(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】光半導体素子用封止材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/42 20060101AFI20240612BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20240612BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240612BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240612BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20240612BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20240612BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20240612BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240612BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240612BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20240612BHJP
【FI】
C08G59/42
C08G59/24
C08L101/02
C08L63/00 A
C08L63/00 C
C08K5/3445
C08K5/524
C08K3/20
H01L23/30 F
H01L33/56
(21)【出願番号】P 2020088214
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】平川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】山本 康雄
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/094759(WO,A1)
【文献】特開2019-023316(JP,A)
【文献】特開2017-186483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59
C08L
C08K
H01L23/29
H01L33/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を2個以上有する化合物を少なくとも含むエポキシ化合物(A)と脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)との半硬化物(1)と、
前記エポキシ化合物(A)との反応性基を有するプラスチックからなる粒子であって、下記特性を有する粒子(C)とを含む、
粉末状又はタブレット状の光半導体素子用封止材。
<粒子(C)>
粒子径:0.01~10μm
波長587.56nmの光の屈折率:1.47~1.55
【請求項2】
粒子(C)の分解温度が200~300℃である、請求項1に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項3】
粒子(C)
を構成するプラスチックが、水酸基、カルボキシル基、及びアミノ基から選択される少なくとも1種の表面官能基を有するプラスチックである、請求項1又は2に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項4】
粒子(C)の含有量が、半硬化物(1)を構成するエポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)の合計100重量部に対して1~15重量部である、請求項1~3の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項5】
半硬化物(1)の硬化物の、波長587.56nmの光の屈折率が1.50~1.52である、請求項1~4の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項6】
イミダゾール化合物(D)と、下記式(e)
P(OH)s(OR’)
3-s (e)
(式中、R’は炭化水素基を示し、sは1~3の整数を示す)
で表される化合物(E)を含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項7】
化合物(E)の含有量が、イミダゾール化合物(D)1モルに対して、0.05~3.3モルである、請求項6に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項8】
イミダゾール化合物(D)の含有量が、半硬化物(1)を構成するエポキシ化合物(A)100重量部に対して0.01~0.5重量部である、請求項6又は7に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項9】
無機酸化物(G)を、半硬化物(1)を構成するエポキシ化合物(A)100重量部に対して0.05~3.0重量部含有する、請求項1~8の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項10】
前記エポキシ化合物(A)が下記式(a)で表される化合物を少なくとも含む、請求項1~9の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【化1】
(式中、Xは単結合又は連結基を示す)
【請求項11】
常温において、プローブタック試験による引き剥がし応力が0.01N/mm
2以下である、請求項1~10の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項12】
打錠成形用粉末である、請求項1~11の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項13】
粒子(C)を構成するプラスチックが、(メタ)アクリル酸重合体、及びスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体から選択される少なくとも1種である、請求項1~12の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材。
【請求項14】
下記工程1、2、及び3を経て、請求項1~13の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材を得る光半導体素子用封止材の製造方法。
工程1:脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を2個以上有する化合物を少なくとも含むエポキシ化合物(A)と脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)との半硬化物(1)を得る
工程2:半硬化物(1)を粉砕して、粉末状半硬化物(1)を得る
工程3:粉末状半硬化物(1)と粒子(C)を混合する
【請求項15】
さらに下記工程4を含む、請求項14に記載の光半導体素子用封止材の製造方法。
工程4:粉末状半硬化物(1)と粒子(C)の混合物を打錠成形する
【請求項16】
光半導体素子の間隙に、請求項1~13の何れか1項に記載の光半導体素子用封止材を充填し、加熱処理を施して、前記光半導体素子が
前記光半導体素子用封止材の硬化物で封止された構造を有する光半導体装置
を製造する、光半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光半導体素子の封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の屋内又は屋外表示板、画像読み取り用光源、交通信号、大型ディスプレイ用ユニット等においては、光半導体素子(例えば、LED素子)を光源とする光半導体装置の採用が進んでいる。このような光半導体装置は、一般に、基板上に光半導体素子が搭載され、さらに前記光半導体素子が透明な封止材で封止された構造を有する。
【0003】
前記封止材を形成する樹脂組成物としては、透明性、耐湿性、耐熱性に優れるエポキシ樹脂組成物が多く使用されている。そして、前記エポキシ樹脂組成物のなかでも、大量生産する場合に使用しやすい点から、Bステージのエポキシ樹脂組成物の使用が増えている。
【0004】
トランスファー成形機を使用して光半導体素子の封止を行う場合、Bステージのエポキシ樹脂組成物の粉末を金型に充填し、打錠機で圧縮して、タブレット状に成形したもの(すなわち、打錠成形体)を使用することが多い。
【0005】
しかし、打錠成形体を金型から取り出す際に、前記成形体にクラックや欠けが生じて、歩留まりが低下することが問題であった。これは、Bステージのエポキシ樹脂組成物は滑りが悪いためである。この歩留まりの低下は、金型の口径が小さい場合により顕著であった。
【0006】
従来は、前記問題の解決手段として、Bステージのエポキシ樹脂組成物に離型剤を添加して、滑りを良くする方法が採られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、Bステージのエポキシ樹脂組成物に、金型からタブレットを破損することなく取り出すのに十分な量の離型剤を添加すると、得られる硬化物の透明性が低下することで、光半導体素子の光取り出し効率が低下して、製品の性能が損なわれることが分かった。
【0009】
従って、本開示の目的は、歩留まり良く打錠成形することができ、透明性に優れた硬化物を形成することができる光半導体素子用封止材を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記封止材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のエポキシ化合物とカルボン酸無水物との半硬化物に、粒子径が小さく、且つ前記半硬化物の屈折率に近似した屈折率を有する粒子(C)を配合すると、透明性を損なうことなく、金型からの取り出し易さを向上できることを見いだした。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本開示は、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を2個以上有する化合物を少なくとも含むエポキシ化合物(A)と脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)との半硬化物(1)と、下記特性を有する粒子(C)とを含む、光半導体素子用封止材を提供する。
<粒子(C)>
粒子径:0.01~10μm
波長587.56nmの光の屈折率:1.47~1.55
【0012】
本開示は、また、粒子(C)の分解温度が200~300℃である前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0013】
本開示は、また、粒子(C)が、水酸基、カルボキシル基、及びアミノ基から選択される少なくとも1種の表面官能基を有するプラスチックである、前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0014】
本開示は、また、粒子(C)の含有量が、半硬化物(1)を構成するエポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)の合計100重量部に対して1~15重量部である、前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0015】
本開示は、また、半硬化物(1)の硬化物の、波長587.56nmの光の屈折率が1.50~1.52である、前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0016】
本開示は、また、イミダゾール化合物(D)と、下記式(e)
P(OH)s(OR’)3-s (e)
(式中、R’は炭化水素基を示し、sは1~3の整数を示す)
で表される化合物(E)を含有する前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0017】
本開示は、また、化合物(E)の含有量が、イミダゾール化合物(D)1モルに対して、0.05~3.3モルである前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0018】
本開示は、また、イミダゾール化合物(D)の含有量が、半硬化物(1)を構成するエポキシ化合物(A)100重量部に対して0.01~0.5重量部である前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0019】
本開示は、また、無機酸化物(G)を、半硬化物(1)を構成するエポキシ化合物(A)100重量部に対して0.05~3.0重量部含有する前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0020】
本開示は、また、前記エポキシ化合物(A)が下記式(a)で表される化合物を少なくとも含む前記光半導体素子用封止材を提供する。
【化1】
(式中、Xは単結合又は連結基を示す)
【0021】
本開示は、また、常温において、プローブタック試験による引き剥がし応力が0.01N/mm2以下である前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0022】
本開示は、また、打錠成形用粉末である前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0023】
本開示は、また、タブレット状である前記光半導体素子用封止材を提供する。
【0024】
本開示は、また、下記工程1、2、及び3を経て、前記光半導体素子用封止材を得る光半導体素子用封止材の製造方法を提供する。
工程1:脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を2個以上有する化合物を少なくとも含むエポキシ化合物(A)と脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)との半硬化物(1)を得る
工程2:半硬化物(1)を粉砕して、粉末状半硬化物(1)を得る
工程3:粉末状半硬化物(1)と粒子(C)を混合する
【0025】
本開示は、また、さらに下記工程4を含む前記光半導体素子用封止材の製造方法を提供する。
工程4:粉末状半硬化物(1)と粒子(C)の混合物を打錠成形する
【0026】
本開示は、また、光半導体素子が、前記光半導体素子用封止材の硬化物で封止された構造を有する光半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本開示の光半導体素子用封止材は、常温において固体を呈し、タックフリーである。そのため、粉砕性及び打錠性に優れる。
更に、前記光半導体素子用封止材は低摩擦である。そのため、前記光半導体素子用封止材を金型内で圧縮成形して得られた打錠成形体は、欠けやクラックが生ずることなく、前記金型から取り出すことができる。
また、前記光半導体素子用封止材は、加熱により軟化若しくは可塑化して易成形性を発現し、更に加熱すると硬化物を形成する。このようにして得られる硬化物は透明性、耐熱性、耐湿性、及び耐クラック性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[光半導体素子用封止材]
本開示の光半導体素子用封止材は、下記半硬化物(1)と下記粒子(C)とを含む。
半硬化物(1):脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を2個以上有する化合物を少なくとも含むエポキシ化合物(A)と脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)との半硬化物
粒子(C):下記特性を有する粒子
粒子径0.01~10μm
波長587.56nmの光の屈折率1.47~1.55
【0029】
前記光半導体素子用封止材は、前記半硬化物(1)と粒子(C)以外にも他の成分を含有していても良いが、他の成分の含有量は、光半導体素子用封止材全量の例えば50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。
【0030】
前記光半導体素子用封止材の形状は、特に限定されず、例えば、粉末状、タブレット状等が挙げられる。
【0031】
前記光半導体素子用封止材は、常温においてタックフリーである。そして、加熱により軟化若しくは可塑化して易成形性を発現し、更に加熱すると硬化物を形成する。このようにして得られる硬化物は透明性に優れ、波長450nmの光線透過率は、例えば80%以上、好ましくは82%以上、特に好ましくは84%以上である。波長660nmの光線透過率は、例えば90%以上である。
【0032】
(半硬化物(1))
半硬化物(1)は、エポキシ化合物(A)と脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)との半硬化物である。
【0033】
前記半硬化物(1)は、好ましくは、常温においてタックフリーの半硬化物である。
【0034】
本明細書において、半硬化物(=Bステージ;JIS K 6800:1985に準拠)とは、熱硬化性樹脂の硬化中間状態の化合物であり、主に2次元構造を有する。そして、半硬化物は、加熱により軟化若しくは可塑化する性質を有し、更に加熱すると3次元架橋構造を有する硬化物(Cステージ)を形成する。尚、前記硬化物(Cステージ)は、加熱しても再び軟化若しくは可塑化することはない。
【0035】
また、本明細書において「常温」とは20℃±15℃の範囲(=5~35℃の範囲)であり、「常温において固体」とは、5~35℃の範囲の少なくとも1点において固体を呈することを示す。また、「常温においてタックフリー」とは、5~35℃の範囲の少なくとも1点においてタックフリーであることを示す。
更に、本明細書において「タックフリー」とは、粘着性を有しない状態であり、プローブタック試験における引き剥がし応力は、例えば0.01N/mm2以下、好ましくは0.001N/mm2以下、特に好ましくはゼロN/mm2である。前記引き剥がし応力は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0036】
前記半硬化物(1)の硬化物(Cステージ)は透明性に優れ、波長587.56nmの光の屈折率(JISK7142に準拠)は、例えば1.50~1.52である。
【0037】
(エポキシ化合物(A))
前記エポキシ化合物(A)は、1分子内に脂環式エポキシ基を2個以上有する化合物、すなわち多官能脂環式エポキシ化合物、を少なくとも含む。
【0038】
前記脂環式エポキシ基としては、例えば、シクロヘキセンオキシド基が挙げられる。従って、前記多官能脂環式エポキシ化合物は、好ましくは、1分子内にシクロヘキセンオキシド基を2個以上含有する化合物である。
【0039】
前記多官能脂環式エポキシ化合物としては、なかでも、下記式(a)で表される化合物が、カルボン酸無水物(B)(後に詳細を述べる)との付加反応が、低温で緩やかに進行して、タックフリーな半硬化物が得られる点、及び透明性、耐熱性、機械強度に優れた硬化物が得られる点で好ましい。
【化2】
【0040】
上記式(a)中、Xは単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0041】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~18の二価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。炭素数3~18の二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基等が挙げられる。
【0042】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0043】
上記式(a)で表される化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本開示においては、なかでも、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレートを使用することが、打錠性に優れた半硬化物が得られる点で特に好ましい。
【0044】
前記エポキシ化合物(A)は、上記多官能脂環式エポキシ化合物以外にも他のエポキシ化合物を1種又は2種以上含有していてもよい。
【0045】
前記他のエポキシ化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
[1] 単官能脂環式エポキシ化合物
[2] 脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物
[3] グリシジルエーテル基を有する化合物
【0046】
前記[1]は脂環式エポキシ基を1分子中に1個有する化合物であり、例えば、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、α-リモネンジエポキシド等が挙げられる。
【0047】
前記[2]としては、例えば、下記式(a’)で表される化合物等が挙げられる。
【化3】
【0048】
式(a’)中、Rは、p価のアルコールの構造式からp個の水酸基(-OH)を除いた基(p価の有機基)であり、p、nはそれぞれ自然数を表す。p価のアルコール[R(OH)p]としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール(炭素数1~15の多価アルコール等)等が挙げられる。pは1~6が好ましく、nは1~30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの[ ]内(外側の角括弧内)の基におけるnは同一でもよく異なっていてもよい。上記式(a')で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。
【0049】
前記[3]としては、例えば、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等)のグリシジルエーテル;脂環式アルコール(例えば、水添ビスフェノール類)のグリシジルエーテル;脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール等の二価のアルコール;グリセリン、エリスリトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の三価以上の多価アルコール等)のグリシジルエーテル;カルボン酸(例えば、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、マレイン酸等)のグリシジルエステル;ポリオレフィン(例えば、ポリブタジエン等)のエポキシ化物などが挙げられる。
【0050】
他のエポキシ化合物の使用量(2種以上使用する場合はその総量)は、エポキシ化合物(A)全量の例えば30重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0051】
(カルボン酸無水物(B))
前記カルボン酸無水物(B)は脂環骨格を有するカルボン酸無水物であり、エポキシ樹脂用硬化剤として公知乃至慣用の酸無水物系硬化剤が挙げられる。
【0052】
前記カルボン酸無水物(B)としては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、シクロヘキサン-1,2,4-トリカルボン酸-1,2-無水物、ドデセニル無水コハク酸、無水コハク酸、水素化無水ピロメリット酸、水素化ビフェニル二無水物、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
本開示においては、例えば、商品名「リカシッドMH-700」、「リカシッドMH-700F」、「リカシッドMH-700G」、「リカシッドTH」、「リカシッドHH」、「リカシッドHNA-100」(以上、新日本理化(株)製);商品名「HN-5500」(日立化成工業(株)製);商品名「H-TMAn-S」、「H-TMAn」(以上、三菱ガス化学(株)製);商品名「YH1120」(三菱化学(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0054】
カルボン酸無水物(B)の使用量は、エポキシ化合物(A)1当量に対して、例えば0.5~3.0当量であり、好ましくは0.5~2.0当量、特に好ましくは0.7~1.5当量、最も好ましくは0.7~1.2当量である。カルボン酸無水物(B)の使用量が上記範囲を下回ると、色相に優れた硬化物を得ることが困難となる傾向がある。一方、カルボン酸無水物(B)の使用量が上記範囲を上回ると、湿気の影響を受けやすくなり、保存安定性が低下する傾向がある。
【0055】
(その他の成分)
前記半硬化物(1)は、上記成分以外にも他の成分を1種又は2種以上含有していてもよい。他の成分としては、例えば、硬化促進剤、離型剤、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、界面活性剤、難燃剤、着色剤、イオン吸着体等が挙げられる。
【0056】
(硬化促進剤)
前記硬化促進剤は、エポキシ化合物の硬化反応を促進する化合物であり、例えば、イミダゾール化合物、第4級ホスホニウム塩、アミン化合物、有機リン化合物(例えば、トリフェニルホスフィン等)、無機酸化物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
前記硬化促進剤としては、なかでも、イミダゾール化合物、第4級ホスホニウム塩、及び無機酸化物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、とりわけイミダゾール化合物が封止材に保存安定性を付与することができる点において好ましい。
【0058】
(イミダゾール化合物(D))
イミダゾール化合物(D)としては、例えば、下記式(d)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
(式中、R
1~R
4は同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を示す)
【0059】
R1~R4における炭化水素基には、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0060】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、オクタデシル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0061】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~10アリール基が挙げられる。
【0062】
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基等の炭素数7~15アラルキル基等が挙げられる。
【0063】
前記炭化水素基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、シアノ基等が挙げられる。
【0064】
イミダゾール化合物(D)としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-アミノメチル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
イミダゾール化合物(D)の使用量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して0.01~0.5重量部、好ましくは0.02~0.2重量部である。
【0066】
封止材がイミダゾール化合物(D)を前記範囲で含有すると、保存性安定性が向上する効果が得られる。更に、着色を抑制し、色相に優れた硬化物が得られる傾向がある。
【0067】
(化合物(E))
イミダゾール化合物(D)を使用する場合は、下記式(e)で表される化合物(=化合物(E))を併用することが、保存安定性を向上する効果が得られる点で好ましい。
P(OH)s(OR’)3-s (e)
(式中、R’は炭化水素基を示し、sは1~3の整数を示す)
【0068】
化合物(E)には、亜リン酸、亜リン酸モノエステル、及び亜リン酸ジエステルから選択される少なくとも1種が含まれる。
【0069】
R’における炭化水素基は1価の炭化水素基であり、1価の脂肪族炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基、及びこれらが結合した1価の基が含まれる。
【0070】
1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数1~20程度のアルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、オレイル基等の炭素数2~20程度のアルケニル基等が挙げられる。
【0071】
1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0072】
1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のC6-14(特に、C6-10)芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0073】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した1価の炭化水素基には、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基等のシクロアルキル置換アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル置換C1-4アルキル基等)等が含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基等)、アルキル置換アリール基(例えば、トリル基等の、1~4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基)等が含まれる。
【0074】
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0075】
化合物(E)としては、例えば、亜リン酸;亜リン酸モノメチル、亜リン酸モノエチル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸モノラウリル、亜リン酸モノオレイル、亜リン酸モノフェニル、亜リン酸モノナフチル等の亜リン酸モノエステル;亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジラウリル、亜リン酸ジオレイル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジナフチル、亜リン酸ジ-o-トリル、亜リン酸ジ-m-トリル、亜リン酸ジ-p-トリルや、亜リン酸ジ-p-クロロフェニル、亜リン酸ジ-p-ブロモフェニル、亜リン酸ジ-p-フルオロフェニル等の亜リン酸ジエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0076】
化合物(E)の使用量は、イミダゾール化合物(D)1モルに対して例えば0.05~3.3モルである。
【0077】
イミダゾール化合物(D)と化合物(E)の混合物として、例えば、商品名「フジキュア-7000」((株)T&K TOKA製)を使用することができる。
【0078】
(第4級ホスホニウム塩(F))
前記第4級ホスホニウム塩(F)としては、下記式(f)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(式中、R
5~R
8は同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数2~10のアルケニル基を示す。X
-はハロゲンイオン、アセテート、又はジメチルホスフェートアニオンを示す)
【0079】
前記第4級ホスホニウム塩(F)はカルボン酸無水物(B)の潜在性硬化触媒として作用することで、硬化反応を促進する。前記第4級ホスホニウム塩(F)の使用量は、カルボン酸無水物(B)100重量部に対して、例えば0.5~10重量部、好ましくは1~5重量部である。
【0080】
(無機酸化物(G))
無機酸化物(G)(粒子(C)は含まれない)は、エポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)との硬化反応を、得られる半硬化物(1)の保存安定性が損なわれない範囲において促進する作用を発揮する。これにより、速やかにタックフリーな半硬化物(1)が得られる。
【0081】
前記効果は、前記無機酸化物(G)の表面に存在する多数の水酸基が、脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)の酸無水物基を開いてカルボキシル基を形成し、形成されたカルボキシル基が前記エポキシ化合物(A)のエポキシ基と反応することにより、前記(A)と(B)との混合物の表面のみならず、内部や底部まで硬化反応が速やかに進行することによる。
【0082】
前記無機酸化物(G)としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、タルク、マイカ、酸化チタン、珪藻土等が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0083】
また、無機酸化物(G)は、その表面に水酸基とともに表面修飾基を有してしてもよい。
【0084】
前記無機酸化物(G)としては、なかでも、熱伝導性に優れるものを使用することが、光半導体素子への熱の影響を最小限に抑えることができる点で好ましい。
【0085】
前記無機酸化物(G)としては、なかでも、球形のものを使用することが、良好な流動性を有し、充填性に優れた樹脂組成物が得られる点で好ましい。
【0086】
前記無機酸化物(G)としては、約450nmの光の透過性が優れることが好ましい。従って、前記無機酸化物(G)の平均一次粒子径は、例えば7~40nmの範囲であることが好ましく、特に好ましくは10~20nmである。尚、本明細書における粒子径は、電子顕微鏡写真から直接求める値である。すなわち、前記粒子径は、画像解析法により求められる値である。
【0087】
従って、前記無機酸化物(G)としてはシリカが好ましく、特にフュームドシリカ(=微細シリカ)が好ましく、とりわけ、表面処理剤で疎水性が付与されることによって、表面を覆うシラノール基が適度に低減された疎水性フュームドシリカが好ましい。
【0088】
前記無機酸化物(G)(特に、疎水性フュームドシリカ)としては、例えば、商品名「AEROSIL R202」、「AEROSIL R106」、「AEROSIL R709」(以上、日本アエロジル(株)製)等を好適に使用することができる。
【0089】
前記無機酸化物(G)(好ましくは、疎水性フュームドシリカ)の使用量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、例えば0.05~3.0重量部、好ましくは0.05~1.0重量部、特に好ましくは0.1~1.0重量部である。
【0090】
(可塑剤(H))
前記可塑剤(H)としては、例えば、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールのなかでも、脂肪族多価アルコールが好ましく、特に3価以上の脂肪族多価アルコールが好ましい。
【0091】
前記多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ソルビトール、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0092】
可塑剤(H)(例えば、多価アルコール)の使用量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、例えば5~30重量部、好ましくは10~20重量部である。
【0093】
(離型剤(I))
離型剤(I)としては、例えば、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の長鎖カルボン酸(好ましくは炭素数15以上、特に好ましくは炭素数15~30の直鎖(飽和)脂肪族カルボン酸)又はその金属塩;ステアリルアルコール等の高級アルコール;ステアリルビスアマイド等のアミド;カルナバワックス、リン酸エステル等のエステル;パラフィン;ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0094】
離型剤(I)の使用量は、エポキシ化合物(A)100重量部に対して、例えば1~8重量部、好ましくは2~6重量部である。本開示の光半導体素子用封止材が離型剤を前記範囲で含有すると、硬化物の透明性を維持しつつ、前記封止材の滑り性を改善することができ、前記封止材の打錠成形体を打錠機から容易に押し出すことができる点で好ましい。
【0095】
(粒子(C))
本開示の光半導体素子用封止材は粒子(C)を含有する。そのため、前記光半導体素子用封止材は、低摩擦で滑り性に優れ、前記封止材を金型内で圧縮成形して得られた成形体は、欠けやクラックが生ずることなく、前記金型から取り出すことができる。
【0096】
粒子(C)の形状は、特に限定されないが、例えば、球状(真球状、略真球状、楕円球状など)、多面体状、棒状(円柱状、角柱状など)、平板状、りん片状、不定形状等が挙げられる。なかでも、前記封止材の摩擦を低減する効果に優れる点において、球状(真球状、略真球状、楕円球状など)が好ましい。
【0097】
粒子(C)の粒子径(好ましくは、平均粒子径)は0.01~10μmの範囲であり、なかでも、透明性を損なうことなく、前記封止材の摩擦を低減することができる点で、0.01μmを越え、1μm未満の範囲であることが好ましい。尚、粒子(C)の平均粒子径は光散乱法によって測定することができる。
【0098】
粒子(C)の、波長587.56nmの光の屈折率(JISK7142に準拠)は、1.47~1.55である。粒子(C)の屈折率は、前記光半導体素子用封止材から粒子(C)を除去した組成物の硬化物(若しくは、半硬化物(1)の硬化物(Cステージ))の屈折率に近似している。粒子(C)の屈折率と前記硬化物の屈折率の差は、例えば±0.2以下、好ましくは±0.1以下、特に好ましくは±0.05以下である。そのため、得られる硬化物は透明性に優れる。
【0099】
粒子(C)は、その表面にエポキシ化合物(A)との反応性基(例えば、水酸基、カルボキシル基、及びアミノ基から選択される少なくとも1種の基が挙げられる。なかでもカルボキシル基が好ましい)を有することが好ましい。それは、前記反応性基を有する粒子(C)を使用すれば、前記反応性基がエポキシ化合物と反応することで、エポキシ化合物と粒子(C)との境界がなくなり、得られる硬化物の透明性がより一層高められるためである。
【0100】
粒子(C)の分解温度は、例えば200~300℃であり、好ましくは250~300℃である。尚、粒子(C)の分解温度は熱重量測定法(TG)によって測定することができる。
【0101】
粒子(C)を構成する材料としては、例えば、(メタ)アクリル酸重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等のプラスチックが挙げられる。
【0102】
粒子(C)の使用量は、前記光半導体素子用封止材全量の、例えば0.1~20重量%、好ましくは1~15重量%、特に好ましくは3~10重量%、最も好ましくは5~8重量%である。
【0103】
また、粒子(C)の使用量は、半硬化物(1)を構成する、エポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)の合計100重量部に対して、例えば1~15重量部、好ましくは3~10重量部、特に好ましくは6~10重量部である。
【0104】
[光半導体素子用封止材の製造方法]
本開示の光半導体素子用封止材は、例えば、下記工程1、2、及び3を経て製造することができる。
工程1:脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を2個以上有する化合物を少なくとも含むエポキシ化合物(A)と脂環骨格を有するカルボン酸無水物(B)との半硬化物(1)を得る
工程2:半硬化物(1)を粉砕して、粉末状半硬化物(1)を得る
工程3:粉末状半硬化物(1)と粒子(C)を混合する
【0105】
本開示の光半導体素子用封止材の製造方法は、さらに下記工程4を含んでいてもよい。
工程4:粉末状半硬化物(1)と粒子(C)の混合物を打錠成形する
【0106】
(工程1)
工程1は、エポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)との半硬化物(1)を得る工程である。
【0107】
エポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)の反応は、硬化促進剤の存在下で行うことが好ましい。
【0108】
前記エポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)の反応は、硬化促進剤としてのイミダゾール化合物(D)と化合物(E)の存在下で行うことが好ましい。イミダゾール化合物(D)と化合物(E)の存在下で前記反応を行えば、エポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)が半硬化状態となるまでの硬化反応を効率よく進行させることができ、半硬化物(1)を形成するのに要する時間を短縮する効果が得られる。
【0109】
また、前記エポキシ化合物(A)と前記カルボン酸無水物(B)の反応は、硬化促進剤としての無機酸化物(G)の存在下で行うことが好ましい。これにより、エポキシ化合物(A)とカルボン酸無水物(B)との反応が促進され、速やかにタックフリーな半硬化物(1)を形成することができる。そして、得られる半硬化物(1)は保存安定性が良好である。
【0110】
前記エポキシ化合物(A)と前記カルボン酸無水物(B)との反応温度は、例えば70℃程度である。前記エポキシ化合物(A)と前記カルボン酸無水物(B)の反応時間は、例えば1~4時間程度である。その後、反応温度を50~60℃に低下させ、例えば8~20時間程度反応させるのが好ましい。
【0111】
また、可塑剤(例えば、多価アルコール)を添加する場合は、本工程において添加することが好ましい。
【0112】
工程1を経て、常温においてタックフリーの半硬化物(1)が得られる。
【0113】
(工程2)
工程2は、半硬化物(1)を粉砕して、粉末状半硬化物(1)を得る工程である。粉砕処理に付す前には、半硬化物(1)を常温以下(例えば25℃以下、好ましくは10℃以下、特に好ましくは5℃以下)の温度で冷却することが、作業性を向上する上で好ましい。
【0114】
粉末状半硬化物(1)の粉砕は、例えば平均粒子径が3mm以下となる程度である。
【0115】
(工程3)
工程3は、粉末状半硬化物(1)と粒子(C)を混合する工程である。
【0116】
粉末状の光半導体素子用封止材の平均粒子径は、例えば0.5~1.5mmの範囲が好ましく、最大粒子径は例えば3mm以下が好ましい。粒子径が小さすぎると空気や湿気の影響を受けやすくなり、保存安定性が低下する傾向がある。一方、粒子径が大きすぎると、打錠性が低下する傾向がある。
【0117】
酸化防止剤、離型材、硬化促進剤のなかでも第4級ホスホニウム塩(F)を添加する場合は、本工程において添加することが好ましい。
【0118】
前記混合処理は、例えば50~100℃の温度条件下で行うことが、均一に粒子(C)を混合できる点で好ましい。混合操作には、例えば、ディゾルバー、ホモジナイザー等の各種ミキサー、ニーダー、ロール、ビーズミル、自公転式撹拌装置等の公知乃至慣用の混練手段を使用できる。
【0119】
混合処理後は、必要に応じて、混合物を常温以下の温度で冷却し、粉砕処理を施すことができる。
【0120】
本工程を経て得られる粉末状半硬化物(1)と粒子(C)の混合物は、光半導体素子用封止材(好ましくは、粉末状の光半導体素子用封止材)或いは、光半導体素子封止用の打錠成形体を製造する用途に使用する粉末として有用である。特に光半導体素子用封止材の打錠成形体を所望する場合には、本工程で得られた光半導体素子用封止材を、下記工程4に付せば良い。
【0121】
(工程4)
工程4は、粉末状半硬化物(1)と粒子(C)の混合物を打錠成形する工程である。本工程を経て、光半導体素子用封止材の打錠成形体が得られる。
【0122】
前記打錠成形の方法としては、特に制限がなく周知慣用の方法を採用できる。例えば、打錠金型を利用して、圧縮成形する方法が挙げられる。
【0123】
本工程を経て得られた打錠成形体(例えば、タブレット状に成形された光半導体素子用封止材)は、室温においてタックフリーである。また、低摩擦で滑り性に優れる。そのため打錠金型から取り出しやすく、打錠金型から取り出す際に、打錠成形体にクラックや欠けが生じることがない。また、保存安定性に優れる。そして、前記打錠成形体を、特に-40℃以下の温度で保存すれば、より一層保存安定性を向上する効果が得られる。
【0124】
前記打錠成形体は、加熱することによって軟化若しくは可塑化して、優れた流動性や間隙充填性を発現し、更に加熱することによって速やかに硬化物(Cステージ)を形成する。
【0125】
このようにして得られた硬化物(Cステージ)は透明性に優れる。さらに前記硬化物は、耐熱性及び耐クラック性にも優れる。
【0126】
従って、前記打錠成形体は、光半導体素子(例えば、LED素子)の封止用に好適に使用することができる。
【0127】
[光半導体装置]
本開示の光半導体装置は、光半導体素子(例えば、有機EL素子)が、上記光半導体素子用封止材の硬化物で封止された構造を有する。
【0128】
前記光半導体装置は、例えば、通常のトランスファー成形や注型等の各種モールド方法を用いて光半導体素子を封止することにより製造することができる。
【0129】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例】
【0130】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0131】
実施例1
フラスコに、MH-700Gを45.7重量部、グリセリンを5.7重量部、フュームドシリカを0.2重量部入れて100℃で撹拌した。
液温を70℃まで冷却後、セロキサイド2021Pを38.1重量部、及びフジキュア-7000を0.05重量部加えて、1時間撹拌した。
混合液をトレーに移し、常温まで冷却し、その後50℃で10時間ポストキュアを行った。これにより、半硬化物(1-1)を得た。得られた半硬化物(1-1)は、25℃においてタックフリー(=引き剥がし応力は、ゼロN/mm2)であった。
【0132】
尚、前記半硬化物(1-1)の粘着性は、25℃において、テクスチャーアナライザーTA・XTPlus(英弘精機株式会社製)を使用し、下記条件下にプローブタック試験を行って引き剥がし応力(N/mm2)を測定した。
(プローブタック試験の測定条件)
プローブ材:SUS
プローブ径:直径5mm
押し付けスピード:1mm/s
押し付け荷重:100gf
保持時間:3s
引き上げスピード:0.3mm/s
【0133】
得られた半硬化物(1-1)を5℃まで冷却し、その後、粉砕して、平均粒子径が1mm、最大粒子径が3mmの粉末状半硬化物(1)を得た。
【0134】
粉末状半硬化物(1)を、庫内温度を60℃に設定したニーダーに仕込み、さらに、PX-4MPを1.35重量部、JPE-10を0.9重量部、ステアリン酸を1.8重量部、粒子(C)g1を4.5重量部加え、均一に撹拌して組成物(1)を得た。
【0135】
得られた組成物(1)を粉砕機で粉砕して、粉末状組成物(1)を得た。
【0136】
前記と同様の方法で半硬化物(1-1)を調製した。そして、得られた半硬化物(1-1)を、150℃×3時間の条件で加熱して、硬化物(Cステージ)を得た。
前記硬化物(Cステージ)の、波長587.56nmの光の屈折率を、JISK7142に準拠した方法で測定したところ、前記光の屈折率は1.51であった。
【0137】
実施例2、比較例1、2
処方を下記表1(単位は重量部)に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状樹脂組成物を得た。
【0138】
【0139】
実施例及び比較例で使用の化合物について以下に説明する。
セロキサイド2021P:多官能脂環式エポキシ化合物、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、(株)ダイセル製
MH-700G:カルボン酸無水物、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30、商品名「リカシッド MH-700G」、新日本理化(株)製
グリセリン:多価アルコール
フジキュア-7000:イミダゾール化合物と亜リン酸エステルの混合物、亜リン酸エステルを、イミダゾール化合物1モルに対して0.05~3.3モルの範囲で含む、(株)T&K TOKA製
フュームドシリカ:ポリジメチルシロキサンで修飾された、疎水性フュームドシリカ、平均一次粒子径14nm、日本アエロジル(株)製
PX-4MP:硬化促進剤、トリ-n-ブチルメチルホスホニウム ジメチルホスホネート、日本化学工業(株)製
JPE-10:酸化防止剤、城北化学工業(株)製
ステアリン酸:離型剤
フィラーg1:アクリル樹脂からなる粒子、平均粒子径:3.0μm、波長587.56nmの光の屈折率:1.49、分解温度:290~300℃、綜研化学(株)製
フィラーg2:スチレン・アクリル樹脂からなる粒子、平均粒子径:1.0μm以下、波長587.56nmの光の屈折率1.51、表面官能基:カルボキシル基、分解温度:290~300℃、日本ペイント・インダストリアルコーティングス(株)製
【0140】
実施例及び比較例で得られた粉末状組成物を、凹部直径が13mm、16mm、又は29mmの金型(SKD11、焼き入れHRD58~60、硬質クロムめっき)に充填し、手動のプレス機(高級油圧成形プレス、(株)清水製作所製)を用い、プレス圧70MPaで圧縮して打錠成形を行い、下記基準で打錠適性を評価した。
評価基準
○(良好):打錠可能であり、打錠後に金型から取り出されたタブレットの外観は良好
×(不良):打錠不可、或いは打錠可能であっても、金型からの取り出し不可、又は金型からの取り出しによりタブレットが破壊
【0141】
また、実施例及び比較例で得られた粉末状組成物をトランスファー成形(成形条件:150℃×5分間)し、さらに、150℃×3時間の条件でアフターキュアーすることにより硬化物(厚さ×縦×横=1mm×30mm×30mm)を得、得られた硬化物の光線透過率を測定した。
尚、光線透過率は分光光度計(島津製作所社製、UV-2450)を用いて波長450nm、660nmを測定した。
【0142】
【0143】
表2より、硬化物の透明性を維持できる程度の量の離型剤を添加した粉末状組成物は、大口径の金型を用いて打錠した場合にはタブレットを破損すること無く取り出すことができたが、口径が小さい金型では、破損すること無くタブレットを取り出すことはできなかった。
しかし、粒子(C)を添加した粉末状組成物では、口径が小さい金型でもタブレットを破損することなく取り出すことができた。
また、実施例2の光線透過率が比較例1に近似していることから、より粒径が小さい粒子(C)、或いは表面官能基を持つ粒子(C)を添加した場合は、口径が小さい金型でもタタブレットを容易に取り出すことができる上、特に優れた透明性を有する硬化物が得られることがわかる。