(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】未着磁磁石の配向検出装置および未着磁磁石の配向検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/72 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
G01N27/72
(21)【出願番号】P 2020018831
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浜島 美央
(72)【発明者】
【氏名】岩田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】近松 努
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-099053(JP,A)
【文献】特開昭59-108970(JP,A)
【文献】特開2013-185902(JP,A)
【文献】特開平05-107229(JP,A)
【文献】特開2016-095264(JP,A)
【文献】特開2018-071983(JP,A)
【文献】特開昭61-011678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01R 33/00-33/26
H01F 41/00-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと前記コアに巻回されるコイルとを有する磁場形成部と、
前記コイルに電流を流す電源部と、
前記コアの一方の端部に対して、磁場配向の検出対象である未着磁磁石を挟んで配置されており、前記磁場形成部で生じ少なくとも一部の磁束が前記未着磁磁石を通過する磁場
の検出軸方向の成分を検出する検出部と、を有
し、
前記検出部の前記検出軸方向である第1方向は、前記未着磁磁石における磁化容易軸の設計方向である第2方向に対して交差しており、
前記検出部は、前記未着磁磁石の磁化容易軸の前記第2方向からのずれを検出する未着磁磁石の配向検出装置。
【請求項2】
前記検出部の
前記検出軸方向である第1方向は、前記コイルの中心軸方向である第3方向に対して交差していることを特徴とする請求項1に記載の未着磁磁石の配向検出装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記コイルの中心軸から所定距離離間して配置される請求項
1または請求項
2に記載の未着磁磁石の配向検出装置。
【請求項4】
前記未着磁磁石を、前記コアの一方の端部に対して相対移動可能に保持する保持部を有する請求項1から請求項
3までのいずれかに記載の未着磁磁石の配向検出装置。
【請求項5】
前記保持部は、前記未着磁磁石における磁化容易軸の設計方向である第2方向を、前記検出部の
前記検出軸方向である第1方向に対して相対回転させることを特徴とする請求項
4に記載の未着磁磁石の配向検出装置。
【請求項6】
前記検出部で検出される前記磁場の変化の位相を検出する位相検出部を有する請求項1から請求項
5までのいずれかに記載の未着磁磁石の配向検出装置。
【請求項7】
コアと前記コアに巻回されるコイルとを有する磁場形成部と、前記コアの一方の端部に対して所定の間隔を空けて配置される検出部との間に、磁場配向の検出対象である未着磁磁石を配置するステップと、
前記コイルに電流を流すステップと、
前記磁場形成部で生じて少なくとも一部の磁束が前記未着磁磁石を通過する磁場
の検出軸方向の成分を、前記検出部が検出するステップと、を有
し、
前記検出部が前記磁場を検出するステップでは、前記検出部の前記検出軸方向である第1方向は、前記未着磁磁石における磁化容易軸の設計方向である第2方向に対して交差しており、
前記検出部は、前記磁場の検出により、前記未着磁磁石の磁化容易軸の前記第2方向からのずれを検出することを特徴とする未着磁磁石の配向検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未着磁磁石の配向検出装置および未着磁磁石の配向検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に強い磁力を生じる磁石は、未着磁の状態で他の部材とアセンブリされ、アセンブリ後に着磁される場合がある。未着磁の状態で磁石の組み立てを行うことにより、組み立て中の磁石が、組み立て対象でない他の磁石や部材、またアセンブリ対象となる他の部材に引き寄せられる問題を防止して、組み立てを容易に行うことができる。
【0003】
ところで、アセンブリ後に着磁される磁石では、アセンブリ前の未着磁磁石の磁場配向状態(磁化容易軸の向き、配向度など)を検出したいという要望がある。磁石の配向状態が、着磁後の磁石の磁力や形成磁場に影響を与えるためである。
【0004】
未着磁磁石の配向状態を検出する従来の方法として、SEM-EBSD(走査電子顕微鏡電子線後方散乱回折法)などがあげられる。しかしながら、SEM-EBSDでは、配向を検出する断面を露出させる必要があり、非破壊で全体的な配向を検出することは難しく、また、検査に要する時間が長くなる課題がある。
【0005】
磁場配向が検出された未着磁の磁石を得る他の方法として、一度着磁することにより磁石の磁場を形成させ、磁場の状態から配向状態を検出した後、磁石を消磁させる方法がある。このような方法では、配向の検出前後に着磁と消磁を行う必要があるため、検出に手間がかかる。また、その他の方法として、熱膨張を歪ゲージにより検出し、その結果から磁化容易軸方向を検出する方法も提案されているが(特許文献1参照)、検出精度および検出速度の点で、課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、未着磁磁石の磁場配向状態を精度良く検出可能な検出装置などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る未着磁磁石の配向検出装置は、
コアと前記コアに巻回されるコイルとを有する磁場形成部と、
前記コイルに電流を流す電源部と、
前記コアの一方の端部に対して、磁場配向の検出対象である未着磁磁石を挟んで配置されており、前記磁場形成部で生じ少なくとも一部の磁束が前記未着磁磁石を通過する磁場を検出する検出部と、を有する。
【0009】
本発明に係る未着磁磁石の配向検出装置では、磁場形成部との間に未着磁磁石を挟んで配置する検出部が、磁場形成部で生じ、未着磁磁石を通過する磁束を含む磁場を検出する。未着磁磁石を通過して検出部によって検出される磁場は、未着磁磁石の透磁率に応じて変化する。一方、磁場形成部と検出部との間に配置された未着磁磁石の透磁率は、未着磁磁石の配向状態(配向方向、配向度)に応じて変化する。また、検出部で検出される磁場の変化の位相とコイルに流れる電流との位相差は、未着磁磁石の磁化容易軸の方向、すなわち未着磁磁石の配向方向に応じて変化する。したがって、本発明に係る未着磁磁石の配向検出装置では、検出部が磁場を検出することにより、未着磁磁石の配向状態を精度良く検出することができる。また、本発明に係る未着磁磁石の配向検出装置によれば、着磁状態にかかわらず、磁石がいずれの状態であっても、磁石の磁場配向を検出することができる。
【0010】
また、たとえば、本発明に係る未着磁磁石の配向検出装置において、前記検出部の検出軸方向である第1方向は、前記未着磁磁石における磁化容易軸の設計方向である第2方向に対して交差していてもよい。
【0011】
第1方向を第2方向に対して交差させることにより、実際の配向状態の設計状態からのずれに伴う磁場の変化が、設計状態の周辺で大きくなるため、このような未着磁磁石の検出装置は良好な検出分解能を有する。
【0012】
また、たとえば、前記検出部の検出軸方向である第1方向は、前記コイルの中心軸方向である第3方向に対して交差していてもよい。
【0013】
第1方向を第3方向に対して交差させて検出することにより、このような未着磁磁石の検出装置は良好な検出分解能を有する。
【0014】
また、たとえば、前記検出部は、前記コイルの中心軸から所定距離離間して配置されてもよい。
【0015】
検出部をコイルの中心軸から所定距離離間して配置することにより、このような未着磁磁石の検出装置は良好な検出分解能を有する。
【0016】
また、たとえば、本発明に係る未着磁磁石の配向検出装置は、前記未着磁磁石を、前記コアの一方の端部に対して相対移動可能に保持する保持部を有してもよい。
【0017】
このような未着磁磁石の配向検出装置は、保持部が検出対象である未着磁磁石を相対移動させることにより、未着磁磁石の配向状態を詳細かつ容易に検出することができる。
【0018】
また、たとえば、前記保持部は、前記未着磁磁石における磁化容易軸の設計方向である第2方向を、前記検出部の検出軸方向である第1方向に対して相対回転させてもよい。
【0019】
保持部が第2方向を第1方向に対して相対回転させることにより、未着磁磁石の磁化容易軸の方向を、単一のサンプルからでも検出可能である。
【0020】
また、たとえば、本発明に係る未着磁磁石の配向検出装置は、前記検出部で検出される前記磁場の変化の位相を検出する位相検出部を有してもよい。
【0021】
位相検出部が、検出部で検出される磁場の変化の位相とコイルに流れる電流との位相差を検出することにより、未着磁磁石の磁化容易軸の方向を、単一のサンプルからでも検出可能である。
【0022】
本発明に係る未着磁磁石の配向検出方法は、コアと前記コアに巻回されるコイルとを有する磁場形成部と、前記コアの一方の端部に対して所定の間隔を空けて配置される検出部との間に、磁場配向の検出対象である未着磁磁石を配置するステップと、
前記コイルに電流を流すステップと、
前記磁場形成部で生じて少なくとも一部の磁束が前記未着磁磁石を通過する磁場を、前記検出部が検出するステップと、を有する。
【0023】
本発明に係る未着磁磁石の配向検出方法によれば、未着磁磁石の配向状態を、精度良く検出することができ、また、検出対象である未着磁磁石を、検出前後に着磁および脱磁する必要がない。
【0024】
また、たとえば、前記検出部が前記磁場を検出するステップでは、前記検出部の検出軸方向である第1方向は、前記未着磁磁石における磁化容易軸の設計方向である第2方向に対して交差していてもよい。
【0025】
第1方向を第2方向に対して交差させることにより、配向状態の設計状態からのずれに伴う磁場の変化が、設計状態近傍で大きくなるため、このような未着磁磁石の検出方法は、良好な検出分解能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置による未着磁磁石の検出状態の第1の例を示す概念図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す配向検出装置による未着磁磁石の検出状態の第2の例を示す概念図である。
【
図3】
図3は、未着磁磁石のB-H曲線の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、未着磁磁石の配向状態による透磁率の違いを示すグラフである。
【
図5】
図5は、
図1に示す未着磁磁石の配向検出装置を用いた磁場配向の検出方法の第1の例を示す概念図である。
【
図6】
図6は、
図1に示す未着磁磁石の配向検出装置を用いた磁場配向の検出方法の第2の例を示す概念図である。
【
図7】
図7は、検出方法の第1の例と第2の例に係る検出結果を比較して表示したグラフである。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置の概念図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置による磁場の検出結果を表すグラフである。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置の概念図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置による磁場の検出結果を表すグラフである。
【
図12】
図12は、変形例に係る配向検出装置による磁場の検出磁場角度の結果を表すグラフである。
【
図13】
図13は、変形例に係る配向検出装置による磁場の検出を計算した結果と、検出結果を説明する概念図である。
【
図14】
図14は、第4実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置の概念図である。
【
図15】
図15は、第4実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置による磁場の検出結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1実施形態
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る未着磁磁石の配向検出装置10の概略図である。
図1に示すように、配向検出装置10は、磁場19を形成する磁場形成部18と、磁場を検出する検出部40と、電源部70とを有する。また、配向検出装置10は、演算部72、記憶部74、ロックインアンプ75などを有する。
【0028】
図1に示すように、磁場形成部18は、コア20とコア20に巻回されるコイル30とを有する。
図1に示す磁場形成部18は、電源部70からの電力の供給を受け、コイル30に電流が流れることにより、磁場19を生じさせる。
図1に示すコア20は、棒状のコアであるが、コア20の形状としてはこれに限定されず、検出対象である未着磁磁石60を通過する磁束19aを含む磁場19を形成するものであれば、どのような形状であってもよい。
【0029】
コア20の材質は、コイル30を流れる電流により磁場を形成するものであれば特に限定されず、磁性材料または非磁性材料で構成される。コア20の材質としては、たとえば、鉄、鉄系合金、フェライトなどの軟磁性材料が挙げられ、初透磁率の大きい鉄-ニッケル系合金(パーマロイなど)、電磁鋼板、フェライトなどが好ましい。
【0030】
コイル30は、コア20に巻回されている。コイル30の巻数Nは特に限定されず、磁場配向の検出対象である未着磁磁石60の透磁率(または透磁率の違いに伴う配向状態)を検出できるように、適切に調整される。コイル30は、たとえば、被覆導線などをコア20に巻回することにより形成される。
【0031】
電源部70は、交流電源などで構成され、コイル30に電流を流す。電源部70は、演算部72からの制御を受けて、電流の大きさや周波数などを変えることができる。
【0032】
検出部40は、たとえばホールセンサを有し、磁場形成部18で生じた磁場を検出する。ただし、検出部40が有するセンサとしては、ホールセンサのみに限定されず、磁気抵抗効果素子(MR素子)、磁気インピーダンス素子(MI素子)など、磁場を検出できる他のセンサを有していてもよい。また、検出部40は、ロックインアンプ75などを介して取得される電源部70の周波数や位相などの情報を用いて制御されてもよい。たとえば、検出部40が、電源部70の周波数と同じ周波数の磁場を検出することにより、ノイズの少ない検出を行うことができる。
【0033】
検出部40は、コア20の一方の端部である第1端部23aに対して、磁場配向の検出対象である未着磁磁石60を挟んで配置される。磁場形成部18によって生じる磁場19に含まれる磁束のうち、少なくとも一部の磁束19aは、未着磁磁石60を通過する。検出部40は、磁場形成部18で生じた磁場19を検出するが、検出部40で検出される磁場19は、中間に配置される未着磁磁石60の透磁率の影響を受ける。したがって、演算部72は、検出部40による磁場の検出結果から、未着磁磁石60の配向状態を算出することができる。
【0034】
図3は、未着磁磁石60を含む磁石の一般的なB-H曲線(磁石内の磁束密度B、外部磁場H)を表している。
図3において点線で囲まれる初磁化曲線に示されるように、磁化(磁気分極)されていない未着磁磁石60は、外部磁場Hの上昇に伴い磁化され、磁束密度Bが上昇する。
【0035】
図4は、
図3に示す磁化の初期段階におけるJ-H曲線(磁石の磁化J、外部磁場H)を示している。
図4(a)は、外部磁場Hの方向がサンプルA~C(未着磁磁石)の磁化容易軸方向である場合のJ-H曲線を示しており、
図4(b)は、外部磁場Hの方向がサンプルA~C(未着磁磁石)の磁化困難軸方向である場合のJ-H曲線を示している。
図4(a)に示す3つのサンプルA~Cと、
図4(b)に示す3つのサンプルA~Cは、外部磁場Hに対する配置角度が異なることを除き、同じものである。
【0036】
図4(a)と
図4(b)との比較から理解できるように、外部磁場Hの方向が磁石の磁化容易軸方向である場合(
図4(a))では、サンプルA~Cは容易に磁化され、グラフの傾き(磁化率)が大きい。これに対して、外部磁場Hの方向が磁石の磁化困難軸方向である場合(
図4(b))には、サンプルA~Cは容易に磁化されず、グラフの傾き(磁化率)が小さい(
図4(b)の縦軸のスケールは、
図4(a)の縦軸のスケールより大幅に小さい。)。J-H曲線とB-H曲線とは、所定の対応関係(B=μ
0H+J)にあり、J-H曲線の傾き(磁化率)が大きい場合は、B-H曲線の傾き(透磁率)も大きくなる。
【0037】
外部磁場Hに対する磁化容易軸方向の角度と透磁率との関係で典型的に示されるように、未着磁磁石60の配向状態の違いは、外部磁場に対する透磁率の違いを生じる。
図1に示す配向検出装置10は、未着磁磁石60の透磁率の違いが、磁場形成部18により生じた外部磁場に与える影響を検出部40により検出し、検出部40による検出値から、未着磁磁石60の配向状態を検出することができる。
【0038】
たとえば、
図1に示すように、未着磁磁石60の磁化容易軸64の方向が、コイル30の中心軸方向である第3方向82と平行である場合、第3方向82に沿う未着磁磁石60の透磁率は大きい(
図4(a)参照)。そのため、検出部40では、強い磁場が検出される。
【0039】
一方、
図2に示すように、未着磁磁石560の磁化容易軸564の方向が、コイル30の中心軸方向である第3方向82に対して交差している場合、第3方向82に沿う未着磁磁石60の透磁率は、
図1に示す場合より小さい(
図4(b)参照)。そのため、検出部40では、
図1に示す場合より弱い磁場が検出される。
【0040】
配向検出装置10は、着磁されているか未着磁であるかにかかわらず、どのような磁石であっても磁場配向の検出対象とすることができるが、配向検出装置10の検出対象としては、磁化(磁気分極)の状態が既知であるか、もしくは、検出される磁場(磁場の強さまたは磁場の変化の位相など)と検出対象の配向状態との対応関係に関するデータを予め取得した基準サンプルに対して、同じ磁化の状態である磁石であることが好ましい。なお、実施形態等における「未着磁磁石」とは、特に限定をしない限り、配向検出装置10による検出後に着磁(磁化)されて使用される磁石を意味する。したがって、未着磁磁石は、全く磁化(磁気分極)されていない磁石や磁化の弱い磁石のみに限定されるものではなく、飽和磁化まで磁化されていない磁石を全て含み得る。
【0041】
演算部72は、マイクロプロセッサなどの演算素子により構成され、検出部40による磁場19の検出結果から、未着磁磁石60の配向状態を算出する。演算部72は、別途取得された未着磁磁石の配向状態と検出部40で検出される磁場との対応関係を示すデータまたは関係式に基づき、未着磁磁石60の配向状態を判断する。
【0042】
記憶部74には、未着磁磁石の配向状態と検出部40で検出される磁場との対応関係を示すデータまたは関係式などが記憶されている。記憶部74は、不揮発メモリ等により構成される。
【0043】
図1に示す記憶部74に記憶されるデータとしては、たとえば
図9に示すように、未着磁磁石60の磁化容易軸方向(未着磁磁石60の磁化容易軸方向と、検出部40の検出軸とがなす角度)と、磁場の強さを示す検出部40のセンサ出力との関係を表すデータなどが挙げられる。また、記憶部74に記憶されるデータとしては、未着磁磁石60の配向度と検出部40のセンサ出力との関係を表すデータや、基準サンプルのセンサ出力の値などであってもよい。このようなデータは、たとえば、配向状態が既知であって未着磁磁石60と同材質である基準サンプルについて、配向検出装置10(または他の装置)を用いて、基準サンプルを通過して検出される磁束19aを含む磁場19を、検出部40で検出することによって取得される。
【0044】
演算部72は、検出部40によって検出された磁場の検出値から未着磁磁石60の配向状態を検出する際、記憶部74に記憶されたデータを使用することができる。また、演算部72は、磁場の検出値や未着磁磁石60の配向状態の検出結果を、記憶部74に記憶させることができる。
【0045】
以下、
図1に示す配向検出装置10を用いて、未着磁磁石160と未着磁磁石260の2つのサンプルについて行う配向状態の検出方法を説明するが、本発明に係る配向状態の検出方法は、以下に示す方法のみには限定されない。
【0046】
図5(a)および
図5(b)は、未着磁磁石160について、配向検出装置10を用いて配向状態を検出するプロセスを示したものである。
図5(a)および
図5(b)に示す未着磁磁石160は、設計方向通りに磁化容易軸が配向しているラジアル配向C型磁石であり、中央部160aでも端部160bでも、磁化容易軸が未着磁磁石160の円弧方向に垂直な径方向を向いている(未着磁磁石160内の矢印参照)。
【0047】
図5(a)に示すように、未着磁磁石160の配向検出方法では、まず、検出部40を、磁場形成部18のコア20の第1端部23aに対して、所定の間隔を空けて配置する。さらに、磁場配向の検出対象である未着磁磁石160を、磁場形成部18と検出部40との間に配置する(第1ステップ)。第1ステップでは、未着磁磁石160における中央部160aの磁場配向を検出できるように、未着磁磁石160の中央部160aを、磁場形成部18と検出部40の間に配置する。
【0048】
次に、電源部70(
図1参照)が、コイル30に電流を流すことにより、磁場形成部18が磁場を生じさせる(第2ステップ)。さらに、検出部40が、磁場形成部18で生じて少なくとも一部の磁束19aが未着磁磁石160を通過して伝えられる磁場19(
図1参照)を検出する(第3ステップ)。
図5(a)に示すように、検出部40が磁場19を検出するステップでは、検出部40の検出軸方向である第1方向80は、未着磁磁石160における磁化容易軸の設計方向である第2方向(径方向)と平行である。
【0049】
さらに、未着磁磁石160の配向検出方法では、未着磁磁石160の端部160bの磁場配向を検出するために、未着磁磁石160の配置を変更する(第4ステップ)。次に、第3ステップと同様に、少なくとも一部の磁束19aが未着磁磁石160を通過して伝えられる磁場19(
図1参照)を、検出部40が検出する(第5ステップ)。
【0050】
図7に示すグラフは、未着磁磁石160の中央部160aおよび端部160bを、それぞれ、磁場形成部18と検出部40との間に配置した場合に、検出部40で検出されるセンサ出力(縦軸)をプロットしたものである。グラフの横軸は、未着磁磁石160の回転角度を示している。
【0051】
第6ステップでは、配向検出装置10の演算部72が、検出部40による検出値を、他の検出値または基準値と比較し、未着磁磁石160の配向状態を検出する。
図7において実線で示されるように、未着磁磁石160を配置して検出される磁場の検出値は、中央部160aでも端部160bでも、ほぼ同じ高い値を示す。このことから、未着磁磁石160は、中央部160aでも端部160bでも、磁化容易軸が径方向を向いており、設計通りの配向状態であることを、配向検出装置10が検出できる。
【0052】
図6は、未着磁磁石260について、配向検出装置10を用いて配向状態を検出するプロセスを示したものである。
図6(a)および
図6(b)に示す未着磁磁石260はラジアル配向C型磁石であり、中央部260aでは設計方向通りに磁化容易軸が径方向を向いているが、端部260bでは磁化容易軸が設計通りの方向を向いておらず、磁化容易軸が径方向に対して傾いている。
【0053】
未着磁磁石260についても、
図5に示す未着磁磁石160と同様にして、中央部260aと端部260bとを順番に、配向検出装置10における磁場形成部18と検出部40との間に配置し、未着磁磁石260を通過して伝えられる磁場19(
図1参照)を検出する。
図7に示すグラフには、それぞれ、中央部260aおよび端部260bを磁場形成部18と検出部40との間に配置した場合に、検出部40で検出されるセンサ出力(縦軸)が、未着磁磁石160の結果と合わせてプロットされている。
【0054】
図7において点線で示されるように、未着磁磁石260について検出される磁場の強さを示すセンサ出力は、中央部260aでは未着磁磁石160と同様の高い値を示すが、端部260bでは、中央部260aおよび未着磁磁石160に対して低い値を示す。このことから、配向検出装置10は、未着磁磁石260において、端部260bでは磁化容易軸が径方向を向いていないか、または端部260bにおいて配向度が低いことを検出でき、未着磁磁石260が設計通りの配向状態ではないことを検出できる。
【0055】
なお、詳細については説明していないが、
図5~
図7に示す未着磁磁石160、260の検出例は、磁石のエッジ効果を除外して検出したものである。
【0056】
以上のように、
図1に示す配向検出装置10では、磁場形成部18と検出部40との間に配置する未着磁磁石60の配向状態(配向の向き、配向度)に応じて、検出部40で検出される磁場が異なる。したがって、配向検出装置10は、未着磁磁石60の配向状態を、精度良く検出することができる。
【0057】
また、配向検出装置10は、未着磁磁石60を通過する磁束19aを含む磁場19を検出することにより、未着磁磁石60の磁場配向を検出するため、検出時に未着磁磁石60を破壊する必要がなく、製品検査のための使用に適している。また、配向検出装置10による検出方法は、計測に要する時間が短く、製品の全数検査などにも好適に適用できる。なお、
図1、
図5~
図7に示す例では、配向検出装置10における検出部40の検出軸方向である第1方向80は、未着磁磁石60の磁化容易軸の設計方向である第2方向と平行であり、第1方向80と第2方向は交差していない。ただし、第1実施形態と第3実施形態との比較から理解できるように、第1方向80と第2方向が平行である実施形態と、交差している実施形態の両方が存在する。
【0058】
第2実施形態
図8は、本発明の第2実施形態に係る配向検出装置310の概略図である。第2実施形態に係る配向検出装置310は、保持部350を有しており、ロックインアンプ75が位相検出部390を有している点で第1実施形態に係る配向検出装置10とは異なるが、その他の点は、
図1に示す配向検出装置10と同様である。配向検出装置310の説明では、配向検出装置10との相違点を中心に説明を行い、配向検出装置10との共通点については、説明を省略する。
【0059】
図8に示すように、配向検出装置310が有する保持部350は、未着磁磁石360をコア20に対して相対移動可能に保持する。保持部350は、未着磁磁石を保持するヘッド部分と、ヘッド部分を移動させるモータなどの駆動部分を有する。
【0060】
図8に示すように、保持部350は、未着磁磁石360の磁化容易軸の設計方向である第2方向365を、検出部40の検出軸方向である第1方向80に対して相対回転させるように、磁場形成部18と検出部40の間に配置された未着磁磁石360を動かすことができる(矢印368参照)。また、
図8では示されていないが、保持部350は、第2方向365と第1方向80のなす角が変化しないように、未着磁磁石360を軸方向に移動させることができてもよい。さらに、保持部350は、
図5に示すようなラジアル配向C型磁石を、第2方向365と第1方向80のなす角が変化しないように、未着磁磁石160をその円弧方向に移動させることができてもよい。
【0061】
図8に示すロックインアンプ75は、位相検出部390の機能を有しており、検出部40で検出される磁場の変化の位相を検出する。位相検出部390は、電源部70が磁場形成部18のコイル30に流す電流の位相を参照し、検出部40で検出される磁場19の変化とコイル30の電流との位相差を検出し、演算部72に出力する。
【0062】
図9に示すグラフは、未着磁磁石360を磁場形成部18と検出部40の間に配置し、磁場形成部18で磁場19を発生させ、検出部40および位相検出部390で磁場を検出した測定結果を表示したものである。
図9に示す結果は、
図8に示す保持部350が未着磁磁石360を回転させることにより、磁化容易軸の設計方向である第2方向365と検出部40の検出軸方向である第1方向80とのなす角を変化させ、それぞれの角度で磁場の強さ(センサ出力、
図9点線参照)と磁場の変化の位相(センサ出力位相、
図9実線)を測定したものである。
図9の横軸は、第2方向365と第1方向80との形成角度を示しており、
図9の縦軸は、検出部40による磁場の強さの検出値と、位相検出部390による磁場の変化と電流の変化との位相差の検出値を示している。第2方向365と第1方向80との形成角度は、
図8に示すように磁化容易軸の設計方向が第1方向80に一致する状態を0°とした。
【0063】
図9に示すように、検出部40および位相検出部390による磁場の検出値は、第2方向365と第1方向80との形成角度の関数で精度よく近似することが可能である。配向検出装置310では、
図9に示すようなデータを、基準サンプルの測定値として、記憶部74に記憶させておくことができる。これにより、配向検出装置310は、未着磁磁石360と同様の設計であって現実の(単なる設計方向ではない)磁化容易軸の方向が不明である磁石について、その未着磁磁石360を通過する磁束19aを含む磁場を検出して基準サンプルの測定値と比較することにより、未着磁磁石360の磁化容易軸の方向を検出することができる。
【0064】
配向検出装置310は、保持部350が検出対象である未着磁磁石360を相対移動させることにより、未着磁磁石360の配向状態を詳細かつ容易に検出することができる。また、このような保持部350を有する配向検出装置310は、基準サンプルの測定などを伴う装置のキャリブレーションを、容易に行うことができる。その他、配向検出装置310は、第1実施形態に係る配向検出装置10と同様の効果を奏する。なお、第2実施形態に係る配向検出装置310について、その使用方法の一例を挙げながら説明を行ったが、配向検出装置310の使用方法は上述した方法のみには限定されない。
【0065】
第3実施形態
図10は、本発明の第3実施形態に係る配向検出装置410の概略図である。第3実施形態に係る配向検出装置410は、検出部440の検出軸方向である第1方向480が、未着磁磁石360における磁化容易軸の設計方向である第2方向365に対して交差する方向に配置されている点で
図8に示す配向検出装置310とは異なるが、その他の点では、第2実施形態に係る配向検出装置310と同様である。第3実施形態に係る配向検出装置410の説明では、配向検出装置310との相違点を中心に説明を行い、配向検出装置310との共通点については、説明を省略する。
【0066】
図10に示すように、第3実施形態に係る配向検出装置410では、検出部440の検出軸方向である第1方向480が、未着磁磁石360における磁化容易軸の設計方向である第2方向365に対して略垂直に交差する方向に配置されている。
【0067】
図11に示すグラフは、未着磁磁石360を磁場形成部18と検出部40の間に配置し、磁場形成部18で磁場19を発生させ、検出部40で磁場19の強さを検出した測定結果を表示したものである。
図11に示す結果は、
図9に示す結果と同様に、未着磁磁石360を回転させることにより、磁化容易軸方向である第2方向365と検出部40の検出軸方向である第1方向480とのなす角を変化させ、それぞれの角度で磁場19の測定を行ったものである。
【0068】
図11に示すグラフでは、グラフの横軸の0°近傍における検出値の変化が、
図9に示すグラフより大きくなっていることが理解できる。すなわち、第3実施形態に係る配向検出装置410は、未着磁磁石360の磁化容易軸の設計方向周辺における分解能(
図11の横軸の0°周辺)が、第2方向365と第1方向80とを平行に配置する第2実施形態での分解能(
図9の横軸の0°周辺)に比べて、高くなることが理解できる。
【0069】
このように、第3実施形態に係る配向検出装置410は、未着磁磁石360の磁化容易軸の設計方向である第2方向365を、第1方向480に対して交差させておくことにより、測定対象である未着磁磁石360の磁化容易軸の位置ずれを、精度良く検出できる。
図10に示す配向検出装置410において、第1方向480が第2方向365に対してなす角は、特に限定されないが、85~95°とすることが好ましい。
【0070】
なお、
図10に示すように、配向検出装置410では、コイル30の中心軸方向である第3方向482が、未着磁磁石360の磁化容易軸の設計方向である第2方向365に対して平行である。また、検出部440の検出軸方向である第1方向480は、コイル30の中心軸方向である第3方向482に対しても交差している。
図10に示す第3実施形態に係る配向検出装置410は、第1方向480と第3方向482とを交差させることにより、未着磁磁石360の磁化容易軸の設計方向からのずれを検出する分解能を向上させていると考えることもできる。また、配向検出装置410では、コア20の一方の端部である第1端部23aと未着磁磁石360とを最短距離で結ぶ第4方向483と、検出部440の検出軸方向である第1方向480とが交差していると考えることもできる。
【0071】
その他、第3実施形態に係る配向検出装置410は、第2実施形態に係る配向検出装置310と同様の効果を奏する。
【0072】
(第2実施形態および第3実施形態の変形例)
また、第2実施形態および第3実施形態に関連する変形例として、検出部40、440が、未着磁磁石360を通過する磁束19aを含む磁場の配向(磁場の向き)を検出して、未着磁磁石360の配向を検出することも可能である。
図12は、
図8に示す配向検出装置310の検出部40を、磁場の配向を検出するものに変更し、
図9に示す例と同様に、未着磁磁石360を、コイル30の中心軸方向に対して回転させながら、検出を行った結果を表すグラフである。
【0073】
図12に示すように、未着磁磁石360の配向方向の変化(未着磁磁石の回転角度(横軸))に応じて、検出部で検出される磁場の配向(縦軸)が変化する。
図13(a)は、未着磁磁石360の回転角度が30度の場合に、コイル30で形成される磁場が未着磁磁石360によってどのような影響をうけるかを計算した結果である。また、
図13(b)は、未着磁磁石360の回転角度が30度の場合に、検出部で検出される磁場の配向を表す概念図である。
【0074】
図13(a)および
図13(b)から理解できるように、未着磁磁石360の配向角度が、コイル30の中心軸83に一致する状態から右回りに30度回転すると、検出部で検出される磁場の配向(
図13(b)の矢印319a)は、コイル30の中心軸83に一致する状態から左回り(配向角度とは逆回り)に約10度(マイナス10度)傾斜する(
図12参照)。このように、検出部により磁場の配向を検出することによっても、未着磁磁石360の配向を検出することができる。また、このような変形例に係る配向検出装置は、未着磁磁石360の磁化容易軸の設計方向周辺における分解能が良好である。
【0075】
第4実施形態
図14は、本発明の第4実施形態に係る配向検出装置510の概略図である。第4実施形態に係る配向検出装置510は、検出部540がコイル30の中心軸から所定距離W離間している点で第1実施形態に係る配向検出装置10とは異なるが、その他の点では、配向検出装置10と同様である。第4実施形態に係る配向検出装置510の説明では、配向検出装置10との相違点を中心に説明を行い、配向検出装置10との共通点については、説明を省略する。
【0076】
配向検出装置510では、検出部540がコイル30の中心軸上に配置されておらず、中心軸から所定距離W離間している。そのため、配向検出装置510において、未着磁磁石360を通過する磁束19aは、検出部540を斜めに通過する。これにより、配向検出装置510では、検出部540の検出軸方向である第1方向580が、コイル30の中心軸方向である第3方向82に対して平行であっても、第3実施形態に係る配向検出装置410と同様の効果を奏する。
【0077】
図15は、配向検出装置510を用いて、未着磁磁石60の磁化容易軸の方向を変えながら、磁場形成部18で発生させた磁場19を、検出部540で検出した結果を示したグラフである。なお、
図15では、配向検出装置510の検出データを実線で示しており、検出部がコイル30の中心軸83上に配置される場合の検出結果を、参考データとして点線で示している。
【0078】
図15に示すグラフでは、配向検出装置510による検出結果を示す実線のグラフにおいて、グラフの横軸の0°近傍における検出値の変化が、点線で示される参考データより大きくなっていることが理解できる。このように、第4実施形態に係る配向検出装置510は、検出部540がコイル30の中心軸から所定距離W離間した位置に配置されていることにより、測定対象である未着磁磁石360の磁化容易軸の設計方向からのずれを、精度良く検出できる。
【0079】
以上、実施形態を挙げて本発明について説明を行ったが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではなく、他の実施形態や実施例を含む得ることは言うまでもない。また、配向検出装置の検出対象となる磁石は、異方性磁石のみに限定されず、等方性磁石であってもよく、たとえば、等方性磁石が特定方向に配向していないことを確認するために、本発明に係る配向検出装置を用いた検出を行ってもよい。また、コア20の形状や、未着磁磁石60と検出部40との配置関係についても、実施形態に示すものに限定されない。たとえば、
図1に示す配向検出装置10において、未着磁磁石60と検出部40とは、コア20の第1端部23aと第2端部23bとの間に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10、310、410、510…配向検出装置(未着磁磁石の配向検出装置)
18…磁場形成部
19…磁場
19a…磁束(線)
20…コア
23a…第1端部
23b…第2端部
30…コイル
40、440、540…検出部
80、480、580…第1方向
82、482…第3方向
83…中心軸
60、160、260、360、560…未着磁磁石
64、564…磁化容易軸
160a、260a…中央部
160b、260b…端部
70…電源部
72…演算部
74…記憶部
350…保持部
365…第2方向
368…矢印
390…位相検出部