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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】猫の健康状態判定方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20240612BHJP
【FI】
G16H50/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021123011
(22)【出願日】2021-07-28
(62)【分割の表示】P 2019103490の分割
【原出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2021177421
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-07-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000230076
【氏名又は名称】日本ペットフード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 永治
【合議体】
【審判長】松田 直也
【審判官】下林 義明
【審判官】緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-195931(JP,A)
【文献】特開2004-321268(JP,A)
【文献】特開2006-072665(JP,A)
【文献】特開2002-065668(JP,A)
【文献】IV 肥満の診断,ハーツアニマルクリニック 肥満について 2,[オンライン,令和4年7月27日検索],2011年11月15日,p.1-4,インターネット:<https://hearts-ac.jp/%E8%82%A5%E6%BA%80%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%80%E2%91%A1/>
【文献】The relationship among ultrasound measurement, body fat ration, and feline body mass index in aging cats,Japanese Journal of Veterinary Research, 66 (4),日本,Faculty of Veterinary Medicine, Hokkaido University,2018年11月30日,p.273-279,<DOI:10.14943/jjvr.66.4.273>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
A61B 5/05 - 5/0538
A61B 5/24 - 5/398
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波測定装置により取得したエコー画像のデータに基づいてコンピュータが実行するプログラムにより猫の健康状態を判定する方法であって、
前記超音波測定装置が、猫の脊髄の延在方向で見て第13肋骨に沿ってプローブを移動させることにより得られるエコー画像を取得し、
前記コンピュータは、
前記エコー画像に基づき計測された皮下脂肪厚から、体脂肪率を算出する体脂肪率算出ステップと、
予め設定されている健康な猫の体脂肪率と前記体脂肪率算出ステップで算出された前記体脂肪率との比較によって健康状態を判定する健康状態判定ステップとを実行する猫の健康状態判定方法。
【請求項2】
前記体脂肪率算出ステップは、(係数Ka×皮下脂肪厚(cm)+切片Ca)なる演算を行って前記体脂肪率を算出する請求項1に記載の猫の健康状態判定方法。
【請求項3】
前記係数Kaは45~70、前記切片Caは1~5である請求項2に記載の猫の健康状態判定方法。
【請求項4】
前記健康な猫の体脂肪率は13~28%である請求項1から3の何れか一項に記載の猫の健康状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伴侶動物(愛玩動物)の健康状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
猫や犬のような伴侶動物における体重測定は健康状態を判定する最も基本となる指標である。身体は、主に脂肪組織、除脂肪体組織、骨組織に分けられることが知られている。除脂肪体組織は筋組織が大半を占める。
【0003】
猫や犬のような伴侶動物の健康診断として、血液採取を行い、血液生化学検査によって血漿遊離脂肪酸(NEFA)や血漿トリグリセリド(TG)等の濃度を測定し、これらの濃度に基づいてメタボリックシンドローム等による疾病を、判定したり、予見したりすることは、従来より動物病院等において広く行われている。
【0004】
伴侶動物の肥満度は、伴侶動物のメタボリックシンドロームを含む健康度の目安になることは知られている。伴侶動物の肥満の診断(判定)方法として、獣医師による視診及び触診によるボティコンディションスコア(BCS)によるものが知られている。
【0005】
伴侶動物の体重状態を管理する方法として、伴侶動物の実際の体脂肪率または除脂肪体重を測定し、身体データを独立変数として実際の体脂肪率または除脂肪体重を従属変数として用いる回帰分析を適用して導出された数式に基づいて伴侶動物について予測される体脂肪率または除脂肪体重を計算し、予測された体脂肪率または除脂肪体重に基づいて、伴侶動物に有効な減量管理データに基づく減量管理計画を出力することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5661801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
血液生化学検査によるものは、疾病の予見を定量的に行うことが可能であるが、検査の都度、血液採取が必要であり、簡便に行うことが難しい。
【0008】
BCSによる肥満の診断は、獣医師に依存する度合いが大きく、安定性に欠ける。
【0009】
身体データから体脂肪率を推定する方法は、体重、頭蓋長、頭部周囲長、後肢中央足蹠長、踵骨幅、後肢長、骨盤周囲長、前部体高等、多くの身体データを必要とし、身体データの測定箇所が多いために実用的でなく、伴侶動物の健康状態の管理を簡便に行うことが難しい。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、伴侶動物の健康状態の判定を高い安定性をもって簡便に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法は、伴侶動物の健康状態を判定する方法であって、判定対象の伴侶動物の超音波測定を行い、超音波測定によって得られた画像から皮下脂肪厚を計測する皮下脂肪厚計測ステップと、前記皮下脂肪厚から体脂肪率を算出する体脂肪率算出ステップと、予め設定されている健康な伴侶動物の体脂肪率と前記体脂肪率算出ステップで算出された体脂肪率との比較によって健康状態を判定する健康状態判定ステップとを有する。
【0012】
この方法によれば、伴侶動物の健康状態の判定が高い安定性をもって簡便に行われる。
【0013】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、前記皮下脂肪厚は脊髄の延在方向で見て最終肋骨に対応する部位の皮下脂肪厚の最大値或いは平均値である。
【0014】
この方法によれば、特定部位の皮下脂肪厚の計測により伴侶動物の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【0015】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、前記体脂肪率算出ステップは、(係数Ka×皮下脂肪厚(cm)+切片Ca)なる演算を行って体脂肪率を算出する。
【0016】
この方法によれば、簡単な演算により伴侶動物の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【0017】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、前記伴侶動物が猫であり、前記係数Kaは45~70、切片Caは1~5である。
【0018】
この方法によれば、猫の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【0019】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、前記伴侶動物が猫であり、前記健康な伴侶動物の体脂肪率は13~28%である。
【0020】
この方法によれば、猫の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【0021】
本発明の一つの実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法は、伴侶動物の健康状態を判定する方法であって、判定対象の伴侶動物の超音波測定を行い、超音波測定によって得られた画像から背最長筋厚を計測する背最長筋厚計測ステップと、前記背最長筋厚から除脂肪体組織量を算出する除脂肪体組織量算出ステップと、予め設定されている健康な伴侶動物の除脂肪体組織量と前記除脂肪体組織量算出ステップで算出された除脂肪体組織量との比較によって健康状態を判定する健康状態判定ステップとを有する。
【0022】
この方法によれば、伴侶動物の健康状態の判定が高い安定性をもって簡便に行われる。
【0023】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、前記背最長筋厚は当該背最長筋厚の最大値或いは平均値である。
【0024】
この方法によれば、特定部位の筋厚の計測により伴侶動物の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【0025】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、前記除脂肪体組織量算出ステップは、(係数Kb×背最長筋厚(cm)+切片Cb)なる演算を行って除脂肪体組織量を算出する。
【0026】
この方法によれば、簡単な演算により伴侶動物の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【0027】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、記伴侶動物が猫であり、前記係数Kbは1100~1800、切片Cbは180~300である。
【0028】
この方法によれば、猫の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【0029】
上記実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法において、好ましくは、前記伴侶動物が猫であり、前記健康な伴侶動物の除脂肪体組織量は2000~3100gである。
【0030】
この方法によれば、猫の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。
【発明の効果】
【0031】
本発明による伴侶動物の健康状態判定方法によれば、伴侶動物の健康状態の判定が高い安定性をもって簡便に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明による伴侶動物の健康状態判定方法の実施における判定対象である猫の骨格構造を示す説明図
図2】超音波測定によって得られた画像を解図的に示す説明図
図3】皮下脂肪厚と体脂肪率との関係を示すグラフ
図4】背最長筋厚と除脂肪体組織量との関係を示すグラフ
図5】皮下脂肪厚と体脂肪量との関係を示すグラフ
図6】コンピュータにより実行される健康状態判定処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明による伴侶動物の健康状態判定方法を、猫の健康状態判定の適用した実施形態について説明する。
【0034】
本実施形態では、先ず、皮下脂肪厚・背最長筋厚計測ステップとして、図1に示されているように、超音波測定装置(超音波検査装置)のハンディタイプのプローブ10を、エコー検査の要領で、猫の背部から腹部に移動させて超音波測定を行う。この超音波測定は、より詳細には、プローブ10を最終肋骨20に対して平行に移動させ、この超音波測定によって、図2に示されているように、皮下脂肪12及び背最長筋14が映っている画像(エコー画像)を取得し、エコー画像から皮下脂肪厚A及び背最長筋厚Bを計測する。最終肋骨20とは、首部から最も離れた位置にある肋骨であり、猫の場合には第13肋骨になる。
【0035】
尚、このエコー画像(図2参照)には、皮下脂肪12及び背最長筋14に加えて皮膚16、筋間脂肪等が映っている。
【0036】
皮下脂肪厚Aは脊髄の延在方向で見て最終肋骨に対応する部位の皮下脂肪厚Aの最大値或いは平均値である。尚、皮下脂肪厚Aは、最終肋骨の周囲或いは最終肋骨の尾部側の部位の皮下脂肪厚であってもよい。背最長筋厚Bは、該背最長筋厚Bの最大値或いは平均値である。該背最長筋厚Bは背最長筋の背側の筋膜から腹側の筋膜までの最大距離である体軸筋厚であってもよい。
【0037】
皮下脂肪厚A及び背最長筋厚Bの計測は、エコー画像をプリント出力した写真から皮下脂肪厚A及び背最長筋厚Bを直線定規等によって測ることにより、或いはエコー画像をコンピュータのモニタに表示してモニタ画面おけるポインタの移動等によって電子的に計測してもよい。
【0038】
次に、体脂肪率算出ステップとして、皮下脂肪厚Aから体脂肪率を算出する。皮下脂肪厚Aと体脂肪率とは、図3に示されているような、相関性を有するから、(係数Ka×皮下脂肪厚A(cm)+切片Ca)なる演算により、体脂肪率を近似的に算出することができる。
【0039】
健康状態の判定対象が猫である場合には、係数Kaは45~70、好ましくは
Ka=58.523699、 切片Caは1~5、好ましくはCa=3.225668であってよい。
【0040】
次に、除脂肪体組織量算出ステップとして、背最長筋厚Bから除脂肪体組織量を算出する。背最長筋厚Bと除脂肪体組織量とは、図4に示されているような、相関性を有するから、(係数Kb×背最長筋厚B(cm)+切片Cb)なる演算により、除脂肪体組織量を近似的に算出することができる。除脂肪体組織量は概ね筋量に等しい値である。
【0041】
健康状態の判定対象が猫である場合には、係数Kbは1100~1800、好ましくはKb=1426.9795、切片Cbは180~300、好ましくはCb=236.2641であってよい。
【0042】
次に、体脂肪量算出ステップとして、皮下脂肪厚Aから体脂肪体量を算出する。皮下脂肪厚Aと体脂肪体量とは、図5に示されているような、相関性を有するから、(係数Kc×皮下脂肪厚A(cm)+切片Cc)なる演算により、体脂肪量を近似的に算出することができる。
【0043】
健康状態の判定対象が猫である場合には、係数Kcは2400~3600、好ましくはKc=2928.5818、 切片Ccは-100~-200、好ましくはCc=-159.2643であってよい。
【0044】
次に、健康状態判定ステップとして、予め設定されている健康な伴侶動物の体脂肪率と前述の体脂肪率算出ステップで算出された体脂肪率との比較及び予め設定されている健康な伴侶動物の除脂肪体組織量と前述の除脂肪体組織量算出ステップで算出された除脂肪体組織量との比較によって健康状態を判定する。
【0045】
健康な猫の体脂肪率は13~28%程度であり、健康な猫の体脂肪率と体脂肪率算出ステップで算出された体脂肪率との差によって猫の健康状態を定量的に判定することができる。また、この差に基づいて、「健康」、「健康でない」等の定性的な判定を行うこともできる。
【0046】
健康な猫の除脂肪体組織量は2000~3100g程度あり、健康な猫の除脂肪体組織量と除脂肪体組織量体算出ステップで算出された除脂肪体組織量との差によって猫の健康状態を定量的に判定することができる。また、この差に基づいて、「健康」、「健康でない」等の定性的な判定を行うこともできる。
【0047】
猫の健康状態の判定は、体脂肪率及び除脂肪体組織量の組み合わせ或いは一方により行われればよい。
【0048】
これにより、猫の健康状態の判定が簡便且つ的確に行われる。超音波測定装置は多くの動物病院にあるので、高価な測定装置や検査装置を新たに必要とすることなく、猫の健康状態の判定を行うことができる。
【0049】
本実施形態による伴侶動物の健康状態判定方法は、コンピュータが実行するプログラムにより自動化することができる。図6はコンピュータにより実行される健康状態判定処理のフローチャートである。
【0050】
この健康状態判定処理では、超音波測定によって得られる画像データが入力されると(ステップS10)、その画像データに基づいて皮下脂肪厚及び背最長筋厚の計測が行われる(ステップS11)。
【0051】
次に、(係数Ka×皮下脂肪厚(cm)+切片Ca)なる演算によって体脂肪率の算出が行われる(ステップS12)。
【0052】
次に、(係数Kb×背最長筋厚(cm)+切片Cb)なる演算によって除脂肪体組織量の算出が行われる(ステップS13)。
【0053】
次に、(係数Kc×皮下脂肪厚(cm)+切片Cc)なる演算によって体脂肪量の算出が行われる(ステップS14)。
【0054】
次に、予め設定されている健康な伴侶動物の体脂肪率と算出された体脂肪率との比較及び予め設定されている健康な伴侶動物の除脂肪体組織量と算出された除脂肪体組織量との比較によって健康状態を判定することが行われる(ステップS15)。
【0055】
次に、健康状態の判定結果を出力することが行われる(ステップS16)。この判定結果の出力には、モニタ出力、プリント出力、通信網出力等がある。
【0056】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。健康状態を判定する伴侶動物は、猫に限られることなく、犬等であってもよい。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 :プローブ
12 :皮下脂肪
14 :背最長筋
16 :皮膚
18 :筋間脂肪
20 :最終肋骨
A :皮下脂肪厚
B :背最長筋厚
図1
図2
図3
図4
図5
図6