(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】Z-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/395 20060101AFI20240612BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20240612BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240612BHJP
【FI】
C07C17/395
C07C21/18
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020113702
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 正宗
(72)【発明者】
【氏名】牟田 健祐
(72)【発明者】
【氏名】西中 直樹
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002925(WO,A1)
【文献】特開2017-001990(JP,A)
【文献】特開2017-193533(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193884(WO,A1)
【文献】特開2013-087066(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022474(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/395
C07C 21/18
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとを含む組成物を、フッ素化剤または
フッ化物金属を含む触媒と接触させることを特徴とする、高純度(Z)-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造する方法。
【請求項2】
前記フッ素化剤が、フッ化水素またはフッ酸塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触を液相で行うことを特徴とする、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記接触を気相で行うことを特徴とする、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記接触を充填材の存在下で行うことを特徴とする、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記接触を0℃以上400℃以下で行うことを特徴とする、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、Z-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(Z))を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)の一種である1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、「HCFO-1223xd」あるいは「1223xd」とも記す)は、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類の代替品として、溶剤、洗浄剤、冷媒等の用途が期待されている(例えば、特許文献1乃至8)。また、Z-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、「HCFO-1223xd(Z)」あるいは「1223xd(Z)」とも記す)は1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、「HCFO-1223za」あるいは「1223za」とも記す)と共沸様組成物を形成することが知られている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-221388号公報
【文献】特開平2-221389号公報
【文献】特開平2-221962号公報
【文献】特開平2-222469号公報
【文献】特開平2-222496号公報
【文献】特開平2-222497号公報
【文献】特開平2-222702号公報
【文献】特開2013-87187号公報
【文献】国際公開第2020/022474号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HCFO-1223xd(Z)とHCFO-1223zaの共沸様組成物は種々の用途に有用である。一方で、一旦共沸様組成物が形成されると、該共沸様組成物を構成する各成分を分離することは難しい。この共沸様組成物自体の有用性とは別に、用途によっては高純度のHCFO-1223xd(Z)が求められることもある。その需要に応じるための一つの方法として、この共沸様組成物から高純度のHCFO-1223xd(Z)を効率的に得る方法が求められていた。
【0005】
本開示の一側面は、HCFO-1223xd(Z)とHCFO-1223zaとを含む組成物から、高純度のHCFO-1223xd(Z)を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、HCFO-1223xd(Z)とHCFO-1223zaとを含む組成物から高純度HCFO-1223xd(Z)を製造する方法(以下、「本製造方法」とも記す)に関する。本製造方法は、組成物をフッ素化剤または触媒と接触(以下、「本接触」とも記す)させることを特徴とする。本発明者らは、本接触によりHCFO-1223xd(Z)もフッ素化し得るものの、HCFO-1223zaが優先的にフッ素化することを見出した。すなわち、本接触により、前記組成物中のHCFO-1223zaが優先的にフッ素化されて1223xd(Z)と分離容易なフッ素化体へと転化し、その結果として高純度のHCFO-1223xd(Z)を製造することができる。
【0007】
前記フッ素化剤は、フッ化水素またはフッ酸塩を含んでもよい。
【0008】
前記触媒は、フッ化物金属を含んでもよい。
【0009】
本接触は、液相で行ってもよい。
【0010】
本接触は、気相で行ってもよい。
【0011】
本接触は、充填材の存在下で行ってもよい。
【0012】
本接触は、0℃以上400℃以下で行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一側面によれば、HCFO-1223xd(Z)とHCFO-1223zaとを含む組成物から、高純度のHCFO-1223xd(Z)を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされたものと解される。
【0015】
本実施形態に係る高純度HCFO-1223xd(Z)の製造方法は、HCFO-1223xd(Z)とHCFO-1223zaとを含む組成物をフッ素化剤または触媒と接触させる工程を含む。
【0016】
(1223xd(Z)と1223zaを含む組成物)
前記1223xd(Z)と1223zaを含む組成物における1223xd(Z)と1223zaの含有比率は特に制限されない。例えば、1223xd(Z)と1223zaのモル比が、1223za/1223xd(Z)で表して、0.001~1000、0.001~100、0.001~10、0.001~5、0.001~1、0.001~0.1、0.001~0.01であってもよい。
なお本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0017】
また、この組成物には、1223xd(Z)と1223za以外の成分が含まれてもよい。この組成物中の1223xd(Z)と1223zaの合計含有割合は特に制限されない。この組成物が1223xd(Z)と1223za以外の成分を含む場合、例えば、組成物中の1223xd(Z)と1223zaの合計含有割合は、1質量%以上、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、50質量%超、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上であってもよい。
【0018】
前記1223xd(Z)と1223za以外の成分の種類は特に制限されず、例えば、1223xd(Z)や1223zaを製造する過程で用いる原料、副生物等であってもよい。前記1223xd(Z)と1223za以外の成分は、例えば、トリクロロトリフルオロプロパン(以下、「HCFC-233」とも記す)、テトラクロロトリフルオロプロパン(以下、「HCFC-223」とも記す)、ペンタクロロトリフルオロプロパン(以下、「CFC-213」とも記す)、モノクロロトリフルオロプロペン(以下、「HCFO-1233」とも記す)、ジクロロトリフルオロプロペン(以下、「HCFO-1223」とも記す)、トリクロロトリフルオロプロペン(以下、「CFO-1213」とも記す)、モノクロロテトラフルオロプロペン(以下、「HCFO-1224」とも記す)、モノクロロペンタフルオロプロペン(以下「HCFO-1215」とも記す)、モノクロロペンタフルオロプロパン(以下「HCFC-235」とも記す)、ヘキサフルオロプロパン(以下「HFC-236」とも記す)、ペンタフルオロプロペン(以下「HFO-1225」とも記す)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピン、フッ化水素、塩化水素、塩素、水等であってもよい。
【0019】
前記HCFC-233は、例えば、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-233da)、1,2,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-233ab)等が挙げられる。
【0020】
前記HCFC-223は、例えば、1,1,2,2-テトラクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-223aa)、1,2,2,3-テトラクロロ-1,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-223ab)、1,1,1,2-テトラクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-223db)等が挙げられる。
【0021】
前記CFC-213は、例えば、1,1,1,2,2-ペンタクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(CFC-213ab)、1,1,2,2,3-ペンタクロロ-1,3,3-トリフルオロプロパン(CFC-213aa)等が挙げられる。
【0022】
前記HCFO-1233は、例えば、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(Z))、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(E))、(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(Z))等が挙げられる。
【0023】
前記HCFO-1223は、123xd(Z)と1223za以外のジクロロトリフルオロプロペンであり、例えば、(E)-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(E))等が挙げられる。
【0024】
前記CFO-1213は、例えば、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(CFO-1213xa)が挙げられる。
【0025】
前記HCFO-1224は、例えば、E-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCF-1224xe(E))、Z-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224xe(Z))、E-1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224zb(E))、Z-1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224zb(Z))等が挙げられる。
【0026】
前記CFO-1215は、例えば、2-クロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(CFO-1215xc)、E-1-クロロ-1,2,3,3,3-ペンタクロロプロペン(CFO-1215yb(E))、Z-1-クロロ-1,2,3,3,3-ペンタクロロプロペン(CFO-1215yb(Z))等が挙げられる。
【0027】
前記HCFC-235は、例えば、1-クロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-235fa)、2-クロロ-1,1、3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-235da)等が挙げられる。
【0028】
前記HFC-236は、例えば、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa)等が挙げられる。
【0029】
前記CFO-1225は、E-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(CFO-1225ye(E))、Z-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(CFO-1225ye(Z))、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(CFO-1225zc)等が挙げられる。
【0030】
(フッ素化剤または触媒)
前記フッ素化剤は、フッ化水素またはフッ酸塩を含んでもよい。フッ化水素としては無水フッ化水素が好ましい。フッ酸塩としてはフッ化水素とアミン類との塩を用いることができる。
【0031】
前記アミン類としては、例えば、一般式R1-NH2で表される第一級アミン、一般式R2(R3)-NHで表される非環状第二級アミン、環状アミン等を用いることができる。ここで、R1、R2、およびR3は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、または脂環式炭化水素基である。
【0032】
前記フッ素化剤は、例えば、以下の一種または二種以上であってもよい:
無水フッ化水素;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等の低級アルキルアミンと弗化水素との塩;アニリン、トルイジン等の芳香族アミンと弗化水素との塩;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等のジ低級アルキルアミンと弗化水素との塩;N-メチルアニリン、N-メチルトルイジン等の芳香族二級アミンと弗化水素との塩;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、ルチジン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)等の環状アミンと弗化水素との塩。
【0033】
前記触媒は、アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属からなる群より選ばれる金属を少なくとも一種含み、該金属を含む化合物を含んでもよい。前記アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。前記アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。前記遷移金属としては、アルミニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、アンチモン、タンタル、タングステンが挙げられる。前記金属を含む化合物は、前記金属の酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
前記触媒は、前記金属のハロゲン化物が好ましく、前記金属の塩化物、前記金属のフッ化物が特に好ましく、前記金属のフッ化物がさらに好ましい。前記金属のハロゲン化物は、部分ハロゲン化物であってもよいし、全ハロゲン化物であってもよい。また、前記金属のフッ化物としては、フッ素化されたアルカリ金属やアルカリ土類金属や遷移金属が挙げられる。前記フッ素化されたアルカリ金属は、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウムが挙げられる。前記フッ素化されたアルカリ土類金属は、例えば、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウムが挙げられる。前記フッ素化された遷移金属は、アルミニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、アンチモン、タンタルおよびタングステンからなる群より選ばれる金属を少なくとも一種含む、部分フッ素化物または全フッ素化物が好ましい。
【0035】
前記触媒は、担体に担持されていてもよいし、非担持であってもよい。
【0036】
本接触において、1223zaを効率的にフッ素化できることから、前記フッ素化剤と前記触媒は併用することが好ましい。フッ化水素と前記金属のハロゲン化物とを前記接触に供することが特に好ましく、無水フッ化水素と前記金属のフッ化物とを前記接触に供することがさらに好ましい。
【0037】
(溶媒)
本接触は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチルニトリル等のニトリル類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート等のグリコール類等を用いることができる。溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
(充填材)
本接触は、充填材の存在下で行ってもよい。充填材としては、活性炭、ラシヒリング等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
(接触方式)
本接触は、液相で行ってもよいし、気相で行ってもよい。前記1223xd(Z)と1223zaを含む組成物や前記フッ素化剤、前記触媒は、前記溶媒を用いて溶液として、本接触に供してもよい。また、本接触に際し、前記1223xd(Z)と1223zaを含む組成物、前記フッ素化剤、前記触媒、の少なくとも一つをあらかじめ接触系に供してもよい。前記溶媒、前記充填材についても同様に、あらかじめ接触系に供してもよい。また、前記1223xd(Z)と1223zaを含む組成物、前記フッ素化剤、前記触媒、前記溶媒の使用量は特に限定されない。一実施形態において、前記フッ素化剤の使用量は、該組成物に含まれる1223zaに対して過剰量とすることが好ましいが、これに限定されない。例えば、前記フッ素化剤は1223za1モルに対して0.1~100モル用いてもよい。
【0040】
本接触における圧力は特に限定されず、常圧または加圧条件下で行うことができる。例えば、大気圧~5MPa(絶対圧基準。以下同じ)、あるいは、大気圧~2.0MPaで行うことができる。
【0041】
本接触における温度は特に限定されないが、本接触は、前記1223xd(Z)と1223zaを含む組成物と前記フッ素化剤が、液液状態、気液状態、あるいは気気状態で行うことが好ましい。前記フッ素化剤が固体の場合、気固状態で行うこともできる。圧力にもよるが、例えば、-20℃~+400℃、好ましくは10℃~300℃で行うことができる。
【0042】
本接触は、連続式、半連続式またはバッチ式で行うことができる。 また、本接触を行う際の接触系や原料供給系の容器や配管の材質は特に制限はない。例えば、ステンレス、ガラス、フッ素樹脂からなるものや、ガラス、フッ素樹脂によりライニングされた材料等からなる容器や配管を使用することができる。フッ化水素との接触を伴う部分においては、ステンレス、フッ素樹脂からなるものや、フッ素樹脂によりライニングされた材料等からなる部材の使用が好ましい。
【0043】
本接触により、1223za含有量を低減した1223xd(Z)を得ることができる。この1223xd(Z)は精製してさらに高純度の1223xd(Z)とすることができる。精製操作は特に限定されず、例えば、水洗浄、蒸留操作、乾燥等を行って1223xd(Z)を精製することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本開示について実施例及び比較例によって説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例において、組成分析値の「%」はガスクロマトグラフィー(装置:GC-2010Plus(島津製作所)、検出器:FID)によって測定して得られた組成の面積%を表す。
【0045】
1.液相反応
[実施例1-1]
マグネット攪拌子を備えた、100ml-SUS316製耐圧オートクレーブに、1、1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223za)が1.1470面積%存在する1、2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1223xd)を30g、フッ化水素30gを仕込み、オイルバスで160℃に加熱、17時間攪拌を行った。得られた粗体を水洗浄し、28gの有機物を回収した。ガスクロマトグラフィーで解析をしたところ、1、1-ジクロロ-3、3、3-トリフルオロプロペン(1223za)が約0.100面積%、1、2-ジクロロ-3、3,3-トリフルオロプロペン(1223xd)98.1780面積%、1,1-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン(以下、「HCFC-234fb」あるいは「234fb」とも記す)1.140面積%の組成であり、実質1223zaを92%で転化した。
【0046】
2.気相反応
[触媒調製例1](触媒1:フッ素化されたクロム/アルミナ)
日本化学産業製の40%塩化クロム水溶液300gに水300gを加えて20%塩化クロム水溶液にした。次いで、あらかじめ気相においてフッ素化したγ-アルミナ500gを前記20%塩化クロム水溶液に浸漬した。一晩浸漬した後、ブフナー漏斗で液切りした後に、表面が乾くまで風乾し、ロータリーエバポレーターに移して減圧乾燥を行った。調製した触媒を、電気炉を備えた内径2.7cm、長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に150mL充填した。窒素ガスを流しながら200℃まで昇温し、目視で水の流出がなくなった時点まで乾燥させた。次いで、窒素ガスにフッ化水素を同伴させ、その濃度を徐々に高めた。充填された触媒のホットスポットが反応器出口端に達したところで反応器温度を300℃まで昇温し発熱がないことを確認して、その状態を30分保った。その後さらに350℃まで昇温し、1時間以上その状態を保ち触媒調製を終了した。以下、この調製した触媒を「触媒1」とも記す。
【0047】
[触媒調製例2](触媒2:フッ素化されたアルミナ)
電気炉を備えた内径2.7cm、長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に粒状γ-アルミナ150mL充填した。次いで、窒素ガスを流しながら200℃まで昇温し、目視で水の流出がなくなった時点まで乾燥させた。次いで、窒素ガスにフッ化水素を同伴させ、その濃度を徐々に高めた。充填された触媒のホットスポットが反応器出口端に達したところで反応器温度を300℃まで昇温し発熱がないことを確認して、その状態を30分保った。その後さらに350℃まで昇温し、1時間以上その状態を保ち触媒調製を終了した。以下、この調製した触媒を「触媒2」とも記す。
【0048】
[触媒調製例3](触媒3:フッ素化されたクロム/活性炭)
日本化学産業製の40%塩化クロム水溶液100gに水100gを加えて20%塩化クロム水溶液にした。次いで、粒状活性炭(大阪ガスケミカル社製、粒状白鷺G2X)170gを先に調製した溶液に浸漬した。一晩浸漬した後、ブフナー漏斗で液切りした後に、表面が乾くまで風乾し、熱風循環式乾燥器で一晩乾燥させた。調製した活性炭を、電気炉を備えた内径2.7cm、長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に150mL充填し、窒素ガスを流しながら200℃まで昇温し、目視で水の流出がなくなった時点まで乾燥させた。次いで、窒素ガスにフッ化水素を同伴させ、その濃度を徐々に高めた。さらに徐々に昇温していき、300℃まで昇温し、1時間以上その状態を保ち触媒調製を終了した。以下、この調製した触媒を「触媒3」とも記す。
【0049】
[実施例2-1] (触媒1)
触媒1を、電気炉を備えた内径2.7cm、長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に150mL充填した。窒素を100mL/minの流量で流しながら、200℃まで昇温した。反応管の温度が200℃に達し、温度が安定したところでフッ化水素を0.06g/min、1223zaを約1%含む1223xd原料を0.62g/minの流量で反応管に供し(フッ化水素/1223zaモル比=86.0、接触時間:約58秒)、流量が安定したところで窒素の供給を停止した。
供給開始2時間後に反応が安定したため、そこから20分間にわたって反応管から流出する生成ガスを水トラップに吹き込み反応液を捕集した。この反応液を二相分離し、有機相を得た。この得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは0.31%まで減少しており、高次フッ素化体であるHCFC-234fb(0.02%)、HCFC-235fa(0.22%)、HFC-236fa(0.11%)へと転化した。このときの1223zaの転化率は69.2%であった。詳細な結果は表2に示す。
【0050】
[実施例2-2] (触媒1)
反応温度を225℃、フッ化水素を0.10g/min、1223xd原料を1.04g/minの流量で反応管に供した(フッ化水素/1223zaモル比=77.7、接触時間:約36秒)こと以外は、実施例2-2と同様の操作を行った。
得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは検出されず、転化率は100%となり、高次フッ素化体であるHCFC-234fb(微小量)、HFC-236fa(0.80%)へと転化した。詳細な結果は表2に示す。
【0051】
[実施例2-3] (触媒1)
反応温度を225℃、フッ化水素を導入せず、1223xd原料を1.01g/minの流量で反応管に供した(フッ化水素/1223zaモル比=0、接触時間:約66秒)こと以外は、実施例2-1と同様の操作を行った。
得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは0.52%まで減少しており、高次フッ素化体であるHCFC-234fb(微小量)、HFC-236fa(0.36%)へと転化した。このときの1223zaの転化率は48.1%であった。詳細な結果は表2に示す。
【0052】
[実施例2-4] (触媒2)
触媒1の代わりに触媒2を用いたこと、反応温度を300℃、反応圧力を0.1MPaGに保ち、フッ化水素を0.04g/min、1223xd原料を0.40g/minの流量で反応管に供した(フッ化水素/1223zaモル比=56.0、接触時間:約92秒)こと以外は、実施例2-1と同様の操作を行った。
得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは0.01%未満まで減少しており、高次フッ素化体であるHCFC-234fb(微小量)、HCFC-235fa(微小量)、HFC-236fa(1.33%)へと転化した。このときの1223zaの転化率は99.6%であった。詳細な結果は表2に示す。
【0053】
[実施例2-5] (充填材:活性炭)
触媒1の代わりに予め乾燥させておいた粒状活性炭(白鷺G2X:大阪ガスケミカル社製)150mLを用いたこと、フッ化水素を0.05g/min、1223xd原料を1.05g/minの流量で反応管に供した(フッ化水素/1223zaモル比=40.1、接触時間:約45秒)こと以外は、実施例2-1と同様の操作を行った。
得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは0.98%に減少した。このときの1223zaの転化率は2.0%であった。詳細な結果は表2に示す。
【0054】
[実施例2-6] (触媒3)
触媒1の代わりに触媒3を用いたこと、反応温度を250℃、フッ化水素を0.02g/min、1223xd原料を0.59g/minの流量で反応管に供した(フッ化水素/1223zaモル比=24.1、接触時間:約89秒)以外は、実施例2-1と同様の操作を行った。
得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは0.01%未満まで減少しており、高次フッ素化体であるHCFC-234fb(微小量)、HFC-236fa(1.25%)へと転化した。このときの1223zaの転化率は99.7%であった。詳細な結果は表2に示す。
【0055】
実施例2-1乃至2-6の反応条件をまとめたものを表1に示し、それぞれ得られた反応粗体のガスクロマトグラフィー分析結果を表2に示す。
【表1】
【0056】
【0057】
表2に示されるとおり、フッ素化剤、触媒あるいは両方との接触により、1223zaが1223xd(Z)よりも優先的に反応していることがわかる。特に、フッ素化剤と触媒とを併用すると、1223zaの変換率が高いことがわかる。これにより、1223xd(Z)と1223zaを含む組成物から、1223zaの含有量を低減した高純度1223xd(Z)を製造することができる。得られた反応粗体は、精製してさらに高純度の1223xd(Z)を得ることができる。
【0058】
[実施例2-7] (1223za約10%含有1223xd原料)
反応温度を250℃、フッ化水素を0.08g/min、1223zaを約10.4%含む1223xd原料を0.34g/minの流量で反応管に供した(フッ化水素/1223zaモル比=19.6、接触時間:約64秒)こと以外は、実施例2-1と同様の操作を行った。
得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは検出されず、1223za転化率は100%であり、高次フッ素化体であるHCFC-234fb(微少量)、HCFC-235fa(微少量)、HCFC-236fa(9.53%)へと転化した。また、1223xd(Z)転化率は5.3%であった。
この結果から、実施例2-1と比較して1223zaの含有量が多い1223xd(Z)原料を用いた場合であっても、高純度の1223xd(Z)を得られることがわかる。
【0059】
[実施例2-8] (233da含有1223xd(Z)原料使用)
反応温度を250℃、フッ化水素を0.03g/min、1223zaを約1.4%含み、HCFC-233daを約4.7%含む1223xd原料を0.84g/minの流量で反応管に供した(フッ化水素/1223zaモル比=21.5、接触時間約60秒)こと以外は、実施例2-1と同様の操作を行った。
得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーで分析した結果、1223zaは検出されず、転化率は100%となり、高次フッ素化体であるHCFC-236fa(1.22%)へと転化した。また、233daは1223xdへと転化した。
この結果から、HCFC-233daを含む1223xd(Z)原料を用いた場合であっても、高純度の1223xd(Z)を得られることがわかる。