(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】高容量及び高エネルギーカソードを有するアルミニウム二次電池及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20240612BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20240612BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240612BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240612BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240612BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20240612BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240612BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20240612BHJP
H01M 10/39 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M4/46
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/80 C
H01M10/0568
H01M10/36 A
H01M10/39 D
(21)【出願番号】P 2019543312
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 US2018016396
(87)【国際公開番号】W WO2018148093
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-11-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】山田 正文
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/131132(WO,A1)
【文献】特開2017-33913(JP,A)
【文献】特開2002-343362(JP,A)
【文献】特開2013-28526(JP,A)
【文献】特開2011-198600(JP,A)
【文献】特開2014-93192(JP,A)
【文献】特表2013-516037(JP,A)
【文献】特開平6-124708(JP,A)
【文献】特開平1-296572(JP,A)
【文献】特開平9-120816(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031015(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードでのアルミニウムの可逆的堆積及び溶解を支持する前記アノード及び前記カソードとイオン接触する電解質とを含むアルミニウム二次電池において、前記アノードは、アノード活物質としてアルミニウム金属又はアルミニウム金属合金を含み、前記カソードは、X線回折により測定される0.43nm~2.0nmの面間隔d
002を有する膨張グラフェン間面間隔を有する炭素材料と、カソード活性層の総重量に基づいて任意選択の0~30重量%の導電性添加剤とを有する炭素材料のカソード活性層を含み、前記導電性添加剤は、0.33nm~0.36nmの面間隔d
002を有する非膨張グラフェン間面間隔を有する炭素材料から選択され、
前記電解質は、AlF
3、AlBr
3、AlI
3、AlF
xCl
(3-x)、AlBr
xCl
(3-x)、AlI
xCl
(3-x)、又はこれらの組み合わせを含み、xは0.01~2.0であり、
前記カソード活性層における前記炭素材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、炭化ポリマーファイバー、カーボンエアロゲル、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記炭素材料は、化学的又は物理的膨張処理前に0.27nm~0.42nmの面間隔d
002を特性として有し、前記面間隔d
002は、前記膨張処理後に0.43nmから2.0nmに増加した特性を有することを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記面間隔d
002は0.5nm~1.2nmであることを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項4】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記面間隔d
002は1.2nm~2.0nmであることを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項5】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記アルミニウム金属又はアルミニウム金属合金を支持するアノード集電体を更に含む、或いは炭素材料の前記カソード活性層を支持するカソード集電体を更に含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項6】
請求項5に記載のアルミニウム二次電池において、前記アノード集電体は、相互に接続された細孔を含む電子導電経路の多孔質ネットワークを形成するように相互に接続された導電性ナノメートルスケール化フィラメントの統合ナノ構造を含み、前記フィラメントは500nm未満の横断寸法を有することを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載のアルミニウム二次電池において、前記フィラメントは、エレクトロスピニングナノファイバー、気相成長炭素又は黒鉛ナノファイバー、炭素又は黒鉛ウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケール化グラフェンプレートレット、金属ナノワイヤ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される導電性材料を含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項8】
請求項2に記載のアルミニウム二次電池において、前記膨張処理は、前記炭素材料の酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載のアルミニウム二次電池において、制約熱膨張処理を更に含み、前記面間隔d
002は、膨張処理後に1.0nm~3.0nm、又は1.2nm~2.0nmに増加することを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項10】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記炭素材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される非炭素元素を含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項11】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記電解質は、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質、又はイオン液体電解質から選択されることを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項12】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記電解質は、n-ブチル-ピリジニウム-クロライド(BuPyCl)、1-メチル-3-エチルイミダゾリウム-クロライド(MEICl)、2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムクロリド、1,4-ジメチル-1,2,4-トリアゾリウムクロリド(DMTC)、又はこれらの混合物から選択される有機塩化物と混合されたアルミニウム塩を含むイオン液体を含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項13】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記電解質は又、前記カソードでのイオンの可逆的インターカレーション及びデインターカレーションを支持し、前記イオンは、カチオン、アニオン、又はその両方を含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項14】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、炭素材料の前記カソード活性層は、前記アルミニウム二次電池の放電中に電子を収集するカソード集電体として作動し、前記電池は、別の又は更なるカソード集電体を含まないことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項15】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、炭素の前記カソード活性層は、前記炭素材料をともに結合してカソード電極層を形成する導電性バインダー材料を更に含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項16】
請求項15に記載のアルミニウム二次電池において、前記導電性バインダー材料は、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、導電性ポリマー、ポリマーカーボン、又はこれらの誘導体を含むことを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項17】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記電池は、1.5ボルト以上の平均放電電圧と、総カソード活性層重量に基づいて、200mAh/gより大きいカソード比容量を有することを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項18】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記電池は、1.5ボルト以上の平均放電電圧と、総カソード活性層重量に基づいて300mAh/gより大きいカソード比容量を有することを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項19】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記電池は、2.0ボルト以上の平均放電電圧と、総カソード活性層重量に基づいて100mAh/gより大きいカソード比容量を有することを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項20】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池において、前記電池は、2.0ボルト以上の平均放電電圧と、総カソード活性層重量に基づいて200mAh/gより大きいカソード比容量を有することを特徴とするアルミニウム二次電池。
【請求項21】
前記カソード活性層は、X線回折により測定される0.43nm~2.0nmの面間隔d
002を有する膨張グラフェン間面間隔を有する炭素材料を含み、前記カソード層は、30重量%未満の、膨張グラフェン間面間隔を有さず、0.334nm~0.34nmの面間隔d
002を有する黒鉛を含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム二次電池におけるカソード活性層。
【請求項22】
請求項21に記載のカソード活性層において、前記炭素材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、炭化ポリマーファイバー、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、又はこれらの組み合わせから選択され、前記炭素材料は、化学的又は物理的膨張処理前の0.27nm~0.42nmの面間隔d
002を有し、前記膨張処理後に、前記面間隔d
002は、0.43nm~2.0nmに増加することを特徴とするカソード活性層。
【請求項23】
請求項1に記載のアルミニウム二次電池を製造する方法において、
(a)アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアノードを提供する工程と、
(b)0.43nm~2.0nmの膨張面間隔d
002を有する炭素材料を含むカソードを提供する工程と、
(c)前記アノードでのアルミニウムの可逆的堆積及び溶解、並びに前記カソードでのイオンの可逆的吸着/脱着及び/又はインターカレーション/デイターカレーションを支持できる電解質を提供する工程と、
を含むことを特徴とする、アルミニウム二次電池を製造する方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記アルミニウム又はアルミニウム合金を支持する導電性ナノフィラメントの多孔質ネットワークを提供することを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法において、前記電解質は、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質、又はイオン液体を含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項23に記載の方法において、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションから選択される膨張処理に、炭素又は黒鉛材料を供する工程を含むカソードを提供することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用する、どちらも2017年2月13日に出願された米国特許出願第15/431,250号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般的に充電式アルミニウム電池の分野に関し、より詳細には、膨張面間隔を有する黒鉛又は炭素材料の新しいグループを含む高容量カソード層、並びにこのカソード層及びアルミニウム電池を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的には、今日最も好まれる充電式エネルギー貯蔵デバイスであるリチウムイオン電池は、実際にはリチウム(Li)金属をアノードとして使用し、Liインターカレーション化合物(例えば、MoS2)をカソードとして使用する充電式「リチウム金属電池」から発展した。Li金属は、その軽量性(最も軽い金属)、高い電気陰性度(標準の水素電極に対して-3.04V)、及び高い理論容量(3,860mAh/g)により理想的なアノード材料である。これらの優れた特性に基づいて、リチウム金属電池は、40年前に高エネルギー密度用途に理想的なシステムとして提案された。
【0004】
純粋なリチウム金属のいくつかの安全性の懸念により、黒鉛は、現在のリチウムイオン電池を製造するために、リチウム金属の代わりにアノード活物質として実装された。過去20年間に、エネルギー密度、速度能力、及び安全性の観点からLiイオン電池の継続的な改善が見られた。しかしながら、Liイオン電池での黒鉛系アノードの使用には、いくつかの重大な欠点があり:低い比容量(Li金属の場合の3,860mAh/gに対して372mAh/gの理論容量)、長い充電時間(例えば、電気自動車の電池の場合、7時間)を必要とする長いLiインターカレーション時間(例えば、黒鉛及び無機酸化物粒子の内外へのLiの低い固体拡散係数)、高パルス出力を実現できないこと、及びプレリチウム化カソード(例えば、酸化コバルトではなくコバルト酸リチウム)を使用する必要性、これにより利用可能なカソード材料の選択が制限される。更に、これらの一般的に使用されるカソード活物質は、比較的低いリチウム拡散係数(典型的には、D約10-16~10-11cm2/秒)を有する。これらの要因は、今日のLiイオン電池の大きな欠点の1つである、中程度のエネルギー密度(典型的には150~220Wh/kgセル)であるが非常に低い出力密度(典型的には<0.5kW/kg)の原因となっている。
【0005】
スーパーキャパシタは、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー貯蔵、及び最新のグリッド用途で検討されている。スーパーキャパシタの比較的高い体積キャパシタンス密度(電解コンデンサーの体積キャパシタンス密度の10~100倍)は、多孔質電極を使用して拡散二重層電荷の形成につながる大きな表面積を作成することに由来する。この電気二重層容量(EDLC)は、電圧が印加されると固体電解質界面で自然に生成される。これは、スーパーキャパシタの比容量が、例えば、活性炭などの電極材料の比表面積に直接比例することを意味する。この表面積は、電解質より到達可能(accessible)でなければならず、得られる界面ゾーンは、EDLC電荷を収容するのに十分大きくなければならない。
【0006】
このEDLC機構は、表面イオン吸着に基づく。必要なイオンは液体電解質にすでに存在しており、反対側の電極からは来ない。言い換えれば、負極(アノード)活物質(例えば、活性炭粒子)の表面に堆積する必要があるイオンは、正極(カソード)側からは来ず、カソード活物質の表面に堆積する必要があるイオンは、アノード側からは来ない。スーパーキャパシタが再充電されると、負電極の表面近くに局所的な正イオンが堆積し、これらの対になる負イオンは並んで近くに留まる(典型的には、電荷の局所分子又はイオン分極により)。もう一方の電極では、負イオンがこの正電極の表面近くに堆積し、対になる正イオンが並んで近くに留まる。繰り返すが、アノード活物質とカソード活物質の間でイオンの交換はない。
【0007】
いくつかのスーパーキャパシタでは、貯蔵されたエネルギーは、いくつかの局所的な電気化学反応(例えば、酸化還元)による疑似キャパシタンス効果によって更に増大する。このような擬似キャパシタでは、酸化還元対に関与するイオンも同じ電極に存在する。繰り返すが、アノードとカソードの間でイオンの交換はない。
【0008】
EDLCの形成には、2つの対向する電極間の化学反応又はイオン交換は伴わないため、EDLスーパーキャパシタの充電又は放電プロセスは非常に高速で、典型的には数秒であり、非常に高い出力密度(典型的には3~10kW/kg)をもたらす。電池と比較して、スーパーキャパシタはより高い出力密度をもたらし、メンテナンスの必要がなく、サイクル寿命がはるかに長く、非常に簡易な充電回路を必要とし、一般的に非常に安全である。化学的ではなく物理的なエネルギー貯蔵が、安全な動作と非常に高いサイクル寿命の主な理由である。
【0009】
スーパーキャパシタの肯定的な特性にもかかわらず、様々な産業用途向けのスーパーキャパシタの広範な実装には、いくつかの技術的障壁がある。例えば、スーパーキャパシタは、電池と比較した場合、非常に低いエネルギー密度を有する(例えば、市販のスーパーキャパシタでは5~8Wh/kg対鉛酸電池では10~30Wh/kg、及びNiMH電池では50~100Wh/kg)。最新のリチウムイオン電池は、セル重量に基づいて、典型的には150~220Wh/kgの範囲のはるかに高いエネルギー密度を有する。
【0010】
リチウムイオン以外の様々な充放電原理に基づく二次電池が提案されている。中でも、アノードでのアルミニウム(Al)の堆積-溶解反応に基づいたアルミニウム二次電池が注目されている。アルミニウムはイオン化傾向が高く、3電子酸化還元反応が可能であり、これにより、アルミニウム電池が高容量及び高エネルギー密度を実現できる可能性がある。
【0011】
Alの豊富さ、低コスト、及び低燃焼性、並びに3電子酸化還元を受けるその能力は、充電式Al系電池が原則として費用対効果、高容量及び安全性を提供できることを意味する。しかしながら、過去30年間に開発された充電式Al電池は、市場に出ることができなかった。これは、カソード材料の分解、低いセル放電電圧(例えば、0.55V)、放電電圧プラトーのない容量挙動(例えば、1.1~0.2V)、及び急速な容量減衰(100サイクルで26~85%低下)を有する短いサイクル寿命(典型的には<100サイクル)、低いカソード比容量、及び低いセルレベルのエネルギー密度(<50Wh/kg)などの問題が原因であるようである。
【0012】
例えば、Jayaprakashは、0.55Vでプラトーを有する放電曲線を示すアルミニウム二次電池を報告している[Jayaprakash,N.,Das,S.K.&Archer,L.A.”The rechargeable aluminum-ion battery,”Chem.Commun.47,12610-12612(2011)]。出力電圧が1.0ボルト未満の充電式電池の適用範囲は制限されている。参考として、アルカリ電池の出力電圧は1.5ボルトで、リチウムイオン電池の典型的なセル電圧は3.2~3.8ボルトである。更に、初期のカソード比容量が305mAh/gと高い場合でも、カソードのエネルギー貯蔵容量は、カソード活物質の重量のみに基づいて(総セル重量に基づかない)約0.55V×305mAh/g=167.75Wh/kgである。従って、このAl-V2O5セルのセルレベルの比エネルギー(又は質量エネルギー密度)は、約167.75/3.6=46.6Wh/kg(総セル重量に基づく)である。
【0013】
(参考として、カソード活物質としてリン酸鉄リチウム(LFP)を有するリチウムイオン電池(理論比容量170mAh/gを有する)は、3.2ボルトの出力電圧と、3.2V×170mAh/g=544Wh/kg(LFP重量のみに基づく)のエネルギー貯蔵容量を実現する。このセルは、約150Wh/kgのセルレベルのエネルギー密度を実現することが知られている。この電池システムでは、カソード活物質の重量に基づいたエネルギー密度値を総セル重量に基づいたエネルギー密度値に変換するために、544/150=3.6の削減係数がある。
【0014】
別の例として、Raniは、0.2ボルト~1.1ボルトまで変動する出力電圧を有するカソード活物質として軽度にフッ素化された天然黒鉛を使用するアルミニウム二次電池を報告している[Rani,J.V.,Kanakaiah,V.,Dadmal,T.,Rao,M.S.&Bhavanarushi,S.”Fluorinated natural graphite cathode for rechargeable ionic liquid based aluminum-ion battery,”J.Electrochem.Soc.160,A1781-A1784(2013)]。約0.65ボルトの平均電圧及び225mAh/gの放電容量で、セルは、0.65×225=146.25Wh/kg(カソード活物質重量のみ)のエネルギー貯蔵容量又は146.25/3.6=40.6Wh/kg(総セル重量に基づく)のセルレベルの比エネルギーを実現する。
【0015】
更に別の例として、Linらは、2ボルト付近のプラトー電圧と70mAh/gの出力電圧を示すアルミニウム-黒鉛発泡体セルを報告している[Lin MC,Gong M,Lu B, u Y, Wang DY,Guan M,Angell M,Chen C,Yang J,Hwang BJ,Dai H.,”An ultrafast rechargeable aluminum-ion battery,”Nature.2015 Apr 16;520(7547):325-8]。セルレベルの比エネルギーは、約70×2.0/3.6=38.9Wh/kgと予想される。実際問題として、Linらは、セルの比エネルギーは約40Wh/kgであることを確認している。
【0016】
明らかに、アルミニウム二次電池における、適切な放電電圧プロファイル(放電中に高い平均電圧及び/又は高いプラトー電圧を有する)、高及び低充電/放電速度の両方での高い比容量(単に低速度ではない)、並びに、長いサイクル寿命を提供する新しいカソード材料が緊急に必要とされている。できれば、得られるアルミニウム電池は、スーパーキャパシタのいくつかの肯定的な特性(例えば、長いサイクル寿命及び高い出力密度)と、リチウムイオン電池のいくつかの肯定的な特徴(例えば、中程度のエネルギー密度)を実現できる。これらが本発明の主な目的である。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、アルミニウム二次電池(充電式アルミニウム電池又はアルミニウムイオン電池)におけるカソード又は正極層、及びこうしたカソード層を含むアルミニウム二次電池を提供する。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のアルミニウム二次電池は、アノードと、カソードと、アノードでアルミニウムの可逆的堆積及び溶解を支持するアノード及びカソードとイオン接触する電解質とを含む。この場合に、アノードは、アルミニウム金属又はアルミニウム金属合金を含み、カソードは、X線回折により測定される0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張グラフェン間面間隔、及びカソード活性層の総重量に基づいて任意選択の0~30重量%の導電性添加剤を有する黒鉛又は炭素材料のカソード活性層を含み、導電性添加剤は、0.33nm~0.36nmの面間隔d002を有する非膨張グラフェン間面間隔を有する炭素又は黒鉛材料から選択される。好ましくは又、電解質は、カソードでのイオン(カチオン、アニオン、又はその両方)の可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションを支持する。アルミニウム合金は、好ましくは合金に少なくとも80重量%(より好ましくは少なくとも90重量%)のAl元素を含む。選択できる合金元素の種類に制限はない。好ましくは、Alの合金元素は、Si、B、Mg、Ti、Sc等である。
【0019】
この導電性黒鉛添加剤は、0.33nm~0.36nmの面間隔d002を有する元の天然黒鉛又は合成黒鉛である(例えば、膨張処理を受けたことがない黒鉛)。天然黒鉛の面間隔d002は約0.3354nmであり、合成黒鉛の面間隔は、最も典型的には0.33nm~0.36nmである。カソード活性層におけるこの導電性添加剤の比率は、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満、最も好ましくは5重量%未満である。
【0020】
このアルミニウム二次電池は、アルミニウム金属又はアルミニウム金属合金を支持するアノード集電体を更に含み得る、又はカソード活性層を支持するカソード集電体を更に含み得る。集電体は、グラフェンシート、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、又はこれらの組み合わせなどの導電性ナノフィラメントからなるマット、紙、布、箔、又は発泡体であり得、これは、電子導電経路の3Dネットワークを形成する。このようなアノード集電体の大きな表面積は、アルミニウムイオンの迅速且つ均一な溶解及び堆積を促進するだけでなく、交換電流密度、及びひいては、そうしなければ内部短絡を引き起こす可能性のある金属デンドライトを形成する傾向を減少させる働きもする。
【0021】
膨張面間隔を有する炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛繊維、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、又はこれらの組み合わせから選択され、この場合に、前述の炭素又は黒鉛材料は、化学的又は物理的膨張処理前に0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、面間隔d002は、膨張処理後に0.43nmから2.0nmに増加する。
【0022】
この膨張処理は、黒鉛又は炭素材料の酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含む膨張処理を含む。上記の手順の後に、制約熱膨張処理が続くことができる。
【0023】
特定の実施形態では、膨張面間隔を有する炭素又は黒鉛材料は、細孔及び細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体から選択され、細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張面間隔d002を有する結合グラフェン面のスタックを含む。好ましくは、スタックは2~100のグラフェン面(六角形炭素原子面)を含む。
【0024】
特定の実施形態では、炭素又は黒鉛材料の面間隔d002は0.5nm~1.2nmである。他の実施形態では、面間隔d002は1.2nm~2.0nmである。
【0025】
膨張処理により、炭素又は黒鉛材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される非炭素元素を含み得る。
【0026】
本発明のアルミニウム二次電池では、電解質は、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質、又はイオン液体電解質から選択されることができる。ポリマーを電解質に添加することができる。好ましくは、電解質は、AlF3、AlCl3、AlBr3、AlI3、AlFxCl(3-x)、AlBrxCl(3-x)、AlIxCl(3-x)、又はこれらの組み合わせなどのアルミニウム塩を含み、この場合に、xは0.01~2.0である。AlFxCl(3-x)、AlBrxCl(3-x)、AlIxCl(3-x)などの混合アルミニウムハロゲン化物は、AlCl3を所望の程度まで:例えば、100~350℃で1~24時間、臭素化、フッ素化、又はヨウ素化することで容易に生成できる。
【0027】
好ましくは、電解質は、n-ブチル-ピリジニウム-クロライド(BuPyCl)、1-メチル-3-エチルイミダゾリウム-クロライド(MEICl)、2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムクロリド、1,4-ジメチル-1,2,4-トリアゾリウムクロリド(DMTC)、又はこれらの混合物から選択される有機塩化物と混合されたアルミニウム塩を含むイオン液体を含む。
【0028】
特定の実施形態では、炭素又は黒鉛材料の層は、アルミニウム二次電池の放電中に電子を収集するカソード集電体として作動し、この場合に、電池は、別の又は更なるカソード集電体を含まない。
【0029】
黒鉛のカソード活性層は、炭素又は黒鉛材料の粒子又は繊維をともに結合してカソード電極層を形成する導電性バインダー材料を更に含み得る。導電性バインダー材料は、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、導電性ポリマー、ポリマーカーボン、又はこれらの誘導体から選択されることができる。
【0030】
典型的には、本発明のアルミニウム二次電池は、1ボルト(典型的には好ましくは>1.5ボルト)以上の平均放電電圧、及び総カソード活性層重量に基づいて200mAh/g(好ましくはより典型的には>300mAh/g、より好ましくは400mAh/g、最も好ましくは>500mAh/g)より大きいカソード比容量を有する。
【0031】
好ましくは、アルミニウム二次電池は、2.0ボルト以上の平均放電電圧、及び総カソード活性層重量に基づいて100mAh/gより大きいカソード比容量(好ましくはより典型的には>300mAh/g、より好ましくは>400mAh/g、最も好ましくは>500mAh/g)を有する。
【0032】
本発明は又、アルミニウム二次電池におけるカソード活性層を提供する。カソード活性層は、X線回折により測定される0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張グラフェン間面間隔を有する黒鉛又は炭素材料を含み、前述のカソード層は、30重量%未満の、膨張グラフェン間面間隔を有さず、0.334nm~0.34nmの面間隔d002を有する元の黒鉛を含む。好ましくは、炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル又はこれらの組み合わせから選択され、この場合に、炭素又は黒鉛材料は、化学的又は物理的膨張処理前に0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、面間隔d002は、膨張処理後に0.43nmから2.0nmに増加する。
【0033】
特定の好ましい実施形態では、炭素又は黒鉛材料は、細孔及び細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体から選択され、細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張面間隔d002を有する結合グラフェン面のスタックを含む。好ましくは、スタックは、2~100のグラフェン面(より好ましくは2~20のグラフェン面)を含む。
【0034】
又、本発明は、アルミニウム二次電池を製造する方法を提供する。この方法は、(a)アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアノードを提供する工程と、(b)0.43nm~2.0nmの膨張面間隔d002を有する炭素又は黒鉛材料を含むカソードを提供する工程と、(c)アノードでのアルミニウムの可逆的堆積及び溶解、及びカソードでのイオンの可逆的吸着/脱着及び/又はインターカレーション/デインターカレーションを支持できる電解質を提供する工程と、を含む。好ましくは、電解質は、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質、又はイオン液体を含む。
【0035】
この方法は、導電性ナノフィラメントの多孔質ネットワークを提供して、前述のアルミニウム又はアルミニウム合金を支持する工程を更に含み得る。
【0036】
いくつかの好ましい実施形態では、炭素又は黒鉛材料は、0.43nm~2.0nmの面間隔を有する複数のグラフェン面からなる細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体を含む。
【0037】
カソードを提供する工程は、好ましくは、炭素又は黒鉛材料を、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションから選択される膨張処理に供する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1A】
図1Aは、インターカレーションされた及び/又は酸化された黒鉛、その後剥離された黒鉛ワーム、及び単純に凝集した黒鉛又はグラフェンフレーク/プレートレットの従来の紙、マット、フィルム、及び膜の作製プロセスを示す概略図である。
【
図1D】
図1Dは、膨張面間隔を含む黒鉛構造を作製する手法を示す概略図である。
【
図2A】
図2Aは、アルミニウム二次電池の概略図であり、この場合に、アノード層は薄いAlコーティング又はAl箔であり、カソード活物質層は黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体の層を含み、細孔壁は、膨張面間隔(d
002=0.4nm~2.0nm)を有する、ともに結合した複数の六角形炭素原子面を含む。
【
図2B】
図2Bは、アルミニウム二次電池セルの概略図、カソード活物質層は、黒鉛又は炭素材料の粒子又は繊維(膨張面間隔を有する)、導電性添加剤(図示せず)、及び樹脂バインダー(図示せず)からなる。
【
図3】
図3は、それぞれが黒鉛発泡体系カソードを有する2つのAl箔アノード系セルの充電及び放電曲線(膨張面間隔を有するもの及び有さないもの)である。
【
図4】
図4は、面間隔の関数としてプロットされた、様々な炭素又は黒鉛材料の比容量の値である。
【
図5】
図5は、両方とも充電/放電サイクルの関数としてプロットされた、膨張面間隔を有する黒鉛のカソード層を含むセルの比容量、及び元の黒鉛のカソードを含むセルの比容量である。
【
図6】
図6は、3つのセルのラゴーンプロットである:カソードに膨張間隔を有する処理された黒鉛のカソードと、相互接続されたカーボンナノファイバー(多孔質マット)からなるナノ構造ネットワークによって支持されたアルミニウムの薄いフィルムを含むセル、膨張面間隔を有するが、ナノ構造マット支持体を有さない処理された黒鉛のカソードを含むセル、並びに元の黒鉛系カソードを含むセル。
【
図7】
図7は、両方とも充電/放電サイクルの関数としてプロットされた、膨張面間隔を有する多層グラフェン細孔壁のグラフェン発泡体のカソード層を含むセルの比容量、及び非膨張面間隔を有する細孔壁の黒鉛発泡体のカソードを含むセルの比容量である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1(A)の上部に概略的に示されているように、バルク天然黒鉛は、各黒鉛粒子が複数の結晶粒(黒鉛単結晶又は微結晶である結晶粒)からなる3-D黒鉛材料であり、粒界(非晶質又は欠陥ゾーン)が隣接する黒鉛単結晶を画定している。結晶粒はそれぞれ、互いに平行に配向された複数のグラフェン面からなる。黒鉛微結晶のグラフェン面又は六角形の炭素原子面は、二次元の六角形格子を占める炭素原子からなる。所与の結晶粒又は単結晶では、グラフェン面が、結晶学的c方向(グラフェン面又は底面に垂直)にファンデルワールス力によって積層され結合される。天然黒鉛材料のグラフェン間面間隔は約0.3354nmである。
【0040】
又、人工黒鉛材料は、構成グラフェン面を含むが、X線回折で測定される、典型的には0.32nm~0.36nm(より典型的には0.3339~0.3465nm)のグラフェン間面間隔d002を有する。又、多くの炭素又は準黒鉛材料は、積層グラフェン面からそれぞれなる黒鉛結晶(黒鉛微結晶、ドメイン、又は結晶粒とも呼ばれる)を含む。これらは、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズカーボン、軟質炭素、硬質炭素、コークス(例えば、ニードルコークス)、炭素又は黒鉛繊維(気相成長カーボンナノファイバー又は黒鉛ナノファイバーを含む)、及び多壁カーボンナノチューブ(MW-CNT)を含む。MW-CNTにおける2つのグラフェン環又は壁の間隔は、約0.27~0.42nmである。MW-CNTにおける最も一般的な間隔の値は、0.32~0.35nmの範囲であり、合成方法に強く依存しない。
【0041】
「軟質炭素」は、黒鉛ドメインを含む炭素材料を指し、この場合に、2,000℃を超える温度(より典型的には2,500℃を超える)に加熱された場合に、これらのドメインは容易にともに融合されることができるように、1つのドメインの六方晶炭素面(又はグラフェン面)の配向と、隣接する黒鉛ドメインの配向が、互いにあまりに不一致ではないことに留意されたい。このような熱処理は、一般に黒鉛化と呼ばれる。したがって、軟質炭素は、黒鉛化できる炭素質材料として定義できる。対照的に、「硬質炭素」は、より大きなドメインを得るために熱的に融合することができない、非常に誤って配向された黒鉛ドメインを含む炭素質材料として定義できる、即ち、硬質炭素は黒鉛化できない。
【0042】
上記のリストの天然黒鉛、人工黒鉛、及び他の黒鉛炭素材料における黒鉛微結晶の構成グラフェン面間の間隔は、黒鉛又は炭素材料の酸化、フッ素化、塩素化、臭素化、ヨウ素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合ヨウ素-インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含む、いくつかの膨張処理手法を用いて膨張できる(即ち、d002間隔は、0.27~0.42nmの元の範囲から0.42~2.0nmの範囲まで増加する)。
【0043】
より具体的には、平行なグラフェン面をともに保持するファンデルワールス力が比較的弱いため、天然黒鉛を処理して、グラフェン面間の間隔を広げてc軸方向に顕著な膨張をもたらすことができる。これにより、膨張した間隔を有する黒鉛材料が得られるが、六角形炭素層の層状特性は実質的に保持される。黒鉛微結晶の面間隔(グラフェン間間隔とも呼ばれる)は、黒鉛の酸化、フッ素化、及び/又はインターカレーションを含むいくつかの手法によって拡大(膨張)することができる。これは
図1(D)に概略的に示される。インターカラント、酸素含有基、又はフッ素含有基の存在は、黒鉛微結晶の2つのグラフェン面間の間隔を広げるのに役立つ。インターカレーション、酸化、又はフッ素化された黒鉛が一定体積条件で中程度の温度(150~800℃)に曝される場合、この面間隔は更に広がり1.2nm~2.0nmになることができる。これは本明細書では制約膨張処理と呼ばれる。
【0044】
1つの方法では、
図1(A)に示されるように、膨張面間隔を有するグラフェン材料は、天然黒鉛粒子を強酸及び/又は酸化剤でインターカレーションして黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は酸化黒鉛(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面間の間隙空間に化学種又は官能基が存在することが、X線回折によって決定されるグラフェン間隔d
002を増加させる働きをし、それにより、通常であればc軸方向に沿ってグラフェン面を一体に保持するファンデルワールス力を大幅に減少させる。GIC又はGOは、硫酸、硝酸(酸化剤)、及び別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム又は過塩素酸ナトリウム)の混合物中に天然黒鉛粉末(
図1(A)での参照番号100)を浸漬することによって生成されることが最も多い。インターカレーション手順中に酸化剤が存在する場合、得られるGIC(102)は、実際には、ある種の酸化黒鉛(GO)粒子である。次いで、このGIC又はGOを繰り返し洗浄し、水中ですすいで余剰の酸を除去すると、酸化黒鉛懸濁液又は分散液が得られ、これは、水中に分散された、離散した視覚的に区別可能な酸化黒鉛粒子を含む。
【0045】
水を懸濁液から除去して「膨張性黒鉛」を得ることができ、これは本質的に乾燥GIC又は乾燥酸化黒鉛粒子の塊である。乾燥したGIC又は酸化黒鉛粒子のグラフェン間間隔d002は、典型的には0.42~2.0nmの範囲、より典型的には0.5~1.2nmの範囲にある。「膨張性黒鉛」は「膨張黒鉛」ではないことに留意されたい(後に更に説明する)。
【0046】
膨張性黒鉛を、約30秒~2分間、典型的には800℃~1,050℃の範囲の温度に曝すと、GICは30~300倍に急速に体積膨張し、「剥離黒鉛」又は「黒鉛ワーム」(104)を形成し、黒鉛ワームはそれぞれ、相互に接続されたままの、剥離したが大部分は分離されていない黒鉛フレークの集まりである(
図1(B)及び
図1(C))。剥離黒鉛では、個々の黒鉛フレーク(それぞれ1~数百のともに積層されたグラフェン面を含む)が互いに大きく間隔を空けており、間隔は典型的には2.0nm~200μmである。しかしながら、物理的に相互に接続されたままであり、アコーディオン又はワーム状の構造を形成する。
【0047】
黒鉛産業では、黒鉛ワームを再圧縮して、典型的には0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲の厚さを有する柔軟な黒鉛シート又は箔(106)を得ることができる。本発明において、カソード活物質又はその前駆体は、所望の多孔度レベル又は物理密度のカソード層を形成するためにこの塊が再圧縮される前に黒鉛ウォームの塊の細孔に組み込まれる。
【0048】
或いは、黒鉛産業では、ほとんどが100nmより厚い黒鉛フレーク又はプレートレット(したがって、定義によりナノ材料ではない)を含むいわゆる「膨張黒鉛」フレーク(108)を作製する目的で、低い強度のエアミル又はせん断機を使用して黒鉛ワームを簡単に粉砕することを選択できる。「膨張黒鉛」は「膨張性黒鉛」ではなく、「剥離黒鉛ワーム」でもないことは明らかである。むしろ、「膨張性黒鉛」を熱剥離して「黒鉛ワーム」を得ることができ、次いでこれを機械的せん断にかけ、相互に接続された黒鉛フレークを粉砕して「膨張黒鉛」フレークを得ることができる。
【0049】
或いは、2005年12月8日付けの我々の米国特許第20050271574号明細書に開示されるように、剥離した黒鉛又は黒鉛ワームを高強度の機械的せん断にかけて(例えば、超音波装置、高せん断ミキサー、高強度エアジェットミル、又は高エネルギーボールミルを使用)、分離した単層及び多壁グラフェンシート(総称してNGP、112と呼ばれる)を形成することができる。単層グラフェンは、0.34nmほどの薄い厚さであり得、多層グラフェンは、100nmまで、より典型的には3nm未満の厚さを有することができる(一般に数層グラフェンと呼ばれる)。複数のグラフェンシート又はプレートレットは、製紙プロセスを使用してNGP紙のシート(114)に作製することができる。
【0050】
GIC又は酸化黒鉛では、グラフェン間面分離が、天然黒鉛の0.3354nmから高度に酸化された酸化黒鉛の0.5~1.2nmに増加し、隣接する面をともに保持するファンデルワールス力が大幅に弱った。酸化黒鉛は、2~50重量%、より典型的には20重量%~40重量%の酸素含有量を有し得る。GIC又は酸化黒鉛は、本明細書で「制約熱膨張」と呼ばれる特別な処理を受けることができる。GIC又は酸化黒鉛が炉内の熱衝撃に曝され(例えば、800~1,050℃で)、自由に膨張できる場合、最終生成物は剥離された黒鉛ワームである。しかしながら、GIC又は酸化黒鉛の塊が、150℃~800℃(より典型的には300℃~600℃)の温度に加熱されている間に、制約条件(例えば、定体積条件下のオートクレーブ内又は鋳型内の一軸圧縮下で制約される)に曝される場合、膨張の範囲を制約でき、生成物は1.0nm~3.0nm、又は1.2nm~2.0nmの面間隔を有することができる。
【0051】
GOの代わりに、フッ化黒鉛(GF)を形成することにより、「膨張性黒鉛」又は膨張面間隔を有する黒鉛を得ることもできることに留意されたい。低温で黒鉛インターカレーション化合物(GIC)CxF(2≦x≦24)が生成されるのに対し、フッ素ガス中の高温でのF2と黒鉛との相互作用は、(CF)nから(C2F)nへの、共有結合性フッ化黒鉛をもたらす。(CF)nでは、炭素原子はsp3混成であり、したがって、フルオロカーボン層は波形であり、トランスリンクされたシクロヘキサンのいす型立体配座からなる。(C2F)nでは、C原子の半分のみがフッ素化され、隣接する炭素シートの対はどれもC-C共有結合により結合される。フッ素化反応に関する系統的研究から、得られたF/C比が、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素の分圧、並びに黒鉛前駆体の物理的特性、例えば黒鉛化度、粒度、及び比表面積に大きく依存することが示された。フッ素(F2)に加え、他のフッ素化剤(例えばF2とBr2、Cl2、又はI2との混合)も使用することができるが、入手できる文献のほとんどは、時としてフッ化物の存在下で、F2ガスによるフッ素化を含む。
【0052】
電気化学的フッ素化から得られる、軽度にフッ素化された黒鉛、CxF(2≦x≦24)は、典型的には0.37nm未満、より典型的には0.35nm未満のグラフェン間間隔(d002)を有することが認められた。CxFのxが2未満(即ち0.5≦x<2)の場合にのみ、0.5nmを超えるd002間隔を認めることができる(気相フッ素化又は化学フッ素化手順によって生成されたフッ素化黒鉛で)。CxFのxが1.33未満(即ち0.5≦x<1.33)の場合、0.6nmを超えるd002間隔を認めることができる。この高度にフッ素化された黒鉛は、高温(>>200℃)で十分に長い時間、好ましくは1気圧超、より好ましくは3気圧超でフッ素化によって得られる。理由は不明のままであり、黒鉛の電気化学的フッ素化により、生成物CxFが、1~2のx値を有していても、0.4nm未満のd間隔を有する生成物が得られる。黒鉛に電気化学的に導入されたF原子は、グラフェン面間ではなく、粒界などの欠陥に存在する傾向があり、その結果、グラフェン間面間隔を膨張するように作用しない可能性がある。
【0053】
黒鉛の窒素化は、高温(200~400℃)で黒鉛酸化物材料をアンモニアに曝すことで実施できる。又、窒素化は、例えば、GOとアンモニアをオートクレーブにて密封し、次いで温度を150~250℃に上昇させるなどの熱水法により低温で実施できる。
【0054】
N、O、F、Br、Cl、又はHに加えて又、グラフェン面間の他の化学種(例えば、Na、Li、K、Ce、Ca、Fe、NH4等)の存在は、面間隔を膨張するのに役立つことができ、その中の電気化学的に活性な材料を収容するための空間を生成する。この検討では、グラフェン面(六角形の炭素面又は底面)間の膨張格子間隔が、驚くべきことに、Al+3イオン並びに他の陰イオン(電解質成分に由来)を収容できることが判明した。黒鉛は、Na、Li、K、Ce、Ca、NH4、又はこれらの組み合わせなどの化学種で電気化学的にインターカレートでき、次いで金属元素(Bi、Fe、Co、Mn、Ni、Cu等)と化学的又は電気化学的にイオン交換可能であることに留意されたい。これらの化学種は全て、面間隔を膨張するのに役立つことができる。
【0055】
アルミニウム二次電池の構成が、ここで以下の通り説明される。
【0056】
アルミニウム二次電池は、正極(カソード)、負極(アノード)、及びアルミニウム塩と溶媒を含む電解質を含む。アノードは、アルミニウム金属又はアルミニウム合金の薄い箔又はフィルムであり得る。アノードは、アノード層を形成するためにバインダー(好ましくは導電性バインダー)によって詰められともに結合されるAl金属又はAl金属合金の粒子、繊維、ワイヤ、チューブ、又はディスクからなることができる。
【0057】
望ましいアノード層構造は、電子導電経路のネットワーク(例えば、グラフェンシート、カーボンナノファイバー、又はカーボンナノチューブのマット)と、この導電ネットワーク構造の表面に堆積したアルミニウム金属又は合金コーティングの薄い層からなる。このような統合されたナノ構造は、相互に接続された細孔を含む電子導電経路の多孔質ネットワークを形成するように相互に接続された導電性ナノメートルスケール化フィラメントからなることができ、この場合にフィラメントは500nm未満の横断寸法を有する。このようなフィラメントは、エレクトロスピニングナノファイバー、気相成長炭素又は黒鉛ナノファイバー、炭素又は黒鉛ウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケール化グラフェンプレートレット、金属ナノワイヤ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される導電性材料を含み得る。このようなアルミニウムにおけるナノ構造多孔質支持材料は、アルミニウムの堆積-溶解速度を大幅に改善し得、得られるアルミニウム二次セルの高い速度能力を可能にする。
【0058】
図2(A)に例示されるのは、アルミニウム二次電池の概略図であり、この場合に、アノード層は、薄いAlコーティング又はAl箔であり、カソード活物質層は、黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体の層を含み、細孔壁は、膨張面間隔(d
002=0.4nm~2.0nm)を有するともに結合された複数の六角形炭素原子面を含む。一方、
図2(B)は、アルミニウム二次電池セルの概略図を示し、この場合に、カソード活物質層は、黒鉛又は炭素材料の粒子又は繊維(膨張面間隔を有する)、導電性添加剤(図示せず)、及び粒子又は繊維をともに結合するのを助ける樹脂バインダー(図示せず)からなり、構造的完全性のカソード活性層を形成する。
【0059】
充放電反応のイオン輸送媒体として機能する電解質の組成は、電池の性能に大きな影響を及ぼす。アルミニウム二次電池を実用化するためには、比較的低い温度(例えば室温)でも、アルミニウムの堆積-溶解反応をスムーズ且つ十分に進行させる必要がある。しかしながら、従来のアルミニウム二次電池では、アルミニウムの堆積-溶解反応は、比較的高温(例えば、50℃以上)でのみスムーズ且つ十分に進行することができ、反応の効率も低い。アルミニウム二次電池で使用する電解質は、アルミニウム塩、アルキルスルホン、及び誘電率が20以下の溶媒を含むことができ、このため電解質はアルミニウムの堆積-溶解反応が進行するより低い温度(例えば室温)で作動できる。
【0060】
アルミニウム二次電池に使用できる水性電解質は、水に溶解したアルミニウム塩を含む:例えば、水に溶解したAlCl3-6H2O、CrCl3-6H2O、及びAl(NO3)3など。水に溶解したKOHやNaOHなどのアルカリ溶液も使用できる。
【0061】
アルミニウム二次電池で使用する有機電解質は、溶媒としてg-ブチロラクトン(BLA)又はアセトニトリル(ACN)を有する様々な電解質を含む:例えば、BLAにおけるAlCl3/KCl塩又はACNにおける(C2H5)4NClxH2O(TEAC)。濃縮アルミニウムトリフレート系電解質、ジエチルエーテルに溶解した塩化アルミニウムと水素化アルミニウムリチウムの浴、並びにテトラヒドロフランにおけるLiAlH4とAlCl3も含まれる。例えば、ジメチルスルホンなどのアルキルスルホンを使用することができ、環状又は鎖状カーボネート又は環状又は鎖状エーテルなどの有機溶媒とともに使用することができる。放電中の分極を低減するために、塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩と塩化トリメチルフェニルアンモニウムなどの有機ハロゲン化物を電解質においてともに使用することができる。この塩混合物には、1,2-ジクロロエタンなどの有機溶媒を使用することができる。
【0062】
可逆的アルミニウム電気化学が可能な別の種類の電解質は、溶融塩共晶である。これらは典型的には、あるモル比で、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化リチウムからなる。有用な溶融塩電解質は、AlCl3-NaCl、AlCl3-(LiCl-KCl)、及びAlCl3-KCl-NaCl混合物を含む。これらのクロロアルミン酸アルカリ溶融物の中で、二元系NaCl-AlCl3及び三元系NaCl-KCl-AlCl3は、アルミニウム電池の開発に最も広く使用されている溶融塩である。これらのシステムでは、1よりも大きいMCl/AlCl3のモル比(Mは一般にNa及び/又はK)の溶融物は塩基性と定義されるが、モル比が1未満の溶融物は酸性と定義される。酸性溶融物では、Al2Cl7が主要なアニオン種である。溶融物の酸性度(AlCl3含有量)が低下すると、AlCl4
-が主要な種になる。
【0063】
アルミニウム二次電池で使用する溶融塩の特別な部類は、室温の溶融塩(イオン液体)である。例えば、有用なイオン液体電解質溶液は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩化物(AlCl3:EMIC)に混合された塩化アルミニウムである。市販の塩化1-エチル-3-メチルイミダゾリウムは、酢酸エチルとアセトニトリルからの再結晶により精製できる。塩化アルミニウムは、三重昇華によって更に精製することができる。イオン液体は、モル当量の両方の塩をゆっくりと混合することにより調製することができる。更に次いで、1M AlCl3の濃度が得られるまで、AlCl3を等モル混合物に加えた。望ましくは、この濃度はモル比1.2:1、AlCl3:EMICに相当する。
【0064】
又、塩化アルミニウム(AlCl3)は、n-ブチルピリジニウム塩化物(BuPyCl)、1-メチル-3-エチルイミダゾリウム塩化物(MEICl)、及び2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム塩化物などの有機塩化物と室温の電解質を形成する。又、1,4-ジメチル-1,2,4-トリアゾリウムクロリド(DMTC)とAlCl3の溶融混合物を、二次電池の電解質として使用できる。
【0065】
本発明は、アルミニウム二次電池における高容量カソード材料を含むカソード活性層(正極層)に関する。又、本発明は、水性電解質、非水性電解質、溶融塩電解質、ポリマーゲル電解質(例えば、アルミニウム塩、液体、及び液体に溶解したポリマーを含む)、又はイオン液体電解質に基づくこのような電池を提供する。アルミニウム二次電池の形状は、円筒形、正方形、ボタン状等であり得る。本発明は、いかなる電池の形状又は構成にも限定されない。
【0066】
以下の実施例は、本発明を実施する最良の形態に関するいくつかの特定の詳細を例示するために使用され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0067】
実施例1:黒鉛の酸化
Asbury Carbons(405 Old Main St.、Asbury、N.J.08802、USA)が提供する公称サイズ45μmの天然フレーク黒鉛を粉砕して、サイズを約14μmに縮小した(試料1a)。発煙硝酸(>90%)、硫酸(95~98%)、塩素酸カリウム(98%)、及び塩酸(37%)などの本検討で使用した化学物質は、Sigma-Aldrichから購入し受け取ったまま使用した。以下の手順に従って酸化黒鉛(GO)試料を調製した。
【0068】
試料1A:磁気撹拌棒を含む反応フラスコに硫酸(176mL)と硝酸(90mL)を入れ、氷浴に浸して冷却した。酸混合物を攪拌し15分間冷却し、凝集を避けるために激しく攪拌しながら黒鉛(10g)を加えた。黒鉛粉末を十分に分散した後、温度の急激な上昇を避けるために、塩素酸カリウム(110g)を15分かけてゆっくりと加えた。反応フラスコにゆるく蓋をして、反応混合物からガスを発生させ、室温で24時間攪拌した。反応が完了したら、混合物を脱イオン水8Lに注ぎ濾過した。GOを再分散し、5%塩酸溶液で洗浄して硫酸イオンを除去した。硫酸イオンが存在するかを判定するために、濾液を塩化バリウムで断続的に試験した。この試験が陰性になるまで、塩酸洗浄工程を繰り返した。次いで、濾液のpHが中性になるまで、GOを脱イオン水で繰り返し洗浄した。GOスラリーを噴霧乾燥し、使用するまで60℃の真空オーブンに保存した。
【0069】
試料1B:試料1Aと同じ手順に従ったが、反応時間は48時間であった。
【0070】
試料1C:試料1Aと同じ手順に従ったが、反応時間は96時間であった。
【0071】
X線回折の検討では、24時間の処理後、かなりの割合の黒鉛が酸化黒鉛に変換されたことを示した。純粋な天然黒鉛の0.335nm(3.35Å)の面間隔に対応する2θ=26.3度のピークは、24時間の深度酸化処理後に強度が大幅に減少し、典型的には2θ=9~14度付近のピーク(酸化の程度に応じて)が現れた。本検討では、48時間と96時間の処理時間の曲線は、本質的に同一であり、本質的に全ての黒鉛結晶が、6.5~7.5Åの面間隔で黒鉛酸化物に変換されたことを示している(26.3度のピークは完全に消失し、およそ2θ=11.75~13.7度でのピークが現れた)。
【0072】
実施例2:様々な黒鉛カーボン及び黒鉛材料の酸化及びインターカレーション
試料2A、2B、2C、及び2Dは、試料1Bと同じ手順に従って調製したが、出発となる黒鉛材料は、それぞれ、高配向熱分解黒鉛(HOPG)、黒鉛繊維、黒鉛カーボンナノファイバー、及び球状黒鉛の片である。これらの最終的な面間隔は、それぞれ6.6Å、7.3Å、7.3Å、及び6.6Åである。これらの未処理の対応物は、それぞれ試料2a、2b、2c、及び2dと呼ばれる。
【0073】
実施例3:変更したハマー法を使用した酸化黒鉛の調製
酸化黒鉛(試料3A)を、ハマー法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]に従って、天然黒鉛フレーク(Huadong Graphite Co.,Pingdu,Chinaの、約15μmに粉砕された、元のサイズ200メッシュ、試料3aと呼ばれる)の硫酸、硝酸ナトリウム、及び過マンガン酸カリウムでの酸化により調製した。この実施例では、黒鉛1グラムごとに、濃硫酸22ml、過マンガン酸カリウム2.8グラム、及び硝酸ナトリウム0.5グラムの混合物を使用した。黒鉛フレークを混合溶液に浸漬し、反応時間は35℃で約1時間であった。過熱及びその他の安全上の問題を回避するために、過マンガン酸カリウムを十分に制御された方法で硫酸に徐々に加える必要があることに注意することが重要である。反応が完了したら、混合物を脱イオン水に注ぎ濾過した。次いで、濾液のpHが約5になるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。スラリーを噴霧乾燥し、60℃の真空オーブンに24時間保存した。得られた層状黒鉛酸化物の層間隔を、デバイシェラーX線技術により約0.73nm(7.3Å)であると決定した。
【0074】
実施例4:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)の酸化
酸化黒鉛(試料4A)を、実施例3で使用した同じ手順に従って、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)の酸化により調製した。MCMB2528マイクロビーズ(試料4a)は、供給者である日本のOsaka Gas Companyの米国代理店であるAlumina Tradingにより供給された。この材料は、約2.24g/cm3の密度、37ミクロンの粒子の少なくとも95重量%の最大粒子サイズ、約22.5ミクロンの中央サイズ、及び約0.336nmの面間距離を有する。深度酸化処理後、得られた黒鉛酸化物マイクロビーズの面間隔は約0.76nmである。
【0075】
実施例5:炭素繊維の臭素化及びフッ素化
面間隔3.37Å(0.337nm)及び繊維径10μmを有する、黒鉛化炭素繊維(試料5a)を、最初に75℃から115℃の範囲の温度で臭素とヨウ素を組み合わせてハロゲン化し、中間生成物として黒鉛の臭素-ヨウ素インターカレーション化合物を形成した。次いで、中間生成物を、275℃~450℃の範囲の温度でフッ素ガスと反応させCFyを形成した。CFy試料のyの値は、約0.6~0.9であった。典型的には、X線回折曲線は、それぞれ0.59nmと0.88nmに対応する2つのピークの共存を示している。試料5Aは、実質的に0.59nmのピークのみを示し、試料5Bは、実質的に0.88nmのピークのみを示す。
【0076】
実施例6:炭素繊維のフッ素化
実施例5で得られたCF0.68試料を、250℃及び1気圧で1,4-ジブロモ-2-ブテン(BrH2C-CH=.CH--CH2Br)の蒸気に3時間暴露した。フッ化黒鉛試料からフッ素の3分の2が失われていることがわかった。1,4-ジブロモ-2-ブテンは、フッ化黒鉛と活発に反応し、フッ化黒鉛からフッ素を除去し、黒鉛格子内の炭素原子への結合を形成すると推測される。得られた生成物(試料6A)は、混合されたフッ化黒鉛であり、フッ化黒鉛と臭化黒鉛の組み合わせと思われる。
【0077】
実施例7:黒鉛のフッ素化
天然黒鉛フレーク、ふるいサイズ200~250メッシュを、真空中(10-2mmHg未満)で約2時間加熱して、天然黒鉛フレークに含まれる残留水分を除去した。フッ素ガスを反応器に導入し、フッ素圧を200mmHgに維持しながら、375℃で120時間反応を進行させた。これは、米国特許第4,139,474号明細書で開示される、Watanabeらによって提案された手順に基づいた。得られた粉末生成物は、黒色であった。生成物のフッ素含有量は以下のように測定した。酸素フラスコ燃焼法に従って生成物を燃焼させ、フッ素をフッ化水素として水に吸収させた。フッ素の量は、フッ素イオン電極を使用して決定した。結果から、実験式(CF0.75)nを有するGF(試料7A)を得た。X線回折は、6.25Åの面間隔に対応する2θ=13.5度の主要な(002)ピークを示した。
【0078】
試料7Bは、試料7Aと同様の方法で得られたが、反応温度640℃、5時間であった。化学組成は(CF0.93)nと決定された。X線回折は、9.2Åの面間隔に対応する、2θ=9.5度での主要な(002)ピークを示した。
【0079】
実施例8:炭素コーティングされたGO粒子の調製
それぞれの場合に、GO粒子(それぞれ実施例3及び実施例4で調製)をフェノール樹脂と混合して、20体積%のフェノール樹脂を含む混合物を得ることにより、2つのポリマー炭素コーティングされたGO試料(試料8-A及び8-B)を調製した。この混合物を200℃で1時間硬化させ、次いで一定体積の条件で、500℃の温度でアルゴン雰囲気中で炭化させた。次いで、炭化した生成物を潰し粉砕して、平均直径が約13μmの1~23μmの粒子を得た。面間隔は、制約膨張処理の前に、それぞれ約0.73nmと0.76nmであると決定された。この制約膨張処理の後、GO粒子のd間隔は、それぞれ1.27nm及び1.48nmに増加した(試料8-C及び8-D)。
【0080】
実施例9:炭素コーティングされたGF粒子の調製
約14ミクロンの平均サイズに粉砕された天然フレーク黒鉛を、実施例7に記載されているのと同じフッ素化処理に供し、(CF0.75)n(試料7B)であると決定された。得られた粉末を、Tanakaらの米国特許第5,344,726号明細書により示唆された手順に従って、非晶質炭素の化学蒸着(CVD)に供した。50mgの(CF0.75)n試料粉末を、石英管反応器に入れ、次いでアルゴンガスとプロパンガスをそれぞれアルゴン供給ラインとプロパン供給ラインから供給した。次いで、ニードルバルブを操作して、原料ガスのプロパン濃度を10モル%に設定した。原料ガスの流速を12.7cm/分に設定し、プロパンの供給量を0.05モル/時間に設定した。プロパン以外の炭化水素又はその誘導体を原料として使用できることに留意されたい。より具体的には、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素などを使用することができる。更に具体的には、メタン、エタン、ブタン、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、アセチレン、ビフェニル及びこれらの置換生成物を使用することができる。この粉末を一定体積条件で約750℃の炉で加熱し、これにより、パイレックスチューブから供給されたプロパンが熱分解され、フッ化黒鉛粉末の表面に熱分解炭素が堆積した。得られた材料を粉砕して、約16.5ミクロンの微粒子にし、これは、本質的に非晶質の炭素コーティングされたGF粒子である(試料9B)。
【0081】
実施例10:膨張面間隔を備えた細孔壁を有するグラフェン発泡体の調製
1つの試料では、5グラムの酸化黒鉛を、15:85の比でアルコールと蒸留水からなる2,000mlのアルコール溶液と混合してスラリーの塊を得た。次いで、混合物スラリーを、様々な長さの時間、200Wの電力で超音波照射に供した。超音波処理の20分後、GO繊維は効果的に剥離され、酸素含有量が約23重量%~31重量%の薄い酸化グラフェンシートに分離された。得られた懸濁液は、水中に懸濁されたGOシートを含んだ。化学発泡剤(ヒドラゾジカルボンアミド)を、キャストの直前に懸濁液に加えた。
【0082】
次いで、得られた懸濁液をドクターブレードを使用してガラス表面にキャストしてせん断応力を加え、GOシートの配向を誘導した。得られたGOコーティングフィルムは、液体の除去後、約5から500μm(好ましくは、典型的には10μm~50μm)まで変動することができる厚さを有する。
【0083】
グラフェン発泡体試験片を作製するために、次いでGOコーティングフィルムを、典型的には、1~8時間、80~350℃の初期熱還元温度を伴う熱処理に供し、続いて0.5~5時間、1,500~2,850℃の第2の温度で熱処理した。
【0084】
その後、GO由来のグラフェン発泡体のいくつかの片を酸化処理して、膨張面間隔を有するグラフェン細孔壁を含むGO発泡体を生成した。
【0085】
実施例11:膨張面間隔を備えた細孔壁を有する黒鉛発泡体の調製
ピッチパウダー、顆粒、又はペレットを、発泡体の所望の最終形状を有するアルミニウム鋳型に入れる。Mitsubishi ARA-24メソフェーズピッチを利用した。試料を1トール未満に排気し、次いで約300℃の温度に加熱する。この時点で、真空を解放して窒素ブランケットとし、次いで1,000psiまでの圧力を加えた。次いで、系の温度を800℃に上昇させた。これは2℃/分の速度で行った。温度を少なくとも15分間保って浸漬を実現し、次いで炉の電力を切って約1.5℃/分の速度で室温まで冷却し、それと共に約2psi/分の速度で圧力を解放した。最終的な発泡体の温度は、630℃及び800℃であった。冷却サイクル中、圧力は大気条件まで徐々に解放される。次いで、発泡体を窒素ブランケット下で1050℃まで熱処理(炭化)し、次いで、黒鉛るつぼ内で、アルゴン中で2500℃及び2800℃(黒鉛化)まで別々に熱処理した。
【0086】
実施例7で使用した手順に従って、黒鉛発泡体のいくつかの片をフッ素化に供しフッ化黒鉛発泡体を得た。
【0087】
実施例12:種々のアルミニウムセルの調製及び試験
実施例1~8で調製された炭素又は黒鉛材料の粒子又は繊維を別々にカソード層に作製し、アルミニウム二次電池に組み込んだ。カソード層は以下の方法で調製した。第1に、膨張面間隔を有する95重量%の炭素又は黒鉛粉末をNMPにおけるPVDF(バインダー)とともに混合して、スラリー混合物を得た。次いで、スラリー混合物をガラス表面に対してキャストして湿潤層を作製し、これを乾燥させてカソード層を得た。黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体の層は、カソード活性層として直接使用した。
【0088】
2種類のAlアノードを調製した。1つは、16μm~300μmの厚さを有するAl箔であった。もう1つは、導電性ナノフィラメント(例えば、CNT)又はグラフェンシートの表面に堆積したAlの薄いコーティングであり、Al又はAl合金を受け入れる細孔と細孔壁を有する電子導電経路の統合3Dネットワークを形成した。又、Al箔自体又は統合3Dナノ構造のいずれかが、アノード集電体として機能する。
【0089】
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定は、0.5~50mV/秒の典型的なスキャン速度でArbin電気化学ワークステーションを使用して実行した。更に又、様々なセルの電気化学的性能を、50mA/g~10A/gの電流密度での定電流充電/放電サイクルによって評価した。長期サイクリング試験には、LANDによって製造されたマルチチャンネル電池テスターを使用した。
【0090】
図3は、それぞれが黒鉛発泡体系カソードを有する2つのAl箔アノード系セルの充電及び放電曲線を示している(1つは膨張面間隔を有し、1つは有さない)。使用した電解液は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩化物に混合した塩化アルミニウムであった(AlCl
3:EMICモル比=2/1~3.5/1)。これらのデータは、2つの電池セルが同等のセル電圧を実現するが、膨張面間隔を有する細孔壁を含む黒鉛発泡体を備える本発明のカソード層は、元の黒鉛発泡体材料を備えたカソード(65mAh/g)と比較して、非常に高い比容量(290mAh/g)を有することを示している。
【0091】
本発明のカソード層の充電又は放電曲線は、おそらく3つの電荷貯蔵機構に対応する3つのレジームを有することを特徴としている。これらの3つのレジームは、それぞれ大きな比容量範囲をカバーしている。理論に縛られたくはないが、電池充電中のカソードでの3つの機構は、(1)黒鉛表面からのEMI+イオンの脱着、(2)面間隔からのAl3+によるデインターカレーション、並びに(3)AlCl4
-アニオンによる黒鉛における面間隔のインターカレーション及び/又は黒鉛表面近くのAlCl4
-アニオンの吸着であると我々は考える。アノードでは、電池充電中に、Al2Cl7
-イオンが電子と反応してAlCl4
-アニオンとAlを形成し、この場合に、AlCl4
-アニオンはカソードに向かって移動し、Alは、Al箔又はアノード集電体の表面に堆積する。又、カソードから放出されたAl3+イオンは、電子と反応して、Al箔表面又はアノード集電体の表面に再堆積するAl金属原子を形成することができる。一部のEMI+イオンは、アノード表面近くに電気二重層を形成することができる。電池が放電されると、上記のプロセスが逆になる。
【0092】
対照的に、従来の黒鉛発泡体系カソード層の充電又は放電曲線は、2つの電荷貯蔵機構に対応する、はるかに短い2つのレジームのみを示している。面間隔を膨張させることにより、他のエネルギー貯蔵の機会が開かれることは明らかである。これは本当に予想外であり、実用性の価値は非常に高くなる。
【0093】
図4は、面間隔の関数としてプロットされた、様々な炭素又は黒鉛材料の比容量値を示している。炭素又は黒鉛材料の種類、それぞれの面間隔値、及びAlセルのカソード活物質として使用した場合の比容量値を以下の表1に要約する。
【0094】
以下の重要な観察結果は、表1及び関連するチャートから作成されている(
図4~
図7):
(1)アルミニウム電池のカソードで使用される炭素又は黒鉛材料の全てのグループでは、膨張格子間隔(0.45nm又は4.5Åより大きい面間隔)を有するカソード材料の比容量は、膨張していないものの比容量よりも著しく高い。例えば、1A、1B、1C、及び1D(酸化黒鉛)は全て、1a(天然黒鉛)よりも大きい。
(2)試料1~10の全てのデータポイントを同じチャートにプロットする場合、総比容量(
図4)は面間隔の増加とともに増加する(炭素又は黒鉛材料の種類に関係なく)。従って、本発明は、炭素又は黒鉛のカソード材料の比容量を高めるための強力なプラットフォーム技術を提供すると言ってもよい。
(3)試料8C及び8Dのデータは、インターカレート又はフッ素化された/酸化炭素/黒鉛材料の制約膨張が、格子間隔を更に膨張させることができ、著しく高い電荷貯蔵容量につながることを示している。
(4)
図5に示されるように、膨張格子間隔を有する処理された黒鉛材料は、二次電池が充電及び放電のサイクルを受けるときに比容量をより保持することもできる。関連する処理が、電池の繰り返されるインターカレーション/デインターカレーションサイクルのために崩壊しない安定した面間隔を提供したと推測される。当業者ならば、膨張格子間隔が、容量の減衰の主な原因の一つである溶媒のコーインターカレーションを求めると予測していたであろう。これに反して非常に驚くべきことに、膨張格子間隔(14.8Åまでの面間隔を有する)には、溶媒のコーインターカレーションによって誘発される容量減衰の問題はないようであった。
(5)
図6は、3つのセルのラゴーンプロットを示す:カソードに膨張間隔を有する処理された黒鉛のカソードと、相互に接続されたカーボンナノファイバーからなるナノ構造ネットワークによって支持されたアルミニウムの薄いフィルムを含むセル、膨張面間隔を有する処理された黒鉛のカソードを含むが、ナノ構造マット支持体を含まないセル、並びに元の黒鉛系カソードを含むセル。相互に接続されたカーボンナノファイバーのこのナノ構造ネットワークは、アルミニウムを支持する大きな表面積を提供し、アノード側でのアルミニウムカチオンの迅速且つ均一な溶解及び堆積を促進する。このようなネットワークの作成に使用できる他のナノフィラメント又はナノ構造体は、エレクトロスピニングナノファイバー、気相成長炭素又は黒鉛ナノファイバー、炭素又は黒鉛ウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケール化グラフェンプレートレット、金属ナノワイヤ、又はこれらの組み合わせを含む。
(6)
図7は、膨張面間隔を有する多層グラフェン系細孔壁のグラフェン発泡体のカソード層を含むセルの比容量、及び非膨張面間隔を有する細孔壁の黒鉛発泡体のカソードを含むセルの比容量を示し、両方とも充電/放電サイクルの関数としてプロットされる。明らかに、膨張グラフェン間面間隔を有するグラフェン発泡体は、エネルギー密度が高いだけでなく、より安定したサイクル挙動(大幅な容量減衰なしで8,000サイクルまで)を実現する。本発明のアルミニウムセルは、いくらかのスーパーキャパシタに似た挙動(長いサイクル寿命を有する)及びいくらかのリチウムイオン電池に似た挙動(中程度のエネルギー密度)を示す。