IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トヨコーの特許一覧

<>
  • 特許-レーザ照射装置 図1
  • 特許-レーザ照射装置 図2
  • 特許-レーザ照射装置 図3
  • 特許-レーザ照射装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】レーザ照射装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/142 20140101AFI20240612BHJP
【FI】
B23K26/142
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023070690
(22)【出願日】2023-04-24
(62)【分割の表示】P 2019058806の分割
【原出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2023086846
(43)【公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506430026
【氏名又は名称】株式会社トヨコー
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】豊澤 一晃
(72)【発明者】
【氏名】前橋 伸光
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和久
(72)【発明者】
【氏名】沖原 伸一朗
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/009978(WO,A1)
【文献】特開2014-210290(JP,A)
【文献】実公昭50-009680(JP,Y1)
【文献】実開昭51-108297(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を所定の焦点において集光させる集光光学系及び前記焦点が照射ヘッド本体に対して相対移動するよう前記レーザ光の光軸を偏向させる偏向光学系を含む光学系と、
前記光学系を構成する複数の光学素子のうち最も照射対象物側に配置される最対物側光学素子よりも前記照射対象物側に突出して形成され、前記レーザ光が出射される開口を有するノズルと、
前記ノズルの内部に、主流方向が前記開口の中央部を指向する気体流を形成する気体流形成部と
を備え、
前記気体流形成部は、前記集光光学系において集光させたレーザ光の光軸方向と少なくとも一部が直交する方向に気体を噴出し、前記レーザ光の光軸を指向する気体流を形成する流路を備えること
を特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
レーザ光を所定の焦点において集光させる集光光学系及び前記焦点が照射ヘッド本体に対して相対移動するよう前記レーザ光の光軸を偏向させる偏向光学系を含む光学系と、
前記光学系を構成する複数の光学素子のうち最も照射対象物側に配置される最対物側光学素子よりも前記照射対象物側に突出して形成され、前記レーザ光が出射される開口を有するノズルと、
前記ノズルの内部に、主流方向が前記開口を指向する気体流を形成する気体流形成部とを備え、
前記気体流形成部により形成される前記気体流の流速が、前記開口の中央部において前記開口の内周縁部に対して大きくなり、
前記気体流形成部は、前記集光光学系において集光させたレーザ光の光軸方向と少なくとも一部が直交する方向に気体を噴出し、前記レーザ光の光軸を指向する気体流を形成する流路を備えること
を特徴とするレーザ照射装置。
【請求項3】
前記気体流形成部は、前記開口の中心軸周りに周方向に分布して複数設けられ、複数の前記気体流形成部がそれぞれ発生する複数の前記気体流が前記開口の内部で衝突するように構成されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
複数の前記気体流形成部の少なくとも2つが、前記開口の中心軸に対して対称に配置されること
を特徴とする請求項3に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記気体流形成部は、前記ノズルの内径側の空間部内に、外径側から内径側を指向して気体を噴出し、
前記開口の中心軸方向に対して傾斜した斜面部として形成される気体偏向部を有すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記最対物側光学素子は、前記気体偏向部の内径側に着脱可能に取り付けられる保護部材であること
を特徴とする請求項5に記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
前記気体流は、不活性ガスを主成分とすること
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記気体流は、前記流路内において膨張すること
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物の表面をレーザ光で照射してレーザ加工を行うレーザ照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いた表面処理に関する従来技術として、例えば、特許文献1には、レーザ光を照射対象物に照射する照射ヘッドに、レーザ光を所定の偏角だけ偏向させるウェッジプリズムを設け、このウェッジプリズムを入射光の光軸回りに回転させながらレーザ光を照射することによって、照射箇所(ビームスポット)が照射対象物の表面を円弧状に旋回しながら走査し、照射対象物の表面に付着した旧塗膜や異物等が除去(クリーニング)されることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、上述したウェッジプリズムの回転駆動を、気体の圧力を回転運動に変換するエアモータによって行うとともに、レーザ光が出射されるダクトの内部にエアモータの排気を導入することにより、光学素子やエアモータへの異物の付着を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5574354号
【文献】国際公開WO2016/009978号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたようなレーザ光を用いたクリーニングは、例えば鋼などの金属製構造物の表面に付着している旧塗膜の剥離や、表面付近に生成された錆等の異物を除去するのに有効である。
しかし、レーザ光の照射により照射対象物から剥離し、飛散した旧塗膜、錆、埃、スパッタなどの異物(煙状のものを含む)が照射ヘッドの内部に侵入し、保護ガラス等の光学素子に付着すると、光学的性能の低下や、光学素子の焼損などの原因となる。
これに対し、特許文献2に記載されたように、レーザ光が出射されるダクト(ノズル)の内部に気体を導入し、先端の開口から吐出させることにより、ノズルの内部を掃気(パージ)して異物の侵入を防止することも提案されている。
しかし、例えば回転式ウェッジプリズム等の偏向光学系を用いて、レーザ光を偏向させながら照射対象物の表面を走査するレーザクリーニング用の照射ヘッドの場合には、レーザ光が大きく偏向、シフトすることがない例えば溶接用や切断用の照射ヘッドに対して、レーザ光との干渉を防止するためノズル先端の開口の内径を大きくする必要がある。
このため、従来技術によって異物の侵入を防止することが困難であり、保護ガラス等の光学素子への異物付着や、これに起因する焼損が発生する場合があった。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、光学素子への異物の付着を抑制したレーザ照射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
本発明の第一のレーザ照射装置は、レーザ光を所定の焦点において集光させる集光光学系及び前記焦点が照射ヘッド本体に対して相対移動するよう前記レーザ光の光軸を偏向させる偏向光学系を含む光学系と、前記光学系を構成する複数の光学素子のうち最も照射対象物側に配置される最対物側光学素子よりも前記照射対象物側に突出して形成され、前記レーザ光が出射される開口を有するノズルと、前記ノズルの内部に、主流方向が前記開口の中央部を指向する気体流を形成する気体流形成部とを備え、前記気体流形成部は、前記集光光学系において集光させたレーザ光の光軸方向と少なくとも一部が直交する方向に気体を噴出し、前記レーザ光の光軸を指向する気体流を形成する流路を備えることを特徴とする。
これによれば、レーザ光が出射される開口の中央部を指向する気体流を形成することにより、開口の内径側の圧力を周囲の圧力に対して高くすることが可能であり、さらに、ノズルの内周面に沿って気体流を形成する場合のように、開口の中央部の圧力が開口の内周縁部に対して相対的に低くなって異物の侵入経路となることを防止できる。
これにより、照射対象物から飛散する異物がノズルの内部に侵入し、最対物側光学素子に付着することを防止できる。
【0007】
本発明の第二のレーザ照射装置は、レーザ光を所定の焦点において集光させる集光光学系及び前記焦点が照射ヘッド本体に対して相対移動するよう前記レーザ光の光軸を偏向させる偏向光学系を含む光学系と、前記光学系を構成する複数の光学素子のうち最も照射対象物側に配置される最対物側光学素子よりも前記照射対象物側に突出して形成され、前記レーザ光が出射される開口を有するノズルと、前記ノズルの内部に、主流方向が前記開口を指向する気体流を形成する気体流形成部とを備え、前記気体流形成部により形成される前記気体流の流速が、前記開口の中央部において前記開口の内周縁部に対して大きくなり、前記気体流形成部は、前記集光光学系において集光させたレーザ光の光軸方向と少なくとも一部が直交する方向に気体を噴出し、前記レーザ光の光軸を指向する気体流を形成する流路を備えることを特徴とする。
これによれば、上述した効果を確実に得ることができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記気体流形成部は、前記開口の中心軸周りに周方向に分布して複数設けられ、複数の前記気体流形成部がそれぞれ発生する複数の前記気体流が前記開口の内部で衝突するように構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ照射装置である。
請求項4に係る発明は、複数の前記気体流形成部の少なくとも2つが、前記開口の中心軸に対して対称に配置されることを特徴とする請求項3に記載のレーザ照射装置である。
これらの各発明によれば、複数の気体流が開口の内部で衝突することにより、開口の中央部の圧力をより向上させることができ、上述した効果を促進することができる。
【0009】
請求項5に係る発明は、前記気体流形成部は、前記ノズルの内径側の空間部内に、外径側から内径側を指向して気体を噴出し、前記開口の中心軸方向に対して傾斜した斜面部として形成される気体偏向部を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のレーザ照射装置である。
【0010】
請求項6に係る発明は、前記最対物側光学素子は、前記気体偏向部の内径側に着脱可能に取り付けられる保護部材であることを特徴とする請求項5に記載のレーザ照射装置である。
これによれば、仮にノズルの内側に異物が侵入して最対物側光学素子(保護部材)に付着した場合でも、これを取り外して清掃あるいは交換することにより、容易にレーザ照射装置の光学性能を回復することができる。
【0011】
請求項7に係る発明は、前記気体流は、不活性ガスを主成分とすることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のレーザ照射装置である。
これによれば、ノズル内部への異物の侵入を防止するパージガスと、照射対象物のビームスポット周辺の領域を不活性雰囲気として照射対象物の酸化を防止するシールドガスとの供給源を共用化し、レーザ照射装置の構成を簡素化することができる。
請求項8に係る発明は、前記気体流は、前記流路内において膨張することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のレーザ照射装置である。
これによれば、ノズル内の流路内に気体が噴出され、膨張、減圧することにより、気体の供給配管の端部から直接開口中央を指向させて気体を噴出させる場合に対して、気体の噴出に起因する騒音を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、光学素子への異物の付着を抑制したレーザ照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用したレーザ照射装置の実施形態における照射ヘッドの断面図である。
図2図1のII部拡大図である。
図3】実施形態の照射ヘッドにおけるノズルの三面図である。
図4】実施形態の照射ヘッドにおけるパーティションの三面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用したレーザ照射装置の実施形態について説明する。
実施形態のレーザ照射装置は、レーザ発振器からファイバを介して供給されるレーザ光を照射対象物に照射し、照射箇所(ビームスポットBS)が照射対象物の表面を円弧上の走査パターンに沿って走査することによって、旧塗膜の剥離や付着した異物除去等の各種クリーニング処理を行う照射ヘッド1を備えている。
照射対象物は、一例として、一般鋼、ステンレス鋼、アルミニウム系合金などの金属製の構造物や、コンクリート等である。
クリーニング処理は、照射対象物の表面で照射箇所(ビームスポットBS)を、例えば直径10mm程度あるいはそれ以上の比較的大径の円弧に沿って旋回させて走査し、照射対象物の表面に付着した旧塗膜(剥離すべき塗膜)、酸化皮膜等の各種皮膜、ダスト、錆、煤等を除去するレーザ加工(表面処理)である。
【0015】
図1は、実施形態のレーザ照射装置における照射ヘッドの断面図である。
照射ヘッド1は、ファイバFを介し、図示しないレーザ発振器から伝達される連続発振波(CW)のレーザ光Rを、図示しない照射対象物に照射するものである。
レーザ発振器として、例えば、平均出力が1~5kW程度のCWレーザを用いることができる。
照射ヘッド1は、例えば、作業者が手持ちして作業を行うことが可能なハンディタイプ(可搬式)のものであるが、予めティーチングされた所定のパスに沿って照射ヘッド1を移動しながらレーザ照射を行うことが可能なロボットに取り付けて用いることも可能である。
【0016】
照射ヘッド1は、フォーカスレンズ10、ウェッジプリズム20、保護ガラス30、回転筒40、モータ50、ハウジング60、ノズル70、パーティション80等を備えている。
図1は、フォーカスレンズ10の光軸及び回転筒40等の回転中心軸を含む平面で切って見た断面を示している。
【0017】
フォーカスレンズ10は、レーザ発振器から、ファイバFを経由して照射ヘッド1に伝達されたレーザ光Rが、図示しないコリメートレンズを通過した後に入射される光学素子である。
コリメートレンズは、ファイバの端部から出射されたレーザ光を、実質的に平行にする(コリメートする)光学素子である。
【0018】
フォーカスレンズ10は、コリメートレンズが出射するレーザ光Rを、所定の焦点位置において集光(合焦)させる光学素子である。
フォーカスレンズ10として、例えば、正のパワーを有する凸レンズを用いることができる。
なお、レーザ光Rによる照射対象物の表面における照射箇所であるビームスポットBSは、この焦点位置と一致し(フォーカス状態)、あるいは、焦点位置に近接して(デフォーカス状態)配置される。
フォーカスレンズ10は、ハウジング60の内部に固定される。
【0019】
ウェッジプリズム20は、フォーカスレンズ10が出射するレーザ光Rを、所定の偏角θ(図1参照)だけ偏向させ、入射側と出射側の光軸角度を異ならせる光学素子である。
ウェッジプリズム20は、入射側の光軸方向と直交する方向における一方の厚さが他方の厚さに対して大きくなるように、連続的に厚さが変化する板状に形成されている。
ウェッジプリズム20は、回転筒40に取り付けられている。
【0020】
保護ガラス30は、ウェッジプリズム20に対して光軸方向に沿って焦点位置側(照射対象物側・ビームスポットBS側)に隣接して配置された平板ガラス等からなる光学素子である。
保護ガラス30は、照射対象物側から飛散するスパッタや粉塵等の異物が、ウェッジプリズム20等の他の光学素子に付着することを防止する保護部材である。
保護ガラス30は、照射ヘッド1が有する光学系のうち、光軸方向に沿って最も焦点位置側に配置された光学素子(最対物側光学素子)であり、ノズル100の内部を介して、照射対象物側に露出することになる。
保護ガラス30は、ホルダ31を介して、パーティション80の内径側(フォーカスレンズ10の光軸に近い側)に着脱可能に取り付けられている。
【0021】
フォーカスレンズ10、ウェッジプリズム20、保護ガラス30は、例えば光学ガラス等の透明な材料からなる部材の表面に、反射防止や表面保護等を目的としたコーティングを施して構成されている。
【0022】
回転筒40は、内径側にウェッジプリズム20を保持する円筒状の部材である。
回転筒40は、フォーカスレンズ10の光軸、及び、フォーカスレンズ10に入射するレーザ光Rの光軸(コリメートレンズの光軸)と同心に形成されている。
回転筒40は、ハウジング60に対して、フォーカスレンズ10の光軸と一致する回転中心軸回りに回転可能に支持されている。
【0023】
モータ50は、回転筒40をハウジング60に対して回転中心軸回りに回転駆動する電動アクチュエータである。
モータ50は、例えば、回転筒40と同心に構成され、回転筒40の外径側に設けられた円環型モータ(中空モータ)として構成される。
モータ50のステータは、ハウジング60に固定されている。
モータ50のロータは、回転筒40に固定されている。
モータ50は、図示しない制御装置によって、回転筒40の回転速度が所望の目標回転速度と実質的に一致するように制御される。
回転筒40の目標回転速度は、例えば15000乃至20000rpm程度である。
【0024】
回転筒40の回転中心軸が照射対象物の照射箇所付近の表面と直交するよう照射ヘッド1の姿勢を維持し、モータ50が回転筒40とともにウェッジプリズム20を回転させることにより、ビームスポットBSは、照射対象物の表面に沿って、回転筒40の回転中心軸回りに円弧状に旋回することになる。
この状態で照射ヘッド1を照射対象物の表面に沿って並進移動させると、ビームスポットBSは、円弧状に旋回しつつ照射対象物の表面を走査することになる。
これにより、照射対象物上の任意の点に着目した場合には、例えば数msec程度の短時間のみレーザ光Rがパルス状に入射し、短時間のうちに急速加熱、急速冷却が順次行われる。
このとき、照射対象物の表面に形成された旧塗膜、錆、被膜等や、付着した異物などのクリーニング対象物は、破砕されて飛散する。
【0025】
ハウジング60は、照射ヘッド1の本体部の筐体を構成する円筒状の部材である。
ハウジング60の内部には、上述したフォーカスレンズ10、ウェッジプリズム20、保護ガラス30、回転筒40、モータ50等のほか、ファイバFの照射ヘッド1側の端部や、コリメートレンズ等が収容されている。
ハウジング60の照射対象物側の端部には、ハウジング60の本体部から内径側に張り出した端面61が形成されている。
端面61の中央部には、ノズル70のテーパ部72等が突き出される開口が形成されている。
【0026】
ノズル70は、ハウジング60の照射対象物側(端面61側)の端部に設けられた円筒状の部材である。
図3は、実施形態のノズルの三面図である。
図3(a)は、フォーカスレンズ10の光軸と直交する方向(図1と同じ方向)から見た図である。
図3(b)は、図3(a)のb-b部矢視図である。
図3(c)は、図3(b)のc-c部矢視図である。
【0027】
ノズル70は、基部71、テーパ部72、先端部73、パージガス供給管74等を有して構成されている。
基部71、テーパ部72、先端部73の中心軸は、フォーカスレンズ10の光軸及び回転筒40の回転中心軸と一致して配置されている。
基部71は、ハウジング60内における照射対象物側の端部近傍に挿入される円筒状の部材である。
基部71の外周面は、ハウジング60の内周面と間隔を隔てて対向して配置されている。
基部71における照射対象物側の端面は、ハウジング60の端面61と当接している。
基部71の外周面における一部には、ハウジング60に対する周方向の位置決め等のための凹部71aが形成されている。
【0028】
テーパ部72は、基部71から照射対象物側に突出した筒状の部分である。
テーパ部72は、基部71側に対して照射対象物側が小径となるように、テーパ状(円錐台状)に窄まって形成されている。
テーパ部72は、ハウジング60の端面61の開口から、照射対象物側に突出して配置されている。
【0029】
先端部73は、テーパ部72の照射対象物側の端部に設けられた円筒状の部分である。
先端部73の内径側には、レーザ光Rが照射ヘッド1の内部から照射対象物側へ出射されるとともに、ノズル70の内部からパージガスPGが照射対象物側へ噴出される開口O(図2参照)が設けられている。
先端部73の内径(開口Oの径)は、ウェッジプリズム20を回転させながらレーザ光Rを出射する際に、レーザ光Rと干渉しない程度の大きさに設定されている。
レーザ光Rは、先端部73の内周縁部に沿って旋回しながら出射される。
基部71、テーパ部72、先端部73は、例えば、アルミニウム系合金等の切削加工等により一体に形成される。
【0030】
パージガス供給管74は、ノズル70の内部に照射対象物側から飛散する異物等が侵入することを防止するパージガスPGを吹き込む気体流路である。
パージガス供給管74は、例えば、円形断面を有するパイプ材を曲げ加工することにより、本体部74a、先端部74b、湾曲部74cを一体に形成して構成されている。
本体部74aは、ハウジング60の内面にほぼ沿って配置され、後端部(照射対象物側とは反対側の端部)には、図示しない気体供給装置からパージガスPGが導入される。
先端部74bは、基部71を径方向に貫通する開口に沿って挿入され、突端部においてノズル70の内径側の空間部と連通する気体噴出部である。
先端部74bは、例えばロウ付けなどにより、基部71に固定されている。
湾曲部74cは、本体部74aと先端部74bとを接続する領域に設けられ、中心軸が円弧状となるように湾曲して形成されている。
パージガス供給管74は、ノズル70の中心軸対称に例えば2本が設けられている。
【0031】
パーティション80は、ノズル70の内部に配置される部材である。
図4は、実施形態のパーティションの三面図である。
図4(a)は、フォーカスレンズ10の光軸と直交する方向(図1と同じ方向)から見た図である。
図4(b)は、図4(a)のb-b部矢視図である。
図4(c)は、図4(b)のc-c部矢視図である。
パーティション80は、例えば、アルミニウム系合金等の切削加工等により、円筒部81、突出部82、斜面部83等を一体に形成して構成されている。
【0032】
円筒部81は、円筒状に形成され、ノズル70の基部71の内径側に挿入される部分である。
円筒部81の中心軸は、フォーカスレンズ10の光軸と一致して配置されている。
円筒部81は、その外周面がノズル70の基部71の内周面と当接した状態で基部71に固定されている。
円筒部81の内径側には、ウェッジプリズム20及びウェッジプリズム保持筒21が、回転筒40とともに回転可能でありかつ円筒部81の内周面と間隔を隔てた状態で挿入されている。
【0033】
突出部82は、円筒部81の照射対象物側の端部から、照射対象物側へ突出して形成された部分である。
突出部82は、円筒部81の周方向における一部の領域に、周方向に分布して設けられる。
突出部82は、円筒部81の周上における例えば2箇所に、円筒部81の中心軸に対称に配置されている。
突出部82の照射対象物側の端部は、回転筒40の回転中心軸方向における位置が、ノズル70における基部71とテーパ部72との境界付近に配置されている。
一対の突出部82の間隔には、保護ガラス30及びホルダ31が着脱可能に取り付けられている。
【0034】
斜面部83は、突出部82の表面部におけるノズル70の内周面と対向する領域を、突端部側(照射対象物側)が回転筒40の回転中心軸に対して近づくよう、この回転中心軸に対して傾斜した平面状に形成した面部である。
上述したパージガス供給管74の先端部74bは、円筒部81の周方向における斜面部83の中央部を指向してパージガスPGを噴出するよう配置されている。
斜面部83は、パージガス供給管74の先端部74bから噴出されたパージガスPGを、開口Oの中央部を指向するよう偏向させる気体偏向部である。
また、斜面部83は、パージガス供給管74と協働して、本発明にいう気体流形成部として機能する。
【0035】
実施形態において、クリーニング処理を行う際には、パージガス供給管74に、大気圧に対して高圧に加圧されたパージガスPGが供給される。
パージガスPGとして、シールドガスとしても機能する例えば窒素ガス等の不活性ガスを用いることができる。
この不活性ガスは、ビームスポットBS及びその旋回半径内(走査パターン内)を含む領域を、窒素が充満した雰囲気とし、酸素から遮断した状態とする。
【0036】
図2に示すように、パージガスPGは、パージガス供給管74の先端部74bから、ノズル70の内径側に、ノズル70の径方向(フォーカスレンズ10の光軸方向、回転筒40の回転軸方向と直交する方向)に沿って噴出される。
先端部74bから噴出したパージガスPGの気体流は、パーティション80の斜面部83と衝突し、その主流方向(速度成分が最大となる方向)がノズル70の先端部73の開口Oの中央部Cを指向するように偏向する。
【0037】
このとき、開口Oに到達するパージガスPGの流速が、開口の中央部Cにおいて開口Oの内周縁部よりも大きくなるように、斜面部83の角度や配置等は設定されている。
一対の斜面部83においてそれぞれ偏向したパージガスPGの気体流は、開口Oの中央部Cにおいて衝突する。
【0038】
その結果、開口Oの内部において、中央部Cの圧力はその周囲の領域(先端部73の内周面に沿った領域)に対して高圧となる。
衝突後のパージガスPGは、ノズル70の先端部73から照射対象物側へ噴出し、ビームスポットBS周辺の領域を不活性雰囲気に維持し、照射対象物の酸化等を抑制するとともに、照射時に照射対象物から飛散するホコリ、錆、旧塗膜その他の異物(煙状のものを含む)を、照射箇所から離間する方向へ吹き飛ばすとともに、これらがノズル70の内部に侵入することを防止する。
【0039】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)レーザ光Rが出射される開口Oの中央部Cを指向するパージガスPGの気体流を形成することにより、開口Oの内径側の圧力を周囲の圧力に対して高くすることが可能であり、さらに、ノズルの内周面に沿って気体流を形成する場合のように、開口の中央部の圧力が開口の内周縁部に対して相対的に低くなって異物の侵入経路となることを防止できる。
これにより、照射対象物から飛散する異物がノズル70の内部に侵入し、保護ガラス30に付着することを防止できる。
(2)斜面部83で偏向して開口Oに到達するパージガスPGの流速が、開口Oの中央部Cにおいて周辺部よりも高速となることにより、上述した効果を確実に得ることができる。
(3)軸対称に設けられた一対の斜面部83において偏向するパージガスPGの気体流が開口Oの内部で衝突することにより、開口Oの中央部の圧力をより向上させることができ、上述した効果を促進することができる。
(4)パージガス供給管74の先端部74bから噴出したパージガスPGがノズル70の内径側の空間部内で膨張し減圧した後に斜面部83に衝突して偏向されることにより、供給配管の端部から直接開口Oの中央部Cを指向させてパージガスPGを噴出させる場合に対して、パージガスPGの噴出に起因する騒音を抑制することができる。
(5)保護ガラス30がパーティション80の一対の斜面部83の内側に着脱可能に取り付けられることにより、仮にノズル70の内側に異物が侵入して保護ガラス30に付着した場合でも、これを取り外して清掃あるいは交換することにより、容易にレーザ照射装置の光学性能を回復することができる。
(6)パージガスPGとして不活性ガスである窒素ガスを用いることにより、ノズル70の内部への異物の侵入を防止するパージガスと、照射対象物のビームスポットBS周辺の領域を不活性雰囲気として照射対象物の酸化を防止するシールドガスとを共用化し、レーザ照射装置の構成を簡素化することができる。
【0040】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)レーザ照射装置の構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することが可能である。
(2)実施形態において、偏向光学系は、一例として、フォーカスレンズの光軸回りに回転する単一のウェッジプリズムであるが、このようなウェッジプリズムを複数組み合わせて用いてもよい。このような複数のウェッジプリズムは、一体的に回転する構成としてもよく、また、独立して回転する構成としてもよい。
また、ウェッジプリズムに代えて、あるいは、ウェッジプリズムとともに、例えば偏角可能なミラーを用いてレーザ光を偏向させるガルバノスキャナ等の他種の偏向光学系を用いてもよい。
また、走査パターンも実施形態のような円弧状のものに限らず、例えば多角形やその他の図形等、適宜変更することができる。
(3)実施形態においては、気体流を形成するパージガスとして例えば窒素ガス等の不活性ガスを用いたが、酸化等の変性が問題となりにくい照射対象物の場合には、例えば空気等の他種の気体を用いることも可能である。
(4)実施形態においては、ノズルの径方向に沿って内径側に噴出された気体を、斜面部によって偏向させて開口の中央部を指向する気体流としているが、気体流形成部の構成はこれに限らず適宜変更することができる。
(5)実施形態においては、気体流形成部(パージガス供給管74、斜面部83)は、ノズルの中心軸対称に一例として一対設けているが、気体流形成部の数はこれに限らず、適宜増減させることが可能である。
(6)実施形態において、レーザ照射装置は例えばクリーニング処理を行うものであったが、本発明はこれに限らず、例えばレーザ光をウィービングさせながらレーザ溶接を行うものや、照射対象物表面の酸化処理、照射対象物表面の粗面化など、他の用途を有するレーザ照射装置にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 照射ヘッド 10 フォーカスレンズ
20 ウェッジプリズム
30 保護ガラス 31 ホルダ
40 回転筒 50 モータ
60 ハウジング 61 端面
70 ノズル 71 基部
71a 凹部 72 テーパ部
73 先端部 74 パージガス供給管
74a 本体部 74b 先端部
74c 湾曲部 80 パーティション
81 円筒部 82 突出部
83 斜面部 PG パージガス
C 開口の中央部 BS ビームスポット
図1
図2
図3
図4