(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】音源探査方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240612BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20240612BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240612BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
G01M17/02
G01H3/00 Z
G01H17/00 A
B60C19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020216509
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻井 政統
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-099273(JP,A)
【文献】特開2008-296676(JP,A)
【文献】特開2010-230641(JP,A)
【文献】特開2020-098118(JP,A)
【文献】特開2020-038159(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110929457(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
G01H 1/00 - 17/00
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面モデル、前記路面モデルに接地するタイヤモデル、前記タイヤモデルが転動したときに発生する音の複数の音源点、及び前記の音の複数の測定点を設定して音響解析を行い、前記音源点から前記測定点への音の周波数応答関数を求めるステップと、
実際のタイヤの転動時の音を前記測定点の位置で実測するステップと、
前記測定点の位置で実測された音と前記周波数応答関数とに基づき、複数の前記音源点での音についての分布を求めるステップと、
を含む、音源探査方法。
【請求項2】
前記タイヤモデルは、タイヤ周方向に延びる主溝と、前記主溝によって区画された陸部とを有し、
前記音響解析における前記音源点は、前記主溝及び前記陸部に対してそれぞれ1つ以上設定される、請求項1に記載の音源探査方法。
【請求項3】
前記音響解析は、前記路面モデル、前記タイヤモデル、前記音源点及び前記測定点を含む空間に複数の節点を設けて行われ、
前記陸部に対して設定される前記音源点は、前記路面モデルへの前記タイヤモデルの接地端に最も近い節点に設けられる、請求項2に記載の音源探査方法。
【請求項4】
前記陸部に対して設定される複数の前記音源点は、前記接地端からのタイヤ前後方向への距離が同じであり、前記タイヤモデルの外周面からの高さも同じである、請求項3に記載の音源探査方法。
【請求項5】
前記タイヤモデルの前記路面モデルへの接地部分において、前記路面モデルと前記主溝とによって管が形成され、
前記主溝に対して設定される前記音源点が前記管の開口端に設けられる、請求項2に記載の音源探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音源探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数のマイクロホンが平面上で縦横に並んだマイクロホンアレイが知られている。回転しているタイヤから発生する騒音の音圧を、上記のマイクロホンアレイを構成する多数のマイクロホンで測定し、測定されたデータに対して音響ホログラフィの処理を行い、タイヤの接地部分を含む面(音源面)における音圧分布を求める方法が知られている(例えば特許文献1参照)。求まった音圧分布における音圧の大きい位置が騒音の音源として特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、測定面及び音源面の近くには、タイヤ表面及び路面という音の反射面が存在する。しかし、マイクロホンアレイの場所(測定面)での測定結果に基づき、音響ホログラフィを用いて音源面における音圧分布を求める従来の方法は、音の反射面のない自由音場での音の伝達を前提とした方法であった。そのため、従来の方法で求まる音圧分布は、タイヤ表面及び路面での音の反射が反映されていないものであり、精度に改善の余地があった。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、タイヤから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる音源探査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の音源探査方法は、路面モデル、前記路面モデルに接地するタイヤモデル、前記タイヤモデルが転動したときに発生する音の複数の音源点、及び前記の音の複数の測定点を設定して音響解析を行い、前記音源点から前記測定点への音の周波数応答関数を求めるステップと、実際のタイヤの転動時の音を前記測定点の位置で実測するステップと、前記測定点の位置で実測された音と前記周波数応答関数とに基づき、複数の前記音源点での音についての分布を求めるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本実施形態の音源探査方法によれば、タイヤから発生する騒音の音源を精度良く特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】音響試験の様子を
図1の矢印A方向から見た図。
【
図8】音響解析用タイヤモデルの接地面を下から見た図。メッシュは図示省略されている。
【
図9】音響解析用タイヤモデルと音響解析用ドラムモデルの接地部をマイクロホン側から見た図。メッシュは図示省略されている。
【
図13】変更例の音響試験の様子をタイヤ軸方向から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0010】
1.音源探査装置の構成
図1~
図3に本実施形態の音源探査装置10を示す。音源探査装置10は、タイヤTを転動させるためのドラムDと、ドラムDが接続されたドラム制御装置12と、タイヤTからの音の音圧を測定する2つのマイクロホン17、18と、マイクロホン17、18が接続された音響測定装置13と、マイクロホン17、18の一方である移動マイクロホン17を保持して移動させる移動制御装置19と、音響測定装置13に接続されたコンピュータ14と、コンピュータ14に接続された入力装置15と、コンピュータ14に接続された出力装置16と、音響測定装置13に接続されたレファレンス信号装置11とを有している。
【0011】
音源探査装置10のうち少なくともドラムD及びマイクロホン17、18は、音の測定に適した環境、例えば無響室や半無響室に配置されている。その環境下で、ドラムD及びタイヤTを回転させたときに発生する騒音をマイクロホン17、18で測定する音響試験が行われる。
【0012】
図1及び
図2に示すように、ドラムDは円筒状であり、その外周面D1にタイヤTが接触する。図示省略するが、タイヤTをドラムDの外周面D1に所定の大きさの力で押し付けるための荷重負荷装置が、タイヤTの回転軸Sに対して設けられている。ドラムDの外周面D1は滑らかであり、外周面D1に微小な多数の凹凸が存在する場合でも、凸部とその隣の凹部との高低差が1mm以下であることが好ましい。そのような外周面D1としてセーフティーウォーク又はスチール路面が挙げられる。
【0013】
ドラムDの回転の開始、回転の終了及び回転速度の変更は、ドラム制御装置12によって行われる。ドラム制御装置12はコンピュータ14に接続されており、コンピュータ14からの指示に基づきドラムDの回転を制御する。
図1及び
図2では省略するがタイヤTのトレッド部には多数の溝が形成されている。タイヤTがドラムDに接触(接地)している状態でドラムDが回転すると、ドラムDの回転方向と反対方向にタイヤTが転動し、タイヤTの接地部分Gから騒音が発生する。
【0014】
タイヤTの接地部分Gから発生した騒音の音圧を測定する機器として、移動可能な1つの移動マイクロホン17と、位置が固定されている1つのレファレンスマイクロホン18とが設けられている。これらのマイクロホン17、18の測定データは、音響測定装置13によって収集されてコンピュータ14へ送られる。
【0015】
移動マイクロホン17としては、先端の測定部が小さなものが使用される。例えば、移動マイクロホン17は、先端の測定部の直径が例えば0.8mm~1.2mmのプローブマイクロホン、1/2、1/4もしくは1/8インチマイクロホン(すなわち先端の測定部の直径が1/2、1/4もしくは1/8インチのマイクロホン)、又はMEMS(Micro-Electrical-Mechanical Systems)マイクロホンである。
【0016】
移動マイクロホン17は、その先端の測定部がタイヤTのドラムDへの接地部分Gに接近するように配置される。移動マイクロホン17の先端の測定部の位置は、接地部分GにおけるタイヤTの接線方向(
図1の左右方向)へ、タイヤTの接地部分Gから25mm~100mm離れた位置であることが好ましい。
【0017】
移動マイクロホン17は、タイヤTの前又は後ろの場所に配置される。移動マイクロホン17のさらに好ましい配置場所は、
図1に示すようなタイヤTの前又は後ろにおけるタイヤTの下の場所(言い換えれば、タイヤTの前又は後ろで、かつ、タイヤTのトレッド面T1とドラムDの外周面D1とに挟まれた場所)である。
【0018】
移動マイクロホン17は移動制御装置19の保持部(不図示)によって保持されており、移動制御装置19の制御によって移動させられる。移動制御装置19は例えばロボットである。移動制御装置19はコンピュータ14に接続されており、コンピュータ14からの指示に基づき移動マイクロホン17の移動を制御する。
【0019】
移動マイクロホン17の先端の測定部は所定の面積を有する平面上を移動する。この平面が移動マイクロホン17による音圧の測定面20である(
図2参照)。測定面20は、例えば、タイヤTの接地部分Gから発生する騒音の進行方向に対して垂直な平面であり、移動マイクロホン17がタイヤTの前又は後ろに配置される場合はタイヤTの前後方向に垂直な平面である。
【0020】
図4に移動マイクロホン17による測定面20を拡大して示す。
図4には、移動マイクロホン17の移動可能経路が破線の直線で、停止位置が実線の丸で示されている。移動可能経路は格子(好ましくは
図4のように正方形を形成する格子)を描き、停止位置は上下左右に周期的に並んでいる。停止位置は上下方向にも左右方向にも複数ある。
【0021】
移動マイクロホン17は、
図4に示されている全ての停止位置で停止するが、そのための移動の順路は限定されない。一例としては、
図4に矢印で示すように、移動マイクロホン17は1番上の列の移動経路を右に移動し、上から2番目の列の移動経路を左に移動し、上から3番目の列の移動経路を右に移動し、上から4番目の列の移動経路を左に移動し、それらの移動中に全ての停止位置で停止する。
【0022】
移動マイクロホン17は各停止位置で停止している間に音圧の測定を行う。つまり
図4に実線の丸で示されている停止位置は、音圧の測定位置でもある。
図4における一番外側の測定位置及び移動可能経路で囲まれている長方形の部分を測定面20とする。
【0023】
上下左右に隣り合う測定位置(すなわち移動マイクロホン17の停止位置)の間の距離Lは、1mm~10mmであることが好ましく、4mm~5mmであることがさらに好ましい。以上のような移動マイクロホン17の移動経路及び停止位置は音源探査装置10においてあらかじめ設定されている。
【0024】
レファレンスマイクロホン18が固定される位置は、限定されないが、例えば測定面20の上下方向の中央の位置である。また、レファレンスマイクロホン18の左右方向の位置は、限定されないが、例えば測定面20の範囲内、又は
図4に示すように測定面20の左右いずれかの端部から外側へ間隔Lの範囲内の位置である。
【0025】
レファレンスマイクロホン18としては様々なマイクロホンが適用可能だが、例えば1/2、1/4又は1/8インチマイクロホンが使用される。
【0026】
前記のレファレンス信号装置11は、例えば、
図2に示すようにタイヤTの回転軸Sに設けられたロータリーエンコーダである。タイヤT及びその回転軸Sが回転すると、回転軸Sの回転角度に応じたパルス信号がこのロータリーエンコーダから発生しコンピュータ14へ送られる。例えば、タイヤT及びその回転軸Sが1周すなわち360°回転するたびにパルス信号が1回発生する。
【0027】
このパルス信号は、移動マイクロホン17による音圧の測定の開始と終了のためのレファレンス信号として使用される。そのために、移動マイクロホン17による測定の開始とパルス信号との関係、及び移動マイクロホン17による測定の終了とパルス信号との関係が、あらかじめ設定されている。例えば、移動マイクロホン17が新しい測定位置に移動してから所定回目(例えば1回目)のパルス信号が測定開始のレファレンス信号として設定され、移動マイクロホン17が新しい測定位置に移動してから別の所定回目(例えば2回目や3回目)のパルス信号が測定終了のレファレンス信号として設定されている。
【0028】
このような関係が設定されているため、各測定位置において、測定開始のレファレンス信号(パルス信号)が発せられてから測定終了のレファレンス信号(パルス信号)が発せられるまでの間、移動マイクロホン17が測定を行うこととなる。そのため、全ての測定位置においてタイヤTの同じ回転数の間、音圧の測定を行うことができ、各測定位置での移動マイクロホン17による測定条件を合わせることができる。
【0029】
音響測定装置13は、移動マイクロホン17による測定データ及びレファレンスマイクロホン18による測定データを収集し、コンピュータ14へ送る。音響測定装置13では、移動マイクロホン17による各測定位置での測定データと、移動マイクロホン17による各測定位置での測定と同時にレファレンスマイクロホン18により測定された測定データとが紐付けされる。そして、その紐付けされたデータがコンピュータ14へ送られる。
【0030】
コンピュータ14は、処理装置及び記憶装置を有しており、記憶装置に記憶されているプログラムを処理装置が読み込んで実行することにより、音圧データ取得部31、装置制御部32、体積速度分布作成部33及び音響解析部40を有する装置として機能する。
【0031】
装置制御部32は、移動制御装置19及びドラム制御装置12の制御を行う。
【0032】
また、音圧データ取得部31は、音響測定装置13から、移動マイクロホン17による各測定位置での測定データ及びそれと紐付けされたレファレンスマイクロホン18による測定データを取得する。
【0033】
また、音響解析部40は、上記の音響試験を再現するモデルを用いて音響解析を行う。音響解析部40は、要素分割され節点を有するモデルを用いた数値解析手法、具体例としては有限要素解析又は境界要素解析により、モデルに設定された音源点からモデルに設定された測定点までの音に関する伝達を解析する。
【0034】
図3に示すように、音響解析部40は、接地解析部41、音響解析モデル取得部42、音源設定部43、測定点設定部44、周波数応答関数算出部45を有している。
【0035】
接地解析部41は、上記のタイヤT及びドラムDについての有限要素モデルを用いて、タイヤTがドラムDに押し付けられたときの接地面の形状やタイヤTの変形形状を求める。
【0036】
音響解析モデル取得部42は、上記のタイヤT及びドラムDについての音響解析用のモデル(例えば、有限要素解析を行う場合は有限要素モデル)を取得する。また、音源設定部43により、上記のタイヤTの接地部分G近傍に相当する位置に、音響解析における複数の音源点が設定される。また、測定点設定部44により、上記の音響試験における移動マイクロホン17の測定位置に相当する位置に、音響解析における複数の測定点が設定される。
【0037】
周波数応答関数算出部45は、音響解析モデル取得部42の取得したモデルを用いて、音源設定部43により設定された音源点から、測定点設定部44により設定された測定点までの音の伝達について解析し、周波数応答関数を算出する。
【0038】
体積速度分布作成部33は、音圧データ取得部31が取得した測定面20での測定データと、音響解析部40の周波数応答関数算出部45が算出した周波数応答関数とに基づき、上記音響試験のときの上記音源点に相当する位置での音についての分布、本実施形態においては体積速度の分布を作成する。
【0039】
入力装置15は人がコンピュータ14に対して入力を行うためのキーボード等であり、出力装置16はコンピュータ14での計算結果を出力するディスプレイ等である。
【0040】
2.音源探査方法
本実施形態の音源探査方法の流れを
図5に示す。まず、タイヤTを転動させて騒音を測定する音響試験が行われる(S1)。
【0041】
音響試験では、まず、
図1に示すようにタイヤTがドラムDに接地するよう配置される。次に、ドラムDの回転が始まり、ドラムDに接地しているタイヤTの回転が始まる。タイヤTの回転が始まると騒音が発生し始める。また、タイヤT及び回転軸Sの回転角度に応じてレファレンス信号としてのパルス信号が発生する。
【0042】
次に、マイクロホン17、18による音圧の測定が行われる。音圧の測定について、
図6に基づき説明する。
【0043】
まず、移動マイクロホン17が最初の測定位置に移動し(S1-1)、その測定位置で待機する(S1-2)。そして、待機中に測定開始のレファレンス信号が発せられると(S1-3のYES)、移動マイクロホン17が音圧の測定を開始する(S1-4)。次に、音圧の測定中に測定終了のレファレンス信号が発せられると(S1-5のYES)、移動マイクロホン17が音圧の測定を終了する(S1-6)。これにより、測定開始のレファレンス信号が発せられてから測定終了のレファレンス信号が発せられるまでの間、移動マイクロホン17が測定を行うことになる。
【0044】
その後、全ての測定位置での測定が終了していなければ(S1-7のNO)、移動マイクロホン17が次の測定位置に移動し(S1-1)、S1-2からS1-6までのステップが再度実施される。全ての測定位置での測定が終了していれば(S1-7のYES)、音圧測定が終了する。
【0045】
これに対し、レファレンスマイクロホン18による音圧の測定は、少なくとも移動マイクロホン17による音圧の測定と同期して行われていれば良い。従って、移動マイクロホン17による最初の測定位置での測定の開始時から最後の測定位置での測定の終了時までの間、レファレンスマイクロホン18が継続して音圧を測定し続けても良い。また、移動マイクロホン17がレファレンス信号に基づき測定を開始したり終了したりするたびに、レファレンスマイクロホン18も測定を開始したり終了したりしても良い。
【0046】
このようにして移動マイクロホン17による測定とレファレンスマイクロホン18による測定とが同期して行われるので、移動マイクロホン17による各測定位置での測定データと、それに対応するレファレンスマイクロホン18による測定データとが紐付けされる。つまり、移動マイクロホン17によるある測定位置での測定データと、移動マイクロホン17がその測定位置で測定しているときのレファレンスマイクロホン18による測定データとが紐付けされる。
【0047】
なお、各測定位置での音圧の測定は所定時間かけて行われるので、各測定位置での測定データは時系列データである。
【0048】
このようにして音圧の測定が終わると、次に、音響解析が行われる(
図5のS2)。音響解析について、
図7に基づき説明する。
【0049】
まず、接地解析部41によって、タイヤTの有限要素モデル(以下「タイヤFEモデル」とする)及びドラムDの有限要素モデル(以下「ドラムFEモデル」とする)が取得される(S2-1)。これらの有限要素モデルは、音響試験で用いられたタイヤTの3次元CADモデル及び音響試験で用いられたドラムDの3次元CADモデルから作成されたものである。これらの有限要素モデルは、コンピュータ14の記憶装置にあらかじめ記憶されていても良いし、入力装置15からの入力等によって取得されても良いし、不図示のネットワーク等を介して取得されても良い。有限要素モデルには、実際のタイヤT及びドラムDの物性値や、有限要素解析に必要な条件が設定されている。
【0050】
次に、接地解析部41が接地解析を行う(S2-2)。具体的には、接地解析部41が、タイヤFEモデルをドラムFEモデルに接触させ、タイヤFEモデルに対して音響試験のときと同じ荷重を負荷して、タイヤFEモデルを変形させる計算を行う。そして、変形後のタイヤFEモデルの形状、並びに、タイヤFEモデルとドラムFEモデルとの接地面の形状及び接地面積を取得する。
【0051】
次に、音響解析モデル取得部42により、タイヤTの音響解析用のモデル(以下「音響解析用タイヤモデル」とする)及びドラムDの音響解析用のモデル(以下「音響解析用ドラムモデル」とする)が取得される(S2-3)。なお、音響解析用ドラムモデルは、タイヤTが接触する路面をモデル化した路面モデルの1種である。
【0052】
これらの音響解析用モデルは、要素分割され節点を有するモデルであり、有限要素解析や境界要素解析等の数値解析が可能なモデルである。これらの数値解析用モデルは、3次元CADモデルから作成される。これらの数値解析用モデルは、コンピュータ14の記憶装置にあらかじめ記憶されていても良いし、入力装置15からの入力等によって取得されても良いし、不図示のネットワーク等を介して取得されても良い。
【0053】
音響解析用タイヤモデルは、音響試験で用いられたタイヤTを3次元モデル化したもので、かつ、接地解析により取得された変形後のタイヤFEモデルと同じ変形形状のモデルである。音響解析用タイヤモデルには、タイヤ周方向に延びる複数の主溝22と、それらの主溝22によって区画形成された陸部23とが形成されている(
図8及び
図9参照)。また、音響解析用ドラムモデルは、音響試験で用いられたドラムDを3次元モデル化したものである。
【0054】
音響解析用タイヤモデルは音響解析用ドラムモデルに押し付けられた姿勢で配置される。音響解析用タイヤモデルと音響解析用ドラムモデルとの接地面の形状及び接地面積は、接地解析で取得された接地面の形状及び接地面積と同じとされる。
【0055】
また、音響解析用モデルのメッシュサイズは、タイヤTの変形の形状や、タイヤTとドラムDとの接地形状を再現できるサイズである。
【0056】
音響解析用タイヤモデル及び音響解析用ドラムモデルには必要な境界条件が設定される。例えば、音響解析用タイヤモデル及び音響解析用ドラムモデルは、音を吸収せず100%反射させる完全反射体として設定される。また、音響解析用タイヤモデル及び音響解析用ドラムモデルは、変形しない剛体モデルとして設定される。
【0057】
なお、音響解析が有限要素解析により行われる場合は、接地解析のときに用いられたタイヤFEモデル及びドラムFEモデルが、そのまま音響解析用モデルとして利用されても良い。
【0058】
さらに、音響解析モデル取得部42により、音響解析用タイヤモデルや音響解析用ドラムモデルの存在しない音響空間が、要素分割されて節点が設けられる(S2-4)。音響空間のメッシュサイズは、音響解析により評価しようとする周波数の上限値の波長の1/6以下とされる。例えば、周波数の上限値を2000Hzとしようとする場合、周波数が2000Hzのときの波長は340(音速)/2000=0.17mなので、メッシュサイズは0.17/6=0.028m以下とされる。
【0059】
次に、音源設定部43により、音響解析用タイヤモデル及び音響解析用ドラムモデルとの接地部分G近傍に、複数の音源点が設定される(S2-5)。本実施形態の音響試験では、タイヤTの前後方向(進行方向及びその反対方向)においてマイクロホン17、18で音圧を測定する。この場合、タイヤTの前後方向のうちマイクロホン17、18による測定位置側の接地端(タイヤTとドラムDの接地面の端部)近傍に騒音の音源があると仮定できる。そこで、音響解析においては、音源設定部43により、音響解析用タイヤモデルの前後方向の一方の接地端近傍に、音源点が設定される。音源設定部43によるモデルへの音源点の設定は、入力装置15からの操作を介して行われる。
【0060】
設定された音源点を
図8及び
図9に黒い点で示す。なお、図示省略するが、
図8及び
図9における音響解析用タイヤモデルt、音響解析用ドラムモデルd、及び音響空間は要素分割され節点が設定されている。
【0061】
音源点は音響解析における体積速度(m3/秒)の入力点である。音源点の体積速度の変動の周波数は変化させることができる。
【0062】
音源点は、1つの陸部23に対して1点以上設定され、1つの主溝22に対して1点以上設定される。また、音源点は、全ての陸部23及び全ての主溝22に対して設定される。
【0063】
陸部23に対して設定される音源点は、音響空間の節点のうち、陸部23の接地端に一番近い節点に設定される。複数の陸部23に対して設定される複数の音源点は、全て、接地端からの前後方向(タイヤTの進行方向及びその反対方向)の距離が同じであることが好ましい。また、複数の陸部23に対して設定される複数の音源点は、全て、音響解析用タイヤモデルtの外周面(トレッド面)からの高さ(トレッド面に対して垂直方向への距離)が同じであることが好ましい。
【0064】
また、
図8及び
図9に示すように、主溝22に対して設定される音源点は、音響空間の節点のうち、音響解析用タイヤモデルtの接地端の位置における、主溝22の開口端に設定される。ここで、主溝22の開口端とは、音響解析用ドラムモデルdの外周面と音響解析用タイヤモデルtの主溝22とで形成する1本の中空の管24(
図9参照)の開口端のことである。音源点はその開口端の中心に設定されることが好ましい。
【0065】
次に、測定点設定部44により、音響解析における音圧の測定点が設定される(S2-6)。測定点は、音響試験のときの移動マイクロホン17による全ての測定位置と同じ位置に設定される。図示省略するが、
図8の上の方に測定点が設定される。測定点設定部44によるモデルへの測定点の設定は、入力装置15からの操作を介して行われる。
【0066】
次に、周波数応答関数算出部45により、周知の手法で音響解析が実行される(S2-7)。音響解析では、音源設定部43により設定された複数の音源点に体積速度(m3/秒)が入力され、測定点設定部44により設定された複数の測定点での音圧(Pa)が計算される。計算により求まる測定点での音圧の変動の周波数は、音源点での体積速度の変動の周波数と同じである。
【0067】
n個の音源点での体積速度をq1、q2、・・・qn(m3/秒)、m個の測定点での音圧をp1、p2、・・・pm(Pa)とすると、音響解析により次の関係が求まる。
【0068】
【0069】
【数2】
は、n個の音源点からm個の測定点への周波数応答関数である。周波数応答関数Hにおいて、h
mnはn番目の音源点からm番目の測定点への伝達を表す。このように、音響解析の結果として、周波数応答関数Hが求まる(S2-8)。
【0070】
周波数応答関数Hは、音源点での体積速度の変動の周波数毎に求まる。従って、評価しようとする周波数の下限値から上限値までの所定周波数おきの各周波数について、周波数応答関数Hが求まる。周波数応答関数Hが求まったところで、音響解析が終了する。
【0071】
次に、体積速度分布作成部33が、音圧データ取得部31が取得した測定面20での測定データと、音響解析部40の周波数応答関数算出部45が求めた周波数応答関数Hとに基づき、上記の音響試験のときのタイヤTの接地部分G近傍における体積速度分布を作成する(S3)。
【0072】
具体的には、まず、音響試験のときに測定されたm個の測定点での音圧の時系列データ(音響試験のとき、各測定点において音圧が所定時間かけて測定されるので、音圧の時系列データが取得される)がフーリエ変換され、周波数ごとの音圧P1、P2、・・・Pm(Pa)のデータが取得される。次に、周波数ごとに、音圧P1、P2、・・・Pm(Pa)と、周波数応答関数算出部45が求めた周波数応答関数Hの逆関数H-1とに基づき、次の式により、n個の音源点での体積速度Q1、Q2、・・・Qn(m3/秒)が計算される。
【0073】
【0074】
【数4】
は、周波数応答関数Hの逆関数である。なお、周波数応答関数Hは周波数応答関数算出部45が求めたものである。また、この計算において、音圧P
1、P
2、・・・P
m(Pa)と同じ周波数についての周波数応答関数Hが使用される。また、体積速度Q
1、Q
2、・・・Q
n(m
3/秒)の周波数は音圧P
1、P
2、・・・P
m(Pa)の周波数と同じである。
【0075】
数3による計算は、評価しようとする周波数の下限値から上限値までの所定周波数おきの各周波数について、行われても良い。また、数3による計算は、注目している特定の周波数についてのみ行われても良い。
【0076】
数3により求まった体積速度Q1、Q2、・・・Qnは、音響試験のときに、それぞれの音源点の位置で発生した音の体積速度とみなすことができる。このようにして、複数の音源点の位置での体積速度の分布が、周波数毎に求まる。そして、体積速度の大きな音源点が、その周波数の騒音の発生源であると特定される(S4)。なお、騒音の発生源の特定は、人が行っても良いし、コンピュータ14が体積速度の分布に基づき行っても良い。
【0077】
図10に、数3により求まった、ある周波数の体積速度Q
1、Q
2、・・・Q
nの分布を図示する。黒い丸が音源点であり、丸が大きいほど体積速度が大きいことを意味する。タイヤ軸方向両側のショルダー陸部において丸が大きいことから、この周波数の音源がショルダー陸部であることがわかる。
【0078】
騒音の発生源の特定の結果をもとに、タイヤから発生する騒音が低減するように、トレッドパターンの設計変更を行うことができる。
【0079】
3.実施形態の効果
本実施形態では、路面モデルである音響解析用ドラムモデル、音響解析用ドラムモデルに接地する音響解析用タイヤモデル、前記音響解析用タイヤモデルが転動したときに発生する音の複数の音源点、及び前記の音を測定するための複数の測定点を設定して音響解析を行い、音源点から測定点への音の周波数応答関数Hを求める。さらに、実際のタイヤTの転動時の音を前記の測定点の位置で実測する音響試験を行い、音響試験において測定点の位置で実測された音と周波数応答関数Hとに基づき、複数の音源点での音(体積速度)についての分布を求める。
【0080】
このように、音響解析用ドラムモデル及び音響解析用タイヤモデルを用いて音響解析を行うので、これらのモデルでの音の反射の影響を受けた形の、音源点から測定点への周波数応答関数Hを求めることができる。また、音響試験における測定点での測定データは、タイヤT及びドラムDで音が反射した影響を受けたデータである。その測定データと、音響解析で求まった周波数応答関数Hとから複数の音源点での音(体積速度)についての分布を求めるので、求まる分布はタイヤT及びドラムDでの音の反射が反映されたものであり精度が高い。その求まった分布に基づき、タイヤから発生する騒音の音源が特定されるので、音源特定の精度が良い。
【0081】
また、音響解析における音源点が音響解析用タイヤモデルの主溝22及び陸部23に対してそれぞれ1つ以上設定されるので、主溝22から発生する騒音も陸部23から発生する騒音も考慮して音響解析をすることができる。
【0082】
また、陸部23に対して設定される音源点は、音響空間の節点のうち陸部23の接地端に一番近い節点に設定される。そのため、騒音が陸部23から発生するものとみなして音響解析することができる。それでいて、音源点が物体ではなく音響空間にあるという設定で音響解析できるので、計算コストがかからない。
【0083】
ここで、陸部23に対して設定される複数の前記音源点は、陸部23の接地端からのタイヤ前後方向への距離が同じであり、音響解析用タイヤモデルの外周面からの高さも同じであるため、全ての音源点からの体積速度が平等に扱われて音響解析が行われ、解析結果の精度が良くなる。
【0084】
また、音響解析用ドラムモデルの外周面と音響解析用タイヤモデルの主溝22とで形成する1本の中空の管24の開口端に音源点が設定されるため、菅内での共鳴を想定して音響解析をすることができる。
【0085】
4.変更例
ア.変更例1
音響試験のときにタイヤTを回転させるための装置として、ドラムDの代わりに、フラットベルト式タイヤ試験機が使用されても良い。フラットベルト式タイヤ試験機では、タイヤTが接触する部分が回転ベルトの平面部分なので、タイヤTが平面で転動したときの騒音の音源を特定することができる。
【0086】
回転ベルトの表面は滑らかであり、微小な多数の凹凸が存在する場合でも、凸部とその隣の凹部との高低差が1mm以下であることが好ましい。
【0087】
音響試験のときにフラットベルト式タイヤ試験機が使用される場合は、接地解析及び音響解析において回転ベルトのモデルが路面モデルとして使用される。
【0088】
イ.変更例2
音響解析用タイヤモデルは、上記実施形態のような完全反射体ではなく、ある程度音を吸収するものとして設定されても良い。そのような設定は、境界条件として、音響解析用タイヤモデルの表面に0%より大きく100%より小さい吸音率を設定することにより実現される。吸音率としては、音響試験で使用されるタイヤTの表面のゴムの吸音率が使用されることが好ましい。
【0089】
このように音響解析用タイヤモデルに所定の吸音率が設定されることにより、音響解析が実際の音響試験をより精度良く再現したものとなり、音響解析により算出される周波数応答関数が実際の音響試験における音の周波数応答関数により近くなり、音源の特定がより正確になる。
【0090】
なお、音響解析用タイヤモデルに所定の吸音率が設定される場合でも、音響解析用ドラムモデルは完全反射体として設定されて良い。実際のドラムDの表面は音の反射率が高いので、音響解析用ドラムモデルが完全反射体として設定されても、音源の特定の精度に大きな影響は生じない。
【0091】
ウ.変更例3
この変更例では、移動マイクロホン17による測定の開始及び終了の基準となるレファレンス信号として、上記実施形態のパルス信号の代わりに、タイヤTの回転速度が利用される。そのために、レファレンス信号装置11として、タイヤTの回転速度を測定する回転速度計が設けられている。
【0092】
そして、タイヤTの異なる2つの回転速度である第1回転速度と第2回転速度とがレファレンス信号としてあらかじめ設定されている。そして、各測定位置において、タイヤTの回転速度が第1回転速度の時から第2回転速度の時までの間、移動マイクロホン17が測定を行う。
【0093】
具体例としては、測定開始のレファレンス信号として第1回転速度が設定され、測定終了のレファレンス信号として第1回転速度よりも遅い第2回転速度が設定される。そして、タイヤTがドラムD上で第1回転速度よりも速い高速で回転させられ、その状態でドラムDを回転させるためのモーターの電源が切られる。すると、ドラムD及びタイヤTの回転速度が徐々に落ちていく。そして、タイヤTの回転速度が第1回転速度まで落ちた時に移動マイクロホン17による測定が開始され、タイヤTの回転速度がさらに第2回転速度まで落ちた時に移動マイクロホン17による測定が終了する。これにより、モーターの音が消された状態で、タイヤTの回転速度が第1回転速度と第2回転速度との平均速度のときの騒音の音源を特定することができる。
【0094】
別の具体例としては、測定開始のレファレンス信号として第1回転速度が設定され、測定終了のレファレンス信号として第1回転速度よりも速い第2回転速度が設定される。そして、タイヤTの回転速度が徐々に上げられ、タイヤTの回転速度が第1回転速度まで上がった時に移動マイクロホン17による測定が開始され、タイヤTの回転速度がさらに第2回転速度まで上がった時に移動マイクロホン17による測定が終了する。これにより、タイヤTの回転速度が第1回転速度から第2回転速度まで加速されたときの騒音の音源を特定することができる。
【0095】
この変更例において、タイヤTの回転速度の代わりに、ドラムDの回転速度がレファレンス信号として利用されても良い。
【0096】
エ.変更例4
この変更例では、移動マイクロホン17による測定の開始及び終了の基準となるレファレンス信号として、上記実施形態のパルス信号の代わりに、タイヤTの回転軸Sに働く軸力が利用される。そのために、レファレンス信号装置11として、タイヤTの回転軸Sに働く軸力を測定する軸力計が設けられている。
【0097】
そして、所定の大きさの軸力がレファレンス信号としてあらかじめ設定されている。そして、各測定位置において、測定される軸力が前記の所定の大きさ以上の間、移動マイクロホン17が測定を行う。つまり、軸力が徐々に大きくなって前記の所定の大きさを超えた時に移動マイクロホン17の測定が開始され、その後軸力が徐々に小さくなって前記の所定の大きさを切った時に移動マイクロホン17の測定が終了する。軸力の大きさは制駆動力に対応しているため、この方法により、所定以上の大きさの制動力や駆動力が生じているときの騒音の音源を特定することができる。
【0098】
オ.変更例5
この変更例では、移動マイクロホン17の代わりに、複数の測定位置にそれぞれマイクロホンが固定されたマイクロホンアレイ111が使用される。
【0099】
図11に、この変更例の音源探査方法の実施に用いられる音源探査装置110を示す。この変更例の音源探査装置110が上記実施形態の音源探査装置10と異なる点は、音圧を測定する機器として、移動マイクロホン17及びレファレンスマイクロホン18ではなく、複数の計測マイクロホン112と、1つのレファレンスマイクロホン114とが設けられている点である。複数の計測マイクロホン112及びレファレンスマイクロホン114は音圧データ取得部31に接続されている。
【0100】
図12に示すように、マイクロホンアレイ111は、複数の計測マイクロホン112(
図12に実線の一重丸で示す)と、1つのレファレンスマイクロホン114(
図12に実線の二重丸で示す)とにより構成されている。マイクロホンアレイ111では、マイクロホン112、114が格子状(好ましくは
図12のような正方形を形成する格子状)に配置され、上下左右に周期的に並んでいる。各マイクロホン112、114の位置が、音圧を測定する測定位置である。測定位置は上下方向に2つ以上、左右方向に4つ以上あることが好ましい。上下左右に隣り合う測定位置の間の距離Lは、例えば15mm~35mmである。
【0101】
計測マイクロホン112及びレファレンスマイクロホン114としては例えば、先端の測定部の直径が0.8mm~1.2mmのプローブマイクロホン、1/2、1/4もしくは1/8インチマイクロホン、又はMEMS(Micro-Electrical-Mechanical Systems)マイクロホン等が使用可能である。
【0102】
マイクロホンアレイ111の一番外側の計測マイクロホン112に囲まれた面が音圧の測定面130である。この測定面130が、例えば、タイヤTの接地部分Gから発生する騒音の進行方向に対して垂直に配置される。
【0103】
図13に示すように、マイクロホンアレイ111はタイヤTのドラムDへの接地部分Gに接近するように配置される。マイクロホンアレイ111による音圧の測定位置(すなわちマイクロホンアレイ111を構成する各マイクロホン112、114の先端の測定部の位置)は、接地部分GにおけるタイヤTの接線方向(
図13の左右方向)へ、タイヤTの接地部分Gから25mm~200mm離れた位置であることが好ましい。
【0104】
マイクロホンアレイ111は、タイヤTの前又は後ろの場所に配置される。マイクロホンアレイ111のさらに好ましい配置場所は、
図13に示すようなタイヤTの前又は後ろにおけるタイヤTの下の場所(言い換えれば、タイヤTの前又は後ろで、かつ、タイヤTのトレッド面T1とドラムDの外周面D1とに挟まれた場所)である。マイクロホンアレイ111は、その測定面130がタイヤTの前後方向に垂直になるように配置されることが好ましい。
【0105】
このようなマイクロホンアレイ111においては、全ての計測マイクロホン112及びレファレンスマイクロホン114が同時に音圧の測定を行う。そのため、音響試験における音圧の測定を短時間で終わらせることができる。測定された音圧のデータは音圧データ取得部31に取り込まれる。
【0106】
その後、上記実施形態と同様に、体積速度分布作成部33が、音圧データ取得部31が取得した測定面130での測定データと、音響解析部40の周波数応答関数算出部45が算出した周波数応答関数とに基づき、音響試験のときのタイヤTの接地部分G近傍における体積速度分布を作成する。
【符号の説明】
【0107】
D…ドラム、d…音響解析用ドラムモデル、D1…外周面、G…接地部分、S…回転軸、T…タイヤ、t…音響解析用タイヤモデル、T1…トレッド面、10…音源探査装置、11…レファレンス信号装置、12…ドラム制御装置、13…音響測定装置、14…コンピュータ、15…入力装置、16…出力装置、17…移動マイクロホン、18…レファレンスマイクロホン、19…移動制御装置、20…測定面、22…主溝、23…陸部、24…管、31…音圧データ取得部、32…装置制御部、33…体積速度分布作成部、40…音響解析部、41…接地解析部、42…音響解析モデル取得部、43…音源設定部、44…測定点設定部、45…周波数応答関数算出部、110…音源探査装置、111…マイクロホンアレイ、112…計測マイクロホン、114…レファレンスマイクロホン、130…測定面