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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】電池劣化診断システム及び診断処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240612BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240612BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240612BHJP
   G01R 31/396 20190101ALI20240612BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240612BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240612BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/367
G01R31/396
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
H01M10/42 P
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020101071
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2020205253
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019112251
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 匠
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昭純
(72)【発明者】
【氏名】宮下 夏樹
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-140055(JP,A)
【文献】特開2017-106889(JP,A)
【文献】特開2014-120821(JP,A)
【文献】特開2015-224876(JP,A)
【文献】特開2019-39700(JP,A)
【文献】特開2014-110106(JP,A)
【文献】特開2013-120640(JP,A)
【文献】特開2018-159586(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0181245(US,A1)
【文献】特開2015-21934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の電気特性の状態に関する電池状態データを測定する測定装置と、
前記二次電池の劣化状態を診断する診断処理装置と、を含み、
前記診断処理装置は、
前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、
前記測定装置から前記電池状態データを受信する受信手段と、
前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、
前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置へ送信する送信手段と、を備え、
前記記憶手段は、前記測定装置のプローブに関するプローブ情報ごとに、前記演算手段によって演算される前記二次電池の劣化状態を補正するための補正情報を記憶し、
前記受信手段は、前記測定装置の通信手段から前記プローブ情報をさらに受信し、
前記演算手段は、前記受信手段により受信される前記プローブ情報に対応する前記補正情報を前記記憶手段から選択し、当該補正情報を用いて前記二次電池の劣化状態を演算する、電池劣化診断システム。
【請求項2】
二次電池の電気特性の状態に関する電池状態データを測定する測定装置と、
前記二次電池の劣化状態を診断する診断処理装置と、を含み、
前記診断処理装置は、
前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、
前記測定装置から前記電池状態データを受信する受信手段と、
前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、
前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置へ送信する送信手段と、を備え、
前記記憶手段は、前記電池劣化情報として前記二次電池の劣化状態ごとに前記二次電池のインピーダンススペクトルが対応付けられた対応テーブルをあらかじめ記憶し、
前記測定装置は、前記電池状態データとして複数の周波数で前記二次電池の交流インピーダンスの実部及び虚部を測定し、
前記演算手段は、前記測定装置によって測定される前記二次電池の電圧の大きさに応じて前記二次電池の劣化状態を補正するような演算を行う、
電池劣化診断システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電池劣化診断システムであって、
前記記憶手段は、前記二次電池の種類ごとに前記電池劣化情報をあらかじめ記憶し、
前記受信手段は、前記二次電池の種類を示す種類情報をさらに受信し、
前記演算手段は、前記記憶手段から前記種類情報にて特定される前記電池劣化情報を選択し、当該電池劣化情報を参照して前記二次電池の劣化状態を演算する、
電池劣化診断システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電池劣化診断システムであって、
前記診断処理装置は、
前記受信手段が前記電池状態データを受信するたびに当該電池状態データを前記記憶手段に対して時系列に記録する記録手段をさらに備える、
電池劣化診断システム。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の電池劣化診断システムであって、
前記二次電池の劣化特性を学習して当該劣化特性を示す結果を出力する学習装置をさらに含み、
前記診断処理装置は、前記学習装置から出力される結果に応じて前記記憶手段の前記電池劣化情報を更新する更新手段をさらに備える、
電池劣化診断システム。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の電池劣化診断システムであって、
複数の周波数で測定される前記二次電池の交流インピーダンスの実部及び虚部の値に基づいて前記二次電池の劣化状態を演算するか否かを判断する判断手段をさらに含む、
電池劣化診断システム。
【請求項7】
二次電池の電気特性の状態に関する電池状態データを測定する測定装置に対して通信を行う診断処理装置であって、
前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、
前記測定装置から前記電池状態データを受信する受信手段と、
前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、
前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置に送信する送信手段と、を備え
前記記憶手段は、前記測定装置のプローブに関するプローブ情報ごとに、前記演算手段によって演算される前記二次電池の劣化状態を補正するための補正情報を記憶し、
前記受信手段は、前記測定装置の通信手段から前記プローブ情報をさらに受信し、
前記演算手段は、前記受信手段により受信される前記プローブ情報に対応する前記補正情報を前記記憶手段から選択し、当該補正情報を用いて前記二次電池の劣化状態を演算する、
診断処理装置。
【請求項8】
二次電池の電気特性の状態に関する電池状態データを測定する測定装置に対して通信を行う診断処理装置であって、
前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、
前記測定装置から前記電池状態データを受信する受信手段と、
前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、
前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置に送信する送信手段と、を備え、
前記記憶手段は、前記電池劣化情報として前記二次電池の劣化状態ごとに前記二次電池のインピーダンススペクトルが対応付けられた対応テーブルをあらかじめ記憶し、
前記受信手段は、前記測定装置から、複数の周波数で測定される前記二次電池の交流インピーダンスの実部及び虚部を示す測定データを前記電池状態データとして受信し、
前記演算手段は、前記記憶手段に記憶された前記対応テーブルを参照し、前記測定データにて特定されるインピーダンススペクトルに対応する前記二次電池の劣化状態を演算し、
前記受信手段は、前記測定装置から前記二次電池の電圧を含む前記電池状態データとして受信し、
前記演算手段は、前記電池状態データに示される前記二次電池の電圧の大きさに応じて前記二次電池の劣化状態を補正するような演算を行う、
診断処理装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の診断処理装置であって、
前記記憶手段は、前記二次電池の種類ごとに前記電池劣化情報をあらかじめ記憶し、
前記受信手段は、前記二次電池の種類を示す種類情報をさらに受信し、
前記演算手段は、前記記憶手段から前記種類情報にて特定される前記電池劣化情報を選択し、当該電池劣化情報を参照して前記二次電池の劣化状態を演算する、
診断処理装置。
【請求項10】
請求項7から請求項9までのいずれか1項に記載の診断処理装置であって、
前記受信手段が前記電池状態データを受信するたびに当該電池状態データを時系列に前記記憶手段に記録する記録手段をさらに備える、
診断処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載の診断処理装置であって、
前記記憶手段は、前記二次電池を識別するための識別情報ごとに前記電池状態データを時系列に示す電池情報を記憶し、
前記受信手段は、前記二次電池の前記識別情報をさらに受信し、
前記演算手段は、前記受信手段により受信される前記識別情報にて特定される前記二次電池の前記電池情報を前記記憶手段から選択し、当該電池情報を用いて前記電池劣化情報を補正することにより前記二次電池の劣化状態を演算する、
診断処理装置。
【請求項12】
請求項から請求項11までのいずれか1項に記載の診断処理装置であって、
前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を更新する更新手段を備え、
前記受信手段は、前記二次電池の劣化特性を学習する学習装置から、学習した前記劣化特性を示す結果を受信し、
前記更新手段は、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を前記結果に書き換える、
診断処理装置。
【請求項13】
請求項から請求項12までのいずれか1項に記載の診断処理装置であって、
前記演算手段によって前記二次電池の劣化状態を演算するか否かを判断する判断手段をさらに含み、
前記受信手段は、前記二次電池の安定性を評価するための測定データを前記電池状態データとして受信し、
前記判断手段は、前記測定データに基づいて前記二次電池の劣化状態の演算を行うか否かを判断する、
診断処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の劣化状態を診断する電池劣化診断システム及び診断処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電池及び不揮発性のメモリを備える二次電池モジュールと、その電池の寿命を予測するために所定の時間間隔ごとに電池の使用によって変化した電池情報を計測して上記メモリに書き込むコントローラと、を備えるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5039980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のコントローラを構成する測定装置は、二次電池モジュール内の電池に関する電池情報を所定の時間間隔でメモリに記憶しなければならず、電池情報の取得には時間を要する。さらに、そのメモリに書き込まれた電池情報に基づき二次電池の寿命などの劣化状態を診断するには測定装置の演算負荷が大きくなってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、測定装置の演算負荷を軽減しつつ、速やかに電池の劣化状態を診断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様によれば、電池診断システムは、前記二次電池の電気特性の状態を示す電池状態データを測定する測定装置と、前記二次電池の劣化状態を診断する診断処理装置と、を含む。そして前記診断処理装置は、前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、前記測定装置から前記電池状態データを受信する受信手段と、を含む。前記診断処理装置は、前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置に送信する送信手段と、を備える。そして前記記憶手段は、前記測定装置のプローブに関するプローブ情報ごとに、前記演算手段によって演算される前記二次電池の劣化状態を補正するための補正情報を記憶し、前記受信手段は、前記測定装置の通信手段から前記プローブ情報をさらに受信し、前記演算手段は、前記受信手段により受信される前記プローブ情報に対応する前記補正情報を前記記憶手段から選択し、当該補正情報を用いて前記二次電池の劣化状態を演算する。
本発明の第二の態様によれば、電池診断システムは、前記二次電池の電気特性の状態を示す電池状態データを測定する測定装置と、前記二次電池の劣化状態を診断する診断処理装置と、を含む。そして前記診断処理装置は、前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、前記測定装置から前記電池状態データを受信する受信手段と、を含む。前記診断処理装置は、前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置に送信する送信手段と、を備える。そして前記記憶手段は、前記電池劣化情報として前記二次電池の劣化状態ごとに前記二次電池のインピーダンススペクトルが対応付けられた対応テーブルをあらかじめ記憶し、前記測定装置は、前記電池状態データとして複数の周波数で前記二次電池の交流インピーダンスの実部及び虚部を測定し、前記演算手段は、前記測定装置によって測定される前記二次電池の電圧の大きさに応じて前記二次電池の劣化状態を補正するような演算を行う。
【0007】
また、第三の態様によれば、二次電池の電気特性の状態を示す電池状態データを測定する測定装置と通信を行う診断処理装置は、前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、前記測定装置によって測定された前記電池状態データを受信する受信手段と、を含む。そして診断処理装置は、前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置に送信する送信手段と、を備える。そして前記記憶手段は、前記測定装置のプローブに関するプローブ情報ごとに、前記演算手段によって演算される前記二次電池の劣化状態を補正するための補正情報を記憶し、前記受信手段は、前記測定装置の通信手段から前記プローブ情報をさらに受信し、前記演算手段は、前記受信手段により受信される前記プローブ情報に対応する前記補正情報を前記記憶手段から選択し、当該補正情報を用いて前記二次電池の劣化状態を演算する。
また、第四の態様によれば、二次電池の電気特性の状態を示す電池状態データを測定する測定装置と通信を行う診断処理装置は、前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、前記測定装置によって測定された前記電池状態データを受信する受信手段と、を含む。そして診断処理装置は、前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置に送信する送信手段と、を備える。そして前記記憶手段は、前記電池劣化情報として前記二次電池の劣化状態ごとに前記二次電池のインピーダンススペクトルが対応付けられた対応テーブルをあらかじめ記憶し、前記受信手段は、前記測定装置から、複数の周波数で測定される前記二次電池の交流インピーダンスの実部及び虚部を示す測定データを前記電池状態データとして受信し、前記演算手段は、前記記憶手段に記憶された前記対応テーブルを参照し、前記測定データにて特定されるインピーダンススペクトルに対応する前記二次電池の劣化状態を演算し、前記受信手段は、前記測定装置から前記二次電池の電圧を含む前記電池状態データとして受信し、前記演算手段は、前記電池状態データに示される前記二次電池の電圧の大きさに応じて前記二次電池の劣化状態を補正するような演算を行う。
【発明の効果】
【0009】
この態様によれば、診断処理装置において、あらかじめ記憶された電池劣化情報が参照されることにより、測定装置にて測定された電池状態データに対応する二次電池の劣化状態が速やかに取得される。それゆえ、測定装置における演算負荷を軽減しつつ、速やかに電池の劣化状態を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態における電池劣化診断システムの構成を示す図である。
図2図2は、電池診断システムにおける診断処理装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、診断処理装置に記憶される電池劣化情報の一例を示す観念図である。
図4図4は、電池劣化情報において二次電池の温度ごとに記憶される二次電池の劣化パターンの一例を示す観念図である。
図5図5は、二次電池の電圧ごとに記憶される二次電池の劣化パターンの一例を示す観念図である。
図6図6は、電池診断システムにおける測定装置の機能構成を示すブロック図である。
図7図7は、本実施形態における二次電池の劣化状態を診断する方法を示すフローチャートである。
図8図8は、電池劣化情報を更新する手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態における電池劣化診断システム100の構成を示す図である。
【0013】
電池劣化診断システム100は、例えば、二次電池10をリユースするために、又は二次電池10を交換するために、二次電池10の動作状態を測定した結果である測定結果に基づいて二次電池10の劣化状態を診断する。劣化状態の診断においては、例えば、二次電池10の劣化の程度又は二次電池10の劣化の有無の判定がなされる。
【0014】
電池劣化診断システム100は、二次電池10と、測定装置20と、通信装置30と、診断処理装置40と、を備える。通信装置30及び診断処理装置40は互いにネットワーク50を介して接続される。ネットワーク50は、例えば、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、携帯電話網、及び近距離無線通信ネットワークなどによって構成される。
【0015】
本実施形態においては、別個の二次電池10ごとに測定装置20を用いて二次電池10の動作状態が測定され、測定装置20に接続された通信装置30の各々がネットワーク50を介して二次電池10の測定結果を診断処理装置40へ送信する。診断処理装置40は、通信装置30の各々から二次電池10の測定結果を受信すると、受信した測定結果ごとに二次電池10の測定結果に基づいて二次電池10の劣化状態を診断する。診断処理装置40は、測定結果ごとに二次電池10の劣化状態を診断した結果である診断結果を、ネットワーク50を介して送信元の通信装置30に接続された測定装置20へ送信する。
【0016】
二次電池10は、充放電可能に構成された蓄電池であり、電気二重層キャパシタなどのコンデンサ型の蓄電素子を含む蓄電デバイスである。二次電池10は、複数の素電池が並列、直列又は直並列に接続された組電池でもよく、単電池であってもよい。
【0017】
二次電池10としては、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムイオン全固体電池、ナトリウムイオン電池などが挙げられる。その他に、水溶液系電気二重層キャパシタ、又は排水溶液系電気二重層キャパシタなども二次電池10として用いることができる。
【0018】
測定装置20は、二次電池10の電気特性の状態に関する電池状態データを測定する。電池状態データには、例えば、二次電池10の電気特性の他に、二次電池10の温度又は電圧が含まれる。
【0019】
二次電池10の電気特性としては、例えば、交流インピーダンス法によって測定される交流インピーダンスの値、内部抵抗の値、開回路時の電圧値、電流値の範囲、及び二次電池10から取り出される取出し電力の値などが挙げられる。測定装置20は、無線又は有線を介して、測定結果である二次電池10の電池状態データを通信装置30に出力する。
【0020】
通信装置30は、ネットワーク50を介して測定装置20と診断処理装置40との間の通信を行う通信手段を構成する。すなわち、通信装置30は、測定装置20の通信手段として用いられる。通信装置30は、例えば、パーソナルコンピュータ、又はスマートフォン若しくはタブレットなどの携帯端末によって構成される。
【0021】
通信装置30は、測定装置20から二次電池10の測定結果を取得すると、その測定結果を診断処理装置40宛に送信する。診断処理装置40の宛先を示す送信先情報は、通信装置30のメモリにあらかじめ記憶されているものでもよく、あるいは、ユーザの入力操作によって設定されるものでもよい。
【0022】
診断処理装置40は、測定装置20による測定結果に基づいて二次電池10の劣化状態を診断してその診断結果を測定装置20に伝送するサーバであり、例えばクラウドサーバによって構成される。
【0023】
本実施形態において診断処理装置40は、ネットワーク50を介して測定装置20からの電池状態データを受信し、受信した電池状態データに基づいて二次電池10の劣化状態を判定する。診断処理装置40は、判定した劣化状態を示す診断結果を、ネットワーク50を介して通信装置30宛に送信する。診断処理装置40には通信装置30の宛先を示す送信元情報があらかじめ設定されている。
【0024】
通信装置30は、診断処理装置40からネットワーク50を介して診断結果を受信し、受信した診断結果を測定装置20に伝送する。これにより、測定装置20は、通信装置30から取得した診断結果を表示するとともにその診断結果を測定結果と関連付けて自身のメモリに書き込むことによって記録する。
【0025】
次に、電池劣化診断システム100における診断処理装置40の構成について図2乃至図4を参照して説明する。
【0026】
図2は、本実施形態における診断処理装置40の機能構成を示すブロック図である。
【0027】
診断処理装置40は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、大容量記憶デバイス、入出力インターフェース、及び、これらを相互に接続するバスなどによって構成されるコンピュータである。大容量記憶デバイスとしては、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)などが挙げられる。診断処理装置40は、記憶部41と、通信部42と、診断処理部43と、を備える。
【0028】
記憶部41は、診断処理装置40の動作を制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。記憶部41は、例えば、RAM及びROMに加えてHDD又はSSDによって構成される。記憶部41は、基準劣化特性記憶部411と電池情報記憶部412とを備える。
【0029】
基準劣化特性記憶部411は、二次電池10の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段を構成する。
【0030】
二次電池10の劣化特性とは、二次電池10の劣化に伴う特定の電気特性の変化のことである。二次電池10の劣化特性としては、例えば、二次電池10の劣化度、寿命(SOL:State of Life)、交流インピーダンスの変化、出力電圧の変化、又は最大許容電流の変化などが用いられる。
【0031】
二次電池10の劣化度は、二次電池10の劣化の程度を示すパラメータであり、例えば二次電池10の満充電容量の定格容量に対する比率を示すSOH(States Of Health)が挙げられる。
【0032】
電池劣化情報としては、例えば、二次電池10の劣化特性の基準となる劣化パターンを示す対応テーブル、又は、二次電池10の劣化状態を判定するための基準となる閾値などが挙げられる。この閾値としては、二次電池10の内部抵抗、開回路時の電圧、電流値の範囲、又は取出し電力などの判定閾値があり、これらの判定閾値は、劣化試験又はシミュレーションなどによってあらかじめ定められる。
【0033】
上述の対応テーブルには、二次電池10の劣化状態ごとに二次電池10の電気特性が対応付けられる。具体的には、二次電池10の使用状況を示すパラメータごとに、複数の周波数における二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部を示すインピーダンススペクトルと、二次電池10の劣化度と、が互いに対応付けられる。
【0034】
上述の二次電池10のインピーダンススペクトルは、各周波数における交流インピーダンスの実部及び虚部の数値によって特定されてもよく、これらの値から導出される近似線を表す関数によって特定されてもよい。ここにいう近似線を表す関数は、例えば、二次電池10の等価回路を構成する抵抗素子及び容量素子などのパラメータの定数によって算出される。
【0035】
また、二次電池10の使用状況を示すパラメータは、そのパラメータの数値が変化することに伴って二次電池10のインピーダンススペクトルが変化するものであり、例えば、二次電池10の使用温度又は使用電圧などがある。これらのパラメータは、例えば二次電池10の劣化状態を補正するための補正パラメータとして用いられる。
【0036】
本実施形態においては、二次電池10の使用状況を示すパラメータとして二次電池10の温度と二次電池10の電圧とが用いられる。そして、これらのパラメータの値ごとに、二次電池10のインピーダンススペクトルと、二次電池10の劣化度と、を互いに対応付けた対応テーブルが基準劣化特性記憶部411に記憶されている。
【0037】
また、二次電池10の劣化特性は、二次電池10の型名又は型番などの種類によっても変わる。このため、本実施形態では、二次電池10の種類ごとに電池劣化情報が基準劣化特性記憶部411に記憶されている。このような電池劣化情報は、例えば、二次電池10の劣化試験、シミュレーション、又は、これらの機械学習などよって得られる。電池劣化情報については図3乃至図5を参照して後述する。
【0038】
電池情報記憶部412は、二次電池10を識別するための電池識別情報ごとに、二次電池10の動作状態の履歴を管理するための電池情報を記憶する。電池識別情報としては、例えば、二次電池10の製造番号又は電池識別番号などの個体番号が用いられる。
【0039】
通信部42は、測定装置20に接続される通信装置30に対して通信を行う。本実施形態の通信部42は、受信部421及び送信部422を備える。
【0040】
受信部421は、測定装置20から出力される二次電池10の電池状態データを受信する受信手段を構成する。本実施形態において受信部421は、複数の周波数で測定された二次電池10の交流インピーダンスの測定値と二次電池10の温度の測定値と二次電池10の電圧の測定値とを示す電池状態データを受信する。
【0041】
さらに受信部421は、測定装置20から、二次電池10の電池識別情報と、二次電池10の種類を特定するための種類情報と、を受信する。受信部421は、二次電池10の種類情報を受信した場合には、二次電池10の種類情報とともにその電池状態データを診断処理部43に出力する。
【0042】
診断処理部43は、受信部421が電池状態データを受信した場合には基準劣化特性記憶部411に記憶された電池劣化情報を参照し、受信部421から取得した電池状態データに対応する二次電池10の劣化状態を演算する演算手段を構成する。また、診断処理部43は、受信部421が電池状態データを受信するたびに、その電池状態データを時系列に電池情報記憶部412に記録する記録手段を構成する。
【0043】
本実施形態において診断処理部43は、受信部421によって電池状態データが受信された場合には、受信部421から二次電池10の種類情報を取得する。診断処理部43は、二次電池10の種類情報を取得すると、基準劣化特性記憶部411に記憶された複数の電池劣化情報の中から、その種類情報に示された二次電池10の種類に対応する電池劣化情報を選択する。
【0044】
そして診断処理部43は、選択した電池劣化情報を参照し、電池状態データに示された交流インピーダンスの各々の実部及び虚部の測定値と二次電池10の温度の測定値と二次電池10の電圧の測定値とにそれぞれ対応する二次電池10のSOHを求める。その後、診断処理部43は、求めたSOHの値を二次電池10の劣化状態として表示する。
【0045】
さらに診断処理部43は、求めたSOHの値に応じて二次電池10の劣化状態を判定することもできる。具体的には、診断処理部43は、二次電池10のSOHが「1.0」から小さくなるにつれて、二次電池10の劣化が進行していると判定する。より詳細には、診断処理部43は、二次電池10の劣化状態を段階的に分類した複数の劣化ステージの中から、求めたSOHの値に対応する劣化ステージを特定する。
【0046】
診断処理部43は、判定した二次電池10の劣化状態を示す診断結果を、受信した電池状態データの測定結果と関連付けて電池情報記憶部412に記録する。これにより、電池情報記憶部412には、二次電池10ごとに測定結果及び診断結果の双方を時系列に示した使用履歴データが生成されることになるので、診断処理部43は、二次電池10の各々の使用履歴データを一元的に管理することができる。例えば、二次電池10の各々について不具合の有無、又は交換の要否などを判断することができる。
【0047】
また、診断処理部43は、多数の二次電池10の使用履歴データを用いて、二次電池10のインピーダンススペクトルと二次電池10の温度と二次電池10の電圧との対応関係を求め、その対応関係に基づいて電池劣化情報を補正するものであってもよい。あるいは、二次電池10ごとに上記の対応関係を求め、二次電池10ごとに電池劣化情報に示された対応関係を補正してもよい。
【0048】
診断処理部43は、二次電池10の診断結果を電池情報記憶部412に記憶するとともに、その診断結果を送信部422に出力する。
【0049】
送信部422は、診断処理部43によって演算された二次電池10の劣化状態を示す診断結果を測定装置20宛に送信する送信手段を構成する。本実施形態において送信部422は、診断処理部43から二次電池10の診断結果を取得すると、その診断結果を、診断対象である二次電池10の測定結果を送信した送信元の通信装置30宛に送信する。
【0050】
なお、本実施形態では診断処理部43が二次電池10の動作状態にかかわらず、二次電池10の劣化状態を診断したが、二次電池10の電気特性が不安定な状態である場合には、二次電池10の診断を抑制することが好ましい。
【0051】
そのため、診断処理部43は、測定装置20からの電池状態データのうち二次電池10の安定性を評価するための測定データを用いて二次電池10の劣化診断を許可するか否かを判断してもよい。安定性評価のための測定データとしては、例えば、二次電池10の電圧を時系列に示した測定データ、又は複数の周波数で測定された二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部を示した測定データなどが挙げられる。
【0052】
具体的には、診断処理部43は、二次電池10の動作開始(始動)の際に生じる電圧変動などを検出するために、二次電池10の電圧の測定を開始してから所定の期間、例えば一分間経過した際の二次電池10の電圧変動量が許容範囲内にあるか否かを判断する。そして診断処理部43は、二次電池10の電圧変動量が許容範囲内である場合には二次電池10が安定した状態であると判断し、二次電池10の電圧変動量が許容範囲外である場合には二次電池10が不安定な状態であると判断する。
【0053】
これに代えて診断処理部43は、例えばKramers-Kronigの関係式に、複数の周波数で測定された二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部の値を適用して二次電池10の安定性を評価してもよい。すなわち、診断処理部43は、複数の周波数で測定される二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部の値に基づいて二次電池10の劣化状態を演算するか否かを判断する。
【0054】
このような処理を実行する診断処理部43は、二次電池10の安定性を評価するための測定データに基づいて二次電池10の劣化状態を演算する処理を実行するか否かを判断する判断手段として機能する。
【0055】
診断処理部43は、二次電池10が安定な状態であると評価された場合には、二次電池10の劣化状態の演算を実行する。一方、診断処理部43は、二次電池10が不安定な状態であると評価された場合には、二次電池10の劣化状態の演算を禁止、停止又は中断したり、演算結果の送信を停止したりする。このように二次電池10の劣化状態の演算を抑制する場合、診断処理部43は、測定装置20に対し、二次電池10が不安定な状態である旨を通知してもよく、あるいは測定のやり直しを指示してもよい。これにより、測定装置20は、二次電池10が不安定な状態である旨を示す画像、又は、測定のやり直しを促すための画像を測定者に対して表示することができる。
【0056】
また、上述の処理については、診断処理部43に代えて測定装置20が二次電池10の劣化状態の演算を行うか否かを判断してもよい。この場合、測定装置20は、二次電池10の電圧と複数の周波数での二次電池10の交流インピーダンスとのうち少なくとも一方の物理量を測定し、測定した少なくとも一方の物理量に基づいて二次電池10の劣化状態の演算を行うか否かを判断する。このように、診断処理部43に代えて測定装置20が、二次電池10の安定性を評価するための測定データに基づいて二次電池10の劣化状態を演算(診断)するか否かを判断する判断手段を備えてもよい。
【0057】
次に、基準劣化特性記憶部411に記憶される電池劣化情報について図3乃至図5を参照して説明する。
【0058】
図3は、電池劣化情報に示される二次電池10の劣化パターンの一例を示す観念図である。図3には、横軸を二次電池10の交流インピーダンスの実部とし、縦軸を二次電池10の交流インピーダンスの虚部としたCole-Coleプロットが示されている。
【0059】
この例では、二次電池10の劣化度を示すSOHごとに二次電池10のインピーダンススペクトルが示されている。図3に示すように、二次電池10の劣化度が大きくなるほど、すなわち二次電池10のSOHが「1.0」よりも小さくなるほど、インピーダンススペクトルにおける極点の実部の値が増加する。
【0060】
このように電池劣化情報には、二次電池10の劣化度と二次電池10のインピーダンススペクトルが互いに対応付けられている。
【0061】
図4は、二次電池10の使用温度に応じて変化する二次電池10の劣化パターンの一例を示す観念図である。図4には、図3と同じようにCole-Coleプロットが示されている。
【0062】
この例では、二次電池10が使用されている状況での二次電池10の使用温度ごとに、劣化度を示すSOHが互いに同一である二次電池10についてのインピーダンススペクトルが示されている。このように、劣化度が同じ二次電池10であっても、二次電池10の使用温度が低くなるにつれて、二次電池10のインピーダンススペクトルが変化する。
【0063】
このため、本実施形態においては、二次電池10の温度ごとに、二次電池10のインピーダンススペクトルと二次電池10のSOHとの対応関係を示す対応テーブルが電池劣化情報として用いられる。
【0064】
この電池劣化情報を記憶する診断処理装置40は、測定装置20から電池状態データを受信すると、電池劣化情報を参照し、公知の演算手法を利用して二次電池10のSOHを算出する。一例として、診断処理装置40は、その電池状態データに示された二次電池10の温度に対応するインピーダンススペクトルを二次電池10のSOHごとに抽出する。そして診断処理装置40は、二次電池10のSOHごとに抽出したインピーダンススペクトルの中から、電池状態データに示された複数の周波数における交流インピーダンスの実部及び虚部の測定値に対して相関性が最も高いインピーダンススペクトルを選択する。診断処理装置40は、選択したインピーダンススペクトルに対応付けられたSOHの値を二次電池10の劣化状態として特定する。
【0065】
なお、二次電池10の劣化状態を特定するためのSOHの各値に対応付けられたインピーダンススペクトルの選択手法としては、上述の手法に限られるものではない。一例として複数のインピーダンススペクトルを選択し、これらと電池状態データとの相関性を用いて重み付けしたSOHの値を求め、重み付けの高いSOHの値を二次電池10の劣化状態として特定してもよい。
【0066】
このように、本実施形態における診断処理装置40は、二次電池10の使用温度の大きさに応じて二次電池10の劣化状態を補正するような演算を実施する。これにより、二次電池10の劣化状態を診断する精度を高めることが可能となる。なお、電池劣化情報を用いて二次電池10の劣化状態を演算する手法としては、上述の演算手法に限られるものではなく、その他の公知の演算手法を利用してもよい。
【0067】
図5は、二次電池10の使用電圧に応じて変化する二次電池10の劣化パターンの一例を示す観念図である。図5には、図4と同じようにCole-Coleプロットが示されている。
【0068】
この例では、劣化度を示すSOHが互いに同一である二次電池10のインピーダンススペクトルが二次電池10の使用電圧ごとに示されている。図5に示すように、劣化度が同じ二次電池10であっても、図4に示した二次電池10の使用温度と同様、二次電池10の使用電圧が高くなるにつれて二次電池10のインピーダンススペクトルが変化する。
【0069】
この点を考慮し、本実施形態では、二次電池10の電圧ごとに、二次電池10のインピーダンススペクトルと二次電池10のSOHと二次電池10の温度との対応関係を示す対応テーブルが基準劣化特性記憶部411に記憶されている。これにより、診断処理装置40は、二次電池10の使用電圧の大きさに応じて二次電池10のSOHを補正するような演算を実施することができる。
【0070】
なお、本実施形態では二次電池10の劣化度を補正する補正パラメータとして二次電池10の使用温度及び二次電池10の使用電圧の双方が用いられているが、二次電池10の使用温度のみを用いてもよい。この場合であっても、二次電池10の劣化診断の精度を高めることができる。
【0071】
次に、電池劣化診断システム100における測定装置20の構成について詳細に説明する。
【0072】
図6は、本実施形態における測定装置20の機能構成を示すブロック図である。
【0073】
測定装置20は、CPU、ROM、RAM、外部記憶装置、入出力インターフェース、及び、これらを相互に接続するバスなどによって構成されるコンピュータである。ROM及びRAMは、測定装置20の動作を制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を構成する。外部記憶装置としては、例えば、フラッシュメモリ又はSDカードなどが挙げられる。
【0074】
測定装置20は、操作受付部21と、電池測定部22と、測定結果出力部23と、診断結果取得部24と、表示部25と、を備える。
【0075】
操作受付部21は、ユーザの入力操作を受け付け、その受け付けた入力操作を示す操作信号を電池測定部22及び測定結果出力部23の双方に出力する。操作受付部21は、例えば、表示部25の画面近傍に設けられる押しボタン、画面内に配置されるタッチセンサ、又は、キーボード及びマウスなどによって構成される。
【0076】
操作受付部21は、電源ボタンを押下する入力操作を受け付けることよって、測定装置20の制御回路の起動を指示する。操作受付部21は、表示部25の画面に表示される劣化診断処理の実行ボタンをタッチする入力操作を受け付けることによって、測定装置20の制御回路は二次電池10の劣化状態を診断する劣化診断処理を実行する。
【0077】
このように、操作受付部21は、二次電池10の電池状態データを測定する測定処理の開始を電池測定部22に指示するとともに、通信装置30を介して二次電池10の測定結果を診断処理装置40に伝送する伝送処理の確立要求を測定結果出力部23に指示する。このとき、操作受付部21は、測定対象となる二次電池10の型名又は型番などを示す種類情報と、二次電池10の電池識別情報と、を設定する入力操作を受け付ける。
【0078】
電池測定部22は、二次電池10の電池状態データを測定する測定手段を構成する。電池測定部22は、電池状態データとして、例えば、二次電池10の内部抵抗の値、開回路時の電圧値、電流値の範囲、又は取出し電力の値を測定する。
【0079】
本実施形態において電池測定部22は、二次電池10の温度及び電圧を測定する。さらに電池測定部22は、交流インピーダンス法を用いて、複数の周波数において二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部を測定する。二次電池10の種類によって適切な周波数範囲は異なるが、例えば、二次電池10がリチウムイオン電池であれば二次電池10の劣化に伴う変化が現れやすい0.1Hzから10kHzまでの範囲で測定を行うことが好ましい。
【0080】
具体的には、電池測定部22は、二次電池10の正極端子及び負極端子の両端子間に複数の測定周波数の交流電流をそれぞれ印加し、測定周波数ごとに二次電池10の両端子間に生じる電圧の交流成分である交流電圧を検出する。そして電池測定部22は、測定周波数ごとに、印加した交流電流の電流値と、検出した交流電圧の電圧値とに基づいて、二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部の測定値を算出する。
【0081】
そして、電池測定部22は、各周波数の交流インピーダンスの実部及び虚部の測定値と、二次電池10の温度の測定値と、二次電池10の電圧の測定値と、を示す電池状態データを表示部25とともに測定結果出力部23に出力する。
【0082】
測定結果出力部23は、操作受付部21において劣化診断処理を実行する入力操作が受け付けられると、測定装置20と通信装置30との間を接続する処理を実行する。具体的には、測定結果出力部23は、LANケーブル若しくはUSBケーブルなどを介した有線通信、又は近距離無線通信などを用いて通信装置30と通信を行う。
【0083】
そして、測定結果出力部23は、電池測定部22から二次電池10の電池状態データを取得し、その電池状態データを測定結果として通信装置30に出力する。さらに測定結果出力部23は、二次電池10の電池識別情報を測定結果とともに通信装置30に出力する。
【0084】
これにより、通信装置30において二次電池10の電池状態データが診断処理装置40に送信される。そして診断処理装置40において、上述のとおり、電池劣化情報に基づき二次電池10の電池状態データに対応する二次電池10の劣化状態が算出され、その劣化状態を示す診断結果が通信装置30に送信される。
【0085】
診断結果取得部24は、診断処理装置40による二次電池10の診断結果を通信装置30から取得し、その診断結果を表示部25に出力する。
【0086】
表示部25は、診断結果取得部24によって取得された二次電池10の診断結果を表示する。また、表示部25は、電池測定部22から出力される電池状態データを表示する。例えば、表示部25は、画像を表示する液晶パネル又はタッチパネルなどによって構成される画面を有する。
【0087】
本実施形態では、表示部25は、二次電池10の電池状態データとともに診断結果に示される二次電池10の劣化状態を示す診断画像情報を生成し、その診断画像情報を画面に表示する。このように表示部25及び診断結果取得部24は、診断処理装置40から二次電池10の劣化状態を取得して表示する表示手段を構成する。
【0088】
このように、測定装置20の外部に設けられた診断処理装置40において二次電池10の劣化診断処理が実行されるので、測定装置20での劣化診断処理に伴う演算負荷を削減することができる。
【0089】
本実施形態では通信装置30を用いて測定装置20と診断処理装置40との間の通信を行う構成としたが、通信装置30の機能を測定装置20に持たせるようにしてもよい。
【0090】
次に、電池劣化診断システム100の動作について説明する。
【0091】
図7は、本実施形態における二次電池10の劣化状態を診断する電池劣化診断方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0092】
ステップS1において測定装置20は、測定対象となる二次電池10の電池状態データを測定し、その測定結果を出力する。
【0093】
本実施形態における測定装置20は、通信装置30を介して、複数の周波数での二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部の測定値と二次電池10の温度とを示す電池状態データを診断処理装置40に伝送する。これに加えて測定装置20は、二次電池10の種類情報、及び二次電池10の電池識別情報を診断処理装置40に伝送する。
【0094】
ステップS2において診断処理装置40は、測定装置20によって測定された電池状態データを受信する。本実施形態における診断処理装置40は、二次電池10の電池状態データに加え、通信装置30から二次電池10の種類情報及び電池識別情報を受信する。
【0095】
ステップS3において診断処理装置40は、二次電池10の電池状態データを受信した場合には、あらかじめ定められた電池劣化情報を参照し、その電池状態データに対応する二次電池10の劣化状態を演算する。
【0096】
本実施形態における診断処理装置40は、二次電池10の種類ごとに、二次電池10のインピーダンススペクトルと二次電池10の温度と二次電池10の電圧と二次電池10のSOHとの対応関係を示す電池劣化情報を記憶する。そして診断処理装置40は、受信した種類情報にて特定された電池劣化情報を参照して二次電池10のSOHを算出し、算出したSOHの値に応じて二次電池10の劣化ステージを特定する。
【0097】
ステップS4において診断処理装置40は、二次電池10の劣化状態を示す診断結果を測定装置20へ送信する。本実施形態における診断処理装置40は、二次電池10の診断結果を測定装置20に接続された通信装置30宛に送信する。
【0098】
ステップS5において測定装置20は、診断処理装置40からの二次電池10の診断結果を取得してその診断結果を表示する。本実施形態における測定装置20は、通信装置30から、診断処理装置40による二次電池10の診断結果を取得し、その診断結果に示される劣化ステージを測定結果とともに画面に表示する。
【0099】
ステップS5の処理が完了すると、電池劣化診断方法についての一連の処理手順が終了する。
【0100】
本実施形態では診断処理装置40に電池劣化情報が記憶されたが、この電池劣化情報に加え、測定装置20の測定条件に応じて診断処理部43による診断結果を補正するための補正情報を診断処理装置40にあらかじめ記憶しておいてもよい。例えば、測定装置20に用いられるプローブについてのプローブ情報ごとに、診断結果を補正するための補正情報が基準劣化特性記憶部411に記憶されてもよい。プローブ情報としては、例えば、プローブの長さ、型名又は型番などが用いられ、そのプローブ情報ごとに、例えば実験又はシミュレーションなどの結果に基づいて補正情報があらかじめ定められる。この補正情報は、診断結果を直接補正するものに限らず、測定装置20から受信した電池状態データを補正するものでもよく、電池劣化情報を補正するものであってもよい。
【0101】
例えば、上記プローブについては、測定装置20の接続端子から二次電池10の電極端子までのプローブの長さが長くなるほど、測定装置20による電池状態データの測定誤差が大きくなり、これに伴い診断結果の誤差も大きくなる傾向を有する。そのため、プローブの長さを示すプローブ情報ごとに、そのプローブの長さに対応する診断結果の補正量を基準劣化特性記憶部411にあらかじめ記憶しておくことで、プローブに起因する診断結果の誤差を小さくすることが可能となる。
【0102】
上述のプローブ情報としては、プローブの長さに代えてプローブの型名又は型番を用いることも可能である。この場合、プローブの長さに起因する測定誤差だけでなくプローブの周波数特性に起因する測定誤差なども抑制することが可能となる。
【0103】
また、プローブ情報は、測定装置20の操作受付部21において設定されてもよく、通信装置30において設定されてもよい。この場合、診断処理装置40において、受信部421が通信装置30からプローブ情報を受信すると、診断処理部43は、受信されたプローブ情報に対応する補正情報を、基準劣化特性記憶部411に記憶された補正情報の中から抽出する。そして診断処理部43は、抽出した補正情報を用いて二次電池10の劣化状態を演算する。
【0104】
次に、診断処理装置40に記憶された電池劣化情報を更新する手法について説明する。
【0105】
図8は、劣化学習装置60を備える電池劣化診断システム101の構成例を示す図である。劣化学習装置60についてのみ説明し、他の構成については、図1に示した電池劣化診断システム100の構成と同じであるため、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0106】
劣化学習装置60は、二次電池10の劣化特性を学習する。劣化学習装置60において実行される学習アルゴリズムとしては、例えばロジスティック回帰、ランダムフォレスト、又はニューラルネットワークなどの公知である種々のアルゴリズムが採用可能である。
【0107】
劣化学習装置60は、例えば、二次電池10の使用電圧及び使用温度が異なる多数の二次電池10のSOHの実測値を学習する。劣化学習装置60は、学習した二次電池10の劣化特性を示す学習結果を、ネットワーク50を介して診断処理装置40へ出力する。
【0108】
診断処理装置40において、受信部421は、劣化学習装置60から出力された学習結果を受信し、その学習結果を診断処理部43に出力する。そして診断処理部43は、受信部421から学習結果を取得すると、基準劣化特性記憶部411に記憶された電池劣化情報をその学習結果に応じて更新する。
【0109】
例えば、診断処理部43は、基準劣化特性記憶部411に記憶された電池劣化情報と学習結果とを比較し、両者の一致度合いが所定の基準値以下である場合には、更新する必要性が高いとみなして、電池劣化情報を学習結果に書き換える。一方、診断処理部43は、両者の一致度合いが所定の基準値を上回る場合には、電池劣化情報の書き換えを抑制する。このように診断処理部43は、劣化学習装置60から出力される結果に応じて記憶部41の電池劣化情報を更新する更新手段を構成する。
【0110】
このように、本実施形態では、複数の測定装置20ではなく一つの診断処理装置40のみに電池劣化情報が記憶されているので、簡易に、かつ、漏れなく電池劣化情報を更新することできる。これにより、電池劣化情報の更新漏れが低減されるので、更新されていない電池劣化情報が参照されて二次電池10の劣化状態の診断が行われるのを回避することができる。
【0111】
なお、本実施形態では劣化学習装置60が二次電池10の電気特性を学習して新たな電池劣化情報を生成したが、劣化学習装置60の機能を診断処理装置40に持たせるようにしてもよい。
【0112】
次に、本実施形態による作用効果について詳しく説明する。
【0113】
本実施形態によれば、電池劣化診断システム100は、二次電池10の電気特性の状態を示す電池状態データを測定する測定装置20と、二次電池10の劣化状態を診断する診断処理装置40と、を含む。
【0114】
上述の診断処理装置40は、二次電池10の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段としての記憶部41と、測定装置20から二次電池10の電池状態データを受信する受信手段としての受信部421と、を備える。さらに診断処理装置40は、受信部421が二次電池10の電池状態データを受信した場合には、記憶部41に記憶された電池劣化情報を参照して、受信した電池状態データに対応する二次電池10の劣化状態を演算する演算手段としての診断処理部43を備える。そして診断処理装置40は、診断処理部43により演算される二次電池10の劣化状態を示す診断結果を測定装置20へ送信する送信手段としての送信部422を備える。
【0115】
この構成により、診断処理装置40において、測定装置20が測定した電池状態データの結果に基づき二次電池10の劣化状態が演算されるので、測定装置20の演算処理を削減することができる。それゆえ、測定装置20の製造コストを低減することができ、測定装置20のリバースエンジニアリングによって電池劣化情報と診断アルゴリズムを解読されるのを防ぐことができる。
【0116】
また、二次電池10の劣化診断手法としては、二次電池10の測定結果を時系列に示した使用履歴データから二次電池10の回路定数を計算し、その計算結果を所定の閾値と比較することによって二次電池10の劣化状態を判定する手法が一般的である。しかしながら、この手法は、二次電池10自身の使用履歴データを取得するのに時間を要し、さらに回路定数を計算する際にフィッティングなどの処理を行う必要があるため、演算処理を実行するのに時間を要する。
【0117】
これに対し、本実施形態の電池劣化診断システム100においては、診断処理装置40に対して電池劣化情報をあらかじめ記憶することによって、二次電池10の使用履歴データから回路定数を計算することなく二次電池10の劣化状態を求めることができる。
【0118】
それゆえ、二次電池10の使用履歴データの取得が不要となるので、二次電池10を内蔵する電池モジュールに不揮発性メモリを備える必要がなくなるため、電池モジュールの製造コストを低減することができる。さらに二次電池10の回路定数の計算も不要となることから、早期に二次電池10の劣化状態を診断することができる。
【0119】
したがって、本実施形態によれば、測定装置20の演算負荷を軽減しつつ、速やかに二次電池10の劣化状態を診断することができる。これに加え、測定装置20の一つひとつに電池劣化情報を記憶しておく必要性が低いため、電池劣化情報を容易に管理することができる。さらに、診断処理装置40に記憶された一つの電池劣化情報を用いて多数の二次電池10の劣化状態の診断が行われるので、多数の二次電池10に対する劣化診断の精度を均一化することができる。
【0120】
また、本実施形態によれば、診断処理装置40の基準劣化特性記憶部411には、二次電池10の種類ごとに電池劣化情報があらかじめ記憶されており、受信部421が、測定装置20から二次電池10の種類を識別する種類情報をさらに受信する。受信部421が測定装置20から二次電池10の電池状態データを受信すると、診断処理部43は、記憶部41に記憶された複数の電池劣化情報の中から、二次電池10の種類情報にて特定される電池劣化情報を選択する。診断処理部43は、選択した電池劣化情報を参照することにより二次電池10の劣化状態を演算する。
【0121】
二次電池10の劣化特性に関しては、二次電池10の種類によって劣化特性が異なる。このため、本実施形態のように二次電池10の種類ごとに電池劣化情報を用意することにより、きめ細かな劣化診断を行うことが可能になるので、二次電池10の診断精度を向上させることができる。
【0122】
さらに、診断対象を追加又は変更するような場合であっても、追加又は変更する二次電池10の種類に対応した電池劣化情報を診断処理装置40に記憶することにより、容易に追加又は変更した二次電池10の劣化診断を行うことができる。すなわち、いずれの測定装置20であっても柔軟に診断対象を追加又は変更することができる。
【0123】
また、本実施形態によれば、診断処理装置40における診断処理部43は、さらに、受信部421が測定装置20から二次電池10の電池状態データを受信するたびに、受信した電池状態データを時系列に記憶部41に記録する記録手段を構成する。
【0124】
この構成により、記憶部41には、二次電池10の電池状態データを時系列に示した使用履歴データが記憶されることになるので、測定装置20が何らかの理由によって故障したとしても、二次電池10に関する使用履歴データの喪失を回避することができる。これにより、二次電池10をリユースする際には、その二次電池10の使用履歴データを利用して二次電池10がリユース可能な種類か否かを正しく選別することができる。
【0125】
また、本実施形態によれば、診断処理装置40の記憶部41には、二次電池10を識別するための識別情報である電池識別情報ごとに、電池状態データを時系列に示す電池情報が記憶されている。この場合、受信部421は、測定装置20の通信手段としての通信装置30から二次電池10の電池状態データとともに電池識別情報をさらに受信する。そして診断処理部43は、受信部421により受信される電池識別情報にて特定される二次電池10の電池情報を記憶部41から選択し、選択した電池情報に基づいて電池劣化情報を補正して二次電池10の劣化状態を演算する。
【0126】
この構成により、電池情報において示される診断対象である二次電池10の使用履歴データを用いることにより、電池劣化情報に示される二次電池10の劣化特性の基準となる劣化パターンを診断対象の特性に近づけることができる。例えば、電池劣化情報にて特定される劣化パターンを用いて使用履歴データにより特定される診断対象の劣化特性の一部を補完することにより、補正後の診断対象の劣化パターンが生成される。これにより、二次電池10の個々の特性に合わせた劣化診断を実行ことが可能となる。
【0127】
また、記憶部41には、測定装置20のプローブに関するプローブ情報ごとに、診断処理部43にて演算される二次電池10の劣化状態を補正するための補正情報があらかじめ記憶されていてもよい。この場合、受信部421は、測定装置20の通信手段としての通信装置30から、二次電池10の電池状態データに加え、その電池状態データを測定する際に使用されたプローブについてのプローブ情報をさらに受信する。そして診断処理部43は、受信部421によって受信されたプローブ情報に対応する補正情報を記憶部41から選択し、選択した補正情報を用いて二次電池10の劣化状態を演算する。
【0128】
この構成により、測定装置20に用いられたプローブの電気特性を考慮して二次電池10の劣化状態が求められるので、プローブの電気特性を考慮せずに二次電池10の劣化状態を求める場合に比べて、プローブに起因する診断誤差を小さくすることができる。
【0129】
また、本実施形態によれば、電池劣化診断システム100は、二次電池10の劣化特性を学習し、学習した二次電池10の劣化特性を示す学習結果を出力する劣化学習装置60をさらに含む。そして診断処理装置40の診断処理部43は、劣化学習装置60から出力される学習結果に応じて記憶部41における電池劣化情報を更新する更新手段を構成する。
【0130】
この構成により、診断処理装置40に記憶されている電池劣化情報が更新されるので、測定装置20の各々に電池劣化情報を記憶して個々に劣化診断処理を実行する場合に比べて、漏れなくかつ容易に、最新の電池劣化情報に書き換えることができる。二次電池10の電気特性を学習する時間が長くなるほど、診断精度の高い電池劣化情報が生成されるので、更新時期に電池劣化情報を確実に書き換えることによって、二次電池10の劣化診断を精度よく行うことが可能となる。
【0131】
また、本実施形態によれば、基準劣化特性記憶部411は、二次電池10の劣化状態ごとに二次電池10のインピーダンススペクトルが対応付けられた対応テーブルを電池劣化情報としてあらかじめ記憶する。そして測定装置20は、複数の周波数で二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部を電池状態データとしてそれぞれ測定する。
【0132】
図3に示したように、二次電池10のインピーダンススペクトルの極点は、二次電池10の劣化状態に応じて変化する。それゆえ、二次電池10の電気特性としてインピーダンススペクトルを用いることにより、二次電池10の内部抵抗値を用いる場合に比べて二次電池10の劣化状態を精度よく診断することが可能となる。
【0133】
また、本実施形態によれば、診断処理部43は、測定装置20によって測定される二次電池10の電圧の大きさに応じて二次電池10の劣化状態を補正するように演算を行う。
【0134】
図5に示したように、二次電池10のインピーダンススペクトルは、二次電池10の劣化状態だけでなく二次電池10の使用時における二次電池10の電圧の大きさに応じて変化する。このため、二次電池10の電圧の測定値に応じて二次電池10の劣化状態を補正することによって、二次電池10の使用電圧に起因する二次電池10のインピーダンススペクトルの変動成分を除去することができる。したがって、二次電池10の劣化状態を精度よく診断することができる。
【0135】
また、本実施形態によれば、診断処理部43は、二次電池10の安定性を評価するための測定データに基づいて二次電池10の劣化状態を演算するか否かを判断する判断手段を構成する。
【0136】
例えば二次電池10の始動直後においては二次電池10の電気特性が不安定な状態であり、このような状態で測定された電池状態データについては、二次電池10が安定した状態で測定された電池状態データからズレが生じる。それゆえ、二次電池10が不安定な状態で測定された電池状態データを用いて二次電池10の劣化状態の演算が行われると、演算結果の誤差が大きくなってしまう。
【0137】
この対策として、例えば、複数の周波数における二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部の測定値をKramers-Kronigの関係式に適用することにより、二次電池10の安定性を評価することが可能になる。
【0138】
すなわち、複数の周波数における二次電池10の交流インピーダンスの実部及び虚部の測定値などの測定データを用いることによって、二次電池10の劣化状態を演算するか否かを判断することができる。したがって、二次電池10の安定性が低いと評価された場合には、二次電池10の劣化状態の演算を抑制することが可能になるので、二次電池10の劣化状態を的確に診断することができる。
【0139】
また、本実施形態によれば、測定装置20と通信を行う診断処理装置40は、電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶部41と、測定装置20から電池状態データを受信する受信部421と、を備える。さらに診断処理装置40は、受信部421が電池状態データを受信した場合には、記憶部41に記憶された電池劣化情報を参照して電池状態データに対応する二次電池10の劣化状態を演算する診断処理部43と、診断処理部43により演算される二次電池10の劣化状態を示す診断結果を測定装置20に送信する送信部422と、を備える。この構成により、診断処理装置40は、上述のとおり、二次電池10の劣化診断を迅速に行うことができるとともに、測定装置20の演算負荷を軽減させることができる。
【0140】
また、本実施形態によれば、測定装置20は、電池劣化情報を用いて二次電池10の測定結果に対応する二次電池10の劣化状態を診断する診断処理装置40と通信を行う。この測定装置20は、二次電池10の電池状態データを測定する測定手段としての電池測定部22と、電池測定部22により測定される電池状態データを測定結果として出力する出力手段としての測定結果出力部23と、診断処理装置40から二次電池10の劣化状態を取得して表示する表示手段としての表示部25と、を備える。
【0141】
また、本実施形態によれば、測定装置20は、電池劣化情報を用いて二次電池10の測定結果に対応する二次電池10の劣化状態を診断する診断処理装置40と通信を行うコンピュータである。測定装置20は、二次電池10の電池状態データを測定する測定ステップと、測定ステップにおいて測定される電池状態データを測定結果として出力する出力ステップと、診断処理装置40から二次電池10の劣化状態を取得して表示する表示ステップと、を実行させるためのプログラムを記憶する。
【0142】
上述の測定装置20及びプログラムを構成することによって、診断処理装置40で二次電池10の劣化診断が行われるので、測定装置20は、自己の演算処理を削減しつつ、二次電池10の劣化状態を速やかに表示することができる。
【0143】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0144】
例えば、アクセスID及びパスワードなどのアクセス制限情報を診断処理装置40の電池情報記憶部412に記憶しておいてもよい。この場合、通信装置30は、例えば公開鍵で暗号化されたアクセスID及びパスワードを診断処理装置40宛てに送信する。そして診断処理装置40の受信部421は、暗号化されたアクセスID及びパスワードを受信すると、受信したアクセスID及びパスワードを復号し、診断処理部43は、復号したアクセスID及びパスワードがアクセス制限情報と一致する否かを判断する。そして診断処理部43は、アクセスID及びパスワードがアクセス制限情報と一致しているとの判断がなされた場合には、通信装置30から診断処理装置40の通信部42への電池状態データの送信を許可する。これにより、正当に許可された者のみ診断処理装置40での診断結果を取得することが可能となる。
【符号の説明】
【0145】
10 二次電池
20 測定装置
22 電池測定部(測定手段)
23 測定結果出力部(出力手段)
24 表示部(表示手段)
40 診断処理装置
41 記憶部(記憶手段)
421 受信部(受信手段)
422 送信部(送信手段)
43 診断処理部(演算手段、記録手段、判断手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8