(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】平角線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/12 20060101AFI20240612BHJP
H01F 41/10 20060101ALI20240612BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20240612BHJP
B23K 26/402 20140101ALI20240612BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240612BHJP
【FI】
H02G1/12 080
H02G1/12 075
H01F41/10 C
H02K15/04 Z
B23K26/402
B23K26/00 G
H02K15/04 A
(21)【出願番号】P 2020150592
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】池田 遼太
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-054155(JP,A)
【文献】特開2009-016502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
H01F 41/10
H02K 15/04
B23K 26/402
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線の絶縁被膜の一部を除去する被膜除去工程を具備した平角線の製造方法において、
前記被膜除去工程は、
前記平角線の
うち前記平角線の本体となる導体からの前記絶縁被膜の剥離を予定している剥離予定領域に加熱処理を施して、
前記剥離予定領域の少なくとも一部でかつ前記絶縁被膜と前
記導体との間に所定の隙間を形成する隙間形成工程と、
前記所定の隙間を形成した後、
前記剥離予定領域における前記絶縁被膜を前
記導体から剥離する剥離工程とを有
し、
前記剥離工程では、前記剥離予定領域に対してねじりを加えて、前記絶縁被膜を剥離することを特徴とする平角線の製造方法。
【請求項2】
前記隙間形成工程において、レーザーの照射により前記
剥離予定領域に対して加熱処理を施す請求項1に記載の平角線の製造方法。
【請求項3】
レーザーの照射により前記絶縁被膜に切れ目を入れて、前記
剥離予定領域を画定する剥離領域画定工程をさらに有する請求項1又は2に記載の平角線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角線の製造方法に関し、特に平角線の絶縁被膜を除去するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に鑑み電気自動車やハイブリッド車など、車両の駆動装置やその周辺機器にモータを採用する動きが加速している。上記車両へ搭載されるモータには、搭載可能なスペースの関係上、小型であることが求められる一方で、車両の駆動性能を向上させるべく高出力であることが求められることが多い。
【0003】
ここで、モータの高出力化のためには、ステータコイルに流す電流値を高める必要がある。その一方で、スペースが制限された条件下で効率よくコイルに流れる電流値を高めるためには、断面が略矩形状をなし占積率が相対的に高い平角線(平角導線)でコイルを構成することが考えられる。
【0004】
この平角線は、ステータコアの円周方向に一定の間隔で形成されたスロット内に予め定められた順序で配置されることにより、三相のコイルを構成する。一方、この平角線は周囲を絶縁被膜で覆われた形態をなす。よって、各相を構成する平角線を電気的に接続するためには、平角線の端部の絶縁被膜を除去して平角線の端部同士を接合する必要がある。
【0005】
ここで、例えば特許文献1には、平角線の端部の向きを変えながら、当該端部に向けて粒体を投射することにより、端部の絶縁被膜を除去するブラスト処理工程を備えた絶縁被膜の除去方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、平角線をその長手方向軸線まわりに回転させながら所定の方向に平角線を搬送して、搬送方向に沿って設けられた複数の切断加工工程で、平角線に順次切断加工を施して、平角線の外周に設けられた絶縁被膜をその全周にわたって除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-239689号公報
【文献】特開2014-060860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のように、粒体の投射により絶縁被膜を除去する方法だと、剥離までに一定の投射時間を要するため、生産効率が良いとは言えない。ましてや、この方法だと、全部で四面ある平角線の平坦面それぞれに対して粒体の投射を行う必要があるため、生産効率の低下は避けられない。
【0009】
特許文献2に記載のように、切断加工で絶縁被膜を除去する方法であれば、特許文献1に記載の方法と比べて毎々の剥離作業(切断作業)に要する時間は短くて済む。しかしながら、この方法を採用した場合であっても、全部で四面ある平角線の平坦面それぞれに対して所定の処理(切断加工)を行う必要がある点は特許文献1に記載の方法を採用する場合と変わらない。よって、依然として生産効率の向上が課題となる。また、この方法だと、切断加工により絶縁被膜と共に導体の一部を削り取ることになるため、絶縁被膜だけでなく導体をなす銅の切削カスが少なからず発生する。これでは、高価な材料である銅の切削ロスが避けられず、歩留まりの面でも好ましくない。
【0010】
以上の事情に鑑み、本明細書では、平角線を製造するに際し、効率よくかつ歩留まり良く絶縁被膜を除去可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題の解決は、本発明に係る平角線の製造方法によって達成される。すなわち、この製造方法は、平角線の絶縁被膜の一部を除去する被膜除去工程を具備した平角線の製造方法であって、被膜除去工程が、平角線の絶縁被膜のうち所定の領域に加熱処理を施して、絶縁被膜と平角線の本体となる導体との間に所定の隙間を形成する隙間形成工程と、所定の隙間を形成した後、絶縁被膜の所定の領域を平角線の導体から剥離する剥離工程とを有する点をもって特徴付けられる。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、平角線の絶縁被膜に対して加熱処理を施した際、加熱条件の如何によっては、絶縁被膜の被加熱領域と平角線の本体となる導体との間に所定の隙間が形成されることを知見するに至った。本発明は、当該知見に基づいて成されたものであり、平角線の絶縁被膜のうち除去すべき所定の領域に加熱処理を施して、平角線の導体との間に所定の隙間を形成することを特徴とする。このように絶縁被膜と導体との間に所定の隙間を形成した後であれば、絶縁被膜と導体との密着状態が解消されているので、絶縁被膜の剥離を容易に行うことができる。また、絶縁被膜と導体との間に所定の隙間が生じていれば、この隙間を剥離の起点として例えば絶縁被膜をその全周にわたって一度の剥離動作で剥離させることができる。よって、周囲の四面それぞれに対して被膜除去作業を行う必要のある従来手段と比べて短時間で不要な絶縁被膜を除去することが可能となる。
【0013】
また、加熱処理であれば、その範囲、程度(温度)などを比較的簡易に設定可能であるから、隙間形成のための適切な条件設定についても容易に行うことができる。よって、本発明によれば、剥離のための準備を容易にかつ短時間で実施することができる。また、加熱により隙間を形成した後、剥離することで、導体を傷付けることなく絶縁被膜のみを除去することができるので、導体の切削ロスのような問題も生じない。よって、歩留まりの面でも従来の手法に比べて優位である。
【0014】
また、本発明に係る平角線の製造方法においては、隙間形成工程において、レーザーの照射により絶縁被膜の所定の領域に対して加熱処理を施してもよい。
【0015】
このように、絶縁被膜に対する加熱処理をレーザーの照射により実施することによって、より効率よく短時間で絶縁被膜と導体との間に所定の隙間を形成することができる。すなわち、レーザーは加熱範囲や加熱量を自在に設定することのできる加熱手段である。また、焦点の設定次第で、通常、一定の透過性を有する樹脂製の被膜本体を透過して導体表面に直接レーザーを照射することができる。これらの点から、レーザーであれば所定の範囲のみに限ってかつ絶縁被膜と導体との界面をピンポイントで瞬時に加熱することができる。よって、エネルギー面でも作業時間の面でもさらに効率よく絶縁被膜と導体との間に隙間を形成することができる。
【0016】
また、本発明に係る平角線の製造方法においては、絶縁被膜に切れ目を入れて、導体から剥離すべき領域を画定する剥離領域画定工程をさらに設けてもよい。また、この際、レーザーの照射により絶縁被膜に切れ目を入れてもよい。
【0017】
このように、予め絶縁被膜に切れ目を入れて、導体から剥離すべき領域を画定しておくことで、絶縁被膜のうち狙った領域(剥離予定領域)のみを確実に導体から剥離させることができる。また、条件の設定次第で、一回の剥離作業だけで絶縁被膜を剥離させることができるので、剥離に要する時間も非常に短くて済み、生産効率の面でも好適である。また、この際、絶縁被膜に切れ目を入れる作業をレーザーの照射により行うことで、例えば刃などにより切れ目を入れる際に導体の一部が削り取られる等の問題も生じない。そのため、高価な材料である銅の切削ロスを回避でき、歩留まりの更なる良化を図ることが可能となる。もちろん、絶縁被膜に対する加熱処理と切断処理(切れ目を入れる処理)をともにレーザーの照射により行うようにすれば、設備の共通化による低コスト化、タクトタイムの向上等のメリットも併せて享受し得る。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、平角線を製造するに際し、効率よくかつ歩留まり良く絶縁被膜を除去可能とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る平角線の製造方法の要部の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示す剥離工程の詳細な手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図1に示す剥離領域画定工程を施し終えた状態の平角線の斜視図である。
【
図4】
図1に示す剥離領域画定工程の詳細を説明するための平角線の斜視図である。
【
図5】剥離領域画定工程でフラットワイズ側の平坦部に切れ目を入れているときの状態を表す平角線の断面図である。
【
図6】剥離領域画定工程でエッジワイズ側の平坦部に切れ目を入れているときの状態を表す平角線の断面図である。
【
図7】剥離領域画定工程でフラットワイズ側の平坦部からエッジワイズ側の平坦部にかけて連続的に切れ目を入れているときの状態を表す平角線の断面図である。
【
図8】剥離領域画定工程でフラットワイズ側の平坦部に
図5に示す切れ目とは異なる向きの切れ目を入れているときの状態を表す平角線の断面図である。
【
図9】
図1に示す隙間形成工程の詳細を説明するための平角線の斜視図である。
【
図10】隙間形成工程でフラットワイズ側の平坦部に隙間を形成しているときの状態を表す平角線の断面図である。
【
図11】
図2に示すねじり工程の詳細を説明するための図であって、ねじりを加える前の状態を表す平角線の側面図である。
【
図12】
図11に示す平角線及び第一の把持具のA-A切断線に沿った断面図である。
【
図13】
図2に示すねじり工程の詳細を説明するための図であって、ねじりを加えた状態を表す平角線の側面図である。
【
図14】
図13に示す平角線の(a)B-B切断線に沿った断面図と、(b)C-C切断線に沿った断面図である。
【
図15】ねじり工程及びねじり戻し工程を実施して得られた平角線の斜視図である。
【
図16】(a)(b)ともに矯正工程の概要を説明するための図であって、平角線のうち絶縁被膜が除去された部分の断面図である。
【
図17】絶縁被膜が除去された部分が切断された状態の平角線の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る平角線の製造方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、平角線の製造方法の要部の手順を示している。すなわち、本発明に係る平角線の製造方法は、平角線に設けられた絶縁被膜の一部を除去する被膜除去工程を具備するもので、被膜除去工程は、本実施形態では、剥離領域画定工程S1と、隙間形成工程S2と、剥離工程S3とを具備する。また、本実施形態では、剥離工程S3は、
図2に示すように、ねじり工程S31と、ねじり戻し工程S32と、矯正工程S33とを有する。以下、各工程S1~S3の詳細を順に説明する。
【0022】
(S1)剥離領域画定工程
この工程S1では、完成品としての平角線の端部となる部分を覆う絶縁被膜に切れ目を入れて、後工程の剥離工程S3で剥離すべき領域(剥離予定領域)を画定する。ここでは、例えば
図3に示すように、平角線1の外周を覆う絶縁被膜2のうち、平角線1のフラットワイズ側(幅広側)の平坦部2aに対して第一の切れ目3aを入れると共に、絶縁被膜2のエッジワイズ側(幅狭側)の平坦部2bに第二の切れ目3bを入れる。また、ここでは絶縁被膜2の平坦部2aに対して第一の切れ目3aとは異なる向きに第三の切れ目3cを入れる。なお、以下では、便宜上、平角線1の長手方向をX方向、フラットワイズ方向をY方向、エッジワイズ方向をZ方向として説明を行う。
【0023】
上述した切れ目3a~3cの形成には、種々の手段が採用可能である。すなわち絶縁被膜2を切断可能な手段であれば任意の手段が採用可能である。本実施形態では、レーザーの照射により絶縁被膜2を切断することで切れ目3a~3cを形成する場合を例にとって説明する。
【0024】
すなわち、本実施形態では、
図4に示すように、平角線1の周囲にレーザー照射装置11を配置し、このレーザー照射装置11を平角線1に対して相対移動させながら絶縁被膜2に向けて所定のレーザー(ここでは第一のレーザーL1と称する。以下、同じ。)を照射することで、所定の切れ目3a(3b,3c)を絶縁被膜2に形成する。例えば第一の切れ目3aがフラットワイズ側の平坦部2aに形成される場合、
図5に示すように、レーザー照射装置11を平坦部2aの厚み方向に離れた位置に配置し、このレーザー照射装置11をY方向に相対移動させながら第一のレーザーL1を平坦部2aに向けて照射することで、Y方向に伸びる第一の切れ目3aを平坦部2aに形成する。
【0025】
また、第二の切れ目3bがエッジワイズ側の平坦部2bに形成される場合、
図6に示すように、レーザー照射装置11をZ方向に相対移動させながら第一のレーザーL1を平坦部2bに向けて照射することで、Z方向に伸びる第二の切れ目3bを平坦部2bに形成する。
【0026】
なお、本実施形態のように、第一の切れ目3aと第二の切れ目3bとを共に第一のレーザーL1の照射により形成する場合、例えば
図7に示すように、フラットワイズ側の平坦部2aとエッジワイズ側の平坦部2bとの間の角部2cを跨ぐように、レーザー照射装置11を相対移動させながら、第一のレーザーL1を連続的に照射することによって、第一の切れ目3aと第二の切れ目3bとを連続的に形成してもよい。このようにすることで、相互につながった状態の第一の切れ目3aと第二の切れ目3bを各平坦部2a,2b上に形成することができる。
【0027】
上述した動作を平角線1の全周にわたって行うことにより、平角線1の表裏両側の平坦部2a,2a、及び幅方向両側の平坦部2b,2bにそれぞれ第一の切れ目3a,3aと第二の切れ目3b,3bが環状につながるように形成される(
図3を参照)。そして、これら環状の第一及び第二の切れ目3a,3bにより、剥離すべき領域(剥離予定領域4)と、それ以外の領域(絶縁被膜2のうち剥離予定領域4を除いた部分)とが区画される。言い換えると、剥離予定領域4の範囲が、第一及び第二の切れ目3a,3bにより絶縁被膜2の所定領域に画定される。
【0028】
また、上述したように、第三の切れ目3cが、フラットワイズ側の平坦部2aに形成される場合、
図8に示すように、レーザー照射装置11をX方向に相対移動させながら第一のレーザーL1をフラットワイズ側の平坦部2aに向けて照射することで、X方向に伸びる第三の切れ目3cを平坦部2aに形成する。この第三の切れ目3cはその役割を考慮して一方の平坦部2aにのみ形成すればよい。
【0029】
なお、剥離領域画定工程S1にて使用されるレーザー(第一のレーザーL1)の出力、スポット径は、各切れ目3a~3cを形成可能な限りにおいて任意に設定可能である。すなわち、照射により絶縁被膜2を厚み方向全域にわたって溶融又は気化可能な限りにおいて、かつ導体5に実質的なダメージを与えない限りにおいて、第一のレーザーL1の出力、スポット径などの照射条件は任意に設定することが可能である。
【0030】
(S2)隙間形成工程
この工程S2では、絶縁被膜2のうち剥離予定領域4の少なくとも一部に加熱処理を施して、被加熱領域となる剥離予定領域4の少なくとも一部と導体5との間に所定の隙間を形成する。本実施形態では、レーザーの照射により剥離予定領域4を構成する各平坦部2a,2bの全面に対して加熱処理を施すことで、上記所定の隙間を形成する。
【0031】
すなわち、本実施形態では、
図9に示すように、絶縁被膜2のうち加熱処理の対象となる領域から厚み方向に離れた位置にレーザー照射装置12を配置し、レーザー照射装置12を平角線1に対して相対移動させながら所定のレーザー(ここでは第二のレーザーL2と称する。以下、同じ。)を絶縁被膜2に向けて照射することで、第二のレーザーL2の被照射領域又はその近傍を加熱し、所定の隙間6(後述する
図10を参照)を形成する。
【0032】
ここで、第二のレーザーL2は、
図10に示すように、絶縁被膜2を透過して、導体5の表面5aに照射される。そのため、絶縁被膜2と導体5との境界が加熱され、加熱条件に応じて、耐熱温度が相対的に低い絶縁被膜2の導体5側の部分が状態変化又は構造変化を生じる。具体的には、絶縁被膜2の該当部分が溶融、気化、又は炭化を生じる。このような変化が生じることにより、加熱された導体5の表面5aと絶縁被膜2との間に所定の隙間6が形成される。言い換えると、隙間6の分だけ、絶縁被膜2が導体5から離れた状態となる。この場合、第二のレーザーL2の走査を制御することにより、隙間6の形成範囲が制御され得る。
【0033】
なお、隙間形成工程S2にて使用されるレーザー(第一のレーザーL2)の出力、スポット径などの照射条件は、絶縁被膜2と導体5との間に隙間6を形成可能な限りにおいて任意に設定可能である。すなわち、照射により絶縁被膜2の導体5側の一部に隙間6を生じ得る状態変化又は構造変化を付与する限りにおいて、第二のレーザーL2の出力、スポット径などの照射条件は任意に設定することが可能である。もちろん、絶縁被膜2がその厚み方向全域にわたって溶融又は気化することがないように、第二のレーザーL2の出力レベル(照射により絶縁被膜2に付与される熱エネルギー)を適切な大きさに制御することが肝要である。すなわち、剥離領域画定工程S1の際に使用した第一のレーザーL1の出力レベルよりも、第二のレーザーL2の出力レベルを低く設定することが肝要である。
【0034】
(S3)剥離工程
この工程S3では、隙間形成工程S2で絶縁被膜2と導体5との間に所定の隙間6を形成した後、絶縁被膜2の所定の領域(剥離予定領域4)を導体5から剥離する。本実施形態では、平角線1のうち剥離予定領域4に対応する部分にねじりを加える(ねじり工程S31)。
【0035】
(S31)ねじり工程
この工程S31では、例えば
図11に示すように、平角線1のうち剥離予定領域4に対応する部分の長手方向両側を第一の把持具21と第二の把持具22とで把持する。この場合、第一の把持具21は、例えば
図12に示すように、断面コの字状をなし、開口部21aの側から第一の把持具21を平角線1に差し込むことで、平角線1のうち剥離予定領域4に対応する部分の長手方向一方側を把持する。第二の把持具22についても、第一の把持具21と同様に断面コの字状をなし(図示は省略)、開口部の側から第二の把持具22を平角線1に差し込むことで、平角線1のうち剥離予定領域4に対応する部分の長手方向他方側を把持する。
【0036】
そして、上述のように第一及び第二の把持具21,22で平角線1を把持した状態から、何れか一方の把持具、ここでは第一の把持具21を平角線1の長手方向に沿った軸線Xまわりに回転(例えば
図12に示す矢印の向きに)させる。この際、第二の把持具22は
図11に示す姿勢を維持する。以上の動作により、平角線1のうち剥離予定領域4に対応する部分にねじりを加える。
図13は、平角線1の剥離予定領域4に対応する部分を90度ねじった状態を例示している。この場合、第一の把持具21は、
図14(a)に示すように、平角線1と共にねじり前の状態(
図12)から軸線Xまわりに90度回転した状態にある。一方、平角線1の剥離予定領域4に対応する部分には、0度より大きくかつ90度より小さいねじり変形が生じる。このねじり変形は、平角線1を主に構成する導体5のみならず導体5の外周を覆う絶縁被膜2に対しても付与される。
【0037】
ここで、導体5は、通常、銅などの金属で形成され、絶縁被膜2は、ポリエステル系やポリアミド系などの樹脂で形成される。このように、導体5と絶縁被膜2とでは、延性が少なからず異なるため、上述のようにねじりを加えて導体5と絶縁被膜2に相応の変形を付与することで、延性の差に起因して、相対的に延性の小さい絶縁被膜2が導体5の変形に追従できずに剥離を生じる。ここで、剥離予定領域4における絶縁被膜2の少なくとも一部と導体5との間には、隙間形成工程S2で所定の隙間6が形成されているので(
図9及び
図10を参照)、上述したねじりが加わることで、例えば隙間6を起点として絶縁被膜2が剥離予定領域4の全面にわたって導体5から容易にかつ確実に剥離し得る。
【0038】
また、本実施形態のように、第一の切れ目3a,3a間をつなぐように第三の切れ目3cが形成される場合(
図3を参照)、第三の切れ目3cが設けられた部分から平坦部2aが開くことで(
図14(b)を参照)、剥離した絶縁被膜2が導体5から容易に除去され得る。
【0039】
(S32)ねじり戻し工程
このようにして絶縁被膜2の剥離予定領域4を導体5から剥離させた後、ねじりが加えられた状態の平角線1に対して、ねじりを解消する向きのねじり(逆ねじり)を加える。この際、必要なねじり量は、ねじり工程S2で平角線1に付与したねじり量と同等であり、またねじり(逆ねじり)を加える部位もねじり工程S2で平角線1に付与した部位と同じ(剥離予定領域4に対応する部分)である。よって、このねじり戻し工程S32では、ねじり工程S31で使用した第一及び第二の把持具21,22を使用することができる。以上の動作により、平角線1のうち特に剥離予定領域4に対応する部分の形状が可及的に元に戻される。また、仮にねじり工程S32で剥離した絶縁被膜2が導体5から脱落していない場合であっても、ねじり戻しにより剥離した絶縁被膜2を導体5から脱落させ得る。これにより、
図15に示すように、剥離予定領域4において絶縁被膜2が除去され、導体5が露出した状態の平角線1が得られる。
【0040】
(S33)矯正工程
この工程S33では、ねじり戻し工程S3が実施された平角線1に対して、必要に応じて、所定の矯正加工を施す。具体的には、平角線1のうち絶縁被膜2が除去された部分(導体5が露出した部分)に対して、例えば型成形など所定の塑性加工を施すことで、絶縁被膜2が除去された部分の形状をねじり前の状態に戻す。本実施形態では、
図16(a)に示すように、成形面31aを有する一対の成形型31を用意する。そして、平角線1のうち導体5が露出した部分に一対の成形型31を近づけて、各々の成形面31aで導体5が露出した部分を挟み込む(
図16(b)を参照)。これにより、導体5が露出した部分の表面が均され、平坦な形状に矯正されると共に、断面形状がねじり前の形状(断面直方体形状)に矯正される。なお、矯正工程S33には、上述した型成形に限らず任意の手段(例えばローラによる圧延など)を採用できることはもちろんである。
【0041】
このようにして、絶縁被膜2が部分的に除去された平角線1を得た後、絶縁被膜2が除去された部分を切断することにより、端部(正確には長手方向両端部)に導体5の露出部分を有する平角線1を取得する(
図17を参照)。然る後、図示は省略するが、必要に応じて、導体5の露出部分における角部(例えば幅広側の平坦部と幅狭側の平坦部との間の角部、平角線1の最も長手方向両端側に位置する導体5の先端面部と幅広側の平坦部との間の角部、及び、先端面部と幅狭側の平坦部との間の角部)の一部又は全部に面取り加工を施す。なお、面取り加工の手段については任意であり、切削、型成形など種々の手段を適用することが可能である。また、面取り対象となる部位によって、面取り加工手段を異ならせても(複数の面取り加工手段を用いても)よい。
【0042】
以上のようにして、各角部に対応する面取り部を形成することによって、平角線1の端部に対する加工が完了する。然る後、所定の曲げ加工等を施すことにより、コイルセグメントとしての平角線が完成する。
【0043】
このように、本実施形態に係る平角線1の製造方法では、平角線1の絶縁被膜2のうち除去すべき所定の領域に加熱処理を施して、剥離工程S3の前に平角線1の導体5との間に所定の隙間6を形成した(
図10を参照)。絶縁被膜2と導体5との間に所定の隙間6を形成した後であれば、絶縁被膜2と導体5との密着状態が解消された状態で剥離工程S3を実施できるので、絶縁被膜2の剥離を容易に行うことができる。また、絶縁被膜2と導体5との間に所定の隙間6が生じていれば、この隙間6を剥離の起点として例えば絶縁被膜2をその全周にわたって一度の剥離動作(ここではねじり動作)で剥離させることができる。よって、周囲の四面それぞれに対して被膜除去作業を行う必要のある従来手段と比べて短時間で不要な絶縁被膜2を除去することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態では、隙間形成工程S2において、絶縁被膜2に対する加熱処理をレーザー(第二のレーザーL2)の照射により実施することによって、より効率よく短時間で絶縁被膜2と導体5との間に所定の隙間6を形成することができる。すなわち、第二のレーザーL2の焦点を適正な位置に設定することで、絶縁被膜2と導体5の界面をピンポイントで瞬時に加熱することができる。よって、エネルギー面でも作業時間の面でもさらに効率よく絶縁被膜2と導体5との間に隙間6を形成することができる。もちろん、第二のレーザーL2の照射による加熱で隙間6を形成するのであれば、出力調整により導体5にダメージを極力与えることなく絶縁被膜2のみを除去することができるので、導体5の切削ロスのような問題も生じない。以上より、本実施形態に係る方法によれば、歩留まり良く絶縁被膜2を除去することができる。
【0045】
また、本実施形態では、絶縁被膜2に切れ目3a,3bを入れて、導体5から剥離すべき領域(剥離予定領域4)を画定した後、剥離工程S3を実施するようにした。このように、予め絶縁被膜2に切れ目3a,3bを入れて剥離予定領域4を画定しておくことで(
図3を参照)、絶縁被膜2のうち狙った領域(剥離予定領域4)のみを確実に導体5から剥離させることができる。また、条件の設定次第で、一回の剥離作業だけで絶縁被膜2を剥離させることができるので、剥離に要する時間も非常に短くて済み、生産効率の面でも好適である。また、この際、絶縁被膜2の切断をレーザー(第一のレーザーL1)の照射により行うことで、例えば切削加工の際に導体5の一部が削り取られる等の問題も生じない。そのため、高価な材料である銅の切削ロスを回避でき、歩留まりの良化を図ることが可能となる。
【0046】
また、本実施形態に記載のように、剥離予定領域4にねじりを加えて絶縁被膜2を除去する場合(
図13を参照)、仮にレーザー以外の手段で切れ目3a,3bを入れて導体5が傷付いてしまうと、ねじりに伴い当該傷が起点となって導体5が最悪の場合破断する事態を招き得る。これに対して、本実施形態のようにレーザー(第一のレーザーL1)で切れ目3a,3bを入れてかつレーザー(第二のレーザーL2)で隙間6を形成した後、ねじりを加えて絶縁被膜2を剥離させるようにすれば、導体5が破断する事態を確実に回避して、安定した剥離が可能となる。また、容易に剥離できれば、ねじり工程S31におけるねじり量(ねじり角度)も小さくて済むので、ねじり戻し後の形状精度を容易に高めることができる。あるいは、ねじり戻し後の矯正工程S33を簡略又は省略することも可能となる。
【0047】
なお、本実施形態のように剥離領域画定工程S1と隙間形成工程S2の双方でレーザーを利用する場合、レーザー照射装置11(12)を共通化して照射条件のみを変更することで、さらなる低コスト化、タクトタイムの向上等のメリットも併せて享受し得る。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る平角線の製造方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0049】
例えば、上記実施形態では、剥離領域画定工程S1において、レーザー(第一のレーザーL1)の照射により絶縁被膜2の所定位置に切れ目3a,3bを入れる場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば刃部材を絶縁被膜2の所定位置に押し当てて、又はスライドさせて当該位置に切れ目3a,3bを入れてもよい。要は、導体5を極力傷付けない限りにおいて、任意の切断手段をとり得る。
【0050】
また、上記実施形態では、剥離領域画定工程S1として、絶縁被膜2のフラットワイズ側の平坦部2aに対して、Y方向に沿って伸びる第一の切れ目3aを形成すると共に、絶縁被膜2のエッジワイズ側の平坦部2bに対して、Z方向に伸びる第二の切れ目3bを形成し、かつX方向に沿って伸びる第三の切れ目3cをフラットワイズ側の平坦部2aに形成する場合を例示したが、もちろん、これ以外の形態をとることも可能である。例えば各切れ目3a~3cは必ずしも相互につながっている必要はない。また、確実に剥離し得る限りにおいて、各切れ目3a~3cの位置、形状、長さは任意に設定可能である。また、平角線1の断面が直方体形状であって、幅方向寸法に対して厚み方向寸法が非常に小さい場合や、絶縁被膜2が相対的に破断しやすい材質で、あるいは膜厚が非常に小さく破断しやすい場合など、条件によっては、第三の切れ目3cを省略することも可能である。もちろん、必要に応じて、上述した切れ目(第一~第三の切れ目3a~3c)以外の種類の切れ目をさらに形成してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、剥離領域画定工程S1の後に隙間形成工程S2を実施する場合を例示したが、両工程S1,S2の順序を入れ替えてもよい。さらにいえば、剥離領域画定工程S1を剥離工程S3と併せて実施してもよい。例えば図示は省略するが、ねじり工程S31で、第一の切れ目3aの形成予定位置が第一及び第二の把持具21,22による平坦部2aの把持領域の端部となるように、平角線1を各把持具21,22で把持してねじりを加えるようにしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、剥離工程S3として、ねじり工程S31とねじり戻し工程S32を少なくとも設けて、剥離予定領域4にねじりを加えることによって、剥離予定領域4の絶縁被膜2を剥離する場合を例示したが、もちろんこれには限定されない。予め絶縁被膜2と導体5との間に隙間6を形成しておくことで、ねじり以外の手段でも比較的容易に剥離することが可能である。例えば図示は省略するが、押当て部材を剥離予定領域4内の一対の平坦部2a,2aの一方又は双方に押し当てた状態から、平坦部2aの平面方向に沿った向きにスライドさせることによって、剥離予定領域4の絶縁被膜2を剥離させる方法をとることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 平角線
2 絶縁被膜
2a,2b 平坦部
2c 角部
3a,3b,3c 切れ目
4 剥離予定領域
5 導体
6 隙間
11,12 レーザー照射装置
L1,L2 レーザー
S1 剥離領域画定工程
S2 隙間形成工程
S3 剥離工程
S31 ねじり工程
S32 ねじり戻し工程
S33 矯正工程