(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】画像処理装置および方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20240612BHJP
【FI】
A61B6/00 550A
(21)【出願番号】P 2020020073
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝間田 真弥
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-051871(JP,A)
【文献】特開2017-012444(JP,A)
【文献】特開2017-012445(JP,A)
【文献】特開2019-130083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標グリッドの1次放射線透過率と散乱線透過率を示す目標グリッド特性情報と、撮影に使用される撮影グリッドの1次放射線透過率および散乱線透過率を示す撮影グリッド特性情報と、を取得する第1取得手段と、
前記撮影グリッドを用いた放射線撮影で得られた撮影画像を取得する第2取得手段と、
前記撮影グリッド特性情報が示す1次放射線透過率および散乱線透過率を用いて表される、前記撮影画像と1次放射線画像と散乱線画像との関係に基づいて、散乱線量を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された前記散乱線量と、前記目標グリッド特性情報と、前記撮影グリッド特性情報とに基づいて、
前記目標グリッドを使用した場合に得られる画像のコントラストに近づくように前記撮影画像の散乱線量を調整
して散乱線低減画像を生成する調整手段と、を備え
、
前記散乱線低減画像をM
c
、前記撮影画像をM、前記目標グリッド特性情報の1次放射線透過率と散乱線透過率をそれぞれα
t
とβ
t
、前記撮影グリッド特性情報の1次放射線透過率と散乱線透過率をそれぞれα
u
とβ
u
、前記推定手段による散乱線量の推定の結果である散乱線推定画像をS'(x,y)とした場合に、前記調整手段は、以下の式
により散乱線量が調整された散乱線低減画像を生成する画像処理装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記関係を示す関係式を用いた反復法によって、前記散乱線画像を推定する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記1次放射線画像をP、前記散乱線画像をS、前記撮影画像をM、前記撮影グリッドの1次放射線透過率をα
u、前記撮影グリッドの散乱線透過率をβ
uとした場合に、前記関係が以下の関係式
で表される、請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記推定手段は、n回目の反復処理時の1次放射線画像をP
n、n回目の反復処理時の散乱線画像をS
n、前記撮影画像をM、前記撮影グリッドの1次X線透過率と散乱線透過率をそれぞれα
u、β
uとした場合に、前記関係を表す関係式として以下の式
を用いて、最尤法により散乱線画像を推定する、請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記散乱線画像を、所定の関数により散乱線の広がりを近似した散乱線モデルと前記反復処理時の前記1次放射線画像(P
n)とから求める、請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記所定の関数は、ガウス分布である、請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記目標グリッド特性情報を入力するユーザの操作を受け付ける操作手段をさらに備える、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
撮影グリッドの種類と目標グリッド特性情報との対応を記憶する記憶手段をさらに備え、
前記第1取得手段は、前記放射線撮影に使用される撮影グリッドの種類に基づいて、前記記憶手段から目標グリッド特性情報を取得する、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
撮影部位と目標グリッド特性情報との対応を記憶する記憶手段をさらに備え、
前記第1取得手段は、前記放射線撮影の撮影部位に基づいて、前記記憶手段から目標グリッド特性情報を取得する、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記第2取得手段により取得された前記撮影画像にグリッド縞低減処理を行う処理手段をさらに備える、請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
目標グリッドの1次放射線透過率と散乱線透過率を示す目標グリッド特性情報と、撮影に使用される撮影グリッドの1次放射線透過率および散乱線透過率を示す撮影グリッド特性情報と、を取得する第1取得工程と、
前記撮影グリッドを用いた放射線撮影で得られた撮影画像を取得する第2取得工程と、
前記撮影グリッド特性情報が示す1次放射線透過率および散乱線透過率を用いて表される、前記撮影画像と1次放射線画像と散乱線画像との関係に基づいて、散乱線量を推定する推定工程と、
前記推定工程により推定された前記散乱線量と、前記目標グリッド特性情報と、前記撮影グリッド特性情報とに基づいて、
前記目標グリッドを使用した場合に得られる画像のコントラストに近づくように前記撮影画像の散乱線量を調整
して散乱線低減画像を生成する調整工程と、を含
み、
前記散乱線低減画像をM
c
、前記撮影画像をM、前記目標グリッド特性情報の1次放射線透過率と散乱線透過率をそれぞれα
t
とβ
t
、前記撮影グリッド特性情報の1次放射線透過率と散乱線透過率をそれぞれα
u
とβ
u
、前記推定工程による散乱線量の推定の結果である散乱線推定画像をS'(x,y)とした場合に、前記調整工程では、以下の式
により散乱線量が調整された散乱線低減画像を生成する画像処理方法。
【請求項12】
請求項1乃至
10のいずれか1項に記載された画像処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いて得られる画像を処理する画像処理装置および方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線画像撮影装置は、医用画像や工業用非破壊検査など、多くの分野で広く利用されている。近年ではFlat Panel Detector(以下、FPDと略す)と呼ばれる、放射線を電気信号に変換するための半導体素子を2次元行列状に多数配設させたものを用いたデジタルのX線画像撮影装置が広く普及している。
【0003】
X線画像撮影装置で被写体を撮影した際、FPDに入るX線は主に、X線源からFPDまで直進して到達した1次X線と、コンプトン効果により被写体内でX線の方向が変化した後FPDに到達する2次X線(以降、散乱線と記す)に分けられる。1次X線により得られる画像が本来観察したい画像であり、散乱線はX線の方向が変わってFPDに入るため、1次X線による画像のコントラストを低下させる。このような散乱線を除去するために、一般に、X線撮影では、X線焦点方向に開口した鉛箔の格子によってX線焦点以外の方向から入る散乱線を遮蔽する散乱線グリッド(以降、グリッド)と呼ばれる器具が用いられる。また、近年では、グリッドを使用しない状態で撮影し、画像処理によって撮影画像中の散乱線の推定と低減を行うことでグリッドを用いて撮影することで得られた撮影画像(以下、グリッド撮影画像)の様なコントラストの高い画像を作る散乱線低減処理も使用されるようになってきた。
【0004】
グリッドを用いたX線撮影(以下、グリッド撮影)では、X線焦点との位置関係によっては得られる画像に画素値の偏り(以降、シェーディング)が発生してしまうという課題があった。また、散乱線低減処理では、グリッドが存在しない分、グリッド撮影よりも到達線量が多くなり、結果として量子ノイズも増えることから画像の粒状性が悪化するという課題があった。
【0005】
そこで、一般的に使用されるグリッドよりも、鉛箔の格子の間隔に対して鉛箔のX線透過方向の長さの短いグリッド(以降、低格子比グリッド)で撮影し散乱線低減処理を併用する技術が開発された(特許文献1、特許文献2を参照)。低格子比グリッドを使ったX線撮影では、一般的なグリッドを使うX線撮影よりもシェーディングが発生しにくくなり、更にグリッドを使わない撮影よりも到達線量が減るため量子ノイズも低減できるというメリットがある。その反面、低格子比グリッドを使ったX線撮影では、X線焦点以外から入る散乱線を遮蔽しにくくなるため、得られる画像のコントラストが低下するという課題がある。低格子比グリッドと散乱線低減処理を併用する技術は、低格子比グリッドのメリットを維持しながら、コントラストの低さを散乱線低減処理で補うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-113479号公報
【文献】特開2016-172098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
散乱線低減処理では、使用された撮影グリッド(低格子比グリッド)による散乱線量を推定する散乱線推定処理が行われ、その処理結果に基づいて画像から散乱線の成分を低減すること行われる。散乱線推定処理では、撮影グリッドの点広がり関数や目標グリッドと撮影グリッドのカーネルなど、撮影グリッドおよび目標グリッドの特性が用いられる。しかしながら、X線撮影に用いられる撮影グリッドには多種多様のグリッドが存在する。特許文献1や特許文献2をはじめとする従来の手法では、散乱線推定処理を実行するために目標グリッド及び撮影グリッドの特性が必要となり、ユーザが使用する可能性のある撮影グリッドの全てに対応するのは容易ではなかった。したがって、低格子比グリッドと散乱線低減処理を併用しようとした場合に、撮影グリッドとして使用できる低格子比グリッドが制限されてしまう。
【0008】
本発明は、多種多様な撮影グリッドを散乱線低減処理とともに使用することをより容易にする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による画像処理装置は以下の構成を備える。すなわち、
目標グリッドの1次放射線透過率と散乱線透過率を示す目標グリッド特性情報と、撮影に使用される撮影グリッドの1次放射線透過率および散乱線透過率を示す撮影グリッド特性情報と、を取得する第1取得手段と、
前記撮影グリッドを用いた放射線撮影で得られた撮影画像を取得する第2取得手段と、
前記撮影グリッド特性情報が示す1次放射線透過率および散乱線透過率を用いて表される、前記撮影画像と1次放射線画像と散乱線画像との関係に基づいて、散乱線量を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された前記散乱線量と、前記目標グリッド特性情報と、前記撮影グリッド特性情報とに基づいて、
前記目標グリッドを使用した場合に得られる画像のコントラストに近づくように前記撮影画像の散乱線量を調整
して散乱線画像を生成する調整手段と、を備え
、
前記散乱線低減画像をM
c
、前記撮影画像をM、前記目標グリッド特性情報の1次放射線透過率と散乱線透過率をそれぞれα
t
とβ
t
、前記撮影グリッド特性情報の1次放射線透過率と散乱線透過率をそれぞれα
u
とβ
u
、前記推定手段による散乱線量の推定の結果である散乱線推定画像をS'(x,y)とした場合に、前記調整手段は、以下の式
により散乱線量が調整された散乱線低減画像を生成する画像処理装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より容易に、多種多様な撮影グリッドを散乱線低減処理とともに使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態によるX線撮影装置の構成例を示す図。
【
図2】実施形態による画像処理を説明するフローチャート。
【
図3】実施形態による散乱線低減処理の機能構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
なお、以下では、放射線としてX線を用いた例を説明するが、本発明における放射線は、X線に限られるものではない。放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギーを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども、含まれるものとする。
【0014】
図1は実施形態による放射線撮影装置(以下、X線撮影装置)の構成例を示す図である。X線管100は、被写体1とその延長線上にあるFPD200にX線を照射する。X線を照射されたFPD200は、X線を画像に変換して画像処理装置300のI/O部301へ送る。この時、X線管100から画像処理装置300へ線量や管電圧などの画像撮影時の撮影に関する情報(以下、撮影情報)が送られてもよい。
【0015】
画像処理装置300において、I/O部301は、X線管100、FPD200、表示部400、操作部500とのインターフェースとして機能する。画像処理装置300は、I/O部301を介してFPD200から取得された画像とX線管100から取得された撮影情報を記憶部302の画像/撮影情報記憶部305に保存する。保存された画像と撮影情報は、後述する散乱線推定処理、散乱線調整処理などに用いられ得る。また、記憶部302は、目標グリッド情報記憶部303および撮影グリッド情報記憶部304を有している。目標グリッド情報および撮影グリッド情報については後述する。プログラム格納部306には、メモリ307にロードされCPU308により実行されるプログラムが格納されている。
【0016】
メモリ307は、CPU308が実行するために記憶部302からロードされたプログラムを格納したり、CPU308のための作業領域を提供したりする。CPU308は、プログラム格納部306に格納されているプログラムを実行することにより各種処理を実現する。ただし、CPU308の代わりにGPUや画像処理用チップ等の演算装置が用いられてもよい。
【0017】
表示部400は、画像処理装置300の制御下で、各種表示を行う。例えば、画像処理装置300は、画像処理した結果を表示部400に表示する。また、操作部500は、画像処理装置300の操作や撮影情報の入力、目標グリッド情報や撮影グリッド情報の入力等に使用される。
【0018】
次に、画像処理装置300が行う画像処理について、
図2のフローチャートを参照して説明する。この画像処理は、例えば、記憶部302のプログラム格納部306に格納されている所定のプログラムをCPU308が実行することにより実現され得る。もちろん、上述したように専用の演算装置(ハードウエア)により実現されてもよい。
【0019】
まず、CPU308は、記憶部302の画像/撮影情報記憶部305に保存されている画像についてFPD200の機器固有の特性を補正する(S101)。以下、S101の処理を基本補正処理という。具体的な基本補正処理としては、画素間の感度のバラつきを補正するゲイン補正、欠損した画素を周辺の画素値を基に補正する欠損補正、FPD200の電子回路に流れる暗電流によって画像に発生する画素値成分を補正するオフセット補正等がある。
【0020】
次に、CPU308は、基本補正後の画像に散乱線低減処理を行う(S102)。散乱線低減処理は、画像内の散乱線量を減らすとともに、コントラストを目標となるグリッド画像のコントラストまで向上させる処理である。散乱線低減処理の具体的な内容については
図3により後述する。次に、CPU308は、散乱線低減処理が施された画像に対して、画像中のノイズを低減するノイズ低減処理を行う(S103)。ノイズ低減処理には、公知のノイズ低減技術を用いることができる。
【0021】
次いで、CPU308は、ノイズ低減処理後の画像に対して圧縮・強調処理を行う(S104)。圧縮・強調処理は、圧縮処理による画像間の輝度の安定化と強調処理による視認性の向上を行うことを目的としている。CPU308は、例えば、低周波フィルタで画像の高周波成分と低周波成分を分離し、低周波成分の階調数を基の階調数から減少させることで圧縮処理を行うと共に、高周波成分に係数を乗算して強調する強調処理を行う。その後、CPU308は、最終的なX線診断画像の視認性を向上するために、S104で得られた画像に対して階調処理を行う(S105)。例えば、CPU308は、診断領域の画像に対応する画素値の階調数を増加させることでコントラストを向上させる。
【0022】
次に、散乱線低減処理(S102)の詳細について、
図3に示した機能ブロック図を用いて説明する。なお、
図3に示される各機能部の一部または全部は、CPU308が所定のプログラムを実行することにより実現されてもよいし、専用の演算装置(ハードウエア)により実現されてもよい。
【0023】
目標グリッド情報記憶部303には目標グリッド特性情報351が保持されており、撮影グリッド情報記憶部304には撮影グリッド特性情報352が保持されている。目標グリッド特性情報351は、目標グリッドの1次X線透過率と散乱線透過率を示し、撮影グリッド特性情報352は、撮影に使用される撮影グリッドの1次X線透過率と散乱線透過率を示す。1次X線透過率と散乱線透過率は、IEC60627Ed2で定義されている、グリッドの基本特性である。目標グリッド特性情報351と撮影グリッド特性情報352は、例えばユーザにより操作部500から入力される。また、撮影グリッドを用いたX線撮影で得られた撮影画像であって、上述の基本補正処理(S101)を経た撮影画像353が画像/撮影情報記憶部305に保持されている。
【0024】
グリッド縞低減部361は、撮影画像353にグリッド縞低減処理を行い、撮影画像353からグリッドによる縞目を低減する。散乱線推定部362は、グリッド縞低減処理後の画像と撮影グリッド特性情報352を用いて散乱線推定処理を行い、散乱線量を推定することにより散乱線推定画像を得る。散乱線調整部363は、グリッド縞低減処理後の撮影画像を基に、散乱線推定画像、目標グリッド特性情報351、撮影グリッド特性情報352を用いて、目標グリッド特性の画像コントラストに近づく様に散乱線量を低減し、散乱線低減画像354を得る。散乱線低減画像354は画像/撮影情報記憶部305に保持されるとともに、表示部400に表示される。
【0025】
次に、散乱線低減処理を実現する上述した各機能部についてより具体的に説明する。
【0026】
目標グリッド特性情報351は、出力である散乱線低減画像354の画像コントラストの目標となるグリッド特性を指し、散乱線調整部363によって使用される。ここでグリッド特性とは、グリッドの1次放射線透過率(以下、1次X線透過率)と散乱線透過率を指す。目標グリッド特性情報351は、操作部500を用いてユーザがグリッド特性情報を直接入力することにより取得され得る。但し、これに限定されるものではなく、間接的に目標グリッド情報が取得されるようにしてもよい。例えば、記憶部302あるいは外部の記憶装置に撮影グリッドの種類と目標グリッド特性情報の対応を記憶しておき、撮影に使用される撮影グリッドの種類に応じて画像処理装置300が目標グリッド特性情報を選択するようにしても良い。または、記憶部302あるいは外部の記憶装置に撮影部位と目標グリッド特性情報の対応を保持しておき、これらからユーザが操作部500から入力した撮影部位に対応する目標グリッド特性情報を画像処理装置300が選択するようにしてもよい。
【0027】
撮影グリッド特性情報352は、撮影に使用したグリッドのグリッド特性情報であり、散乱線推定部362と散乱線調整部363により使用される。撮影グリッド特性情報352は、目標グリッド特性情報と同様に、操作部500を介してユーザが直接入力することができる。また、撮影に使用される撮影グリッドを画像処理装置300が自動的に識別できる構成であってもよい。撮影画像353は、撮影グリッドを用いて撮影した画像に基本補正処理(S101)を行った後の画像である。撮影画像353は、記憶部302に保存されても良いし、メモリ307に一時保存されても良い。
【0028】
グリッド縞低減部361は、FPD200の画素サイズとグリッド内の散乱線を除去するための鉛箔のスリットによって画像に現れた縞目を低減する処理(グリッド縞低減処理)を行う。このグリッド縞低減処理は、グリッドの格子密度と画素サイズの関係でグリッド縞が見えにくいか見えない場合は省略してもよい。グリッド縞低減処理には、公知の技術を用いることができる。そのような処理の一例としては、FPD200の画素ピッチとグリッドのグリッド密度の関係から画像中の高周波に縞目が発生する様なグリッドを選定しておき、撮影した画像に低周波フィルタを用いることにより縞目を除去する方法があげられる。
【0029】
散乱線推定部362は、グリッド縞低減処理後の撮影画像に対して散乱線推定処理を行い、散乱線量を表す画像である散乱線推定画像を導出する。本実施形態の散乱線推定処理は、撮影グリッド特性情報が示す1次X線透過率および散乱線透過率を用いて表される、撮影画像と1次放射線画像と散乱線画像の関係に基づいて、散乱線量を推定する。得られた散乱線推定画像は、散乱線調整部363で使用される。散乱線推定処理では、以下の式(1)により示される関係式に基づき、最尤法や最小二乗法等の反復法を用いて散乱線画像を求める。
【数1】
式(1)において、xとyはそれぞれ画像におけるX軸とY軸の座標、Pは1次放射線画像(以下、1次X線画像)、Sは散乱線画像、Mは撮影グリッドを使用した撮影画像、α
uは撮影グリッドの1次X線透過率、β
uは撮影グリッドの散乱線透過率、である。
【0030】
反復法の一例として、以下の式(2)を基に最尤法を用いて1次X線画像Pを修正しながら散乱線画像Sを推定する方法について説明する。
【数2】
式(2)において、P
nはn回目の反復処理時の1次X線画像、S
nはn回目の反復処理時の散乱線画像、Mはグリッド撮影画像、α
uは撮影グリッドの1次X線透過率、β
uは撮影グリッドの散乱線透過率、である。
【0031】
式(2)における1次X線画像P
nの初期値には、例えば、グリッド撮影画像Mが用いられても良いし、1.0等の固定値が用いられても良い。ここで、散乱線画像S
nは1次X線画像P
nから散乱線モデルを用いて求めればよい。例えば、散乱線画像S
nのx、y座標の画素値S
n(x,y)は、以下の式(3)から求めることができる。
【数3】
式(3)において、iとjはそれぞれ画像のX軸とY軸の座標、QはFPD200へ直接到達した線量相当の画素値、kはガウス分布で散乱線の広がり関数を近似した際の係数である。
【0032】
式(3)のFPD200へ直接到達した線量相当の画素値Qは、例えば、撮影条件からNDD法などにより算出され得る。なお、画素値Qの取得方法はこれに限られるものではない。例えば、撮影画像中に直接線領域があればその領域の画素値を画素値Qとして用いるようにしても良いし、直接線領域が無ければ撮影画像の画素値に、被写体の減衰係数の代表値の逆数を乗算することにより画素値Qを求めるようにしても良い。また、式(3)において、因子"-Pn(i,j)・log(Pn(i,j)/Q)"は散乱線の全体強度を近似したものであり、因子"exp{-k・(x-i)2+(y-j)2}"は散乱線の広がり関数をガウス分布で近似したものである。
【0033】
ここで、係数kの求め方の一例を
図4を用いて説明する。例えば、X線照射方向から、極小の穴を空けた鉛板(遮蔽板401)、アクリル(被写体402)、FPD200の順に設置した状態でX線を照射した際に、FPD200から取得した散乱画像のプロファイルを近似することで係数kを得ることができる。散乱線の線量は照射線量に比例するが、散乱線の散乱形状は変化しない。従って、被写体402を抜いた状態で遮蔽板401の極小の穴を通過したX線の画素値を用いて正規化することで、線量に依存しない係数kを得ることができる。但し、広がり関数の係数kは、被写体402の厚み、管電圧によって変化するため、対応表を作り、撮影時の条件ごとの係数kを用いるようにしても良い。この場合、ユーザが例えば操作部500から被写体1の体厚を入力する。画像処理装置300は、入力された体厚と画像/撮影情報記憶部305に記憶されている撮影情報から得られる管電圧を用いて対応表を参照して係数kを得る。
【0034】
散乱線推定部362は、式(2)の各項を求めた後、最尤法で1次X線画像Pが収束するまで反復する。この収束の判定には、例えば小数点以下10桁まで値が変化しなければ収束したと判定する方法、事前の実験で収束するのに要する反復回数を求めておき、その反復回数の反復を実行したときに収束したと判定する方法、等を用いることができる。散乱線推定部362は、収束したと判定された時の散乱線画像Snを散乱線推定画像S'として散乱線調整部363に渡す。
【0035】
次に、散乱線調整部363は、散乱線推定部362により提供される散乱線推定画像、目標グリッド特性情報351、および撮影グリッド特性情報352を用いて散乱線調整処理を行い、散乱線低減画像を生成する。散乱線調整処理は、目標グリッドのコントラストに撮影画像のコントラストを近づけることを目的としている。散乱線調整処理の具体的な方法の例として、式(4)を用いた方法を説明する。
【0036】
【数4】
式(4)で、xとyはそれぞれ画像のX軸とY軸の座標、M
c(x,y)は散乱線低減画像のx,y座標の画素値、M(x,y)はグリッドを使用した撮影画像のx,y座標の画素値である。また、Eは目標グリッド特性と撮影グリッド特性から求めた散乱線低減率、S'(x,y)は散乱線推定部362により推定された散乱線推定画像のx,y座標の画素値である。
【0037】
式(4)に示される様に、散乱線低減画像Mcは撮影画像Mから散乱線推定画像S'に目標グリッド特性と撮影グリッド特性から求めた散乱線低減率Eを乗算したものを減算することで求めることができる。ここで、散乱線低減率Eは散乱線低減画像Mcのコントラストを、目標グリッドを用いた撮影と同様のコントラストに近づけるための比率を指す。具体的な方法例として、式(5)、式(6)を用いた方法を説明する。
【0038】
【数5】
式(5)で、Eは散乱線低減率、α
tとβ
tはそれぞれ目標グリッドの1次X線透過率と散乱線透過率、α
uとβ
uはそれぞれ撮影グリッドの1次X線透過率と散乱線透過率、である。
【0039】
式(5)は、散乱線低減率Eを算出する式を表している。この式(5)は、目標グリッドのコントラストと撮影グリッドのコントラストの等価式である以下の式(6)を散乱線低減率Eに関して変形して求めた式である。
【0040】
【数6】
式(6)で、x
1、x
2は画像のX軸の座標、y
1、y
2は画像のY軸の座標である。また、M
t(x,y)は目標グリッドを使用した際に得られるであろう目標グリッド画像のx,y座標の画素値、M'(x,y)は理想的な散乱線低減処理が行われた際に得られるであろう散乱線低減画像のx,y座標の画素値である。
【0041】
式(6)は、目標グリッド画像M(左辺)と散乱線低減画像M'(右辺)のそれぞれを対数変換して得られる画像の異なる2画素の画素値の差を示している。対数変換を行っているのは、ユーザが観察する一般的なX線診断画像はFPD200で取得された画像を対数変換したものが用いられるためである。式(6)の両辺において、画像内の異なる2画素の差は、それぞれの画像のコントラスト(輝度の差)を示しているといえる。すなわち、式(6)の様に両辺が等しいということは、目標グリッド画像のコントラストと散乱線低減処理画像のコントラストが等しい状態を示している。
【0042】
次に、式(6)のMとM'について、以下の式(7)と式(8)を用いて説明する。式(6)のMtは、以下の式(7)により表され、式(6)のM'は、以下の式(8)により表される。
【0043】
【数7】
式(7)において、M(x,y)は目標グリッド画像におけるx,y座標の画素値である。また、P(x,y)はグリッド到達前の1次X線画像におけるx,y座標の画素値、S(x,y)はグリッド到達前の散乱線画像におけるx,y座標の画素値である。すなわち、画像Pはグリッド到達前の1次X線成分の画像、画像Sはグリッド到達前の散乱線成分の画像である。また、α
tとβ
tはそれぞれ目標グリッドの1次X線透過率と散乱線透過率である。
【0044】
式(7)では、目標グリッド画像Mtが、目標グリッド到達前の1次X線画像Pと目標グリッド到達前の散乱線推定画像Sのそれぞれに目標グリッド特性の1次X線透過率αtと散乱線透過率βtを乗算し、加算したものであることを示している。
【0045】
【数8】
式(8)で、M'(x,y)は、理想的な散乱線低減処理が行われた際に得られるであろう散乱線低減画像のx,y座標における画素値である。また、P(x,y)は、グリッド到達前の1次X線画像におけるx,y座標の画素値、S(x,y)は、グリッド到達前の散乱線画像における座標x,yの画素値である。さらに、α
uとβ
uはそれぞれ撮影グリッドの1次X線透過率と散乱線透過率、Eは式(5)により表される散乱線低減率である。
【0046】
式(8)では、散乱線低減画像M'が、グリッド到達前の1次X線画像Pに撮影グリッドの1次X線透過率α
uを乗算した項と、グリッド到達前の散乱線画像Sに撮影グリッドの散乱線透過率β
uを乗算した項とを加算したものであることを示している。式(6)~式(8)により、散乱線低減率Eについて変形すると、式(5)が得られる。散乱線調整部363は、式(5)に示される散乱線低減率Eを用いて式(4)に示される処理を行うことにより、コントラストが目標グリッド使用時に対応するように散乱線調整処理された散乱線低減画像M
cを得る。すなわち、散乱線調整部363は、以下の式(9)により散乱線低減画像M
cを得る。
【数9】
【0047】
以上のように、実施形態によれば、1次X線透過率と散乱線透過率から散乱線推定処理を行い、目標グリッドのコントラストに合わせた散乱線低減画像を生成することができる。すなわち、本実施形態によれば、1次X線透過率と散乱線透過率からなる目標グリッド特性情報と撮影グリッド特性情報、および撮影画像から、目標グリッドのコントラストと同等のコントラストを持つ散乱線低減画像が生成される。1次X線透過率と散乱線透過率はIEC60627Ed2で定義された基本的な特性であり、これら基本特性を用いて撮影画像に対する散乱線低減処理を実現できるため、多様な撮影グリッドを用いたX線撮影への対応が容易になる。
【0048】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0049】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0050】
10:被写体、100:X線管、200:FPD、300:画像処理装置、301:I/О部、302:記憶部、303:目標グリッド情報記憶部、304:撮影グリッド情報記憶部、305:画像/撮影情報記憶部、306:プログラム格納部