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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】静電噴霧装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/025 20060101AFI20240612BHJP
   B05B 5/08 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B05B5/025 A
B05B5/025 F
B05B5/08 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020088941
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021183305
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390028495
【氏名又は名称】アネスト岩田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和昭
(72)【発明者】
【氏名】山中 大輝
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 義基
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131961(JP,A)
【文献】特開2017-012983(JP,A)
【文献】特開2017-087124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/025
B05B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴霧部と、前記液体噴霧部に対して異極となる異極部との間に電圧を印加して発生する静電気力によって液体を帯電状態で前記液体噴霧部から離脱させて霧化を行い、異極部である被塗物に霧化液体を噴霧するエレクトロスプレー法による静電噴霧装置であって、
導電性材料又は半導電性材料から形成され、少なくとも前記液体噴霧部と前記異極部との間に電圧を印加することにより帯電し、前記液体噴霧部と前記異極部の間に生じる電界に影響を与える電界調整電極と、
一定電圧以上の電圧が印加されることにより流れる電流が急増する電圧-電流特性を持ち、前記電界調整電極と前記被塗物の間に電気的に接続されていることで前記電界調整電極の電位を一定電位以下に保つ素子と、を備え
前記素子がバリスタである、ことを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項2】
ノズルを有する液体噴霧部と、前記液体噴霧部に対して異極となる異極部との間に電圧を印加して発生する静電気力によって液体を帯電状態で前記液体噴霧部から離脱させて霧化を行い、異極部である被塗物に霧化液体を噴霧するエレクトロスプレー法による静電噴霧装置であって、
導電性材料から形成される放電電極と、
導電性材料又は半導電性材料から形成され、少なくとも前記放電電極からの放電により帯電し、前記液体噴霧部と前記異極部の間に生じる電界に影響を与える電界調整電極と、
一定電圧以上の電圧が印加されることにより流れる電流が急増する電圧-電流特性を持ち、前記電界調整電極と前記被塗物の間に電気的に接続されていることで前記電界調整電極の電位を一定電位以下に保つ素子と、を備えることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項3】
前記放電電極が、前記ノズルの先端外周近傍に配置され前記液体噴霧部と同電位であることを特徴とする請求項2に記載の静電噴霧装置。
【請求項4】
前記素子がバリスタである、
請求項2又は請求項3に記載の静電噴霧装置。
【請求項5】
前記放電電極が、前記放電電極が配置されていない状態のときに前記ノズルの前方側近傍に現れる前記ノズルの中心軸を含む平面上での等電位曲線の状態に対し、少なくとも前記等電位曲線の一部をより緩やかな湾曲を描く等電位曲線の状態とする形状とされていることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の静電噴霧装置。
【請求項6】
前記放電電極が、前記液体噴霧部に取付けられていることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の静電噴霧装置。
【請求項7】
前記放電電極が、前記ノズルに沿って配置位置が変更できることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の静電噴霧装置。
【請求項8】
前記素子が接地されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の静電噴霧装置。
【請求項9】
前記電界調整電極が、前記液体噴霧部に取付けられていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の静電噴霧装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスプレー法を用いた静電噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体噴霧部と、液体噴霧部に対して異極となる異極部(被塗物)との間に電圧を印加して発生する静電気力によって塗料などの液体を帯電状態で液体噴霧部から離脱させて霧化し、被塗物に霧化液体を噴霧するエレクトロスプレー法を用いた静電噴霧装置において、液体噴霧部の先端の近隣に近接電極を配置し、液体噴霧部と異極部との電位差に対して、近接電極と異極部との電位差を小さくするとともに、この電位差を調節することによって、近接電極に液体が付着することを抑制する静電噴霧装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-137479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来技術では、液体噴霧部にコッククロフト・ウォルトン回路などの高電圧発生器で電圧を印加し、異極部である被塗物と近接電極とを可変抵抗を介して電気接続し、液体噴霧部と異極部との間に印加される電圧を分割することで近接電極の電位を調節するように構成されていた。
しかしながら、液体噴霧部と異極部との間には10kV以上の非常に高い電圧が印加されることがあり、この高い電圧を抵抗で分割して被塗物と近接電極の電圧を調節する場合には、有機溶剤を用いた塗料への放電による着火や人体への感電のおそれがあり、安全性に問題があった。
また、抵抗を接続することによって、安全な水準である0.1mA以下の電流に抑えるためには、100MΩ程度の非常に高い抵抗を必要とする。しかし、このような高い抵抗は電気回路だけでなく、周囲の空気、回路基板、回路収納ケースなど、湿度などで大きく変動する周囲の抵抗も考慮する必要があり、その管理が非常に難しいという問題があった。
【0005】
そこで、本開示は、安全性が高く、管理が容易な静電噴霧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために以下によって把握される。
(1)本発明の静電噴霧装置は、液体噴霧部と、前記液体噴霧部に対して異極となる異極部との間に電圧を印加して発生する静電気力によって液体を帯電状態で前記液体噴霧部から離脱させて霧化を行い、異極部である被塗物に霧化液体を噴霧するエレクトロスプレー法による静電噴霧装置であって、導電性材料又は半導電性材料から形成され、少なくとも前記液体噴霧部と前記異極部との間に電圧を印加することにより帯電し、前記液体噴霧部と前記異極部の間に生じる電界に影響を与える電界調整電極と、一定電圧以上の電圧が印加されることにより流れる電流が急増する電圧-電流特性を持ち、前記電界調整電極と前記被塗物の間に電気的に接続されていることで前記電界調整電極の電位を一定電位以下に保つ素子と、を備える。
(2)本発明の静電噴霧装置は、ノズルを有する液体噴霧部と、前記液体噴霧部に対して異極となる異極部との間に電圧を印加して発生する静電気力によって液体を帯電状態で前記液体噴霧部から離脱させて霧化を行い、異極部である被塗物に霧化液体を噴霧するエレクトロスプレー法による静電噴霧装置であって、導電性材料から形成される放電電極と、導電性材料又は半導電性材料から形成され、少なくとも前記放電電極からの放電により帯電し、前記液体噴霧部と前記異極部の間に生じる電界に影響を与える電界調整電極と、一定電圧以上の電圧が印加されることにより流れる電流が急増する電圧-電流特性を持ち、前記電界調整電極と前記被塗物の間に電気的に接続されていることで前記電界調整電極の電位を一定電位以下に保つ素子と、を備える。
(3)上記(2)において、前記放電電極が、前記ノズルの先端外周近傍に配置され前記液体噴霧部と同電位である。
(4)上記(1)又は(3)のいずれかにおいて、前記素子が接地されている。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記素子がバリスタである。
(6)上記(2)又は(3)において、前記放電電極が、前記放電電極が配置されていない状態のときに前記ノズルの前方側近傍に現れる前記ノズルの中心軸を含む平面上での等電位曲線の状態に対し、少なくとも前記等電位曲線の一部をより緩やかな湾曲を描く等電位曲線の状態とする形状とされている。
(7)上記(2)、(3)又は(6)において、前記放電電極が、前記液体噴霧部に取付けられている。
(8)上記(2)、(3)、(6)又は(7)において、前記放電電極が、前記ノズルに沿って配置位置が変更できる。
(9)上記(1)から(8)のいずれかにおいて、前記電界調整電極が、前記液体噴霧部に取付けられている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、安全性が高く、管理が容易な静電噴霧装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る静電噴霧装置を示す断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る電噴霧装置を示す斜視図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る静電噴霧装置の液体噴霧部を示す断面図である。
図4A】液体噴霧部の先端側を示す拡大図(心棒の先端が後方)である。
図4B】液体噴霧部の先端側を示す拡大図(心棒の先端が前方)である。
図5A】定電圧装置の無い場合における電圧変化を示す図である。
図5B】定電圧装置が有る場合における電圧変化を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る静電噴霧装置を示す断面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る液体噴霧部及び放電電極を示す分解断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る液体噴霧部を示す斜視図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る静電噴霧装置において放電電極を配置しないで電圧を印加したときの等電位曲線の状態を示す図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る静電噴霧装置において放電電極を配置して電圧を印加したときの等電位曲線の状態を示す図である。
図11】本発明の第3実施形態に係る静電噴霧装置を示す断面図である。
図12】本発明の第3実施形態に係る液体噴霧部を示す斜視図である。
図13】本発明の第4実施形態に係る静電噴霧装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
また、特に断りがない場合、「先(端)」や「前(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向側を表し、「後(端)」や「後(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向と反対側を表すものとし、「接続」とは電気的な接続を表すものとする。
【0010】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る静電噴霧装置10の全体構成を示す断面図であり、図2は静電噴霧装置10の概略を示す斜視図である。
図1及び図2に示すように、静電噴霧装置10は、エレクトロスプレー法に用いられる静電噴霧装置であり、ノズル22を有する液体噴霧部20と、液体噴霧部20に対して異極となる異極部40との間に電圧を印加する電圧印加手段(電圧電源)50とを備えている。更に、液体噴霧部20と異極部40との間に生じる電界に影響を与える電界調整電極35が液体噴霧部20のノズル22と異極部40の間に設けられており、電界調整電極35に電気的に接続されている素子である定電圧装置51を備えている。定電圧装置51は一定電圧以上の電圧が印加されることにより流れる電流が急増する電圧-電流特性を持つ素子ある。
【0011】
なお、本実施形態では、電圧印加手段50からの電気配線を被塗物に直接接続して、被塗物自体を異極部40としている場合を示しているが、例えば、被塗物を載置する載置部(図示せず)に電圧印加手段50からの電気配線を接続して、この載置部を異極部40として載置部を介して被塗物が電圧印加手段50に電気的に接続されるようになっていても良い。
なお、以下の説明において、異極部40又は被塗物40を使用する。
【0012】
異極部40となる被塗物40は、アース手段60でアースされるようになっている。
このアース手段60は必須の要件ではないが、被塗物40のようなものの場合、作業者が触れたりすることがあり得るので安全面の観点で設けることが好ましい。
【0013】
(液体噴霧部)
図3は、本発明の第1実施形態に係る静電噴霧装置10の液体噴霧部20を示す断面図である。
なお、図3では、液体噴霧部20から後述するように塗料などの液体が噴霧されている状態を合わせて図示したものになっている。
図3に示すように、液体噴霧部20は、液体の供給される液体供給口21aを有する液体流路21bが形成された絶縁材料からなる胴体部21と、貫通孔が胴体部21の液体流路21bに連通するように胴体部21の先端に設けられるノズル22と、胴体部21の液体流路21b内及びノズル22の貫通孔内に配置される導電材料からなる心棒23と、を備えている。
【0014】
胴体部21には、心棒23を後端側に取り出すために、液体流路21bと連通した孔部21cが設けられ、その孔部21c内には、心棒23との間の隙間をシールして液体が漏れないようにするシール部材24が設けられている。
なお、本実施形態では、シール部材24としてOリングを用いているが、Oリングに限らず、シールが可能なものであれば良い。
【0015】
そして、孔部21cを通じて胴体部21の後端側に位置する心棒23の後端には、絶縁材料からなる摘み部23aが設けられているとともに、摘み部23aのほぼ中央を貫通するように設けられた導電材料からなる電気配線接続部23bが設けられている。
【0016】
図1に示すように、電気配線接続部23bには、電圧印加手段50からの電気配線が接続される。
そして、図3に示すように、電気配線接続部23bが心棒23に接触するようにされることで心棒23と電気配線接続部23bとが電気的に接続されている。
【0017】
なお、本実施形態では、心棒23を液体噴霧部20側の電極としているが、例えば、液体噴霧部20のノズル22を導電材料からなるものとして、このノズル22に電圧印加手段50からの電気配線を接続するようにし、ノズル22を液体噴霧部20側の電極としても良い。
【0018】
また、胴体部21の後端開口部21dの内周面には、摘み部23aを螺合接続するための雌ネジ構造21eが設けられ、一方、摘み部23aの先端外周面には、雄ネジ構造23cが設けられている。
【0019】
したがって、胴体部21の後端開口部21dの雌ネジ構造21eに摘み部23aの先端外周面の雄ネジ構造23cを螺合させることで心棒23が取外し可能に胴体部21に取付けられている。
また、摘み部23aの螺合量を調節することで心棒23を前後方向に移動させることができ、心棒23の先端面23dの位置を前後方向に調節できるようになっている。
【0020】
ここで、一般に、静電噴霧装置の液体を噴霧するノズルは、液体が流れる貫通孔の直径が小さい微細な液体流路とされる。
これは、液体が流れ出るノズル先端の開口直径が大きいと、安定した液体の霧化状態が得られなくなるためと推察される。
例えば、一般には、ノズル先端の開口直径は0.1mm未満とされている。
【0021】
このため、液体が乾燥したりすると直ぐに、ノズル先端の開口部が目詰まりするが、開口直径が小さいため、この目詰まりを解消することが難しいという問題がある。
【0022】
しかしながら、理由については、後ほど説明するが、心棒23を用いるようにすることで、従来に比較して、ノズル先端の開口径を大きな開口直径としても良好な霧化ができることを見出し、このため、本実施形態のノズル22の先端の開口部22bの開口直径は0.2mmの大きな開口直径にできている。
この結果、目詰まりが発生する頻度を大幅に低減することができるようになっている。
【0023】
なお、ノズル22の開口部22bの開口直径は0.2mmに限定されるものではなく、心棒23を用いる形態においては、開口直径は1mm程度であっても問題はない。
【0024】
ノズル22の開口部22bの開口直径は、目詰まりが起きにくく、また、目詰まりが起きても清掃ができることを考慮すると、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、更に0.2mmより大きくすることが好ましい。
【0025】
一方、ノズル22の開口部22bの開口直径は、霧化の安定性を考慮すると、1.0mm以下が好適であり、より好ましく0.8mm以下であり、更に好ましくは0.5mm以下とするのが良い。
【0026】
また、本実施形態では、上述のように、心棒23を前後方向に移動させることができるため、目詰まりが起きても心棒23を移動させることで目詰まりの解消を行うことができる。
更に、ノズル22の貫通孔の内径も心棒23を配置できる程度に大きくできているため、心棒23を取り外して洗浄液を大量に流して洗浄することも可能になっている。
【0027】
図4は、液体噴霧部20の先端側を拡大した拡大図であり、図4Aは、心棒23の先端面23dが後方に位置する場合であり、図4Bは、図4Aの状態よりも心棒23の先端面23dが前方に位置する場合である。
【0028】
図4Aに示すようにノズル22は、開口部22b側に向かってテーパ状に内径が小さくなるテーパ角度がαであるテーパ状内径部(範囲A参照)を有しており、心棒23は、先端面23dに向かって外径が小さくなるテーパ角度がβであるテーパ形状部(範囲B参照)を有している。
【0029】
そして、ノズル22のテーパ状内径部のテーパ角度αが、心棒23のテーパ形状部のテーパ角度βよりも大きくされている。
また、心棒23の先端面23dの直径は、ノズル22の開口部22bの開口直径よりも小さい直径とされているが、心棒23のテーパ形状部は、後端側に向かって徐々に直径が大きくなり、ノズル22の開口部22bの開口直径よりも直径の大きい部分を有するように形成されている。
【0030】
上記のように、ノズル22及び心棒23の先端側を形成することによって、図4A及び図4Bを見比べるとわかるように、心棒23を前後方向に移動させることでノズル22と心棒23とで形成される隙間の幅を調節できるようになり、ノズル22の開口部22bから出る液体の量を調節することができる。
【0031】
また、図4Bで示す状態よりも、更に、心棒23を前方側に動かすことで、心棒23がノズル22の内周面に当接し、ノズル22の開口部22bを閉塞することが可能である。
したがって、塗料などの液体を噴霧しない状態において、ノズル22の開口部22bを心棒23で閉塞させ、ノズル22内の液体が乾燥することを防止することが可能であり、ノズル22の目詰まりを抑制できる。
【0032】
(異極部40)
本実施形態では、上述したように、異極部40に被塗物を用いた場合を示しており、電圧印加手段(電圧電源)50の心棒23に接続されるのと反対側の電気配線が被塗物40に接続されることで被塗物40自体が液体噴霧部20に対する異極となるようにされている。
【0033】
しかしながら、上記でも少し触れたが、例えば、被塗物が搬送装置などによって、塗料などの液体を塗布する位置に搬送されるような場合には、電圧印加手段50からの電気配線を搬送装置の被塗物が載置される載置部に接続されているようにして、載置部を介して被塗物が電圧印加手段50に電気的に接続されるようにしても良い。
【0034】
次に、図3を参照しながら、まず、液体噴霧部20から液体が噴霧される状態について説明を行う。
【0035】
胴体部21の液体供給口21aに供給された液体は、ノズル22の先端側に供給されていき、異極部40(被塗物)と心棒23との間に印加される電圧に伴う静電気力によって、前方側に引っ張られて前方に離脱・霧化する。
【0036】
なお、液体の供給は、噴霧により消費されることで液体噴霧部20から失われる分の液体が順次供給されていれば良く、ノズル22の開口部22b(より正確には、開口部22bと心棒23との間の隙間)から液体が噴射するような圧力で圧送供給される必要はなく、液体が勢いよく噴射される状態の場合、かえって霧化ができなくなるようなことが起こる。
【0037】
より具体的には、心棒23の先端面23d及びノズル22の先端外周縁22aへの表面張力や粘度による付着力に対して、液体を前方に引っ張る静電気力が釣り合うことで、図3に示すように、ノズル22の先端側に供給された液体が、その先端で円錐形の形状となるテーラコーン80が形成される。
【0038】
このテーラコーン80は、電場の作用によって、液体中で正/負電荷の分離が起こり、過剰電荷で帯電したノズル22先端のメニスカスが変形して円錐状となって形成されているものである。
そして、テーラコーン80の先端から静電気力によって液体が真直ぐに引っ張られ、テーラコーン80の先端から線状に伸びるジェット部82の先端で液体が静電爆発することで広い範囲に液体が噴霧される。
【0039】
この噴霧される液体、つまり、ノズル22から離脱して液体粒子となった液体は、離脱前の状態に比べ、空気に触れる面積が飛躍的に大きくなるため溶媒の気化が促進され、その溶媒の気化に伴って帯電している電子間の距離が近づき、静電反発(静電爆発)が発生して、更に、小さい粒径の液体粒子に分裂する。
【0040】
この分裂が起こると、更に、分裂前に比べ空気に触れる表面積が増えることになるため、溶媒の気化が促進され、上述したのと同様に静電爆発が発生し、更に、小さい粒径の液体粒子に分裂する。
このような静電爆発が繰り返されることで液体が霧化される。
【0041】
ここで、本実施形態では、ノズル22内に心棒23を設けるようにしている。
仮に、従来の静電噴霧装置のように、この心棒23を設けないものとすると、液体が付着できる部分は、ノズル22の先端外周縁22aだけとなる。
【0042】
そして、このような状態でノズル22の開口部22bの開口直径を大きくすると、液体の付着できる部分が、ノズル22の先端外周縁22aだけのため、例えば、ノズル22の上下左右に液体がふらついたりし易く、きれいなテーラコーン80が形成できなくなったり、また、テーラコーン80自体が維持できなくなるため、ノズル22から離脱する液体粒子の安定性(粒子の大きさ、数、及び、帯電状態などの安定性)が得られなくなり、結果、液体の安定した霧化ができなくなるものと推察される。
【0043】
一方、本実施形態では、ノズル22内に心棒23を配置して、ノズル22の先端外周縁22aだけでなく、心棒23の先端面23dとの間でも液体は付着する。
したがって、ノズル22の開口部22bの開口直径が大きくても、開口部22bの中央部に液体が付着できる心棒23の先端面23dが存在するため、安定したテーラコーン80を形成することができ、液体の安定した霧化ができるようになっているものと考えられる。
【0044】
なお、心棒23の先端面23dがノズル22の先端外周縁22a(つまり、ノズル22の開口部22bの先端面)から前方に出過ぎるとノズル22から出る液体に電場が作用し難くなり、一方、心棒23の先端面23dがノズル22の開口部22bの先端面から後方に引っ込み過ぎると、開口部22bの中央部に液体が付着できる部分が存在しないのと同じ状態となる。
【0045】
このことから、心棒23の先端面23dの位置は、液体を噴霧する状態において、ノズル22の開口部22bの先端面を基準にして、心棒23の中心軸に沿った前後方向で、ノズル22の先端の開口部22bの開口直径の10倍以内に位置することが好適であり、より好ましくは5倍以内に位置することが好適であり、更に、好ましくは3倍以内に位置することが好適である。
【0046】
例えば、本実施形態では、ノズル22の開口部22bの開口直径が0.2mmであり、静電気力を考慮しない場合、ノズル22の開口部22bから出た液体は、ノズル22の先端で直径が約0.2mmの半球状となるように出てくる。
【0047】
そして、このノズル22の先端に出てきた液体に電場(静電気力)が作用して円錐状のテーラコーン80が形成できるように、心棒23の先端は、この液体の近くに存在することが良く、このためノズル22の開口部22bの先端面から前方(出る方向)に2mm以内に位置するようにするのが好適であり、一方、液体の付着に作用するように、心棒23の先端がノズル22の開口部22bの先端面から後方(引っ込む方向)に2mm以内に位置するようにするのが好適である。
【0048】
上記のように、心棒23を設けることによって、ノズル22の開口部22bの開口直径を大きくしても安定した液体の霧化が行える。
このため、ノズル22の開口部22bの開口直径を目詰まりが抑制できるような大きな開口直径にすることができる。
また、ノズル22の開口部22bの開口直径を大きくできるため機械加工でノズル22が製作できる。
【0049】
なお、本実施形態では、心棒23の先端が先端面23dとして平坦な平面としている場合を示しているが、必ずしも、心棒23の先端が平坦な平面である必要はなく、安定したテーラコーン80の形成に寄与すれば良いので、例えば、心棒23の先端はR形状のように、前方側に向かって突出する曲面になっていても良い。
【0050】
このようにして液体噴霧部20(ノズル22)から噴霧された液体は、静電爆発を繰り返しながら霧化液体となり、この微粒化した液体は電荷を帯びた状態であるため、異極部40(被塗物)側に静電気力で引き寄せられて被塗物40に塗着することになる。
【0051】
図1において、定電圧装置51は、一定電圧以上の電圧が印加されることにより流れる電流が急増する電圧-電流特性を持つ素子を用いることができる。特に、一定の電圧までは電流が流れないか流れても極めて小さい電流であるが、一定電圧以上になると流れる電流が急増する特性を有する素子が好適である。
このような特性を示す素子としては、例えば、バリスタを使用することができる。バリスタは、非直線抵抗、電圧依存性抵抗と呼ばれることもあるとおり、印加される電圧が所定電圧になると急激に内部抵抗が低下する特性を有しており、これにより、一定電圧以上の電圧が印加されることにより流れる電流が急増する電圧-電流特性を有する素子である。バリスタは、一般的には雷サージ、静電気、直流機器(DCモータ等)の電源遮断時の逆起電圧等の高電圧が回路に流れ込むのを防ぎ、サージ防護デバイス(SPD)として、回路の各素子や電子機器を保護する目的で使用される。
【0052】
本実施形態においてバリスタは、このような回路の各素子や電子機器を保護する目的ではなく、電界調整電極35と被塗物40の間に定電圧装置51であるバリスタを電気的に接続することで電界調整電極35の電位が一定電位以下に保たれるようにする目的で使用される。
また、積層チップバリスタは、金属酸化物を電極で挟んだコンデンサに似た構造をしており、静電容量成分、すなわちコンデンサのように電荷を蓄える機能を有するため、電圧の急激な変化を抑える作用を有する点においても、本実施形態において、定電圧装置51に使用するのに適している。
【0053】
図1において、電圧印加手段50の電源が投入されると液体噴霧部20に電荷が蓄積して電圧印加手段50の負極が接続されている電界調整電極35との間で電位差が生じる。この電位差は液体噴霧部20に電荷が蓄積されるのに伴い大きくなる。
【0054】
そして、電圧印加手段50の電源を投入することにより、すなわち、少なくとも液体噴霧部20と異極部である被塗物40との間に電圧を印加することにより、電界調整電極35が帯電することになる。
電界調整電極35の帯電は、電圧印加手段50の電源を投入することにより液体噴霧部20から噴霧される霧化液体87の作用及び液体噴霧部20からの放電によって生じる。この放電は液体噴霧部20によって発生するものに限定されるものではない。液体噴霧部20の近傍に設けられ、液体噴霧部20と同じ極性を有する電極から放電するように構成しても良い。
【0055】
電界調整電極35と被塗物40の間に定電圧装置51が電気的に接続されていない場合には、液体噴霧部20と電界調整電極35の電位差は液体噴霧部20に電荷が蓄積されるのに伴って大きくなる。電界調整電極35の電圧は、自身の放電もあるため電源電圧と等しくとはならず、電圧印加手段50の正極と負極の間の電圧に帯電する。
【0056】
これに対して、図1に示すとおり、電界調整電極35と被塗物40の間に定電圧装置51が電気的に接続されている場合には、電界調整電極35が帯電することにより、電圧印加手段50の負極を基準とした電界調整電極35の電位、すなわち定電圧装置51の両端に印加される電圧が定電圧装置51の定格で定められた一定の電圧(定格電圧)以上に達すると、定電圧装置51の内部抵抗が急激に低下する等により、液体噴霧部20から電界調整電極35を経由して定電圧装置51に至る経路に流れる電流が急増し、電圧印加手段50の負極を基準とした電界調整電極35の電位、すなわち定電圧装置51の両端に印加される電圧が、定電圧装置51の定格電圧に保たれるように作用する。
【0057】
このように、液体噴霧部20と被塗物40の間に電圧印加手段50により電圧が印加されることにより、ノズル22から霧化液体87が噴霧される。そして、液体噴霧部20と被塗物40の間に設けられている電界調整電極35に定電圧装置51が電気的に接続されていることによって、電界調整電極35は液体噴霧部20と同じ極性であって定電圧装置51の定格電圧の電位に保たれている。
【0058】
図1及び図2に示すとおり、このような電位に保たれている電界調整電極35が液体噴霧部20と被塗物40の間に生じる電界に影響を与え、電界調整電極35の近傍において霧化液体87が内側に変形した分布となる。液体噴霧部20と同じ極性の電位に帯電した霧化液体87が、同様に同じ極性の電界調整電極35によって反発力を受けて変形する。
【0059】
すなわち、液体噴霧部20と被塗物40の間に電界調整電極35を設け、定電圧装置51の定格電圧を適宜選択して電界調整電極35の電位を調節することで、液体噴霧部20と被塗物40の間の電界に影響を及ぼして目的とする形状に変形させるとともに、噴霧された霧化液体87の分布を適宜調整することができる。
【0060】
このように、電界調整電極35に直接高い電圧の電源を接続することもなく、あるいは、非常に高い抵抗を接続することもなく、電界調整電極35に定電圧装置51を電気的に接続することにより電界調整電極35の電位を所定の電位に保つように構成することで、本実施形態によれば、安全性が高く、管理が容易な静電噴霧装置10を得ることができる。
【0061】
電界調整電極35は、導電材料若しくは1010Ω以下の表面抵抗の半導電性材料、帯電防止材料によって形成されている。
【0062】
電界調整電極35の形状や大きさ、そして設置する位置は、目的とする電界の分布により適語決定される。したがって、電界調整電極35は、図1及び図2に示す形状や配置に限定されるものではない。
【0063】
図5は、定電圧装置51の有無における被塗物40をアースに接続した時の被塗物40を基準とした電圧の変化を示す図である。図5Aは定電圧装置51がない場合の電界調整電極35の電圧の変化を示し、図5Bは定電圧装置51がある場合の電界調整電極35の電圧の変化を示している。
【0064】
図5Aにおいて、電圧印加手段50の電源が投入されると液体噴霧部20に電荷が蓄えられて次第にその電位が上昇していき、これに伴い、電界調整電極35を帯電させ、電界調整電極35の電位を上昇させる。液体噴霧部20からの帯電と電界調整電極35自体の放電とのバランスで9kV付近まで上昇するとほぼこの電位が維持される。
【0065】
図5Bにおいて、電圧印加手段50の電源が投入されると液体噴霧部20に電荷が蓄えられて次第にその電位が上昇していき、これに伴い、電界調整電極35を帯電させ、電界調整電極35の電位を上昇させる。電界調整電極35の電圧印加手段50の負極に対する電位、すなわち、定電圧装置51の両端にかかる電圧が定電圧装置51の定格電圧である5kV付近になると定電圧装置51の内部抵抗が急激に低下する等して、流れる電流が急増するようになり、電圧が5kV付近でほぼ一定になる。
すなわち、電界調整電極35に定電圧装置51が電気的に接続されることによって、電圧印加手段50の負極を基準とした電界調整電極35の電位は、定電圧装置51の両端に係る電圧、すなわち定電圧装置51の定格電圧に等しく保たれる。このように、電界調整電極35と被塗物40の間に定電圧装置51が電気的に接続されていることで電界調整電極35の電位を一定電位以下に保つことになる。
【0066】
被塗物40は電圧印加手段50の負極に接続されており、被塗物40は電圧印加手段50の負極と同電位である。したがって、電圧印加手段50の正極に接続されている液体噴霧部20と被塗物40との電位差は、電界調整電極35に定電圧装置51が電気的に接続されているか否かに関わらず、電圧印加手段50の電源電圧に等しくなる。
【0067】
一方、電界調整電極35に定電圧装置51が電気的に接続されている場合には、液体噴霧部20の電位が最も高く、次に電界調整電極35が高く、被塗物40が最も低いという関係になる。そして、電界調整電極35と被塗物40の電位差は定電圧装置51の定格電圧になる。すなわち、被塗物40を基準電位とした場合に、電界調整電極35が正の電位を有しており、液体噴霧部20と同じ極性になっている。
【0068】
したがって、電界調整電極35に定電圧装置51が電気的に接続されている場合には、電圧印加手段50の電源電圧と定電圧装置51の定格電圧の選択により、液体噴霧部20、電界調整電極35、被塗物40の電位を所定の関係に設定することができる。
【0069】
被塗物40及び定電圧装置51は電圧印加手段50の負極に接続されているが、図1に示すように、更に、アース手段60に接続されて接地される構成にしても良い。これにより、安全性をより高くすることができる。
【0070】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る静電噴霧装置10を示す断面図である。
第2実施形態に係る静電噴霧装置10は、第1実施形態に係る静電噴霧装置10に対して、放電電極30が設けられている点で異なり、その他は、第1実施形態と同様である。
【0071】
図6に示すように、静電噴霧装置10は、ノズル22を有する液体噴霧部20と、放電電極30と、液体噴霧部20と液体噴霧部20に対する異極となる異極部40との間に電圧を印加する電圧印加手段50と、電界調整電極35と、定電圧装置51と、を備える。
【0072】
図7は、本発明の第2実施形態に係る液体噴霧部20及び放電電極30を示す分解断面図である。
図8は、本発明の第2実施形態に係る液体噴霧部20を示す斜視図である。
【0073】
図7に示すように、放電電極30は、雌ネジ構造が設けられたネジ孔31aを有している。
そして、放電電極30は、液体噴霧部20のノズル22上に装着された後、放電電極30のネジ孔31aに固定ネジ31を螺合させてノズル22の外周を固定ネジ31で押圧するように固定ネジ31を締め付けることでノズル22に固定される。
【0074】
このようにして、放電電極30は、図8に示すように、液体噴霧部20のノズル22の先端外周近傍に配置されるように取り付けられている。
より具体的には、本実施形態では、放電電極30は、図6に示すように、ノズル22の先端外周縁22aよりも後方に配置されるようにノズル22の外周に固定されている。
【0075】
そして、上述したように、放電電極30は、固定ネジ31によって固定されるようになっているので固定ネジ31を緩めることでノズル22に沿うように移動させることができ、ノズル22に沿った前後方向の配置位置を変更して調整することが可能になっている。
【0076】
なお、本実施形態では、放電電極30をノズル22に固定する場合を示しているが、固定自体は液体噴霧部20の胴体部21に対して行うようにしても良く、アーム構造などで放電電極30がノズル22の先端外周近傍に配置されるようになっていれば良い。
【0077】
そして、放電電極30は導電材料からなり、図6に示すように、電圧印加手段50から電気配線接続部23bに接続される電気配線から分岐された電気配線が接続されている。
したがって、放電電極30は、液体噴霧部20と同電位になっている。しかし、放電電極30は、液体噴霧部20と同電位であることに限定はされない。
【0078】
図9は、本発明の第2実施形態に係る静電噴霧装置10において放電電極30を配置しないで電圧を印加したときの等電位曲線58の状態を示す図である。
図10は、本発明の第2実施形態に係る静電噴霧装置10において放電電極30を配置して電圧を印加したときの等電位曲線58の状態を示す図である。
【0079】
図9では、ノズル22の中心軸をZ軸として示し、このZ軸に直交する1つの軸をX軸として示しており、このZ軸に沿ったX軸方向の断面に電圧を印加したときの現れる等電位曲線58の状態を合わせて図示している。
つまり、図9は、ノズル22の中心軸を含む平面上での等電位曲線58の状態を示す図である。
【0080】
図9に示すように、電圧を印加すると、ノズル22を取り巻くように等電位曲線58が現れる。
そして、等電位曲線58の接線に直交する方向に向けてノズル22から出る液体が静電気力で引っ張られるが、このときに、心棒23の先端面23d及びノズル22の先端外周縁22aへの表面張力や粘度による付着力に対して、液体を引っ張る静電気力が釣り合うことで、ノズル22の先端側に供給された液体が、図3に示すように、その先端で円錐形の形状となるテーラコーン80の状態となる。そして、テーラコーン80の先端から静電気力によって液体が真直ぐに引っ張られ、その後静電爆発する。
【0081】
この静電爆発に至るまでの前方側への引っ張り力は噴霧される液体の慣性力となり、さらに、静電爆発時の広がり力(反発力)や等電位曲線58の接線と直交する方向からの静電気力による引っ張り力などの相互作用の結果として液体は前方側に噴霧される。そして、このような静電爆発が繰り返されることで液体が霧化される。
【0082】
図9に示すように、電圧の印加によってノズル22を取り巻くように現れる等電位曲線58は、ノズル22を中心として円を描くように現れている。
静電気力の引っ張り力は、この等電位曲線58に接線を引いた時にこの接線に直交する方向に働くことを考えると、離脱する液体を基準に等電位曲線58の接線と直交する方向は前方向だけでなく、斜め方向や横方向など、いろんな方向があり得るため、離脱する液体は、いろんな方向から静電気力による引っ張りを受けており、この静電気力と慣性力や静電爆発力(反発力)などとの兼ね合いで前方側の広い範囲に噴霧されることになる。
【0083】
そこで、本実施形態では、液体の塗布に応じた液体の広がり状態に合わせるために、等電位曲線58の状態を調節する導電材料で形成されて液体噴霧部20と同電位とされる、放電電極30を設けている。
【0084】
図10は、図9と同様に、液体を噴霧するノズル22の先端側だけを示した側面図であるが、さらに、放電電極30が設けられ、その状態における等電位曲線58の状態を合わせて示した図になっている。
なお、図10のZ軸及びX軸は、図9に示したのと同様に、ノズル22の中心軸を含む平面上での等電位曲線58を示した図になっている。
【0085】
図10に示すように、放電電極30が設けられることで、図9に示した放電電極30が配置されていない状態のときにノズル22の前方側近傍に現れるノズル22の中心軸を含む平面上での等電位曲線58の状態よりも一部がより緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態となり、等電位曲線58が前方側に向かって平行に並ぶ状態に近づくことがわかる。この放電電極30による等電位曲線58への作用は、等電位曲線58の一部だけでなく、その全部が緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態となるように構成しても良い。
なお、ノズル22の前方側近傍とは、ノズル22の中心軸を基準に中心軸に直交する方向で150mm以内又は100mm以内程度であって、ノズル22の前方150mm以内又は100mm以内程度のノズル22の先端から前方の円柱状の範囲を超えない範囲である。
【0086】
このような図10に示す等電位曲線58の状態となると、離脱する液体を基準に等電位曲線58の接線と直交する方向は、主に前方向となるため液体の離脱時や離脱後の静電爆発などによる液体の広がりはあるものの、放電電極30が設けられていない状態と比較すれば、広がり難くなる。この結果、噴霧される液体は、あまり広がらずに噴霧されることになる。
【0087】
なお、放電電極30がノズル22から後方に離れすぎた位置に配置されたりすると、その等電位曲線58を調節する作用が低下するため、放電電極30は、放電電極30が配置されていない状態のときにノズル22の前方側に現れる等電位曲線58の状態よりも緩やかな湾曲を描く等電位曲線58の状態とすることができるノズル22の先端外周近傍に配置できるようにされる必要がある。
【0088】
また、図8に示すように、本実施形態では、放電電極30の先端部30aが平面で構成されており、このようにすることで、図10に示したように、放電電極30の先端部30aからノズル22までの間に現れる等電位曲線58が、放電電極30の先端部30aよりも後方側に湾曲しないようになる。
【0089】
このように、導電性材料から形成され、ノズル22の先端外周近傍に放電電極30を配置することで、等電位曲線58の形状を適宜調節することができ、噴霧される液体の分布を調整することができる。
【0090】
放電電極30は、等電位曲線58の目的とする形状、分布に合わせて、その形状、大きさ、配置する位置を適宜選択することができる。図8では、円柱形であるが、これに限定されるものではなく、例えば、長方形などの多角形であってもよく、扇型であっても良い。
【0091】
図6において、電圧印加手段50の電源が投入されると液体噴霧部20及び放電電極30に電荷が蓄積して電圧印加手段50の負極が接続されている電界調整電極35との間で電位差が生じる。この電位差は液体噴霧部20及び放電電極30に電荷が蓄積されるのに伴い大きくなる。
【0092】
そして、電圧印加手段50の電源を投入することにより、すなわち、少なくとも液体噴霧部20及び放電電極30と異極部である被塗物40の間に電圧を印加することにより、液体噴霧部20から噴霧される霧化液体87の作用と液体噴霧部20及び放電電極30からの放電によって電界調整電極35を帯電させる。
本実施形態においては、放電電極30を液体噴霧部20の近傍に設けることで、電界調整電極35が、少なくとも放電電極30からの放電によって帯電するようにしている。
【0093】
このように、第2実施形態においては、放電電極30を液体噴霧部20の近傍に設けることで、電界調整電極35を帯電させてその電位を上昇させ、定電圧装置51の定格電圧以上になると定電圧装置51の作用により電界調整電極35を所定の電位に保つとともに、等電位曲線58の形状を適宜調節し、噴霧される液体の分布を調整することができる、との効果を奏することができる。
【0094】
なお、被塗物40及び定電圧装置51は電圧印加手段50の負極に接続されているが、図6に示すように、更に、アース手段60に接続されて接地される構成にしても良い。これにより、安全性をより高くすることができる。
【0095】
(第3実施形態)
図11は、本発明の第3実施形態に係る静電噴霧装置10を示す断面図である。
図12は、本発明の第3実施形態に係る液体噴霧部20を示す斜視図である。
第3実施形態に係る静電噴霧装置10は、第1実施形態に係る静電噴霧装置10に対して、電界調整電極35が液体噴霧部20に取付けられている点で異なり、その他は、第1実施形態と同様である。
【0096】
図11及び図12に示すように、ノズル22の外周面には、電界調整電極35を取付ける電極ホルダ25が設けられている。電極ホルダ25は、ノズル22の外周上に設けられる絶縁材料からなる円環状の構造からなり、円環状の構造の先端部に電界調整電極35を取付ける電極取付部25aが設けられている。
【0097】
図11及び図12に示すように、電界調整電極35は、ノズル22の外径よりも大きい直径に形成されたリング状の導電材料からなる部材であり、定電圧装置51を介して電圧印加手段50の負極に接続されている。
なお、本実施形態では、電界調整電極35が円形のリング状の場合を示しているが、多角形のリング状及び円弧状などであって良い。また、リング状のように、閉じた形状に限定されるものではなく、棒状や板状であっても良い。
電界調整電極35は、絶縁材料からなる電極ホルダ25を介してノズル22の外周に固定されるようにしているが、電極ホルダ25はノズル22に対して固定されることに限定されるものではなく、胴体部21に対して固定されていても良い。
【0098】
本実施形態において、電界調整電極35が液体噴霧部20に取付けられていることによって、特に、被塗物40に対して液体噴霧部20を移動させながら液体を噴霧する作業において電界調整電極35が液体噴霧部20と一体となって移動し、電界調整電極35と液体噴霧部20の位置関係が固定されるため、液体噴霧部20と被塗物40の間に生ずる電界を安定させることができる。
【0099】
(第4実施形態)
図13は、本発明の第4実施形態に係る静電噴霧装置10を示す断面図である。
第4実施形態に係る静電噴霧装置10は、第1実施形態に係る静電噴霧装置10に対して、放電電極30と電界調整電極35が液体噴霧部20に取付けられている点で異なり、その他は、第1実施形態と同様である。
【0100】
本実施形態において、放電電極30と電界調整電極35が液体噴霧部20に取付けられていることにより、特に、被塗物40に対して液体噴霧部20を移動させながら液体を噴霧する作業において電界調整電極35が液体噴霧部20と一体となって移動し、電界調整電極35と液体噴霧部20の位置関係が固定されるため、液体噴霧部20と被塗物40の間に生ずる電界を安定させることができ、また、等電位曲線58の形状を適宜調節し、噴霧される液体の分布を調整することができる。
【0101】
なお、第3実施形態及び第4実施形態において、被塗物40及び定電圧装置51は電圧印加手段50の負極に接続されているが、図11及び図13に示すように、更に、アース手段60に接続されて接地される構成にしても良い。これにより、安全性をより高くすることができる。
【0102】
以上説明したように、本実施形態によれば、電界調整電極35を設け、これを定電圧装置51に電気的に接続することにより、安全性が高く、管理が容易な静電噴霧装置10を提供することができる。
【0103】
以上、具体的な実施形態に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を実施しても良い。
【0104】
例えば、上記説明を通して液体噴霧部20が正の電位であり、被塗物40が負の電位として説明しているが、これに限定されるものではない。液体噴霧部20が負の電位であり、被塗物40が正の電位であっても同様の効果を奏するものである。この場合、電界調整電極35は液体噴霧部20と同じ極性の負の電位になる。
また、上記説明を通して液体噴霧部20が1つの場合について説明しているが、これに限定されるものではない。液体噴霧部20が複数設けられており、これら複数の液体噴霧部20の先端の近傍に電界調整電極35を配置するように構成しても同様の効果を奏するものである。例えば、液体噴霧部20を正多角形に配置し、電界調整電極35が液体噴霧部20同士の先端近傍の間に配置されるように構成しても良い。
【0105】
このように、本発明は、具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0106】
10 静電噴霧装置
20 液体噴霧部
21 胴体部
21a 液体供給口
21b 液体流路
21c 孔部
21d 後端開口部
21e 雌ネジ構造
22 ノズル
22a 先端外周縁
22b 開口部
23 心棒
23a 摘み部
23b 電気配線接続部
23c 雄ネジ構造
23d 先端面
24 シール部材
25 電極ホルダ
25a 電極取付部
30 放電電極
30a 先端部
31 固定ネジ
31a ネジ孔
35 電界調整電極
40 異極部(被塗物)
50 電圧印加手段
51 定電圧装置
58 等電位曲線
60 アース手段
70 電極(異極部)
71 電極ホルダ
80 テーラコーン
82 ジェット部
87 霧化液体
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13