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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】金属イオン含有酸性溶液の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20230101AFI20240612BHJP
   C23F 1/16 20060101ALI20240612BHJP
   C23G 1/04 20060101ALI20240612BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C02F1/42 E
C23F1/16
C23G1/04
G01N30/00 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020171959
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063614
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 幸男
(72)【発明者】
【氏名】藤原 裕司
(72)【発明者】
【氏名】関 昭広
(72)【発明者】
【氏名】張本 崇良
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130496(JP,A)
【文献】特開2003-003297(JP,A)
【文献】特開2011-196613(JP,A)
【文献】実開昭60-053395(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
C23F 1/16
C23G 1/04
G01N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが1.5以下の金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、前記金属イオンの少なくとも一部が除去された処理溶液を得る工程と、
前記処理溶液の電気伝導率Yを計測する工程と、
前記電気伝導率Yの低下から、前記陽イオン交換体の前記金属イオンの除去能の低下を判定する工程とを有することを特徴とする金属イオン含有酸性溶液の処理方法。
【請求項2】
前記金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xを計測する工程をさらに有し、
前記金属イオンの除去能の判定工程において、前記電気伝導率Xと前記電気伝導率Yから、前記陽イオン交換体の金属イオンの除去能の低下を判定する請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記金属イオンは、第3族~第14族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素のイオンである請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記金属イオン含有酸性溶液は、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記金属イオンの価数をM、前記金属イオン含有酸性溶液中の前記金属イオンの濃度をC(mol/L)としたとき、C/Mが0.3以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
電磁誘導式電気伝導率計を用いて前記電気伝導率Xおよび/または前記電気伝導率Yを計測する請求項1~のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記陽イオン交換体はイオン交換塔に充填されており、前記イオン交換塔に前記金属イオン含有酸性溶液が導入され、前記処理溶液が前記イオン交換塔から排出される請求項1~のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記金属イオン含有酸性溶液は、エッチング廃液または金属の酸洗浄廃液である請求項1~のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
前記金属イオン含有酸性溶液を前記陽イオン交換体と接触させて、前記金属イオンが除去された第1基準液を得る工程と、
前記第1基準液に前記金属イオンの酸化物または水酸化物を加えて、前記金属イオンが濃度C1で含まれる第2基準液を調製する工程と、
前記第1基準液の電気伝導率Z1を計測する工程と、
前記第2基準液の電気伝導率Z2を計測する工程と、
前記濃度C1と前記電気伝導率Z1,Z2を用いて、前記金属イオンの濃度と電気伝導率との相関を表す検量線を作成する工程とをさらに有し、
前記金属イオンの除去能の判定工程において、前記検量線に基づき、前記電気伝導率Yに対応する前記処理溶液の前記金属イオンの濃度を算出し、前記処理溶液を得る工程で用いた前記陽イオン交換体の金属イオンの除去能の低下を判定する請求項1~のいずれか一項に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオン含有酸性溶液の処理方法に関し、詳細には、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて処理溶液を得る際に、処理溶液の電気伝導率を計測することにより陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定する処理方法に関するものである。本発明はまた金属イオン濃度の測定方法に関し、詳細には、電気伝導率を計測することにより金属イオン含有酸性溶液中の金属イオン濃度を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンを陽イオン交換体によって除去する処理方法が知られている。金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて金属イオンを除去する処理を行う際は、陽イオン交換体の交換または再生処理のタイミングを適切に判断することが重要になる。これにより、処理溶液の金属イオン濃度を所望するように下げることができるとともに、処理コストの低減を図ることができる。
【0003】
陽イオン交換体の交換または再生処理のタイミングは、例えば、処理溶液の金属イオン濃度を測定することにより判定することができる。しかし、処理溶液の金属イオン濃度を直接測定することは、大がかりな機器分析装置が必要となったり、迅速に測定結果を得ることが難しくなりがちである。例えば特許文献1には、イオン交換装置を通過した処理水中のホウ素濃度を測定してイオン交換装置のブレークを判定するイオン交換装置のブレーク検知方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-117744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンを陽イオン交換体によって除去する際に、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を簡便に判定することができる処理方法を提供することにある。本発明はまた、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度を簡便に求めることができる金属イオン濃度の測定方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することができた本発明の金属イオン含有酸性溶液の処理方法とは、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンの少なくとも一部が除去された処理溶液を得る工程と、処理溶液の電気伝導率Yを計測する工程と、電気伝導率Yから、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定する工程とを有するところに特徴を有する。
【0007】
本発明の処理方法によれば、処理溶液の金属イオン濃度を直接測らなくても、処理溶液の電気伝導率を計測することで、陽イオン交換体によって金属イオン含有酸性溶液から金属イオンを除去する際の陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定することができる。電気伝導率は、原子吸光分析装置やICP発光分析装置等による機器分析と比べて、簡単そして迅速に計測することができるため、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を簡便に判定することができる。
【0008】
本発明の金属イオン含有酸性溶液の処理方法は、金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xを計測する工程をさらに有し、金属イオンの除去能の判定工程において、電気伝導率Xと電気伝導率Yから、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定するものであることが好ましい。処理溶液の電気伝導率Yとともに金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xも計測することにより、より正確に陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定することできる。
【0009】
金属イオンは、第3族~第14族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素のイオンであることが好ましい。金属イオン含有酸性溶液は、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含有することが好ましい。陽イオン交換体によって除去される金属イオンの価数をM、金属イオン含有酸性溶液中の金属イオンの濃度をC(mol/L)としたとき、C/Mが0.3以上であることが好ましい。金属イオン含有酸性溶液のpHは1.5以下であることが好ましい。
【0010】
電気伝導率Xおよび/または電気伝導率Yは、電磁誘導式電気伝導率計を用いて計測することが好ましい。電磁誘導式電気伝導率計を用いれば、計測部となるコイルを耐食性の高いプラスチック等で被うことができるため、強酸や腐食性の高い溶液に対しても安定して電気伝導率を計測することができる。
【0011】
陽イオン交換体はイオン交換塔に充填されており、イオン交換塔に金属イオン含有酸性溶液が導入され、処理溶液がイオン交換塔から排出されることが好ましい。これにより、イオン交換塔に充填された陽イオン交換体の破過のタイミングを判定することができる。
【0012】
金属イオン含有酸性溶液は、エッチング廃液または金属の酸洗浄廃液であることが好ましい。これらの廃液は、金属イオンが多く含まれ、pHが低いため、本発明における金属イオン含有酸性溶液に好適に適用することができる。
【0013】
本発明の金属イオン含有酸性溶液の処理方法は、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンが除去された第1基準液を得る工程と、第1基準液に金属イオンの酸化物または水酸化物を加えて、金属イオンが濃度C1で含まれる第2基準液を調製する工程と、第1基準液の電気伝導率Z1を計測する工程と、第2基準液の電気伝導率Z2を計測する工程と、濃度C1と電気伝導率Z1,Z2を用いて、金属イオンの濃度と電気伝導率との相関を表す検量線を作成する工程とをさらに有し、金属イオンの除去能の判定工程において、検量線に基づき、電気伝導率Yに対応する処理溶液の金属イオンの濃度を算出し、処理溶液を得る工程で用いた陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定するものであってもよい。このように第1基準液と第2基準液を調製し、これらの電気電伝導率Z1,Z2を計測し、金属イオンの濃度と電気伝導率との相関を表す検量線を作成することにより、処理溶液の金属イオン濃度の具体的な値を見積もることもできる。そのため、より正確に陽イオン交換体の金属イオン除去能を判定することができる。
【0014】
本発明はまた、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンが除去された第1基準液を得る工程と、第1基準液に金属イオンの酸化物または水酸化物を加えて、金属イオンが濃度C1で含まれる第2基準液を調製する工程と、金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xを計測する工程と、第1基準液の電気伝導率Z1を計測する工程と、第2基準液の電気伝導率Z2を計測する工程と、濃度C1と電気伝導率Z1,Z2を用いて、金属イオンの濃度と電気伝導率との相関を表す検量線を作成する工程と、検量線に基づき、電気伝導率Xに対応する金属イオン含有酸性溶液の金属イオンの濃度を算出する工程とを有する金属イオン濃度の測定方法も提供する。本発明の金属イオン濃度の測定方法によれば、大がかりな機器分析装置を用いなくても、簡便に金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度を求めることができる。
【0015】
上記の金属イオン濃度の測定方法において、金属イオンは、第3族~第14族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素のイオンであることが好ましい。金属イオン含有酸性溶液は、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含有することが好ましい。また、金属イオン含有酸性溶液のpHは1.5以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の処理方法によれば、処理溶液の金属イオン濃度を直接測らなくても、処理溶液の電気伝導率を計測することで、陽イオン交換体によって金属イオン含有酸性溶液から金属イオンを除去する際の陽イオン交換体の金属イオンの除去能を簡便に判定することができる。また、本発明の金属イオン濃度の測定方法によれば、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度を簡便に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】アルミニウムイオン含有廃酸溶液を陽イオン交換樹脂と接触させた処理溶液のアルミニウムイオン濃度と電気伝導率の経時変化を示したグラフを表す。
図2】アルミニウムイオン含有廃酸溶液のアルミニウムイオン濃度と電気伝導率の相関を示したグラフを表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の処理方法は、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンの少なくとも一部が除去された処理溶液を得る工程を有するものであり、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて処理を行う際に、陽イオン交換体の金属イオン除去能を簡便に判定することができるものである。
【0019】
金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、当該酸性溶液に含まれる金属イオンを陽イオン交換体によって除去する場合、処理の初期は陽イオン交換体の金属イオン除去能が高いものの、処理の継続に伴い陽イオン交換体の金属イオン除去能が低下する。金属イオン除去能が低下した陽イオン交換体は、新しい陽イオン交換体と交換したり、陽イオン交換体の再生処理を行ったりして、金属イオン含有酸性溶液の処理を再び行うことが一般的である。この際、陽イオン交換体の交換または再生処理のタイミングを適切に判断することが重要になる。陽イオン交換体の交換または再生処理のタイミングが遅れると、処理溶液の金属イオン含有量が増え、所望する性状の処理溶液が得られず、例えば当該処理溶液から金属イオンを除去する処理が改めて必要になったりする。一方、陽イオン交換体の交換または再生処理のタイミングが早いと、陽イオン交換体の消費量や再生頻度が増え、処理コストの増加に繋がる。
【0020】
陽イオン交換体の交換または再生処理のタイミングは、例えば、処理溶液の金属イオン濃度を測定することにより判定することができる。しかし、処理溶液の金属イオン濃度を測定する場合、原子吸光分析装置やICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析装置等による機器分析が必要となるため、測定のための操作が煩雑となったり、即座に測定値を得ることが難しくなりがちである。
【0021】
一方、本発明者らが様々検討したところ、処理溶液の金属イオン濃度を直接測らなくても、処理溶液の電気伝導率を計測することで、陽イオン交換体によって金属イオン含有酸性溶液から金属イオンを除去する際の陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定できることが明らかになった。金属イオン含有酸性溶液の性状がある程度変動する場合は、金属イオン含有酸性溶液とそれを陽イオン交換体と接触させた処理溶液のそれぞれの電気伝導率を計測し、それらの計測値を対比することで、より正確に陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定することできる。電気伝導率は、導電率や電気伝導度とも称され、原子吸光分析装置やICP発光分析装置等による機器分析と比べて簡単そして迅速に計測することが可能となる。なお、電気伝導率の逆数は電気抵抗値であるため、電気伝導率の計測には電気抵抗値の計測も含まれる。
【0022】
すなわち、本発明の処理方法は、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンの少なくとも一部が除去された処理溶液を得る工程と、処理溶液の電気伝導率Yを計測する工程と、電気伝導率Yから、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定する工程とを有するものである。好ましくは、本発明の処理方法は、金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xを計測する工程をさらに有し、電気伝導率Xと電気伝導率Yから、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定するものである。以下、本発明の処理方法について詳しく説明する。
【0023】
本発明の処理方法は、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンの少なくとも一部が除去された処理溶液を得る工程(以下、「金属イオン除去工程」と称する場合がある)を有する。本発明で用いられる金属イオン含有酸性溶液は、金属イオンを含有し、酸性である溶液であれば、特に限定されない。当該酸性溶液には、少なくとも陽イオン交換体によって除去可能な金属イオンが含まれ、陽イオン交換体によって除去されない金属イオンが含まれていてもよい。
【0024】
金属イオンとしては、陽イオン交換体による除去が一般に想定されるものとして、例えば第3族~第14族元素から選ばれる金属元素のイオンが挙げられる。従って、金属イオン含有酸性溶液に含まれる金属イオンは、第3族~第14族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素のイオンであることが好ましい。
【0025】
第3族元素としては、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、アクチノイドが挙げられる。第4族元素としては、チタン、ジルコニウム等が挙げられる。第5族元素としては、バナジウム、ニオブ、タンタル等が挙げられる。第6族元素としては、クロム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。第7族元素としては、マンガン、テクネチウム等が挙げられる。第8族元素としては、鉄、ルテニウム、オスミウム等が挙げられる。第9族元素としては、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられる。第10族元素としては、ニッケル、パラジウム、白金等が挙げられる。第11族元素としては、銅、銀、金等が挙げられる。第12族元素としては、亜鉛、カドミウム、水銀等が挙げられる。第13族元素としては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等が挙げられる。第14族元素としては、ゲルマニウム、スズ、鉛等が挙げられる。なお、金属イオン含有酸性溶液には、陽イオン交換体によって除去される金属イオンがある程度高濃度で含まれることが好ましく、これにより、処理溶液の電気伝導率を計測することによって、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定することが容易になる。従って、金属イオンとしては比較的多量に存在しうるものが好ましく、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズ、鉛から選ばれる少なくとも1種の金属元素のイオンであることが好ましい。
【0026】
金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させると、金属イオンは陽イオン交換体が有する水素イオンとイオン交換されて、金属イオン含有酸性溶液中の金属イオンが陽イオン交換体に捕捉される。そのため、金属イオン含有酸性溶液は、陽イオン交換体と接触させると、金属イオン濃度が下がり、それに対応して水素イオン濃度が上がることとなる。陽イオン交換体から脱離する水素イオンは、陽イオン交換体に捕捉される金属イオンの価数によって変わり、例えば3価の金属イオンであれば、陽イオン交換体に捕捉される金属イオン1モルに対し、陽イオン交換体から水素イオンが3モル脱離する。一方、電気伝導率は、金属イオンよりも水素イオンの方が数倍高い値を示す。陽イオン交換体との接触前の金属イオン含有酸性溶液と接触後の処理溶液を比較すると、処理溶液は金属イオン含有酸性溶液よりも金属イオン濃度が低く水素イオン濃度が高いため、電気伝導率は高い値を示すこととなる。また、金属イオンと水素イオンとのイオン交換量が増えるほど、電気伝導率が高くなる。本発明の処理方法では、このような各イオンの電気伝導率の特性を利用して、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定する。
【0027】
例えば、金属イオン含有酸性溶液と陽イオン交換体との接触初期は、金属イオン含有酸性溶液に含まれる金属イオンの多くが陽イオン交換体の有する水素イオンとイオン交換され、その結果、接触後の処理溶液の金属イオン濃度が大きく低減し(場合によってはほぼ0まで低減し)、処理溶液中の水素イオン濃度が増える。一方、陽イオン交換体の金属イオン含有酸性溶液との接触を継続していくと、陽イオン交換体の金属イオンと水素イオンとのイオン交換能が低下し、金属イオン含有酸性溶液に含まれる金属イオンの除去率が低下する。その結果、接触後の処理溶液の金属イオン濃度はあまり低減せず、水素イオン濃度もあまり増加しないこととなる。そのため、陽イオン交換体の金属イオン含有酸性溶液との接触初期は、処理溶液の電気伝導率Yは高く、陽イオン交換体の金属イオン含有酸性溶液との接触を継続していくと、処理溶液の電気伝導率Yは低下していくこととなる。従って、処理溶液の電気伝導率Yを計測することで、陽イオン交換体の金属イオン除去能を判定することができる。
【0028】
このように、本発明の処理方法では、陽イオン交換体の金属イオン除去能が高いほど、処理溶液の電気伝導率Yの値が高くなる。また、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度が高いほど、陽イオン交換体の金属イオン除去能の違いによって、処理溶液の電気伝導率Yの値の変動が大きくなる。従って、陽イオン交換体の金属イオン除去能をより正確に判定する観点から、金属イオン含有酸性溶液に含まれる金属イオン濃度はある程度高いことが好ましい。具体的には、金属イオン含有酸性溶液に含まれ、陽イオン交換体に捕捉される金属イオン濃度がある程度高いことが好ましい。例えば、陽イオン交換体に捕捉される金属イオンの価数をM、金属イオン含有酸性溶液に含まれ陽イオン交換体に捕捉される金属イオンの濃度をC(mol/L)としたとき、C/Mが0.3以上であることが好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましく、1.0以上がさらにより好ましい。このように金属イオン含有酸性溶液に金属イオンが含まれていれば、陽イオン交換体の金属イオン除去能の違いによって処理溶液の電気伝導率Yの値の変化が大きくなり、電気伝導率Yから陽イオン交換体の金属イオンの除去能をより正確に判定しやすくなる。なお、前記C/Mの上限は特に限定されず、例えば10.0以下であってもよく、8.0以下、5.0以下、または3.0以下であってもよい。
【0029】
金属イオン含有酸性溶液に含まれる酸は、無機酸であっても有機酸であってもよい。なお、金属イオン含有酸性溶液は無機酸を含有することが好ましく、これにより金属イオン含有酸性溶液のpHを下げることが容易になり、その結果、金属イオン含有酸性溶液中の金属イオン濃度を高めることが容易になる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。このような酸を用いれば、強酸の金属イオン含有酸性溶液を調製することが容易になる。従って、金属イオン含有酸性溶液は、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含有することが好ましい。
【0030】
金属イオン含有酸性溶液のpHは、例えば1.5以下であることが好ましく、1.2以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましく、0.8以下がさらにより好ましい。これにより、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度を高めることが容易になる。金属イオン含有酸性溶液のpHの下限は特に限定されず、例えば-0.5以上、-0.3以上、0.0以上、または0.15以上であってもよい。
【0031】
金属イオン含有酸性溶液はまた、酸濃度(水素イオン濃度)が0.03mol/L以上が好ましく、0.06mol/L以上がより好ましく、0.10mol/L以上がさらに好ましく、0.15mol/L以上がさらにより好ましい。金属イオン含有酸性溶液の酸濃度の上限は、例えば3mol/L以下、2mol/L以下、1mol/L以下、または0.7mol/L以下であってもよい。
【0032】
金属イオン含有酸性溶液は、上記に説明したように、金属イオンが多く含まれ、pHが低いことが好ましい。そのような金属イオン含有酸性溶液としては、エッチング廃液や金属の酸洗浄廃液が挙げられる。エッチング廃液としては、酸を用いて金属を溶かす処理や加工を行った際に出てくる廃液が挙げられ、金属の酸洗浄廃液としては、金属板や金属棒などの金属製品の表面を酸で洗浄した際に出てくる廃水が挙げられる。これらの廃水は、陽イオン交換体と接触させて金属イオンを除去することにより、エッチングや金属洗浄用の酸として再使用することができる。
【0033】
陽イオン交換体は、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸基を交換基として有するものであれば、特に制限なく用いることができる。なお、陽イオン交換体は強酸性陽イオン交換体であることが好ましく、例えばスルホン酸基を有する陽イオン交換体が好ましく用いられる。
【0034】
陽イオン交換体は固体であることが好ましく。陽イオン交換体の母材としては、樹脂や繊維等の高分子材料を用いればよい。そのような母材から形成された陽イオン交換体としては、陽イオン交換樹脂、陽イオン交換膜、陽イオン交換繊維等が挙げられる。母材となる樹脂としては、ポリスチレン樹脂(例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、レゾルシン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、これらの形状は、球状、柱状、リング状、鞍状、ハニカム状等、特に限定されない。また、樹脂を膜状に形成して陽イオン交換膜としたり、繊維状に形成して陽イオン交換繊維としてもよい。繊維は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維を用いてもよい。陽イオン交換樹脂、陽イオン交換膜、陽イオン交換繊維は公知のものを用いることができ、例えば特開平7-324221号公報や特開平9-227601号公報に開示される陽イオン交換繊維を用いることもできる。
【0035】
金属イオン含有酸性溶液と陽イオン交換体との接触は、バッチ処理で行ってもよく、連続処理で行ってもよい。いずれの場合も、新品または再生処理直後の陽イオン交換体を使用した場合に、金属イオン含有酸性溶液に含まれる金属イオンがほぼ完全に(例えば95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい)除去することができる条件で、金属イオン含有酸性溶液と陽イオン交換体とを接触させることが好ましい。
【0036】
陽イオン交換体をバッチ処理で金属イオン含有酸性溶液と接触させる場合は、槽中に保持された金属イオン含有酸性溶液に陽イオン交換体を添加すればよい。この際、陽イオン交換体は、そのままの姿で金属イオン含有酸性溶液と接触させてもよいし、陽イオン交換体を入れた通液可能な袋を金属イオン含有酸性溶液に浸したり、陽イオン交換体を一体的に取り扱えるように所定の形状に成形したものを金属イオン含有酸性溶液に浸したりしてもよい。
【0037】
陽イオン交換体をバッチ処理で金属イオン含有酸性溶液と接触させる際の陽イオン交換体の添加量は、例えば、金属イオン含有酸性溶液1Lに対して、1g/L~100g/Lの範囲で適宜調整すればよい。陽イオン交換体と金属イオン含有酸性溶液との接触時間は特に限定されず、例えば5分~48時間(好ましくは10分~24時間)の間で適宜設定すればよい。陽イオン交換体と金属イオン含有酸性溶液との接触は、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0038】
陽イオン交換体を連続処理で金属イオン含有酸性溶液と接触させる場合は、例えば陽イオン交換体をイオン交換塔に充填し、そこに金属イオン含有酸性溶液を通液させればよい。金属イオン含有酸性溶液は、イオン交換塔を上向流で通液させてもよく、下向流で通液させてもよく、また横向流で通液させてもよい。このときの通液速度は、陽イオン交換体の処理性能に応じて適宜設定すればよいが、空間速度(SV)として、例えば0.1hr-1~60hr-1の範囲(好ましくは0.5hr-1~30hr-1の範囲)で適宜調整すればよい。
【0039】
金属イオン除去工程では、陽イオン交換体を繰り返し使用して、金属イオン含有酸性溶液から金属イオンを除去することが好ましい。バッチ処理では、陽イオン交換体を交換せずに、複数回のバッチ処理を行えることが好ましい。連続処理では、陽イオン交換体を交換せずに、例えば通液倍率が5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上で金属イオン含有酸性溶液を処理できることが好ましい。金属イオン除去工程は、初期において金属イオン含有酸性溶液から所望の除去率以上(例えば95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい)で金属イオンが除去され、処理を継続するに従い、しばらくは所望の除去率以上で安定して金属イオンが除去されるものの、ある時点から除去率が低下するような条件で行うことが好ましい。
【0040】
本発明の処理方法では、金属イオン除去工程で得られた処理溶液の電気伝導率Yを計測し、この電気伝導率Yの値を観測することで、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定することができる。例えば、金属イオン除去工程の初期は、陽イオン交換体の金属イオンの除去能が高いため、処理溶液の金属イオン濃度が低く水素イオンが高くなり、その結果、処理溶液の電気伝導率Yの値が高くなる。金属イオン除去工程の開始後しばらくの間は、陽イオン交換体の金属イオン除去能が十分に確保されるため、処理溶液の電気伝導率Yは高い値を継続する。しかし、金属イオン除去工程の継続に従い、陽イオン交換体の金属イオン除去能が低下し、その結果、処理溶液の金属イオン濃度が徐々に高くなり、逆に水素イオン濃度は徐々に低くなる。そのため、処理溶液の電気伝導率Yの値は低下する。本発明の処理方法では、このように電気伝導率Yの値を観測し、当該値の変化あるいは低下の程度を確認することで、陽イオン交換体の金属イオン除去能を判定することができる。例えば、陽イオン交換体の金属イオン除去能の破過の程度の判定をすることができる。金属イオン除去能が低下した陽イオン交換体は、新品や再生処理した陽イオン交換体に変えたり、あるいは陽イオン交換体を再生処理することにより、再び金属イオン除去工程を行うことができる。
【0041】
本発明の処理方法では、好ましくは、金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xも計測し、電気伝導率Xと電気伝導率Yから、陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定する。処理溶液の電気伝導率Yに加えて金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xを計測することにより、陽イオン交換体の金属イオン除去能をより正確に判定することができる。例えば電気伝導率Yが初期から低下した場合に、電気伝導率Xと電気伝導率Yを比較することで、陽イオン交換体の金属イオン除去能がどの程度低下したか見積もることができる。また、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度や酸濃度が変動しても、電気伝導率Xと電気伝導率Yを比較することで、陽イオン交換体の金属イオン除去能を判定することができる。
【0042】
金属イオン含有酸性溶液として、銅イオンがCuClの形態で0.5mol/Lの濃度で含まれるpH1.0の塩酸溶液を想定し、当該金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させるケースを例に挙げて説明する。陽イオン交換体との接触前の金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xは、理論上次のように計算される。0.5mol/LのCuClのモル伝導率は約128Scm/molであり、CuCl由来の電気伝導率は約0.064S/cmとなる。pH1.0の塩酸のHCl濃度は0.1mol/Lであるため、このときのHClのモル伝導率は約390Scm/molとなり、HCl由来の電気伝導率は約0.04S/cmとなる。従って、陽イオン交換体との接触前の金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xは、約0.10S/cmとなる。一方、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させることにより銅イオンの全量が陽イオン交換体に捕捉されたと想定すると、処理溶液の電気伝導率Yは次のように計算される。銅イオン0.5molが陽イオン交換体に捕捉されることにより、陽イオン交換体から水素イオンが1.0mol脱離するため、処理溶液のHCl濃度は1.1mol/Lとなる。このときのHClのモル伝導率は約320Scm/molであり、HCl由来の電気伝導率は約0.35S/cmとなる。つまり、処理溶液の電気伝導率Yは約0.35S/cmとなる。処理溶液の電気伝導率Yは、処理溶液中の銅イオン濃度が上がり水素イオン濃度が下がるほど、低い値を取ることとなる。例えば、金属イオン除去工程の初期は、銅イオンがほぼ完全に除去されるため、電気伝導率Yが約0.35S/cm付近の値をとるが、処理の継続に従い陽イオン交換体の金属イオン除去能が落ちると、電気伝導率Yの値の低下傾向が見られるようになり、銅イオンが全く除去されなくなると電気伝導率Yは約0.10S/cmまで低下する。このように電気伝導率Yの値を観測することで、陽イオン交換体の金属イオン除去を判定することができる。
【0043】
上記では、CuClとHClのモル伝導率をもとに、陽イオン交換体との接触前後の電気伝導率の変化について説明したが、金属イオン含有酸性溶液の金属イオンの種類が変わったり、酸の種類が変わっても、同じように電気伝導率が変化する。陽イオン交換体と接触させたときに脱離する水素イオンの数は金属イオンの価数によって変わるため、様々な種類の金属塩について、金属塩のモル伝導率を当該塩を構成する金属の価数で割った値を比較すると、例えば濃度0.5mol/Lにおける各金属塩のモル伝導率は概ね数10Scm/molの値となる。一方、濃度0.5Nの酸のモル伝導率は概ね200~400Scm/molの値となる。このように金属塩と酸とでモル伝導率が大きく異なるため、金属イオン含有酸性溶液の金属イオンの種類や酸の種類によらず、処理溶液の電気伝導率Yを計測することで、陽イオン交換体の金属イオン除去能を判定することができる。
【0044】
電気伝導率は、公知の電気伝導率計を用いて計測すればよい。電気伝導率計としては、交流2電極式、交流4電極式、電磁誘導式が知られているが、これらの中でも電磁誘導式電気伝導率計を用いることが好ましい。電磁誘導式電気伝導率計を用いれば、計測部となるコイルを耐食性の高いプラスチック等で被うことができるため、強酸や腐食性の高い溶液に対しても安定して電気伝導率を計測することができる。
【0045】
金属イオン除去工程では、金属イオン含有酸性溶液と陽イオン交換体との接触を連続処理で行うことが好ましい。すなわち、陽イオン交換体はイオン交換塔に充填されており、イオン交換塔に金属イオン含有酸性溶液が導入され、処理溶液がイオン交換塔から排出され、イオン交換塔から排出された処理溶液の電気伝導率Yを計測することが好ましい。電気伝導率Yの経時変化を観測することで、陽イオン交換体の金属イオン除去能、すなわち陽イオン交換体の破過のタイミングを判定することができる。より好ましくは、イオン交換塔に導入される金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xとイオン交換塔から排出された処理溶液の電気伝導率Yの両方を計測する。この場合、電気伝導率Xと電気伝導率Yの両方の経時変化を観測し、イオン交換塔内での滞留時間を勘案して電気伝導率Xと電気伝導率Yを比較することで、陽イオン交換体の金属イオン除去能の低下の程度をより正確に把握することができる。
【0046】
本発明の処理方法では、次のように第1基準液と第2基準液を調製し、それらの電気伝導率を計測することで、処理溶液の金属イオン濃度の具体的な値を見積もることもできる。この場合、より正確に陽イオン交換体の金属イオン除去能を判定することができる。
【0047】
この場合の本発明の処理方法は、第1基準液の調製工程と、第2基準液の調製工程と、第1基準液の電気伝導率Z1を計測する工程と、第2基準液の電気伝導率Z2を計測する工程と、第1基準液と第2基準液の金属イオン濃度と電気伝導率Z1,Z2から金属イオンの濃度と電気伝導率との相関を表す検量線を作成する工程とをさらに有するものとなる。そして、得られた検量線に基づき、電気伝導率Yに対応する処理溶液の金属イオンの濃度を算出し、金属イオン含有酸性溶液から処理溶液を得る際に用いた陽イオン交換体の金属イオンの除去能を判定することができる。
【0048】
第1基準液の調製工程では、金属イオン除去工程で使用した金属イオン含有酸性溶液と同じ金属イオン含有酸性溶液および金属イオン除去工程で使用した陽イオン交換体と同じ陽イオン交換体を用いて、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させて、金属イオンが除去された第1基準液を得る。
【0049】
金属イオン除去工程で用いる金属イオン含有酸性溶液と第1基準液の調製工程で用いる金属イオン含有酸性溶液は、同一バッチであってもよく、異なるバッチであってもよい。前者の場合、例えば、1バッチで採取した金属イオン含有酸性溶液の一部を金属イオン除去工程に供し、他部を第1基準液の調製工程に供する。後者の場合、例えば、金属イオン除去工程に供する金属イオン含有酸性溶液を採取した後、第1基準液の調製工程に供する金属イオン含有酸性溶液を採取し、またその逆であってもよい。基本的には、金属イオン除去工程用の金属イオン含有酸性溶液と第1基準液の調製工程用の金属イオン含有酸性溶液は、できるだけ近い時間差(例えば30分以内が好ましく、15分以内がより好ましく、10分以内がさらに好ましい)で採取することが望ましいが、金属イオン含有酸性溶液の成分組成の経時変動が小さい場合は、当該時間差がある程度開いてもよい。
【0050】
第1基準液の調製工程で用いる陽イオン交換体は、金属イオン除去工程で用いる陽イオン交換体と同じもの、すなわち同種のものであるが、それぞれ独立して使用することが好ましい。すなわち、金属イオン除去工程で用いた陽イオン交換体を、続けて第1基準液の調製工程で用いないことが好ましく、第1基準液の調製工程で用いた陽イオン交換体を、続けて金属イオン除去工程で用いないことが好ましい。
【0051】
第1基準液の調製工程における金属イオン含有酸性溶液と陽イオン交換体との接触は、バッチ処理で行ってもよく、連続処理で行ってもよい。なお、第1基準液の調製工程では、金属イオン含有酸性溶液を陽イオン交換体と接触させることにより、陽イオン交換体によって除去可能な金属イオンができるだけ除去された第1基準液が得られることが好ましく、例えば第1基準液の調製工程における金属イオンの除去率が97%以上となることが好ましく、98%以上となることがより好ましく、99%以上となることがさらに好ましい。このようにして得られた第1基準液の金属イオン濃度(陽イオン交換体の除去対象となる金属イオンの濃度を意味し、以下も同じである)は0と見なす。
【0052】
第2基準液の調製工程では、上記で得られた第1基準液に金属イオンの酸化物または水酸化物を加えて、金属イオンが濃度C1で含まれる第2基準液を調製する。金属イオンの酸化物または水酸化物は、第1基準液に溶解可能なものを適宜選択すればよい。金属イオン濃度の単位は、重量基準であってもよくモル基準であってもよい。第1基準液に、金属イオンの酸化物または水酸化物を加えることにより、水酸化物イオン以外の対アニオンの濃度を上げずに金属イオン濃度を上げることができる。そのため、水酸化物イオン以外の対アニオンの電気伝導率の影響を回避することができる。第2基準液の金属イオンの濃度C1は、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度と処理溶液の金属イオン濃度の間の濃度で適宜設定することが好ましく、これらの金属イオン濃度は想定値であってもよい。例えば、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度の1/4~3/4の範囲で、第2基準液の金属イオンの濃度C1を設定することが好ましい。
【0053】
上記にようにして得られた第1基準液と第2基準液は、それぞれ電気伝導率計により電気伝導率を計測し、第1基準液の電気伝導率Z1と第2基準液の電気伝導率Z2を求める。電気伝導率計は公知のものを使用することができるが、上記に説明したように、電磁誘導式電気伝導率計を使用することが好ましい。
【0054】
上記のようにして得られた第2基準液の金属イオンの濃度C1と第1基準液の電気伝導率Z1と第2基準液の電気伝導率Z2の各値を用いて、金属イオンの濃度と電気伝導率との相関を表す検量線を作成する。なお、第1基準液の金属イオン濃度は0とみなすことができる。金属イオン濃度と電気伝導率との間には直線的な相関があるため、これらの値から、金属イオン濃度と電気伝導率との関係を表す検量線を作成することができる。なお、検量線の精度を高める観点から、第1基準液に金属イオンの酸化物または水酸化物を加えて、金属イオンが濃度C2で含まれる第3基準液を調製し、この第3基準液の電気伝導率Z3をさらに求めてもよい。この場合、第1基準液と第2基準液と第3基準液の金属イオン濃度と電気伝導率の各値を平面座標上にプロットして一次近似することで、検量線を作成することができる。
【0055】
上記検量線に基づけば、処理溶液の電気伝導率Yに対応する金属イオン濃度を算出することができる。そのため、金属イオン除去工程で用いた陽イオン交換体の金属イオンの除去能をより正確に判定することができる。例えば、処理溶液中に金属イオン以外の共存イオンが含まれていても、処理溶液と第1および第2基準液は金属イオンを除いて実質同一の組成(マトリックス)を有するものとなる。そのため、処理溶液と第1および第2基準液とは同じマトリックスを持つ溶液間で対比・測定が行われることとなり、電気伝導率の値は基本的に金属イオン濃度のみの関数となる。従って、処理溶液中に共存イオンが存在していても、当該処理溶液に対応した第1および第2基準液を用いて正確な検量線を作成することができる。なお、金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xも計測すれば、当該電気伝導率Xに対応する金属イオン濃度を算出することができ、金属イオン除去工程で用いた陽イオン交換体の金属イオンの除去能をさらに正確に判定することができる。
【0056】
上記のように検量線を作成すれば、金属イオン除去工程を必須としなくても、金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度を求めることもできる。この場合、上記に説明した第1基準液の調製工程と、第2基準液の調製工程と、第1基準液の電気伝導率Z1を計測する工程と、金属イオン含有酸性溶液の電気伝導率Xを計測する工程と、第2基準液の電気伝導率Z2を計測する工程と、第1基準液と第2基準液の金属イオン濃度と電気伝導率Z1,Z2から金属イオンの濃度と電気伝導率との相関を表す検量線を作成する工程を設け、そして、得られた検量線に基づき、電気伝導率Xに対応する金属イオン含有酸性溶液の金属イオンの濃度を算出することができる。従って、本発明は、これらの工程を含む金属イオン濃度の測定方法も提供する。各工程や金属イオン含有酸性溶液の詳細は、上記の説明が参照される。本発明の金属イオン濃度の測定方法によれば、大がかりな機器分析装置を用いなくても、簡便に金属イオン含有酸性溶液の金属イオン濃度を求めることができる。
【0057】
本発明の金属イオン濃度の測定方法によれば、金属イオン含有酸性溶液中に金属イオン以外の共存イオンが含まれていても、金属イオン含有酸性溶液と第1および第2基準液は金属イオンを除いて実質同一の組成(マトリックス)を有するものとなる。そのため、金属イオン含有酸性溶液と第1および第2基準液とは同じマトリックスを持つ溶液間で対比・測定が行われることとなり、電気伝導率の値は基本的に金属イオン濃度のみの関数となる。従って、金属イオン含有酸性溶液中に共存イオンが存在していても、当該金属イオン含有酸性溶液に対応した第1および第2基準液を用いて正確な検量線を作成することができる。
【実施例
【0058】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(1)実験1:アルミニウムイオン含有廃酸溶液の陽イオン交換樹脂による処理
アルミニウムエッチング工程から出た廃酸溶液を、陽イオン交換樹脂(ポリスチレン樹脂を母材としイオン交換基としてスルホン酸基を有する)と接触させて、廃酸溶液中に含まれるアルミニウムイオンの除去処理を行った。廃酸溶液は、アルミニウムイオンを13.8g/Lの濃度で含む硝酸-リン酸溶液であり、pHは0.5であった。陽イオン交換樹脂500mLを内径40mmのカラムに充填し、廃酸溶液を空間速度(SV)1hr-1で導入した。廃酸溶液をカラムに導入して30分経過後、カラムから排出された処理溶液を12分ごとに採取し、処理溶液のアルミニウムイオン濃度と電気伝導率を測定した。アルミニウムイオン濃度はICP発光分析装置を用いて測定し、電気伝導率は電磁誘導式電気伝導率計を用いて計測した。
【0060】
カラムから排出された処理溶液のアルミニウムイオン濃度と電気伝導率の経時変化の結果を図1に示す。通液時間80分までは、処理溶液のアルミニウムイオン濃度は0.001g/L未満であり、電気伝導率は0.46S/cmの一定値で推移した。通液時間90分程度から処理溶液のアルミニウムイオン濃度が上昇し始め、それと同じタイミングで処理溶液の電気伝導率が低下し始めた。図1に示した結果より、処理溶液の電気伝導率を計測することで、陽イオン交換樹脂の破過のタイミングを判定できることが分かる。
【0061】
(2)実験2:アルミニウムイオン濃度と電気伝導率の相関確認
上記の実験1で得られたアルミニウムイオン濃度0.001g/L未満の処理溶液を第1基準液として、実験1で使用した廃酸溶液と第1基準液を種々の比率で混合し、アルミニウムイオン濃度の異なる試験溶液を7種類調製し、それぞれの試験溶液の電気伝導率を測定した。アルミニウムイオンの濃度は、廃酸溶液と処理溶液の混合比率から算出した。アルミニウムイオン濃度と電気伝導率の相関を図2に示すが、アルミニウムイオン濃度と電気伝導率との間には直線的な関係が見られた。従って、図2に示すようなアルミニウムイオン濃度と電気伝導率との関係を表す検量線を作成することにより、処理溶液のアルミニウムイオン濃度を求めることができる。
【0062】
実験2では、廃酸溶液と第1基準液を混合して試験溶液を調製したが、当該試験溶液は、第1基準液に所定濃度で酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムを加えて得られた第2基準液に相当する。廃酸溶液のアルミニウムイオン濃度が未知の場合でも、第1基準液に所定量の酸化アルミニウムまたは水酸化アルミニウムを加えて第2基準液を調製し、この第2基準液の電気伝導率を計測すれば、アルミニウムイオン濃度と電気伝導率との関係を表す検量線を作成することができる。そのため、当該検量線に基づき処理溶液のアルミニウムイオン濃度を求めることができる。また、処理溶液のアルミニウムイオン濃度を求める代わりに、あるいは処理溶液のアルミニウムイオン濃度を求めるとともに、陽イオン交換樹脂と接触前の廃酸溶液のアルミニウムイオン濃度を求めることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、エッチング廃液や金属の酸洗浄廃液等の金属イオンを含有する酸性溶液から金属イオンを除去する処理に適用することができる。また、エッチング廃液や金属の酸洗浄廃液等の金属イオンを含有する酸性溶液中の金属イオン濃度の測定に用いることができる。
図1
図2