(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】見守り支援システムおよび見守り支援方法
(51)【国際特許分類】
G08B 25/04 20060101AFI20240612BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20240612BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240612BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
G08B25/04 K
G08B21/02
A61B5/00 102C
A61B5/02 310A
(21)【出願番号】P 2022544998
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032359
(87)【国際公開番号】W WO2022044201
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】596170217
【氏名又は名称】株式会社ユタカ電子製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】320009897
【氏名又は名称】グリード合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】青野 豊
(72)【発明者】
【氏名】今道 太
(72)【発明者】
【氏名】ユー チョンクン
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-323495(JP,A)
【文献】特開2018-093978(JP,A)
【文献】特開2002-344660(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0108440(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0235894(US,A1)
【文献】特開2019-048061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00-5/03
G06Q50/22
G08B19/00-31/00
G16H10/00-80/00
H04M9/00-9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
見守り対象者に装着されて脈拍に関するデータを含むバイタルデータを継続的に取得するウェアラブル端末と、
該ウェアラブル端末と関連付けられた見守り人端末と、
該見守り人端末及び前記ウェアラブル端末の少なくとも一方と通信可能に接続された管理サーバと、を具備し、
前記見守り人端末及び前記管理サーバの少なくとも一方は、前記ウェアラブル端末の識別コードが付された前記バイタルデータを受信し、そのデータ処理を行う第一バイタルデータ処理手段を備え、
該第一バイタルデータ処理手段は、
前記バイタルデータの変化に基づいて前記見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを検知するバイタル変化検知手段と、
該バイタル変化検知手段による検知に基づいてアラート信号を生成し、前記見守り人端末に異常発生を報知させるアラート手段と、を備え、
前記管理サーバは、
前記見守り対象者が前記ウェアラブル端末と関連付けられている対象者情報、及び、前記ウェアラブル端末により取得された前記バイタルデータが前記対象者情報と関連付けられている対象者定量情報、を記憶するデータベースを備えて
おり、
前記見守り対象者ごとの前記対象者情報として、疾患情報及び体調情報を含み、
前記疾患情報及び前記体調情報は、前記見守り人端末からの入力により更新されると共に、
前記管理サーバは、前記データベースに蓄積された前記対象者定量情報を使用してデータ処理を行う第二バイタルデータ処理手段を備え、
該第二バイタルデータ処理手段は、
過去の前記バイタルデータに基づく時系列パターンを説明変数に、前記時系列パターンが取得された時点以降の前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方を目的変数として解析し、相関関係を見いだす時系列パターン解析手段と、
新たなバイタルデータに基づく時系列パターンを、前記時系列パターン解析手段によって前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方との相関関係が見いだされた前記時系列パターンと対比することにより、前記新たなバイタルデータを示した見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを推定・予測するイベント推定・予測手段と、を備えていることを特徴とする見守り支援システム。
【請求項2】
前記見守り人端末と通信可能に接続されており、前記見守り対象者の居住空間に設置されているカメラ装置を更に具備し、
前記アラート手段による前記アラート信号の送信、及び、前記見守り人端末からの信号送信の少なくとも一方に基づいて、前記カメラ装置がモニタリング状態となる
ことを特徴とする請求項1に記載の見守り支援システム。
【請求項3】
見守り対象者に装着させたウェアラブル端末から脈拍に関するデータを含むバイタルデータを継続的に取得し、
取得された前記バイタルデータを、前記見守り対象者
の疾患情報及び体調情報
と関連付けられた対象者定量情報としてデータベースに記憶し、
前記データベースに蓄積された前記対象者定量情報を使用し、前記バイタルデータに基づく時系列パターンを説明変数に、前記時系列パターンが取得された時点以降の前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方を目的変数として
、機械学習により解析する解析処理を行い、
新たなバイタルデータに基づく時系列パターンを、前
記解析
処理によって前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方との相関関係が見いだされた前記時系列パターンと対比することにより、前記新たなバイタルデータを示した見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを推定・予測す
る
ことを特徴とす
る見守り支援
方法。
【請求項4】
前記新たなバイタルデータの時系列パターンは、時間の経過に伴う脈拍数の上下動パターンであり、
前記身体イベントとして、延命措置が施されていない前記見守り対象者の脈拍停止の時点が予測される
ことを特徴とする
請求項3に記載の見守り支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、見守り支援システムおよび見守り支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
疾患の発症や病態が急変する前に予兆があったとしても、その予兆に本人が気づかないことが多い。特に、高齢者は身体的な感覚が鈍くなっているため、その傾向が大きい。仮に、体調が不良であると本人が感じたとしても、どこがどのように不調であるかを、医療従事者に適切に伝えられないことも多い。特に、認知症患者の場合は、体調や症状を聞き取る問診からして困難である。また、自己の体調の把握や健康維持のために、毎日きまった時間に血圧や体温を計ること等も推奨されているが、そのようなことを続けられない人も多い。このように、本人では「気づかない」、「伝えられない」、「続けられない」ことが障壁となり身体の異常の発見が遅れることにより、疾患が重症化するおそれがある。
【0003】
一方、手首に腕時計のように装着することで、人体に電極を貼り付けることなく、非侵襲で、脈拍数や体温などを測定することが可能なウェアラブル端末が提案されている(例えば、特許文献1)。このようなウェアラブル端末は、例えば、健康志向の高い人が、自己の健康管理のために活用しており、スポーツの際に、脈拍数の変化から運動の負荷を調整したり、歩数から運動量を把握したりしている。
【0004】
本発明者らは、このようなウェアラブル端末を、高齢者や病人に装着させることにより、身体の異常を早期に検知することができるのではないかと考えた。従来の腕時計型ウェアラブル端末は、スポーツの際などの一時的な使用を前提としており、モニタの表示に関する意匠にも凝っているために、電力消費が大きい。バッテリを頻繁に充電する必要があるため、連続的な使用ができない。これに対し、本発明者らは、データの測定方法や出力形式を工夫することにより電力消費を抑制し、バッテリを充電することなく、少なくとも一週間の長期にわたり連続使用することを可能とした。これにより、ウェアラブル端末を装着させた人の身体に関するデータ(バイタルデータ)を、継続的に取得することが可能である。しかしながら、従来のウェアラブル端末では、脈拍数や体温などがウェアラブル端末自体のモニタに表示されるだけであるため、本人が意識して数値を読み取ったり数値の変化を把握したりする必要があり、そのような作業を高齢者や病人に行わせることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記の実情に鑑み、ウェアラブル端末を装着している本人に何らかの作業を求めることなく、その人のバイタルデータを取得することによって、身体における異常を早期に検知することができる見守り支援システム、および見守り支援方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる見守り支援システム(以下、単に「システム」と称することがある)は、
「見守り対象者に装着されて脈拍に関するデータを含むバイタルデータを継続的に取得するウェアラブル端末と、
該ウェアラブル端末と関連付けられた見守り人端末と、
該見守り人端末及び前記ウェアラブル端末の少なくとも一方と通信可能に接続された管理サーバと、を具備し、
前記見守り人端末及び前記管理サーバの少なくとも一方は、前記ウェアラブル端末の識別コードが付された前記バイタルデータを受信し、そのデータ処理を行う第一バイタルデータ処理手段を備え、
該第一バイタルデータ処理手段は、
前記バイタルデータの変化に基づいて前記見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを検知するバイタル変化検知手段と、
該バイタル変化検知手段による検知に基づいてアラート信号を生成し、前記見守り人端末に異常発生を報知させるアラート手段と、を備え、
前記管理サーバは、
前記見守り対象者が前記ウェアラブル端末と関連付けられている対象者情報、及び、前記ウェアラブル端末により取得された前記バイタルデータが前記対象者情報と関連付けられている対象者定量情報、を記憶するデータベースを備えている」ものである。
【0008】
本見守り支援システムでは、見守り対象者に装着させたウェアラブル端末により、脈拍に関するデータを含むバイタルデータを継続的に取得する。詳細は後述するように、心房細動の発現、睡眠中の覚醒、発熱、脈拍停止の予兆、脈拍停止など、疾患発症及び体調変化を含む身体イベントは、バイタルデータの変化として表れる。本見守り支援システムでは、継続的に取得されたバイタルデータの変化を、システムの機能的構成である第一バイタルデータ処理手段によって検出することにより、身体イベントを検知し、更にアラート信号に基づき見守り人端末に異常発生を報知させる。ここで、見守り人端末は、見守り対象者を見守る側の見守り人が使用する端末であり、見守り人としては、医療介護従事者(以下、「医療介護者」と称する)、訪問看護師や訪問介護員などの訪問医療介護従事者(以下、「訪問医療介護者」と称する)、見守り対象者の家族を例示することができる。
【0009】
従って、ウェアラブル端末を装着している本人に何らかの作業を求めることなく、その人のバイタルデータを取得し、身体に異常が生じたときに、それをシステムにおけるデータ処理によって早期に検知し、更に見守り人に知らせることができる。これにより、本人では気づかない、伝えられない、続けられないことが障壁となり、従来では発見が遅れていたような身体の異常を早期に知ることができ、適切な処置を速やかに施すことが可能となるため、疾患の重症化を抑制することができる。
【0010】
また、バイタルデータは、見守り対象者の対象者情報と関連付けられて、管理サーバのデータベースに記憶される。従って、継続的に取得されて時間の経過に伴い容量が膨大となることにより、ウェアラブル端末自身や、見守り人が持ち歩くことも想定される見守り人端末では、長く保存することが難しいバイタルデータを、使い捨てにすることなく長く保存することができる。なお、バイタルデータの「継続的」な取得とは、一定の時間間隔で、または、所定の時間(定時)に行われるデータ取得を、日々、積み重ねて行くことを指している。
【0011】
本発明にかかる見守り支援システムは、上記の構成に加えて、
「前記見守り人端末と通信可能に接続されており、前記見守り対象者の居住空間に設置されているカメラ装置を更に具備し、
前記アラート手段による前記アラート信号の送信、及び、前記見守り人端末からの信号送信の少なくとも一方に基づいて、前記カメラ装置がモニタリング状態となる」ものとすることができる。
【0012】
本構成によれば、見守り対象者の近傍に設置されたカメラ装置と、見守り人端末との間で画像による通信を行うことができる。従って、アラート手段によるアラート信号の送信に基づいてカメラ装置がモニタリング状態となる場合は、異常発生を知らされた見守り人が、直ちに見守り対象者の状態を視覚で確認することができる。一方、見守り人端末からの信号送信に基づいてカメラ装置がモニタリング状態となる場合は、見守り人が見守り対象者の様子を知りたいときに、随時、カメラ装置を介して見守り対象者の状況を確認することができる。もちろん、異常発生を知らされた見守り人が、直ちにカメラ装置をモニタリング状態とする信号を送信することも可能である。また、見守り人が見守り対象者の家族である場合など、いつでも見守り対象者の姿を見ることができるため、見守り人に安心感を与えることができる。
【0013】
本発明にかかる見守り支援システムは、上記の構成に加えて、
「前記見守り対象者ごとの前記対象者情報として、疾患情報及び体調情報を含み、
前記疾患情報及び前記体調情報は、前記見守り人端末からの入力により更新されると共に、
前記管理サーバは、前記データベースに蓄積された前記対象者定量情報を使用してデータ処理を行う第二バイタルデータ処理手段を備え、
該第二バイタルデータ処理手段は、
過去の前記バイタルデータに基づく時系列パターンを説明変数に、前記時系列パターンが取得された時点以降の前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方を目的変数として解析し、相関関係を見いだす時系列パターン解析手段と、
新たなバイタルデータに基づく時系列パターンを、前記時系列パターン解析手段によって前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方との相関関係が見いだされた前記時系列パターンと対比することにより、前記新たなバイタルデータを示した見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを推定・予測するイベント推定・予測手段と、を備えている」ものである。
【0014】
本構成では、データベースに蓄積された対象者定量情報を使用して、データ処理を行う。つまり、多数の見守り対象者について長期にわたり取得された膨大な量のバイタルデータを使用して、データ処理を行う。対象者定量情報は、疾患情報及び体調情報を含む対象者情報と関連付けられている。身体に生じる異常は、どのような異常であれ、疾患情報及び体調情報における何らかの変数と相関関係を有していると考えられる。そこで、本システムの第二バイタルデータ処理手段は、バイタルデータの時間の経過に伴う変化が形として表れたグラフのパターン、である時系列パターンを説明変数に、その時系列パターンが取得された時点以降の疾患情報及び体調情報の少なくとも一方を目的変数として解析し、相関関係を見いだす処理を行う。
【0015】
この処理によって、過去の時系列パターンについて、疾患情報及び体調情報における何らかの変数と相関関係を有していることが見いだされれば、この過去の時系列パターンを使用して、新たなバイタルデータを示した人の身体における異常を、推定・予測することができる。すなわち、新たなバイタルデータに基づく時系列パターンが、過去の時系列パターンと近似していれば、過去の時系列パターンとの相関関係が見いだされている疾患情報及び体調情報の少なくとも一方に対応した身体イベントが、新たなバイタルデータを示した人の身体においても生じていることを推定し、或いは、将来的に生じることを予測することができる。ここで、過去の時系列パターンとの相関関係が見いだされている疾患情報及び体調情報が、過去の時系列パターンが取得された時点と同時点のものである場合は、現時点の異常の「推定」であり、過去の時系列パターンとの相関関係が見いだされている疾患情報及び体調情報が、過去の時系列パターンが取得された時点より後の時点のものである場合は、将来的に生じる異常の「予測」である。なお、時系列パターン解析手段による解析においては、過去の時系列パターンが取得された時点より前(過去)の疾患情報を、説明変数に加えることもできる。
【0016】
次に、本発明にかかる見守り支援方法は、
「見守り対象者に装着させたウェアラブル端末から脈拍に関するデータを含むバイタルデータを継続的に取得し、
取得された前記バイタルデータを、前記見守り対象者の疾患情報及び体調情報と関連付けられた対象者定量情報としてデータベースに記憶し、
前記データベースに蓄積された前記対象者定量情報を使用し、前記バイタルデータに基づく時系列パターンを説明変数に、前記時系列パターンが取得された時点以降の前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方を目的変数として、機械学習により解析する解析処理を行い、
新たなバイタルデータの時系列パターンを、前記解析処理によって前記疾患情報及び前記体調情報の少なくとも一方との相関関係が見いだされた前記時系列パターンと対比することにより、前記新たなバイタルデータを示した見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを推定・予測する」ものである。
【0017】
本構成は、上記の見守り支援システムであって、データベースに蓄積された対象者定量情報を使用してデータ処理を行うシステムで使用される見守り支援方法である。上記のシステムにおいて第二バイタルデータ処理手段によって行われる処理は、機械学習による処理である。
【0018】
本発明にかかる見守り支援方法は、上記構成において、
「前記新たなバイタルデータの時系列パターンは、時間の経過に伴う脈拍数の上下動パターンであり、
前記身体イベントとして、延命措置が施されていない前記見守り対象者の脈拍停止の時点が予測される」ものとすることができる。
【0019】
詳細は後述するように、本方法によれば、延命措置が施されていない見守り対象者について脈拍停止の時点を予測することができるため、見守り対象者の親近者など、最期を看取る心構えをすることができる。また、見守り対象者が独居の人である場合も、見守り人が訪問医療介護者や親近者であれば、脈拍停止の予兆や脈拍停止についての報知を受け取るため、人知れず亡くなってしまうという事態を避けることができる。ここで、「延命装置」とは、降圧剤、昇圧剤などバイタルデータを正常値の範囲内に維持するための薬剤の投与、酸素吸入、人工心肺装置の使用、を例示することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、ウェアラブル端末を装着している本人に何らかの作業を求めることなく、その人のバイタルデータを取得することによって、身体における異常を早期に検知することができる見守り支援システム、および見守り支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態である見守り支援システムの構成図である。
【
図2】夜間に覚醒したときの脈拍数と皮膚温度の経時的な変化を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)は健常者が安静にしている状態における脈拍数と皮膚温度の経時的な変化を示すグラフであり、
図3(b)は心房細動患者が安静にしている状態における脈拍数と皮膚温度の経時的な変化を示すグラフである。
【
図4】
図4(a)は延命措置が施されていない寝たきりの人の脈拍停止の日より一週間前から二週間前における脈拍数と皮膚温度の経時的な変化を示すグラフであり、
図4(b)は同じ人の死亡が宣言された日における脈拍数と皮膚温度の経時的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な一実施形態である見守り支援システム1について、図面を参照して説明する。本実施形態の見守り支援システム1の見守り対象者としては、介護施設の入居者、病院に入院している病人、自宅で生活しているが医療介護や看護が必要な人、を挙げることができる。本実施形態の見守り支援システム1は、
図1に概略構成を示すように、管理サーバ10と、ウェアラブル端末20と、カメラ装置30と、専用送受信機40と、見守り人端末50と、を備えている。
【0023】
ウェアラブル端末20は、腕時計のように見守り対象者の手首に装着される端末であり、CPU、記憶装置、モニタを備えている。このウェアラブル端末20は、見守り対象者のバイタルデータとして、脈拍に関するデータ、皮膚温度、歩数(活動度)、血圧、及び、SpO2を(酸素飽和濃度)を取得する。これらの測定項目のうち、脈拍に関するデータ、皮膚温度、歩数は、常時取得される。ここでの「常時」は、1分~2分の短いインターバルで継続的にデータを取得することを指している。
【0024】
また、バイタルデータのうち、血圧、及びSpO2は、上記と同様に常時取得される設定とすることもできるが、所定の時間間隔、または所定の時刻に取得されるものとすることができる。ここで、「所定の時間間隔」は、4時間ごと、6時間ごとのように設定することができる。また、「所定の時刻」は、7時(起床時)、12時(昼食前)、20時(就寝前)など、毎日の定時に設定することができる。なお、所定の時間間隔、または所定の時刻に取得されることとした測定項目に関しては、見守り人端末50から送信された信号に基づいて、任意のタイミングで取得される設定とすることもできる。
【0025】
脈拍に関するデータは、脈拍数、及びPPIであり、光電脈波法によって測定される。光電脈波法には、体内を透過する光の変化量を測定する透過型脈波測定と、体内において反射される光の変化量を測定する反射型脈波測定に大別されるが、本実施形態では反射型脈波センサによる反射型脈波測定を採用している。詳述すると、脈動により血管の容積が変化すると、血液中に存在するヘモグロビンの量も変化する。ヘモグロビンが緑色の光を吸収する性質を有していることから、緑色LEDから血管へ照射された反射光がヘモグロビンの量によって変動すること利用して、脈動、ひいては脈派を検知することができる。PPIは、脈派の波形におけるピーク間隔(秒)であり、脈拍数は1分間当たりの平均PPI(60÷平均PPI)である。なお、本実施形態では、脈拍に関するデータとして、脈拍数及びPPIに加えて、HRV(心拍変動)を測定している。
【0026】
皮膚温度は、温度変化に伴う電気抵抗の変化をサーミスタで検知することにより測定される。歩数(活動量)は、三軸の加速度が作用した回数を三軸加速度センサによって計測することにより測定される。血圧は、血圧が高くなると血管の容積が大きくなりヘモグロビンの量が多くなることに着目し、上記の反射型脈波測定と同様に、緑色LEDから照射された光の反射光に基づいて脈波を検出し、脈波の形状から脈拍伝播を測定して血圧値を推定する。また、SpO2は、LEDから照射された光の反射光の強度変化に基づいて算出される。
【0027】
なお、ウェアラブル端末20はバッテリを電源とするが、バイタルデータの測定方法を工夫し、かつモニタに表示される内容を工夫することにより、従来の時計型ウェアラブル端末に比べて大幅に電力消費が抑えられており、一週間~二週間の長期にわたる連続使用が可能である。そのため、訪問医療介護者が週に一回~二回程度しか訪問しない独居の高齢者が見守り対象者である場合であっても、訪問医療介護者が訪問時にバッテリの交換を行えば足り、本人がバッテリを交換する作業を要することなく、継続的にバイタルデータを取得することができる。また、バッテリの残存量を、ウェアラブル端末20に関連付けられた見守り人端末50に送信させるようにしてもよい。
【0028】
カメラ装置30は、ウェアラブル端末20を装着する見守り対象者の居住空間3に設置される。カメラ装置30は、カメラ31、マイク32、スピーカ(図示を省略)を有しており、見守り人端末50から送られた音声をスピーカから出力し、カメラ装置30の近傍の音声をマイク32で集音して見守り人端末50に送る。つまり、カメラ装置30は、会話可能なリモートカメラである。また、カメラ装置30は、見守り人端末50から送信された信号に基づいて、カメラ31やマイク32のオン・オフを切り替えたり、カメラ31による撮影方向や撮影倍率を変化させたりすることができる。
【0029】
専用送受信機40は、ウェアラブル端末20を装着する見守り対象者の居住空間3、または居住空間3を含む建物内に設置される。専用送受信機40は、CPU、記憶装置に加えて、ルータ機能付きのモデムを備えているコンピュータであり、ウェアラブル端末20、及びカメラ装置30とは、wi-fi、Bluetooth(登録商標)のような無線通信により接続されていると共に、インターネットなどの通信ネットワーク2とは有線により接続されている。専用送受信機40は、例えば、見守り対象者が介護施設や病院などの施設内で生活している場合、見守り対象者それぞれの居住空間3に設置したり、施設のフロアごとに設置したり、或いは、所定数の居住空間3ごとに設置したりすることができる。
【0030】
見守り人端末50は、見守り対象者を見守る側である見守り人が使用する端末であり、見守り人としては、医療介護者、訪問医療介護者、見守り対象者の家族を例示することができる。例えば、見守り対象者が介護施設の入居者である場合、見守り人端末50としては、その入居者を担当する医療介護者が使用する端末、その介護施設の事務局に設置された端末を例示することができる。見守り対象者が病院に入院している病人の場合、見守り人端末50としては、その人を担当している看護者が使用する端末、ナースステーションに設置された端末など、医師や療法士を含む医療介護従事者が使用する端末を例示することができる。見守り対象者が自宅で生活しているが医療介護や看護が必要な人である場合、見守り人端末50としては、その人を担当する訪問医療介護者が使用する端末、その訪問医療介護者が所属する事業所の端末を例示することができる。
【0031】
見守り人端末50は、CPU、記憶装置、キーボードやマウスのような入力装置、モニタやプリンタのような出力装置、を備えたコンピュータにより構成されている。加えて、本実施形態の見守り人端末50は、マイク、及びスピーカを備えている。マイクによって見守り人の音声を集音してカメラ装置30に送ることができると共に、カメラ装置30から送られた音声をスピーカから出力することができる。見守り人端末50としては、デスクトップパソコン、ラップトップパソコン、タブレット型パソコン、スマートフォン、を使用することができる。
【0032】
見守り人端末50には、見守り支援システム1を利用するための専用のソフトウェアがインストールされる。これにより、見守り人端末50は機能的構成として、受信手段及び送信手段(何れも図示を省略)と、第一バイタルデータ処理手段51と、を備えている。見守り人端末50は、受信手段及び送信手段を介して、専用送受信機40及び管理サーバ10との間で、データや信号の送受信を行う。
【0033】
本実施形態では、見守り人端末50として、専用送受信機40と無線通信し、専用送受信機40を介して通信ネットワーク2と接続される見守り人端末50aと、施設内通信ネットワーク2bによって専用送受信機40と有線通信し、専用送受信機40を介して通信ネットワーク2と接続される見守り人端末50bと、専用送受信機40を介することなく通信ネットワーク2に接続される見守り人端末50cと、がある。ウェアラブル端末20と同一施設内にある見守り人端末50a,50bは、通信ネットワーク2を介することなく専用送受信機40を介して、ウェアラブル端末20とデータや信号の送受信を行うことができる。なお、本書面では、これらの見守り人端末50a,50b,50cを特に区別する必要がない場合に、「見守り人端末50」と総称している。
【0034】
第一バイタルデータ処理手段51は、ウェアラブル端末20で取得されたバイタルデータを、即時にデータ処理する手段である。第一バイタルデータ処理手段51は、バイタル変化検知手段とアラート手段と、を備えている。バイタル変化検知手段は、バイタルデータの変化に基づいて見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを検知する手段である。疾患発症及び体調変化を含む身体イベント、については後で詳述する。
【0035】
アラート手段は、バイタル変化検知手段の検知に基づいて、見守り人端末50に異常発生を報知させる手段である。見守り人端末50における報知としては、警告灯の点灯または点滅、モニタ画面への警告表示、警告音のスピーカからの出力、の何れか、または複数の組み合わせとすることができる。
【0036】
管理サーバ10は、見守り支援システム1の管理者が管理するサーバであり、通信ネットワーク2に接続されている。管理サーバ10は、CPU、記憶装置、キーボードやマウスのような入力装置、及びモニタやプリンタのような出力装置、を備えたコンピュータにより構成されている。管理サーバ10は機能的構成として、受信手段11と、データベース12と、第二バイタルデータ処理手段13と、送信手段16と、を備えている。
【0037】
管理サーバ10は、受信手段11及び送信手段16によって、専用送受信機40を介して見守り人端末50a,50bとの間で、データや信号の送受信を行い、受信手段11及び送信手段16によって、専用送受信機40を介することなく見守り人端末50cとの間で、データや信号の送受信を行う。
【0038】
第二バイタルデータ処理手段13は、ウェアラブル端末20で取得されたバイタルデータが対象者情報12aと関連付けられてデータベース12に記憶された対象者定量情報12dが、ある程度の期間にわたり蓄積された後で、蓄積された対象者定量情報12dを使用してデータ処理を行う手段である。第二バイタルデータ処理手段13は、ステイタス情報生成手段と、時系列パターン解析手段と、イベント推定・予測手段と、を備えている。
【0039】
データベース12には、対象者情報12a、見守り人情報12b、対象者定量情報12d、解析結果情報12eが記憶されている。対象者情報12aは、見守り対象者の性別や年齢(生年月日)などの情報が、その見守り対象者が装着するウェアラブル端末20の識別コードと関連付けられた情報である。更に、本実施形態における対象者情報12aは、各ウェアラブル端末20がバイタルデータを送信する先の専用送受信機40の識別コード、及び、各ウェアラブル端末20が設置されている居住空間3に設置されているカメラ装置30の識別コードが、それぞれウェアラブル端末20の識別コードと関連付けられた情報を含んでいる。加えて、本実施形態における対象者情報12aは、その見守り対象者の疾患情報と体調情報を含んでいる。疾患情報及び体調情報については、後述する。
【0040】
見守り人情報12bは、見守り人端末50とウェアラブル端末20とが、それぞれの識別コードによって関連付けられた情報である。見守り人情報12bには、見守り人端末50が管理サーバ10にアクセスする際のIDやパスワード等の認証情報も含まれる。
【0041】
関連付けられる見守り人端末50とウェアラブル端末20は、一対一であるとは限らない。例えば、一人の見守り対象者を複数の医療介護者、訪問医療介護者が介護する場合は、複数の見守り人端末50と一つのウェアラブル端末20が関連付けられ、複数の見守り対象者の介護を一人の医療介護者、訪問医療介護者が担当する場合は、一つの見守り人端末50と複数のウェアラブル端末20が関連付けられる。
【0042】
対象者定量情報12dは、ウェアラブル端末20で取得されたバイタルデータが、上記の対象者情報12aと関連付けられた情報である。また、対象者定量情報12dには、バイタルデータが第一バイタルデータ処理手段51によってデータ処理された結果を含めることができる。解析結果情報12eは、第二バイタルデータ処理手段13のデータ処理において、時系列パターン解析手段による解析の結果、時系列パターンと疾患情報及び体調情報の少なくとも一方との間に相関関係が見いだされた場合に、その疾患情報または体調情報が時系列パターンと関連付けられてデータベース12に記憶される情報である。
【0043】
次に、本実施形態の見守り支援システム1を使用した見守り支援方法について、説明する。まず、ウェアラブル端末20を見守り対象者に装着させる。また、見守り対象者の居住空間3にカメラ装置30を設置すると共に、その居住空間3、または居住空間3を含む建物内に専用送受信機40を設置する。
【0044】
見守り人端末50では、見守り支援システム1を利用するための専用のソフトウェアをインストールして起動し、通信ネットワーク2を介して認証情報を入力することにより管理サーバ10にログインする。これにより、見守り人情報12bを読み出して、自身が関連付けられているウェアラブル端末20を確認することができる。また、日によって見守り対象者が異なる場合など、見守り人端末50からの入力により、新たな見守り対象者が装着するウェアラブル端末20と関連付けられるように変更して、見守り人情報12bを更新することができる。見守り人情報12bが更新された場合、管理サーバ10は、変更後のウェアラブル端末20と関連付けられている専用送受信機40に、新たに関連付けられた見守り人端末50を特定する情報を登録する。つまり、ウェアラブル端末20からバイタルデータを受信する専用送受信機40は、そのバイタルデータをどこに送信すればよいかの情報(見守り人端末50a宛てに送信する、見守り人端末50b宛てに送信する、管理サーバ10を介して見守り人端末50cに送信する)を得る。なお、ウェアラブル端末20と同一施設内にある見守り人端末50a,50bからの入力に基づき、管理サーバ10を介することなく、専用送受信機40がバイタルデータを送信する先の見守り人端末50a,50bに関する情報を得るようにしてもよい。
【0045】
この状態で見守り支援システム1の使用を開始すると、ウェアラブル端末20によって取得されたバイタルデータが、ウェアラブル端末20の識別コードが付された状態でウェアラブル端末20から送信される。このウェアラブル端末20が、介護施設や病院など同一の施設内にいる見守り人の使用する見守り人端末50a,50bと関連付けられている場合、ウェアラブル端末20からバイタルデータを受信した専用送受信機40は、通信ネットワーク2を介することなく見守り人端末50a,50bにバイタルデータを送信する。この際、ウェアラブル端末20からバイタルデータを受信した専用送受信機40から、見守り人端末50a,50bまでバイタルデータを届ける間に、他の送受信機41にデータ送信の仲介をさせることができる。
【0046】
バイタルデータを受信した見守り人端末50a,50bは、第一バイタルデータ処理手段51によってデータ処理を行う。このデータ処理としては、まず、バイタル変化検知手段によってバイタルデータの変化が検知され、この変化が異常を示す変化だと判定されると、アラート手段によってアラート信号が生成され、見守り人端末50a,50bにおける報知装置(スピーカ、警告灯、モニタ)に送信される。これにより、見守り人端末50a,50bにおいて異常発生の報知が行われる。
【0047】
このアラート信号は、バイタルデータの送信を仲介した専用送受信機40にも送信され、異常が発生している見守り対象者のウェアラブル端末20と関連付けられているカメラ装置30に送信される。カメラ装置30は、アラート信号の受信に基づいて、カメラ31をモニタリング状態に切り替えると共に、マイク32を集音状態に切り替える。これにより、異常発生の報知が行われた見守り人端末50a,50bを使用している見守り人は、即座にカメラ31を介して見守り対象者の状況を視認することができ、スピーカを通して見守り対象者に声かけをしたり、マイク32を通して見守り対象者の声を聞き取ることにより、会話をしたりすることができる。そして、確認された状況に応じて、見守り人は見守り対象者のもとに駆けつけることができる。
【0048】
このように、見守り対象者と見守り人が同一の施設内にいる場合、ウェアラブル端末20から送信されたバイタルデータは、通信ネットワーク2を介することなく見守り人端末50a,50bに送られてデータ処理がなされる。そのため、ほぼリアルタイムでのデータ処理が可能であり、見守り対象者に異常が発生したときに、見守り人が極めて迅速に対応することができる。
【0049】
なお、見守り人端末50a,50bが受信したバイタルデータは、第一バイタルデータ処理手段51によるデータ処理の結果と共に、所定のタイミングで通信ネットワーク2を介して管理サーバ10に送信され、データベース12に対象者定量情報12dとして格納される。従って、見守り人端末50a,50bの記憶装置に、大容量のバイタルデータを保存させておく必要はない。
【0050】
一方、見守り対象者が自宅にいる人で見守り人が訪問医療介護者である場合など、両者が地理的に離れている場合、ウェアラブル端末20から送信されたバイタルデータは、専用送受信機40によって管理サーバ10まで、通信ネットワーク2を介して送信される。バイタルデータを受信した管理サーバ10は、そのウェアラブル端末20に関連付けられている見守り人端末50cに、バイタルデータを送信する。バイタルデータを受信した見守り人端末50cにおけるデータ処理は、見守り人端末50a,50bについて上述した処理と同様である。
【0051】
ここで、第一バイタルデータ処理手段51が備えるバイタル変化検知手段のデータ処理について、例をあげて説明する。バイタル変化検知手段は、バイタルデータの変化を検出し、その変化を予め定めた閾値と対比する処理や、複数の測定項目それぞれにおけるバイタルデータの変化を組み合わせる処理により、疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを検知する。ここで、検知させる「疾患発症及び体調変化を含む身体イベント」は、身体における何らかの異常の発生(それまでとは違う状態への移行)であり、睡眠中の覚醒(中途覚醒)、心房細動の発現、貧血・熱中症やそれに伴う失神、発熱、脈拍停止の予兆、脈拍停止、を例示することができる。
【0052】
<睡眠中の覚醒(中途覚醒)及び離床>
図2に、睡眠中の脈拍数と皮膚温度を、それぞれ時刻に対してプロットしたグラフを示す。睡眠中の脈拍数は低い値で安定しているが、中途で覚醒すると脈拍数は一時的に上昇する(図示、矢印部分)。従って、ウェアラブル端末20によって刻々と継続的に取得されるバイタルデータにおいて、脈拍数を少し前(例えば、3分~5分前)の脈拍数と対比し、その差(変化量)が所定の閾値(例えば、15~20)以上であり、かつ、その状態が所定の時間(例えば、2分間~3分間)以上続くとき、中途覚醒したと判定することができる(身体イベントの検知)。その後、脈拍数の更なる上昇が検出されると共に、歩数が計測されると、これらに基づき、見守り対象者が離床して移動を始めたことが検知される。
【0053】
高齢者など見守り対象者が夜間に覚醒し、徘徊したり一人でトイレへ行ったりすると、転倒して骨折や怪我をすることがある。見守り対象者が骨折などしてしまうと、要介護度が上がり、見守り対象者及び医療介護者双方の負担が増加してしまう。このような事態を避けるために、介護施設や病院では、医療介護者が夜間に頻繁に巡回しているが、それでは医療介護者側の負担が大きい。また、見守り対象者のベッド近傍を撮影するカメラを設置し、撮像の画像処理により見守り対象者の動向を監視するシステムも実施されてはいるが、この場合、見守り対象者が覚醒した後、離床した時点で初めて検知されるため、検知に基づき医療介護者が報知を受けたときには、既に見守り対象者はそこにいなかったり、出かけた先で転倒してしまっていたりすることがあった。このような問題を避けるために、施設によっては見守り対象者が中途覚醒しないように睡眠薬を投与することもあるが、見守り対象者の身体的負担が増すことが懸念される。
【0054】
このような従来の問題に対し、本実施形態の見守り支援システム1では、離床前に覚醒した時点で、見守り人端末50に異常発生の報知がなされる。そのため、覚醒した見守り対象者が動き出さないうちに、カメラ装置30を介して声かけをしてから駆けつけるなど、迅速な対応をすることができ、見守り対象者の一人歩きを防止することができる。
【0055】
<心房細動の発現>
健常者と心房細動患者がそれぞれ安静にしているときの脈拍数と皮膚温度を時刻に対してプロットしたグラフを、それぞれ
図3(a)及び
図3(b)に示す。
図3(a)から分かるように、健常者では安静にしているときの脈拍数が低い値で安定しているのに対し、が、
図3(b)に示すように心房細動患者では、安静にしているときでも脈拍数が安定せず、大きくばらつく時間が生じる。従って、睡眠中など安静にしているときのバイタルデータのうち脈拍数について、所定時間(例えば、3分間~5分間)における脈拍数の最大値と最小値の差を検出し、その差が所定の閾値(例えば、3~7)以上であり、かつ、その状態が所定の時間(例えば、10分間~30分間)以上続くとき、心房細動が発現したと判定することができる(身体イベントの検知)。また、心房細動が生じているときは、正常なときに比べて脈派の周期が不規則となるため、PPIの標準偏差を所定の閾値と対比することによって、或いは、HRVを所定の閾値と対比することによって、心房細動の発現を検知することができる。
【0056】
心房細動は、心房で生じた異常な電気的興奮により起こる不整脈であり、心房が痙攣しているように不規則に収縮するため、脈拍数が不規則に変動する。心房内から血液が正常に送り出されない状態となるため血栓ができやすくなり、心房細動が頻繁に起こるようになると、脳梗塞や認知症の原因となる。このように心房細動は重大な疾患の原因となるが、無痛で無自覚であるため、発見が遅れることが懸念される。加えて、心房細動はいつ発現するか分からないため、病院で一時的に心電図を測定したとしても発見できないことが多い。心房細動の発現を心電図で発見するためには、週単位で連続して心電図を測定する必要があると言われているが、そのような大がかりな検査は困難である。
【0057】
このような従来の問題に対し、本実施形態の見守り支援システム1では、ウェアラブル端末20によって常時測定されるバイタルデータに、脈拍数とPPI(またはHRV)が含まれているため、いつ起きるか分からない心房細動であっても、その発現を高い確率で検知することができる。
【0058】
<貧血・熱中症やそれに伴う失神>
血圧と脈拍数は、正常時は連動して上下する。例えば、身体運動を始めれば血圧が上昇すると共に脈拍数も上昇し、運動をやめれば血圧も低下して正常値に戻ると共に脈拍数も減少して正常値に戻る。これに対し、貧血を起こしたり、それに伴って失神したりする場合、血圧は急に低下するのに対し脈拍数は上昇する。従って、バイタルデータのうち血圧と脈拍数について、同時点の値の差を検出し、その差が所定の閾値以上に大きくなったとき、すなわち、血圧と脈拍数が連動せずに乖離したとき、貧血やこれに伴う失神を起こしやすい状態であると判定することができる(身体イベントの検知)。また、血圧と乖離して脈拍数が上昇すると共に、皮膚温度が所定の閾値を超えて上昇したとき、熱中症やこれに伴う失神を起こしやすい状態であると判定することができる(身体イベントの検知)。
【0059】
<発熱>
バイタルデータのうち、歩数(活動量)がゼロに近いとき(0~「0+所定の閾値」の範囲内のとき)は、安静にしている状態であると考えられる。このように安静状態でありながら、バイタルデータの変化の検出の結果、脈拍数及び皮膚温度の双方がそれぞれ所定の閾値以上に上昇していることが検出された場合、身体運動による健康的な脈拍数及び体温の上昇ではなく、疾患に起因する発熱であると判定することができる(身体イベントの検知)。
【0060】
<脈拍停止の予兆、及び、脈拍の停止>
延命措置を施すことなく寝たきりの状態で静かに終末を迎える場合、従来では、脈拍数は睡眠時と同様にほぼ一定であり、終末に向かって徐々に値が小さくなっていくと考えられていた。このような従来の当業者の常識に反し、本発明者らは、寝たきりの状態であっても脈拍停止の1週間~2週間前になると、
図4(a)に示すように、脈拍数がブロック状に乱高下する(脈拍数が高い状態が続く時間と脈拍数が低い状態が続く時間とが、不規則に繰り返す)という知見を得た。そして、死亡が宣言された当日では、
図4(b)に示すように、低い値となった脈拍数が短いインターバルで不規則な上下動を繰り返し、皮膚温度が低下していき、脈拍停止に至っている(図示、矢印部分)。
【0061】
そこで、本実施形態の見守り支援システム1では、脈拍数が所定の閾値(例えば、39)以下となった状態が、所定の時間(例えば、10分間~15分間)以上続いたことを検出したとき、脈拍停止が近い(脈拍停止の予兆)としてアラート信号を生成し、見守り人端末50に異常発生を報知させる。これにより、医療介護者や、医療介護者から連絡を受けた家族は、遅れることなく見守り対象者の最期を看取ることができる。また、見守り支援システム1では、脈拍数がゼロとなった状態が所定の時間(例えば、30分間から45分間)以上続いたことを検出したとき、脈拍停止と判定してアラート信号を生成し見守り人端末50に異常発生を報知させる。これにより、見守り対象者が独居である場合など、見守り人である訪問医療介護者や家族と地理的に離れており、毎日顔を合わせることがない場合であっても、人知れず亡くなってしまうという事態を避けることができる。なお、脈拍停止は、医師が死亡を判定する条件の一つであり、脈拍停止のほか、心音の停止、瞳孔の散大が確認されると医師によって死亡が宣言される。
【0062】
上記では、第一バイタルデータ処理手段51による即時のデータ処理により、ほぼリアルタイムで身体イベントを検知する場合について説明した。次に、第二バイタルデータ処理手段13による処理、すなわち、ある程度の期間にわたりデータベース12に蓄積された対象者定量情報12dを使用して行われるデータ処理について説明する。
【0063】
この処理のためには、見守り対象者ごとの対象者情報12aに、疾患情報及び体調情報を含める。疾患情報は、認知症、糖尿病、狭心症など、その見守り対象者が罹患している疾患名の情報であり、脳疾患、心疾患、呼吸器系疾患などの大分類の疾患名と、その大分類に属するより具体的な小分類の疾患名で構成させることもできる。体調情報は、その見守り対象者の体調に関して生じた事象が、生じた日時や頻度と関連付けられた情報であり、「体調に関して生じた事象」には、咳、めまい、嘔吐、転倒、昏倒など第三者に分かる事象と、胸が苦しい、頭が痛いなど、本人の訴えによる事象が含まれる。また、上述したように第一バイタルデータ処理手段によって検知された中途覚醒、貧血・熱中症及びそれによる失神、発熱、脈拍停止の予兆、脈拍停止、も体調情報に含められ、検知された心房細動などの疾患は疾患情報に含められる。
【0064】
これらの疾患情報及び体調情報は、見守り人端末50からの入力に基づいて、データベース12に登録し、日々更新していくことができる。見守り人端末50にインストールされている見守り支援システム1専用のソフトウェアでは、これらの疾患情報及び体調情報の候補や、体調情報に含めるべき時刻や頻度が、モニタにプルダウン表示される。そのため、文字入力で情報を入力する手間を要することなく、プルダウン表示の中から選択するのみの操作で、必要な情報を容易に入力することができる。データベース12に記憶された疾患情報及び体調情報は、必要に応じて管理サーバ10に接続した見守り人端末50で出力させることができるため、介護記録や看護記録に代替する記録とすることができる。
【0065】
第二バイタルデータ処理手段13が備えるステイタス情報生成手段は、見守り対象者ごと、過去の短い期間におけるステイタス情報を生成する。例えば、前日の24時間におけるバイタルデータを測定項目ごとにデータ処理し、その平均値、最大値、最小値などを算出し、ステイタス情報とする。そして、その日に身体イベントの検知に基づく異常発生の報知がなされているときは、その検知の元になったデータ処理の条件から身体イベントの種類を特定し(スクリーニング)、これをステイタス情報に含める。同時に、特定された身体イベントを、対象者定量情報12dの疾患情報または体調情報に追加する。なお、死亡の場合も身体イベントとして、その時刻と共に体調情報に追加する。
【0066】
生成されたステイタス情報は、その見守り対象者と関連付けられている見守り人端末50に管理サーバ10から送信され、見守り人端末50のモニタに表示される。例えば、毎日、朝の定時に、前日のステイタス情報が送信される設定とすることができる。前日に異常が検知されなかった場合は、その旨の情報をステイタス情報に含めてもよい。
【0067】
第二バイタルデータ処理手段13が備える時系列パターン解析手段は、多数の見守り対象者についての対象者定量情報12dが、データベース12に大量に蓄積された状態でデータ処理を行う手段である。蓄積された膨大な対象者定量情報12d(ビッグデータ)には、各測定項目のバイタルデータについて時間の経過に伴う変化が形として表れたグラフが含まれている。これらのグラフにおける変化のパターンが「時系列パターン」である。時系列パターンは、疾患情報及び体調情報と関連付けられているものの、疾患情報及び体調情報に含まれる多数の変数のうち、どの変数に影響しているかは不明である。しかしながら、時系列パターンが人間のバイタルデータに基づくデータパターンである以上、人間の身体イベントに関する疾患情報及び体調情報と、相関関係を有しているはずであると考えられる。
【0068】
そこで、時系列パターンを説明変数に、その時系列パターンが取得された時点以降の疾患情報及び体調情報の少なくとも一方を目的変数として解析し、相関関係を見いだす処理を行う。この処理は、機械学習により行う。この解析の結果、ある時系列パターンについて、疾患情報及び体調情報におけるある変数との相関関係が見いだされたら、これらを関連付けて解析結果情報12eとしてデータベース12に記憶させる。なお、時系列パターンが取得された時点より前(過去)の疾患情報を、説明変数に加えることもできる。これにより、既に罹患していることが分かっている疾患を勘案して、時系列パターンの解析が行われる。
【0069】
第二バイタルデータ処理手段13が備えるイベント推定・予測手段は、過去のバイタルデータに基づいて作成された解析結果情報12eを使用して、新たなバイタルデータをデータ処理し、その新たなバイタルデータを示した見守り対象者について、身体イベントを推定・予測する手段である。つまり、新たなバイタルデータに基づく時系列パターンを、解析結果情報12eに含まれる過去の時系列パターンと対比し、両者が近似していると判断されれば、その過去の時系列パターンとの相関関係が既に見いだされている身体イベント(相関関係が見いだされている疾患情報の疾患の発症、相関関係が見いだされている体調情報における体調変化)が、その新たなバイタルデータを示した人物にも生じることを推定・予測することができる。
【0070】
ここで、対比された過去の時系列パターンとの相関関係が見いだされている疾患情報及び体調情報は、時系列パターンが取得された時点「以降」の情報であるが、これらが時系列パターンと“同時点”のものである場合は、新たなバイタルデータを示した人物に、その身体イベントが現時点で生じていると推定される。そのため、新たなバイタルデータを示した人物に自覚症状がなかったり、医療従事者が気づいていなかったりしたとしても、この推定を参照して詳細な検査を行うことにより、早期の治療が可能となる。
【0071】
一方、対比された過去の時系列パターンとの相関関係が見いだされている疾患情報及び体調情報が、時系列パターンが取得された“時点より後”の情報である場合は、新たなバイタルデータを示した人物に、将来的にその身体イベントが生じると予測される。例えば、心房細動がある期間に、ある頻度で起きていることを示す過去の時系列パターンと、「n日後に脳梗塞を発症」という身体イベントに基づく疾患情報に相関関係が認められており、その過去の時系列パターンと新たなバイタルデータに基づく時系列パターンが近似していると判断された場合、新たなバイタルデータを示した人物が、n日程度の近い将来に脳梗塞を発症すると予測される。これにより、発症前に適切な医療措置を施すことができるため、発症を予防したり重症化を防いだりすることが可能となり、医療費や社会保障費を大幅に削減することが可能となる。
【0072】
また、
図4(a)に示したように、「m日後に脈拍停止」した人について時間経過に伴う脈拍数の変化を示すグラフが得られており、同様の形状を示す時系列パターンが、所定の日数以内に死亡が宣言された人の所定の割合(X%)以上について得られていれば、このような時系列パターンと「〇日以内に脈拍停止」という身体イベントに基づく体調情報との相関関係が認められ、解析結果情報12eに含まれることとなる。このような過去の時系列パターンと、新たなバイタルデータに基づく時系列パターンが近似していると判断された場合、新たなバイタルデータを示した人物が、〇日以内程度の近い将来にX%以上の割合で脈拍停止すると予想される。これにより、その人物の親近者は、最期を看取るための心構えをすることができる。
【0073】
なお、イベント推定・予測手段によるデータ処理の結果、何らかの身体イベントが推定・予測された場合は、その情報を上述のステイタス情報に含めることができる。
【0074】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0075】
例えば、上記の実施形態では、ウェアラブル端末20として腕時計のように手首に装着するものを示したが、これに限定するものではなく、足首や上腕部など、人体のその他の部位に装着するものであっても良い。
【0076】
また、上記の実施形態では、第一バイタルデータ処理手段51が見守り人端末50の機能的構成である場合を例示したが、管理サーバ10の機能的構成とすることもできる。この場合は、ウェアラブル端末20から送信されたバイタルデータは、専用送受信機40を介して管理サーバ10に送られ、ここでバイタルデータの変化に基づく身体イベントの検知が行われる。そして、身体イベントが検知された場合は、アラート信号が管理サーバ10から見守り人端末50に送信されることにより、見守り人端末50において異常発生の報知が行われる。
【0077】
更に、上記の実施形態では、データベースに蓄積された膨大な対象者定量情報12dの解析により作成された解析結果情報12eが、見守り支援システム1の利用者である見守り対象者の新たなバイタルデータに基づく身体イベントの推定・予測に使用される場合を例示した。これに限定されず、データベース12における解析結果情報12eを、病例ライブラリーとして、医師等の医療従事者に提供することができる。解析結果情報12eは、疾患情報及び体調情報におけるある変数と、相関関係が認められたバイタルデータの時系列パターンとが関連付けられているデータベースであるため、医師等の医療従事者が担当する患者の時系列パターンに近似する時系列パターンを、データベース内で検索し抽出することにより、その患者の現時点での病状を推定したり、病状の将来的な変化を予測したりすることができる。
【0078】
また、上記の実施形態では、各測定項目のバイタルデータが、身体イベントの検知や推定・予測のためにデータ処理される場合を例示したが、皮膚温度は、他の測定項目のバイタルデータをデータ処理に使用するか否かの判断に用いることができる。すなわち、入浴時など、見守り対象者がウェアラブル端末20を外しているときにウェアラブル端末20によって取得されているデータは、身体の状況を反映したデータではない。そのため、測定された皮膚温度が、人の皮膚温度とかけ離れている数値であるときは、その時点で測定されている他のバイタルデータを採用しないという処理をすることができる。これにより、身体の状況を反映していないデータに基づいて、誤ったアラート信号が送信されてしまうことを、防止することができる。