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特許7502799フォトクロミック材料用ナノ粒子及びフォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】フォトクロミック材料用ナノ粒子及びフォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液
(51)【国際特許分類】
   C09K 9/00 20060101AFI20240612BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20240612BHJP
   C01G 9/08 20060101ALI20240612BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240612BHJP
【FI】
C09K9/00 D ZNM
C01G9/02 A
C01G9/08
B82Y30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021502036
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006330
(87)【国際公開番号】W WO2020175245
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019033852
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) ウェブサイトの掲載日 2018年12月1日 ウェブサイトのアドレス http://apc2018.conf.tw/site/page.aspx?pid=901&sid=1200&lang=en https://iconf-my.sharepoint.com/personal/123_my_conf_tw/_layouts/15/onedrive.aspx?id=%2Fpersonal%2F123%5Fmy%5Fconf%5Ftw%2FDocuments%2FDownload%2Fprogram%20book%20page%20numbered%2Epdf&parent=%2Fpersonal%2F123%5Fmy%5Fconf%5Ftw%2FDocuments%2FDownload (その2) 開催日 2018年12月16日から2018年12月20日(公開日は2018年12月18日) 集会名、開催場所 10th Asian Photochemistry Conference 公務人力發展學院福華國際文教會館(台湾 台北 大安區新生南路三段30號) (その3) ウェブサイトの掲載日 2019年2月12日 ウェブサイトのアドレス http://www.csj.jp/nenkai/99haru/ https://nenkai.csj.jp/Proceeding/index/year/2019
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一
(72)【発明者】
【氏名】韓 玉蓮
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-080689(JP,A)
【文献】特開2001-323202(JP,A)
【文献】特開平10-296708(JP,A)
【文献】特開2007-152113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0017109(US,A1)
【文献】特開2004-352770(JP,A)
【文献】米国特許第7850933(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 9/00-9/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
ZnX (1)
(式(1)中、Xは、O、S、Se及びTeからなる群より選択される少なくとも1種を示す。)
で表わされるフォトクロミック材料用ナノ粒子であって、
遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、
表面に、硫黄元素を含有する有機配位子を有し、
前記有機配位子は、下記一般式(2)
-S-R-COOH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~20の有機基を示す。)
で表わされる有機配位子であり、
前記遷移金属のドープ量は、Zn元素及び遷移金属元素のモル数の合計を100モル%として、0.1モル%以上10モル%以下であり、
前記遷移金属の吸着量は、フォトクロミック材料用ナノ粒子を100質量%として、0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記フォトクロミック材料用ナノ粒子の平均粒子径は、1nm以上100nm以下である、
ことを特徴とするフォトクロミック材料用ナノ粒子。
【請求項2】
前記Xは、O、S及びeからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子。
【請求項3】
前記有機配位子は、下記一般式(2)
-S-R-COOH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~12の有機基を示す。)
で表わされる有機配位子である、請求項1又は2に記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子。
【請求項4】
平均粒子径が1nm以上10nm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子が水に分散してなる、フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック材料用ナノ粒子及びフォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特定の波長の光を照射されると着色し、照射されなくなると着色が消え、当該変色が繰り返される、いわゆるフォトクロミック材料が研究されている。
【0003】
フォトクロミック材料は様々な分野に利用することができる。特に、眼鏡、サングラス、ゴーグル等のアイウェアに用いることにより、太陽光等の照射下で目を保護し、視界を確保することができるため有用である。
【0004】
本発明者は鋭意検討の結果、フォトクロミック材料として半導体ナノ粒子を用いることができることを見い出した。
【0005】
半導体ナノ粒子として、コア/シェル構造を持つ半導体ナノ粒子が提案されており、当該半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子集積体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ZnS半導体ナノ粒子については記載されておらず、特許文献1の半導体ナノ粒子を用いてもフォトクロミック反応は観測されないため、特許文献1の半導体ナノ粒子をフォトクロミック材料としては用いることができない。
【0007】
また、上述のアイウェア等のフォトクロミック材料が用いられる製品には、短時間で状況に適した状態になることが望まれており、フォトクロミック材料には、光が照射されて着色するまでの時間、及び、着色してから元の状態に戻るまでの反応時間が短いことが要求される。
【0008】
従って、フォトクロミック反応の反応時間が短いフォトクロミック材料を製造することができるフォトクロミック材料用ナノ粒子の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5915529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、フォトクロミック反応の反応時間が短いフォトクロミック材料を製造することができるフォトクロミック材料用ナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、一般式ZnX(式中、Xは第16族元素を示す。)で表され、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、硫黄元素を含有する有機配位子を有するフォトクロミック材料用ナノ粒子によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のフォトクロミック材料用ナノ粒子、及びフォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液に関する。
1.下記一般式(1)
ZnX (1)
(式(1)中、Xは第16族元素を示す。)
で表わされるフォトクロミック材料用ナノ粒子であって、
遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、
表面に、硫黄元素を含有する有機配位子を有する
ことを特徴とするフォトクロミック材料用ナノ粒子。
2.前記Xは、O、S、Se及びTeからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子。
3.前記有機配位子は、下記一般式(2)
-S-R-COOH (2)
(式(2)中、Rは炭素数1~20の有機基を示す。)
で表わされる有機配位子である、項1又は2に記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子。
4.平均粒子径が1nm以上100nm以下である、項1~3のいずれかに記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子。
5.項1~4のいずれかに記載のフォトクロミック材料用ナノ粒子が水に分散してなる、フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、フォトクロミック反応の反応時間が短いフォトクロミック材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子の構造の一例を示す模式図である。
図2】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子のXRD(X線回折)測定結果を示す図である。
図3】実施例1及び比較例1で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子に紫外線を照射した際の、500nmのスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図4】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射後の様子の写真を示す図である。
図5】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射1秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図6】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射10秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図7】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射40秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図8】比較例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射1秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図9】比較例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射10秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図10】比較例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射40秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図11】比較例3のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射1秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図12】比較例3のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射10秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図13】比較例3のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射40秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図14】実施例3のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射1秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図15】実施例3のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射10秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図16】実施例3のフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外線照射40秒後の300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化の測定結果を示す図である。
図17】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の電子スピン共鳴(EPR)の測定結果を示す図である。
図18】実施例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子の電子スピン共鳴(EPR)の測定結果を示す図である。
図19】実施例3のフォトクロミック材料用ナノ粒子の電子スピン共鳴(EPR)の測定結果を示す図である。
図20】比較例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の電子スピン共鳴(EPR)の測定結果を示す図である。
図21】実施例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子の水分散液に、ピコ秒パルスレーザーを照射200ナノ秒後の吸光度変化の測定結果を示す図である。
図22】実施例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子の水分散液に、ピコ秒パルスレーザーを照射600ナノ秒後の吸光度変化の測定結果を示す図である。
図23】実施例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子の水分散液に、ピコ秒パルスレーザーを照射1800ナノ秒後の吸光度変化の測定結果を示す図である。
図24】実施例1及び比較例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の水分散液に、ピコ秒パルスレーザーを照射し、波長600nmでプローブした吸光度変化の測定結果を示す図である。
図25】実施例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を示す図である。
図26】実施例2のフォトクロミック材料用ナノ粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を示す図である。
図27】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の光耐久性の測定結果を示す図である。
図28】実施例1及び比較例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の吸収スペクトル測定の結果を示す図である。
図29】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の乾燥前後のIRスペクトルの測定の結果を示す図である。
図30】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の乾燥前後の吸光度変化の測定結果を示す図である。
図31】実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の異なる温度条件での吸光度変化の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.フォトクロミック材料用ナノ粒子
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、下記一般式(1)
ZnX (1)
(式(1)中、Xは第16族元素を示す。)
で表わされるフォトクロミック材料用ナノ粒子であって、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、硫黄元素を含有する有機配位子を有することを特徴とする。図1に、一般式(1)において、XがSであり、ドープされた遷移金属がCuであり、有機配位子が-S-C-COOHである場合の本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子の構造の一例の模式図を示す。なお、有機配位子の末端のカルボキシル基は水溶液中において、-COOの状態で存在する。図1では、本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子1は、ZnSナノ粒子2に遷移金属3としてCuがドープされており、粒子の表面に硫黄元素を含有する有機配位子として、-S-C-COOを有する構造となっている。
【0016】
上記構成を備える本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、上記一般式(1)で示される構造を有しており、特定の波長の光が照射されると着色し、照射されなくなると着色が消え、当該変色が繰り返される、いわゆるフォトクロミック材料としての機能を発揮することができる。また、本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、且つ、表面に硫黄元素を含有する有機配位子を有するので、光が照射されて着色するまでの時間、及び、着色してから元の状態に戻るまでの反応時間が短くなり、フォトクロミック反応の反応時間が短いフォトクロミック材料を製造することができる。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、下記一般式(1)で表わされる。
ZnX (1)
【0019】
上記一般式(1)中、Xは第16族元素を示す。具体的には、Xは、O、S、Se、Teが挙げられる。これらの中でも、光が照射された際の着色がより一層明確であるため、S、Oが好ましく、Sがより好ましい。
【0020】
上記Xは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されている。すなわち、本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、遷移金属がドープされている場合、ZnXで示される粒子核においてZnの一部が遷移金属に置き換わっている。また、本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、遷移金属が吸着されている場合、ZnXで示される粒子核の表面に、遷移金属が吸着している。本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、遷移金属がドープされていてもよいし、遷移金属に吸着されていてもよいし、一部が遷移金属にドープされ、一部が遷移金属に吸着されていてもよい。
【0022】
遷移金属としては特に限定されず、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、クロム、銅、モリブデン、バナジウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、銀、ビスマス等が挙げられる。これらの中でも、光が照射された際の着色がより一層明確であるため、銅が好ましい。
【0023】
上記遷移金属は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
遷移金属のドープ量は、Zn元素及び遷移金属元素のモル数の合計を100モル%として、0.1モル%以上が好ましく、0.5モル%以上がより好ましい。また、遷移金属のドープ量は、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。遷移金属のドープ量の下限が上記範囲であることにより、光が照射された際の着色がより一層明確となる。また、遷移金属のドープ量の下限が上記範囲であることにより、変色量がより一層向上する。
【0025】
遷移金属の吸着は、ZnXで示される粒子核の表面に、遷移金属が吸着できれば特に限定されず、物理吸着が好ましい。本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子では、物理吸着の形態は明確ではないが、ZnXで示される粒子核の表面において、遷移金属がファンデルワールス力等の電気的作用により吸着する形態が挙げられる。
【0026】
遷移金属の吸着量は、フォトクロミック材料用ナノ粒子を100質量%として、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、遷移金属の吸着量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。遷移金属の吸着量の下限が上記範囲であることにより、光が照射された際の着色がより一層明確となる。また、遷移金属の吸着量の下限が上記範囲であることにより、変色量がより一層向上する。
【0027】
(有機配位子)
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、表面に、硫黄元素を含有する有機配位子を有する。このような有機配位子としては特に限定されず、例えば、下記一般式(2)-S-R-COOH (2)
で表わされる有機配位子が挙げられる。
【0028】
上記一般式(2)中、Rは、炭素数1~20の有機基である。Rとしては、炭素数が上記範囲であれば特に限定されず、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基等が挙げられる。
【0029】
脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分枝鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基が挙げられる。これらの中でも、より一層変色量が向上する点で、直鎖状炭化水素基、分枝鎖状炭化水素基が好ましい。
【0030】
Rは、炭素以外の窒素、硫黄、酸素等の元素を含んでいてもよい。
【0031】
Rの炭素数は1以上が好ましい。また、Rの炭素数は20以下が好ましく、12以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。Rの炭素数の下限が上記範囲であることにより、より一層変色量が向上する。また、Rの炭素数の上限が上記範囲であることにより、より一層変色量が向上する。上記Rの炭素数は、2であることが特に好ましく、すなわち、有機配位子は、下記式で示される有機配位子であることが特に好ましい。
-S-C-COOH
【0032】
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子の平均粒子径は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。また、本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子の平均粒子径は、100nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。平均粒子径の下限が上記範囲であることにより、より一層変色量が向上する。また、平均粒子径の上限が上記範囲であることにより、より一層変色量が向上する。
【0033】
本明細書において、上記平均粒子径は、試料水平型多目的X線回折装置(リガク社製 製品名Ultima IV)により測定される散乱ピークの線幅から算出される平均粒子径である。
【0034】
以上説明した本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子によれば、フォトクロミック反応の反応時間が短いフォトクロミック材料を製造することができる。本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子を用いて製造されたフォトクロミック材料は、光が照射されて着色するまでの時間、及び、着色してから元の状態に戻るまでの反応時間が短く、アイウェア等の製品を製造した場合に、状況に適した状態になるまでに時間が短い。このため、本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、フォトクロミック材料用として好適に用いることができる。
【0035】
2.フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液は、上記フォトクロミック材料用ナノ粒子が水に分散してなる、フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液である。上記フォトクロミック材料用ナノ粒子が水に分散した水分散液とすることにより、水分散液中のフォトクロミック材料用ナノ粒子のフォトクロミック反応の反応時間が非常に短くなり、極めて速いフォトクロミズムを示すことができる。
【0036】
フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液中のフォトクロミック材料用ナノ粒子の含有量は、水分散液を100質量%として0.1~30質量%が好ましく、0.3~20質量%がより好ましく、0.5~10質量%が更に好ましく、1.0~7質量%が特に好ましい。フォトクロミック材料用ナノ粒子の含有量の下限が上記範囲であることにより、発色特性がより一層向上する。
【0037】
フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液の温度は、0~50℃が好ましく、0~30℃がより好ましい。フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液の温度の下限が上記範囲であることにより、発色量がより一層向上する。フォトクロミック材料用ナノ粒子水分散液の温度の上限が上記範囲であることにより、水分散液中のフォトクロミック材料用ナノ粒子のフォトクロミック反応の反応時間がより一層短くなる。
【0038】
3.フォトクロミック材料用ナノ粒子の製造方法
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子を製造する製造方法は特に限定されず、例えば、フォトクロミック材料用ナノ粒子に遷移金属がドープされている場合、下記製造方法1により製造することができる。
(1)溶媒に、亜鉛含有化合物、ドープ金属源、及び、硫黄含有化合物を添加して溶液を調製する工程1、及び、
(2)溶液に、第16族元素含有化合物を添加して加熱する工程2
を有する、フォトクロミック材料用ナノ粒子の製造方法。
以下、当該製造方法について説明する。
【0039】
(工程1)
工程1は、溶媒に、亜鉛含有化合物、ドープ金属源、及び、硫黄含有化合物を添加して溶液を調製する工程である。
【0040】
溶媒としては亜鉛含有化合物、ドープ金属源、及び、硫黄含有化合物を溶解させることができれば特に限定されず、水、オクタデセン、トルエン、オレイン酸等が挙げられる。これらの中でも、低い温度で化合物を合成できる点で、水、トルエンが好ましく、水がより好ましい。
【0041】
亜鉛含有化合物としては溶媒に可溶であれば特に限定されず、例えば、酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))、硝酸亜鉛(ZnNO)、塩化亜鉛(ZnCl)、亜鉛(Zn)等が挙げられる。これらの中でも、より一層溶媒に溶解し易い点で、酢酸亜鉛が好ましい。
【0042】
上記亜鉛化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
溶液中の亜鉛含有化合物の量は、溶液を100質量%として0.1~1.5質量%が好ましく、0.3~0.8質量%がより好ましい。亜鉛含有化合物の含有量の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、亜鉛含有化合物の含有量の上限が上記範囲であることにより、変色量がより一層向上する。
【0044】
ドープ金属源としては、Znと置換可能な遷移金属を含有していれば特に限定されず、例えば、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)(Cu(C)、塩化銅(CuCl)、硫酸銅(CuSO)、硝酸銅(CuNO)等が挙げられる。これらの中でも、光が照射された際の着色がより一層明確であるため、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)、硝酸銅(CuNO)が好ましく、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)がより好ましい。
【0045】
上記ドープ金属源は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
溶液中のドープ金属源の量は、溶液を100質量%として0.001~0.05質量%が好ましく、0.005~0.03質量%がより好ましい。ドープ金属源の含有量の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、ドープ金属源の含有量の上限が上記範囲であることにより、変色量がより一層向上する。
【0047】
工程1において、硫黄含有化合物は、上記説明した本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子の配位子を形成するための配位子源である。
【0048】
硫黄含有化合物としては、溶媒に可溶であれば特に限定されず、例えば、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、チオグリコール酸(TGA)、11-メルカプトウンデカン酸、4-メルカプト安息香酸等が挙げられる。これらの中でも、光が照射された際の着色がより一層明確であるため、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、チオグリコール酸(TGA)が好ましく、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)がより好ましい。
【0049】
上記硫黄含有化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
溶液中の硫黄含有化合物の量は、溶液を100質量%として0.5~5質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。硫黄含有化合物の含有量の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、硫黄含有化合物の含有量の上限が上記範囲であることにより、変色量がより一層向上する。
【0051】
工程1では、溶媒に、他の添加物を添加してもよい。他の添加物としては、pH調整剤が挙げられる。
【0052】
工程1では、溶液のpHは、8以上が好ましく、9以上がより好ましい。溶液のpHの下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、溶液のpHの上限は特に限定されず、10程度であればよい。
【0053】
溶液のpHを上記範囲に調整するためのpH調整剤としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等が挙げられ、これらの中でも、水酸化ナトリウム(NaOH)を好適に用いることができる。
【0054】
工程1において、溶液の温度の下限は0℃が好ましく、20℃がより好ましい。溶液の温度の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、溶液の温度の上限は特に限定されず、溶媒の沸点以下であればよい。
【0055】
工程1での反応時間は特に限定されず、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。反応時間の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、反応時間の上限は特に限定されず、1時間程度である。
【0056】
工程1では、上記温度範囲で、溶液を撹拌することが好ましい。撹拌することにより、工程1での反応効率がより一層向上する。
【0057】
以上説明した工程1により、工程2に供される溶液が調製される。
【0058】
(工程2)
工程2は、溶液に、第16族元素含有化合物を添加して加熱する工程である。
【0059】
第16族元素含有化合物に含まれる第16族元素としてはO、S、Se、Teが挙げられ、これらの中でも、光が照射された際の着色がより一層明確であるため、S、Oが好ましく、Sがより好ましい。
【0060】
第16族元素含有化合物としては特に限定されず、NaS、S等が挙げられる。これらの中でも、光が照射された際の着色がより一層明確であるため、NaSが好ましい。
【0061】
第16族元素含有化合の添加量は、第16族元素含有化合物を添加後の溶液を100質量%として0.05~1質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。第16族元素含有化合物の含有量の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、第16族元素含有化合物の含有量の上限が上記範囲であることにより、変色量がより一層向上する。
【0062】
工程2では、第16族元素含有化合が添加された溶液が加熱される。工程2において、溶液の温度の下限は50℃が好ましく、70℃がより好ましい。溶液の温度の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、溶液の温度の上限は特に限定されない。工程2では、溶媒の沸点で加熱することが更に好ましい。
【0063】
工程2での反応時間は特に限定されず、2時間以上が好ましく、8時間以上がより好ましい。反応時間の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、反応時間の上限は特に限定されず、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。
【0064】
工程2では、溶液を強撹拌することが好ましい。強撹拌することにより、工程2での反応効率がより一層向上する。
【0065】
以上説明した工程2により、フォトクロミック材料用ナノ粒子が製造される。
【0066】
(工程3)
以上説明したフォトクロミック材料用ナノ粒子の製造方法1は、工程2の後に、工程2で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子を貧溶媒に添加して分散媒中で凝集させ、遠心分離させる工程3を有していてもよい。工程3を有することにより、得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子が大きくなり、所望の大きさの平均粒子径のフォトクロミック材料用ナノ粒子を調製することができる。
【0067】
分散媒としては特に限定されず、水等を用いることができる。
【0068】
貧溶媒としては特に限定されず、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン、アセトニトリル等の極性有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、水を分散媒として用いることができる点でアルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0069】
工程3では、フォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された分散媒を静置することにより、分散媒中でフォトクロミック材料用ナノ粒子を凝集させればよい。静置中のフォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された分散媒の温度の温度は0~30℃が好ましく、15~25℃がより好ましい。フォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された分散媒の温度が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子がより一層凝集し易くなる。
【0070】
工程3でのフォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された溶媒の静置時間は特に限定されず、30秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。反応時間の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、反応時間の上限は特に限定されず、1時間程度である。反応時間の上限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子がより一層水に再分散し易くなる。
【0071】
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子を製造する製造方法は、また、フォトクロミック材料用ナノ粒子に遷移金属が吸着されている場合、下記製造方法2により製造することができる。
(1)溶媒に、亜鉛含有化合物、及び、硫黄含有化合物を添加して溶液を調製する工程1’、
(2)溶液に、第16族元素含有化合物を添加して加熱し、遷移金属未吸着フォトクロミック材料用ナノ粒子の分散液を調製する工程2’、及び、
(3)分散液に遷移金属源を添加して、遷移金属未吸着フォトクロミック材料用ナノ粒子の表面に遷移金属を吸着させる工程3’、
を有する、フォトクロミック材料用ナノ粒子の製造方法2。
以下、当該製造方法について説明する。
【0072】
(工程1’)
工程1’は、溶媒に、亜鉛含有化合物、及び、硫黄含有化合物を添加して溶液を調製する工程である。
【0073】
上記工程1’では、上述のフォトクロミック材料用ナノ粒子に遷移金属がドープされている場合の製造方法1の工程1において、溶媒にドープ金属源を添加せずに溶液を調製する。すなわち、工程1’における溶媒、亜鉛含有化合物、及び、硫黄含有化合物については、上記製造方法1の工程1と同様である。また、工程1’では、溶媒にドープ金属源を添加しない以外は上記製造方法1の工程1と同様にして、溶液が調製される。
【0074】
(工程2’)
工程2’は、溶液に、第16族元素含有化合物を添加して加熱し、遷移金属未吸着フォトクロミック材料用ナノ粒子の分散液を調製する工程である。工程2’は、上記製造方法1の工程2と同様である。
【0075】
(工程3’)
工程3’は、分散液に遷移金属源を添加して、遷移金属未吸着フォトクロミック材料用ナノ粒子の表面に遷移金属を吸着させる工程である。工程2’で調製された分散液に、遷移金属源を添加することにより、分散液中でZnXで示される粒子核の表面に、遷移金属が吸着される。また、工程3’では、遷移金属のうち一部がZnXで示される粒子核にドープされ、本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子が、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されている状態となっていてもよい。
【0076】
遷移金属源としては、上記製造方法1の工程1におけるドープ金属源と同一のものを用いることができる。
【0077】
遷移金属源の添加量は、分散液を100質量%として0.01~0.5質量%が好ましく、0.05~0.3質量%がより好ましい。遷移金属源の含有量の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、遷移金属源の含有量の上限が上記範囲であることにより、変色量がより一層向上する。
【0078】
工程3’において、分散液の温度の下限は0℃が好ましく、20℃がより好ましい。分散液の温度の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、分散液の温度の上限は特に限定されず、溶媒の沸点以下であればよい。
【0079】
工程3’での反応時間は特に限定されず、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。反応時間の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、反応時間の上限は特に限定されず、1時間程度である。
【0080】
工程3’では、上記温度範囲で、分散液を撹拌することが好ましい。撹拌することにより、工程3’での反応効率がより一層向上する。
【0081】
(工程4’)
以上説明したフォトクロミック材料用ナノ粒子の製造方法2は、工程3’の後に、工程3’で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子を貧溶媒に添加して分散媒中で凝集させ、遠心分離させる工程4’を有していてもよい。工程4’を有することにより、未反応の原料や副反応生成物を取り除き、より一層純度の高いフォトクロミック材料用ナノ粒子を調製することができる。
【0082】
分散媒、貧溶媒としては、上記製造方法1の工程3における分散媒及び貧溶媒と同一のものを用いることができる。
【0083】
工程4’では、フォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された分散媒を静置することにより、分散媒中でフォトクロミック材料用ナノ粒子を凝集させればよい。静置中のフォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された分散媒の温度の温度は0~30℃が好ましく、15~25℃がより好ましい。フォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された分散媒の温度が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子がより一層凝集し易くなる。
【0084】
工程4’でのフォトクロミック材料用ナノ粒子が添加された溶媒の静置時間は特に限定されず、30秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。反応時間の下限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子の収率がより一層向上する。また、反応時間の上限は特に限定されず、1時間程度である。反応時間の上限が上記範囲であることにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子がより一層水に再分散し易くなる。
【実施例
【0085】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0086】
実施例1
(工程1)
フラスコに水100mlを入れ、酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))547mg、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)(Cu(C)7mg、及び、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)1mLを添加した。
【0087】
次いで、撹拌しながらpH調整剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を添加し溶液を調製した。溶液のpHは10であった。
【0088】
室温で30分間撹拌しながら窒素ガスを溶液に流し、溶液から発生するガスを抜いた。
【0089】
(工程2)
工程1で調製された溶液を強撹拌しながら、第16族元素含有化合物であるNaSを276mg添加した。次いで、NaSを添加して溶液を100℃で24時間加熱し、フォトクロミック材料用ナノ粒子のナノ結晶を調製した。
【0090】
フォトクロミック材料用ナノ粒子のナノ結晶にエタノールを添加し、フォトクロミック材料用ナノ粒子を凝集させた。遠心分離機でフォトクロミック材料を沈殿させ、フォトクロミック材料用ナノ粒子を得た。フォトクロミック材料用ナノ粒子のCu元素のドープ量は、Zn元素及びCu元素のモル数の合計を100モル%として、1モル%であった。
【0091】
得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子の平均粒子径を、試料水平型多目的X線回折装置(リガク社製 商品名Ultima IV)により測定される散乱ピークの線幅から算出した。
【0092】
実施例2
ビス(アセチルアセトナト)銅(II)(Cu(C)の添加量を変え、フォトクロミック材料用ナノ粒子のCu元素のドープ量を3%とした以外は実施例1と同様にして、フォトクロミック材料用ナノ粒子を得た。
【0093】
比較例1
ビス(アセチルアセトナト)銅(II)(Cu(C)を添加せず、フォトクロミック材料用ナノ粒子のCu元素のドープ量を0%とした以外は実施例1と同様にして、フォトクロミック材料用ナノ粒子を得た。
【0094】
得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子のXRD(X線回折)を、XRD測定装置(リガク社製 製品名Ultima IV)を用いて散乱ピークの線幅から算出した。結果を図2に示す。
【0095】
図2の結果から、実施例1、実施例2及び比較例1で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子は、立方晶の結晶構造を有することが分かった。
【0096】
実施例1及び比較例1で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子に、波長365nmの紫外線を17.5mW/cm、照射時間5秒間の条件で照射し、吸収スペクトル測定機(オーシャンオプティクス社製、製品名Ocean FX)を用いて、500nmのスペクトルでの吸光度変化を測定した。結果を図3に示す。また、実施例1のフォトクロミック材料用ナノ粒子の様子の写真を図4に示す。
【0097】
図3及び図4の結果から、実施例1では紫外線を5秒間照射するとフォトクロミック材料用ナノ粒子が着色状態になり、1分程度経過後には元の状態に戻ることが分かった。
【0098】
これに対し、比較例1では紫外線を照射してもフォトクロミック材料用ナノ粒子が殆ど着色状態にならず、紫外線を照射してもフォトクロミック材料用ナノ粒子が殆ど着色しないことが分かった。
【0099】
実施例1で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子に、波長365nmの紫外線を17.5mW/cm、照射時間5秒間の条件で照射し、紫外線の吸収を、吸収スペクトル測定機(オーシャンオプティクス社製、製品名Ocean FX)を用いて、300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化により測定した。紫外線照射完了後1秒の結果を図5、10秒後の結果を図6、40秒後の結果を図7に示す。
【0100】
図5~7の結果から、実施例1では紫外線照射後フォトクロミック材料用ナノ粒子が着色状態になり、40秒程度経過後には元の状態に戻ることが分かった。
【0101】
比較例2
(工程1)
フラスコに水140mLを入れ、酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))1536mg、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)(Cu(C)19.1mg、及び、下記式で示されるポリ(エチレングリコール)ビス(カルボキシメチル)エーテルを0.63mL添加し、100℃まで加熱した。
(工程2)
工程1で調製された溶液を強撹拌しながら、第16族元素含有化合物であるNaSを1310 mg添加した。次いで、NaSを添加して溶液を100℃で24時間加熱し、フォトクロミック材料用ナノ粒子のナノ結晶を調製した。次いで、遠心分離機でフォトクロミック材料を沈殿させ、フォトクロミック材料用ナノ粒子を得た。
【0102】
【化1】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
【0103】
比較例3
(工程1)
フラスコに水100mLを入れ、酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))547mg、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)(Cu(C)7mgを添加した。
【0104】
次いで、撹拌しながらpH調整剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を添加し溶液を調製した。溶液のpHは10であった。
【0105】
室温で30分間撹拌しながら窒素ガスを溶液に流し、溶液に溶解する酸素を取り除いた。
【0106】
(工程2)
工程1で調製された溶液を強撹拌しながら、第16族元素含有化合物であるNaSを276mg添加し、15分撹拌することにより、フォトクロミック材料用ナノ粒子を調製した。当該フォトクロミック材料用ナノ粒子は、遠心分離機により沈殿させ、固体として調製した。
【0107】
比較例2及び比較例3で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子に、波長365nmの紫外線を17.5mW/cm、照射時間5秒間の条件で照射し、紫外線の吸収を、吸収スペクトル測定機(オーシャンオプティクス社製、製品名Ocean FX)を用いて、300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化により測定した。比較例2の紫外線照射完了後1秒の結果を図8、10秒後の結果を図9、40秒後の結果を図10に示す。また、比較例3の紫外線照射完了後1秒の結果を図11、10秒後の結果を図12、40秒後の結果を図13に示す。
【0108】
図8図13の結果から、比較例2及び比較例3では、紫外線を照射してもフォトクロミック材料用ナノ粒子が殆ど着色状態にならないことが分かった。
【0109】
遷移金属をドープしていない遷移金属未吸着フォトクロミック材料用ナノ粒子を調製後に、遷移金属未吸着フォトクロミック材料用ナノ粒子分散液に遷移金属源(遷移金属イオン)を添加して、遷移金属を後からフォトクロミック材料用ナノ粒子にドープ及び/又は吸着させることによっても、フォトクロミック材料用ナノ粒子合成時に遷移金属をドープした場合と同様にフォトクロミック反応を示すことを、以下の実施例3に示す。
【0110】
実施例3
比較例1で調製した、Cuをドープしていないフォトクロミック材料用ナノ粒子(ZnSナノ粒子)20mgを0.5mLの水に分散させ、水分散液を調製した。また、別途ビス(アセチルアセトナト)銅(II)(Cu(C)0.5mgを2mLの水に溶解させ、水溶液を調製した。フォトクロミック材料用ナノ粒子の水分散液に、Cu(Cの水溶液を添加して混合液を調製し、室温で約2分間撹拌した。Cu(Cの添加量は、混合液を100質量%として2.4質量%であった。次いで、混合液にエタノールを添加し、遠心分離機でフォトクロミック材料用ナノ粒子を沈殿させ、フォトクロミック材料用ナノ粒子を得た。得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子は合成時にCuをドープしたものと同様に、紫外光照射(365nm)によってフォトクロミズムを示した。
【0111】
実施例3で得られたフォトクロミック材料用ナノ粒子に、波長365nmの紫外線を17.5mW/cm、照射時間5秒間の条件で照射し、紫外線の吸収を、吸収スペクトル測定機(オーシャンオプティクス社製、製品名Ocean FX)を用いて、300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化により測定した。紫外線照射を完了して1秒後の結果を図14、10秒後の結果を図15、40秒後の結果を図16に示す。
【0112】
図14~16の結果から、実施例3では紫外線照射後フォトクロミック材料用ナノ粒子が着色状態になり、40秒程度経過後には吸光度変化が減少することが分かった。
【0113】
実施例1~3、及び、比較例1で調製した試料の電子スピン共鳴(EPR)を、紫外光照射前、及び、照射後において測定した。具体的には、試料を石英管内で脱気した。XバンドのEPR測定は77KでBruker EMXシステムを使用して行った。365nmのLED光(THORLABS、M365LP1)によって試料を励起した。マイクロ波電力0.3mW、変調振幅0.4mTの条件で、電子スピン共鳴(EPR)を測定した。実施例1の結果を図17、実施例2の結果を図18、実施例3の結果を図19、比較例1の結果を図20に示す。
【0114】
図17図19の結果から、実施例1~3では、紫外光照射前にCu2+由来のシグナルが見られないことから、ナノ粒子に含まれるCuはCuになっていることを示している。また、紫外光照射後の磁場340mT以下の領域で、チャートの上下にブロードのCu2+由来のピークが見られ、紫外光照射によりCuがCu2+に酸化されていることが確認された。これに対し、図20の結果から、比較例1では、紫外光照射後にチャートの上下にシャープなSのラジカルアニオンのピークのみが観察された。
【0115】
(水分散液中での吸収スペクトル変化)
実施例2で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子を水に分散させて、水分散液を調製した。水分散液中のフォトクロミック材料用ナノ粒子の含有量は、水分散液を100質量%として2.9質量%であった。また、水分散液の温度は約25℃であった。当該水分散液を用いて、目視では観測できない程短い時間領域における吸収スペクトル変化(過渡吸収スペクトル)の測定を行った。測定は、株式会社ユニソクの協力を経て行い、RIPT(Randomly Interleaved Pulse Train Methods)法によるpicoTASを用いて行った。励起光として355nmのピコ秒パルスレーザーを用いた。ピコ秒パルスレーザーの強度は20μJ/pulseであった。ピコ秒パルスレーザー照射を完了して200ナノ秒後の結果を図21、600ナノ秒後の結果を図22、1800秒後の結果を図23に示す。
【0116】
実施例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子(Cu 1%)、及び、比較例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子(Cu 0%)においても、上記実施例2と同様に水に分散させて水分散液を調製し、過渡吸収スペクトルの測定を行った。図24に、波長600nmでプローブした吸光度変化の測定結果を示す。
【0117】
図21図24の結果から、光励起直後から、可視光から近赤外領域にかけて幅広い吸収が観測された。この吸収スペクトル形状は秒オーダーの長い時間スケール観測された吸収スペクトルとはわずかに異なる。その吸収バンドは1マイクロ秒程度で減衰し、別のスペクトル形状の吸収バンドが観測された。その後、その吸収バンドは数百マイクロ秒以上観測され続けており、この吸収バンドが固体で着色変化として観測された吸収バンドであることが示唆された。この現象は繰り返し観測され、実施例2で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子(CuをドープしたZnSナノ粒子)は、水分散液中で極めて速いフォトクロミズムを示すことが分かった。また、マイクロ秒オーダーの速い時間領域において、より大きな吸収変化を誘起していることが分かった。
【0118】
また、図24の結果から、実施例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子(Cu 1%)を水に分散させて調製した水分散液は、水分散液中で極めて速いフォトクロミズムを示すことが分かった。これに対し、Cu元素をドープしていない比較例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子(Cu 0%)を水に分散させて調製した水分散液は、水分散液中でフォトクロミズムを示さないことが確認された。
【0119】
(フォトクロミック材料用ナノ粒子のTEM観察)
実施例2で調製されたフォトクロミック材料用ナノ粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。観察は、JEM-2100plus透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製)を用いて、加速電圧200kVの条件で行った。具体的には、実施例2で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子を水に分散して分散液を調製した。当該分散液にグリッドを浸漬してナノ粒子を付着させて、TEM画像を撮影し、フォトクロミック材料用ナノ粒子の平均粒子径を測定した。結果を図25及び図26に示す。図25及び図26のTEM画像において、フォトクロミック材料用ナノ粒子が濃い黒色の固まりとして観察された。また、フォトクロミック材料用ナノ粒子の平均粒子径は約4nmであり、XRD測定よりもわずかに大きな測定値となった。
【0120】
(フォトクロミック材料用ナノ粒子の光耐久性)
実施例1で調製されたフォトクロミック材料用ナノ粒子(固体)に紫外光(波長365nm、強度6.5mW/cm)を長時間照射し、吸光度変化を測定した。具体的には、実施例1で調製されたフォトクロミック材料用ナノ粒子に上記紫外光を7時間照射して、吸光度変化を測定した。吸光度変化の測定は、紫外光照射前、10分後、20分後、50分後、2時間後、4時間後、7時間後の各時点において、紫外光照射を一旦止めて行った。吸光度変化の測定は、フォトクロミック材料用ナノ粒子に、波長365nmの紫外線を17.5mW/cm、照射時間5秒間の条件で照射し、紫外線の吸収を、吸収スペクトル測定機(オーシャンオプティクス社製、製品名Ocean FX)を用いて、300~800nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化により測定した。図27に、各時点での波長600nmでプローブした吸光度変化の測定結果を示す。
【0121】
図27の結果から、実施例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子は、紫外線を長時間照射した後であっても、照射前と同程度のフォトクロミック反応を示し、光耐久性を示すことが確認された。
【0122】
(フォトクロミック材料用ナノ粒子(固体)の吸収スペクトル測定)
実施例1(Cu 1%)、及び、比較例1(Cu 0%)で調製されたフォトクロミック材料用ナノ粒子(固体)の吸収スペクトルを測定した。測定は、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 HITACHI U-4100(積分球付き))を用いて、300~500nmの範囲のスペクトルでの吸光度変化により行った。結果を図28に示す。
【0123】
図28の結果から、実施例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子は、Cu元素をドープすることにより吸収が長波長側へシフトし、比較例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子と比較して、光感度が可視光側に伸びていることが分かった。
【0124】
(フォトクロミック材料用ナノ粒子表面の吸着水のフォトクロミズムへの影響)
実施例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子30mgをバイアル瓶に入れ、60℃で2時間真空乾燥した。乾燥前後のフォトクロミック材料用ナノ粒子のIRスペクトルを測定した。結果を図29に示す。また、乾燥前後のフォトクロミック材料用ナノ粒子に紫外光照射(波長365nm、強度17.5mW/cm)を行い、吸光度変化を測定した。結果を図30に示す。
【0125】
図29の結果から、フォトクロミック材料用ナノ粒子を真空乾燥することによって、IRスぺクトルにおけるフォトクロミック材料用ナノ粒子表面の吸着水の水素結合に由来する波長3500~3000cm-1のブロードなピークが減少し、フォトクロミック材料用ナノ粒子の吸着水が減少したことがわかった。また、図30の結果から、表面に吸着水を有するフォトクロミック材料用ナノ粒子(乾燥前)は、紫外光を照射してからの消色速度が極めて速くなることがわかった。
【0126】
(フォトクロミック材料用ナノ粒子のフォトクロミズムの温度依存性)
実施例1で調製したフォトクロミック材料用ナノ粒子の紫外光照射での吸光度減衰を、測定温度を25℃から55℃の温度範囲で5℃ずつ昇温させて測定した。結果を図31に示す。25℃から55℃の温度範囲で温度が変化しても、紫外光照射による吸光度変化量及び減衰速度は殆ど変化がないことがわかった。温度依存性を示す従来のフォトクロミック材料は、上記使用条件ではフォトクロミック反応が速すぎて発色が悪いという問題があり、また、遅すぎて調光サングラスとして機能しないという問題がある。温度依存が抑制されたフォトクロミック材料は極めて少なく、このようなフォトクロミック材料は、季節や場所に制限されることなくフォトクロミック特性を発現することができる。温度依存が抑制されていることにより、例えば、真夏のビーチ、スキー場でのサングラスとして利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のフォトクロミック材料用ナノ粒子は、眼鏡、サングラス、ゴーグル等のアイウェア、動画ホログラムなどの応用に適した高速書き換え可能な記録材料;クレジットカード、紙幣、ブランド品等の偽造防止材等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0128】
1.フォトクロミック材料用ナノ粒子
2.ZnSナノ粒子
3.遷移金属
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31