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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】樹脂シートの製造装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/693 20190101AFI20240612BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240612BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20240612BHJP
   B29C 48/78 20190101ALI20240612BHJP
   B29K 71/00 20060101ALN20240612BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20240612BHJP
【FI】
B29C48/693
C08J5/18
B29C48/305
B29C48/78
B29K71:00
B29L7:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020100949
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021194802
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和宏
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-51129(JP,A)
【文献】特開2009-143185(JP,A)
【文献】特開昭60-107319(JP,A)
【文献】特開2020-055249(JP,A)
【文献】特開昭53-119962(JP,A)
【文献】特開2006-276426(JP,A)
【文献】特開平04-275128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/693
B29C 48/695
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結晶性樹脂含有の成形材料を溶融混練する溶融押出成形機の先端部に、溶融した成形材料を帯形の樹脂シートに押出成形するTダイスを連結管を介して取り付け、この連結管には、溶融押出成形機とTダイスの間に介在して樹脂シート中に異物が混入するのを抑制するフィルタ装置を接続し、Tダイスの下方には、押出成形された高温の樹脂シートを圧着ロールの周面との間に挟んで冷却する冷却ロールを回転可能に軸支した樹脂シートの製造装置であって、
フィルタ装置は、連結管に接続される一対の拡散ハウジングと、この一対の拡散ハウジングの内部に収容されて上流の溶融押出成形機から流入して来た成形材料の異物を除去する多孔質の焼結フィルタと、一対の拡散ハウジングの内部に収容されて焼結フィルタから流動して来た成形材料の流れを規制しながら成形材料を下流のTダイスに流出させるブレーカープレートとを含み、
一対の拡散ハウジングの外周面に、成形材料を均一に加熱するバンドヒータを取り付け、各拡散ハウジングの略中心部に、成形材料用の接続流通路を断面略漏斗形に形成するとともに、この接続流通路の開口した拡径部と隣接する拡散ハウジングの拡径部との間に、焼結フィルタ及びブレーカープレートを挟み、接続流通路の開口した縮径部を連結管に接続し、
焼結フィルタをブレーカープレートに直接支持させて焼結フィルタの姿勢を安定させることを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
成形材料の結晶性樹脂は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂である請求項1記載の樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂シートの製造装置を用いて樹脂シートを製造することを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートを成形してその異物の発生を低減することのできる樹脂シートの製造装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における樹脂フィルムの製造装置は、図示しないが、所定の樹脂を含有した成形材料を押出成形機により溶融混練し、この溶融混練された成形材料をダイスにより樹脂フィルムに押出成形し、この押出成形された樹脂フィルムを冷却ロールと圧着ロールとの間に挟持して冷却し、この冷却された樹脂フィルムを巻取機に巻き取るようにしている(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
ところで、成形材料の所定の樹脂は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に分類されるが、例えば製造された樹脂フィルムが最近注目されている第五世代移動通信システム(5G)用の高周波回路基板に利用される場合には、低誘電特性等に優れる結晶性のポリアリーレンエーテルケトン(芳香族ポリエーテルケトンともいう、PAEK)樹脂が用いられることがある。
【0004】
係るポリアリーレンエーテルケトン樹脂を用いれば、樹脂フィルムに優れた低誘電特性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性、難燃性等を付与することができるが、これらの機能を発揮するためには、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造時、詳しくは重合工程で残留したオリゴマーや低分子等の異物が樹脂フィルム中に混入しないことが重要となる。
【0005】
この点を踏まえ、従来においては、押出成形機とダイスとの間に多数のフィルタを一列に並べて介在させ、この多数のフィルタにより、成形材料のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の異物を補足し、異物が製造時の樹脂フィルム中に混入するのを抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003‐321602号公報
【文献】特開2019‐217742号公報
【文献】特開2018‐196939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来における樹脂フィルムの製造装置は、以上のように構成され、樹脂フィルム中に異物が混入するのを抑制する観点から、押出成形機とダイスとの間に多数のフィルタが配列されるが、一般的なリーフタイプのフィルタが単に使用される場合には、部品点数が増加して設置スペースを広く占有し、しかも、フィルタの交換作業やメンテナンス作業も実に煩雑になるという問題がある。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、樹脂シート中に異物が混在して品質が低下するのを防止し、しかも、部品点数を削減したり、フィルタの交換作業やメンテナンス作業の簡素化を図ることのできる樹脂シートの製造装置及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、少なくとも結晶性樹脂含有の成形材料を溶融混練する溶融押出成形機の先端部に、溶融した成形材料を帯形の樹脂シートに押出成形するTダイスを連結管を介して取り付け、この連結管には、溶融押出成形機とTダイスの間に介在して樹脂シート中に異物が混入するのを抑制するフィルタ装置を接続し、Tダイスの下方には、押出成形された高温の樹脂シートを圧着ロールの周面との間に挟んで冷却する冷却ロールを回転可能に軸支した装置であって、
フィルタ装置は、連結管に接続される一対の拡散ハウジングと、この一対の拡散ハウジングの内部に収容されて上流の溶融押出成形機から流入して来た成形材料の異物を除去する多孔質の焼結フィルタと、一対の拡散ハウジングの内部に収容されて焼結フィルタから流動して来た成形材料の流れを規制しながら成形材料を下流のTダイスに流出させるブレーカープレートとを含み、
一対の拡散ハウジングの外周面に、成形材料を均一に加熱するバンドヒータを取り付け、各拡散ハウジングの略中心部に、成形材料用の接続流通路を断面略漏斗形に形成するとともに、この接続流通路の開口した拡径部と隣接する拡散ハウジングの拡径部との間に、焼結フィルタ及びブレーカープレートを挟み、接続流通路の開口した縮径部を連結管に接続し、
焼結フィルタをブレーカープレートに直接支持させて焼結フィルタの姿勢を安定させることを特徴としている。
【0010】
なお、冷却ロールにより冷却された樹脂シートを巻き取る巻取機を含むと良い。
また、成形材料の結晶性樹脂は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂であることが好ましい。
【0011】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1又は2記載の樹脂シートの製造装置を用いて樹脂シートを製造することを特徴としている。
【0012】
ここで、特許請求の範囲における成形材料には、各種の結晶性樹脂の他、必要な各種フィラー、例えば樹脂シートの寸法安定性に資するマイカ等の無機フィラーが配合される。樹脂シートには、樹脂シートの他、樹脂フィルムが含まれ、透明、不透明、半透明を特に問うものではない。この樹脂シートは、高周波回路基板用、一般的なプリント配線板用、カバーレイ、積層体の他、含浸用、スピーカの振動板用、キャパシタ用、温湿度センサ用等にも利用することができる。また、溶融押出成形機とフィルタ装置との間には、ギアポンプを介在させることにより、Tダイスにおける圧力変動を最小化し、成形材料の温度上昇を抑制することができる。
【0013】
本発明によれば、樹脂シートを製造する場合には、先ず、溶融押出成形機に成形材料を投入し、溶融押出成形機により成形材料を溶融混練してTダイス方向に押し出す。すると、成形材料は、溶融押出成形機からフィルタ装置の焼結フィルタとブレーカープレートとを通過してTダイスに流動し、このTダイスから樹脂シートが連続的に押出成形される。この製造の際、成形材料の少なくとも結晶性樹脂中の異物は、フィルタ装置の焼結フィルタに除去され、Tダイスに流出することが少ない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂シート中に異物が混在して品質が低下するのを低減することができるという効果がある。また、部品点数を削減したり、フィルタの交換作業やメンテナンス作業の簡素化を図ることができるという効果がある。また、紙フィルタや布フィルタではなく、焼結フィルタを使用するので、圧力損失の恐れが少なく、長期使用が期待できる。また、焼結フィルタが目詰まりしてろ過性能が低下した場合には、溶剤や酸性による洗浄、超音波洗浄により、半永久的な使用が期待できる。また、拡散ハウジングにより、焼結フィルタとブレーカープレートとを外部の塵埃等から有効に保護することができる。さらに、拡散ハウジングの外周面に、成形材料用のバンドヒータを取り付けるので、フィルタ装置を流通する成形材料の少なくとも結晶性樹脂を効率的に加熱することが可能となる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、低誘電特性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性、難燃性等に優れる樹脂シートを高品質に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る樹脂シートの製造装置及びその製造方法の実施形態を模式的に示す全体説明図である。
図2】本発明に係る樹脂シートの製造装置及びその製造方法の実施形態におけるフィルタ装置を模式的に示す正面説明図である。
図3】本発明に係る樹脂シートの製造装置及びその製造方法の実施形態におけるフィルタ装置を模式的に示す側面説明図である。
図4】本発明に係る樹脂シートの製造装置及びその製造方法の実施形態におけるフィルタ装置を模式的に示す背面説明図である。
図5図3のV‐V線断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における樹脂シートの製造装置は、図1ないし図5に示すように、成形材料1を溶融混練する溶融押出成形機10に、溶融した成形材料1を薄膜の樹脂フィルム2に押出成形するTダイス13を取り付け、溶融押出成形機10とTダイス13との間にフィルタ装置20を介在した製造装置であり、フィルタ装置20を、成形材料1の異物1aを除去する焼結フィルタ25と、この焼結フィルタ25に対向するブレーカープレート26とから構成する。
【0019】
成形材料1は、少なくとも結晶性樹脂含有を含有し、必要に応じて各種のフィラーを含有する。この成形材料1の結晶性樹脂としては、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等があげられる。これらの中で、第五世代移動通信システム用の高周波回路基板の製造に利用される場合には、比誘電率と誘電正接の低いポリアリーレンエーテルケトン樹脂が最適である。
【0020】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、アリーレン基、エーテル基、及びカルボニル基からなる結晶性の樹脂であり、例えば特許5709878号公報や特許第5847522号公報等に記載の樹脂があげられる。このポリアリーレンエーテルケトン樹脂の種類としては、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等が該当する。
【0021】
これらポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、特に限定されるものではないが、易入手性、コスト、及び樹脂フィルム2の成形性の観点からすると、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリエーテルケトンケトン樹脂が好適である。また、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、1種単独でも良いが、2種以上を混合して使用しても良く、化学構造を2つ以上有する共重合体でも良い。このようなポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、通常、粉状、顆粒状、ペレット状等の成形加工に適した形態で使用される。
【0022】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の具体例としては、Victrex Granules 381G〔ビクトレック社製:製品名〕、Victrex Granules 450G〔ビクトレック社製:製品名〕、キータスパイア(登録商標)KT851NL〔Huaian Ruanke有限会社製:製品名〕等があげられる。
【0023】
成形材料1に必要なフィラーが含有される場合、樹脂フィルム2の線膨張係数の低下を図りたいときには、樹脂フィルム2の寸法安定性に資するマイカ、炭酸カルシウム、非晶質シリカ等からなる無機フィラーが好適に使用される。この無機フィラーは、各種のマイカ、炭酸カルシウム、非晶質シリカ等からなるが、これらの中では、マイカが最適である。マイカ(雲母ともいう)は、フィロケイ酸鉱物雲母族に属する板状結晶であり、底面に完全な劈開を有していることを特徴とする鉱物である。このマイカは、自然界で産出される天然マイカ(白雲母、黒雲母、金雲母等)と、タルクを主原料として人工的に製造される合成マイカの2種類に分類され、工業的に優れた電気絶縁材料として広く用いられている。
【0024】
天然マイカは、その産地により組成や構造が異なり、加えて不純物を多く含むため、品質の安定した樹脂フィルム2の製造には不適切である。また、天然マイカは、水酸基〔OH基〕有しているため、耐熱性に問題がある。これに対し、合成マイカは、人工的に製造されたマイカで、組成や構造が一定であり、不純物も少ないため、寸法安定性等に優れる高品質の樹脂フィルム2の製造に最適である。また、合成マイカは、水酸基が全てフッ素〔F基〕で置換されているので、天然マイカより耐熱性に優れる。したがって、マイカは、天然マイカより合成マイカが好ましい。
【0025】
合成マイカは、水に対する挙動の違いにより、非膨潤性マイカと膨潤性マイカとに分類される。非膨潤マイカは、水と接触しても寸法安定性等に変化を起こさないタイプの合成マイカである。これに対し、膨潤性マイカは、空気中の水分等を吸収して膨潤し、劈開してしまう性質の合成マイカである。膨潤性マイカを使用した場合、膨潤性マイカが水分を含むため、樹脂フィルム2が成形中に発泡してしまうおそれがある。このため、合成マイカは寸法安定性や耐水性に優れる非膨潤性マイカが好ましく、より好ましくは600℃以上で熱処理された合成マイカが最適である。
【0026】
このような成形材料1は、例えばフィラーを含有する場合、結晶性樹脂と非膨潤性の合成マイカ等からなる無機フィラーとを撹拌混合することなく、溶融した結晶性樹脂100質量部中に無機フィラー5質量部以上30質量部以下を添加し、これらを溶融混練することにより調製される。無機フィラーの添加量が5質量部以上30質量部以下の範囲なのは、添加量が5質量部未満の場合には、樹脂フィルム2の線膨張係数の低減を図ることができず、逆に添加量が30質量部を越える場合には、樹脂フィルム2の靱性が失われて著しく脆くなり、樹脂フィルム2が成形中に損傷して製膜できないおそれがあるからである。
【0027】
溶融押出成形機10は、図1に示すように、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、投入された成形材料1を溶融混練してTダイス13方向に押し出すよう機能する。この溶融押出成形機10の上流側の上部後方には、成形材料1用の原料投入口11が設置され、この原料投入口11には、へリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給管12が接続されており、この不活性ガス供給管12による不活性ガスの流入により、成形材料1の結晶性樹脂の酸化劣化や酸素架橋が有効に防止される。
【0028】
溶融押出成形機10の温度は、樹脂フィルム2の成形が可能で、成形材料1の結晶性樹脂が分解しない温度であれば、特に制限されるものでないが、例えば結晶性樹脂がポリアリーレンエーテルケトン樹脂の場合、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲が良い。具体的には、360℃以上420℃以下、好ましくは380℃以上400℃以下が良い。これは、溶融押出成形機10の温度がポリアリーレンエーテルケトン樹脂の融点未満の場合には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が溶融せずに樹脂フィルム2の成形が困難となり、逆に熱分解温度以上の場合には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂が激しく分解するからである。
【0029】
Tダイス13は、図1に示すように、溶融押出成形機10の先端部に連結管14を介して装着され、透明帯形の樹脂フィルム2を連続的に下方に押出成形するよう機能する。このTダイス13の押出時の温度は、結晶性樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲である。これは、結晶性樹脂の融点未満の場合には、成形材料1の溶融押出成形に支障を来し、逆に熱分解温度を越える場合には、結晶性樹脂が激しく分解するおそれがあるからである。したがって、結晶性樹脂がポリアリーレンエーテルケトン樹脂の場合、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲であり、具体的には、360℃以上420℃以下、好ましくは380℃以上400℃以下とされる。
【0030】
Tダイス13の下方には、押出成形された高温の樹脂フィルム2を相対向する圧着ロール15との間に挟持して冷却する冷却ロール16が軸支され、この冷却ロール16の下流後方には、冷却された樹脂フィルム2を巻き取る巻取機17が設置される。
【0031】
冷却ロール16は、圧着ロール15と同様、金属ロールからなり、樹脂フィルム2の押出成形時に成形材料1の結晶性樹脂の融点未満の温度に調整され、結晶性樹脂の溶融を防いで樹脂フィルム2の成形を容易にする。例えば結晶性樹脂がポリアリーレンエーテルケトン樹脂の場合、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の融点(360℃)未満、具体的には、50℃以上230℃以下、好ましくは200℃、210℃、220℃程度に調整される。この温度調整の方法としては、空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒータや誘導加熱等があげられる。
【0032】
このような冷却ロール16は、圧着ロール15の周面に対して接離可能に軸支され、巻取機17の上流に常温の複数のテンションロール18を介して設置されており、圧着ロール15の周面との間の隙間が調整されることにより、摺接する樹脂フィルム2を冷却しながらその厚さを適宜変更する。樹脂フィルム2の厚さは、2μm以上1000μm以下であれば特に限定されるものではないが、高周波回路基板に利用される場合、高周波回路基板の厚さの充分な確保、ハンドリング性や薄型化の観点からすると、好ましくは10μm以上700μm以下、より好ましくは20μm以上400μm以下、さらに好ましくは25μm以上125μm以下が良い。
【0033】
圧着ロール15は、表面が金属の金属弾性ロールが使用され、この金属弾性ロールが使用される場合には、表面が平滑性に優れる樹脂フィルム2の成形が可能となる。この圧着ロール15の周面には、樹脂フィルム2と冷却ロール16との密着性を向上させるため、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム層が必要に応じて被覆形成される。これらの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの採用が好ましい。
【0034】
フィルタ装置20は、図1ないし図5に示すように、溶融押出成形機10の先端部の連結管14に接続される一対の拡散ハウジング21を備え、この一対の拡散ハウジング21の内部に、上流の溶融押出成形機10から流入して来た成形材料1の異物1aを除去する薄い焼結フィルタ25と、この焼結フィルタ25に対向して成形材料1を下流のTダイス13に流出させる厚いブレーカープレート26とが収容して保護される。一対の拡散ハウジング21は、基本的には略円板形に形成され、焼結フィルタ25とブレーカープレート26とを挟持して相対向する拡散ハウジング21と拡散ハウジング21とが周方向に配列される複数の各種締結具(ボルトやノックピン等)により螺子締めされることにより構成される。
【0035】
一対の拡散ハウジング21の外周面には、成形材料1を効率的、かつ均一に加熱するリング形のバンドヒータ(円筒ヒータ)22が固定具を介し隙間なく嵌合され、一対の拡散ハウジング21の外周面の一部には、ヒータのプラグ受け23が傾斜して突出形成される。
【0036】
バンドヒータ22は、特に限定されるものではないが、例えば帯形の鋼板、ステンレス板、あるいはマイカ板等が略C字形に湾曲形成され、表面に一対の接続端子が接続されて構成される。このバンドヒータ22により加熱されるフィルタ装置20の温度は、溶融押出成形機10の温度同様、樹脂フィルム2の成形が可能で、成形材料1の結晶性樹脂が分解しない温度、例えば結晶性樹脂がポリアリーレンエーテルケトン樹脂の場合には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲が良い。具体的には、360℃以上420℃以下、好ましくは380℃以上400℃以下が良い。
【0037】
各拡散ハウジング21の略中心部には、成形材料1用の接続流通路24が断面略漏斗形に形成される。この接続流通路24は、開口した拡径部が隣接する拡散ハウジング21の拡径部に対向し、開口した縮径部が溶融押出成形機10の連結管14に直接接続される。
【0038】
焼結フィルタ25は、例えばミクロン単位の短い金属繊維(ステンレス等)等からなる円形薄板の不織布フィルタ、あるいはブロンズやステンレス粉体の焼結により円形薄板に形成された多孔質フィルタであり、一対の拡散ハウジング21内の溶融押出成形機10側に配置されて拡散ハウジング21の接続流通路24の拡径部に対向した後、拡散ハウジング21の接続流通路24を流動して来た成形材料1の異物1aを除去するよう機能する。この焼結フィルタ25の目は、成形材料1にフィラーが含有される場合、フィラーの大きさに配慮して選択される。
【0039】
このような焼結フィルタ25としては、例えばメタルファイバー〔ニチダイフィルタ株式会社:製品名〕、メタルファイバー〔富士フィルター工業株式会社:製品名〕、粉末焼結金属フィルター〔株式会社Ring:製品名〕、焼結フィルタ25〔技研パーツ株式会社:製品名〕、焼結金属フィルター〔ウインテック株式会社:製品名〕等があげられる。
【0040】
ブレーカープレート26は、例えば多数の貫通孔を並べ備えた円形の厚い穿孔板に形成され、一対の拡散ハウジング21内のTダイス13側に配置されて拡散ハウジング21の接続流通路24の拡径部に対向した後、相対向する焼結フィルタ25の姿勢を安定させるよう支持してメディアとし、対向する焼結フィルタ25から流動して来た成形材料1の流れを規制するよう機能する。
【0041】
上記構成において、樹脂フィルム2を製造する場合には、先ず、溶融押出成形機10の原料投入口11に、成形材料1を不活性ガスを供給しながら投入し、溶融押出成形機10により成形材料1を溶融混練してTダイス13方向に押し出す。すると、成形材料1は、溶融押出成形機10から加熱されたフィルタ装置20の焼結フィルタ25とブレーカープレート26とを順次経由してTダイス13に流動し、このTダイス13から下方に高温の樹脂フィルム2が連続的に押出成形される。こうして押出成形された高温の樹脂フィルム2は、冷却ロール16、圧着ロール15、巻取機17の巻取管に順次巻架され、冷却ロール16により急冷された後、巻取機17の巻取管に順次巻き取られることにより、製造される。
【0042】
これらの製造の際、成形材料1の少なくとも結晶性樹脂中の異物1aは、フィルタ装置20の焼結フィルタ25に補足されるので、フィルタ装置20からTダイス13に流出することがない。したがって、成形材料1の結晶性樹脂、例えばポリアリーレンエーテルケトン樹脂の異物1aが製造時の樹脂フィルム2中に混在するのを有効に防止し、樹脂フィルム2の品質を大幅に向上させることができる。
【0043】
上記構成によれば、フィルタ装置20の焼結フィルタ25が成形材料1の結晶性樹脂中の異物1aを適切に補足するので、溶融押出成形機10とTダイス13との間に多数のフィルタを配列する必要性がない。したがって、部品点数を削減してフィルタ装置20の設置スペースを縮小することができる。また、多数のフィルタを分解する必要がないので、フィルタの交換作業やメンテナンス作業の簡素化を図ることができる。また、焼結フィルタ25として不織布フィルタを使用する場合、耐熱性、耐圧性、耐食性の向上が期待できる他、金属繊維の粗密多層構造により、大きさの異なる異物1aが内部に分散保持されるので、異物1a保有量を増大させることができる。
【0044】
また、焼結フィルタ25が不織布フィルタの場合、不織布フィルタの金属繊維が3次元構造を構成して密度が高いので、異物1a補足性能に優れ、特に結晶性樹脂中のゲル状異物1aに対して優れた効果が期待できる。また、金網フィルタではなく、焼結フィルタ25を使用するので、厚みが増す程に屈曲部分が増加し、微細な異物1aを除去することが可能となる。また、紙フィルタや布フィルタではなく、焼結フィルタ25を使用するので、圧力損失の恐れが少なく、長期使用が大いに期待できる。さらに、焼結フィルタ25が目詰まりしてろ過性能が低下した場合には、溶剤や酸性による洗浄、超音波洗浄により、半永久的に使用することが可能となる。
【0045】
なお、上記実施形態の成形材料1には、フッ素系樹脂や低誘電特性に資する繊維状の芳香族ポリアミド樹脂を含有しても良い。また、成形材料1には、上記樹脂やフィラーの他、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、無機化合物、有機化合物等を選択的に添加しても良い。また、冷却ロール16と巻取機17との間には、製造時の樹脂フィルム2にシワが生じるのを防止する複数の二次冷却ロール16を配列しても良い。
【0046】
また、溶融押出成形機10の連結管14に、溶融押出成形機10とフィルタ装置20との間に介在するギアポンプを接続し、このギアポンプにより、Tダイス13における圧力変動を最小化するようにしても良い。さらに、特に支障を来さなければ、一対の拡散ハウジング21の内部に、複数の焼結フィルタ25や複数種の焼結フィルタ25を収容することができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明に係る樹脂シートの製造装置及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、樹脂フィルムを製造するため、成形材料として、結晶性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン樹脂〔Huaian Ruanke有限会社製、製品名:キータスパイア(登録商標)KT851NL〕を用意し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。
【0048】
こうしてポリエーテルエーテルケトン樹脂を乾燥させたら、このポリエーテルエーテルケトン樹脂100質量部を、同方向回転二軸押出機〔φ42mm、L/D=38、ベルストルフ社製 製品名:K660〕のスクリュー根元付近に設けられた第一供給口であるホッパーに投入した。ポリエーテルエーテルケトン樹脂を投入したら、同方向回転二軸押出機のバレルの温度:350℃~370℃、スクリューの回転数:150rpm、時間当たりの吐出量:20kg/hrの条件下で溶融混練してストランド状に押し出し、この押出成形物を空冷固化した後、ペレット状にカッティングして成形材料を作製した。
【0049】
次いで、得られた成形材料を図1に示すTダイス付きの単軸押出成形機に投入して溶融混練し、この溶融混練した成形材料をフィルタ装置からTダイスに押し出し、このTダイスから高温の樹脂フィルムを帯形に押出成形した。単軸押出成形機は、L/D=32、圧縮比:2.5、スクリュー:フルフライトスクリューのタイプとした。この単軸押出成形機に成形材料を投入する際、不可性ガス供給管により窒素ガス18L/分を供給した。また、単軸押出成形機の温度は380~400℃、Tダイスの温度は400℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管とフィルタ装置の温度は400℃に調整した。フィルタ装置の焼結フィルタとしては、メタルファイバー〔ニチダイフィルタ株式会社:製品名〕を採用した。
【0050】
こうして樹脂フィルムを成形したら、この樹脂フィルムを、図1に示すような圧着ロール、冷却ロール、及びこれらの下流に位置する巻取機の6インチの巻取管に順次巻架するとともに、圧着ロールと冷却ロールとに挟持させて急冷し、連続した樹脂フィルムを巻取機に順次巻き取ることにより、厚さ50μm、長さ(巻数)100,000m、幅650mmの樹脂フィルムを製造した。
【0051】
次いで、1000mの樹脂フィルムを用意し、この樹脂フィルム中の異物の個数を計測して表1にまとめた。具体的な計測方法としては、CCDカメラと光源を使用して樹脂フィルム上に投影された影(暗欠点)を異物と看做し、この異物の個数を計測した。計測する異物は、面積0.8mm以上と、面積0.1mm以上の2種類とした。
【0052】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様であるが、長さ(巻数)32,000mの樹脂フィルムを製造した。樹脂フィルムを製造したら、1000mの樹脂フィルムを用意し、この樹脂フィルム中の異物の個数を計測して表1にまとめた。
【0053】
〔比較例1〕
先ず、樹脂フィルムを製造するため、成形材料として、結晶性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン樹脂〔Huaian Ruanke有限会社製、製品名:キータスパイア(登録商標)KT851NL〕を用意し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂を160℃に加熱した除湿熱風乾燥器で12時間以上乾燥させた。
【0054】
こうしてポリエーテルエーテルケトン樹脂を乾燥させたら、このポリエーテルエーテルケトン樹脂100質量部を、同方向回転二軸押出機〔φ42mm、L/D=38、ベルストルフ社製 製品名:K660〕のスクリュー根元付近に設けられた第一供給口であるホッパーに投入した。ポリエーテルエーテルケトン樹脂を投入したら、同方向回転二軸押出機のバレルの温度:350℃~370℃、スクリューの回転数:150rpm、時間当たりの吐出量:20kg/hrの条件下で溶融混練してストランド状に押し出し、この押出成形物を空冷固化した後、ペレット状にカッティングして成形材料を作製した。
【0055】
次いで、得られた成形材料をTダイス付きの単軸押出成形機に投入して溶融混練し、この溶融混練した成形材料を単軸押出成形機からTダイスに押し出し、このTダイスから高温の樹脂フィルムを帯形に押出成形した。単軸押出成形機は、L/D=32、圧縮比:2.5、スクリュー:フルフライトスクリューのタイプとした。この単軸押出成形機に成形材料を投入する際、不可性ガス供給管により窒素ガス18L/分を供給した。また、単軸押出成形機の温度は380~400℃、Tダイスの温度は400℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は400℃に調整した。フィルタ装置は、実施例と異なり、省略した。
【0056】
こうして樹脂フィルムを成形したら、この樹脂フィルムを、圧着ロール、冷却ロール、及びこれらの下流に位置する巻取機の6インチの巻取管に順次巻架するとともに、圧着ロールと冷却ロールとに挟持させ、連続した樹脂フィルムを巻取機に順次巻き取ることにより、厚さ50μm、長さ(巻数)43,000m、幅650mmの樹脂フィルムを製造した。
【0057】
次いで、1000mの樹脂フィルムを用意し、この樹脂フィルム中の異物の個数を計測して表1にまとめた。具体的な計測方法としては、CCDカメラと光源を使用して樹脂フィルム上に投影された影(暗欠点)を異物と看做し、この異物の個数を計測した。計測する異物は、面積0.8mm以上と、面積0.1mm以上の2種類とした。
【0058】
〔比較例2〕
基本的には比較例1と同様であるが、長さ(巻数)15,000mの樹脂フィルムを製造した。樹脂フィルムを製造したら、1000mの樹脂フィルムを用意し、この樹脂フィルム中の異物の個数を計測して表1に記載した。
【0059】
【表1】
【0060】
〔評 価〕
各実施例の場合、フィルタ装置の焼結フィルタにより、樹脂フィルム中の異物数を大幅に軽減することができた。この実施例によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の異物が樹脂フィルム中に混入するのを有効に防止し、樹脂フィルムの品質が向上するのを確認した。また、溶融押出成形機とTダイスとの間に、多数のフィルタを配列する手間を省けることを確認した。
これに対し、各比較例の場合、フィルタ装置を省略したので、樹脂フィルム中の異物数を低減することができず、樹脂フィルムの品質向上を図ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る樹脂シートの製造装置及びその製造方法は、樹脂シートの製造分野で使用される。
【符号の説明】
【0062】
1 成形材料
1a 異物
2 樹脂フィルム(樹脂シート)
10 溶融押出成形機
13 Tダイス(ダイ)
14 連結管
15 圧着ロール
16 冷却ロール
17 巻取機
20 フィルタ装置
21 拡散ハウジング(ハウジング)
22 バンドヒータ
24 接続流通路
25 焼結フィルタ
26 ブレーカープレート
図1
図2
図3
図4
図5