(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】タイヤ評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240612BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2020214040
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】小池 明大
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-186939(JP,A)
【文献】特開2004-217185(JP,A)
【文献】特開2009-262792(JP,A)
【文献】特開2019-093741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の対象車両に装着されることを前提としたタイヤのタイヤ評価方法であって、
複数種類の目標設定用タイヤを用意し、
前記複数種類の目標設定用タイヤのうち、1種類ごとに1セットの目標設定用タイヤを前記対象車両に装着して、ドライバによる官能評価に供試し、
前記ドライバによる官能評価に基づいて、前記複数種類の目標設定用タイヤから、前記対象車両に設定された操舵角に対する安定性に関する目標性能を満足する安定性目標設定用タイヤを抽出し、
前記安定性目標設定用タイヤについて、操舵角に基づくスタビリティファクタである操舵角スタビリティファクタを求め、
前記求められた操舵角スタビリティファクタに基づいて、前記操舵角スタビリティファクタの安定性目標範囲を設定し、
前記対象車両に装着される候補となる複数種類の第1次候補タイヤを用意し、
前記複数種類の第1次候補タイヤそれぞれについて、前記操舵角スタビリティファクタを求め、
前記複数種類の第1次候補タイヤのうち、前記操舵角スタビリティファクタが前記安定性目標範囲内にあるものを第2次候補タイヤとして抽出し、
前記第2次候補タイヤそれぞれについて、操舵力に基づくスタビリティファクタである操舵力スタビリティファクタを求め、
前記第2次候補タイヤを、前記操舵力スタビリティファクタに基づいて評価する、タイヤ評価方法。
【請求項2】
前記第2次候補タイヤの評価は、前記操舵力スタビリティファクタが大きいほど前記対象車両に装着されるタイヤとして好ましいと評価する、
請求項1に記載のタイヤ評価方法。
【請求項3】
前記ドライバよる官能評価では、前記複数種類の目標設定用タイヤから、前記対象車両に設定された、操舵角の入力に対するヨーレートの応答性に関する目標性能を満足する応答性目標設定用タイヤを抽出することを含み、
前記応答性目標設定用タイヤについて、操舵角の入力に対するヨー共振周波数を求め、
前記ヨー共振周波数に基づいて、前記ヨー共振周波数の応答性目標範囲を設定し、
前記第2次候補タイヤの選択は、前記複数種類の第1次候補タイヤのうち、前記ヨー共振周波数が前記応答性目標範囲内にあるものを選択することをさらに含む、
請求項1または2に記載のタイヤ評価方法。
【請求項4】
前記第2次候補タイヤについて、操舵力の入力に対する車体系共振周波数を求めることをさらに含み、
前記第2次候補タイヤのうち、前記車体系共振周波数が大きいほど前記対象車両に装着されるタイヤとして好ましいと評価する、
請求項1~3のいずれか1つに記載のタイヤ評価方法。
【請求項5】
前記第2次候補タイヤについて、操舵力の入力に対する操舵系共振周波数を求めることをさらに含み、
前記第2次候補タイヤのうち、前記操舵系共振周波数が大きいほど前記対象車両に装着されるタイヤとして好ましいと評価する、
請求項1~4のいずれか1つに記載のタイヤ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定条件のもと台上でタイヤを試験することにより計測された前輪および後輪それぞれにおけるコーナリングパワーと装着される車両の諸元とに基づいて、タイヤ特性と紐づいた車両のスタビリティファクタを求め、該スタビリティファクタに基づいてタイヤの安定性を評価するタイヤ評価方法が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1,2には、タイヤ特性と紐づいた車両のスタビリティファクタとして、操舵角に基づくスタビリティファクタ(以下、操舵角スタビリティファクタ)と、操舵力に基づくスタビリティファクタ(以下、操舵力スタビリティファクタ)とを求め、これら2つのスタビリティファクタ(以下、纏めてスタビリティファクタと称する場合がある)を用いてタイヤの安定性を評価することが開示されている。
【0004】
非特許文献1,2によれば、タイヤが装着された車両は、操舵角スタビリティファクタが、正の値となる場合にアンダーステア、ゼロの場合にニュートラルステア、負の値となる場合にオーバーステアの傾向を示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】酒井英樹著「タイヤ特性と操縦安定性との関係」、自動車技術Vol.67No.4、公益社団法人自動車技術会、2013年4月
【文献】酒井英樹著「フォースコントロールにおける安定性とその指標」、自動車技術会論文集Vol.44No.2、公益社団法人自動車技術会、2013年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
安定性を確保するには、操舵角スタビリティファクタを正の値に設定すればよいが、操舵角スタビリティファクタが増大するほど旋回半径が大きくなり、旋回性が悪化するという側面も有する。したがって、タイヤにおいて求められる操舵角スタビリティファクタには、当該タイヤが装着される車両に求められる安定性(操縦安定性ともいう)に応じた適値が存在する。
【0007】
非特許文献1,2には、タイヤが特定の対象車両に装着されることを前提としている場合に、当該タイヤのスタビリティファクタを、対象車両ごとに求められる安定性に応じた適値にどのように設定するかについての示唆がない。特に、対象車両に求められる安定性に応じたスタビリティファクタは、対象車両のタイプに依存して大きく異なり得、スタビリティファクタによりタイヤを評価した後に、車両でのドライバによる官能による評価を要する。
【0008】
すなわち、非特許文献1,2に開示されるタイヤ評価方法には、スタビリティファクタの適値をドライバによる官能評価を考慮して設定することによってタイヤ評価を効率を向上させる点で、さらに工夫する余地がある。
【0009】
本発明は、スタビリティファクタを利用した効率的なタイヤ評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
特定の対象車両に装着されることを前提としたタイヤのタイヤ評価方法であって、
複数種類の目標設定用タイヤを用意し、
前記複数種類の目標設定用タイヤのうち、1種類ごとに1セットの目標設定用タイヤを前記対象車両に装着して、ドライバによる官能評価に供試し、
前記ドライバによる官能評価に基づいて、前記複数種類の目標設定用タイヤから、前記対象車両に設定された操舵角に対する安定性に関する目標性能を満足する安定性目標設定用タイヤを抽出し、
前記安定性目標設定用タイヤについて、操舵角に基づくスタビリティファクタである操舵角スタビリティファクタを求め、
前記求められた操舵角スタビリティファクタに基づいて、前記操舵角スタビリティファクタの安定性目標範囲を設定し、
前記対象車両に装着される候補となる複数種類の第1次候補タイヤを用意し、
前記複数種類の第1次候補タイヤそれぞれについて、前記操舵角スタビリティファクタを求め、
前記複数種類の第1次候補タイヤのうち、前記操舵角スタビリティファクタが前記安定性目標範囲内にあるものを第2次候補タイヤとして抽出し、
前記第2次候補タイヤそれぞれについて、操舵力に基づくスタビリティファクタである操舵力スタビリティファクタを求め、
前記第2次候補タイヤを、前記操舵力スタビリティファクタに基づいて評価する、タイヤ評価方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、操舵角スタビリティファクタの安定性目標範囲を、目標設定用タイヤを利用した対象車両におけるドライバによる官能評価に基づいて適値に設定できる。これによって、複数の第1次候補タイヤから、第2次候補タイヤをドライバによる官能評価を考慮しつつ効率的に抽出できる。さらに、第2次候補タイヤの評価を、操舵力によるスタビリティファクタに基づいて容易に評価できる。したがって、複数種類の第1次候補タイヤから、対象車両に適した第2次候補タイヤを効率的に評価できる。
【0012】
また、前記第2次候補タイヤの評価は、前記操舵力スタビリティファクタが大きいほど前記対象車両に装着されるタイヤとして好ましいと評価してもよい。
【0013】
本構成によれば、ドライバによる官能評価が考慮された第2次候補タイヤから、操舵力スタビリティファクタの大きさに基づいてより安定性に優れたタイヤを抽出できる。
【0014】
また、前記ドライバよる官能評価では、前記複数種類の目標設定用タイヤから、前記対象車両に設定された、操舵角の入力に対するヨーレートの応答性に関する目標性能を満足する応答性目標設定用タイヤを抽出することを含み、
前記応答性目標設定用タイヤについて、操舵角の入力に対するヨー共振周波数を求め、
前記ヨー共振周波数に基づいて、前記ヨー共振周波数の応答性目標範囲を設定し、
前記第2次候補タイヤの選択は、前記複数種類の第1次候補タイヤのうち、前記ヨー共振周波数が前記応答性目標範囲内にあるものを選択することをさらに含んでもよい。
【0015】
本構成によれば、複数種類の第1次候補タイヤから、操舵角スタビリティファクタによる抽出に加えて、ヨーレートの共振周波数が応答性目標範囲内にあるものを第2次候補タイヤとして選択することによって、操舵角に対する安定性に加えてヨーレートの応答性が適切に設定されたタイヤを選択できる。
【0016】
また、前記第2次候補タイヤについて、操舵力の入力に対する車体系共振周波数を求めることをさらに含み、
前記第2次候補タイヤのうち、前記車体系共振周波数が大きいほど前記対象車両に装着されるタイヤとして好ましいと評価してもよい。
【0017】
本構成によれば、複数の第2次候補タイヤから、操舵力の入力に対する車体系の応答性が確保されたタイヤを選択できる。
【0018】
また、前記第2次候補タイヤについて、操舵力の入力に対する操舵系共振周波数を求めることをさらに含み、
前記第2次候補タイヤのうち、前記操舵系共振周波数が大きいほど前記対象車両に装着されるタイヤとして好ましいと評価してもよい。
【0019】
本構成によれば、複数の第2次候補タイヤから、操舵力の入力に対する操舵系の応答性が確保されたタイヤを選択できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象車両におけるドライバによる官能評価が反映された、スタビリティファクタの適値を利用して、タイヤを効率的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両モデルを示す図。
【
図2】本発明の実施形態に係る操舵系モデルを示す図。
【
図3】第1実施形態に係るタイヤ評価方法を示すフローチャート。
【
図4】官能評価に基づく目標性能の設定方法を示すフローチャート。
【
図5】第2次候補タイヤの抽出方法を示すフローチャート。
【
図6】第2次候補タイヤの評価方法を示すフローチャート。
【
図7】官能評価で抽出された安定性目標設定用タイヤの操舵角スタビリティファクタを示すグラフ。
【
図8】第1次候補タイヤの操舵角スタビリティファクタを示すグラフ。
【
図9】第2次候補タイヤの操舵力スタビリティファクタを示すグラフ。
【
図10】第1変形例に係る、官能評価に基づく目標性能の設定方法を示すフローチャート。
【
図11】第1変形例に係る、第2次候補タイヤの抽出方法を示すフローチャート。
【
図12】第1変形例に係る、官能評価で抽出された応答性目標設定用タイヤのヨー共振周波数を示すグラフ。
【
図13】第1変形例に係る、第2次候補タイヤの、ヨー共振周波数と操舵角スタビリティファクタとを示すグラフ。
【
図14】第2変形例に係る、第2次候補タイヤの評価方法を示すフローチャート。
【
図15】第2変形例に係る、第2次候補タイヤの、車体系共振周波数と操舵力スタビリティファクタとを示すグラフ。
【
図16】第3変形例に係る、第2次候補タイヤの評価方法を示すフローチャート。
【
図17】第3変形例に係る、第2次候補タイヤの、操舵系共振周波数と操舵力スタビリティファクタとを示すグラフ。
【
図18】第2実施形態に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
【
図19】車速と前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーとの関係を示すグラフ。
【
図20】評価タイヤの操舵角スタビリティファクタを示すグラフ。
【
図21】第2実施形態の第1変形例に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
【
図22】第2実施形態の第1変形例に係る、評価タイヤの車速とヨー共振周波数との関係を示すグラフ。
【
図23】第2実施形態の第1変形例に係る、評価タイヤのヨー共振周波数と操舵角スタビリティファクタをグラフ。
【
図24】第2実施形態の第2変形例に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態では、特定の対象車両に装着されることを前提としたタイヤを、当該対象車両に要求される目標性能に基づいて評価する。具体的には、操舵角に対する安定性を示す指標となる操舵角スタビリティファクタK_aと、操舵力に対する安定性を示す指標となる操舵力スタビリティファクタK_tとを用いて、ドライバによる官能評価を考慮しつつタイヤを評価する。より具体的には、操舵角スタビリティファクタK_aの目標範囲(安定性目標範囲)がドライバによる官能評価を利用して設定される。
【0023】
操舵角スタビリティファクタK_aは、操舵角に対する安定性を示す指標であれば種々のものを使用できる。本実施形態では、操舵角スタビリティファクタK_aを、非特許文献1に開示される数式を用いて求める場合を例にとって説明する。具体的には、操舵角スタビリティファクタK_aは、
図1に示される車両モデル1を前提として、以下の数式(1)により求められる。
【0024】
【0025】
図1に示されるように、車両モデル1は、4輪車を前提として、左右2つの前輪および後輪が車幅方向中央にまとめられた前タイヤモデル2および後タイヤモデル3を有する、線形2自由度モデルとして表されている。車両モデル1は、重心CGから前タイヤモデル2の軸心までの前後方向長さがL
fであり、後タイヤモデル3の軸心までの前後方向長さがL
rである。車両モデル1はホイールベース長、すなわちL
fとL
rとの合計長さがLである。
【0026】
車両モデル1は、質量がmであり、前タイヤモデル2での分担荷重はmf・g、後タイヤモデル3での分担荷重はmr・gである。また、車両モデル1は、重心CG周りのヨー慣性モーメントがIzとして表されている。
【0027】
図1では、車両モデル1は前タイヤモデル2が操舵角δで操舵されて、重心CGにおいて車両前後方向に対してスリップ角βで傾斜した方向に車速Vで進んでいる状態が示されている。また、車両モデル1は、重心CGまわりにヨーレートrで回転しており、前タイヤモデル2におけるスリップ角はβ
f、後タイヤモデル3におけるスリップ角βrで表されている。
【0028】
図1における、F
fおよびF
rはそれぞれ、操舵時における、前タイヤモデル2および後タイヤモデル3において発生する前輪横力および後輪横力を表している。本実施形態では、前輪横力F
fおよび後輪横力F
rは、例えば、タイヤ単体を所定条件(例えば所定の車速および所定の分担荷重)のもと台上で試験することにより計測される。
【0029】
2Kfおよび2Krはそれぞれ、前輪横力Ffおよび後輪横力Frをそれぞれのスリップ角βf,βrで除した値であり、前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーを表している。CfおよびCrはそれぞれ、前輪コーナリングパワー2Kfおよび後輪コーナリングパワー2Krをそれぞれの分担荷重mf・gおよびmr・gで除した、前輪コーナリングパワー係数および後輪コーナリングパワー係数を表している。
【0030】
一方、操舵力スタビリティファクタK_tは、操舵力に対する安定性を示す指標であれば種々のものを使用できる。本実施形態では、操舵力スタビリティファクタK_tを、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、操舵力スタビリティファクタK_tは、
図1に示される車両モデル1および
図2に示される操舵系モデル10を前提として、以下の数式(2)により求められる。
【0031】
【0032】
図2に示されるように、操舵系モデル10は、車両モデル1の前タイヤモデル2に操舵系11を追加したものである。操舵系11は、回転軸が水平面内に設定されるステアリングホイール12を有している。操舵系モデル10では、ステアリングホイール12の慣性モーメントがIh、操舵トルクがTh、タイヤのニューマチックトレールおよび操舵系のトレール長の和がξとして表されている。なお、操舵系モデル10では、操舵系11の慣性モーメントがステアリングホイール12にのみ存在するものと仮定されている。ニューマチックトレールは、前輪横力Ffおよび後輪横力Frの計測と同様に(または同時に)、タイヤ単体を所定条件のもと台上で試験することにより計測される。具体的には、ニューマチックトレールは、セルフアライニングトルクパワー(Nm/rad)を求めたのち、該セルフアライニングトルクパワーをコーナリングパワー(N/rad)で除することにより求められる。
【0033】
次に、
図3~9を参照して、第1実施形態の基本実施例に係るタイヤ評価方法を説明する。
図3は、タイヤ評価方法の一連の流れを示すフローチャートである。まず、複数種類の目標設定用タイヤを用意する(ステップS10)。複数種類の目標設定用タイヤとは、それぞれ互いに操舵角スタビリティファクタK_aが異なっている。例えば、複数種類の目標設定用タイヤには、それぞれの操舵角スタビリティファクタK_aの平均値に対して最大±50%異なっている目標設定用タイヤが含まれていてもよい。
【0034】
次に、複数種類の目標設定用タイヤのうち、1種類ごとに1セット(1台分)の目標設定用タイヤを対象車両に装着する(ステップS20)。次に、対象車両を実走行させて装着されている目標設定用タイヤをドライバによる官能評価に供試する(ステップS30)。次に、ドライバによる官能評価に基づいて、タイヤの目標性能を設定する(ステップS40)。
【0035】
図4は、官能評価に基づくタイヤの目標性能を設定する流れを示すサブルーチン(ステップS40)である。まず、ドライバによる官能評価に基づいて、複数種類の目標設定用タイヤから、対象車両に設定された操舵角に対する安定性に関する目標性能を満足する2種類以上の安定性目標設定用タイヤを抽出する(S41)。次に、安定性目標設定用タイヤそれぞれについて、操舵角スタビリティファクタK_aを求める(S42)。
【0036】
次に、安定性目標設定用タイヤそれぞれについて求められた操舵角スタビリティファクタK_aの上下限を、操舵角スタビリティファクタの目標範囲である安定性目標範囲の上下限に設定する(ステップS43)。
図7は、複数種類の安定性目標設定用タイヤの操舵角スタビリティファクタK_aを例示的に示すグラフである。
図7に示されるように、複数種類の安定性目標設定用タイヤのうち、四角で囲まれたタイヤA10,A23の操舵角スタビリティファクタK_aがそれぞれ、上限値S2および下限値S1である。すなわち、安定性目標範囲は、S1以上S2以下に設定される。
【0037】
図3に戻って、次に、複数種類の第1次候補タイヤを用意する(ステップS50)。複数種類の第1次候補タイヤとは、対象車両に装着される候補となるタイヤを意味しており、それぞれ少なくとも操舵角スタビリティファクタK_aが異なっている。次に、複数種類の第1次候補タイヤから第2次候補タイヤを抽出する(ステップS60)。
【0038】
図5は、複数種類の第1次候補タイヤから第2次候補タイヤを抽出する流れを示すサブルーチン(ステップS60)である。まず、複数種類の第1次候補タイヤについて、操舵角スタビリティファクタK_aを求める(ステップS61)。次に、複数種類の第1次候補タイヤのうち、操舵角スタビリティファクタK_aが安定性目標範囲内にあるものを第2次候補タイヤとして抽出する(ステップS62)。
【0039】
図8は、複数種類の第1次候補タイヤB1~B10の操舵角スタビリティファクタK_aを例示的に示すグラフである。
図8に示されるように、複数種類の第1次候補タイヤのうち、四角で囲まれたタイヤB2,B3,B4,B6,B9,B10がそれぞれ、操舵角スタビリティファクタK_aが安定性目標範囲内にあり、これらが第2次候補タイヤとして抽出される。
【0040】
図3に戻って、次に、第2次候補タイヤが評価される(ステップS70)。
図6は、第2次候補タイヤを評価する流れを示すサブルーチン(ステップS70)である。まず、複数種類の第2次候補タイヤについて、操舵力スタビリティファクタK_tを求める(ステップS71)。次に、複数種類の第2次候補タイヤのうち、操舵力スタビリティファクタK_tが大きいものほど、対象車両に装着されるタイヤとして好ましいと評価する(ステップS72)。
【0041】
図9は、第2次候補タイヤB2,B3,B4,B6,B9,B10の操舵力スタビリティファクタK_tを例示的に示すグラフである。
図9に示されるように、第2次候補タイヤB2,B3,B4,B6,B9,B10のうち、四角で囲まれたタイヤB6が最も操舵力スタビリティファクタK_tが大きく、タイヤB6が対象車両に装着されるタイヤとしてより好ましいと評価される。
【0042】
すなわち、安定性目標範囲を、目標設定用タイヤを利用した対象車両におけるドライバによる官能評価に基づいて適値に設定できる。これによって、複数の第1次候補タイヤから、第2次候補タイヤをドライバによる官能評価を考慮しつつ効率的に抽出できる。さらに、第2次候補タイヤの評価を、操舵力スタビリティファクタK_tに基づいて容易に評価できる。したがって、複数種類の第1次候補タイヤから、ドライバによる官能評価を考慮しつつ、対象車両に適した第2次候補タイヤを効率的に評価できる。
【0043】
また、ドライバによる官能評価が考慮された第2次候補タイヤから、操舵力スタビリティファクタK_tの大きさに基づいてより安定性に優れたタイヤを抽出できる。
【0044】
次に、
図10~
図13を参照して、第1変形例に係るタイヤ評価方法を説明する。第1変形例では、上記基本実施例に対して、ステップS40及びステップS60に換えて、
図10のステップS140及び
図11のステップS160を採用している点で異なっている。以下に、ステップS140及びステップS160について説明し、基本実施例と共通する点についてはその説明を省略する。
【0045】
図10は、第1変形例に係る、官能評価に基づくタイヤの目標性能を設定する流れを示すサブルーチン(ステップS140)である。ステップS140のステップS141,S142,S143は、それぞれステップS40のステップS41,S42,S43と同じである。ステップS140は、ステップS40に対してステップS144,S145,S146が追加されている。
【0046】
ステップS144において、ドライバによる官能評価に基づいて、複数種類の目標設定用タイヤから、対象車両に設定された操舵角に対するヨーレートの応答性に関する目標性能を満足する2種類以上の応答性目標設定用タイヤを抽出する。次に、応答性目標設定用タイヤそれぞれについて、操舵角の入力に対するヨーレートの応答系の固有振動数である、ヨー共振周波数Fy_aを求める(ステップS145)。
【0047】
ヨー共振周波数Fy_aは、操舵角の入力に対するヨーレートの応答系の固有振動数を示す指標であれば種々のものを使用できる。本実施形態では、ヨー共振周波数Fy_aは、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、ヨー共振周波数Fy_aは、以下の数式(3)により求められる。
【0048】
【0049】
式(3)における時定数(緩和時間)τf、τrは、タイヤの横剛性をkとして、式(4)、式(5)により表される。
【0050】
【0051】
【0052】
次に、複数の応答性目標設定用タイヤそれぞれについて求められたヨー共振周波数Fy_aの上下限を、ヨー共振周波数の目標範囲である応答性目標範囲の上下限に設定する(ステップS146)。
図12は、複数種類の応答性目標設定用タイヤのヨー共振周波数Fy_aを例示的に示すグラフである。
図12に示されるように、複数種類の応答性目標設定用タイヤのうち、四角で囲まれたタイヤA11,A20のヨー共振周波数Fy_aがそれぞれ、下限値Y1および上限値Y2である。すなわち、応答性目標範囲は、Y1以上Y2以下に設定される。
【0053】
図11は、複数種類の第1次候補タイヤから第2次候補タイヤを抽出する流れを示すサブルーチン(ステップS160)である。ステップS160のステップS161は、ステップS60のステップS61と同じである。ステップS160は、ステップS60に対して、ステップS162が追加されると共に、ステップS62に換えてステップS163が追加されている。
【0054】
ステップS162において、複数種類の第1候補タイヤについて、ヨー共振周波数Fy_aを求める。次に、複数種類の第1次候補タイヤのうち、操舵角スタビリティファクタK_aが安定性目標範囲内にあり、且つ、ヨー共振周波数Fy_aが応答性目標範囲内にあるものを第2次候補タイヤとして抽出する(ステップS163)。すなわち、ステップS163では、ステップS62に対して、複数種類の第1次候補タイヤを応答性目標範囲によっても抽出している点で異なっている。
【0055】
図13は、複数種類の第1次候補タイヤが、ヨー共振周波数を第1軸にとり、操舵角スタビリティファクタK_aを第2軸にとってプロットされた、例示的なグラフである。
図13に示されるように、複数種類の第1次候補タイヤB1~B10のうち、黒丸で示されるタイヤB3,B9,B10が、安定性目標範囲と応答性目標範囲との両方に含まれており、これらが第2次候補タイヤとして抽出される。以下、基本実施例と同様に、第2次候補タイヤが評価される。
【0056】
第1変形例によれば、複数種類の第1次候補タイヤから、操舵角スタビリティファクタK_aによる抽出に加えて、ヨー共振周波数Fy_aが応答性目標範囲内にあるものを第2次候補タイヤとして選択することによって、操舵角に対する安定性に加えてヨーレートの応答性が適切に設定されたタイヤを選択できる。
【0057】
次に、
図14,15を参照して、第2変形に係るタイヤ評価方法を説明する。第2変形例では、上記基本実施例に対して、ステップS70に換えて、
図14のステップS270を採用している点で異なっている。以下に、ステップS270について説明し、基本実施形態と共通する点についてはその説明を省略する。
【0058】
図14は、第2変形例に係る、第2次候補タイヤを評価する流れを示すサブルーチン(ステップS270)である。ステップS270のステップS271は、ステップS70のステップS71と同じである。ステップS270は、ステップS70に対してステップS272,S273が追加されて、ステップS72に換えてステップS274が追加されている。
【0059】
ステップS272において、複数種類の第2次候補タイヤについて、操舵力の入力に対するヨーレートの応答に関する車体系の共振周波数である車体系共振周波数Fy_tbを求める(ステップS272)。
【0060】
車体系共振周波数Fy_tbは、操舵力の入力に対するヨーレートの応答系に関する車体系の固有振動数を示す指標であれば種々のものがを使用できる。本実施形態では、車体系共振周波数Fy_tbは、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、車体系共振周波数Fy_tbは、以下の数式(6)により求められる。
【0061】
【0062】
次に、複数の第2次候補タイヤについて、車体系共振周波数Fy_tbを第1軸にとり、操舵力スタビリティファクタK_tを第2軸にとって、グラフにプロットする(ステップS273)。次に、複数の第2次候補タイヤを、当該第2次候補タイヤがプロットされたグラフを参照しつつ、車体系共振周波数Fy_tbおよび操舵力スタビリティファクタK_tに基づいて評価する(ステップS274)。
【0063】
図15は、複数種類の第2次候補タイヤが、車体系共振周波数Fy_tbを第1軸にとり、操舵力スタビリティファクタK_tを第2軸にとってプロットされた、例示的なグラフである。
図15に示されるように、複数種類の第2次候補タイヤのうち、タイヤB6が操舵力スタビリティファクタK_tおよび車体系共振周波数Fy_tbが共に大きく、操舵力の入力に対する、安定性および応答性ともに優れていると容易に評価できる。
【0064】
第2変形例によれば、複数の第2次候補タイヤを、操舵力に対する車体系の応答性をも考慮してタイヤを効率的に評価できる。
【0065】
次に、
図16,17を参照して、第3変形に係るタイヤ評価方法を説明する。第3変形例では、上記基本実施例に対して、ステップS70に換えて、
図16のステップS370を採用している点で異なっている。以下に、ステップS370について説明し、基本実施例と共通する点についてはその説明を省略する。
【0066】
図16は、第3変形例に係る、第2次候補タイヤを評価する流れを示すサブルーチン(ステップS370)である。ステップS370のステップS371は、ステップS70のステップS71と同じである。ステップS370は、ステップS70に対してステップS372,S373が追加されて、ステップS72に換えてステップS374が追加されている。
【0067】
ステップS372において、複数種類の第2次候補タイヤについて、操舵力の入力に対するヨーレートの応答に関する操舵系の共振周波数である操舵系共振周波数Fy_tsを求める(ステップS372)。
【0068】
操舵系共振周波数Fy_tsは、操舵力の入力に対するヨーレートの応答系に関する操舵系の固有振動数を示す指標であれば種々のものがを使用できる。本実施形態では、操舵系共振周波数Fy_tsは、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、操舵系共振周波数Fy_tsは、以下の数式(7)により求められる。
【0069】
【0070】
次に、複数の第2次候補タイヤについて、操舵系共振周波数Fy_tsを第1軸にとり、操舵力スタビリティファクタK_tを第2軸にとって、グラフにプロットする(ステップS373)。次に、複数の第2次候補タイヤを、当該第2次候補タイヤがプロットされたグラフを参照しつつ、操舵系共振周波数Fy_tsおよび操舵力スタビリティファクタK_tに基づいて評価する(ステップS374)。
【0071】
図17は、複数種類の第2次候補タイヤが、操舵系共振周波数Fy_tsを第1軸にとり、操舵力スタビリティファクタK_tを第2軸にとってプロットされた、例示的なグラフである。
図17に示されるように、複数種類の第2次候補タイヤのうち、タイヤB6が操舵力スタビリティファクタK_tが最も大きく、操舵力の入力に対する安定性が優れていると容易に評価できる。また、複数種類の第2次候補タイヤのうち、タイヤB4が操舵系共振周波数Fy_tsが最も大きく、操舵力の入力に対する応答性が優れていると容易に評価できる。
【0072】
第3変形例によれば、複数の第2次候補タイヤを、操舵力の入力に対する操舵系の応答性を考慮してタイヤを効率的に評価できる。
【0073】
上記実施形態では、ドライバによる官能評価に基づいて、安定性目標設定用タイヤ及び/又は応答性目標設定用タイヤを、複数種類、抽出することを前提として説明したが、これに限らない。安定性目標設定用タイヤ及び/又は応答性目標設定用タイヤを、対象車両において要求される性能の上限または下限を示すものを抽出するようにしてもよい。この場合、該上限又は下限を示すものとして抽出された安定性目標設定用タイヤ及び/又は応答性目標設定用タイヤの、操舵角スタビリティファクタK_a及び/又はヨー共振周波数Ky_aを、それぞれの目標範囲の上限または下限として設定してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、第2次候補タイヤは、第1次候補タイヤから複数種類、抽出される場合を例にとって説明したが、1種類のみ抽出されてもよい。
【0075】
[第2実施形態]
第1実施形態では、タイヤ単体を所定条件(例えば所定の車速および所定の分担荷重)のもと台上で試験することによって計測された、前輪横力Ffおよび後輪横力Frに基づいて求められる、前輪コーナリングパワーKf及び後輪コーナリングパワーKr(以下、纏めてコーナリングパワーKと称する場合がある)を利用して、操舵角スタビリティファクタK_a、操舵力スタビリティファクタK_t及びヨー共振周波数Fy_aを求めている。
【0076】
第2実施形態では、被評価タイヤの単体を複数の車速条件のもと台上で試験することによって計測されたコーナリングパワーを利用して、任意の評価車速における、操舵角スタビリティファクタK_a及び/又は操舵力スタビリティファクタK_tを求めてタイヤ評価を実施する。以下に、操舵角スタビリティファクタK_aを求める場合を例にとって説明する。
【0077】
図18は、第2実施形態に係るタイヤ評価方法の流れを示すフローチャートである。まず、被評価タイヤを、該被評価タイヤが装着される対象車両における前輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、前輪コーナリングパワーK
fを求める(ステップS1)。また、被評価タイヤを、該被評価タイヤが装着される対象車両における後輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、後輪コーナリングパワーK
rを求める(ステップS2)。
【0078】
次に、複数の車速で求められた前輪コーナリングパワーKfを車速の関数として近似する近似式を求める(ステップS3)。同様に、複数の車速で求められた後輪コーナリングパワーKrを車速の関数として近似する近似式を求める(ステップS4)。近似式は、例えば最小二乗法を利用して求めることができる。
【0079】
図19は、タイヤサイズ225/45R17の被評価タイヤを、前輪条件(前輪荷重:4.61kN)および後輪条件(後輪荷重:3.63kN)のもと、複数の車速(10km/h、50km/h、100km/h、150km/h)での台上試験に供試して求められた、被評価タイヤについての、車速ごとのコーナリングパワーKがプロットされたグラフである。グラフには、前輪コーナリングパワーK
fが丸印でプロットされており、後輪コーナリングパワーK
rが四角印でプロットされている。
【0080】
また、グラフには、前輪コーナリングパワーKfおよび後輪コーナリングパワーKrそれぞれについて、1次式で近似された近似直線が破線で示されており、3次式で近似された近似曲線が実線で示されている。グラフ中の1次式の近似線を参照すると、分担荷重の低い後輪条件のほうが、前輪条件よりも、車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大代がより大きい。
【0081】
また、1次式の近似線よりも3次式の近似線のほうが、実測値との誤差が少なく、さらに、車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大の度合いは、車速域によって異なっている。具体的には、概ね50km/hを超えると車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大が緩やかになり、100km/hを超えと車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大が急激になることが判る。さらに、100km/hを超えた速度域では、前輪コーナリングパワーKfよりも、後輪コーナリングパワーKrのほうが、車速の増大に伴う増大代がより大きくなっている。
【0082】
図18に戻って、次に、被評価タイヤについて、前輪コーナリングパワーK
fおよび後輪コーナリングパワーK
rに基づいて、任意の車速(例えば、対象車両において評価したい速度域)においてスタビリティファクタを求める(ステップS5)。
【0083】
具体的には、上記近似式で表された前輪コーナリングパワーKfおよび後輪コーナリングパワーKrから、任意の車速における前輪コーナリングパワー係数Cfおよび後輪コーナリングパワー係数Crをそれぞれ求めて、上述した数式(1)により操舵角スタビリティファクタK_aを求め、上述した数式(2)により任意の車速における操舵力スタビリティファクタK_tを求める。
【0084】
図20は、被評価タイヤについて、ステップS5により求められた車速ごとの操舵角スタビリティファクタK_aをプロットしたグラフである。グラフにおいて、黒丸で、実測値に基づく操舵角スタビリティファクタK_aが示されている。また、グラフにおいて、1次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められた操舵角スタビリティファクタK_aが破線で示されており、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められた操舵角スタビリティファクタK_aが実線で示されている。
【0085】
グラフから、被評価タイヤの操舵角スタビリティファクタK_aは、車速の増大に伴って、変化することが判る。また、操舵角スタビリティファクタK_aは、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めると実測値との誤差が少ない一方で、1次式の近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めると実測値との乖離が大きいことが判る。
【0086】
また、3次の近似式に基づいて求められた操舵角スタビリティファクタK_aは、速度の増大に伴って単調に増大するのではなく、40km/h弱で一旦ピークを迎えた後、100km/hまでやや減少し、100km/hを超えたあたりから増大している。操舵力スタビリティファクタK_tも同様に求めることができるが、説明を省略する。
図18に戻って、任意の車速におけるスタビリティファクタに基づいて、タイヤを評価する(ステップS6)。
【0087】
本実施形態によれば、前輪条件または後輪条件のように、荷重条件が異なっており、それぞれ車速に対するコーナリングパワーの変化が異なり得る場合でも、任意の車速における前輪条件および後輪条件におけるコーナリングパワーを精度よく求めることができる。これによって、任意の車速におけるスタビリティファクタを精度よく求めることができ、該スタビリティファクタを利用してタイヤを効率的に評価できる。
【0088】
上記実施形態では、車速の関数で表されたコーナリングパワーKを用いて、スタビリティファクタを求める場合を例にとって説明したが、これに加えて操舵角に対するヨーレートの応答性に関するヨー共振周波数を求めて、スタビリティファクタおよびヨー共振周波数の両方に基づいて、タイヤ評価を実施してもよい。
【0089】
図21は、上記実施形態に対して、さらにヨー共振周波数を考慮した、第1変形例に係るタイヤ評価の流れを示すフローチャートである。第1変形例に係るステップS11~S15は、上記実施形態のステップS1~ステップS5と同じである。第1変形例では、上記実施形態に対して、ステップS16が追加されると共に、ステップS6に換えてステップS17が追加されている。
【0090】
ステップS11~S15において、上記実施形態と同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいてスタビリティファクタを求める。同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて、ヨー共振周波数Fy_aを求める(ステップS16)。
【0091】
図22は、被評価タイヤについて、ステップS16により求められた車速ごとのヨー共振周波数Fy_aをプロットしたグラフである。グラフにおいて、黒四角で、実測値に基づくヨー共振周波数Fy_aが示されている。また、グラフにおいて、1次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められたヨー共振周波数Fy_aが破線で示されており、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められたヨー共振周波数Fy_aが実線で示されている。
【0092】
グラフから、ヨー共振周波数Fy_aは、車速の増大に伴って減少することが判る。また、ヨー共振周波数Fy_aは、1次式および3次式のどちらの近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めても実測値との誤差が少ない一方で、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めると実測値との誤差がより小さいことが判る。
【0093】
図21に戻って、近似式に基づいて求められる、任意の車速における、ヨー共振周波数Fy_aおよび操舵角スタビリティファクタK_aに基づいて、タイヤ評価を実施する。
図23は、被評価タイヤについて、ヨー共振周波数Fy_aを第1軸にとり、操舵角スタビリティファクタK_aを第2軸にとって、評価対象の車速(例えば、100km/h)におけるタイヤA,Bがプロットされたグラフである。
【0094】
図23から、タイヤAはタイヤBよりも操舵角スタビリティファクタK_aが優れる一方で、タイヤBはタイヤAよりもヨー共振周波数が優れていることが容易に判る。つまり、グラフから、タイヤAは、タイヤBに対して、安定性に優れているが、応答性に劣っていることが直感的に判りやすい。
【0095】
第1変形例によれば、任意の車速において、操舵角スタビリティファクタK_a及び/又は操舵力スタビリティファクタK_tに加えて、ヨー共振周波数Fy_aも精度よく求めることができるので、タイヤをより効率的に評価できる。
【0096】
上記実施形態に対して、ニューマチックトレールξを車速ごとに求めて、ニューマチックトレールξを車速の関数として近似式で表し、該ニューマチックトレールξの関数を用いて操舵力スタビリティファクタK_tを求めるようにしてもよい。以下、具体的に説明する。
【0097】
図24は、上記実施形態に対して、さらに車速の関数として表したニューマチックトレールξを用いて求めた操舵力スタビリティファクタK_tを考慮した、第2変形例に係るタイヤ評価の流れを示すフローチャートである。第2変形例に係るステップS21,S22,S24,25は、上記実施形態のステップS1~S6と同じである。第2変形例では、上記実施形態に対してステップS23,S26が追加される共に、ステップS5,S6に換えてステップS27、S28が追加されている。
【0098】
上記実施形態と同様に、ステップS21,S22において、被評価タイヤを、該被評価タイヤが装着される対象車両における前輪および後輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、前輪コーナリングパワーKfおよび後輪コーナリングパワーKrを求める。
【0099】
第2変形例では、被評価タイヤについて、複数の車速においてニューマチックトレールξを求める(ステップS23)。具体的には、被評価タイヤが装着される対象車両における前輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、セルフアライニングトルクを計測する。さらに、計測された各車速ごとのセルフアライニングトルクを、対応する車速ごとに求められた前輪コーナリングパワーKfで除することによって、各車速ごとのニューマチックトレールξが算出される。なお、ステップS23におけるセルフアライニングトルクの計測を、ステップS21における前輪横力Ffの計測と同時に実施してもよい。
【0100】
次にステップS24,S25において、前輪コーナリングパワーKfおよび後輪コーナリングパワーKrそれぞれについて車速の関数として近似する近似式を作成する。同様に、複数の車速ごとに求められたニューマチックトレールξを車速の関数として近似する近似式を求める(ステップS26)。近似式は、例えば最小二乗法を利用して求めることができる。
【0101】
次に、任意の車速において操舵力スタビリティファクタを求める(ステップS27)。ここで、操舵力スタビリティファクタの算出には、任意の車速におけるニューマチックトレールξを用いる。具体的には、上記近似式で表されたニューマチックトレールξの関数から、任意の車速におけるニューマチックトレールξを求めて、上述した数式(2)により任意の車速における操舵力スタビリティファクタK_tを求める。
【0102】
最後に、任意の車速において求められた、操舵力スタビリティファクタK_tを用いて、被評価タイヤを評価する(ステップS28)。
【0103】
第2変形例によれば、任意の車速における前輪コーナリングパワーKfおよび後輪コーナリングパワーKrに加えて、任意の車速におけるニューマチックトレールに基づいて、任意の車速における操舵力スタビリティファクタを精度よく求めることができるので、タイヤをより一層効率的に評価できる。
【0104】
なお、第1変形例と第2変形例とを組み合わせて、タイヤを評価してもよい。
【0105】
本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 車両モデル
2 前タイヤモデル
3 後タイヤモデル
10 操舵系モデル
11 操舵系
12 ステアリングホイール
K_a 操舵角スタビリティファクタ
K_t 操舵力スタビリティファクタ
Fy_a ヨー共振周波数
Fy_tb 車体系共振周波数
Fy_ts 操舵系共振周波数
Kf 前輪コーナリングパワー
Kr 後輪コーナリングパワー