(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】制振装置、建物、応力付与部材及び制振装置の設置方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04H9/02 311
(21)【出願番号】P 2020033680
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.公開日:令和2年2月12日 2.集会名、会場:2019年度名城大学理工学部建築学科卒業研究発表会 名城大学 天白キャンパス 共通講義棟東 H-203 (愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501) 3.公開者:金森主馬 4.公開内容:金森主馬は、所属する大学の卒業研究発表会において、松田和浩及び上野浩志が発明した制振装置の性能を評価する試験の結果を公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】523049122
【氏名又は名称】C&eホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 和浩
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩志
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-048393(JP,A)
【文献】特開2018-193730(JP,A)
【文献】特開2009-228361(JP,A)
【文献】特開2005-256538(JP,A)
【文献】特開2017-053135(JP,A)
【文献】特開2000-027482(JP,A)
【文献】特開平11-081735(JP,A)
【文献】特開2006-283373(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1026106(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E04B 1/00-1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の架構に設置するための制振装置において、
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、
前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体と、
前記支持体に応力を生じさせるための応力付与部材と、
を備え
、
前記ダンパーは、油圧ダンパーであり、
前記応力付与部材が前記支持体に加える力の方向は、前記制振装置が設置される壁の主面に沿った方向であって、前記油圧ダンパーの軸線方向に交差する方向に設定されている、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記油圧ダンパーは、略水平方向に配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記支持体は、前記架構を構成する第1の横架材に接続されて前記油圧ダンパーのシリンダ及びピストンロッドのいずれか一方を支持する第1支持部と、前記架構を構成する第2の横架材に接続されて前記シリンダ及び前記ピストンロッドの他方を支持する第2支持部と、を含み、
前記応力付与部材は、前記第1支持部に力を加える第1の応力付与部材と、前記第2支持部に力を加える第2の応力付与部材と、を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記制振装置は、上下に並行する2本の横架材と、前記2本の横架材を上下に接続する2本の垂直材と、によって囲まれる壁に設置されるように構成され、
前記
支持体は、
(1)前記ダンパーと接続されるダンパー側接続部と、(2)一端を
前記ダンパー側接続部に接続されると共に
、前記2本の横架材及び前記2本の垂直材のいずれか1つである構造部材に他端を
接続される第1軸材と、
(3)一端を
前記ダンパー側接続部に接続されると共に
、前記構造部材の長手方向について前記第1軸材
及び前記構造部材の接続部とは異なる位置で前記
構造部材に他端を接続される第2軸材と、を含
み、前記構造部材を底辺とし前記ダンパー側接続部を頂点とするトラス構造
を形成するように構成されており、
前記応力付与部材は、
前記ダンパー側接続部から、
前記長手方向について前記第1軸材及び
前記構造部材の接続部と前記第2軸材及び
前記構造部材の接続部との間の位置に向かって延びるように取り付けられる
ことで、前記第1軸材及び前記第2軸材の両方に軸力を導入するように構成された軸材である、
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の制振装置。
【請求項5】
建物の架構のうち、上下に並行する2本の横架材と、前記2本の横架材を上下に接続する2本の垂直材と、によって囲まれる壁に設置するための制振装置において、
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、
前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体と、
前記支持体に応力を生じさせるための応力付与部材と、
を備え、
前記支持体は、(1)前記ダンパーと接続されるダンパー側接続部と、(2)一端を前記ダンパー側接続部に接続されると共に、前記2本の横架材及び前記2本の垂直材のいずれか1つである構造部材に他端を接続される第1軸材と、(3)一端を前記ダンパー側接続部に接続されると共に、前記構造部材の長手方向について前記第1軸材及び前記構造部材の接続部とは異なる位置で前記構造部材に他端を接続される第2軸材と、を含み、前記構造部材を底辺とし前記ダンパー側接続部を頂点とするトラス構造を形成するように構成されており、
前記応力付与部材は、前記ダンパー側接続部から、前記長手方向について前記第1軸材及び前記構造部材の接続部と前記第2軸材及び前記構造部材の接続部との間の位置に向かって延びるように取り付けられることで、前記第1軸材及び前記第2軸材の両方に軸力を導入するように構成された軸材である、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項6】
前記応力付与部材は、前記架構を支持する建物の基礎に埋設されたアンカー部材に反力を取って前記支持体に力を加えるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項7】
前記応力付与部材は、前記架構を構成する柱材又は横架材を貫通する取付け部材に反力を取って前記支持体に力を加えるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項8】
建物の架構に設置するための制振装置において、
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、
前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体と、
前記支持体に応力を生じさせるための応力付与部材と、
を備え、
前記応力付与部材は、前記架構を支持する建物の基礎に埋設されたアンカー部材に反力を取って前記支持体に力を加えるように構成されている、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項9】
前記ダンパーはリリーフ弁を有する油圧ダンパーであり、
前記支持体は、複数の軸材を含み、
前記複数の軸材の各々について、前記応力付与部材によって当該軸材に導入される軸力の大きさが、前記油圧ダンパーのリリーフ荷重に対応する当該軸材の軸力変動より大きな値に設定されている、
ことを特徴とする請求項
1乃至8のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項10】
前記支持体は、前記制振装置が設置される壁の主面と平行に広がる主面を有する面材によって構成される、
ことを特徴とする請求項1乃至
3、8のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項11】
前記応力付与部材は、張力を付与されるテンション材であり、
前記テンション材が導入する力によって前記支持体が前記架構に押し付けられるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項12】
架構と、
前記架構に設置された、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の制振装置と、
を備えることを特徴とする建物。
【請求項13】
建物の架構に設置される制振装置に取り付けるための応力付与部材であって、
前記制振装置は、変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体と、を有しており、
前記応力付与部材は、前記制振装置に取り付けられた状態において、前記支持体に応力を生じさせるように構成されて
おり、
前記ダンパーは、油圧ダンパーであり、
前記応力付与部材が前記支持体に加える力の方向は、前記制振装置が設置される壁の主面に沿った方向であって、前記油圧ダンパーの軸線方向に交差する方向に設定されている、
ことを特徴とする応力付与部材。
【請求項14】
建物の架構のうち、上下に並行する2本の横架材と、前記2本の横架材を上下に接続する2本の垂直材と、によって囲まれる壁に設置される制振装置に取り付けるための応力付与部材であって、
前記制振装置は、変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体と、を有しており、
前記支持体は、(1)前記ダンパーと接続されるダンパー側接続部と、(2)一端を前記ダンパー側接続部に接続されると共に、前記2本の横架材及び前記2本の垂直材のいずれか1つである構造部材に他端を接続される第1軸材と、(3)一端を前記ダンパー側接続部に接続されると共に、前記構造部材の長手方向について前記第1軸材及び前記構造部材の接続部とは異なる位置で前記構造部材に他端を接続される第2軸材と、を含み、前記構造部材を底辺とし前記ダンパー側接続部を頂点とするトラス構造を形成するように構成されており、
前記応力付与部材は、軸材であり、前記ダンパー側接続部から、前記長手方向について前記第1軸材及び前記構造部材の接続部と前記第2軸材及び前記構造部材の接続部との間の位置に向かって延びるように取り付けられることで、前記第1軸材及び前記第2軸材の両方に軸力を導入するように構成されている、
ことを特徴とする応力付与部材。
【請求項15】
建物の架構に設置される制振装置に取り付けるための応力付与部材であって、
前記制振装置は、変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体と、を有しており、
前記応力付与部材は、前記制振装置に取り付けられた状態において、前記架構を支持する建物の基礎に埋設されたアンカー部材に反力を取って前記支持体に力を加えることで、前記支持体に応力を生じさせるように構成されている、
ことを特徴とする応力付与部材。
【請求項16】
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、
前記ダンパーを建物の架構に支持する支持体と、
応力付与部材と、
を有する制振装置の設置方法であって、
前記ダンパー及び前記支持体を前記架構に取付ける工程と、
前記架構に取付けられた前記支持体に、前記応力付与部材によって応力を生じさせる工程と、
を含
み、
前記ダンパーは、油圧ダンパーであり、
前記応力付与部材が前記支持体に加える力の方向は、前記制振装置が設置される壁の主面に沿った方向であって、前記油圧ダンパーの軸線方向に交差する方向に設定されている、
ことを特徴とする制振装置の設置方法。
【請求項17】
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、
前記ダンパーを建物の架構に支持する支持体と、
応力付与部材と、
を有する制振装置を、建物の架構のうち、上下に並行する2本の横架材と、前記2本の横架材を上下に接続する2本の垂直材と、によって囲まれる壁に設置する設置方法であって、
前記ダンパー及び前記支持体を前記架構に取付ける工程と、
前記架構に取付けられた前記支持体に、前記応力付与部材によって応力を生じさせる工程と、
を含み、
前記支持体は、(1)前記ダンパーと接続されるダンパー側接続部と、(2)一端を前記ダンパー側接続部に接続されると共に、前記2本の横架材及び前記2本の垂直材のいずれか1つである構造部材に他端を接続される第1軸材と、(3)一端を前記ダンパー側接続部に接続されると共に、前記構造部材の長手方向について前記第1軸材及び前記構造部材の接続部とは異なる位置で前記構造部材に他端を接続される第2軸材と、を含み、前記支持体を前記架構に取り付けた状態において、前記構造部材を底辺とし前記ダンパー側接続部を頂点とするトラス構造が形成され、
前記応力付与部材は、軸材であり、前記ダンパー側接続部から、前記長手方向について前記第1軸材及び前記構造部材の接続部と前記第2軸材及び前記構造部材の接続部との間の位置に向かって延びるように取り付けられることで、前記第1軸材及び前記第2軸材の両方に軸力が導入される、
ことを特徴とする制振装置の設置方法。
【請求項18】
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパーと、
前記ダンパーを建物の架構に支持する支持体と、
応力付与部材と、
を有する制振装置の設置方法であって、
前記ダンパー及び前記支持体を前記架構に取付ける工程と、
前記架構に取付けられた前記支持体に、前記応力付与部材によって応力を生じさせる工程と、
を含み、
前記応力付与部材は、前記架構を支持する建物の基礎に埋設されたアンカー部材に反力を取って前記支持体に力を加えるように設置される、
ことを特徴とする制振装置の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等によって建物に入力されるエネルギーを吸収することで建物の耐震性能を向上させる制振装置、制振装置を備えた建物、制振装置用の応力付与部材、及び制振装置の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木造住宅の耐震性能を確保する方法としては、住宅の構造壁の一部を筋交いや構造用合板等の面材によって補強した耐力壁として設計することが広く行われている。建築直後の状態において、耐力壁の壁頂部における水平方向の荷重と変形量(層間変形量)との関係(以下、復元力特性とする)は、変形量に対して荷重が線形的に増加する原点指向型である。しかし、耐力壁に対して繰り返し外力が加わると、耐力壁を構成する筋交いや合板並びにその取付け構造等に損傷が生じることにより外力に対する変形量が増加し、特に壁の変形量が小さい領域で変形量に対する荷重増加の傾きが小さくなったスリップ型の復元力特性が現れることが知られている。スリップ型の復元力特性を有する耐力壁は、地震動により建物に入力されるエネルギーを効率的に受け止めることができない。
【0003】
これに対し、木造住宅の耐震性能を効果的に向上させる技術として、制振装置が注目されている。制振装置の場合、地震動により建物に入力される運動エネルギーを建物の壁内部に取り付けたダンパーによって吸収して熱等の形で散逸させることで、建物の損壊を軽減する。特許文献1には粘弾性ダンパーを用いた制振装置の例が記載され、特許文献2には油圧ダンパーを用いた制振装置の例が記載されている。
【0004】
図1は制振装置が取り付けられた木造住宅の壁(制振壁)の例であり、梁102が土台101に対して水平方向に変位すると、ブレース252,253を介して油圧ダンパー254が伸縮するように構成されている。この制振壁の復元力特性は、例えば
図2の実線のように表され、変形量が小さい領域でも比較的大きな減衰力が発生していることが分かる。理想的な制振壁は、繰り返される地震によって住宅躯体の剛性が低下して入力に対する変形量が大きくなったとしても当初の復元力特性を維持し、長期間に亘って高いエネルギー吸収効率を発揮する。
【0005】
また、理想的な制振装置の場合、建物の架構に対するダンパーの取付け構造を幾何学的に評価することで、架構の変形量に対するダンパーの変形量の比(以下、ダンパーの作動効率とする)を求めることができ、ダンパー自体の復元力特性とダンパーの作動効率とに基づいて制振壁全体の復元力特性を評価することができる。制振壁を設置することで住宅の耐震性能を効果的に高めるには、住宅全体の剛性と制振壁の復元力特性とが適切なバランスとなるように制振壁を設計することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-207292号公報
【文献】特開2017-053135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際の制振壁の復元力特性は上述の理想的な状態とはならない。これは、ダンパーを建物の架構に取り付ける取付け部材(
図1の例ではブレース252,253)の変形等により、ダンパーの作動効率が取付け構造から定まる理論値よりも小さくなるからである。つまり、建物の架構に対してダンパーを支持している支持体(ブレース252,253及びこれらと架構又はダンパーとの接合部を含む)が有する柔性により、建物の変形量に応じて生じるはずのダンパーの変形量の一部が失われた状態となる。
【0008】
特に、取付け部材と建物の架構との接合部のガタ等によりスリップが生じると、制振壁の復元力特性は、制振壁の変形量が小さい領域においてダンパーの作動効率が著しく低下したスリップ型のものとなり、期待される制振性能を得られなくなる。
【0009】
なお、取付け部材を高剛性の材料で構成したり、取付け部材と建物の架構とを強固に接合することも考えられるが、製造コストや施工性の面での制約から、これらの方法でダンパー変形の損失を完全に防ぐことは現実的ではない。また、上で挙げた取付け部材の弾性変形や取付け部材と建物の架構の接合部以外にも、取付け部材の寸法を調整する機構もダンパー変形の損失要因となる。
【0010】
そこで、本発明は、建物の変形が比較的小さい領域でもダンパーを効率的に作動させることで制振性能を向上可能な制振装置、建物、応力付与部材及び制振装置の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る制振装置(200;300)は、建物の架構(100)に設置するための制振装置において、
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパー(201)と、
前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体(220,230;310,320)と、
前記支持体に応力を生じさせるための応力付与部材(223,233;303,304)と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の一態様に係る応力付与部材(223,233;303,304)は、建物の架構(100)に設置される制振装置(200)に取り付けるための応力付与部材であって、
前記制振装置は、変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパー(201)と、前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体(220,230;310,320)と、を有しており、
前記応力付与部材は、前記制振装置に取り付けられた状態において、前記支持体に応力を生じさせるように構成されている、
ことを特徴とする。
【0013】
本発明のさらに他の一態様に係る制振装置の設置方法は、
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパー(201)と、
前記ダンパーを建物の架構(100)に支持する支持体(220,230;310,320)と、
応力付与部材(223,233;303,304)と、
を有する制振装置の設置方法であって、
前記ダンパー及び前記支持体を前記架構に取付ける工程と、
前記架構に取付けられた前記支持体に、前記応力付与部材によって応力を生じさせる工程と、
を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の更なる特徴は、以下で図面を用いて例示する実施形態により明らかにされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、建物の架構にダンパーを支持している支持体の全体に応力付与部材によって応力を生じさせることで支持体におけるスリップの発生を防いで、建物の変形が比較的小さい領域でもダンパーを効率的に作動させることができる。これにより、制振装置及び制振壁の制振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】実施例1に係るダンパー接合部の構成例を表す図(a~c)。
【
図6】実施例1に係るダンパー接合部の他の構成例を表す斜視図。
【
図7】実施例1においてテンション材によって各ブレースに導入されるプレストレス(a)、及び、ダンパー接合部の荷重に対する各ブレースの軸力変動(b、c)を表す図。
【
図8】実施例1においてテンション材が導入すべき軸力の大きさを計算する方法を説明するための図(a、b)。
【
図10】変形例に係る制振壁を表す概略図(a~d)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための例示的な形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
(制振壁)
実施形態に係る制振壁について説明する前に、まず、
図3(a)に示す参考例を用いて制振壁の構成を説明する。本参考例の制振壁1Zは、木造軸組工法の軸組架構100に、油圧ダンパー201を有する制振装置200Zが設置された壁である。軸組架構100は、水平方向に延びる横架材としての土台101及び梁102と、これら横架材を上下に接続する垂直材としての柱材103,104とによって構成される。制振装置200Zの主要部は、正面視で土台101、梁102及び柱材103,104によって囲まれる矩形状の壁内空間に収容される。木造軸組工法の軸組架構100は、柱材及び横架材の少なくとも一部が非金属材料で構成された軸組架構の例である。
【0019】
柱材103,104は、土台101及び梁102に対してほぞ継等の方法で接合され、必要に応じてかど金物等で補強される。そのため、静止状態においては軸組架構100の相対位置は固定されているが、地震動等により軸組架構100が水平方向(図中左右方向)に揺れると、軸組架構100が平行四辺形状に変形する。即ち、柱材103,104が互いに平行関係を保ったまま土台101及び梁102に対して回転変位を生じることで、梁102が土台101に対して水平方向に相対変位する。なお、本実施形態において、「接合」とは、ピン接合及び剛接合を含む概念であって、2以上の部材を連結状態とすることを指す。また、「接合」には、2以上の部材が互いに接触した状態で連結されるものだけでなく、ピン等の連結部材を介して連結されるものを含む。
【0020】
制振装置200Zは、このような上下の横架材の間に生じる水平方向の相対変位(層間変形)をダンパーに伝達してダンパーの変形を生じさせることで、建物の振動を減衰させる装置である。
図3(a)に示す制振装置200Zは、ダンパーとして油圧ダンパー201を使用し、油圧ダンパー201を下側取付け部220及び上側取付け部230によって軸組架構100に支持することで構成されている。
【0021】
油圧ダンパー201は、オイルが封入されたシリンダ202と、シリンダ202に対して摺動するピストン204と、ピストン204に連結されたピストンロッド203と、を有し、軸線方向が制振壁1の面内方向(制振壁1の主面に沿った方向)であって略水平方向を向く姿勢で配置されている。シリンダ202内の空間はピストン204によって2つの油室に区画されており、ピストン204にはオリフィス及びリリーフ弁が設けられている。このような油圧ダンパー201は、オリフィスにおける流れ抵抗によって生じる油室間の油圧差によってピストンロッド203の伸縮に抵抗する減衰力を発生させると共に、リリーフ弁によりバイリニアな減衰力特性を発揮する。即ち、ピストン204の移動速度が比較的小さい領域では、ピストン204の移動速度に対して荷重が急勾配で増大し、油室間の油圧差がリリーフ弁の作動圧(リリーフ圧)を超える領域では、ピストン204の移動速度に対する荷重の変化量が小さくなる。
【0022】
下側取付け部220は、それぞれ油圧ダンパー201と土台101とを連結する複数の(この例では2本の)ブレース221,222によって構成される。各ブレース221,222は、一端(上端)をピン等の接合部a1’を介してシリンダ202に接合され、他端(下端)をブラケット等の接合部b1’,b2’を介して土台101に接合されている。2か所の接合部b1’,b2’は水平方向に離れており、一方のブレース221は略鉛直方向に延び、他方のブレース222は鉛直方向下方に向かって水平方向の一方(図中左方)に傾斜している。従って、下側取付け部220は、ダンパー側の接合部a1’を頂点とするトラス構造である。
【0023】
上側取付け部230は、上下が反転している以外、下側取付け部220と同様の構成を備える。即ち、上側取付け部230は、それぞれ油圧ダンパー201と梁102とを連結する2本のブレース231,232によって構成される。各ブレース231,232は、一端(下端)をピン等の接合部a2’を介してピストンロッド203に接合され、他端(上端)をブラケット等の接合部b3’,b4’を介して梁102に接合されている。2か所の接合部b3’,b4’は水平方向に離れており、一方のブレース231は略鉛直方向に延び、他方のブレース232は鉛直方向上方に向かって水平方向の他方(図中右方)に傾斜している。従って、上側取付け部230も、ダンパー側の接合部a2’を頂点とするトラス構造である。
【0024】
このような下側取付け部220及び上側取付け部230は、理想的には、それぞれ土台101及び梁102と一体の構造体である。即ち、ブレースの変形や接合部の緩み等が無いものと仮定すれば、土台101に対する接合部a1’の相対位置は一定であり、梁102に対する接合部a2’の相対位置は一定である。この場合、層間変形が生じていない
図3(b)の状態から、水平方向の荷重によって
図3(c)又は
図3(d)のように梁102が土台101に対して変位する(層間変形が生じる)と、梁102の変位量に等しい変位量でピストンロッド側の接合部a2’がシリンダ側の接合部a1’に対して変位する。即ち、
図3(a)の参考例において、「梁102の水平方向の変位量Xに対する油圧ダンパー201の変形量Yの比(Y/X)」で定義される油圧ダンパーの作動効率は、理論的には「1」となる。
【0025】
なお、ここではブレース式の支持体によって油圧ダンパー201を軸組架構100に支持する構成を例示したが、支持体の構成やダンパーの方式如何に関わらず、支持体の幾何学形状を解析することで、理論上のダンパーの作動効率(層間変形に対するダンパー変形量の比)を求めることができる。そして、この作動効率と、軸組架構100の剛性等の必要なパラメータ等に基づいて、制振壁の復元力特性を評価することが可能である。
【0026】
(ダンパー変形の損失要因)
しかしながら、実際の制振壁においてダンパーの作動効率は理論上の値とは一致しないことが経験的に知られている。これは、1つには支持体を構成するブレース等の部材が変形するためである。また、支持体とダンパーの接合部や、支持体と建物の架構の接合部における微小なガタも、ダンパーの作動効率を低下させる要因となる。
【0027】
このような損失要因により、従来の制振壁では、ダンパーの支持体を幾何学的に評価することで得られるダンパー作動効率の理論値に対して、実際の作動効率の値は小さくなっていた。特に、支持体と建物の架構との接合部のガタ等によりスリップが生じると、層間変形が小さい(ゼロに近い)領域でダンパーの作動効率が顕著に小さくなる結果、
図2の破線に示すようにスリップ型の復元力特性が現れることがあった。このようなスリップが生じると、制振壁は地震により建物に入力されるエネルギーを効果的に吸収することができない。
【0028】
また、制振壁の開発において最も難しい点の一つは、様々な建物の寸法に適応できるようにすることである。木造建物では地域や工務店により壁の寸法が異なり、一般に柱間隔は900~1000mm程度、壁の高さは2400~3000mm程度の範囲で変化する。多様な設計に柔軟に対応して可能な限り多くの住宅の制振性能を向上させるため、通常、ダンパーの取付け部材には寸法の調節機構が設けられる場合が多い。
【0029】
しかし、このような調節機構もダンパー変形の損失要因となり得る。例えば
図3(a)に示す参考例において、各ブレース221,222,231,232は、小鋼管を大鋼管の中に挿入し、適当なブレース長となるところでボルト締めすることで柱間隔や壁高さの違いに対応可能としている。しかし、ボルト締め部でスリップ(ガタ)が生じると、ダンパーの変形が損なわれる。
【0030】
上に挙げたダンパー変形の損失要因に対して、ダンパーの取付け部材として高剛性部材を使用して変形を抑制し、取付け部材とダンパー又は軸組架構とを強固に接合し、さらに調節機構のガタが生じないように強固に設計することも考えられる。しかし、製造コストや施工性と得られる効果とのバランスを考えると、取付け部材やその接合部にある程度の変形やガタを許容した設計とするのが現実的であり、ダンパー変形の損失を最小化することは難しいと考えられていた。
【0031】
そこで、本実施形態では、制振壁におけるダンパーの支持体全体にプレストレスを導入することにより、層間変形が小さい領域におけるスリップの発生を抑制し、ダンパー変形の損失を最小化するための構成を提案する。
【実施例1】
【0032】
実施例1として、
図3(a)に示した参考例の制振壁1Zに応力付与部材を追加した構成例を説明する。
図4に示すように、本実施例の制振壁1は、参考例と同じく木造軸組工法の軸組架構100に、油圧ダンパー201を有する制振装置200が設置された壁であって、油圧ダンパー201のシリンダ202及びピストンロッド203がそれぞれ下側取付け部220及び上側取付け部230を介して土台101及び梁102に支持されている。また、下側取付け部220及び上側取付け部230の各々は、2本のブレース221,222(231,232)によって構成されるトラス構造である。
【0033】
油圧ダンパー201は本実施例におけるダンパーであり、下側取付け部220及び上側取付け部230は本実施例における支持体である。このうち、第1の横架材としての土台101にシリンダ202を支持する下側取付け部220は本実施例の第1支持部であり、第2の横架材としての梁102にピストンロッド203を支持する上側取付け部230は本実施例の第2支持部である。また、ブレース221,222,231,232は本実施例における支持部材である。このうち、垂直ブレース221又は231を本実施例の第1軸材とするとき、これに対応する斜行ブレース222又は232は本実施例の第2軸材である。なお、「軸材」には、鋼管等の鉄部材に限らず、木材である筋交い材を用いてもよい。
【0034】
参考例と異なり、本実施例ではプレストレス材として2本のテンション材223,233を使用する。テンション材223は、下側取付け部220とシリンダ202との接合部a1に接合されており、接合部a1に対して図中矢印Saで表す向きの力を加えることで下側取付け部220にプレストレスを導入している。テンション材233は、上側取付け部230とピストンロッド203との接合部a2に接合されており、接合部a2に対して図中矢印Sbで表す向きの力を加えることで上側取付け部230にプレストレスを導入している。つまり、テンション材223は第1支持部としての下側取付け部220に応力を生じさせる第1の応力付与部材として機能し、テンション材233は第2支持部としての上側取付け部230に応力を生じさせる第2の応力付与部材として機能する。
【0035】
テンション材223,233が支持体としての下側取付け部220及び上側取付け部230にプレストレスを導入する結果、層間変形が生じていない状態で、下側取付け部220及び上側取付け部230は緊張状態となる。「緊張状態」とは、下側取付け部220及び上側取付け部230と油圧ダンパー201との接合部a1,a2、下側取付け部220及び上側取付け部230と軸組架構との接合部b1~b4、及びブレース221,222,231,232の調節機構(c1~c4)のいずれにもガタが無くなるように締め固められた状態を指す。
【0036】
層間変形が生じていない状態で下側取付け部220及び上側取付け部230が緊張状態となる結果、支持体を構成する下側取付け部220及び上側取付け部230の剛性が高まり、かつ、各接合部におけるスリップが防がれる。これにより、上述したダンパー変形の損失要因を最小化することが可能となる。以下、テンション材223,233を備える本実施例の制振装置200の詳細をさらに説明する。
【0037】
下側取付け部220はダンパー側の接合部a1を頂点とするトラス構造であり、テンション材223は、接合部a1からブレース221,222の間を通って下方に延びる軸材(線材)である。従って、テンション材223が接合部a1に加える力の方向は、接合部a1から、ブレース221,222が土台101に反力を取る反力点(接合部b1,b2)の間に向かう方向である。同様に、上側取付け部230に関しても、テンション材233が接合部a2に加える力の方向は、接合部a2から、ブレース231,232が梁102に反力を取る反力点(接合部b3,b4)の間に向かう方向である。
【0038】
テンション材223,233が接合部a1,a2に加える力(Sa,Sb)の向きは、制振壁1の面内方向であって油圧ダンパー201の軸線方向に交差する方向であるため、油圧ダンパー201の動作に与える影響は比較的小さい。テンション材223,233が導入する力(Sa,Sb)の向きと油圧ダンパー201の軸線方向との角は垂直に近いと好ましく、例えば45度以上(135度以下)、より好ましくは60度以上(120度以下)、さらに好ましくは75度以上(105度以下)となるようにテンション材223,233を配置する。
【0039】
本実施例のプレストレス材は、いずれも引張軸力が付与されたテンション材である。そのため、軸組架構100の層間変形が生じていない状態で、ブレース221,222にはプレストレスとして圧縮軸力が作用する。
【0040】
プレストレス材としてこのようなテンション材を使用すると、ブレース221,222が土台101に押し付けられ、ブレース231,232が梁102に押し付けられた状態で位置決めされるため、支持体と軸組架構100との接合部b1~b4を圧着を基本とした簡易な構成とすることができる。即ち、プレストレス材を使用せずにブレース構造の支持体を構成する場合、接合部b1~b4には、建物の揺れが生じた際にブレースを軸組架構100の柱材又は横架材から引き抜こうとする力が作用することから、引抜力に抵抗するためにビス止めの数を多くするなど接合部b1~b4を強固に構成する必要がある。これに対し、本実施例では建物の揺れが生じても接合部b1~b4には基本的にはブレースを軸組架構100に押し付ける力が作用する状態が続くため、接合部b1~b4を圧着構成としてもブレースの位置ずれを十分に抑制できる。
【0041】
テンション材223,233は、耐力の高い部材、即ち、導入されるプレテンション及び層間変形に伴って生じるテンション材223,233の軸力変動に対して、十分に線形弾性の範囲で挙動できる部材である必要があり、例えばM12長ボルト等の鋼材を好適に使用することができる。テンション材223,233の反力も耐力の高い部材からとることが好ましく、例えば軸組架構100を支持する建物の基礎100Bに反力を取るようにすると好適である。具体的には、基礎100Bのコンクリートにアンカー部材としてのアンカーボルト241を埋設すると共に、テンション材223の下端部を溶接したテンション治具d1をアンカーボルト241に対して固定すればよい。なお、アンカーボルト241によって柱材103,104のスパンの中間で土台101を固定することは、ブレース221,222が取り付けられている土台101の剛性を高めて、土台101の曲げ変形によるダンパー変形の損失を低減する効果がある。ただし、テンション材223を、ビス打ちや座金付きボルトによって土台101に反力を得る構成とすることも可能である。
【0042】
一方、上側のテンション材233については、梁102を貫通し梁102上面に設けられた座金を有する座金付きボルト242を用意し、テンション材233の上端部を溶接したテンション治具d2を座金付きボルト242に対して固定すればよい。梁102は、一般的に土台101よりもせい(上下幅)が大きく、土台101より大きな剛性を確保できる場合が多いため、少なくとも土台101に比べて梁102の曲げ変形は生じにくい。なお、梁102の上面に座ぐり加工を施して座金付きボルト242の突出を防いでもよい。
【0043】
テンション材223,233に引張軸力を付与する方法及びその大きさを調整する方法としては、既知の張力機構を用いることができる。例えば、
図5(b)に示すようにターンバックル223bを締め回すことで、テンション材223,233に所望の引張軸力を付与することができる。
【0044】
本実施例において、ブレース221,222,231,232は、層間変形が生じていない無負荷状態で圧縮軸力が作用する圧縮材である。ブレース221,222,231,232としては、例えばφ42.7mm程度の鋼管を好適に使用することができる。ブレース221,222,231,232は、長さ調整のための調節機構を兼ねるジャッキベースc1~c4を介して、土台101又は梁102にビス固定されたブラケットに接合される。ジャッキベースc1~c4は、ピン接合の接合部b1~b4によってブラケットに接合すると好適である。
【0045】
なお、柱材103,104にビス止めした金属板225,226によってブレース221,231及びテンション材223,233を保持することで、面外方向(制振壁1の法線方向)に油圧ダンパー201並びに下側取付け部220及び上側取付け部230が変位することを規制すると好適である。
【0046】
図5(a~c)は、油圧ダンパー201と下側取付け部220との接合部a1(支持体のダンパー接合部)の構成例を表している。接合部a1は、ピン251によって油圧ダンパー201のシリンダ202及び下側取付け部220の各ブレース221,222をピン接合している。具体的には、ピン251の両端部にC型止め輪用溝を形成しておく。そして、シリンダ202と一体に設けられたピン係合部202aと、各ブレース221の先端部に切り込みを入れて溶接した鋼板221a,221a,222a,222aとが図示した位置関係に並ぶようにピン251を貫通させた状態で、ピン251の両端部にC型止め輪を装着することで抜け止めしている。
【0047】
さらに、この接合部a1にはテンション材223が接合される。例えば、テンション材223の先端部に取付けプレート223aを固定し、シリンダ202のピン係合部202a及び各ブレース221,222の鋼板221a,222aと共に、取付けプレート223aをピン251に貫通させる。なお、取付けプレート223aの固定方法としては、
図6の斜視図に示すように、取付けプレート223aに形成した穴223eにテンション材223を通してナット止めする方法がある。また、例えば取付けプレート223aとテンション材223との間に皿ばねを介在させることで、長期間に亘ってテンション材223の軸力を一定に保つことが考えられる。
【0048】
このように、下側取付け部220と油圧ダンパー201とを接合しているピン251に対して、さらにテンション材223を集約的に接合する構成としている。この構成により、テンション材223はピン251を介して下側取付け部220の全体にプレストレスを導入することができる。
【0049】
本実施例では、下側取付け部220に対して2本のテンション材223,223が使用されている(
図5(c)参照)。2本のテンション材223,223は、制振壁1の法線方向において油圧ダンパー201の軸心位置を挟んで対称に、かつ、法線方向から見て互いに重なる位置関係にある。これにより、テンション材223,223から下側取付け部220に作用する力が制振壁1の面外方向の成分を含むことを防いでいる。
【0050】
なお、油圧ダンパー201のピストンロッド203と上側取付け部230との接合部a2(
図4)についても、上記接合部a1と同様のピン接合によって構成される。
【0051】
(導入するプレストレスの大きさ)
次に、テンション材223によって導入するプレストレスの大きさを決定する方法を説明する。
図7(a)は、下側取付け部220及び下側のテンション材223の構造モデルを表している。本実施例の支持体である下側取付け部220は、構成部材に曲げモーメントが作用しないブレース構造であるため、
図7(a)に示すように、全ての構成部材を軸材(トラス材)で表した構造モデルを用いて構造計算することができる。
【0052】
(1)満たすべき条件
以下、垂直ブレース221の軸力をS1とし、斜行ブレース222の軸力をS2とし、テンション材223の軸力をS3とする。S1,S2,S3の値を記載するときは、引張軸力に正の符号を付し、圧縮軸力に負の符号を付す。また、接合部a1に対して油圧ダンパーからの荷重が作用していない無負荷状態(層間変形がゼロの状態)において、テンション材223にはS3の引張軸力(プレテンション)が付与されているものとする。
図7(a)に示すように、無負荷状態では、テンション材223が導入するプレストレスにより、ブレース221,222には圧縮軸力が作用している。無負荷状態から地震動等によって建物が揺らされると、油圧ダンパー201から接合部a1に対して荷重が加わる。
【0053】
図7(b)は、接合部a1に対して水平方向の一方向きの荷重F1(油圧ダンパー201を収縮させる方向の層間変形が生じるときの荷重)が作用した状況を表している。このとき、垂直ブレース221の圧縮力(S1)は無負荷状態に比べて増加し、斜行ブレース222の圧縮力(S2)は無負荷状態に比べて減少する。
【0054】
図7(c)は、接合部a1に対して水平方向他方向きの荷重F2(油圧ダンパー201を伸長させる方向の層間変形が生じるときの荷重)が作用した状況を表している。このとき、垂直ブレース221の圧縮力(S1)は無負荷状態に比べて減少し、斜行ブレース222の圧縮力(S2)は無負荷状態に比べて増加する。
【0055】
ここで、テンション材223が導入するプレストレスによって上述したスリップ特性の防止を含む所望の効果を確実に得るためには、ダンパーの支持体を構成する各支持部材について、「ダンパーが作動する際に当該支持部材に生じる軸力変動の最大値ΔSmax」が、「無負荷状態で当該支持部材に導入されるプレストレスの値Sp」よりも小さい(ΔSmax<Sp)ことが必要である。
【0056】
例えば、
図7(a)に示す無負荷状態で、S1=-19.4[kN]、S2=-21.7[kN]であったとする。つまり、垂直ブレース221に導入されるプレストレスの値Spが-19.4[kN]であり、斜行ブレース222に導入されるプレストレスの値Spが-21.4[kN]である。
【0057】
このとき、図中右向きの荷重F1が作用したときのブレース222の圧縮方向の軸力変化が+21.7kN未満であれば、
図7(b)の状態でもブレース222には依然として圧縮軸力が作用していることになり、ブレース222に関して接合部a1,b2等におけるスリップは生じないと考えられる。一方、荷重F1が作用したときのブレース222の軸力変化が+21.7kNを超えていると、荷重がゼロからF1まで変化するいずれかの時点で、ブレース222のプレストレスが抜けている(軸力S2のゼロ点を通過する)ことになり、接合部a1,b2等でスリップが生じる可能性がある。ブレース221に関しても、同様に、図中左向きの荷重F2が作用したときのブレース221の圧縮方向の軸力変化が+19.4kN未満であれば、
図7(c)の状態でもブレース221には依然として圧縮軸力が作用していることになり、ブレース221に関して接合部a1,b1等のスリップは生じないと考えられる。
【0058】
従って、テンション材223に接合部a1に加える力と支持部材に導入されるプレストレスの値との関係、並びにダンパーから接合部a1に加わる荷重と支持部材の軸力変動との関係が分かっていれば、最大の軸力変動が生じた状態でも各ブレース221,222の軸力S1,S2の符号が反転しないようにテンション材223に付与する軸力の大きさを決めることができる。
【0059】
(2)プレストレス材が支持体に加える力とプレストレスとの関係
ところで、本実施例の支持体はトラス構造(特に、静定トラス)であるから、支持体の幾何学的構成が与えられていれば、無負荷状態でプレストレス材が支持体に加える力と、この力によって支持体の各支持部材に導入されるプレストレスの大きさとの関係を容易に求めることができる。つまり、無負荷状態でテンション材223に所定の大きさの引張軸力を導入したときの各ブレース221,222の圧縮軸力S2,S3の大きさは、簡単に求めることができる。
【0060】
例えば、
図8(a)に示すようにテンション材223によって無負荷状態で40kNの引張軸力を導入して接合部a1に力を加えたとする。また、この構造モデルでa1-b1間、b1-d1間、d1-b2間の距離の比は、4:1:1であるものとする。このとき、接合部a1における力の釣合条件から、無負荷状態で垂直ブレース221に作用する圧縮軸力は-19.4kNであり、無負荷状態で斜行ブレース222に作用する圧縮軸力は-21.7kNであることが分かる。
【0061】
ここでは静定トラス構造の支持体を前提にして計算したが、軸材のみで構成されるブレース構造の支持体であれば、通常の構造計算手法により、プレストレス材が支持体に加える力と支持部材に導入されるプレストレスの値との関係を比較的簡単に求めることができる。
【0062】
(3)ダンパー荷重と支持部材の軸力変動との関係
また、支持体の幾何学的構成が与えられていれば、ダンパーと支持体の接合部に加わる荷重(ダンパー荷重)と、ダンパー荷重によって生じる支持体の各支持部材の軸力変動との関係を求めることができる。
【0063】
例えば、節点間の距離は
図8(a)で説明したものと同じであるものとし、全ての軸材のヤング率及び断面積が共通であるものとし、さらに
図7(b)の状態で荷重F1の大きさが10kNであるとする。この場合、ブレース221,222にはそれぞれ-21.1kN、+21.0kNの軸力変動が生じ、テンション材223には+2.4kNの軸力変動が生じる。
【0064】
ここで、テンション材223の有無による軸力変動の変化について考える。
図8(b)は、テンション材223を無視した下側取付け部220の構造モデルを表している。節点間の距離は
図8(a)で説明したものと同じである。このとき、接合部a1に対して水平方向で図中右向きに10kNのダンパー荷重が加わると、接合部a1における力の釣合条件から垂直ブレース221に生じる軸力変動ΔS1は-19.9kN、斜行ブレース222に生じる軸力変動ΔS2は+22.3kNであることが容易に計算できる。つまり、テンション材223を加味した構造モデルにおける軸力変動の計算結果は、テンション材223を無視した場合の計算結果と1割も変化していないことが分かる。
【0065】
実際のテンション材223の断面積は、通常、圧縮材であるブレース221,222の断面積よりも小さく設計されるから、全ての軸材のヤング率及び断面積が共通である仮定が成り立たないとしても、ダンパー荷重に対するテンション材223の軸力変動が小さく、ブレース221,222の軸力変動ΔS1,ΔS2が大きいことは明らかである。
【0066】
そこで、テンション材223を無視した構造モデルでダンパー荷重と支持部材の軸力変動との関係を求めた上で、ダンパー荷重の最大値に対応する支持部材の軸力変動を例えば1割上増しした値のプレストレスを導入しておけば、(1)で説明した条件(ΔSmax<Sp)を満たすことができる。
【0067】
(4)ダンパー荷重の最大値
ダンパー荷重の最大値とは、制振装置のダンパーが発揮する減衰力の最大値である。言い換えると、ダンパー荷重の最大値とは、制振壁の設置環境(住宅躯体の剛性等)や想定される最大震度の地震動に応じて制振壁が最も強く揺らされるときのダンパー荷重を指す。制振壁を設計するにあたって、ダンパー荷重の最大値を事前に想定しておき、(1)~(3)で説明した方法により、ダンパーの支持体を構成する各支持部材についてΔSmax<Spが満たされるようにプレストレス材が導入するプレストレスの値を決定する。
【0068】
例えば、本実施例において下側取付け部220に対するダンパー荷重の最大値が±10kNであるとする。このとき、±10kNのダンパー荷重に対するブレース221,222の軸力変動ΔS1,ΔS2は、テンション材223を無視した構造モデルの計算結果からそれぞれ±22kN程度、±25kN程度と見積もられる。そこで、無負荷状態において、ブレース221に導入される圧縮軸力が22kNより大きく、かつ、ブレース222に導入される圧縮軸力が25kNより大きくするためには、テンション材223に付与する引張軸力を例えば45kN以上に設定すればよい。
【0069】
なお、実際にはプレストレス導入時の施工誤差や、試験体条件の変動、軸力低下を引き起こす各種要因(木材のクリープや鋼材のリラクゼーションなど)を考慮して、テンション材223に導入する引張軸力は余裕を見て大きめに設定することが好ましい。
【0070】
また、ダンパーとしてリリーフ弁を有する油圧ダンパーを用いる場合、少なくともリリーフ荷重に対応する支持部材の軸力変動ΔSに対してΔS<Spが満たされるようにプレストレスの値を決めるものとする。これにより、少なくともダンパー荷重がリリーフ荷重以下となる領域であればスリップの発生を防ぐことができる。同様に、ダンパーとして例えば金属の塑性変形を利用する履歴型ダンパーを用いる場合、少なくとも降伏荷重に対応する支持部材の軸力変動ΔSに対してΔS<Spが満たされるようにプレストレスの値を決めるものとする。
【0071】
(制振装置の設置方法)
制振装置200を設置する場合、制振装置200を構成する1組の部材(本実施例の場合、ダンパー201、ブレース221,222,231,232及びテンション材223,233)を用意する。このとき、ダンパー201を、ブレース221,222,231,232及びテンション材223,233と予め接合したものを用意してもよく、個別に用意して建築現場で組み合わせてもよい。
【0072】
本実施例の制振装置200が期待される制振性能を発揮するためには、設置後の状態で油圧ダンパー201の支持体に適切な応力が生じている必要がある。そのため、制振壁1とする部分の軸組架構100に対して下側取付け部220及び上側取付け部230によってダンパー201を取り付けた後に、テンション材223,233に引張軸力を付与することで、下側取付け部220及び上側取付け部230に応力を生じさせればよい。
【0073】
(変形例1)
上記の実施例1では、プレストレス材としてテンション材を使用し、支持部材であるブレースを圧縮材としているが、プレストレス材を圧縮材として圧縮軸力を加える構成としてもよい。この場合、ブレース221,222,231,232はテンション材となるため、実施例1に比べて断面積の小さな軸材を用いてもよい。
【0074】
(変形例2)
上記実施例1では、応力付与部材としてのテンション材223,233が、制振装置200の一部として予め用意されている場合について説明したが、既に流通している制振装置に対して応力付与部材を後付けする方法も考えられる。例えば、
図3(a)に示す参考例の制振装置200Zに実施例1で説明したテンション材223,233を装着して、下側取付け部220及び上側取付け部230に応力を生じさせることで、建物の変形が小さい領域におけるダンパーの作動効率を改善する効果が期待できる。
【実施例2】
【0075】
実施例2として、トラス構造の支持体に代えて面材を用いた支持体によってダンパーを支持する構成例を説明する。
図9は本実施例に係る制振壁1の正面図であり、図中右側中央はA-A線における断面図であり、図中右側下段はB-B線における断面図である。以下、実施例1と共通の符号を付した要素は実施例1と同様の構成及び作用を備えるものとする。
【0076】
本実施例の制振装置300は、油圧ダンパー201を、下側取付け部310及び上側取付け部320を介して軸組架構100に取り付けたものである。下側取付け部310は、厚物合板311が、第1接合部としての接合部g1,g2において土台101に接合され、第2接合部としての接合部e1において油圧ダンパー201のシリンダに接合されて構成されている。同様に上側取付け部320は、厚物合板321が、第1接合部としての接合部g3,g4において梁102に接合され、第2接合部としての接合部e2において油圧ダンパー201のピストンロッドに接合されて構成されている。厚物合板311,321は、剛性を有し制振壁1の主面と平行(取り付け公差等の実際上許容すべき小さな差は無視するものとする)に広がる主面を有する面材の一例である。
【0077】
ダンパー側の接合部e1,e2は、厚物合板311,321にねじ固定した金属プレートf1,f2と油圧ダンパー201とをピン351によってピン接合したものを使用する。また、軸組架構側の接合部g1~g4は、例えばL字状に屈曲した金物を介して厚物合板311,321と土台101又は梁102とを連結した構成とする。
【0078】
以上の下側取付け部310及び上側取付け部320の構成により、梁102が土台101に対して水平方向に変位すると、梁102の変位量と理論上は等しい変位量(作動効率が1の状態)で、油圧ダンパー201が伸縮する。しかしながら、ダンパー変形の損失要因(例えば接合部e1,e2,g1~g4のガタ)により、層間変形が小さい領域でスリップが生じると、ダンパーの作動効率が低下する。
【0079】
そこで、本実施例でも、応力付与部材としてテンション材303,304を使用することでダンパーの支持体にプレストレスを導入し、支持体の剛性を高めてスリップの発生を抑制する。テンション材303,304は、下側取付け部310及び上側取付け部320のダンパー側の接合部e1,e2と、土台101及び梁102に設けられたテンション治具h1,h2との間に張設されており、接合部e1,e2を介して下側取付け部310及び上側取付け部320の全体にプレストレスを導入する。
【0080】
テンション材303は、接合部e1から接合部g1,g2の間に向かって延びる軸材(線材)である。従って、テンション材303が接合部e1に加える負荷の方向は、接合部e1と厚物合板311の反力点(接合部g1,g2)とを結ぶ2本の仮想線の間の方向となる。同様に、テンション材304が接合部e2に加える負荷の方向は、接合部e2と厚物合板321の反力点(接合部g3,g4)とを結ぶ2本の仮想線の間の方向となる。
【0081】
その他、テンション材303,304の詳細な構成としては、実施例1と同様のものを用いることができる。
【0082】
このような構成によっても、テンション材303,304が導入するプレストレスによって、無負荷状態において下側取付け部310及び上側取付け部320の全体が緊張状態となるため、層間変形が小さい領域における油圧ダンパー201の作動効率を改善して制振壁1の制振性能を向上させることができる。
【0083】
(その他の実施例)
上記の実施例1,2で挙げた形態に限らず、支持架構の構成が異なる様々な制振装置に対して本技術を適用することができる。
図10(a~d)にそのような制振装置の例を挙げて説明する。
【0084】
図10(a)は、油圧ダンパー201と支持体との接合部a1,a2にテンション材223,233を接合する代わりに、垂直ブレース221,231と斜行ブレース222,232を連結する連結材224にテンション材223,233を接合し、連結材224を介して下側取付け部220及び上側取付け部230にプレストレスを導入する構成としている。このように、油圧ダンパー201と支持体との接合部a1,a2以外の部位に力を加える構成でも、支持体の剛性を高めて油圧ダンパー201の作動効率を改善可能である。
【0085】
図10(b)は、粘弾性ダンパー260を用いた制振装置の例を表している。粘弾性ダンパー260の上部は梁に固定され、下部はブレース261,262によって土台に対して固定されている。粘弾性ダンパー260は、ゴム等の高分子が有する粘弾性により、軸組架構100の層間変形に抵抗する。ここで、粘弾性ダンパー260とブレース261,262の取付け部材に応力付与部材としてのテンション材263を接合してテンション材263に引張軸力を付与すれば、ブレース261,262からなる支持体の剛性を高めて、層間変形が小さい領域における粘弾性ダンパー260の作動効率を改善できる。
【0086】
図10(c)は、粘弾性ダンパー270を用いた制振装置の他の例を表している。粘弾性ダンパー270の一方の側部は右側の柱材に固定され、他方の側部はブレース271,272によって左側の柱材に対して固定されている。ここで、粘弾性ダンパー260におけるブレース271,272の取付け部に応力付与部材としてのテンション材273を接合してテンション材273に引張軸力を付与すれば、ブレース271,272からなる支持体の剛性を高めて、層間変形が小さい領域における粘弾性ダンパー270の作動効率を改善できる。
【0087】
なお、
図10(c)の配置例はテンション材273が柱材から反力を取るため柱材の曲げ変形が懸念されるが、制振壁の設置個所に太い柱材が使用されている場合や、鉄骨造の建物の場合には柱材の曲げ変形が抑制されるため、好適に適用することができる。また、ブレース271,272は、木の筋交い材に置き換えてもよく、粘弾性ダンパー270に代えて
図1に例示した油圧ダンパー254を用いてもよい。
【0088】
図10(d)は、
図10(c)の制振装置を柱材を挟んで対称に配置し、各粘弾性ダンパー280,280におけるブレース282,283,284,285の取付け部同士を、柱材を貫通するテンション材286によって連結したものである。この構成により、柱材から反力をとることなくプレストレスを導入することができる。
【0089】
以上に挙げたものは例示にすぎず、特許請求の範囲に記載された要旨を逸脱しない範囲で適宜に変更を加えた上で本技術を実施することができる。
【0090】
(本実施形態のまとめ)
以上の実施例1,2及びその他の実施例で例を挙げて説明したように、本実施形態に係る制振装置(200;300)は、建物の架構(100)に設置するための制振装置において、
変形に伴って運動エネルギーを吸収するダンパー(201)と、
前記ダンパーを前記架構に支持し、前記架構の変形に応じて前記ダンパーを変形させる支持体(220,230;310,320)と、
前記支持体に応力を生じさせるための応力付与部材(223,233;303,304)と、
を備えることを特徴とする。
【0091】
この構成によれば、ダンパーを支持する支持体に応力付与部材によって応力を付与することで、上で挙げたダンパー変形の損失要因の影響を抑制し、架構の変形がゼロに近い領域における支持体の剛性を高める作用がある。これにより、制振壁の復元力特性がスリップ型となることを防いで、架構の変形がゼロに近い領域におけるダンパーの作動効率を改善して制振壁の制振性能向上を図ることができる。
【0092】
なお、「建物の架構」は、例えば木造軸組架構を指すが、これに限らず、軽量鉄骨構造、重量鉄骨構造等の建築物、その他タワー、橋梁等の構造物に適用可能であり、また新築に限らず、既存構造物の耐震補強にも適用可能である。また、「建物」は、住宅用か他の用途かを問わないものとし、躯体の少なくとも一部に架構構造を有する建築物一般を指すものとする。
【0093】
「ダンパー」は、実施例で説明する油圧ダンパーに限らず、オイル等の流体抵抗を利用するもの(粘性ダンパー)、金属を塑性変形させるときの抵抗を利用するもの(履歴型ダンパー)、摩擦板同士の摩擦抵抗を利用するもの、ゴム等の粘弾性体のせん断抵抗を利用するもの(粘弾性ダンパー)等、制振装置に利用されている任意のダンパーを使用できる。
【0094】
「支持体」は、建物の架構とダンパーとを連結する支持部材と、支持部材を建物の架構に接合する架構側の接合部と、支持部材をダンパーに接合するダンパー側の接合部とを含む構造体である。支持体は、下記の実施例で説明するブレース式の構造や面材を使用した構造に限らず、建物の架構を構成する柱材及び横架材のいずれか(基準材)に反力を取って、基準材に対するダンパー側の接合部の相対位置を保持する任意の構造体を使用可能である。
【0095】
「応力付与部材」は、実施例で説明した鋼材に限らず、例えばワイヤーのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0096】
100…建物の架構(軸組架構)
200,300…制振装置
201…ダンパー(油圧ダンパー)
220,310…支持体、第1支持部(下側取付け部)
230,320…支持体、第2支持部(上側取付け部)
221,222,231,232…軸材(ブレース)
223,233,303,304…応力付与部材(テンション材)
311,321…面材(厚物合板)