(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】細胞培養基材用コーティング剤、細胞培養基材、細胞培養用キット及び細胞シートの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20240612BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C12N5/00
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2020074723
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川端 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】井上 佳一郎
(72)【発明者】
【氏名】富田 恒輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 泰治
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】山崎 俊輔
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-187317(JP,A)
【文献】特開2001-321157(JP,A)
【文献】特開2018-143211(JP,A)
【文献】特表2013-541956(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074432(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122478(WO,A1)
【文献】Proc. Jpn. Acad., Ser B,2018年,Vol.94, No.4,pp.161-179
【文献】Cellulose,2008年,Vol.15,pp.571-580
【文献】日本化学会誌,1985年,Vol.6,pp.1259-1264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)と有機溶媒とを含
み、
前記酸化セルロース繊維(A)がセルロース分子に含まれるグルコースユニットのC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化された酸化セルロース繊維である
細胞培養基材用コーティング剤。
【請求項2】
前記アルキルアミン(B)がヘキシルアミンである請求項1に記載の細胞培養基材用コーティング剤。
【請求項3】
基材と、前記基材上に形成された塗膜とを備える細胞培養基材であり、
前記塗膜が酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含
み、
前記酸化セルロース繊維(A)がセルロース分子に含まれるグルコースユニットのC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化された酸化セルロース繊維である細胞培養基材。
【請求項4】
前記塗膜が、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、ビトロネクチン及びプロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞接着因子を含有する請求項
3に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
多糖分解酵素を含む細胞剥離用薬剤と、請求項
3又は
4に記載の細胞培養基材とを備える細胞培養用キット。
【請求項6】
酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む塗膜を備える細胞培養基材の前記塗膜上で細胞を培養する培養工程、及び、
細胞が培養されている前記塗膜を、多糖分解酵素を用いて分解する分解工程を含
み、
前記酸化セルロース繊維(A)がセルロース分子に含まれるグルコースユニットのC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化された酸化セルロース繊維である細胞シートの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養基材用コーティング剤、それを用いた細胞培養基材、細胞培養用キット及び細胞シートの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
培養基材(担体ともいう)の表面から培養細胞を回収する方法としてトリプシン等のタンパク質分解酵素で処理することが行われている。しかし、タンパク質分解酵素で処理すると、培養細胞同士を接続する細胞外基質も分解してしまうため、培養細胞をシート状等の三次元形状を維持したまま回収することが出来なかった。
【0003】
タンパク質分解酵素を用いることなく、培養細胞をシート状等の三次元形状を維持したまま回収する方法として、アルギン酸等の親水性多糖類を含む培養用担体上で培養する方法(特許文献1及び3)及びセルロース等の難水溶性の多糖類を含む培養用担体上で細胞を培養して糖分解酵素又はアミノ基含有化合物で処理する方法(特許文献2)が報告されている。
【0004】
このうち、親水性多糖類を用いた培養担体は、担体であるゲル化した親水性多糖類の上で培養された細胞と担体表面との接着が不十分となることがあり、接着細胞の形状不良を引き起こしやすいという課題や、親水性多糖類のゲルの強度を向上させるために用いるキレート剤の影響によって細胞の増殖率が十分ではないという課題があった。
【0005】
また、難水溶性の多糖類を用いた培養担体で培養して糖分解酵素で処理する方法は、多糖類の分解が起こりにくいために短時間で細胞を回収することが難しく、アミノ基含有化合物で処理する方法は、細胞培養に必要なアミノ酸を培地に添加して培養できないために細胞の増殖率が十分ではないというという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-259735号公報
【文献】特開2015-48467号公報
【文献】特開2005-110537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、十分な細胞培養率で細胞培養を行うことができ、培養した細胞を短時間で細胞シートとして回収することができる細胞培養基材を形成することができる細胞培養基材用コーティング剤、それを用いた細胞培養基材、細胞培養用キット及び細胞シートの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)と有機溶媒とを含む細胞培養基材用コーティング剤を用いた細胞培養基材が、十分な細胞培養率で細胞培養を行うことができ、培養した細胞を短時間で細胞シートとして回収することができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)と有機溶媒とを含む細胞培養基材用コーティング剤;基材と、上記基材上に形成された塗膜とを備える細胞培養基材であり、上記塗膜が酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む細胞培養基材;多糖分解酵素を含む細胞剥離用薬剤と上記細胞培養基材とを備える細胞培養用キット;酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む塗膜を備える細胞培養基材の上記塗膜上で細胞を培養する培養工程、及び、細胞が培養されている上記塗膜を、多糖分解酵素を用いて分解する分解工程を含む細胞シートの生産方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、十分な細胞培養率で培養することができ、培養細胞を細胞シートとして短時間で回収することができる細胞培養基材用コーティング剤、それを用いた細胞培養基材、細胞培養用キット及び細胞シートの生産方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(細胞培養基材用コーティング剤)
本発明の細胞培養基材用コーティング剤は、酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)と有機溶媒とを含む。
【0012】
酸化セルロース繊維(A)は、セルロース分子が有する水酸基がアルデヒド基又はカルボキシル基に酸化されたセルロース繊維である。
セルロース繊維の酸化は、酸化剤を用いて公知の方法で行うことができる。
酸化剤としてはハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、これらの塩、ハロゲン化物、過酸化物、及びN-オキシル化合物等を用いることができる。
【0013】
酸化セルロース繊維(A)としては、セルロース分子に含まれるグルコースユニットのC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化された酸化セルロース繊維であることが好ましい。
セルロース分子に含まれるグルコースユニットのC6位の水酸基がカルボキシル基に酸化された酸化セルロース繊維は、例えば、酸化剤としてN-オキシル化合物である2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(以下、「TEMPO」と記載することがある)を用いて原料となるセルロース繊維を特開2017-160396号公報、特開2015-113376号公報及び特開2015-134870号公報等に記載の公知の方法で酸化処理することで得ることができる。
このTEMPOを用いて酸化処理した酸化セルロース繊維は、TEMPO酸化セルロースともよばれる。
本発明の細胞培養基材用コーティング剤において用いる酸化セルロースとしては、上記の方法で酸化処理して得られるものの他、酸化セルロース繊維、酸化セルロースナノファイバー、及び、これらの分散体として市場にあるものを用いても良い。
【0014】
酸化セルロース繊維(A)が、グルコースユニットのC6位の水酸基をカルボキシル基に酸化した酸化セルロース繊維である場合、そのカルボキシル基の濃度は、酸化セルロース(A)の質量に基づいて、1.0mmol/g以上であることが好ましく、より好ましくはカルボキシル基の濃度が1.2mmol/g~2.5mmol/g、さらに好ましくは1.3mmol/g~2.4mmol/g、特に好ましくは1.4mmol/g~2.3mmol/gである。
上記カルボキシル基の濃度は、酸化反応時間、酸化反応温度、酸化反応時のpH、及び酸化剤の添加量などを調整することにより調整できる。
【0015】
上記カルボキシル基の濃度は、酸化セルロースを0.5質量%の濃度で水に分散したスラリーに0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量(a)と下記式とを用いて算出する。
カルボキシル基の濃度〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
【0016】
本発明の細胞培養基材用コーティング剤に含まれるアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)は、アルキル基の炭素数が1~18であるモノアルキルアミン化合物、それぞれのアルキル基の炭素数が1~18であるジアルキルアミン化合物、及び、それぞれのアルキル基の炭素数が1~18であるトリアルキルアミン化合物である。
アルキル基の炭素数が1~18であるモノアルキルアミン化合物としては、例えば、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン及びステアリルアミン等が挙げられる。
それぞれのアルキル基の炭素数が1~18であるジアルキルアミン化合物としては、例えば、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン及びジステアリルアミン等が挙げられる。
それぞれのアルキル基の炭素数が1~18であるトリアルキルアミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン及びトリステアリルアミン等が挙げられる。
これらのうち細胞増殖率の観点から、アルキル基の炭素数が1~18であるモノアルキルアミン化合物が好ましく、ヘキシルアミン、オクチルアミン及びドデシルアミンがより好ましく、さらに好ましくはヘキシルアミンである。
【0017】
本発明の細胞培養基材用コーティング剤に含まれる有機溶媒としては、アルキルアミン(B)が溶解する溶剤であれば特に制限なく使用することができる。
好ましい有機溶媒としては、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、sec-ブタノール、iso-ブタノール及びtert-ブタノール等)、エーテル系溶媒(テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等)、ケトン系溶媒(シクロヘキサノン及びメチルイソブチルケトン等)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル等)、アミド系溶媒(ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等)、ジメチルスルホキシド、ジオキシラン及びピロリドン等が挙げられる。
これらのうち、アルコール系溶媒を用いることがより好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、tert-ブタノール又はこれらの混合溶媒を用いることがさらに好ましい。
【0018】
本発明の細胞培養基材用コーティング剤は、時間あたりの細胞増殖を促進する観点から、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、ビトロネクチン及びプロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞接着因子をさらに含有してもよい。
細胞接着因子とは、細胞同士を繋ぎ止める働きを持つ生理活性タンパク質であり、接着性タンパク質とも呼ばれることもある。本発明の細胞培養基材用コーティング剤がさらに細胞接着因子を含むと、培養細胞の培養器への接着伸展が促され培養の効率が向上し好ましい。
【0019】
本発明の細胞培養基材用コーティング剤は酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)と有機溶媒と必要により用いる細胞接着因子とを公知の方法で均一に混合して得ることができる。
酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)と有機溶媒と必要により用いる細胞接着因子との混合順序に特に制限はないが、酸化セルロース繊維(A)と有機溶媒との混合物にアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)を均一混合し、さらに必要により用いる細胞接着因子を混合することが好ましい。
本発明の細胞培養基材用コーティング剤を得るための各原料の混合は、撹拌翼を用いた撹拌、ホモジナイザー及びミキサー等の公知の撹拌機を用いて行うことが出来る。
【0020】
酸化セルロース繊維(A)と有機溶媒との混合物は、酸化セルロース繊維(A)の粉体と有機溶媒とを公知の方法で混合する方法、及び酸化セルロース繊維(A)の分散体に含まれる分散媒を有機溶媒に置換する方法等で得ることが出来る。
【0021】
酸化セルロース繊維(A)の分散体に含まれる分散媒を有機溶媒に置換する方法としては、濾過、遠心分離又は乾燥により分散媒を除去した後に有機溶媒と混合する方法、及び酸化セルロースの分散体に有機溶媒を加えて加熱及び/又は減圧して分散媒を蒸留除去して有機溶媒に置換する方法等が挙げられる。
【0022】
酸化セルロース繊維(A)が有するアルデヒド基に含まれるカルボニル基及び/又はカルボキシル基に含まれるカルボニル基と、アルキルアミン(B)が有する窒素原子とはその電荷密度の差によって相互作用し得る。そのため、本発明のコーティング剤中に含まれる酸化セルロース繊維(A)とアルキルアミン(B)とは結合を形成している場合があると考えられる。
また、酸化セルロース繊維(A)がカルボキシル基を有していた場合には、アルキルアミン(B)を均一混合する過程における条件(温度及び時間等)によってはカルボキシル基とアミノ基との縮合反応(アミド化)が進行する場合があると考えられ、酸化セルロース繊維(A)とアルキルアミン(B)と有機溶媒とを含む混合物についての赤外分光スペクトルを測定してアミド結合の有無を確認することでアミド化が進行したか否かを確認することが出来る。
本発明の細胞培養基材用コーティング剤に含まれる酸化セルロース繊維(A)とアルキルアミン(B)とは、結合を形成していても良く、酸化セルロース繊維(A)とアルキルアミン(B)とのアミド化物であっても良い。
【0023】
本発明の細胞培養基材用コーティング剤において、酸化セルロース繊維(A)の含有量は、細胞培養基材用コーティング剤の塗工性の観点から、細胞培養基材用コーティング剤の全重量に基づいて、0.1質量%~15質量%が好ましく、0.1質量%~10質量%がさらに好ましい。
アルキルアミン(B)の含有量は、細胞培養基材用コーティング剤の塗工性の観点から、細胞培養基材用コーティング剤の全重量に基づいて、0.01質量%~10質量%が好ましく、0.01質量%~5質量%がさらに好ましい。
有機溶媒の含有量は、細胞培養基材用コーティング剤の塗工性の観点から、細胞培養基材用コーティング剤の全重量に基づいて、10~99.89質量%であることが好ましく、50~99.8質量%であることがより好ましく、80~99.5質量%であることがさらに好ましい。
また、必要により用いる細胞接着因子の含有量は、細胞接着の観点から、細胞培養基材用コーティング剤の全重量に基づいて、0.5~60質量%が好ましく、0.75~50質量%がさらに好ましい。
【0024】
(細胞培養基材)
本発明の細胞培養基材は、基材上に形成された塗膜を備える細胞培養基材であり、上記塗膜が酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む。
【0025】
基材としては、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、フッ素樹脂、セルロース、セラミック、ガラス、ステンレス及びチタン等を用いた公知の細胞培養に用いられる基材を用いることができる。基材の形状は限定されず、シャーレ状、
フラスコ状、プレート状、袋状、中空糸膜(ストロー状、マカロニ状等)及びビーズ状等の任意の形状の基材を用いることができ、なかでもシャーレ状及びプレート状がシート状細胞の生産効率の点で好ましい。
なお、「シート状」とは、複数の細胞が3次元に集まって形成する形状であって塗膜の面方向に増殖して出来る形状であることを意味する。
【0026】
酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む塗膜は、酸化セルロース繊維(A)とアルキルアミン(B)と有機溶媒とを含む前記の細胞培養基材用コーティング剤を基材上に塗布して得られる塗膜である。細胞培養基材用コーティング剤の塗布方法としては、特に制限されず、ローラー、スプレーガン(エアスプレーガン、エアレススプレーガン、リシンガン、及び万能ガン等)、ハケ及びロールコーター等の公知の塗装手段を用いて行うことができ、基材の種類、及び形状等に応じて適宜選択することができる。塗布した細胞培養基材用コーティング剤からの有機溶媒の除去は、常圧又は減圧化での加熱乾燥又は常温乾燥による行うことができる。
本発明の細胞培養基材において、基材上に形成された塗膜の厚さは剥離性の観点から0.1μm~100μmであることが好ましく、さらに好ましくは1μm~50μmである。
【0027】
酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む塗膜は、細胞接着性及び細胞死の観点から、水(37℃)に対する接触角が10~80°であることが好ましく、20~70°がさらに好ましく、特に好ましくは25~65°である。接触角は、細胞培養基材用コーティング剤を接触角測定用支持体の表面に塗布乾燥して作製した測定用サンプルを用いて接触角計(全自動接触角計PD-W、協和界面化学社製)で測定される。
【0028】
本発明の細胞培養基材が有する塗膜は、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、ビトロネクチン及びプロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞接着因子を含有することが好ましい。これらの細胞接着因子を含むと培養細胞と基材表面との密着性が向上し、培養細胞の形状が良好となり好ましい。
【0029】
細胞培養基材が有する塗膜が細胞接着因子を含む場合、その含有量は1cm2あたり0.5μg~500μgが好ましく、0.7μg~100μgがさらに好ましい。
【0030】
本発明の細胞培養基材を用いて培養された細胞は、細胞剥離用薬剤を用いて基材から剥離される。細胞の剥離に用いる細胞剥離用薬剤としては、上記の細胞培養基材から培養細胞を剥離できるものであれば制限無く使用できるが、酵素を含む事が好ましい。酵素としては、タンパク質分解酵素及び多糖分解酵素を含むことが出来、なかでも多糖分解酵素を含む事がさらに好ましい。
【0031】
(細胞培養用キット)
本発明の細胞培養キットは、多糖分解酵素を含む細胞剥離用薬剤と、上記細胞培養基材とを備える。多糖分解酵素としては、多糖を分解する酵素として知られているものを制限なく使用でき、セルラーゼ、アミラーゼ、デキストラナーゼ、カラギナーゼ、アルギン酸リアーゼ、ヒアルロニダーゼ、キチナーゼ及びキトサナーゼ等が挙げられる。
なかでも酸化セルロース繊維(A)の分解性の観点から、セルラーゼであることが好ましい。本発明の細胞培養キットに含まれる細胞剥離用薬剤は多糖分解酵素を含むこと以外に制限は無く、多糖分解酵素をそのまま用いても良く、多糖分解酵素を液体成分に分散又は溶解して分散液又は溶液にしたものを用いても良い。
上記液体成分としては多糖分解酵素を分散又は溶解できる液体であれば特に限定されず、例えば、水や上記有機溶媒の中から適宜選択して用いることができる。液体成分には、緩衝作用を有する公知の酸及び塩基を必要に応じて含んでもよい。
【0032】
(細胞シートの生産方法)
本発明の細胞シートの生産方法は、酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む塗膜を備える細胞培養基材の上記塗膜上で細胞を培養する培養工程、及び、細胞が培養されている上記塗膜を、多糖分解酵素を用いて分解する分解工程を含む。
【0033】
酸化セルロース繊維(A)とアルキル基の炭素数が1~18であるアルキルアミン(B)とを含む塗膜を備える基材上で細胞を培養する培養工程は、上記の細胞培養基材を用いて細胞培養することで行うことが出来る。
【0034】
培養する細胞に特に制限はないが、医薬品の生産や治療等に用いられる哺乳動物由来の正常細胞、哺乳動物由来の株化細胞及び昆虫細胞等の培養に好ましく用いることができる。これらのうち、哺乳動物由来の正常細胞及び哺乳動物由来の株化細胞等の培養に特に好適に用いることができる。
【0035】
上記の塗膜を備える細胞培養基材上で細胞を培養する培養工程は、細胞培養基材として本発明の細胞培養基材を使用する以外は公知の方法を適用して行うことができ、細胞培養基材上に細胞を懸濁させた培地を加えて適切な条件で培養する方法等が挙げられる。
細胞を培養する条件としては、特に制限は無く、二酸化炭素濃度が1~20体積%(好ましくは3~10体積%)、温度が5~45℃(好ましくは30~40℃)の環境下で1時間~100日間(好ましくは1~20日間)、必要に応じて1~10日毎(好ましくは2~3日毎)に培地交換しなら培養する条件等が適用できる。
【0036】
培地としては、無血清培地(STEMPRO hESC SFM17培地、TeSR 2、E8培地、hESF9培地、hESF-FX培地、hESF92ai培地、StemFit AK02N培地、S-medium培地、mTeSRTM培地、Grace培地、IPL-41培地、Schneider’s培地、Opti-PROTMSFM培地、Opti-MEMTMI培地、VP-SFM培地、CD293培地、293SFMII培地、CD-CHO培地、CHO-S-SFMII培地、FreeStyleTM293培地、CD-CHO ATGTM培地及びこれらの混合培地等);一般の培地(RPMI培地、MEM培地、Eagle’sMEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMEM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、ASF103培地、ASF104培地、ASF301培地、TC-100培地、Sf-900II培地、Ex-cell405培地、Express-Five培地、Drosophila培地及びこれらの混合培地)等が挙げられる。
【0037】
また、培地には、必要に応じて、血清を添加することができる。血清としては、ヒト血清、及び動物血清(ウシ血清、ウマ血清、ヤギ血清、ヒツジ血清、ブタ血清、ウサギ血清、ニワトリ血清、ラット血清、及びマウス血清等)が含まれる。血清を添加する場合、これらのうち、ヒト血清、ウシ血清、及びウマ血清が好ましい。また、動物血清の由来は、成体由来の血清、仔由来の血清、新生児由来の血清、及び胎児由来の血清等が挙げられる。血清を添加する場合、これらのうち、仔由来の血清、新生児由来の血清、及び胎児由来の血清が好ましく、さらに好ましくは新生児由来の血清、及び胎児由来の血清、特に好ましくは胎児由来の血清である。血清を添加する場合、さらに血清は、非働化処理や、抗体の除去処理等を行ってもよい。血清を使用する場合、血清の使用量(重量%)は、培地の重量に基づいて、0.1~50重量%が好ましく、さらに好ましくは0.3~30重量%、特に好ましくは1~20重量%である。
【0038】
培地中には、必要に応じて、細胞増殖因子を含有させることができる。細胞増殖因子を含有させることにより、細胞の増殖速度を高めたり、細胞活性を高めたりすることができる。細胞増殖因子としては、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、上皮細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、インシュリン様増殖因子、血管内皮増殖因子、神経成長因子、幹細胞因子、白血病阻害因子、骨形成因子、ヘパリン結合上皮細胞増殖因子、神経栄養因子、結合組織成長因子、アンジオポエチン、サイトカイン、インターロイキン、アドレナモジュリン及びナトリウム利尿ペプチド等の生理活性ペプチドが含まれる。これらのうち、適用できる細胞の範囲が広く、治癒期間がより短縮できるという観点から、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、インシュリン様増殖因子及び骨形成因子が好ましく、さらに好ましくは線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子及びインシュリン様増殖因子である。
【0039】
細胞増殖因子を使用する場合、細胞増殖因子の含有量(重量%)は細胞増殖因子の種類によって異なるが、培地の重量に基づいて、10-16~10-3重量%が好ましく、さらに好ましくは10-14~10-5重量%、特に好ましくは10-12~10-7重量%である。
【0040】
培地には、必要に応じて、さらに抗菌剤(アンホテリシンB、ゲンタマイシン、ペニシリン及びストレプトマイシン等)を含有させることができる。抗菌剤を含有させる場合、この含有量(重量%)は抗菌剤の種類によって異なるが、培地の重量に基づいて、10-6~10重量%が好ましく、さらに好ましくは10-5~1重量%、特に好ましくは10-4~0.1重量%である。
【0041】
基材上での細胞培養する培養工程において、培地に分散させる細胞の濃度(個/mL)としては、細胞の増殖性を阻害しない等の観点から、培地1mL当たり、100~1億個/mLが好ましく、さらに好ましくは1000~1千万個/mL、特に好ましくは1万~100万個/mLである。
【0042】
細胞の濃度は、トリパンブルー又はクリスタルバイオレットを用いた細胞核計数法で測定して算出することができる{細胞培養の技術(日本組織培養学会編集、株式会社朝倉書店発行、1999年)等に記載された方法である}。
また、培地に投入する細胞培養基材の乾燥重量(g)は、培養する細胞の種類等によって適宜決定できるが、培地1L当たり、0.005~800gが好ましく、さらに好ましくは0.02~200g、特に好ましくは0.1~40gである。
【0043】
培養条件としては、特に制限はなく培養する細胞に応じて適宜選択することができるが、好ましい条件としては、二酸化炭素(CO2)濃度1~20体積%、5~45℃の環境下で1時間~100日間、必要に応じて1~10日毎に培地交換しなら培養する条件があげられる。さらに好ましい条件としては、CO2濃度3~10体積%、30~40℃の環境下で1~20日間、1~3日毎に培地交換しながら培養する条件である。
【0044】
本発明の細胞シートの生産方法は、細胞が培養されている上記塗膜を、多糖分解酵素を用いて分解する分解工程を含む。培養細胞が接着した塗膜を構成する酸化セルロース繊維を多糖分解酵素で分解することによって、シート状に増殖した細胞の形状を壊さずに細胞シートとして回収することができる。細胞シート1枚の厚さとしては特に制限はなく、細胞が面方向に互いに接着されて形成される細胞層が単層であっても複数層重なったものでも良い。本発明における細胞シートとしては、厚みが200μm以下であることが好ましく、細胞培養のし易さや、取扱いの観点から、厚みが0.5~50μmのものがより好ましい。
【0045】
多糖分解酵素を用いて塗膜を分解する分解工程において用いる多糖分解酵素は、溶液にして用いることが好ましい。多糖分解酵素を溶液にして用いる場合、多糖分解酵素を水に溶解した水溶液であることが好ましい。溶液に含まれる多糖分解酵素の濃度は、細胞毒性及び細胞培養基材の分解性の観点から、溶液の重量を基準として、0.1~5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1~1重量%である。また、多糖分解酵素を含む水溶液は、緩衝作用を有する公知の酸及び塩基を必要に応じて含んでもよい。
【0046】
多糖分解酵素を用いて塗膜を分解する分解工程は、細胞培養後の容器に、多糖分解酵素を含む溶液を添加し、静置することで行うことが出来る。
分解工程における温度及び静置時間は、使用する多糖分解酵素に適した温度及び静置時間に調整して行うことができるが、多糖分解酵素としてセルラーゼを用いる場合には35~40℃の温度範囲及び1分~120分の静置時間で行うことが好ましい。
分解工程において多糖分解酵素が細胞培養基材上の塗膜に含まれる酸化セルロース繊維を分解し、細胞培養基材と培養された細胞とが剥離する。これによって培養容器中に剥離された細胞を細胞シートとして回収することができる。
【0047】
本発明の生産方法により得られた細胞シートは、細胞シートを疾患部位に貼り付けて行う細胞移植手術及び細胞再生手術等に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例として掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において、特記しない限り部は重量部を、%は重量%を意味する。
【0049】
製造例1 酸化セルロース繊維のエタノール分散体の作製
撹拌装置を備えた容器にTEMPO酸化セルロース繊維(日本製紙社製、カルボキシル基の濃度1.54mmol)の4.5%水分散体100部と、エタノール100部とを入れ、撹拌混合した。その後、ナイロンメッシュ(110メッシュ)を用いて減圧濾過を行った。ナイロンメッシュ上に残った濾過残渣の全量とエタノール100部とを撹拌混合し、再びナイロンメッシュ(110メッシュ)を用いて減圧濾過を行い、濾過残渣を回収した。
回収した濾過残渣17部とエタノール73部とを均一になるまで撹拌を行うことで酸化セルロース繊維の濃度が5.0%であるエタノール分散体(水1%含有)90部を得た。
【0050】
<実施例1>
撹拌装置を備えた容器を用いて、製造例1で得られた酸化セルロース繊維のエタノール分散体(酸化セルロース繊維の濃度:5%)50部とヘキシルアミン0.038部とを均一混合して本発明の細胞培養基材用コーティング剤(P-1)を得た。
【0051】
<実施例2>
撹拌装置を備えた容器を用いて、製造例1で得られた酸化セルロース繊維のエタノール分散体(酸化セルロース繊維の濃度:5%)50部とドデシルアミン0.035部とを均一混合して本発明の細胞培養基材用コーティング剤(P-2)を得た。
【0052】
<実施例3>
実施例1で作製した細胞培養基材用コーティング剤(P-1)を酸化セルロース繊維とヘキシルアミンとの合計濃度(以下、固形分と記載する)が0.5%となる様にエタノールで希釈し、6wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし;IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)に1.0mL/well入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾し、ヘキシルアミンと酸化セルロース繊維とを含む塗膜を有する本発明の細胞培養基材(Q-1)を作製した。なお、「1.0mL/well入れる」とは、一つのウェルに1.0mLずつ入れることを意味し、以下同様である。
【0053】
<実施例4>
実施例2で作製した細胞培養基材用コーティング剤(P-2)を固形分0.5%となるようにエタノールで希釈し、6wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし;IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)に1.0mL/well入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾し、ドデシルアミンと酸化セルロース繊維とを含む塗膜を有する本発明の細胞培養基材(Q-2)を作製した。
【0054】
<実施例5>
実施例1で作製した細胞培養基材用コーティング剤(P-1)を固形分0.5%となるようにエタノールで希釈し、6wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし;IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)に1.0mL/well入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾した。さらに細胞接着因子であるプロネクチンF(Mw約11万のポリペプチド、三洋化成工業(株)製)を1重量%含有するプロネクチンF溶液(37℃)を5.0mL/well入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾し、ヘキシルアミンと酸化セルロース繊維と細胞接着因子とを含む塗膜を有する細胞培養基材(Q-3)を作製した。
【0055】
<実施例6>
実施例1で作製した細胞培養基材用コーティング剤(P-1)を固形分0.5%となるようにエタノールで希釈し、6wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし;IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)に1.0mL/well入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾した。さらに、細胞接着因子であるフィブロネクチン(和光純薬工業(株)製、「Fibronectin Solution,from Human Plasma」)を1重量%含有するフィブロネクチン溶液(37℃)を1.0mL/well入れクリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾し、ヘキシルアミンと酸化セルロース繊維と細胞接着因子とを含む塗膜を有する細胞培養基材(Q-4)を作製した。
【0056】
<実施例7>
実施例1で作製した細胞培養基材用コーティング剤(P-1)を固形分0.5%となるようにエタノールで希釈し、6wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし;IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)に1.0mL/wellずつ入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾した。さらに、細胞接着因子であるコラーゲン(倉敷紡績(株)製、「Cell matrix Type I-C」)を10.0重量%含有するコラーゲン溶液(37℃、pH3)を5.0mL/well入れクリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾し、ヘキシルルアミンと酸化セルロース繊維と細胞接着因子とを含む塗膜を有する細胞培養基材(Q-5)を作製した。
【0057】
<比較例1>
製造例1で作製した酸化セルロース繊維のエタノール分散体をエタノールで酸化セルロース繊維の濃度が0.5%となるように希釈し、6Wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし;IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)に1.0mL/Well入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾して、酸化セルロース繊維を含み、アルキルアミンを含まない塗膜を有する比較用細胞培養基材(CQ-1)を作製した。
【0058】
<比較例2>
撹拌装置を備えた容器を用いて、水800部にアルギン酸(和光純薬工業(株)製、「アルギン酸ナトリウム300~400」)2.4部を凝集塊が生じないように撹拌(800rpm)しながらゆっくりと添加し、アルギン酸溶解液を得た。得られた溶液を6Wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし;IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)に1.0mL/Well入れた後、1M塩化カルシウム溶液を入れ、クリーンベンチ内でUVを照射しながら6hr風乾した。風乾後、100℃の乾燥機で1時間乾燥し、アルギン酸からなる塗膜を有する比較用細胞培養基材(CQ-2)を得た。
【0059】
<比較例3>
セルロースフィルム(What man社製、「純セルロースペーパー」)を6Wellポリスチレン製培養プレート(表面処理なし; IWAKI製Non-treated MICROPLATE Code:1810-006)にはめ込み、細胞接着因子であるフィブロネクチン(和光純薬工業(株)製、「Fibro nectin Solution, from Human Plasma」)を0.001重量%含有するフィブロネクチン溶液(37℃)を1.0mL/Well入れて2時間静置し、フィブロネクチンが含浸したセルロースフィルムからなる層を有する比較用細胞培養基材(CQ-3)を得た。
【0060】
<実施例8>
実施例3で作製した細胞培養基材(Q-1)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養した。その後、セルラーゼ[セルライザーACE(ナガセケムテックス社製)]を超純水で10倍に希釈した溶液0.05mlを細胞剥離用薬剤として培養後の基材に添加した後、温度37℃、二酸化炭素濃度と空気とを5:95の体積比で混合した混合気の環境下で静置し、細胞培養基材(Q-1)から細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0061】
<実施例9>
実施例3で作製した細胞培養基材(Q-1)にヒト類表皮癌由来細胞(A431)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、実施例8と同じ細胞剥離用薬剤を0.05ml添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0062】
<実施例10>
実施例4で作製した細胞培養基材(Q-2)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、実施例8と同じ細胞剥離用薬剤を0.05ml添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0063】
<実施例11>
実施例5で作製した細胞培養基材(Q-3)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、実施例8と同じ細胞剥離用薬剤を0.05ml添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0064】
<実施例12>
実施例6で作製した細胞培養基材(Q-4)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、実施例8と同じ細胞剥離用薬剤を0.05ml添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0065】
<実施例13>
実施例7で作製した細胞培養基材(Q-5)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、実施例8と同じ細胞剥離用薬剤を0.05ml添添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0066】
<比較例4>
比較例1で作製した比較用細胞培養基材(CQ-1)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、実施例8と同じ細胞剥離用薬剤を0.05ml添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0067】
<比較例5>
比較例2で作製した比較用細胞培養基材(CQ-2)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、トリプシン/EDTA溶液(Trypsin/EDTA Solution、ThermoFisher社製)を0.1ml添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0068】
<比較例6>
比較例3で作製した比較用細胞培養基材(CQ-3)にマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を3×105Cel1s/wellで播種し、37℃:5%CO2/95%air下で培養を行った。3日間培養後、実施例8と同じ細胞剥離用薬剤を0.05ml添加した後、実施例8と同様にして細胞が剥離するまでの時間を計測した。剥離した細胞について以下の方法で評価し、結果を剥離時間と共に表1に記載した。
【0069】
<水に対する接触角>
実施例8~13については、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、「ルミラー50S」、210mm×297mm×50μm)上に膜厚5μmとなるように、実施例1又は2で得られた細胞培養基材用コーティング剤(P-1)又は(P-2)の塗膜を形成した。塗膜を37℃に温調し、同温度で接触角計(全自動接触角計PD-W、協和界面化学社製)を用い、下記条件での水に対する接触角を測定し、結果を表1に記載した。
また、比較例4及び5については、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、「ルミラー50S」、210mm×297mm×50μm)上に膜厚5μmとなるように、比較例1又は2で得られた塗膜(例えば、比較例1では、酸化セルロース繊維を含み、アルキルアミンを含まない塗膜。例えば、比較例2では、アルギン酸からなる塗膜)を形成した。塗膜を37℃に温調し、同温度で接触角計(全自動接触角計PD-W、協和界面化学社製)を用い、下記条件での水に対する接触角を測定し、結果を表1に記載した。
また、比較例6については、ポリエチレンテレフタレートフィルム[東レ社製、「ルミラー50S」、210mm×297mm×50μm]上に膜厚5μmとなるように、比較例3で得られたフィブロネクチンが含浸したセルロースフィルムからなる層を形成した。フィブロネクチンが含浸したセルロースフィルムからなる層を37℃に温調し、同温度で接触角計(全自動接触角計PD-W、協和界面化学社製)を用い、下記条件での水に対する接触角を測定し、結果を表1に記載した。
水5μL、撮影待機時間1000msec、撮影間隔時間1000msec、撮影回数10回の条件で測定を5回行い、その平均値を算出し塗膜の水に対する接触角とした。
【0070】
<細胞培養基材の物性評価>
<細胞増殖率>
剥離した細胞についてトリパンブルーを用いて生細胞数を計測し、以下計算式にて、増殖率を算出した。3日目の細胞培養増殖率としては、短い培養時間で細胞シートを得るという観点から300%以上であることが好ましい、400%以上であればより好ましい。
細胞増殖率=[培養3日後の生細胞数]/[播種時の細胞数]×100
【0071】
<剥離時間及び剥離後の細胞の形状>
培養後の細胞培養基材に細胞剥離用薬剤を添加してからの経時的な細胞の剥離具合を目視で確認して剥離するまので時間(単位:分)を計測した。細胞培養基材を揺らした時に細胞が細胞培養基材から浮き上がって揺れに対応して動くことが確認できたら剥離が完了したものとした。
剥離後の細胞の形状は上記の剥離が完了した後の状態を目視で観察して判断した。培養した細胞が一体のシートとして剥離できた場合には「シート状」と、細胞同士が離れてバラバラになりシートとして剥離できなかった場合には「バラバラ」と表1に記載した。
【0072】
【0073】
表1に記載の評価結果から、本発明の細胞培養基材用コーティング剤、細胞培養基材を用いることで十分な細胞培養率で培養することができ、短時間で培養細胞を細胞シートとして短時間で回収することが出来た。