鉛めっき層10は、母材鋼板100と電気亜鉛めっき層11との間に配置されている。ここで、本明細書において、溶融亜鉛めっき層10とは、溶融亜鉛めっき処理工程を含む工程により製造されためっき層を意味する。具体的には、本明細書における溶融亜鉛めっき層10は、溶融亜鉛めっき層と、合金化された溶融亜鉛めっき層(いわゆる合金化溶融亜鉛めっき層)とを含む。
【0037】
溶融亜鉛めっき層10は、周知の化学組成を有する。具体的には、溶融亜鉛めっき層10の化学組成は、質量%で0.1%以上のAlを含有し、残部はZn及び不純物からなる。溶融亜鉛めっき層10の化学組成は、任意元素として、Mgを含有してもよい。
【0038】
好ましくは、溶融亜鉛めっき層10の化学組成は、次の元素を含有する。以下、元素に関する%は質量%を意味する。
【0039】
Al:0.1~60.0%
アルミニウム(Al)は易酸化元素であり、めっき表面に耐食性に優れた酸化被膜を形成して溶融亜鉛めっき層の耐食性を高める。Al含有量が0.1%以上であれば、この効果が十分に得られる。Al含有量の上限は特に限定されない。Al含有量の上限は例えば、60.0%である。したがって、好ましいAl含有量は0.1~60.0%である。
【0040】
Mg:0~12.5%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超である場合、Mgは、酸化被膜の安定性を向上させて溶融亜鉛めっき層の耐食性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。Mg含有量の上限は特に限定されない。Mg含有量の上限は例えば、12.5%である。したがって、Mg含有量は0~12.5%である。Mg含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.5%である。
【0041】
本実施形態による溶融亜鉛めっき層10の化学組成の残部は、上述のとおり、Zn及び不純物からなる。ここで、不純物とは、溶融亜鉛めっき処理を実施する際に、原料から混入されるものであって、意図的に含有させるものではなく、本実施形態による溶融亜鉛めっき鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0042】
[溶融亜鉛めっき層10の化学組成中の他の任意元素について]
本実施形態による溶融亜鉛めっき層の化学組成はさらに、Znの一部に代えて、次の元素群から選択される1元素以上を含有してもよい。
第1群:Si:0~2.5%、Ca:0~3.0%、Y:0~3.0%、La:0~3.0%、Ce:0~3.0%、Sn:0~2.0%、Bi:0~2.0%、及び、In:0~2.0%からなる群から選択される1元素以上
第2群:Cr:0~0.5%、Ti:0~0.5%、Ni:0~0.5%、Co:0~0.5%、V:0~0.5%、Nb:0~0.5%、Cu:0~0.5%、Mn:0~0.5%、Sr:0~0.5%、Sb:0~0.5%、及び、Pb:0~0.5%からなる群から選択される1元素以上
第3群:B:0~0.50%
第4群:Fe:0~12.0%
【0043】
第1群の各元素は、含有された場合、いずれも、溶融亜鉛めっき層10の耐食性をさらに高める。第2群の各元素は、含有された場合、いずれも、溶融亜鉛めっき層10の意匠性を高める。第3群のBは、含有された場合、溶融割れを抑制する。第4群のFeは、溶融亜鉛めっき層が合金化された場合、含有される。Feが含有された場合、溶融亜鉛めっき層10の硬さが高まり、めっき鋼板の加工性が高まる。
【0044】
以上のとおり、溶融亜鉛めっき層10の化学組成は、Alを必須に含有し、Mgを任意元素として含有し、さらに、第1群~第4群の元素のうち、一種以上を任意に含有し、残部はZn及び不純物である。ここで、Zn含有量が低すぎれば、溶融亜鉛めっき鋼板として求められる機械的特性が得られない場合がある。したがって、Zn含有量は35.0%以上である。Zn含有量の好ましい下限は37.0%であり、さらに好ましくは39.0%である。Zn含有量の上限は特に限定されないが、実質的に99.9%である。なお、上述の溶融亜鉛めっき層10の化学組成は周知である。
【0045】
[電気亜鉛めっき層11について]
電気亜鉛めっき層11は、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に形成されている。電気亜鉛めっき層11は、周知の化学組成を有すれば足りる。具体的には、電気亜鉛めっき層11は、主としてZnからなり、Al含有量は質量%で0.1%未満である。ここで、「主としてZnからなる」とは、電気亜鉛めっき層11中のZn含有量が少なくとも64.9%以上であることを意味する。例えば、電気亜鉛めっき層11の化学組成は、質量%で64.9%以上のZnを含有し、不純物であるAl含有量は0.1%未満である。
【0046】
電気亜鉛めっき層11の化学組成の一例は例えば、質量%でZnを64.9%以上含有し、任意元素として、Ni、Fe、Co及びCrからなる群から選択される1種以上を合計で0~30.0%含有し、任意元素としてCを0~5.0%含有してもよい。Ni、Fe、Co、Cr及びCは含有されなくてもよい。Zn含有量の好ましい下限は80.0%であり、さらに好ましくは90.0%であり、さらに好ましくは95.0%であり、さらに好ましくは99.5%であり、さらに好ましくは99.9%である。Zn含有量は100%であってもよい。電気亜鉛めっき層11は、電気亜鉛めっき層、及び、電気亜鉛合金めっき層を含む概念である。なお、上述のとおり、電気亜鉛めっき層11の化学組成は周知であって、主としてZnからなり、Al含有量が0.1%未満である。
【0047】
[溶融亜鉛めっき層10及び電気亜鉛めっき層11の化学組成の測定方法]
溶融亜鉛めっき層10及び電気亜鉛めっき層11の化学組成は、次の方法で測定できる。めっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面(以下、観察面という)を含み、溶融亜鉛めっき層10及び電気亜鉛めっき層11を含むサンプルを採取する。サンプルの観察面において、電気亜鉛めっき層11の表面11Sから板厚方向TDに、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析法に基づく線分析を実施して、測定対象となる線上での各元素の含有量(質量%)を求める。線分析は任意の10カ所で実施する。電気亜鉛めっき層11の表面11Sから線分析でのAl含有量が0.1%未満である連続した領域を、電気亜鉛めっき層11の領域と特定する。また、線分析でのAl含有量が0.1%以上となる連続した領域を、溶融亜鉛めっき層10の領域と特定する。10カ所での測定において、電気亜鉛めっき層11と特定された領域でのZn含有量の算術平均値(質量%)、及びAl含有量の算術平均値(質量%)を求める。求めた各元素含有量の算術平均値に基づいて、電気亜鉛めっき層11の化学組成を特定する。同様に、溶融亜鉛めっき層10と特定された領域でのZn含有量の算術平均値(質量%)、Al含有量の算術平均値(質量%)等、各元素含有量の算術平均値を求める。求めた各元素含有量の算術平均値に基づいて、溶融亜鉛めっき層10の化学組成を特定する。
【0048】
[溶融亜鉛めっき層10の厚さ、及び、電気亜鉛めっき層11の厚さ]
溶融亜鉛めっき層10の厚さは特に限定されず、周知の厚さであれば足りる。溶融亜鉛めっき層10の厚さは例えば、5.0~80.0μmである。溶融亜鉛めっき層10の厚さの好ましい下限は25.0μmである。周知の溶融亜鉛めっき処理を実施すれば、溶融亜鉛めっき層10の厚さを上記範囲に調整することが可能である。
【0049】
電気亜鉛めっき層11の厚さは特に限定されず、周知の厚さであれば足りる。上述のとおり、通常、電気亜鉛めっき層11は、溶融亜鉛めっき層10よりも薄い。電気亜鉛めっき層11の厚さは例えば、0.5~5.0μmである。周知の電気亜鉛めっき処理を実施すれば、電気亜鉛めっき層11の厚さを上記範囲に調整することが可能である。
【0050】
[溶融亜鉛めっき層10及び電気亜鉛めっき層11の厚さの測定方法]
溶融亜鉛めっき層10の厚さ、及び、電気亜鉛めっき層11の厚さは、EPMA分析法により、求めることができる。
【0051】
具体的には、次の方法で測定する。めっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面(以下、観察面という)を含み、溶融亜鉛めっき層10及び電気亜鉛めっき層11を含むサンプルを採取する。サンプルの観察面において、電気亜鉛めっき層11の表面11Sから板厚方向TDに、EPMA分析法に基づく線分析を実施して、測定対象となる線上での各元素の含有量(質量%)を求める。線分析は任意の20カ所で実施する。
【0052】
各測定箇所において、電気亜鉛めっき層11の表面11Sから線分析でのAl含有量が0.1%未満である連続した領域を、電気亜鉛めっき層11の領域(
図3では、領域L11)と特定する。また、線分析でのAl含有量が0.1%以上となる連続した領域(
図3では領域L10)を、溶融亜鉛めっき層10の領域と特定する。特定された領域L11及びL10の長さを測定する。20箇所で測定された領域L11のうち、最も厚い値から順に10点の厚さを選択する。そして、10点の厚さの算術平均値(μm)を、電気亜鉛めっき層11の厚さ(μm)と定義する。同様に、20箇所で測定された領域L10のうち、最も厚い値から順に10点の厚さを選択する。そして、10点の厚さの算術平均値(μm)を、溶融亜鉛めっき層10の厚さ(μm)と定義する。
【0053】
[テクスチャT1について]
図2を参照して、電気亜鉛めっき層11の上方から見て、めっき鋼板1の表面は、テクスチャT1を備える。本明細書において「テクスチャ」とは、物理的又は化学的手法によって、めっき鋼板1の表面に形成された凹凸模様を意味する。
図2では、テクスチャT1はヘアラインである。
図3は、
図1及び
図2に示すめっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面の一例を示す図である。
図2及び
図3を参照して、テクスチャT1の一例であるヘアライン(以下、ヘアラインT1ともいう)は、複数の凹部T11に相当する複数の溝T11を含む。複数の溝T11の延在方向は同一方向である。ここでいう同一方向とは、めっき鋼板1を電気亜鉛めっき層11の上方から見た場合(つまり、
図2のような平面視において)、幅方向WDに配列された、互いに隣り合う溝T11同士のなす角度のうち90%以上が、±5°未満であることを意味する。
【0054】
図1及び
図2では、テクスチャT1としてヘアラインが示されている。しかしながら、テクスチャT1はヘアラインに限定されない。テクスチャT1はヘアライン以外に例えば、エンボスパターン、バイブレーション仕上げ、梨地(ブラスト)仕上げ、槌目(ハンマー)パターン仕上げ、布目(サテン)仕上げ、等であってもよい。好ましくは、テクスチャT1はヘアラインである。
【0055】
図4は、
図3と異なる、
図1及び
図2に示すめっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面の一例を示す図である。
図4を参照して、凹部T11の下方には、凹部T10が形成されている。凹部T10は、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に形成されている。つまり、
図4では、溶融亜鉛めっき層10の表面10Sに対してテクスチャ加工が実施され、溶融亜鉛めっき層10の表面10Sに複数の凹部T10が形成されている。そして、複数の凹部T10を有する溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に、電気亜鉛めっき処理により、電気亜鉛めっき層11が形成されている。この場合、凹部T10の形状に沿って電気亜鉛めっき層11が形成される。その結果、電気亜鉛めっき層11の表面11Sに複数の凹部T11が形成され、電気亜鉛めっき層11の表面11S上にテクスチャT1が形成される。
【0056】
[めっき鋼板1の作用]
上述のとおり、めっき鋼板1は、母材鋼板100の表面上に、溶融亜鉛めっき層10が形成され、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に、電気亜鉛めっき層11が形成される。そして、電気亜鉛めっき層11の上方から見て、めっき鋼板1の表面にテクスチャT1(
図1~
図4ではヘアライン)が形成されている。上述のとおり、溶融亜鉛めっき層10は、Znだけでなく、Alを含有することにより、優れた耐食性を発揮する。しかしながら、溶融亜鉛めっき層10は、Alを含有するために、時間の経過に伴い黒変化現象が発生する。また、溶融亜鉛めっき層10では、Alを含有するために、表面10Sにスパングルや初晶Al相が生成する。さらに、溶融亜鉛めっき層10はドロス欠陥を含む。黒変化現象、スパングル、初晶Al相、及び、ドロス欠陥はいずれも、めっき鋼板1の意匠性を低下する。
【0057】
一方、電気亜鉛めっき層11は、実質的にAlを含有しない。電気亜鉛めっき層11はさらに、溶融亜鉛めっき層10と同等の厚さにしにくく、溶融亜鉛めっき層10よりも薄い。そのため、電気亜鉛めっき層11の耐食性は、溶融亜鉛めっき層10よりも低い。しかしながら、電気亜鉛めっき層11は、実質的にAlを含有しないために、黒変化現象は発生しない。電気亜鉛めっき層11はさらに、微細な結晶粒で構成され、スパングルが発生しない。さらに、実質的にAlを含有しないため、電気亜鉛めっき層11では、初晶Al相も生成しない。さらに、電気亜鉛めっき処理では、ドロスが発生しない。したがって、電気亜鉛めっき層11は、溶融亜鉛めっき層10と比較して、黒変化現象、スパングル、初晶Al相、及び、ドロス欠陥が生じない。そのため、電気亜鉛めっき層11は、溶融亜鉛めっき層10と比較して、極めて美麗であり、意匠性に優れる。
【0058】
そこで、本実施形態では、母材鋼板100上に形成するめっき層を2層構造とする。具体的には、母材鋼板100の表面上に、溶融亜鉛めっき層10を形成する。溶融亜鉛めっき層10は主として、めっき鋼板1の耐食性を高める役割を有する。そして、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に、電気亜鉛めっき層11を形成し、電気亜鉛めっき層11の表面11Sに、テクスチャT1を形成する。電気亜鉛めっき層11は主として、意匠性を高める役割を有する。以上のとおり、めっき鋼板1は、テクスチャT1を含む表面の美麗性(意匠性)を、上層である電気亜鉛めっき層11で担保し、さらに、耐食性を下層である溶融亜鉛めっき層10で担保する。そのため、本実施形態のめっき鋼板1は、優れた意匠性を有する。そして、電気亜鉛めっき層11では黒変化現象が生じないため、時間が経過しても優れた意匠性を維持できる。さらに、優れた耐食性も有する。つまり、めっき鋼板1は、優れた意匠性及び優れた耐食性の両立が可能である。
【0059】
[その他の構成1:コーティング被膜12]
図5は、
図1と異なる本実施形態のめっき鋼板の他の構成を示す断面図である。
図5を参照して、めっき鋼板1は、
図1と比較して、新たに、コーティング被膜12を備える。コーティング被膜12は、電気亜鉛めっき層11の表面11S上に形成されている。
【0060】
コーティング被膜12は、透光性を有する被膜である。ここで、本明細書において透光性とは、晴天午前の太陽光相当(照度約65000ルクス)の環境にコーティング被膜を備えるめっき鋼板を置いたときに、めっき鋼板のテクスチャを視認できることを意味する。
【0061】
コーティング被膜は、無機のコーティング被膜であってもよいし、有機のコーティング被膜であってもよい。コーティング被膜はさらに、無機コーティング被膜と有機コーティング被膜とを積層させた複層被膜であってもよいし、有機及び無機を混合した有機無機複合被膜であってもよい。
【0062】
無機コーティング被膜はたとえば、クロメート被膜、酸化ジルコニウム化成皮膜、シリケート被膜、シランカップリング剤被膜等である。有機コーティング被膜はたとえば、有機樹脂である。樹脂は、上述の定義の透光性を有する樹脂であれば特に限定されず、周知の天然樹脂、又は、周知の合成樹脂を用いることができる。樹脂はたとえば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、メラミンアルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0063】
めっき鋼板1がコーティング被膜12を備える場合、耐指紋性、加工性、及び、耐白錆性等、めっき層だけでは付与することができない機能を付与することができる。上述の機能をさらに高めるために、コーティング被膜に添加剤を含有してもよい。添加剤はたとえば、体質顔料(炭酸カルシウム、タルク等)、着色顔料(カーボンブラック、チタン白等)、ワックス(ポリエチレン等)、防錆剤(リン酸、バナジウム、シリカ等)である。コーティング被膜はさらに、塗料物性を改善するために、増粘剤、レベリング剤、消泡剤等を、所望のコーティング機能を阻害しない範囲で含有してもよい。
【0064】
コーティング被膜12の厚さは特に限定されない。コーティング被膜12の厚さはたとえば、0.1~30.0μmである。周知のコーティング被膜形成処理を実施すれば、コーティング被膜12の厚さを上記範囲に調整することが可能である。なお、コーティング被膜の厚さは、次の方法で求めることができる。めっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面(以下、観察面という)を含み、コーティング被膜12を含むサンプルを採取する。コーティング被膜12の表面にAuなどの重元素を蒸着して、コーティング被膜12上に蒸着層を形成する。蒸着層が形成されたサンプルを樹脂に埋め込み、研磨して断面サンプルを作製する。作製した断面サンプルを用いて走査型電子顕微鏡(SEM)で反射電子像を観察する。反射電子像において、電気亜鉛めっき層11の上端と蒸着層とを含み、最大となる視野で観察する。コントラストにより、コーティング被膜12と、めっき層(電気亜鉛めっき層11及び溶融亜鉛めっき層10)と、蒸着層とは容易に区別できる。コーティング被膜12の任意の10カ所で、厚さ(μm)を測定する。得られた10個の厚さの算術平均値を、コーティング被膜12の厚さ(μm)と定義する。
【0065】
[その他の構成2:テクスチャT1の底TB11が溶融亜鉛めっき層10まで到達]
本実施形態のめっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面は、
図3及び
図4に限定されない。
図6は、
図3及び
図4と異なる、めっき鋼板1の圧延方向RDに垂直な断面の一例を示す図である。なお、
図6に示すめっき鋼板1の拡大した断面図は
図1又は
図5に相当し、平面図は
図2に相当する。
【0066】
図3及び
図4に示すめっき鋼板1では、テクスチャT1の複数の凹部T11の底が溶融亜鉛めっき層10まで到達しておらず、電気亜鉛めっき層11内に位置する。一方、
図6に示すめっき鋼板1の場合、凹部T11は電気亜鉛めっき層11を突き抜け、凹部T11の底TB11は溶融亜鉛めっき層10に到達している。好ましくは、凹部T11の底TB11は、溶融亜鉛めっき層10内に到達している。
【0067】
図6に示す構成のめっき鋼板1の場合、複数の凹部T11の底TB11が溶融亜鉛めっき層10に到達している。つまり、底TB11では溶融亜鉛めっき層10が露出している。この場合、時間の経過に伴い、テクスチャT1の底TB11(テクスチャT1がヘアラインの場合、溝T11の底TB11)において、黒変化現象が発生し、底TB11が黒色化する。そのため、底TB11とそれ以外の部分とのコントラストが強くなり、めっき鋼板1の外観において、テクスチャT1がより強調される。一方、底TB11以外の部分は電気亜鉛めっき層11で覆われているため、スパングル、初晶Al相、ドロス欠陥等の意匠性を低下する要因はめっき鋼板1の表面に露出しない。その結果、底TB11の黒変化によりテクスチャT1をより強調でき、意匠性をさらに高めることができる。なお、黒変化現象が発生しても耐食性には何ら影響しないため、めっき鋼板1は優れた耐食性も有する。
【0068】
上述の説明では、テクスチャT1としてヘアラインを例に説明した。しかしながら、上述のとおり、テクスチャT1はヘアラインに限定されない。例えば、テクスチャT1がエンボスパターンである場合、テクスチャT1は複数の凹部T11を含む。そして、複数の凹部T11の底TB11が溶融亜鉛めっき層10に到達していてもよい。この場合、上述のとおり、経時的に底TB11が黒色化する。そのため、エンボスパターンがより強調され、めっき鋼板1の意匠性がさらに高まる。要するに、テクスチャT1において、複数の凹部T11の底TB11が溶融亜鉛めっき層10に到達していれば、上記効果が得られる。
【0069】
[めっき鋼板1を平面視した場合の溶融亜鉛めっき層10の好ましい露出率]
図6に示す構成のめっき鋼板1である場合、めっき鋼板1を電気亜鉛めっき層11の上方から見た場合(つまり、めっき鋼板1を平面視した場合)、テクスチャT1の複数の凹部T11の底TB11で溶融亜鉛めっき層10が露出している。露出率は特に限定されない。好ましくは、めっき鋼板1を電気亜鉛めっき層11の上方から見た場合、溶融亜鉛めっき層10の露出率は3.5%~30.0%である。
【0070】
溶融亜鉛めっき層10の露出率が3.5%以上であれば、底TB11の黒色化により、テクスチャT1が顕著に強調され、意匠性が顕著に高まる。溶融亜鉛めっき層10の露出率の好ましい下限は4.0%であり、さらに好ましくは6.0%である。溶融亜鉛めっき層10の露出率の上限は特に限定されない。しかしながら、溶融亜鉛めっき層10の露出率があまりに高まれば、黒色化された領域が増加するため、意匠性が返って低下する。したがって、溶融亜鉛めっき層10の露出率の上限はたとえば、30.0%である。溶融亜鉛めっき層10の露出率の上限は25.0%であってもよいし、20.0%であってもよいし、15.0%であってもよい。
【0071】
めっき鋼板1を電気亜鉛めっき層11の上方から見た場合の溶融亜鉛めっき層10の露出率は、次の方法により測定する。めっき鋼板1を準備する。めっき鋼板1がコーティング被膜12を備える場合、亜鉛めっき層(電気亜鉛めっき層11及び溶融亜鉛めっき層10)を侵さない溶剤やリムーバー(たとえば、三彩化工株式会社製の商品名:ネオリバーS-701)などの剥離剤で、コーティング被膜12を除去しためっき鋼板1を準備する。めっき鋼板1を電気亜鉛めっき層11の上方から見て(めっき鋼板1を平面視して)、1mm×1mmの任意の矩形領域を5箇所選択する。選択された矩形領域に対してEPMA分析(面分析)を実施する。画像解析により、各矩形領域中において、Znを含有し、かつ、Alを0.1%以上含有する領域を特定する。特定された領域を、溶融亜鉛めっき層10の露出した領域と判断する。5つの矩形領域において、溶融亜鉛めっき層10の領域の総面積を求める。5つの矩形領域の総面積と、溶融亜鉛めっき層10の領域の総面積とに基づいて、溶融亜鉛めっき層10の露出率(面積%)を求める。
【0072】
以上のとおり、本実施形態のめっき鋼板1では、母材鋼板100の表面上に溶融亜鉛めっき層10を形成し、溶融亜鉛めっき層10の表面上に電気亜鉛めっき層11を形成し、電気亜鉛めっき層11を上方から見て、めっき鋼板1の表面にテクスチャT1を形成する。この場合、電気亜鉛めっき層11はテクスチャT1を有するめっき鋼板1の意匠性を高める役割を発揮し、溶融亜鉛めっき層10はめっき鋼板1の耐食性を高める役割を発揮する。そのため、めっき鋼板1では、優れた意匠性と優れた耐食性の両立が可能である。めっき鋼板1がコーティング被膜12を備える場合は、意匠性がさらに高まる。また、テクスチャT1の凹部T11の底TB11が溶融亜鉛めっき層10に到達している場合、黒変化現象を敢えて利用することにより、テクスチャT1のコントラストを強くすることが可能であり、意匠性をさらに高めることができる。
【0073】
[製造方法]
以下、本実施形態のめっき鋼板1の製造方法の一例を説明する。以降に説明する製造方法は、本実施形態のめっき鋼板1を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有するめっき鋼板1は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のめっき鋼板1の製造方法の好ましい一例である。
【0074】
図7は、本実施形態のめっき鋼板1の製造工程の一例を示すフロー図である。製造方法は、次の2のケースに分類される。
ケース1:めっき鋼板1が
図3又は
図6に示す断面を有する場合
ケース2:めっき鋼板1が
図4に示す断面を有する場合
以下、各ケースについて説明する。
【0075】
[ケース1のめっき鋼板1の製造工程]
ケース1の場合、めっき鋼板1の製造方法は、母材鋼板100を準備する工程(母材鋼板準備工程:S11)と、準備された母材鋼板100に対して溶融亜鉛めっき処理を実施して、母材鋼板100の表面上に溶融亜鉛めっき層10を形成する工程(溶融亜鉛めっき処理工程:S12)と、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に電気亜鉛めっき層11を形成する工程(電気亜鉛めっき処理工程:S13)と、テクスチャT1を形成する工程(テクスチャ加工工程:S14)と、必用に応じて、テクスチャT1が形成されためっき鋼板1の表面にコーティング被膜12を形成する工程(コーティング被膜形成工程:S15)を含む。以下、各工程について説明する。
【0076】
[母材鋼板準備工程(S11)]
母材鋼板準備工程(S11)では、上述の母材鋼板100を準備する。母材鋼板100が鋼板である場合、母材鋼板100は熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。
【0077】
[溶融亜鉛めっき処理工程(S12)]
亜鉛めっき処理工程(S12)では、準備された母材鋼板100に対して、溶融亜鉛めっき処理を実施して、母材鋼板100の表面上に溶融亜鉛めっき層10を形成する。
【0078】
溶融亜鉛めっき処理は、周知の方法を実施すればよい。具体的には、溶融亜鉛めっき層10を、周知の溶融亜鉛めっき処理又は合金化溶融亜鉛めっき処理により形成する。この場合、周知の亜鉛めっき浴を準備する。亜鉛めっき浴は例えば、Znを主体として、Alを含有する。亜鉛めっき浴はさらに、Mg等の他の元素を含有してもよい。亜鉛めっき層を溶融亜鉛めっき層10とする場合、浴温及び浴の化学組成が調整された亜鉛めっき浴に母材鋼板100を浸漬して、母材鋼板100の表面上に溶融亜鉛めっき層10を形成する。溶融亜鉛めっき層10を合金化溶融亜鉛めっき層とする場合、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板100に対して、周知の合金化炉内で周知の熱処理を実施して、溶融亜鉛めっき層10を合金化溶融亜鉛めっき層とする。溶融亜鉛めっき処理における溶融亜鉛めっき層10の厚さは、めっき浴への浸漬時間及びガスワイピングでの溶融亜鉛めっきの除去量を調整することにより、調整可能である。なお、溶融亜鉛めっき処理前に、母材鋼板100に対して、電解脱脂等の周知の脱脂処理を実施してもよい。例えば、鋼板に対して、Na4SiO4処理液を用いて、周知の条件で電解脱脂し、水洗する。電解脱脂後の鋼板を、H2SO4水溶液に所定期間浸漬した後、水洗する。
【0079】
[電気亜鉛めっき処理工程(S13)]
電気亜鉛めっき処理工程(S13)では、溶融亜鉛めっき層10が形成された母材鋼板100に対して、電気亜鉛めっき処理を実施して、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上に電気亜鉛めっき層11を形成する。なお、溶融亜鉛めっき層10が形成された母材鋼板100に対して上述の脱脂処理を実施した後、電気亜鉛めっき処理を実施してもよい。
【0080】
電気亜鉛めっき処理は、周知の方法で実施すればよい。電気亜鉛めっき浴、及び、電気亜鉛合金めっき浴は、周知の浴を用いれば足りる。電気めっき浴はたとえば、硫酸浴、塩化物浴、ジンケート浴、シアン化物浴、ピロリン酸浴、ホウ酸浴、クエン酸浴、その他錯体浴及びこれらの組合せ等である。電気亜鉛合金めっき浴はたとえば、Znイオンの他に、Fe、Ni、Co及びCrから選ばれる1つ以上の単イオン又は錯イオンを含有する。また、レベリング効果や硬度上昇などの所望の効果を得るために適宜有機添加剤などを電気めっき浴に添加してもよい。
【0081】
電気亜鉛めっき処理における、電気亜鉛めっき浴及び電気亜鉛合金めっき浴の化学組成、温度、流速、及び、めっき処理時の条件(電流密度、通電パターン等)は、適宜調整が可能である。電気亜鉛めっき処理における電気亜鉛めっき層11の厚さは、電気亜鉛めっき処理時における電流密度の範囲内で電流値と時間とを調整することにより、調整可能である。
【0082】
なお、電気亜鉛めっき浴は酸性又はアルカリ性の浴である。しかしながら、電気亜鉛めっき処理中は、鋼板に電位が掛かる。そのため、溶融亜鉛めっき層10は電気亜鉛めっき浴により溶解することなく、溶融亜鉛めっき層10上に電気亜鉛めっき層11が形成される。以上の製造工程により、母材鋼板100と、溶融亜鉛めっき層10と、電気亜鉛めっき層11とを備えるめっき鋼板が製造される。
【0083】
[テクスチャ加工工程(S14)]
テクスチャ加工工程(S14)では、めっき鋼板の電気亜鉛めっき層11の表面に対して周知のテクスチャ加工を実施することにより、めっき鋼板1の表面に対してテクスチャT1を形成する。
【0084】
テクスチャT1がヘアラインである場合、周知のヘアライン加工を実施する。ヘアライン加工方法はたとえば、周知の研磨ベルトで表面を研磨してヘアラインを形成する方法、周知の砥粒ブラシで表面を研磨してヘアラインを形成する方法、ヘアライン形状を付与したロールで圧延転写してヘアラインを形成する方法等がある。ヘアラインの長さや深さ、頻度は、周知の研磨ベルトの粒度や、周知の砥粒ブラシの粒度やロールの表面形状を調整することにより、調整可能である。つまり、周知の砥粒ブラシの粒度やロールの表面形状を調整することにより、
図3の断面のめっき鋼板1を形成することもできるし、
図6の断面のめっき鋼板1を形成することもできる。さらに、
図6の断面のめっき鋼板1とする場合、周知の砥粒ブラシの粒度やロールの表面形状を調整することにより、溶融亜鉛めっき層10の露出率も調整できる。なお、ヘアラインを付与する方法としては、表面品質の観点から、研磨ベルト又は砥粒ブラシで表面を研磨してヘアラインを形成することが好ましい。
【0085】
テクスチャT1がエンボス等の凹凸形状である場合、ロールを用いた周知の転写方法を実施してもよい。具体的には、エンボス等の凹凸形状のテクスチャT1が形成されているロールを準備する。準備されたロールを、めっき鋼板の電気亜鉛めっき層11の表面11Sに押し当てて、ロールに形成されている凹凸形状を、電気亜鉛めっき層11の表面11Sに転写する。以上の工程により、エンボス等の凹凸形状をめっき鋼板1の表面に形成することができる。
【0086】
以上の製造工程により、ケース1のめっき鋼板1を製造できる。
【0087】
[コーティング被膜形成工程(S15)]
コーティング被膜形成工程(S15)は実施しなくてもよい。つまり、コーティング被膜形成工程(S15)は任意の工程である。実施する場合、コーティング被膜形成工程(S15)では、テクスチャT1が形成されためっき鋼板1の電気亜鉛めっき層11の表面に、コーティング被膜12を形成する。
【0088】
電気亜鉛めっき層11上にコーティング被膜12を形成する方法は、周知の方法でよい。コーティング被膜12として有機コーティング被膜を形成する場合、有機コーティングを構成する塗料を準備する。準備された塗料を、吹き付け法、ロールコーター法、カーテンコーター法、又は、浸漬引き上げ法等により、電気亜鉛めっき層11上に塗布する。その後、電気亜鉛めっき層11上の塗料に対して、自然乾燥、又は、焼付け乾燥を実施して、コーティング被膜12を形成する。乾燥温度、乾燥時間、焼付き温度、焼付時間は、適宜調整可能である。
【0089】
コーティング被膜12として無機コーティング被膜を形成する場合、無機コーティング被膜用の薬剤をロールコーター法、浸漬リンガー法、スプレーリンガー法、電解法等により、電気亜鉛めっき層11上に塗布する。電気亜鉛めっき層11上に塗布した薬剤に対して、自然乾燥、又は、焼付け乾燥を実施して、コーティング被膜12を形成する。乾燥温度、乾燥時間、焼付き温度、焼付時間は、適宜調整可能である。
【0090】
以上の製造工程により、
図3又は
図6の断面のめっき鋼板1を製造できる。
【0091】
[ケース2のめっき鋼板1の製造工程]
ケース2の場合、母材鋼板準備工程(S11)及び溶融亜鉛めっき処理工程(S12)を実施した後、テクスチャ加工工程(S14)を実施して、溶融亜鉛めっき層10の表面10S上にテクスチャ(複数の凹部T10)を形成する。その後、電気亜鉛めっき処理工程(S13)を実施する。以上の工程により、
図4に示す断面のめっき鋼板1を製造できる。なお、必用に応じて、コーティング被膜形成工程(S15)を実施して、電気亜鉛めっき層11上に、コーティング被膜12を形成できる。
【0092】
以上の製造工程により、本実施形態のめっき鋼板1を製造できる。なお、本実施形態のめっき鋼板1は、上記製造方法に限定されず、上述の構成を有するめっき鋼板1が製造できれば、上記製造方法以外の他の製造方法で本実施形態のめっき鋼板1を製造してもよい。ただし、上記製造方法は、本実施形態のめっき鋼板1の製造に好適である。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明の一態様の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のめっき鋼板1の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本発明はこの一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0094】
表1に示す各試験番号のめっき鋼板を製造した。各めっき鋼板の鋼板はJIS G 3141(2017)に規定されているSPCCとし、厚さは0.6mmとした。
【0095】
【0096】
各鋼板に対して、同じ条件で周知の脱脂処理を実施した。その後、各試験番号で、表1に示すとおりめっき層を形成し、かつ、テクスチャ加工工程を実施した。
【0097】
具体的には、試験番号1では、溶融亜鉛めっき層を母材鋼板上に形成した。溶融亜鉛めっき処理では、Zn-0.2%Alの溶融亜鉛めっき層を形成するための溶融亜鉛めっき浴を準備した。周知の溶融亜鉛めっき処理により、溶融亜鉛めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、溶融亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、溶融亜鉛めっき層の化学組成は、Al含有量が0.2%であり、残部がZnであった。表1において、Al含有量が0.2%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-0.2Al」と表記する。また、上述の方法により、溶融亜鉛めっき層の厚さを測定した。測定結果を表1中の「下層」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。
【0098】
試験番号1では、溶融亜鉛めっき層を形成した後、電気亜鉛めっき層を形成しなかった(表1中の「上層」欄の「種類」、「化学組成」、「厚さ」において「-」で表記)。溶融亜鉛めっき層の表面上に対して、上述のテクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。なお、めっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率が100.0%であった。
【0099】
テクスチャが形成された試験番号1のめっき鋼板に対して、有機コーティング被膜を形成した(表1中の「コーティング被膜」欄の「種類」欄に「有機」と記載)。有機樹脂として、ウレタン系樹脂(株式会社ADEKA製、商品名:HUX-232)を水に分散させた塗料を準備した。また、上述の方法により、有機コーティング被膜の厚さを測定した。測定結果を表1中の「コーティング被膜」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。以上の製造工程により、試験番号1のめっき鋼板を製造した。
【0100】
試験番号2では、母材鋼板上に溶融亜鉛めっき層を形成しなかった(表1中の「下層」欄の「種類」、「化学組成」、「厚さ」において「-」で表記)。代わりに、母材鋼板上に電気亜鉛めっき層を形成した。具体的には、次の電気亜鉛めっき処理を実施して、電気亜鉛めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を1.0mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを2.0に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、電流密度を50A/dm2とした。厚さが3.0μm程度となるように、めっき時間を調整した。以上の工程により、母材鋼板上に、電気亜鉛めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛めっき層の化学組成は、Znからなる化学組成であり、Al含有量は0.1%未満であった。表1において、Znからなる化学組成であり、Al含有量は0.1%未満である電気亜鉛めっき層の化学組成を「Zn」と表記する。また、上述の方法により、電気亜鉛めっき層の厚さを測定した。測定結果を表1中の「上層」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。
【0101】
電気亜鉛めっき層の表面上に対して、上述のテクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。なお、試験番号2では溶融亜鉛めっき層を形成しないため、溶融亜鉛めっき層の露出率は0%であった。
【0102】
テクスチャが形成された試験番号2のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した(表1中の「コーティング被膜」欄の「種類」欄に「有機」と記載)。有機樹脂は試験番号1と同じであった。また、上述の方法により、有機コーティング被膜の厚さを測定した。測定結果を表1中の「コーティング被膜」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。以上の製造工程により、試験番号2のめっき鋼板を製造した。
【0103】
試験番号3では、溶融亜鉛めっき層を母材鋼板上に形成した。溶融亜鉛めっき処理では、Zn-0.2%Al-0.5%Mgの溶融亜鉛めっき層を形成するための溶融亜鉛めっき浴を準備した。周知の溶融亜鉛めっき処理により、溶融亜鉛めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、溶融亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、溶融亜鉛めっき層の化学組成は、Al含有量が0.2%であり、Mg含有量が0.5%であり、残部がZnであった。表1において、Al含有量が0.2%であり、Mg含有量が0.5%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-0.2Al-0.5Mg」と表記する。また、上述の方法により、溶融亜鉛めっき層の厚さを測定した。測定結果を表1中の「下層」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。
【0104】
試験番号3では、試験番号1と同様に、溶融亜鉛めっき層を形成した後、電気亜鉛めっき層を形成しなかった。溶融亜鉛めっき層の表面上に対して、上述のテクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。なお、めっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率が100.0%であった。テクスチャが形成された試験番号3のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。また、上述の方法により、有機コーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号3のめっき鋼板を製造した。
【0105】
試験番号4では、溶融亜鉛めっき層を母材鋼板上に形成した。溶融亜鉛めっき処理では、Zn-55.0%Al-1.6%Siの溶融亜鉛めっき層を形成するための溶融亜鉛めっき浴を準備した。周知の溶融亜鉛めっき処理により、溶融亜鉛めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、溶融亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、溶融亜鉛めっき層の化学組成は、Al含有量が55.0%であり、Si含有量が1.6%であり、残部がZnであった。表1において、Al含有量が55.0%であり、Si含有量が1.6%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-55.0Al-1.6Si」と表記する。また、上述の方法により、溶融亜鉛めっき層の厚さを測定した。測定結果を表1中の「下層」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。
【0106】
試験番号4では、試験番号1と同様に、溶融亜鉛めっき層を形成した後、電気亜鉛めっき層を形成しなかった。溶融亜鉛めっき層の表面上に対して、上述のテクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。なお、めっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率が100.0%であった。テクスチャが形成された試験番号4のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。また、上述の方法により、有機コーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号4のめっき鋼板を製造した。
【0107】
試験番号5~7では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号1と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。溶融亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「下層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。試験番号5~7ではさらに、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、試験番号2と同じ条件の電気亜鉛めっき処理を実施して、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層を形成した。電気亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0108】
電気亜鉛めっき層が形成された試験番号5~7のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号5及び7では、
図6の断面を有するめっき鋼板となり、試験番号6では、
図3の断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、めっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号5~7のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。また、上述の方法により、有機コーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号5~7のめっき鋼板を製造した。
【0109】
試験番号8~13では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号1と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。溶融亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「下層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。試験番号8~13ではさらに、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、試験番号2と同じ条件の電気亜鉛めっき処理を実施して、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層を形成した。電気亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0110】
電気亜鉛めっき層が形成された試験番号8~12のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号8、9及び12は、
図3の断面を有するめっき鋼板となった。一方、試験番号10及び11は、
図6に示す断面を有するめっき鋼板となった。さらに、試験番号13では、テクスチャ加工として、エンボスパターンを形成した。試験番号13は、
図3の断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、試験番号8~13のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号8、10及び13のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。一方、試験番号9では、テクスチャが形成されためっき鋼板に対して、周知の方法により、無機コーティング被膜を形成した(表1中の「コーティング被膜」欄の「種類」欄に「無機」と表記)。無機コーティング被膜はLiシリケートであった。試験番号11では、テクスチャが形成されためっき鋼板に対して、プライマー層を設けた後に試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した(表1中の「コーティング被膜」欄の「種類」欄に「有機+無機」と表記)。上述の方法により、試験番号8~11及び13のコーティング被膜の厚さを測定した。なお、試験番号12では、コーティング被膜を形成しなかった。以上の製造工程により、試験番号8~13のめっき鋼板を製造した。
【0111】
試験番号14では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号1と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。溶融亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「下層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。試験番号14ではさらに、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、電気亜鉛合金めっき浴を準備し、Zn-12.0%Niの電気亜鉛合金めっき層を形成した。具体的には、次の電気亜鉛合金めっき処理を実施して、電気亜鉛合金めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を0.4mol/lと、硫酸Ni六水和物を0.6mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを2.0に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、めっき組成がZn-12.0%Niに、厚さが2.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Niが12.0%であり、残部がZnであった。Ni含有量が12.0%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-12.0Ni」と表記する。電気亜鉛合金めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0112】
Zn-12.0%Niの電気亜鉛合金めっき層が形成された試験番号14のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号14は、
図3の断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、試験番号14のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号14のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。上述の方法により、試験番号14のコーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号14のめっき鋼板を製造した。
【0113】
試験番号15では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号1と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。溶融亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「下層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。試験番号15ではさらに、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、電気亜鉛合金めっき浴を準備し、Zn-10.0%Feの電気亜鉛合金めっき層を形成した。具体的には、次の電気亜鉛合金めっき処理を実施して、電気亜鉛合金めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を0.4mol/lと、硫酸Fe7水和物を0.6mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを1.6に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、めっき組成がZn-10%Feに、厚さが2.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Feが10.0%であり、残部がZnであった。Fe含有量が10.0%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-10.0Fe」と表記する。電気亜鉛合金めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0114】
Zn-10.0%Feの電気亜鉛合金めっき層が形成された試験番号15のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号15は、
図3の断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、試験番号15のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号15のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。上述の方法により、試験番号15のコーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号15のめっき鋼板を製造した。
【0115】
試験番号16では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号1と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。溶融亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「下層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。試験番号16ではさらに、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、電気亜鉛合金めっき浴を準備し、Zn-1.0%Coの電気亜鉛合金めっき層を形成した。具体的には、次の電気亜鉛合金めっき処理を実施して、電気亜鉛合金めっき層を形成した。硫酸Zn七水和物を0.9mol/lと、硫酸Co7水和物を0.1mol/lと、無水硫酸ナトリウム50g/Lとを含み、pHを1.8に調整しためっき浴を準備した。電気めっきでは、浴温を50℃とし、めっき組成がZn-1.0%Coに、厚さが3.0μm程度となるように、電流密度とめっき時間を調整した。以上の工程により、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛合金めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、電気亜鉛合金めっき層の化学組成を分析した。その結果、電気亜鉛合金めっき層の化学組成は、Coが1.0%であり、残部がZnであった。Co含有量が1.0%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-1.0Co」と表記する。電気亜鉛合金めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0116】
Zn-1.0%Coの電気亜鉛合金めっき層が形成された試験番号16のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号16は、
図6の断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、試験番号16のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号16のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。上述の方法により、試験番号16のコーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号16のめっき鋼板を製造した。
【0117】
試験番号17では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号1と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。さらに、形成された溶融亜鉛めっき層に対して、周知の合金化処理を実施して、合金化溶融亜鉛めっき層とした。上述のEPMA分析法により、合金化溶融亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、溶融亜鉛めっき層の化学組成は、Al含有量が0.1%であり、Fe含有量が15.0%であり、残部がZnであった。表1において、Al含有量が0.1%であり、Fe含有量が15.0%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-0.1Al-15.0Fe」と表記する。上述の方法により、溶融亜鉛めっき層の厚さを測定した。
【0118】
試験番号17ではさらに、合金化溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、試験番号2と同じ条件の電気亜鉛めっき処理を実施して、合金化溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層を形成した。電気亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0119】
電気亜鉛めっき層が形成された試験番号17のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号17は、
図3の断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、試験番号17のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号17のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。上述の方法により、試験番号17のコーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号17のめっき鋼板を製造した。
【0120】
試験番号18~20では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号18では試験番号4と同じ溶融亜鉛めっき浴を準備し、試験番号19ではZn-11.0%Al-3.0%Mg-0.2%Siの溶融亜鉛めっき層を形成可能な溶融亜鉛めっき浴を準備し、試験番号20ではZn-6.0%Al-3.0%Mg-0.1%Siの溶融亜鉛めっき層を形成可能な溶融亜鉛めっき浴を準備した。周知の溶融亜鉛めっき処理により、溶融亜鉛めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、溶融亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、試験番号19の溶融亜鉛めっき層の化学組成は、Al含有量が11.0%であり、Mg含有量が3.0%であり、Si含有量が0.2%であり、残部がZnであった。表1において、Al含有量が11.0%であり、Mg含有量が3.0%であり、Si含有量が0.2%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-11.0Al-3.0Mg-0.2Si」と表記する。試験番号20の溶融亜鉛めっき層の化学組成は、Al含有量が6.0%であり、Mg含有量が3.0%であり、Si含有量が0.1%であり、残部がZnであった。表1において、Al含有量が6.0%であり、Mg含有量が3.0%であり、Si含有量が0.1%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-6.0Al-3.0Mg-0.1Si」と表記する。また、上述の方法により、溶融亜鉛めっき層の厚さを測定した。測定結果を表1中の「下層」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。
【0121】
試験番号18~20ではさらに、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、試験番号2と同じ条件の電気亜鉛めっき処理を実施して、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層を形成した。電気亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。電気亜鉛めっき層が形成された試験番号18~20のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号18は、
図3の断面を有するめっき鋼板となった。一方、試験番号19及び20は、
図6に示す断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、試験番号18~20のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号18~20のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。上述の方法により、試験番号18~20のコーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号18~20のめっき鋼板を製造した。
【0122】
試験番号21では、
図7に示すケース1の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。ただし、母材鋼板準備工程の後に250mg/m
2の電気Niめっき層を形成した。具体的には、電気Niめっき層は硫酸Ni六水和物0.5mol/l、ほう酸45g/lのめっき液を準備し、浴温45℃とし、電流密度20A/dm
2で付着量が250mg/m
2程度となるようにめっき時間を調整した。電気Niめっき層が形成された母材鋼板の表面上に、試験番号1と同じ方法により溶融亜鉛めっき層を形成した。上述のEPMA分析法により、溶融亜鉛めっき層の化学組成を分析した。その結果、溶融亜鉛めっき層の化学組成は、Al含有量が0.2%であり、Ni含有量が0.1%であり、残部がZnであった。表1において、Al含有量が0.2%であり、Ni含有量が0.1%であり、残部がZnであるめっき層の化学組成を「Zn-0.2Al-0.1Ni」と表記する。また、上述の方法により、溶融亜鉛めっき層の厚さを測定した。測定結果を表1中の「下層」欄の「厚さ(μm)」欄に示す。試験番号21ではさらに、溶融亜鉛めっき層が形成された母材鋼板に対して、試験番号2と同じ条件の電気亜鉛めっき処理を実施して、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層を形成した。電気亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0123】
電気亜鉛めっき層が形成された試験番号21のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。その結果、試験番号21では、
図6の断面を有するめっき鋼板となった。上述の方法により、めっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号21のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。また、上述の方法により、有機コーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号21のめっき鋼板を製造した。
【0124】
試験番号22~24では、
図7に示すケース2の製造工程を実施して、めっき鋼板を製造した。具体的には、試験番号22は試験番号1と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。試験番号23は試験番号3と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。試験番号24は試験番号19と同じ方法により、母材鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成した。溶融亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「下層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。試験番号22~24では形成された溶融亜鉛めっき層に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。さらに、ヘアラインを形成した溶融亜鉛めっき層上に、試験番号2と同じ条件の電気亜鉛めっき処理を実施して、電気亜鉛めっき層を形成した。電気亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。
【0125】
以上の方法により、
図4の断面を有するめっき鋼板を製造した。上述の方法により、試験番号22~24のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。テクスチャが形成された試験番号22~24のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。上述の方法により、試験番号22~24のコーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号22~24のめっき鋼板を製造した。以上の製造工程により、試験番号22~24のめっき鋼板を製造した。
【0126】
試験番号25では、初めに、母材鋼板上にZn-12.0%Niの電気亜鉛合金めっき層を形成した。具体的には、試験番号14のZn-12.0%Niの電気亜鉛合金めっき層と同じ方法により、母材鋼板上にZn-12.0%Niの電気亜鉛合金めっき層を形成した。電気亜鉛合金めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「下層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。試験番号25ではさらに、電気亜鉛合金めっき層が形成された母材鋼板に対して、試験番号1と同じ方法により、溶融亜鉛めっき層を形成した。溶融亜鉛めっき層の化学組成及び厚さは、表1中の「上層」欄の「化学組成」及び「厚さ(μm)」に示すとおりであった。溶融亜鉛めっき層が形成された試験番号25のめっき鋼板に対して、テクスチャ加工工程を実施して、ヘアラインを形成した。試験番号25のめっき鋼板の平面視における、溶融亜鉛めっき層の露出率を測定した。測定結果を「露出率(面積%)」欄に示す。テクスチャが形成された試験番号25のめっき鋼板に対して、試験番号1と同じ方法で、有機コーティング被膜を形成した。有機樹脂は試験番号1と同じであった。上述の方法により、試験番号25のコーティング被膜の厚さを測定した。以上の製造工程により、試験番号25のめっき鋼板を製造した。
【0127】
[評価試験]
[耐食性評価試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、次の方法により、耐食性(長期耐食性)を評価した。各試験番号のめっき鋼板から、75mm×100mmの試験片を採取した。試験片の端面及び裏面をテープシールで保護した。その後、めっき層に達するクロスカット疵を形成した(クロスカット疵を形成しためっき鋼板を耐赤錆性試験片と呼称する)。次に、耐赤錆性試験片に対して、35℃に保持された5%NaClの塩水噴霧試験を、JIS Z 2371(2015)に準拠して実施した。試験を2000時間まで実施し、試験後の赤錆発生時間を求めた。赤錆発生時間に応じて、次のとおり評価した。
評価A:赤錆発生時間が2000時間以上
評価B:赤錆発生時間が240時間以上2000時間未満
評価X:赤錆発生時間が240時間未満
評価A及びBである場合、耐食性に優れると判断した(表1中の「耐食性」欄で「A」又は「B」)。評価Xの場合、耐食性が低いと判断した(表1中の「耐食性」欄で「X」)。
【0128】
[黒変化現象評価試験]
各試験番号のめっき鋼板に対して、次の方法により、黒変化現象の発生の有無を確認した。各試験番号から、サンプルを採取した。まず、めっき鋼板の評価面を対向して重ね合わせ、梱包した(梱包後のめっき鋼板を耐黒変性試験片と呼称する)。その後、耐黒変性試験片を70℃、85%RH環境下に1週間保持し、保持前後の明度変化(ΔL*)を測定した。なお、保持前及び保持後のΔL*値は、分光測色計(スガ試験機株式会社製、商品名:SC-T45)を使用して、CIE表色系(L*a*b*表色系)に基づく色調測定(JIS Z 8781-4(2013))により決定した。
【0129】
得られたΔL*値に基づいて、次のとおり黒変化現象を評価した。
評価A:0≦ΔL*<1.0
評価B:1.0≦ΔL*<3.0
評価X:3.0≦ΔL*
評価A及び評価Bの場合、黒変化現象が抑制されており、時間が経過しても優れた意匠性を維持できると判断した。一方、評価Xの場合、時間の経過に伴い意匠性が低下すると判断した。
【0130】
[テクスチャ意匠性評価試験]
黒変化現象評価試験を終了した後の各試験番号のめっき鋼板に対して、次の方法でテクスチャ意匠性評価試験を実施した。各試験番号のめっき鋼板を、晴天午前の太陽光相当(照度約65000ルクス)の環境に置いた。そして、光源と鋼板と目線との角度をさまざまに変えて観察し、テクスチャを視認できるか否かを確認した。鋼板表面の鉛直方向に対して5°~80°まですべての角度でテクスチャが視認できれば、意匠性に優れており合格と評価した(表1中の「テクスチャ」欄で「A」)。また、鋼板表面の鉛直方向に対して5°~80°までの角度のうち一部でテクスチャが視認できれば、意匠性が良好であり、合格と評価した(表1中の「テクスチャ」欄で「B」)。一方、テクスチャを視認できるものの、スパングル、初晶Al相、ドロス欠陥も確認された場合、又は、黒変化現象が進んで表面の70%以上が黒変化している場合、意匠性が低く、不合格と評価した(表1中の「テクスチャ」欄で「X」)。
【0131】
[評価結果]
表1を参照して、試験番号5~24では、母材鋼板上に溶融亜鉛めっき層が形成され、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層が形成された。そして、めっき鋼板の表面にテクスチャが形成された。その結果、いずれの試験番号においても、耐食性は良好であった(評価「A」又は「B」)。さらに、いずれの試験番号でも、黒変化現象が抑制された。(評価「A」又は「B」)。さらに、テクスチャの意匠性も高かった(評価「A」~「B」)。したがって、試験番号5~24のめっき鋼板は、優れた意匠性と優れた耐食性を両立でき、時間が経過しても優れた意匠性を維持できた。
【0132】
特に、試験番号5~8、12、及び21~23では、溶融亜鉛めっき層の厚みが厚かった。また、試験番号18~20、及び24はAlだけでなく、Mgに代表される任意元素を含有した。その結果、耐食性が高かった(評価「A」)。さらに、試験番号7、10、11、16、19~21では、テクスチャの凹部の底が溶融亜鉛めっき層に到達していた。さらに、溶融亜鉛めっき層の露出率が3.5~30.0%の範囲内であった。その結果、テクスチャの意匠性に優れた(評価「A」)。
【0133】
一方、試験番号1、3及び4のめっき鋼板は、溶融亜鉛めっき層を有するものの、溶融亜鉛めっき層上に電気亜鉛めっき層が形成されなかった。そのため、黒変化が進み、意匠性が低かった(黒変化現象評価試験で「X」、テクスチャ意匠性評価試験で「X」)。
【0134】
試験番号2のめっき鋼板は、電気亜鉛めっき層を有するものの、電気亜鉛めっき層の下層として溶融亜鉛めっき層が形成されなかった。そのため、耐食性が低かった(耐食性評価試験で「X」)。
【0135】
試験番号25では、母材鋼板上に電気亜鉛めっき層が形成され、電気亜鉛めっき層上に溶融亜鉛めっき層が形成された。その結果、そのため、黒変化が進み、意匠性が低かった(黒変化現象評価試験で「X」、テクスチャ意匠性評価試験で「X」)。
【0136】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0137】
1 めっき鋼板
10 溶融亜鉛めっき層
11 電気亜鉛めっき層
T1 テクスチャ
12 コーティング被膜