IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サカタインクス株式会社の特許一覧

特許7502894光硬化型インクジェット印刷用インク組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】光硬化型インクジェット印刷用インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240612BHJP
【FI】
C09D11/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020088008
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181542
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】青木 克之
(72)【発明者】
【氏名】中島 興範
(72)【発明者】
【氏名】福家 和弘
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019939(JP,A)
【文献】特開2007-131755(JP,A)
【文献】特開2013-142151(JP,A)
【文献】特開2014-234401(JP,A)
【文献】特開2017-149825(JP,A)
【文献】特開2009-035650(JP,A)
【文献】特開2008-063556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と光重合性成分と光重合開始剤を含み、下記(1)~(3)の条件を全て満たす光硬化型インクジェット印刷用インク組成物
(1)光重合性成分全体に対し、エチレンオキサイド変性二官能モノマーを5.0~40.0質量%と、単官能モノマーを60.0質量%以上と、アミン変性オリゴマーと、を含む
(2)上記エチレンオキサイド変性二官能モノマーの理論Tgが20℃以下である
(3)上記単官能モノマーのみから成る共重合体の理論Tgが20~40℃である
【請求項2】
色材と光重合性成分と光重合開始剤を含み、下記(1)~(3)の条件を全て満たす光硬化型インクジェット印刷用インク組成物:
(1)光重合性成分全体に対し、エチレンオキサイド変性二官能モノマーを10.0~40.0質量%、及び単官能モノマーを60.0質量%以上含む、
(2)上記エチレンオキサイド変性二官能モノマーの理論Tgが20℃以下である、
(3)上記単官能モノマーのみから成る共重合体の理論Tgが20~35℃である。
【請求項3】
光重合性成分全体に対し、エチレンオキサイド変性二官能モノマーの含有量が10.0~30.0質量%である請求項1又は2に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項4】
上記エチレンオキサイド変性二官能モノマーがポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、エトキシ化(10)ビスフェノールAジアクリレート、またはEO変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレートの少なくともいずれか一つを含む請求項1~3のいずれか一項に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項5】
アミン変性オリゴマーを含む請求項に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化型インクジェットインクで得た塗膜に対して、高い柔軟性と塗膜耐性(耐擦過性、耐エタノール性)を両立させるためには、主なモノマー組成に低Tgの単官能モノマーを用いる方法がある。しかし、低Tgのモノマーの多くは揮発性が高い低分子化合物であり、臭気や塗膜耐性といった諸物性、さらに特に塗膜のタック性に悪影響を与え、塗膜の柔軟性との両立が困難である。一方、タック性を解決するために多官能モノマーや高Tgのモノマーを多量に使用すると、基材密着性や柔軟性が低下する。
そして、特許文献1に記載のインクジェットインキは、塗膜の加工性が求められる用途に使用されるものの、耐擦性及び耐溶剤性も兼ね備えた塗膜を形成させることを意図しない。
特許文献2に記載のインク組成物は耐溶剤性を考慮しないので、より広範囲の用途に使用できるものではなかった。
【0003】
特許文献3に記載の活性エネルギー線硬化性組成物は、Tgが40℃以上の多官能重合性化合物を含有する。その結果として、耐擦性と延伸性に優れた塗膜を得ることができるが、その他の性質の向上を意図しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-131755号公報
【文献】特開2013-142151号公報
【文献】特開2017-019939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物として、印刷時の吐出安定性、硬化した塗膜のタック性、基材密着性、耐折り曲げ性、耐擦性及び耐溶剤性を、全て向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の本発明を完成するに至った。
1.色材と光重合性成分と光重合開始剤を含み、下記(1)~(3)の条件を全て満たす光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
(1)光重合性成分全体に対し、エチレンオキサイド変性二官能モノマーを5.0~40.0質量%、及び単官能モノマーを60.0質量%以上含む
(2)上記エチレンオキサイド変性二官能モノマーの理論Tgが20℃以下である
(3)上記単官能モノマーのみから成る共重合体の理論Tgが20~40℃である
2.光重合性成分全体に対し、エチレンオキサイド変性二官能モノマーの含有量が10.0~30.0質量%である1に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
3.上記エチレンオキサイド変性二官能モノマーがポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、エトキシ化(10)ビスフェノールAジアクリレート、またはEO変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレートの少なくともいずれか一つを含む1又は2に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
4.アミン変性オリゴマーを含む1~3のいずれかに記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吐出安定性に優れ、かつタック性、基材密着性、耐折り曲げ性、耐擦性及び耐溶剤性に優れた塗膜を形成できるという効果を発揮する。
本発明では、低Tgの二官能モノマーの適正量使用を選択することで、塗膜のタック性、柔軟性、耐性を良好なバランスで実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物について順に述べる。
【0009】
<色材>
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に、各色相の色材を含有させることにより、各色の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を得ることができる。
このときの色材としては、通常の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に従来から使用されている顔料、染料を特に制限なく使用できるが、耐光性を考慮すると、有機顔料又は無機顔料等の顔料が好ましい。
有機顔料としては、例えば、染料レーキ顔料、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジコ系、ペリレン系、ペリノン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、ニトロ系、ニトロソ系、フラバンスロン系、キノフタロン系、ピランスロン系、インダンスロン系の顔料等が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、黒鉛、鉄黒、酸化クロムグリーン、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
また、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の代表的な色相ごとの顔料の具体例としては以下のものが挙げられる。
まず、光硬化型インクジェット印刷用イエローインク組成物として使用するためのイエロー顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、42、73、74、75、81、83、87、93、95、97、98、108、109、114、120、128、129、138、139、150、151、155、166、180、184、185、213等が挙げられ、好ましくは、C.I.Pigment Yellow150、155、180、213等が挙げられる。
光硬化型インクジェット印刷用マゼンタインク組成物として使用するためのマゼンタ顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、7、12、22、38、48:1、48:2、48:4、49:1、53:1、57、57:1、63:1、101、102、112、122、123、144、146、149、168、177、178、179、180、184、185、190、202、209、224、242、254、255、270、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられ、好ましくは、C.I.Pigment Red 122、202、Pigment Violet 19等が挙げられる。
光硬化型インクジェット印刷用シアンインク組成物として使用するためのシアン顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、18、22、27、29、60等で、好ましくは、C.I.Pigment Blue15:4等が挙げられる。
光硬化型インクジェット印刷用ブラックインク組成物として使用するためのブラック顔料としては、例えば、カーボンブラック(C.I.Pigment Black 7)等が挙げられる。
光硬化型インクジェット印刷用ホワイトインク組成物として使用するためのホワイト顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム等が挙げられ、好ましくは、アルミナ、シリカ等の種々の材料で表面処理された酸化チタンが挙げられる。
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物における色材の含有量は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の全量に対して1.0~20.0質量%であることが好ましい。色材の含有量が1.0質量%未満では、得られる印刷物の画像品質が低下する傾向がある。
一方、20.0質量%を超えると、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の粘度特性に悪影響を与える傾向がある。
【0010】
<光重合性成分>
光重合性成分は、特定の理論Tgを有するエチレンオキサイド変性二官能モノマー、及び特定の理論Tgを示す重合体又は共重合体を形成するような単官能モノマーを含有する成分であり、さらに他の光重合性成分を包含することができる。
(Tg(ガラス転移温度)の規定)
本発明において、エチレンオキサイド変性二官能モノマーや、単官能モノマーの共重合体等に関するTgの値は理論値(理論Tg)であり、それぞれ以下の式により求めたものである。以下共重合体のTgを示す場合は理論Tg(℃)である。
―式―
1/(Tg+273)=W1/(Tg1+273)+W2/(Tg2+273)+W3/(Tg3+273)+・・・・・・・・・+Wx/(Tgx+273)
(式中、Tg1~Tgxは共重合体を構成する重合性モノマー1、2、3・・・xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1~Wxはモノマー1、2、3・・・xのそれぞれの質量分率、Tgは理論ガラス転移温度(Tg)を表す。)
【0011】
(Tg20℃以下のエチレンオキサイド変性二官能モノマー)
本発明において、(2)の条件を満たすためのエチレンオキサイド変性二官能モノマーとしては、例えば以下のものを採用できる。なお[ ]内の数値はエチレングリコール由来部分の繰り返し単位数である。なお、この繰り返し単位数は最も多量に含有する繰り返し単位数である。
ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート[4]、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート[9]、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート[14]、エトキシ化(10)ビスフェノールAジアクリレート[10]、またはエチレンオキシド(EO)変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレートの少なくともいずれか一つを含有することが好ましい。
なお、ポリエチレングリコールジアクリレートのエチレングリコール由来部分の繰り返し単位数は4~10が好ましく、6~10がさらに好ましい。
エトキシ化ビスフェノールAジアクリレートのエチレングリコール由来部分の繰り返し単位数は合計で10以下であることが好ましく、EO変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレートのエチレンオキサイドの繰り返し単位数は5以上が好ましい。
これらのエチレンオキサイド変性二官能モノマーのTgは-35℃以上であることが好ましく、-25℃以上がより好ましい。
【0012】
[(1)の条件]
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、光重合性成分全体に対し、上記エチレンオキサイド変性二官能モノマーを5.0質量%以上含有し、その含有量としては、好ましくは8.0質量%以上、より好ましくは12.0質量%以上である。また40.0質量%以下含有し、好ましくは35.0質量%以下、より好ましくは30.0質量%以下である。
さらに上記単官能モノマーの含有量は60.0質量%以上、好ましくは70.0質量%以上、より好ましくは75.0質量%以上であり、好ましくは90.0質量%以下であり、より好ましくは85.0質量%以下である。
エチレンオキサイド変性二官能モノマーの含有量が少ない場合には、塗膜の耐折り曲げ性、耐擦性、耐溶剤性に劣る傾向がある。
エチレンオキサイド変性二官能モノマーの含有量が多い場合、又は、単官能モノマーの含有量が少ない場合には、基材密着性と耐折り曲げ性に劣る傾向がある。
【0013】
[(2)の条件]
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、エチレンオキサイド変性二官能モノマーのTgが20℃以下であることが必要である。さらに、好ましくは5℃以下であり、より好ましくは-5℃以下であり、更に好ましくは-15℃以下である。このTgが20℃を超える場合には、塗膜がタック性及び基材密着性に劣る傾向がある。
【0014】
(共重合体の理論Tgを20~40℃とする単官能モノマー)
本発明において、(3)の条件を満たす共重合体を得るためのモノマーとしては、例えば以下のものを採用できる。
ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ブチルシクロヘキシルアクリレート、トリメチルシクロヘキシルアクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートのアクリレート類、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びそのエチレンオキサイド変性物等の脂肪族環を有する(メタ)アクリレートや芳香族環を有する(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトールアクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート、フェノールエチレングリコール変性アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、ラクトン変性可とう性アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ビニロキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、等の水酸基含有(メタ)アクリレートやエーテル基含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。
アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン等の各種(メタ)アクリルアミド系モノマー、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-5-メチルオキサゾリジノン等のN-ビニルアミド系モノマー等も使用できる。
【0015】
[(3)の条件]
本発明において、上記単官能モノマーから成る共重合体の理論Tgを上記計算式により求めた範囲が20~40℃である。このとき、全ての単官能モノマーの理論Tgが20~40℃である必要はなく、複数種の単官能モノマーを共重合したときの理論Tgが20~40℃であれば良い。そのため、一部又は全ての単官能モノマーの理論Tgが20~40℃である必要はない。
但し、上記単官能モノマーから成る共重合体の理論Tgは、好ましくは25℃以上であり、より好ましくは35℃以下である。20℃未満の場合にはタック性や耐溶剤性に劣る傾向があり、40℃を超えると基材密着性と耐折り曲げ性に劣る傾向がある。
【0016】
単官能モノマーは(3)の条件を満たすことを前提として、合計で全光重合性成分中の含有量が好ましくは60.0質量%以上、より好ましく65.0質量%以上、さらに好ましくは70.0質量%以上、最も好ましくは80.0質量%以上である。単官能モノマーの含有量が60.0質量%未満であると、粘度が高くなる、基材密着性及び耐折れ曲げ性が低下する傾向となる。
【0017】
(エチレンオキサイド変性ではない多官能モノマー)
上記のいずれでもないモノマーとしては、以下のエチレンオキサイド変性ではない多官能モノマーを使用できるが、含有しなくても良い。含有する場合には、本発明の効果を毀損しない範囲にて含有させることができる。
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0018】
(エチレンオキサイド変性三官能以上のモノマー、Tgが20℃を超えるエチレンオキサイド変性二官能モノマー)
さらに、エチレンオキサイド変性三官能以上のモノマー、Tgが20℃を超えるエチレンオキサイド変性二官能モノマーとして、以下の多官能モノマーを使用できるが、含有しなくても良い。含有する場合には、本発明の効果を毀損しない範囲にて含有させることができる。
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド変性物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド変性物、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド変性物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド変性物、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド変性物等。
また、ポリエチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド変性アルキレンジオールジ(メタ)アクリレート等のなかでも、Tgが20℃を超えるモノマーを使用できる。
【0019】
(アミン変性オリゴマー)
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物には、例えば以下の、アミノ基及び/又はアミド基を有するオリゴマーを含有させることが好ましい。
このようなオリゴマーとしては、CN371、CN373、CN386、CN501、CN550、CN551(サートマー社製)等のアクリル化アミン化合物である。なかでも、分子内に2個の光重合性官能基及び2個のアミノ基を有するアクリル化アミン化合物と、アクリロイルモルフォリン及び/又はN-ビニルカプロラクタムとを併用することが好ましい。
アミノ基及び/又はアミド基を有するオリゴマーの含有量は、任意に決定できる。しかしながら、硬化性の点から、光重合性成分中に2.0~10.0質量%であることが好ましく、3.0~6.0質量%がより好ましい。含有量が2.0質量%未満であると、硬化性及びタック性が低下する可能性がある。
【0020】
(本発明中の好ましい光重合性化合物の組み合わせ)
上記の条件等を満たしてより確実に本発明の効果を発揮させるために、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物として、アミン変性オリゴマー、及びポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールジアクリレート、エチレンオキサイド変性1,6-ヘキサンジオールジアクリレートのジアクリレートから選ばれた1種以上、及び2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、N-ビニルカプロラクタム、及びアクリロイルモルフォリンから選ばれた1種以上、を含有することが好ましい。
【0021】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸エチル等を使用できる。
光重合開始剤の含有量は、好ましくは光重合性成分の総質量に対して3.0~25.0質量%の範囲であり、より好ましくは5.0~15.0質量%の範囲である。
この3.0~25.0質量%の範囲とすることにより、インク組成物の吐出性、硬化性及び保存安定性をバランス良く維持することができる。
【0022】
<光増感剤>
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物には、さらに、発光ダイオード(LED)を光源とした紫外線に対する硬化性を促進するために、主に400nm以上の紫外線の波長域で光吸収特性を有し、その範囲の波長の光により硬化反応の増感機能が発現する光増感剤(化合物)を、重合開始剤と共に使用しても良い。
そのような光増感剤としては、アントラセン系光増感剤、チオキサントン系光増感剤等であり、好ましくは、チオキサントン系光増感剤である。これらは単独又は2種以上を用いることができる。
具体的には、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、9,10-ビス(2-エチルヘキシルオキシ)アントラセン等のアントラセン系光増感剤、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、2-イソプロピルチオキサンテン、4-イソプロピルチオキサンテン等のチオキサンテン系光増感剤を挙げることができる。市販品の代表例としては、アントラセン系光増感剤では、DBA、DEA(川崎化成工業社製)、チオキサントン系光増感剤では、DETX、ITX(Lambson社製)等が例示できる。
光増感剤の含有量は、好ましくは光重合性成分の総質量に対して0~8.0質量%の範囲である。8.0質量%を超えても、効果の向上が見られず、過剰添加となり好ましくない。
なお、光増感剤として、チオキサンテン系光増感剤を使用した場合は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を黄色に変色させる傾向があるため、顔料に基づく色(本来の色相)より黄味がかった色相になるので、色毎に、チオキサンテン系光増感剤の含有量を適宜決めることが好ましい。
具体的には、色味の変化の影響を受けやすいホワイトインク組成物及びクリアーインク組成物では、光増感剤として、チオキサンテン化合物は含まないようにすることが好ましい。また、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物では、色相の変化が問題となるので、色相に問題が生じない範囲で使用することが好ましい。また、ブラックインク組成物、及びイエローインク組成物は、変色があっても色相に影響しないのと、光重合性が他の色相より乏しいことから、光増感剤として、チオキサンテン系化合物を使用することが好ましい。
【0023】
<顔料分散剤>
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、必要に応じて顔料分散剤を含有していてもよい。
顔料分散剤は、顔料の分散性、本発明のインク組成物の保存安定性を向上させるために使用するもので、従来から使用されているものを特に制限なく使用できるが、その中でも高分子分散剤を使用することが好ましい。このような顔料分散剤としては、カルボジイミド系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤、脂肪酸アミン系分散剤、変性ポリアクリレート系分散剤、変性ポリウレタン系分散剤、多鎖型高分子非イオン系分散剤、高分子イオン活性剤等が挙げられる。これら顔料分散剤は単独で又は2種以上を混合して使用できる。
上記顔料分散剤は、使用する顔料の合計量を100質量部としたときに、1~200質量部含有することが好ましい。顔料分散剤の含有量が1質量部未満では、顔料分散性、本発明のインク組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。一方、200質量部を超えて含有させることもできるが効果に差がでない場合もある。顔料分散剤の含有量のより好ましい下限は5質量部、より好ましい上限は60質量部である。
【0024】
<界面活性剤>
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、使用するインクジェットヘッドに応じて、界面活性剤として従来から光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に使用されているシリコン系界面活性剤等の界面活性剤を、吐出安定性を改良するために含有することが好ましい。
シリコン系界面活性剤の具体例としては、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性メチルアルキルポリシロキサン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を併用して用いることができる。例えばレベリング剤であるBYK-315NやBYK-331を使用することができる。
本発明のインク組成物における界面活性剤の含有量は、好ましくは0.005~1.0質量%である。0.005質量%未満であると、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の表面張力が高くなり、インクジェットヘッドからの吐出安定性が低下する。一方、1.0質量%を超えると、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に泡が増加し吐出安定性が低下する。
【0025】
<添加剤>
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物には、必要に応じて種々の機能性を発現させるため、各種の添加剤を添加することができる。具体的には、重合禁止剤、光安定化剤、表面処理剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、可塑剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、保湿剤等が挙げられる。また、ビヒクルとして機能する硬化性ではない樹脂を配合しても良く、配合しなくても良い。加熱等により除去すべき溶媒を含有させても良いが、含有させなくてもよい。また金属キレート剤を含有させる必要はない。
【0026】
本発明のインク組成物を調製する方法としては特に限定されず、上記した材料を全て添加してビーズミルや3本ロールミル等で混合して調製することができる。
なお、顔料、顔料分散剤及び光重合性成分を混合することにより、予めコンクベースインクを得ておき、そのコンクベースインクに所望の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の組成となるように、光重合性成分、光重合開始剤、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を添加して調製することもできる。
本発明のインク組成物を印字する基材としては、床材、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等からなる基材が好ましいが、従来から光硬化型インクジェット印刷用インク組成物が印字される基材(紙、プラスチックフィルム、カプセル、ジェル、金属箔、ガラス、布等)であれば問題なく印字できる。
【0027】
本発明のインク組成物を印字、硬化する方法として、具体的には、本発明のインク組成物を低粘度用のインクジェット用インクジェットノズルにより基材に吐出した後、基材に着弾した本発明のインク組成物の塗膜を光で露光し硬化させる方法が挙げられる。
例えば、基材への吐出(画像の印字)は、本発明のインク組成物をインクジェット記録用プリンターの低粘度対応のインクジェットノズルに供給し、基材に対して塗膜の膜厚が、例えば、1~60μmとなるように該インク組成物をインクジェットノズルから吐出することにより行うことができる。また、光での露光、硬化(画像の硬化)は、画像として基材に塗布された本発明のインク組成物の塗膜に光を照射することにより行うことができる。
本発明のインク組成物を印字するインクジェット記録方式用プリンター装置としては、低粘度用のインクジェットノズルを備えるインクジェット記録方式用プリンター装置が利用できる。なお、コンティニュアスタイプのインクジェット記録方式用プリンター装置を用いる場合は、本発明のインク組成物にさらに導電性付与剤を加え電導度の調節をする。
上記塗膜の硬化における光源としては、紫外線(UV)、紫外線(発光ダイオード(LED))、電子線、可視光線等を挙げることができ、環境面から好ましくは発光ピーク波長が350~420nmの範囲の紫外線を発生する発光ダイオード(LED)である。
発光ダイオード(LED)を光源とした紫外線とは、「発光ピーク波長が350~420nmの範囲である紫外線を発生する、発光ダイオードから照射される光」とする。
【実施例
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0029】
<評価方法>
(粘度)
各実施例および比較例のインク組成物をE型粘度計(商品名:RE100L型粘度計、東機産業社製)を使用して、温度25℃、ローター回転速度20rpmの条件で粘度を測定した。
【0030】
(吐出安定性)
25℃の雰囲気温度下に、低粘度インク用のインクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置と、実施例及び比較例で得られた各インク組成物とを24時間置き、インクジェット記録装置およびインク組成物の温度を25℃とした。その後25℃で、各実施例および比較例のインク組成物を用いてPVC80(リンテック社製)上に連続的に印刷し、下記評価基準に従って評価した。
○:印刷の乱れがなく、安定して吐出できる
△:印刷の乱れが若干あるが、ほぼ安定して吐出できる
×:印刷の乱れがある、又は安定して吐出できない
【0031】
(タック性)
25℃の雰囲気温度下に、低粘度インク用のインクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置と、実施例及び比較例で得られた各インク組成物とを24時間置き、インクジェット記録装置およびインク組成物の温度を25℃とした。その後25℃で、各実施例および比較例のインク組成物を用いてPVC80(リンテック社製)上に印刷した後、フォセオン・テクノロジー社製UV-LED光ランプにて、ランプとインクの塗布面との距離2cm下で、UV積算光量180mJ/cmで硬化させた。この塗膜表面を指触し、その後の塗膜の状態を目視で確認し、下記評価基準に従って評価した。
○:塗膜に指紋が付着しない
△:塗膜に若干指紋が付着する
×:塗膜に指紋が付着する
【0032】
(基材密着性)
アクリル板(三菱ケミカル社製アクリライトL・S)に印刷した各実施例および比較例のインク組成物の硬化塗膜をカッターナイフでクロスカットし、カットした部分にセロハンテープ(製品名:セロテープ(登録商標)、ニチバン社製)を貼り、これを引き剥がした際の硬化塗膜の剥離具合を下記評価基準に従って評価した。
○:硬化塗膜の剥離率0%
△:硬化塗膜の剥離率20%未満
×:硬化塗膜の剥離率20%以上
【0033】
(耐折り曲げ性)
PETフィルム(東洋紡社製E5100)に印刷した各実施例および比較例のインク組成物の硬化塗膜を180度折り曲げて、割れの状態を目視で確認し、下記評価基準に従って評価した。
○:塗膜に細かなクラック等の割れが生じない
△:塗膜に細かなクラックが生じる
×:塗膜に明らかな亀裂が生じる
【0034】
(耐擦性)
PVC板(タキロンシーアイ社製T938)に印刷した各実施例および比較例のインク組成物の硬化塗膜を学振型堅牢度試験機(大栄科学精器製作所製)を用いて、晒し布で500g×100回擦った際の塗膜状態を目視で確認し、下記評価基準に従って評価した。
○:塗膜に変化なし
△:塗膜の表面に傷がある
×:塗膜の明らかな取られが見られる
【0035】
(耐溶剤性)
PVC板(タキロンシーアイ社製T938)に印刷した各実施例および比較例のインク組成物の硬化塗膜を学振型堅牢度試験機(大栄科学精器製作所製)を用いて、エタノールを含んだ晒し布で200g×10回擦った際の塗膜状態を目視で確認し、下記評価基準に従って評価した。
○:塗膜に変化なし
△:塗膜の表面に傷がある
×:塗膜の明らかな取られが見られる
【0036】
CN371:分子内に2個の光重合性官能基及び2個のアミノ基を有するアクリル化アミン化合物のオリゴマー(サートマー社製)
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド
DETX:2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン
BYK-315N:ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製)
D7110F:PB15:4(BASF社製)
RGT:PB122(DIC社製)
G01:ノバパームイエロー4G01(クラリアント社製)
MA7:カーボンブラック(三菱化学社製)
SS32000:ソルスパース32000(日本ルーブリゾール社製)
PB821:アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製)
【0037】
【表1A】
【表1B】
【0038】
本発明に沿った例である各実施例によれば、インク組成物の吐出安定性、塗膜のタック性、基材密着性、耐折り曲げ性、耐擦性、及び耐溶剤性に優れていた。
それに対して、エチレンオキサイド変性二官能モノマーの含有量が少なく、かつ単官能モノマーから共重合体を得た場合のTgが高い比較例1によれば、耐折り曲げ性、耐擦性及び耐溶剤性に劣る結果であった。
単官能モノマーから共重合体を得た場合のTgが低い比較例2によれば、タック性及び耐溶剤性に劣る結果であった。
単官能モノマーから共重合体を得た場合のTgが高い比較例3によれば、耐折り曲げ性に劣る結果であった。
エチレンオキサイド変性二官能モノマーの含有量が多く、かつ単官能モノマーから共重合体を得た場合のTgが高い比較例4によれば、基材密着性と耐折り曲げ性に劣る結果であった。
エチレンオキサイド変性二官能モノマーの含有量が本発明中の範囲内であるが、単官能モノマーの含有量が少ない比較例5によれば、基材密着性と耐折り曲げ性に劣る結果であった。
エチレンオキサイド変性二官能モノマーのTgが高い比較例6によれば、基材密着性と耐折り曲げ性に劣る結果であった。
エチレンオキサイド変性二官能モノマーを含有せず、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートを含有した比較例7によれば、基材密着性と耐折り曲げ性に劣る結果であった。