(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】通信装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
B63B 49/00 20060101AFI20240612BHJP
B63C 9/20 20060101ALI20240612BHJP
H04B 1/40 20150101ALI20240612BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
B63C9/20 A
H04B1/40
(21)【出願番号】P 2020191114
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】関山 良男
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特許第4203038(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第111641019(CN,A)
【文献】特表2009-535888(JP,A)
【文献】中国実用新案第207530812(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0201348(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/00-85/00
B63C 1/00-15/00
B63G 1/00-13/02
G08G 1/00-99/00
H04B 1/00-17/40
H04Q 1/00-11/08
H04W 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種の情報を表示する表示部と、
AIS(Automatic Identification System)に関するAIS情報を受信するAIS受信部と、
通信装置の周辺に存在する船舶についての前記AIS情報に基づいて、前記船舶を特定する特定情報を前記通信装置に近い順に並べて成る近接順リストを作成するリスト作成部と、
前記通信装置が水没したことを検出する水没検出部と、
前記通信装置の水没が検出されると、前記近接順リストを表示させる
とともに、前記近接順リストの最上位の前記特定情報を選択状態とするように前記表示部を制御する表示制御部と、
送信指示を受けることにより、選択された前記特定情報によって特定される前記船舶を呼び出す呼出信号を生成する呼出信号生成部と、
前記呼出信号を送信する無線送信部と、を備えている、通信装置。
【請求項2】
DSC(Digital Selective Calling)信号を受信するDSC受信部をさらに備える、請求項
1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記AIS受信部、および、DSCを受信するDSC受信部と別個に設けられ、無線信号を受信する無線受信部をさらに備え、
前記無線受信部は、前記呼出信号を受信した前記船舶の通信装置からの応答信号を受信する、請求項
1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記通信装置は携帯型である、請求項1から
3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
各種の情報を表示する表示部と、AISに関するAIS情報を受信するAIS受信部と、通信装置が水没したことを検出する水没検出部と、を備える携帯型の通信装置が、
前記通信装置の周辺に存在する船舶についての前記AIS情報に基づいて、前記船舶を特定する特定情報を前記通信装置に近い順に並べて成る近接順リストを作成すること、
前記通信装置の水没が検出されると、前記近接順リストを表示させる
とともに、前記近接順リストの最上位の前記特定情報を選択状態とするように前記表示部を制御すること、
送信指示を受けることにより、選択された前記特定情報によって特定される前記船舶を呼び出す呼出信号を生成すること、
前記呼出信号を送信すること、
を含む通信装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、特に船舶通信用の通信装置、およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶無線通信では、DSC(Digital Selective Calling)機能を備えた通信装置を用いて緊急事態を報知する情報を自船の周辺を航行する他船に伝達することが行われている。また、他船に上記の情報を伝達するために、AIS(Automatic Identification System)機能を備えた通信装置によって他船の情報を取得することも行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、AIS機能によって取得した他船の情報に基づいて、他船への接近可能性が高い順序で他船の情報要素を配列し、各情報要素に他船を呼び出すための呼び出しキーを対応付けて表示する装置が開示されている。この対応付けに基づいて呼び出しキーを操作することにより、操作された呼び出しキーに対応する情報要素についての他船が呼び出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自船の乗務員が落水した場合、DSC機能の1つとして設けられているディストレスキーを操作することによって遭難信号を送信して、落水を付近の船舶局および海岸局に通知することが可能である。しかしながら、遭難信号が特定の他船を指定することなく送信されることから、遭難信号が自船の近くに存在する他船に受信されなければ、当該他船に救助を要請することができない。
【0006】
また、特許文献1には、乗員の落水時に、各情報要素に他船を呼び出すための呼び出しキーを対応付けて表示することについては開示されていない。このため、乗員の落水時に他船を容易に呼び出すことができない。
【0007】
本発明の一態様は、ユーザの自船からの落水時に他船を容易に呼び出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る通信装置は、各種の情報を表示する表示部と、AISに関するAIS情報を受信するAIS受信部と、通信装置の周辺に存在する船舶についての前記AIS情報に基づいて、前記船舶を特定する特定情報を前記通信装置に近い順に並べて成る近接順リストを作成するリスト作成部と、前記通信装置が水没したことを検出する水没検出部と、前記通信装置の水没が検出されると、前記近接順リストを表示させるように前記表示部を制御する表示制御部と、を備えている。
【0009】
また、本発明の一態様に係る通信装置の制御方法は、各種の情報を表示する表示部と、AISに関するAIS情報を受信するAIS受信部と、通信装置が水没したことを検出する水没検出部と、を備える通信装置が、前記通信装置の周辺に存在する船舶についての前記AIS情報に基づいて、前記船舶を特定する特定情報を前記通信装置に近い順に並べて成る近接順リストを作成すること、前記通信装置の水没が検出されると、前記近接順リストを表示させるように前記表示部を制御すること、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る通信装置などによれば、ユーザの自船からの落水時に他船を容易に呼び出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る通信装置の要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】上記通信装置の表示部に表示される、AISに関する情報を表示する画面の例を示す図である。
【
図3】上記通信装置が水没したときに他船を呼び出す処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
【0013】
(通信装置1の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る通信装置1の要部の構成を示すブロック図である。通信装置1は、船舶通信用のハンドヘルド式(携帯型)であり、自船(船舶)の乗務員であるユーザに携帯される。
【0014】
通信装置1は、国際VHF(Very High Frequency)のような海上無線システムで通信を行う海上無線通信機能を有する他、AIS(Automatic Identification System)機能およびDSC(Digital Selective Calling)機能を有する。AIS機能は、自船と、自船の周辺に存在する他船との間で、それぞれの情報を相互に取得する機能である。DSC機能は、デジタル通信による自動呼出機能であって、海上無線通信機能に付加される。
【0015】
ここで、海上無線通信とは、陸上の無線局と船舶局等の海上を移動する無線局との間の無線通信および船舶局等の海上を移動する無線局同士の無線通信のうち、AISおよびDSCを除くものを対象とする。また、本実施形態では、国際VHF以外の海上無線システムが適用されてもよい。
【0016】
図1に示すように、通信装置1は、制御部2、アンテナ3、送受信切替部4、操作部5、海上無線受信部6(無線受信部)、海上無線送信部7(無線送信部)、DSC受信部8、AIS受信部9、記憶部10、表示部11および水没検出部12を備える。また、通信装置1は、音声の入力を受け付けるマイク、音声を出力するスピーカ、GPS(Global Positioning System)機能などの、船舶用の通信装置が通常備える構成要素を有しているが、それらの図示を省略している。
【0017】
制御部2は、通信装置1の各部の動作を制御する。制御部2は、ユーザの操作部5への操作に基づいて、例えば通信装置1による外部との通信を制御する。また、制御部2は、通信装置1が水没したときに、通信装置1に最も近い他の船舶(他船)を呼び出す呼出機能を有している。呼出機能については後述する。
【0018】
送受信切替部4は、操作部5に設けられた後述するPTT(Push To Talk)スイッチ51の操作時に、海上無線送信部7から出力される、例えば国際VHFバンドの送信信号をアンテナ3に出力する。また、送受信切替部4は、PTTスイッチ51の非操作時に、アンテナ3によって受信される、例えば国際VHFバンドの受信信号を出力する。送受信切替部4から出力される受信信号は、図示しない分波器によって、海上無線受信部6によって処理される受信信号と、DSC受信部8およびAIS受信部9によって処理される受信信号とに分波される。
【0019】
操作部5は、通信装置1に対するユーザの操作を受け付ける。操作部5は、PTTスイッチ51、操作キー52、ディストレスキー53などを含む。PTTスイッチ51は、通信装置1から送信信号を送信するための操作を受け付けるスイッチである。操作キー52は、表示部11に表示される画面上で行われた各種の設定、操作などを決定するための操作を受け付けるキーである。
【0020】
ディストレスキー53は、DSC機能の1つとして、遭難信号を送信するための操作を受け付けるキーである。ディストレスキー53としては、押圧されているときのみオンする自動復帰型のプッシュスイッチが用いられる。ディストレスキー53には、誤って操作されることにより遭難信号が送信されないように、図示しないスイッチカバーが設けられている。また、ディストレスキー53またはスイッチカバーは赤色に彩色されている。
【0021】
遭難信号は、通信装置1(自局)の識別情報であるMMSI(Marine Mobile Service Identity)番号、自局の位置情報、時刻情報、遭難の種類を含む。遭難の種類には、火災・爆発、浸水、衝突、座礁、転覆、沈没、操船不能/漂流、海賊の攻撃、船体の放棄、落水(MOB:Man Overboard)、その他の遭難の11種類がある。遭難信号は、ディストレスキー53が所定操作時間(例えば3秒)継続して操作し続けないと送信されない。
【0022】
海上無線受信部6は、例えば、国際VHFバンドの無線信号を復調することにより音声信号を復元して図示しないスピーカに出力する受信回路である。海上無線送信部7は、図示しないマイクから出力された音声信号を変調することにより、例えば、国際VHFバンドの無線信号を生成する送信回路である。
【0023】
DSC受信部8は、FSK(Frequency Shift Keying)変調されたDSC信号を復調することにより、DSC情報を復元する受信回路である。DSC受信部8は、海上無線受信部6とは別個に設けられる。DSC受信部8には、受信信号として、呼出信号、遭難信号などが入力される。
【0024】
AIS受信部9は、GMSK(Gaussian filtered MSK)変調されたAIS信号を復調することによりAIS情報を復元する受信回路である。AIS受信部9は、海上無線受信部6およびDSC受信部8とは別個に設けられる。AIS情報は、船舶が安全に航行するためのAISに関する情報であり、船舶同士、または船舶と基地局との間で周期的に授受される船舶についての情報である。AIS受信部9によって得られるAIS情報は、他船に関する情報であり、MMSI番号、船名、位置、針路、速力、目的地などが挙げられる。
【0025】
なお、図示はしないが、通信装置1は、自船に関するAIS信号を生成するAIS信号生成部と、当該AIS信号を送信するAIS送信部とを備えていてもよい。
【0026】
記憶部10は、通信装置1の制御に必要な情報を記憶するために設けられた記憶装置である。さらに、記憶部10は、他船についてのAIS情報を記憶している。なお、通信装置1が上述したAIS送信部およびAIS信号生成部を備える場合、記憶部10は、自船に関するAIS情報を記憶していてもよい。
【0027】
表示部11は、各種の情報を表示する表示装置である。表示部11には、通信のチャンネル番号、自局の位置・針路に関する情報、各種のアイコン、設定などの項目を選択するためのメニュー画面、AISに関するAIS情報を表示する画面などが表示される。表示部11は、例えば液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどのフラットディスプレイである。
【0028】
水没検出部12は、図示はしないが、通信装置1が水没したことを検出するための一対の電極と、一対の電極の短絡状態によって水没検出信号を出力する検出回路とを含む。一対の電極は、通信装置1の筐体における背面などに露出するように設けられている。検出回路は、一対の電極が短絡していない通常時に水没非検出信号(例えばローレベル)を出力する一方、通信装置1が水没したときに一対の電極が短絡することにより水没検出信号(例えばハイレベル)を出力する。
【0029】
ここで、表示部11に表示される上述のAIS情報を表示する画面について
図2を参照して説明する。
図2は、AISに関するAIS情報を表示する画面の例を示す図である。
図2に示すように、AIS情報を表示する画面としては、メイン画面101、およびターゲットリスト画面102が挙げられる。なお、AIS情報を表示する画面は、これらに限定されない。
【0030】
メイン画面101は、通信装置1を中心として、他船の位置(方位および距離)がプロットされたプロッタ部101aと、自船の動的情報を表示する情報表示部101bとを含む。自船の動的情報としては、対地速度、対地方位、緯度・経度、方位、距離、航路誤差などが挙げられる。自船の動的情報は、上述したGPS機能を用いて、制御部2によって一定周期ごとに取得される。
【0031】
ターゲットリスト画面102は、他船を特定する特定情報を、他船と通信装置1との距離が近い順に並べて成る近接順リスト102aを含む画面である。近接順リスト102aには、船名またはMMSI番号、通信装置1との距離(RNG:range)、および通信装置1に対する方位(BNG:bearing)を含む行が設けられている。近接順リスト102aにおいて船名またはMMSI番号は、ターゲット船を特定する特定情報として扱われる。近接順リスト102aには、AIS情報取得部22によってAIS情報が取得された全てのターゲット船の情報が含まれる。また、近接順リスト102aは、多数の他船についての特定情報を表示できるように、上下方向にスクロール表示することが可能である。
【0032】
続いて、
図1に戻り、制御部2について詳細に説明する。
【0033】
制御部2は、DSC情報表示制御部21、AIS情報取得部22、距離算出部23、リスト作成部24、表示制御部25、呼出信号生成部26、および遭難信号生成部27を含む。
【0034】
DSC情報表示制御部21は、DSC受信部8から出力されるDSC情報、例えば、他船からの呼出信号に基づく呼出情報を表示部11が表示可能な形式で表示部11に表示させる。
【0035】
AIS情報取得部22は、AIS受信部9から出力されるAIS情報を取得する。AIS情報取得部22は、新たなAIS情報を取得するごとに、記憶部10に記憶されているAIS情報を更新するとともに、取得したAIS情報を距離算出部23、およびリスト作成部24に与える。
【0036】
距離算出部23は、通信装置1を携帯するユーザが乗り込んでいる自船と、通信装置1の通信可能圏内の他船のそれぞれとの距離をAIS情報に基づいて算出する。具体的には、距離算出部23は、上述したGPS機能よって得られる通信装置1(自船)の位置および速度と、AIS情報から取得した他船の位置および速度に基づいて距離を算出する。
【0037】
リスト作成部24は、AIS情報取得部22によって取得されたAIS情報に基づいて、ターゲットリスト画面102に含まれる近接順リスト102aを作成する。リスト作成部24は、近接順リストの作成にあたり、距離算出部23によって算出された距離を用いる。
【0038】
表示制御部25は、AIS情報を表示する画面を作成し、当該画面を表示させるように表示部11を制御する。表示制御部25は、AIS情報から取得した他船の位置および上述した自船の動的情報に基づいてメイン画面101を作成する。また、表示制御部25は、リスト作成部24によって作成された近接順リスト102aを含むターゲットリスト画面102を作成する。表示制御部25は、表示させる画面を選択するための上述したメニュー画面を表示部11に表示させ、メニュー画面においてユーザによって選択された画面として、メイン画面101、ターゲットリスト画面102などを表示部11に表示させる。
【0039】
表示制御部25は、さらに、水没検出部12によって通信装置1の水没が検出されると、ターゲットリスト画面102を表示させるように表示部11を制御する。また、表示制御部25は、通信装置1の水没が検出されると、表示されたターゲットリスト画面102に含まれる近接順リスト102aの最上位の行である最上位行102bに示されるターゲット船の船名またはMMSI番号を選択状態とするように表示部11を制御する。
【0040】
ここで、選択状態とは、上記のターゲット船の船名またはMMSI番号を選択することを決定する操作が操作キー52により行われることで、ターゲットリスト画面102において指示されている上記のターゲット船を呼び出すことができる状態である。選択状態での一例として、表示制御部25は、
図2に示すように、最上位行102bを他の行の表示状態と異なって白黒反転するように表示部11を制御する。
【0041】
呼出信号生成部26は、送信指示を受けることにより、ターゲットリスト画面102上で選択された船名またはMMSI番号によって特定される他船を呼び出すための呼出信号を生成する。送信指示は、ユーザによる操作キー52の操作に基づいて与えられる。呼出信号生成部26は、呼出信号を海上無線送信部7へ出力する。呼出信号生成部26は、DSC機能の一部である呼出機能を実現するために設けられる。
【0042】
遭難信号生成部27は、ディストレスキー53の上述した所定操作時間を超えるユーザの押し操作によって遭難信号を生成する。遭難信号生成部27は、自局の識別情報であるMMSI番号、自局の位置情報、時刻情報、遭難の種類を記憶部10などから取得して遭難信号を生成する。遭難信号生成部27は、遭難信号を海上無線送信部7へ出力する。遭難信号生成部27は、DSC機能の一部を実現するために設けられる。
【0043】
なお、遭難信号生成部27は、通信装置1の水没時に、遭難信号に含まれる遭難の種類として「落水」を選択するようにしてもよい。具体的には、遭難信号生成部27は、水没検出部12からの水没検出信号が所定時間(例えば10ms)以上継続して出力された状態で、ディストレスキー53の操作時間が所定操作時間を超えると、遭難の種類から「落水」を選択して遭難信号に組み込む。
【0044】
(制御部2による処理)
続いて、通信装置1の水没時において他船を呼び出す制御部2による処理について説明する。
図3は、上記通信装置が水没したときに他船を呼び出す処理の手順(制御方法)を示すフローチャートである。
【0045】
図3に示すように、まず、ユーザが通信装置1の電源をオンする(ステップS1)。この状態では、海上無線受信部6、海上無線送信部7、DSC受信部8、およびAIS受信部9は電力が供給されて動作する。AIS受信部9は、アンテナ3によって受信されたAIS信号を復調してAIS情報を出力する。
【0046】
ステップS1の後、ステップS2~S3の処理と、ステップS4~S9の処理とが並列に実行される。
【0047】
AIS情報取得部22は、AIS受信部9からのAIS情報を取得する(ステップS2)。距離算出部23は、通信装置1すなわち自船の位置および速度と、AIS情報取得部22からのAIS情報より取得した他船の位置および速度とに基づいて、自船と他船との距離を算出する。
【0048】
リスト作成部24は、AIS情報取得部22からのAIS情報および距離算出部23からの距離を用いて、近接順リスト102aを作成する(ステップS3)。AIS情報取得部22は定期的にAIS情報を取得するので、ステップS2,S3の処理が繰り返して行われる。
【0049】
一方、ステップS1の後、水没検出部12は、通信装置1の水没が生じたか否かを監視する(ステップS4)。ステップS4において、水没検出部12によって通信装置1の水没が検出されない場合(すなわち、水没検出部12から水没非検出信号が出力されている場合(NO))、水没検出部12による監視を継続する。また、ステップS4において、水没検出部12によって通信装置1の水没が検出された場合(すなわち、水没検出部12から水没検出信号が出力された場合(YES))、表示制御部25は、ターゲットリスト画面102を表示させる(ステップS5)。
【0050】
上述したとおり、リスト作成部24は、定期的に取得されるAIS情報に基づいて近接順リスト102aを作成している(ステップS2,S3)。よって、表示制御部25は、通信装置1の水没時点で作成されている最新の近接順リスト102aを含むターゲットリスト画面102を表示することができる。
【0051】
続いて、表示制御部25は、
図2に示すように、ターゲットリスト画面102に含まれる近接順リスト102aにおける最上位行102bが選択状態となるように(一例として最上位行102bが白黒反転するように)、表示部11を制御する(ステップS6)。
【0052】
なお、選択状態の最上位行102bは、他の行と表示状態が異なっていればよい。したがって、表示制御部25は、最上位行102bを白黒反転させる代わりに、一例として最上位行102bにカーソルを表示させてもよい。
【0053】
また、表示制御部25は、ステップS5,S6の代わりに、次のようにターゲットリスト画面102を表示部11に表示させてもよい。表示制御部25は、近接順リスト102aの最上位行を白黒反転したターゲットリスト画面102のデータを予め作成しておき、通信装置1の水没が検出されると、そのデータに基づいてターゲットリスト画面102を表示部11に表示させる。
【0054】
呼出信号生成部26は、ユーザによって操作キー52が操作されたか否かを判定する(ステップS7)。ステップS7において、呼出信号生成部26は、操作キー52が操作されたと判定しなければ(NO)、判定を継続する。また、ステップS7において、呼出信号生成部26は、操作キー52が操作されたと判定すると(YES)、呼出信号を生成する(ステップS8)。そして、海上無線送信部7は、呼出信号生成部26からの呼出信号を変調して所定の呼出用チャンネルで送信する(ステップS9)。
【0055】
このように、通信装置1の水没が検出されると、表示部11には、何らかの情報が表示されていても、ターゲットリスト画面102に自動的に切り替わり、ターゲットリスト画面102の近接順リスト102aにおいて最上位のターゲット船が選択された状態となる。これにより、ユーザが自船から落水した状態で操作キー52を操作することにより、呼出用チャンネルで呼出信号が通信装置1に最も近いターゲット船に自動的に送信される。したがって、落水時の余裕のない状態でも、少ない操作でターゲット船を呼び出すことができる。
【0056】
当該ターゲット船が呼出信号を受信して応答すると、海上無線受信部6は、ターゲット船からの応答信号を受信する。これにより、ターゲット船とユーザとの間では、通話用チャンネルの連絡を行い、以降は通信チャンネルを呼出用チャンネルから通話用チャンネルに切り替えて通話を行う。これにより、落水者は最も近いターゲット船に救助を要請することができる。
【0057】
また、落水者がディストレスキー53を長押しすることにより、遭難の種類として「落水」を含む遭難信号が送信される。これにより、ターゲット船の呼び出しと併せて、遭難信号による救助要請を行うことができる。
【0058】
また、通信装置1がDSC受信部8を備えている。これにより、ユーザに携帯された通信装置1は、自船内のいずれの場所においても呼出信号を受信することができる。したがって、定位置に設置された通信装置によって他船からの呼出信号を受信するように、定位置で待機して呼び出しを聴守することから開放される。
【0059】
〔ソフトウェアによる実現例〕
通信装置1の制御ブロック(制御部2)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0060】
後者の場合、通信装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。
【0061】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。
【0062】
なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0063】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る通信装置は、各種の情報を表示する表示部と、AISに関するAIS情報を受信するAIS受信部と、通信装置の周辺に存在する船舶についての前記AIS情報に基づいて、前記船舶を特定する特定情報を前記通信装置に近い順に並べて成る近接順リストを作成するリスト作成部と、前記通信装置が水没したことを検出する水没検出部と、前記通信装置の水没が検出されると、前記近接順リストを表示させるように前記表示部を制御する表示制御部と、を備えている。
【0064】
上記の構成によれば、通信装置を携帯するユーザが自船から落水した場合、水没検出部によって通信装置が水没したことが検出されると、表示部に近接順リストが表示される。これにより、ユーザは、落水時に近接順リストから最上位の特定情報を選択することが可能になる。
【0065】
本発明の態様2に係る通信装置は、態様1において、前記表示制御部が、前記近接順リストの最上位の前記特定情報を選択状態とするように前記表示部を制御し、前記通信装置は、送信指示を受けることにより、選択された前記特定情報によって特定される前記船舶を呼び出す呼出信号を生成する呼出信号生成部と、前記呼出信号を送信する無線送信部と、をさらに備えていてもよい。
【0066】
上記の構成によれば、近接順リストの最上位の特定情報が選択される。ユーザがキーの操作などによって送信指示を与えることで呼出信号が生成されると、その呼出信号が特定情報によって特定される船舶に送信される。これにより、通信装置に最も近い船舶が呼び出される。したがって、船舶を指定することなく遭難信号が送信されるディストレス通信と比べて、落水をいち早く船舶に報知することができる。また、目視可能な程度に通信装置に近接した位置にある船舶を特定して通信することができる。
【0067】
本発明の態様3に係る通信装置は、態様1または2において、DSC信号を受信するDSC受信部をさらに備えてもよい。
【0068】
上記の構成によれば、通信装置を携帯することにより、他船からの呼出信号を自船内のいずれの場所においても受信することができる。
【0069】
本発明の態様4に係る通信装置は、態様2において、前記AIS受信部、および、DSC信号を受信する信号DSC受信部と別個に設けられ、無線信号を受信する無線受信部をさらに備え、前記無線受信部が、前記呼出信号を受信した前記船舶の通信装置からの応答信号を受信してもよい。
【0070】
上記の構成によれば、呼出信号を受信した船舶からの応答信号を受信することにより、当該船舶との交信を開始して、救助を要請することができる。
【0071】
本発明の態様5に係る通信装置は、態様1から4のいずれかにおいて、前記通信装置が携帯型であってもよい。これにより、ユーザが通信装置を携帯した状態で落水したときに、容易に他の船舶を呼び出すことができる。
【0072】
本発明の態様5に係る通信装置の制御方法は、各種の情報を表示する表示部と、無線信号を送信する無線送信部と、前記無線信号を受信する無線受信部と、AISに関するAIS情報を受信するAIS受信部と、通信装置が水没したことを検出する水没検出部と、を備える通信装置が、前記通信装置の周辺に存在する船舶についての前記AIS情報に基づいて、前記船舶を特定する特定情報を前記通信装置に近い順に並べて成る近接順リストを作成すること、前記通信装置の水没が検出されると、前記近接順リストを表示させるように前記表示部を制御すること、を含む。
【0073】
上記の構成によれば、態様1と同様の効果を奏する。
【0074】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。また、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる具体的な形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 通信装置
6 海上無線受信部(無線受信部)
7 海上無線送信部(無線送信部)
8 DSC受信部
9 AIS受信部
11 表示部
12 水没検出部
24 リスト作成部
25 表示制御部
26 呼出信号生成部
102a 近接順リスト