(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】劣化検出装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240612BHJP
F04B 51/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H02P29/024
F04B51/00
(21)【出願番号】P 2021162306
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】的崎 託也
(72)【発明者】
【氏名】井上 峰雄
(72)【発明者】
【氏名】尾中 正人
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-346323(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047518(WO,A1)
【文献】特開2017-017889(JP,A)
【文献】特開昭58-082111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
F04B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ(12)と、上記ロータ(12)の回転力を出力する出力部とを有するモータ(1)と、
上記ロータ(12)の回転力を受ける入力部を有するポンプ(2)と、
上記ロータ(12)の回転角を検出すると共に、上記ロータ(12)の回転角を示す回転角信号を送出する回転角センサ(3)と、
上記回転角信号が入力され、上記モータ(1)を制御する制御部(4)と
を備え、
上記モータ(1)の出力部(14)と上記ポンプ(2)の入力部とは、嵌め合いの構成で互いに結合し、
上記制御部(4)は、
上記モータ(1)への供給電流を調整することで、上記ポンプ(2)を駆動しないようにしつつ、上記ロータ(12)を正逆方向に回転させたとき、上記回転角信号を用いて、上記ロータ(12)の正方向の実回転量と、上記ロータ(12)の逆方向の実回転量とを算出し、
上記ロータの正逆方向の実回転量に基づいて、上記モータ(1)と上記ポンプ(2)の結合部分の劣化を検出する、劣化検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化検出装置において、
上記ロータ(12)の正逆方向の回転は複数回行われて、上記ロータ(12)の正方向の実回転量が複数算出されると共に、上記ロータ(12)の逆方向の実回転量が複数算出される、劣化検出装置。
【請求項3】
ロータ(12)と、上記ロータ(12)の回転力を出力する出力部とを有するモータ(1)と、
上記ロータ(12)の回転力を受ける入力部を有するポンプ(2)と、
上記ロータ(12)の回転角を検出すると共に、上記ロータ(12)の回転角を示す回転角信号を送出する回転角センサ(3)と、
上記回転角信号が入力され、上記モータ(1)を制御する制御部(4)と
を備え、
上記モータ(1)の出力部(14)と上記ポンプ(2)の入力部とは、嵌め合いの構成で互いに結合し、
上記制御部(4)は、
上記ポンプ(2)を駆動しないように上記ロータ(12)を正逆方向に回転させたとき、上記回転角信号を用いて、上記ロータ(12)の正方向の実回転量と、上記ロータ(12)の逆方向の実回転量とを算出し、
上記ロータの正逆方向の実回転量に基づいて、上記モータ(1)と上記ポンプ(2)の結合部分の劣化を検出し、
上記ロータ(12)の正逆方向の回転は複数回行われて、上記ロータ(12)の正方向の実回転量が複数算出されると共に、上記ロータ(12)の逆方向の実回転量が複数算出され、
上記ロータ(12)の正逆方向の回転が行われた後、上記ロータ(12)の正逆方向の回転が行われたとき、前の上記ロータ(12)の正逆
方向の回転のときよりも、後の上記ロータ(12)の正逆方向の回転のときの方が、上記モータ(1)に供給される電流が高くなる、劣化検出装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の劣化検出装置において、
上記モータ(1)の出力部(14)は、上記ポンプ(2)の入力部(21)にスプライン結合している、劣化検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、劣化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ユニットとしては、ポンプと、このポンプを駆動するモータとを備えたものがある(例えば特許第4250797号公報(特許文献1)参照)。
【0003】
上記ポンプとしては、モータからの回転力をスプライン軸で受けるものがある。このスプライン軸を有するポンプを使用する場合、モータには、スプライン軸が挿入されるスプライン穴が形成される。
【0004】
上記スプライン軸を有するモータを長年使用し続けると、スプライン軸またはスプライン穴で摩耗等の劣化が進行して、最悪、スプライン軸の歯などが摩滅してしまう。こうなると、上記モータを備える油圧ユニットが停止してしまうため、スプライン軸およびスプライン穴の定期的な点検は必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記スプライン軸およびスプライン穴の点検時、スプライン軸およびスプライン穴の状態を目視で確認する。このため、上記点検では、油圧ユニットを停止させた後、スプライン穴からスプライン軸を引き抜かないといけないが、ポンプの重量は数十kgであるため、点検作業の負荷は大きいという問題があった。
【0007】
本開示の課題は、モータおよびポンプの点検作業に係る負荷を低減できる劣化検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る劣化検出装置は、
ロータと、上記ロータの回転力を出力する出力部とを有するモータと、
上記ロータの回転力を受ける入力部を有するポンプと、
上記ロータの回転角を検出すると共に、上記ロータの回転角を示す回転角信号を送出する回転角センサと、
上記回転角信号が入力され、上記モータを制御する制御部と
を備え、
上記制御部は、上記ポンプを駆動しないように上記ロータを正逆方向に回転させたとき、上記回転角信号を用いて、上記ロータの正方向の実回転量と、上記ロータの逆方向の実回転量とを算出する。
【0009】
上記構成によれば、上記ロータがポンプを駆動しないように正逆方向に回転したとき、ロータの正逆方向の実回転量が算出される。したがって、上記ロータの正逆方向の実回転量に基づいて、モータの出力部とポンプの入力部とにおける劣化の進行状況を把握することができる。したがって、上記モータおよびポンプの点検作業に係る負荷を低減することができる。
【0010】
一実施形態の劣化検出装置では、
上記ロータの正逆方向の回転は複数回行われて、上記ロータの正方向の実回転量が複数算出されると共に、上記ロータの逆方向の実回転量が複数算出される。
【0011】
上記実施形態によれば、上記ロータの複数の正方向の実回転量と、ロータの複数の逆方向の実回転量とが算出されるので、この複数の正逆方向の実回転量に基づいて、モータの出力部とポンプの入力部とにおける劣化の進行状況を正確に把握することができる。
【0012】
一実施形態の劣化検出装置では、
上記ロータの正逆方向の回転が行われた後、上記ロータの正逆方向の回転が行われたとき、前の上記ロータの正逆向の回転のときよりも、後の上記ロータの正逆方向の回転のときの方が、上記モータに供給される電流が高くなる。
【0013】
上記実施形態によれば、上記前のロータの正逆方向の回転のときよりも、後のロータの正逆方向の回転のときの方が、モータに供給される電流が高くなるので、ロータが回転しないリスクを下げることができる。
【0014】
一実施形態の劣化検出装置では、
上記モータの出力部は、上記ロータの入力部にスプライン結合している。
【0015】
上記実施形態によれば、上記モータの出力部はロータの入力部にスプライン結合するので、モータの出力部とロータの入力部との間における動力の伝達効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態の劣化検出装置を説明するための模式図である。
【
図2】上記劣化検出装置のモータおよびポンプの断面図である。
【
図4A】上記劣化検出装置の制御に関するフローチャートである。
【
図5】上記モータへの供給電流とのロータの実回転量との関係を示すグラフである。
【
図6】正常状態を説明するための模式断面図である。
【
図7】異常状態を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の油圧ユニットを図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
図1は、本開示の一実施形態の劣化検出装置を説明するための模式図である。
【0019】
上記劣化検出装置は、モータ1と、このモータ1に取り付けられたポンプ2と、モータ1に搭載された回転角センサ3と、モータ1を制御するコントローラ4と、ノートパソコン5とを備えている。なお、コントローラ4は制御部の一例です。
【0020】
回転角センサ3は、例えば磁気式エンコーダであって、モータ1のロータ12(
図2に示す)の回転角を検出すると共に、その回転角を示す回転角信号をコントローラ4に送出する。
【0021】
コントローラ4は、マイクロコンピュータ、入出力回路などからなって、モータ1を制御する。このコントローラ4は、回転角センサ3からの回転角信号を受信する。また、コントローラ4には劣化検出ソフト41がインストールされている。
【0022】
ノートパソコン5は、例えば液晶ディスプレイなどで構成された表示部51と、複数のキーで構成された入力部52とを備えている。表示部51は、コントローラ4からの信号が示す情報を表示する。
【0023】
また、ユーザは、ノートパソコン5の入力部52を操作して、劣化検出ソフト41を立ち上げる。
【0024】
図2は、モータ1およびポンプ2の概略断面図である。
【0025】
モータ1は、ケーシング11と、このケーシング11内に回転可能に配置されたロータ12と、ケーシング11内に回転不可能に配置されたステータ13と、ロータ12に固定された出力軸14とを備えている。なお、出力軸14は出力部の一例である。
【0026】
ケーシング11は、第1端板111と、この第1端板111よりもポンプ2から遠くに配置された第2端板112と、筒部113とを有している。
【0027】
第1端板111は、複数のボルト(図示せず)を使用して、筒部113の軸方向の一端部(ポンプ2側の端部)に固定される。この第1端板111の中央部には貫通穴111aが設けられ、出力軸14の一端部が貫通穴111aに挿入されている。また、貫通穴111aの内周面には、出力軸14の一端部を回転可能に支持する第1軸受15が取り付けられている。
【0028】
第2端板112は、第1端板111と同様に、筒部113の軸方向の他端部(ポンプ2側とは反対側の端部)に複数のボルトで固定されている。この第2端板112には第2軸受16が取り付けられており、出力軸14の他端部が第2軸受16で回転可能に支持されている。
【0029】
筒部113は、ロータ12およびステータ13を収容する。この筒部113の軸方向の長さは、ロータ12の軸方向の長さよりも長いが、出力軸14より短くなっている。
【0030】
ロータ12は、例えば、積層された複数の電磁鋼板と複数の永久磁石となどを使用して製造される。このロータ12とステータ13との間には所定の隙間が全周にわたって設けられている。
【0031】
ステータ13は、ロータ12を取り囲むステータコア131と、このステータコア131に分布巻きされたコイル132とを有する。このステータコア131は、ケーシング11の筒部113の内周面に固定されている。また、コイル132には、コントローラ4によって制御された電流が供給される。
【0032】
出力軸14は、ロータ12と一体に回転して、ロータ12の回転力を出力する。この出力軸14は、ロータ12を軸方向に貫通する貫通穴12aに挿し通され、一端部がロータ12の軸方向の一端面から突出すると共に、他端部がロータ12の軸方向の他端面から突出している。
【0033】
図3は、
図2の一部(モータ1とポンプ2との結合部およびその周辺部)の拡大図である。
【0034】
ポンプ2は、モータ1の出力軸14にスプライン結合する入力軸21を備えている。この入力軸21が回転することにより、ポンプ2からアクチュエータ(図示せず)へ作動油が供給される。なお、入力軸21は入力部の一例である。
【0035】
より詳しく説明すると、出力軸14のポンプ2側の端面には、入力軸21のモータ1側の端部が挿入されるモータ穴14aが形成されている。このモータ穴14aの内周面には、出力軸14の軸方向に沿って延びる内歯スプライン141が設けられている。一方、入力軸21の外周面には、入力軸21の軸方向に沿って延びる外歯スプライン211が設けられている。この外歯スプライン211が内歯スプライン141に噛み合う。
【0036】
以下、
図4A,
図4Bのフローチャートを用いて、内歯スプライン141および外歯スプライン211の摩耗状況を診断するための制御(以下「摩耗診断制御」という。)について説明する。なお、上記摩耗診断制御は、ノートパソコン5へのユーザの操作に応じて開始する。
【0037】
上記摩耗診断制御が開始すると、劣化検出ソフトが起動し、
図4Aに示すように、ステップS1で、コントローラ4が診断モードに設定される。
【0038】
次に、ステップS2で、ロータ12の位置調整を行う。より詳しくは、ロータ12が基準位置に位置するように、ロータ12を回転させる。
【0039】
次に、ステップS3で、コントローラ4のメモリ(図示せず)にロータ12の位置を記憶する。
【0040】
次に、ステップS4,S5で、摩耗診断の回数Nを0に初期化した後、摩耗診断の回数Nを1増加させる。
【0041】
次に、ステップS6で、モータ1への供給電流を調整するための電流指令値を設定する。この電流指令値は、所定の検査条件値Cに摩耗診断の回数Nを乗じた後、10で除して求められる。ここで、検査条件値Cは、例えば、テスト運転などにおいて予め設定された値である。より詳しくは、上記テスト運転などにおいて、ロータ12のみが回転するようにモータ1への供給電流の値を調整し、その値を検査条件値Cとする。なお、ロータ12のみが回転するときは、ポンプ2の入力軸21は回転しないが、モータ1の出力軸14が回転するときとも言える。
【0042】
次に、
図4Bに示すように、ステップS7で、ロータ12の正逆回転の回数Mを0に初期化する。ここで、ロータ12の正逆回転の回数Mは、ロータ12の正回転とロータ12の逆回転とがそれぞれ一回行われときに1カウントされる数である。例えば、ロータ12の正逆回転の回数Mが2であれば、ロータ12の正回転とロータ12の逆回転とがそれぞれ二回行われている。
【0043】
次に、ステップS8で、ロータ12の正逆回転の回数Mが2以下であるか否かを判定する。
【0044】
ステップS8で、ロータ12の正逆回転の回数Mが2以下であると判定した場合、まず、ステップS9で、ステップS6の電流指令値の供給電流でモータ1を正回転させる。引き続き、ステップS10で、ステップS6の電流指令値でモータ1を逆回転させる。そして、ステップS11で、ロータ12の正逆回転の回数Mを1増加させた後、ステップS8に戻る。
【0045】
ステップS9では、回転角センサ3からの回転角信号に基づいて、ロータ12の正方向の実回転量が検出される。但し、上記実回転量は、ロータ12の正逆回転の回数Mが2であるときのみ、コントローラ4のメモリに記憶される。なお、ロータ12の正方向の実回転量とは、ロータ12が実際に正方向に回転した角度を意味する。
【0046】
ステップS10でも、ステップS9と同様に、ロータ12の逆方向の実回転量が検出され、ロータ12の正逆回転の回数Mが2であるときのロータ12の逆方向の実回転量をコントローラ4のメモリに記憶させる。なお、ロータ12の逆方向の実回転量とは、ロータ12が実際に逆方向に回転した角度を意味する。
【0047】
一方、ステップS8で、ロータ12の正逆回転の回数Mが2以下でないと判定した場合、ステップS12で、摩耗診断の回数Nが10であるか否かを判定する。このステップS12で、摩耗診断の回数Nが10であると判定すると、上記摩耗診断制御は終了するが、摩耗診断の回数Nが10でないと判定すると、
図4AのステップS5に戻る。
【0048】
このような摩耗診断制御の終了後、ノートパソコン5の表示部51が、摩耗診断の各回で検出されたロータ12の実回転量を表示する。このとき、ステップS9でコントローラ4のメモリに記憶された実回転量と、ステップS10でコントローラ4のメモリに記憶された実回転量とのうち、比較的大きい実回転量が、摩耗診断の各回で検出されたロータ12の実回転量として使用される。
【0049】
図5は、ロータ12の実回転量とモータ1への供給電流との関係を示すグラフである。
【0050】
図4A,
図5に示すように、ステップS6の設定によって、摩耗診断の回数の増加に応じて、電流指令値も増加するため、摩耗診断の1回目は、モータ1への供給電流がX1[A]よりも小さくなり、ロータ12が回転しない。その後、上記摩耗診断の回数がある回数になると、モータ1への供給電流が、X1[A]よりも大きく、かつ、X3よりも小さいX2[A]となり、ロータ12のみが回転する。なお、X1[A]は、ロータ12の回転が開始すると想定した電流値であり、モータ1の個体差によってばらつく値である。また、X3[A]は、ポンプ2の駆動が開示すると想定した電流値であり、ポンプ2の個体差によってばらつく値である。
【0051】
このように、モータ1への供給電流をX2[A]にして、ポンプ2を駆動しないでロータ12を回転させたとき、内歯スプライン141および外歯スプライン211の摩耗が進んでいなくて正常であると、
図6に示すように、内歯スプライン141と外歯スプライン211との周方向の隙間が狭い。その結果、
図5に示すように、ロータ12の実回転量がY1[度]~Y2[度]の範囲内に入る。なお、上記摩耗が正常とは、内歯スプライン141または外歯スプライン211のメンテナンスを行わなくても、ポンプ2を正常に駆動できる状態を意味する。
【0052】
一方、例えば、内歯スプライン141の側壁の摩耗が進んで異常になると、
図7に示すように、内歯スプライン141の側壁の形状が二点鎖線から実線のようになって、内歯スプライン141と外歯スプライン211との周方向の隙間が広くなってしまう。その結果、モータ1への供給電流をX2[A]にして、ポンプ2を駆動しないでロータ12を回転させたとき、ロータ12の実回転量がY2[度]を超えてしまう。なお、上記摩耗が異常とは、内歯スプライン141または外歯スプライン211のメンテナンスを行わなければ、短期間でポンプ2を正常に駆動できなくなる状態を意味する。
【0053】
また、図示しないが、外歯スプライン211の側壁で異常な摩耗が生じても、モータ1への供給電流をX2[A]にして、ポンプ2を駆動しないでロータ12を回転させたとき、ロータ12の実回転量がY2[度]を超えてしまう。
【0054】
また、ステップS6の設定で使用する式は、摩耗診断の回数が10回目になったときに、モータ1への供給電流が、X1[A]よりも大きく、かつ、X3[A]よりも小さいX2[A]となるように作成されている。なお、モータ1への供給電流がX3[A]になったとき、ポンプ2が駆動する。
【0055】
上記構成の劣化診断装置では、上記摩耗診断制御により、ステップS1~S12が行われる。このステップS9では、ロータ12の正方向の実回転量が算出される。一方、ステップS10では、ロータ12の逆方向の実回転量が算出される。したがって、ロータ12の正逆方向の実回転量に基づいて、内歯スプライン141または外歯スプライン211において、異常な摩耗が生じているか否かを判定することができる。その結果、内歯スプライン141または外歯スプライン211の摩耗状況を確認するために、モータ1およびポンプ2を分解しなくて済むので、モータ1およびポンプ2の点検作業に係る負荷を低減することができる。
【0056】
また、ロータ12の正方向の実回転量が複数算出されると共に、ロータ12の逆方向の実回転量が複数算出されるので、この複数の正逆方向の実回転量に基づいて、内歯スプライン141または外歯スプライン211の摩耗状況を正確に判定することができる。すなわち、内歯スプライン141または外歯スプライン211の摩耗判定の信頼性を高めることができる。
【0057】
また、ステップS5,S6によって、摩耗診断の前の回に比べて、摩耗診断の後の回の方が、モータ1への供給電流が大きくなるので、摩耗診断の前の回でロータ12を回転さることができなかったとしても、摩耗診断の後の回でロータ12を回転させることができる。別の言い方をすると、摩耗診断のエラーを回避することができる。
【0058】
また、モータ1の出力軸14とポンプ2の入力軸21との結合は、スプライン結合なので、モータ1の出力軸14からポンプ2の入力軸21への動力の伝達ロスを減らすことができる。
【0059】
また、上記摩耗診断を行うとき、ロータ12の実回転量が最初に検出されるときの電流値が、予め想定していた電流値と異なるとき、例えば第1,第2軸受15,16の劣化などが生じていると推測できる。したがって、ロータ12の実回転量が最初に検出されるときの電流値に基づいて、異常摩耗以外の不具合の発生を推測できる。
【0060】
上記実施形態では、コントローラ4とノートパソコン5との間の通信は、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0061】
上記実施形態では、劣化検出装置が、ノートパソコン5を備えていたが、ノートパソコン5の換わりに、他の携帯端末(例えば、タブレット端末、スマートフォンなど)を備えるようにしてもよい。
【0062】
上記実施形態では、劣化検出装置が、ノートパソコン5を備えていたが、ノートパソコン5を備えないようにしてもよい。このようにするする場合、劣化検出装置は、例えば、ノートパソコン5の表示部51で表示される診断結果を音声で報知するスピーカを備えてもよい。
【0063】
上記実施形態では、ポンプ2の入力軸21とモータ1の出力軸14との結合は、スプライン結合であったが、他の結合にしてもよい。例えば、ポンプ2の入力軸21をDカット軸に変更する一方、モータ1の出力軸14のモータ穴14aを、そのDカット軸が嵌まる形状に変更してもよい。あるいは、ポンプ2の入力軸21をセレーション軸に変更する一方、モータ1の出力軸14のモータ穴14aを、そのセレーション軸が嵌まる形状に変更してもよい。あるいは、ポンプ2の入力軸21とモータ1の出力軸14とを、キーで結合するように変更してもよい。
【0064】
上記実施形態では、モータ1の出力軸14に内歯スプライン141が設けられる一方、ポンプ2の入力軸21に、内歯スプライン141に噛み合う外歯スプライン211が設けられていたが、ポンプ2の入力軸21に内歯スプラインが設けられる一方、モータ1の出力軸14に、その内歯スプラインに噛み合う外歯スプラインが設けられるようにしもよい。
【0065】
上記実施形態では、モータ1の出力軸14は、ポンプ2の入力軸21に直接連結されていたが、例えば、カップリングを介してポンプ2の入力軸21に連結されるようにしてもよい。このようにした場合、上記カップリングの連結部分の隙間の量も、上記実施形態のような方法で検出することができる。
【0066】
上記実施形態では、ポンプ2は、作動油を吐出していたが、作動油以外の作動流体を吐出するようにしてもよい。
【0067】
上記実施形態では、
図4A,
図4Bのフローチャートで説明した摩耗診断制御は、ノートパソコン5へのユーザの操作に応じて開始していたが、例えば、ユーザが予め設定したタイミングで自動的に開始するようにしてもよい。
【0068】
上記実施形態では、上記摩耗診断制御の終了後、ロータ12の実回転量は、ユーザに視覚的に報知されていたが、ユーザに聴覚的に報知されるようにしてもよい。
【0069】
上記実施形態では、摩耗診断の各回において、ロータ12の実回転量がコントローラ4のメモリに2つ記憶される。この2つの実回転量のうち、大きい方の実回転量がユーザに報知されていたが、その2つの実回転量の平均値がユーザに報知されるようにしてもよい。
【0070】
上記実施形態では、劣化診断装置は、ポンプ2の入力軸21とモータ1の出力軸14とにおける摩耗の進行状況を検出していたが、ポンプ2の入力軸21の固着も検出できる。
【0071】
上記実施形態では、ロータ12のn(1~9の範囲内の自然数)回目の正逆回転時に比べて、ロータ12のn+1回目の正逆回転時の方が、モータ1に供給される電流が高くなるようにしていたが、ロータ12のn回目の正逆回転時に比べて、ロータ12のn+1回目の正逆回転時の方が、モータ1に供給される電流が低くなるようにしてもよい。
【0072】
上記実施形態では、コイル132は、ステータ131に分布巻きされていたが、ステータ131に集中巻きされるようにしてもよい。
【0073】
上記実施形態では、ステップS6の設定で使用する式は、摩耗診断の回数が10回目になったときに、モータ1への供給電流が、X1[A]よりも大きく、かつ、X3よりも小さくなるように作成されているが、摩耗診断の回数が例えば5回目になったときに、モータ1への供給電流が、X1[A]よりも大きく、かつ、X3よりも小さくなるように作成されてもよい。
【0074】
本開示の具体的な実施の形態について説明したが、本開示は上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、上記実施形態で記載した内容の一部を削除または置換したものを、本開示の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 モータ
2 ポンプ
3 回転角センサ
4 コントローラ
5 ノートパソコン
11 ケーシング
12 ロータ
13 ステータ
14 出力軸
21 入力軸
21a モータ穴
141 内歯スプライン
211 外歯スプライン