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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】安全帯使用状況監視システム
(51)【国際特許分類】
   A62B 35/00 20060101AFI20240612BHJP
   E04G 21/32 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
A62B35/00 Z
E04G21/32 Z ESW
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020133297
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029791
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591112522
【氏名又は名称】株式会社ACCESS
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 信一
(72)【発明者】
【氏名】宗 永芳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 信一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 将太
(72)【発明者】
【氏名】池内 康樹
(72)【発明者】
【氏名】雪岡 重信
(72)【発明者】
【氏名】西上 博士
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184774(JP,A)
【文献】特開2019-067217(JP,A)
【文献】特開2016-192007(JP,A)
【文献】特開2014-004006(JP,A)
【文献】特開2017-051271(JP,A)
【文献】特開2020-088703(JP,A)
【文献】特開2015-185149(JP,A)
【文献】特開2019-005425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0193799(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102512773(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00
E04G 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高所作業を行う作業員における安全帯の使用状況を監視するための安全帯使用状況監視システムであって、
前記安全帯のロープの一端部、又は前記安全帯のフックに装着される加速度センサと、
少なくとも前記加速度センサで検出された加速度データを含む情報信号を送受信するための送信機及び受信機と、
受信した前記加速度データに基づいて、前記フックが使用されているか否かを判定するフック使用判定部と、を備え、
前記フック使用判定部は、前記加速度データから特徴量を求める演算部と、前記特徴量から前記フックが使用されているか否かを推定する機械学習部と、を備え、
前記機械学習部は、
前記演算部で求めた前記特徴量に基づいて学習モデルを生成する学習部と、
前記学習モデルに基づいて前記フックが使用されているか否かを推定する推定部と、を備え
前記安全帯使用状況監視システムは、前記フックの使用操作時の前記加速度データを教師データとして前記機械学習部に与える入力部をさらに備え、
前記入力部は、作業員の動作を撮像する撮像装置で撮像した画像に基づいて、前記フックの適切な使用操作時の前記加速度データを抽出し、該抽出した加速度データを前記教師データとして前記機械学習部に与えるように構成されている、
安全帯使用状況監視システム。
【請求項2】
前記学習部は、SVMを用いて前記特徴量を処理して学習モデルを生成するように構成されている、
請求項1に記載の安全帯使用状況監視システム。
【請求項3】
前記演算部は、時系列の前記加速度データから予め設定した一定の時間間隔で抽出した複数のデータセットを生成し、時系列で前のデータセットの加速度データ取得開始時から予め設定したスライド時間の位置を次のデータセットの加速度データ取得開始時間として前記複数のデータセットを時間軸で重ね合わせるとともに所定時間単位のデータに正規化し、データセットごとに前記特徴量を求めるように構成されている、
請求項1又は2に記載の安全帯使用状況監視システム。
【請求項4】
前記情報信号は、少なくとも、作業員の識別情報、作業員の位置情報、及び作業内容情報の何れか1つをさらに含む、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の安全帯使用状況監視システム。
【請求項5】
前記機械学習部の推定結果基づいて、前記フックが使用されているか否かを最終的に判定する判定部をさらに備え、
前記判定部が、前記フックが使用されていない「不適」と判定した場合に、警報を発する警報部を備える、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の安全帯使用状況監視システム。
【請求項6】
高所作業を行う現場、又は、現場への経路の少なくとも一方に、作業員を識別する設置型の発信機が設けられている、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の安全帯使用状況監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、安全帯使用状況監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設工事などで高所作業を行う作業員は、墜落(転落)事故を防止するために安全帯の使用が義務付けられている。
【0003】
この種の安全帯は、例えば、作業員の身体に装着される安全ベルト(装着体)と、安全ベルトに一端を接続したロープと、ロープの他端に接続したフックと、を備えて構成されている。そして、作業員が安全ベルトを装着し、作業現場に設けられた親綱や手すり等のフック掛止部材(固定支持部材)にフックを引掛けて作業を行うことで、足を踏み外すなどした場合であっても、安全帯と、フックを引掛けた親綱や手すり等のフック掛止部材と、によって作業員の身体が支持され、墜落を免れることができる。
【0004】
一方、作業を管理・監督する監督員(現場監督(責任)者、工事監理者など)は、作業員が安全帯、特にフックを適正に使用しているか否かを確認する必要がある。
しかしながら、高所作業をしている作業員の状況を、地上などの遠方で、目視によって確認することが難しいケースが多々ある。このため、安全帯のフックの使用状況を確認する手法が数多く提案、実用化されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、安全帯のフックに加速度センサを取り付け、加速度センサが所定値以上の加速度を検出した場合に、作業現場のフック掛止部材にフックが係止(掛止)されたと判断するとともに、係止検出手段を用いて、作業パターンに応じた基準値と比較し、適正にフックが係止されているか否かを判断するようにした安全帯使用状況監視システム(安全帯使用状況確認システム)が開示されている。
【0006】
特許文献1の安全帯使用状況監視システムでは、作業員がフックをフック掛止部材に係止させる場合に、加速度センサによってフックの平面方向下向きに所定の重力加速度以上(例えば2G以上)の加速度が検出されたタイミングを検出する。そして、平面方向下向きに所定値以上の重力加速度が検出されたタイミングを記憶させておき、これにより、作業員がフックをフック掛止部材に係止させたか否かを判断する。
【0007】
また、装着体の係止部からフックが離脱されたことを検出する離脱検出センサを設け、安全ベルトなどの装着体の係止部からフックが離脱された場合を離脱検出センサで検出し、装着体にフックを係止させた場合と、フック掛止部材にフックを係止させた場合と、を明確に区別できるようにしている。
【0008】
一方、特許文献1の安全帯使用状況監視システムでは、フックを作業現場のフック掛止部材に係止させる場合、「適正」にフックが係止されているか否かを検出するために、係止検出手段を用い、以下の(a)~(e)の判断を行うようにしている。
【0009】
(a)所定時間当たりの係止回数と基準値との比較による判断
例えば、20回/5分など、所定時間当たりの係止回数を基準値として記憶させておき、この基準値を超えている場合に「適正」であると判断する。また、作業パターン毎の基準値を設定しておき、その作業パターンに該当する作業員の基準値と、2G以上などの所定値以上の加速度が検出された係止タイミングと、を比較して係止状態が適正であるか否かを判断する。
【0010】
(b)グルーピングされた係止状態と基準値との比較による判断
例えば、数秒以内に行われた一連の係止操作を1つの係止と判断し、そのグルーピングされた係止回数と基準値である係止回数とを比較することによって、「適正」に係止が行われているか否かを判断する。
【0011】
(c)移動距離と係止回数の比較による判断
例えば、加速度センサによってある方向の移動を検出した場合、所定距離の移動範囲内に基準値以上の係止操作が行われているか否かを判断し、「適正」に係止が行われているか否かを判断する。
【0012】
(d)前回の係止との今回の係止との時間間隔による判断
例えば、前回係止された時刻からタイマーを作動させ、所定時間以内に次の係止が行われているか否かを判断することによって、「適正」に係止が行われているか否かを判断する。
【0013】
(e)フックを複数設けている場合の判断
例えば、フックやロープを2つ設けておき、交互にフックを係止させながら作業を行うような場合、一のフックにおける係止から次の係止までの時間と、他のフックにおける係止から次の係止までの時間がオーバーラップしているか否かによって、「適正」に係止が行われているか否かを判断する。このとき、それぞれのフックに加速度センサを取り付けおき、それぞれの係止状態を判断できるようにしておく。
【0014】
そして、特許文献1の安全帯使用状況監視システムでは、上記の(a)~(e)のような判断を行うことにより、「適正」に係止されていないことが検出された場合、作業員へ警報を通知するとともに、作業員の係止状態の履歴として記憶部に格納したり、印刷処理などを行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2019-5425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ここで、特許文献1の安全帯使用状況監視システムにおいては、単に2Gなどの所定の重力加速度以上の閾値を設定し、この閾値を超える加速度が検出されたタイミングで作業員によるフックの親綱や手すり等のフック掛止部材への係止操作(係止動作)を検出して判別する。
【0017】
しかしながら、建設作業などを行う作業員の思考動作は、当然、多岐にわたるものであり、一定の閾値でフックの係止操作を判別することは非常に難しく、特許文献1の安全帯使用状況監視システムでは、フックの係止操作を特定して検出する精度が低く、実用することが難しい。
【0018】
また、特許文献1の安全帯使用状況監視システムでは、前述の通り、加速度センサと係止検出手段とを用い、「適正」にフックが係止されているか否かを、上記(a)~(e)によって判断するようにしている。
【0019】
しかしながら、(e)を除く、(a)~(d)のような判断では、多岐にわたる作業員の思考動作を精度よく識別、判別することは難しく、すなわち、作業員の他の動作をフックの係止操作と誤認してしまうことが容易に想像でき、やはり、実用は難しいと言わざるを得ない。
【0020】
さらに、数十人、場合によっては数百人の作業員が高所作業を行う建設現場が多々ある。
これに対し、特許文献1の安全帯使用状況監視システムでは、フックの係止操作の判別精度が低いため、係止操作が「適正」でないと検出されるケースが膨大に発生し、作業員への警報通知の頻発、間違った履歴の膨大な記録、印刷処理などが発生するおそれがある。これにより、作業員は警報の誤報の度に作業を停止することになり、また、監督員は、係止操作が「適正」でないという情報への対応に忙殺されるおそれがあり、建設現場に混乱をもたらすことになりうる。
【0021】
本開示は、上記事情に鑑み、加速度センサを用いて、より精度よく安全帯の使用状況を判別することを可能にする安全帯使用状況監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(1)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、高所作業を行う作業員における安全帯の使用状況を監視するための安全帯使用状況監視システムであって、前記安全帯のロープの一端部、又は前記安全帯のフックに装着される加速度センサと、少なくとも前記加速度センサで検出された加速度データを含む情報信号を送受信するための送信機及び受信機と、受信した前記加速度データに基づいて、前記フックが使用されているか否かを判定するフック使用判定部と、を備え、前記フック使用判定部は、前記加速度データから特徴量を求める演算部と、前記特徴量から前記フックが使用されているか否かを推定する機械学習部と、を備え、前記機械学習部は、前記演算部で求めた前記特徴量から特徴抽出データを抽出する前処理部と、前記前処理部で処理した処理データに基づいて学習モデルを生成する学習部と、前記学習モデルに基づいて前記フックが使用されているか否かを推定する推定部と、を備える。
【0023】
上記(1)の安全帯使用状況監視システムによれば、フックを装着した動作の加速度データを精度よく抽出した形の学習モデルを作成でき、この学習モデルに基づいて評価、判定を行うことで、従来の安全帯使用状況監視システムよりも格別に高精度でフックの使用状況の判定を行うことが可能になる。
【0024】
(2)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、上記(1)の安全帯使用状況監視システムであって、前記学習部は、SVMを用いて前記特徴量を処理して学習モデルを生成するように構成されている。
【0025】
上記(2)の安全帯使用状況監視システムによれば、機械学習の学習アルゴリズム、SVMを用い、いくつかのデータパターンを分類してフックの使用状況の判定を行う。これにより、より一層、高い判定精度でフックの使用状況の判定を行うことが可能になる。
【0026】
例えば、SVMを用いて学習モデルを生成した場合には、フックの使用状況の判定精度が悪条件下でも70~80%以上の高精度であるのに対し、決定木、LSTM(Long Term Short Memory)を用いて学習モデルを生成した場合には、判定精度が60%~70%程度であることが確認されており、SVMを用いることで、高い判定精度でフックの使用状況の判定を行うことが可能になる。
【0027】
(3)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、上記(1)又は(2)の安全帯使用状況監視システムであって、前記演算部は、時系列の前記加速度データから予め設定した一定の時間間隔で抽出した複数のデータセットを生成し、時系列で前のデータセットの加速度データ取得開始時から予め設定したスライド時間の位置を次のデータセットの加速度データ取得開始時間として前記複数のデータセットを時間軸で重ね合わせるとともに所定時間単位のデータに正規化し、データセットごとに前記特徴量を求めるように構成されている。
【0028】
上記(3)の安全帯使用状況監視システムによれば、好適に特徴量を求めることが可能になる。
【0029】
(4)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、上記(1)乃至(3)の何れかの安全帯使用状況監視システムであって、前記情報信号は、少なくとも、作業員の識別情報、作業員の位置情報、及び作業内容情報の何れか1つをさらに含む。
【0030】
上記(4)の安全帯使用状況監視システムによれば、情報信号として、加速度センサの検出結果の情報だけでなく、作業員の判別情報、作業員の位置情報、作業員の作業内容情報の何れかの情報を取得するようにすることで、さらに高精度でフックの使用状況の判定を行うことが可能になる。
【0031】
すなわち、例えば、作業員が実施する工程ごとの判定基準(学習データ)によって、フックの使用状況を判定することができる。これにより、作業員が実施する工程ごとに機械学習を行うことができ、さらなるフックの使用状況の判定精度の向上を図ることが可能になる。
【0032】
(5)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、上記(1)乃至(4)の何れかの安全帯使用状況監視システムであって、前記機械学習部の推定結果を基づいて、前記フックが使用されているか否かを最終的に判定する判定部をさらに備え、前記判定部が、前記フックが使用されていない「不適」と判定した場合に、警報を発する警報部を備える。
【0033】
上記(5)の安全帯使用状況監視システムによれば、フックが適切に使用されていない「不適」と判定した場合に、警報部が音や画像表示、振動などの警報を発することにより、フックの使用状況が不適であることを作業員や監督員に迅速に認識させ、好適に作業員の墜落防止を抑止できる。
【0034】
(6)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、上記(1)乃至(5)の何れかの安全帯使用状況監視システムであって、高所作業を行う現場、又は、現場への経路の少なくとも一方に、作業員を識別する設置型の発信機が設けられている。
【0035】
上記(6)の安全帯使用状況監視システムによれば、例えば、起動用電波を受信した受信機を携帯する(受信機が装着されている装着物を身に付けている)作業員はフックの使用状況を判定する必要がある場所におり、起動用電波を受信しない受信機を携帯する作業員はフックの使用状況を判定する必要がない場所にいることが判る。これにより、受信機を携帯する作業員の中で、フックの使用状況を判定する必要がある作業員を特定でき、フック使用判定部の処理負担を軽減することができる。
【0036】
(7)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、上記(1)乃至(6)の何れかの安全帯使用状況監視システムであって、前記フックの使用操作時の前記加速度データを教師データとして前記機械学習部に与える入力部をさらに備える。
【0037】
上記(7)の安全帯使用状況監視システムによれば、例えば、作業開始時に、作業員に適正な安全帯、フックの使用行動を行わせるなどし、明らかな適正動作で検出される加速度データを基に教師データを生成し、学習を行うことができる。これにより、フックの使用状況の判定精度を比較的容易で早期に高めることが可能になる。
【0038】
(8)本開示の安全帯使用状況監視システムの一態様は、上記(7)の安全帯使用状況監視システムであって、前記入力部は、作業員の動作を撮像する撮像装置で撮像した画像に基づいて、前記フックの適切な使用操作時の前記加速度データを抽出し、該抽出した加速度データを前記教師データとして前記機械学習部に与えるように構成されている。
【0039】
上記(8)の安全帯使用状況監視システムによれば、例えば、作業員の動作を撮像し、画像中において作業員が適正な安全帯、フックの使用行動をしたときの加速度データを抽出し、これを基に教師データを生成することで、フックの使用状況の判定精度を比較的容易で早期に高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0040】
本開示の安全帯使用状況監視システムによれば、加速度センサを用いて、より精度よく安全帯の使用状況を判別することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】一実施形態に係る安全帯使用状況監視システムの一例を示す図である。
図2】一実施形態に係る安全帯使用状況監視システムの一例を示すブロック図である。
図3】一実施形態に係る安全帯使用状況監視システムの一例を示すブロック図である。
図4】一実施形態に係る安全帯使用状況監視システムの一例を示すブロック図である。
図5】一実施形態に係る安全帯使用状況監視システムにおいて、機械学習を行うフローの一例を示す図である。
図6】一実施形態に係る安全帯使用状況監視システムにおいて、管理用端末の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図1から図6を参照し、一実施形態に係る安全帯使用状況監視システムについて説明する。
【0043】
ここで、図1に示すように、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1は、例えば、建設工事などにおいて、高所作業を行う作業員2の安全帯4の使用状況を監視するためのものである。
また、本開示における「高所」とは、傷害が生じうる距離を作業員2が墜落(転落)するおそれのある場所であり、例えば、2m以上の高低差を有する2つの地点のうち、高い方の地点をいう。このため、「高所」には、地下の一地点も含まれる。
【0044】
(装着物)
はじめに、高所作業を行う作業員2は、装着物3を身に着けている。この装着物3は、図1に示すように、衣服(作業着)3a、ヘルメット3b、安全帯4及び腰ベルトなどである。
【0045】
(安全帯)
このうち、本実施形態における安全帯4は、作業員2の身体に装着される装着部4aと、少なくとも1つのフック5と、装着部4aとフック5を繋ぐ少なくとも1つのロープ6と、装着部4aに設けられ、フック5を装着部4aに装着して保持するための少なくとも1つのフック被係止部4bと、を備えている。
【0046】
本実施形態の装着部4aは、作業員2の肩に巻かれて2つの先端部が垂れ下がった一対の肩ベルト4c、4dと、作業員2の腰に巻き付けられて一対の肩ベルト4c、4dを腰の高さ位置で繋ぐ腰ベルト4eと、一対の肩ベルト4c、4dを胸の高さ位置で繋ぐ胸ベルト4fと、作業員2の腿に巻き付けられて一対の肩ベルト4c、4dの先端部に接続される一対の腿ベルト4g、4hと、を備えている。
【0047】
なお、本開示の「安全帯4」は、必ずしも上記のように構成されていなくてもよい。例えば、安全帯4は、一対の肩ベルト4c、4dと、胸ベルト4fと、一対の腿ベルト4g、4hと、備えて構成してもよく、また、腰ベルト4eのみを備えて構成してもよい。
【0048】
本実施形態のフック5は、略U字状に湾曲した鈎状部(掛止本体部)5aと、鈎状部の基端側のヒンジ部5cを介して回動可能に接続し、鈎状部5aの開放部分を開閉する回動部5bと、鈎状部5aの開放部分を閉じた状態で回動部5bをロックするロック機構部(不図示)と、ロック機構部によるロック状態を解除するためのロック解除部と、備えて構成されている。
【0049】
このフック5は、安全帯4のフック被係止部4bに鈎状部5aを引掛けて作業員2の身体に装着して保持させたり、回動部5bの開閉操作によって、親綱8aや手すり等のフック掛止部材(固定支持部材)8に鈎状部5aを引掛け、又は、フック掛止部材8から取り外せるようになっている。
【0050】
なお、本開示の「フック5」は、親綱8aや手すり等のフック掛止部材8に着脱可能に装着して作業員2の墜落事故を防止することが可能であれば、必ずしも本実施形態のように構成されていなくてもよい。例えば、本開示の「フック5」の他の例としては、法面工事など、傾斜面や垂直面などで使用されるロリップ、すなわち、ヒンジ部の回動軸線周りに回動して掛止本体部5aの開放部分を開閉する回動部5bを備え、上方から垂れ下がった親綱などに装着して作業員2の墜落を防止するためのロリップなどが挙げられる。
【0051】
ロープ6は、命綱やランヤードなどであり、長尺状に形成され、一端部をフック5に接続し、他端部を安全帯4の装着部4aに接続して設けられている。
【0052】
ロープ6は、例えば、D環、カラビナ、ロープ巻取り装置などの締結具を介して間接的に安全帯4の装着部4aやフック5に接続してもよい。ロープ6の長さは、好ましくは0.5m~3.0m、より好ましくは1.0m~2.5m、さらに好ましくは1.5m~2.0mである。
【0053】
なお、本開示における「ロープ6」は、従来周知の安全帯4に具備される、あらゆる種類の長尺物を含む。本開示における「ロープ6」の種類としては、例えば、索体などのロープ式の他、上記の巻取り装置を有する巻取り式、蛇腹式などの長尺物が挙げられる。
【0054】
(安全帯使用状況監視システム)
次に、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1は、高所作業を行う作業員2の安全帯4の使用状況を監視するためのシステムである。
【0055】
具体的に、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1は、図1及び図2図3図4に示すように、安全帯4のロープ6の一端部、又は安全帯4のフック5に装着され、フック5の加速度(加速度を計測するためのパラメータ)を検出するための加速度センサ10と、少なくとも加速度センサ10で検出された加速度データの情報信号Rを送受信するための送信機11及び受信機12と、受信機12が受信した情報信号Rに基づいてフック5が使用されているか否かを判定するフック使用判定部13と、フック使用判定部13の判定結果を表示する表示部14と、フック使用判定部13の判定結果が「フック未使用(不適)」の場合に警報を発する警報部15と、を備えている。
【0056】
なお、情報信号Rとしては、加速度センサ10の検出結果の加速度情報だけでなく、作業員2の判別情報、作業員2の位置情報、作業員2の作業内容情報などの適宜必要な情報が含まれていることが望ましい。
【0057】
情報信号Rの伝達手段は、ビーコンであることが望ましいが、勿論、Wi-Fiなどの他の無線信号伝達手段を用いても構わない。また、GPS(Global Positioning System)を用いて作業員2の位置情報を検出するように構成してもよい。
【0058】
本実施形態の安全帯使用状況監視システム1は、受信機12として、少なくとも、作業員2が身に付けている装着物3に装着可能な第1受信機12aと、所定の距離範囲内で作業員2から遠方に設けられた第2受信機12bと、を含む複数の受信機12を備えている。
【0059】
本実施形態の安全帯使用状況監視システム1は、送信機11として、安全帯4のロープ6の一端部、又は安全帯4のフック5に装着され、第1受信機12aに情報信号Rを送信したり、受信機12で受信した情報信号Rを、所定の距離範囲内で作業員2から遠方に離れた場所で送受信するための送信機11a、11bなど、複数の送信機11を備えている。
【0060】
なお、複数の送信機11、複数の受信機12の間で情報信号Rを送受信する際に、送受信距離が大きい場合には、送信機11と受信機12を備える単数又は複数の中継機16を設けて、安全帯使用状況監視システム1を構成してもよい。この場合には、情報信号Rの伝達手段としてビーコンを用いた場合であっても、前記所定の範囲を大幅に拡大することが可能になる。
【0061】
安全帯4のロープ6の一端部、又は安全帯4のフック5に装着される加速度センサ10は、例えば加速度センサ・無線タグ(加速度無線タグ)17のように、送信機11などと一体化されていてもよい。この場合には、加速度センサ10と送信機11などを一体化したコンパクトな加速度無線タグ17を、安全帯4のロープ6の一端部、又は安全帯4のフック5の任意の位置に貼り付けるなどして容易に装着することができる。すなわち、既存の安全帯4に対しても容易に装着することができる。
【0062】
本実施形態において、少なくとも1つの受信機12(12b)は作業員2が着ている衣服3aの不図示の胸ポケット内に収納されている。なお、この受信機12(12b)は、衣服3aのズボンのポケット内に収納されたりしてもよく、衣服3a以外の例えばヘルメット3bや安全帯4の装着部4aに装着されていてもよい。
【0063】
また、他の受信機12(12c)は、管理・監督室や、監督員が着ている衣服3aの不図示の胸ポケット内に収納するなどして設けられている。なお、監督員がこの受信機12cを装着する場合、受信機12cを衣服3aのズボンのポケット内に収納したり、衣服3a以外の例えばヘルメット3bや安全帯4の装着部4aに装着してもよい。
【0064】
ここで、本実施形態では、受信機12や送信機11、表示部14、警報部15、入出力部18、フック使用判定部13は、例えば、図2に示すように、無線通信機能を有し、作業員2や監督員が所持するスマートフォンなどの携帯端末20、アプリケーションソフトを適用する形で具備されることが好ましい。
また、図3に示すように、管理・監督室などに設けられる管理用端末21のPC、アプリケーションソフトなどを適用して具備されてもよい。
【0065】
さらに、図4に示すように、フック使用判定部13を、別途設けられたサーバー、メインコンピュータ(ホストコンピュータ、クラウドコンピュータ)22などに具備するように構成してもよい。
【0066】
次に、本実施形態のフック使用判定部13は、例えば、i)重力軸の加速度、ii)重力軸以外の加速度、iii)X,Y,Zの三次元方向成分の加速度を元にフック5の使用状況の判定(安全帯4の使用状態の予測)を行う。
【0067】
具体的に、まず、本実施形態のフック使用判定部13は、図2図3図4)に示すように、データ取得部23と、データ記憶部24と、演算部25と、機械学習部26と、判定部27と、を備え、機械学習部26で特徴抽出、及び作業員2のフック5の使用状況(及び作業員2の安全帯4の使用状況)の推定を行い、判定部27が特徴抽出データ及び推定に基づいて、作業員2のフック5の使用状況(及び作業員2の安全帯4の使用状況:以下省略)の判定を行う。
【0068】
データ取得部23は、作業員2の高所作業時に、継続的又は定期的に受信機12で受信した加速度データ(加速度情報)を取得する。本実施形態のデータ取得部23は、撮像装置28、コンピュータなどの他の入力装置(入力部29)から入力された各種データ、情報も取得できるように構成されている。
【0069】
データ記憶部24は、不揮発性メモリであり、例えば、バッテリでバックアップされたSRAM(Static Random Access Memory)やSSD(Solid State Drive)などで構成され、入出力部18によって電源がオフとなっても記憶状態が保持されるように構成されている。本実施形態のデータ記憶部24は、データ取得部23で取得したデータや、演算部25で処理したデータ、機械学習部26で学習した学習データ等が記憶できるようになっている。
【0070】
本実施形態において、演算部25は、図2図3図4)、図5に示すように、受信機12で受信され、データ取得部23を介してデータ記憶部24に記憶された時刻歴の加速度データを、予め設定した例えば20秒などの一定の時間間隔(ウィンドウサイズ)で区切る(Step1、Step2)。このとき、経時(時刻歴)の加速度データに対し、前のウィンドウ(データセット)の時刻中心位置から例えば2秒などのスライドサイズ(移動サイズ)で次のウィンドウの時刻中心位置をずらし、時刻歴の前後のウィンドウが2秒などのスライドサイズごとにずれるように、複数のウィンドウ、すなわち一定の時間間隔の複数のデータセットを生成する。そして、一定時間間隔で区切ったそれぞれのデータセットのウィンドウのデータに対して特徴量の計算を行う(Step3)。
【0071】
すなわち、演算部25は、時系列の加速度データから予め設定した一定の時間間隔で抽出した複数のデータセットを生成し、時系列で前のデータセットの加速度データ取得開始時から予め設定したスライド時間の位置を次のデータセットの加速度データ取得開始時間として複数のデータセットを時間軸で重ね合わせるとともに所定時間単位のデータに正規化し、データセットごとに特徴量を求めるように構成されている。
【0072】
また、本実施形態の演算部25は、複数のウィンドウ(一定の時間間隔の複数のデータセット)のそれぞれのデータに対して、重力軸の加速度、重力軸と水平方向の加速度を計算する。このとき、特定の時刻tの前のある一定の秒数(例えば64秒)の三方向のX,Y,Zの加速度のデータの平均値と重力加速度を元に重力軸の向きを求める。すなわち、ある一定の時間間隔ごとに区切って、各区間のX,Y,Zの加速度のデータの平均値と重力加速度を元に重力軸の向きを求める。
【0073】
次に、演算部25は、例えば、重力軸の向きから回転行列を求め、各時刻の重力軸向きの加速度を計算するとともに、重力軸と水平方向の加速度を計算し、特徴量を求める。
【0074】
本実施形態の安全帯使用状況監視システム1では、例えば、以下の1)~28)のデータを特徴量とする。
【0075】
1)x_grad std: x軸方向加速度の微分の標準偏差
2)y_grad std: y軸方向加速度の微分の標準偏差
3)z_grad std: z軸方向加速度の微分の標準偏差
4)fixed_xy max: 水平軸方向の加速度の最大値
5)fixed_xy min: 水平軸方向の加速度の最小値
6)fixed_xy std: 水平軸方向の加速度の標準偏差
7)fixed_z max: 重力軸方向の加速度の最大値
8)fixed_z min: 重力軸方向の加速度の最小値
9)fixed_z std: 重力軸方向の加速度の標準偏差
10)grad_distance max: 加速度の大きさの微分の最大値
11)grad_distance std: 加速度の大きさの微分の標準偏差
12)grad_std_sum: x, y, z軸加速度の微分の標準偏差の合計
13)grad_sum max: x, y, z軸加速度の微分の合計の最大値
14)grad_sum min: x, y, z軸加速度の微分の合計の最小値
15)grad_sum std: x, y, z軸加速度の微分の合計の標準偏差
16)std_sum: x, y, z軸加速度の標準偏差の合計
17)f_distance max: grad_distanceをフーリエ変換した値の最大値
18)f_distance min: grad_distanceをフーリエ変換した値の最小値
19)f_distance std: grad_distanceをフーリエ変換した値の標準偏差
20)f_sum max: grad_sumをフーリエ変換した値の最大値
21)f_sum min: grad_sumをフーリエ変換した値の最小値
22)f_sum std: grad_sumをフーリエ変換した値の標準偏差
23)f_xy max: 水平軸方向の加速度をフーリエ変換した値の最大値
24)f_xy min: 水平軸方向の加速度をフーリエ変換した値の最小値
25)f_xy std: 水平軸方向の加速度をフーリエ変換した値の標準偏差
26)f_z max: 重力軸方向の加速度をフーリエ変換した値の最大値
27)f_z min: 重力軸方向の加速度をフーリエ変換した値の最小値
28)f_z std: 重力軸方向の加速度をフーリエ変換した値の標準偏差
【0076】
なお、これらの特徴量はあくまで一例であり、必ずしも本開示の安全帯使用状況監視システム1で求める特徴量を上記の特徴量に限定しなくてもよい。
【0077】
次に、機械学習部26は、演算部25で求めた特徴量に基づいて学習モデルを生成する学習部31と、学習モデルに基づいてフック5が使用されているか否かを推定する推定部32と、を備えている。
【0078】
また、本実施形態の学習部31は、SVM(support vector machine)を用いて特徴量を処理して学習モデルを生成する(学習を行う)ように構成されている(Step3、Step4)。
【0079】
すなわち、SVMによって、特徴量データから境界平面(超平面、サポートベクトル)を算出し、新たに与えられたデータ(特徴量)が境界平面のどちらの側にあるかを求め、2値分類(安全帯の利用有無の判定)を行う。
なお、本実施形態におけるSVMには、カーネル関数を用いてパターンを有限もしくは無限次元の特徴空間へ写像し、特徴空間上で線形分離を行うSVMや、構造化SVMなどが勿論含まれる。
【0080】
学習部31は、前処理部30で生成した処理データを用いて教師あり学習を行い、フック5の使用状況の適否(良否)を学習した学習モデルを生成、学習する(Step5)。また、この学習モデルは、データ記憶部24(あるいは別途備えた学習モデル記憶部)に記憶される。
【0081】
推定部32は、前処理部30から入力された処理データに基づき、データ記憶部24(学習モデル記憶部)に記憶された学習モデルを用いたフック5の使用状況の推定を行う(Step6)。このとき、推定部32は、学習部31による教師あり学習により生成された学習モデルに対して、前処理部30から入力された処理データを入力データとして推定を行う。
【0082】
次に、判定部27は、推定部32によるフック5の使用状況の適否の推定結果に基づいて判定を行い、その判定結果を表示部14で表示させる(図6参照)。また、フック5の使用状況が不適である場合には、警報部15から音や画像表示、振動などの警報を出力させる。これにより、フック5の使用状況が不適であることを、作業員2や監督員に迅速に認識させ、墜落防止を抑止できる。
また、継続して学習を行う学習モデルを用いて評価、判定を行ってゆく。
【0083】
ここで、判定部27は、機械学習部26の推定部32による推定結果をそのまま判定結果としてもよい。
【0084】
一方、判定部27は、記憶された学習モデルを評価するための評価指標を算出し、この評価指標によって学習モデルの評価を行い、学習モデルが好適であることを確認、評価したうえで、推定部32による推定結果を判定結果とするように構成してもよい。
この学習モデルの評価手法の一例としては、例えば、学習モデルに対してROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis)を行い、真陽性率(フック5の使用状況を正しく予測する確率)と偽陽性率(誤って陽性と予測する確率)を求め、これに基づいて評価を行う手法などが挙げられる。
【0085】
また、例えば、100回など、予め設定した学習サイクル毎に学習モデルの評価を行うようにし、学習部31による学習が、予め設定した学習サイクル(100回)行われたときの学習モデル、予め設定した学習サイクルの2倍(200回)行われたときの学習モデル、3倍(300回)行われたときの学習モデル、・・・・・について学習モデルの評価指標を算出し、それぞれの時点での学習モデルと関連付けた学習モデルを記憶し、この関連付けた学習モデルを用いて評価、判定を行うように構成することが好ましい。
【0086】
そして、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1を用いて作業員2の安全帯4の使用状況を監視する際には(本実施形態の安全帯使用状況監視方法においては)、安全帯4に加速度センサ10及び発信機11を有する加速度無線タグ17を取り付ける。加速度無線タグ17は、加速度センサ10で検出した加速度データを送信機11によって、スマートフォンなどの端末装置(携帯端末20、管理用端末21、ホストコンピュータやクラウドコンピュータ22など)に具備された受信機12に送信する。スマートフォンなどの端末装置20、21、22に具備された受信機12は、加速度無線タグ17の加速度センサ10で検出した加速度データを受信し、端末装置20、21、22に具備されたアプリケーションなどのフック使用判定部13内のプログラムで、安全帯4の状態を予測、フック5の使用状況の判定を行う。
ここで、端末装置20、21、22の電源のON/OFF、アプリケーションソフトの起動/停止などは入出力部18によって行う。
【0087】
そして、判定部27が判定した判定結果は、例えば、表示部14に表示出力したり、ネットワーク7を介してホストコンピュータやクラウドコンピュータ22などを通じて管理用PC21や携帯端末20、21などの他の端末装置へと送信出力する。
【0088】
したがって、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1によれば、フック5を装着した動作の加速度データを精度よく抽出した形の学習モデルを作成でき、この学習モデルに基づいて評価、判定を行うことで、従来の安全帯使用状況監視システムよりも格別に高精度でフック5の使用状況の判定を行うことが可能になる。
【0089】
また、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1においては、機械学習の教師あり学習アルゴリズム、SVMを用い、いくつかのデータパターンを分類してフック5の使用状況の判定を行う。これにより、より一層、高い判定精度でフック5の使用状況の判定を行うことが可能になる。
【0090】
さらに、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1においては、SVMを用いることで、高い判定精度でフックの使用状況の判定を行うことが可能になる。
例えば、SVMを用いて学習モデルを生成した場合には、フック5の使用状況の判定精度が悪条件下でも70~80%以上の高精度であるのに対し、決定木、LSTM(Long Term Short Memory)を用いて学習モデルを生成した場合には、判定精度が60%~70%程度であることが確認されている。
【0091】
そして、このような機械学習やSVMを用いることによって、数百人以上などの多数の作業員2が作業を行うような建設現場であっても、多数の作業員2の加速度センサ10の情報信号(ビックデータ)Rを好適に扱うことができ、各作業員2のフック5の使用状況を好適に評価、判定、さらに通知することが可能になる。これにより、警報の誤報の度に作業を停止することになったり、監督員が「不適」という情報への対応に忙殺されるなどして、建設現場に混乱をもたらすおそれを解消することができる。
【0092】
ここで、本実施形態のように機械学習の教師あり学習アルゴリズム、SVMを用いる場合において、例えば、作業開始時に、作業員2に適正な安全帯4、フック5の使用行動を行わせるなどし、明らかな適正動作で検出される加速度データを基に教師データを生成し、学習を行うようにしてもよい。例えば、入出力部18の操作によって、フック5をフック掛止部材8に適切に引っ掛ける適切動作の実施を通知し、教師データを与えてから本作業を行うようにしてもよい。この場合には、フック5の使用状況の判定精度を比較的容易で早期に高めることが可能になる。
また、撮像装置28で作業員2の作業動作を撮像し、作業員2の適正な安全帯4、フック5の使用行動を画像で確認するとともに加速度データを確認し、これに基づく教師データを監督員等が入力部29で入力し、学習モデルを生成するように構成してもよい。
【0093】
なお、機械学習のアルゴリズムとしては、必ずしも教師あり学習でなくてもよく、教師なし学習、半教師あり学習などのアルゴリズムを用いてもよい。
【0094】
教師なし学習アルゴリズムでは、例えば、SVM、SOM(自己組織化マップ)、k平均法クラスタリング、近傍法マッピング、特異値分解などによって、適正な安全帯4、フック5の使用行動に対応した加速度データの特定・推定や、逆に適正な安全帯4、フック5の使用行動とは関係のない加速度データの特定・推定(外れ値の特定・推定)を行い、順次検出される加速度データを用いて学習を行ってゆくことで、従来よりも、フック5の使用状況の判定精度を高めることが可能である。
【0095】
半教師あり学習アルゴリズムを適用する場合には、教師あり学習アルゴリズムと教師無し学習アルゴリズムを複合して用いることで、従来よりも、判定精度を高めることが可能である。
【0096】
また、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1においては、情報信号Rとして、加速度センサ10の検出結果の情報だけでなく、作業員2の判別情報、作業員2の位置情報、作業員2の作業内容情報などを取得するようにすることで、さらに高精度でフック5の使用状況の判定を行うことが可能になる。
【0097】
例えば、国土交通省の建築工事積算基準や土木工事積算基準に示される多数の工程(工程名称)を参考にするなどして多数の作業工程を個別に機械学習に反映させ、判別された作業員2が実施する工程ごとの判定基準(学習データ)によって、フック5の使用状況を判定するようにしてもよい。これにより、作業員2が実施する工程ごとに機械学習を行うことができ、さらなるフック5の使用状況の判定精度の向上を図ることが可能になる。
【0098】
また、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1においては、高所作業を行う現場、又は、現場への経路の少なくとも何れか一方に作業員を判別するための設置型発信機33(発信機11e、受信機12e)が設けられていることが好ましい。
【0099】
この場合には、例えば、起動用電波を受信した受信機12を携帯する(受信機12が装着されている装着物を身に付けている)作業員2はフック5の使用状況を判定する必要がある場所におり、起動用電波を受信しない受信機12を携帯する作業員2はフック5の使用状況を判定する必要がない場所にいることが判る。これにより、受信機12を携帯する作業員2の中で、フック5の使用状況を判定する必要がある作業員2を特定でき、フック使用判定部13の処理負担を軽減することができる。
【0100】
言い換えれば、本実施形態の安全帯使用状況監視システム1を備えることによって、加速度センサ10で検出される作業員2を含む物の動きを無線で知ることができる。また、定期的なビーコン送信の電波強度を合わせて計測できるようにすれば、作業員2を含む物の位置の存在、近接などの状況を知ることも可能になる。
【0101】
以上、本開示の安全帯使用状況監視システムの一実施形態について説明したが、上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0102】
例えば、機械学習アルゴリズム・特徴量抽出方法の変更によって、さらに判定精度向上を見込める可能性もある。
【0103】
また、機械学習のアルゴリズムは、必ずしも本実施形態のように限定しなくてもよい。
【0104】
さらに、本実施形態では、加速度センサ10と送信機11を一体化した加速度センサ・無線タグ17を安全帯4のロープ6の一端部、又は安全帯4のフック5に貼り付けるなどして装着するものとして説明を行ったが、勿論、加速度センサ10と、送信機11や受信機12をそれぞれ個別に設けてもよい。
【0105】
また、図1に示すように、フック5の掛止本体部5a(鈎状部など)の開放部分を開閉する回動部5bに加速度センサ10を貼り付けるなどして装着するようにしてもよい。
この場合には、回動部5bがヒンジ部5cの回動軸線O1周りに正逆回動して掛止本体部5aの開放部分を開閉するように構成されているため、この回動部5bに装着した加速度センサ10は、作業員2がフック掛止部材8に対してフック5の装着動作、フック5の取外し動作を行う際に、必然的にヒンジ部5cの回動軸線O1を中心とした同心円上の周方向に沿って正逆移動することになる。これにより、加速度センサ10によって検出される加速度データのうち、フック5の装着動作、フック5の取外し動作を示す加速度データをより精度よく抽出することができる。よって、一層、フック5の使用状況の判定精度の向上を図ることが可能になる。なお、本開示の「フック5」に含まれるロリップなどにおいても、勿論同様のことが言える。
【符号の説明】
【0106】
1 安全帯使用状況監視システム
2 作業員
3 装着物
4 安全帯
5 フック
5a 鈎状部(掛止本体部)
5b 回動部
5c ヒンジ部
6 ロープ
8 フック掛止部材(固定支持部材)
10 加速度センサ
11 送信機
12 受信機
13 フック使用判定部
14 表示部
15 警報部
17 加速度無線タグ
20 携帯端末
21 管理用端末
22 ホストコンピュータ、クラウドコンピュータなど
23 データ取得部
24 データ記憶部
25 演算部
26 機械学習部
27 判定部
28 撮像装置
29 入力部
31 学習部
32 推定部
33 設置型送信機
O1 回動軸線
R 情報信号(加速度データなど)
図1
図2
図3
図4
図5
図6