(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240612BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20240612BHJP
C08L 101/04 20060101ALI20240612BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240612BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20240612BHJP
C08K 5/353 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L67/04
C08L101/04
C08K5/54
C08K5/29
C08K5/353
(21)【出願番号】P 2020175982
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 寛夫
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-146100(JP,A)
【文献】特開2009-155377(JP,A)
【文献】特開2003-226803(JP,A)
【文献】特開2003-226804(JP,A)
【文献】特開2014-218573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 67/04
C08L 101/04
C08K 5/54
C08K 5/29
C08K 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示す末端構造を有するポリカーボネート樹脂(A-1)5~100質量%、および末端構造がp-tert-ブチル基であるポリカーボネート樹脂(A-2)0~95質量%からなるポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、以下の式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(B)を1~60質量部、有機金属塩系難燃剤(C)を0.01~0.5質量部、含フッ素樹脂(D)を0.05~1質量部、及び反応性相溶化剤(E)を0.01~10質量部含有
し、一般式(1)におけるR
1
が、n-オクチル基、イソ-オクチル基及びt-オクチル基からなる群から選択される1種以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、R
1は炭素数5~14のアルキル基を示す。)
【化2】
式(I)~(IV)中、Ar
1は、
【化3】
および/または
【化4】
であり、Ar
2は、
【化5】
および/または
【化6】
であり、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル(B)中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たす。
35≦p≦48、35≦q≦48、2≦r≦15、および2≦s≦15
【請求項2】
反応性相溶化剤(E)が、シランカップリング剤、カルボジイミド化合物、またはオキサゾリン化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
反応性相溶化剤(E)がカルボジイミド化合物である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
液晶ポリエステル(B)の融点が240℃以下である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
反応性相溶化剤(E)と液晶ポリエステル(B)の含有量の質量比(E)/(B)が、0.005~0.5である請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)に示す末端構造が下記一般式(1’)に示す末端構造である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化7】
【請求項7】
ポリカーボネート樹脂(A)の一般式(1)または(1’)における末端構造がt-オクチルフェニル基である請求項1
または6
に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂(A-1)がビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
ポリカーボネート樹脂(A-2)がビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、流動性と耐衝撃性に優れ、且つ耐薬品性に優れ、表面剥離の問題がなく、難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、強度や耐熱性や透明性に優れ、しかも、得られる成形品は寸法安定性等にも優れることから、例えば、電気電子機器のハウジング類、自動車用部品類、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料として、屋内、屋外を問わず利用されている。特に、屋外用途における成形品には、難燃性、耐衝撃性、耐熱性、耐湿熱性が求められ、さらに近年は高度の耐薬品性を有することが要求される。
【0003】
ポリカーボネート樹脂の耐薬品性を向上させるために、ポリエチレン系樹脂を配合することは知られているが、ポリエチレン系樹脂は、ポリカーボネート樹脂との相溶性が悪く、ポリエチレン系樹脂の分散状態によっては、目的とする耐薬品性が得られなかったり、ポリエチレン系樹脂の配合で流動性や滞留熱安定性、機械的特性を損なうという特性上の問題や、パール光沢、表層剥離といった外観不良が生じる問題がある。
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂の耐薬品性の改善を目的として、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂を配合することが知られているが(特許文献1)、ポリエステル樹脂を配合した樹脂組成物では、耐薬品性は改善されるものの、難燃性、耐熱性が劣り、燃焼しやすいという欠点がある。
【0005】
今までのポリカーボネート系樹脂組成物においては、耐薬品性、流動性、耐衝撃性、難燃性をバランス良く達成したものは未だ見出せていないというのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的(課題)は、上記した課題を解決するものであって、流動性と耐衝撃性に優れ、且つ耐薬品性に優れ、表面剥離の問題がなく、難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の末端基構造を有するポリカーボネート樹脂に、特定構造の繰返し単位を含む液晶ポリエステルを組み合わせた上で、有機金属塩系難燃剤、含フッ素樹脂及び反応性相溶化剤をそれぞれ特定量で含有するポリカーボネート樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関する。
【0009】
1.下記一般式(1)に示す末端構造を有するポリカーボネート樹脂(A-1)5~100質量%、および末端構造がp-tert-ブチル基であるポリカーボネート樹脂(A-2)0~95質量%からなるポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、以下の式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(B)を1~60質量部、有機金属塩系難燃剤(C)を0.01~0.5質量部、含フッ素樹脂(D)を0.05~1質量部、及び反応性相溶化剤(E)を0.01~10質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、R
1は炭素数5~14のアルキル基を示す。)
【化2】
式(I)~(IV)中、Ar
1は、
【化3】
および/または
【化4】
であり、Ar
2は、
【化5】
および/または
【化6】
であり、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル(B)中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たす。
35≦p≦48、35≦q≦48、2≦r≦15、および2≦s≦15
【0010】
2.反応性相溶化剤(E)が、シランカップリング剤、カルボジイミド化合物、またはオキサゾリン化合物から選ばれる少なくとも1種である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.反応性相溶化剤(E)がカルボジイミド化合物である上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4.液晶ポリエステル(B)の融点が240℃以下である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
5.反応性相溶化剤(E)と液晶ポリエステル(B)の含有量の質量比(E)/(B)が、0.005~0.5である上記2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
6.前記一般式(1)に示す末端構造が下記一般式(1’)に示す末端構造である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化7】
7.前記一般式(1)または(1’)におけるR
1が、n-オクチル基、イソ-オクチル基及びt-オクチル基からなる群から選択される1種以上である上記1または6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
8.ポリカーボネート樹脂(A)の一般式(1)または(1’)における末端構造がt-オクチルフェニル基である上記1、6または7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
9.ポリカーボネート樹脂(A-1)がビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
10.ポリカーボネート樹脂(A-2)がビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
11.上記1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、流動性と耐衝撃性に優れ、且つ耐薬品性に優れ、表面剥離の問題がなく、難燃性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例における耐薬品性の評価に使用した三点曲げ荷重用治具の形状を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0014】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記一般式(1)に示す末端構造を有するポリカーボネート樹脂(A-1)5~100質量%、および末端構造がp-tert-ブチル基であるポリカーボネート樹脂(A-2)0~95質量%からなるポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、前記式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(B)を1~60質量部、有機金属塩系難燃剤(C)を0.01~0.5質量部、含フッ素樹脂(D)を0.05~1質量部、及び反応性相溶化剤(E)を0.01~10質量部含有することを特徴とする。
【0015】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成するポリカーボネート樹脂(A)は、前記一般式(1)に示す末端構造を有するポリカーボネート樹脂(A-1)を5~100質量%、末端構造がp-tert-ブチル基であるポリカーボネート樹脂(A-2)を0~95質量%からなる。
【0016】
[ポリカーボネート樹脂(A-1)]
ポリカーボネート樹脂(A-1)は、下記一般式(1)で表される末端構造を有する。
【化8】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、R
1は炭素数5~14のアルキル基を示す。)
【0017】
ポリカーボネート樹脂は、式:-[-O-X-O-C(=O)-]-で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0018】
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。なかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0019】
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0020】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0021】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0022】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0023】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0024】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0025】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0026】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0027】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0028】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0029】
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0030】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、デカン-1,10-ジオール等のアルカンジオール類;
【0031】
シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタン-1,3-ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0032】
エチレングリコール、2,2’-オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0033】
1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジエタノール、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3-ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6-ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’-ビフェニルジメタノール、4,4’-ビフェニルジエタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0034】
1,2-エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2-エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,4-エポキシシクロヘキサン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシノルボルナン、1,3-エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0036】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0037】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0038】
[ポリカーボネート樹脂の製造方法]
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち、特に好適なものについて具体的に説明する。
【0039】
[界面重合法]
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じてジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0040】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0041】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0042】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0043】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限はないが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10~12にコントロールするために、5~10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10~12、好ましくは10~11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0044】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’-ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0045】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、末端停止剤は、ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されないが、ホスゲン吹込み工程に続いて添加するのが好ましい。
なお、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)~数時間(例えば、6時間)である。
【0046】
[溶融エステル交換法]
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。
溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0047】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0048】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0049】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0050】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100~320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0051】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし中でも、ポリカーボネート樹脂の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0052】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物、リン含有酸性化合物及びそれらの誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0053】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0054】
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(A-1)は、前記したように、下記一般式(1)で表される末端構造を有することを特徴とする。
【化9】
【0055】
式(1)中、nは0もしくは1の整数であり、R1は炭素数5~14のアルキル基である。ポリカーボネート樹脂(A-1)が、上記式(1)の末端構造を有することにより、強度を維持しながら高度の流動性を可能とし、色相も良好であることが見いだされた。このため、流動性向上のためにポリカーボネート樹脂の分子量を低くすることが通常行われるが、本発明では、材料設計の際に、分子量を下げることなく所望の分子量を採用しても高度の流動性を達成できるので、高い強度、耐衝撃性を有しながら良好な色相と流動性を可能とする。
【0056】
R1のアルキル基の炭素数は、6以上が好ましく、より好ましくは7以上であり、また、好ましくは12以下であり、10以下であることがより好ましい。R1のアルキル基は、直鎖のものでも分岐していてもよい。
中でも、R1は、n-オクチル基、イソ-オクチル基及びt-オクチル基からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、t-オクチル基がより好ましく、一般式(1)における末端構造がt-オクチルフェニル基(即ち、1,1,3,3-テトラメチルブチルフェニル基)であることが特に好ましい。
【0057】
上記式(1)中、フェニル基に結合する-(O)
nR
1基の位置は、オルト位でもメタ位でもパラ位でも良いが、下記一般式(1’)に示すパラ位が望ましい。
【化10】
【0058】
上記式(1)または(1’)で表されるR1基の具体例としては、p-ペンチルフェニル基、p-ヘキシルフェニル基、p-ヘプチルフェニル基、p-n-オクチルフェニル基、p-イソ-オクチルフェニル基、p-t-オクチルフェニル基、p-ドデシルフェニル基及びp-テトラデシルフェニル基、p-ノニルフェノール、p-ドデシルフェノール、アミルフェノール、ヘキシルフェノール、ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール、ミリスチルフェノール等のアルキルフェニル基、p-ヘキシルオキシフェニル基、p-n-オクチルオキシフェニル基、p-イソ-オクチルオキシフェニル基、p-t-オクチルオキシフェニル基、p-ドデシルオキシフェニル基等のアルコキシフェニル基を好ましく挙げることができる。
式(1)または(1’)で表されるR1基は、これらの中でも、n-オクチル基、イソ-オクチル基及びt-オクチル基からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0059】
ポリカーボネート樹脂(A-1)は、重合により製造する際に、下記一般式(1a)で表される1価フェノールの末端停止剤を用いることにより製造することができる。
【化11】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、R
1は炭素数5~14のアルキル基を示す。)
【0060】
一般式(1a)で表される末端停止剤の具体例としては、p-ペンチルフェノール、p-ヘキシルフェノール、p-ヘプチルフェノール、p-n-オクチルフェノール、p-イソ-オクチルフェノール、p-t-オクチルフェノール、p-テトラデシルフェノール、p-ノニルフェノール、p-ドデシルフェノール、アミルフェノール、ヘキシルフェノール、ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール、ミリスチルフェノール等のアルキルフェノール、p-ヘキシルオキシフェノール、p-n-オクチルオキシフェノール、p-イソ-オクチルオキシフェノール、p-t-オクチルオキシフェノール、p-ドデシルオキシフェノール等のアルコキシフェノールを好ましく挙げることができ、これらのいずれか若しくは複数を末端停止剤として使用することができる。式(1a)中、フェニル基に結合する-(O)nR1基の位置は、オルト位でもメタ位でもパラ位でも良いが、パラ位が望ましい。
中でも、p-t-オクチルフェノール、p-n-オクチルオキシフェノールのいずれかもしくは複数、特にはp-t-オクチルフェノールを末端停止剤として使用することが、流動性、成形体の強度および耐熱性の点からより好ましい。
【0061】
ポリカーボネート樹脂(A-1)としては、末端構造がn-オクチルフェニル基、イソ-オクチルフェニル基またはt-オクチル基フェニル基、特にp-t-オクチルフェニル基である、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0062】
本発明の主旨を逸脱しない範囲で、一般式(1)で示される構造以外の他の構造のものと併用することも可能である。
併用してもよい他の末端停止剤としては、例えば、フェノール、p-クレゾール、o-クレゾール、2,4-キシレノール、o-アリルフェノール、p-アリルフェノール、p-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、p-プロピルフェノール、p-クミルフェノール、p-フェニルフェノール、o-フェニルフェノール、p-トリフルオロメチルフェノール、オイゲノール、パルミチルフェノール、ステアリルフェノール、ベヘニルフェノール等のアルキルフェノール及びp-ヒドロキシ安息香酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、アミルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル等のp-ヒドロキシ安息香酸アルキルエステルが挙げられる。
他の末端停止剤を使用する場合は、ポリカーボネート樹脂(A-1)の全末端停止剤中の20mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは5mol%以下、中でも3mol%以下、特には1mol%以下であることが好ましい。
【0063】
ポリカーボネート樹脂(A-1)の分子量は、粘度平均分子量(Mv)で、12,000~50,000であることが好ましい。粘度平均分子量が12,000未満では、機械的強度が十分ではなく、粘度平均分子量が50,000を超えると、流動性が悪く成形性が悪くなりやすい。粘度平均分子量は、より好ましくは14,000以上であり、さらに好ましくは15,000以上であり、また、より好ましくは45,000以下、さらに好ましくは40,000以下、特に好ましくは36,000以下であり、最も好ましくは33,000以下である。
なお、ポリカーボネート樹脂(A-1)は、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0064】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、以下のSchnellの粘度式:
η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0065】
ポリカーボネート樹脂(A-1)は、ポリカーボネート樹脂(A-1)の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、式(1)、モノマー組成、分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂(A-1)を含んで用いてもよい。
【0066】
[ポリカーボネート樹脂(A-2)]
ポリカーボネート樹脂(A-2)は、末端構造がp-tert-ブチル基であるポリカーボネート樹脂である。
【0067】
ポリカーボネート樹脂(A-2)は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物は、ポリカーボネート樹脂(A-1)で記載したのと同様であり、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が特に好ましい。
【0068】
ポリカーボネート樹脂(A-2)の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用でき、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができ、ポリカーボネート樹脂(A-1)で記載したのと同様である。
【0069】
ポリカーボネート樹脂(A-2)は、重合により製造する際に、末端停止剤としてp-tert-ブチルフェノールを用いることにより製造することができる。
【0070】
ポリカーボネート樹脂(A-2)としては、末端構造がp-tert-ブチルフェニル基である、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0071】
ポリカーボネート樹脂(A-2)の分子量は、粘度平均分子量(Mv)で、12,000~50,000であることが好ましい。粘度平均分子量が12,000未満では、機械的強度が十分ではなく、粘度平均分子量が50,000を超えると、流動性が悪く成形性が悪くなりやすい。粘度平均分子量は、より好ましくは14,000以上であり、さらに好ましくは15,000以上であり、また、より好ましくは45,000以下、さらに好ましくは40,000以下、特に好ましくは36,000以下であり、最も好ましくは33,000以下である。
【0072】
ポリカーボネート樹脂(A-2)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A-1)と(A-2)の合計100質量%基準で、0~95質量%である。ポリカーボネート樹脂(A-2)は含有しなくてもよいが、含有する場合の含有量は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上がより好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A-2)を含有することにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができる。
【0073】
[液晶ポリエステル(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、以下の式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(B)を含有する。
【化12】
式中、Ar
1は、
【化13】
および/または
【化14】
であり、Ar
2は、
【化15】
および/または
【化16】
であり、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル(B)中での組成比(モル%)であり、以下の式を満たす。
35≦p≦48、35≦q≦48、2≦r≦15、および2≦s≦15
【0074】
式[I]で示される繰返し単位を与える単量体としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、並びに、そのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0075】
式[II]で示される繰返し単位を与える単量体としては、パラヒドロキシ安息香酸、並びにそのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0076】
式[III]で示される芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体としては、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール、並びにこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
これらの中では、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0077】
式[IV]で示される芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、並びにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
これらの中では、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0078】
本発明に用いる液晶ポリエステル(B)は、各繰返し単位の液晶ポリエステル(B)中での組成比(モル%)を示すp、q、rおよびsが、合計100モル%基準で、以下の式を満たす。
35≦p≦48、35≦q≦48、2≦r≦15、および2≦s≦15
p、q、rおよびsがこのような組成比を有することで、液晶ポリエステル(B)の融点が250℃以下となり、混練時の温度を低くできるため、その際の分解・劣化を抑制することができる。
液晶ポリエステル(B)の融点は、好ましくは240℃以下であり、より好ましくは230℃以下であり、また、好ましくは170℃以上であり、より好ましくは180℃以上である。
【0079】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「融点」とは、示差走査熱量計(DSC)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の融点ピーク温度から求められる。より具体的には、液晶ポリエステル(B)の試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステル(B)の融点とする。測定機器としては、例えば、セイコーインスツル株式会社製Exstar6000等を用いることができる。
【0080】
なお、液晶ポリエステル(B)は、式(I)~(IV)で表される繰返し単位の他に、他の繰返し単位を含有していてもよい。他の繰返し単位を与える単量体の具体例としては、上記した以外の他種の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、あるいは芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノール等が挙げられる。これらの他の単量体成分の割合は、一般式[I]~[IV]で表される繰返し単位を与える単量体成分の合計に対し、10モル%以下であるのが好ましく、より好ましくは5モル%以下である。
【0081】
液晶ポリエステル(B)は、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能であり、ペンタフルオロフェノール中、濃度0.1g/dl、温度60℃で測定した場合の対数粘度が0.3dl/g以上であるものが好ましく、0.5~10dl/gであるものがより好ましく、1~8dl/gであるものがさらに好ましい。
また、液晶ポリエステル(B)は、キャピラリーレオメーターで測定した溶融粘度が1~1000Pa・sであるものが好ましく、5~300Pa・sであるものがより好ましい。
【0082】
液晶ポリエステル(B)の製造方法には特に限定はなく、前記の単量体成分によるエステル結合を形成させる公知のポリエステルの重縮合法、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0083】
溶融アシドリシス法は、本発明において用いる液晶ポリエステル(B)を製造するのに適した方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0084】
スラリー重合法は、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0085】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0086】
単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステルの製造時にモノマーに無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0087】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0088】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);ルイス酸(たとえばBF3)、ハロゲン化水素(たとえばHCl)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0089】
触媒の使用割合は、通常、重合性単量体に対し10~1000ppm、好ましくは20~200ppmである。
【0090】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリエステル(B)は、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、ポリカーボネート樹脂(A)とのブレンドに供される。
【0091】
液晶ポリエステル(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1~60質量部である。このような範囲で含有することにより、耐薬品性、耐衝撃性、耐熱性及び耐湿熱性をバランスよく向上させることができる。
液晶ポリエステル(B)の含有量は、2質量部以上であることが好ましく、より好ましくは3質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、特には30質量部以下であることが好ましい。液晶ポリエステル(B)は結晶化度が高いため、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに比べて、少ない含有量で本発明の効果を達成することが可能となる。
【0092】
[有機金属塩系難燃剤(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、有機金属塩系難燃剤(C)を含有し、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~0.5質量部である。
難燃剤としては、例えば、有機金属塩系難燃剤、シロキサン系難燃剤、リン系難燃剤、ホウ素系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられるが、本発明では特に有機金属塩系難燃剤を含有する。
【0093】
有機金属塩化合物としては、有機スルホン酸金属塩が特に好ましい。
また、金属塩化合物の金属としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましく、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属が挙げられる。なかでも特に、ナトリウム、カリウム、セシウムが好ましい。
【0094】
有機スルホン酸金属塩の例を挙げると、有機スルホン酸リチウム塩、有機スルホン酸ナトリウム塩、有機スルホン酸カリウム塩、有機スルホン酸ルビジウム塩、有機スルホン酸セシウム塩、有機スルホン酸マグネシウム塩、有機スルホン酸カルシウム塩、有機スルホン酸ストロンチウム塩、有機スルホン酸バリウム塩等が挙げられる。このなかでも特に、有機スルホン酸ナトリウム塩、有機スルホン酸カリウム塩、有機スルホン酸セシウム塩等の有機スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0095】
有機スルホン酸金属塩化合物のうち、好ましいものの例としては、含フッ素脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸の金属塩が挙げられる。中でも好ましいものの具体例を挙げると、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1つのC-F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩;パーフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、パーフルオロブタンスルホン酸カルシウム、パーフルオロブタンスルホン酸バリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の、分子中に少なくとも1つのC-F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩、
【0096】
ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。
【0097】
上述した例示物のなかでも、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩がさらに好ましく、具体的にはパーフルオロブタンスルホン酸カリウム等が好ましい。
なお、金属塩化合物は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0098】
有機金属塩系難燃剤(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01~0.5質量部であり、好ましくは0.02質量部以上であり、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、好ましくは0.4質量部以下、中でも0.3質量部以下、特に好ましくは0.2質量部以下である。
【0099】
[含フッ素樹脂(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、含フッ素樹脂(D)を含有する。含フッ素樹脂を上記した各成分と共に含有することで、樹脂組成物の溶融特性を改良することができ、燃焼時の滴下防止性を向上させ難燃性をより向上させることができる。
【0100】
含フッ素樹脂としては、フルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
また、この含フッ素樹脂としては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。フィブリル形成能を有することで、燃焼時の滴下防止性が著しく向上する傾向にある。
【0101】
また、含フッ素樹脂として、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形品の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる。
有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0102】
フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、ポリカーボネート樹脂に配合する際の分散性の観点から、ポリカーボネート樹脂との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
【0103】
含フッ素樹脂(D)は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0104】
含フッ素樹脂(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.05~1質量部であり、好ましくは0.1質量部以上であり、その上限は好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。
含フッ素樹脂(D)の含有量を0.05質量部以上とすることで、十分な難燃性向上効果が得られ、1質量部以下とすることにより樹脂組成物を成形した成形品の外観不良が起こりにくく、機械的強度を高く保つことができる。
【0105】
[反応性相溶化剤(E)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、反応性相溶化剤(E)を含有する。本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、表面剥離が発生する可能性があるが、反応性相溶化剤(E)を含有することにより、ポリカーボネート樹脂(A)成分と液晶ポリエステル(B)成分と押出機内で加熱、混練される過程で反応することで優れた相溶性を発現し、表面剥離が生起することを防止でき、成形品の表面状態を向上することができる。
【0106】
反応性相溶化剤(E)としては、シランカップリング剤、カルボジイミド化合物、またはオキサゾリン化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0107】
シランカップリング剤としては、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-N’-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類;γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロルシラン類;γ-メルカプトトリメトキシシランビニルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;ビニルメトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン類;等が挙げられる。
【0108】
オキサゾリン化合物は、オキサゾリン基を有する化合物であり、その具体例としては、例えば、2,2’-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、又は2,2’-ジフェニレンビス(2-オキサゾリン)等が挙げられる。
【0109】
カルボジイミド化合物とは、1分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。
カルボジイミド化合物は、カルボジイミド基に結合する基は特に制限されず、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、又はこれらの有機基が結合した基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、1,4-キシリレン基等)等が挙げられる。本発明において好適に使用されるカルボジイミド化合物の例としては、カルボジイミド基に脂肪族基が連結した脂肪族カルボジイミド化合物、カルボジイミド基に脂環族基が連結した脂環族カルボジイミド化合物及びカルボジイミド基に芳香族基又は芳香族基を含む基が連結した芳香族カルボジイミド化合物等が挙げられるが、これらの中で、芳香族カルボジイミド化合物を用いることがより好ましい。
【0110】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物やポリカルボジイミド化合物を例示できる。
脂環族カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のジカルボジイミドや、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等のポリカルボジイミドを例示できる。
【0111】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリル-N’-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロロフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロロフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-クロロフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロロフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-クロロフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物、及び、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0112】
本発明において、カルボジイミド化合物としては、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物を用いることがより好ましく、芳香族ポリカルボジイミド化合物を用いることがさらに好ましい。
2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物は、例えば、分子中にイソシアネート基を少なくとも2個有する多価イソシアネート化合物を、カルボジイミド化触媒の存在下、脱二酸化炭素縮合反応(カルボジイミド化反応)を行わせることによって製造することが出来る。カルボジイミド化反応は、公知の方法により行うことが出来、具体的には、イソシアネートを不活性な溶媒に溶解するか、或いは無溶剤で窒素等の不活性気体の気流下又はバブリング下でフォスフォレンオキシド類に代表される有機リン系化合物等のカルボジイミド化触媒を加え、150~200℃の温度範囲で加熱及び攪拌することにより、脱二酸化炭素を伴う縮合反応(カルボジイミド化反応)を進めることが出来る。
【0113】
好ましい多価イソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を2個有する2官能イソシアネートが特に好適であるが、3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物をジイソシアネートと併用して用いることも出来る。又、多価イソシアネート化合物は、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート及び芳香族イソシアネートの何れであっても構わない。
多価イソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ジイソシアネートドデカン、ノルボルナンジイソシアネート、2,4-ビス-(8-イソシアネートオクチル)-1,3-ジオクチルシクロブタン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4,6-トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添トリレンジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0114】
カルボジイミド化合物の中では、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)などが好ましく挙げられ、特に、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好ましく挙げられる。
【0115】
反応性相溶化剤(E)としては、上記の中でもカルボジイミド化合物が特に好ましい。
【0116】
反応性相溶化剤(E)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01~10質量部である。反応性相溶化剤(E)の含有量が上記範囲にあることで、成形品に表面剥離が生起することを防止しやすく、成形品の表面状態を向上することができる。反応性相溶化剤(E)の含有量の下限値は0.02質量部、0.05質量部が好ましく、上限値は7質量部、5.5質量部、3.5質量部、2.7質量部、1.0質量部、0.8質量部、0.5質量部が好ましい。
【0117】
反応性相溶化剤(E)と液晶ポリエステル(B)の含有量の質量比(E)/(B)は、0.005~0.5であることが好ましい。質量比(E)/(B)がこのような範囲にあることで、成形品に表面剥離が生起することをより防止しやすく、成形品の表面状態をより向上することができる。(E)/(B)の下限値は0.007、0.01が好ましく、上限値は0.4、0.2、0.1、0.05が好ましい。
【0118】
[エラストマー(F)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、エラストマーを含むことも好ましい。エラストマーを含有することで、樹脂組成物の耐衝撃性を改良することができる。
【0119】
本発明に用いるエラストマーは、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0120】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下が好ましく、更には-30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-α-オレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
【0121】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0122】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。
尚、本発明におけるコア/シェル型とは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものではなくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0123】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートとを含むシリコーン-アクリル複合ゴム等が挙げられ、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートとを含むシリコーン-アクリル複合ゴムおよびメチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)が特に好ましい。このようなゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0124】
エラストマーとしては、上記した中でも、ブタジエン系ゴムをコアとし、(メタ)アクリレート系重合体をコアとするコア/シェル型グラフト共重合体が好ましい。
【0125】
エラストマーの含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1~20質量部であることが好ましく、1~15質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
エラストマーは1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。
【0126】
[安定剤(G)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、色相の悪化を防止するので好ましい。
安定剤としては、リン系安定剤、イオウ系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。特に、リン系安定剤を含有すると、液晶ポリエステル(B)とポリカーボネート樹脂(A)のエステル交換反応を効果的に抑制することができ、耐衝撃性等の機械的特性が良好となる傾向にあり好ましい。
【0127】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物又は有機ホスホナイト化合物が好ましい。
【0128】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R1O)3-nP(=O)OHn
(式中、R1は、アルキル基又はアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0~2の整数を示す。)
で表される化合物またはその金属塩である。より好ましくは、R1が炭素原子数8~30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素原子数8~30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。金属塩としてはアルカリ土類金属や亜鉛、鉛、錫の塩、特には亜鉛塩が好ましい。
【0129】
長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物としては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等又はその金属塩が挙げられる。これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましく、このものは例えばADEKA社の商品名「アデカスタブ AX-71」(オクタデシルアシッドホスフェート)、城北化学工業社製の商品名「JP-518Zn」(ステアリルアシッドホスフェートZn塩)等として市販されている。
【0130】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R2O-P(OR3)(OR4)
(式中、R2、R3及びR4は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基又は炭素原子数6~30のアリール基であり、R2、R3及びR4のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0131】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、このものは、例えばADEKA社製、商品名「PEP-36」として市販されている。
【0132】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R5-P(OR6)(OR7)
(式中、R5、R6及びR7は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基又は炭素原子数6~30のアリール基であり、R5、R6及びR7のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0133】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0134】
イオウ系安定剤としては、従来公知の任意のイオウ原子含有化合物を用いることが出来、中でもチオエーテル類が好ましい。具体的には例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイトが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)が好ましい。
【0135】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0136】
安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0137】
安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005~0.6質量部である。
【0138】
[離型剤(H)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0139】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0140】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0141】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0142】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0143】
数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがより好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
【0144】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0145】
[その他の成分]
ポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、上記した以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
上記した以外のその他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらには5質量部以下、特には3質量部以下とすることが好ましい。
【0146】
樹脂添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染顔料、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0147】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常220~320℃の範囲である。
【0148】
[成形品]
上記したポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0149】
成形体を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
中でも、成形は射出成形法により行われることが好ましく、例えば、射出成形機、超高速射出成形機、射出圧縮成形機等の公知の射出成形機を用いて射出成形される。射出成形時における射出成形機のシリンダー温度は、好ましくは220~340℃であり、より好ましくは240~330℃、さらに好ましくは、260~320℃である。また、射出成形時の射出速度は、好ましくは10~1,000mm/秒であり、より好ましくは10~500mm/秒である。
【0150】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形体は、流動性と耐衝撃性に優れ、且つ耐薬品性に優れ、表面剥離の問題がなく、難燃性に優れるので、電気電子機器のハウジング類、自動車用部品、自動車用電装部品、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料として、屋内用、屋外用を問わず、好適に利用することができる。
【実施例】
【0151】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0152】
実施例及び比較例にて、使用した原料成分は、以下の表1の通りである。
【表1】
【0153】
(実施例1~16、比較例1~9)
上記表1に記載した各成分を、下記表2、表3に示す割合(全て質量部にて表示)で、タンブラーミキサーにて均一混合した後、ホッパーから押出機にフィードして溶融混練した。押出機としては、日本製鋼所社製二軸押出機(TEX25αIII、L/D=52.5)を用い、スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度280℃、吐出量30kg/hrの条件で溶融押出しし、押出されたストランドを水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
【0154】
[レオロジー特性:Q値(単位:×10-2cm3/sec)]
上記の方法で得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、JIS P8115に準拠し、高架式フローテスターを用いて、280℃の温度、荷重160kgf/cm2の条件下で樹脂組成物の単位時間あたりの流出量(Q値、単位:×10-2cm3/sec)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。
【0155】
上記製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製のNEX80III射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaの条件で成形を行い、厚さ4mmのISOダンベル試験片、厚さ3mmのISOダンベル試験片、厚さ1.5mmの短冊燃焼片を成形した。
【0156】
<ノッチ付きシャルピー衝撃強度>
上記で得られた厚さ3mmのISOダンベル片を用い、ISO179に基づき、23℃におけるノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)を測定した。
【0157】
<燃焼性 UL94>
上記で得られた厚さ1.5mmの短冊燃焼片を用い、アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、5本の試験片を用いて難燃性を試験し、V-0、V-1およびV-2、不適合(NG)に分類した。
【0158】
<成形品の表面剥離>
上記で得られた厚さ3mmのISOダンベル片を用い、ダンベル片の側面にセロハンテープを貼りつけ一気に剥がす作業を同一箇所で3回繰り返し、剥離の有無を確認した。
○:表面剥離なし
×:表面剥離あり
【0159】
<耐薬品性>
温度:23℃の環境において、
図1に示す三点曲げ荷重をかけられる治具を使用した。
上記で得られた厚さ3mmのISOダンベル試験片1を、レギュラーガソリンを塗布した状態で、試験片取り付け用治具2の中央下部に取り付けた。試験片取り付け用治具2に、歪量を調整するためのかしめ調整用円筒3を取り付け、蝶ネジ4で固定することにより、歪量が0.3%、0.4%、0.5%、0.6%等になるように調整可能となっている。
ISOダンベル試験片1を試験片取り付け用治具2に固定した状態で、歪量が0.3%、0.4%、0.5%、さらに0.6%となるようにかしめた。48時間後に、成形品をかしめから開放し、塗布した薬品を拭き取った後に、目視でクラックの有無を、以下の基準で確認した。
○:クラックなし
×:クラックあり
【0160】
以上の評価結果を下記表2、3に示す。表中、「実n」は「実施例n」を、「比n」は「比較例n」を表す。
【0161】
【0162】
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、流動性と耐衝撃性に優れ、且つ耐薬品性に優れ、表面剥離の問題がなく、難燃性に優れるので、電気電子機器のハウジング類、自動車用部品類、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等として、好適に利用できる。