(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】見守り支援システムおよび見守り支援方法
(51)【国際特許分類】
G08B 21/02 20060101AFI20240612BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20240612BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240612BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20240612BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240612BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20240612BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
G08B21/02
G08B25/04 K
A61B5/02 E
A61B5/02 G
A61B5/1455
A61B5/00 102C
A61B5/01 100
A61B5/11 230
(21)【出願番号】P 2022545683
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031225
(87)【国際公開番号】W WO2022045213
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/032359
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596170217
【氏名又は名称】株式会社ユタカ電子製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】320009897
【氏名又は名称】グリード合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】青野 豊
(72)【発明者】
【氏名】今道 太
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136687(WO,A1)
【文献】特開2016-195762(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0094544(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00-5/03
5/06-5/22
A61G9/00-15/12
99/00
G08B19/00-31/00
H04M9/00-9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
見守り対象者に装着されてバイタルデータを継続的に取得するウェアラブル端末と、
該ウェアラブル端末と関連付けられた見守り人端末と、
該見守り人端末及び前記ウェアラブル端末の少なくとも一方と通信可能に接続された管理サーバと、を具備し、
前記見守り人端末及び前記管理サーバの少なくとも一方は、前記ウェアラブル端末の識別コードが付された前記バイタルデータを受信し、そのデータ処理を行う第一バイタルデータ処理手段を備え、
前記バイタルデータは、脈拍数データ及び血中酸素濃度データを含み、
前記第一バイタルデータ処理手段は、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが非検出のとき、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態であると判定する一方、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが検出されているとき、前記見守り対象者の脈拍が停止したと判定してアラート信号を生成し、前記見守り人端末に報知させる
ものであり、
前記脈拍数データが非検出のときに、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態と、前記見守り対象者の脈拍の停止とを区別すると共に、
前記血中酸素濃度データを、前記ウェアラブル端末の装着・非装着状態の判定と、前記見守り対象者の脈拍停止の判定との双方に使用する
ことを特徴とする見守り支援システム。
【請求項2】
前記バイタルデータは、体温データを含み、
該体温データは、前記ウェアラブル端末によって計測された体表温度及び赤外線放射温度に基づき算出された深部体温データであり、
前記第一バイタルデータ処理手段は、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データ及び前記体温データが検出されているとき、前記見守り対象者の脈拍が停止したと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の見守り支援システム。
【請求項3】
見守り対象者に装着されてバイタルデータを継続的に取得するウェアラブル端末と、
該ウェアラブル端末と関連付けられた見守り人端末と、
該見守り人端末及び前記ウェアラブル端末の少なくとも一方と通信可能に接続された管理サーバと、を具備し、
前記ウェアラブル端末の識別コードが付された前記バイタルデータの処理を行う見守り支援システムにおいて、
前記バイタルデータを、脈拍数データ及び血中酸素濃度データを含むものとし、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが非検出のとき、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態であると判定する一方、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが検出されているとき、前記見守り対象者の脈拍が停止したと判定する
ことにより、
前記脈拍数データが非検出のときに、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態と、前記見守り対象者の脈拍の停止とを区別すると共に、
前記血中酸素濃度データを、前記ウェアラブル端末の装着・非装着状態の判定と、前記見守り対象者の脈拍停止の判定との双方に使用する
ことを特徴とする見守り支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、見守り支援システムおよび見守り支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
疾患の発症や病態が急変する前に予兆があったとしても、その予兆に本人が気づかないことが多い。特に、高齢者は身体的な感覚が鈍くなっているため、その傾向が大きい。仮に、体調が不良であると本人が感じたとしても、どこがどのように不調であるかを、医療従事者に適切に伝えられないことも多い。特に、認知症患者の場合は、体調や症状を聞き取る問診からして困難である。また、自己の体調の把握や健康維持のために、毎日きまった時間に血圧や体温を計ること等も推奨されているが、そのようなことを続けられない人も多い。このように、本人では「気づかない」、「伝えられない」、「続けられない」ことが障壁となり身体の異常の発見が遅れることにより、疾患が重症化するおそれがある。
【0003】
一方、手首に腕時計のように装着することで、人体に電極を貼り付けることなく、非侵襲で、脈拍数や体温などを測定することが可能なウェアラブル端末が提案されている(例えば、特許文献1)。このようなウェアラブル端末は、例えば、健康志向の高い人が、自己の健康管理のために活用しており、スポーツの際に、脈拍数の変化から運動の負荷を調整したり、歩数から運動量を把握したりしている。
【0004】
本発明者らは、このようなウェアラブル端末を、高齢者や病人に装着させることにより、身体の異常を早期に検知することができるのではないかと考えた。従来の腕時計型ウェアラブル端末は、スポーツの際などの一時的な使用を前提としており、モニタの表示に関する意匠にも凝っているために、電力消費が大きい。バッテリを頻繁に充電する必要があるため、連続的な使用ができない。これに対し、本発明者らは、データの測定方法や出力形式を工夫することにより電力消費を抑制し、バッテリを満充電することで、少なくとも一週間以上の長期にわたり連続使用することを可能とした。これにより、ウェアラブル端末を装着させた人の身体に関するデータ(バイタルデータ)を、継続的に取得することが可能である。しかしながら、従来のウェアラブル端末では、脈拍数や体温などがウェアラブル端末自体のモニタに表示されるだけであるため、本人が意識して数値を読み取ったり数値の変化を把握したりする必要があり、そのような作業を高齢者や病人に行わせることは困難である。
【0005】
そこで、本出願人らは、ウェアラブル端末を装着している本人に何らかの作業を求めることなく、その人のバイタルデータを取得することによって、身体における異常を早期に検知することができる見守り支援システム、および見守り支援方法を提案している(この提案に係る出願は公開前であるため、公知文献に該当しない)。この見守り支援方法では、ウェアラブル端末を装着している人について脈拍数データを含むバイタルデータを継続的に取得し、見守り支援システム内でデータベースとして保存すると共に、データを解析して異常の発生や予兆の検知を行う。
【0006】
この異常の発生の一つとして、装着者の死亡が検知されることが望まれる。装着者の死亡(脈拍停止)は、ウェアラブル端末によって脈拍数が検出されないことによって検知できるとも考えられる。ところが、入浴のためなどでウェアラブル端末が外されている非装着状態でも脈拍数は検出されないため、脈拍停止により脈拍数が検出されないのか非装着状態であることにより脈拍数が検出されないのかの区別がつかない。従来のスポーツタイプのウェアラブル端末の場合は、健康志向の高い人が自分でバイタルデータを把握する目的で使用しているため、端末を外していることは自分で承知していることであり問題はない。これに対して、高齢者や病人など見守り対象者のバイタルデータを継続的に取得することによって異常の発生や予兆の検知を行うことを目的とする場合、脈拍数が検出されないときに、それが脈拍停止に因るものであるのか非装着状態であることに因るものであるかを区別することは非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は上記の実情に鑑み、ウェアラブル端末の装着者について脈拍数データを含むバイタルデータを継続的に取得するに当たり、脈拍数データが取得されないときに、それが脈拍停止に因るものであるかウェアラブル端末が外されている非装着状態であることに因るものであるかを区別することができる見守り支援システム、および見守り支援方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる見守り支援システムは、
「見守り対象者に装着されてバイタルデータを継続的に取得するウェアラブル端末と、
該ウェアラブル端末と関連付けられた見守り人端末と、
該見守り人端末及び前記ウェアラブル端末の少なくとも一方と通信可能に接続された管理サーバと、を具備し、
前記見守り人端末及び前記管理サーバの少なくとも一方は、前記ウェアラブル端末の識別コードが付された前記バイタルデータを受信し、そのデータ処理を行う第一バイタルデータ処理手段を備え、
前記バイタルデータは、脈拍数データ及び血中酸素濃度データを含み、
前記第一バイタルデータ処理手段は、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが非検出のとき、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態であると判定する一方、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが検出されているとき、前記見守り対象者の脈拍が停止したと判定してアラート信号を生成し、前記見守り人端末に報知させるものであり、
前記脈拍数データが非検出のときに、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態と、前記見守り対象者の脈拍の停止とを区別すると共に、
前記血中酸素濃度データを、前記ウェアラブル端末の装着・非装着状態の判定と、前記見守り対象者の脈拍停止の判定との双方に使用する」ものである。
【0010】
本見守り支援システムでは、見守り対象者に装着させたウェアラブル端末により、脈拍に関するデータを含むバイタルデータを継続的に取得する。詳細は後述するように、心房細動の発現、睡眠中の覚醒、発熱、脈拍停止の予兆、脈拍停止など、疾患発症及び体調変化を含む身体イベントは、バイタルデータの変化として表れる。本見守り支援システムでは、継続的に取得されたバイタルデータの変化を、システムの機能的構成である第一バイタルデータ処理手段によってデータ処理することにより、身体イベントを検知する。
【0011】
上述したように、身体イベントの一つである脈拍停止については、バイタルデータのうち脈拍数データがゼロ(非検出)であることにより検知することができるとも考えられる。しかしながら、見守り対象者がウェアラブル端末を外しているときも、同じく脈拍数は検出されない。そのため、脈拍数データが非検出のとき、脈拍が停止したことに因るものであるのかウェアラブル端末が外されている非装着状態であることに因るものであるのかを区別する必要がある。
【0012】
そこで、第一バイタルデータ処理手段は、脈拍数データが非検出で、かつ、血中酸素濃度データも非検出のとき、非装着状態であると判定する。一方、第一バイタルデータ処理手段は、脈拍数データは非検出であるが、血中酸素濃度データが検出されているとき、脈拍停止と判定してアラート信号を生成し、見守り人端末に報知させる。これは、脈拍が停止しても、ウェアラブル端末を装着していれば血中酸素濃度は検出される状態が続くことに着目したものである。
【0013】
従って、本見守り支援システムによれば、ウェアラブル端末の装着者について脈拍数データを含むバイタルデータを継続的に取得するに当たり、脈拍数データが取得されないときに、脈拍数データだけではなく血中酸素濃度データも使用することにより、脈拍停止に因るものであるかウェアラブル端末が外されている非装着状態であることに因るものであるかを、明確に区別することができる。
【0014】
本発明にかかる見守り支援システムは、上記の構成に加えて、
「前記バイタルデータは、体温データを含み、
該体温データは、前記ウェアラブル端末によって計測された体表温度及び赤外線放射温度に基づき算出された深部体温データであり、
前記第一バイタルデータ処理手段は、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データ及び前記体温データが検出されているとき、前記見守り対象者の脈拍が停止したと判定する」ものとすることができる。
【0015】
本構成では、バイタルデータとして体温データを含んでおり、異常の発生や予兆の検知のために使用するのに加え、脈拍停止の判定のためにも使用する。そして、体温データとして、ウェアラブル端末によって計測された体表温度及び赤外線放射温度に基づき算出された深部体温データを使用する。医療上で認められている「体温」は、脇、舌下、尻の穴で計測される深部体温であるが、ウェアラブル端末で深部体温を直接に測定することはできない。そこで、ウェアラブル端末であっても測定が容易な体表温度を体温データとすることを想到し得るが、その場合、体表温度を検知するセンサはウェアラブル端末が非装着状態のときは気温を測定してしまうため、夏季など気温が体表温度に近いときは、体表温度が測定されているのか気温が測定されているのかの区別がつかない。
【0016】
これに対し、本構成では、体温データの算出のために体表温度と赤外線放射温度とを組み合わせている。ウェアラブル端末が非装着状態のとき、体表温度を検出するセンサは気温を測定しまうのに対し、赤外線放射温度を検出するセンサは温度を検出しない。そのたため、非装着状態では体温データは非検出となる。一方、体温は死後、一般的な環境下で10時間ごとに約1℃低下するため、脈拍停止後もしばらくはほとんど低下せず、検出される状態が続く。従って、脈拍停止の判定のために体温データを使用することができる。
【0017】
また、赤外線放射温度は、気温の影響を受けにくく、血流が影響する深部の温度を反映している一方で、赤外線放射の検出値を温度に換算する際の精度が低い難点がある。これに対し、体表温度と赤外線放射温度という二つのセンシングを組み合わせることにより、詳細は後述するように、深部体温の実測値に近い体温データを、高い精度で算出することができる。
【0018】
次に、本発明にかかる見守り支援方法は、
「見守り対象者に装着されてバイタルデータを継続的に取得するウェアラブル端末と、
該ウェアラブル端末と関連付けられた見守り人端末と、
該見守り人端末及び前記ウェアラブル端末の少なくとも一方と通信可能に接続された管理サーバと、を具備し、
前記ウェアラブル端末の識別コードが付された前記バイタルデータの処理を行う見守り支援システムにおいて、
前記バイタルデータを、脈拍数データ及び血中酸素濃度データを含むものとし、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが非検出のとき、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態であると判定する一方、
前記脈拍数データが非検出で、かつ、前記血中酸素濃度データが検出されているとき、前記見守り対象者の脈拍が停止したと判定することにより、
前記脈拍数データが非検出のときに、前記ウェアラブル端末が前記見守り対象者から外されている非装着状態と、前記見守り対象者の脈拍の停止とを区別すると共に、
前記血中酸素濃度データを、前記ウェアラブル端末の装着・非装着状態の判定と、前記見守り対象者の脈拍停止の判定との双方に使用する」ものである。
【0019】
これは、上記の見守り支援システムで使用される見守り支援方法である。なお、非装着状態の判定は、見守り端末及び管理サーバの少なくとも一方において第一バイタルデータ手段が行う処理とするほか、ウェアラブル端末自身が行う処理とすることもできる。後者の場合、非装着状態であると判定したウェアラブル端末は、それを示す信号を第一バイタルデータ処理手段に向けて送信し、その後に脈拍数データ及び血中酸素濃度データの少なくとも一方を検出したときは、ウェアラブル端末が再び装着されたと判定し、それを示す信号を第一バイタルデータ処理手段に向けて送信するものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、ウェアラブル端末の装着者について脈拍数データを含むバイタルデータを継続的に取得するに当たり、脈拍数データが取得されないときに、それが脈拍停止に因るものであるかウェアラブル端末が外されている非装着状態であることに因るものであるかを区別することができる見守り支援システム、および見守り支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態である見守り支援システムの構成図である。
【
図2】
図2(a)は非装着状態のウェアラブル端末におけるモニタの表示であり、
図2(b)は装着者の脈拍が停止した状態のウェアラブル端末におけるモニタの表示である。
【
図3】夜間に覚醒したときの脈拍数の経時的な変化を示すグラフである。
【
図4】
図4(a)は健常者が安静にしている状態における脈拍数の経時的な変化を示すグラフであり、
図4(b)は心房細動等不整脈の患者が安静にしている状態における脈拍数の経時的な変化を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)は延命措置が施されていない寝たきりの人の脈拍停止の日より一週間前から二週間前における脈拍数と体温の経時的な変化を示すグラフであり、
図5(b)は同じ人の死亡が宣言された日における脈拍数と体温の経時的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な一実施形態である見守り支援システム1について、図面を参照して説明する。本実施形態の見守り支援システム1の見守り対象者としては、介護施設の入居者、病院に入院している病人、自宅で生活しているが医療介護や看護が必要な人、を挙げることができる。本実施形態の見守り支援システム1は、
図1に概略構成を示すように、管理サーバ10と、ウェアラブル端末20と、カメラ装置30と、専用送受信機40と、見守り人端末50と、を備えている。
【0023】
ウェアラブル端末20は、腕時計のように見守り対象者の手首に装着される端末であり、CPU、記憶装置、モニタを備えている。このウェアラブル端末20は、見守り対象者のバイタルデータとして、脈拍に関するデータ、体温、歩数(活動量)、血圧、及び、血中酸素濃度(酸素飽和度:SpO2)を取得する。これらのデータは、1分~2分の短いインターバルで継続的に取得される。
【0024】
<脈拍に関するデータの測定>
脈拍に関するデータは、脈拍数、及びPPIであり、光電脈波法によって測定される。光電脈波法には、体内を透過する光の変化量を測定する透過型脈波測定と、体内において反射される光の変化量を測定する反射型脈波測定に大別されるが、本実施形態では反射型脈波センサによる反射型脈波測定を採用している。詳述すると、脈動により血管の容積が変化すると、血液中に存在するヘモグロビンの量も変化する。ヘモグロビンが緑色光を吸収する性質を有していることから、緑色LEDから血管へ照射された緑色光の反射光がヘモグロビンの量によって変動すること利用して、脈動、ひいては脈派を検知することができる。PPIは、脈派の波形におけるピーク間隔(秒)であり、脈拍数は1分間当たりの平均PPI(60÷平均PPI)である。なお、本実施形態では、脈拍に関するデータとして、脈拍数及びPPIに加えて、HRV(心拍変動)を測定している。
【0025】
<体温の測定>
体温データは、センサによる計測結果を補正することにより、深部体温に換算したものである。深部体温は医療的に「体温」として認められているものであるが、脇、舌下、または尻の穴で測定されるべき温度であるため、ウェアラブル端末で直接に計測することはできない。そこで、本実施形態では、体表温度の計測値と、赤外線放射温度の計測値に基づいて、深部体温を求める。ここで、体表温度は、温度変化に伴う電気抵抗の変化をサーミスタで検知することにより測定される。赤外線放射温度の計測は、全ての物体が放出している赤外線を検出し、その物体の温度に換算するものであるが、生体の場合は血流に影響を受ける深部体温が反映される。
【0026】
深部体温へ換算するためには、予め体表温度及び赤外線放射温度の計測値と深部温度の実測値との関係を調べ、それに基づいて定めた補正式または補正用データベースを使用する。仮に、体表温度の計測のみに基づいて深部体温を求めようとして、体表温度と深部体温の実測値との関係を調べても、体表温度は気温の影響を受けるため、正確に関係を求めることができない。また、血流の良し悪しは個体差が大きいため、体表温度が同程度であっても、血流に影響を受ける深部体温は異なることが多く、体表温度と深部体温との相関が低いことが多い。赤外線放射温度は、血流に影響を受ける深部体温を反映し、気温の影響を受けにくい一方、放射された赤外線エネルギーをセンサで検出し、これを温度に換算する際の精度が低い。本実施形態は、それぞれ単独では不具合を有する体表温度と赤外線放射温度とを組み合わせ、深部体温の実測値との関係を調べて補正式または補正用データベースを定めておくことにより、深部体温を正確に求めることができる。
【0027】
実際に、被験者A(30歳代、男性)と被験者B(20歳代、男性)について、ウェアラブル端末で計測した体表温度及び赤外線放射温度に基づいて求めた深部体温(補正により求めた深部体温)と、そのときの深部体温の実測値とを対比した。深部体温の実測は、水銀温度計式の体温計で脇の温度を測定することにより行った。測定は、それぞれの被験者について、異なる時間に7回行った。補正により求めた深部体温(BT)及び体表温度の計測値(ST)を、深部体温の実測値(AMV)と対比して表1に示す。
【0028】
【0029】
図1に示すように、体表温度の計測値(ST)は深部体温の実測値(AMV)より1.0℃~1.3℃低く、差が大きかったのに対し、補正により求めた深部体温(BT)と深部体温の実測値(AMV)との差は0℃~±0.2℃という小さい範囲であった。このように、体表温度及び赤外線放射温度の計測値を組み合わせて補正することにより、深部温度の実測値に近似した値に換算することができる。
【0030】
<歩数(活動量)の測定>
歩数(活動量)は、三軸の加速度が作用した回数を三軸加速度センサによって計測することにより測定される。
【0031】
<血圧の測定>
血圧は、血圧が高くなると血管の容積が大きくなりヘモグロビンの量が多くなることに着目し、上記の反射型脈波測定と同様に、緑色LEDから照射された緑色光の反射光に基づいて脈波を検出し、脈波の形状から脈拍伝播を測定して血圧値を推定する。
【0032】
<血中酸素濃度(SpO2)の測定>
血中酸素濃度は、血液中のヘモグロビンのうち酸素と結びついているヘモグロビンの割合であり、正常値は96%~100%である。酸素と結びついていないヘモグロビンは、赤色光をよく吸収し、どす黒い赤色を呈する。これに対し、酸素と結びついているヘモグロビンは、赤色光を多く反射し(吸光度が低い)、鮮やかな赤色を呈する。一方、ヘモグロビンによる赤外光の吸収・反射は、酸素濃度には関係がない。そこで、血管に向けて赤色光と赤外光とを同時に照射すれば、センサが受光した反射光または透過光の比から、酸素と結びついているヘモグロビンと酸素と結びついていないヘモグロビンとの比が分かり、血中酸素濃度を知ることができる。
【0033】
本実施形態のウェアラブル端末では、装着者の身体に向けて波長650nmの赤色光と波長950nmの赤外光とを同時に照射し、それぞれの反射光をセンサで検出している。全ヘモグロビンのうち酸素と結びついているヘモグロビンの割合が増加したとき、赤色光についてはセンサが受け取る反射光は増加するのに対し、赤外光についてはセンサが受け取る反射光はほとんど変化しない。また、全ヘモグロビンのうち酸素と結びついているヘモグロビンの割合が減少したとき、赤色光についてはセンサが受け取る反射光は減少するのに対し、赤外光についてはセンサが受け取る反射光はほとんど変化しない。従って、センサが受け取る赤色光と赤外光との比に基づいて、血中酸素濃度を求めることができる。
【0034】
なお、血中酸素濃度の変化は、ヘモグロビンの通過量に比例して変動(脈動)するため、血中酸素濃度の変化における周期に基づいて、上記のPPIや脈拍数を求めることができる。
【0035】
なお、ウェアラブル端末20はバッテリを電源とするが、バイタルデータの測定方法を工夫し、かつモニタに表示される内容を工夫することにより、従来の時計型ウェアラブル端末に比べて大幅に電力消費が抑えられており、一週間~二週間の長期にわたる連続使用が可能である。そのため、訪問医療介護者が週に一回~二回程度しか訪問しない独居の高齢者が見守り対象者である場合であっても、訪問医療介護者が訪問時にバッテリの充電を行えば足り、本人がバッテリを充電する作業を要することなく、継続的にバイタルデータを取得することができる。また、バッテリの残存量を、ウェアラブル端末20に関連付けられた見守り人端末50に送信させるようにしてもよい。
【0036】
カメラ装置30は、ウェアラブル端末20を装着する見守り対象者の居住空間3に設置される。カメラ装置30は、カメラ31、マイク32、スピーカ(図示を省略)を有しており、見守り人端末50から送られた音声をスピーカから出力し、カメラ装置30の近傍の音声をマイク32で集音して見守り人端末50に送る。つまり、カメラ装置30は、会話可能なリモートカメラである。また、カメラ装置30は、見守り人端末50から送信された信号に基づいて、カメラ31やマイク32のオン・オフを切り替えたり、カメラ31による撮影方向や撮影倍率を変化させたりすることができる。
【0037】
専用送受信機40は、ウェアラブル端末20を装着する見守り対象者の居住空間3、または居住空間3を含む建物内に設置される。専用送受信機40は、CPU、記憶装置に加えて、ルータ機能付きのモデムを備えているコンピュータであり、ウェアラブル端末20、及びカメラ装置30とは、wi-fi、Bluetooth(登録商標)のような無線通信により接続されていると共に、インターネットなどの通信ネットワーク2とは有線により接続されている。専用送受信機40は、例えば、見守り対象者が介護施設や病院などの施設内で生活している場合、見守り対象者それぞれの居住空間3に設置したり、施設のフロアごとに設置したり、或いは、所定数の居住空間3ごとに設置したりすることができる。
【0038】
見守り人端末50は、見守り対象者を見守る側である見守り人が使用する端末であり、見守り人としては、医療介護従事者(以下、「医療介護者」と称する)、訪問看護師や訪問介護員などの訪問医療介護従事者(以下、「訪問医療介護者」と称する)、見守り対象者の家族を例示することができる。例えば、見守り対象者が介護施設の入居者である場合、見守り人端末50としては、その入居者を担当する医療介護者が使用する端末、その介護施設の事務局に設置された端末を例示することができる。見守り対象者が病院に入院している病人の場合、見守り人端末50としては、その人を担当している看護者が使用する端末、ナースステーションに設置された端末など、医師や療法士を含む医療介護従事者が使用する端末を例示することができる。見守り対象者が自宅で生活しているが医療介護や看護が必要な人である場合、見守り人端末50としては、その人を担当する訪問医療介護者が使用する端末、その訪問医療介護者が所属する事業所の端末を例示することができる。
【0039】
見守り人端末50は、CPU、記憶装置、キーボードやマウスのような入力装置、モニタやプリンタのような出力装置、を備えたコンピュータにより構成されている。加えて、本実施形態の見守り人端末50は、マイク、及びスピーカを備えている。マイクによって見守り人の音声を集音してカメラ装置30に送ることができると共に、カメラ装置30から送られた音声をスピーカから出力することができる。見守り人端末50としては、デスクトップパソコン、ラップトップパソコン、ノート型パソコン、タブレット型パソコン、スマートフォン、を使用することができる。
【0040】
見守り人端末50には、見守り支援システム1を利用するための専用のソフトウェアがインストールされる。これにより、見守り人端末50は機能的構成として、受信手段及び送信手段(何れも図示を省略)と、第一バイタルデータ処理手段51と、を備えている。見守り人端末50は、受信手段及び送信手段を介して、専用送受信機40及び管理サーバ10との間で、データや信号の送受信を行う。
【0041】
本実施形態では、見守り人端末50として、専用送受信機40と無線通信し、専用送受信機40を介して通信ネットワーク2と接続される見守り人端末50aと、施設内通信ネットワーク2bによって専用送受信機40と有線通信し、専用送受信機40を介して通信ネットワーク2と接続される見守り人端末50bと、専用送受信機40を介することなく通信ネットワーク2に接続される見守り人端末50cと、がある。ウェアラブル端末20と同一施設内にある見守り人端末50a,50bは、通信ネットワーク2を介することなく専用送受信機40を介して、ウェアラブル端末20とデータや信号の送受信を行うことができる。なお、本書面では、これらの見守り人端末50a,50b,50cを特に区別する必要がない場合に、「見守り人端末50」と総称している。
【0042】
第一バイタルデータ処理手段51は、ウェアラブル端末20で取得されたバイタルデータを、即時にデータ処理する手段である。第一バイタルデータ処理手段51は、バイタル変化検知手段とアラート手段と、を備えている。バイタル変化検知手段は、バイタルデータの変化に基づいて見守り対象者の疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを検知する手段である。疾患発症及び体調変化を含む身体イベント、については後で詳述する。
【0043】
アラート手段は、バイタル変化検知手段の検知に基づいて、見守り人端末50に異常発生を報知させる手段である。見守り人端末50における報知としては、警告灯の点灯または点滅、モニタ画面への警告表示、警告音のスピーカからの出力、の何れか、または複数の組み合わせとすることができる。
【0044】
管理サーバ10は、見守り支援システム1の管理者が管理するサーバであり、通信ネットワーク2に接続されている。管理サーバ10は、CPU、記憶装置、キーボードやマウスのような入力装置、及びモニタやプリンタのような出力装置、を備えたコンピュータにより構成されている。管理サーバ10は機能的構成として、受信手段11と、データベース12と、第二バイタルデータ処理手段13と、送信手段16と、を備えている。
【0045】
管理サーバ10は、受信手段11及び送信手段16によって、専用送受信機40を介して見守り人端末50a,50bとの間で、データや信号の送受信を行い、受信手段11及び送信手段16によって、専用送受信機40を介することなく見守り人端末50cとの間で、データや信号の送受信を行う。
【0046】
第二バイタルデータ処理手段13は、ウェアラブル端末20で取得されたバイタルデータが対象者情報12aと関連付けられてデータベース12に記憶された対象者定量情報12dが、ある程度の期間にわたり蓄積された後で、蓄積された対象者定量情報12dを使用してデータ処理を行う手段である。第二バイタルデータ処理手段13は、ステイタス情報生成手段と、時系列パターン解析手段と、イベント推定・予測手段と、を備えている。
【0047】
データベース12には、対象者情報12a、見守り人情報12b、対象者定量情報12d、解析結果情報12eが記憶されている。対象者情報12aは、見守り対象者の性別や年齢(生年月日)などの情報が、その見守り対象者が装着するウェアラブル端末20の識別コードと関連付けられた情報である。更に、本実施形態における対象者情報12aは、各ウェアラブル端末20がバイタルデータを送信する先の専用送受信機40の識別コード、及び、各ウェアラブル端末20が設置されている居住空間3に設置されているカメラ装置30の識別コードが、それぞれウェアラブル端末20の識別コードと関連付けられた情報を含んでいる。加えて、本実施形態における対象者情報12aは、その見守り対象者の疾患情報と体調情報を含んでいる。疾患情報及び体調情報については、後述する。
【0048】
見守り人情報12bは、見守り人端末50とウェアラブル端末20とが、それぞれの識別コードによって関連付けられた情報である。見守り人情報12bには、見守り人端末50が管理サーバ10にアクセスする際のIDやパスワード等の認証情報も含まれる。
【0049】
関連付けられる見守り人端末50とウェアラブル端末20は、一対一であるとは限らない。例えば、一人の見守り対象者を複数の医療介護者、訪問医療介護者が介護する場合は、複数の見守り人端末50と一つのウェアラブル端末20が関連付けられる。複数の見守り対象者の介護を一人の医療介護者、訪問医療介護者が担当する場合は、一つの見守り人端末50と複数のウェアラブル端末20が関連付けられる。
【0050】
対象者定量情報12dは、ウェアラブル端末20で取得されたバイタルデータが、上記の対象者情報12aと関連付けられた情報である。また、対象者定量情報12dには、バイタルデータが第一バイタルデータ処理手段51によってデータ処理された結果を含めることができる。解析結果情報12eは、第二バイタルデータ処理手段13のデータ処理において、時系列パターン解析手段による解析の結果、時系列パターンと疾患情報及び体調情報の少なくとも一方との間に相関関係が見いだされた場合に、その疾患情報または体調情報が時系列パターンと関連付けられてデータベース12に記憶される情報である。
【0051】
次に、本実施形態の見守り支援システム1を使用した見守り支援方法について、説明する。まず、ウェアラブル端末20を見守り対象者に装着させる。また、見守り対象者の居住空間3にカメラ装置30を設置すると共に、その居住空間3、または居住空間3を含む建物内に専用送受信機40を設置する。
【0052】
見守り人端末50では、見守り支援システム1を利用するための専用のソフトウェアをインストールして起動し、通信ネットワーク2を介して認証情報を入力することにより管理サーバ10にログインする。これにより、見守り人情報12bを読み出して、自身が関連付けられているウェアラブル端末20を確認することができる。また、日によって見守り対象者が異なる場合など、見守り人端末50からの入力により、新たな見守り対象者が装着するウェアラブル端末20と関連付けられるように変更して、見守り人情報12bを更新することができる。見守り人情報12bが更新された場合、管理サーバ10は、変更後のウェアラブル端末20と関連付けられている専用送受信機40に、新たに関連付けられた見守り人端末50を特定する情報を登録する。つまり、ウェアラブル端末20からバイタルデータを受信する専用送受信機40は、そのバイタルデータをどこに送信すればよいかの情報(見守り人端末50a宛てに送信する、見守り人端末50b宛てに送信する、管理サーバ10を介して見守り人端末50cに送信する)を得る。なお、ウェアラブル端末20と同一施設内にある見守り人端末50a,50bからの入力に基づき、管理サーバ10を介することなく、専用送受信機40がバイタルデータを送信する先の見守り人端末50a,50bに関する情報を得るようにしてもよい。
【0053】
この状態で見守り支援システム1の使用を開始すると、ウェアラブル端末20によって取得されたバイタルデータが、ウェアラブル端末20の識別コードが付された状態でウェアラブル端末20から送信される。このウェアラブル端末20が、介護施設や病院など同一の施設内にいる見守り人の使用する見守り人端末50a,50bと関連付けられている場合、ウェアラブル端末20からバイタルデータを受信した専用送受信機40は、通信ネットワーク2を介することなく見守り人端末50a,50bにバイタルデータを送信する。この際、ウェアラブル端末20からバイタルデータを受信した専用送受信機40から、見守り人端末50a,50bまでバイタルデータを届ける間に、他の送受信機41にデータ送信の仲介をさせることができる。
【0054】
バイタルデータを受信した見守り人端末50a,50bは、第一バイタルデータ処理手段51によってデータ処理を行う。このデータ処理としては、まず、バイタル変化検知手段によってバイタルデータの変化が検知され、この変化が異常を示す変化だと判定されると、アラート手段によってアラート信号が生成され、見守り人端末50a,50bにおける報知装置(スピーカ、警告灯、モニタ)に送信される。これにより、見守り人端末50a,50bにおいて異常発生の報知が行われる。
【0055】
このアラート信号は、バイタルデータの送信を仲介した専用送受信機40にも送信され、異常が発生している見守り対象者のウェアラブル端末20と関連付けられているカメラ装置30に送信される。カメラ装置30は、アラート信号の受信に基づいて、カメラ31をモニタリング状態に切り替えると共に、マイク32を集音状態に切り替える。これにより、異常発生の報知が行われた見守り人端末50a,50bを使用している見守り人は、即座にカメラ31を介して見守り対象者の状況を視認することができ、スピーカを通して見守り対象者に声かけをしたり、マイク32を通して見守り対象者の声を聞き取ることにより、会話をしたりすることができる。そして、確認された状況に応じて、見守り人は見守り対象者のもとに駆けつけることができる。
【0056】
このように、見守り対象者と見守り人が同一の施設内にいる場合、ウェアラブル端末20から送信されたバイタルデータは、通信ネットワーク2を介することなく見守り人端末50a,50bに送られてデータ処理がなされる。そのため、ほぼリアルタイムでのデータ処理が可能であり、見守り対象者に異常が発生したときに、見守り人が極めて迅速に対応することができる。
【0057】
なお、見守り人端末50a,50bが受信したバイタルデータは、第一バイタルデータ処理手段51によるデータ処理の結果と共に、所定のタイミングで通信ネットワーク2を介して管理サーバ10に送信され、データベース12に対象者定量情報12dとして格納される。従って、見守り人端末50a,50bの記憶装置に、大容量のバイタルデータを保存させておく必要はない。
【0058】
一方、見守り対象者が自宅にいる人で見守り人が訪問医療介護者である場合など、両者が地理的に離れている場合、ウェアラブル端末20から送信されたバイタルデータは、専用送受信機40によって管理サーバ10まで、通信ネットワーク2を介して送信される。バイタルデータを受信した管理サーバ10は、そのウェアラブル端末20に関連付けられている見守り人端末50cに、バイタルデータを送信する。バイタルデータを受信した見守り人端末50cにおけるデータ処理は、見守り人端末50a,50bについて上述した処理と同様である。
【0059】
ここで、第一バイタルデータ処理手段51が備えるバイタル変化検知手段のデータ処理について、例をあげて説明する。バイタル変化検知手段は、バイタルデータの変化を検出し、その変化を予め定めた閾値と対比する処理や、複数の測定項目それぞれにおけるバイタルデータの変化を組み合わせる処理により、疾患発症及び体調変化を含む身体イベントを検知する。ここで、検知させる「疾患発症及び体調変化を含む身体イベント」は、身体における何らかの異常の発生(それまでとは違う状態への移行)であり、睡眠中の覚醒(中途覚醒)、心房細動の発現、貧血・熱中症やそれに伴う失神、発熱、脈拍停止の予兆、脈拍停止、を例示することができる。
【0060】
<睡眠中の覚醒(中途覚醒)及び離床>
図3に、睡眠中の脈拍数を時刻に対してプロットしたグラフを示す。睡眠中の脈拍数は低い値で安定しているが、中途で覚醒すると脈拍数は一時的に上昇する(図示、矢印部分)。従って、ウェアラブル端末20によって刻々と継続的に取得されるバイタルデータにおいて、脈拍数を少し前(例えば、3分~5分前)の脈拍数と対比し、その差(変化量)が所定の閾値(例えば、15~20)以上であり、かつ、その状態が所定の時間(例えば、2分間~3分間)以上続くとき、中途覚醒したと判定することができる(身体イベントの検知)。その後、脈拍数の更なる上昇が検出されると共に、歩数が計測されると、これらに基づき、見守り対象者が離床して移動を始めたことが検知される。
【0061】
高齢者など見守り対象者が夜間に覚醒し、徘徊したり一人でトイレへ行ったりすると、転倒して骨折や怪我をすることがある。見守り対象者が骨折などしてしまうと、要介護度が上がり、見守り対象者及び医療介護者双方の負担が増加してしまう。このような事態を避けるために、介護施設や病院では、医療介護者が夜間に頻繁に巡回しているが、それでは医療介護者側の負担が大きい。また、見守り対象者のベッド近傍を撮影するカメラを設置し、撮像の画像処理により見守り対象者の動向を監視するシステムも実施されてはいるが、この場合、見守り対象者が覚醒した後、離床した時点で初めて検知されるため、検知に基づき医療介護者が報知を受けたときには、既に見守り対象者はそこにいなかったり、出かけた先で転倒してしまっていたりすることがあった。このような問題を避けるために、施設によっては見守り対象者が中途覚醒しないように睡眠薬を投与することもあるが、見守り対象者の身体的負担が増すことが懸念される。
【0062】
このような従来の問題に対し、本実施形態の見守り支援システム1では、離床前に覚醒した時点で、見守り人端末50に異常発生の報知がなされる。そのため、覚醒した見守り対象者が動き出さないうちに、カメラ装置30を介して声かけをしてから駆けつけるなど、迅速な対応をすることができ、見守り対象者の一人歩きを防止することができる。
【0063】
<心房細動等不整脈の発現>
健常者と心房細動等不整脈の患者がそれぞれ安静にしているときの脈拍数を時刻に対してプロットしたグラフを、それぞれ
図4(a)及び
図4(b)に示す。
図4(a)から分かるように、健常者では安静にしているときの脈拍数が低い値で安定しているのに対し、
図4(b)に示すように心房細動等不整脈の患者では、安静にしているときでも脈拍数が安定せず、大きくばらつく時間が生じる。従って、睡眠中など安静にしているときのバイタルデータのうち脈拍数について、所定時間(例えば、3分間~5分間)における脈拍数の最大値と最小値の差を検出し、その差が所定の閾値(例えば、3~7)以上であり、かつ、その状態が所定の時間(例えば、10分間~30分間)以上続くとき、心房細動等不整脈が発現したと判定することができる(身体イベントの検知)。また、心房細動等不整脈が生じているときは、正常なときに比べて脈派の周期が不規則となるため、PPIの標準偏差を所定の閾値と対比することによって、或いは、HRVを所定の閾値と対比することによって、心房細動等不整脈の発現を検知することができる。
【0064】
心房細動は、心房で生じた異常な電気的興奮により起こる不整脈であり、心房が痙攣しているように不規則に収縮するため、脈拍数が不規則に変動する。心房内から血液が正常に送り出されない状態となるため血栓ができやすくなり、心房細動が頻繁に起こるようになると、脳梗塞や認知症の原因となる。このように心房細動は重大な疾患の原因となるが、無痛で無自覚であるため、発見が遅れることが懸念される。加えて、心房細動はいつ発現するか分からないため、病院で一時的に心電図を測定したとしても発見できないことが多い。心房細動等不整脈の発現を心電図で発見するためには、週単位で連続して心電図を測定する必要があると言われているが、そのような大がかりな検査は困難である。
【0065】
このような従来の問題に対し、本実施形態の見守り支援システム1では、ウェアラブル端末20によって常時測定されるバイタルデータに、脈拍数とPPI(またはHRV)が含まれているため、いつ起きるか分からない心房細動等不整脈であっても、その発現を高い確率で検知することができる。
【0066】
<貧血・熱中症やそれに伴う失神>
血圧と脈拍数は、正常時は連動して上下する。例えば、身体運動を始めれば血圧が上昇すると共に脈拍数も上昇し、運動をやめれば血圧も低下して正常値に戻ると共に脈拍数も減少して正常値に戻る。これに対し、貧血を起こしたり、それに伴って失神したりする場合、血圧は急に低下するのに対し脈拍数は上昇する。従って、バイタルデータのうち血圧と脈拍数について、同時点の値の差を検出し、その差が所定の閾値以上に大きくなったとき、すなわち、血圧と脈拍数が連動せずに乖離したとき、貧血やこれに伴う失神を起こしやすい状態であると判定することができる(身体イベントの検知)。また、血圧と乖離して脈拍数が上昇すると共に、体温が所定の閾値を超えて上昇したとき、熱中症やこれに伴う失神を起こしやすい状態であると判定することができる(身体イベントの検知)。
【0067】
<発熱>
バイタルデータのうち、歩数(活動量)がゼロに近いとき(0~「0+所定の閾値」の範囲内のとき)は、安静にしている状態であると考えられる。このように安静状態でありながら、バイタルデータの変化の検出の結果、脈拍数及び体温の双方がそれぞれ所定の閾値以上に上昇していることが検出された場合、身体運動による健康的な脈拍数及び体温の上昇ではなく、疾患に起因する発熱であると判定することができる(身体イベントの検知)。
【0068】
<脈拍停止の予兆>
延命措置を施すことなく寝たきりの状態で静かに終末を迎える場合、従来では、脈拍数は睡眠時と同様にほぼ一定であり、終末に向かって徐々に値が小さくなっていくと考えられていた。このような従来の当業者の常識に反し、本発明者らは、寝たきりの状態であっても脈拍停止の1週間~2週間前になると、
図5(a)に示すように、脈拍数がブロック状に乱高下する(脈拍数が高い状態が続く時間と脈拍数が低い状態が続く時間とが、不規則に繰り返す)という知見を得た。そして、死亡が宣言された当日では、
図5(b)に示すように、低い値となった脈拍数が短いインターバルで不規則な上下動を繰り返し、体温が低下していき、脈拍停止に至っている(図示、矢印部分)。
【0069】
そこで、本実施形態の見守り支援システム1では、脈拍数が所定の閾値(例えば、39)以下となった状態が、所定の時間(例えば、10分間~15分間)以上続いたことを検出したとき、脈拍停止が近い(脈拍停止の予兆)としてアラート信号を生成し、見守り人端末50に異常発生を報知させる。これにより、医療介護者や、医療介護者から連絡を受けた家族は、遅れることなく見守り対象者の最期を看取ることができる。
【0070】
<脈拍の停止、及び、非装着状態との区別>
見守り対象者の脈拍が停止したとき、バイタルデータのうち脈拍数のデータが検出されなくなるため、これに基づいて脈拍の停止を検知することができるとも考えられる。しかしながら、見守り対象者が入浴のためなどでウェアラブル端末20を外しているときも、同じく脈拍数は検出されない。脈拍停止の予兆が検知されることなく脈拍停止に至ることもあるため、脈拍数データが検出されないときに、それが脈拍停止に因るものであるかウェアラブル端末が非装着状態であることに因るものであるかを区別する必要がある。
【0071】
そこで、バイタル変化検知手段は、ウェアラブル端末20によって取得されるべきバイタルデータが検出されないとき、すなわち以下の状態のとき、ウェアラブル端末20が非装着状態であると判定する。
歩数(活動量):非検出
脈拍数:非検出
血圧:非検出
血中酸素濃度:非検出
体温:非検出
【0072】
ここで、体温データは、上記のように体表温度と赤外線放射温度に基づいて算出されるものである。非装着状態のとき、体表温度を検出するセンサは気温を検出してしまうが、赤外線放射温度を検出するセンサは温度を検出しないため、体温データは非検出となる。
【0073】
ウェアラブル端末20は、歩数(活動量)を測定するための三軸加速度センサ、脈拍数や血圧を測定するために緑色光の反射を受光するセンサ、血中酸素濃度を測定するために赤色光及び赤外光の反射を受光するセンサ、体温を測定するために赤外線放射を検出するセンサが、予め定めた所定時間何も検出しないとき、
図2(a)に示すように、モニタ20mの血圧表示部21、脈拍数表示部22、血中酸素濃度表示部23、体温表示部24に非検出表示「--」をし、各バイタルデータとしてはゼロを送信する。なお、ウェアラブル端末20のモニタ20mには、上記の表示の他、時刻表示部25、日付表示部26、バッテリ残量表示部27、歩数表示部28、消費カロリー表示部29が設けられている。消費カロリーは、歩数に基づいて算出される。
【0074】
一方、バイタル変化検知手段は、ウェアラブル端末20によって脈拍数、及び血圧は検出されないが、血中酸素濃度、及び体温が検出されている状態が、予め定めた所定時間(例えば、3分~40分)続いたことを検知したとき、脈拍停止と判定してアラート信号を生成し、見守り人端末50に異常発生を報知させる。このような処理は、脈拍が停止したとき、脈拍数と血圧のデータは非検出となる一方、脈拍が停止しても、血中酸素濃度と体温は検出される状態が続くことに着目したものである。つまり、脈拍が停止すると、血管を介して酸素を運ぶ機能は停止するが、人体による酸素の消費も停止するため、血液中に酸素が残存している状態が続き、血中酸素濃度が検出される。また、死後の体温は、一般的な環境では10時間ごとに約1℃低下するため、アラート信号を生成するまでの時間として想定している時間程度では、体温はほとんど変化しない。
【0075】
このことを確認するために、屠殺されてから一日以内に食用としてスーパーマーケットの店頭で販売されていたトリ肉を、人体の体温に近い約36℃に温めた。温めを停止してから数時間後に、ウェアラブル端末20のセンシング面をトリ肉に接触させたところ、
図2(b)にモニタ20mの表示を示すように、脈拍数、及び血圧は非検出であったが、血中酸素濃度は97%と検出され、体温は35.4℃と検出された。つまり、この表示は、脈拍停止後、少なくとも数時間を経過したときのモニタの表示に相当する。
【0076】
このように、見守り支援システム1では、脈拍数データが検出されないときに、ウェアラブル端末20の非装着状態と明確に区別して脈拍停止を検知し、見守り人端末50に異常発生を報知させることができる。これにより、見守り対象者が独居である場合など、見守り人である訪問医療介護者や家族と地理的に離れており、毎日顔を合わせることがない場合であっても、人知れず亡くなって放置されてしまうという事態を避けることができる。また、従来は、介護施設や病院であっても、人手不足により夜間の見回りを十分に行うことができず、死後数時間経ってから発見される事態も発生していたが、見守り支援システム1を使用することにより、このような不幸な事態を回避することができる。
【0077】
なお、脈拍停止は、医師が死亡を判定する条件の一つであり、脈拍停止のほか、心音の停止、瞳孔の散大が確認されると医師によって死亡が宣言される。
【0078】
<皮膚インピーダンスによる非装着状態の検出>
本実施形態では、上述したように、体温データを含むバイタルデータが検出されないときに、ウェアラブル端末20が非装着状態であると判定する。これは、非装着状態のときに、体表温度を検出するセンサは気温を検出してしまうのに対し、赤外線放射を検出するセンサは温度を検出せずに、体表温度と赤外線放射温度に基づいて算出される体温データは非検出となることを前提としている。ところが、非装着状態のときに、万一、赤外線放射温度が体温に近い物体がウェアラブル端末20の近くに存在すると、赤外線放射を検出するセンサがこれを計測してしまい、体温データが検出されてしまうおそれがある。そこで、非装着状態をより確実に検出するために、皮膚インピーダンスの測定を加えることができる。
【0079】
皮膚インピーダンスを測定するセンサは、ウェアラブル端末20において装着状態で皮膚(体表)に接触する面に一対の電極を有しており、皮膚に微弱な高周波電流を流して電圧値を検出するセンサ、或いは、皮膚に高周波電圧を印加して電流値を検出するセンサである。皮膚インピーダンスは電圧値を電流値で除したものであり、複素数表示をしたときの実数部が抵抗で、虚数部が電流と電圧の位相差である。ウェアラブル端末20が装着状態にあるとき、皮膚は大きな電気抵抗として作用するため、電流と電圧の位相差は小さい。一方、ウェアラブル端末20が非装着状態にあるとき、インピーダンスはほぼ無限大となり、電流と電圧の位相差は非常に大きなものとなる。従って、例えば、バイタル変化検知手段は、脈拍数データが非検知であって体温データが検出されたときに、皮膚インピーダンスの測定に基づいて得られる電流と電圧の位相差を参照し、この位相差の絶対値が予め定めた閾値より大きいときは、非装着状態であると判定することができる。この場合、検出された体温データは、装着者の体温を反映していないため、
図2(a)を用いて説明したモニタ表示とする。
【0080】
なお、非装着状態を確実に検出するために、ウェアラブル端末20が皮膚インピーダンスを測定するセンサを備えているとき、取得するバイタルデータにメンタルデータを含めることができる。人が精神的に興奮しているときや強いストレスを感じているとき、交感神経系が汗腺を活性化させ、発汗を促す。発汗すると、皮膚の電気伝導率が高くなるため、皮膚インピーダンスが低下する。従って、皮膚インピーダンスを継続的に測定することにより、安静時・通常時の平均値を把握し、予め定めた範囲を超えて皮膚インピーダンスが低下したときを検知すれば、興奮状態に至ったことや、強いストレスを感じたことを、身体イベントとして検出することができる。
【0081】
上記では、第一バイタルデータ処理手段51による即時のデータ処理により、ほぼリアルタイムで身体イベントを検知する場合について説明した。見守り支援システム1では、第二バイタルデータ処理手段13によるデータ処理も行われる。これは、ある程度の期間にわたりデータベース12に蓄積された対象者定量情報12dを使用して行われるデータ処理である。第二バイタルデータ処理手段13は、過去のバイタルデータに基づいて作成された解析結果情報12eを使用して、新たなバイタルデータをデータ処理し、その新たなバイタルデータを示した見守り対象者について、身体イベントを推定・予測する。身体イベントの推定・予測としては、近い将来に発症する疾病の予測や、近い将来の脈拍停止の予測を例示することができるが、他の出願で提案済みであるため、詳細な記載は省略する。
【0082】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0083】
例えば、上記の実施形態では、ウェアラブル端末20として腕時計のように手首に装着するものを示したが、これに限定するものではなく、足首や上腕部など、人体のその他の部位に装着するものであっても良い。
【0084】
また、上記の実施形態では、第一バイタルデータ処理手段51が見守り人端末50の機能的構成である場合を例示したが、管理サーバ10の機能的構成とすることもできる。この場合は、ウェアラブル端末20から送信されたバイタルデータは、専用送受信機40を介して管理サーバ10に送られ、ここでバイタルデータの変化に基づく身体イベントの検知が行われる。そして、身体イベントが検知された場合は、アラート信号が管理サーバ10から見守り人端末50に送信されることにより、見守り人端末50において異常発生の報知が行われる。