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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】プレス用曲げ傷防止具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 5/02 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
B21D5/02 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020148167
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042671
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】520339666
【氏名又は名称】有限会社西口ベンダー工業
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】西口 正造
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-094615(JP,A)
【文献】特開平10-029015(JP,A)
【文献】特開平10-005874(JP,A)
【文献】特開2003-102575(JP,A)
【文献】特開平10-331511(JP,A)
【文献】特開2020-023062(JP,A)
【文献】特開2006-000899(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02018912(EP,A1)
【文献】特開平04-028419(JP,A)
【文献】特開2000-140941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/01-5/02
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状を為すパンチと、パンチを受け入れる溝部(以下、「ダイ溝」という。)を有するダイとを用いて被加工金属板を曲げ加工する際に、被加工金属板とダイとの間に介在させることで被加工金属板に曲げ傷が付くことを防止するプレス用曲げ傷防止具であって、
ダイ溝の一対の内壁面を覆う一対の内壁被覆部と、
それぞれの内壁被覆部の上端と一体的に形成されて、ダイ溝の内壁面の上縁に位置するダイ肩を覆う一対のダイ肩被覆部と
を備え、
その全体が樹脂又はゴムで形成されるとともに、
一対の内壁被覆部が、ダイ溝の内壁面に添う形状に予め成形され
ダイ溝が延びる方向に沿って並べられた複数のプレス用曲げ傷防止具を互いに連結する連結手段を備えた
プレス用曲げ傷防止具。
【請求項2】
被加工金属板が当接する上側面に、ダイ溝が延びる方向に垂直な方向に延びる線状凸部が繰り返し形成された請求項1に記載のプレス用曲げ傷防止具。
【請求項3】
ダイ溝が延びる方向に積層された複層構造を有する請求項1又は2記載のプレス用曲げ傷防止具。
【請求項4】
前記樹脂又は前記ゴムは、炭素繊維が添加されたものである請求項1~3いずれか記載のプレス用曲げ傷防止具。
【請求項5】
請求項1~いずれか記載のプレス用曲げ傷防止具を、3次元印刷機を用いた3次元印刷によって製造するプレス用曲げ傷防止具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキプレス等のプレス装置を用いて被加工金属板の曲げ加工を行う際に、被加工金属板に曲げ傷が付くことを防止するプレス用曲げ傷防止具に関する。本発明は、また、このプレス用曲げ傷防止具の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
被加工金属板を加工する手法として、ブレーキプレス等のプレス装置を用いた曲げ加工が知られている。曲げ加工には各種のものが存在するが、被加工金属板を断面V字状に曲げるV曲げが一般的である。特許文献1の第6図には、このV曲げを行う際に使用される従来のプレス曲げ治具(プレス装置)が記載されている。このプレス曲げ治具は、先端を断面V字状に形成されたヤゲン18(パンチ)と、V溝20を有するダイス19(ダイ)とを備えており、ヤゲン18とダイス19との間に被加工材10(被加工金属板)を挟んでプレスすることで、同図における破線で示されるように、被加工材10をV字状に曲げることができる。
【0003】
しかし、この種のプレス装置を用いてV曲げを行うと、被加工材10に、いわゆる「曲げ傷」と呼ばれる傷が付きやすいという問題があった。というのも、V曲げにおいては、特許文献1の第6図に示されるように、ヤゲン18にプレスされた被加工材10がダイス19のV溝内に滑り込むことによって被加工材10が折り曲げられるところ、この過程で被加工材10がV溝20の上部角部21(ダイ肩)に強く擦り付けられるからである。
【0004】
このような実状に鑑みて、同文献の第1図には、ダイ肩に相当する箇所に、回転自在な一対のローラ3a,3bを設けたプレス曲げ治具の雌型1(下型)が提案されている。この雌型1を、前述したダイス19の代わりに用いてV曲げを行うと、同文献の第2図に示されるように、被加工材10がローラ3a,3bに擦り付けられたとしても、ローラ3a,3bが回転することで被加工材10に傷が付くことを防ぐことができるとされている。
【0005】
また、他の方法として、従来のダイのダイ肩をシート状の保護材で覆って、被加工金属板がダイ肩に直接擦り付けられないようにすることも提案されている。例えば、特許文献2の図1には、下型1(ダイ)のV溝の両岸3に、伸縮性を有する布材4を張設し、布材4の両端をテープ5で下型1に固定したプレスブレーキ用金型が提案されている。この布材4は、プレス前においては、V溝の両岸3間にピンと張られた状態となっているが、プレス時には、曲がっていく被加工金属板の形状に合わせて伸びる。これにより、被加工金属板の曲げ角度に影響を及ぼすことなく、被加工金属板に傷が付くことを防ぐことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-28419号公報
【文献】特開2000-140941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載の雌型1は、既設のダイス19で採用することができず、別途製造する必要があるものであった。加えて、同文献の雌型1は、複雑な構造を有しているため、高いコストを要するという問題も有していた。また、機械的強度に劣り、壊れやすいという問題も有していた。
【0008】
一方、特許文献2の図1に記載の布材4は、厚い被加工金属板を曲げ加工する場合等、強い力がかかる場合に破れやすいという問題を有していた。また、布材4が伸縮性を有することから、この布材4の上に被加工金属板を載せてプレス作業を行おうとすると、被加工金属板が下型1に対してズレやすく、プレス作業がしづらいという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、曲げ加工を行う際に被加工金属板に曲げ傷が付くことを防止するプレス用曲げ傷防止具であって、低コストで壊れにくく、プレス作業がしやすいプレス用曲げ傷防止具を提供するものである。また、このプレス用曲げ傷防止具の製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、
凸状を為すパンチと、パンチを受け入れる溝部(以下、「ダイ溝」という。)を有するダイとを用いて被加工金属板を曲げ加工する際に、被加工金属板とダイとの間に介在させることで被加工金属板に曲げ傷が付くことを防止するプレス用曲げ傷防止具であって、
ダイ溝の一対の内壁面を覆う一対の内壁被覆部と、
それぞれの内壁被覆部の上端と一体的に形成されて、ダイ溝の内壁面の上縁に位置するダイ肩を覆う一対のダイ肩被覆部と
を備え、
その全体が樹脂又はゴムで形成されるとともに、
一対の内壁被覆部が、ダイ溝の内壁面に添う形状に予め成形された
ことを特徴とするプレス用曲げ傷防止具
を提供することによって解決される。
【0011】
本発明のプレス用曲げ傷防止具は、一対の内壁被覆部をダイのダイ溝に嵌め込んで使用するものとなっている。一対の内壁被覆部をダイ溝に嵌め込むと、ダイ肩がダイ肩被覆部によって覆われる。この状態で曲げ加工を行うと、被加工金属板はダイ肩に直接擦り付けられるのではなく、被加工金属板よりも柔らかい樹脂又はゴムで形成されたダイ肩被覆部に擦り付けられるようになる。これにより、被加工金属板に曲げ傷が付くことを防止することができる。
【0012】
また、本発明のプレス用曲げ傷防止具は、一対の内壁被覆部がダイ溝の内壁面に添う形状に予め成形されたものであるため、ダイに対して動きにくい状態で取り付けることができる。これにより、安定してプレス作業をすることができる。このように、樹脂又はゴムからなるプレス用曲げ傷防止具は、成形が容易である。加えて、繰り返し使用するにつれて樹脂又はゴムからなるプレス用曲げ傷防止具がダイに馴染んで、よりフィットするようになるため、より安定してプレス作業をすることができるようになる。本発明のプレス用曲げ傷防止具は、成形品であるため、繰り返しプレスされたとしても壊れにくく、耐久性に優れている。また、シンプルな構造を採用しているため、安価に製造することができる。
【0013】
本発明のプレス用曲げ傷防止具においては、被加工金属板が当接する上側面に、ダイ溝が延びる方向(内壁被覆部とダイ肩被覆部との境界線に垂直な方向)に垂直な方向に延びる線状凸部を繰り返し形成すると好ましい。これにより、プレス用曲げ傷防止具の上側面と被加工金属板との間に生じる摩擦力を小さくして、被加工金属板をより小さな力でスムーズに曲げることができる。また、プレス用曲げ傷防止具が摩耗しにくくすることもできる。
【0014】
本発明のプレス用曲げ傷防止具は、ダイ溝が延びる方向に積層された複層構造を有することが好ましい。これにより、パンチが被加工金属板を押圧する力が、当該層構造を為す各層に対して略平行な方向にかかるようになるため、プレス用曲げ傷防止具をヘタリにくくすることができ、プレス用曲げ傷防止具の耐久性を高めることができる。
【0015】
本発明においては、プレス用曲げ傷防止具を形成する樹脂又はゴムとして、炭素繊維が添加されたものを用いることができる。この構成は、特に、厚手の被加工金属板を曲げ加工する際に採用すると好ましい。これにより、プレス用曲げ傷防止具に対する被加工金属板の滑りをより良くすることができ、厚手の被加工金属板であってもスムーズに曲げることができるようになる。また、プレス用曲げ傷防止具の耐久性を高めることもできる。
【0016】
本発明においては、ダイ溝が延びる方向に沿って並べられた複数のプレス用曲げ傷防止具を互いに連結する連結手段をさらに備えると好ましい。これにより、被加工金属板の大きさに応じてプレス用曲げ傷防止具の連結数を変えることで、様々な大きさの被加工金属板に対応することができる。また、連結された複数のプレス用曲げ傷防止具のうち一部だけが摩耗してきた場合には、摩耗したプレス用曲げ傷防止具だけを取り換えることができる。
【0017】
本発明のプレス用曲げ傷防止具は、各種の方法によって製造することができる。本発明のプレス用曲げ傷防止具は、例えば、3次元印刷機を用いた3次元印刷によって製造することができる。これにより、既に手元にあるダイに合わせたプレス用曲げ傷防止具を、少ロットで手軽に製造することができる。また、上記の複層構造を実現することも容易である。さらに、3次元印刷機を用いると、プレス用曲げ傷防止具の内部に微細な空間が残ることがあるが、これにより、繰り返し使用するにつれてプレス用曲げ傷防止具がよりダイに馴染みやすくなるという利点もある。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によって、曲げ加工を行う際に被加工金属板に曲げ傷が付くことを防止するプレス用曲げ傷防止具であって、低コストで壊れにくく、プレス作業がしやすいプレス用曲げ傷防止具を提供することが可能になる。また、このプレス用曲げ傷防止具の製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のプレス用曲げ傷防止具を取り付けたダイとパンチとを用いて被加工金属板を曲げ加工する様子を、ダイ溝に垂直な平面で切断して示した断面図である。
図2図1(a)に示したプレス用曲げ傷防止具及びダイにおける、一点鎖線で囲った部分を抜き出して拡大した図である。
図3】本発明のプレス用曲げ傷防止具の斜視図である。
図4図3に示したプレス用曲げ傷防止具のA-A断面図である。
図5】本発明のプレス用曲げ傷防止具を複数個並べて連結する様子を示す斜視図である。
図6】本発明のプレス用曲げ傷防止具を3次元印刷機によって製造する際の出力方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.概要
本発明の好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明のプレス用曲げ傷防止具10を取り付けたダイ20とパンチ30とを用いて被加工金属板Pを曲げ加工する様子を、ダイ溝21に垂直な平面で切断して示した断面図である。図1(a)は、被加工金属板Pに対してパンチ30を下降させる前の状態を示している。図1(b)は、図1(a)に示す状態からパンチ30を下降させて、被加工金属板Pをプレスした状態を示している。図2は、図1(a)に示したプレス用曲げ傷防止具10及びダイ20における、一点鎖線で囲った部分を抜き出して拡大した図である。
【0021】
本発明のプレス用曲げ傷防止具10は、図1に示すように、被加工金属板Pを断面V字状に折り曲げるV曲げ用のダイ20に取り付けて使用するものとなっている。このダイ20は、図2に示すように、断面V字状のダイ溝21と、ダイ溝21の一対の内壁面21aの上縁に位置する一対のダイ肩22とを有している。このダイ20は、図1(a)に示すように、断面V字状の凸状を為すパンチ30と共にブレーキプレス(図示省略)に取り付けて使用される。ダイ20の上に被加工金属板Pを載せて、図1(b)に示すようにパンチ30を被加工金属板Pに対して下降させると、被加工金属板PをV字状に折り曲げることができる。
【0022】
このとき、本発明のプレス用曲げ傷防止具10をダイ20に取り付けておくと、被加工金属板Pに曲げ傷が付くことを防ぐことができる。すなわち、図1に示すように被加工金属板PをV曲げする際には、パンチ30によって押圧された被加工金属板Pがダイ溝21に滑り込みながら折り曲げられるところ、もしプレス用曲げ傷防止具10がダイ20に取り付けられていなければ(被加工金属板Pがダイ20の上に直接載せられていたとすると)、この過程で被加工金属板Pがダイ肩22に強く擦り付けられて、被加工金属板Pに曲げ傷が付いてしまう。この点、弾力性及び柔軟性を有する樹脂又はゴムで形成されたプレス用曲げ傷防止具10をダイ20に取り付けておくと、ダイ肩22ではなく、柔らかいプレス用曲げ傷防止具10に被加工金属板Pが擦り付けられるようになるため、被加工金属板Pに曲げ傷が付くことを防ぐことができる。加えて、ダイ肩22に被加工金属板Pが直接擦り付けられることがないため、ダイ肩22の消耗を防ぐこともできる。
【0023】
2.プレス用曲げ傷防止具
以下、本発明のプレス用曲げ傷防止具10の構成について詳しく説明する。図3は、本発明のプレス用曲げ傷防止具10の斜視図である。本発明のプレス用曲げ傷防止具10は、図3に示すように、ダイ20(図1)の形状に倣って成形された成形品となっている。すなわち、プレス用曲げ傷防止具10は、図2に示すように、ダイ溝21の内壁面21aを覆う一対の内壁被覆部11と、ダイ20のダイ肩22を覆う一対のダイ肩被覆部12とを備えているところ、内壁被覆部11は内壁面21aに沿った形状に、ダイ肩被覆部12はダイ肩22に沿った形状に、それぞれ成形されている。
【0024】
このため、内壁被覆部11をダイ溝21に嵌め込むことにより、別途固定手段等を設けなくとも、プレス用曲げ傷防止具10をダイ20に取り付けることができる。取り付けたプレス用曲げ傷防止具10は、ダイ20にフィットして動きにくい状態となる。したがって、プレス用曲げ傷防止具10の上に載せた被加工金属板Pをダイ20対して安定させることができ、プレス作業をしやすくすることができる。また、ダイ20とプレス用曲げ傷防止具10との間に起こる摩擦を小さくして、プレス用曲げ傷防止具10が摩耗しにくくすることもできる。加えて、本発明のプレス用曲げ傷防止具10は樹脂又はゴム製であるため、繰り返し使用するにつれてダイ20に馴染んでよりフィットするようになり、これらの効果をより強く得られるようになる。
【0025】
本実施形態のプレス用曲げ傷防止具10において、内壁被覆部11とダイ肩被覆部12とは、図2に示すように、滑らかに連続して(一体的に)形成されている。また、ダイ肩被覆部12及び内壁被覆部11は、その全体に亘って略同一の厚みを有している。このため、プレス用曲げ傷防止具10をダイ20に取り付けた場合にも、プレス用曲げ傷防止具10を取り付けなかった場合と略同じ角度に被加工金属板Pを曲げることができる。
【0026】
プレス用曲げ傷防止具10の厚みW図2)は、被加工金属板Pの素材や厚みによって、適宜決定される。プレス用曲げ傷防止具10が薄すぎると、プレス用曲げ傷防止具10が破損しやすくなるおそれがある。このため、プレス用曲げ傷防止具10の厚みWは、1mm以上とすると好ましく、2mm以上とするとより好ましく、3mm以上とするとさらに好ましい。一方、プレス用曲げ傷防止具10が厚すぎると、被加工金属板Pを曲げ加工する際の曲げ精度が落ちるおそれがある。このため、プレス用曲げ傷防止具10の厚みWは、15mm以下とすると好ましく、10mm以下とするとより好ましい。
【0027】
図4は、図3に示したプレス用曲げ傷防止具10のA-A断面図である。本実施形態のプレス用曲げ傷防止具10における上側面(被加工金属板Pが当接する側の面。以下同じ。)には、図3の拡大図及び図4の拡大図に示すように、多数の線状凸部10aを繰り返し設けている。この線状凸部10aは、ダイ溝21が延びる方向(内壁被覆部11とダイ肩被覆部12との境界線に垂直な方向)に延在している。これにより、プレス用曲げ傷防止具10の上側面と被加工金属板Pとの間に生じる摩擦力を小さくすることができ、被加工金属板Pをより小さな力でスムーズに曲げることができる。また、プレス用曲げ傷防止具10が摩耗しにくくすることもできる。
【0028】
線状凸部10aの断面形状(線状凸部10aを、線状凸部10aの長手方向に垂直な面で切断した断面の形状。以下同じ。)は、円弧状や楕円弧状や放物線状等の滑らかな曲線形状とすると好ましい。これにより、線状凸部10aの強度を確保しながら、線状凸部10aと被加工金属板Pとが接する面積を小さくすることができ、プレス用曲げ傷防止具10と被加工金属板Pとの間に生じる摩擦力をより小さくすることができる。本実施形態においては、図4の拡大図に示すように、線状凸部10aの断面形状を略円弧状としている。
【0029】
線状凸部10aの高さW図4)は、被加工金属板Pの素材や厚みによっても異なり、特に限定されない。しかし、線状凸部10aが高すぎると、被加工金属板Pをプレスした際に線状凸部10aの形状が被加工金属板Pに転写されてしまうおそれがある。このため、線状凸部10aの高さWは、1mm以下とすると好ましく、0.5mm以下とするとより好ましく、0.3mm以下とするとさらに好ましい。一方、線状凸部10aが低すぎると、プレス用曲げ傷防止具10と被加工金属板Pとの間に生じる摩擦を充分小さくすることができないおそれがある。このため、線状凸部10aの高さWは、0.01mm以上とすると好ましく、0.05mm以上とするとより好ましい。本実施形態においては、線状凸部10aの高さWを0.1mm程度としている。
【0030】
線状凸部10aのピッチW(隣り合う線状凸部10aの頂部間の距離)も、特に限定されない。しかし、線状凸部10aのピッチWが大きすぎると、1つの線状凸部10aに大きな力がかかり、線状凸部10aが潰れやすくなるおそれがある。また、線状凸部10aの形状が被加工金属板Pに転写されるおそれもある。このため、線状凸部10aのピッチWは、3mm以下とすると好ましく、1mm以下とするとより好ましく、0.5mm以下とするとさらに好ましい。一方、線状凸部10aのピッチWが小さすぎると、プレス用曲げ傷防止具10と被加工金属板Pとの間に生じる摩擦を充分小さくすることができないおそれがある。このため、線状凸部10aのピッチWは、0.05mm以上とすると好ましく、0.1mm以上とするとより好ましい。本実施形態のプレス用曲げ傷防止具10においては、線状凸部10aのピッチWを0.2mm程度としている。
【0031】
プレス用曲げ傷防止具10の長さ(ダイ溝21に平行となる方向における長さ。以下同じ。)は、被加工金属板Pの大きさ(被加工金属板Pにおける曲げ加工を施す箇所の幅)によって適宜決定される。しかし、プレス用曲げ傷防止具10を長くしすぎると、場所を取って邪魔になるおそれがある。この点、本実施態様においては、長さ100mm程度のプレス用曲げ傷防止具10を複数個用意し、これをダイ20のダイ溝21(図2)に並べて配することで、別途長いプレス用曲げ傷防止具10を用意しなくとも長尺の被加工金属板P等に対応できるようにしている。
【0032】
図5は、本発明のプレス用曲げ傷防止具10を複数個並べて連結する様子を示す斜視図である。上記のように、複数個のプレス用曲げ傷防止具10を並べて長尺の被加工金属板P等を曲げ加工する場合においては、単にプレス用曲げ傷防止具10をダイ溝21に並べるだけであってもよい。しかし、そうすると、プレス加工を繰り返すうちに、隣り合うプレス用曲げ傷防止具10の間に隙間が空いてしまい、その隙間の形状が被加工金属板Pに転写されてしまうおそれがある。したがって、この場合には、複数のプレス用曲げ傷防止具10を連結する連結手段を設けると好ましい。
【0033】
連結手段としては、隣り合うプレス用曲げ傷防止具10の端面10c,10d(ダイ溝21が延びる方向における端面。以下同じ。)同士を接続する手段(例えば、接着手段や係合手段等)を採用することもできるが、本実施形態のプレス用曲げ傷防止具10においては、図5に示すように、プレス用曲げ傷防止具10に設けた連結用孔10bと、この連結用孔10bに通した連結用線材40とによって連結手段を構成している。連結用孔10bは、通常、プレス用曲げ傷防止具10における一側端面10cから他側端面10dまでを貫通して設けられる。一本の連結用線材40を、連結される複数のプレス用曲げ傷防止具10の連結用孔10bに順に通していき、全部通し終わったところで、連結用線材40の両端を緩まないように固定する(図示省略)。これにより、強い力がかかったとしてもズレにくい状態でプレス用曲げ傷防止具10を連結することができる。
【0034】
連結用孔10bは、一側端面10cから他側端面10dまでを貫通して設けてあれば、プレス用曲げ傷防止具10におけるどの箇所に設けてもよい。本実施態様においては、図2に示すように、プレス用曲げ傷防止具10における、ダイ溝21の稜線を覆う箇所(一の内壁被覆部11と他の内壁被覆部11との境界線に沿った箇所)に連結用孔10bを設けている。この箇所には、プレス操作時に厚み方向の力がかかりにくいため、この箇所に連結用孔10bを設けると、プレス用曲げ傷防止具10の耐久性を維持することができる。連結用線材40は、連結用孔10bに通すことができる線材であれば、その素材を特に限定されず、樹脂や繊維等で形成されたものであってもよいが、本実施形態のプレス用曲げ傷防止具10においては金属製のワイヤーを採用している。
【0035】
本発明のプレス用曲げ傷防止具10を形成する素材は、成形可能な樹脂又はゴムであれば特に限定されず、被加工金属板Pの素材や厚み等によって適宜選択される。プレス用曲げ傷防止具10の素材としては、弾力性や柔軟性を有するものを採用すると、プレス用曲げ傷防止具10をダイ20にフィットさせやすいため好ましい。また、後述するように、熱溶解積層方式の3次元印刷機を用いてプレス用曲げ傷防止具10を製造する場合には、プレス用曲げ傷防止具10の素材として、熱可塑性のものを採用する。
【0036】
プレス用曲げ傷防止具10の素材として特に好適な樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂(熱可塑性ポリウレタン系樹脂等)や、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等)や、ポリ乳酸系樹脂や、ABS系樹脂や、ポリアミド系樹脂や、フッ素系樹脂等が挙げられる。また、特に好適なゴムとしては、例えば、シリコン系ゴムや、ニトリル系ゴム等が挙げられる。プレス用曲げ傷防止具10を形成する素材は、1種類だけを用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
プレス用曲げ傷防止具10を形成する樹脂又はゴムには、各種の添加材を加えることができる。本実施形態においては、プレス用曲げ傷防止具10を形成する熱可塑性ポリウレタン系樹脂に、添加材として炭素繊維を加えている。これにより、プレス用曲げ傷防止具10に対する被加工金属板Pの滑りを良くすることができ、被加工金属板Pをスムーズに曲げることができる。また、プレス用曲げ傷防止具10の耐久性を高めることもできる。この炭素繊維を添加したプレス用曲げ傷防止具10は、特に、比較的厚手の被加工金属板P(素材にもよるが、例えば、厚みが6~9mm程度のもの)を曲げ加工する場合に用いると好ましい。というのも、比較的薄手の被加工金属板Pを曲げ加工する際に炭素繊維を添加したプレス用曲げ傷防止具10を用いると、被加工金属板Pが勢いよく曲がりすぎて、適切なタイミングでパンチ30(図1)を止めることが難しくなるおそれがあるからである。プレス用曲げ傷防止具10を形成する樹脂又はゴムには、この他にも、例えば、潤滑剤、強化材(アラミド繊維、ポリアミド繊維等の繊維系強化材、シリカ等の粒状強化材等)、可塑剤、安定剤、着色剤等の添加材を添加してもよい。添加材は、1種類だけを用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
3.プレス用曲げ傷防止具の製造方法
以下、本実施形態のプレス用曲げ傷防止具10の製造方法について詳しく説明する。図6は、本発明のプレス用曲げ傷防止具10を3次元印刷機によって製造する際の出力方向を示す図である。
【0039】
本発明のプレス用曲げ傷防止具10は、例えば、金型を用いた成型方法(射出成型等)によって製造してもよい。しかし、本実施形態においては、プレス用曲げ傷防止具10を、3次元印刷機を用いた3次元印刷によって製造している。より具体的には、以下の[1]~[3]の工程を経ることによって、プレス用曲げ傷防止具10を製造している。
[1]3次元スキャナを用いて、ダイ20における内壁面21a及びダイ肩22の3次元表面構造情報を得るスキャン工程
[2]スキャン工程で得られた3次元表面構造情報に基づいて、プレス用曲げ傷防止具10の構造を決定する構造決定工程
[3]構造決定工程で決定された構造のプレス用曲げ傷防止具10を、3次元印刷機を用いて3次元印刷する印刷工程
【0040】
このように、スキャン工程で得られたダイ20の3次元表面構造情報に基づいてプレス用曲げ傷防止具10の構造を決定することで、よりダイ20にフィットするプレス用曲げ傷防止具10を製造することができる。また、3次元印刷機を用いると、金型を用意する必要がないため、手元にあるダイ20や被加工金属板Pに合わせたプレス用曲げ傷防止具10を、少ロットで手軽に製造することができる。
【0041】
[3]の印刷工程において用いる3次元印刷機は、樹脂又はゴムを3次元的に印刷可能であれば、その印刷形式を特に限定されない。3次元印刷機としては、光造形方式や、インクジェット方式のものを採用することもできるが、本実施形態においては、熱溶解積層方式(Fused Deposition Modeling方式、FDM方式)の3次元印刷機(以下、「FDM式3次元印刷機」と記載することがある。)を採用している。FDM式3次元印刷機は、加熱して溶かした熱可塑性材料を、プリンタヘッドから細く押し出しながら層状に積み上げていくことで、立体的な形状に成形するものである。
【0042】
このFDM式3次元印刷機を採用すると、繰り返し使用した際にダイ20により馴染みやすいプレス用曲げ傷防止具10を製造することができる。というのも、FDM式3次元印刷機を用いて製造したプレス用曲げ傷防止具10の内部には、多数の微細空間が分散して残る場合があるところ、この微細空間があることで、プレス用曲げ傷防止具10がダイ20の形状に沿って変形しやすくなるからである。
【0043】
本実施形態においては、図6に示すように、プレス用曲げ傷防止具10を倒立させた状態で出力している。すなわち、同図の矢印Bで示すように、一側端面10cから他側端面10dに向かってプレス用曲げ傷防止具10を出力している。こうして出力されたプレス用曲げ傷防止具10は、矢印Bの方向(内壁被覆部11とダイ肩被覆部12との境界線に平行な方向)に積層された複層構造を有する。この複層構造を構成する各層は、プレス操作時にパンチ30(図1)から受ける押圧力の方向に対して略平行な向きに配されている。したがって、本実施形態のプレス用曲げ傷防止具10は、パンチ30から繰り返し押圧力を受けたとしても、ヘタリにくくなっている。この複層構造を構成する各層は、細く押し出された熱可塑性材料を様々な方向に走査させることによって形成されている。このため、様々な方向の力に対して耐えることができる。
【0044】
4.その他
以上においては、V曲げ用のダイ20に取り付ける場合を例に挙げて本発明のプレス用曲げ傷防止具10を説明した。しかし、本発明のプレス用曲げ傷防止具10は、内壁被覆部11やダイ肩被覆部12の形状を適宜変更することにより、凹状のダイ溝を有する各種のダイに取り付けて使用することができる。このようなダイとしては、例えば、被加工金属板Pを断面U字状や断面コの字状に曲げるU曲げ用のダイ等が挙げられる。
【符号の説明】
【0045】
10 プレス用曲げ傷防止具
10a 線状凸部
10b 連結用孔
10c 一側端面
10d 他側端面
11 内壁被覆部
12 ダイ肩被覆部
20 ダイ
21 ダイ溝
21a 内壁面
22 ダイ肩
30 パンチ
40 連結用線材
P 被加工金属板
図1
図2
図3
図4
図5
図6