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▶ ハインリッヒ・ハイネ・ウニヴェルズィテート・デュッセルドルフの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】合成シグナル伝達構築物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240612BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240612BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240612BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240612BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240612BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240612BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240612BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240612BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240612BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/0783
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/86 Z
C12N15/85 Z
A61K35/17
A61K38/17
A61K38/02
A61P37/02
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020554873
(86)(22)【出願日】2019-04-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2019058741
(87)【国際公開番号】W WO2019193197
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】18166111.7
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520383072
【氏名又は名称】ハインリッヒ・ハイネ・ウニヴェルズィテート・デュッセルドルフ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】フロス,ドリーン
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ラング,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】エンゲロウスキ,エリカ
(72)【発明者】
【氏名】フー,ハイフェン
(72)【発明者】
【氏名】フランケ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】シェラー,ユルゲン
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522882(JP,A)
【文献】特表2018-506293(JP,A)
【文献】eLIFE,2017年,Vol.6, e22882 (22 pages)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内にシグナルを伝達するための系であって、
i.)それぞれが、少なくとも以下のドメイン:
結合対を形成する人工的リガンドに結合する受容体である第一の結合パートナーであって、前記結合対が受容体の第一の結合パートナーおよび人工的分子である該人工的リガンドの第二の結合パートナーで構成される、前記の第一の結合パートナーを含有する第一のドメイン;
膜貫通ドメイン、ならびに
細胞質シグナル伝達ドメイン、ここで、該第一のドメインおよび該細胞質シグナル伝達ドメインが、細胞またはそれに由来する細胞を含有する生物において、天然には存在しないドメインの組み合わせである、
をN末端から始まりC末端まで含有し、細胞内で発現されている、組換えポリペプチドの少なくとも1つのタイプを3つ、
ならびに
ii.)人工的リガンドである前記結合対の第二の結合パートナー、該第二の結合パートナーは同一または異なる3つの結合セグメントを含む
を含む、
ここで、前記組換えポリペプチドのそれぞれが、第一の結合パートナーがナノボディ、一本鎖抗体、またはその断片であり、および
a)第二の結合パートナー中の同一の3つの結合セグメントが前記3つのポリペプチドのそれぞれに存在する3つの第一の結合パートナーと結合して結合対を形成した際、細胞内にシグナルを伝達するため、前記3つの組換えポリペプチドの1つのタイプが、ホモ三量体の形で存在する、または
b)前記第二の結合パートナーが、少なくとも、第一の組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに特異的に結合する結合セグメント、および第二および第三の組換えポリペプチドそれぞれの第一の結合パートナーに特異的に結合するさらなる2つの結合セグメントで構成される際に、細胞内にシグナルを伝達するため、少なくとも2つの異なる組換えポリペプチドの3つがヘテロ三量体を形成する、
前記組換えポリペプチドの細胞質シグナル伝達ドメインが、サイトカイン受容体に由来する細胞質シグナル伝達ドメインであり、該サイトカイン受容体に由来する細胞質シグナル伝達ドメインが、刺激性受容体、gp130、IL-23R、IL-12Rβ1、IL-7R、IL-13R、IL-15R、IFNαR、IFNγR、TNF1R、TNF2R、EGF-R、IL-22R、サイレンシング(消耗性)受容体、PD-1、IL-10R、TIM3、IL-27R、殺傷性受容体、FasR、およびTRAILRからなる群より選択される細胞質シグナル伝達ドメインであり、さらに、前記組換えポリペプチドの膜貫通ドメインが、前記細胞の膜に渡る膜貫通ドメインであり、そして、該膜貫通ドメインが、細胞質シグナル伝達ドメインが由来するサイトカイン受容体に由来する、
前記系。
【請求項2】
前記組換えポリペプチドは、少なくとも以下のドメイン:
前記第一のドメイン、
スペーサードメイン、
前記膜貫通ドメイン、ならびに
前記細胞質シグナル伝達ドメイン、
をN末端から始まりC末端まで含有する、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記組換えポリペプチドが、一本鎖抗体である第一の結合パートナーを含有する第一のドメインのN末端に位置するリーダー配列をさらに含む、請求項1または2記載の系。
【請求項4】
前記組換えポリペプチドが、第一の結合パートナーを含有する第一のドメインが、人工的リガンドである第二の結合パートナーに特異的に結合するナノボディを含有する第一のドメインである、組換えポリペプチドである、請求項1~3のいずれか一項記載の系。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載の系の製造における、3つの組換えポリペプチドの使用であって、
該組換えポリペプチドのそれぞれが、少なくとも以下のドメイン:
結合対を形成する人工的リガンドに結合する受容体である第一の結合パートナーであって、前記結合対が受容体の第一の結合パートナーおよび人工的分子である該人工的リガンドの第二の結合パートナーで構成される、前記の第一の結合パートナーを含有する第一のドメイン;
膜貫通ドメイン、ならびに
細胞質シグナル伝達ドメイン、ここで、該第一のドメインおよび該細胞質シグナル伝達ドメインが、細胞またはそれに由来する細胞を含有する生物において、天然には存在しないドメインの組み合わせである、
をN末端から始まりC末端まで含有する、
ここで、前記細胞質シグナル伝達ドメインが、サイトカイン受容体に由来する細胞質シグナル伝達ドメインであり、該サイトカイン受容体に由来する細胞質シグナル伝達ドメインが、刺激性受容体、gp130、IL-23R、IL-12Rβ1、IL-7R、IL-13R、IL-15R、IFNαR、IFNγR、TNF1R、TNF2R、EGF-R、IL-22R、サイレンシング(消耗性)受容体、PD-1、IL-10R、TIM3、IL-27R、殺傷性受容体、FasR、およびTRAILRからなる群より選択される細胞質シグナル伝達ドメインであり、
前記膜貫通ドメインが、前記細胞の膜に渡る膜貫通ドメインであり、そして、該膜貫通ドメインが、細胞質シグナル伝達ドメインが由来するサイトカイン受容体に由来する、
前記使用。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項記載の系の製造における、請求項5で定義される3つの組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含む、核酸分子の使用。
【請求項7】
前記核酸分子がベクターに含まれる、請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記ベクターはウイルスベクターまたはプラスミドである、請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記ベクターまたは前記核酸分子が細胞、細胞株または宿主細胞に含まれるか、あるいは前記組換えポリペプチドポリペプチドが細胞、細胞株または宿主細胞中で発現される、請求項6~8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
前記細胞、細胞株または宿主細胞は、末梢血細胞である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
前記細胞、細胞株または宿主細胞は、CD8+またはCD4+ T細胞である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
前記細胞、細胞株または宿主細胞は、キメラ抗原受容体をさらに発現する、遺伝子操作されたT細胞である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
前記細胞、細胞株または宿主細胞は、請求項7または8で定義されるベクターを第二のベクターとして、または請求項6で定義される核酸分子を第二の核酸分子としてさらに含有する請求項9~12のいずれか一項記載の使用であって、このベクターまたは核酸分子が、第一の結合ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインの少なくとも1つあるいは両方が異なる、請求項5で定義される組換えポリペプチドをコードする、使用。
【請求項14】
第二のベクターの細胞質シグナル伝達ドメインが、異なるシグナル伝達経路を通じてシグナル伝達を誘導する、請求項13の使用。
【請求項15】
前記系が、被験体の癌または自己免疫疾患の治療、または免疫調節に使用される、請求項1~4のいずれか一項記載の系
【請求項16】
前記系が、被験体の癌または自己免疫疾患の治療、または免疫調節に使用される、請求項5記載の使用、または請求項6~14のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
請求項7または8で定義されるベクター、請求項9~14のいずれか一項で定義される細胞、細胞株または宿主細胞、請求項6で定義される核酸分子、および/または請求項5で定義される組換えポリペプチドを含有する、キットまたは系であって、
該キットまたは系は、請求項1~4のいずれか一項記載の系の製造に使用される、
該請求項1~4のいずれか一項記載の系は、免疫調節のため、細胞、リンパ球、又はT細胞の産生において使用される、
キットまたは系。
【請求項18】
請求項9~14のいずれか一項で定義される細胞、細胞株または宿主細胞、および請求項1で定義される人工的リガンドである結合対の第二の結合パートナーを含有する、キットまたは系であって、
該キットまたは系は、請求項1~4のいずれか一項記載の系の製造において使用される、
キットまたは系。
【請求項19】
請求項6で定義される核酸分子、または請求項7または8で定義されるベクター、および請求項1で定義される人工的リガンドである第二の結合パートナーを含有する、キットまたは系であって、
該キットまたは系は、請求項1~4のいずれか一項記載の系の製造において使用される、
キットまたは系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第一の側面において、本発明は、新規組換え人工的ポリペプチドであって、該ポリペプチドを含有する細胞において細胞質シグナル伝達を可能にする前記ポリペプチドに関する。特に、本発明は、人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される第一の結合パートナーを含むドメイン、膜貫通ドメイン、ならびに細胞質シグナル伝達ドメイン、それによって結合パートナーを含むドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインが生物において天然に存在しないドメインの組み合わせである、を含有する組換えポリペプチド、ならびに結合対の特異的形成のための第二の結合パートナーを含有する、シグナルを伝達するための系に関する。さらなる側面において、本発明記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子、ならびにベクター、前記ベクターを含有する細胞、細胞株または宿主細胞を提供する。さらに、本発明は、被験体の癌または自己免疫疾患を治療するか、または免疫調節を可能にするとともに、本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに特異的な第二の結合パートナーを適用した際、細胞の状態を変化させるために使用するための、本発明記載の組換えポリペプチドの使用に関する。
【発明の概要】
【0002】
養子細胞療法および養子細胞トランスファーは、悪性腫瘍の治療において有意な有効性を示してきており、そして癌、自己免疫疾患を含む多様な疾患を持つ患者において治癒性である可能性もあり、それとともに被験体における免疫調節を可能にする可能性もある。例えば、癌はドイツにおいて二番目に一般的な死因であり、そして癌の療法ならびに自己免疫疾患の療法または一般に免疫調節は、集中的な研究の目的となっている。
【0003】
癌の治療には、手術、放射線照射または切除に加えて、養子細胞療法を含む多様な方法が存在する。治療しようとする被験体の免疫系の利用および免疫系の操作は、癌の治療を可能にするとともに、自己免疫疾患等の治癒を可能にする。
【0004】
養子細胞療法において、通常、患者由来のT細胞をex vivoで操作して、特定の受容体を発現させるかまたは特定のT細胞を活性化させる。適応T細胞療法において有用な操作T細胞の例は、組換えT細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現している操作T細胞である。前記キメラ抗原受容体は、典型的には、抗体由来の細胞外抗原結合ドメインおよびT細胞受容体エンドドメイン由来の細胞内T細胞活性化ドメインで構成される。生理学的T細胞受容体(TCR)とは対照的に、CARは、細胞外部分を通じた抗原結合と、細胞内シグナル伝達部分によって提供されるT細胞活性化機構を組み合わせた、単一ポリペプチド鎖で構成される。
【0005】
癌および他の疾患を治療するための他のアプローチは、T細胞を刺激するか、またはT細胞上の特定の受容体をブロッキングすることを可能にし、こうして、前記T細胞を活性化するかまたは不活性化するか、あるいは前記T細胞およびあらかじめ決定されたターゲットに対する免疫反応の有効性を増加させる、薬剤の使用である。例えばPD1ならびにPDL1(PD1のリガンド)に対する薬剤は、腫瘍の治療において成功裡に用いられている。しかし、これまで、免疫療法の主な副作用の1つは、例えば抗CD28薬剤である薬剤に関して記載されるような重大な副作用が伴う、非特異的な過剰な免疫活性化および典型的にはいわゆるサイトカインストームによって誘導される過剰な免疫反応である。CAR分子は前記の問題を克服しうると考えられた。CAR修飾T細胞中に存在する抗体由来ドメインは、抗原の主要組織適合性複合体(MHC)提示とは独立に、そのターゲット、通常は細胞表面抗原を認識することを可能にし、そして腫瘍細胞変異によって損なわれて、腫瘍免疫エスケープの一般的に観察される機構に相当する抗原プロセシングの低下または不全を伴うことがない。近年、このCAR T細胞腫瘍免疫療法に基づく第一の方法が、小児急性リンパ球性白血病に関して、ならびに巨細胞B細胞リンパ腫に関して、FDAによって認可された。
【0006】
しかし、CARに基づく療法はなお、抗CD19 CARに関して記載されるように、特異性、およびサイトカインストームを含む望ましくない免疫活性に関する問題を有する。したがって、細胞に基づく療法におけるさらなる発展が必要である。特に、重大な副作用を減少させながら、操作細胞、特に操作腫瘍反応性T細胞の増殖増進を可能にするさらなるツールを提供することが望ましい。
【0007】
当該技術分野におけるさらなるアプローチは、修飾サイトカイン受容体または修飾サイトカイン誘導性シグナル伝達の使用である。サイトカイン誘導性シグナル伝達は、免疫関連プロセスを調節する多くの他の機能の中でも、とりわけ、天然生物学的スイッチによって実行される。原則として、サイトカイン受容体は、サイトカインの非存在下ではオフ状態であり、そしてサイトカインの存在下ではオン状態である。オン状態は、サイトカインおよびサイトカイン受容体の枯渇の負のフィードバック機構によって中断されうる。例えば、オン状態にロックされている、ロイシンジッパーまたはIL-15/sushiおよびIL-6シグナル伝達因子gp130の融合に基づく、リガンド独立性合成受容体が報告されてきている。しかし、これらの合成または人工的受容体は、スイッチ操作可能ではない。Suthaus, J.ら, Mol Biol Cell, 2010, 21, 2797-2801。興味深いことに、炎症性肝細胞腺腫におけるIL-6/IL-11シグナル伝達の顕著な活性化は、リガンド独立性恒常的活性gp130受容体を導く、gp130受容体鎖における機能獲得突然変異によって直接引き起こされた。さらに、サイトカイン、エリスロポエチンでの刺激によりgp130誘導性シグナル伝達を生じる、スイッチ操作可能合成サイトカイン受容体が記載されてきている。Gerhartz, C.ら, J Biol Chem, 1996, 271, 12991-12998。
【0008】
この系の主な欠点は、エリスロポエチンが天然EPO受容体と交差反応性を有し、in vitroおよびin vivo両方で、その適用が限定されることであった。また、天然リガンド、例えばエリスロポエチンを用いて、より高次のマルチ受容体複合体に集合させることは不可能であり、こうしたリガンドは、受容体ホモ二量体化しか誘導しない。これは、非修飾天然存在リガンド、例えばサイトカインの使用に関連する一般的な問題に相当する。シグナル伝達の直接細胞内活性化および細胞死の誘導は、細胞浸透性合成リガンド、例えばFK506および結合タンパク質、例えばFKBP12を用いて達成され、これらはホモ二量体化およびホモオリゴマー化を生じた。しかし、問題は、オリゴマー化の度合いが調節不能であることであった。共刺激受容体、notchに基づく受容体および抗原特異的阻害性受容体を含む、操作CAR T細胞反応を最適化するための、合成膜貫通受容体の多様な形式が設計されてきている。例えば、Federov, V.D.ら, Sci Tranl Med, 2013, 5, 215ra172, doi:10.1126/scitranslmed.3006597。しかし、スイッチ操作可能でバックグラウンドに関連しない系、特に、ヘテロ/ホモ二量体、三量体または多量体構成を含めて、受容体複合体の集合方式に関して完全に制御可能であるフリー合成サイトカイン受容体系は、入手不能である。
【0009】
GFPおよびmCherryを特異的に認識する、最近開発されたナノボディは、内因性リガンドに結合できず(例えば、Fridy P.C.ら, Nat Methods, 2014, 12, 1253-1260を参照されたい)、そしてしたがって、こうしたナノボディは、合成サイトカイン受容体の結合パートナーとして不適格である。ラクダ科(camelidae)重鎖抗体のN末端領域は、その同族(cognate)抗原に結合する、VHHまたはナノボディと称される特化した可変ドメインを含有する。ナノボディは、重鎖抗体の可変領域から生じる約110アミノ酸残基の単一ドメイン抗体である。
【0010】
上記を考慮して、腫瘍免疫療法における新規アプローチ、ならびに自己免疫疾患を含む他の免疫に基づく疾患の治療、ならびに特に、例えばそれぞれの療法のさらなる発展を妨害する、適応療法におけるCAR発現T細胞において記載される副作用を克服するため、被験体における免疫調節の必要性がある。すなわち、悪性癌細胞および健康な細胞の間を区別しないCARを発現する操作T細胞を用いたCARに基づく適応療法において、このCARアプローチに関してもまた、サイトカインストームが記載されている。さらに、養子細胞療法における活性細胞、例えばCAR T細胞を調節する系およびアプローチが必要である。
【0011】
本発明は、減少した毒性、高い特異性、減少した副作用を有するとともに、単純な活性化および非活性化によってスイッチ操作可能である、新規に開発された組換えポリペプチド、ならびに細胞内にシグナルを伝達するための系におけるその使用に関する。
【0012】
第一の側面において、本発明は
細胞内にシグナルを伝達するための系であって、
i.)少なくとも以下のドメイン:
人工的リガンドおよび該人工的リガンドに結合する受容体より選択される結合対の第一の結合パートナーであって、前記結合対が受容体およびリガンドの第一および第二の結合パートナーで構成され、それによってリガンドが人工的分子である、前記の第一の結合パートナーを含有する第一のドメイン;
随意に、スペーサードメイン;
膜貫通ドメイン、ならびに
細胞質シグナル伝達ドメイン、ここで該第一のドメインおよび該細胞質シグナル伝達ドメインが、細胞またはそれに由来する細胞を含有する生物において、天然には存在しないドメインの組み合わせである、
をN末端から始まりC末端まで含有する、組換えポリペプチドの少なくとも1つのタイプ、ならびに
ii.)i.)の組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに応じて、人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される、前記結合対の第二の結合パートナー
を含む、前記系を提供する。
【0013】
すなわち、第一の側面において、本発明は、少なくとも以下のドメイン:
人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される、第一の結合パートナーを含有する第一のドメイン;
随意に、スペーサードメイン、
膜貫通ドメイン、ならびに
細胞質シグナル伝達ドメイン、ここで、該第一のドメインおよび該細胞質シグナル伝達ドメインが、生物において、天然には存在しないドメインの組み合わせである、
をN末端から始まりC末端まで含有する、組換えポリペプチドを提供する。
【0014】
好ましい態様において、本発明記載の組換えポリペプチドは、ナノボディを含有する第一のドメイン、ならびに同じサイトカイン受容体由来の膜貫通ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインを含む。
【0015】
さらなる側面において、本発明は、本発明記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子に関する。さらに、本発明記載の核酸配列を含むベクター、特にウイルスベクターまたはプラスミドの形のベクターを開示する。
【0016】
さらに、本発明記載のベクターまたは本発明記載の核酸分子を含有し、そして最終的に本発明記載の組換えポリペプチドを発現する細胞、細胞株または宿主細胞を記載する。
【0017】
さらに、本発明は、被験体の癌または自己免疫疾患の治療に使用するための、または免疫調節に使用するための、本発明記載の組換えポリペプチド、核酸分子、ベクター、細胞、細胞株または宿主細胞に関する。さらに、上記は、活性化および非活性化、細胞におけるアポトーシスまたは細胞死の誘導、ならびに老化の誘導等を含めて、細胞の状態を変化させるために有用である。さらに、壊死、例えばネクロトーシスが誘導されてもよい。さらに、細胞の阻害および細胞の消耗も可能であってもよい。
【0018】
さらに、本発明記載の細胞、細胞株または宿主細胞、ならびに細胞、細胞株または宿主細胞によって発現される組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに応じて、人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される、結合対の第二の結合パートナーを含有する、キットまたは系を提供する。さらに、本発明記載の核酸分子、本発明記載のベクターまたはベクター、ならびに核酸分子またはベクターによってコードされる組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに応じて、人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される、結合対の第二の結合パートナーを含有する、キットまたは系を提供する。
【0019】
最後に、本発明は、特に、免疫調節のため、細胞、例えばT細胞の産生において使用するための、本発明記載のベクター、細胞、細胞株または宿主細胞、核酸分子および/またはペプチドを含有する、キットまたは系に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1-1】IL-23のための合成サイトカイン受容体(SyCyR(IL-23/2A))は、形質導入Ba/F3-gp130細胞において、IL-23誘導性シグナル伝達および細胞増殖をシミュレーションする。a.IL-23シグナル伝達をシミュレーションするSyCyRの模式的例示。GFP-mCherry融合タンパク質は、合成サイトカインリガンドとして働いた。GVHH-IL-12Rβ1は、IL-12Rβ1の細胞外部分の15aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したGFP-ナノボディ(GVHH)からなる。CVHH-IL-23Rは、IL-23Rの細胞外部分の17aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したmCherry-ナノボディ(CVHH)からなる。IL-23R内の天然STAT3結合部位を、囲んだSTAT3によって強調した。b.HIL-6およびGFP:mCherry融合タンパク質での異なるBa/F3-gp130細胞株の細胞増殖。等しい数の細胞を、示す合成リガンドの存在下(6.25ng/ml)で、3日間培養した。mCherryでの刺激をGFP(0.25%)と同じ体積で行った。HIL-6(10ng/ml)での刺激を対照として用いた。比色CellTiter-Blue細胞生存度アッセイを用いて増殖を測定した。3つのうち1つの代表的な実験を示す。c.すべてのSyCyRの発現カセットは、IL-11R由来のシグナルペプチドに続き、FlagまたはmycタグおよびCVHHまたはGVHH、サイトカイン受容体の細胞外部分の13~17aa、膜貫通および細胞内ドメインからなる。d.GVHH-CVHH融合タンパク質の発現カセットは、PelBシグナルペプチドに続き、Flagタグ、GVHH、CVHHおよびHisタグからなる。
図1-2】IL-23のための合成サイトカイン受容体(SyCyR(IL-23/2A))は、形質導入Ba/F3-gp130細胞において、IL-23誘導性シグナル伝達および細胞増殖をシミュレーションする。a.IL-23シグナル伝達をシミュレーションするSyCyRの模式的例示。GFP-mCherry融合タンパク質は、合成サイトカインリガンドとして働いた。GVHH-IL-12Rβ1は、IL-12Rβ1の細胞外部分の15aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したGFP-ナノボディ(GVHH)からなる。CVHH-IL-23Rは、IL-23Rの細胞外部分の17aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したmCherry-ナノボディ(CVHH)からなる。IL-23R内の天然STAT3結合部位を、囲んだSTAT3によって強調した。b.HIL-6およびGFP:mCherry融合タンパク質での異なるBa/F3-gp130細胞株の細胞増殖。等しい数の細胞を、示す合成リガンドの存在下(6.25ng/ml)で、3日間培養した。mCherryでの刺激をGFP(0.25%)と同じ体積で行った。HIL-6(10ng/ml)での刺激を対照として用いた。比色CellTiter-Blue細胞生存度アッセイを用いて増殖を測定した。3つのうち1つの代表的な実験を示す。c.すべてのSyCyRの発現カセットは、IL-11R由来のシグナルペプチドに続き、FlagまたはmycタグおよびCVHHまたはGVHH、サイトカイン受容体の細胞外部分の13~17aa、膜貫通および細胞内ドメインからなる。d.GVHH-CVHH融合タンパク質の発現カセットは、PelBシグナルペプチドに続き、Flagタグ、GVHH、CVHHおよびHisタグからなる。
図2】IL-6の合成サイトカイン受容体(SyCyR(IL-6))は、形質導入Ba/F3-gp130細胞およびマウスにおいて、IL-6/IL-11誘導性シグナル伝達および細胞増殖をシミュレーションする。a.IL-6シグナル伝達をシミュレーションするSyCyRの模式的例示。GFP-GFP融合タンパク質は、合成サイトカインリガンドとして働いた。GVHH-gp130は、ヒトgp130の細胞外部分の13aaに続く膜貫通および細胞内ドメインに融合したGFP-ナノボディからなる。gp130内の天然STAT3結合部位を、囲んだSTAT3によって強調した。b.すべてのSyCyRの発現カセットは、IL-11R由来のシグナルペプチドに続いて、FlagまたはmycタグおよびCVHHまたはGVHH、サイトカイン受容体の細胞外部分の13~17aa、膜貫通および細胞内ドメインからなる。c.Fに示す免疫ブロッティングによって決定されるような、pSTAT3およびSTAT3肝臓発現の相対密度の比;n=3動物/群;p<0.05、一方向ANOVA。(H)C57BL/6マウスにおける、1.28μg pcDNA3.1-3xGFPおよび/または2.3μg pcDNA3.1-GVHH-gp130プラスミドDNAの水力学的トランスフェクション24時間後の肝臓急性期反応Saa1 mRNAのqRT-PCR。ハウスキーパーmRNA GapdhおよびΔΔCT法を用いて、データを標準化し、そして計算した;n=6動物/群;p<0.05、一方向ANOVA。
図3】ホモ二量体IL-23R(SyCyR(IL-23R))の合成サイトカイン受容体は、形質導入Ba/F3-gp130細胞において、シグナル形質導入および細胞増殖を誘導した。a.ホモ二量体IL-23Rシグナル伝達をシミュレーションするSyCyRの模式的例示。GFP-GFP融合タンパク質は、合成サイトカインリガンドとして働いた。GVHH-IL-23Rは、IL-23Rの細胞外部分の17aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したGFP-ナノボディからなる。IL-23R内の天然STAT3結合部位を、囲んだSTAT3によって強調した。b.すべてのSyCyRの発現カセットは、IL-11R由来のシグナルペプチドに続く、FlagまたはmycタグおよびCVHHまたはGVHH、サイトカイン受容体の細胞外部分の13~17aa、膜貫通および細胞内ドメインからなる。c.HIL-6およびGFP:mCherry融合タンパク質でのBa/F3-SyCyR(IL-23R)細胞の細胞増殖。等しい数の細胞を、示す合成リガンドの存在下(6.25ng/ml)で、3日間培養した。mCherryでの刺激をGFP(0.25%)と同じ体積で行った。HIL-6(10ng/ml)での刺激を対照として用いた。比色CellTiter-Blue細胞生存度アッセイを用いて増殖を測定した。3つのうち1つの代表的な実験を示す。
図4-1】形質導入Ba/F3-gp130細胞において、IL-23Rの操作ヘテロ三量体SyCyRは、STAT3トランスリン酸化が可能である。a.STAT3トランスリン酸化をシミュレーションするIL-23R-SyCyRの模式的例示。2xGFP-mCherry融合タンパク質は、合成サイトカインリガンドとして働いた。GVHH-IL-23R-ΔSTATは、STAT結合モチーフを欠くIL-23Rの細胞外部分の16aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したGFP-ナノボディからなる。CVHH-IL-23R-ΔJAK変異体は、JAK活性化部位を欠くIL-23R(ΔJAK-A、-B、-C)の細胞外部分の16aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したmCherry-ナノボディからなる。b.すべてのトランス活性化SyCyRの発現カセットは、IL-11R由来のシグナルペプチドに続くFlagまたはmycタグおよびCVHHまたはGVHH、サイトカイン受容体の細胞外部分の16~17aa、膜貫通および細胞内ドメインからなる。c.Ba/F3-IL-23R-ΔSTAT細胞におけるJAK活性化の分析。細胞を3回洗浄し、飢餓状態にし、そして100ng/mlの示す合成リガンドで20分間刺激した。細胞溶解物を調製し、そして等量の総タンパク質(50μg/レーン)をSDSゲル上に装填した後、ホスホJAK2およびJAK2に対する特異的抗体を用いて、イムノブロッティングした。ウェスタンブロットデータは、3つのうち1つの代表的な実験を示す;d.Ba/F3-SyCyR(IL-23R)、Ba/F3-Gvhh-IL-23デルタSTAT細胞およびその変異体の、3xGFPまたは2xGFP-mCherry融合タンパク質での細胞増殖。等しい数の細胞を、示すリガンド(0.1~1600ng/ml)の存在下で3日間培養した。比色CellTiter-Blue細胞生存度アッセイを用いて増殖を測定した。4つのうち1つの代表的な実験を示す。
図4-2】形質導入Ba/F3-gp130細胞において、IL-23Rの操作ヘテロ三量体SyCyRは、STAT3トランスリン酸化が可能である。a.STAT3トランスリン酸化をシミュレーションするIL-23R-SyCyRの模式的例示。2xGFP-mCherry融合タンパク質は、合成サイトカインリガンドとして働いた。GVHH-IL-23R-ΔSTATは、STAT結合モチーフを欠くIL-23Rの細胞外部分の16aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したGFP-ナノボディからなる。CVHH-IL-23R-ΔJAK変異体は、JAK活性化部位を欠くIL-23R(ΔJAK-A、-B、-C)の細胞外部分の16aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したmCherry-ナノボディからなる。b.すべてのトランス活性化SyCyRの発現カセットは、IL-11R由来のシグナルペプチドに続くFlagまたはmycタグおよびCVHHまたはGVHH、サイトカイン受容体の細胞外部分の16~17aa、膜貫通および細胞内ドメインからなる。c.Ba/F3-IL-23R-ΔSTAT細胞におけるJAK活性化の分析。細胞を3回洗浄し、飢餓状態にし、そして100ng/mlの示す合成リガンドで20分間刺激した。細胞溶解物を調製し、そして等量の総タンパク質(50μg/レーン)をSDSゲル上に装填した後、ホスホJAK2およびJAK2に対する特異的抗体を用いて、イムノブロッティングした。ウェスタンブロットデータは、3つのうち1つの代表的な実験を示す;d.Ba/F3-SyCyR(IL-23R)、Ba/F3-Gvhh-IL-23デルタSTAT細胞およびその変異体の、3xGFPまたは2xGFP-mCherry融合タンパク質での細胞増殖。等しい数の細胞を、示すリガンド(0.1~1600ng/ml)の存在下で3日間培養した。比色CellTiter-Blue細胞生存度アッセイを用いて増殖を測定した。4つのうち1つの代表的な実験を示す。
図4-3】形質導入Ba/F3-gp130細胞において、IL-23Rの操作ヘテロ三量体SyCyRは、STAT3トランスリン酸化が可能である。a.STAT3トランスリン酸化をシミュレーションするIL-23R-SyCyRの模式的例示。2xGFP-mCherry融合タンパク質は、合成サイトカインリガンドとして働いた。GVHH-IL-23R-ΔSTATは、STAT結合モチーフを欠くIL-23Rの細胞外部分の16aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したGFP-ナノボディからなる。CVHH-IL-23R-ΔJAK変異体は、JAK活性化部位を欠くIL-23R(ΔJAK-A、-B、-C)の細胞外部分の16aa、膜貫通および細胞内ドメインに融合したmCherry-ナノボディからなる。b.すべてのトランス活性化SyCyRの発現カセットは、IL-11R由来のシグナルペプチドに続くFlagまたはmycタグおよびCVHHまたはGVHH、サイトカイン受容体の細胞外部分の16~17aa、膜貫通および細胞内ドメインからなる。c.Ba/F3-IL-23R-ΔSTAT細胞におけるJAK活性化の分析。細胞を3回洗浄し、飢餓状態にし、そして100ng/mlの示す合成リガンドで20分間刺激した。細胞溶解物を調製し、そして等量の総タンパク質(50μg/レーン)をSDSゲル上に装填した後、ホスホJAK2およびJAK2に対する特異的抗体を用いて、イムノブロッティングした。ウェスタンブロットデータは、3つのうち1つの代表的な実験を示す;d.Ba/F3-SyCyR(IL-23R)、Ba/F3-Gvhh-IL-23デルタSTAT細胞およびその変異体の、3xGFPまたは2xGFP-mCherry融合タンパク質での細胞増殖。等しい数の細胞を、示すリガンド(0.1~1600ng/ml)の存在下で3日間培養した。比色CellTiter-Blue細胞生存度アッセイを用いて増殖を測定した。4つのうち1つの代表的な実験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、受容体を含有する細胞において、受容体活性化および不活性化を通じてシグナル伝達を誘導することが可能な新規組換えポリペプチドであって、生物中に天然には存在しない前記ポリペプチドの提供を目的とする。
【0022】
特に、新規組換えポリペプチドは、それによってシグナル伝達がリガンドによって誘発され、そして前記リガンドが人工的リガンドである、細胞内にシグナルを伝達するための適切な手段である。
【0023】
本発明の態様において、ナノボディを細胞外ドメインとして、すなわちいわゆる合成サイトカイン受容体(SyCyR)の部分である人工的リガンドの結合パートナーとして用いて、ホモおよびヘテロ二量体ならびにヘテロ三量体受容体複合体の形成および活性化を導いた。本発明記載の組換えポリペプチドは、ターゲット細胞におけるシグナル伝達を可能にするスイッチ操作可能な受容体系に相当する。
【0024】
すなわち、第一の側面において、
細胞内にシグナルを伝達するための系であって、
i.)少なくとも以下のドメイン:
結合対の人工的リガンドおよび該人工的リガンドに結合する受容体より選択される第一の結合パートナーであって、前記結合対が受容体およびリガンドの第一および第二の結合パートナーで構成され、それによってリガンドが人工的分子である、前記結合パートナーを含有する第一のドメイン;
随意に、スペーサードメイン;
膜貫通ドメイン、ならびに
細胞質シグナル伝達ドメイン、ここで、該第一のドメインおよび該細胞質シグナル伝達ドメインが、細胞またはそれに由来する細胞を含有する生物において、天然には存在しないドメインの組み合わせである、
をN末端から始まりC末端まで含有する、組換えポリペプチドの少なくとも1つのタイプ、ならびに
ii.)i.)の組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに応じて、人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される、前記結合対の第二の結合パートナー
を含む、前記系である。例えば、少なくとも以下のドメイン:
人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される、第一の結合パートナーを含有する第一のドメイン;
随意に、スペーサードメイン、
膜貫通ドメイン、ならびに
細胞質シグナル伝達ドメイン、ここで、該第一のドメインおよび該細胞質シグナル伝達ドメインが、生物において、天然には存在しないドメインの組み合わせである、
をN末端から始まりC末端まで含有する、組換えポリペプチドを提供する。
【0025】
本明細書において同義的に用いられる用語「含有する(contain)」または「含有している(containing)」、ならびに用語「含む(comprise)」および「含んでいる(comprising)」には、本明細書において、「からなる(consist of)」および「からなっている(consisting of)」の態様が含まれる。
【0026】
別に示さない限り、用語「遺伝子操作された」は、遺伝子操作によって操作されている細胞を指す。すなわち、細胞は、前記細胞中に天然に存在しないか、または前記細胞のゲノム中に導入された特定の位で、前記細胞中に天然には存在しない、異種配列を含有する。典型的には、異種配列は、ベクター系またはリポソームを含めて細胞内に核酸分子を導入するための他の手段によって導入される。異種核酸分子は、前記細胞のゲノム内に組み込まれてもよいし、または染色体外に、例えばプラスミドの形で存在してもよい。該用語にはまた、本発明記載の遺伝子操作された、すなわち組換えの単離ポリペプチドを、細胞内に導入する態様も含まれる。
【0027】
用語「結合対」は、本明細書において、結合部分または結合パートナーとも称される少なくとも2つの結合分子、すなわち、結合対の第一の部分、第一の結合パートナー、および結合対の第二の部分、第二の結合パートナーの複合体を指す。結合部分および結合パートナーは、本明細書において、交換可能に用いられる。
【0028】
結合パートナー、第一の結合パートナーまたは第二の結合パートナーは、他方の結合パートナーと相互作用して、結合対または結合複合体を特異的に形成するセクターまたは領域である、結合セグメントを含む。
【0029】
本発明にしたがって、本発明記載の組換えペプチド中に存在する第一の結合パートナーは、第二の結合パートナーに特異的に結合し、こうして結合対を形成する。結合対は、本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する細胞質シグナル伝達ドメインを通じて、シグナル伝達を誘導する。
【0030】
組換えポリペプチドは人工的ポリペプチドであり、これは、本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する異なるドメインの特異的組み合わせが、ターゲット生物またはターゲット宿主中に天然には存在しないことを意味する。すなわち、当業者は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内(細胞質)ドメインを含有するサイトカイン受容体分子のような受容体分子をよく知っている。人工的ポリペプチドに相当する本発明記載の組換えポリペプチドは、遺伝子操作を伴わずには天然で生物から単離できない、第一の受容体、例えば抗原結合ドメインまたはサイトカイン受容体の細胞外ドメイン、および例えばサイトカイン受容体に由来する細胞質シグナル伝達ドメインの第二の細胞質ドメインを含有する、組換えポリペプチドである。
【0031】
用語「人工的リガンド」は、宿主において、例えばヒトにおいて、天然には存在しないリガンドを指す。すなわち、人工的リガンドは、例えば細胞または組織表面には結合しない分子であり、未結合または遊離細胞外分子である。特に、人工的リガンドは、宿主生物、例えばヒトによって発現されない単離合成または遺伝子操作化合物である。人工的リガンドは、結合パートナーに特異的に結合する結合セグメントを含み、したがって本明細書に記載するような特異的結合対を形成する。
【0032】
用語「受容体」は、さらなる結合パートナーに特異的に結合して、特異的に結合対を形成する結合パートナーを指す。前記受容体は、アミノ酸配列によって形成される任意の種類の受容体分子であってもよい。
【0033】
本明細書において、用語「ナノボディ」は、単一単量体可変抗体ドメインからなる単一ドメイン抗体を指す。典型的には、ナノボディは、サイズ12~15キロダルトンである。用語「VHH抗体」または「VHH」は、「単一ドメイン抗体」または「ナノボディ」と同義的に用いられる。
【0034】
用語「ポリペプチド」は、本明細書において、典型的には最大500アミノ酸のサイズを有し、例えば最大400、例えば最大300のサイズを有する、アミノ酸で構成されるペプチドを指す。例えば、ポリペプチドのサイズは、50~500アミノ酸の間、例えば100~400アミノ酸である。
【0035】
用語「に由来する」は、言及する特定の受容体または分子から得られるかまたはそれに起因するドメイン、特に細胞質シグナル伝達ドメインを指す。すなわち、用語「に由来する」は、ドメインまたは部分が、同定される分子の一部であることを同定する。例えば、サイトカイン受容体に由来する細胞質シグナル伝達ドメインは、サイトカイン受容体の細胞の細胞質中に存在するペプチド配列を指す。当業者は、当該技術分野に記載されるようなそれぞれのペプチド部分をよく知っている。
【0036】
用語「その断片」は、同じ望ましい機能を有する、例えば結合パートナーに対して同じ特異的結合能を有し、特異的結合対を形成して、本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する細胞質シグナル伝達ドメインを通じてシグナル伝達を可能にする、言及するペプチドの部分を指す。
【0037】
リガンド、すなわち「人工的リガンド」は、本発明記載の組換えポリペプチドが発現される、典型的には細胞外の環境には、生理学的に存在しないリガンドを指す。
【0038】
1つの態様において、本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーは、一本鎖抗体単位、受容体分子、内因性ペプチドまたはその断片、および人工的ペプチドからなる群より選択される。すなわち、第一の結合パートナーは、抗原エピトープに特異的に結合するナノボディまたは他のタイプの一本鎖抗体であってもよい。あるいは、2つの相互作用ポリペプチド、例えば結合パートナーは、既知のリガンドを有する受容体分子、例えばサイトカイン受容体分子である。
【0039】
さらに、第一の結合パートナーは人工的ペプチドであってもよい。当業者は、特異的ペプチドまたは非ペプチド結合パートナーと結合対を形成することが知られる適切な人工的ペプチドを知っている。人工的ペプチドの典型的な例は、結合パートナー、ビオチンを伴うアビジンまたはストレプトアビジンである。
【0040】
1つの態様において、人工的リガンドは、同一であってもまたは異なってもよい、少なくとも2つの結合セグメントを含んでもよい。実施例に示すように、人工的リガンドは、1つまたは2つのGFP結合セグメント(エピトープ)ならびに1つまたはそれより多いmCherry結合セグメント(エピトープ)で構成されてもよい。当業者は適切な組み合わせをよく知っている。例えば、組換えポリペプチドのホモまたはヘテロ二量体化あるいはホモまたはヘテロ三量体化を可能にするため、人工的リガンドを、実施例に概略するように、適宜設計する。
【0041】
さらなる態様において、本発明記載の組換えポリペプチドは、第一の結合パートナー、例えば一本鎖抗体単位を含有する第一のドメインのN末端に位置するリーダー配列をさらに含む。当業者は、例えば前記細胞の膜中に割り当てるため、細胞小器官に組換えポリペプチドを向けることを可能にする適切なリーダー配列をよく知っている。
【0042】
一般的に、組換えポリペプチドは、記載するような第一のドメインを含有する細胞外に存在するエクトドメイン、および随意にスペーサードメインからなる。エクトドメインは、前記スペーサードメインの存在によって膜貫通ドメインから離れていてもよい。前記の随意のスペーサードメインは、第一のドメインを膜貫通ドメインに連結し、そして膜貫通ドメインと組み合わせられた前記スペーサードメインは、第一のドメインが異なる方向に配向して結合対形成を容易にすることを可能にするために十分に柔軟であることが好ましい。
【0043】
本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する膜貫通ドメインは、典型的には、膜に渡る疎水性アルファらせんである。最終的に、細胞質シグナル伝達ドメインを含むエンドドメインは、本発明記載の組換えポリペプチドの細胞質部分中のシグナル伝達ドメインに相当する。
【0044】
エンドドメインは、シグナル伝達ドメインを含有し、そしてまた、本明細書において交換可能に用いられる細胞内ドメインとも称される。1つの態様において、細胞質シグナル伝達ドメインは、サイトカイン受容体に由来し、特に、一般的に刺激性受容体、例えばgp130、IL-23R、IL-12Rβ1、IL-7R、IL-13R、IL-15R、IFNαR、IFNγR、TNF1R、TNF2R、EGF-R、IL-22R、サイレンシング(消耗性)受容体、例えばPD-1、IL-10R、TIM3、IL-27Rまたは殺傷性受容体、例えばFasR、TRAILRからなる群より選択される。さらに、ドメインは共刺激ドメインを含有してもよい。1つの態様において、シグナル伝達ドメインは、例えば養子細胞療法において使用するため、T細胞において発現される組換えポリペプチドを用いた際、T細胞における細胞殺傷活性の活性化またはT細胞によるインターフェロンガンマの分泌にそれぞれ関与する。
【0045】
1つの態様において、膜貫通ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインは同じ分子に由来し、例えばサイトカイン受容体に由来する。
【0046】
別の態様において、膜貫通ドメインは、1つの分子から得られてもよく、一方、細胞質シグナル伝達ドメインは別の分子から得られてもよい。例えば、本発明記載の組換えポリペプチドの一部ではないCAR分子の場合と同様に、膜貫通ドメインおよび細胞内膜近位部分はCD28に由来する一方、細胞内部分はCD3ζに由来する。1つの態様において、CD28配列は、LCK結合モチーフを欠く、当該技術分野に記載されるような突然変異配列である。
【0047】
本発明記載の組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに特異的に結合する第二の結合パートナーは、典型的には、人工的な第二の結合パートナーである。例えば、第二の結合パートナーは、本発明記載の組換えポリペプチド中に受容体が存在する場合、人工的なリガンドである。用語「人工的な第二の結合パートナー」は、天然存在ではなく、そして環境、すなわち本発明記載の組換えポリペプチドを発現する細胞の細胞外環境には生理学的に存在しない分子を指す。
【0048】
さらなる態様において、本発明記載の系は、2つの異なる第一のドメインまたは2つの異なる細胞質ドメインの少なくとも1つを含有する本明細書に定義するような少なくとも2つの異なる組換えポリペプチド、および第一の組換えポリペプチドの第一の結合パートナーに結合する結合セグメントを含む人工的リガンド、および第二の組換えポリペプチドの第一の結合パートナーに結合する第二の結合セグメントを含む、系である。さらに、第二の結合パートナーとしての人工的リガンドが結合して結合対を形成した際、細胞内にシグナルを伝達するため、組換えポリペプチドが、ホモ二量体またはホモ三量体の形で存在する、系を提供する。さらに、人工的リガンドが、少なくとも、第一の組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに特異的に結合する結合セグメントで構成され、そして人工的リガンドのさらなる結合セグメントが第二の組換えポリペプチドの第一の結合パートナーに特異的に結合した際に、細胞内にシグナルを伝達するため、少なくとも2つの異なる組換えポリペプチドが、ヘテロ二量体またはヘテロ三量体を形成する、系を提供する。
【0049】
さらに、本発明は、本発明記載の組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。さらに、記載するようなポリペプチドをコードする本発明記載の核酸配列を含むベクターを提供する。当業者は、適切なベクター系およびベクター、特に真核細胞、特にT細胞のトランスフェクションおよび形質導入を可能にするベクターをよく知っている。1つの態様において、ベクターおよびプラスミドは、本発明記載の2つの異なる組換えポリペプチドを含有し、したがって、遺伝子操作された細胞において、2つの異なる受容体分子の発現を可能にする。2つの異なる組換えポリペプチドを発現することによって、適切な人工的リガンドを用いて、受容体をヘテロ二量体化することが可能である。例えば、以下の実施例に示すように、合成サイトカイン受容体のヘテロ二量体化が可能であり、したがって、前記遺伝子操作細胞におけるシグナル伝達カスケードを誘導し、そしてさらにスイッチ操作可能なシグナル伝達を可能にする。
【0050】
細胞中で発現された際、組換えポリペプチドは、シグナル伝達を可能にする、本明細書に記載するような異なるタイプの組換えペプチド、例えば異なるタイプのSyCyRに相当してもよい。例えば、刺激性SyCyRを発現させて、それぞれの細胞の活性化または増殖を可能にしてもよい。さらに、阻害性SyCyRを発現させて、細胞の増殖を阻害するかまたは細胞を不活性化してもよい。さらに、SyCyRには、細胞死またはアポトーシスまたは老化誘導性シグナル伝達ドメインが含まれる。したがって、細胞を能動的に制御して、そして特異的な第二の結合パートナー、典型的には前記SyCyRに結合する人工的リガンドの存在または非存在に応じて、細胞を1つの状態から別の状態に、例えば活性化から不活性化状態およびその逆に、ならびに老化状態から増殖状態およびその逆にスイッチングすることが可能である。
【0051】
刺激性SyCyRの例には、gp130、TNFR、IL-7のサイトカインシグナル伝達ドメインが含まれ、阻害性SyCyRの例には、IL-27R、PD1およびTIM3R由来の細胞質シグナル伝達ドメインが含まれる一方、細胞死誘導性SyCyRには、FASRおよびTRAIL由来細胞質シグナル伝達ドメインが含まれる。
【0052】
【表1】
表1:本発明を生じる人工的リガンド、すなわち実施例に記載するような共有結合GFP-mCherryリガンドによるSyCyRの活性化の例を示す。それぞれのSyCyRは、それぞれ、GFPおよびmCherryに対するナノボディを含有する。
【0053】
死SyCyR態様は、養子細胞療法の場合、例えばCAR分子と組み合わせた際に有用でありうる。CAR細胞の過剰な反応が生じた際(サイトカインストーム)、CAR細胞中に存在する死SyCyRポリペプチドに対する人工的リガンドを投与すると、活性を調節し、そして最終的にCAR T細胞を適宜殺すことが可能になる。あるいは、本明細書に記載するような適切なポリペプチドを用いてサイレンシングまたは阻害を達成することも可能である。
【0054】
例えば、本発明記載のプラスミドまたはベクターは、IRES(内部リボソーム進入部位)に基づく系である。あるいは、2A系を適用してもよい(Fang, J.ら Nat Biotechnol 23, 584-590, 2005)。
【0055】
当業者は、ターゲット細胞において、本発明記載の単一組換えポリペプチドのトランスフェクションおよび発現を可能にするか、または1つのターゲット細胞において、本発明記載の2つの異なる組換えポリペプチドのトランスフェクションおよび発現を適宜可能にする適切な系をよく知っている。
【0056】
さらに、本発明は、本発明記載のベクターまたは本発明記載の核酸分子または本発明記載の核酸分子を含有するか、あるいは本発明記載の組換えポリペプチドを発現する細胞、細胞株または宿主細胞を提供する。好ましくは、前記細胞、細胞株または宿主細胞は、T細胞、例えばCD4+ T細胞またはCD8+ T細胞である。本発明記載の細胞、細胞株または宿主細胞は、1つの態様において、修飾末梢血細胞、例えばCD8+またはCD4+ T細胞のような言及するT細胞を含むリンパ球である。1つの態様において、細胞、細胞株または宿主細胞は、一般的に、CAR受容体をさらに発現する遺伝子操作T細胞に相当する。本発明記載の組換えポリペプチドを用いると、CAR発現T細胞を制御することが可能になり、したがって、養子細胞療法において、これらの遺伝子操作CAR発現T細胞の適用が改善される。
【0057】
1つの側面において、本発明記載の細胞、細胞株または宿主細胞は、本明細書に定義するような第二のベクターまたは本発明記載の第二の核酸分子を含有し、ここでこの第二のベクターまたは核酸分子は、第一の結合ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインの少なくとも1つあるいは両方で異なる、本発明記載のポリペプチドをコードする。
【0058】
1つの態様において、本発明記載のこの細胞、細胞株または宿主細胞は、本発明記載の2つの異なる組換えポリペプチドを含むベクターまたはプラスミドを含有するか、あるいは2つの異なる組換えポリペプチドをコードする2つのベクターまたはプラスミドを含有し、ここで、第二のベクターの細胞質シグナル伝達ドメインは、異なるシグナル伝達経路を通じたシグナル伝達を誘導する。
【0059】
さらに、本発明は、本発明記載の組換えポリペプチドを発現するT細胞の産生において使用するための、本発明記載のベクター、本発明記載の細胞、細胞株または宿主細胞、本発明記載の核酸分子、ならびに/あるいは本発明記載のペプチドを含有する、キットまたは系を提供する。特に、前記細胞はリンパ球、例えばT細胞であり、そして前記細胞は、被験体において、免疫反応の調節を可能にする。
【0060】
さらに、本発明は、被験体の癌または自己免疫疾患の治療、または免疫調節において使用するための、本発明記載の組換えポリペプチド、本発明記載の核酸分子、本発明記載のベクター、あるいは本発明記載の細胞、細胞株または宿主細胞を提供する。例えば、本発明は、白血病、黒色腫、リンパ腫、結腸癌、甲状腺癌、肺癌、卵巣癌、腎臓癌、乳癌、頸部癌、胃癌、膵臓癌、食道癌、喉頭癌、咽頭癌、肝細胞癌、前立腺癌、精巣癌、子宮頸癌;肉腫、子宮内膜癌、神経膠芽腫、胆管癌、膀胱癌、中皮腫、胸腺癌、組織非形成性甲状腺癌、基底細胞腫、結腸直腸癌、NSC肺癌、SC肺癌、メルケル細胞癌を含む、多様なタイプの癌の治療のための養子細胞療法を可能にする。
【0061】
さらに、本発明は、本発明記載の組換えポリペプチド、本発明記載の核酸分子、本発明記載のベクター、あるいは本発明記載の細胞、細胞株または宿主細胞であって、前記ポリペプチド中に存在するか、または前記ベクター中もしくは本発明記載の核酸によってコードされる、第一の結合パートナーに特異的な第二の結合パートナーを適用するか、あるいは宿主細胞、細胞または細胞株において発現させた際に、被験体において、細胞の状態を変化させるために使用するための前記ポリペプチド、核酸分子、ベクター、あるいは細胞、細胞株または宿主細胞を提供する。特に、状態は、被験体の癌または自己免疫疾患を治療する際に、または被験体の免疫調節のために使用するための状態のタイプである。特に、人工的な第二の結合パートナーを投与すると、スイッチ操作可能な方式で、細胞の状態を変化させることが可能になる。これは、シグナル伝達のオン/オフが可能であり、したがって例えば活性化および非活性化の間の、ならびに老化および増殖の間の、そしてさらに活性化および細胞死のアポトーシスの間のスイッチ操作を可能にすることを意味する。
【0062】
本発明記載の組換えポリペプチド、核酸分子、ベクター、細胞、細胞株または宿主細胞は、一般に、被験体の癌または自己免疫疾患を治療する際、または被験体の免疫調節において使用するために、特に有用である。すなわち、本発明記載の組換えポリペプチド、核酸分子、ベクター、細胞、細胞株または宿主細胞は、細胞の状態を変化させるために有用である。細胞の状態の変化には、前記細胞の活性化または非活性化、細胞の任意の種類の変化、例えば細胞におけるアポトーシスまたは細胞死、ならびに老化の誘導が含まれる。さらに、壊死、例えばネクロトーシスを誘導してもよい。さらに、細胞の消耗、例えばT細胞の消耗を含む細胞の阻害を誘導してもよい。一般的に、本発明記載の組換えポリペプチド、核酸分子またはベクターで、ウイルス療法が可能である。ウイルス療法には、抗癌腫瘍溶解性ウイルス、遺伝子治療のためのウイルスベクターおよびウイルス免疫療法を含む療法剤としてのウイルスの使用が含まれる。より一般的には、ウイルス療法には、医学的状態を治療するためのウイルスの形のベクターの使用が含まれる。
【0063】
別の態様において、本発明記載のポリペプチド、核酸分子、ベクター、細胞または細胞株または宿主細胞は、診断目的のためのキット中の生化学的アッセイの一部であってもよく、そしてこうしたアッセイで用いられてもよい。
【0064】
さらに、本発明は、本発明記載の細胞、細胞株または宿主細胞、ならびに前記細胞、細胞株または宿主細胞によって発現される組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに応じて、人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される前記の結合対の第二の結合パートナーを含有する、キットまたは系を提供する。さらに、キットまたは系であって、本発明記載の核酸分子または本発明記載のベクター、ならびに該キットまたは系に存在する前記核酸分子または前記ベクターによってコードされる組換えポリペプチド中に存在する第一の結合パートナーに応じて、人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される前記結合対の第二の結合パートナーを含有する、前記キットまたは系を提供する。
【0065】
本発明はさらに、実施例によって記載される。前記例は、本発明を限定することなく、本発明をさらに例示する。
【実施例
【0066】
方法
細胞および試薬。CHO-K1(ACC-110)細胞をLeibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(ドイツ・ブラウンシュバイク)より得た。U4C細胞は、Heike Hermanns(ヴュルツブルク大学、ドイツ)より恵贈された。ヒトgp130を形質導入されたネズミBa/F3-gp130細胞は、Immunex(米国ワシントン州シアトル)より提供された。パッケージング細胞株Phoenix-EcoをUrsula Klingmueller(DKFZ、ドイツ・ハイデルベルグ)より得た(Ketteler, R.ら, Gene therapy 9, 477-487, 2002)。ネズミIL-12Rβ1およびネズミIL-23Rを含むBa/F3-gp130細胞は、以前記載されてきている(Floss, D.M.ら J Biol Chem 288, 19386-19400, 2013)。すべての細胞株を、10%ウシ胎児血清(GIBCO(登録商標)、Life Technologies)、60mg/lペニシリンおよび10mg/lストレプトマイシン(Genaxxon Bioscience GmbH、ドイツ・ウルム)を補充したDMEM高グルコース培地(GIBCO(登録商標)、Life Technologies、ドイツ・ダルムシュタット)中、水飽和大気中で、5%COとともに、37℃で増殖させた。Ba/F3-gp130細胞を、IL-6および可溶性IL-6Rの融合タンパク質であり、IL-6トランスシグナル伝達を模倣する、ハイパー-IL-6(HIL-6)の存在下で維持した。組換えタンパク質(10ng/ml)またはハイパーIL-6を分泌する安定CHO-K1クローン由来の順化細胞培地0.2%(10ng/ml)(ELISAによって決定した際、およそ5μg/mlのストック溶液)のいずれかを用いて、増殖培地に補充した。ネズミIL-23RおよびネズミIL-12Rβ1を発現するBa/F3-IL-12Rβ1-IL-23R細胞を、ELISAによって決定した際、およそ5μg/mlの濃度でネズミ・ハイパーIL-23(HIL-23)を分泌している安定CHO-K1クローン由来の順化細胞培地0.2%(10ng/ml)で刺激した。ホスホ-STAT3(Tyr705)(D3A7)(カタログ番号9145)、STAT3(124H6)(カタログ番号9139)、ホスホ-p44/42 MAPK(ERK1/2)(Thr-202/Tyr-204)(D13.14.4E)(カタログ番号4370)、p44/42 MAPK(ERK1/2)(カタログ番号9102)、ホスホ-AKT(Ser473)(D9E)(カタログ番号4060)、AKT(カタログ番号9272S)、ホスホ-JAK1(Tyr1022/1023)(カタログ番号3331)、JAK1(6G4)(カタログ番号3344S)、ホスホ-JAK2(Tyr1007/1008)(カタログ番号3771)、JAK2(D2E12)(カタログ番号3230)、ホスホ-TYK2(Tyr1054/1055)(カタログ番号9321)、TYK2(カタログ番号9312)、GFP(4B10)(カタログ番号2955)、およびmyc(71D10),(カタログ番号2278)モノクローナル抗体(mAb)を、Cell Signaling Technology(ドイツ・フランクフルト)より得た。mCherry(カタログ番号31451)を、Thermo Fisher Scientific(米国マサチューセッツ州ウォルサム)より得た。Flag(DYKDDDDK)(カタログ番号F7425)およびγ-チューブリン(カタログ番号T5326)mAbを、Sigma-Aldrich(ドイツ・ミュンヘン)より得た。ヒトCIS3/SOCS3(C204)mAb(カタログ番号JP18391)を、Immuno-Biological Laboratories Co, Ltd.(日本・藤岡)より得た。β-アクチン(C4)mAb(カタログ番号sc-47778)を、Santa Cruz Biotechnology(米国ダラス)から得た。ペルオキシダーゼ・コンジュゲート化二次mAb(カタログ番号31462、カタログ番号31451)をPierce(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)より得た。Alexa Fluor 488コンジュゲート化Fabヤギ抗ウサギIgG(カタログ番号A11070)を、Thermo Fisher Scientific(米国マサチューセッツ州ウォルサム)より得た。
【0067】
合成サイトカイン受容体(SyCyR)および合成リガンドの構築。
【0068】
pcDNA3.1-GVHH-IL-23R発現ベクターを、ヒトIL-11Rシグナルペプチド(Q14626、AS 1-24)に続いて、mycタグの配列、GFP-ナノボディ(GVHH)(Rothbauer, U.ら Mol Cell Proteomics 7, 282-289, 2008)、ならびに受容体の細胞外ドメインの17aa、膜貫通ドメインおよび細胞質部分に相当するアミノ酸A358~K644を含むネズミIL-23R(Q8K4B4、Uniprot)の融合によって生成した。GVHH-IL-12Rβ1をコードするcDNAを、p409-IL-12Rβ1からPCRによって増幅した(Fossらを参照されたい)ネズミIL-12Rβ1をコードするcDNA(Q60837、Uniprot、受容体の細胞外ドメインの15aa、膜貫通ドメインおよび細胞質部分に相当するaa A551~A738)を、発現ベクターpcDNA3.1-GVHH-IL-23R内に挿入することによって生成し、ここでIL-23Rのコード配列は除去された。pcDNA3.1-CVHH-IL-23R発現ベクターを、ヒトIL-11Rシグナルペプチドのコード配列(Q14626、AS 1-24)に続いて、Flag-タグ、mCherry-ナノボディ(CVHH)(Fedorov, V.D.ら Sci Transl Med 5, 215ra172, doi:10.1126/scitranslmed.3006597、2013)およびアミノ酸A358~K644を含むネズミIL-23R(Q8K4B4)(受容体の細胞外ドメインの17aa、膜貫通ドメインおよび細胞質部分)のコード配列の融合によって生成した。CVHH-IL-23RおよびGVHH-IL-12Rβ1のコード配列を1つのオープンリーディングフレーム中で合わせるため、両方のSyCyRをコードするcDNAをPCRによって増幅し、そして自己プロセシング2AペプチドをコードするpMK-FUSIO内にクローニングした(Fang, J.ら Nat Biotechnol 23, 584-590, 2005)。IL-23R-ΔSTAT(Δ503)をコードするcDNAを、pcDNA3.1-IL-23R-ΔSTAT(Δ503)からPCRによって増幅し(Foss上記を参照されたい)、そしてpcDNA3.1-GVHH-IL-23Rに挿入し、ここでIL-23Rの配列は除去された。したがって、ΔJAK-A(IL-23R-Δ403-417)、ΔJAK-B(IL-23R-Δ455-479)およびΔJAK-C(IL-23R-Δ403-479)をコードするcDNAを、受容体の細胞外ドメインの16aa、膜貫通ドメインおよび短縮細胞質部分を含有する、p409-IL-23R-Δ403-417、-IL-23R-Δ455-479および-IL-23R-Δ403-479(Floss, D.ら Mol Biol Cell 27, 2301-2316、doi:10.1091/mbc.E14-12-1645 2016)からPCRによって増幅し、そしてpcDNA3.1-CVHH-IL-23Rに挿入し、ここでIL-23Rの配列は除去された。p409-gp130(GeneArt、Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサムによって化学的に合成)を、EcoRI、NotIによって消化し、そして同じ酵素によって消化された、pcDNA3.1-GVHH-IL-23R内に連結して、ヒト受容体の細胞外ドメインの16aa、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含有する、pcDNA3.1-GVHH-gp130を生成した。gp130-ΔSTATをコードするcDNAをPCRによって増幅し(aa1~758)、そして前述の同じベクターに連結した。3xGFPの発現カセットをpmEGFP-13(Addgene、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)より得て、そしてIL-11RシグナルペプチドおよびN末端Flag-タグを含有するpcDNA3.1発現ベクター内に挿入した。pcDNA3.1-2xGFP-mCherryを生成するため、pcDNA3.1-3xGFPからGFPを1つ除去して、そしてpcDNA3.1-mCherry由来のmCherryと置換した。単一GFPを生成するため、GFPをコードするcDNAを、pcDNA3.1-2xGFP-mCherryからPCRによって増幅して、そしてpcDNA3.1発現ベクター内に挿入した。pcDNA3.1-GFP-mCherryを生成するため、mCherryをコードするcDNAを、pcDNA3.1-GFP内に挿入した。Ba/F3-gp130細胞のレトロウイルス形質導入のため、異なる耐性遺伝子を含む2つのレトロウイルスプラスミド、ピューロマイシン耐性をコードするpMOWS-ピューロおよびハイグロマイシンB耐性をコードするpMOWS-ハイグロを用いている。CVHH-IL-23R-2A-GVHH-IL-12Rβ1(SyCyR(IL-23/2A))、CVHH-IL-23R、CVHH-IL-23R-ΔJAK-A(Δ403-417)、CVHH-IL-23R-ΔJAK-B(Δ455-479)、CVHH-IL-23R-ΔJAK-C(Δ403-479)、およびGVHH-gp130をコードする発現カセットをpMOWS-ピューロ内に挿入する一方、GVHH-IL-12Rβ1、GVHH-IL-23R-ΔSTAT(Δ503)およびGVHH-gp130-ΔSTATをコードするものを、pMOWS-ハイグロ内に挿入した。生成したすべての発現プラスミドを、配列決定によって検証した。
【0069】
細胞のトランスフェクション、形質導入および選択。示したプラスミドでのU4CおよびCHO-K1細胞のトランスフェクションを、TurboFectTM(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて行った。Ba/F3-gp130細胞を、多様な合成受容体変異体をコードするpMOWS発現プラスミドでレトロウイルス形質導入した(Flossらを参照されたい)。形質導入細胞を、10ng/ml HIL-6を補充した上述のような標準的DMEM培地中で増殖させた。形質導入Ba/F3細胞の選択を、ピューロマイシン(1.5μg/ml)またはハイグロマイシンB(1mg/ml)(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)または両方で、少なくとも2週間行った。その後、HIL-6を洗い流し、そして生成されたBa/F3-gp130細胞株を、GFP:mCherry依存性増殖に関して選択し、そして受容体細胞表面発現に関して分析した。GFP:mCherryタンパク質を分泌している安定トランスフェクションCHO-K1細胞を、1.125mg/ml G-418硫酸(Genaxxon Biosciences、ドイツ・ウルム)で選択した。高発現細胞クローンをウェスタンブロッティングによって同定した。
【0070】
大腸菌(E. coli)からのGVHH-CVHHの発現および精製。二重特異性抗体GVHH-CVHHをコードするcDNAを生成し、そしてpet23a内にサブクローニングした。生じた二重特異性抗体配列には、周辺質発現のためのN末端PelBリーダー配列および精製のための3’ヘキサヒスチジン配列が隣接した。大腸菌株BL21-Rosettaにおいてタンパク質を発現した。アンピシリン1:1000(100μg/ml)およびクロラムフェニコール1:1000(34μg/ml)を含有する2リットルのLB-培地中、光学密度が0.6~0.9に到達するまで、37℃で細菌をインキュベーションした。次いで、1mM IPTGを添加した。IPTG誘導4時間後、遠心分離(5000xg、30分間、4℃)によって細菌を採取した。cOmpleteプロテアーゼ阻害剤錠剤(Roche、ドイツ・マンハイム)を添加し、そして0.45μmボトルトップフィルターを通じて上清をろ過した。IMACクロマトグラフィを通じてタンパク質を精製し、そして500mMイミダゾールで溶出させた。
【0071】
細胞生存度アッセイ。サイトカインを取り除くため、Ba/F3-gp130細胞株を無菌PBSで3回洗浄した。5x10細胞を、10%FCS、60mg/mlペニシリンおよび100mg/lストレプトマイシンを補充したDMEM中に懸濁し、そして示すようにサイトカイン/蛍光タンパク質を含みまたは含まず、最終体積100μl中で3日間培養した。CellTiter-Blue細胞生存度アッセイ(Promega、ドイツ・カールスルーエ)を用いて、ウェルあたり20μlの試薬を添加した直後(0時点)、そして標準細胞培養条件下での最大2時間のインキュベーション後、Infinite M200 PROプレート読み取り装置(Tecan、ドイツ・クライルスハイム)を用い、蛍光(励起560nm、発光590nm)を記録することによって、生存細胞数を概算した。すべての値を実験あたり3つ組で測定した。0時点の値を減じることによって、蛍光値を標準化した。
【0072】
刺激アッセイ。STAT3、ERK1/2およびAKT、JAK1、JAK2ならびにTYK2活性化の分析のため、多様なSyCyR変異体を発現するBa/F3-gp130細胞株を無菌PBSで3回洗浄し、そして血清不含DMEM中で少なくとも2時間インキュベーションした。細胞を、示すようにGFP:mCherry融合タンパク質で刺激し、採取し、液体窒素中で凍結し、そして溶解した。細胞溶解物のタンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイ(Pierce、Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)によって決定した。STAT3、ERK1/2、AKT、JAK1、JAK2およびTYK2活性化の分析のため、SOCS3およびβ-アクチン発現を、総細胞溶解物由来の25~75μgタンパク質を用い、そしてホスホ-STAT3、ホスホ-ERK1/2、ホスホ-AKT、ホスホ-JAK1、ホスホ-JAK2、ホスホ-TYK2、SOCS3およびβ-アクチンmAbを用いて検出するイムノブロッティングによって行った。
【0073】
ウェスタンブロッティング。細胞溶解物由来の定義した量のタンパク質を、レーンごとに装填し、還元条件下でSDS-PAGEによって分離し、そしてPVDF膜(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)にトランスファーした。膜を、TBS-T(10mM Tris-HCl(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)pH7.6、150mM NaCl(AppliChem、ドイツ・ダルムシュタット)、1%Tween20(Sigma Aldrich、ドイツ・ミュンヘン))中の5%脱脂粉乳(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)中でブロッキングし、そしてTBS-T中の5%脱脂粉乳(STAT3、β-アクチン、GFP mAb)またはTBS-T中の5%BSA(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)(ホスホ-STAT3、ホスホ-ERK1/2、ERK1/2、ホスホ-AKT、AKT、mycおよびFlag、SOCS3、ホスホ-JAK1、JAK1、ホスホ-JAK2、JAK2、ホスホ-TYK2、TYK2およびβ-アクチンmAb)中で、示す一次抗体で、4℃で一晩探査した(probed)。洗浄後、膜を、TBS-T中の5%脱脂粉乳中で希釈した二次ペルオキシダーゼ・コンジュゲート化抗体(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)と室温で1時間インキュベーションした。ImmobilonTMウェスタン化学発光HRP基質(Merck Chemicals GmbH、ドイツ・ダルムシュタット)およびChemoCam Imager(INTAS Science Imaging Instruments GmbH、ドイツ・ゲッチンゲン)をシグナル検出に用いた。別の一次抗体で再探査するため、62.5mM Tris-HCl(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)pH6.8、2%SDS(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)および0.1% β-メルカプトエタノール(Sigma Aldrich、ドイツ・ミュンヘン)中、60℃で30分間膜をストリッピングし、そして再びブロッキングした。
【0074】
サイトカイン受容体の細胞表面検出。合成サイトカイン受容体の細胞表面発現を検出するため、安定形質導入Ba/F3-gp130細胞をFACS緩衝液(1%BSAを含有するPBS)で洗浄し、そして5x10細胞/1:100希釈の抗mycまたは1.2μgの抗Flag mAbを補充した100μl FACS緩衝液で、氷上で1時間インキュベーションした。FACS緩衝液で1回洗浄した後、1:100希釈のAlexa Fluor 488コンジュゲート化Fabヤギ抗ウサギIgGを含有する100μl FACS緩衝液中、細胞を氷上で1時間インキュベーションした。最後に、細胞をFACS緩衝液で1回洗浄し、500μl FACS緩衝液中に懸濁し、そしてフローサイトメトリー(BD FACSCanto IIフローサイトメーター、BD Biosciences、米国カリフォルニア州サンノゼ)によって分析した。FCS Express 4 Flowソフトウェア(De Novo Software、米国カリフォルニア州ロサンゼルス)を用いてデータを評価した。
【0075】
マイクロアレイ分析。Ba/F3-gp130細胞を、10%ウシ胎児血清(GIBCO(登録商標)、Life Technologies)、60mg/lペニシリンおよび10mg/lストレプトマイシン(Genaxxon Bioscience GmbH、ドイツ・ウルム)を補充したDMEM高グルコース培地中、水飽和大気中で、5%COとともに、37℃で増殖させた。ハイパーIL-6を分泌する安定CHO-K1クローン由来の順化細胞培地10ng/ml(ELISAによって決定した際、およそ5μg/mlのストック溶液)を用いて、増殖培地に補充した。Ba/F3-gp130細胞を、異なる受容体複合体(IL-12Rβ1-IL-23R、CVHH-IL-23R-2A-GVHH-IL-12Rβ1(SyCyR(IL-23/2A))またはGVHH-IL-23R(SyCyR(IL-23R)))で安定形質導入し、独立に選択し、そして数週間培養した。続いて、Ba/F3-gp130細胞株を無菌PBSで4回洗浄し、そして血清不含DMEM中で3時間インキュベーションした。等しい数の細胞(2x10)を100ng/mLのHIL-23、GFP-mCherryまたは3xGFPで、独立に、37℃で1時間刺激した。非トランスフェクションCHO-K1細胞由来の細胞培養上清での刺激を対照として用いた。4つの独立の生物学的複製物の総RNA抽出を、製造者の指示にしたがって、RNeasyミニキット(Qiagen、ドイツ・ヒルデン)で作製した。Agilent 2100 Bioanalyzerを用いてRNA品質を評価し、そして高品質RNA(RIN>8)のみをマイクロアレイ分析に用いた。このため、Ambion WT発現キットおよびWT末端標識キット(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて総RNA(150ng)をプロセシングして、そして約28,000プローブセットを含有するAffymetrix Mouse Gene ST 1.0アレイ上でハイブリダイズさせた。Affymetrix発現プロトコルにしたがって、染色およびスキャニングを行った。発現コンソール(Affymetrix、ドイツ・フライブルグ)を品質管理に用い、そしてアノテーションつき標準化RMA遺伝子レベルデータ(スケッチ分位点(sketch-quantile)標準化を含む標準設定)を得た。CARMAウェブ中に実装された統計プログラミング環境R(R Development Core Team)を利用することによって、統計分析を行った(1.5倍、p値≦0.01)。データを対で分析し、100ng/ml GFP-mCherryで刺激したBa/F3-SyCyR(IL-23/23A)細胞対100ng/ml HIL-23で刺激したBa/F3-IL-12Rβ1-IL-23R細胞、および100ng/ml 3xGFPで刺激したBa/F3-SyCyR(IL-23R)対100ng/ml GFP-mCherryで刺激したBa/F3-SyCyR(IL-23/2A)を分析した。
【0076】
示差量(differential abundant)の転写物(1.5倍、p値≦0.01)のGO termおよびパスウェイ濃縮分析(濃縮のp<0.01)を、Ingenuityソフトウェア(Qiagen、ドイツ・ヒルデン)で行った。遺伝子発現生データは、GEOで入手可能である(寄託番号GSE101569)。
【0077】
動物。C57BL/6マウス(Janvierラボ)をデュッセルドルフ大学の動物施設より得た。マウスに標準的実験室食餌を与え、そしてオートクレーブした水道水を自由に与えた。マウスを、管理された温度(20~24℃)、湿度(45~65%)、および明暗周期(12時間明期、12時間暗期)の空調室に維持した。マウスを1週間慣れさせた後、実験に参入させた。すべての方法を、動物ケアに関する国の指針にしたがって行い、そしてこれらは動物実験のための地域研究委員会(LANUV、State Agency for Nature, Environment and Consumer Protection、認可番号(Az. 84-02.04.2016.A025))によって認可された。
【0078】
水力学に基づくin vivo遺伝子送達。以前記載されるように、PBS中で調製したプラスミドpcDNA3.1-GVHH-gp130(2.3μg/マウス)および/またはpcDNA3.1-3xGFP(1.28μg/マウス)の尾静脈注射を通じて、8週齢の雄C57BL/6マウスをトランスフェクションした。
【0079】
肝臓溶解物の調製。肝臓由来の組織タンパク質抽出物を、溶解緩衝液(50mM Tris-HCl(Carl Roth、ドイツ・カールスルーエ)、150mM NaCl(AppliChem、ドイツ・ダルムシュタット)、2mM EDTA(Sigma Aldrich、ドイツ・ミュンヘン)、2mM NaF(Sigma Aldrich、ドイツ・ミュンヘン)、1mM NaVO(Sigma Aldrich、ドイツ・ミュンヘン)、1%Nonidet P40 BioChemica(AppliChem、ドイツ・ダルムシュタット)、1%Triton X-100(Sigma Aldrich、ドイツ・ミュンヘン)およびcOmplete EDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤(Roche Diagnostics、ドイツ・マンハイム)を用いて、氷上で調製し、そしてウェスタンブロッティングによって分析した。等量のタンパク質(50μg/レーン)を装填した。
【0080】
統計分析。データを平均±SEMとして提示する。多数比較のため、一方向ANOVA、その後、ボンフェローニ事後検定を用いた(GraphPad Prism 6.0、GraphPad Software Inc.、米国カリフォルニア州サンディエゴ)。統計的有意性をp<0.05のレベルにセットした。
【0081】
結果
合成サイトカイン受容体(Synthetic Cytokine eceptors)(SyCyR)は、IL-23およびIL-6/IL-11シグナル伝達をシミュレーションする。
【0082】
天然生物学的スイッチは、受容体活性化および不活性化を通じて、サイトカイン誘導性シグナル伝達を制御する。GFPおよびmCherryに対する高特異性ナノボディをツールとして選択して、高感度およびバックグラウンド不含サイトカイン様シグナル伝達を仲介した。天然には、IL-23は、IL-23RおよびIL-12Rβ1からなるその受容体複合体を通じてシグナル伝達する。IL-23シグナル伝達を模倣するため、本発明者らは、2つの合成サイトカイン受容体(SyCyR)を生成し、該受容体において、IL-23RおよびIL-12Rβ1のリガンド結合部位を含む細胞外部分を、それぞれ、mCherry(CVHH)およびGFP(GVHH)を特異的に認識するナノボディによって置換した(図1a、図1c)。SyCyRをBa/F3-gp130細胞中で発現させ、該細胞は、ハイパー-IL-6(HIL-6)と称されるIL-6および可溶性IL-6Rの融合タンパク質によるSTAT3活性化後に増殖する(図1b)。SyCyRの合成リガンドとして、本発明者らは、GFP-mCherry融合タンパク質および多様な組み合わせを生成した(図1a、図1)。STAT3活性化はIL-23シグナル伝達の特徴であるため、本発明者らは、CVHH-IL-23RおよびGVHH-IL-12Rβ1を発現しているBa/F3-gp130(1つのオープンリーディングフレーム中で組み合わせられた両方のcDNAを含む2A技術を用いて生成されたBa/F3-SyCyR(IL-23/2A)、および2つの別個のcDNAで生成されたBa/F3-SyCyR(IL-23))のSTAT3依存性増殖が、GFPおよびmCherryタンパク質、ならびにこれらの融合体で誘導可能であるかどうかを試験した。興味深いことに、Ba/F3-SyCyR(IL-23/2A)細胞の増殖は、GFP-mCherryおよび2xGFP-mCherry融合タンパク質によって特異的に誘導されたが、単一のGFPおよびmCherryタンパク質によっては誘導されなかった(図1b)。CVHH-IL-23RまたはGVHH-IL-12Rβ1のみを発現するBa/F3細胞は増殖できず、合成サイトカインリガンドとしてのGFP-mCherryの高い選択性が立証された。それぞれ、GFP-mCherryおよびハイパー-IL-23(HIL-23)でのBa/F3-SyCyR(IL-23/2A)およびBa/F3-IL-12Rβ1-IL-23R細胞の用量依存性増殖の比較分析によって、天然サイトカインおよび合成サイトカインが、匹敵する強度を示し、約5~10ng/mlのHIL-23(56kDa)およびGFP-mCherry(57kDa)濃度で最大半量増殖が達成されるとことが明らかになった。Ba/F3-SyCyR(IL-23/2A)細胞のGFP-mCherry誘導性細胞増殖は、可溶性GVHH-CVHH融合タンパク質(図1e)によって特異的に阻害された。細胞内シグナル伝達の分析によって、GFP-mCherry、2xGFP-mCherry融合タンパク質が、Ba/F3-SyCyR(IL-23/2A)細胞において、JAK、STAT3、ERK1/2およびAKTリン酸化を誘導するが、単一mCherry、GFPおよび3xGFPタンパク質がこれらのリン酸化を誘導しないことが示された。SyCyR(IL-23/2A)はまた、U4C細胞においても、特異的STAT3活性化を生じた。Ba/F3-SyCyR(IL-23/2A)およびBa/F3-IL-12Rβ1-IL-23R細胞のGFP-mCherryまたはHIL-23のいずれかでの後のpSTAT3およびSOCS3誘導の動力学は、匹敵した。IL-23R複合体は、SOCS3によってターゲティングされないため、活性化は、STAT3リン酸化維持を生じた。次に、本発明者らは、GFP-mCherryで刺激されたBa/F3-SyCyR(IL-23/2A)細胞およびHIL-23で刺激されたBa/F3-IL-12Rβ1-IL-23R細胞の遺伝子アレイ分析によるmRNA発現を分析した。GFP-mCherryおよびHIL-23は、係数1.5またはそれより多くで、それぞれ107および193遺伝子を上方または下方制御した。これらの中には、PIM1、SOCS3およびOSMを含む典型的なSTAT3ターゲット遺伝子がある。経路分析によって、GFP-mCherryおよびHIL-23によって制御される遺伝子は、同じ経路に属することが明らかになった。本発明者らのデータによって、天然サイトカインに比較した際、合成リガンドによって誘導されるトランスクリプトーム間に高い度合いの重複があることが明らかになった。
【0083】
SyCyRがホモ二量体リガンドによって活性化可能であるかどうかを調べるため、本発明者らは、この系をIL-6/IL-11受容体複合体に適応させた。gp130のSyCyRを生成し、この中で、サイトカイン受容体の細胞外部分をGVHHによって置換した(GVHH-gp130)(図2a、図1c)。Ba/F3-gp130細胞(Ba/F3-SyCyR(IL-6))中のGVHH-gp130の発現をフローサイトメトリーによって検証した。予期されるように、Ba/F3-SyCyR(IL-6)細胞中のJAK、TYK、STAT3、ERK1/2リン酸化は、2xGFP-mCherryおよび3xGFPによって特異的に誘導された。Ba/F3-SyCyR(IL-6)およびBa/F3-gp130の、それぞれ、3xGFPおよびHIL-6での用量依存性増殖の比較によって、天然および合成サイトカインが類似の活性を示し、それぞれ、1~10ng/ml 3xGFP(86kDa)またはHIL-6(60kDa)で、最大半量増殖を持つことが示された。Ba/F3-SyCyR(IL-6)細胞の3xGFP刺激は、STAT3リン酸化の時間依存性の迅速な活性化および120分後のわずかな不活性化を生じ、これにはSOCS3の上方制御が伴った。全体として、3xGFP誘導性シグナル伝達は、HIL-6誘導性STAT3リン酸化およびSOCS3発現と区別不能であった。次に、本発明者らは、C57BL/6マウスの肝組織中でSyCyR(IL-6)を発現させた。GVHH-gp130および3xGFPを単独でまたは組み合わせてコードするDNAを注射した24時間後、本発明者らは、GVHH-gp130を3xGFPと同時発現した際に、STAT3リン酸化を観察した(図2b)。興味深いことに、GVHH-gp130発現は、GVHH-gp130および3xGFPの両方を発現するマウスに比較した際、GVHH-gp130をコードするcDNAのみを注射したマウスにおいてはるかにより高いことが見出された。該データは、GVHH-gp130および3xGFPの同時発現が、GVHH-gp130の活性化依存性分解を生じることを示唆した。さらに、ウェスタンブロッティングによる血清試料中の3xGFPの検出は、3xGFPをコードするcDNAのみを注射したマウスにおいて、3xGFPの強い集積を示す一方、GVHH-gp130および3xGFPをコードするcDNAを注射したマウスにおいては、3xGFPはほとんど検出不能であった。これらの知見は、GVHH-gp130の結合および活性化後、GVHH-gp130だけでなく、3xGFPタンパク質もまた、肝細胞において、効率的に内在化され、そして分解されることを示唆する。これと一致して、急性期反応遺伝子Saa1の発現は、GVHH-gp130および3xGFPをコードするcDNAwの注射後に増加し、これはGVHH-gp130または3xGFPのみをコードするcDNAの注射とは非常に対照的であった。全体として、本発明者らのデータは、試験したSyCyRが、in vitroおよびin vivoでIL-6およびIL-23シグナル伝達の表現型をコピーすることを示した。
【0084】
合成IL-23Rサイトカイン受容体ホモ二量体は生物学的に活性である。
【0085】
多量体GFPは、ホモ二量体GVHH-gp130を通じてIL-6シグナル伝達を誘導可能であったため、本発明者らは、IL-23Rもまたホモ二量体として生物学的に活性であるかどうか疑問を持った。したがって、本発明者らは、IL-23Rの膜貫通および細胞内ドメインに融合した、細胞外GVHHからなるSyCyR(GVHH-IL-23R;(SyCyR(IL-23R)))を生成した(図3aおよび図1c)。興味深いことに、3xGFPおよび2xGFP-mCherry融合タンパク質は、Ba/F3-SyCyR(IL-23R)細胞の増殖を誘導する(図3b)一方、単一GFPおよびmCherryまたはヘテロ二量体GFP-mCherry融合タンパク質は誘導しなかった(図3b)。最大半量増殖は、約10~20ng/ml 3xGFP(86kDa)で達成され、これはHIL-23(56kDa;5~10ng/ml)で刺激したBa/F3-IL-12Rβ1-IL-23R細胞に比較してわずかにより低いのみであった。したがって、わずかに減少した活性は、分子のモル濃度の相違を通じては説明できない。予期されるように、3xGFPおよび2xGFP-mCherry融合タンパク質は、Ba/F3-SyCyR(IL-23R)細胞において、JAK、STAT3、pERK1/2およびAKTリン酸化を誘導したが、単一GFPはこうしたリン酸化を誘導しなかった。また、HIL-23および3xGFPのpSTAT3活性化およびSOCS3発現の動力学もまた匹敵し、IL-23Rホモ二量体もまた、SOCS3によって負に制御されないことが示唆された。驚くべきことに、3xGFPでのBa/F3-SyCyR(IL-23R)の刺激後、少なくとも1.5倍上方制御または下方制御されたのはわずか35遺伝子であった。しかし、35の転写物のうち34はまた、GFP-mCherry群(Ba/F3-SyCyR(IL-23/2A))でも見出された。35の制御される遺伝子の中には、PIM、SOCS3、およびOSMを含む典型的なIL-23ターゲット遺伝子がある。IL-12Rβ1-IL-23Rヘテロ二量体刺激に比較した際、ホモ二量体IL-23Rシグナル伝達によって減少した数の遺伝子が誘発されるが、同様のシグナル伝達経路が影響を受けた。結論として、SyCyR(IL-23R)のホモ型活性化もまた、シグナル伝達経路および動力学に関して、IL-23シグナル伝達の表現型をコピーするが、SyCyR(IL-23/2A)に比較した際、全体に減少した遺伝子発現誘導を生じた。
【0086】
操作されたヘテロ三量体SyCyRは、STAT3トランスリン酸化が可能である。
【0087】
トランスリン酸化中、キナーゼ活性受容体は、キナーゼ陰性突然変異体受容体をトランスリン酸化することが可能である。2xGFP-mCherryは、SyCyRの機能性ヘテロおよびホモ二量体化を誘導可能であるため、本発明者らは、2xGFP-mCherryが合成三量体受容体複合体を通じて、STAT3のトランスリン酸化を誘導可能であるかどうか疑問を持った。したがって、標準的STAT結合モチーフを欠くが、JAK、ERKおよびAKT活性を保持する(IL-23R-ΔSTAT)C末端一部切除IL-23R(Δ503)を選択し、そしてGVHHと融合させた(図4aおよび4b)。Janusキナーゼは、アミノ酸403~479の間に位置するIL-23R内のペプチドモチーフと相互作用し、そして完全または部分的欠失は、JAK活性不全を生じる。したがって、本発明者らは、mCherry-ナノボディに融合した、JAK活性不全を伴うIL-23R細胞内ドメインの3つの欠失変異体、ΔJAK-A(Δ403-417)、ΔJAK-B(Δ455-479)およびΔJAK-C(Δ403-479)を生成した(図4aおよび図4b)。Ba/F3-gp130細胞中のこれらのSyCyRの細胞表面発現を、フローサイトメトリーによって検証した。予期されるように、2xGFP-mCherryでのBa/F3-gp130細胞におけるGVHH-IL-23R-ΔSTATの刺激は、JAKおよびERKリン酸化を生じたが、STAT3活性化は不全であった(図4c)。その結果、Ba/F3-GVHH-IL-23R-ΔSTAT細胞の3xGFP誘導性増殖は、Ba/F3-SyCyR(IL-23R)細胞に比較した際、劇的に減少した(図4d)。興味深いことに、2つのGVHH-IL-23R-ΔSTAT受容体および1つのCVHH-IL-23R-ΔJAK受容体からなる2xGFP-mCherry誘導性三量体複合体の集合のみが、増加したSTAT3トランスリン酸化および細胞増殖を生じた(図4e)。GFP-mCherryによるGVHH-IL-23R-ΔSTATとすべてのCVHH-ΔJAK受容体の二量体化は、STAT活性化を誘導せず、GVHH-IL-23R-ΔSTATにおける2つの生物学的活性JAKがSTAT3トランスリン酸化に必要であることが立証された。注目すべきことに、2xmCherry融合タンパク質での刺激および二量体CVHH-IL-23R-ΔJAKの形成は、STAT3リン酸化を生じない一方、CVHH-IL-23Rのホモ二量体は生物学的に活性であり、CVHH-IL-23R-ΔJAK変異体が二量体として生物学的に活性でないことが立証された。
【0088】
考察
本明細書において、本発明者らは、一部切除(truncated)サイトカイン受容体に融合したGFPおよびmCherryに対して向けられるナノボディに基づく合成サイトカイン受容体系の発展を記載する。ナノボディは、分子生物学に広く用いられ、高いアフィニティおよび抗原特異性を示す、多用途ツールである。本発明者らは、GFPおよびmCherryに対するナノボディを選択し、これは、これらの蛍光タンパク質が哺乳動物細胞に対して非毒性であり、内因性受容体に対する非特異的結合を引き起こさず、そしてしたがって副作用/バックグラウンドを持たないとみなされるためである。受容体系として、本発明者らは、IL-23およびIL-6受容体シグナル伝達複合体によって例示される、ヘテロ二量体およびホモ二量体サイトカイン受容体組成物を用いた。IL-23は、IL-12Rβ1およびIL-23Rからなるヘテロ二量体受容体複合体を通じてシグナル伝達する一方、IL-6は非シグナル伝達性IL-6Rおよびgp130のシグナル伝達性ホモ二量体を通じてシグナル伝達する。どちらの受容体複合体も、STAT、ERKおよびAKT経路を活性化する受容体会合Janusキナーゼを通じてシグナルを誘導する。JAKは恒常性であるが、クラスIおよびIIサイトカイン受容体と非共有的に会合し、これらはサイトカイン結合に際して、2つのJAKを一緒にして活性シグナル伝達複合体を生成する。JAKは、サイトカイン受容体の細胞内ドメイン中に存在する受容体ペプチドモチーフと相互作用する。受容体活性化中、JAKは相互リン酸化によって「オン」状態にスイッチングされ、そして続いてSTAT3などの受容体チロシンおよびシグナル伝達分子をリン酸化する。
【0089】
IL-23シグナル伝達を模倣する合成受容体複合体は、ヘテロ二量体合成GFP-mCherryリガンドによって活性化されるが、単一GFPまたはmCherryあるいは多量体GFP融合タンパク質によっては活性化されず、一方、IL-6シグナル伝達をシミュレーションする合成受容体複合体は、ホモ二量体合成GFPリガンドによって特異的に活性化された。重要なことに、GFP-mCherryおよび3xGFP融合タンパク質は、合成サイトカイン受容体を欠く細胞において、細胞反応を活性化しなかった。
【0090】
最近の報告によって、細胞内ドメインのみがシグナル伝達強度を決定するわけではなく、細胞外受容体複合体集合の様式もこうした強度を決定することが示された。特に、EPOにおける点突然変異は、EPO受容体二量体化を変化させることが示され、この結果、STAT1およびSTAT3リン酸化が減少するが、STAT5活性化は影響を受けなかった。これは、別の結合ドメイン、例えばナノボディによってサイトカイン受容体の細胞外部分を置換すると、シグナル伝達強度および動力学に影響を及ぼす可能性があり、これが最終的に、キメラ受容体の細胞内反応の改変を導くことを暗示する。本発明者らの合成サイトカイン受容体に対するこうした影響を排除するため、典型的なシグナル伝達経路(JAK/STAT、ERK、AKT)の一般的な分析とは別に、本発明者らは、IL-23およびIL-6の時間依存性活性化プロファイルが、合成リガンドのものと同一であることを検証した。これらの知見は、それぞれ、HIL-23およびGFP-mCherryによって活性化されるBa/F3-IL-23R-IL-12Rβ1およびBa/F3-SyCyR(IL-23/2A)細胞のトランスクリプトーム比較によって裏付けられ、ここで、両サイトカインに制御されるほぼすべての遺伝子は同一であった。GFP-mCherry刺激に比較した際、HIL-23刺激後にはより制御された遺伝子が検出されるものの、この相違は、異なる受容体複合体を形質導入されており、そして独立に選択され、そして数週間培養されている細胞株を用いた際に、予期される変動内であった。重要なことに、天然および合成IL-23受容体複合体の経路分析によって、天然におよび合成で誘導されたシグナル伝達は、基本的に同一であることが強調された。これは、シグナル伝達経路および発現プロファイルの詳細な分析を含む、キメラ複合体を用いた最初の研究である。重要なことに、合成受容体はin vivoで活性であるようであり、これは本発明者らが、水力学的注射後、マウス肝臓において、3xGFPによるGVHH-gp130の活性化を立証したためである。
【0091】
これまで、Janusキナーゼの活性化とは別の、受容体複合体におけるIL-12Rβ1のシグナル伝達上の役割は割り当てられてきていない。これと一致して、本発明者らの合成受容体を用いて、本発明者らはIL-23Rホモ二量体受容体複合体を誘導した。シグナル伝達経路の一般的な活性化は、IL-23シグナル伝達と類似であるようであるが、遺伝子アレイ分析によって、ヘテロ二量体シグナル伝達に比較した際、制御される遺伝子の数は減少することが明らかになった。この現象は、天然IL-23R-IL-12Rβ1複合体に比較した際、SyCyR(IL-23R)シグナル伝達後に観察される、増殖のわずかな減少によって引き起こされる可能性もある。さらに、合成リガンドのアフィニティの減少または生化学的特徴は、SyCyRシグナル伝達に影響を及ぼす可能性もある。この影響はまた、天然および合成IL-23受容体活性化が、制御される遺伝子の絶対数に関して異なるという観察にも寄与する可能性もある。
【0092】
合成リガンドはモジュールの性質を持ち、GFPまたはmCherryあたり1つの受容体結合部位で、受容体化学量論の正確な組成が可能になり、これは明らかに、すべてではなくとも多くの他のサイトカイン受容体に関して興味深いことである。さらに、この系は、所望のシグナル伝達可能性および能力を持つ新規受容体組み合わせの組み合わせ集合を可能にするであろう。リクルートされる合成受容体の数は、1つのGFP:mCherry融合タンパク質中に連結されるリガンドの最大数によって、または別のGFP/mCherry多量体化戦略によってのみ限定される。
【0093】
IL-6およびIL-23シグナル伝達のため、本発明者らは、ホモおよびヘテロ二量体GFP:mCherry融合タンパク質を用いたが、本発明者らはまた、ホモおよびヘテロ三量体GFP:mCherry変異体を生成することも可能であった。これらの合成リガンドを用いて、本発明者らは、生物学的に活性である三量体受容体複合体がまた、会合するキナーゼを伴うサイトカイン受容体ファミリーの中で、機能的に集合可能であるかどうかを分析した。チロシン受容体および会合するキナーゼを伴う受容体は、典型的には、並置される二量体として活性であり、そして続いて、少なくとも2つの受容体キナーゼを活性化する。これは、これらの受容体系が天然には第三の受容体を必要としないことを暗示する。IL-6およびIL-23シミュレーションのための三量体受容体複合体を生成するため、本発明者らは、合成GVHH-IL-23およびGVHH-gp130受容体においてSTAT3結合モチーフを欠失させ、そしてCVHHに融合したSTAT結合モチーフを含有するJAK不全受容体とこれらの受容体を組み合わせた。本発明者らは、これらの三量体受容体の組み合わせにおいて、STAT3活性化が、トランスリン酸化によって仲介されることを示した。2つのJAK有効性だがSTAT不全である受容体および1つのSTAT結合モチーフの受容体のGFP-GFP-mCherry(2xGFP-mCherry)での三量体受容体複合体形成は、STAT3トランスリン酸化を生じた。しかし、1つのJAK有効性受容体と1つのSTAT結合モチーフ受容体のGFP-mCherry融合による集合は、トランスリン酸化を導かず、1つのJanusキナーゼでは受容体活性化には不十分であることが確認された。注目すべきことに、トランスリン酸化は、これまでのところ、PDGFおよびEGFファミリーのチロシンキナーゼ受容体に関してしか記載されておらず、この場合、キナーゼ活性受容体は、受容体二量体化後、第二のキナーゼ不活性突然変異体受容体をトランスリン酸化することが可能であった。これらの場合、キナーゼ陰性突然変異体受容体は、他の受容体の機能性キナーゼを活性化することが可能であった。ここで、本発明者らは、会合するJanusキナーゼを伴うサイトカイン受容体の最初の受容体鎖トランスリン酸化に関して記載する。
【0094】
要約すると、合成サイトカイン受容体系は、定義される数および組成の受容体鎖のリクルートによって、サイトカインシグナル伝達のテーラーメードの活性化および分析を可能にする。受容体集合は、リガンド融合タンパク質におけるGFP-mCherry単位の数および配列によって決定される。この系は、以前、キメラ受容体系で記載されてきている適切なバックグラウンド活性化を伴わずに、シグナル伝達をシミュレーションする。in vitroおよびin vivoでの蛍光タンパク質の毒性がないことによって、トランスジェニックマウスにおける合成リガンド適用による細胞タイプ特異的受容体活性化を研究するための、広範囲での潜在的な適用が可能になる。重要なことに、本発明者らの系は、容易にオン/オフスイッチ操作可能であり、これはシグナル活性化が、合成GFP:mCherryリガンドに対して向けられる可溶性ナノボディ融合タンパク質の適用によって迅速に阻害されることが可能であるためであり、そしてこのことは、免疫療法中の非生理学的ターゲットを伴う新規療法措置への道を開くであろう。
【0095】
態様
1. 少なくとも以下のドメイン:
人工的リガンドおよび人工的リガンドに結合する受容体より選択される、第一の結合パートナーを含有する第一のドメイン;
随意に、スペーサードメイン、
膜貫通ドメイン、および
細胞質シグナル伝達ドメイン、ここで、該第一のドメインおよび該細胞質シグナル伝達ドメインが、生物において、天然には存在しないドメインの組み合わせである、
をN末端から始まりC末端まで含有する、組換えポリペプチド。
【0096】
2. 第一の結合パートナーが、一本鎖抗体単位、受容体分子、内因性ペプチドまたはその断片、および人工的ペプチドからなる群より選択される、態様1記載の組換えポリペプチド。
【0097】
3. 第一の結合パートナー、例えば一本鎖抗体単位を含有する第一のドメインのN末端に位置するリーダー配列をさらに含む、態様1または態様2記載の組換えポリペプチド。
【0098】
4. 細胞質シグナル伝達ドメインが、サイトカイン受容体に由来し、特に、一般的に刺激性受容体、例えばgp130、IL-23R、IL-12Rβ1、IL-7R、IL-13R、IL-15R、IFNαR、IFNγR、TNF1R、TNF2R、EGF-R、IL-22R、サイレンシング(消耗性)受容体、例えばPD-1、IL-10R、TIM3、IL-27Rまたは殺傷性受容体、例えばFasR、TRAILRからなる群より選択される細胞質シグナル伝達ドメインに由来するか、あるいはB細胞受容体またはT細胞受容体、特に、CD28、CD3ゼータ鎖、CD3イプシロン鎖からなる群より選択される細胞質シグナル伝達ドメインに由来する、先行する態様いずれか1つに記載の組換えポリペプチド。
【0099】
5. 膜貫通ドメインが、細胞質シグナル伝達ドメインが由来するサイトカイン受容体に由来する膜貫通ドメインである、先行する態様のいずれか1つに記載の組換えポリペプチド。
【0100】
6. 第一の結合パートナーを含有する第一のドメインが、ナノボディを含有する第一のドメインである、先行する態様のいずれか1つに記載の組換えポリペプチド。
【0101】
7. 態様1~6のいずれか1つに記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む、核酸分子。
【0102】
8. 態様7記載の核酸配列を含むベクター、特にウイルスベクターまたはプラスミド。
【0103】
9. 態様8記載のベクターまたは態様7記載の核酸分子を含有する、細胞、細胞株または宿主細胞。
【0104】
10. 修飾末梢血細胞である、特にT細胞、例えばCD8+またはCD4+ T細胞のようなT細胞を含むリンパ球である、例えばキメラ抗原受容体をさらに発現する遺伝子操作T細胞である、態様9記載の細胞、細胞株または宿主細胞。
【0105】
11. 態様8記載の第二のベクターまたは態様7記載の第二の核酸分子をさらに含有する態様9または10のいずれか1つに記載の細胞、細胞株または宿主細胞であって、このベクターまたは核酸分子が、第一の結合ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインの少なくとも1つあるいは両方と異なる、態様1~6のいずれか1つに記載のポリペプチドをコードする、前記細胞、細胞株または宿主細胞。
【0106】
12. 第二のベクターの細胞質シグナル伝達ドメインが、異なるシグナル伝達経路を通じてシグナル伝達を誘導する、態様11記載の細胞、細胞株または宿主細胞。
【0107】
13. 被験体の癌または自己免疫疾患の治療または免疫調節に使用するための、態様1~6のいずれか1つに記載の組換えポリペプチド、態様7記載の核酸分子、態様8記載のベクター、あるいは態様9~12のいずれか1つに記載の細胞、細胞株または宿主細胞。
【0108】
14. 特に態様13記載の使用のための、前記ポリペプチド、ベクター、核酸分子、あるいは宿主細胞、細胞または細胞株に存在する第一の結合パートナーに特異的な第二の結合パートナーを適用した際に、細胞の状態を変化させるために使用するための、態様1~6のいずれか1つに記載の組換えポリペプチド、態様7記載の核酸分子、態様8記載のベクター、あるいは態様9~12のいずれか1つに記載の細胞、細胞株または宿主細胞。
【0109】
15. 免疫調節のため、細胞、特にリンパ球、例えばT細胞の産生において使用するための、態様8記載のベクター、態様9~12のいずれか1つに記載の細胞、細胞株または宿主細胞、態様7記載の核酸分子および/または態様1~6のいずれか1つに記載のペプチドを含有する、キットまたは系。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】