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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】タイヤ評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240612BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020214048
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099956
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】小池 明大
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-186939(JP,A)
【文献】特開平05-077754(JP,A)
【文献】特開2009-008409(JP,A)
【文献】特開2008-239016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の対象車両に装着されることを前提としたタイヤのタイヤ評価方法であって、
前記対象車両における前輪条件及び後輪条件それぞれにおいて、前記タイヤのコーナリングパワーを複数の車速において計測し、
前記前輪条件についての前記コーナリングパワーを車速の関数として近似する前輪コーナリングパワー近似式を作成し、
前記後輪条件についての前記コーナリングパワーを車速の関数として近似する後輪コーナリングパワー近似式を作成し、
前記前輪コーナリングパワー近似式および前記後輪コーナリングパワー近似式に基づいて、任意の車速におけるスタビリティファクタを求め、
前記任意の車速におけるスタビリティファクタに基づいて前記タイヤを評価する、タイヤ評価方法。
【請求項2】
前記スタビリティファクタは、操舵角に基づく操舵角スタビリティファクタである、
請求項1に記載のタイヤ評価方法。
【請求項3】
前記スタビリティファクタは、操舵力に基づく操舵力スタビリティファクタである、
請求項1に記載のタイヤ評価方法。
【請求項4】
前記前輪コーナリングパワー近似式および/または前記後輪コーナリングパワー近似式は、3次以上の多項式である、
請求項1~3のいずれか1つに記載のタイヤ評価方法。
【請求項5】
前記前輪コーナリングパワー近似式および前記後輪コーナリングパワー近似式を利用して、操舵角の入力に対するヨー共振周波数を任意の車速において求め、
前記任意の車速におけるヨー共振周波数に基づいて前記タイヤを評価する、
請求項1~4のいずれか1つに記載のタイヤ評価方法。
【請求項6】
前記前輪コーナリングパワー近似式を利用して、操舵力の入力に対する車体系共振周波数を任意の車速において求め、
前記任意の車速における車体系共振周波数に基づいて前記タイヤを評価する、
請求項1~5のいずれか1つに記載のタイヤ評価方法。
【請求項7】
前記前輪コーナリングパワー近似式を利用して、操舵力の入力に対する操舵系共振周波数を任意の車速において求め、
前記任意の車速における操舵系共振周波数に基づいて前記タイヤを評価する、
請求項1~6のいずれか1つに記載のタイヤ評価方法。
【請求項8】
前記対象車両における前輪条件において、前記タイヤのニューマチックトレールを複数の車速において求め、
前記ニューマチックトレールを車速の関数として近似するニューマチックトレール近似式を作成し、
前記ニューマチックトレール近似式に基づいて、任意の車速におけるニューマチックトレールを算出し、
前記操舵力スタビリティファクタは、前記任意の車速におけるニューマチックトレールを利用して算出される、
請求項3に記載のタイヤ評価方法。
【請求項9】
前記前輪コーナリングパワー近似式、前記後輪コーナリングパワー近似式および前記ニューマチックトレール近似式の少なくとも1つに基づいて、任意の車速における、操舵角スタビリティファクタ、操舵力スタビリティファクタ、ヨー共振周波数、車体系共振周波数、および操舵系共振周波数を求め、
前記任意の車速における操舵角スタビリティファクタおよび前記ヨー共振周波数に基づいて、前記タイヤを評価し、
さらに、前記任意の車速における操舵力スタビリティファクタ、車体系共振周波数および操舵系共振周波数に基づいて、前記タイヤを評価する、
請求項8に記載のタイヤ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定条件のもと台上でタイヤを試験することにより計測された前輪および後輪それぞれにおけるコーナリングパワー(例えば特許文献1参照)と装着される車両の諸元とに基づいて、タイヤ特性と紐づいた車両のスタビリティファクタを求め、該スタビリティファクタに基づいてタイヤの安定性を評価するタイヤ評価方法が知られている。
【0003】
また、非特許文献1,2には、タイヤ特性と紐づいた車両のスタビリティファクタとして、操舵角に基づくスタビリティファクタ(以下、操舵角スタビリティファクタ)と、操舵力に基づくスタビリティファクタ(以下、操舵力スタビリティファクタ)とを求め、これら2つのスタビリティファクタ(以下、纏めてスタビリティファクタと称する場合がある)を用いてタイヤの安定性を評価することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-276632号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】酒井英樹著「タイヤ特性と操縦安定性との関係」、自動車技術Vol.67No.4、公益社団法人自動車技術会、2013年4月
【文献】酒井英樹著「フォースコントロールにおける安定性とその指標」、自動車技術会論文集Vol.44No.2、公益社団法人自動車技術会、2013年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、スタビリティファクタは、特定の速度条件のもと計測された前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーを用いて求められている。しかしながら、特許文献1の段落0007に記載されるように、実際には、コーナリングパワーは走行速度に応じて変化する、ことが知られている。したがって、上記特定の速度条件以外におけるスタビリティファクタを精度高く求めることができない。
【0007】
さらに、本願発明者は、前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーが速度に応じて変化するのに加えて、それぞれが負担する分担荷重に応じてその変化の度合いが異なることを新たに見出して、コーナリングパワーを高精度に求めることに着想し、本願発明をなした。
【0008】
すなわち、本発明は、任意の車速において求められたコーナリングパワーに基づいてタイヤを効率的に評価できる、タイヤ評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
特定の対象車両に装着されることを前提としたタイヤのタイヤ評価方法であって、
前記対象車両における前輪条件及び後輪条件それぞれにおいて、前記タイヤのコーナリングパワーを複数の車速において計測し、
前記前輪条件についての前記コーナリングパワーを車速の関数として近似する前輪コーナリングパワー近似式を作成し、
前記後輪条件についての前記コーナリングパワーを車速の関数として近似する後輪コーナリングパワー近似式を作成し、
前記前輪コーナリングパワー近似式および前記後輪コーナリングパワー近似式に基づいて、任意の車速におけるスタビリティファクタを求め、
前記任意の車速におけるスタビリティファクタに基づいて前記タイヤを評価する、タイヤ評価方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、例えば、前輪条件または後輪条件のように、荷重条件が異なっており、それぞれ車速に対するコーナリングパワーの変化が異なり得る場合でも、任意の車速における前輪条件および後輪条件におけるコーナリングパワーを精度よく求めることができる。これによって、任意の車速におけるスタビリティファクタを精度よく求めることができ、タイヤを効率的に評価できる。
【0011】
また、前記スタビリティファクタは、操舵角に基づく操舵角スタビリティファクタであってもよい。
【0012】
本構成によれば、任意の車速において、操舵角スタビリティファクタを精度よく求めることができる。任意の車速における操舵角スタビリティファクタを考慮して、タイヤを効率的に評価しやすい。
【0013】
また、前記スタビリティファクタは、操舵力に基づく操舵力スタビリティファクタであってもよい。
【0014】
本構成によれば、任意の車速において、操舵力スタビリティファクタを精度よく求めることができる。任意の車速における操舵力スタビリティファクタを考慮して、タイヤを効率的に評価しやすい。
【0015】
また、前記前輪コーナリングパワー近似式および/または前記後輪コーナリングパワー近似式は、3次以上の多項式であってもよい。
【0016】
本構成によれば、前輪コーナリングパワー近似式および/または後輪コーナリングパワー近似式を、実測データに対する誤差を抑制しつつ近似しやすい。
【0017】
また、前記前輪コーナリングパワー近似式および前記後輪コーナリングパワー近似式を利用して、操舵角の入力に対するヨー共振周波数を任意の車速において求め、
前記任意の車速におけるヨー共振周波数に基づいて前記タイヤを評価してもよい。
【0018】
本構成によれば、任意の車速においてヨー共振周波数を精度よく求めることができる。任意の車速におけるヨー共振周波数を考慮して、タイヤをより効率的に評価しやすい。
【0019】
また、前記前輪コーナリングパワー近似式を利用して、操舵力の入力に対する車体系共振周波数を任意の車速において求め、
前記任意の車速における車体系共振周波数に基づいて前記タイヤを評価してもよい。
【0020】
本構成によれば、任意の車速における前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーに基づいて、任意の車速における、スタビリティファクタに加えて車体系共振周波数を精度よく求めることができるので、タイヤをより一層効率的に評価できる。
【0021】
また、前記前輪コーナリングパワー近似式を利用して、操舵力の入力に対する操舵系共振周波数を任意の車速において求め、
前記任意の車速における操舵系共振周波数に基づいて前記タイヤを評価してもよい。
【0022】
本構成によれば、任意の車速における前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーに基づいて、任意の車速における、スタビリティファクタに加えて操舵系共振周波数を精度よく求めることができるので、タイヤをより一層効率的に評価できる。
【0023】
また、前記対象車両における前輪条件において、前記タイヤのニューマチックトレールを複数の車速において求め、
前記ニューマチックトレールを車速の関数として近似するニューマチックトレール近似式を作成し、
前記ニューマチックトレール近似式に基づいて、任意の車速におけるニューマチックトレールを算出し、
前記操舵力スタビリティファクタは、前記任意の車速におけるニューマチックトレールを利用して算出されてもよい。
【0024】
本構成によれば、任意の車速における前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーに加えて、任意の車速におけるニューマチックトレールに基づいて、任意の車速における操舵力スタビリティファクタを精度よく求めることができるので、タイヤをより一層効率的に評価できる。
【0025】
また、前記前輪コーナリングパワー近似式、前記後輪コーナリングパワー近似式および前記ニューマチックトレール近似式の少なくとも1つに基づいて、任意の車速における、操舵角スタビリティファクタ、操舵力スタビリティファクタ、ヨー共振周波数、車体系共振周波数、および操舵系共振周波数を求め、
前記任意の車速における操舵角スタビリティファクタおよび前記ヨー共振周波数に基づいて、前記タイヤを評価し、
さらに、前記任意の車速における操舵力スタビリティファクタ、車体系共振周波数および操舵系共振周波数に基づいて、前記タイヤを評価してもよい。
【0026】
本構成によれば、任意の車速における、操舵角スタビリティファクタ、操舵力スタビリティファクタ、ヨー共振周波数、車体系共振周波数および操舵系共振周波数に基づいて、タイヤ評価を精度よく且つ効率的に実施できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、任意の車速において求められたコーナリングパワーに基づいてタイヤを効率的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る車両モデルを示す図。
図2】本発明の実施形態に係る操舵系モデルを示す図。
図3】本発明の一実施形態に係るタイヤ評価方法を示すフローチャート。
図4】車速と前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーとの関係を示すグラフ。
図5】被評価タイヤの操舵角スタビリティファクタを示すグラフ。
図6】第1変形例に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
図7】第1変形例に係る、被評価タイヤの車速とヨー共振周波数との関係を示すグラフ。
図8】第1変形例に係る、被評価タイヤのヨー共振周波数と操舵角スタビリティファクタを示すグラフ。
図9】第2変形例に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
図10】第3変形例に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
図11】第4変形例に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
図12】第5変形例に係る、タイヤ評価方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態では、特定の対象車両に装着されることを前提としたタイヤを、当該対象車両に要求される目標性能に基づいて評価する。具体的には、操舵角に対する安定性を示す指標となる操舵角スタビリティファクタK_aと、操舵力に対する安定性を示す指標となる操舵力スタビリティファクタK_tとを用いて、タイヤを評価する。
【0030】
操舵角スタビリティファクタK_aは、操舵角に対する安定性を示す指標であれば種々のものを使用できる。本実施形態では、操舵角スタビリティファクタK_aを、非特許文献1に開示される数式を用いて求める場合を例にとって説明する。具体的には、操舵角スタビリティファクタK_aは、図1に示される車両モデル1を前提として、以下の数式(1)により求められる。
【0031】
【数1】
【0032】
図1に示されるように、車両モデル1は、4輪車を前提として、左右2つの前輪および後輪が車幅方向中央にまとめられた前タイヤモデル2および後タイヤモデル3を有する、線形2自由度モデルとして表されている。車両モデル1は、重心CGから前タイヤモデル2までの前後方向長さがLであり、後タイヤモデル3までの前後方向長さがLである。車両モデル1はホイールベース長、すなわちLとLとの合計長さがLである。
【0033】
車両モデル1は、質量がmであり、前タイヤモデル2での分担荷重はm・g、後タイヤモデル3での分担荷重はm・gである。また、車両モデル1は、重心CG周りのヨー慣性モーメントがIzとして表されている。
【0034】
図1では、車両モデル1は前タイヤモデル2が操舵角δで操舵されて、重心CGにおいて車両前後方向に対してスリップ角βで傾斜した方向に車速Vで進んでいる状態が示されている。また、車両モデル1は、重心CGまわりにヨーレートrで回転しており、前タイヤモデル2の軸心におけるスリップ角はβ、後タイヤモデル3の軸心におけるスリップ角βrで表されている。
【0035】
図1における、FおよびFはそれぞれ、操舵時における、前タイヤモデル2および後タイヤモデル3において発生する前輪横力および後輪横力を表している。本実施形態では、前輪横力Fおよび後輪横力Fは、例えば、タイヤ単体を所定条件(例えば所定の車速および所定の分担荷重)のもと台上で試験することにより計測される。
【0036】
2Kおよび2Kはそれぞれ、前輪横力Fおよび後輪横力Fをそれぞれのスリップ角β,βで除した値であり、前輪コーナリングパワーおよび後輪コーナリングパワーを表している。CおよびCはそれぞれ、前輪コーナリングパワー2Kおよび後輪コーナリングパワー2Kをそれぞれの分担荷重m・gおよびm・gで除した、前輪コーナリングパワー係数および後輪コーナリングパワー係数を表している。
【0037】
一方、操舵力スタビリティファクタK_tは、操舵力に対する安定性を示す指標であれば種々のものを使用できる。本実施形態では、操舵力スタビリティファクタK_tを、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、操舵力スタビリティファクタK_tは、図1に示される車両モデル1および図2に示される操舵系モデル10を前提として、以下の数式(2)により求められる。
【0038】
【数2】
【0039】
図2に示されるように、操舵系モデル10は、車両モデル1の前タイヤモデル2に操舵系11を追加したものである。操舵系11は、回転軸が水平面内に設定されるステアリングホイール12を有している。操舵系モデル10では、ステアリングホイール12の慣性モーメントがIh、操舵トルクがTh、タイヤのニューマチックトレールおよび操舵系のトレール長の和がξとして表されている。なお、操舵系モデル10では、操舵系11の慣性モーメントがステアリングホイール12にのみ存在するものと仮定されている。
【0040】
ここで、本実施形態では、被評価タイヤの単体を複数の車速条件のもと台上で試験することによって計測されたコーナリングパワーを利用して、操舵角スタビリティファクタK_a及び/又は操舵力スタビリティファクタK_tを求めてタイヤ評価を実施する。以下に、操舵角スタビリティファクタK_aを求める場合を例にとって説明する。
【0041】
図3は、本実施形態に係るタイヤ評価方法の流れを示すフローチャートである。まず、被評価タイヤを、該被評価タイヤが装着される対象車両における前輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、前輪コーナリングパワーKを求める(ステップS1)。また、被評価タイヤを、該被評価タイヤが装着される対象車両における後輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、後輪コーナリングパワーKを求める(ステップS2)。
【0042】
次に、複数の車速で求められた前輪コーナリングパワーKを車速の関数として近似する近似式を求める(ステップS3)。同様に、複数の車速で求められた後輪コーナリングパワーKを車速の関数として近似する近似式を求める(ステップS4)。近似式は、例えば最小二乗法を利用して求めることができる。
【0043】
図4は、タイヤサイズ225/45R17の被評価タイヤを、前輪条件(前輪荷重:4.61kN)および後輪条件(後輪荷重:3.63kN)のもと、複数の車速(10km/h、50km/h、100km/h、150km/h)での台上試験に供試して求められた、被評価タイヤについての、車速ごとのコーナリングパワーKがプロットされたグラフである。グラフには、前輪コーナリングパワーKが丸印でプロットされており、後輪コーナリングパワーKが四角印でプロットされている。
【0044】
また、グラフには、前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKそれぞれについて近似線(前輪コーナリングパワー近似式および後輪コーナリングパワー近似式で表される関数)が示されている。具体的には、グラフには、1次式で近似された近似直線が破線で示されており、3次式で近似された近似曲線が実線で示されている。グラフ中の1次式の近似線を参照すると、分担荷重の低い後輪条件のほうが、前輪条件よりも、車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大代がより大きい。
【0045】
また、1次式の近似線よりも3次式の近似線のほうが、実測値との誤差が少なく、さらに、車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大の度合いは、車速域によって異なっている。具体的には、概ね50km/hを超えると車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大が緩やかになり、100km/hを超えと車速の増大に伴うコーナリングパワーKの増大が急激になることが判る。さらに、100km/hを超えた速度域では、前輪コーナリングパワーKよりも、後輪コーナリングパワーKのほうが、車速の増大に伴う増大代がより大きくなっている。
【0046】
図3に戻って、次に、被評価タイヤについて、前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKに基づいて、任意の車速(例えば、対象車両において評価したい速度域)においてスタビリティファクタを求める(ステップS5)。
【0047】
具体的には、上記近似式で表された前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKから、任意の車速における前輪コーナリングパワー係数Cおよび後輪コーナリングパワー係数Cをそれぞれ求めて、上述した数式(1)により操舵角スタビリティファクタK_aを求め、上述した数式(2)により任意の車速における操舵力スタビリティファクタK_tを求める。
【0048】
図5は、被評価タイヤについて、ステップS5により求められた車速ごとの操舵角スタビリティファクタK_aをプロットしたグラフである。グラフにおいて、黒丸で、実測値に基づく操舵角スタビリティファクタK_aが示されている。また、グラフにおいて、1次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められた操舵角スタビリティファクタK_aが破線で示されており、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められた操舵角スタビリティファクタK_aが実線で示されている。
【0049】
グラフから、被評価タイヤの操舵角スタビリティファクタK_aは、車速の増大に伴って、変化することが判る。また、操舵角スタビリティファクタK_aは、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めると実測値との誤差が少ない一方で、1次式の近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めると実測値との乖離が大きいことが判る。なお、近似式を3次以上の多項式で表してもよい。
【0050】
また、3次の近似式に基づいて求められた操舵角スタビリティファクタK_aは、速度の増大に伴って単調に増大するのではなく、40km/h弱で一旦ピークを迎えた後、100km/hまでやや減少し、100km/hを超えたあたりから増大している。操舵力スタビリティファクタK_tも同様に求めることができるが、説明を省略する。図3に戻って、任意の車速におけるスタビリティファクタに基づいて、タイヤを評価する(ステップS6)。
【0051】
本実施形態によれば、前輪条件または後輪条件のように、荷重条件が異なっており、それぞれ車速に対するコーナリングパワーの変化が異なり得る場合でも、任意の車速における前輪条件および後輪条件におけるコーナリングパワーを精度よく求めることができる。これによって、任意の車速におけるスタビリティファクタを精度よく求めることができ、該スタビリティファクタを利用してタイヤを効率的に評価できる。
【0052】
(第1変形例)
上記実施形態では、車速の関数で表されたコーナリングパワーKを用いて、スタビリティファクタを求める場合を例にとって説明したが、第1変形例では、これに加えて操舵角に対するヨーレートの応答性に関するヨー共振周波数を求めて、スタビリティファクタおよびヨー共振周波数の両方に基づいて、タイヤ評価を実施する。
【0053】
ヨー共振周波数Fy_aは、操舵角の入力に対するヨーレートの応答系の固有振動数を示す指標であれば種々のものを使用できる。本実施形態では、ヨー共振周波数Fy_aは、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、ヨー共振周波数Fy_aは、以下の数式(3)により求められる。
【0054】
【数3】
【0055】
式(3)における時定数(緩和時間)τf、τrは、タイヤの横剛性をkとして、式(4)、式(5)により表される。
【0056】
【数4】
【0057】
【数5】
【0058】
図6は、上記実施形態に対して、さらにヨー共振周波数を考慮した、第1変形例に係るタイヤ評価の流れを示すフローチャートである。第1変形例に係るステップS11~S15は、上記実施形態のステップS1~ステップS5と同じである。第1変形例では、上記実施形態に対して、ステップS16が追加されると共に、ステップS6に換えてステップS17が追加されている。
【0059】
ステップS11~S15において、上記実施形態と同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいてスタビリティファクタを求める。同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて、ヨー共振周波数Fy_aを求める(ステップS16)。
【0060】
図7は、被評価タイヤについて、ステップS16により求められた車速ごとのヨー共振周波数Fy_aをプロットしたグラフである。グラフにおいて、黒四角で、実測値に基づくヨー共振周波数Fy_aが示されている。また、グラフにおいて、ヨー共振周波数Fy_aの近似式(ヨー共振周波数近似式)が示されている。具体的には、グラフには、1次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められたヨー共振周波数Fy_aが破線で示されており、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて求められたヨー共振周波数Fy_aが実線で示されている。
【0061】
グラフから、ヨー共振周波数Fy_aは、車速の増大に伴って減少することが判る。また、ヨー共振周波数Fy_aは、1次式および3次式のどちらの近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めても実測値との誤差が少ない一方で、3次式の近似式で表されたコーナリングパワーKを用いて求めると実測値との誤差がより小さいことが判る。なお、近似式を3次以上の多項式で表してもよい。
【0062】
図6に戻って、近似式に基づいて求められる、任意の車速における、ヨー共振周波数Fy_aおよび操舵角スタビリティファクタK_aに基づいて、タイヤ評価を実施する。図8は、被評価タイヤについて、ヨー共振周波数Fy_aを第1軸にとり、操舵角スタビリティファクタK_aを第2軸にとって、評価対象の車速(例えば、100km/h)におけるタイヤA,Bがプロットされたグラフである。
【0063】
図8から、タイヤAはタイヤBよりも操舵角スタビリティファクタK_aが優れる一方で、タイヤBはタイヤAよりもヨー共振周波数が優れていることが容易に判る。つまり、グラフから、タイヤAは、タイヤBに対して、安定性に優れているが、応答性に劣っていることが直感的に判りやすい。
【0064】
第1変形例によれば、任意の車速において、操舵角スタビリティファクタK_a及び/又は操舵力スタビリティファクタK_tに加えて、ヨー共振周波数Fy_aも精度よく求めることができるので、タイヤをより効率的に評価できる。
【0065】
(第2変形例)
上記実施形態に対して、ニューマチックトレールξを車速ごとに求めて、ニューマチックトレールξを車速の関数として近似式で表し、該ニューマチックトレールξの関数を用いて操舵力スタビリティファクタK_tを求めるようにしてもよい。
【0066】
図9は、上記実施形態に対して、さらに車速の関数として表したニューマチックトレールξを用いて求めた操舵力スタビリティファクタK_tを考慮した、第2変形例に係るタイヤ評価の流れを示すフローチャートである。第2変形例に係るステップS21,S22,S24,25は、上記実施形態のステップS1~S6と同じである。第2変形例では、上記実施形態に対してステップS23,S26が追加される共に、ステップS5,S6に換えてステップS27、S28が追加されている。
【0067】
上記実施形態と同様に、ステップS21,S22において、被評価タイヤを、該被評価タイヤが装着される対象車両における前輪および後輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKを求める。
【0068】
第2変形例では、被評価タイヤについて、複数の車速においてニューマチックトレールξを求める(ステップS23)。具体的には、被評価タイヤが装着される対象車両における前輪の荷重負荷条件のもと複数の車速において台上で試験して、セルフアライニングトルクを計測する。さらに、計測された各車速ごとのセルフアライニングトルクを、対応する車速ごとに求められた前輪コーナリングパワーKで除することによって、各車速ごとのニューマチックトレールξが算出される。なお、ステップS23におけるセルフアライニングトルクの計測を、ステップS21における前輪横力Fの計測と同時に実施してもよい。
【0069】
次にステップS24,S25において、前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKそれぞれについて車速の関数として近似する近似式を作成する。同様に、複数の車速ごとに求められたニューマチックトレールξを車速の関数として近似する近似式を求める(ステップS26)。近似式は、例えば最小二乗法を利用して求めることができる。
【0070】
次に、任意の車速において操舵力スタビリティファクタを求める(ステップS27)。ここで、操舵力スタビリティファクタの算出には、任意の車速におけるニューマチックトレールξを用いる。具体的には、上記近似式で表されたニューマチックトレールξの関数から、任意の車速におけるニューマチックトレールξを求めて、上述した数式(2)により任意の車速における操舵力スタビリティファクタK_tを求める。
【0071】
最後に、任意の車速において求められた、操舵力スタビリティファクタK_tを用いて、被評価タイヤを評価する(ステップS28)。
【0072】
第2変形例によれば、任意の車速における前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKに加えて、任意の車速におけるニューマチックトレールξに基づいて、任意の車速における操舵力スタビリティファクタK_tを精度よく求めることができるので、タイヤをより一層効率的に評価できる。
【0073】
(第3変形例)
また、上記実施形態に対して、操舵力の入力に対する車体系共振周波数Fy_tbを任意の車速において求め、任意の車速における車体系共振周波数Fy_tbに基づいてタイヤを評価してもよい。車体系共振周波数Fy_tbは、操舵力の入力に対するヨーレートの応答系に関する車体系の固有振動数を示す指標であれば種々のものがを使用できる。本実施形態では、車体系共振周波数Fy_tbは、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、車体系共振周波数Fy_tbは、以下の数式(6)により求められる。
【0074】
【数6】
【0075】
図10は、上記実施形態に対して、さらに任意の車速における車体系共振周波数Fy_tbを考慮した、第3変形例に係るタイヤ評価の流れを示すフローチャートである。第3変形例に係るステップS31~S35は、上記実施形態のステップS1~S5と同じである。第3変形例では、上記実施形態に対して、ステップS36が追加される共に、ステップS6に換えてステップS37が追加されている。
【0076】
ステップS31~S35において、上記実施形態と同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいてスタビリティファクタを求める。同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて、任意の車速における車体系共振周波数Fy_tbを求める(ステップS36)。
【0077】
任意の車速におけるスタビリティファクタおよび車体系共振周波数Fy_tbに基づいてタイヤ評価を実施する(ステップS37)。
【0078】
第3変形例によれば、任意の車速における前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKに基づいて、任意の車速における、スタビリティファクタに加えて車体系共振周波数Fy_tbを精度よく求めることができるので、タイヤをより一層効率的に評価できる。
【0079】
(第4変形例)
また、上記実施形態に対して、操舵力の入力に対する操舵系共振周波数Fy_tsを任意の車速において求め、任意の車速における操舵系共振周波数Fy_tsに基づいてタイヤを評価してもよい。操舵系共振周波数Fy_tsは、操舵力の入力に対するヨーレートの応答系に関する操舵系の固有振動数を示す指標であれば種々のものがを使用できる。本実施形態では、操舵系共振周波数Fy_tsは、非特許文献1に開示される数式を用いて求める。具体的には、操舵系共振周波数Fy_tsは、以下の数式(7)により求められる。
【0080】
【数7】
【0081】
図11は、上記実施形態に対して、さらに任意の車速における操舵系共振周波数Fy_tsを考慮した、第4変形例に係るタイヤ評価の流れを示すフローチャートである。第4変形例に係るステップS41~S45は、上記実施形態のステップS1~S5と同じである。第4変形例では、上記実施形態に対して、ステップS46が追加される共に、ステップS6に換えてステップS47が追加されている。
【0082】
ステップS41~S45において、上記実施形態と同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいてスタビリティファクタを求める。同様に、車速の関数として近似式で表されたコーナリングパワーKに基づいて、任意の車速における操舵系共振周波数Fy_tsを求める(ステップS46)。
【0083】
任意の車速におけるスタビリティファクタおよび操舵系共振周波数Fy_tsに基づいてタイヤ評価を実施する(ステップS47)。
【0084】
第4変形例によれば、任意の車速における前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKに基づいて、任意の車速における、スタビリティファクタに加えて操舵系共振周波数Fy_tsを精度よく求めることができるので、タイヤをより一層効率的に評価できる。
【0085】
なお、第4変形例において、任意の車速における操舵系共振周波数Fy_tsについて、2変形例にて説明した、任意の車速におけるニューマチックトレールξを利用して求めてもよい。これによって、任意の車速における操舵系共振周波数Fy_tsをより一層、精度よく求めることができる。
【0086】
(第5変形例)
第1~第4変形例を種々に組み合わせて、タイヤ評価を実施してもよい。図12は、第1~第4変形例を組み合わせた、第5変形例に係るタイヤ評価の流れを示すフローチャートである。第5変形例に係るステップS51~S56、S58は、第2変形例のステップS21~S27と同じである。第5変形例では、第2変形例に対して、ステップS57、ステップS59~S61が追加されると共に、ステップS28に換えてステップS62,S63が追加されている。
【0087】
ステップS51~S56において、第2変形例と同様に、前輪コーナリングパワーK、後輪コーナリングパワーKおよびニューマチックトレールξを、車速の関数として近似する近似式を作成する。ステップS57において、車速の関数として表された前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKを利用して、任意の車速における操舵角スタビリティファクタK_aを求める。
【0088】
同様に、ステップS58において、車速の関数として表された前輪コーナリングパワーK、後輪コーナリングパワーKおよびをニューマチックトレールξを利用して、任意の車速における操舵力スタビリティファクタK_aを求める。同様に、ステップS59において、車速の関数として表された前輪コーナリングパワーKおよび後輪コーナリングパワーKを利用して、任意の車速におけるヨー共振周波数Fy_aを求める。
【0089】
同様に、ステップS60において、車速の関数として表された前輪コーナリングパワーK利用して、任意の車速における車体系共振周波数Fy_tbを求める。同様に、ステップS61において、車速の関数として表された前輪コーナリングパワーKおよびニューマチックトレールξを利用して、任意の車速における操舵系共振周波数Fy_tsを求める。なお、上記ステップS57~58の順序は問わない。
【0090】
次に、ステップS61において、任意の車速における操舵角スタビリティファクタK_aおよびヨー共振周波数Fy_aに基づいてタイヤ評価を実施する。例えば、複数の被評価タイヤがあるとき、操舵角スタビリティファクタK_aおよびヨー共振周波数Fy_aに関する所定の目標性能を満足するタイヤを、1次評価タイヤとして抽出してもよい。
【0091】
最後に、ステップS62において、任意の車速における操舵力スタビリティファクタK_t、車体系共振周波数Fy_tbおよび操舵系共振周波数Fy_tsに基づいてタイヤ評価を実施する。例えば、上記抽出された1次評価タイヤから、操舵力スタビリティファクタK_t、車体系共振周波数Fy_tbおよび操舵系共振周波数Fy_tsに関する目標性能を満足するタイヤを、2次評価タイヤとして抽出してもよい。
【0092】
第5変形例によれば、任意の車速における、操舵角スタビリティファクタK_a、操舵力スタビリティファクタK_tに基づいて1次評価タイヤを精度よく抽出できると共に、該1次評価タイヤから、任意の車速における、ヨー共振周波数Fy_a、車体系共振周波数Fy_tbおよび操舵系共振周波数Fy_tsに基づいて2次評価タイヤを精度よく抽出できる。よって、タイヤ評価を精度よく且つ効率的に実施できる。
【0093】
本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 車両モデル
2 前タイヤモデル
3 後タイヤモデル
10 操舵系モデル
11 操舵系
12 ステアリングホイール
K_a 操舵角スタビリティファクタ
K_t 操舵力スタビリティファクタ
Fy_a ヨー共振周波数
Fy_tb 車体系共振周波数
Fy_ts 操舵系共振周波数
前輪コーナリングパワー
後輪コーナリングパワー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12