IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セントラル硝子株式会社の特許一覧

特許7502644基板、選択的膜堆積方法、有機物の堆積膜及び有機物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】基板、選択的膜堆積方法、有機物の堆積膜及び有機物
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/04 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
C23C16/04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020565156
(86)(22)【出願日】2020-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2020000171
(87)【国際公開番号】W WO2020145269
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019002313
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019083110
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】新免 益隆
(72)【発明者】
【氏名】岡田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 純基
(72)【発明者】
【氏名】灘野 亮
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達夫
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-274130(JP,A)
【文献】特開2018-170409(JP,A)
【文献】特開2017-216448(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129368(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板に対して、
前記第二表面領域よりも前記第一表面領域に、下記一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させることを特徴とする選択的膜堆積方法。
【化1】
(一般式(1)において、Nは窒素原子である。Rは炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R及びRは、水素原子である。但し、前記炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含み、前記ヘテロ原子は、酸素原子、硫黄原子、リン原子から選択される。なお、n=0であり、R、Rは存在しない。)
【請求項2】
第一表面領域上の有機物の膜の厚さtと、第二表面領域上の有機物の膜の厚さtとの比(t/t)が5以上である、請求項1に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項3】
前記第二表面領域よりも前記第一表面領域に、前記一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させる工程は、前記有機物の気体を含む雰囲気に前記基板を暴露する工程である、請求項1又は2に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項4】
前記有機物は、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン及び2-アミノエタノールからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項3に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項5】
前記有機物の気体を含む雰囲気の温度範囲は、0℃以上200℃以下である請求項3又は4に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項6】
前記有機物の気体を含む雰囲気の圧力範囲は、13Pa以上67kPa以下である請求項3~5のいずれか1項に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項7】
前記第二表面領域よりも前記第一表面領域に前記有機物の膜を選択的に堆積させる工程は、前記有機物と溶媒とを含む溶液に前記基板を暴露する工程である、請求項1又は2に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項8】
前記一般式(1)において、nが0であり、R及びRは、水素原子であり、Rは、炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい直鎖状炭化水素基であることを特徴とする請求項7に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項9】
前記一般式(1)において、Rは、炭素数6~24のアルキル基であることを特徴とする請求項8に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項10】
前記有機物は、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、マルガリルアミン及びステアリルアミンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項7~9のいずれか1項に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項11】
前記溶液に含まれる、前記一般式(1)で表される有機物の濃度が、前記有機物と前記溶媒の合計に対して0.01質量%以上20質量%以下である請求項7~10のいずれか1項に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項12】
前記溶液に使用する溶媒が、エステル類、エーテル類、ケトン類、アルコール系溶媒、及び多価アルコールの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む請求項7~11のいずれか1項に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項13】
前記溶液に使用する溶媒が、イソプロピルアルコール及びエタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項12に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項14】
前記基板に対して、前記一般式(1)で表される有機物により選択的に膜を堆積させた後、前記基板を前記溶媒で洗浄する、請求項7~13のいずれか1項に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項15】
前記金属が、Cu、Co、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti及びHfからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属であり、前記金属酸化物が、Cu、Co、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti及びHfからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物である、請求項1~14のいずれか1項に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項16】
前記非金属無機材料が、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物及びシリコン酸窒化物からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1~15のいずれか1項に記載の選択的膜堆積方法。
【請求項17】
金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板であって、
前記第一表面領域に下記一般式(1)で表される有機物の膜を有し、
前記第二表面領域に前記有機物の膜を有しないか、前記第二表面領域上の前記有機物の膜の厚さtが、前記第一表面領域上の前記有機物の膜の厚さtよりも薄いことを特徴とする基板。
【化2】
(一般式(1)において、Nは窒素原子である。Rは炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R及びRは、水素原子である。但し、前記炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含み、前記ヘテロ原子は、酸素原子、硫黄原子、リン原子から選択される。なお、n=0であり、R、Rは存在しない。)
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載された選択的膜堆積方法により形成された有機物の堆積膜の製造方法であって、
基板上に選択的に堆積した下記一般式(1)で表されることを特徴とする有機物の堆積膜の製造方法。
【化3】
(一般式(1)において、Nは窒素原子である。Rは炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R及びRは、水素原子である。但し、前記炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含み、前記ヘテロ原子は、酸素原子、硫黄原子、リン原子から選択される。なお、n=0であり、R、Rは存在しない。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板、基板の金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む表面領域に選択的に膜を堆積させる選択的膜堆積方法、有機物の堆積膜及び有機物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体チップの構造は益々微細化しており、構造体の一部を選択的に除去することによりパターニングする従来のリソグラフィ法は、ステップ数の多さやコスト高といった問題がある。化学気相堆積(CVD)法や原子層堆積(ALD)法において基板上の所望の箇所に選択的に膜を形成できれば、微細構造の形成に最適なプロセスとなり、これらの問題は、解消すると考えられている。
【0003】
しかし、電極や配線に用いられる金属や、絶縁膜に用いられる無機誘電体などの材料の異なる複数種の表面領域を持つ基板に対して、CVD法やALD法で膜を選択的に堆積させる場合に、堆積阻害用の膜を選択的に堆積させる必要があるが、従来の方法では選択性は充分に高くなかった。
【0004】
選択的な膜の形成方法については、膜を形成したくない領域に、膜の堆積を阻害する材料を堆積させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、基板上に、TiN、AlNまたはSiN等の無機材料の薄膜のパターンを原子層堆積(ALD)法により形成する方法であって、基板上に、フッ素含有量が30原子%以上であり、少なくとも1つの第3級炭素もしくは第4級炭素を有し、かつ、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびイミド基を有しない含フッ素樹脂から構成される原子層堆積阻害材料を用いて、スクリーン印刷等で原子層堆積阻害層のパターンを形成すること、次いで、原子層堆積法により、原子層堆積阻害層が存在しない領域に、無機材料の層を形成することを、を含む方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、露出した金属表面及び露出したケイ素含有表面を有する基板の上に層を選択的に堆積させる方法において、(a)前記露出した金属表面の上に第1の自己組織化単分子膜を成長させることと、(b)前記露出したケイ素含有表面の上に、オルガノシラン系である第2の自己組織化単分子膜を成長させることと、(c)前記基板を加熱して、前記露出した金属表面の上から前記第1の自己組織化単分子膜を除去することと、(d)低誘電率誘電体層又は金属層である層を、前記露出した金属表面の上に選択的に堆積させることと、(e)前記基板を加熱して、前記露出したケイ素含有表面の上から第2の自己組織化単分子膜を除去することと、を含む方法が開示されている。
【0006】
上記方法によれば、異なる材料からなる第1の表面と第2の表面を有する基板に対して、両者の表面状態の相違を利用して、第1の表面に第2の表面よりも選択的に膜を堆積させることができる。また、上記方法によれば、微細構造を形成するプロセスのステップ数を削減することができる。
【0007】
また、例えば、特許文献3には、金属性表面である第1の表面と、誘電体表面である第2の表面とを含む基板に、第1の気相前駆物質を接触させるステップと、第2の気相前駆物質を接触させるステップと、を含む堆積サイクルを行い、第2の表面よりも第1の表面上に選択的に有機薄膜を形成するプロセスが開示されている。特許文献3の実施例1では、酸化ケイ素表面と交互になったタングステン(W)フィーチャを有する200mmシリコンウェハを基板とし、1,6-ジアミノヘキサン(DAH)と、ピロメリト酸二無水物(PMDA)とを用いて、250~1000堆積サイクルを行い、ポリイミド膜を形成し、SiO表面上のポリイミド膜の厚さより、金属タングステン表面上のポリイミド膜の厚さの方が厚かった、ことが記載されている。
【0008】
特許文献4には、特許文献3に記載の有機膜の選択的堆積法を利用して、金属製の第1表面の上にパッシベーション層を選択的に形成したのち、誘電体の第2表面の上にのみ層Xを形成する方法、さらにはこの方法を利用して、集積回路のメタライゼーション構造を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】再公表WO2016/147941号
【文献】特表2018-512504号公報
【文献】特開2017-216448号公報
【文献】特開2018-137435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、単一材料の基板上に、原子層堆積阻害材料を用いて、所定のパターンを形成しており、材料の異なる複数種の表面領域を持つ基板に対して、所望の表面領域に選択的に原子層堆積阻害層を形成する方法は開示されていない。
【0011】
特許文献2で使用するオルガノシラン系自己組織化単分子膜は、ケイ素含有表面上へ選択的に堆積するが、金属又は金属酸化物に選択的に堆積することはない。
【0012】
特許文献3及び特許文献4に記載されている選択的に有機薄膜を形成する方法は、原料と温度を切り替えての堆積サイクルを複数回繰り返す必要があり、有機薄膜の形成には大変な手間が必要であった。
【0013】
本開示は、上記課題に鑑み、簡単な操作にて、基板上の非金属無機材料表面領域に対してよりも、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む表面領域に選択的に有機物の膜を堆積させる選択的膜堆積方法、上記方法により堆積した有機物の堆積膜及び該有機物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、後述する一般式(1)で示される有機物は、基板上の非金属無機材料表面領域に対してよりも金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む表面領域に選択的に有機物の膜を堆積させることができることを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0015】
本開示の実施形態に係る選択的膜堆積方法は、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板に対して、
上記第二表面領域よりも上記第一表面領域に、下記一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させることを特徴とする選択的膜堆積方法である。
【化1】
(一般式(1)において、Nは窒素原子である。Rは、炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。なお、nは0以上5以下の整数であり、n=0である場合、R、Rは存在しない。)
【0016】
上記選択的膜堆積方法によれば、上記一般式(1)で表される有機物を用いることにより、簡単な操作にて、基板上に露出した非金属無機材料を含む第二表面領域に対してよりも、基板上に露出した金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜を堆積する方法を提供することができる。
【0017】
本開示の実施形態に係る基板は、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板であって、上記第一表面領域に前述の一般式(1)で表される有機物の膜を有し、上記第二表面領域に上記有機物の膜を有しないか、上記第二表面領域上の上記有機物の膜の厚さtが、上記第一表面領域上の上記有機物の膜の厚さtよりも薄いことを特徴とする基板である。
【0018】
上記基板によれば、基板上に露出した非金属無機材料を含む第二表面領域に対してよりも、基板上に露出した金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜が堆積した基板を提供することができる。
【0019】
本開示の実施形態に係る有機物の堆積膜は、上記方法により形成された有機物の堆積膜であって、基板上に選択的に堆積した前述の一般式(1)で表されることを特徴とする有機物の堆積膜である。
【0020】
本開示の実施形態に係る有機物は、上記基板の金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む表面領域への選択的な膜堆積方法に用いることを特徴とする前述の一般式(1)で表されることを特徴とする有機物である。
【0021】
上記有機物を用いることにより、簡単な操作にて、基板上に露出した非金属無機材料を含む第二表面領域に対してよりも、基板上に露出した金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜を堆積することができる。
【0022】
本開示の実施形態に係る溶液は、前述の一般式(1)で表されることを特徴とする有機物と、溶媒とを含むことを特徴する溶液である。
【発明の効果】
【0023】
本開示の実施形態に係る選択的膜堆積方法によれば、前述の一般式(1)で表される有機物を用いることにより、簡単な操作にて、基板上に露出した非金属無機材料を含む第二表面領域に対してよりも、基板上に露出した金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域に選択的に一般式(1)で表される有機物の膜を堆積する方法を提供することができる。
【0024】
本開示の実施形態に係る基板によれば、基板上に露出した非金属無機材料を含む第二表面領域に対してよりも、基板上に露出した金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域に選択的に一般式(1)で表される有機物の膜が堆積した基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
本開示の実施形態に係る選択的膜堆積方法は、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板に対して、
上記第二表面領域よりも上記第一表面領域に、前述の一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させることを特徴とする。
【0027】
上記方法によれば、一般式(1)で表される有機物を用いることにより、基板上に露出した非金属無機材料を含む第二表面領域に対してよりも、基板上に露出した金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域に選択的に有機物の膜を堆積させることができる。この際、上記基板には、第一表面領域のみに上記有機物の膜を選択的に堆積させ、第二表面領域には、上記有機物の膜を堆積させないか、又は、第一表面領域上の有機物の膜の厚さtは、第二表面領域上の有機物の膜の厚さtよりも厚く、tをtで除したt/tの値が5以上であるように堆積させることが好ましい。t/tの値は、10以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましい。
【0028】
有機物の膜(以下、堆積膜ともいう)が堆積しているか否かは、基板の表面に純水を滴下し、水滴と基板表面とのなす角(接触角)を接触角計で測定することにより判断することもできる。
【0029】
すなわち、水との親和性に乏しい一般式(1)で表される有機物が基板表面を覆っている場合には、水との接触角が大きくなる。
本開示の実施形態に係る選択的膜堆積方法では、第二表面領域よりも第一表面領域における水の接触角が10°以上大きいことが好ましく、20°以上大きいことがより好ましく、30°以上大きいことがさらに好ましい。
これにより、水の接触角が大きい第一表面領域には、水の接触角が小さい第二表面領域に比べて、有機物の膜が選択的に堆積していると判断可能である。
【0030】
基板上に有機物の堆積膜が形成されているか否かは、X線光電子分光法(XPS)による基板表面の元素組成を解析することによっても判断できる。有機物が窒素等の特徴的な原子を有している場合には、上記元素のピークを確認することができる。
【0031】
上記金属としては、Cu、Co、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti及びHfからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を挙げることができ、上記金属酸化物としては、Cu、Co、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti及びHfからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物を挙げることができ、特に、金属としてはCu、Co、Ruが、酸化物としてはCu、Co、Ruの酸化物が好ましい。なお、上記金属や金属酸化物は、これらの金属や金属酸化物の混合物であってもよい。また、上記金属は、合金であってもよく、前記金属酸化物は、前述の金属、又は、前述の金属を含む合金の、表面自然酸化膜であってもよい。
【0032】
第二表面領域を構成する上記非金属無機材料としては、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物などのシリコン系材料と、ゲルマニウム、ゲルマニウム酸化物、ゲルマニウム窒化物、ゲルマニウム酸窒化物などのゲルマニウム系材料を挙げることができ、これらの非金属無機材料のなかでは、シリコン系材料が好ましい。シリコンは、多結晶シリコンと単結晶シリコンの両方を含む。シリコン酸化物はSiO(xは1以上2以下)の化学式で表され、代表的にはSiOである。また、シリコン窒化物はSiN(xは0.3以上9以下)の化学式で表され、代表的にはSiである。シリコン酸窒化物はSi(xは3以上6以下、yは2以上4以下)で表され、例えばSiである。
【0033】
金属が露出した第一表面領域を得る方法としては、化学気相堆積(CVD)法、物理気相堆積(PVD)法などを用いて金属の膜を得る方法などを挙げることができる。例えば、上記の非金属無機材料の膜の上に、金属膜を形成し、フォトリソグラフィー法にて金属膜を所定のパターンに形成する方法や、非金属無機材料の膜に穴や溝を形成し、その溝に金属を埋め込む方法により、金属を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造の基板を得ることができる。
また、金属が露出した第一表面領域を得る方法としては、金属膜の表面の酸化膜を、HF等を含む溶液を用いて削除し、金属表面を露出する方法が挙げられる。上記酸化膜を機械的に削除してもよい。
【0034】
金属酸化物が露出した第一表面領域を得る方法としては、化学的気相堆積法、物理的気相堆積法などを用いて金属酸化物の膜を得る方法や、同様の方法で得られた金属の膜を大気中に暴露して自然酸化膜を形成する方法などを挙げることができる。例えば、上記の非金属無機材料の膜の上に、金属酸化物の膜を形成し、フォトリソグラフィー法にて金属酸化物の膜を所定のパターンに形成する方法や、非金属無機材料の膜に穴や溝を形成し、その溝に金属を埋め込み、金属上に自然酸化膜を形成する方法により、金属酸化物を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造の基板を得ることができる。
【0035】
金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域は、一般式(1)で表される有機物が堆積可能である金属及び金属酸化物以外の化合物が含まれていてもよく、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種のみを含んでいてもよいが、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種のみを含み、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種のみが表面に露出していることが望ましい。
非金属無機材料を含む第二表面領域は、上記非金属無機材料以外の化合物が含まれていてもよく、非金属無機材料のみを含んでいてもよいが、非金属無機材料のみを含み、非金属無機材料のみが表面に露出していることが望ましい。
【0036】
本開示の実施形態において使用する基板としては、構造中に金属や金属酸化物膜を有する半導体デバイスの基板や、半導体デバイスのパターニング工程中で金属や金属酸化物が形成される基板等が挙げられ、特に、半導体素子の絶縁膜に所定のパターンを持つ金属配線を形成した基板が好ましい。即ち、第一表面領域としては、表面自然酸化膜を有する金属配線や金属が露出した金属配線が該当し、第二表面領域としては、非金属無機材料からなる絶縁膜が該当する。しかし、本開示の実施の形態において使用する基板は、これらに限定されない。
【0037】
第二表面領域よりも第一表面領域に、一般式(1)で表される有機物の膜を選択的に堆積させる具体的な方法としては、有機物と溶媒とを含む溶液に基板を暴露する方法(湿式法)、及び、有機物の気体を含む雰囲気に前記基板を暴露する方法(乾式法)の二つの方法を採用することができる。以下、これらの方法について説明する。
【0038】
[湿式法]
本開示の実施の形態に係る湿式法では、上記した有機物と溶媒とを含む溶液に基板を暴露するが、その一例として、有機物と溶媒とを含む溶液に、第一表面領域と第二表面領域とを有する基板を浸漬することにより、上記溶液を上記基板の表面と接触させ、有機物の膜を、基板の第一表面領域に選択的に堆積させる膜堆積工程が挙げられる。上記溶液に基板を暴露するとは、基板の表面を溶液と接触させることをいう。従って、溶液に基板を暴露する方法として、浸漬法以外に、基板に溶液を滴下した後に高速回転させるスピンコート法や、溶液を基板に噴霧するスプレーコート法を用いることもでき、基板を溶液と接触させることが可能な方法であれば、これらの方法に限定されない。
【0039】
上記溶液中の有機物の濃度は、有機物と溶媒の合計に対して、0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上8質量%以下がより好ましく、1質量%以上5質量%以下が特に好ましい。上記溶液に複数種類の有機物を含む場合は、上記の濃度範囲は有機物の合計の濃度を意味する。
【0040】
湿式法において用いられる有機物は、下記一般式(1)で表される有機物である。
【化2】
(一般式(1)において、Nは窒素原子である。Rは炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。なお、nは0以上5以下の整数であり、n=0である場合、R、Rは存在しない。)
【0041】
~Rの炭化水素基に含まれてもよいヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。さらに、炭素数3以上の場合、炭化水素基は、イソプロピル基、tert-ブチル基等の分岐鎖を有する炭化水素基であってもよく、フェニル基等の芳香族系炭化水素基、芳香族以外の共役二重結合を含んでいないシクロヘキシル基等の脂環系炭化水素基であってもよい。更に、RとRが共に炭素数1以上の場合、両者が直接結合して、一般式(1)がポルフィリン環などの大環状構造をとっても良い。R、R、R及びRは、それぞれ同じ炭化水素基である場合もあるし、異なる炭化水素基である場合もある。
【0042】
、R、R及びRとしては、水素基や炭化水素基等が挙げられ、R及びRは、水素基(水素原子)であることが好ましい。R、R、R及びRの全てが水素基であってもよく、その場合には、ジアミンとなる。
【0043】
また、一般式(1)で表される有機物としては、nが0であり、R及びRは、水素基であり、Rは、フェニル基やシクロヘキシル基であってもよいが、炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であることが望ましく、Rが炭素数1~20のアルキル基であることが好ましい。
【0044】
これらのなかでは、特に、一般式(1)で表される有機物として、R、Rが水素原子であり、アミノ基(-NH)を持つ有機物が好ましい。これらの有機物として、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、マルガリルアミン(すなわち、n-ヘプタデシルアミン)、ステアリルアミン(すなわち、n-オクタデシルアミン)、n-ノナデシルアミン、フェニルアミン、(2-フェニルエチル)アミン、(3-フェニルプロピル)アミン、(4-フェニルブチル)アミン、メチレンジアミン、(4-アミノフェニル)アミン、(4-アミノベンジル)アミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ベンズヒドリルアミン、(4-ブロモフェニル)アミン、(2-クロロエチル)アミン、(3-クロロプロピル)アミン、(4-クロロブチル)アミン、5-クロロペンチル)アミン、(6-クロロヘキシル)アミン、(2-ブロモエチル)アミン、(3-ブロモプロピル)アミン、(4-ブロモブチル)アミン、(5-ブロモペンチル)アミン、(6-ブロモヘキシル)アミン、エチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキシレンジアミン、1,4フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、(アミノメチル)アミン、(1-アミノエチル)アミン、2-(パーフロオロブチル)エチルアミン、2-(パーフロオロヘキシル)エチルアミン、2-(パーフロオロヘプチル)エチルアミン等が挙げられる。
【0045】
nが0で、アミノ基を一つ有する第一級アミンは、廉価であるだけでなく、化合物中のアミノ基が一つであるため、膜の中に基板の第一表面領域と結合していないアミノ基が含まれにくいため好ましい。
【0046】
また、nが0で、アミノ基を一つ有し、Rが炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい直鎖状炭化水素基である直鎖状アルキルアミンを用いると、良好な堆積膜を形成することができる。特に、Rが炭素数数6~24のアルキル基であることが好ましく、Rが炭素数8~20のアルキル基であることがより好ましい。このような有機物として、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、マルガリルアミン、ステアリルアミン等を挙げることができる。
【0047】
本開示の溶液に使用する溶媒としては、上記の有機物を溶解でき、且つ、被処理体の表面に対するダメージの少ないものであれば、特に限定されずに従来公知のものを使用できる。有機物を溶解でき、且つ、被処理体の表面に対するダメージの少ないという観点から、水を除く有機溶媒(非水溶媒)が好ましく、有機物の溶解性の観点から炭化水素系溶媒を除く非水溶媒が好ましい。
【0048】
上記の炭化水素系溶媒を除く非水溶媒は、例えば、エステル類、エーテル類、ケトン類、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒、ラクトン系溶媒、カーボネート系溶媒、アルコール系溶媒、多価アルコールの誘導体、窒素元素含有溶媒、シリコーン溶媒、あるいは、それらの混合液が好適に使用される。更に、非水溶媒として、エステル類、エーテル類、ケトン類、アルコール系溶媒、多価アルコールの誘導体を使用することが好ましい。
【0049】
上記エステル類の例としては、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸n-ペンチル、酢酸i-ペンチル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-ヘプチル、酢酸n-オクチル、ぎ酸n-ペンチル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸i-プロピル、酪酸n-ブチル、n-オクタン酸メチル、デカン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸エチル、アジピン酸ジメチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル等が挙げられる。
【0050】
上記エーテル類の例としては、ジ-n-プロピルエーテル、エチル-n-ブチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、エチル-n-アミルエーテル、ジ-n-アミルエーテル、エチル-n-ヘキシルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、ジ-n-オクチルエーテル、並びにそれらの炭素数に対応するジイソプロピルエーテル、ジイソアミルエーテルなどの分岐状の炭化水素基を有するエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルパーフルオロプロピルエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロヘキシルエーテル、エチルパーフルオロヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0051】
上記ケトン類の例としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。
【0052】
上記スルホキシド系溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド等があり、上記スルホン系溶媒の例としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等が挙げられる。
【0053】
上記ラクトン系溶媒の例としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、γ-ノナノラクトン、γ-デカノラクトン、γ-ウンデカノラクトン、γ-ドデカノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-オクタノラクトン、δ-ノナノラクトン、δ-デカノラクトン、δ-ウンデカノラクトン、δ-ドデカノラクトン、ε-ヘキサノラクトン等が挙げられる。
【0054】
上記カーボネート系溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等があり、上記アルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0055】
上記多価アルコールの誘導体の例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル等のOH基を持つ多価アルコール誘導体、あるいは、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラプロピレングリコールジアセテート、ブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールジアセテート、グリセリントリアセテート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート等のOH基を持たない多価アルコール誘導体等が挙げられる。
【0056】
上記窒素元素含有溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジイソプロピル-2-イミダゾリジノン、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。
【0057】
シリコーン溶媒の例としては、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン等が挙げられる。
【0058】
また、上記有機溶媒は、有機物の溶解性の観点から、極性の有機溶媒が好ましく、特にアルコール系溶媒が好ましく、エタノールやイソプロピルアルコール(IPA)を好適に使用することができる。
【0059】
なお、前記溶媒に水を含ませても良い。なお、この場合の水の濃度は、本開示の溶液100質量%に対して、40質量%以下が好ましく、特に20質量%以下、さらには10質量%以下が好ましい。
【0060】
また、本開示の溶液には、有機物の堆積膜の形成を促進させるために、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、無水トリフルオロメタンスルホン酸などの酸性化合物、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、アンモニア、イミダゾールなどの塩基性化合物等の触媒が添加されても良い。触媒の添加量は、溶液の総量100質量%に対して、0.01~50質量%が好ましい。
【0061】
上記湿式の膜堆積工程における溶液の温度は、0~80℃が好ましく、上記溶液に基板を浸漬する時間は、10秒以上~48時間以下が好ましく、1分以上24時間以下が好ましい。但し、1秒以上1000秒以下であってもよい。上記溶液に基板を浸漬する際、攪拌羽根等により溶液を攪拌することが好ましい。
【0062】
また、有機物を含む溶液に基板を暴露させた後、溶媒で基板を洗浄する洗浄工程を行うことが好ましい。上記洗浄工程で使用できる溶媒としては、前述の有機溶媒を挙げることができる。洗浄の方法としては、0~80℃の上記溶媒に1~1000秒浸漬することが好ましい。有機物を含む溶液に基板を浸漬させた場合には、溶液から基板を引き上げ、溶媒で基板を洗浄することとなる。
【0063】
上記洗浄工程の後、窒素、アルゴン等の不活性ガスを基板に吹き付けることにより、基板を乾燥させることが好ましい。吹き付ける不活性ガスの温度は、0~80℃が好ましい。
【0064】
[乾式法]
本開示の実施の形態に係る乾式法では、有機物の気体を含む雰囲気に前記基板を暴露するが、具体的には、チャンバ内に基板を載置し、有機物を含む気体をチャンバ内に導入することにより、有機物を含む気体を基板の表面と接触させ、有機物の膜を、基板の第一表面領域に選択的に堆積させる膜堆積工程を行う。
【0065】
乾式法の膜堆積工程で用いる有機物としては、湿式法の場合と同様に一般式(1)で表される有機物を用いる。
【化3】
(一般式(1)において、Nは窒素原子である。Rは炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、この炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。なお、nは0以上5以下の整数であり、n=0である場合、R、Rは存在しない。)
【0066】
乾式法で用いられる一般式(1)で表される有機物において、R~Rの炭化水素基に含まれてもよいヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子等が挙げられる。更に、RとRが共に炭素数1以上の場合、両者が直接結合して、一般式(1)がポルフィリン環などの大環状構造をとっても良い。R、R、R及びRは、同じ炭化水素基である場合もあるし、異なる炭化水素基である場合もある。
【0067】
一般式(1)で表される有機物としては、nが0であり、R及びRは、水素原子であり、Rは、炭素数が3~10の炭化水素基、フェニル基、シクロヘキシル基であってもよく、nが1であり、R~Rが水素基であるジアミンであってもよく、nが0であり、Rが水素で、R及びRが炭素数1以上の炭化水素基であるジアルキルアミンであってもよい。
【0068】
特に、一般式(1)で表される有機物としては、十分な膜厚を持つ膜を堆積するため、一般式(1)で表される有機物として、R、Rが水素原子であり、アミノ基(-NH)を持つ有機物が好ましい。上記有機物としては、例えば、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、エチレンジアミン、2-アミノエタノール等が挙げられる。
【0069】
特に、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンなどの、nが0で、アミノ基を一つ有する第一級アミンは、廉価であるだけでなく、化合物中のアミノ基が一つであるため、膜の中に基板と結合していないアミノ基が含まれにくいため好ましい。
【0070】
有機物の気体を含むチャンバ内の雰囲気ガスの温度は、0℃以上200℃以下であることが好ましく、5℃以上100℃以下であることがより好ましく、10℃以上80℃以下であることが特に好ましい。
【0071】
有機物の気体を含むチャンバ内の雰囲気ガスの圧力範囲は、0.1Torr(13Pa)以上500Torr(67kPa)以下であることが好ましく、1Torr(0.13kPa)以上100Torr(13kPa)以下であることがより好ましい。
【0072】
なお、有機物を気体の状態で基板に接触させるため、チャンバ内の温度と圧力は有機物が気体のままである条件に設定する必要がある。
【0073】
チャンバ内の雰囲気ガス中には、有機物の気体を1体積%以上100体積%以下含むことが好ましく、10体積%以上100体積%以下含むことがより好ましく、50体積%以上100体積%以下含むことがさらに好ましい
【0074】
液体の有機物を減圧及び/又は加熱することにより気体の有機物を得てもよいし、液体の有機物に不活性ガスをバブリングすることにより、不活性ガスで希釈された気体の有機物を得てもよい。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、クリプトンガス、ネオンガスなどを用いることができる。
【0075】
乾式の膜堆積工程を行った後に、チャンバ内を1~100Paに減圧することにより、余分な有機物を除去することができる。乾式法においては、乾燥工程を必要としない。
【0076】
本開示の実施形態に係る上記湿式法や上記乾式法を用いることにより、簡単な操作にて、基板上の非金属無機材料が露出した表面領域に対してよりも、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種が露出した表面領域に選択的に有機物の膜を堆積させることができる。
【0077】
上記湿式法や上記乾式法を行うことにより基板上に選択的に堆積した一般式(1)で表される有機物の堆積膜も、本開示の有機物の堆積膜の一実施形態に該当する。
【0078】
[有機物の堆積膜の選択的堆積後の基板]
本開示の実施形態に係る基板は、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域と、非金属無機材料を含む第二表面領域とが両方とも露出した構造を持つ基板であって、上記第一表面領域に下記一般式(1)で表される有機物の膜を有し、上記第二表面領域に上記有機物の膜を有しないか、上記第二表面領域上の上記有機物の膜の厚さtが、上記第一表面領域上の上記有機物の膜の厚さtよりも薄いことを特徴とする基板である。
【0079】
【化4】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。Rは炭素数1~30のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基であり、R、R、R及びRは水素原子又は炭素数1~10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造の炭化水素基も含む。なお、nは0以上5以下の整数であり、n=0である場合、R、Rは存在しない。)
【0080】
上記基板においては、上述のように、上記第一表面領域に下記一般式(1)で表される有機物の膜を有し、上記第二表面領域に上記有機物の膜を有しないか、上記第二表面領域上の上記有機物の膜の厚さtが、上記第一表面領域上の上記有機物の膜の厚さtよりも薄い。
【0081】
上記基板において、第二表面領域上の有機物の膜の厚さtが、第一表面領域上の有機物の膜の厚さtよりも薄い場合、tをtで除したt/tの値が5以上であることが好ましい。t/tの値は、10以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましい。なお、tは、0.3nm以上であることが好ましく、0.6nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがさらに好ましい。また、tは1nm未満であることが好ましく、0.3nm未満であることが好ましく、0nmであってもよい。t及びtの厚さは、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。tが0nmである場合は、上記した条件、すなわち、第一表面領域のみに上記有機物の膜が選択的に堆積していることを意味する。
【0082】
本開示の実施形態に係る基板において、金属及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む第一表面領域、非金属無機材料を含む第二表面領域、一般式(1)で表される有機物等については、上記した本開示の実施形態に係る基板の第一表面領域への選択的な膜堆積方法において説明したので、ここでは、詳しい説明を省略することとする。
【0083】
上記有機物の膜は、上記有機物の分子中の窒素原子、酸素原子または硫黄原子を有する基が、第一表面領域の金属又は金属酸化物と相互作用して形成されていると考えられる。
【0084】
また、上記した本開示の選択的膜堆積方法に使用される一般式(1)で表される有機物も本開示の一つであり、上記有機物と上記溶媒とを含む溶液も本開示の一つである。
【実施例
【0085】
以下に、金属又は金属酸化物が露出した表面領域に有機物により選択的に膜を堆積できることを下記の実験により確認した。
【0086】
[実験例1-1]
イソプロピルアルコール(以下、IPAという)に1%のn-ドデシルアミンを溶解させ、有機物としてn-ドデシルアミンと溶媒とを含む溶液を調製した。
次に、この溶液にCu自然酸化膜を含有する基板を60秒浸漬させ、有機物の膜を堆積させた。溶液の温度は20~25℃であった。その後、20~25℃のIPAの液に60秒、2回浸漬させて、余分な有機物の除去を行い、続いて、20~25℃の窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
基板上に形成された有機物の膜厚を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したところ、3nmであった。また、X線光電子分光法(XPS)で元素組成を解析したところ、窒素の強いピークを確認した。
【0087】
[実験例1-2~1-16]
基板表面の金属酸化物の種類、有機物の種類、溶媒の種類、溶液濃度(有機物の濃度)などを、表1に示したように変更した以外は、実験例1-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
[実験例2-1]
IPAに5%のn-ドデシルアミンを溶解させ、有機物としてn-ドデシルアミンと溶媒とを含む溶液を調製した。
次に、この溶液に非金属無機材料としてSi表面を含有する基板を60秒浸漬させ、有機物の膜を堆積させた。溶液の温度は20~25℃であった。その後、20~25℃のIPAの液に60秒、2回浸漬させて、余分な有機物の除去を行い、20~25℃の窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
基板上に形成された有機物の膜厚をAFMで測定したところ、0nmであった。また、XPSで元素組成を解析したところ、窒素のピークは確認できなかった。
【0090】
[実験例2-2~2-8]
基板表面の非金属無機材料の種類、有機物の種類、溶媒の種類、溶液濃度(有機物の濃度)などを、表2に示したように変更した以外は、実験例2-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
なお、上記実験例において、Cu自然酸化膜(Cu酸化膜)含有基板は、シリコン基板上に銅の膜を蒸着により厚さ約100nmで成膜した後、大気中に暴露して得られた。
Co自然酸化膜(Co酸化膜)含有基板は、シリコン基板上にコバルトの膜を蒸着により厚さ約100nmで成膜した後、大気中に暴露して得られた。
Si表面含有基板は、シリコン基板の自然酸化膜を除去して得られた。
SiO表面含有基板は、シリコン基板上に二酸化シリコンの膜を化学的気相堆積法により厚さ約30nmで成膜して得られた。
SiN表面含有基板は、シリコン基板上にSiの化学式で表される窒化シリコン膜を化学的気相堆積法により厚さ約30nmで成膜して得られた。
SiON表面含有基板は、シリコン基板上にSiN表面を形成させた後に酸化してSi(xは3以上6以下、yは2以上4以下)の化学式で表される酸窒化シリコン膜を化学的気相堆積法により厚さ約10nmで成膜して得られた。
【0093】
参考例3-1]
真空プロセスが可能なチャンバ内にCuO表面を含有する基板をセットし、チャンバ圧力を15Torr(2.0kPa 絶対圧)に設定した。次に、チャンバに接続したエチレンジアミンのシリンダーを保温する温度を20℃に設定してバルブを解放し、エチレンジアミンの気体をチャンバに供給し、CuO含有基板に気体のエチレンジアミンを接触させ、基板上に有機物の膜を堆積させた。なお、チャンバの温度は、シリンダーの温度と同じにし、エチレンジアミンの気体の温度は、基板に接触するまで、シリンダーを保温する温度と同じに保たれるようにした。有機物の膜の堆積後、チャンバ内を1Torr(0.13kPa)に減圧して余分な有機物を除去した。
基板上に形成された有機物の膜厚をAFMで測定したところ、8nmであった。また、XPSで元素組成を解析したところ、窒素の強いピークを確認した。
【0094】
[実験例3-2~3-8、3-10~3-16、参考例3-9
基板上の金属酸化物の種類、有機物の種類、シリンダーを保温する温度(有機物加熱温度)、チャンバ圧力(絶対圧力)などを表3に示したように変更した以外は、参考例3-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
参考例4-1]
真空プロセスが可能なチャンバ内に非金属無機材料としてSi表面を含有する基板をセットし、チャンバ圧力を15Torrに設定した。次に、チャンバに接続したエチレンジアミンのシリンダーを保温する温度を20℃に設定してバルブを解放し、Si表面含有基板に気体のエチレンジアミンを接触させた。有機物の膜の堆積後、チャンバ内を0.1Torrに減圧して余分な有機物を除去した。
基板上に形成された有機物の膜厚をAFMで測定したところ、0nmであった。また、XPSで元素組成を解析したところ、窒素のピークは確認できなかった。
【0097】
[実験例4-2~4-5、4-7~4-10、参考例4-6
基板上の非金属無機材料の種類、シリンダーを保温する温度(有機物加熱温度)、チャンバ圧力(絶対圧力)などを表4に示したように変更した以外は、参考例4-1と同様に実施し、評価を行った。その結果を表4に示す。
【0098】
【表4】
【0099】
なお、上記実験例3-1~3-16及び4-1~4-10において、CuO表面含有基板は、蒸着によりシリコン基板上に酸化銅の膜を厚さ約100nmで成膜して得られた。
CoO表面含有基板は、蒸着によりシリコン基板上に酸化コバルトの膜を厚さ約100nmで成膜して得られた。
Si表面含有基板は、シリコン基板の自然酸化膜を除去して得られた。
SiO表面含有基板は、化学的気相堆積法によりシリコン基板上に二酸化シリコンの膜を厚さ約30nmで成膜して得られた。
【0100】
上記した表1~表4に示す結果より明らかなように、上記実験例において、有機物はCuO(Cu酸化膜)、CoO(Co酸化膜)などの金属酸化物表面上には膜を堆積したが、Si、SiO、SiN、SiONなどの非金属無機材料上には膜を堆積しなかった。従って、上記実験例により、金属酸化物が露出した表面領域と非金属無機材料が露出した表面領域を有する基板を用いる場合、表1~表4に示す有機物を用いることにより、金属酸化物が露出した表面領域のみに選択的に膜を堆積させることができることが判明した。
【0101】
特に、表1及び表2に結果が示されている湿式法においては、Rが直鎖状のアルキル基であるn-ドデシルアミン、ステアリルアミンを用いると、厚さ3nm以上の膜を堆積させることができた。一方、Rが環状であるシクロヘキシルアミンやアニリンを用いたところ、膜が堆積されたものの、厚さが1~2nmで薄かった。
【0102】
また、表3及び表4に結果が示されている乾式法においては、特に、実験例3-1~3-6と実験例3-9~3-14では、アミノ基を二つ有する第一級アミンであるエチレンジアミン、アミノ基を一つ有する第一級アミンであるn-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンを用いたため、厚さ3nm以上の膜を堆積することができた。一方、実験例3-7と実験例3-15では、第二級アミンであるジ-n-ブチルアミンを用いたところ、膜が堆積されたものの、厚さが非常に薄かった。
【0103】
一方で、実験例4-5、4-10に示すように、アミノ基とヒドロキシル基(OH基)を有する2-アミノエタノールを用いた場合、Siには膜が堆積しなかったが、SiOには膜が堆積してしまい、SiO表面に対する金属酸化物表面上への選択性が良好でなかった。すなわち、実験例3-1~3-7、及び、実験例3-9~3-15と、実験例4-1~4-4、4-6~4-9に示すように、アミノ基のみを有する一般式(1)で表される有機物を用いることで、第二表面領域がSiとSiOのいずれであったとしても、第二表面領域よりも、金属酸化物を含む第一表面領域に、有機物の膜を選択的に堆積させることができることが判明した。
【0104】
[実験例5-1]
(溶液の調製)
溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)、有機物としてn-オクタデシルアミンを用い、該有機物の濃度が1質量%となるように混合溶解させ、有機物としてn-オクタデシルアミンと溶媒とを含む溶液を調製した。
【0105】
(基板の準備)
膜厚100nmのコバルト膜を有するシリコン基板を30分間、UV/O3照射(ランプ:EUV200WS、ランプとの距離:10mm、UV照射により空気中の酸素からオゾンを発生させる)して表面を酸化し、表面に酸化コバルト(CoOx)を有する基板を得た。
【0106】
(有機物を含む溶液による表面処理)
上記基板を上記溶液に22℃で24時間浸漬させて、基板の表面処理を行い、基板の表面に有機物を堆積させた。その後、IPAに60秒、2回浸漬させて、窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
【0107】
[実験例5-2~5-28]
(溶液の調製)
溶媒として表5に示す溶媒と有機物を用い、該有機物の濃度が表5に示した濃度となるように混合溶解させ、有機物と溶媒とを含む溶液を調製した。
(基板の準備)
実験例5-2~5-13では、実験例5-1と同様に表面に酸化コバルト(CoOx)を有する基板を準備した。
実験例5-14~5-26では、膜厚100nmのコバルト膜を有するシリコン基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に22℃で1分間浸漬させて、表面の自然酸化膜を除去してコバルト膜(Co)を有する基板を得た。
実験例5-27では、膜厚100nmの銅膜を有するシリコン基板を30分間、UV/O3照射(ランプ:EUV200WS、ランプとの距離:10mm、UV照射により空気中の酸素からオゾンを発生させる)して表面を酸化し、表面に酸化銅(CuOx)を有する基板を得た。
実験例5-28では、膜厚100nmの銅膜を有するシリコン基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に22℃で1分間浸漬させて、表面の自然酸化膜を除去して銅膜(Cu)を有する基板を得た。
【0108】
(有機物を含む溶液による表面処理)
上記処理により準備した基板を上記溶液に22℃で24時間浸漬させて、基板の表面処理を行い、基板の表面に有機物を堆積させた。その後、IPAに60秒、2回浸漬させて、窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
【0109】
(水の接触角の測定)
有機物を含む溶液による表面処理を行った実験例5-1~5-28に係る基板表面上に純水約1μlを置き、22℃で水滴とウェハ表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学株式会社製:DM-301)で測定した。その結果を表5に示す。
【0110】
【表5】
【0111】
[実験例6-1~6-15]
(溶液の調製)
溶媒として表6に示す溶媒と有機物を用い、該有機物の濃度が表6に示した濃度となるように混合溶解させ、有機物と溶媒とを含む溶液を調製した。
【0112】
(基板の準備)
実験例6-1~6-8及び6-11~6-15では、膜厚100nmの酸化シリコン膜を有するシリコン基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に22℃で1分間浸漬させて、表面を清浄し、表面が酸化シリコン(SiOx)の基板を得た。
実験例6-9では、膜厚30nmの窒化シリコン膜を有するシリコン基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に22℃で1分間浸漬させて、表面の自然酸化膜を除去して表面が窒化シリコン(SiN)の基板を得た。
実験例6-10では、シリコン基板を濃度0.5質量%のHF水溶液に22℃で1分間浸漬させて、表面の自然酸化膜を除去して表面がシリコンの基板(Si基板)を得た。
【0113】
(表面処理)
上記の処理により得られた基板を上記溶液に22℃で24時間浸漬させて、基板の表面処理を行い、基板の表面に有機物を堆積させた。その後、IPAに60秒、2回浸漬させて、窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
【0114】
(水の接触角の測定)
表面処理を施すことにより準備した実験例6-1~6-15に係る基板表面上に純水約1μlを置き、22℃で水滴とウェハ表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学株式会社製:DM-301)で測定した。その結果を表6に示す。
【0115】
[比較実験例1~6]
(溶液の調製)
比較実験例1、3及び5では、表6に示すように、有機物を含まないIPA溶液を用いた。
比較実験例2、4及び6では、溶媒として表6に示すようにPGMEAを、有機物としてトリメチルシリルジメチルアミンを用い、該有機物の濃度が表6に示した濃度となるように混合溶解させ、有機物と溶媒とを含む溶液を調製した。なお、トリメチルシリルジメチルアミンは、本開示の有機物に該当しない。
【0116】
(基板の準備)
比較実験例1~2では、実験例5-1と同様に表面に酸化コバルト(CoOx)を有する基板を準備し、比較実験例3~4では、実験例5-14と同様にしてコバルト膜(Co)を有する基板を準備し、比較実験例5~6では、実験例6-1と同様にして、表面が酸化シリコン(SiOx)の基板を準備した。
【0117】
(溶液による表面処理)
比較実験例1~6で準備した基板を上記溶液に22℃で24時間浸漬させて、基板の表面処理を行った。その後、IPAに60秒、2回浸漬させて、窒素ガスを60秒間吹き付けて基板を乾燥させた。
【0118】
(水の接触角の測定)
比較実験例1~6に係る基板表面上に純水約1μlを置き、22℃で水滴とウェハ表面とのなす角(接触角)を接触角計(協和界面科学株式会社製:DM-301)で測定した。その結果を表6に示す。
【0119】
【表6】
【0120】
表5~6に示した結果より明らかなように、一般式(1)で示される有機物を含む溶液を用いて、同一の溶液で処理する場合、Cu酸化物、Co酸化物、Cu、及び、Coが表面に露出した基板は、シリコン、酸化シリコン、及び窒化シリコンが露出した基板をよりも接触角が高くなった。すなわち、Cu酸化物、Co酸化物、Cu、及び、Coが表面に露出した基板上に、一般式(1)で示される有機物の膜が選択的に形成されていることが確認された。
【0121】
なお、比較実験例2、4、6を比べると、比較実験例6の接触角が最も大きいことから、トリメチルシリルジメチルアミンは、Co酸化物やCoに比べて、SiOx上に選択的に堆積していると考えられる。
【0122】
なお、一般式(1)で表される有機物は、Co、Cu、Coの酸化物、Cuの酸化物以外にも、半導体装置などの配線材料や電極材料として適する導電性材料であるRu、Ni、Pt、Al、Ta、Ti、Hfなどの金属や、Ru、Ni、Pt、Al、Ta、Ti、Hfなどの金属酸化物上にも膜を堆積させることができる。