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  • 特許-車両用空調装置 図1
  • 特許-車両用空調装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
B60H1/32 623K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020039858
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021138330
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 勝哉
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-205931(JP,A)
【文献】特開2007-313923(JP,A)
【文献】特開2019-100591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源から伝達される動力によって作動する圧縮機を有する冷凍サイクルを備え、冷媒が潤滑油とともに前記圧縮機で圧縮され、前記圧縮機から吐出される冷媒及び潤滑油が前記冷凍サイクル内を循環するように構成された車両用空調装置において、
前記圧縮機の最初の起動を判定する判定部と、
前記動力源の回転数を検出する回転数検出部と、
前記判定部で前記圧縮機の最初の起動が判定されたとき、前記回転数検出部で検出される前記動力源の回転数に基づいて、前記冷凍サイクル内を循環する冷媒の循環量を推定する推定部と、
前記推定部で推定された冷媒の循環量が、前記冷凍サイクル内に冷媒を行き渡らせるために必要な所定量に達するまでの間、前記圧縮機を所定回転数以下で作動させる制御部と、
を含み、
前記推定部は、前記動力源の回転数のみを変数として冷媒の循環量を推定する場合に、外気温度が相対的に低いときの推定値に対する補正量を、外気温度が相対的に高いときの推定値に対する補正量よりも多くすることを特徴とする車両用空調装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機の慣らし運転が行われる車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置では、車両搭載後に初めて圧縮機を作動させる場合に「慣らし運転」が行われている。この圧縮機の慣らし運転では、圧縮機の内部に冷媒とともに封入されている潤滑油が冷凍サイクル内に行き渡るまでの間、圧縮機の回転数が所定値以下に制限される。圧縮機の回転数を所定値以下に制限する理由は、潤滑油が冷凍サイクルに行き渡る前に圧縮機の回転数が高くなると、圧縮機の摩耗等の原因となり、最悪の場合、圧縮機の故障が生じてしまうためである。例えば、特許文献1に開示されている車両用空調装置では、車両搭載後に、圧縮機の最初の起動が判定されると、圧縮機を所定回転数以下にて所定時間、運転させる制御を行うことで、慣らし運転の自動化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4682440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、様々な車種が1つの生産ラインで組み立てられる場合、車両用空調装置における冷凍サイクルの構成(例えば、圧縮機に繋がる配管の長さなど)が車種によって異なる可能性がある。この場合、上記従来の車両用空調装置では、最も長い配管を有する車種の慣らし運転に必要な時間を、当該車種よりも配管の短い他の車種の慣らし運転にも設定せざるを得ない。このため、配管の短い他の車種の慣らし運転に必要以上の時間が割かれることになり生産効率が低下してしまう。また、作業者が慣らし運転に必要な時間を車種別に確認して設定するような場合も、工場での生産時間の増加につながり、改善の余地があった。
【0005】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧縮機の慣らし運転に必要な時間が車種によって異なる場合でも慣らし運転を効率良く行うことができる車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、動力源から伝達される動力によって作動する圧縮機を有する冷凍サイクルを備え、冷媒が潤滑油とともに前記圧縮機で圧縮され、前記圧縮機から吐出される冷媒及び潤滑油が前記冷凍サイクルを循環するように構成された車両用空調装置を提供する。この車両用空調装置は、前記圧縮機の最初の起動を判定する判定部と、前記動力源の回転数を検出する回転数検出部と、前記判定部で前記圧縮機の最初の起動が判定されたとき、前記回転数検出部で検出される前記動力源の回転数に基づいて、前記冷凍サイクル内を循環する冷媒の循環量を推定する推定部と、前記推定部で推定された冷媒の循環量が、前記冷凍サイクル内に冷媒を行き渡らせるために必要な所定量に達するまでの間、前記圧縮機を所定回転数以下で作動させる制御部と、を含み、前記推定部は、前記動力源の回転数のみを変数として冷媒の循環量を推定する場合に、外気温度が相対的に低いときの推定値に対する補正量を、外気温度が相対的に高いときの推定値に対する補正量よりも多くする
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両用空調装置によれば、推定部で推定される冷媒の循環量に基づき冷凍サイクル内に冷媒及び潤滑油が行き渡ったかどうかが判断されて圧縮機の慣らし運転が制御されるようになる。これにより、圧縮機の慣らし運転を車種ごとに最適な時間で行うことができるため、生産効率の向上を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態による車両用空調装置の構成を示す概念図である。
図2】上記実施形態における圧縮機の慣らし運転の制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による車両用空調装置の構成を示す概念図である。図1において、本実施形態の車両用空調装置1は、エンジン2等のパワーユニットを搭載したパワーユニット搭載ルームE内に圧縮機3を備えている。
【0010】
圧縮機3は、動力源であるエンジン2から伝達される動力によって作動する。圧縮機3の内部には、潤滑油が混合された冷媒が封入されている。圧縮機3は、冷媒を潤滑油とともに圧縮して吐出する。エンジン2から圧縮機3への動力の伝達は、エンジン2のクランクシャフトに設けられたプーリー2aと圧縮機3に設けられたプーリー3aとに掛け渡されたベルト4、及び電磁クラッチ5を介して行われる。電磁クラッチ5は、圧縮機3の作動時に圧縮機3側のプーリー3aと電気的に接続され、エンジン2からの動力を圧縮機3に伝達する。電磁クラッチ5の接続状態は、空調用電子制御ユニット(ECU)21から出力される信号に従って制御される。圧縮機3で圧縮された冷媒及び潤滑油は吐出側ホース6を通してコンデンサー7に送られる。
【0011】
コンデンサー7は、圧縮機3で圧縮された冷媒(気体)を冷却して液化させる。コンデンサー7には、ファン8によって外気が引き込まれており、冷媒の冷却が外気を利用して行われる。コンデンサー7で冷却された冷媒(液体)は、液パイプ9の中を通ってカーエアコン(HVAC)10に送られる。
【0012】
カーエアコン(HVAC)10は、車室R側に配置されており、膨張弁11とエバポレーター12とを有する。膨張弁11は、コンデンサー7で液化された冷媒を小さなノズル穴から噴射し、気化し易い霧状となった冷媒をエバポレーター12内へ送る。エバポレーター12では、霧状の冷媒が周囲の熱を奪って気化する。これによりエバポレーター12が冷やされ、エバポレーター12の周辺に図示を省略したブロワファン等からの風を送ることで冷風が生成される。エバポレーター12で気化された冷媒は、膨張弁11及び吸入側ホース13を経由して圧縮機3に戻され、再び圧縮される。
【0013】
本実施形態の車両用空調装置1における冷凍サイクルCは、圧縮機3、吐出側ホース6、コンデンサー7、液パイプ9、膨張弁11、エバポレーター12、及び吸入側ホース13によって形成される。図1中の破線矢印は、冷凍サイクルC内を循環する冷媒(及び潤滑油)の移動方向を表している。
【0014】
前述した電磁クラッチ5を介して圧縮機3の作動/非作動を制御可能な空調用電子制御ユニット(ECU)21は、CPU等のプロセッサ、フラッシュROM等の不揮発性メモリ、RAM等の揮発性メモリ、外部機器との入出力インターフェース、及びこれらを相互に通信可能に接続するバスを有する周知のマイクロコンピュータを備えている。空調用電子制御ユニット21には、エンジン回転数検出部22、温度検出部23、及びエアコンスイッチ24等から出力される各信号がそれぞれ入力される。
【0015】
エンジン回転数検出部22は、例えば、エンジン2側のプーリー2aのクランク角度を角度検出センサ等により計測し、その計測値からエンジン2の回転数を検出する。エンジン回転数検出部22は、検出したエンジン2の回転数を示す信号を空調用電子制御ユニット21に出力する。温度検出部23は、圧縮機3の近傍に配置した温度センサ等により圧縮機3の温度を検出し、その検出値を示す信号を空調用電子制御ユニット21に出力する。
【0016】
エアコンスイッチ24は、車室R内の計器盤周辺に配置される図示を省略した空調操作パネルに備えられている。エアコンスイッチ24は、乗員による手動操作に応じて車両用空調装置1のオン/オフ、具体的には、冷凍サイクルCにおける圧縮機3の作動/非作動を切り替えるための操作信号を生成し、その操作信号を空調用電子制御ユニット21に出力する。
【0017】
空調用電子制御ユニット21は、車両用空調装置1が搭載される車両の図示を省略したイグニッションスイッチがオンされてバッテリーに接続されることにより起動される。起動後、空調用電子制御ユニット21は、エアコンスイッチ24からの操作信号を監視し、エアコンスイッチ24がオンされた回数、すなわち、圧縮機3の作動が選択された回数(以下、「圧縮機3のオン回数」とする)を累積的にカウントする。圧縮機3のオン回数のカウント値は、不揮発性メモリに記憶され、イグニッションスイッチがオフされたときにも保持される。空調用電子制御ユニット21は、圧縮機3のオン回数のカウント値が「0」から「1」になることにより、車両搭載後における圧縮機3の最初の起動を判定する。
【0018】
また、空調用電子制御ユニット21は、圧縮機3の最初の起動を判定すると、エンジン回転数検出部22からの出力信号によって示されるエンジン2の回転数に基づいて、冷凍サイクルC内を循環する冷媒の循環量を推定する。さらに、空調用電子制御ユニット21は、推定した冷媒の循環量が所定量に達するまでの間、圧縮機3を所定回転数以下で作動させるための制御信号を生成し、該制御信号を電磁クラッチ5に出力する。冷媒の循環量の判定基準となる所定量は、冷凍サイクルC内に冷媒を行き渡らせるために必要な量である。この所定量は、圧縮機3に繋がる吐出側ホース6や吸入側ホース13の長さなどの冷凍サイクルCの構成に合わせて車種ごとに設定されている。なお、本実施形態では、空調用電子制御ユニット21が本発明における判定部、推定部、及び制御部に相当する。
【0019】
次に、本実施形態による車両用空調装置1の動作について詳しく説明する。
上述したような構成の車両用空調装置1では、車両搭載後に圧縮機3を初めて作動させる場合に、空調用電子制御ユニット21による制御の下で圧縮機3の慣らし運転が行われる。この慣らし運転の制御動作は、車両用空調装置1が搭載された車両のイグニッションスイッチがオンされて空調用電子制御ユニット21が起動されることにより開始される。図2のフローチャートは、空調用電子制御ユニット21による圧縮機3の慣らし運転の制御動作の一例を示している。
【0020】
まず、図2のステップS10において、空調用電子制御ユニット21は、車両搭載後に圧縮機3が初めて起動されたことを示す起動信号を受けたか否かを判定する。この起動信号は、エアコンスイッチ24からの操作信号を用いた圧縮機3のオン回数のカウント値が「0」から「1」になることにより生成される。このため空調用電子制御ユニット21では、起動信号の受信により圧縮機3の最初の起動が判定される。圧縮機3の最初の起動が判定された場合(YES)、続くステップS20に進む。一方、圧縮機3の2回目以降の起動、すなわち、圧縮機3のオン回数のカウント値が2以上で起動信号の受信がない場合には(NO)、既に圧縮機3の慣らし運転が完了していることになるのでステップS80に移る。
【0021】
ステップS20において、空調用電子制御ユニット21は、エンジン2の回転数が所定範囲内にあるか否かの判定を行う。エンジン2の回転数は、空調用電子制御ユニット21の起動直後より、エンジン回転数検出部22から空調用電子制御ユニット21に所定周期で出力される信号を用いて取得される。なお、エンジン2の回転数と同様にして、空調用電子制御ユニット21では、温度検出部23から所定周期で出力される信号を用いて圧縮機3の温度も取得される。上記エンジン2の回転数の判定の基準となる所定範囲は、圧縮機3を所定回転数以下で作動させることが可能なエンジン2の回転数の範囲を定めている。つまり、エンジン2の回転数が所定範囲内にあれば、そのエンジン2の回転数に後述するプーリー比を乗じた値が、慣らし運転時の圧縮機3の回転数制限に対応した所定回転数以下となる。上記ステップS20の判定において、エンジン2の回転数が所定範囲内にある場合には(YES)、続くステップS30に進み、エンジン2の回転数が所定範囲内にない場合には(NO)、ステップS20に戻り、再度判定を行う。
【0022】
ステップS30において、空調用電子制御ユニット21は、エアコンをオンにする、すなわち、電磁クラッチ5をオン状態にして圧縮機3を作動させるための制御信号を生成し、該制御信号を電磁クラッチ5に出力する。これにより、圧縮機3が所定回転数以下で作動を開始する。
【0023】
続くステップS40で空調用電子制御ユニット21は、取得したエンジン2の回転数と圧縮機3の温度とを用い、次の(1)式に示す関係を利用することにより、冷凍サイクルC内を循環する冷媒の循環量を推定する。
[冷媒の流量]=[動力源の回転数]×[動力伝達比]×[冷媒吐出量]
×[冷媒吸い込み密度]×[機械効率]×[体積効率]…(1)
【0024】
上記(1)式の関係において、左辺の「冷媒の流量」は、冷凍サイクルC内を循環する冷媒の単位時間当たりの循環量に相当する。また、本実施形態において、右辺の「動力源の回転数」は、エンジン回転数検出部22で検出されるエンジン2の単位時間当たりの回転数である。「動力伝達比」は、エンジン2側のプーリー2aの直径(駆動側のプーリ径)で、圧縮機3側のプーリー3aの直径(従動側のプーリ径)を除算したプーリー比を用いる。「冷媒吐出量」は、圧縮機3における単位時間当たり冷媒の吐出量である。「冷媒吸い込み密度」は、圧縮機3の吸い込み圧力と、圧縮機3の温度とから求められる値である。「機械効率」及び「体積効率」は、圧縮機3の単位時間当たりの回転数と、圧縮機3の吸い込み圧力及び吐出圧力と、圧縮機3の温度とから求められる値である。
【0025】
なお、圧縮機3における単位時間当たり冷媒の吐出量、吸い込み圧力及び吐出圧力の各値については、圧縮機3の性能に応じた規定値を適用可能である。また、圧縮機3の単位時間当たりの回転数は、エンジン回転数検出部22で検出されるエンジン2の回転数とプーリー比とから算出可能である。
【0026】
したがって、上記(1)式の関係を利用することにより、空調用電子制御ユニット21は、エンジン2の回転数及び圧縮機3の温度の2つの変数と規定値を用いた定数とを乗じることで、冷凍サイクルC内を流れる冷媒の流量(単位時間当たりの循環量)を算出することができる。そして、空調用電子制御ユニット21は、所定周期で冷媒の流量を逐次算出し、それらを積算していく、つまり、冷媒の単位時間当たりの循環量を時間積分していくことにより、圧縮機3の最初の起動後に、圧縮機3から冷凍サイクルC内に送り出された冷媒のトータルの循環量をリアルタイムで推定することができる。
【0027】
また、上記冷媒の循環量の推定では、変数の1つとして圧縮機3の温度を用いているが、圧縮機3の温度に関しては、車両の外気温度(雰囲気温度)から推定算出した値を用いることも可能である。例えば、温度管理された工場内の生産ライン上で車両の組み立て作業が行われている場合、外気温度は略一定と見做し得る。このような場合には、冷媒の流量を算出する際の変数をエンジン2の回転数のみとすることができ、算出処理の簡易化が可能である。さらに、冷媒の循環量は一般的に外気温度が低いほど減少する傾向がある。この傾向を考慮して、外気温度が相対的に低いときの冷媒の循環量の推定値に対する補正量が、外気温度が相対的に高いときの冷媒の循環量の推定値に対する補正量よりも多くなるように推定値の補正を行うようにしてもよい。このようにすれば、エンジン2の回転数のみを変数として冷媒の流量を算出する場合でも、外気温度に応じた適切な冷媒の循環量を推定できるようになる。
【0028】
上記のようにして冷媒の循環量の推定が完了すると、続くステップS50で空調用電子制御ユニット21は、推定した冷媒の循環量が、冷凍サイクルC内に冷媒を行き渡らせるために必要な所定量に達したか否かの判定を行う。冷媒の循環量が所定量に達していない場合には(NO)、圧縮機3の慣らし運転を制御するためのステップS60,S70に進む。一方、冷媒の循環量が所定量に達した場合には(YES)、冷凍サイクルC内に冷媒とともに潤滑油が行き渡ったことで圧縮機3の慣らし運転が完了したことを判断して、ステップS80に移る。
【0029】
ステップS60において、空調用電子制御ユニット21は、前述したステップS20のときと同様にして、エンジン回転数検出部22からの出力信号を用いて取得したエンジン2の回転数が所定範囲内にあるか否かの判定を行う。エンジン2の回転数が所定範囲内にある場合には(YES)、前述したステップS40に戻って冷媒の循環量の推定処理が繰り返される。一方、エンジン2の回転数が所定範囲内にない場合には(NO)、次のステップS70において、空調用電子制御ユニット21は、エアコンをオフにする、すなわち、電磁クラッチ5をオフ状態にして圧縮機3を非作動とするための制御信号を生成し、該制御信号を電磁クラッチ5に出力する。これにより、圧縮機3が非作動となり慣らし運転が中断されるようになる。エアコンをオフにする処理が完了すると、前述したステップS20に戻って同様の処理が繰り返される。
【0030】
前述したステップS50で冷媒の循環量が所定量に達したことが判定され、圧縮機3の慣らし運転の完了が判断された後に実行されるステップS80では、空調用電子制御ユニット21がエアコンをオンにする制御信号を継続して電磁クラッチ5に出力し、エンジン2の回転数(圧縮機3の回転数)の制限を解除した状態でのエアコンの稼働が開始される。
【0031】
以上説明したように本実施形態の車両用空調装置1では、空調用電子制御ユニット21によって、圧縮機3の最初の起動後に圧縮機3から冷凍サイクルC内に送り出される冷媒の循環量がリアルタイムで推定される。そして、推定された冷媒の循環量に基づき冷凍サイクルC内に冷媒(及び潤滑油)が行き渡ったかどうかを判断しながら、圧縮機3を所定回転数以下で作動させるべく慣らし運転の制御が行われる。したがって、本実施形態の車両用空調装置1によれば、様々な車種が1つの生産ラインで組み立てられる場合でも、圧縮機3の慣らし運転を車種ごとに最適な時間で行うことができるため、生産効率の向上を図ることが可能である。また、慣らし運転中、圧縮機3の作動が所定回転数以下に制限されるので、圧縮機3内部での潤滑不足による部品の摩耗や固着などを防止することができる。
【0032】
さらに、本実施形態の車両用空調装置1によれば、空調用電子制御ユニット21において冷媒の循環量を推定する際に、(1)式に示した関係を利用することにより、エンジン2の回転数(及び圧縮機3の温度)を変数とし、圧縮機3の性能に応じた各種の規定値を用いて冷媒の循環量を推定することができるため、簡易な制御アルゴリズムによって慣らし運転の制御を実現することが可能である。加えて、外気温度が相対的に低いときの冷媒の循環量が、外気温度が相対的に高いときの冷媒の循環量よりも多くなるように推定を行うようにすることで、外気温度の低さに起因する冷媒の循環量の低下を補うことができる。これにより、外気温度に応じた適切な冷媒の循環量を推定して、圧縮機3の慣らし運転を確実に行うことが可能になる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施の形態では、エンジン2から伝達される動力によって圧縮機3が作動する構成例を示したが、車両を駆動するモーター等を圧縮機3の動力源とすることも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…車両用空調装置
2…エンジン
2a,3a…プーリー
3…圧縮機
4…ベルト
5…電磁クラッチ
6…吐出側ホース
7…コンデンサー
8…ファン
9…液パイプ
10…カーエアコン(HVAC)
11…膨張弁
12…エバポレーター
13…吸入側ホース
21…空調用電子制御ユニット(ECU)
22…エンジン回転数検出部
23…温度検出部
24…エアコンスイッチ
C…冷凍サイクル
図1
図2