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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】経口ワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240612BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240612BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240612BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240612BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240612BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 35/64 20150101ALI20240612BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240612BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240612BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240612BHJP
   C12N 15/34 20060101ALN20240612BHJP
【FI】
A61K39/00 G ZNA
A61K39/12
A61K39/39
A61P43/00 171
A61P13/12
A61P11/00
A61P31/20
A61K35/64
A61P37/04
A61P15/00 171
A61P17/00 171
C12N15/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023563129
(86)(22)【出願日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2023020590
(87)【国際公開番号】W WO2023234407
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2022090367
(32)【優先日】2022-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023002630
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521151614
【氏名又は名称】KAICO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】大和 建太
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】中武 洋和
(72)【発明者】
【氏名】江崎 啓一
(72)【発明者】
【氏名】日下部 宜宏
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102296089(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101845442(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113679832(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102614509(CN,A)
【文献】MASUDA, Akitsu et al.,Purification and characterization of immunogenic recombinant virus-like particles of porcine circovirus type 2 expression in silkworm pupae,Journal of General Virology,2018年,Vol. 99,p. 917-926,DOI 10.1099/jgv.0.001087
【文献】MU, Changyong et al.,Oral Vaccination of Grass Carp (Ctenopharyngodon idella) with Baculovirus-Expressed Grass Carp Reovirus (GCRV) Proteins Induces Protective Immunity against GCRV Infection,Vaccines,2021年01月12日,9, 41,p. 1-14,https://doi.org/10.3390/vaccines9010041
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P 13/12
A61K 35/64
A61P 37/04
A61P 15/00
A61P 17/00
C12N 15/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタサーコウイルス2型タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスの感染処理及び凍結乾燥処理された、バキュロウイルス感染性昆虫の蛹又は細胞を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチン組成物であって、妊娠ブタへの経口投与により当該妊娠ブタの子ブタに対してワクチン効果を発揮する、前記経口ワクチン組成物
【請求項2】
ブタサーコウイルス2型タンパク質をコードするDNAが、配列番号1に示されるものである請求項1に記載の経口ワクチン組成物。
【請求項3】
アジュバントを含む溶液をさらに含む、請求項1に記載の経口ワクチン組成物。
【請求項4】
蛹が、組成物の全重量に対して少なくとも20重量%含まれる、請求項1に記載の経口ワクチン組成物。
【請求項5】
ブタサーコウイルス関連疾患が、離乳後多臓器性発育不良症候群、豚皮膚炎腎症症候群、豚呼吸器複合感染症及び繁殖障害からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の経口ワクチン組成物。
【請求項6】
昆虫がカイコである請求項に記載の経口ワクチン組成物
【請求項7】
細胞が、クワゴマダラヒトリ、サクサン、カイコ、ヨトウガ又はイラクサギンウワバに由来するものである請求項に記載の経口ワクチン組成物
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の経口ワクチン組成物を、妊娠ブタに投与する工程を含む、ブタサーコウイルスに対する当該妊娠ブタの子ブタの免疫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチン組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタサーコウイルス関連疾患は、ブタサーコウイルス2型(PCV2)が原因の疾病である。好発時期は7~16週齢であり、元気消失、発育不良、削痩、呼吸困難、体表リンパ節の腫脹、黄疸、流死産などの症状が認められる。このため、養豚業者や獣医師にとっては、ブタサーコウイルス関連疾患に対する有効な予防又は治療法を開発することが必要である。
【0003】
ところで、バキュロウイルスは、昆虫を主な宿主として感染する核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus:NPV)であり、増殖過程で感染細胞の核内にポリヘドリン(Polyhedrin、多角体)と呼ばれる結晶構造のタンパク質を形成する。そこで、バキュロウイルス-カイコ系を用いて目的タンパク質を生産する方法の一つとして、目的タンパク質をコードする遺伝子をバキュロウイルスに導入し、その組換えバキュロウイルスをカイコ幼虫又は蛹に接種することにより、カイコに目的タンパク質を生産させる方法がある(非特許文献1)。このようにバキュロウイルス-カイコ系を用いてタンパク質を製造した場合、目的タンパク質を大量に生産させることができる点で有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Maeda et al.,“Production of human α-interferon in silkworm using a baculovirus vector.”Nature,315,592-594(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景のもと、バキュロウイルス-カイコ系を用いてより簡易かつ大量にブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチンを生産する方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、PCV2タンパク質をコードするDNAを導入した組換えバキュロウイルスをカイコの蛹に感染させ、その後凍結乾燥することで、驚くべきことに、免疫原性を維持させることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、例えば以下の通りである。
[1] ブタサーコウイルス2型タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスの感染処理及び凍結乾燥処理された、バキュロウイルス感染性昆虫の蛹又は細胞を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチン組成物。
[2] ブタサーコウイルス2型タンパク質をコードするDNAが、配列番号1に示されるものである[1]に記載の経口ワクチン組成物。
[3] アジュバントを含む溶液をさらに含む、[1]に記載の経口ワクチン組成物。
[4] 蛹が、組成物の全重量に対して少なくとも0.001重量%含まれる、[1]に記載の経口ワクチン組成物。
[5] ブタサーコウイルス関連疾患が、離乳後多臓器性発育不良症候群、豚皮膚炎腎症症候群、豚呼吸器複合感染症及び繁殖障害からなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]に記載の経口ワクチン組成物。
[6] ブタサーコウイルス2型タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスを、バキュロウイルス感染性昆虫の幼虫又は蛹に感染させ、当該感染後の幼虫から蛹化した蛹、又は当該感染後の蛹を凍結乾燥する工程を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチンの製造方法。
[7] ブタサーコウイルス2型タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスを、バキュロウイルス感染性の細胞に感染させ、当該感染後の細胞を凍結乾燥する工程を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチンの製造方法。
[8] ブタサーコウイルス2型タンパク質をコードするDNAが、配列番号1に示されるものである[6]又は[7]に記載の経口ワクチン組成物。
[9] 昆虫がカイコである[6]に記載の方法。
[10] 細胞が、クワゴマダラヒトリ、サクサン、カイコ、ヨトウガ又はイラクサギンウワバに由来するものである[7]に記載の方法。
[11] 前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物を、ブタに投与する工程を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対するブタの免疫方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチン組成物及びその製造方法が提供される。製造した経口投与用ワクチン組成物は、そのまま投与に用いることができるため、例えば、ブタの飼料等に含めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】攻撃試験デザインを示す図である。
図2】血清中のPCV2ウイルスゲノムコピー数の推移を示す図である。
図3】臓器中のPCV2ウイルスゲノムコピー数を示す図である。
図4】体重変化の推移を示す図である。
図5】母豚の分娩時における初乳中のIgG及びIgAの抗体価を示す図である。
図6】子豚の1日齢における血清中のIgG及びIgAの抗体価を示す図である。
図7】ウイルス攻撃後から4週間後(試験終了時)までの増体量の比較を示す図である。
図8】ウイルス攻撃後のPCV2遺伝子量の経時的推移を示す図である。
図9】免疫開始からのウイルス攻撃前までの抗原特異的IgG抗体量の推移を示す図である。
図10】抗原特異的IgG抗体応答の経時的推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.概要
カイコ異種タンパク質発現系を用いて感染症に対するワクチン抗原を生産する場合、対象となる病原微生物(ウイルス等)由来のワクチン抗原遺伝子を挿入した組換えバキュロウイルスを作製し、これをカイコ幼虫又は蛹に接種することにより、カイコ個体内でウイルスが増殖し、ワクチン抗原を産生する。通常の注射により投与するワクチンでは、何らかのワクチン抗原タンパク質の精製を行う必要がある。そして、精製するにはアフィニティー精製、イオン交換精製、硫安沈殿など、複数のクロマトグラムを組み合わせることが必要とされる。しかし、ワクチン抗原を発現させたカイコ蛹そのものをワクチン抗原として投与することができれば、精製のコストを下げることが可能となり、注射投与に関わる労力の削減も期待できる。
【0011】
本発明においては、ブタサーコウイルス2型(PCV2)タンパク質をコードするDNAをバキュロウイルス感染性昆虫の蛹又は細胞に導入し、当該DNAが導入された組換えバキュロウイルス感染性昆虫の蛹又は細胞を凍結乾燥処理することにより、抗原性を高く担保した蛹及び細胞を獲得することに成功した。そして、これらの蛹又は細胞を豚に摂食させて、実際に抗体産生応答が増強されるかを検証した。その結果、PCV2抗原に対して、顕著な抗体産生応答の増強が認められた。
本発明は、上記知見に基づくものである。
【0012】
本発明は、PCV2タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスの感染処理及び/又は凍結乾燥処理された、バキュロウイルス感染性昆虫の蛹又は細胞を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチン組成物を提供する。組換えバキュロウイルスは、感染処理、凍結乾燥のほか、両者の組み合わせを含む。
また本発明は、PCV2タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスを、バキュロウイルス感染性昆虫の幼虫又は蛹に感染させ、当該感染後の幼虫から蛹化した蛹、又は当該感染後の蛹を凍結乾燥する工程を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチンの製造方法を提供する。
さらに本発明は、PCV2タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルスを、バキュロウイルス感染性の細胞に感染させ、当該感染後の細胞を凍結乾燥する工程を含む、ブタサーコウイルス関連疾患に対する経口ワクチンの製造方法を提供する。
【0013】
2.PCV2タンパク質をコードするDNAが導入された組換えバキュロウイルス
本明細書において、抗原としては、例えば豚サーコウイルス抗原(PCV)等のサーコウイルス抗原が挙げられる。抗原タンパク質のより具体的な例としては、ブタサーコウイルス2型(PCV2;porcine circovirus type 2)の分離株PCV2a(GenBank accession #AF055392)のORF2(1-233)、あるいはPCV2 KU08-1 strain (PCV2a:GenBank accession number, LC381288等が挙げられる。本発明においては、上記アクセッション番号に記載のDNAの塩基配列を、カイココドンに最適化することができる。アクセッション番号LC381288の塩基配列を最適化した塩基配列を配列番号1に示す。
【0014】
抗原のサイズは特に制限されるものではなく、例えば、5~1000kDa、10~500kDa、又は30~200kDaであってよい。
免疫原性は、抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質を意味する。免疫原性の有無は、例えば、抗体投与後の抗体の産生の有無により評価することができる。抗体の発現は、当業者に公知の方法、例えば、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)、ウエスタンブロッティング、免疫沈降、フローサイトメトリー及び免疫組織染色により確認することができる。
【0015】
PCV2タンパク質をコードするDNAをバキュロウイルスに導入する方法は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、Maeda et al.,Nature 315, 592-594 (1985)や、Y.Matsuura et al.,Virology,(1989)173,674-682等に記載された方法により行うことができる。例えば、上記DNA(cDNAを含む)をクローニングし、バキュロウイルストランスファーベクターへ組込み、組換えバキュロウイルストランスファーベクターを得る。次に、この組換えバキュロウイルストランスファーベクターを用いて、相同組換え法により、あるいはトランスポゾン転移法により、組換えバキュロウイルスDNAを得る。この組換えバキュロウイルスDNAをリポフェクション法などの公知の方法により昆虫培養細胞に導入し、組換えバキュロウイルスを得る。
【0016】
バキュロウイルストランスファーベクターは、バキュロウイルスゲノムDNAのポリヘドリン遺伝子を含むDNA断片をプラスミドにサブクローン化して得られるものであり、公知の方法により作成することもでき、市販のものを用いることもできる。市販のベクターとしては、例えば、pAcYM1、pAcG2T、pAcGP67、及びVL1392(いずれもファーミンジェン社)、pDEST8(インビトロジェン社)が挙げられる。
【0017】
本発明において、組換えバキュロウイルスの作製に使用するバキュロウイルスの種類としては、オートグラファカリフォニカ核多角体病ウイルス(Autographa californica multiple nucleopolyhedrovirus:AcNPV)、カイコ核多角体病ウイルス(Bombyx mori nucleopolyhedrovirus:BmNPV)、オルギア・シュードツガタ核多角体病ウイルス(Orgyia pseudotsugata multiple nucleopolyhedrovirus:OpNPV)、マイマイガ核多角体病ウイルス(Lymantria disper multiple nucleopolyhedrovirus:LdNPV)などが挙げられ、カイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)であることが好ましい。
【0018】
3.バキュロウイルス感染性昆虫の幼虫又は蛹への感染
本発明においては、組換えバキュロウイルスを、宿主となるバキュロウイルス感染性昆虫の幼虫若しくは蛹又はバキュロウイルス感染性細胞(これらをまとめて「宿主」ともいう)に感染させる。
宿主となる昆虫としては、鱗翅目昆虫が挙げられ、タンパク質の発現に適しバキュロウイルス感染性を有する限り特に限定されるものではなく、例えば、クワゴマダラヒトリ(Spilosoma imparilis)、サクサン(Antheraea pernyi)、カイコ(Bombyx mori)、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)などが挙げられる。昆虫は、蛹及び幼虫のいずれの形態でもよい。
【0019】
また、宿主となる細胞としては、タンパク質の発現に適しバキュロウイルス感染性細胞株であれば特に限定されるものではない。ここで、「バキュロウイルス感染性」とは、バキュロウイルスが感染可能であることを意味し、バキュロウイルス感染性を有する特徴の一つとして、細胞表面にGP64と呼ばれる糖タンパク質が発現していることが挙げられる。従って、このような性質を有する限り、細胞の種類は限定されず、昆虫細胞などの培養細胞が挙げられる。
【0020】
昆虫細胞としては、以下のものが挙げられる。
クワゴマダラヒトリ(Spilosoma imparilis)由来細胞:SpIm
サクサン(Antheraea pernyi)由来細胞:Anpe
カイコ(Bombyx mori)由来細胞:BmN、BmN4、Oyanagi-2、Bme21
ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)由来細胞:Sf9、Sf21
【0021】
組換えバキュロウイルスを宿主となる昆虫又は細胞に感染させる方法は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、上記工程で得られた組換えバキュロウイルスを、蛹又は幼虫に注射する。宿主細胞に感染させる場合は、組換えバキュロウイルスを含む液を細胞培養培地に添加すればよい。
宿主昆虫又は宿主細胞に組換えバキュロウイルスを感染させてから1~9日間飼育又は培養すると、宿主昆虫又は宿主細胞において、抗原タンパク質が発現する。
【0022】
ここで、従来のバキュロウイルス-カイコ系を用いた目的タンパク質の生産の場合、組換えバキュロウイルスに感染させたカイコの蛹又は幼虫の体内において目的タンパク質が発現された後、蛹の破砕及び懸濁若しくは幼虫からの体液回収を行い、各種精製を行うことにより目的タンパク質を精製する。これに対し、本願発明の方法では、このような目的タンパク質の抽出・精製処理を行う必要がなく、PCV2タンパク質が発現した蛹又は細胞を凍結乾燥処理した後、そのまま使用することができる。
【0023】
4.組換えバキュロウイルスを感染させた宿主の凍結乾燥
組換えバキュロウイルスに感染させた宿主の蛹又は細胞を凍結乾燥するタイミングとしては、宿主内(例えばカイコの蛹の体内)において十分な量のPCV2タンパク質が発現された後であることが好ましい。また、幼虫にバキュロウイルスを感染させた場合には、蛹になるまで生育させる。したがって、凍結乾燥するタイミングは、感染させたカイコが幼虫の場合は蛹化した後であり、感染させたカイコが蛹であれば感染後任意の時期に凍結乾燥することができる。凍結乾燥は、組換えバキュロウイルスが感染した蛹を切断又は破砕せずに、蛹の形状のまま行ってもよく、蛹を切断又は破砕した後に行ってもよい。
本明細書において、蛹を「そのまま」及び「蛹の形状のまま」で用いるとの表現は、実質的に蛹の形状のままで用いる又は含む等することを意味し、例えば、意図せずに、製造過程で一部が欠けてしまった場合にも、蛹の形状の90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、又は50%以上を維持していれば、蛹の形状のままであると判断してよい。
【0024】
凍結乾燥は、凍結状態で減圧下(例えば真空状態で維持)により乾燥させる方法である。凍結乾燥は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、市販の凍結乾燥機を用いて行うことができる。凍結処理温度は、当業者が適宜設定できるが、例えば、-90℃~-5℃、-80℃~-10℃、又は-50℃~-10℃である。また、減圧条件も、当業者が適宜調整できるが、例えば、2Pa~20Pa、3Pa~20Pa又は10Pa~20Paである。凍結乾燥時間は、例えば1時間~168時間、好ましくは8時間~96時間である。また本発明の一態様において、凍結乾燥時間は例えば8時間~36時間である。
【0025】
凍結乾燥により、蛹や細胞の水分の大部分が除去され、乾燥状態となる。凍結乾燥後の蛹に含まれる水分は、例えば、蛹又は細胞の全重量に対して1重量%以下、0.5重量%以下、0.1重量%以下、0.01重量%以下又は0.001重量%以下であってよい。免疫原性を維持しやすくする観点から、蛹に含まれる水分は0重量%に近い程好ましい。
【0026】
ここで、本発明において任意に蛹又は細胞を液剤処理、浸漬処理、光処理、ガス処理、プラズマ処理、加熱処理、又は加圧加熱処理することができる。液剤処理、浸漬処理、光処理、ガス処理、プラズマ処理、加熱又は加圧加熱するタイミングとしては、凍結乾燥の前でも後でもよく、例えば凍結乾燥により蛹や細胞が十分乾燥した後であることが好ましい。組換えバキュロウイルスを感染させた宿主を凍結乾燥する工程と液剤処理、浸漬処理、光処理、ガス処理、プラズマ処理、加熱処理又は加圧加熱処理する工程が連続して行われること、すなわち、凍結乾燥後に他の処理工程を介さず、液剤処理、浸漬処理、光処理、ガス処理、プラズマ処理、加熱処理又は加圧加熱処理することもできる。凍結乾燥後のタイミングは、乾燥させたカイコの蛹の状況等により適宜調整されるが、例えば、凍結乾燥後1~24時間以内、例えば24時間以内、12時間以内、3時間以内又は1時間以内に行うことができる。凍結乾燥した蛹は切断又は破砕せずに、蛹の形状のまま液剤処理、浸漬処理、光処理、ガス処理、プラズマ処理、加熱処理又は加圧加熱処理することが好ましい。
【0027】
本製法で作製した蛹及び細胞は免疫原性を有する。したがって、本発明においては、PCV2タンパク質を抽出する必要がなく、そのまま経口投与用とすることができる。
【0028】
さらに、本発明の一態様において、凍結乾燥処理をした蛹は乾燥し、スポンジ状であるため、液体に浸漬することで、液体を容易に内部に浸透させることができる。したがって、本実施形態に係る製造方法は、凍結乾燥処理した蛹、又は必要により加圧加熱処理をした蛹を液体に浸漬する工程をさらに含んでもよい。浸透させる液体としては、容易にワクチンとしての効果を向上することができるため、アジュバントを含む溶液であることが好ましい。凍結乾燥処理をした蛹を、アジュバントを含む溶液に浸漬することで、アジュバントを含む溶液を容易に蛹の内部に浸透させることができる。培養細胞を凍結乾燥すると粉末状組成物になるため、細胞を用いる場合は、凍結乾燥後の細胞を、アジュバントを含む溶液に浸漬すればよい。また、本製法の蛹は、他の固体または液体と混合してもよい。例えば、アジュバントを含む固体であることが好ましい。
【0029】
本発明により製造した蛹又は細胞は、そのまま用いてもよく、切断、破砕、液状化して用いても、蛹から粗抽出液を回収したのち蛹に含浸しなおしてよく、上述したように、液体を浸透させて用いてもよく、他の固体と混ぜて用いてもよい。
そのまま用いる形態としては、例えば、蛹をそのままワクチンとして経口投与する形態、及び蛹をそのまま食用として摂取する形態が挙げられる。
【0030】
切断又は破砕して用いる形態としては、例えば、切断又は破砕した蛹をそのまま投与する形態、破砕した蛹を他の経口投与可能な素材と混合して投与する形態、及び破砕したものを飼料に混合して食用として摂取させる形態が挙げられる。例えば、蛹の免疫原性を考慮して投与量を調整するために、例えば、1/2、1/3、1/4等に切断してもよい。破砕の程度は、免疫原性を示す限り特に限定されず、例えば、粉状としてもよい。切断は、例えば、食用ハサミ及び実験動物用ハサミにより行うことができ、破砕は、例えば、ミキサー、ハンドミル及び粉砕装置により行うことができる。細胞を用いる場合は、蛹を破砕したときと同様に処理することができる。
【0031】
経口投与としては、例えば、口腔内投与及び舌下投与が挙げられる。本明細書において、投与には、ブタが自ら摂取する場合も含まれる。蛹をそのままの形態で投与する場合には、口腔内投与が好ましく、飼料に含めてブタが自ら食するようにしてもよい。
【0032】
経口投与可能な添加剤としては、例えば、食品素材、飲料素材、賦形剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤、pH調節剤、甘味剤、着色剤、乳化剤、香料、後述する医薬品添加物等、が挙げられる。食品素材又は飲料素材と混合して、機能性食品又は飲料として投与することもできる。経口投与可能な素材が含まれる液体としては、経口投与用蛹が免疫原性を有し、経口投与に適した液体である限り特に制限されず、例えば、水又は水溶液であってよい。
【0033】
5.経口ワクチン組成物
上記のようにして得られた蛹又は細胞は、PCV2タンパク質を含み、免疫原性を有するため、経口ワクチン組成物として使用される。
本発明の経口ワクチンの適用対象となる疾患はブタサーコウイルス関連疾患であり、離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)、豚皮膚炎腎症症候群(PDNS)、豚呼吸器複合感染症(PRDC)、繁殖障害、体重減少、死亡率の上昇、下痢などの消化管疾患などが含まれ、これらの1種又は複数種を対象とすることができる。
【0034】
経口ワクチン組成物は、蛹のままの形状の他、例えば、液状剤(シロップ剤、ゼリー剤等)、粉末剤、顆粒剤、錠剤、散剤、カプセル、マッシュ飼料、ペレット飼料、クランブル飼料、エキスパンダー飼料、及びフレーク飼料等の任意の剤形とすることができる。細胞を経口ワクチン組成物として使用する場合も、粉末剤、顆粒剤、錠剤、散剤、カプセル、マッシュ飼料、ペレット飼料、クランブル飼料、エキスパンダー飼料、及びフレーク飼料等の任意の剤形とすることができる。
【0035】
以上の剤形は通常当分野で行われている手法により、医薬品添加物とともに製剤化され得る。医薬品添加物としては、例えば、アジュバント、経口投与用担体、希釈剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、流動化剤、コーティング剤、溶解剤、溶解補助剤、増粘剤、分散剤、安定化剤、防腐剤、pH調節剤、張度調節剤、浸潤剤、甘味剤、及び香料等が挙げられる。ワクチンとしての効果を向上する観点から、医薬品添加物がアジュバントを含むことが好ましい。
【0036】
アジュバントとしては、例えばフロイント完全アジュバント、不完全フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント、リビ(Ribi)アジュバント、リピッドA、リポソーム、水酸化アルミニウム、シリカ、エンテロトキシン(コレラトキシン、コレラトキシンαサブユニット、コレラトキシンβサブユニット)、Toll様レセプター(TLR)リガンド(Poly(I:C)、リポポリサッカリド、フラジェリン、CpG)、粘膜付着剤(キトサン、レクチン)、サイトカイン、人工合成アジュバント、オイルアジュバント、高分子多糖類等が挙げられる。
【0037】
本発明においては、免疫原性を有する蛹又は細胞と、医薬添加物又はそれらを含む液体とを混合する工程をさらに含めることができる。本発明の経口ワクチン組成物において、蛹又は細胞中には、発現したPCV2タンパク質が含まれる。そこで、免疫原性を有する蛹又は細胞の成分(例えば凍結乾燥後の蛹の粉末)を、ワクチン組成物の全重量に対して、例えば0.001重量%以上、0.01重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上含むものとすることができる。
【0038】
医薬添加物として使用される液体としては、経口ワクチン組成物が免疫原性を有し、薬学的に経口投与に適した液体である限り特に制限されず、例えば、水、生理食塩水又はリン酸緩衝液(PBS)等の水溶液などが挙げられる。
【0039】
免疫原性を有する蛹はそのまま用いても、切断して用いても、破砕して用いても、液状化しても、蛹から粗抽出液を回収したのち蛹に含浸させてもよい。細胞を用いる場合も、破砕することができる。
本発明において、蛹を蛹の形状のまま用いる場合、医薬添加物を含む液体と混合する工程は、凍結乾燥後の蛹を液体に浸漬する工程を含んでもよい。例えば、蛹を、アジュバントを含む溶液に浸漬することで、アジュバントを含む溶液を容易に内部に浸透させることができる。液体が内部に浸透した蛹をさらに切断又は破砕して経口ワクチン組成物としてもよい。培養細胞の場合も、蛹の破砕物に準じて用いることができる。
【0040】
切断又は破砕した蛹を用いる場合、医薬添加物を含む液体と混合する工程は、切断又は破砕した蛹を液体に分散させる工程を含んでもよい。
【0041】
本発明のワクチン組成物を投与する対象はブタであり、品種は特に限定されない。品種としては、例えば、中ヨークシャー、大ヨークシャー、バークシャー、ランドレース、デュロック、ハンプシャーなどが含まれる。
【0042】
本発明の経口投与用ワクチンは、蛹の形状のまま経口投与しても免疫原性を発揮するが、切断又は破砕して投与してもよく、上述したように、液体を浸透させて用いてもよい。
蛹の形状のまま投与する形態としては、例えば、経口投与用蛹をそのままワクチンとして経口投与する形態、及び経口投与用蛹をそのまま食用として摂取する形態が挙げられる。
【0043】
切断又は破砕して投与する形態(細胞の破砕物を含む)としては、例えば、切断又は破砕した蛹又は細胞をそのまま経口投与する形態、切断又は破砕した蛹又は細胞を他の経口投与可能な素材と混合して投与する形態、及び破砕したものを飼料に混合して食用として摂取させる形態が挙げられる。例えば、蛹の免疫原性を考慮して投与量を調整するために、例えば、1/2、1/3、1/4等に切断してもよい。破砕の程度は、免疫原性を示す限り特に限定されず、例えば、粉状としてもよい。
【0044】
投与量は、投与対象、及び蛹又は細胞において発現する抗原タンパク質量等を考慮し、適宜設定することができる。例えば、1回当たり蛹0.01~100頭分(0.001g~30g)を投与してもよく、1回当たり蛹0.1~10頭分(0.01g~3g)を投与してもよい。発現するPCV2タンパク質量は、蛹の重量約800mgに対して0.2mg~10mgであり、蛹1頭分当たり0.025重量%~1.25重量%となる。これによれば、通常の注射型ワクチンの1回分の投与量の10倍以上のPCV2タンパク質が経口投与用蛹1頭分に含まれることになる。
【0045】
投与の回数及び期間も、投与対象、及び蛹又は細胞において発現するPCV2タンパク質量等を考慮し、適宜設定することができる。例えば、1日当たり1回~5回投与してもよく、1日当たり1回~3回投与してもよく、1日当たり1回投与してもよい。また、例えば、1週間当たり1日~7日投与してもよく、1週間当たり1日~5日投与してもよく、1週間当たり1日~4日投与してもよい。また、これらの投与を、例えば、2~24週間反復して行ってもよく、1~7週間反復して行ってもよく、2~5週間反復して行ってもよく、2~4週間反復して行ってもよい。
【0046】
ワクチンを投与するときのブタの週齢は特に限定されるものではなく、子豚から成豚までいずれの週齢であってもよい。なお、成豚には妊娠母豚も含まれる。
なお、ワクチンを投与するに際しては、投与前(摂食前)に1~3時間程度絶食させてもよい。
【0047】
具体的には、例えば、ブタに対し以下のように投与することができる。
投与量:蛹0.1~5頭分(0.01g~1.5g)を1日当たり1回投与(摂食)
期間:1週間当たり1~5回投与を3~4週間反復
また、以後、例えば、1~4週間毎、好ましくは1~2週間毎に同様に投与することで追加免疫を行ってもよい。
本発明の組成物をブタに投与することにより、ブタサーコウイルス関連疾患に対するブタの免疫を引き起こすことができる。
【0048】
本発明のワクチン組成物は、他のワクチンと併用又は組み合わせて用いることもできる。他のワクチンは、PCV2タンパク質に対する免疫原性を有するものであってもよく、異なる抗原タンパク質に対する免疫原性を有するものであってもよい。蛹又は細胞と同じ抗原タンパク質に対する免疫原性を有するものである場合には、例えば、上記他のワクチンの追加免疫等のために本発明の蛹を投与してもよい。
【0049】
さらに、本発明においては、本発明のワクチン組成物を摂取した妊娠母豚の初乳中において、IgG及びIgA応答反応が観察される。これは、母乳中にもワクチン効果が得られることを示すものである。また、子豚が母豚の初乳を受けると、意外にも子豚1日齢の血清中においてIgG及びIgA応答反応が観察された。このことは、母乳を介して子豚にもワクチン効果が引き継がれることを示すものである。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[実施例1] PCV2に対する新規ワクチンの子豚への経口投与による効果確認試験-1
<材料と方法>
(1)カイコ培養細胞および株
カイコ培養細胞の調製は先行文献に記載の方法に準じた。(Masuda et al., 2018)。カイコ蛹の系統は錦秋鍾和(あつまるHD、熊本、日本)を用いた。
【0051】
(2)組換えバキュロウイルスの作製
組換えバキュロウイルスの作製は先行文献に記載の方法に準じた(Masuda et al., 2018)。具体的には、PCV2の遺伝子型はPCV2 KU08-1 strain (PCV2a; Kagoshima University)(GenBank accession number, LC381288)を使用した。PCV2 ORF2全長(アミノ酸1番目から233番目)に相当する領域をカイココドン最適化した上で当該最適化塩基配列(配列番号1)を有するDNA合成を行なった。合成されたDNAを増幅させたのち、pENTR11ベクターにサブクローニングしてpDEST8-PCV2 ORF2(1-233)を作製した。カイココドン最適化した塩基配列を配列番号1(下記)に、当該塩基配列によりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0052】
ATGGGCACTTATCCGAGGAGGCGTTACCGCAGAAGAAGACACAGACCCCGTAGTCACCTGGGACAAATACTCAGAAGGAGACCGTGGCTGGTCCACCCGCGTCATAGGTATAGATGGAGACGCAAAAACGGAATCTTCAATACGAGGCTGAGCAGAACTTTTGGCTACACCGTCAAGGCAACAACTGTACGCACTCCGTCCTGGGCGGTCGACATGATGCGTTTCAACATTGACGATTTTGTACCTCCAGGTGGAGGCACCAACAAAATCTCGATTCCCTTCGAATACTATCGCATTCGTAAAGTGAAGGTTGAGTTTTGGCCTTGCTCGCCAATAACGCAAGGTGACCGTGGTGTGGGAAGTACAGCTGTTATCCTGGACGATAACTTCGTGACCAAGGCTACGGCCTTGACATACGATCCTTATGTTAATTACTCATCTAGGCACACAATTCCTCAACCATTCAGCTATCATTCCCGCTACTTTACGCCGAAACCCGTACTCGACTCTACAATCGATTACTTCCAGCCAAACAATAAGAGAACTCAACTGTGGTTGCGCCTCCAGACCTCACGTAACGTCGACCACGTAGGCCTGGGTACTGCCTTTGAAAACTCTATCTACGACCAAGATTACAACATCAGGGTGACCATGTACGTTCAGTTCAGAGAGTTCAACCTCAAGGATCCGCCCCTTAAGCCTTAA
【0053】
組換えバキュロウイルスについては、BmNPV-T3株からタンパク質発現向上及びカイコ感染後の生存期間を伸ばすための6種類の遺伝子(chitinase A, cathepsin, egt, p26, p10 and p74)を欠損させたBmNPV- T3ΔPE3Pを用いた。
【0054】
(3)昆虫培養細胞およびカイコ蛹でのPCV2カプシドタンパク質発現
PCV2カプシドタンパク質発現は、先行文献に記載の方法に準じた(Masuda et al., 2018)。蛹への組換えバキュロウイルスの感染は蛹1頭あたり1×105 plaque-forming unit (p.f.u.) で行い、感染期間は4日間とした。
【0055】
(4)PCV2カプシドタンパク質発現したカイコ蛹経口ワクチン抗原の作製
感染したカイコ蛹を-80℃で凍結保存を行なった。粉末の作製にあたっては、-80℃より蛹を取り出し、ミルミキサー(岩谷産業、大阪)により粉末化を行った。
【0056】
(5)PCV2ウイルスの調製
持続的なPCV2ウイルス血症並びに糞便中へのウイルス排泄が確認された10~12週齢時の豚個体(数検体)の血清(PCV2遺伝子数:5×105コピー数/μL前後)より、分離・同定を行ない、3-4継代培養によりPCV2株の攻撃株としての調製を行なった。
【0057】
(6)豚試験の免疫スケジュール及びサンプル回収
PCV2陰性をPCR及びELISAキットによりあらかじめ確認した家畜ブタ(4週齢)9頭(予備動物1頭含む)を株式会社京都動物検査センター三和農場に導入し試験に供試した。
家畜ブタはランダムに2種類の群に分けられた:経口ワクチン投与群、コントロール(無投与)群
試験日程は図1の通り。
【0058】
1)供試物質投与
導入3日後4週齢から,経口ワクチン投与群において,5回/7日間サイクルを3回飼料添加による経口投与を実施した。新規ワクチン投与量については1回あたりカイコ蛹粉末1gとした。また無投与対照群を設定した。なお各群4頭,合計8頭を供試した。
2)攻撃方法
免疫開始後21日(7週齢)の時点で,ブタPCV2(KDK野外分離株:PCV2)培養液5 mLを供試豚の鼻腔内に1日1回2日間噴霧投与することにより攻撃した。なお攻撃菌数はリアルタイムPCR(qPCR)にて測定した。
3)供試豚の飼育
試験期間中,抗菌性物質を含有していない子豚試験用標準飼料SDSNo.2[フィードワン(株)製]を給与した。
4)観察期間
第1回投与から6週間とした。
【0059】
5)体重測定
導入時,第1回投与開始時(4週齢),第1回攻撃時(7週齢)以降で毎週1回体重を測定した。
6)PCV2ウイルスゲノムコピー数の定量
リアルタイムPCRにて定量した。
7)剖検及び病変観察
第1回攻撃後21日で剖検を実施した。
8)統計解析
PCR定量についてStudent t検定により群間差を評価した。なお有意水準は5%とした。
【0060】
<結果>
1)血清中のPCV2ウイルスゲノムコピー数の評価(ウイルス血症の評価)
経口ワクチン投与群ではPCV2ウイルス感染後も検出限界未満を推移していたのに対して、無投与群(コントロール群)では感染後7日目以降でPCV2ウイルスのゲノムが検出され、経口ワクチン投与群でPCV2ウイルスの増殖が有意に抑制された(p<0.01)(図2)。
2)各臓器中のPCV2ウイルスゲノムコピー数の評価
肺、肺門リンパ節、腸管膜リンパ節、鼠径部リンパ節でのPCV2ウイルスゲノムコピー数を評価した結果、経口ワクチン投与は無投与群に比較して、ウイルス検出割合とウイルス量が低い傾向がみられた(図3)。
【0061】
3)体重変化
PCV2ウイルスの臨床症状として増体重の抑制が挙げられる。経口ワクチン投与群は無投与群に比較して、PCV2ウイルス感染後の体重増加が良好な傾向がみられた(図4)。
4)臓器剖検後の観察
剖検したリンパ節、肺、腸管について病変の重症度を評価した結果、病変発症割合と重症度は経口ワクチン投与群と無投与群で大きな差は見られなかったものの、結腸・盲腸における病変発現割合は経口ワクチン投与群で少なかった(表1)。
【0062】
【表1】
【0063】
参考文献
Masuda, A., Lee, J. M., Miyata, T., Sato, T., Hayashi, S., Hino, M., Kusakabe, T. (2018). Purification and characterization of immunogenic recombinant virus-like particles of porcine circovirus type 2 expressed in silkworm pupae. J Gen Virol, 99(7), 917-926. https://doi.org/10.1099/jgv.0.001087
【0064】
[実施例2]妊娠豚に対するワクチン接種試験
<材料と方法>
1.供試動物
PCV2抗体価の低い妊娠豚12頭(種付後2か月未満)を用いた。
【0065】
2.試験区分
試験区分は、下記表2に記載の通りとした。
【表2】
【0066】
被検物質は飼料に混ぜて経口投与(飼料添加投与)する。
投与は5回/7日間の割合とする。
新規ワクチン投与量については1日1回、カイコ蛹粉末1.0g/頭とする。
【0067】
3.試験日程
試験スケジュールは、下記表3の通りとした。
【表3】
【0068】
4.試験方法
1)供試物質投与
導入後分娩予定の概ね8週間前(±1週間程度)に、経口免疫群(T02群)に、さらに分娩予定の概ね4週間前(±1週間程度)に、経口免疫群(T01群及びT02群)に、5回/7日間サイクルの割合で飼料添加による経口投与(1頭1回あたり1g)を実施した。また、無投与対照群(T03群)を設定した。各群4頭、合計12頭を供試した。
2)供試豚の飼育
試験期間中、通常の妊娠期間及び授乳期間用の一般飼料[中部飼料(株)またはフィードワン(株)製]を給与した。
3)観察期間
第1回投与から離乳時までとした。
【0069】
5.観察項目
1) 体重測定(母豚)
導入時及び離乳時に体重を測定した。
2) 採血及び抗体価測定(母豚)
第1回投与時、第2回投与時、分娩時及び離乳時まで合計4回、採血し、ELISAによる抗体価の測定を行った。
3) 唾液採取・送付(母豚)
採血時に合計4回唾液を採取した。
4) 初乳採取(母豚)
分娩時に初乳を採取した。
5) 臨床観察(母豚・子豚)
試験期間中(分娩予定8週間前から離乳時まで)、一般臨床症状について観察を行った。
6) 体重測定(子豚)
分娩時及び離乳時に全頭の体重を測定した。
7) 採血及び抗体価測定(子豚)
1日齢及び離乳時の合計2回、各腹について1腹当たり5頭について採血を実施し、ELISAによる抗体価の測定を行った。
【0070】
6.統計学的解析
統計学的解析は、正規性の判定をShapiro-Wilk検定で確認したのち、Kruskal-Wallis検定及びBonferroni補正したWilcoxon順位和検定により行った。
7.有効性評価
1) 血清中のPCV2抗原特異的IgG及びIgA抗体価
2) 唾液中のPCV2抗原特異的IgG及びIgA抗体価
3) 初乳中のPCV2抗原特異的IgG及びIgA抗体価
【0071】
<結果>
結果を図5及び図6に示す。
図5は、母豚の分娩時における初乳中のIgG及びIgAの抗体価を示す図である。
パネルAは、初乳(4000倍希釈)中のPCV2抗原特異的IgG応答の結果(ELISA)である。T1、T2及びT03の各グラフのバーは、左から経口免疫群(T01群)乳清の吸光度、経口免疫群(T02群)乳清の吸光度、無投与対照群(T03群) 乳清の吸光度を示す。
パネルBは、初乳(250倍希釈)中のPCV2抗原特異的IgA応答の結果(ELISA)である。T1、T2及びT03の各グラフのバーは、左から経口免疫群(T01群)乳清の吸光度、経口免疫群(T02群)乳清の吸光度、無投与対照群(T03群) 乳清の吸光度を示す。
図5より、母豚の初乳中においてIgG及びIgA応答反応が観察され、母乳中にもワクチン効果を得ることが示された。
【0072】
図6は、子豚の1日齢における血清中のIgG及びIgAの抗体価を示す図である。
パネルAは、子豚1日齢の血清(4000倍希釈)中のPCV2抗原特異的IgG応答の結果(ELISA)である。T1、T2及びT03の各グラフのバーは、それぞれ、経口免疫群(T01群)から分娩された子豚血清の吸光度、経口免疫群(T02群)から分娩された子豚血清の吸光度、無投与対照群(T03群)から分娩された子豚血清の吸光度を示す。
パネルBは、子豚1日齢の血清(1000倍希釈)中のPCV2抗原特異的IgA応答の結果(ELISA)である。T1、T2及びT03の各グラフのバーは、それぞれ、経口免疫群(T01群)から分娩された子豚血清の吸光度、経口免疫群(T02群)から分娩された子豚血清の吸光度、無投与対照群(T03群)から分娩された子豚血清の吸光度を示す。
図6より、経口ワクチンを接種された母豚の初乳を受けた子豚であっても、1日齢において血清中においてIgG及びIgA応答反応が観察され、母乳を介して子豚にもワクチン効果が移行されることが示された。
【0073】
[実施例3]PCV2に対する新規ワクチンの子豚への経口投与による効果確認試験-2(用法用量検討)
<試験方法>
1.供試物質
新規ワクチン:ブタPCV2新規経口ワクチン(PCV2 rCap/VLP発現カイコ蛹粉末) 1種類
陽性対照:サーコフレックス(ベーリンガーインゲルハイムベトメディカ株式会社製)
【0074】
2.供試動物
繁殖豚新規サーコウイルスワクチン試験での陰性対照群からの娩出産子、及び一部ワクチン接種母豚からの娩出産子を供試して、ブタPCV2感染症新規ワクチンの子豚に対する有効性をブタPCV2ウイルスによる実験的攻撃試験で確認した。試験は試験区分に示した合計28頭を試験に供試した(表4)。
【0075】
【表4】
【0076】
4.試験日程
試験日程は表5に記載の通り行った。
【表5】
【0077】
5.試験方法
1)供試物質投与
供試物質投与は、試験区分に従って実施した。本実施例では、各群での群飼育とし、投与は強制経口投与とした。強制経口投与は供試物質をあらかじめ0.5g秤量して50mLPPチューブに入れ、ブタを保定して経口投与した。経口投与後約20mLの水道水を追加で強制的に経口摂取させた。
試験群は7群を設定し、各群4頭の合計28頭を供試した。
【0078】
2)攻撃方法
免疫開始後28日(9週齢から10週令)の時点で、ブタPCV2(KDK野外分離株:PCV2)培養液5 mLを供試豚の鼻腔内に1日1回2日間噴霧投与することにより攻撃した。なお、攻撃菌数はリアルタイムPCR(qPCR)にて測定した。
【0079】
3)供試豚の飼育
試験期間中、抗菌性物質を含有していない子豚試験用標準飼料SDS No. 2[フィードワン(株)製]を給与した。
4)観察期間
第1回投与から8週間とした。
【0080】
6.観察項目
1) 体重測定
第1回投与開始時から剖検時まで毎週1回、体重を測定した。
2) 採血,血中PCV2定量及び抗体価測定
第1回投与開始時から剖検時まで、1週間間隔で合計9回の採血を実施して血中のPCV2定量(qPCR)を測定(PCR測定は攻撃後のみ)した。
【0081】
3) 唾液採取・送付
第1回投与開始時から剖検時まで、1週間間隔で合計9回、採血時に唾液を採取した。
4) 臨床観察
試験期間中(56日間)、一般臨床症状について観察した。死亡及び淘汰例については可能な限り原因を究明し記録することとしたが、本実施例では発生しなかった。
【0082】
5) 剖検及び肺病変観察
第1回攻撃後28日で剖検を実施した。肺、肺門リンパ節、腸管膜リンパ節及び鼠径部リンパ節を採材した。
6) PCV2定量(リアルタイムPCR)
攻撃以降の血清及び剖検時検査対象臓器からブタPCV2をリアルタイムPCRにて定量した。
【0083】
7.統計学的解析
1) 増体量:Dunnetの検定(p<0.05, P<0.01)。
2) PCR定量:Steel-Dwassの方法により試験群間の比較検定を行った。
【0084】
8.有効性評価
1) 増体量及び血中PCV2ウイルス量(q-PCR)
2) 血清中のIgG抗体価
3) 唾液中のIgA抗体価
【0085】
<試験結果>
試験設定から4週間の免疫付加試験とその後4週間の攻撃試験に分けて記載することとした。
1.免疫付加試験
1) 体重及び増体量
群毎の体重及び増体量の結果、試験期間4週間の各群の平均総増体量は18.2kg~20.4kgであり、Tukey-Kramerの検定の結果、群間に有意差は確認されなかった。
2) 臨床症状
群毎の臨床症状について、試験期間中、活力・食欲、糞便性状等臨床症状の異常は一切確認できなかった。
【0086】
2.攻撃試験
1) 体重及び増体量
試験期間4週間の平均総増体量は 攻撃無投与対照群(以下T07)で7.3kgであったのに対し、Cap発現カイコ蛹0.5g×10日間投与群(以下T01)で16.9kg、Cap発現カイコ蛹0.5g×6日間投与群(以下T02)で17.8kg、Cap発現カイコ蛹0.5g×3日間投与群(以下T03)で19.3kg、母豚投与(1サイクル)産出子豚攻撃群(以下T04)で9.0kg、母豚投与(2サイクル)産出子豚攻撃群(以下T05)で13.8kgであり、サーコフレックス投与(1回筋肉内投与)群(以下T06)で17.0kgであり、投与群は高い増体量を示した(図7)。
投与群の中ではT01、T02、T03、T05、T06は高い増体量が確認された。Dunnetの検定(p<0.05)の結果、試験期間4週間の総増体量(4-8W)でT01、T02、T03及びT06群について陰性対照群のT07群より有意に高い数値を示した(図7)。
【0087】
2) 血中PCV2ウイルス遺伝子定量
血中 PCV2遺伝子平均定量数値及びT07(攻撃対照群)に対する割合を表6に、経時的遺伝子量推移を図8に示した。
遺伝子定量では攻撃後4週において、T07で972125 copies/μLと高値を検出したのに対し、投与各群のT07に対する割合はT01で0.4%、T02で0.1%、T03で0.3%、T04で58.7%、T05で39.0%、T06で0.0%であり、特にT01、T02、T03及びT06で顕著に低い数値であった。
【0088】
血中のPCV2遺伝子量測定ではサーコフレックス投与群最も低い検出量であり、これに続いて、Cap発現カイコ蛹0.5g投与群も投与量に関係なく顕著に低い検出量であった。
【表6】
【0089】
3) 血清中PCV2抗原特異的抗体価
血清中の抗体量を評価するため、ELISA法を用いた抗原特異的IgG検出を行った結果、T06では免疫後2週目より吸光度が上昇して免疫後4週目(攻撃開始前)での吸光度は1.969を示し、経口免疫群では免疫後3週目から吸光度が上昇して免疫後4週目(攻撃開始前)での吸光度は0.3から0.757を示した(図9)。
【0090】
<まとめ>
ウイルス攻撃試験の結果、子豚への経口免疫群では蛹粉末0.5g×3日間と投与量・投与日数を減らした用法用量においても、増体効果、ウイルス増殖の抑制および抗原特異的IgG抗体の誘導がみられ、PCV2に対する優れたワクチン効果が示された。
また、移行免疫のみでは上記経口免疫群ほどのウイルス増殖の抑制効果はみられなかったものの、ウイルス攻撃後の一定の増体効果がみられたことから、移行免疫のみで有効な免疫手段となる可能性が示唆された。
【0091】
[実施例4]PCV2に対する新規ワクチンの妊娠豚への経口投与後における子豚での移行抗体消長確認試験
<方法>
1.供試動物
各群母豚4頭から娩出された子豚のうち、採血した各腹5頭の計60頭を試験に供した。
【0092】
2.試験区分
試験区分を表7に示す。
【表7】
【0093】
3.試験日程
試験日程を表8に示す。
【表8】
【0094】
4.観察項目
1) 体重測定
試験開始後0日(4~5週齢)、28日(8~9週齢)及び56日(12~13週齢)に個体ごと体重を測定した。
2) 採血及び唾液採取
体重測定日に、全頭の採血及び唾液を採取した。
3) 臨床観察
試験期間中の一般状態(元気、食欲、糞便性状等)について観察した。
4) 血中抗体価測定
血清中に含まれるPCV2に対するIgGをELISA法により測定した。
【0095】
<試験結果>
1.体重
各群の平均体重は試験開始後0、28及び56日の順に、T01は16.5、33.8及び54.2 kg、T02は10.3、26.1及び46.2 kg、T03は15.4、33.7及び54.1 kgであった。
平均期間増体量は試験開始後0~28日、28~56日及び全期間の順にT01は17.3、20.4及び37.7 kg、T02は15.9、20.1及び36.0 kg、T03は18.3、20.4及び38.7 kgであった。
【0096】
2.血清中IgG抗体価
試験開始時(子豚4~5週齢)及び試験開始後4週間後(子豚8~9週齢)において、T02群の吸光度は他の2群と比較して有意に高い値を示した。試験開始後8週間後(子豚12~13週齢)では、T02群で吸光度が高い傾向を示した(図10)。
【0097】
<まとめ>
移行抗体の抗体消長をELISA法により評価した結果、子豚8~9週齢のタイミングにおいても無投与群と比較して有意に抗体を保持していることが示された。市販の注射ワクチンでは子豚に移行抗体を5週齢まで維持できることを効果として謳う製品もあるため、、本実施例の母豚免疫試験にて、母豚へのカイコ由来抗原の経口投与は子豚に対し移行抗体による優れた免疫効果を賦与するものと考えられた。
【配列表フリーテキスト】
【0098】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成コンストラクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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