(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/16 20060101AFI20240612BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C03C3/16
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2018095000
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017099975
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018071702
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 菜那
(72)【発明者】
【氏名】二野宮 晟大
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-74610(JP,A)
【文献】特開2010-208934(JP,A)
【文献】特開昭60-171244(JP,A)
【文献】特開2004-83408(JP,A)
【文献】特開2010-202418(JP,A)
【文献】特開2009-40663(JP,A)
【文献】特開2012-51781(JP,A)
【文献】特開2006-52119(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068125(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068124(WO,A1)
【文献】特開2018-104204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
P
2O
5成分 20.0~45.87%、
BaO成分 5.0~45.0%
Ln
2O
3成分 0超~15.0%(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)
B
2O
3成分 0%超~15.0%未満、
Y
2O
3成分 0~3.0%未満、
を含有し、
GeO
2成分を実質的に含有せず、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)が15.0%以上、
質量和(P
2O
5+B
2O
3)が44.96%以上、
質量比(ZnO/BaO)が0.1超、
質量比(SrO+CaO+MgO)/BaOが0.29以上、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、
(-0.00162×ν
d+0.625)≦(θg,F)≦(-0.00162×ν
d+0.660)の関係を満たし、
粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~5級を有する光学ガラス。
【請求項2】
1.57以上1.65以下の屈折率(n
d)を有し、50以上70以下のアッベ数(νd)を有する請求項1
に記載の光学ガラス。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項5】
請求項
4に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、加工歩留の向上に対する要求が強まっている。
【0003】
また、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられ、二次スペクトルを良好に補正するために低分散側のレンズに部分分散比の大きい光学材料が求められている。
【0004】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0005】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(ng-nF)/(nF-nC)・・・・・・(1)
【0006】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν
d)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν
d)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(
図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν
d)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν
d)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)。
【0007】
また、ガラスの製造工程における加工の際には、ガラスの加工性が悪いと研削・研磨工程や洗浄工程時などにおいて、ガラスの表面にヤケや曇りが生じやすくなる。この場合、ガラス内部のヤケや曇りが生じないようにガラス表面の研削・研磨を行う工程が増えるため、加工工程に多大な時間を要する。
特に低分散側(例えばアッベ数50以上70以下)の領域におけるP2O5成分を主成分とするBaO成分を含有する光学ガラスは、一般に耐酸性や摩耗度が悪化しやすく、ガラスの加工性がよくないため、耐酸性の良好な光学ガラスが求められている。
【0008】
更に、プロジェクタなどの熱を発生する光学機器に組み込まれる光学素子においては、使用環境の温度変動による光学系結像特性等に影響が生じ難い光学系を構成することが求められている。
【0009】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、屈折率(nd)1.57~1.65、アッベ数(νd)50以上70以下の高いアッベ数を有し、フッ素を含有しないリン酸系ガラスの加工性の改良や部分分散比の大きい硝材の要求が高まっている。このようなフッ素を含有しないリン酸系ガラスとしては、特許文献1に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光学ガラスは各種光学機器に使用するため、研磨や洗浄などが行われる。研磨工程では研磨材や、洗浄工程では洗剤などが使用され、ガラスの化学的耐久性、特に耐酸性が悪いものはキズになりやすいとされている。
また、光学設計をする際に低分散側の部分分散比は大きいものが好ましい。更に、温度変動による結像性能等への影響が生じ難い光学系を構成するにあたっては、温度が高くなったときに屈折率が低くなり、相対屈折率の温度係数がマイナスとなるガラスから構成される光学素子と、温度が高くなったときに屈折率が高くなり、相対屈折率の温度係数がプラスとなるガラスから構成される光学素子を併用することが、温度変化による結像特性等への影響を補正できる点で好ましい。この相対屈折率の温度係数は線膨張係数と相関があることが知られており、低分散側のリン酸系ガラスとしては、線膨張係数が小さいものが好ましい。
しかし、特許文献1に記載されているガラスはこのような要求に十分に応えるものとは言い難い。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、研磨工程や洗浄工程におけるガラスの加工が容易であり、光学設計において低屈折率低分散でありながら部分分散比が大きい特性をもつガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、P2O5成分を主成分とし、BaO成分及び希土類を必須成分とすることで、粉末法による耐酸性が良好であり、かつ部分分散比の大きいガラスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1)
質量%で、
P2O5成分 20.0~60.0%、
BaO成分 5.0~45.0%
Ln2O3成分 0超~15.0%
(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)
を含有し、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、
(-0.00162×νd+0.625)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.660)の関係を満たし、
粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~5級を有する光学ガラス。
【0015】
(2)
質量比Rn2O/(P2O5+B2O3)が0.1未満であることを特徴とする(1)記載の光学ガラス(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)。
【0016】
(3)
1.57以上1.65以下の屈折率(nd)を有し、50以上70以下のアッベ数(νd)を有する(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0017】
(4)
(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【0018】
(5)
(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0019】
(6)
(5)に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)の良好であり、かつ部分分散比の大きい光学ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(νd)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
【
図2】本願の実施例についての部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の光学ガラスは、質量%で、P2O5成分を20.0~60.0%、BaO成分を5.0~45.0%、Ln2O3成分を0超~10.0%含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00162×νd+0.625)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.660)の関係を満たし、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~5級を有する。
本発明によれば、P2O5成分を主成分とし、BaO成分及び希土類を必須成分とすることで、粉末法による耐酸性が良好であり、かつ部分分散比の大きいガラスが得ることができる。
【0023】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0024】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0025】
<必須成分、任意成分について>
本発明の光学ガラスにおいて、P2O5成分は必須の成分であり、ガラスを形成する主成分であるとともに、ガラスの粘性を高め、ガラスの安定性を高める成分である。
他方で、P2O5成分の含有量が少なすぎると、ガラスが不安定になるとともに粘性が低くなるおそれやガラスの安定性が悪化するおそれあるため、本発明の光学ガラスでは、P2O5成分の含有量は、好ましくは20.0%以上、より好ましくは25.0%以上、さらに好ましくは30.0%以上とする。
他方で、P2O5成分の含有量が多すぎると屈折率が下がり、部分分散比も小さくなってしまうため、P2O5成分の含有量は、好ましくは60.0%以下、より好ましくは56.0%以下、より好ましくは53.0%以下、さらに好ましくは50.0%以下とする。
P2O5成分は、原料としてAl(PO3)3、Ca(PO3)2、Ba(PO3)2、BPO4、H3PO4等を用いることができる。
【0026】
BaO成分は、ガラスの屈折率を高めるとともにガラスの安定化を高める効果があり、部分分散比を大きくする本発明における必須成分である。
従って、BaO成分の含有量は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは8.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上とする。
他方で、BaO成分の含有量が多すぎると耐酸性が悪化し、線膨張係数が大きくなり、本発明の光学ガラスが目的とする加工性の改良や線膨張が小さいガラスを作製することが難しくなる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは45.0%以下、より好ましくは40.0%以下、さらに好ましくは36.0%以下とする。
BaO成分は、原料としてBaCO3、Ba(NO3)2、Ba(PO3)2、BaF2、等を用いることができる。
【0027】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、0%超15.0%以下が好ましい。
特に、この質量和を0%超にすることで所望の屈折率を有しながら、粉末法耐酸性の減量率を小さくすることができる。Ln2O3成分の含有量の質量和は好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは3.0%超である。
他方で、この質量和を15.0%以下にすることで、部分分散比が小さくなりすぎず、ガラスの安定性を高めることができる。従って、Ln2O3成分の含有量の質量和は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下とする。
【0028】
P2O5成分およびB2O3成分の和に対するRn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量比は0.1未満が好ましい。
Rn2O/(P2O5+B2O3)の比率を適切にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑え、かつガラスが安定となると共に粉末法耐酸性の減量率が小さくなる。
従って、Rn2O/(P2O5+B2O3)は、好ましくは0.1未満、より好ましくは0.08未満、さらに0.05未満とする。
【0029】
B2O3成分は、希土類酸化物を含む本発明の光学ガラスにおいて、ガラス形成酸化物として欠かすことの出来ない必須成分である。特に本発明の光学ガラスでは、B2O3成分を0%超含有することで、ガラスの熔融性を高められる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%超とする。
他方で、B2O3成分の含有量を20.0%以下にすることで、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは15.0%未満とする。
B2O3成分は、原料としてH3BO3、Na2B4O7、Na2B4O7・10H2O、BPO4等を用いることができる。
【0030】
SrO成分は、0%超含有する場合に、所望の屈折率や分散を維持しながら、部分分散比を大きくする。
他方で、SrO成分の含有量が多すぎると、耐酸性が悪化し、ガラスが安定しなくなる。従って、SrO成分の含有量は、好ましくは35.0%以下、より好ましくは30.0%以下、より好ましくは28.0%以下とする。
SrO成分は、原料としてSr(NO3)2、SrF2、Sr(PO3)2等を用いることができる。
【0031】
SiO2成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの粘度を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、SiO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、安定したガラスを得ることができる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
SiO2成分は、原料としてSiO2、K2SiF6、Na2SiF6等を用いることができる。
【0032】
MgO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの安定化を高め、部分分散比を大きくすることができる任意成分である。
他方で、MgO成分の含有量を15.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による屈折率の低下や失透を低減できる。従って、MgO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%未満、さらに好ましくは10.0%未満とする。
MgO成分は、原料としてMgCO3、MgF2、MgO、4MgCO3・Mg(OH)2等を用いることができる。
【0033】
CaO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性やガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、CaO成分の含有量を18.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による、屈折率の低下や失透を低減できる。CaO成分の含有量は、好ましくは18.0%以下、より好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは13.0%未満とする。
CaO成分は、原料としてCaCO3、CaF2、等を用いることができる。
【0034】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、耐失透性を高め、比重を小さくでき、且つ化学的耐久性を高められる任意成分である。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.0%超としてもよい。
他方で、ZnO成分の含有量を20.0%以下にすることで、低分散を維持することができる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下とする。
ZnO成分は、原料としてZnO、ZnF2等を用いることができる。
【0035】
La2O3成分は、0%超含有することで、耐酸性の減量率を小さくし、屈折率を高めることができる任意の成分である。従って、La2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.0%超としてもよい。
他方で、含有量が多いと耐失透性が悪化し、部分分散比が小さくなるため、La2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満とする。
La2O3成分は、原料としてLa2O3、La(NO3)3・XH2O(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0036】
Gd2O3成分は、0%超含有することで、希土類の中で耐失透性が良好であり、かつ耐酸性の減量率を小さくすることができる任意の成分である。従って、Gd2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは1.5%超としてもよい。
他方で、含有量が多いと耐失透性が悪化し、部分分散比を小さくするため、Gd2O3成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%未満、さらに好ましくは8.0%未満とする。
Gd2O3成分は、原料としてGd2O3、GdF3等を用いることができる。
【0037】
Y2O3成分及びYb2O3成分は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、所望のアッベ数を維持しながらガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、Y2O3成分及びYb2O3成分のそれぞれの含有量を10.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による失透を低減でき、ガラスの材料コストを抑えられる。従って、Y2O3成分及びYb2O3成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Y2O3成分及びYb2O3成分は、原料としてY2O3、YF3、Yb2O3等を用いることができる。
【0038】
ZrO2成分は、0%超含有する場合に、耐酸性の減量率を小さくすることができる任意成分である。
他方で、ZrO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、所望のアッベ数を維持し、ZrO2成分の過剰な含有によるや耐失透性の低下を抑えられる。従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
ZrO2成分は、原料としてZrO2、ZrF4等を用いることができる。
【0039】
Nb2O5成分は、0%超含有する場合に耐酸性を良くし、部分分散比を高める任意成分である。
他方で、Nb2O5成分の含有量を10.0%以下とすることで、低いアッベ数を維持し、耐酸性の減量率を小さくすることができるため、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Nb2O5成分は、原料としてNb2O5等を用いることができる。
【0040】
WO3成分は、0%超含有する場合に、屈折率及び部分分散比を高め、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、WO3成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの可視光に対する透過率を低下し難くでき、且つ材料コストを抑えられる。従って、WO3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
WO3成分は、原料としてWO3等を用いることができる。
【0041】
TiO2成分は、0%超含有することで、耐酸性の減量率を小さくし、部分分散比を高める任意成分である。
他方で、TiO2成分の含有量を10.0%以下とすることで、所望のアッベ数を維持し、安定したガラスを得ることができる。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
TiO2成分は、原料としてTiO2等を用いることができる。
【0042】
Ta2O5成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、耐失透性を高め、且つ熔融ガラスの粘性を高められる任意成分である。
他方で、Ta2O5成分の含有量を5.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa2O5成分の使用量が減るため、ガラスの材料コストを低減できる。従って、Ta2O5成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とし、最も好ましくは含有しないとする。
Ta2O5成分は、原料としてTa2O5等を用いることができる。
【0043】
Li2O成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善し、且つ屈折率を高める任意成分である。従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.0%超としてもよい。
他方で、Li2O成分の含有量を10.0%以下にすることで、失透を低減でき、熔融ガラスの粘性が高められるため、ガラスへの脈理の発生を低減できる。従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Li2O成分は、原料としてLi2CO3、LiNO3、LiF等を用いることができる。
【0044】
Na2O成分及びK2O成分は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を改善でき、耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、Na2O成分及びK2O成分のそれぞれの含有量を10.0%以下にすることで、屈折率を低下し難くでき、且つ過剰な含有による失透を低減できる。従って、Na2O成分及びK2O成分のそれぞれの含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Na2O成分及びK2O成分は、原料としてNa2CO3、NaNO3、NaF、Na2SiF6、K2CO3、KNO3、KF、KHF2、K2SiF6等を用いることができる。
【0045】
GeO2成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
しかしながら、GeO2は原料価格が高いため、その量が多いと材料コストが高くなる。従って、GeO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とし、最も好ましくは含有しない。
GeO2成分は、原料としてGeO2等を用いることができる。
【0046】
Al2O3成分は、0%超含有する場合に、耐酸性の減量率を小さくし、耐失透性を高められる任意成分である。従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.0%超としてもよい。
他方で、Al2O3成分の含有量を10.0%以下にすることで、過剰な含有による失透を低減できる。従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%未満、さらに好ましくは8.0%未満とする。
Al2O3成分は、原料としてAl2O3、Al(OH)3、AlF3等を用いることができる。
【0047】
Ga2O3成分は、0%超含有する場合に、化学的耐久性及び耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、Ga2O3成分の含有量を10.0%以下にすることで、過剰な含有による失透を低減できる。従って、Ga2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
Ga2O3成分は原料としてGa2O3等を用いることができる。
【0048】
Bi2O3成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高めてアッベ数を低くでき、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、Bi2O3成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。従って、Bi2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
Bi2O3成分は、原料としてBi2O3等を用いることができる。
【0049】
TeO2成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、TeO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。また、TeO2は白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、TeO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
TeO2成分は、原料としてTeO2等を用いることができる。
【0050】
SnO2成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減することで白金の溶け込みを抑制しつつ、熔融ガラスの清澄を促進することができる任意成分である。
他方で、SnO2成分の含有量を3.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を低減できる。また、SnO2成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)の合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図ることができる。従って、SnO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%未満とする。
SnO2成分は、原料としてSnO、SnO2、SnF2、SnF4等を用いることができる。
【0051】
Sb2O3成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
一方で、Sb2O3成分の含有量が多すぎると、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.1%未満とする。
Sb2O3成分は、原料としてSb2O3、Sb2O5、Na2H2Sb2O7・5H2O等を用いることができる。
【0052】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分としては、上記のSb2O3成分に限定されず、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0053】
F成分は、0%超含有する場合に、ガラスのアッベ数を高め、ガラス転移点を低くし、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかし、F成分の含有量、すなわち上述した元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量が10.0%を超えると、F成分の揮発量が多くなるため、安定した光学恒数が得られ難くなり、均質なガラスが得られ難くなる。また、アッベ数が必要以上に上昇する。
従って、F成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、より好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは含有しない。
F成分は、原料として例えばZrF4、AlF3、NaF、CaF2等を用いることで、ガラス内に含有することができる。
【0054】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、10.0%以上50.0%以下が好ましい。
特に、この和を10.0%以上にすることで、屈折率を高め、ガラスの耐失透性を高められる。従って、RO成分の合計含有量は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは15.0%以上、より好ましくは20.0%以上、さらに好ましくは25.0%以上、さらに好ましくは28.0%以上とする。
他方で、この和を50.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による失透を低減でき、耐酸性の減量率や摩耗度が小さいものが得られる。従って、RO成分の合計含有量は、好ましくは50.0%以下、より好ましくは48.0%未満、さらに好ましくは45.0%未満とする。
【0055】
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率の低下を抑えられ、且つ失透を低減できる。従って、Rn2O成分は、好ましくは0%超、より好ましくは0.05%超、さらに好ましくは0.10%超とする。
他方で、この和を10.0%以下とすることで、粉末法耐酸性の減量率が小さくなる。Rn2O成分の含有量の質量和は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
【0056】
BaO成分に対するZnO成分の質量比は0.01以上であることが好ましい。これにより、線膨張係数が小さくなる。この質量比(ZnO/BaO)は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.025以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1超とする。
他方で、質量比(ZnO/BaO)を1.0以下とすることで、低分散を維持しながら所望の屈折率にすることができる。従って、質量比(ZnO/BaO)は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下とする。
【0057】
P2O5成分とB2O3成分の和(質量和)は30.0%以上が好ましい。これにより、ガラスが安定し、粉末法耐酸性を良好とする成分や部分分散比を大きくする成分が導入されやすくなる。P2O5とB2O3の質量和は、好ましくは30.0%以上、より好ましくは35.0%以上、さらに好ましくは40.0%以上とする。
他方で、この質量和が多すぎると、所望の屈折率及びアッベ数を得難くなるため、好ましくは65.0%未満、より好ましくは63.0%未満、より好ましくは60.0%未満、さらに好ましくは56.0%未満とする。
【0058】
BaO成分に対するSrO成分の質量比は2.00以下とすることで、粉末法耐酸性の減量率が小さくなり、かつ線膨張係数を小さくすることができる。従って、質量比(SrO/BaO)は、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.60以下とする。
【0059】
La2O3成分及びGd2O3の含有量の和(質量和)は、0%超が好ましい。これにより粉末法耐酸性の良好なものが取得できる。好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは3.0%超とする。
他方で、この質量和(La2O3+Gd2O3)は15.0%未満が好ましい。15.0%以上含有すると失透性が悪化し、安定したガラスの取得が困難となる。好ましくは15.0%未満、より好ましくは13.0%未満、さらに好ましくは8.0%未満とする。
【0060】
BaO成分に対するSrO成分、CaO成分及びMgO成分の含有量の和(質量和)の質量比は0.20以上が好ましい。これにより粉末法耐酸性の減量率が小さくなり、かつ線膨張係数が小さくなる。好ましくは0.20以上、より好ましくは0.22以上、さらに好ましくは0.24以上とする。
他方で、この質量比(SrO+CaO+MgO)/BaOを3.00以下とすることで所望の屈折率を有しながらガラスを安定にすることができる。好ましくは3.00以下、より好ましくは2.50以下、さらに好ましくは2.20以下とする。
【0061】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0062】
他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0063】
また、PbO等の鉛化合物及びAs2O3等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0064】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0065】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1100~1400℃の温度範囲で1~5時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、900~1300℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0066】
<物性>
本発明の光学ガラスは、所望の屈折率及び高アッベ数(低分散)を有する。
特に、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)の下限は、好ましくは1.57以上、より好ましくは1.58以上、さらに好ましくは1.59以上とする。
他方で、この屈折率の上限は、好ましくは1.65以下、より好ましくは1.64、さらに好ましくは1.63とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)の下限は、好ましくは50以上、より好ましくは52以上、さらに好ましくは54以上とする。このアッベ数の上限は、好ましくは70以下、より好ましくは68未満、さらに好ましくは65以下とする。
本発明の光学ガラスは、このような屈折率及びアッベ数を有するため、光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0067】
本発明の光学ガラスは、高い部分分散比(θg,F)を有することが好ましい。
より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(νd)との関係において、好ましくは(-0.00162×νd+0.625)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.660)の関係を満たす。
このように、本発明の光学ガラスでは、希土類元素成分を多く含有する従来公知のガラスよりも高い部分分散比(θg,F)を有する。そのため、ガラスの高屈折率及び低分散化を図りながらも、この光学ガラスから形成される光学素子を、色収差の補正に好ましく用いることができる。
ここで、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(-0.00162×νd+0.625)、より好ましくは(-0.00162×νd+0.630)、さらに好ましくは(-0.00162×νd+0.632)を下限とする。
他方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、(-0.00162×νd+0.660)以下、より具体的には(-0.00162×νd+0.658)以下、さらに具体的には(-0.00162×νd+0.656)以下であることが多い。本発明で特定される組成のガラスでは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(νd)がこの関係を満たすものであっても、安定なガラスを得られる。
【0068】
本発明の光学ガラスは、高い耐酸性を有することが好ましい。特に、JOGIS06-2009に準じたガラスの粉末法による化学的耐久性(耐酸性)は、好ましくは5級以上、より好ましくは4級以上、さらに好ましく3級以上が好ましい。
【0069】
ここで「耐酸性」とは、酸によるガラスの侵食に対する耐久性であり、この耐酸性は、日本光学硝子工業会規格JOGIS06-2009「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」により測定することができる。また、「粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1~3級である」とは、JOGIS06-2009に準じて行った化学的耐久性(耐酸性)が、測定前後の試料の質量の減量率で、0.65質量%未満であることを意味する。
なお、化学的耐久性(耐酸性)の「1級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.20質量%未満であり、「2級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.20質量%以上0.35質量%未満であり、「3級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.35質量%以上0.65質量%未満であり、「4級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.65質量%以上1.20質量%未満であり、「5級」は、測定前後の試料の質量の減量率が1.20質量%以上2.20質量%未満であり、「6級」は、測定前後の試料の質量の減量率が2.20質量%以上である。
【0070】
本発明の光学ガラスは、100~300℃における平均線熱膨張係数αが130(10-7℃-1)以下であることが好ましい。
すなわち、本発明の光学ガラスの100~300℃における平均線熱膨張係数αは、好ましくは130以下、より好ましくは125以下、より好ましくは120以下を上限とする。
【0071】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)は、好ましくは420nm、より好ましくは400nm、さらに好ましくは380nmを上限とする。
また、本発明の光学ガラスにおける、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ5)は、好ましくは380nm、より好ましくは370nm、さらに好ましくは360nmを上限とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍になり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0072】
[ガラス成形体及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスから作製したプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0073】
このように、本発明の光学ガラスから形成したガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子に用いることが好ましい。これにより、径の大きなガラス成形体の形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【実施例】
【0074】
本発明の実施例(No.1~No.32)及び比較例A、Bの組成、並びに、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、並びに、部分分散比(θg,F)、耐酸性、ガラスの線膨張係数(100-300℃)、分光透過率が5%及び80%を示す波長(λ5、λ80)を表1~表6に示す。
なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0075】
実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石英坩堝または白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100~1400℃の温度範囲で1~5時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000~1300℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0076】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(νd)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(nF)、C線(656.27nm)に対する屈折率(nC)の値を用いて、アッベ数(νd)=[(nd-1)/(nF-nC)]の式から算出した。
また、部分分散比は、C線(波長656.27nm)における屈折率nC、F線(波長486.13nm)における屈折率nF、g線(波長435.835nm)における屈折率ngを測定し、(θg,F)=(ng-nF)/(nF-nC)の式により算出した。
【0077】
また、実施例及び比較例のガラスの耐酸性は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」JOGIS06-2009に準じて測定した。すなわち、粒度425~600μmに破砕したガラス試料を比重グラムにとり、白金かごの中に入れた。白金かごを0.01N硝酸水溶液の入った石英ガラス製丸底フラスコに入れて、沸騰水浴中で60分間処理した。処理後のガラス試料の減量率(質量%)を算出して、この減量率(質量%)が0.20未満の場合を1級、減量率が0.20~0.35未満の場合を2級、減量率が0.35~0.65未満の場合を3級、減量率が0.65~1.20未満の場合を4級、減量率が1.20~2.20未満の場合を5級、減量率が2.20以上の場合を6級とした。このとき、級の数が小さいほど、ガラスの耐酸性が優れていることを意味する。
【0078】
また、実施例及び比較例のガラスの線膨張係数(100-300℃)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、温度と試料の伸びとの関係を測定することで得られる熱膨張曲線より求めた。
【0079】
また、実施例及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02-2003に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200~800nmの分光透過率を測定し、λ5(透過率5%時の波長)及びλ80(透過率80%時の波長)を求めた。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
これらの表のとおり、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(nd)が1.57以上であるとともに、この屈折率(nd)は1.65以下であり、所望の範囲内であった。
【0087】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(νd)が50以上であるとともに、このアッベ数(νd)は70以下であり、所望の範囲内であった。
【0088】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00162×νd+0.625)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.660)の関係を満たしていた。
【0089】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、耐酸性がいずれも5級以上であった。一方で、比較例Aの光学ガラスは耐酸性が6級であり、加工性が悪いガラスであること明らかとなった。
【0090】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、ガラスの線膨張係数(100-300℃)がいずれも130以下であった。
【0091】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ80(透過率80%時の波長)がいずれも420nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ5(透過率5%時の波長)がいずれも380nm以下であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、可視光に対する透過率が高く着色し難いことが明らかになった。
【0092】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、失透していない安定なガラスであった。
一方で比較例の光学ガラスBの光学ガラスは失透したため、ガラス化しなかった。
【0093】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00162×νd+0.625)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.660)の範囲にあり、且つ耐酸性が3~5級の光学ガラスを得ることができることが明らかになった。
【0094】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。