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▶ ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20240612BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240612BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240612BHJP
   B32B 25/20 20060101ALI20240612BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B65D65/40 D
C09K3/00 R
B05D7/24 302Y
B32B25/20
B32B27/18 Z
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020545569
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 GB2018052955
(87)【国際公開番号】W WO2019175524
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】1803923.0
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】ローラ・アシュフィールド
(72)【発明者】
【氏名】ジョニー・ロドリゲス・ラモス
(72)【発明者】
【氏名】ハン・シュー
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-215368(JP,A)
【文献】特開昭57-070807(JP,A)
【文献】特開平03-280827(JP,A)
【文献】特開平05-199836(JP,A)
【文献】特開平10-017774(JP,A)
【文献】特開平07-000099(JP,A)
【文献】特表2016-513160(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0296062(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
C09K 3/00
B05D 7/24
B32B 25/20
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンを吸着するための材料であって、ベース材料と、前記ベース材料の表面上のコーティングとを含み、前記コーティングが、シリコーンエラストマーと、無機エチレン吸着剤とを含み、
前記シリコーンエラストマーが、付加硬化シリコーンエラストマーであり、
無機エチレン吸着剤がパラジウム・ドープのゼオライトの粒子を含む、材料。
【請求項2】
包装材料である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記ベース材料がポリマーフィルムである、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記シリコーンエラストマーが、ビニル末端ポリジメチルシロキサンと、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーとの反応を含むプロセスによって形成された、請求項1~のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
前記シリコーンエラストマーが、ショアデュロメータタイプAにより測定して、硬化後に>15の硬度を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
前記シリコーンエラストマーが、UV活性化シリコーンエラストマーである、請求項1~のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
前記ゼオライトが、小孔又は中孔ゼオライトである、請求項1~6のいずれかに記載の材料。
【請求項8】
前記ゼオライトが、CHA骨格型を有する、請求項に記載の材料。
【請求項9】
前記ゼオライトが、MFI骨格型を有する、請求項7に記載の材料。
【請求項10】
前記無機エチレン吸着剤が、前記コーティングの総重量の少なくとも10重量%を構成する、請求項1~のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
)少なくとも2つのアルケニル基を含むポリオルガノシロキサンと、
ii)シリコーン原子に結合した少なくとも2つの水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
iii)無機エチレン吸着剤と、
を含み、
無機エチレン吸着剤がパラジウム・ドープのゼオライトの粒子を含む、付加硬化シロキサン組成物。
【請求項12】
前記無機エチレン吸着剤が、前記組成物の総重量の1~50重量%を構成する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記シロキサン組成物が、UV活性化されている、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリオルガノシロキサンがビニル末端ポリジメチルシロキサンであり、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンがメチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーである、請求項1113のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記ポリオルガノシロキサンが、25℃で2000mPa・s以下の粘度を有する、請求項1114のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
ゼオライト小孔ゼオライトである、請求項1115のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記ゼオライトが、CHA骨格型を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
3000mPa・s未満の粘度を有する、請求項1117のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
ショアデュロメータタイプAにより測定して、硬化後に>15の硬度を有する、請求項1118のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
硬化触媒を含む、請求項1119のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
エチレンを吸着するための材料であって、ベース材料と、前記ベース材料の表面上のコーティングとを含み、前記コーティングが、請求項20に記載の組成物の硬化生成物を含む、材料。
【請求項22】
前記ポリオルガノシロキサン、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン、前記無機エチレン吸着剤、及び硬化触媒を組み合わせる工程、を含む、請求項20に記載の組成物の製造方法。
【請求項23】
請求項1~10のいずれか一項に記載の材料の製造方法であって、
(i)前記ベース材料を、請求項20に記載のシロキサン組成物でコーティングする工程と、
(ii)前記シロキサン組成物を硬化させる工程と、を含む、製造方法。
【請求項24】
前記ベース材料がポリマーフィルムである、請求項23に記載の製造方法。
【請求項25】
前記コーティング工程が、グラビアコーティング又はスプレーコーティング工程である、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
エチレンを吸着するための、請求項1~10又は請求項21のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項27】
請求項1~10又は請求項21のいずれか一項に記載の材料を含む、包装構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンを吸着するための材料及び方法に関する。特に、本発明は、エチレンの吸着に好適な材料を製造するためのシリコーンエラストマーコーティングの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送中又は保管中の果物、野菜、及び他の有機物の過剰熟成又は腐敗は、著しい青果物の損失及び廃棄につながる可能性がある。これは、新鮮な青果物のサプライチェーンに関わる人々にとってますます大きな問題であり、長い輸送時間及び変動する気候条件と関連していることがある。有機物が保管されている周囲の状況を変えることは、青果物の消費期限を延ばすための有効な方策であることが示されている。例えば、青果物の包装内の酸素及び二酸化炭素の濃度が変化することにより、青果物の呼吸速度が低下し、新鮮な青果物の腐敗を遅らせることができる。
【0003】
他の方策には、青果物の包装内又はその周囲からの揮発性有機化合物(VOC)の除去が伴う。VOCは典型的に、青果物自体によって放出されるか、又は青果物が保管若しくは輸送される環境内に存在することがある。このようなVOCが存在することで、例えば、青果物の腐敗を加速させ、望ましくない臭いや味をもたらしたり、色の変化や他の外観の変化を生じさせたりすることがある。
【0004】
このようなVOCの1つはエチレンである。エチレンは植物ホルモンであり、植物における多くの生理学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。例えば、外因性エチレンにより、果物の熟成を開始することができ、次いで果物が熟成するにつれてエチレンが放出され、局所的な濃度が高くなることがある。他の種類の新鮮な青果物はまた、それ自体のエチレン生成が低い場合であっても、エチレンによる影響を受けやすい。エチレン生成速度は、局所的なエチレン濃度を決定する際の主要な因子となることがあり、この速度は、青果物の種類によって大きく異なる。過剰なエチレン濃度は、例えば、果物や野菜の早熟、新鮮な花のしおれ、及び緑色の喪失、並びに野菜の苦味の増加につながり得る。
【0005】
周囲のエチレン濃度の制御は、多くの園芸品の品質保持期間を延ばすのに有効であることが判明しており、エチレン制御の様々な方法が商業的に利用されている。方法としては、エチレン吸着及び酸化に基づく方法、例えば過マンガン酸カリウムの使用が挙げられる。
【0006】
パラジウムドープゼオライトは、エチレン吸着剤として作用することが見出されている。例えば、国際公開第2007/052074号(Johnson Matthey Public Limited Company)には、有機物由来のエチレンを吸着するためにパラジウムドープZSM-5を使用できることが記載されている。
【0007】
エチレンを除去するために使用される吸着剤は、典型的には、粉末の形態で、又は顆粒として使用される。新鮮な青果物の包装内で使用する場合、吸着材は、典型的には、包装内に位置する袋、詰め物、又は他の挿入物内に収容される。
【0008】
袋、詰め物、又は他の種類の挿入物内に吸着剤を供給する代わりに、吸着材を包装材料に組み込むと有利である。この場合、吸着材であると、包装内により広く分散し、水との直接接触から保護され得る。更に、吸着材が一次包装と組み合わされている場合、追加の挿入物又は挿入物を包装内部に配置する必要はない。これらの利点により、含まれる吸着材が減り、包装材料が低減され、加工工程が少なくなる。
【0009】
しかしながら、無機吸着剤と高分子材料とを組み合わせることにより、典型的には、吸着剤容量の著しい喪失及び/又は吸着速度の低下がもたらされ、性能の不良につながる。ポリマー加工方法はまた、活性物質を妨げ、不活性化につながる場合がある。得られた材料はまた、安定性が低いという難点をもつ場合がある。
【0010】
国際公開第2016/181132(A1)号(Innovia Films Ltd,Food Freshness Technology Holdings Ltd)では、結合剤と、VOCを除去することができる粒子状の隆起成分とを含む、フィルム表面上にコーティングを含む包装構造で使用するフィルムを記載している。実施例では、水溶性アクリルコポリマー又はポリウレタン結合剤と共にパラジウムドープゼオライトを利用する。粒子の突出は、環境に対する捕捉剤の表面積の増加に起因して、揮発性有機化合物の除去効率を改善できると主張されている。しかしながら、このような突出は、捕捉材料の喪失及び潜在的な食品接触の問題、又は吸着材の水への曝露の問題につながり得る。
【0011】
無機エチレン吸着剤と包装材料との良好な組み合わせを可能にする追加の方法及び材料を開発する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、シリコーンエラストマーを無機エチレン吸着剤と組み合わせて使用して、安定であり、かなりの吸着剤容量及び吸着速度を保持するコーティング組成物を提供できることを見出した。このような組成物は、ベース材料をコーティングして、エチレンの吸着に高い有用性を有するコーティングされた材料を生成するために使用することができる。
【0013】
したがって、本発明の第1の態様では、エチレンを吸着するための材料が提供され、該材料は、ベース材料と、ベース材料の表面上のコーティングとを含み、コーティングは、シリコーンエラストマーと、無機エチレン吸着剤とを含む。
【0014】
一実施形態では、材料は包装材料である。典型的には、材料が包装材料である場合、ベース材料はポリマーフィルムである。本明細書に記載の包装材料は、包装内からのエチレン、例えば果物及び/又は野菜などの新鮮な青果物によって放出されるエチレンの除去を向上させる可能性を有する。
【0015】
本発明の第2の態様では、付加硬化シロキサン組成物が提供され、該付加硬化シロキサン組成物は、(i)少なくとも2つのアルケニル基を含むポリオルガノシロキサンと、(ii)シリコーン原子に結合した少なくとも2つの水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(iii)無機エチレン吸着剤と、を含む。このような組成物は、ベース材料をコーティングして、エチレンの吸着に好適な材料を得るための高い潜在的な有用性を有する。
【0016】
本発明の第3の態様では、本明細書に記載の付加硬化シロキサン組成物の製造方法が提供され、該方法は、ポリオルガノシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、無機エチレン吸着剤、及び硬化触媒を組み合わせる工程、を含む。
【0017】
本発明の第4の態様では、本明細書に記載の材料の製造方法が提供され、該方法は、(a)ベース材料を付加硬化シロキサン組成物でコーティングする工程であって、該付加硬化シロキサン組成物が、(i)少なくとも2つのアルケニル基を含むポリオルガノシロキサン、(ii)シリコーン原子に結合した少なくとも2つの水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(iii)無機エチレン吸着剤、及び(iv)硬化触媒を含む、工程と、(b)シロキサン組成物を硬化させる工程と、を含む。
【0018】
本発明の第5の態様では、ベース材料と、ベース材料の表面上のコーティングとを含む材料の使用が提供され、該コーティングは、エチレンを吸着するためのシリコーンエラストマーと、無機エチレン吸着剤とを含む。
【0019】
本発明の第6の態様では、材料を含む包装構造が提供され、該材料は、ベース材料と、ベース材料の表面上のコーティングとを含み、コーティングは、シリコーンエラストマーと、無機エチレン吸着剤とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例2A、2B、及び2Cのコーティングされたフィルムを使用したエチレン吸着試験の結果を示す図である。
図2】実施例3A、3B、及び3Cのコーティングされたフィルムを使用したエチレン吸着試験の結果を示す図である。
図3】実施例4のコーティングされたフィルムを用いたエチレン吸着試験の結果を示す図である。
図4】実施例5のコーティングされたフィルムを用いたエチレン吸着試験の結果を示す図である。
図5A】実施例6のコーティングされたフィルムのSEM画像を示す。
図5B】実施例6のコーティングされたフィルムのSEM画像を示す。
図6】実施例7のコーティングされたフィルムを使用した果物試験の結果を示す図である。
図7】実施例8のフィルムのエチレン吸着試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい及び/又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせのいずれかで、組み合わせることができる。
【0022】
本発明は、無機エチレン吸着剤を含むシロキサン組成物、及び無機エチレン吸着剤を含むシリコーンエラストマーコーティングを有する材料に関する。
【0023】
シリコーンエラストマーは、架橋されてシリコーンエラストマーを形成することができるビニル基などの反応性側鎖を有する線状ポリオルガノシロキサンからできている。
【0024】
本発明者らは、付加硬化によって形成されたシリコーンエラストマーが、過酸化物又は縮合硬化などの他の硬化方法によって形成されたシリコーンエラストマーと比べ、無機エチレン吸着活性の保持に対する利点を提供することを特定した。理論に束縛されるものではないが、他の硬化技術に使用される試薬及び反応性基は、無機吸着剤中に存在し得る遷移金属と反応して、活性の低下を引き起こす可能性があると提唱されている。
【0025】
したがって、好ましくは、本明細書に記載のシロキサン組成物は、付加硬化プロセスによって硬化され、コーティングは、付加硬化プロセスによって形成されたシリコーンエラストマーを含む。
【0026】
以下の図式的な反応スキームに示すように、付加硬化は、典型的には、架橋剤中に存在するSi-H基と、ポリオルガノシロキサン中に存在するビニル基との反応によって、例えば、白金、パラジウム、若しくはロジウムの塩又は錯体などの触媒の存在下で機能する。
【0027】
【化1】
【0028】
本発明の一態様では、付加硬化シロキサン組成物が提供され、該付加硬化シロキサン組成物は、
(i)少なくとも2つのアルケニル基を含むポリオルガノシロキサンと、
(ii)シリコーン原子に結合した少なくとも2つの水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(iii)無機エチレン吸着剤と、を含む。
【0029】
典型的には、ポリオルガノシロキサンは、ポリジメチルシロキサン、例えば、式I[式中、nは繰り返し単位を表す]で表されるビニル末端ポリジメチルシロキサンである。
【0030】
【化2】
【0031】
典型的には、ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、300~28,000g/molの分子量を有する。
【0032】
典型的には、ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、25℃で2000mPa.s未満、好ましくは1500mPa.s未満、又は1000mPa.s未満、又はより好ましくは500mPa.s未満、例えば250mPa.sの粘度を有する。ビニル末端ポリジメチルシロキサンは、0.01mPa.sを超える粘度を有し得る。ビニル末端ポリジメチルシロキサンの粘度を低下させることにより、シロキサン組成物の粘度が低下する。これは、ベース材料へのむらのない適用に効果的であり、スプレーコーティングなどの方法を利用できるようになる。
【0033】
このような材料は、例えばGelest Inc.から市販されている。
【0034】
組成物はまた、架橋剤としてシリコーン原子に結合した少なくとも2つの水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、例えば、式II[式中、n及びmは繰り返し単位を表す]で表されるトリメチルシロキサン末端メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーなどのメチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーを含む。
【0035】
【化3】
【0036】
典型的には、トリメチルシロキサン末端メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーは、500~30,000g/mol、例えば900~30,000g/molの分子量を有する。
【0037】
好ましくは、ポリオルガノシロキサンは、ビニル末端ポリジメチルシロキサンであり、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーである。
【0038】
水素に結合しているオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のシリコーン原子の割合(Si-H含有量)は、硬化エラストマー組成物で観察される架橋度において重要な因子である。異なる範囲のSi-H含有量を有するこのような材料は、例えばGelest Inc.から市販されている。
【0039】
コーティングされた材料における架橋度が変動することにより、エチレン吸着速度が変化し得ることが判明した。好ましくは、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーであり、5mol%超、又は15mol%超、例えば5~60mol%、又は15~60mol%、より好ましくは40mol%~60mol%のMeHSiO-Hのmol%を有する。このような材料は、典型的には、900~30,000g/mol、例えば1500~30,000g/molの分子量を有する。
【0040】
500~2500g/molの範囲の分子量を有するメチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー材料を使用することが好ましい場合があることが見出された。このような材料は、好ましくは、5mol%超、又は15mol%超、例えば5~60mol%、又は15~60mol%、より好ましくは40mol%~60mol%のMeHSiO-Hのmol%を有する。このような材料は、シロキサン組成物に、ポリマーフィルム上への迅速なコーティングを可能にする特性をもたらし、エチレン吸着速度が高いコーティングを形成できることが見出された。
【0041】
典型的には、シロキサン組成物は、組成物の温度を周囲温度より高くすることにより硬化される。このような場合、硬化は、典型的には白金触媒などの白金族金属触媒を使用して実施される。このような触媒は、市販されているもの、例えば白金系触媒C1098(Johnson Mattheyから入手可能なテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン中のPt(0)錯体)であるか、又は当業者によって容易に調製され得る。典型的には、熱硬化工程は、コーティングを60~90℃の温度に、例えば80℃で5分間加熱すること、を伴う。
【0042】
場合によっては、紫外線(UV)活性化シロキサン組成物、すなわち、硬化をもたらす紫外線の適用によって活性化され得る組成物を使用することが好ましい場合がある。このような組成物は、無機エチレン吸着剤のエチレン捕捉活性の保持に対する利点を提供することがあり、シロキサン組成物の成分の存在下において、高温で不活性化するという難点をもつことが判明している。加えて、UV活性化組成物は、典型的には、より長い期間にわたって保管することができ、熱硬化性組成物よりも低い硬化エネルギー要件を有する。このような場合、UV活性化及びその後の硬化は、典型的には、白金触媒、例えば、白金(II)アセチルアセトネート(Pt(acac)、Sigma Aldrichから市販)、又はトリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金(IV)(MeCpPtMe、Sigma Aldrichから市販)を使用して実施される。典型的には、UV活性化工程は、10秒~10分間、例えば1~10分間、紫外線をコーティングに適用すること、を伴う。
【0043】
組成物は、硬化触媒を含むように配合されてもよく、又は硬化触媒が別々に提供され、適用前に組成物と混合されてもよいことが理解されるであろう。
【0044】
組成物はまた、典型的には粒子形態の無機エチレン吸着剤を含む。このような材料は、吸着剤と接触する環境からエチレンを除去することができる。本明細書で使用するとき、用語「吸着剤」及び「吸着」は、特定の経路へのエチレンの取り込みに限定されるものとして解釈されるべきではなく、エチレンの二次化合物への化学変換を含むことに留意されたい。本明細書で使用するとき、用語「吸着剤」は、「吸収剤」と同義である。
【0045】
無機エチレン吸着剤は、典型的には、銀又はパラジウムをはじめとする金属でドープされ得るゼオライトなどの収着材である。
【0046】
ゼオライトは、孔の開口部を画定するT原子の数(T=Si又はAl)によって分類され得る。ゼオライトは、小孔(最大孔径8員環)、中孔(最大孔径10員環)、又は大孔(最大孔径12員環)と呼ばれる。好ましくは、本発明では、ゼオライトは、小孔又は中孔の骨格を有し、より好ましくは、ゼオライトは、小孔の骨格を有する。小サイズ又は中サイズの孔を有するゼオライトは、高分子材料と組み合わせると、大孔の骨格を有するゼオライトと比較して、より高いレベルの吸着剤容量を保持することが見出されている。
【0047】
骨格型はまた、ゼオライト骨格のチャネルに沿って拡散することができる球体の最大直径によって分類されてもよい。好ましくは、最大直径は、3Å超、又はより好ましくは3.5Å超であり、ゼオライト骨格への迅速なエチレン拡散を可能にする。結合剤と組み合わせたときの吸着剤容量の保持を助けるために、最大直径が5Å未満、又は4Å未満であることが好ましい場合がある。好ましくは、骨格型の最大直径は3Å~5Å、又は好ましくは3.5Å~5Åである。このようなデータは、例えば、ゼオライト構造のデータベースに提供されている(Structure Commission of the International Zeolite Association,http://www.iza-structure.org/databases/)。
【0048】
好ましいゼオライト骨格型としては、MFI骨格型を有する中孔ゼオライト、及びAEI又はCHA骨格型を有する小孔ゼオライトが挙げられる。本明細書で使用される3文字のコードは、「IUPAC Commission on Zeolite Nomenclature」及び/又は「Structure Commission of the International Zeolite Association」に準拠した骨格型を表す。
【0049】
骨格型は、AEI又はCHA、より好ましくはCHAから選択されることが好ましい。ゼオライトは、骨格が混合又は連晶である領域、例えば、CHA/AEI連晶を含み得ることが理解されるであろうが、ゼオライトは、2つ以上の骨格型の連晶ではない骨格を有することが概して好ましい。
【0050】
ゼオライトは、典型的には、100:1以下、例えば10:1~50:1、好ましくは10:1~40:1、より好ましくは20:1~30:1のシリカ対アルミナのモル比(SAR)を有する。
【0051】
ゼオライト骨格は、アルカリ元素及び/又はアルカリ土類元素(例えば、Na、K、Mg、Ca、Sr、及びBa)のカチオン、アンモニウムカチオン及び/又はプロトンなどのカチオンによって相殺され得る。好ましくは、ゼオライトは、水素形態である。
【0052】
ゼオライトは、典型的にはパラジウムでドープされ、典型的には、ドープゼオライトの総重量に基づいて、0.1~10重量%、好ましくは0.2~2重量%、0.3~1.8重量%、0.3~1.6重量%、0.3~1.4重量%、より好ましくは0.3~1.2重量%、0.4~1.2重量%、0.6~1.2重量%、又は0.8~1.2重量%のパラジウムを含む。
【0053】
コーティング中のゼオライト材料は、好ましくは粒子の形態であり、典型的には、1μm~25μm、好ましくは5~10μmのサイズ(d50)の体積分布を有する。コーティング組成物に含まれる粒子の粒径分布は、例えば、レーザー回折により、例えば脱イオン水中の粒子の懸濁液を生成し、Malvern Mastersizer 2000を使用して粒径分布を測定することによって、測定することができる。
【0054】
このようなゼオライトは、典型的には、硝酸パラジウム溶液を使用して初期湿潤によって含浸し、粒子を乾燥させ、次いで450~750℃の温度で焼成することによって調製される。
【0055】
典型的には、無機エチレン吸着剤は、シロキサン組成物の総重量の少なくとも1重量%、例えば、シロキサン組成物の総重量の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、又は少なくとも20重量%を構成する。無機エチレン吸着剤の最大量は本発明において特に限定されないが、典型的には、無機エチレン吸着剤は、シロキサン組成物の総重量の50重量%未満を構成する。無機エチレン吸着剤の量が50重量%を超えると、コーティングを均一に適用することが困難になり得る。
【0056】
典型的には、無機エチレン吸着剤は、シロキサン組成物の総重量の1~50重量%を構成する。
【0057】
上述したように、本発明者らは、硬化シリコーンエラストマーの硬度を測定することによって評価することができる硬化シリコーンエラストマー中の架橋度の変動により、エラストマーを無機エチレン吸着剤と組み合わせたときのエチレン吸着速度が変化し得ることを見出した。
【0058】
したがって、好ましくは、シロキサン組成物の成分は、硬化後の組成物の硬度が、ショアデュロメータタイプAによって測定したときに、少なくとも>15、好ましくは40~60であるように選択される。
【0059】
シロキサン組成物の粘度は、好ましくは25℃で3000mPa.s未満、より好ましくは25℃で2000mPa.s未満、又は更により好ましくは25℃で1500mPa.s未満若しくは1000mPa.s未満である。これにより、組成物を、追加の溶媒又は他の減粘剤(thinning agent)で大幅に希釈することなく、ロールコーティング法で直接使用することができる。シロキサン組成物の粘度は、好ましくは25℃で200mPa.s未満若しくは25℃で150mPa.s未満、より好ましくは100mPa.s未満、又は更により好ましくは50mPa.s未満であることが好ましい場合もある。これにより、組成物はまた、追加の溶媒又は他の減粘剤で大幅に希釈することなく、スプレーコーティング法において直接使用することができる。典型的には、シロキサン組成物は、25℃で5mPa.s超、例えば25℃で5~200mPa.sの粘度を有する。
【0060】
シロキサン組成物は、典型的には、ポリオルガノシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、無機吸着剤、及び硬化触媒を組み合わせる工程、を含む、方法で作製される。次に、成分は、典型的には、例えば磁気撹拌器を使用して、周囲温度で混合される。
【0061】
本方法は、以下の工程:
(i)ポリオルガノシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び無機エチレン吸着剤を組み合わせる工程と、
(ii)続いて、硬化触媒を添加する工程と、を含むことが好ましい場合がある。
【0062】
あるいは、本方法は、以下の工程:
(i)ポリオルガノシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び硬化触媒を組み合わせる工程と、
(ii)続いて、無機エチレン吸着剤を添加する工程と、を含むことが好ましい場合がある。
【0063】
本発明の更なる態様では、エチレンを吸着するための材料が提供され、該材料は、ベース材料と、ベース材料の表面上のコーティングとを含み、コーティングは、シリコーンエラストマーと、無機エチレン吸着剤とを含む。このような材料は、新鮮な青果物の包装の内部などにおける材料の表面と接触する環境から、エチレンを除去することができる。特に、コーティングは、前述のシロキサン組成物を使用して形成されることが好ましい。
【0064】
本発明者らは、無機エチレン吸着剤がエラストマー組成物中に完全に封入され、大幅なエチレン除去速度及び吸着容量を保持し得るため、コーティング中の無機エチレン吸着剤に結合するためのシリコーンエラストマーの使用が有利であること、並びに、無機エチレン吸着剤がコーティングの表面から突出する必要はないことを特定した。したがって、一実施形態では、コーティングの表面からの無機エチレン吸着剤の粒子の突出は本質的になく、及び/又は無機エチレン吸着剤の粒子は、コーティング層の基本厚さを超えてコーティングの表面から外に延在しない。
【0065】
コーティングは、例えば、ベース材料の表面全体を被覆してもよく、又はベース材料の片面、例えば包装材料の場合、包装の内部の一部若しくは全体を形成することを目的とした面に適用されてもよく、又はベース材料の表面の一部に適用されてもよいことが、当業者には理解されるであろう。
【0066】
典型的には、無機エチレン吸着剤は、コーティングの総重量の少なくとも1重量%、又はコーティングの総重量の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、又は少なくとも20重量%を構成する。無機エチレン吸着剤の最大量は、本発明において特に限定されないが、典型的には、無機エチレン吸着剤は、コーティングの総重量の50重量%未満を構成する。コーティング中の無機エチレン吸着剤含有量が1重量%未満であると、エチレン吸着容量が不十分となる場合がある。コーティングは、5~200μmの典型的な厚さを有する。
【0067】
好ましくは、硬化シリコーンエラストマーは、ショアデュロメータタイプAで測定したときに、少なくとも>15の硬度、好ましくは40~60の硬度を有する。
【0068】
本発明の好ましい実施形態では、材料は、包装フィルム若しくはバッグなどの包装材料、又はボトル蓋若しくはクラムシェルボックスの蓋などの容器の蓋、又はストリップ若しくは詰め物、例えばTyvek(登録商標)ストリップ若しくはポリマーフィルムストリップなどの包装挿入物である。
【0069】
材料が包装フィルム又はバッグである場合、ベース材料は、典型的には、ポリマーフィルム、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、又はこれらの混合物、ブレンド若しくはコポリマーから形成されるポリマーフィルムである。好ましくは、ポリマーフィルムは、エチレンビニルアセテート、低密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレン、二軸延伸ポリプロピレン、ポリアミド、又は耐衝撃用ポリスチレンである。
【0070】
ポリマーフィルムは、単一のポリマー層から形成されてもよく、又は同じ若しくは異なる材料であってもよい2つ以上の層の積層構造を含んでもよい。
【0071】
典型的には、包装フィルムは、5μm~200μm、好ましくは10~100μm、より好ましくは15~40μmの厚さを有する。
【0072】
コーティングされた材料は、典型的には、(i)本明細書に記載の硬化触媒を含有する付加硬化シロキサン組成物でベース材料をコーティングする工程と、(ii)シロキサン組成物を硬化させる工程と、を含む、方法によって作製される。
【0073】
シロキサン組成物は、当業者に知られている方法を使用して、例えばスプレーコーティング、ロールコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、スロットダイコーティングなどによって、工程(i)においてベース材料上にコーティングされてもよい。
【0074】
ベース材料が包装フィルムである場合、コーティング工程は、グラビアロールコーティング、スロットダイ又はスプレーコーティング法を使用して有利に実施することができる。
【0075】
例えばプラズマ又はコロナ処理による接着を促進するために、包装フィルムの表面がコーティング工程(i)の前に処理され得ることが、当業者には理解されるであろう。
【0076】
工程(ii)において、コーティングとしてベース材料に適用されたシロキサン組成物が次に硬化される。シロキサン組成物が熱硬化性組成物である場合、コーティングの温度を周囲温度よりも高くして(例えば60~90℃の温度)、組成物を硬化させる。シロキサン組成物がUV活性化組成物である場合、コーティングは、例えば、UVA光(315~400nm)及び/若しくはUVB(280~315nm)光の適用、又は自然光への曝露による紫外線の照射に供される。光の適用時間の長さは、例えば、コーティングの厚さ及びコーティング層に含まれる無機吸着剤の量に依存するが、UVを適用する典型的な時間の長さは、10秒~10分、例えば1~10分であることが当業者には理解されるであろう。次いで、組成物を周囲温度より高くして組成物を硬化させてもよく、又はUV活性化後に周囲温度で硬化させてもよい。
【0077】
本明細書に記載の材料は、エチレン、例えば、果物、野菜、切り花、又は他の食品などの有機物由来のエチレンを吸着するために有利に使用され得る。特に、材料は、呼吸の増加を伴う熟成中にエチレンを急激に放出するバナナ、アボカド、ネクタリン、メロン、及びナシなどのクリマテリックの青果物に由来するエチレンの吸着に使用することができる。エチレンによる影響を受けやすい他の非クリマテリック型青果物としては、バレイショ、タマネギ、ブロッコリー、キャベツ、及び切り花が挙げられる。
【0078】
典型的には、有機物は、保管及び輸送中の包装構造、例えば、クレート、バッグ、ボトル、ボックス、又はパネットに収容される。したがって、材料は、このような包装構造内のエチレン濃度を制御するために有利に使用され得る。
【0079】
材料は、包装構造を封止するために、例えば、パネット、ボトル、若しくはボックスを封止するために使用されてもよく、又はバッグの場合のように、包装構造の大部分を形成してもよく、又はボックスや青果物などの青果物の包装や青果物の容器の包装に使用されてもよい。
【0080】
包装構造は、例えば、必要に応じて直径又は長さが典型的には50~500μmである穴又はスリットで穿孔された包装フィルムを含んでもよい。このような穿孔は、レーザー穿孔によって形成されてもよい。使用する際、青果物が内部に配置されると、包装構造内のガス組成を制御するために、穿孔の程度を用いて、酸素含有量を低下させることができる。このような包装構造は、修正雰囲気包装(modified atmosphere packaging)として知られていることがある。非修正及び修正雰囲気包装構造の両方を、本明細書に記載の包装フィルムで使用することができる。
【0081】
ここで、本発明の理解を助けるために提供され、その範囲を限定することを意図しない以下の実施例を参照し、本発明を説明する。
【実施例
【0082】
ここで、本発明の理解を助けるために提供され、その範囲を限定することを意図しない以下の実施例を参照し、本発明を説明する。
【0083】
実施例1.1重量%パラジウムドープゼオライトの調製
1%PdドープH-チャバザイト(SAR=22):初期湿潤含浸によって試料を調製した。硝酸Pd(~8%)溶液を、ゼオライト上の金属の1重量%に相当する量で秤量した。次いで、硝酸Pd溶液を、ゼオライトの約60~70%孔充填まで水で希釈した。溶液を、H-チャバザイト粉末(Tosoh Corporationから入手)に、ピペットを使用して添加し、数滴添加毎に溶液を手動で撹拌し、スパチュラを使用して「湿潤塊」を粉砕し、試料を可能な限り均質に維持した。次いで、試料を105℃(2時間)で乾燥させた後、700℃の温度で10℃/分の昇温速度にて2時間焼成した。
【0084】
実施例2.異なる架橋剤対シロキサン比を有するシロキサン組成物の調製
シロキサン組成物の全般的な調製方法(ゼオライト、エラストマー及び架橋剤の量を表1に示す):
1重量%Pdチャバザイト(75μm未満の粒径を有する材料を得るためにふるいにかけた、実施例1で調製したもの)を、3000rpmで1分間スピードミキサーを用いて、ビニル末端ポリジメチルシロキサン(DMS-V21、粘度100mPa.s、重量%ビニル:0.8~1.2、Gelest Inc.)と混合した。架橋剤HMS-501(メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、粘度10~15mPa.s、44~55mol%MeHSiO、Gelest)を添加し、混合物をスパチュラで30秒間撹拌した後、2重量%白金触媒C1098(テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン中のPt(0)錯体、Johnson Matthey)(25mg)を添加した。
【0085】
【表1】
【0086】
硬化後のシロキサン組成物の硬度を、ショアデュロメータタイプAを用いて評価した。シリコーン組成物の試料を硬化させ、次いでデュロメータで試験する。硬化プロセスの完了後に硬度値が確実に測定されるように、2つの連続する試験で硬度の値が同じになるまで(例えば、2つの値が±1以内になるまで)、一定時間後に組成物の硬度を繰り返し試験することができる。
【0087】
実施例2では、各シロキサン組成物の試料(2A、2B、及び2C)を、オーブン内にて80℃で5分間硬化させた。次いで、ショアデュロメータタイプAを使用して、周囲温度で2日後に硬度を測定した。デュロメータを25及び75の値で較正した後、各試料を測定した。試料1つ当たり10回の測定後の平均値を報告する。
【0088】
硬化した組成物では、次のように硬度値を得た:実施例2A(10:1)44、実施例2B(20:1)12、実施例2C(40:1)2.8。
【0089】
組成物2A~2Cから形成されたシリコーンエラストマーでコーティングされたフィルムの調製
組成物を、フィルムアプリケータを用いてLDPEフィルム(厚さ40μm)上にコーティングして、60μmのコーティング厚さを得た。コーティングされたフィルムを、オーブン内にて80℃で5分間硬化させた。
【0090】
組成物2A~2Cから形成されたシリコーンエラストマーでコーティングされたフィルムの試験
コーティングされたフィルムの粘着性を、硬化後にフィルムに接触させることによって定性的に評価した。コーティングの接着性を、金属スパチュラでコーティングを引っ掻くことによって定性的に評価した。
【0091】
【表2】
【0092】
エチレン吸着
コーティングされたフィルムをエチレン吸着試験で評価した。
【0093】
全般的方法:コーティングされたフィルムを2Lのジャー内に配置し、その後、500ppmのエチレンで洗い流した。コーティングされたフィルム片のサイズを、0.2gのゼオライト材料を含むように選択した。ジャーを、95%の制御された湿度で5℃に維持した。ジャー内のガスの試料を規則的な間隔で採取し、ガスクロマトグラフィーによりエチレンについて分析した。
【0094】
結果:エチレン吸着試験の結果を図1に示す(対照として0.2gのPd-チャバザイト粉末を使用)。この試験により、試料の全てが、エチレンを吸着するかなりの容量を示すことが示唆された。実施例2A(エラストマー対架橋剤比10:1)は、最高のエチレン吸着を示し、エチレン濃度が5時間で対照粉末試料のエチレン濃度と一致した。
【0095】
実施例3.異なる架橋剤を有するシロキサン組成物の調製
一連の実施例のシロキサン組成物を、エラストマー:架橋剤の重量比10:1で実施例2の全般的方法を用いて作製した。各架橋剤は、以下のようにメチルヒドロシロキサンの程度が異なるジメチルシロキサン-メチルヒドロシロキサンコポリマーであった。
実施例3A-HMS-501(44~55mol%メチルヒドロシロキサン、MW900~1200g/mol、Gelest)
実施例3B-HMS-301(25~35mol%メチルヒドロシロキサン、MW1900~2000g/mol、Gelest)
実施例3C-HMS-151(15~18mol%メチルヒドロシロキサン、MW1900~2000g/mol、Gelest)
実施例3D-HMS-071(7~9mol%メチルヒドロシロキサン、MW1900~2000g/mol、Gelest)
実施例3Dは、標準的な硬化温度及び時間を用いて硬化しなかったため、更に評価されなかった。
【0096】
硬化後のシロキサン組成物の硬度を、実施例2に記載のように評価した。
【0097】
硬化インクでは、次のような硬度値を得た:実施例3A:52.2、実施例3B:57.3、実施例3C:4.2。
【0098】
組成物2A~2Cから形成されたシリコーンエラストマーでコーティングされたフィルムの調製及び試験
組成物をLDPEフィルム上にコーティングし、実施例2に記載のようにエチレン吸着について試験した。結果を図2に示す。この試験により、試料の全てが、エチレンを吸着するかなりの容量を示すことが示唆された。実施例3Aで調製された組成物(架橋剤中の44~55%のメチルヒドロシロキサン含有量)でコーティングされたフィルムは、最高のエチレン吸着を示し、エチレン濃度が6時間で対照粉末試料のエチレン濃度と一致した。
【0099】
実施例4.UV活性化シリコーンエラストマー組成物でコーティングされたポリマーフィルムの調製
ビニル末端ポリジメチルシロキサン(DMS-V21、粘度100cSt、重量%ビニル:0.8~1.2、Gelest Inc)(2mL)、及び架橋剤(HMS-501、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、粘度10~15mPa.s、44~55mol%MeHSiO、Gelest)(136μL)を、IKA Topolinoミニ磁気撹拌器を用いて、半分の速度で1分間混合した。Pt(acac)触媒(20uL、トルエン中0.0256M)を添加し、混合物を更に1分間撹拌した。1重量%パラジウムドープチャバザイト(0.4g)及び混合物を、更に5分間撹拌した。1.2gのシリコーンエラストマー組成物をLDPEポリマーフィルム上に添加し、Mayerバーを用いてフィルム表面上にコーティングして、30μmのコーティング厚さを得た。コーティングされたフィルムを、室温で自然光下にて5日間硬化させた。
【0100】
コーティングされたフィルムを、1重量%のパラジウムドープチャバザイト粉末の相当する量の試料と共に、実施例2に記載のようにエチレン吸着について試験した。結果を図3に示す。この実験は、UV活性化シリコーンエラストマー組成物でコーティングされたポリマーフィルムのエチレン除去速度が、粉末捕捉剤と同等であることを示した。
【0101】
実施例5.異なるUV活性化シリコーンエラストマー組成物でコーティングされたフィルムの調製及び試験
シロキサン組成物の全般的な調製方法(実施例5A~5F):ビニル末端ポリジメチルシロキサン(PDMS、表3に示す添加量)、架橋剤(メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、表3に示す添加量)、及び白金触媒(20μL、トルエン中のPt(acac)の0.0256M溶液)を、ミニIKA磁気撹拌器を使用して最大速度で1分間予混合した後、1重量%パラジウムドープチャバザイト(0.5g)を添加した。混合物を更に5分間撹拌した。
【0102】
シロキサン組成物の全般的な調製方法(実施例5G~5L):1gの1重量%Pdドープチャバザイトを添加したことを除いて、実施例5A~5Fと同様。
【0103】
【表3】
【0104】
表3に詳述されるシロキサン組成物5A~5Lを以下のように試験した。
【0105】
粘度
シロキサン組成物の粘度(硬化前)を、Discovery HR3レオメータ(TAの機器)を使用して測定した。直径40mmのステンレス鋼製の平行プレートを、Peltierプレートから300ミクロンの間隙距離で使用した。シリコーンインクを25℃で60秒間静止させて平衡化した。剪断速度は、300秒で0.01から100まで増加した。
【0106】
硬度
硬化後のシリコーンエラストマーの硬度を、実施例2に記載の方法を用いて評価した(硬化工程は、シロキサン組成物の試料を自然光下で5日間置くことで実施されたことを除いて)。試料1つ当たり5回の測定後の平均値を報告する。
【0107】
組成物5A~5Lから形成されたシリコーンエラストマーでコーティングされたフィルムの調製及び試験
シロキサン組成物の各々を、LDPE上にコーティングし、自然光下で5日間硬化させた。
【0108】
粘着性
フィルムを、以下の方法を用いて粘着性について試験した。
【0109】
各フィルムの粘着性を、RBT-100 Rolling Ball Tack Testerで測定した。コーティング側を上にした試験フィルムを、平らなベンチ上に水平に配置した。フィルムコーティングを、タック試験機上でリリースされるように、ベアリングボールの助走路に位置合わせする。1/8”直径を有するベアリングボールを、リリースピンの上側に配置した。ボールをリリースし、粘着性コーティング上で停止するまで転がした。ボールが最初にコーティングに接触した点から、ボールが停止する点までの距離を測定し記録した。10回の試験を使用して、平均を求めた。テープの新しいストリップを使用して各試験を開始し、それぞれを転がした後にボールを洗浄した。
【0110】
エチレン吸着
実施例2に記載の方法を用いてエチレンの取り込みについてフィルムを試験した。
【0111】
試験の結果を表4に示す。エチレン吸着試験の結果も図4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
このデータは、未硬化シロキサン組成物の粘度が、エラストマーと架橋剤とのモル質量、及びそれらの間の混合比に依存すること、並びに、スプレー及びグラビアコーティングに好適な粘度が、Pdドープゼオライトエチレン吸着剤の存在下で得ることができることを示す。
【0114】
データはまた、試験した組成物の全てが、エチレンを効果的に吸着できることも示す。MeHSiO値が25~35mol%である実施例5Dは、最高の吸着速度を示す。
【0115】
実施例6.コーティングされたフィルムの調製及びSEM分析
1%Pd/チャバザイト(20重量%)と、10:1重量比のビニル末端ポリジメチルシロキサン(DMS-V21)及び架橋剤(HMS-501)と、白金触媒(10ppm、C1098、メチルビニル環状シロキサン中の2%Pt、Johnson Mattheyから入手可能)とを混合することにより、シロキサン組成物を調製した。フィルムアプリケータを用いてLDPEフィルム上に組成物をコーティングし、次いで80℃で5分間硬化させた。
【0116】
コーティングされたフィルムを、走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した(図5A及び図5B)。これらの画像は、LDPEフィルム(B)上のコーティング(A)の形成を示す。コーティング厚さは、約80μmである。図5Bは、エチレン捕捉剤の粒子がコーティング中に封入され、コーティング表面から突出していないことを示す。
【0117】
実施例7.果物試験
シロキサン組成物を、実施例6に記載の方法に従って調製した。ポリアミドフィルムのパッチ上にグラビアコーティングを使用して組成物をコーティングし、次いで150℃まで加熱することによって硬化した。
【0118】
コーティングされたパッチを含むフィルムを、目標量の1%Pd-チャバザイト0.25gを有するバッグに作製した。ポリアミド制御バッグ(Xtend)を調製し、また、0.25gの1%Pdチャバザイト粉末を有する袋を収容するポリアミドバッグも調製した。
【0119】
各バッグに2つのナシを入れた(1つの処理群当たり4つのバッグ)。バッグを密封し、次いで0℃で保管し、ヘッドスペースガスの試料を採取して、ガスクロマトグラフィーで測定することにより、数日毎に内部のエチレン濃度を測定した。
【0120】
果物試験データの結果を図6に示す。このデータの示すところによれば、シリコーンパッチを有するバッグが、試験期間にわたって低濃度のエチレンを維持し、袋内の1%Pd/チャバザイト粉末に関して性能が改善されている。
【0121】
実施例8.比較データ
以下の材料を調製した。
【0122】
(a)1%Pd/チャバザイト粉末
実施例1に記載のとおり調製した。
【0123】
(b)水溶性結合剤中の1%Pd/チャバザイト粉末
O溶液中の5%ポリビニルアルコール(PVA)4gを、更に10gのHOで希釈した。この溶液に、6gの1%Pdチャバザイト粉末を添加した。インクをオーブン内で乾燥させ、得られた固体を微粉末に粉砕した。
【0124】
(c)エチルビニルアルコールフィルム中の1%Pd/チャバザイト粉末
1%Pd/チャバザイトを、2軸押出機を使用してEVAと配合して、マスターバッチを形成した。次いで、ブローフィルムラインを通してマスターバッチを押出成形して、Pdチャバザイトが中間層に組み込まれている3層構造を作製した。フィルムは、フィルムの総重量に基づいて、5重量%の目標量の1%Pd/チャバザイトを有した。
【0125】
(d)LDPEフィルムへのシリコーンエラストマーコーティング中の1%Pd/チャバザイト
実施例6に記載のとおり調製した。
【0126】
(a)~(d)のそれぞれの試料を選択して、目標量の1重量%のPdチャバザイト0.25gを提供した。上記実施例2に記載の方法に従って、エチレン吸着について各試料を試験した。この試験の結果を図7に示す。
【0127】
このデータの示すところによれば、試料(d)が粉末試料(a)よりも吸着速度が低下しているが、全体的な容量は類似しており、容量を失うことなくコーティングされたフィルムが作製されている。水溶性PVA結合剤(b)と、EVAフィルム(c)内に押し出されたPdチャバザイトとを用いて調製した試料の示すところによれば、試料(d)と比較して、エチレン吸着速度が低下し、容量が減少している。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7