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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】摩擦伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/50 20060101AFI20240612BHJP
   F16D 3/50 20060101ALI20240612BHJP
   F16D 3/74 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
F16H15/50
F16D3/50 A
F16D3/50 B
F16D3/74 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020087889
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181812
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-227556(JP,A)
【文献】米国特許第04593574(US,A)
【文献】特表2018-512545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/50
F16D 3/50
F16D 3/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力回転が取り出される取出部材と、複数の摩擦伝動体と、の接触により動力を伝達する摩擦伝動機構を有し、前記取出部材の接触面が軸方向に対して傾斜している摩擦伝動装置であって、
被駆動装置に出力回転を伝達するための出力部材と、
前記取出部材と前記出力部材を連結するカップリングと、
を有し、
前記カップリングは、軸方向の荷重に対して前記取出部材および前記出力部材よりも変形し易く構成され、かつ、前記取出部材と前記出力部材の軸心のずれを吸収する機能と、前記出力部材に作用したトルクを軸方向力に変換して前記取出部材側に伝達する機能と、を有し
前記出力部材は、軸方向に対して傾斜した傾斜面を有する凹部を有し、前記カップリングは、当該傾斜面に当接する当接部材を有する摩擦伝動装置。
【請求項2】
出力回転が取り出される取出部材と、複数の摩擦伝動体と、の接触により動力を伝達する摩擦伝動機構を有し、前記取出部材の接触面が軸方向に対して傾斜している摩擦伝動装置であって、
被駆動装置に出力回転を伝達するための出力部材と、
前記取出部材と前記出力部材を連結するカップリングと、
を有し、
前記カップリングは、軸方向の荷重に対して前記取出部材および前記出力部材よりも変形し易く構成され、かつ、前記取出部材と前記出力部材の軸心のずれを吸収する機能と、前記出力部材に作用したトルクを軸方向力に変換して前記取出部材側に伝達する機能と、を有し、
前記カップリングは、前記取出部材が軸方向と直交する第1方向に移動可能とするとともに、前記出力部材が軸方向と直交し第1方向とは異なる第2方向に移動可能とする摩擦伝動装置。
【請求項3】
前記カップリングは、カップリング本体と、前記カップリング本体に設けられた第1カップリング凹部および第2カップリング凹部と、当該第1カップリング凹部と前記取出部材に設けられた取出部材凹部とに前記第1方向に遊びを有して嵌合する第1嵌合部材と、前記第2カップリング凹部と前記出力部材に設けられた出力部材凹部とに前記第2方向に遊びを有して嵌合する第2嵌合部材と、を有する請求項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項4】
前記第1カップリング凹部と前記第2カップリング凹部の少なくとも一方は、軸方向に対して傾斜した傾斜面を有し、
前記第1嵌合部材と前記第2嵌合部材の少なくとも一方は、当該傾斜面に当接する請求項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項5】
出力回転が取り出される取出部材と、複数の摩擦伝動体と、の接触により動力を伝達する摩擦伝動機構を有し、前記取出部材の接触面が軸方向に対して傾斜している摩擦伝動装置であって、
被駆動装置に出力回転を伝達するための出力部材と、
前記取出部材と前記出力部材を連結するカップリングと、
を有し、
前記カップリングは、軸方向の荷重に対して前記取出部材および前記出力部材よりも変形し易く構成され、かつ、前記取出部材と前記出力部材の軸心のずれを吸収する機能と、前記出力部材に作用したトルクを軸方向力に変換して前記取出部材側に伝達する機能と、を有し、
前記摩擦伝動機構は、入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体に接触する第1支持軌道輪および第2支持軌道輪と、を有し、
前記遊星転動体は、前記取出部材と接触するように配置され、
前記遊星転動体と前記各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成されるように構成されていることを特徴とする摩擦伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力側伝動部材と出力側伝動部材との間に転動体を設ける変速機構と、出力側伝動部材と出力軸の間に構成された出力側伝達機構とを有する自動変速機が記載されている。この変速機構は、転動体を入力側伝動部材からの回転力により自転しつつ公転させ、その転動体の公転成分が出力側伝動部材に伝達するように構成されている。出力側伝達機構は、出力側伝動部材に形成された係合凹部と、出力軸に形成された係合凹部と、これらの係合凹部の間に介在する複数の係合球とにより構成されている。出力側伝動部材に伝達された回転は複数の係合球を介して出力軸に伝えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-251656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦伝動装置では、傾転モーメント、ラジアル荷重、アキシアル荷重などの外部荷重が出力部に作用すると、変速機構の出力側部材の姿勢が変化して変速機構の変速特性が変化する。安定した変速特性を得る観点からは、変速機構への外部荷重の影響を低減することが望ましい。しかし、特許文献1に記載の自動変速機では、この観点で十分に対応できていなかった。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑み、外部荷重の影響を低減可能な摩擦伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の摩擦伝動装置は、出力回転が取り出される取出部材と、複数の摩擦伝動体と、の接触により動力を伝達する摩擦伝動機構を有し、取出部材の接触面が軸方向に対して傾斜している摩擦伝動装置であって、被駆動装置に出力回転を伝達するための出力部材と、取出部材と出力部材を連結するカップリングと、を有する。カップリングは、軸方向の荷重に対して取出部材および出力部材よりも変形し易く構成され、かつ、取出部材と出力部材の軸心のずれを吸収する機能と、出力部材に作用したトルクを軸方向力に変換して取出部材側に伝達する機能と、を有する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外部荷重の影響を低減可能な摩擦伝動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る摩擦伝動装置の一例を概略的に示す正面図である。
図2図1の摩擦伝動装置のA-A線に沿った断面を示す断面図である。
図3図1の出力側機構を概略的に示す正面図である。
図4図3の出力側機構のB-B線に沿った断面を示す断面図である。
図5図3の出力側機構のC-C線に沿った断面を示す断面図である。
図6図1の出力側機構の軸心ずれ吸収動作を示す説明図である。
図7図1の出力側機構の軸心ずれ吸収動作を示す説明図である。
図8図1の出力側機構の嵌合凹部と嵌合部材とを模式的に示す模式図である。
図9図1の摩擦伝動機構の動作を説明する説明図である。
図10図1の摩擦伝動体の接触点におけるベクトルを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の概要を説明する。本発明者は、摩擦伝動装置について研究して以下の知見を得た。摩擦伝動装置として、軸方向に対して傾斜する接触面を有し、この接触面と複数の摩擦伝動体との接触により出力回転を取り出す取出部材を備える摩擦伝動機構と、被駆動装置に出力回転を伝達するための出力部材と、取出部材と出力部材を連結するカップリングとを有する構成が考えられる。この摩擦伝動装置では、出力部材に作用する外部荷重と、伝達トルクの大小とが摩擦伝動機構の特性に影響を与えることが判明した。
【0011】
先ず、外部荷重の影響を説明する。取出部材に接続される出力部材には、傾転モーメント、ラジアル荷重、アキシアル荷重などの外部荷重が作用することが考えられる。これらの外部荷重が出力部材に作用すると、出力部材が変位または変形し、出力部材に接続される取出部材にミスアライメント(位置ずれ)が発生する。取出部材にミスアライメントが発生すると、複数の摩擦伝導体それぞれが受け持つ接触荷重に偏りが生じる。摩擦伝導体と各軌道輪との接触荷重が過大な部分では、金属疲労が増大し、寿命を短くする要因となる。また、接触荷重が過少な部分では、空転が発生して摩擦伝動機構の伝達特性にムラが生じる。
【0012】
取出部材のミスアライメントを減らす観点から、カップリングは、軸方向の荷重に対して取出部材および出力部材よりも変形し易く構成されることが重要である。カップリングが容易変形性を有することにより、出力部材に傾転モーメントが作用した場合に、その傾転モーメントの影響がカップリングの撓み等の弾性変形によって吸収されるため、取出部材への影響を低減できる。
【0013】
また、同様の観点から、カップリングは、取出部材と出力部材との軸心のずれを吸収する機能(以下「軸心ずれ吸収機能」という)を有することが重要である。この場合、取出部材と出力部材との軸心ずれがカップリングによって吸収されるため、取出部材への軸心のずれの影響を低減できる。
【0014】
次に、伝達トルクの大きさの影響を説明する。摩擦伝導体と取出部材との間に与える与圧荷重の大小は、摩擦伝動装置の効率、トルク容量、寿命などの特性に次のような影響がある。
(1)与圧荷重が大きい場合、伝達トルクの上限は大きくなるが、伝達効率が低下し、寿命も減少する。
(2)与圧荷重が小さい場合、伝達トルクの上限は小さくなるが、伝達効率が高まり、寿命も増大する。
【0015】
伝達効率や寿命を確保する観点から、与圧荷重は、伝達トルクの大きさに応じて適切に設定されることが望ましい。しかし、与圧荷重の調整は、一般的な転がり軸受と同様にミクロン単位の精度で行われるため、与圧荷重の所望の荷重への微調整は容易ではない。また、伝達トルクが広範囲に変化する用途では、伝達トルクの最大値に合わせて与圧荷重を設定することが考えられる。この場合、伝達トルクが小さい状態で運転すると、小さいトルクに適した与圧荷重の場合と比較して、効率や寿命が低下する。
【0016】
これらから、伝達トルクの大きさに応じて与圧荷重を自動調整するために、カップリングは、出力部材に作用したトルクを軸方向力に変換して取出部材側に伝達する機能(以下、「トルク与圧変換機能」という)を有することが重要である。この場合、出力部材に作用する伝達トルクがカップリングによって軸力に変換されて取出部材に伝達されるため、伝達トルクが小さいときには、摩擦伝動体と取出部材との間の接触荷重(与圧荷重)が小さくなり、効率や寿命の低下を抑制できる。また、伝達トルクが大きいときには、摩擦伝動体と取出部材との間の接触荷重(与圧荷重)が大きくなり、伝達トルク容量の不足を補える。
【0017】
上述の軸心ずれ吸収機能やトルク与圧変換機能は、様々な構成によって実現できる。以下、実施形態を参照して、その一例構成について詳細に説明する。
【0018】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0019】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0020】
[実施形態]
図1図2を参照して、本開示の実施形態に係る摩擦伝動装置100の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る摩擦伝動装置100の一例を概略的に示す正面図である。図2は、摩擦伝動装置100を概略的に示す断面図である。この図は、図1のA-A線に沿った断面を示している。
【0021】
本実施形態の摩擦伝動装置100は、摩擦伝動機構10と、出力側機構80とを備える。摩擦伝動機構10は、入力された動力を複数の摩擦伝動体および取出部材の接触により伝達する。出力側機構80は、取出部材に取り出された出力回転を被駆動装置(不図示)に伝達する。特に、出力側機構80は、取出部材と、出力部材と、これらを連結するカップリングとを含み、被駆動装置から出力部材に作用する外部荷重の取出部材への影響を低減する。先に、摩擦伝動機構10を説明し、出力側機構80については後述する。
【0022】
(摩擦伝動機構)
摩擦伝動機構10は、取出部材が摩擦伝動体の摩擦面(軌道面でもある)を有しており、その摩擦面が単なる円筒面ではなく、中心軸に対して傾斜する面であればよい。本実施形態の摩擦伝動機構10は、モータ50から入力された回転を変速して出力側機構80に伝達する機構である。特に、摩擦伝動機構10は、入力軌道輪を回転させることにより摩擦伝動体に自転と公転とを生じさせ、その生じた回転成分を取出部材に出力するように構成される。
【0023】
摩擦伝動機構10は、入力軸12と、入力軌道輪14と、入力軸軸受18と、摩擦伝動体20と、第1支持軌道輪26と、第2支持軌道輪28と、取出部材30とを主に備える。以下、入力軸12の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0024】
入力軸12は、モータ50の回転が入力されると、中心軸線La周りに回転する。本実施形態の入力軸12は、軸方向に延びる円筒状の部材である。入力軸12の外周には入力軌道輪14が固定されており、これらは一体的に回転する。入力軸12の反入力側は入力軸軸受18の内輪に接続されている。入力軸軸受18の外輪は第1支持軌道輪26を支持する。入力軸12は、隙間を介して第1支持軌道輪26に環囲される。入力軸12と第1支持軌道輪26とは、相対的に回転可能に配置される。
【0025】
入力軸12の入力側の端部は、後述する相対位置変更機構60に連結される。入力軸12は、相対位置変更機構60の駆動により軸方向に移動する。入力軸12の入力側の外周部は、モータ50の回転子52に環囲される。入力軸12は、回転子52によって軸方向に移動可能に支持される。入力軸12の外周面に設けられたスプライン溝12sと、回転子52の内周面に設けられたスプライン溝51sとは、隙間を介して噛み合っている。
【0026】
本実施形態において、摩擦伝動体20は入力軌道輪14と取出部材30との間で遊星運動しながら回転を伝達する遊星転動体として機能する。入力軌道輪14は、入力軸12と一体的に中心軸線Laを回転軸としてその周りに回転する。入力軌道輪14は、摩擦伝動体20と接触し、入力軌道輪14が回転するにつれて摩擦伝動体20に自転と公転とを生じさせる。入力軌道輪14は、入力軸12と別体に形成されてもよいが、この例では、入力軸12と一体的に形成されている。入力軌道輪14は、略円板状の部材で、反入力側に転動面14hを有する。転動面14hは、摩擦伝動体20が転動する面であり、摩擦伝動体20と実質的に点接触する。転動面14hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面14hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面14hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。
【0027】
入力軸軸受18は、入力軸12の反入力側の端部と第1支持軌道輪26との間に設けられる。軸受の種類に限定はないが、本実施形態の入力軸軸受18は、球状の転動体を有する転がり軸受である。入力軸軸受18は、入力軸12に取り付けられた内輪と、第1支持軌道輪26に固定された外輪とを有する。
【0028】
第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28は、摩擦伝動体20の姿勢および位置を一定の範囲に保持する。第1支持軌道輪26と、第2支持軌道輪28とは、摩擦伝動体20を挟んで離隔され、対向配置される。第1支持軌道輪26は、第2支持軌道輪28の反入力側であって、径方向内側に配置される。
【0029】
第1支持軌道輪26は、入力軸12を隙間を介して環囲するリング形状を有する。第1支持軌道輪26は、入力側に転動面26hを有する。転動面26hは、摩擦伝動体20が転動する面であり、摩擦伝動体20と実質的に点接触する。転動面26hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面26hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面26hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。第1支持軌道輪26は、入力軸12および摩擦伝動体20に対して自由に回転可能であり、遊転軌道輪と称されることがある。
【0030】
第2支持軌道輪28は、入力軸12および摩擦伝動体20を環囲するリング形状を有する。第2支持軌道輪28は、反入力側に転動面28hを有する。転動面28hは、摩擦伝動体20が転動する面であり、摩擦伝動体20と実質的に点接触する。転動面28hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面28hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面28hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。第2支持軌道輪28の転動面28hは、摩擦伝動体20を挟んで、第1支持軌道輪26の転動面26hと略対向する。
【0031】
第2支持軌道輪28は、後述する第2ケーシング42の内周側に固定される。第2支持軌道輪28は、第2ケーシング42と別体に形成されてもよいが、この例では、第2ケーシング42と一体的に形成されている。
【0032】
取出部材30は、摩擦伝動体20と接触し、摩擦伝動体20が回転するにつれて中心軸線を中心に回転する。この例では、取出部材30の回転軸線は、中心軸線Laと一致しているため、取出部材30は、中心軸線Laを中心に回転する。取出部材30は、カップリング70を介して出力部材78と連結されており、取出部材30が回転するにつれてカップリング70および出力部材78が回転する。
【0033】
取出部材30は、入力軸12および摩擦伝動体20を環囲するリング形状を有する。取出部材30は、入力側に転動面30hを有しており、この点で出力軌道輪として機能する。転動面30hは、摩擦伝動体20が転動する面であり、摩擦伝動体20と実質的に点接触する。転動面30hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面30hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面30hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。取出部材30の転動面30hは、摩擦伝動体20を挟んで、入力軌道輪14の転動面14hと略対向する。
【0034】
摩擦伝動体20は、周方向に所定の間隔で複数(例えば、6個)配置される。複数の摩擦伝動体20を所望の位置に保持するためにリテーナを備えてもよいが、本実施形態では、リテーナを備えていない。リテーナを有しない構成は、製造コスト、装置の大きさ、装置の質量等の点で有利である。なお、摩擦伝動体20の個数は特に限定されず、6個より少なくても多くてもよいが、6~12個が好ましい。
【0035】
以下、取出部材30の転動面30h、入力軌道輪14の転動面14h、第1支持軌道輪26の転動面26hおよび第2支持軌道輪28の転動面28hを総称するときは単に「転動面」ということがある。
【0036】
摩擦伝動体20は、4つの転動面に接触することにより軸方向位置、径方向位置および姿勢が規制される。摩擦伝動体20の形状は、4つの転動面に接触することにより姿勢が決定され、4つの転動面に接触しながら転動可能である限り、どのような形状であってもよい。本実施形態の摩擦伝動体20は、短軸を中心として楕円または長円を回転させることにより得られる回転体(以下、「長球」という)である。また、本明細書では、摩擦伝動体20の短軸の中心を通り、自転軸Lbに直交する平面と摩擦伝動体20の外周面とが交わってできる円を「赤道」という。この例では、赤道は、自転軸Lbに直交する平面と摩擦伝動体20の外周面とが交わってできる大円である。
【0037】
摩擦伝動体20の自転軸Lbの中心軸線Laに対する傾斜は、4つの転動面の相対位置によって変化する。つまり、自転軸Lbは、中心軸線Laと平行な場合と、中心軸線Laに対して傾斜する場合とがある。
【0038】
摩擦伝動体20の自転軸Lbが中心軸線Laと平行な状態で、摩擦伝動体20の径方向寸法に対する軸方向寸法の比率Ra(=軸方向寸法/径方向寸法)を説明する。比率Raが大きいと、摩擦伝動体20が本来の自転軸Lbに直交する疑似自転軸を中心に回転する現象が発生する可能性がある。この現象を抑える観点から、比率Raは1以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。比率Raは0.1以上にされてもよい。
【0039】
(出力側機構)
図3図5も参照して、出力側機構80を説明する。図3は、出力側機構80を概略的に示す正面図である。図4は、図3のB-B線に沿った出力側機構80の断面を示す断面図である。図5は、図3のC-C線に沿った出力側機構80の断面を示す断面図である。出力側機構80は、被駆動装置に出力回転を伝達するための出力部材78と、取出部材30と出力部材78を連結するカップリング70とを有する。
【0040】
出力部材78を説明する。出力部材78は、カップリング70を介して取出部材30と連結されており、取出部材30が回転するにつれて回転する。出力部材78は、出力フランジと称されることがある。この例の出力部材78は、略円板状を有し、後述する主軸受34を介して第1ケーシング40に回転可能に支持される。出力部材78の反入力側に被駆動装置が連結される。
【0041】
カップリング70を説明する。本実施形態のカップリングは、取出部材30が軸方向と直交する第1方向に移動可能とするとともに、出力部材78が軸方向と直交し第1方向とは異なる方向に移動可能とする構成を有する。
【0042】
本実施形態のカップリング70は、カップリング本体72と、第1カップリング凹部74dおよび第2カップリング凹部76dと、第1嵌合部材74と、第2嵌合部材76とを有する。この例では、カップリング本体72は円板状の部材である。第1カップリング凹部74dは、カップリング本体72の入力側に設けられ、第2カップリング凹部76dは、カップリング本体72の反入力側に設けられる。第1嵌合部材74は、第1カップリング凹部74dと取出部材30の反入力側に設けられた取出部材凹部30dとに第1方向に遊びを有して嵌合する。第2嵌合部材76は、第2カップリング凹部76dと出力部材78の入力側に設けられた出力部材凹部78dとに第2方向に遊びを有して嵌合する。
【0043】
以下、第1嵌合部材74と、第2嵌合部材76とを総称するときは単に「嵌合部材」という。また、第1カップリング凹部74d、第2カップリング凹部76d、取出部材凹部30dおよび出力部材凹部78dを総称するときは「嵌合凹部」という。
【0044】
カップリング70の容易変形性を説明する。カップリング本体72は、軸方向に撓み易く構成されることにより、軸方向のミスアライメントを吸収できる。一例として、カップリング本体72は、容易に撓むように、取出部材30および出力部材78よりもヤング率が低い素材で構成されてもよい。例えば、取出部材30および出力部材78が鉄系金属で構成される場合、カップリング本体72は、鉄系金属よりもヤング率が低いアルミニウム等の金属や樹脂材料で構成されてもよい。本実施形態では、カップリング本体72は、容易に撓むように、取出部材30および出力部材78よりも軸方向寸法が小さく形成されている。各部材の軸方向寸法の比較は、例えば軸方向寸法の最大値同士または最小値同士、あるいはその両方を比較してもよい。また、軸方向寸法の平均値同士や中間値同士を比較してもよい。カップリング本体72の軸方向寸法は、所望の変形容易性に応じてシミュレーションや実験により設定できる。
【0045】
また、カップリング本体72は、軸方向に撓み易く構成されているため、軸方向に撓むばねとして機能する。カップリング本体72をばねとして利用することにより、取出部材30に作用する与圧荷重を調整できる。この場合、各部材の熱膨張による与圧変化を緩和できる。
【0046】
本実施形態の軸心ずれ吸収機能を説明する。第1嵌合部材74は、中心軸線Laからオフセットした位置に所定の間隔で複数設けられる。本実施形態では、2つの第1嵌合部材74が、軸方向と直交する第1方向に離隔しており、中心軸線Laを挟んで対称に配置されている。2つの第1嵌合部材74は、第1方向に沿った中心を有する円筒面を有するローラである。
【0047】
第2嵌合部材76は、中心軸線Laからオフセットした位置に所定の間隔で複数設けられる。本実施形態では、2つの第2嵌合部材76が、軸方向と直交する第2方向に離隔しており、中心軸線Laを挟んで対称に配置されている。2つの第2嵌合部材76は、第2方向に沿った中心を有する円筒面を有するローラである。第1方向と第2方向とは、軸方向から視て互いに交差しており、この例では直交している。
【0048】
第1嵌合部材74は、第1カップリング凹部74dと取出部材凹部30dとに第1方向に遊びを有して嵌合する。一例として、第1方向寸法において、第1嵌合部材74は、遊びの量だけ、第1カップリング凹部74dおよび取出部材凹部30dよりも小さく構成されている。
【0049】
第2嵌合部材76は、第2カップリング凹部76dと出力部材凹部78dとに第2方向に遊びを有して嵌合する。一例として、第2方向寸法において、第2嵌合部材76は、遊びの量だけ、第2カップリング凹部76dおよび出力部材凹部78dよりも小さく構成されている。
【0050】
図6図7を参照して、出力側機構80の軸心ずれ吸収動作を説明する。図6図7は、出力側機構80の動作を説明する説明図である。図6は、出力側機構80の第1方向の軸心ずれ吸収動作を示し、図7は、出力側機構80の第2方向の軸心ずれ吸収動作を示す。図6(a)は、取出部材30の中心軸線Laに対して、カップリング本体72の中心Lcが第1方向で白抜き矢印の方向に軸心ずれした状態を示す。図6(b)は、中心軸線Laに対して、カップリング本体72の中心Lcが第1方向で白抜き矢印の方向に軸心ずれした状態を示す。このように、第1嵌合部材74と第1カップリング凹部74dおよび取出部材凹部30dとの間に第1方向の遊びを有することによって、これらの間で第1方向の軸心ずれを吸収できる。
【0051】
図7(a)は、カップリング本体72の中心Lcに対して、出力部材78の中心Lpが第2方向で白抜き矢印の方向に軸心ずれした状態を示す。図7(b)は、中心Lcに対して、出力部材78の中心Lpが第2方向で白抜き矢印の方向に軸心ずれした状態を示す。このように、第2嵌合部材76と、第2カップリング凹部76dおよび出力部材凹部78dとの間に第2方向の遊びを有することによって、これらの間で第2方向の軸心ずれを吸収できる。交差する第1方向と第2方向とに軸心ずれを吸収できるので、カップリング70は出力部材78から取出部材30までの間で軸心ずれを吸収できる。第1方向および第2方向の遊び量は所望の軸心ずれ吸収量に応じて、シミュレーションや実験により設定できる。
【0052】
図8を参照して、出力側機構80のトルク与圧変換機能を説明する。図8は、径方向から視た嵌合凹部と嵌合部材とを模式的に示す説明図である。この説明では、嵌合凹部の一例として、第1カップリング凹部74dと取出部材凹部30dとを示し、嵌合部材の一例として、第1嵌合部材74を示すが、この説明は、他の嵌合凹部および嵌合部材についても同様に適用できる。
【0053】
図8に示すように、第1カップリング凹部74dおよび取出部材凹部30dは、周方向中央が最も後退しており、径方向から視てV字状の溝形状を有する。つまり、これらの嵌合凹部は、周方向中央で互いに接する第1傾斜面70pと第2傾斜面70sとを有する。第1傾斜面70pと第2傾斜面70sとは軸方向に直交する面に対して傾斜する面である。第1嵌合部材74の円筒面74eは、第1傾斜面70pと第2傾斜面70sとに接触する。第1傾斜面70pと第2傾斜面70sとを総称するときは、単に傾斜面ということがある。
【0054】
例えば、取出部材30に伝達トルクTが作用し、第1傾斜面70pが円筒面74eに当接したとき、第1傾斜面70pは、伝達トルクTに基づく回転方向の力を円筒面74eに加える。このとき、円筒面74eは、反力として反回転方向の力Faを第1傾斜面70pに加える。反回転方向の力Faに基づいて、第1傾斜面70pには軸方向の分力Fbが発生する。軸方向の分力Fbは、取出部材30を摩擦伝動体20側に押しつける力であり、これらの与圧荷重を増大させる。
【0055】
また、第1嵌合部材74と第1カップリング凹部74dとの間においても、同様に伝達トルクTに基づく反力によって第1嵌合部材74に与圧荷重を増やす方向の力が作用する。軸方向の分力Fbは、伝達トルクTに比例すると考えられるので、伝達トルクTが大きくなると増大し、伝達トルクTが小さくなると減少する。このため、与圧荷重は、伝達トルクTに応じて適切に調整される。第1傾斜面70pおよび第2傾斜面70sの軸方向に直交する面に対する傾斜角は、所望のトルク与圧変換特性に応じて、シミュレーションや実験により設定できる。
【0056】
なお、出力部材78に外部から作用した外部トルクは、出力部材78から第2嵌合部材76とカップリング本体72と第1嵌合部材74とを介して反回転方向の力を第1傾斜面70pに加える。この力は、反回転方向の力Faおよび分力Fbに重畳されるので、取出部材30を摩擦伝動体20側に押しつける力を増大させる。つまり、外部トルクが加わった場合にも、それに応じて与圧荷重は増大する。
【0057】
上述の例では、カップリング本体72に第1カップリング凹部74dと第2カップリング凹部76dとが設けられる例を示したが、これらの凹部を設けることは必須ではない。例えば、第1嵌合部材74および第2嵌合部材76の一方または両方が、カップリング本体72と一体的に設けられてもよい。この場合にも、カップリング70の容易変形性を確保しつつ、軸心ずれ吸収機能およびトルク与圧変換機能を実現できる。
【0058】
次に、図2を参照して、摩擦伝動装置100のその他の構成を説明する。摩擦伝動装置100は、主軸受34と、オイルシール36と、第1、第2ケーシング40、42とをさらに備える。
【0059】
(主軸受)
図2に示すように、主軸受34は、出力部材78と第1ケーシング40との間に設けられ、出力部材78を第1ケーシング40に対して回転可能に支持する。軸受の種類に限定はないが、本実施形態の主軸受34は、円筒形のコロを転動体とするクロスローラベアリングである。主軸受34の内輪は、出力部材78と一体に設けられ、主軸受34の外輪は、第1ケーシング40と一体に設けられている。
【0060】
(オイルシール)
図2に示すように、オイルシール36は、主軸受34の反入力側において出力部材78と第1ケーシング40との間に設けられる。オイルシール36は、主軸受34からの潤滑材の漏れ出しを抑制し、主軸受34への異物の侵入を低減する。
【0061】
(ケーシング)
図2に示すように、第1、第2ケーシング40、42は、中空の略円筒状の部材で、摩擦伝動装置100の外殻として機能する。第1、第2ケーシング40、42は、主に出力部材78を環囲する第1ケーシング40と、第1ケーシング40の入力側に連結され、主にカップリング70および摩擦伝動機構10を環囲する第2ケーシング42とを含む。第1ケーシング40は、第2ケーシング42にボルトB2によって連結される。第2ケーシング42の内周側には第2支持軌道輪28が設けられている。第2ケーシング42の外周側にはフランジ部42fが設けられている。第2ケーシング42は、フランジ部42fが後述するモータケーシング54にボルトB1で連結されることによって、モータ50と接続される。
【0062】
(モータ)
次に、図2を参照して、モータ50を説明する。モータ50の種類に限定はないが、本実施形態のモータ50は、モータ軸51を有するインナーロータ型ブラシレスモータである。モータ50は、モータ軸51と、回転子52と、固定子53と、モータケーシング54と、第1カバー部56と、第2カバー部57と、一対のモータ軸受58とを主に含む。モータ軸51は、後述する直動軸66が進退するための中空部51cを有する中空軸である。モータ軸51は、軸方向に離れた配置された一対のモータ軸受58によって、第1カバー部56および第2カバー部57に支持される。回転子52は、モータ軸51の外周に一体的に形成された本体部52bと、本体部52bの外周に固定され、所定の磁極を有する円筒状のマグネット52mとを有する。
【0063】
固定子53は、マグネット52mを磁気的空隙を介して対向するステータコア53sと、ステータコア53sに設けられる電機子コイル53cとを有する。モータケーシング54は、ステータコア53sの外周に固定される円筒部材である。第1カバー部56は、モータケーシング54の反入力側を塞ぐ円板状の部材である。第2カバー部57は、モータケーシング54の入力側を塞ぐ円板状の部材である。第1カバー部56、モータケーシング54および第2カバー部57は、ボルトB1によって一体化されるとともに、フランジ部42fに連結される
【0064】
(相対位置変更機構)
次に、図2を参照して、相対位置変更機構60を説明する。本実施形態の摩擦伝動装置100は、相対位置変更機構60をさらに備える。相対位置変更機構60は、入力軌道輪14、取出部材30、第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28の相対位置を変更する機構である。相対位置変更機構60は、これら4つの軌道輪の1つ以上の軌道輪と残りの軌道輪との間の相対位置を変更するものであればよい。本実施形態の相対位置変更機構60は、入力軌道輪14および第1支持軌道輪26を一体的に軸方向に相対移動させる移動機構62を有する。
【0065】
移動機構62は、モータ軸51の中空部51c内で進退する直動軸66と、直動軸66に軸方向の駆動力を発生させるアクチュエータ本体64とを有する直動アクチュエータである。直動軸66は、軸方向に延びる円形の棒形状を有する。アクチュエータ本体64の一部は、モータ軸51の中空部51cに収納される。移動機構62は、直動軸66を進退駆動可能なものであれば構成に限定はない。例えば、直動軸66は、ステッピングモータにより駆動されてもよいし、ボイスコイルモータなどにより非回転で軸方向に駆動されてもよい。本実施形態の移動機構62は、ボールねじ機構により回転運動を直線運動に変換し、直動軸66を軸方向に駆動する。
【0066】
アクチュエータ本体64には径方向で外側に延出する延出部62fが設けられる。延出部62fがボルトB3で第2カバー部57に固定されることにより、アクチュエータ本体64は、モータ50に連結される。
【0067】
入力軸12の入力側の端部には、反入力側に凹んだ連結孔12hが設けられる。直動軸66の先端は連結孔12hに収容される。直動軸66と連結孔12hの間には連結軸受68が設けられる。連結軸受68の外輪は連結孔12hに固定され、連結軸受68の内輪は直動軸66の先端に固定される。この構成により、入力軸12と直動軸66とは互いに回転可能に連結される。なお、直動軸66が非回転で移動する場合は、直動軸66と入力軸12とは、連結軸受68を介さずに連結されてもよい。
【0068】
直動軸66が軸方向に移動すると入力軸12も軸方向に移動し、これにつれて入力軌道輪14および第1支持軌道輪26が入力側または反入力側に移動し、これらと取出部材30および第2支持軌道輪28との相対関係が変更される。これらの相対関係が変更されることにより、摩擦伝動機構10の変速比Rsが変更される。このように、本実施形態においては、入力軸12を軸方向に移動させるという簡易な構成で変速比Rsを変更できる。また、直動軸66をモータ軸51の中空部51cに配置させているため、装置の小型化が可能となる。
【0069】
図9を参照して、摩擦伝動機構10の動作を説明する。図9は、摩擦伝動機構10の動作を説明する説明図である。この図では、各転動面を曲面状に描いているが、各転動面は、摩擦伝動体20との接触領域において平坦である。入力軌道輪14が回転すると、摩擦伝動体20が自転軸Lb周りに自転しながら公転軸周りに公転する。この例では、摩擦伝動体20の公転軸は中心軸線Laと一致しているため、以下では中心軸線Laを公転軸として説明する。
【0070】
摩擦伝動体20と、入力軌道輪14、第1支持軌道輪26、第2支持軌道輪28および取出部材30との接触点を、入力接触点14c、第1支持接触点26c、第2支持接触点28cおよび出力接触点30cとする。図9に示すように、接触点14c、26c、28c、30cの自転半径を、Rbg、Rbh、Rbm、Rbnとし、接触点14c、26c、28c、30cの公転半径を、Rg、Rh、Rm、Rnとする。
【0071】
第1支持軌道輪26が自由回転し、第2支持軌道輪28が非回転で静止している場合、入力軌道輪14の回転速度ω1に対する取出部材30の回転速度ω2の比(以下、「変速比Rs」という)は、下記の数式1によって示される。
【数1】
【0072】
図9の状態では、摩擦伝動体20は、自転軸Lbの入力側が中心軸線Laに近づく姿勢を有する。相対位置変更機構60により入力軌道輪14および第1支持軌道輪26の位置が入力側に変更されると、摩擦伝動体20の姿勢は、自転軸Lbの反入力側が中心軸線Laに近づくように変更される。この結果、各接触点の自転半径および公転半径が変更され、変速比Rsも変更される。このように、各軌道輪の相対位置を変更して摩擦伝動体20の姿勢を変更することによって摩擦伝動機構10の変速比Rsを変更できる。逆にいうと、摩擦伝動体20の姿勢を一定に支持することにより、変速比Rsは一定に保たれる。
【0073】
摩擦伝動体20の姿勢の変動を抑制するために、一例として、自転軸Lbに沿って摩擦伝動体20に軸部材を設け、その軸部材を軸受で支持する構成を備えてもよい。この場合、摩擦伝動体20は、軸部材により支持される。本実施形態では、摩擦伝動体20は、軸部材により支持されることなく、入力軌道輪14、取出部材30、第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28により支持される。
【0074】
図10を参照して、各軌道輪により摩擦伝動体20を支持する構成を説明する。図10は、摩擦伝動体20が各軌道輪により支持される構成を説明する説明図である。この図は、中心軸線Laおよび自転軸Lbを含む平面における各ベクトルの延長線を示している。図10に示すように、本実施形態では、摩擦伝動体と各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成される。摩擦伝動体20の形状によっては、延長線による四角形が形成されず、摩擦伝動体20の姿勢が不安定になる。
【0075】
図10に示すように、入力接触点14cにおける法線ベクトル14vと、第1支持接触点26cにおける法線ベクトル26vと、第2支持接触点28cにおける法線ベクトル28vと、出力接触点30cにおける法線ベクトル30vについて、これらの法線ベクトルの延長線14m、26m、28m、30mは互いに交差して四角形20sを形成する。この構成により、摩擦伝動体20の姿勢は一義的に定まり、摩擦伝動体20の姿勢は軸部材により支持されることなく維持される。なお、この四角形20sが凸四角形(内角が180度以上の角部を有さない四角形)であれば、姿勢の安定性がより向上する。
【0076】
摩擦伝動体20の形状によっては、四角形20sの面積が過小になることがある。四角形20sの面積が小さすぎると、摩擦伝動体20の姿勢が不安定化する可能性がある。姿勢を安定させる観点から、四角形20sの面積は、摩擦伝動体20の断面積の4%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。四角形20sの面積は、摩擦伝動体20の断面積の15%以上にされてもよい。
【0077】
摩擦伝動体20の形状によっては、四角形20sの対向する辺の法線ベクトルの向きが同じになることがある。四角形20sの対向する辺の法線ベクトルの向きが同じ場合、摩擦伝動体20の姿勢が不安定化する可能性がある。そこで、本実施形態では、四角形の対向する辺の法線ベクトルが反対向きになるように構成される。具体的には、法線ベクトル14vと法線ベクトル30vとは反対向きであり、法線ベクトル26vと法線ベクトル28vとは反対向きである。この場合、各軌道輪によって摩擦伝動体20の位置と向きが拘束されるため、摩擦伝動体20の姿勢はさらに安定する。また、四角形20sの隣接する二辺の法線ベクトルの両方が角部に向かうか、または角部から離れる方向を向いている場合、姿勢はさらに安定する。
【0078】
各軌道輪および摩擦伝動体20の接触面が共に平坦面だと、接触面積が増えて機械的な損失が増え、この接触面が共に曲面だと製造の手間が増える。このため、本実施形態では、入力接触点14c、第1支持接触点26c、第2支持接触点28cおよび出力接触点30cの接触面に関し、各軌道輪は平坦面であり、摩擦伝動体20の各軌道輪と対向する面は曲面である。この場合、機械的な損失の増加を抑えることができ、部材の製造が容易になる。この摩擦伝動体20の曲面は限定されないが、この例では、この曲面はインボリュート曲線の輪郭を有する。
【0079】
以上のように構成された摩擦伝動装置100の動作を説明する。モータ軸51から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軌道輪14が中心軸線La周りに回転する。入力軌道輪14が回転することにより摩擦伝動体20に自転と公転とを生じさせる。摩擦伝動体20の回転は取出部材30に伝達され、取出部材30は上述の変速比Rsにより回転する。取出部材30の回転は、カップリング70を介して出力部材78に出力される。相対位置変更機構60により入力軌道輪14および第1支持軌道輪26の位置が変更されると、変速比Rsが変更される。
【0080】
摩擦伝動装置100の特徴を説明する。摩擦伝動装置100のカップリング70は、軸方向の荷重に対して取出部材30および出力部材78よりも変形し易く構成され、かつ、取出部材30と出力部材78の軸心のずれを吸収する機能と、出力部材78に作用したトルクを軸方向力に変換して取出部材側に伝達する機能と、を有する。この構成によれば、取出部材と出力部材との軸心ずれを吸収するとともに伝達トルク容量の不足を補うので、摩擦伝動装置の効率低下や寿命低下を抑制できる。
【0081】
また、摩擦伝動装置100では、摩擦伝動体20と各軌道輪との接触点における法線ベクトルの延長線により四角形が形成されるように構成されているため、延長線による四角形が形成されない場合に比べて、摩擦伝動体20の姿勢が安定する。摩擦伝動体20の姿勢を維持するための構成が簡単であるため、製造コストを削減できる。
【0082】
摩擦伝動装置100では、摩擦伝動体20は、軸部材により支持されることなく、入力軌道輪14、取出部材30、第1支持軌道輪26および第2支持軌道輪28により支持されるため、軸部材とその周辺部材の製造コストを削減できる。
【0083】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0084】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0085】
[変形例]
実施形態の説明では、第1カップリング凹部74d、第2カップリング凹部76d、取出部材凹部30dおよび出力部材凹部78dが、第1傾斜面70pおよび第2傾斜面70sを有する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、傾斜面は、これらの凹部の一部または全部に設けられなくてもよい。
【0086】
実施形態の説明では、第1嵌合部材74および第2嵌合部材76が、円筒面を有するローラである例を示したが、本発明はこれに限定されない。これらの嵌合部材は、例えば、立方体、直方体などの多面体や球体などであってもよいし、互いに異なる形状の部材を組み合わせて使用されてもよい。
【0087】
実施形態の説明では、第1嵌合部材74および第2嵌合部材76が、嵌合凹部に可動的に支持される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、これらの嵌合部材の一部または全部は固定されてもよい。例えば、これらの嵌合部材の一部または全部は、出力部材、カップリング本体、取出部材またはその他の部材と一体であってもよい。
【0088】
実施形態の説明では、第1カップリング凹部74d、第2カップリング凹部76d、取出部材凹部30dおよび出力部材凹部78dが、軸心ずれ吸収機能およびトルク与圧変換機能を生じる例を示したが、本発明はこれに限定されない。これらの嵌合凹部の一部は、軸心ずれ吸収機能を生じなくてもよいし、これらの嵌合凹部の一部は、トルク与圧変換機能を生じなくてもよい。軸心ずれ吸収機能およびトルク与圧変換機能の一方は、これらの嵌合凹部とは別の機構によって実現されてもよい。
【0089】
実施形態の説明では、2つの支持軌道輪26、28を有する例を示したが、本発明はこれに限定されず、3つ以上の支持軌道輪が設けられてもよい。
【0090】
実施形態の説明では、第1支持軌道輪26が自由に回転し、第2支持軌道輪28が静止する例を示したが、本発明はこれに限定されない。第1支持軌道輪26が静止し、第2支持軌道輪28が自由に回転してもよい。
【0091】
実施形態の説明では、摩擦伝動体20の自転軸に対して、入力軌道輪14が径方向内側に配置され、取出部材30が径方向外側に配置されていた。しかし、これに限定されるものではなく、入力軌道輪14が外側で、取出部材30が内側に配置されてもよいし、両方が内側に配置されたり、両方が外側に配置されてもよい。摩擦伝動装置の構成は、実施形態の構成に限定されるものではなく、出力回転が取り出される取出部材と、複数の摩擦伝動体と、の接触により動力を伝達する摩擦伝動機構を有し、取出部材の接触面が軸方向に対して傾斜している構成を有するものであれば、広く本発明を適用可能である。
【0092】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0093】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0094】
10 摩擦伝動機構、 20 摩擦伝動体、 30 取出部材、 30d 取出部材凹部、 70 カップリング、 70p 第1傾斜面、 70s 第2傾斜面、 72 カップリング本体 、 74 第1嵌合部材、 74d 第1カップリング凹部、 76 第2嵌合部材、 76d 第2カップリング凹部、 78 出力部材、 78d 出力部材凹部、 80 出力側機構、 100 摩擦伝動装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10