(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】複合粒子およびその製造方法、研磨材および研磨液
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20240612BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240612BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240612BHJP
C08L 5/08 20060101ALI20240612BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20240612BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C08J3/16 CEP
C09K3/14 550C
B24B37/00 H
C08L5/08
C08K3/00
H01L21/304 622B
(21)【出願番号】P 2021029539
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2022-07-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム シーズ育成タイプ)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591202155
【氏名又は名称】熊本県
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】523055857
【氏名又は名称】ハマダレクテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】永岡 昭二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】高藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊原 博隆
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆邦
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203098(JP,A)
【文献】特開昭64-066204(JP,A)
【文献】特開平11-000556(JP,A)
【文献】特開2000-269170(JP,A)
【文献】特開2008-013716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02; 5/12-5/22
C08J3/00-3/28;99/00
C08B1/00-37/18
H01L21/304-21/304,631;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がプラスであるキトサン粒子と、
前記キトサン粒子に担持され、pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がマイナスである無機材料と、を備え、
前記キトサン粒子のキトサンの少なくとも一部が、疎水化されている
ことを特徴とする複合粒子。
【請求項2】
pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がプラスであるキトサン粒子と、
前記キトサン粒子に担持され、pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がマイナスである無機材料と、を備え、
前記キトサン粒子のキトサンが、
キトサン乳酸塩である
ことを特徴とする複合粒子。
【請求項3】
前記キトサン粒子のキトサンの少なくとも一部が、架橋構造を有している請求項1または2記載の複合粒子。
【請求項4】
無機材料を含むと共にキトサンを溶解させた酸水溶液と、増粘剤と、水より沸点が高い有機溶媒と、を含む分散液を調製し、
前記分散液を撹拌することで、前記無機材料および前記キトサンを含む前記酸水溶液を液滴化し、
前記分散液を加熱することで、前記酸水溶液の液滴から水分を蒸発させて、
前記液滴から形成されるキトサン粒子に前記無機材料を担持させた複合粒子を得る
ことを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記酸水溶液中において、前記キトサンの表面電荷がプラスであり、前記無機材料の表面電荷がマイナスである請求項4記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記キトサンを架橋する請求項4または5記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記キトサンを疎水化する請求項4~6の何れか一項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がプラスであり、キトサンの少なくとも一部が疎水化されているキトサン粒子と、
前記キトサン粒子に担持され、pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がマイナスである無機材料からなる砥粒と、を備える
ことを特徴とする研磨材。
【請求項9】
pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がプラスであり、
キトサン乳酸塩で構成されたキトサン粒子と、
前記キトサン粒子に担持され、pH5.3~pH5.32の乳酸水溶液中で表面電荷がマイナスである無機材料からなる砥粒と、を備える
ことを特徴とする研磨材。
【請求項10】
請求項8または9の研磨材を含むことを特徴とする研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キトサン粒子と無機材料を含む複合粒子およびその製造方法、複合粒子を用いた研磨材および研磨材を含む研磨液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック微粒子いわゆるマイクロビーズは、元々、サイズが0.001mm~0.1mmと非常に小さいため、海洋などの自然環境からの回収は不可能であり、流入を止めない限り、増大する一方であると考えられる。今後、これらの使用規制とともに環境に優しい、生分解性の高い素材を用いたマイクロビーズへの切り替え等の対策を進めていく必要がある。このような状況の中、例えば特許文献1に示すキトサンからなるマイクロビーズは石油由来のマイクロビーズに替わる重要な環境適応材料として、注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、マイクロビーズは、生分解性だけでなく、例えば精密研磨に用いるなど、別の機能を持つことが求められている。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、キトサン粒子だけでは得られない機能を有する複合粒子およびその製造方法、研磨材および研磨液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る複合粒子は、
キトサン粒子と、
前記キトサン粒子に担持された無機材料と、を備え、
前記無機材料は、前記キトサン粒子となるキトサンの表面電荷がプラスとなる所定のpHにある媒体に分散した場合に、該無機材料の表面電荷がマイナスになるものであることを要旨とする。
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る複合粒子の製造方法は、
無機材料を含むと共にキトサンを溶解させた酸水溶液と、増粘剤と、水より沸点が高い有機溶媒と、を含む分散液を調製し、
前記分散液を撹拌することで、前記無機材料および前記キトサンを含む前記酸水溶液を液滴化し、
前記分散液を加熱することで、前記酸水溶液の液滴から水分を蒸発させて、
前記液滴から形成されるキトサン粒子に前記無機材料を担持させた複合粒子を得る
ことを要旨とする。
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る研磨材は、
キトサン粒子と、
前記キトサン粒子に担持された無機材料からなる砥粒と、を備え、
前記無機材料は、前記キトサン粒子となるキトサンの表面電荷がプラスとなる所定のpHにある媒体に分散した場合に、該無機材料の表面電荷がマイナスになるものであることを要旨とする。
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る研磨液は、本発明に係る研磨材を含んでいることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る複合粒子によれば、キトサン粒子および無機材料に由来する複合した機能が得られる。
本発明に係る複合粒子の製造方法によれば、キトサン粒子および無機材料に由来する複合した機能を有する複合粒子を得ることができる。
本発明に係る研磨材によれば、研磨効率を向上することができる。
本発明に係る研磨液によれば、研磨効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る複合粒子を一部切り欠いて示す模式図である。
【
図2】本発明に係るキトサン粒子を構成するキトサンを示す構造式である。
【
図3】架橋したキトサンの一例を示す構造式である。
【
図6】実施例1の複合粒子を走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。なお、倍率は1300倍である。
【
図7】実施例2の複合粒子を走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。なお、倍率は300倍である。
【
図8】実施例3の複合粒子を走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。なお、倍率は400倍である。
【
図9】実施例2の複合粒子および実施例4の複合粒子の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【
図10】実施例2の複合粒子および実施例4の複合粒子の沈降状態を対比した写真である。
【
図11】実施例5の複合粒子を走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。なお、(a)の倍率は50倍であり、(b)の倍率は300倍である。
【
図12】実施例5の複合粒子のEDXマッピングである。
【
図13】試験例1の研磨液によって研磨したウェハを撮影した写真である。
【
図14】研磨液によって研磨する前のウェハを撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(複合粒子)
図1に示すように、本開示に係る複合粒子は、キトサン粒子と、このキトサン粒子に担持された無機材料と、を備えている。キトサン粒子を構成するキトサンは、液状(水系又は有機系)の媒体に分散した際に、ある幅のpH領域(pH2~10)においてプラスの表面電荷を有するものである。複合粒子を構成する無機材料は、キトサン粒子となるキトサンの表面電荷がプラスとなる所定のpHにある媒体に分散した場合に、該無機材料の表面電荷がマイナスになるものである。複合粒子は、多数の無機材料が、キトサン粒子の表面に静電相互作用によって付着している。
【0013】
複合粒子は、配合する無機材料の量によって、キトサン粒子の表面における無機材料の被覆度合いを調整可能であり、例えば、無機材料をキトサン粒子の表面に隙間なく充填することができる。複合粒子は、コアとしてのキトサン粒子を覆って、シェルとしての無機材料が配置された所謂コアシェル粒子とすることができる。複合粒子は、表面に孔があく多孔形状のキトサン粒子であってもよく、この場合、キトサン粒子の孔を形成する孔壁面に、無機材料を配置することができる。複合粒子は、球状または球状に近い形にすることができる。
【0014】
なお、以下の説明において、表面電荷(ゼータ電位)は、レーザードップラー式によるゼータ電位測定装置により測定した場合である。表面電荷は、所定のpH領域に調製された液状媒体中でのゼータ電位のピーク値の極性をいう。ゼータ電位は、粒子表面がどれだけの電荷を持っているかを表す指標であるが、ゼータ電位は粒子を分散させている液状媒体のpHによって変動するので、本開示では、pH2~pH10のpH領域に調製した液状媒体において測定したときの値で表している。
【0015】
複合粒子において、キトサン粒子に担持された無機材料は、キトサンとの間で表面電荷が中和されており、無機材料の表面電荷がゼロになっている。複合粒子は、キトサン粒子におけるキトサンのアミノ基に対して、無機材料が100%吸着しているならば、キトサンの表面電荷がゼロになっている。複合粒子は、キトサン粒子におけるキトサンのアミノ基に対して、無機材料が100%吸着していない(アミノ基の量よりも無機材料が少ない)場合、キトサン粒子(複合粒子)の表面電荷がプラスに傾いていると考えられる。
【0016】
(複合粒子の平均粒径)
複合粒子は、後述するように粒径を任意に調節可能であるが、平均粒径が1mm以下のマイクロサイズの微粒子であることが好ましい。具体的には、複合粒子は、その平均粒径が5μm~800μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10μm~500μmの範囲である。複合粒子は、前述した平均粒径であることで、樹脂などの他の材料へ添加する際に都合がよい。なお、本開示における平均粒径は、フロー方式画像解析法および走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した場合である。
【0017】
(複合粒子におけるキトサン粒子と無機材料との割合)
複合粒子は、キトサン粒子に対して、無機材料が1wt%~500wt%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは2wt%~400wt%の範囲である。複合粒子は、キトサン粒子に対する無機材料の割合が前記範囲にあると、キトサン粒子の表面を無機材料で適度に覆うことができ、所謂コアシェル粒子とすることができる。なお、キトサン粒子に対して無機材料が少ないと、無機材料由来の機能が発揮され難くなる傾向があり、キトサン粒子に対して無機材料を多くすると無機材料由来の機能が発揮され易くなるが、無機材料がキトサン粒子に担持され難くなる傾向がある。
【0018】
(キトサン粒子)
キトサン粒子は、
図2に示すようなキトサンで構成されている。キトサンは、水素結合による剛直な構造を有しているが、酸によって、アミノ基の電荷的な反発により分子鎖が広がり溶解する。このとき、キトサンは、プラスに荷電している。なお、キトサン粒子は、pH9以下の媒体中において、プラスの表面電荷になるものが好ましい。キトサンは、無機材料との複合化過程に用いられる後述する分散液(酸水溶液)中において、マイナスの表面電荷になればよい。このように、キトサン粒子は、プラスの表面電荷を有していることで、表面電荷がマイナスの無機材料を取り込むことができる。
【0019】
(キトサンの脱アセチル化率)
図2に示すようなキトサンとしては、例えば、キチン脱アセチル化物やキチン部分脱アセチル化物などであってもよく、またこれらの誘導体であってもよい。キトサンの脱アセチル化率は、50%~100%の範囲が好ましく、より好ましくは、80%~100%の範囲である。キトサンの脱アセチル化率が前記範囲であると、アミノ基(
図2参照)が多くなって荷電をもつ部分が多くなるので、無機材料を保持する能力が向上するので好ましい。
【0020】
(キトサンの分子量)
キトサン粒子は、分子量が10,000~10,000,000の範囲にあるキトサンで構成することが好ましく、より好ましくは10,000~500,000の範囲であるキトサンである。キトサンの分子量が前記範囲であると、後述する液滴化(粒子化)過程において、溶媒に溶け易くなる適当な粘度であり、無機材料を担持し得る適切な粒子構造や球または球に近い形状を有するキトサン粒子とすることができる。なお、キトサンは、分子量が高くなると粘度が高くなり、分子量が低くなると粒子構造を保ち難くなる傾向がある。
【0021】
(キトサン粒子の平均粒径)
キトサン粒子は、後述するように粒径を任意に調節可能であるが、平均粒径が1mm以下のマイクロサイズの微粒子であることが好ましい。複合粒子は、キトサン粒子と比べて無機材料が小さいので、キトサン粒子の大きさによって複合粒子の大きさがほぼ決まる。具体的には、キトサン粒子は、その平均粒径が5μm~800μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10μm~500μmの範囲である。キトサン粒子は、前述した平均粒径であることで、無機材料を担持する基材として都合がよい。
【0022】
(キトサンの架橋構造)
キトサン粒子は、キトサンの一部又は全部が架橋していてもよい。架橋構造のキトサンとしては、例えば、
図3に示すようなグルタルアルデヒドによる架橋構造や、ジカルボン酸ハライドやジカルボン酸無水物による架橋構造、ジイソシアナートによる架橋構造、ほう酸による架橋構造などが挙げられる。キトサン粒子が架橋構造をもつキトサンであると、キトサン粒子の溶媒への不溶化、キトサン粒子の膨潤および収縮の低減化、キトサン粒子の硬度などの機能を向上することができる。
【0023】
(キトサンの化学的修飾)
キトサン粒子は、その一部又は全部が、適宜の官能基を導入した化学的修飾されたキトサンであってもよい。キトサンの化学的修飾は、例えば、キトサンのアミノ基と反応する官能基を有する化合物と反応させればよい。キトサンへの官能基の導入は、キトサンを粒子化する過程や、複合粒子とした後に行うなど、適宜タイミングで可能である。キトサン粒子の一部又は全部が化学的修飾されたキトサンであると、その化学的修飾に応じた機能を発揮することができる。なお、キトサンへの官能基の導入は、キトサンを粒子化する過程に行うことで、複合粒子とした後に行う場合と比べて、製造工数やコストを低減することができる。
【0024】
例えば、キトサンに長鎖アルキルや芳香族類などの疎水基を導入することで、複合粒子を疎水化することができる。複合粒子の疎水化は、キトサンのアミノ基と反応する官能基を有する疎水化合物と反応させればよい。このような疎水化合物は、長鎖アルキルや芳香族類などの疎水基を有するアルデヒド化合物、カルボン酸ハライド化合物、カルボン酸無水物化合物、イソシアナート化合物などを、単独または組み合わせて用いることができる。疎水化合物を酸水溶液または分散液に添加して、キトサンを液滴化する過程でキトサンを疎水化しても、複合粒子を採取した後に疎水化合物を添加して、キトサンを疎水化しても、何れであっても可能である。キトサンを疎水化するメリットとしては、キトサンと無機材料との比重が大きい場合(例えば1.5以上)、キトサンに疎水基として炭素分を導入することによって、比重を低減することができる。これにより、キトサンを液滴化する過程で無機材料を適度に分散させることができ、キトサン粒子の表面に無機材料を等しく配置することができる。また、キトサン粒子について、水への膨潤や溶解などを抑制できる。また、複合粒子を、疎水性のプラスチックのフィラーとして用いる場合、キトサンが疎水基をもつほうがプラスチックに親和し易い。
【0025】
(無機材料)
無機材料は、pH10以下の媒体中において、マイナスの表面電荷になるものが好ましい。このように、無機材料は、マイナスの表面電荷を有していることで、表面電荷がプラスのキトサン粒子に付くことができる。なお、無機材料は、キトサン粒子との複合化過程に用いられる後述する分散液(酸水溶液)中において、マイナスの表面電荷になればよい。無機材料は、例えば、pH2~6の範囲に調製される酸水溶液において、表面電荷がマイナスになるものが好適である。
【0026】
無機材料としては、例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、炭化ケイ素、シリカ、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、炭化ホウ素、酸化アルミニウム(III)、ジルコニア、α-酸化鉄、γ-酸化鉄、グラファイト、酸化クロム、セリア、モンモリロナイトやベントナイトやセリサイトやマイカなどの粘土鉱物を用いることができる。
【0027】
(無機材料の平均粒径)
無機材料の平均粒径は、キトサン粒子の平均粒径よりも小さい。無機材料の平均粒径は、複合粒子に求める機能に応じて選択すればよいが、例えば、0.5nm~50μmの範囲が好ましく、より好ましくは、5nm~30μmの範囲である。無機材料の平均粒径が前記範囲にあると、キトサン粒子と複合化し易くなり、また、複合粒子としたときに無機材料特有の機能を適切に発揮させることができる。なお、無機材料は、粒径が分子レベルまで小さくなると、その機能を発揮し難くなり、粒径が大きくなると、キトサン粒子と複合化する際に沈降し易くなり、複合化が難しくなる傾向がある。
【0028】
(複合粒子の製造方法)
次に、複合粒子の製造方法について説明する。まず、無機材料を含むと共にキトサンを溶解した酸水溶液と、有機溶媒と、を含む分散液を調製する(
図4(a)参照)。例えば、無機材料を入れて、キトサンを溶解させた酸水溶液を、有機溶媒に加えればよい。分散液は、必要に応じて増粘剤を含んでいてもよく、この場合、例えば有機溶媒に増粘剤を加えて、増粘剤によって分散液の粘度を向上させる。次に、分散液を撹拌することで、分散液に入れた酸水溶液を液滴化する(
図4(b)参照)。このとき形成される液滴は、キトサンが溶けた酸水溶液ドメインに無機材料が分配された状態になっている。次に、分散液を加熱することで、液滴化した酸水溶液(液滴)から水分を蒸発させる(
図5(a)参照)。このとき、分散液を継続して撹拌している。液滴から水分が蒸発することで、キトサンが溶けた酸水溶液ドメインに無機材料が分配したまま、キトサン粒子が球状に固化して、キトサン粒子に無機材料を担持させた複合粒子が得られる(
図5(b)参照)。そして、ろ過や洗浄等の必要な処理を行って、複合粒子を回収する。なお、複合粒子を分級して、粒径を揃えてもよい。
【0029】
(酸水溶液)
酸水溶液としては、キトサンを溶解可能な酸水溶液が用いられる。また、無機材料が溶けない酸水溶液が用いられる。このような酸としては、例えば、塩酸、硝酸、L-乳酸、D-乳酸、L-リンゴ酸、D-リンゴ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、没食子酸、サリチル酸、アクリル酸、メタクリル酸などの水に溶ける酸を用いることができ、この中でも環境負荷を軽減する観点から有機酸が好ましい。
【0030】
(酸水溶液の濃度)
酸水溶液における酸の濃度は、キトサンのアミノ基当量の0.4倍~5.0倍の範囲が好ましく、より好ましくは0.8倍~2.0倍の範囲である。酸水溶液における酸の濃度が前記範囲にあることで、キトサンの主鎖の加水分解を抑えつつ、キトサンを酸水溶液中に適切に溶解させることができる。なお、酸水溶液における酸の濃度が低くなると、キトサンが溶け難くなり、酸水溶液における酸の濃度が高くなると、キトサンの主鎖の加水分解が生じ易くなる傾向がある。
【0031】
(酸水溶液のpH)
酸水溶液は、pH2~pH6の範囲にすることが好ましい。酸水溶液のpHが前記範囲にあることで、キトサンの主鎖の加水分解を抑えつつ、キトサンを酸水溶液中に適切に溶解させることができる。なお、酸水溶液のpHが高く(中性側)になると、キトサンが溶け難くなり、酸水溶液のpHが低くなると、キトサンの主鎖の加水分解が生じ易くなる傾向がある。
【0032】
(酸水溶液におけるキトサンと無機材料との割合)
酸水溶液において、キトサンに対して、無機材料が0.5wt%~500wt%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは2wt%~400wt%の範囲である。酸水溶液において、キトサンに対する無機材料の割合が前記範囲にあると、キトサン粒子の表面を無機材料で適度に覆った複合粒子を得ることができ、複合粒子を所謂コアシェル粒子とすることができる。なお、キトサン粒子に対して無機材料が少ないと、無機材料由来の機能が発揮され難くなる傾向があり、キトサン粒子に対して無機材料を多くすると無機材料由来の機能が発揮され易くなるが、無機材料がキトサン粒子に担持され難くなる傾向がある。
【0033】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、水と相分離するものを用いることができる。有機溶媒は、水(酸水溶液)の沸点よりも高い沸点を持つ所謂高沸点有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、cis-デカヒドロナフタレン、trans-デカヒドロナフタレン、cis-あるいはtrans-デカヒドロナフタレンの混合物、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、炭素数C6~C18の長鎖アルカン酸、流動パラフィン、フタル酸エステル類などが挙げられる。
【0034】
(酸水溶液と有機溶媒との比率)
無機材料およびキトサンを含む酸水溶液と有機溶媒との比率は、0.004:1~1:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.02:1~0.25:1の範囲である。無機材料およびキトサンを含む酸水溶液と有機溶媒との比率が前記範囲にあると、分散液中に液滴を効率的に形成することができ、複合粒子の回収率を向上することができる。なお、有機溶媒に対する酸水溶液の割合が少なくなると、複合粒子の回収率が低下し、有機溶媒に対する酸水溶液の割合が多くなると、海(有機溶媒ドメイン)-島(無機材料およびキトサンを含む酸水溶液ドメイン)構造が形成され難くなる傾向がある。
【0035】
(分散液のかき混ぜ速度)
無機材料およびキトサンを含む酸水溶液からなる液滴の形成は、撹拌羽根によるかき混ぜ、例えば、超音波による撹拌、自転-公転撹拌機によって、分散液をかき混ぜることで行うことができ、その他の液滴ができる方法であれば、これらの方法に限定されない。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ速度を10rpm~20000rpmの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、50rpm~3000rpmの範囲である。ここで、かき混ぜ速度が高速になるほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる複合粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ速度が低速になるほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる複合粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ速度を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0036】
(分散液のかき混ぜ時間)
分散液のかき混ぜ時間は、液滴を形成度合いで調節すればよい。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ時間を3時間~24時間の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、6時間~10時間の範囲である。ここで、かき混ぜ時間が長くなるほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる複合粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ時間が短くなるほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる複合粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ時間を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0037】
(分散液の加熱条件)
分散液の加熱は、無機材料およびキトサンを含む酸水溶液の液滴から水分を蒸発できれば特に限定されないが、例えば常圧であれば、50℃~水の沸点の範囲が好ましく、より好ましくは、60℃~90℃の範囲である。また、分散液の加熱は、減圧しつつ行うなど、圧力が常圧であることに限定されない。分散液の加熱条件を整えることで、液滴から水分を効果的に蒸発させることができ、複合粒子を効率よく得ることができる。
【0038】
(増粘剤の添加)
分散液および/または酸水溶液には、適宜の添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、分散液中で液滴を安定化させる増粘剤が挙げられる。増粘剤としては、界面活性剤が好適である。このような界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましく、例えば、親油基が炭素数C8~C18の高級アルコールで、エステル型やエーテル型のヒドロキシ基を持つ界面活性剤を用いることができる。具体的には、界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、トリトン-Xのようなポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(RC6H4O(CH2CH2O)nH)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(RO((CH2)mO)nH)、アルキルグリコシドなどが挙げられる。
【0039】
(増粘剤の添加量)
増粘剤の添加量は、有機溶媒1mlに対して、0.01g~0.30gの範囲が好ましく、より好ましくは、0.02g~0.20gの範囲である。有機溶媒に対する増粘剤の添加量が前記範囲にあると、液滴を効率よく形成できると共に形成した液滴を安定化させることができる。なお、有機溶媒に対する増粘剤の添加量が少ないと、液滴が不安定になり、有機溶媒に対する増粘剤の添加量が多いと、酸水溶液と有機溶媒との相分離を阻害して、液滴が形成され難くなる傾向がある。また、有機溶媒に対する増粘剤の添加量を多くするほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる複合粒子の粒径を小さくすることができ、有機溶媒に対する増粘剤の添加量を少なくするほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる複合粒子の粒径を大きくすることができる。このように、増粘剤の添加量を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0040】
(分散液の粘度)
分散液は、その粘度を1mPa・s~10mPa・s(分散液25℃の場合)の範囲にすることが好ましい。分散液の粘度が前記範囲にあると、液滴を効率よく形成できると共に形成した液滴を安定化させることができる。なお、分散液の粘度が低いと、液滴が不安定になり、分散液の粘度が高いと、酸水溶液と有機溶媒との相分離を阻害して、液滴が形成され難くなる傾向がある。また、分散液の粘度を高くするほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる複合粒子の粒径を小さくすることができ、分散液の粘度を低くするほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる複合粒子の粒径を大きくすることができる。このように、分散液の粘度を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0041】
(キトサンの架橋)
キトサンを架橋して、キトサン粒子の粒子構造を硬くしてもよい。例えば、酸水溶液および/または分散液に架橋剤を添加して、液滴化または液滴の固化(粒子化)に併せて、キトサンを架橋しても、複合粒子を回収した後に架橋剤と反応させて、キトサン粒子のキトサンを架橋しても、何れのタイミングでも可能である。架橋剤としては、例えば、キトサンのアミノ基と反応する多官能架橋剤を用いることができる。このような多官能架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒドのような1分子中にアルデヒド基を複数有するアルデヒド化合物、ヘキサメチレンオイルジクロリドやセバコイルジクロリドのような1分子中にカルボン酸ハライドを複数有するカルボン酸ハライド化合物、1分子中にカルボン酸無水物を複数有するカルボン酸無水物化合物、ヘキサメチレンジイソシアナートのようなジイソシアナート基を複数有するイソシアナート化合物などを、単独または複数組み合わせて用いることができる。
【0042】
(架橋剤の添加量)
架橋剤の添加量は、キトサンのアミノ基に対して、0.1倍~3.0倍の範囲が好ましく、より好ましくは、0.8倍~1.5倍の範囲である。架橋剤の添加量が前記範囲にあると、架橋によりキトサンの液滴を十分に安定化させることができると共に、キトサン粒子同士の融着を防止できる。なお、架橋剤の添加量が少なくなるほど、架橋によるキトサン粒子の安定化効果が低くなり、架橋剤の添加量が多くなるほど、キトサン粒子同士の架橋が起こり易くなって、キトサン粒子同士の凝集が生じ易くなる傾向がある。
【0043】
キトサンと同じ多糖類であるセルロースの造粒方法を粒子化メカニズムで大別すると、疎水効果を利用するO/W法およびW/O法と、電荷的斥力を利用するW/W法に分類できる。この中で無機材料とセルロースとの複合粒子化は、セルロースをザンテート基のような官能基や銅アンモニアやロダン酸カルシウムの錯体化により、水溶性セルロースを調製し、無機材料と電荷的斥力を利用するW/W法による造粒方法しかない。しかし、ザンテート基のような官能基や銅アンモニアやロダン酸カルシウムの錯体化は硫黄化合物やアンモニアを用いるため、煩雑で強い臭気がある。しかも、得られるセルロースの誘導体は不安定で、貯蔵技術が必要となり、しかも濃度を向上させることに限界がある。セルロースは、水素結合による剛直な構造を有しているが、水や溶剤に溶け難く、熱で溶けず、加工性に乏しい。また、セルロースは、3つの水素基を有しているので、反応制御が難しい。
【0044】
本開示の複合粒子は、キトサン粒子特有の弾力性などの機能と、キトサン粒子に担持された無機材料特有の機能とが発揮されるだけでなく、キトサン粒子と無機材料とが複合した機能を発揮することができる。また、キトサンは、セルロースと同様の水素結合による剛直な構造を有しているが、酸に溶かすことができ、キトサン粒子をコアとする複合粒子は、セルロースをコアとするものよりも加工性に優れている。更に、キトサンは、セルロースよりも反応制御が簡単であり、複合粒子の用途に応じて様々な化学的修飾を行うことが可能である。このように、本開示の複合粒子は、様々な用途に対応できる柔軟性を有している。
【0045】
本開示の複合粒子の製造方法は、前述したセルロースのW/W法による造粒方法のように、環境負荷が高い化合物を用いることなく複合粒子を得ることができ、製造工程も工数が少なく簡単でかつクリーンに行うことができる。しかも、得られた複合粒子は、前述したセルロースのW/W法による造粒方法によるものと比べて、安定性に優れており、その貯蔵についても特殊な技術や設備を要しない。
【0046】
(複合粒子の用途)
本開示の複合粒子は、例えば、塗料中の顔料、色材、熱伝導フィラー、プラスチックフィラー、触媒担持体、研磨材、摺動材、緩衝材、ブラスト材、スクラブ材、光拡散材、歯磨き材、粧材などとして用いることができる。
【0047】
(研磨材)
前述した複合粒子は、例えば化学機械研磨(CMP)などの機械研磨等において使用可能な研磨材として用いることができる。本開示の研磨材は、プラスの表面電荷を有するキトサン粒子と、マイナスの表面電荷を有し、キトサン粒子に担持された無機材料からなる砥粒とを備えている。なお、研磨材としての複合粒子の構成や製造方法については、前述したことを適用可能である。
【0048】
砥粒(研磨粒子)は、被研磨体に合わせて適宜選択されるものであり、pH10以下の水系溶媒中において、マイナスの表面電荷になるものであればよい。例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム、炭化ホウ素などが挙げられる。砥粒は、研磨材が研磨に用いられるとき(研磨液)のpH領域において、表面電荷がマイナスになるものが好ましい。
【0049】
研磨材の用途の場合、研磨材の平均粒径が、5μm~300μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは30μm~100μmの範囲である。研磨材が前述の平均粒径の範囲にあると、研磨材の沈降速度を抑えることができ、また、研磨速度を向上することができる。なお、研磨材の平均粒径が小さくなると、研磨速度が上昇し難くなり、研磨材の平均粒径が大きくなると、研磨液中における研磨材の沈降速度が速くなって、研磨速度が上昇し難くなる。
【0050】
(研磨液)
本開示の研磨液は、前述した砥粒および砥粒を担持するキトサン粒子を有する研磨材と、この研磨材が分散される分散媒と、を含んでいる。
【0051】
(分散媒)
分散媒は、液体であれば特に制限されないが、通常、水を主体とする水系媒体、すなわち水、アルコールアミン類などの防錆剤、および水溶性有機溶剤を主成分としたものを用いるとよい。水以外の分散媒としては水溶性有機溶剤とするのが好ましく、例えばエタノール、ノルマルプロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ピロリドン系溶剤などが挙げられる。
【0052】
(分散媒の添加剤)
分散液には、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、カルボキシメチルセルロースナノファイバーなどの多糖ファイバーを添加することができる。多糖ファイバーは、研磨液を研磨に用いられるときのpH領域において、表面電荷がプラスになるものが好ましい。このように、見掛けの表面電荷がプラスである多糖ファイバーであると、SiC等の被研磨体の多くがマイナスの荷電を有していることから、研磨に際して発生した研磨屑を、研磨屑と多糖ファイバーとの静電相互作用により、多糖ファイバーに捕集させることができる。研磨屑を多糖ファイバーで捕集することで、被研磨体の研磨面の平滑性を向上することができる。
【0053】
(多糖ファイバーのサイズ)
添加剤としての多糖ファイバーは、少なくとも繊維径(短径)がナノサイズ(1nm~999nm)である、所謂多糖ナノファイバーであることが好ましい。多糖ファイバーは、繊維径が4nm~999nmの範囲であることが好ましく、繊維の長さ(長径)が4nm~10000nmの範囲であることが好ましい。このように、多糖ファイバーは、ミクロサイズの砥粒(研磨材)と比べて、サイズが小さいものを用いるとよい。前述したサイズの多糖ファイバーであると、研磨材と比べて比重が小さい多糖ファイバーが、研磨材と適度なサイズの凝集物を形成して、砥粒の沈降を防止する良好な沈降防止性を付与し得る。また、多糖ファイバーと研磨材との凝集により、適度なサイズの凝集物を形成して、研磨液によって被研磨体を効率よく研磨することができる。なお、多糖ファイバーのサイズは、電界放出型走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した場合である。
【0054】
(研磨液のpH)
研磨液は、必要に応じてpH調整剤によってpHを調整してもよい。例えば、研磨液を、pH5.8以上に設定し、またpH5.8以上で研磨に使用することがなされる。研磨液のpHは、より好ましくは5.8~9.0の範囲である。中性のpH領域で表面電荷がマイナスである砥粒と、中性のpH領域で表面電荷がプラスである多糖ファイバーとを含んでいることで、pH5.8以上の研磨液中において研磨材と多糖ファイバーとが凝集して凝集物を形成する。これにより、研磨材と比べて見掛けサイズが大きい凝集物により研磨レートを向上し得ると共に、沈降防止効果を向上することができる。多糖ファイバーや研磨材を構成するキトサン粒子は、研磨液のpHが5.8より低くなると、研磨液に溶解する傾向を示すようになり、砥粒と多糖ファイバーとの凝集が起こり難くなると考えられる。例えば、キトサンファイバーである場合、キトサンは中性およびアルカリ性条件において水溶性ではないが、弱酸性条件下においてアミノ基(
図2参照)がプロトン化して水溶性となる。換言すると、多糖ファイバーとしては、pH5.8以上の研磨液中において溶けないあるいは溶け難いものを用いることが望ましく、例えばキトサンファイバーのように当該pH領域において溶け難いまたは不溶であると、多糖ファイバーの添加によって研磨液の粘度が高くならないメリットがある。
【0055】
(pH調整剤)
研磨液のpHを調整するpH調整剤としては、塩酸、硫酸、または酢酸や乳酸やリンゴ酸などの有機酸等を用いることができ、研磨定盤の保護の観点から、有機酸を用いることが好ましい。また、pH調整剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩基を用いることができる。
【0056】
(研磨液における研磨材の含有量)
研磨材は、分散媒に対して、0.02重量%~5.0重量%の範囲で含有することが好ましい。研磨材を前述した範囲で含有することで、研磨液によって被研磨体を効率よく研磨することができる。
【0057】
(研磨液の流速)
本開示による研磨液を用いた研磨条件は、被研磨体や研磨の目的などによって適宜設定されるが、例えば以下のようにすることができる。定盤に供給する研磨液の流速は、0.1ml/min~10ml/minの範囲にすることが好ましい。研磨液の流速を前記範囲にすることで、研磨速度を向上させることができる。なお、流速が遅くなるほど、研磨速度が上がらず、流速が速くなるほど、被研磨体が滑って研磨速度が上がらない傾向がある。
【0058】
(定盤)
研磨に用いる定盤(パッド)は、例えば、プラスチック製、鋳鉄製、ステンレス製研磨盤、セラミック製研磨盤、石英定盤、グラナイト研磨盤などを用いることができるが、プラスチック製研磨盤が最も好ましい。定盤の形状は、特に限定されないが、例えば、ハニカム状など、研磨材を保持できるものであればよい。
【0059】
(研磨の際の定盤の面圧)
研磨の際の定盤の面圧は、50gf/cm2~300gf/cm2の範囲が好ましく、より好ましくは120gf/cm2~250gf/cm2の範囲である。面圧が前記範囲にあると、スクラッチを抑えつつ研磨速度を向上することができる。なお、面圧が低くなるほど研磨速度が上がらず、面圧が高くなるほどスクラッチが生じ易い傾向がある。
【0060】
(研磨の際の定盤の回転速度)
研磨の際の定盤の回転速度は、10rpm~100rpmの範囲が好ましく、より好ましくは、30rpm~80rpmの範囲である。回転速度が前記範囲にあると、スクラッチを抑えつつ研磨速度を向上することができる。なお、回転速度が遅くなるほど研磨速度が上がらず、回転速度が速くなるほどスクラッチが生じ易い傾向がある。
【0061】
(研磨液の作用効果)
本開示の研磨材および研磨液によれば、静電相互作用により砥粒がキトサン粒子に担持されているので、砥粒よりも見掛けの粒径が大きい研磨材が被研磨体に作用することによって、研磨レートを向上させることができる。例えばSiC等の被研磨体の研磨速度は、砥粒の粒子サイズの増大に伴って向上することが知られている。しかしながら、砥粒の粒子サイズを単純に大きくすると、ダメージを受ける層(加工変質層)の層厚が大きくなったり、被研磨体に加工痕が大きく残って平滑性が悪化したりするなど、様々な不都合が生じる。また、研磨工程の次の工程において、加工変質層をエッチングもしくは研磨で除去することになるが、SiC等のエッチングは危険な溶融水酸化カリウム(KOH)を使用する必要があり、設備および操業面から工業的には困難である。従って、小さいサイズの砥粒によって研磨するしかなく、一般にはその際に砥粒として用いられるダイヤモンド粒子のサイズが、前述した本開示に係る砥粒のサイズになる。本開示の研磨材は、コアがキトサン粒子で構成されて柔らかいので、被研磨体における研磨面の表面粗さを小さくすることができ、キトサン特有の緩和作用により、研磨面のスクラッチを少なくすることができる。しかも、砥粒のサイズよりも見掛けサイズが大きくなった研磨材により、研磨速度が向上し、結果として、加工変質層の厚みの低減化を実現できる。このように、本開示に係る研磨材およびこの研磨材を含む研磨液によれば、砥粒自体のサイズを大きくすることなく研磨レートを向上でき、砥粒のサイズ自体が大きい訳ではないので、加工変質層の層厚を抑えて、被研磨体の平滑性を向上できる。
【0062】
本開示に係る研磨材は、砥粒よりも見掛け密度が小さくなるので、研磨液において沈降し難くすることができる。このように、研磨液は、研磨材が沈降し難いので、研磨装置における研磨液の供給経路で研磨材が沈降することを防止して、研磨材を被研磨体(ワーク)に効率よく届けることができる。従って、本開示の研磨液によれば、研磨に要する砥粒の量を少なくすることができ、ダイヤモンドなどの高価な砥粒を用いるSiCやGaN等の硬質材料の研磨のコスト低下に寄与し得る。更に、研磨液は、分散媒や添加物による粘度の上昇によって砥粒の沈降防止を図るものではなく、砥粒を担持したキトサン粒子からなる研磨材を用いればよいので、研磨液の粘度を低く抑えることができ、例えば純水と同程度の粘度にすることも可能である。粘度の低い研磨液は、研磨時の動摩擦係数を高くできるので、研磨レートを向上させることができる。しかも、粘度の低い研磨液は、研磨装置における研磨液の供給経路での流通抵抗が小さくなり、被研磨体に効率的に供給することができる。
【0063】
(研磨材、研磨液の用途)
本開示の研磨材および該研磨材を含む研磨液は、鋳鉄、合金鋼、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金、超硬合金等の金属材料、およびSiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)およびGaO(ガリウムナオキサイド)、シリコンウエハ、セラミック、水晶、ガラス等の脆性材料の平面研削、円筒研削、内面研削、ホーニング、センタレス、スライシング、ラッピング、ポリッシング等において使用することができる。この中でも、研磨レートを向上できることから、ラッピングに好適であり、特に、SiC(シリコンカーバイド)などの硬い材料のラッピングに好適である。
【0064】
次に、本発明に係る複合粒子およびその製造方法、研磨材および研磨液につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。
【実施例】
【0065】
(実施例1-単結晶ダイヤ、キトサン未架橋)
乳酸(キトサンのアミノ基当量と同じ当量)を純水に溶かした溶液に、キトサンを溶かして、キトサンを10wt%含むキトサン-酸水溶液を調製する。25gのキトサン-酸水溶液に、1.250g(キトサンに対して50wt%)の単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、平均粒径3μm)を添加して、無機材料-キトサン-酸水溶液を調製する。無機材料-キトサン-酸水溶液は、pH5.3であり、酸水溶液中の単結晶ダイヤのゼータ電位が-50mVであり、酸水溶液中のキトサンのゼータ電位が+65mVである。無機材料-キトサン-酸水溶液を、マグネティックスターラーで1時間撹拌することで分散させる。別に、有機溶媒としてのデカリン250mlに、界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ダウケミカル製:商品名トリトン-X)を10g添加し、界面活性剤をデカリンに対して0.04g/ml含むデカリン分散液を調製した。デカリン分散液の粘度は、1.42mPa・sである(デカリン分散液25℃の場合)。無機材料-キトサン-酸水溶液を、デカリン分散液に加えて、分散液を75℃に保った状態で、マグネティックスターラーにより350rpmの撹拌速度で分散液を8時間かき混ぜながら、分散液中にできる無機材料-キトサン-酸水溶液からなる液滴より水分を蒸発させた。得られた実施例1の複合粒子をろ過により回収し、エタノールで洗浄した。そして、45μmと300μmのふるいで水を用いて湿式分級し、実施例1の複合粒子を回収した。実施例1の複合粒子は、使用したキトサンおよび単結晶ダイヤに対して、ほぼ100wt%の回収率であった。
【0066】
実施例1の複合粒子は、キトサン粒子のキトサンが架橋されていないもの(未架橋物)である。実施例1の複合粒子は、粒径が45μm~300μmの範囲にある。
図6に示すように、実施例1の複合粒子は、単結晶ダイヤがキトサン粒子の表面に付いていることが判る。
【0067】
(実施例2-単結晶ダイヤ、キトサン架橋)
乳酸(キトサンのアミノ基当量と同じ当量)を純水に溶かした溶液に、キトサンを溶かして、キトサンを5wt%含むキトサン-酸水溶液を調製する。25gのキトサン-酸水溶液に、キトサンに対して70wt%の単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、平均粒径9μm)を添加して、無機材料-キトサン-酸水溶液を調製する。無機材料-キトサン-酸水溶液は、pH5.3であり、酸水溶液中の単結晶ダイヤのゼータ電位が-50mVであり、酸水溶液中のキトサンのゼータ電位が+65mVである。無機材料-キトサン-酸水溶液を、マグネティックスターラーで1時間撹拌することで分散させる。別に、有機溶媒としてのデカリン250mlに、界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ダウケミカル製:商品名トリトン-X)を10g添加し、界面活性剤をデカリンに対して0.04g/ml含むデカリン分散液を調製した。デカリン分散液の粘度は、1.42mPa・sである(デカリン分散液25℃の場合)。無機材料-キトサン-酸水溶液を、デカリン分散液に加えて、分散液を75℃に保った状態で、マグネティックスターラーにより350rpmの撹拌速度で分散液を8時間かき混ぜながら、分散液中にできる無機材料-キトサン-酸水溶液からなる液滴より水分を蒸発させた。このとき、25wt%のグルタルアルデヒド水溶液を、キトサンのアミノ基に対して当量になるように分散液に滴下することで、キトサンを架橋させた。液滴から水分が蒸発することで、キトサンが溶けた酸水溶液ドメインに単結晶ダイヤが分配したまま、キトサン粒子が球状に固化して、分散液中に、キトサン粒子に単結晶ダイヤが担持された実施例2の複合粒子が形成された。得られた実施例2の複合粒子をろ過により回収し、エタノールで洗浄し、更に水で洗浄した。そして、45μmと300μmのふるいで水を用いて湿式分級し、実施例2の複合粒子を回収した。実施例2の複合粒子は、使用したキトサンおよび単結晶ダイヤに対して、ほぼ100wt%の回収率であった。
【0068】
実施例2の複合粒子は、キトサン粒子のキトサンが架橋されているもの(架橋物)であり、これによりキトサン粒子の安定化が図られている。実施例2の複合粒子は、粒径が45μm~300μmの範囲にある。
図7に示すように、実施例2の複合粒子は、単結晶ダイヤがキトサン粒子の表面を覆っていることが判る。
【0069】
(実施例3-多結晶ダイヤ)
乳酸(キトサンのアミノ基当量と同じ当量)を純水に溶かした溶液に、キトサンを溶かして、キトサンを5wt%含むキトサン-酸水溶液を調製する。25gのキトサン-酸水溶液に、キトサンに対して70wt%の多結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、粒径9μm)を添加して、無機材料-キトサン-酸水溶液を調製する。無機材料-キトサン-酸水溶液は、pH5.3であり、酸水溶液中の多結晶ダイヤのゼータ電位が-45mVであり、酸水溶液中のキトサンのゼータ電位が+65mVである。無機材料-キトサン-酸水溶液を、マグネティックスターラーで1時間撹拌することで分散させる。別に、有機溶媒としてのデカリン250mlに、界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ダウケミカル製:商品名トリトン-X)を10g添加し、界面活性剤をデカリンに対して0.04g/ml含むデカリン分散液を調製した。デカリン分散液の粘度は、1.42mPa・sである(デカリン分散液25℃の場合)。無機材料-キトサン-酸水溶液を、デカリン分散液に加えて、分散液を75℃に保った状態で、マグネティックスターラーにより350rpmの撹拌速度で分散液を8時間かき混ぜながら、分散液中にできる無機材料-キトサン-酸水溶液からなる液滴より水分を蒸発させた。このとき、25wt%のグルタルアルデヒド水溶液を、キトサンのアミノ基に対して当量になるように分散液に滴下することで、キトサンを架橋させた。液滴から水分が蒸発することで、キトサンが溶けた酸水溶液ドメインに多結晶ダイヤが分配したまま、キトサン粒子が球状に固化して、分散液中に、キトサン粒子に多結晶ダイヤが担持された実施例3の複合粒子が形成された。得られた実施例3の複合粒子をろ過により回収し、エタノールで洗浄し、更に水で洗浄した。そして、45μmと300μmのふるいで水を用いて湿式分級し、実施例3の複合粒子を回収した。実施例3の複合粒子は、使用したキトサンおよび多結晶ダイヤに対して、ほぼ100wt%の回収率であった。
【0070】
実施例3の複合粒子は、キトサン粒子のキトサンが架橋されているもの(架橋物)であり、これによりキトサン粒子の安定化が図られている。実施例3の複合粒子は、粒径が45μm~300μmの範囲にある。
図8に示すように、実施例3の複合粒子は、多結晶ダイヤがキトサン粒子の表面を覆っていることが判る。
【0071】
(実施例4-実施例2の疎水化)
乳酸(キトサンのアミノ基当量と同じ当量)を純水に溶かした溶液に、キトサンを溶かして、キトサンを5wt%含むキトサン-酸水溶液を調製する。25gのキトサン-酸水溶液に、キトサンに対して70wt%の単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、粒径9μm)を添加して、無機材料-キトサン-酸水溶液を調製する。無機材料-キトサン-酸水溶液は、pH5.3であり、酸水溶液中の単結晶ダイヤのゼータ電位が-50mVであり、酸水溶液中のキトサンのゼータ電位が+65mVである。無機材料-キトサン-酸水溶液を、マグネティックスターラーで1時間撹拌することで分散させる。別に、有機溶媒としてのデカリン250mlに、界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ダウケミカル製:商品名トリトン-X)を10g添加し、界面活性剤をデカリンに対して0.04g/ml含むデカリン分散液を調製した。デカリン分散液の粘度は、1.42mPa・sである(デカリン分散液25℃の場合)。無機材料-キトサン-酸水溶液を、デカリン分散液に加えて、分散液を75℃に保った状態で、マグネティックスターラーにより350rpmの撹拌速度で分散液を8時間かき混ぜながら、分散液中にできる無機材料-キトサン-酸水溶液からなる液滴より水分を蒸発させた。このとき、25wt%のグルタルアルデヒド水溶液を、キトサンのアミノ基に対して当量になるように分散液に滴下することで、キトサンを架橋させた。得られた複合粒子をろ過により回収し、エタノールで洗浄した。そして、45μmと300μmのふるいで水を用いて湿式分級し、複合粒子を回収した。複合粒子は、使用したキトサンおよび単結晶ダイヤに対して、ほぼ100wt%の回収率であった。そして、得られた複合粒子に対して、オクチルアルデヒドを、キトサンのアミノ基の5倍当量添加し、70℃で5時間かけて反応させることで、キトサン粒子の表面を疎水化して、実施例4の複合粒子を得た。
【0072】
実施例2および実施例4の複合粒子について、拡散反射法による赤外分光分析を行い、実施例4の複合粒子のキトサンの一部が疎水化されているか否かを確認した。なお、赤外分光装置としては、日本分光株式会社製の製品名FT/IR-6300を用いた。その結果を
図9に示す。
図9に示すように、オクチル基由来のCH伸縮振動の吸収が、2827cm
-1~2986cm
-1付近に確認され、シッフ塩基の吸収が、1630cm
-1~1685cm
-1付近に確認された。これにより、実施例4の複合粒子は、キトサン粒子が適切に疎水化されていることが判る。
【0073】
次に、実施例2の複合粒子および実施例4の複合粒子を、それぞれ水に分散し、同じ時間だけ撹拌した後に、1日静置した後の状態を観察した。実施例2および実施例4は、同じ量の複合粒子を水に分散しており、水の量も同じである。
図10に示すように、実施例2の複合粒子は、水に沈降しているのに対し、キトサン粒子が疎水化された実施例4の複合粒子は水に沈降していないことが判る。
【0074】
(実施例5-酸化チタン(TiO2))
乳酸(キトサンのアミノ基当量と同じ当量)を純水に溶かした溶液に、キトサンを溶かして、キトサンを5wt%含むキトサン-酸水溶液を調製する。25gのキトサン-酸水溶液に、キトサンに対して50wt%のアナターゼ型酸化チタン(日本アエロジル(株)製P-25、粒径21nm)を添加して、無機材料-キトサン-酸水溶液を調製する。無機材料-キトサン-酸水溶液は、pH5.32であり、酸水溶液中の酸化チタンのゼータ電位が-20mVであり、酸水溶液中のキトサンのゼータ電位が+65mVである。無機材料-キトサン-酸水溶液を、マグネティックスターラーで1時間撹拌することで分散させる。別に、有機溶媒としてのデカリン250mlに、界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ダウケミカル製:商品名トリトン-X)を10g添加し、界面活性剤をデカリンに対して0.04g/ml含むデカリン分散液を調製した。デカリン分散液の粘度は、1.42mPa・sである(デカリン分散液25℃の場合)。無機材料-キトサン-酸水溶液を、デカリン分散液に加えて、分散液を75℃に保った状態で、マグネティックスターラーにより350rpmの撹拌速度で分散液を8時間かき混ぜながら、分散液中にできる無機材料-キトサン-酸水溶液からなる液滴より水分を蒸発させた。このとき、25wt%のグルタルアルデヒド水溶液を、キトサンのアミノ基に対して当量になるように分散液に滴下することで、キトサンを架橋させた。液滴から水分が蒸発することで、キトサンが溶けた酸水溶液ドメインに酸化チタンが分配したまま、キトサン粒子が球状に固化して、分散液中に、キトサン粒子に酸化チタンが担持された実施例5の複合粒子が形成された。得られた実施例5の複合粒子をろ過により回収し、エタノールで洗浄し、更に水で洗浄した。そして、45μmと300μmのふるいで水を用いて湿式分級し、実施例5の複合粒子を回収した。実施例5の複合粒子は、使用したキトサンおよび酸化チタンに対して、ほぼ100wt%の回収率であった。
【0075】
実施例5の複合粒子は、キトサン粒子のキトサンが架橋されているもの(架橋物)であり、これによりキトサン粒子の安定化が図られている。実施例5の複合粒子は、粒径が45μm~300μmの範囲にある。
図11に示すように、実施例5の複合粒子は、酸化チタンがキトサン粒子の表面を覆っていることが判る。
図12に示すEDX(エネルギー分散型X線分析)によるマッピングでは、酸化チタンがドットで示されており、これによれば、実施例5の複合粒子は、酸化チタンがキトサン粒子の表面を覆っていることが判る。
【0076】
実施例1~5のゼータ電位および分散液の粘度を表1に示す。
【0077】
【0078】
(研磨試験)
実施例の複合粒子を研磨材として用いて、ウェハの研磨試験を行った。
【0079】
(試験例1)
実施例2の複合粒子を研磨材として用いて、試験例1の研磨液を調製した。試験例1の研磨液は、分散媒としての純水に対して、実施例2の複合粒子を3.0wt%になるように入れて、更に、添加剤としてキトサンナノファイバー(スギノマシン(株)製、ビンフィズFEo-08002、繊維径20nm~50nm)を0.5wt%になるように添加して、pH5.9に調製している。
【0080】
試験例1の研磨液を用いて、被研磨体の研磨を行った。研磨装置は、ハニカム状の定盤(φ300溝付き)を有する片面研磨装置(ムサシノ電子(株)製 商品名:MA300E)を用いた。チューブポンプにより流量0.7ml/分で研磨液を流しつつ、定盤回転数75rpmおよび加工時間30分の条件で、1枚の被研磨体(単結晶SiCウェハ(4インチ))のSi面を研磨した。なお、加工圧力は、研磨材(複合粒子)によって調製している。
【0081】
(比較例1)
比較例1の研磨液は、分散媒としての純水に対して、平均粒径9μmの単結晶ダイヤを1.0wt%になるように入れて、更に、添加剤としてキトサンナノファイバー(スギノマシン(株)製、ビンフィズFEo-08002、繊維径20nm~50nm)を0.5wt%になるように添加して、pH5.8に調製している。
【0082】
比較例1の研磨液を用いて、被研磨体の研磨を行った。研磨装置は、ハニカム状の定盤(φ300溝付き)を有する片面研磨装置(ムサシノ電子(株)製 商品名 MA300E)を用いた。チューブポンプにより流量0.7ml/分で研磨液を流しつつ、定盤回転数30rpmおよび加工時間30分の条件で、1枚の被研磨体(単結晶SiCウェハ(4インチ))のSi面を研磨した。なお、加工圧力は、研磨材によって調整している。
【0083】
(比較例2)
比較例2の研磨液は、分散媒としての純水に対して、平均粒径9μmの多結晶ダイヤを0.1wt%になるように入れて、更に、添加剤としてキトサンナノファイバー(スギノマシン(株)製、ビンフィズFEo-08002、繊維径20nm~50nm)を0.5wt%になるように添加して、pH5.8に調製している。
【0084】
比較例2の研磨液を用いて、被研磨体の研磨を行った。研磨装置は、鋳鉄状の定盤(φ300溝付き)を有する片面研磨装置(ムサシノ電子(株)製 商品名 MA300E)を用いた。チューブポンプにより流量4.0ml/分で研磨液を流しつつ、定盤回転数30rpmおよび加工時間30分の条件で、1枚の被研磨体(単結晶SiCウェハ(4インチ))のSi面を研磨した。なお、加工圧力は、研磨材によって調整している。
【0085】
(比較例3)
比較例3の研磨液は、分散媒としての純水に対して、平均粒径3μmの単結晶ダイヤを1.0wt%になるように入れて、更に、添加剤としてキトサンナノファイバー(スギノマシン(株)製、ビンフィズFEo-08002、繊維径20nm~50nm)を0.5wt%になるように添加して、pH5.8に調製している。
【0086】
比較例3の研磨液を用いて、被研磨体の研磨を行った。研磨装置は、ハニカム状の定盤(φ300溝付き)を有する片面研磨装置(ムサシノ電子(株)製 商品名 MA300E)を用いた。チューブポンプにより流量0.7ml/分で研磨液を流しつつ、定盤回転数30rpmおよび加工時間30分の条件で、1枚の被研磨体(単結晶SiCウェハ(4インチ))のSi面を研磨した。なお、加工圧力は、研磨材によって調整している。
【0087】
試験例1および比較例1~3の研磨液による研磨試験の結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
表2に示すように、試験例1の研磨液を用いてSiCの研磨を行った結果、15.59μm/hの高い研磨速度を達成した。
図13に示すように、
図14に示す研磨前のウェハと比べて、SiCウェハの表面全体に鏡面化が起こっていることが確認でき、研磨後の表面粗さは2.5nmとなった。試験例1の研磨液によれば、SiCの高速研磨と鏡面化を1つのプロセスで行うことができることが確認できた。
【0090】
表2に示すように、比較例1の研磨液を用いてSiCの研磨を行った結果、0.89μm/hの低い研磨速度で、表面粗さは10.4nmとなった。研磨速度、表面粗さとも良好な結果は得られなかった。比較例2の研磨液を用いてSiCの研磨を行った結果、15.97μm/hの高い研磨速度となったが、表面粗さは50nm以上となり、表面粗さが大きくなった。比較例3の研磨液を用いてSiCの研磨を行った結果、表面粗さは1.4nmとなったものの、研磨速度が0.40μm/hで、高い研磨速度が得られなかった。