(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】フィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20240612BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20240612BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20240612BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240612BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240612BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240612BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240612BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240612BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20240612BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20240612BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B01D39/20 D ZAB
B01D46/00 302
B01D53/86 222
B01D53/86 245
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/86 280
C04B38/00 303Z
C04B38/00 304Z
B01J35/57 A
B01J35/57 B
B01J35/57 C
B01J35/57 G
B01J35/57 J
B01J35/57 K
B01J35/57 L
B01J37/08
B01J37/02 101C
B01J32/00
F01N3/022 B
F01N3/035 A
(21)【出願番号】P 2020066203
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019104854
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】福代 浩司
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 周一
(72)【発明者】
【氏名】児玉 優
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆太
(72)【発明者】
【氏名】篠田 成正
(72)【発明者】
【氏名】堀本 類
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/091688(WO,A1)
【文献】特開2003-155908(JP,A)
【文献】特開2007-117792(JP,A)
【文献】特開2017-047372(JP,A)
【文献】特開2018-061926(JP,A)
【文献】特開2005-144250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00-46/90
F01N 3/022
B01D 53/86
B01D 53/94
B01J 35/57
B01J 37/08
B01J 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタであって、
各柱状ハニカム構造セグメントは、外周側壁、及び、第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有しており、
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の平均気孔率は、隔壁の平均気孔率よりも低
く、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率の25%以下である、
フィルタ。
【請求項2】
複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタであって、
各柱状ハニカム構造セグメントは、外周側壁、及び、第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有しており、
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の平均厚みは隔壁の平均厚みの0.5倍以上1.2倍以下である、
請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
各柱状ハニカム構造セグメントの外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み50%の領域の平均気孔率よりも、外周側壁の最内周部から外側に向かう外周側壁の厚み50%の領域の平均気孔率の方が高い請求項1
又は2に記載のフィルタ。
【請求項4】
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の最内周部から外側に向かう外周側壁の厚み10%の領域の平均気孔率と、隔壁の平均気孔率との差が、5%以内である請求項1~
3の何れか一項に記載のフィルタ。
【請求項5】
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の気孔の少なくとも一部に充填物が充填されている請求項1~
4の何れか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
充填物が、骨材粒子を含有し、骨材粒子がアルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、アルミニウムチタネート、窒化ケイ素、及びコージェライトよりなる群から選択される一種を主成分とするか又は二種以上の混合物を主成分とする請求項
5に記載のフィルタ。
【請求項7】
充填物が金属Siを主成分とする請求項
5に記載のフィルタ。
【請求項8】
各柱状ハニカム構造セグメントの隔壁には、SCR触媒が担持されている請求項1~
7の何れか一項に記載のフィルタ。
【請求項9】
各柱状ハニカム構造セグメントの隔壁の平均気孔率が50%~70%である請求項1~
8の何れか一項に記載のフィルタ。
【請求項10】
各柱状ハニカム構造セグメントの隔壁の平均細孔径が7μm~23μmである請求項1~
9の何れか一項に記載のフィルタ。
【請求項11】
外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを用意する工程1Aと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低
く、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率の25%以下である複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程2Aと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程3Aと、
を含む請求項1~
10の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
【請求項12】
骨材粒子の平均粒径は、スラリーを含浸する前における外周側壁の平均細孔径の2%~60%の大きさである請求項
11に記載のフィルタの製造方法。
【請求項13】
前記スラリーは、造孔材の含有量が0.5質量%以下である請求項
11又は
12に記載のフィルタの製造方法。
【請求項14】
工程2Aは、前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、前記スラリーを外周側壁の最外周部に塗布することを含む請求項
11~
13の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
【請求項15】
工程2Aは、前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、両底面をシールした上で前記スラリーに全体を浸漬する工程を含む請求項
11~
13の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
【請求項16】
外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを用意する工程1Bと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低
く、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率の25%以下である複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程2Bと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程3Bと、
を含む請求項1~
10の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
【請求項17】
坏土を成形及び乾燥して、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントを作製する工程1Cと、
前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸する工程2Cと、
工程2C後の前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれを焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低
く、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率の25%以下である複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程3Cと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程4Cと、
を含む請求項1~
10の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
【請求項18】
前記スラリーは、造孔材の含有量が0.5質量%以下である請求項
17に記載のフィルタの製造方法。
【請求項19】
工程2Cは、前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、前記スラリーを外周側壁の最外周部に塗布することを含む請求項
17又は
18に記載のフィルタの製造方法。
【請求項20】
工程2Cは、前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、両底面をシールした上で前記スラリーに全体を浸漬する工程を含む請求項
17又は
18に記載のフィルタの製造方法。
【請求項21】
坏土を成形及び乾燥して、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントを作製する工程1Dと、
前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸する工程2Dと、
工程2D後の前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれを焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低
く、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率の25%以下である複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程3Dと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程4Dと、
を含む請求項1~
10の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されている構造を有するフィルタに関する。また、本発明はそのようなフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン及びガソリンエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質(以下、PM:Particulate Matterと記す。)にはススが含まれる。ススは人体に対し有害であり排出が規制されている。現在、排ガス規制に対応するために、通気性のある小細孔隔壁に排ガスを通過させ、スス等のPMを濾過するDPF及びGPFに代表されるフィルタが幅広く用いられている。
【0003】
PMを捕集するためのフィルタとしては、圧力損失を許容範囲に抑えつつ、高いPM捕集効率を得られることから、外周側壁、及び、第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた柱状ハニカム構造を有するフィルタが広く使用されている。フィルタには、PM捕集機能に加えてNOx浄化等の排ガス浄化機能を同時に持たせるため、SCR触媒等の各種触媒が担持されることがある。柱状ハニカム構造体を有するフィルタに触媒を担持させる方法としては、触媒スラリーを、従来公知の吸引法等によりセル内に導入し、隔壁の表面や細孔に付着させた後、高温処理を施して、触媒スラリーに含まれる触媒を隔壁に焼き付ける方法が一般に採用されている。
【0004】
特許文献1(特許第5649836号公報)においては、圧力損失が低く、排ガス浄化性能に優れたハニカム触媒体を提供することを目的として、セル形状を六角形とし、隔壁の厚み、セルピッチ、隔壁の気孔率、触媒担持量、平均細孔径を制御することが記載されている。
【0005】
特許文献2(特開2016-55282号公報)においては、触媒スラリーが外周壁の外側表面に染み出すことを防止できるとともに、外周壁の強度が向上し、その結果、構造体全体のアイソスタティック強度も向上したハニカム構造体を提供することを目的とする発明が記載されている。当該発明によれば、ハニカム基材の外周壁の外側表面にコート層が配設され、その一部が外周壁の細孔内に侵入しており、前記コート層の前記外周壁の細孔内に侵入している部分の厚みが、前記外周壁の厚みの1~90%であることにより、外周壁の細孔が閉塞される。
【0006】
特許文献2に記載の発明によれば、以下の効果が得られるとされている。気孔率が50%以上であるような高気孔率のハニカム基材を用いても、触媒スラリーをセル内に導入した際に、当該スラリーが外周壁の外側表面に染み出すことがなく、ハニカム構造体の隔壁に触媒を担持させる工程において、良好な作業性が得られる。また、コート層が外周壁を補強するため、外周壁の強度が向上し、ハニカム構造体に触媒を担持させる工程において、ハニカム構造体の外周壁の一部をチャック(把持)した際の外周壁の破損が効果的に防止できる。更に、外周壁の強度が向上した結果、ハニカム構造体全体のアイソスタティック強度も向上し、ハニカム構造体の搬送時や実使用時における破損も効果的に防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5649836号公報
【文献】特開2016-55282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
柱状ハニカム構造を有するフィルタは、耐熱衝撃性を向上させるために、複数の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材で接合して一体化して使用する場合がある。この場合、複数の柱状ハニカム構造セグメントが接合されてできたフィルタの外周側壁に対して、特許文献2に教示されるコート層を設けることで、特許文献2に記載通りの効果、すなわち、触媒スラリーをセル内に導入する際の作業性向上効果、及びハニカム構造体をチャックしたときの破損防止効果が得られることが期待できる。
【0009】
一方で、特許文献1及び特許文献2の何れにおいても、複数の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材で接合して一体化して使用する場合において、触媒性能を向上させるための検討が不足している。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は一実施形態において、複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタにおいて、触媒性能の向上に寄与することのできるフィルタを提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのようなフィルタの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタにおいて、当該側面は各柱状ハニカム構造セグメントの外周側壁の外表面に対応する。従って、接合材は隣り合う柱状ハニカム構造セグメントの外周側壁間に介在する。接合材を介して隣接し合う柱状ハニカム構造セグメントの外周側壁部分は、フィルタの外周部ではなく内部に存在するため、当該外周側壁部分に引用文献2に教示されるようなコート層を配設したとしても、触媒スラリーをセル内に導入する際の作業性向上効果、及びハニカム構造体をチャックしたときの破損防止効果が得られない。
【0012】
一方で、複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタに対して触媒スラリーを導入すると、接合材を介して隣接し合う柱状ハニカム構造セグメントの外周側壁部分に触媒スラリーが充填されてしまうことが分かった。更には、触媒スラリーは外周側壁を通り抜けて接合材に充填されてしまう場合があることも分かった。外周側壁や接合材に担持された触媒は触媒性能を発揮することができず、排ガス浄化にほとんど寄与しない。このため、導入した触媒の一部が無駄になって排ガス浄化性能を低下させる。
【0013】
本発明者は鋭意検討したところ、各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の平均気孔率を、隔壁の平均気孔率よりも低くする、及び/又は、外周側壁の平均厚みを隔壁の平均厚みに対して所定の比率とすることで、触媒が外周側壁及び接合材に担持され難くなる一方で、排ガス浄化性能の向上に寄与する隔壁に担持される触媒の割合が多くなることを見出した。本発明は当該知見に基づいて完成したものであり、以下に例示される。
【0014】
[1]
複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタであって、
各柱状ハニカム構造セグメントは、外周側壁、及び、第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有しており、
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の平均気孔率は、隔壁の平均気孔率よりも低い、
フィルタ。
[2]
複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタであって、
各柱状ハニカム構造セグメントは、外周側壁、及び、第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有しており、
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の平均厚みは隔壁の平均厚みの0.
5倍以上1.2倍以下である、
フィルタ。
[3]
複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタであって、
各柱状ハニカム構造セグメントは、外周側壁、及び、第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有しており、
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の平均気孔率は、隔壁の平均気孔率よりも低く、
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の平均厚みは隔壁の平均厚みの0.5倍以上1.2倍以下である、
フィルタ。
[4]
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率よりも低い[1]~[3]の何れか一項に記載のフィルタ。
[5]
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率の半分以下である[1]~[3]の何れか一項に記載のフィルタ。
[6]
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁の平均気孔率の25%以下である[1]~[3]の何れか一項に記載のフィルタ。
[7]
各柱状ハニカム構造セグメントの外周側壁は、外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み50%の領域の平均気孔率よりも、外周側壁の最内周部から外側に向かう外周側壁の厚み50%の領域の平均気孔率の方が高い[1]~[6]の何れか一項に記載のフィルタ。
[8]
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の最内周部から外側に向かう外周側壁の厚み10%の領域の平均気孔率と、隔壁の平均気孔率との差が、5%以内である[1]~[7]の何れか一項に記載のフィルタ。
[9]
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、外周側壁の気孔の少なくとも一部に充填物が充填されている[1]~[8]の何れか一項に記載のフィルタ。
[10]
充填物が、骨材粒子を含有し、骨材粒子がアルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、アルミニウムチタネート、窒化ケイ素、及びコージェライトよりなる群から選択される一種を主成分とするか又は二種以上の混合物を主成分とする[9]に記載のフィルタ。
[11]
充填物が金属Siを主成分とする[9]に記載のフィルタ。
[12]
各柱状ハニカム構造セグメントの隔壁には、SCR触媒が担持されている[1]~[11]の何れか一項に記載のフィルタ。
[13]
各柱状ハニカム構造セグメントの隔壁の平均気孔率が50%~70%である[1]~[12]の何れか一項に記載のフィルタ。
[14]
各柱状ハニカム構造セグメントの隔壁の平均細孔径が7μm~23μmである[1]~[13]の何れか一項に記載のフィルタ。
[15]
外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを用意する工程1Aと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程2Aと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程3Aと、
を含む[1]~[14]の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
[16]
骨材粒子の平均粒径は、スラリーを含浸する前における外周側壁の平均細孔径の2%~60%の大きさである[15]に記載のフィルタの製造方法。
[17]
前記スラリーは、造孔材の含有量が0.5質量%以下である[15]又は[16]に記載のフィルタの製造方法。
[18]
工程2Aは、前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、前記スラリーを外周側壁の最外周部に塗布することを含む[15]~[17]の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
[19]
工程2Aは、前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、両底面をシールした上で前記スラリーに全体を浸漬する工程を含む[15]~[17]の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
[20]
外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを用意する工程1Bと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程2Bと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程3Bと、
を含む[1]~[14]の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
[21]
坏土を成形及び乾燥して、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントを作製する工程1Cと、
前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸する工程2Cと、
工程2C後の前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれを焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程3Cと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程4Cと、
を含む[1]~[14]の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
[22]
前記スラリーは、造孔材の含有量が0.5質量%以下である[21]に記載のフィルタの製造方法。
[23]
工程2Cは、前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、前記スラリーを外周側壁の最外周部に塗布することを含む[21]又は[22]に記載のフィルタの製造方法。
[24]
工程2Cは、前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、両底面をシールした上で前記スラリーに全体を浸漬する工程を含む[21]又は[22]に記載のフィルタの製造方法。
[25]
坏土を成形及び乾燥して、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントを作製する工程1Dと、
前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸する工程2Dと、
工程2D後の前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれを焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程3Dと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程4Dと、
を含む[1]~[14]の何れか一項に記載のフィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態に係るフィルタによれば、触媒が各セグメントの外周側壁及び接合材に担持され難くなる一方で、触媒性能(例:排ガス浄化性能)の向上に寄与する隔壁に担持される触媒の割合を多くすることができる。これにより、複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士が接合材を介して接合されているフィルタにおいて、フィルタへの触媒担持量を同一としたときの触媒性能が向上するという格別の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィルタの、模式的な底面図(a)及び側面図(b)である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るフィルタを構成する柱状ハニカム構造セグメントの模式的な斜視図が示されている。
【
図3】本発明の一実施形態に係るフィルタを構成する柱状ハニカム構造セグメントを、セルの延びる方向に平行な断面から観察したときの模式的な断面図が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。また、図中の各部位の厚みの関係は実際の比率とは異なり、構造をわかりやすくするために肉厚の薄い部分も拡大して記載してあり、実際のものの厚みの比率をそのまま反映しては記載していない。
【0018】
(1.フィルタ)
本発明に係るフィルタは、例えば、燃焼装置、典型的には車両に搭載されるエンジンからの排ガスラインに装着されるススを捕集するDPF(Diesel Particulate Filter)及びGPF(Gasoline Particulate Filter)として使用可能である。本発明に係るフィルタは、例えば、排気管内に設置することができる。当該排気管の内面及び当該フィルタの間には、当該フィルタを排気管内に保持するための緩衝マットを介在させることができる。
【0019】
図1には、本発明の一実施形態に係るフィルタ10の模式的な底面図(a)及び側面図(b)が示されている。フィルタ10は、排ガスの入口となる第一底面104、排ガスの出口となる第二底面106を備えている。第一底面104から流入した排ガスはフィルタ10内を通過する間に浄化されて、第二底面106から排出される。フィルタ10は、複数の柱状ハニカム構造セグメント100の側面同士が接合材107を介して接合された構造を有する。柱状ハニカム構造セグメント100を複数接合してセグメント接合体として提供することにより、耐熱衝撃性を高めることができる。また、フィルタ10は、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周側面にコーティング材を塗工した後、乾燥及び熱処理することにより形成される外周壁103を有することができる。
【0020】
図2には、本発明の一実施形態に係るフィルタを構成する柱状ハニカム構造セグメント100の模式的な斜視図が示されている。
図3には、本発明の一実施形態に係るフィルタを構成する柱状ハニカム構造セグメント100を、セルの延びる方向に平行な断面から観察したときの模式的な断面図が示されている。
【0021】
柱状ハニカム構造セグメント100は、外周側壁102と、外周側壁102の内側に配設され、第一底面104から第二底面106まで延びる複数のセル108、110を区画形成する多孔質の隔壁112を有するハニカム構造を有する。各セル108、110は、第一底面104及び第二底面106が共に開口することで第一底面104から第二底面106まで貫通していてもよい。しかしながら、PMの捕集性能を高めるため、柱状ハニカム構造セグメント100は、第一底面104から第二底面106まで延び、第一底面104が開口して第二底面106が目封止された複数の第1セル108と、第一底面104から第二底面106まで延び、第一底面104が目封止されて第二底面106が開口する複数の第2セル110とを有することが好ましい。この場合、柱状ハニカム構造セグメント100は、両底面が市松模様を呈するように、第1セル108及び第2セル110が隔壁112を挟んで交互に隣接配置することができる。
【0022】
柱状ハニカム構造セグメント100の上流側の第一底面104にススを含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル108に導入されて第1セル108内を下流に向かって進む。第1セル108は下流側の第二底面106が目封止されているため、排ガスは第1セル108と第2セル110を区画する多孔質の隔壁112を透過して第2セル110に流入する。ススは隔壁112を透過できないため、第1セル108内に捕集され、堆積する。ススが除去された後、第2セル110に流入した清浄な排ガスは第2セル110内を下流に向かって進み、下流側の第二底面106から流出する。
【0023】
柱状ハニカム構造セグメント100の外形は柱状である限り特に限定されない。例えば、底面が多角形の柱状とすることができる。多角形としては、四角形(長方形、正方形等)、六角形などが挙げられる。典型的な実施形態においては、柱状ハニカム構造セグメント100の外形は四角柱状とすることができる。また、柱状ハニカム構造セグメント100の大きさは、例えば、底面の面積を100~3600mm2とすることができ、典型的には400~2500mm2とすることができる。柱状ハニカム構造セグメント100のセルの延びる方向の長さ(高さ)は、例えば、100~500mmとすることができ、典型的には120~400mmとすることができる。
【0024】
第1セル108及び第2セル110の延びる方向(高さ方向)に直交する断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等の中でも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、柱状ハニカム構造セグメント100をパティキュレートフィルタとして使用したときに、排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、浄化性能が優れたものとなる。
【0025】
柱状ハニカム構造セグメント100の材質としては、限定的ではないが、多孔質セラミックスを挙げることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)、コージェライト-炭化珪素複合材、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア、窒化珪素等が挙げられる。そして、これらのセラミックスは、1種を単独で含有するものでもよいし、2種以上を同時に含有するものであってもよい。柱状ハニカム構造セグメント100のその他の材料としては、Fe、Cr、Mo、及びNiよりなる群から選択される一種又は二種以上を主成分とする合金成分を含有する多孔質焼結金属等が挙げられる。
【0026】
各柱状ハニカム構造セグメント100における隔壁112の平均厚みは、限定的ではないが、0.1mm~0.5mmであることが好ましい。隔壁112の平均厚みを好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上とすることで各柱状ハニカム構造セグメント100の強度を確保することができる。また、隔壁112の平均厚みを好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下とすることで、各柱状ハニカム構造セグメント100に排ガスを流した時の圧力損失を低く抑えることができる。
【0027】
本発明において、隔壁の厚みは、セルの延びる方向に直交する断面において、隣接するセルの重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁を横切る長さを指す。隔壁の平均厚みは、各柱状ハニカム構造セグメントにおけるすべての隔壁の厚みの平均値を指す。
【0028】
各柱状ハニカム構造セグメントにおいて、隔壁112の平均気孔率は、例えば、30%~80%とすることができ、50%~70%であることが好ましい。隔壁の平均気孔率を上記範囲内とすることで、製造される柱状ハニカム構造セグメントの強度を維持しつつ、圧力損失を抑えることができるという利点を有する。一方、平均気孔率が30%よりも低い場合、圧力損失が上昇する問題が発生し、また、平均気孔率が80%を超えると、強度が低下し、かつ、熱伝導率が下がる等の影響がある。ここで、隔壁の平均気孔率は、隔壁の複数のサンプルを柱状ハニカム構造セグメントから偏りなく採取し、画像解析によって各サンプルの気孔率を測定したときの平均値である。具体的には、各サンプルについて、300倍以上の倍率でSEM観察画像を採取し、空隙部、触媒部(存在する場合)、基材部の3領域に分け、3領域全体の面積に対する空隙部+触媒部(存在する場合)の領域の面積比率を空隙率=気孔率として定義する。すなわち、ここでの気孔率は、触媒を担持する前の気孔率である。
【0029】
また、各柱状ハニカム構造セグメントの隔壁の平均細孔径は、限定的ではないが、触媒の担持し易さ、PMの捕集効率、及び強度のバランスから、7μm~40μmであることが好ましく、7μm~30μmであることがより好ましく、7μm~23μmであることが更に好ましい。ここで、隔壁の平均細孔径は、隔壁の複数のサンプルを柱状ハニカム構造セグメントから偏りなく採取し、水銀圧入法よって各サンプルの平均細孔径を測定したときの平均値である。
【0030】
一実施形態によれば、各柱状ハニカム構造セグメント100において、外周側壁102の平均気孔率は、隔壁112の平均気孔率よりも低い。当該構成によって、触媒が各セグメントの外周側壁に担持され難くなる一方で、触媒性能の向上に寄与する隔壁に担持される触媒の割合が多くすることができる。すなわち、フィルタ内で有効活用される触媒の割合が増加するため、フィルタへの担持量を同一としたときの触媒性能が向上する。また、従来、接合材には不純物としてNaが含まれる場合があり、その場合にはNaがセグメント内部へ拡散することでゼオライト等の触媒成分がNaを吸収して触媒性能を劣化させるおそれがあった。しかしながら、外周側壁102の平均気孔率を小さくすることで、Naがセグメント内部へ拡散するのを防止する効果も得られると予測される。外周側壁102の平均気孔率の、隔壁112の平均気孔率に対する比率は、50%以下とすることが好ましく、30%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが更により好ましい。外周側壁の平均気孔率は、外周側壁の厚み方向全体を包含する複数のサンプルを採取し、画像解析によって各サンプルの外周側壁の厚み方向全体の気孔率を測定したときの平均値である。具体的には、各サンプルについて、300倍以上の倍率でSEM観察画像を採取し、空隙部、触媒部(存在する場合)、基材部の3領域に分け、3領域全体の面積に対する空隙部+触媒部(存在する場合)の領域の面積比率を空隙率=気孔率として定義する。すなわち、ここでの気孔率は、触媒を担持する前の気孔率である。
【0031】
外周側壁102の平均気孔率は例えば、8%~35%とすることが好ましい。外周側壁102の平均気孔率は小さい方が、触媒スラリーが外周側壁102の気孔内に充填される割合が少なくなるので好ましい。この観点から、外周側壁102の平均気孔率を35%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが更により好ましい。但し、外周側壁102の気孔をほぼ全て埋めてしまう場合には、セグメント同士を接合する際に使用する接合材スラリーからの水分吸収が不十分となり、接合材スラリーの乾燥や、接合材107と外周側壁102との固着状態が弱くなる可能性あるので、外周側壁102の平均気孔率を3%以上とすることが好ましく、5%以上とすることがより好ましく、8%以上とすることが更により好ましい。また、これに関連して、水分吸収性を高めるために、吸水性のある下地層を外周側壁102の外周表面に設けても良い。下地層としてはシリカ、アルミナ等を主成分とする多孔質セラミックス層等が使用できる。
【0032】
各柱状ハニカム構造セグメント100において、外周側壁102の平均気孔率を、隔壁112の平均気孔率よりも低くするために、外周側壁102内部の気孔の少なくとも一部に充填物を充填することができる。充填物は骨材粒子を含有することができる。触媒劣化防止の観点から、充填物中のNa含有量が0.02質量%以下であることが好ましい。
【0033】
例えば、骨材粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、アルミニウムチタネート、窒化ケイ素、コージェライト、ムライト、リン酸ジルコニウム、チタニア、Fe-Cr-Al系金属、ニッケル系金属、及び金属Siよりなる群から選択される一種を主成分とするか又は二種以上の混合物を主成分とすることができる。好ましくは、骨材粒子は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、アルミニウムチタネート、窒化ケイ素、及びコージェライトよりなる群から選択される一種を主成分とするか又は二種以上の混合物を主成分とすることができる。これらの中でも、Naとの親和性の小さい材料である炭化ケイ素がより好ましい。また、隔壁が珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)を材料とする場合には、より低温の焼成で骨材間の結合が可能であることと、焼成後の材料の靭性が高く破壊しにくいこと、等の理由により、骨材間の結合材として金属Siを主成分とすることが好ましい。ここで、骨材粒子の“主成分”とは、骨材粒子の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上を占める成分であることを意味する。骨材粒子としては更に、γ-アルミナ、セリア、ジルコニア、セリア系複合酸化物、ジルコニア系複合酸化物のような、ハニカム構造体に触媒成分を担持させる際のウォッシュコートに含まれる粒子を用いることもできる。
【0034】
充填物は結合材を含有することが好ましい。結合材は、骨材粒子を外周側壁の細孔内面に結合させる機能を有する。結合材としては、限定的ではないが、シリカゾル、アルミナゾル等のコロイダルゾル、並びに、膨潤して結合性を示す層状化合物等が好適に使用できる。なお、本明細書においては、300倍以上の倍率でSEM観察画像を採取したときに、粒径(円相当径)が0.3μmを超えるものを骨材粒子とし、粒径(円相当径)が0.3μm以下のものを結合材として扱う。
【0035】
外周側壁102の内部に担持されて有効に利用できない触媒量を極力削減するため、外周側壁102の平均厚みは隔壁112の平均厚みの1.8倍以下であることが好ましく、1.5倍以下であることがより好ましく、1.2倍以下であることが更により好ましく、1.0倍以下であることが更により好ましい。また、柱状ハニカム構造セグメント100の強度を確保する観点からは、外周側壁102の平均厚みは隔壁112の平均厚みの0.5倍以上であることが好ましく、0.8倍以上であることがより好ましい。とりわけ、各柱状ハニカム構造セグメント100において、外周側壁102の平均厚みは隔壁112の平均厚みの0.5倍以上1.2倍以下であると、外周側壁及び接合材に担持される触媒量の低減効果と、柱状ハニカム構造セグメントの強度とのバランスが優れたものとなる。本発明において、外周側壁の平均厚みは、セルの延びる方向に直交する断面において、外周側壁の任意の複数の箇所の厚みを偏りなく測定したときの平均値を指す。
【0036】
一実施形態によれば、各柱状ハニカム構造セグメント100において、外周側壁102は、外周側壁102の最外周部から内側に向かう外周側壁102の厚み20%以上の領域の平均気孔率が、隔壁112の平均気孔率よりも低い。当該構成により、触媒スラリーが外周側壁102の気孔内に充填される割合を効果的に少なくすることができる。外周側壁102の当該領域の平均気孔率の、隔壁112の平均気孔率に対する比率は、70%以下とすることが好ましく、50%(半分)以下であることがより好ましく、25%以下とすることが更により好ましい。外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率は、当該領域を包含する複数のサンプルを複数採取し、画像解析によって各サンプルの当該領域の気孔率を測定したときの平均値である。具体的には、各サンプルについて、300倍以上の倍率でSEM観察画像を採取し、空隙部、触媒部(存在する場合)、基材部の3領域に分け、3領域全体の面積に対する空隙部+触媒部(存在する場合)の領域の面積比率を空隙率=気孔率として定義する。すなわち、ここでの気孔率は、触媒を担持する前の気孔率である。
【0037】
一実施形態によれば、各柱状ハニカム構造セグメント100において、外周側壁102は、外周側壁102の最外周部から内側に向かう外周側壁102の厚み50%の領域の平均気孔率(以下、「外周側壁の外周側平均気孔率」ともいう。)よりも、外周側壁102の最内周部から外側に向かう外周側壁102の厚み50%の領域の平均気孔率(以下、「外周側壁の内周側平均気孔率」ともいう。)の方が高い。外周側壁の外周側平均気孔率よりも外周側壁の内周側平均気孔率が高いことで、気孔率の小さな領域が外周側壁を超えて隔壁112にまで及ぶことを防止することができる。隔壁112の気孔率が小さくなると、隔壁112に触媒が担持されにくくなるため、隔壁112が排ガス浄化に有効活用されないという問題が生じる。外周側壁の外周側平均気孔率の、外周側壁の内周側平均気孔率に対する比率は、35%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下とすることが更により好ましい。外周側壁の外周側平均気孔率及び外周側壁の内周側平均気孔率の測定方法はそれぞれ、当該領域を包含する複数のサンプルを採取し、画像解析によって各サンプルの当該領域の気孔率を測定したときの平均値である。具体的な手順は、外周側壁の厚み20%以上の領域の平均気孔率の測定方法と同様である。
【0038】
一実施形態によれば、各柱状ハニカム構造セグメント100において、外周側壁102の最内周部から外側に向かう外周側壁102の厚み10%の領域の平均気孔率と、隔壁112の平均気孔率との差が、5%以内である。平均気孔率の当該差は、好ましくは3%以内であり、より好ましくは1%以内である。外周側壁102の最内周部に近い領域の平均気孔率を隔壁112の平均気孔率と同程度であるということは、気孔率の小さな領域が外周側壁102を超えて隔壁112にまで深く入り込んでいないということを意味し、好ましくは気孔率の小さな領域が外周側壁102を超えて隔壁112に及んでいないことを意味する。なお、通常は、外周側壁102の最内周部から外側に向かう外周側壁102の厚み10%の領域の平均気孔率は、隔壁112の平均気孔率よりも低いか又は同じである。
【0039】
(2.フィルタの製造方法)
本発明に係るフィルタの製造方法は第一の実施形態において、
外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを用意する工程1Aと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程2Aと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程3Aと、
を含む。
【0040】
工程1Aでは、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを用意する。この多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントは、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて製造可能であり、以下に手順を例示する。まず、所定のセラミックス原料、分散媒、造孔材及びバインダを含有する坏土を作製する。次に、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。ハニカム成形体の底面を目封止する方法は、特に限定されるものではなく、所定のマスクを貼った底面のセル開口部に、目封止スラリーを充填するといった周知の手法を採用することができる。その後、乾燥後のハニカム成形体に対して焼成を行うことで柱状ハニカム構造セグメントを作製可能である。焼成条件はセグメントの材質に応じて公知の任意の条件を採用すればよく、特に制限はない。
【0041】
工程2Aでは、工程1Aで用意した複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る。スラリーは結合材を含有することが好ましい。
【0042】
骨材粒子の平均粒径は、スラリーを含浸する前における外周側壁の平均細孔径の2%~60%の大きさであることが好ましく、10%~50%の大きさであることがより好ましく、30%~40%の大きさであることが更により好ましい。骨材粒子の平均粒径が、スラリーを含浸する前における外周側壁の平均細孔径の2%未満であると、外周側壁の細孔内に充填されるべき粒子が細孔径に対し小さすぎる結果、細孔内に充分に充填することができないおそれがある。すなわち、細孔内に保持出来ず、素通りしてしまうことがある。一方、骨材粒子の平均粒径が、スラリーを含浸する前における外周側壁の平均細孔径の60%を超えると、外周側壁の細孔内に充填されるべき粒子が細孔径に対し大きすぎるので、細孔内に充填することができない(細孔内に入らない)おそれがある。骨材粒子の平均粒径は、レーザー回折法によって測定される体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)を指す。
【0043】
その他、スラリー中の骨材粒子及び結合材の好適な実施形態については先述した通りである。スラリー中の溶媒としては、水、アルコール又は両者の混合物を主成分とすることが好ましい。ここで、溶媒の“主成分”とは、溶媒の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上を占める成分のことを指す。
【0044】
外周側壁の平均気孔率を低くするという観点から、スラリー中の造孔材の含有量は0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることが更により好ましい。
【0045】
更に、スラリーは分散剤及び/又は消泡剤を適宜含有しても良い。
【0046】
外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子、結合材及び溶媒を含有するスラリーを含浸する方法としては、例えば、複数の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、前記スラリーを外周側壁の最外周部に塗布する方法が挙げられる。また、複数の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、両底面をシールした上で前記スラリーに全体を浸漬する方法を採用することもできる。両底面をシールする方法としては、後述する接合材付着防止用フィルムを両底面に貼り付ける方法と同一の方法が挙げられる。
【0047】
スラリー含浸後の焼成は、骨材粒子が外周側壁内の細孔に固着することができるような温度及び時間でスラリーの熱処理を実施することが好ましい。例えば、スラリーが隔壁と同一組成の骨材粒子を含有する場合、結合性を付与するため、隔壁の焼成条件と同じ条件での熱処理が必要となる。また、コロイダルシリカ等の700~800℃で強度が発現する結合材を組み合わせると、低い温度での熱処理が可能となる。
【0048】
隔壁の平均気孔率に対する外周側壁の平均気孔率の減少量や、隔壁の平均細孔径に対する外周側壁の平均細孔径の減少量は、スラリーに含まれる骨材粒子の平均粒径、含有量、スラリーを含浸する回数等によって調節可能である。また、含浸操作により外周側壁の細孔内部へ充填されたスラリー中の粒子は、外周壁内部のみに留まり、セルを区画形成する隔壁へは到達させないようコントロールすることが好ましい。当該コントロールは、スラリーの粘度、スラリーへの浸漬時間、及びスラリーの塗付量等によって調節可能である。
【0049】
工程3Aでは、工程2Aで得られた、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合し、セグメント接合体を得る。セグメント接合体は例えば以下の手順で製造することができる。各柱状ハニカム構造セグメントの両底面に接合材付着防止用フィルムを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。次に、これらのセグメントを、セグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するセグメントの側面同士が接合材によって接合されたセグメント接合体を作製する。
【0050】
接合材付着防止用フィルムの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、フィルムは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコーン系樹脂であることが好ましい。
【0051】
接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)、コージェライト-炭化珪素複合材、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア、窒化珪素等が挙げられ、柱状ハニカム構造部と同材質であることがより好ましい。バインダとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロースなどを挙げることができる。
【0052】
本発明に係るフィルタの製造方法は第二の実施形態において、
外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを用意する工程1Bと、
前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程2Bと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程3Bと、
を含む。
【0053】
工程1Bは工程1Aと同様であるので詳細な説明を省略する。但し、本実施形態においては、工程1Bで用意する柱状ハニカム構造セグメントは、珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)を材料とすることが好ましい。
【0054】
工程2Bでは、複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸し、その後に焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る。外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸する方法としては、例えば、多孔質のセグメント焼成体の外周表面に金属Si薄片を載せ、または巻き付け、金属Siの融点以上の温度に全体を加熱することにより、毛細管現象によって溶けた金属Siが細孔内へ吸収されることを利用する方法が挙げられる。
【0055】
工程3Bは工程3Aと同様であるので詳細な説明を省略する。
【0056】
本発明に係るフィルタの製造方法は第三の実施形態において、
坏土を成形及び乾燥して、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントを作製する工程1Cと、
前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸する工程2Cと、
工程2C後の前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれを焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程3Cと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程4Cと、
を含む。
【0057】
工程1Cでは、坏土を成形及び乾燥して、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントを作製する。この未焼成柱状ハニカム構造セグメントは、公知のハニカム成形体の製造方法に準じて製造可能であり、以下に手順を例示する。まず、所定のセラミックス原料、分散媒、造孔材及びバインダを含有する坏土を作製する。次に、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。ハニカム成形体の底面を目封止する方法は、特に限定されるものではなく、所定のマスクを貼った底面のセル開口部に、目封止スラリーを充填するといった周知の手法を採用することができる。
【0058】
工程2Cでは、工程1Cで作製した複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、骨材粒子及び溶媒を含有するスラリーを含浸する。スラリーは結合材を含有することが好ましい。工程2Cは工程2Aに準じて実施すればよいので、詳細な説明を省略する。
【0059】
工程3Cでは、工程2C後の複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれを焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る。本実施形態においては、隔壁、外周側壁、及び外周側壁に含浸したスラリーの焼成が同時に行われる。このため、スラリーに使用する骨材粒子は隔壁と同一のセラミックス原料としてもよい。焼成条件はセグメントの材質に応じて公知の任意の条件を採用すればよく、特に制限はない。
【0060】
工程4Cは工程3Aと同様であるので詳細な説明を省略する。
【0061】
本発明に係るフィルタの製造方法は第四の実施形態において、
坏土を成形及び乾燥して、外周側壁、及び、当該外周側壁の内側に第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントを作製する工程1Dと、
前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸する工程2Dと、
工程2D後の前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれを焼成することで、外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントを得る工程3Dと、
外周側壁の平均気孔率が隔壁の平均気孔率よりも低い前記複数の多孔質セラミックス製の柱状ハニカム構造セグメントの側面同士を接合材を介して接合する工程4Dと、
を含む。
【0062】
工程1Dは工程1Cと同様であるので詳細な説明を省略する。但し、本実施形態においては、工程1Dで用意する未焼成柱状ハニカム構造セグメントは、珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)を得るための成形原料、すなわち金属Si粒子及び炭化珪素粒子を含有することが好ましい。
【0063】
工程2Dでは、前記複数の未焼成柱状ハニカム構造セグメントのそれぞれについて、外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸し、その後に乾燥する。外周側壁の最外周部から内側に向かって、金属Siを含浸する方法としては、例えば、多孔質のセグメント焼成体の外周表面にSi金属薄片を載せ、または巻き付け、Si金属の融点以上の温度に全体を加熱することにより、毛細管現象によって溶けたSi金属が細孔内へ吸収されることを利用する方法が挙げられる。
【0064】
工程3Dは工程3Cと同様であるので詳細な説明を省略する。
【0065】
工程4Dは工程3Aと同様であるので詳細な説明を省略する。
【0066】
上記の手順で作製されたセグメント接合体に対しては、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周側面にコーティング材を塗工した後、乾燥及び熱処理して外周壁を形成してもよい。コーティング材としては、特に限定されず、公知の外周コート材を用いることができる。外周コート材としては、例えば、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、セラミックス粒子等の無機原料に、有機バインダ、発泡樹脂、分散剤等の添加剤と水とを加えて混練し、スラリー状としたものを挙げることができる。また、外周コート材の塗工方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0067】
フィルタには用途に応じて適切な触媒を担持してもよい。フィルタに触媒を担持させる方法としては、例示的には、触媒スラリーを、従来公知の吸引法等によりセル内に導入し、隔壁の表面や細孔に付着させた後、高温処理を施して、触媒スラリーに含まれる触媒を隔壁に焼き付けて、担持する方法が挙げられる。
【0068】
触媒としては、限定的ではないが、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化燃焼させて排気ガス温度を高めるための酸化触媒(DOC)、スス等のPMの燃焼を補助するPM燃焼触媒、窒素酸化物(NOx)を除去するためのSCR触媒及びNSR触媒、並びに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に除去可能な三元触媒が挙げられる。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、Zr、Ca、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【0069】
特に、乗用車用のDPFにおいては、スス捕集とNOx浄化の機能を同時に持たせるため、DPFにCu置換ゼオライト、Fe置換ゼオライト等のSCR触媒が担持される。この場合、尿素を車上で分解して得られるアンモニアによるNOx浄化を行うことができる。ゼオライトには不純物成分としてNaが含まれることが多いため、ゼオライトを含有する触媒をフィルタに担持する場合、本発明を適用することによる効果が特に高い。
【0070】
DPF及びGPFにおいては、SCR触媒以外にも、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及びススを酸化燃焼させる白金等の貴金属を含む触媒を隔壁細孔内及び隔壁表面に担持するケース、並びに、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を含み、CO、HC、NOxを低減する三元触媒を隔壁細孔内及び隔壁表面に担持するケースがある。本発明の一実施形態によれば、これらの場合にも、ハニカム構造セグメントの外周側壁に担持されてしまって有効に使えない触媒量、貴金属量を低減できるので、浄化効率の向上や、使用触媒量、使用貴金属量を低減できコスト削減が図れる他、ハニカム構造セグメントの外周側壁の材料量低減によるコスト低減も図れる。また、ハニカム構造セグメントの重量低減及び熱容量低減が得られ、ライトオフ特性が向上する副次効果や、ハニカム構造セグメントの剛性低減により使用時の温度分布により接合材に付加される強制歪を低減するため、接合材のクラック発生を防止する副次効果もある。
【実施例】
【0071】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
SiC粉末及び金属Si粉末を、SiC粉末:金属Si粉末=80:20の質量割合で混合し、これに造孔材、有機バインダ、界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を得た。この坏土を押出成形し、乾燥させて、外周側壁、及び、第一底面から第二底面に延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する柱状ハニカム成形体を得た。この柱状ハニカム成形体に対し、その両底面が市松模様を呈するように、各セルの一端部に目封止部を形成した。すなわち、隣接するセルが、互いに反対側の端部で封じられるように目封止部の形成を行った。目封止部の材料には、柱状ハニカム成形体と同じ材料を用いた。こうして目封止部を形成し、乾燥させた後、柱状ハニカム成形体を、大気雰囲気中、約400℃で脱脂し、更に、Ar雰囲気において約1450℃で焼成して、成形体中のSiC粒子をSiで結合させることにより、以下の仕様の直方体状のハニカム構造セグメントを得た。
【0073】
(ハニカム構造セグメント仕様)
外形:底面が一辺42mmの正方形で、高さ(セルの延びる方向の長さ)が152mmの直方体
隔壁の平均気孔率:63%
隔壁の平均細孔径:20μm
隔壁の平均厚み:12mil(305μm)
セル断面形状:正方形
セル密度:約46.5セル/cm2(300セル/平方インチ)
外周側壁の平均厚み:表1-1に記載
外周側壁の平均細孔径:20μm
【0074】
次に、表1-1に記載の平均粒径のSiC粒子150質量部に、平均粒径(レーザー回折法によって測定される体積基準の累積粒度分布におけるメジアン径(D50)を指す。)が300nm以下のコロイダルシリカ(固形分40%の水分散液)150質量部と、水200質量部とを加え、よく撹拌して、表1に記載の粘度のスラリーを調製した。なお、スラリーの調製に際し、分散剤及び消泡剤を適宜加えたが、造孔材は添加しなかった。スラリーの粘度はブルックフィールド回転粘度計の方法で20℃で測定した。こうして得られたスラリーに、前記ハニカム構造セグメントの両底面を樹脂フィルムでシールして、全体をスラリーに表1-1に記載の接触時間(浸漬の場合は、スラリーとの接触開始から吹き飛ばし開始までの時間)だけ浸漬し、その後、エアブローによって過剰なスラリーを除去した。次いで、ハニカム構造セグメントの外周側壁に含浸されたスラリーを乾燥させた後、大気雰囲気において700℃で焼成し、ハニカム構造セグメントの外周側壁に低気孔率領域を形成させた。
【0075】
続いて、SiC粉末、アルミノシリケート質繊維、シリカゾル水溶液及び粘土を混合したものに、更に水を加え、ミキサーを用いて30分間混練を行い、ペースト状の接合材を得た。この接合材を、前記ハニカム構造セグメントの外周側面に、厚み約1mmとなるように塗布して接合材層を形成し、その上に上記と同じ手順で作製した別のハニカム構造セグメントを載置する工程を繰り返し、縦4個×横4個に組み合わされた合計16個のハニカム構造セグメントからなるセグメント積層体を作製した。そして、適宜、外部より圧力を加えるなどして全体を接合させた後、120℃で2時間乾燥させてセグメント接合体を得た。このセグメント接合体の外形が円柱状になるように、その外周を研削加工した後、その加工面に接合材と同じ組成のコーティング材を塗布して外周壁を再形成し、大気雰囲気において700℃で2時間、乾燥硬化させ、実施例1のフィルタを得た。
【0076】
(実施例2)
両底面をシールしたハニカム構造セグメントをスラリーに浸漬する方法の代わりに、ハニカム構造セグメントの外周側面全体にスラリーを塗布する方法を採用し、そして、当該スラリーの粘度及びスラリー接触時間(塗布の場合は、塗布終了後から吹き飛ばし開始までの時間)を表1-1に記載の条件に変えた以外は、実施例1と同一の方法を実施することで実施例2のフィルタを得た。
【0077】
(実施例3)
実施例1と同じ目封止部付きの柱状ハニカム成形体を作製した。次に、柱状ハニカム成形体を作製する際に用いたSiC粉末及び金属Si粉末を、SiC粉末:金属Si粉末=80:20の質量割合で混合した混合物20質量部に、水80質量部を加え、よく撹拌して、表1-1に記載の粘度のスラリーを調製した。なお、スラリーの調製に際し、分散剤及び消泡剤を適宜加えたが、造孔材は添加しなかった。得られたスラリーを柱状ハニカム成形体の外周側面全体に塗付した。塗付したスラリーを乾燥させた後、大気雰囲気中400℃で脱脂し、更にAr雰囲気において1430℃で焼成することにより、外周側壁が低気孔率領域を有するハニカム構造セグメントを得た。その後、得られたハニカム構造セグメントを用いて実施例1と同一の方法を実施してセグメント接合体の作製等を行い、実施例3のフィルタを得た。
【0078】
(実施例4)
ハニカム構造セグメントの外周側壁の平均厚みを表1-1に記載の値に変更した以外は、実施例2と同一の方法を実施することで実施例4のフィルタを得た。
【0079】
(実施例5)
表1-1に記載の平均粒径のアルミナ粒子20質量部と、水80質量部とを混合後、よく撹拌し、表1-1に記載の粘度のスラリーを調製した。なお、スラリーの調製に際し、分散剤及び消泡剤を適宜加えたが、造孔材は添加しなかった。また、ハニカム構造セグメントの外周側壁の平均厚みを表1-1に記載の値に変更した以外は実施例1と同一のハニカム構造セグメントを作製した。次いで、このようにして得られたスラリー及びハニカム構造セグメントを使用し、スラリー接触時間を表1-1に記載の条件に変えた以外は、実施例2と同一の方法を実施することで実施例5のフィルタを得た。
【0080】
(実施例6)
ハニカム構造セグメントの外周側壁の平均厚みを表1-1に記載の値に変更し、スラリーの粘度及びスラリー接触時間を表1-1に記載の条件に変えた以外は、実施例5と同一の方法を実施することで実施例6のフィルタを得た。
【0081】
(実施例7)
実施例1と同様に成形及び焼成を行ってハニカム構造セグメントを得た。このハニカム構造セグメントの外周側面全体に密着するように厚み200μmのSi金属箔を貼り付け、Ar雰囲気中で1430℃で再焼成し、Si金属をハニカム構造セグメントの外周側壁の細孔内へ含浸させた。これにより、外周側壁が低気孔率領域を有するハニカム構造セグメントを得た。その後、得られたハニカム構造セグメントを用いて実施例1と同一の方法を実施してセグメント接合体の作製等を行い、実施例7のフィルタを得た。
【0082】
(実施例8~10、比較例1~3)
ハニカム構造セグメントの外周側壁の平均厚みを表1-1に記載の値に変更し、ハニカム構造セグメントの外周側壁に低気孔率領域を形成する工程を実施しない以外は、実施例1と同一の方法を実施することで実施例8~10、比較例1~3のフィルタを得た。
【0083】
(特性評価)
上記の手順で作製した実施例及び比較例に係るフィルタについて、先述した方法に従って以下の平均気孔率を測定した。結果を表1-2に示す。
A:外周側壁全体の平均気孔率
B:外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み20%の領域の平均気孔率
C:外周側壁の最内周部から外側に向かう外周側壁の厚み10%の領域の平均気孔率
D:外周側壁の最外周部から内側に向かう外周側壁の厚み50%の領域の平均気孔率(外周側壁の外周側平均気孔率)
E:外周側壁の最内周部から外側に向かう外周側壁の厚み50%の領域の平均気孔率(外周側壁の内周側平均気孔率)
【0084】
上記の手順で作製した実施例及び比較例に係るフィルタについて、SEM画像解析により、ハニカム構造セグメントの外周側壁中の気孔容積が、ハニカム構造セグメントの全気孔容積に占める割合(%)を測定した。結果を表1-2に示す。
【0085】
上記の手順で作製した実施例及び比較例に係るフィルタに、触媒を担持して、触媒担持フィルタを作製した。触媒としては、SCR触媒を用いた。触媒をフィルタに担持する方法は、触媒液を、フィルタにウォッシュコートした後、550℃で熱処理して焼き付ける方法とした。その後、触媒担持フィルタについて、SEM画像解析により、ハニカム構造セグメントの外周側壁中の触媒量がハニカム構造セグメントの全触媒に占める比率(%)を測定した。結果を表1-2に示す。
評価基準は以下とした。
〇(良好):前記比が4.0%未満
△(可):前記比が4.0%以上、5.0%未満
×(不可):前記比が5.0%以上
【0086】
上記の手順で作製した実施例及び比較例に係るフィルタについて、静水圧試験(フィルタをゴム容器に封入し水中で静水圧をかける)による強度評価を行った。
評価基準は以下とした。結果を表1-2に示す。
〇:破壊圧力が1.5MPa以上
×:破壊圧力が1.5MPa未満
【0087】
【0088】
【符号の説明】
【0089】
10 フィルタ
100 ハニカム構造セグメント
102 外周側壁
103 外周壁
104 第一底面
106 第二底面
107 接合材
108 第1セル
110 第2セル
112 隔壁