(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】クッション材とそれを備える車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20240612BHJP
A47C 27/15 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C27/15 A
(21)【出願番号】P 2020145634
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】前川 美穂子
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/054893(WO,A1)
【文献】特開2003-259933(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235515(WO,A1)
【文献】特開2002-306274(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059454(WO,A1)
【文献】特開2014-194009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
A47C 27/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド本体と、
前記パッド本体と別体であって、前記パッド本体と一体化されて用いられるクッション材
と、
を備える車両用シートであって、
前記クッション材は、
厚みが、3mm以上30mm以下であり、
内層と、前記内層よりもみかけ密度の高いスキン層と、を備えるモールド成形品であり
、
JIS-K6400-7:2012のB法を適用し、縦150mm×横150mm×厚さ20mmの大きさの試験片で測定される通気量が、2cm
3/cm
2/s以上22cm
3/cm
2/s以下であ
り、
前記クッション材は、みかけ密度が、0.05g/cm
3以上0.085g/cm
3以下であり
、かつ前記パッド本体よりもみかけ密度が高い、
ことを特徴とする、
車両用シート。
【請求項2】
前記
クッション材の通気量が、5cm
3/cm
2/s以上22cm
3/cm
2/s以下である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の
車両用シート。
【請求項3】
前記クッション材は、縦400mm×横400mm×厚さ20mmの大きさの試験片を、直径200mmの加圧板で初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)した後、直ちに荷重を除いて前記加圧板を初期位置に戻し、1分間放置してから再び同じ操作を繰り返す予備圧縮を2回行った後に、前記試験片を1分間放置してから前記加圧板で初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)することによって測定されるヒステリシスロス率が、17%以上28%以下である、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の
車両用シート。
【請求項4】
前記クッション材の厚みが、5mm以上30mm以下である、
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の
車両用シート。
【請求項5】
前記クッション材は、縦400mm×横400mm×厚さ20mmの大きさの試験片に対して直径200mmの加圧板で4.9Nの荷重を加えたときの前記加圧板の位置を基準位置とし、前記試験片を初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)した後、前記加圧板を速度50mm/minで前記基準位置まで戻す予備圧縮を行った後に、前記試験片を1分間放置してから前記加圧板で初めの厚さの25%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)し、20秒間保持した後の力(25%ILD硬さ)が、30N/314cm
2以上180N/314cm
2以下である、
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の
車両用シート。
【請求項6】
前記クッション材と前記パッド本体の、みかけ密度の差が、0.01g/cm
3
以上である、
ことを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記クッション材が、前記パッド本体に接着されている、
ことを特徴とする、請求項
1~6
のいずれか1項に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション材とそれを備える車両用シートに関する。詳しくは、車両用シートのパッド本体に一体化されるクッション材および、上記クッション材を備える車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両用シートは、骨格を構成する金属製のシートフレームの上に、パッド本体と、上記パッド本体に一体化されるクッション材と、が配設されて構成されている。例えば特許文献1には、スラブ成形によって製造された軟質クッション材(スラブパッド)をパッド本体の上に貼着することで、軟らかい感触を出して乗員の乗り心地を向上しうる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載されるようなスラブパッドは、軟らかい感触を実現するために概して通気量が大きくなっている。そのため、乗員の着座時に潰れやすく、形崩れしやすい。これにより、車両のアイドリング中や走行中に発生するエンジン振動や路面からの振動のうち、高周波領域(10Hz以上)の振動を吸収しにくい傾向にある。その結果、乗員に高周波領域の振動が直に伝わってしまい、乗員の大腿部等に不快なブルブル感を生じる課題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高周波領域(10Hz以上)の振動を低減することができ、乗員の乗り心地を向上することができるクッション材、および上記クッション材を備える車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、パッド本体と、前記パッド本体と別体であって、前記パッド本体と一体化されて用いられるクッション材と、を備える車両用シートであって、前記クッション材は、厚みが、3mm以上30mm以下であり、内層と、前記内層よりもみかけ密度の高いスキン層と、を備えるモールド成形品であり、JIS-K6400-7:2012のB法を適用し、縦150mm×横150mm×厚さ20mmの大きさの試験片で測定される通気量が、2cm3/cm2/s以上22cm3/cm2/s以下であり、前記クッション材は、みかけ密度が、0.05g/cm3以上0.085g/cm3以下であり、かつ前記パッド本体よりもみかけ密度が高い、ことを特徴とするものである。
【0007】
請求項1の発明によれば、クッション材の通気量が、22cm3/cm2/s以下のため、乗員の着座時にクッション材が潰れにくく形崩れしにくくなる。これにより、クッション材が、所謂、ダンパーの役割をし、高周波領域(10Hz以上)の振動をクッション材で好適に吸収することができる。これにより、乗員の大腿部等に生じる不快なブルブル感を軽減することができる。また、クッション材の通気量が、2cm3/cm2/s以上のため、クッション材に適度な通気性が確保され、乗員に蒸れの不快感が生じにくくなる。したがって、乗員の乗り心地を向上させることができる。また、請求項1の発明によれば、みかけ密度が、0.05g/cm
3
以上0.085g/cm
3
以下であることにより、クッション材の内部の空隙(セル)が潰れにくくなり、振動吸収性をさらに向上することができる。また、クッション材の重量を抑えて、車両の燃費を向上することができる。さらに、請求項1の発明によれば、内層と、前記内層よりもみかけ密度の高いスキン層と、を備えるモールド成形品であることにより、着座時の潰れや形崩れを高いレベルで抑えて、振動吸収性をさらに向上することができる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記クッション材の通気量が、5cm3/cm2/s以上22cm3/cm2/s以下である、ことを特徴とするものである。請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果を、より高いレベルで発揮することができる。例えば、高周波領域の振動吸収性の向上、および、蒸れの不快感の低減、のうちの少なくとも一方を実現することができる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記クッション材は、縦400mm×横400mm×厚さ20mmの大きさの試験片を、直径200mmの加圧板で初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)した後、直ちに荷重を除いて前記加圧板を初期位置に戻し、1分間放置してから再び同じ操作を繰り返す予備圧縮を2回行った後に、前記試験片を1分間放置してから前記加圧板で初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)することによって測定されるヒステリシスロス率が、17%以上28%以下である、ことを特徴とするものである。請求項3の発明によれば、請求項1又は2の発明の効果に加えて、クッション材の反発性を抑えることができる。これにより、着座時の座崩れ(姿勢の乱れ)を抑制して、着座性を向上することができる。また、走行時のホールド性や姿勢安定性を向上することができる。また、着座時の圧縮残留歪を小さく抑えて、退座時の復元性を向上することができる。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1~3のいずれか1項の発明において、前記クッション材の厚みが、5mm以上30mm以下である、ことを特徴とするものである。請求項4の発明によれば、請求項1~3のいずれか1項の発明の効果に加えて、乗員の着座時に底付きしにくくなり、振動吸収性をさらに向上することができる。また、着座時のぐらつきを抑えて、着座性を向上することができる。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1~4のいずれか1項の発明において、前記クッション材は、縦400mm×横400mm×厚さ20mmの大きさの試験片に対して直径200mmの加圧板で4.9Nの荷重を加えたときの前記加圧板の位置を基準位置とし、前記試験片を初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)した後、前記加圧板を速度50mm/minで前記基準位置まで戻す予備圧縮を行った後に、前記試験片を1分間放置してから前記加圧板で初めの厚さの25%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)し、20秒間保持した後の力(25%ILD硬さ)が、30N/314cm2以上180N/314cm2以下である、ことを特徴とするものである。請求項5の発明によれば、請求項1~4のいずれか1項の発明の効果に加えて、クッション材の内部の空隙(セル)が潰れにくくなり、振動吸収性をさらに向上することができる。また、剛性が大きくなりすぎることを抑制して、反発性をさらに抑えることができる。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1~5のいずれか1項の発明において、前記クッション材と前記パッド本体の、みかけ密度の差が、0.01g/cm
3
以上である、ことを特徴とするものである。請求項6の発明によれば、高周波領域の振動が低減され、乗り心地の向上した車両用シートを実現することができる。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1~6のいずれか1項の発明において、前記クッション材が、前記パッド本体に接着されている、ことを特徴とするものである。請求項7の発明によれば、パッド本体とクッション材とを長期にわたって強固に一体化することができる。また、製造時の作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートの正面図である。
【
図4】振動伝達率特性曲線(横軸:振動数、縦軸:振動伝達率)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面によって開示されている事項と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0018】
≪車両用シート≫
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用シート10の正面図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。車両用シート10は、図示しない車両に取り付けられ、乗員の着座部を構成するものである。車両用シート10は、乗員の体を支持するものである。車両用シート10は、ここでは乗員の上体背部が当接し、乗員の上半身(例えば、肩部から腰部)を背後から支えるシートバック(背もたれ)である。ただし、車両用シート10は、乗員の下半身(例えば、臀部から大腿部)を鉛直方向の下方から支えるシートクッション等であってもよい。なお、車両用シート10は、典型的には、布製、樹脂製、皮革製等のカバー体で覆われているが、
図1、
図2では、カバー体の図示を省略している。
【0019】
車両用シート10は、ここでは、シートバックの骨格をなすシートバックフレーム(図示せず)と、パッド本体12と、クッション材14と、を備えている。横方向において、クッション材14は、パッド本体12の中央部12cに配置されている。より詳しくは、パッド本体12は、上下方向に延びる断面略U字状の一対の溝部12b(
図2参照)を有し、クッション材14は、一対の溝部12bの間に配置されている。クッション材14は、パッド本体12の中央部12cの上部分および下部分に、それぞれ1つ配置されている。なお、ここではパッド本体12は1つであるが、2つ以上の複数であってもよい。また、ここではクッション材14は2つであるが、1つだけであってもよく、3つ以上であってもよい。また、ここではパッド本体12の中央部12cのみにクッション材14が配置されているが、中央部12cに加えて、あるいは中央部12cにかえて、サイド部12sにクッション材14を配置してもよい。さらに、パッド本体12とクッション材14の形状や配置は、例えば車両用シート10の形状等に応じて、適宜変更することができる。
【0020】
パッド本体12は、図示しないシートバックフレームに組み付けられている。パッド本体12は、従来この種の用途に用いられているものと同様でよく、その材質や性状、形状等は特に限定されない。パッド本体12は、好ましくはポリウレタンフォーム(ウレタン発泡体)で構成されている。パッド本体12は、従来公知の方法、例えばモールド成形(型成形)によって製造することができる。パッド本体12は、例えば、ポリオール成分と、架橋剤と、発泡剤と、整泡剤と、触媒と、連通化剤と、ポリイソシアネート成分と、を含むポリウレタン原料を成形型に注入し、発泡成形することによって製造することができる。パッド本体12のポリオール成分は、例えばポリプロピレングリコール(PPG)とポリマーポリオール(POP)とを含んでいてもよい。パッド本体12のポリイソシアネート成分は、トリレンジイソシアネート(TDI)とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを含んでいてもよい。
【0021】
クッション材14は、車両用シート10の乗員が着座する位置(着座位置)に配置されている。クッション材14は、パッド本体12の着座面側に配置されている。クッション材14は、着座位置の上層部(例えば表層部)を構成している。クッション材14は、パッド本体12と乗員の体の少なくとも一部分との間に介在される。クッション材14は、ここではパッド本体12と乗員の上体背部との間に介在される。クッション材14は、例えば布製、樹脂製、皮革製等のカバー体で覆われていてもよい。クッション材14は、ここではシート状(板状)である。クッション材14は、パッド本体12に一体化されている。
【0022】
なお、本明細書において「一体化」とは、付設、接着、装着、成形、挿入等を含む概念である。すなわち、クッション材14は、例えば、パッド本体12の上に載せて置かれていてもよく、パッド本体12に着脱不可能に接着されていてもよく、パッド本体12にマジックテープ(登録商標)等で着脱自在に取り付けられていてもよく、パッド本体12と一体に成型(例えば、パッド本体12を成形するための成形型にクッション材14をインサートしたのち、パッド本体12を発泡成形するインサート成型)されていてもよく、パッド本体12の内部に挿入されていてもよい。
【0023】
クッション材14は、ここではパッド本体12に接着されて固定されている。接着により、パッド本体12とクッション材14とを長期にわたって強固に一体化することができる。なお、本明細書において「接着」とは、化学的もしくは物理的な力で結合された状態全般をいい、例えば、クッション材14が接着剤や両面テープ等を介してパッド本体12と一体化されていることをいう。
【0024】
クッション材14は、典型的には樹脂の発泡体である。クッション材14は、好ましくはポリウレタンフォーム(ウレタン発泡体)で構成されている。クッション材14は、軟質または半硬質ポリウレタンフォームであってもよい。クッション材14は、ここでは単層構造である。詳しくは後述するが、クッション材14は、例えば、上記したようなポリウレタン原料を成形型に注入し、発泡成形することによって製造することができる。クッション材14は、例えば、ポリオール成分としてのPPGの架橋物を第1成分(質量比で最も配合割合の高い成分。以下同じ。)として構成されていてもよいし、PPGの架橋物を主体(クッション材14全体の50体積%以上を占める成分。)として構成されていてもよい。
【0025】
クッション材14は、通気量(平均通気量)が、2~25cm3/cm2/sであることが必要である。クッション材14は、通気量が、好ましくは5cm3/cm2/s以上、例えば6cm3/cm2/s以上であるとよい。通気量を所定値以上とすることで、クッション材14に適度な通気性が確保され、座っているときに蒸れの不快感が生じにくくなる。例えば、乗員の体格が大きく体重が重い場合や、夏の暑い時期に長時間着座する場合等にも、乗り心地を向上して、快適に過ごすことができる。
【0026】
クッション材14は、通気量が、好ましくは22cm3/cm2/s以下、例えば15cm3/cm2/s以下、10cm3/cm2/s以下であるとよい。通気量を所定値以下とすることで、クッション材14が、所謂、ダンパーの役割をし、車両のアイドリング中や走行時の振動、特には高周波領域の振動(所謂、ブルブル振動)を吸収して、振動吸収性を向上することができる。これにより、例えばクッション材14なしでパッド本体12のみを使用する場合や、特許文献1に記載されるようなスラブパッドを使用する場合に比べて、乗員の大腿部等に生じる不快なブルブル感を相対的に軽減することができる。なお、通気量の測定方法については、後述する試験例で説明する。
【0027】
クッション材14は、ヒステリシスロス率が、概ね15%以上、好ましくは17%以上、より好ましくは20%以上、例えば22%以上であって、概ね30%以下、好ましくは28%以下、より好ましくは26%以下、例えば25%以下であるとよい。ヒステリシスロス率を所定値以上とすることで、クッション材の反発性を抑えることができる。これにより、乗員の着座時の座崩れ(姿勢の乱れ)を抑制して、着座性を向上することができる。また、走行時のホールド性や姿勢安定性を向上することができる。ヒステリシスロス率を所定値以下とすることで、着座時の圧縮残留歪を小さく抑えて、乗員の退座時の復元性を向上することができる。これにより、上記した効果を長期にわたって安定して発揮することができる。なお、ヒステリシスロス率の測定方法については、後述する試験例で説明する。
【0028】
クッション材14は、みかけ密度が、概ね0.03g/cm3以上、好ましくは0.04g/cm3以上、より好ましくは0.05g/cm3以上、例えば0.06g/cm3以上であって、概ね0.1g/cm3以下、好ましくは0.095g/cm3以下、より好ましくは0.085g/cm3以下、例えば0.08g/cm3以下であるとよい。みかけ密度を所定値以上とすることで、乗員の着座時にクッション材14の内部の空隙(セル)が潰れにくくなる。これにより、振動吸収性を向上することができる。みかけ密度を所定値以下とすることで、クッション材14を軽量化して重量を抑え、車両の燃費を向上することができる。
【0029】
クッション材14は、パッド本体12よりもみかけ密度が大きいことが好ましい。例えば、0.01g/cm3以上、好ましくは0.02g/cm3以上、例えば0.025g/cm3以上、みかけ密度が大きくてもよい。なお、みかけ密度の測定方法については、後述する試験例で説明する。
【0030】
クッション材14は、25%ILD硬さが、概ね20N/314cm2以上、好ましくは30N/314cm2以上、より好ましくは45N/314cm2以上、例えば50N/314cm2以上であって、概ね200N/314cm2以下、好ましくは180N/314cm2以下、より好ましくは120N/314cm2以下、例えば100N/314cm2以下、80N/314cm2以下であるとよい。25%ILD硬さを所定値以上とすることで、乗員の着座時にクッション材14の内部の空隙(セル)が潰れにくくなる。これにより、振動吸収性を向上することができる。25%ILD硬さを所定値以下とすることで、剛性が大きくなりすぎる(言い換えれば、反発しすぎる)ことを抑制することができる。なお、25%ILD硬さの測定方法については、後述する試験例で説明する。
【0031】
クッション材14は、その厚みt(平均厚み、
図2参照)が、概ね3mm以上、好ましくは5mm以上、例えば10mm以上、より好ましくは15mm以上であって、概ね50mm以下、好ましくは30mm以下、より好ましくは25mm以下であるとよい。厚みtを所定値以上とすることで、例えば乗員の体格が大きく体重が重い場合等にも、乗員の着座時に底付きしにくくなる。これにより、振動吸収性を向上することができる。厚みtを所定値以下とすることで、乗員の着座時に横方向へのぐらつきを抑えて、着座性を向上することができる。
【0032】
クッション材14は、内層と、内層よりもみかけ密度の高いスキン層(表層)と、を備えるモールド成形品であるとよい。スキン層は、典型的には内層の表面を構成し、内層と乗員の体との間に介在する。高密度のスキン層を備えることで、乗員の着座時の潰れや形崩れを高いレベルで抑えることができる。また、振動吸収性を向上することができる。
【0033】
≪クッション材の製造方法≫
クッション材14は、例えば、以下の用意工程とモールド成形工程とを含む製造方法によって製造することができる。用意工程では、まず、ポリオール成分を配合したレジンプレミックスと、ポリイソシアネート成分とを、ポリウレタン原料として用意する。レジンプレミックスは、必須の成分として、ポリオール成分と、発泡剤と、整泡剤と、触媒と、を含み、さらにその他の添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、架橋剤、連通化剤、難燃剤、充填剤、着色剤、安定剤、等が例示される。
【0034】
特に限定されるものではないが、ポリオール成分は、PPGが第1成分であるとよく、実質的に(ポリオール成分全体の95質量%以上が)PPGからなることが好ましい。ポリオール成分は、実質的にPOPを含まない(例えば、POPがポリオール成分全体の10質量%以下、5質量%以下である)ことが好ましい。発泡剤、整泡剤、触媒、および添加剤(架橋剤、連通化剤等)については従来この種の用途に用いられているものと同様でよく、特に限定されない。架橋剤は、多価アルコールやアミン類であってもよい。触媒は、アミン化合物であってもよい。発泡剤は、水であってもよい。整泡剤は、シリコーンオイルであってもよい。
【0035】
また、特に限定されるものではないが、ポリイソシアネート成分は、MDIが第1成分であるとよく、実質的に(ポリイソシアネート成分全体の95質量%以上が)MDIからなることが好ましい。ポリイソシアネート成分は、実質的にTDIを含まない(例えば、TDIがポリイソシアネート成分全体の10質量%以下、5質量%以下である)ことが好ましい。
【0036】
特に限定されるものではないが、架橋剤の配合割合は、ポリオール成分を100質量部としたときに、概ね0.5~5質量部とするとよい。発泡剤の配合割合は、ポリオール成分を100質量部としたときに、概ね2~5質量部とするとよい。触媒の配合割合は、ポリオール成分を100質量部としたときに、概ね0.35~2.5質量部とするとよい。整泡剤の配合割合は、ポリオール成分を100質量部としたときに、概ね0.2~2質量部とするとよい。連通化剤は、ポリオール成分を100質量部としたときに、概ね0.5~5質量部とするとよい。また、ポリイソシアネート成分の配合割合は、レジンプレミックスを100質量部としたときに、概ね25~80質量部とするとよい。
【0037】
モールド成形工程では、ポリウレタン原料を発泡成形する。具体的には、上記で用意したポリウレタン原料、すなわち、レジンプレミックスとポリイソシアネートとを混合して成形型本体(下型)に注入し、蓋体(上型)を閉じる。これにより、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを化学反応させ、得られるポリマーを反応と同時に発生したガス(二酸化炭素)で発泡成形する。なお、発泡成形の条件(成形温度等)は、従来と同様であってよい。成形温度は、例えば40~90℃としてもよい。以上により、ポリウレタンフォームからなるクッション材14を得ることができる。
【0038】
なお、クッション材14の性状(例えば、上記した通気量、ヒステリシスロス率、みかけ密度、25%ILD硬さ)は、例えば成型方法や、ポリウレタン原料の組成(例えば、ポリオール成分および/またはポリイソシアネート成分の種類)、各成分の配合比、に因るところが大きい。例えば、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載されるようなスラブ成形では、成型品の通気量が25cm3/cm2/sよりも大きくなり、上記した通気量の範囲を実現することが難しい。このため、成型方法としては、スラブ成形以外の方法、例えばモールド成形を採用することが好ましい。例えば、まず上記した各成分を上記した配合割合で混合したポリウレタン原料を調製し、次いでモールド成形によって成形品を得ることにより、上記した通気量のクッション材14を好適に実現することができる。
【0039】
以上のように、クッション材14によれば、高周波領域(10Hz以上)の振動を好適に吸収して、不快なブルブル感を軽減することができる。また、乗員に蒸れの不快感が生じにくくなる。したがって、車両の乗り心地を向上させることができる。クッション材14は、各種の車両、例えば、乗用車、トラック等の自動車に好適に用いることができる。
【0040】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0041】
実施例1として、ポリウレタン原料をモールド成形することにより、クッション材を作製した。具体的には、まず、ポリオール成分(PPG)と、架橋剤(アクトコール(登録商標)KL-210(三井化学SKCポリウレタン株式会社製))を0.5質量部と、発泡剤(水)を3.3質量部と、触媒(TD-33A(ハンツマン製)、ZF-22(ハンツマン製)、TOYOCAT(登録商標)-D60(東ソー株式会社製))を合計1.35質量部と、整泡剤(SZ1346E(ダウ・東レ株式会社製))を0.6質量部と、連通化剤(サンニックス(登録商標)FA-159(三洋化成工業株式会社製))を3.5質量部と、を混合して、レジンプレミックスを調製した。なお、触媒は、TD-33Aが0.35質量部、ZF-22が0.1質量部、D60が0.9質量部とした。各質量部は、ポリオール成分(PPG)を100質量部とした配合割合である。
【0042】
次に、上記調製したレジンプレミックスと、ポリイソシアネート成分としてのMDIとを、100:36.35の質量比で混合してモールド成形し、モールド成形品からなるクッション材(実施例1)を用意した。また、比較用として、スラブ成形によって製造されたスラブ成形品からなるクッション材(比較例1)を用意した。
【0043】
次に、市販のベースパッド材(パッド本体)を用意した。このベースパッド材は、ポリオール成分としてPPGとPOPとを含み、ポリイソシアネート成分としてTDI/MDIのブレンドを使用したものである。そして、用意した2種類のクッション材(実施例1、比較例1)とベースパッド材について、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
【0044】
(1)通気量の測定
フラジール型通気度試験機を用い、JIS-K6400-7:2012のB法を適用して、縦150mm×横150mm×厚さ20mmの大きさの試験片で通気量を測定した。
【0045】
(2)ヒステリシスロス率の測定
測定は、JIS-K6400-2:2012のE法を参考にして行った。すなわち、まず、島津オートグラフAG-I型(株式会社島津製作所製)を用い、縦400mm×横400mm×厚さ20mmの直方体形状の試験片を、直径200mmの加圧板で、初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)した。その後、直ちに荷重を除いて加圧板を初期位置に戻し、1分間放置した。この圧縮と放置とを繰り返す予備圧縮を、合計2回行った。次に、試験片を1分間放置してから加圧板で初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)することによって、荷重-たわみ曲線を作図した。そして、荷重-たわみ曲線からJIS-K6400-2:2012のE法に記載される計算方法で、ヒステリシスロス率を算出した。
【0046】
(3)みかけ密度の測定
試験片の外形と重さとを測定して、みかけ密度を算出した。すなわち、「みかけ密度」とは、内部に空隙をもつ物質にあって、その空隙を含めた単位容積当たりの質量をいう。
【0047】
(4)25%ILD硬さの測定
測定は、JIS-K6400-2:2012を参考にして行った。すなわち、まず、島津オートグラフAG-I型(株式会社島津製作所製)を用い、縦400mm×横400mm×厚さ20mmの直方体形状の試験片に対して直径200mmの加圧板で4.9Nの荷重を加えたときの加圧板の位置を基準位置とし、試験片を初めの厚さの75%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)した。次に、加圧板を速度50mm/minで基準位置まで戻した。この予備圧縮を行った後に、試験片を1分間放置してから加圧板で初めの厚さの25%まで圧縮(圧縮速度:50mm/min)し、20秒間保持した後の力(25%ILD硬さ)を測定した。
【0048】
【0049】
次に、振動伝達率の測定を行った。すなわち、車両のアイドリング中や走行中の高周波領域の振動(ブルブル振動)を低減するためには、振動試験で得られる振動曲線(横軸:振動数、縦軸:振動伝達率)において、高周波領域(10Hz以上)の振動数の振動伝達率を下げることが有効であるといわれている。そこで、シートクッション振動試験機V-0545(株式会社鷺宮製作所製)を用いて振動試験を行い、振動伝達率を測定した。
【0050】
図3は、振動試験の様子を表す模式図である。具体的には、まず加振台にベースパッド材(縦400mm×横400mm×厚さ40mm)のみを設置し、円盤状のおもり(鉄研盤、20kg)でベースパッド材の中央を抑えた。この状態で、加振台を一定の加速度(0.2G)でスイープ加振して、周波数が1~25Hzの振動Gを与えた。そして、振動Gを与えたときの測定子の振動G’を測定して、ベースパッド材の振動伝達率(G’/G)を求めた。また、
図3に示すように、クッション材(実施例1、比較例1)については、ベースパッド材の上に試験片(縦400mm×横400mm×厚さ20mm)を設置して、振動伝達率(G’/G)を求めた。
【0051】
図4は、横軸に振動数を、縦軸に振動伝達率を表した振動伝達率特性曲線である。振動伝達率は、値が小さいほど振動吸収性に優れることを表している。
図4に示すように、実施例1のクッション材を用いた場合、特に10Hz以上の高周波領域において、ベースパッド材のみの場合や比較例1のクッション材を用いた場合に比べて、相対的に振動伝達率が低く抑えられていた。
【0052】
さらに、実施例1に準じてポリウレタン原料をモールド成形することにより、実施例2~4のクッション材を作製した。なお、実施例2は、密度を高くしたこと以外は実施例1と同様に、実施例3は、発泡剤の配合割合を減らしたこと以外は実施例1と同様に、実施例4は、ポリイソシアネート成分(MDI)の種類を変更したこと以外は実施例1と同様に、それぞれクッション材を作製した。そして、実施例2~4についても、実施例1と同様に、上記した(1)~(4)の測定を行った。また、図示は省略するが、実施例2~4のクッション材は、実施例1のクッション材と同様に、ベースパッド材のみの場合や比較例1のクッション材を用いた場合に比べて、相対的に10Hz以上の高周波領域において振動伝達率が低く抑えられていた。
【0053】
次に、実施例1~4、比較例1のクッション材(厚さ20mm)に対し、次の項目の官能評価を行った。官能評価は、実施例1~4、比較例1のクッション材を、実際の車両の車両用シート(詳しくは、シートバックおよびシートクッションのパッド本体)に装着して、被験者が乗車し、所定の時間、走行速度40~60km/hで実車走行して行った。結果を以下の符号で表2に示す。
・ブルブル感:車両のアイドリング中や走行中に、(◎)被験者の上半身及び下半身にブルブル感が伝わらない;(〇)稀に上半身及び下半身にブルブル感を感じるが気にならない程度である;(×)上半身及び下半身にブルブル感を顕著に感じて不快である
・蒸れ感:(◎)長時間走行しても蒸れの不快感がない;(〇)長時間走行すると多少空気のこもった感じがあるが気にならない程度である;(×)短時間の走行でもはっきりとした蒸れ感があり不快である
・ホールド性:(◎)急カーブでも横揺れやぐらつきが少なく、クッション材が体に密着しているように感じられる;(〇)急カーブでは横揺れやぐらつきが少し感じられる;(×)走行時の横揺れやぐらつきが大きく、体が不安定である
【0054】
【0055】
表2の評価結果に示すように、実施例1~4のクッション材を用いることで、比較例1のクッション材を用いる場合に比べて相対的にブルブル振動を抑えられることが、官能評価からも裏付けられた。また、実施例1~4のクッション材では、2cm3/cm2/s以上の通気量を確保することで、蒸れの不快感が少なかった。特に、5cm3/cm2/s以上の通気量を確保することで、通気性がさらに高まり、長時間着座していても快適に過ごすことができた。また、実施例1~4のクッション材では、ヒステリシスロス率を17%以上、例えば20%以上とすることで、横揺れやぐらつきが抑えられ、ホールド感が良好だった。
【0056】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0057】
10 車両用シート
12 パッド本体
14 クッション材