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特許7502630車両衝突試験装置、車両衝突試験方法、および車両衝突試験のパラメータ設定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】車両衝突試験装置、車両衝突試験方法、および車両衝突試験のパラメータ設定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/08 20060101AFI20240612BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
G01M7/08 A
G01M17/007 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020152560
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022046918
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】池戸 一祥
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-069651(JP,A)
【文献】特開平05-346375(JP,A)
【文献】特開2001-108572(JP,A)
【文献】特開平08-068719(JP,A)
【文献】特開平01-165925(JP,A)
【文献】特開平08-145838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00-7/08
G01M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する駆動源と、車両を牽引する牽引手段と、前記駆動源を駆動制御する駆動制御手段とを有し、この駆動制御手段を通じて前記車両を設定速度に加速した後、前記牽引手段から車両を切り離し、対象物に衝突させる車両衝突試験において、
前記駆動制御手段は、加速開始時に第1の丸み時間をかけて加速度を0から所定加速度に比例的に増加させ、加速中盤で所定時間のあいだ加速度を一定に保ち、加速終了時に第2の丸み時間をかけて加速度を所定加速度から0に比例的に減少させる制御を行うものであり、試験条件として必要な加速度と走行距離を設定するとともに、加速開始時の第1の丸み時間と加速終了時の第2の丸み時間を異なる値に設定したことを特徴とする、車両衝突試験装置。
【請求項2】
車両を設定速度に加速した後、牽引手段から車両を切り離し、対象物に衝突させる車両衝突試験において、
加速開始時に第1の丸み時間をかけて加速度を0から所定加速度に比例的に増加させ、加速中盤で所定時間のあいだ加速度を一定に保ち、加速終了時に第2の丸み時間をかけて加速度を所定加速度から0に比例的に減少させる制御を前提とし、試験条件として必要な加速度と走行距離を設定するとともに、加速開始時の第1の丸み時間又は加速終了時の第2の丸み時間の何れか一方を長くし、何れか他方の丸み時間を短くして車両を加速制御することを特徴とする、車両衝突試験方法。
【請求項3】
コンピュータに読み込まれることによって車両衝突試験装置のパラメータを設定するプログラムであって、
車両衝突試験装置は、車両の加速を開始後、所要の到達速度、所要の走行距離で切り離し、対象物に衝突させるにあたり、加速開始時に第1の丸み時間を掛けて加速度を0から比例的に増加させて所定加速度に到達し、加速中盤を所定時間のあいだ前記所定加速度に保ち、加速終了時を第2の丸み時間を掛けて加速度を所定加速度から比例的に減少させて0にする制御を行うものであり、
第1の丸み時間と第2の丸み時間を略同じ値とし、加速度、走行距離を試験条件として入力して計算したときの丸み時間に対して、第1の丸み時間又は第2の丸み時間の何れか一方にゲイン係数を乗じ、何れか他方の丸み時間を再計算する、ことを特徴とする、車両衝突試験のパラメータ設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突試験中の車両の挙動を安定させることが可能な、車両衝突試験装置、車両衝突試験方法、および車両衝突試験のパラメータ設定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車メーカーにおいては、車両(自動車等)の衝突事故を想定し、車両を実際に衝突させて車体の強度及び衝突の影響を評価する試験(衝突試験)が行われている。この種の車両衝突試験装置の一例として、例えば特許文献1に示すものが挙げられる。
【0003】
この車両衝突試験装置は、図7に示されるように、車両1を走行させる走行路2と、駆動力を発生する駆動源3と、走行路2に対応して備えられ、車両1を連結及び解放でき、連結時には駆動源3から伝達された駆動力により車両1を牽引する牽引手段4と、牽引手段4から解放された車両1を衝突させる対象物5と、リターンシーブ33aとを備える。駆動源3は駆動モータ31、変速機32、ドラム33、回転数検出器34を備えて速度制御可能に構成される。車両1には実際の車両のほかダミーの車両が含まれる。牽引手段4は、ドーリー41と、車両1とドーリー41を連結する連結用ワイヤ42と、ワイヤロープ43を備える。そして、コントローラ6は、駆動源3及び牽引手段4を制御することで、牽引手段4が牽引する車両1を設定条件で走行させ、設定速度Vに達した後に牽引手段4から車両1を解放して対象物5に衝突させることで試験を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5846480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、衝突試験の評価を正確に行うためには、車両1の速度が設定条件に一致していることが重要である。つまり、車両1は、スタート地点から設定条件で牽引走行されて限られた走行距離Lで設定速度Vに達し、速度が安定した状態(加速度が0で、加速や減速のない均衡した速度となった状態)で連結用ワイヤ42から切り離されて対象物5に衝突することが、正確な試験結果を得るために望ましい。このため、コントローラ6は、図8(a)に示すような車速線図、図8(b)に示すような加速度線図に基づいて、駆動制御を実行している。なお、切り離し後の車両1は空走状態となるため、走行路2の路面抵抗等により車両1は減速する。このため、切り離し時の設定速度Vは、空走状態での減速を見込んで、衝突速度よりも高目に設定されている。
【0006】
加えて、従来、車両衝突試験装置の衝突速度まで加速牽引する際には、牽引中における車両1の挙動を安定させるため、実質的な加速期間T1≦T≦T2の前後にける、牽引の加速開始区画0≦T≦T1および加速終了区画T2≦T≦T3において、同じ量の丸み時間Δtを持たせている。丸み時間は、急激な加減速を避けるために不可欠なものである。
【0007】
しかし、牽引する車両1の重量が大きい場合や設定速度Vに到達するまでの加速度αが大きい場合などにおいて、牽引の加速開始時や加速終了時における車両に、図9(a)に示すような左右・前後ピッチの挙動変動、図9(b)に示すような車両の速度整定不安定(速度オーバー・アンダーシュートの発生)、或いは車両(ダミー)のズレ、などが発生する場合がある。この様な状況が発生した場合、牽引の加速開始時と加速終了時の丸み時間Δtを引き延ばすことで加速度の丸みを長く(加速度の変化量を少なく)変更して対応している場合がある。
【0008】
しかし、加速開始時と加速終了時の丸み時間Δtを長くするためには、設定速度に到達するまでに必要な加速距離や加速度の変更が必要となる。しかしながら、このようにすると、装置レーン長の制約による加速距離の不足や、衝突試験を実施する者が牽引したい加速度で設定速度への到達が不可能となる等の制約が発生する事があり、新たな問題となる。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、衝突試験を実施する者が牽引したい条件を変更することなく、加速開始時や加速終了時の加速度の丸みを調整することで、問題の解決を図ろうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0011】
すなわち、本発明に係る車両衝突試験装置は、車両を駆動する駆動源と、車両を牽引する牽引手段と、前記駆動源を駆動制御する駆動制御手段とを有し、この駆動制御手段を通じて前記車両を設定速度に加速した後、前記牽引手段から車両を切り離し、対象物に衝突させる車両衝突試験において、前記駆動制御手段は、加速開始時に第1の丸み時間をかけて加速度を0から所定加速度に比例的に増加させ、加速中盤で所定時間のあいだ加速度を一定に保ち、加速終了時に第2の丸み時間をかけて加速度を所定加速度から0に比例的に減少させる制御を行うものであり、試験条件として必要な加速度と走行距離を設定するとともに、加速開始時の第1の丸み時間と加速終了時の第2の丸み時間を異なる値に設定したことを特徴とする。
【0012】
このように、従来一律に扱っていた丸み時間を加速開始時と加速終了時に分けて取り扱えば、基本的な設定条件を変えることなく、加速開始時又は加速終了時のうち一方の丸みを優先的に変更し、他方を補完的に調整することができる。このため、衝突試験を実施する者が牽引したい条件である加速度や走行距離を変更することなく、牽引時の車両の左右・前後ピッチの挙動変動、車両の速度整定不安定(速度オーバー・アンダーシュートの発生)、車両(ダミー)のズレ、などを抑制する事が可能となる。
【0014】
特に、加速開始時、加速中盤、加速終了時で加速度の推移を上記のように設定しているので、本装置における加速開始時と加速終了時の丸み時間の調整がし易くなる。
【0015】
また、本発明の車両衝突試験方法は、車両を設定速度に加速した後、牽引手段から車両を切り離し、対象物に衝突させる車両衝突試験において、加速開始時に第1の丸み時間をかけて加速度を0から所定加速度に比例的に増加させ、加速中盤で所定時間のあいだ加速度を一定に保ち、加速終了時に第2の丸み時間をかけて加速度を所定加速度から0に比例的に減少させる制御を前提とし、試験条件として必要な加速度と走行距離を設定するとともに、加速開始時の第1の丸み時間又は加速終了時の第2の丸み時間の何れか一方を長くし、何れか他方の丸み時間を短くして車両を加速制御することを特徴とする。
【0016】
このような方法によれば、装置構成のいかんによらず、上記車両衝突試験装置を用いた時と同じ効果を奏することができる。
【0018】
特に、加速開始時、加速中盤、加速終了時で加速度の推移を上記のように設定しているので、本方法においても丸み時間の調整がし易くなる。
【0019】
さらに、本発明に係る車両衝突試験のパラメータ設定プログラムは、コンピュータに読み込まれることによって車両衝突試験装置のパラメータを設定するプログラムであって、車両衝突試験装置は、車両の加速を開始後、所要の到達速度、所要の走行距離で切り離し、対象物に衝突させるにあたり、加速開始時に第1の丸み時間を掛けて加速度を0から比例的に増加させて所定加速度に到達し、加速中盤を所定時間のあいだ前記所定加速度に保ち、加速終了時を第2の丸み時間を掛けて加速度を所定加速度から比例的に減少させて0にする制御を行うものであり、第1の丸み時間と第2の丸み時間を略同じ値とし、加速度、走行距離を試験条件として入力して計算したときの丸み時間に対して、第1の丸み時間又は第2の丸み時間の何れか一方にゲイン係数を乗じ、何れか他方の丸み時間を再計算する、ことを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、オペレータが車両の挙動等に応じて、丸み時間の設定変更を簡単に行うことができ、これにより牽引の加速開始時や加速終了時での車両の左右・前後ピッチの挙動変動、車両の速度整定不安定(速度オーバー・アンダーシュートの発生)、車両(ダミー)のズレ、などを最適に抑制することが可能となる。
【0022】
特に、このようなゲイン係数を用いているので、車両の安定度等を観察しながらデフォルトの値からのズレの傾向が把握し易くなる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した本発明によれば、車両衝突試験装置の牽引中における車両の挙動を安定させることが可能な、新規有用な車両衝突試験装置、車両衝突試験方法、および車両衝突試験のパラメータ設定プログラムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る車両衝突試験装置の模式的な構成説明図。
図2】同実施形態の駆動制御手段であるコントローラの構成を示す図。
図3】同実施形態でコントローラの実行基準となる車速線図及び加速度線図。
図4】同実施形態における試験条件としてのパラメータを従来と比較した図。
図5】同実施形態における衝突試験プログラムの処理手順を示すフローチャート図。
図6】同実施形態におけるパラメータ設定プログラムの処理手順を示すフローチャート図。
図7】従来の車両衝突試験装置を示す図1に対応した図。
図8】同従来例の図3に対応した図。
図9】同従来例の不具合を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を、図1図6を参照して説明する。
【0026】
図1に示す車両衝突試験装置の基本構成は、図7に基づいて前述したと同様、車両1を走行させる走行路2と、駆動力を発生する駆動源3と、走行路2に対応して備えられ、車両1を連結及び解放でき、連結時には駆動源3から伝達された駆動力により車両1を牽引する牽引手段4と、牽引手段4から解放された車両1を衝突させる対象物5と、リターンシーブ33aとを備える。
【0027】
駆動源3は駆動モータ31、変速機32、ドラム33、回転数検出器34を備えて速度制御可能に構成される。車両1には実際の車両のほかダミーの車両が含まれる。牽引手段4は、ドーリー41と、車両1とドーリー41を連結する連結用ワイヤ42と、ワイヤロープ43を備える。コントローラ6は、駆動源3及び牽引手段4を制御することで、牽引手段4が牽引する車両1を設定条件で走行させ、設定速度Vに達した後に牽引手段4から車両1を解放して対象物5に衝突させて試験を行う。
【0028】
図は1模式的なもので、ワイヤロープ43は無端状であり、一端側に設けられた駆動ドラム33で駆動モータ31により駆動され、ワイヤロープ43は他端側に設けられたリターンシーブ33aで折り返してエンドレスに循環するタイプを示している。駆動モータ31としては試験条件として各種の速度や加速度で牽引するために可変速モータ(直流電動機やインバータモータなど)や加減速装置を備えた定速モータが使用される。
【0029】
勿論、図示しないが、一対の巻き取り/繰り出しドラムと折り返しのリターンシーブの間にワイヤロープを巻き掛けて、一方のドラムの駆動によってドーリーを介して車両の牽引、切り離しを行い、他方のドラムの駆動によってドーリーを基の位置に戻すように構成して、ドラムに駆動モータを接続し、コントローラで制御するようにしても構わない。
【0030】
ところで、図8に示したように、車両衝突試験装置によって車両1を所要の設定速度Vまで加速牽引する際に、牽引の加速開始時と加速終了時の加速度に同じ量の丸み時間Δtを持たせると、牽引の加速開始時や加速終了時に、図9に示したように、車両1の左右・前後ピッチの挙動変動、車両1の速度整定不安定(速度オーバー・アンダーシュートの発生)、ダミーのズレ、などが発生する不具合があった。そして、これを防止しようとして丸み時間Δtを長くすると、本来必要な走行距離Lや加速度α、到達速度Vが犠牲になるというジレンマがあった。
【0031】
そこで、本実施形態の車両衝突試験装置は、設定速度Vに到達するのに必要な加速度αと走行距離Lを設定する点は原則として変わらないが、図8に示したように加速開始時0≦T≦T1と加速終了時T1≦T≦T2に同じ丸み時間Δtを持たせるのではなく、図3に示すように加速開始時0≦T≦T1の丸み時間t1と、加速終了時T1≦T≦T2の丸み時間t3とに分けて、それぞれを異なる値に設定する構成を新たに採用する。この構成は、駆動源3を駆動制御する駆動制御手段であるコントローラ6に組み込まれる。
【0032】
コントローラ6は、図2に示すように、CPU61、メモリ62及びインターフェース63、操作部64を主体とするコンピュータ60のほか、所要のハードリソース資源を備えて構成されるもので、コンピュータ60のメモリ62には駆動モータ31を制御するプログラムや、各種のパラメータデータ等が記憶されている。一部のパラメータは、操作部64を通じてオペレータが条件設定値として与える。
【0033】
図3(a)は、図2のコントローラ6に実行させる速度線図であり、図3(b)は同加速度線図である。コントローラ6が衝突試験プログラムを起動すると、回転数検出器34から駆動モータ31の回転数nを検出し、駆動モータ31とドラム33との回転数比率、ドラム33のドラム径などから、回転数nに対応して車両1の速度vを算出する。
【0034】
一方、コントローラ6は、試験開始後の時間経過ごとに図3(a)に示す車速線図からから速度を読み出し、この読み出し速度と、上記の算出された速度vとを比較することにより駆動モータ31に供給する指令電流値を算出し、駆動モータ31に出力する。
【0035】
これにより、車速vが車速線図に沿って変化するように加速度がフィードバック制御される。勿論、加速度を図3(b)に示す加速度線図から読み取り、算出した速度vを微分することで加速度を算出して、これに基づいて駆動モータ31をフィードバック制御しても同じことである。精度が許容範囲内であれば、これらをオープン制御によって行っても構わない。
【0036】
衝突試験を実施する者は、試験環境や試験目的に照らして、図4に示すように、(1)最終到達速度である設定速度V[m/s]、(2)レーン長等から許容される加速時の走行距離L[m]、(3)実質的な加速度α[m/s]を希望するのが通例である。そして、加速開始と加速終了の丸み時間は通常は等しくデフォルト値Δtであった。しかし、例えば加速開始の車両1の挙動が不安定であるときは、図4に示すように、(1)、(2)、(3)の条件を変えず、(4)の丸み時間を(4-1)加速開始時の丸み時間t1と(4-2)加速終了時の丸み時間t3に分け、加速開始時の丸み時間t1を優先的に変化量が緩やかになるように設定する。
【0037】
上記(1)~(4-1)が決まると、上記(4-2)を始めとして種々のパラメータが自ずと定まる。以下具体的に説明する。
【0038】
一般に設定速度Vと走行距離Lから目標加速度αは、V/(2×L)として算出される。しかし、本実施形態では図3に示すように加速開始区画T1、加速終了区画T3で丸み制御が行われる関係上、実質的な加速区画T2で短時間に加速をほぼ完了する必要があり、下記の式(1)のように係数(12/10)を乗じて加速度を微増させている。
α={V/(2×L)}×12/10 …(1)
この係数(12/10)は、丸み制御をしない場合の加速度と比べて同視し得る範囲の調整となっている。
【0039】
設定加速度αが決まると、加速開始区画T1で加速度を0からαに向かって比例的に変化させる。このため、加速開始区画T1の速度変化量V1は、
V1=(α/2)×t1 [m/s] …(2)
加速開始丸み区画0≦T≦T1の移動量L1は、一般的な1/6公式から、
L1=(α/6)×t1 [m] …(3)
となる。
【0040】
次に、実質的な加速区画T1≦T≦T2に入ると、加速度を目標加速度に保つ。その間の速度変化量V2は、
V2=α×t2 [m/s] …(4)
その間の移動量L2は、
L2=V1×t2+(1/2)×α×t2 [m] …(5)
となる。
【0041】
加速終了区画T2≦T≦T3は加速度をαから0に向かって比例的に変化させる。加速終了丸み区画の速度変化量V3は、
V3=(α/2)×t3 [m/s] [m/s] …(6)
加速終了丸み期間の移動量L3は、一般的な1/6公式から、
L3=V×t3-(α/6)×t3 [m] …(7)
となる。
【0042】
到達速度Vは、V1、V2、V3の和すなわち、
V=V1+V2+V3 [m/s] …(8)
V2に(4)式、V3に(6)式を代入し、整理すると、
t2=(V-V1)/α-(1/2)×t3 [s] …(9)
【0043】
走行距離LはL1、L2、L3の和すなわち、
L=L1+L2+L3 [m] …(10)
【0044】
式(10)のL2に(5)式、L3に(7)式、t2に(9)式を代入し、整理すると、下記のx(=t3)に関する2次方程式が得られる。
ax+bx+c=0 …(11)
但し、
a=-1/12
b=(2/α)×(V-V1×(1/2))-(V-V1)/α
c=((V-V1)/α)-(2/α)×(L-L1-V1×(V-V1)/α)
【0045】
解を求めると、
x1=(-b+√(b-4ac))/2a
x2=(-b-√(b-4ac))/2a
となる。
【0046】
以上において、例えば、設定速度Vとして12.5m/s、走行距離Lとして90m、加速開始の丸み時間t1として3、84[s](ゲインKを使って、t1=2.4×Kとされている場合は、ゲインK=1.6)を与えると、以下の値が算出される。設定加速度αは、1.041667[m/s]である。
【0047】
V1=2 [m/s]
L1=2.56 [m]
V2=9.283605 [m/s]
L2=59.19348 [m]
V3=1.216395 [m/s]
L3=28.24652 [m]
【0048】
また、
a=-0.08333
b=12
c=-27.5712
x1=2.335478
x2=141.6645
【0049】
x1、x2のうちt3として相応しいのはx1である。よって、加速終了丸み時間t3として、
t3=2.335478 …(12)
が得られる。
【0050】
以上の設定に従い、コントローラ6は図5のフローチャートで示される衝突試験実行プログラムを実行する。
【0051】
先ず、試験開始とともに、第1のステップS1として加速開始の丸み制御を実行する。これは、図3に示した0≦T≦T1の区間である。本来、加速開始時と加速終了時の丸み時間がともに等しい場合、図8に示す丸み時間のデフォルト値Δtは2.4[s]、実質的な加速期間t2のデフォルト立上時間は14.4[s]である。これに対して、本実施形態の制御では、図3に示すように加速開始時の丸み時間t1を2.4[s]から3.84[s]に引き延ばし、その間に加速度を0から設定加速度α=1.041667[m/s]に比例的に増大する制御を行う。この間の図1の走行距離はL1=2.56[m]であり、この走行距離のあいだに車速は0からV1=2m/sに上昇させる。
【0052】
次に、図5のフローチャートの第2のステップS2として、図3に示す実質的な加速区間である中盤のT1≦T≦T2の制御が実行される。この区画に入ると、図3に示すデフォルト立上時間t2である14.4[s]のあいだに、加速度αを一定に維持して加速を続ける。この間の図1の走行距離はL2=59.19348[m]であり、このあいだに、車速をV2=9.283605[m/s]だけ上昇させる。
【0053】
さらに、図5のフローチャートの第3のステップS3として、加速終了時の丸み制御を実行する。これは図3におけるT2≦T≦T3の区画である。本来、加速開始時と加速終了時の丸み時間がともに等しい場合、デフォルト値Δtは2.4[s]であったが、演算の結果、本実施形態における加速終了時の丸み時間t3は2.335478[s]となり、この間に加速度を加速度α=1.041667m/sから0に比例的に減少する制御を行う。この間の図1の走行距離はL3=28.24652[m]であり、この走行距離あいだに、車速をV3=1.216395[m/s]だけ上昇させる。
【0054】
以上により、L(=L1+L2+L3)=90m走行したところで、車速は設定速度V(=V1+V2+V3)=12.5[m/s]に到達して、車両1は所定の切り離し位置で牽引手段4から切り離され、その後車両1は、空走して対象物5に衝突する。
【0055】
なお、このコントローラ6のメモリ62には、衝突試験実行プログラムのほかに、図6に示すパラメータ設定プログラムが備わっている。このパラメータ設定プログラムは、パラメータとして図4の右図における(1)~(3)及び(4-1)の入力を受け付け(ステップS11)、t3を算出して(ステップS12)、t3の再計算の必要がなければ終了する(ステップS13)。再計算の必要があるときは、ゲイン係数Kを変更することで(ステップS14)、t3を再計算する(ステップS12)。t3の計算結果は、衝突試験実行プログラムに取り込まれる。
【0056】
これによって、本実施形態では加速開始時の丸み時間が引き延ばされ、加速が緩やかとなって、図9に示していた車両1の前後・左右の挙動変動や速度整定不安定(オーバーシュート・アンダーシュート)等の改善を図ることができる。
【0057】
以上のように、本実施形態の車両衝突試験装置は、車両1を駆動する駆動源3と、車両1を牽引する牽引手段4と、駆動源3を駆動制御する駆動制御手段たるコントローラ6とを有し、このコントローラ6を通じて車両1を設定速度Vに加速した後、牽引手段4から車両1を切り離し、対象物5に衝突させる装置である。そして、コントローラ6は、加速開始時と加速終了時に丸み時間を持たせた制御を行うにあたり、試験条件として必要な加速度Vと走行距離Lを設定するとともに、加速開始時の丸み時間と加速終了時の丸み時間を異なる値t1、t3に設定している。
【0058】
このように、従来一律に扱っていた丸み時間を加速開始時と加速終了時に分けて取り扱えば、基本的な試験条件を変えることなく、加速開始時又は加速終了時のうち一方の丸みを優先的に変更し、他方を補完的に調整することができる。このため、衝突試験を実施する者が牽引したい条件である加速度αや走行距離Lを変更することなく、牽引の加速開始時の車両1の左右・前後ピッチの挙動変動、車両1の速度整定不安定(速度オーバー・アンダーシュートの発生)、車両(ダミー)のズレ、などを抑制する事が可能となる。
【0059】
特にコントローラ6は、加速開始時に第1の丸み時間t1をかけて加速度を0から設定加速度αに比例的に増加させ、加速中盤で所定時間t2のあいだ加速度αを一定に保ち、加速終了時に第2の丸み時間52をかけて加速度を設定加速度αから0に比例的に減少させる制御を行うように構成されている。
【0060】
このように、加速開始時、加速中盤、加速終了時で加速度の推移を上記のように設定することで、本装置における加速開始時と加速終了時の丸み時間の調整を簡単、適切に行うことができる。
【0061】
また、本実施形態の車両衝突試験方法は、車両1を設定速度Vに加速した後、牽引手段4から車両1を切り離し、対象物5に衝突させる方法において、試験条件として必要な加速度αと走行距離Lを設定するとともに、加速開始時の丸み時間と加速終了時の丸み時間をt1、t3と異ならせて車両1を加速制御する。
【0062】
このような方法によれば、装置構成のいかんによらず、上記車両衝突試験装置と同様の効果を奏することができる。
【0063】
特にこの実施形態の方法は、加速開始時に第1の丸み時間t1をかけて加速度を0から設定加速度αに比例的に増加させ、加速中盤で所定時間t2のあいだ加速度αを一定に保ち、加速終了時に第2の丸み時間t3をかけて加速度を設定加速度αから0に比例的に減少させる制御を前提とし、第1の丸み時間t1を長くし、第2の丸み時間t3を短くするようにしている。
【0064】
このように、加速開始時、加速中盤、加速終了時で加速度の推移を上記のように設定することで、本方法においても加速開始時と加速終了時の丸み時間の調整を簡単、適切に行うことができる。
【0065】
また、本実施形態の車両衝突試験におけるパラメータ設定プログラムは、コンピュータ60に読み込まれることによって車両衝突試験装置のパラメータを設定するプログラムであって、車両1の加速を開始後、所要の到達速度、所要の走行距離で切り離し、対象物5に衝突させる制御において、加速開始時と加速終了時に丸み時間を持たせるにあたり、入力値として、加速開始時の丸み時間t1と、設定速度V、加速度α、走行距離Lの条件を入力することで、パラメータの一つである加速終了時の丸み時間t3を算出する。
【0066】
このようにすれば、オペレータが車両1の挙動等に応じて、丸み時間の設定変更を簡単に行うことができ、これにより牽引の加速開始時や加速終了時での車両1の左右・前後ピッチの挙動変動、車両1の速度整定不安定(速度オーバー・アンダーシュートの発生)、車両(ダミー)のズレ、などを最適に抑制することが可能となる。
【0067】
特に本実施形態のプログラムは、加速開始時に第1の丸み時間t1を掛けて所定加速度に到達し、加速中盤を所定時間t2のあいだ前記所定加速度に保ち、加速終了時を第2の丸み時間t3を掛けて加速度0にする制御を前提とし、第1の丸み時間t1と第2の丸み時間t3を略同じ値として計算したときの丸み時間Δtに対して、第1の丸み時間又は第2の丸み時間の何れか一方にゲイン係数Kを乗じ、何れか他方の丸み時間を再計算するように構成されている。
【0068】
このようなゲイン係数Kを用いれば、車両1の安定度等を観察しながら丸み時間のデフォルト値からのズレの傾向が把握し易くなる。
【0069】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0070】
例えば、前記実施形態では、牽引の加速開始時の加速度の変化量を緩やかにする事としたが、牽引の加速終了時の加速度の変化量を緩やかにすべく、加速終了時の丸み時間t3をデフォルト値よりも大きくなるように直接又はゲイン係数を介して設定し、加速開始時の丸み時間t1を演算によって求めてもよい。この場合は、加速終了時での車両の左右・前後ピッチの挙動変動、車両の速度整定不安定(速度オーバー・アンダーシュートの発生)、ダミーのズレを抑制する効果を得られる。
【0071】
さらには、加速開始時の丸み時間のゲイン設定は、外部設定による可変化の設定態様でもよい。
【0072】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…車両
3…駆動源
4…牽引手段
5…対象物
6…駆動制御手段(コントローラ)
60…コンピュータ
K…ゲイン係数
L…走行距離
t1…加速開始丸み時間(第1の丸み時間)
t3…加速終了丸み時間(第2の丸み時間)
V…設定速度
α…設定加速度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9