(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】複合溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/348 20140101AFI20240612BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20240612BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20240612BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K9/23 F
B23K9/12 305
(21)【出願番号】P 2021006263
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0251927(US,A1)
【文献】国際公開第2021/005690(WO,A1)
【文献】特開2020-093292(JP,A)
【文献】特開2019-089099(JP,A)
【文献】特開2004-017059(JP,A)
【文献】特表2015-522426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/348
B23K 9/16
B23K 9/23
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給して消耗電極アーク溶接を行うアーク溶接装置と、前記消耗電極アーク溶接のアーク発生部にレーザを照射してレーザ溶接を行うレーザ溶接装置と、を備えた複合溶接装置において、
前記アーク溶接装置は、前記溶接ワイヤをアーク期間中は正送し短絡期間中は逆送し、
前記アーク期間及び前記短絡期間の全期間中は溶接電流を定電流制御によって通電する、
ことを特徴とする複合溶接装置。
【請求項2】
前記アーク溶接装置は、前記定電流制御によって前記アーク期間及び前記短絡期間に一定の溶接電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置。
【請求項3】
前記アーク溶接装置は、不活性ガスを含んだシールドガスを前記アーク発生部に流す、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合溶接装置。
【請求項4】
前記溶接ワイヤの材質が、アルミニウム又はその合金である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する複合溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する複合溶接装置が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の消耗電極アーク溶接としては、炭酸ガスアーク溶接、マグ溶接、ミグ溶接等が使用される。
【0004】
上記のレーザとしては、半導体レーザ、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ等が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
消耗電極アーク溶接のアーク発生部にレーザを照射して行う複合溶接方法では、レーザからの熱の影響によってアーク長の変動が発生しやすい。消耗電極アーク溶接は定電圧制御のアーク溶接装置を使用するために、アーク長が変動すると溶接電流が変動することになる。この結果、母材への入熱量が変動してビード外観及び溶け込み深さ等が変動し、溶接品質が悪くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、消耗電極アーク溶接とレーザ溶接とを併用して行う複合溶接方法において、レーザからの熱の影響によってアーク長が変動しても、ビード外観、溶け込み深さ等の変動を抑制して良好な溶接品質を得ることができる複合溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接ワイヤを送給して消耗電極アーク溶接を行うアーク溶接装置と、前記消耗電極アーク溶接のアーク発生部にレーザを照射してレーザ溶接を行うレーザ溶接装置と、を備えた複合溶接装置において、
前記アーク溶接装置は、前記溶接ワイヤをアーク期間中は正送し短絡期間中は逆送し、前記アーク期間及び前記短絡期間の全期間中は溶接電流を定電流制御によって通電する、
ことを特徴とする複合溶接装置である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記アーク溶接装置は、前記定電流制御によって前記アーク期間及び前記短絡期間に一定の溶接電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記アーク溶接装置は、不活性ガスを含んだシールドガスを前記アーク発生部に流す、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合溶接装置である。
【0011】
請求項4の発明は、
前記溶接ワイヤの材質が、アルミニウム又はその合金である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合溶接装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合溶接装置によれば、消耗電極アーク溶接とレーザ溶接とを併用して行う複合溶接方法において、レーザからの熱の影響によってアーク長が変動しても、ビード外観、溶け込み深さ等の変動を抑制して良好な溶接品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る複合溶接装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る複合溶接方法を示す
図1の複合溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る複合溶接装置の構成図である。複合溶接装置は、消耗電極アーク溶接を行うためのアーク溶接装置と、レーザ溶接を行うためのレーザ溶接装置と、を備えている。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0016】
アーク溶接装置は、溶接電源PS、送給機WF、溶接トーチWT、短絡判別回路SD、送給速度設定回路FR及び溶接電流設定回路IRを備えている。
【0017】
短絡判別回路SDは、溶接電源PSの出力端子間の電圧を入力として、この電圧値が短絡判別値(10V程度)未満のときは溶接ワイヤ1と母材2との間が短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0018】
送給速度設定回路FRは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは予め定めた正の値の正送送給速度Fwsの設定値となり、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)のときは予め定めた負の値の逆送送給速度Fwrの設定値となる送給速度設定信号Frを出力する。正送とは溶接ワイヤ1を母材2に近づく方向に送給することであり、逆送とは溶接ワイヤ1を母材2から離れる方向に送給することである。
【0019】
溶接電流設定回路IRは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは予め定めたアーク電流Iwaの設定値となり、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)のときは予め定めた短絡電流Iwsの設定値となる溶接電流設定信号Irを出力する。例えば、送給速度Fwの平均値が大きいときは、Iwa>Iwsとすることで短絡期間からアーク期間への移行を円滑にすることができる。送給速度Fwの平均値が小さいときは、Iwa<Iwsとすることでスパッタの発生量を少なくすることができる。また、Iwa=Iwsとすることによって、短絡期間及びアーク期間の時間長さが変動しても、溶接電流Iwの平均値を一定にすることができる。
【0020】
溶接電源PSは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、定電流制御によって上記の溶接電流設定信号Irによって設定された溶接電流Iwを通電する。
【0021】
送給機WFは、上記の送給速度設定信号Frによって定まる送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給する。したがって、溶接ワイヤ1は、アーク期間中は正送送給速度Fwsで正送され、短絡期間中は逆送送給速度Fwrで逆送される。
【0022】
溶接トーチWTは、装着された給電チップ(図示は省略)を介して溶接ワイヤ1に給電し、溶接ワイヤ1を母材2の被溶接部に送出する。溶接ワイヤ1と母材2との間にアーク3が発生する。給電チップと母材2との間に溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチWTのノズル(図示は省略)からはシールドガス5が噴出されて、アーク3を大気から遮蔽する。溶接ワイヤ1の材質は、鉄鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等である。シールドガス5としては、炭酸ガス、不活性ガス(アルゴンガス、ヘリウムガス等)、炭酸ガスと不活性ガスとの混合ガスである。
【0023】
レーザ溶接装置は、主に、レーザ発振器LS、光ファイバーLF及び加工ヘッドLHを備えている。
【0024】
レーザ発振器LSは、レーザ溶接を行うためのレーザ光4を出力する。
【0025】
光ファイバーLFは、レーザ光4を加工ヘッドLHに導く。
【0026】
加工ヘッドLHは、内蔵された種々の光学系(図示は省略)によって集光し、アーク3の発生部に照射する。同図では、アーク3よりも前方からレーザ光4を照射しているが、後方から照射する場合もある。アーク溶接の狙い位置とレーザの照射位置との距離は2~4mm程度である。
【0027】
図2は、本発明の実施の形態に係る複合溶接方法を示す
図1の複合溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はレーザ出力Lwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は送給速度Fwの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0028】
同図(A)に示すように、レーザ出力Lwは溶接中は常に出力されており、レーザ光4がアーク発生部に照射される。
【0029】
同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、
図1の溶接電流設定信号Irによって設定され、アーク期間中は予め定めたアーク電流Iwaとなり、短絡期間中は予め定めた短絡電流Iwsとなる。
【0030】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、短絡期間中は数Vの短絡電圧値となり、アーク期間中は数十Vのアーク電圧値となる。短絡期間とアーク期間は、20~200Hz程度で周期的に繰り返される。したがって、本実施の形態における消耗電極アーク溶接は、短絡移行アーク溶接となる。
【0031】
同図(D)に示すように、短絡判別信号Sdは、短絡期間中はHighレベルとなり、アーク期間中はLowレベルとなる。
【0032】
同図(E)に示すように、送給速度Fwは、
図1の送給速度設定信号Frによって設定され、アーク期間中は正の値の正送送給速度Fwsで正送され、短絡期間中は負の値の逆送送給速度Fwrで逆送される。
【0033】
上記の各パラメータの数値例を以下に示す。
レーザ出力Lw=2kW、溶接ワイヤ=アルミニウムワイヤφ1.2、溶接電流Iw=Iwa=Iws=100A、正送送給速度Fws=15m/min、逆送送給速度Fwr=-10m/min
【0034】
消耗電極アーク溶接では、溶接状態を安定化するためにアーク長が適正値になるようにアーク長制御をおこなっている。このアーク長制御は、アーク長が溶接電圧と比例関係にあることを利用して、溶接電圧が所望値になるように溶接電源を定電圧制御することによって行っている。しかし、消耗電極アーク溶接とレーザ溶接とを併用して行う複合溶接方法では、消耗電極アーク溶接を通常とおりに定電圧制御して行うと、レーザからの熱の影響によってアーク長が変動し、その結果溶接電流の平均値が変動することになり、溶接品質が悪くなるという問題が発生する。
【0035】
本実施の形態によれば、複合溶接方法において、アーク溶接装置は、溶接ワイヤをアーク期間中は正送し短絡期間中は逆送し、溶接電流を定電流制御によって通電する。消耗電極アーク溶接において、溶接電源を定電流制御して溶接電流を通電すると、アーク長が大きく変動して溶接状態が不安定になり、不良な溶接品質となる。しかし、消耗電極アーク溶接とレーザ溶接とを併用して行う複合溶接方法において、溶接ワイヤをアーク期間中は正送し短絡期間中は逆送し、溶接電流を定電流制御によって通電することによって、安定した溶接を行うことができ、良好な溶接品質を得ることができる。発明者は、レーザ照射と溶接ワイヤの正逆送給によって、定電流制御して溶接電流を通電しても消耗電極アーク溶接が安定化することを見いだした。このようにすると、レーザからの熱の影響によってアーク長が変動しても、正逆送給制御によって短絡期間とアーク期間との繰り返し周期が安定化する。このために、短絡電流及びアーク電流を異なる値に定電流制御しても、周期が安定化しているので、溶接電流の平均値を略一定値に維持することができる。この結果、母材への入熱量が略一定値となり、ビード外観、溶け込み深さ等の溶接品質が良好になる。
【0036】
さらに、本実施の形態によれば、アーク溶接装置は、定電流制御によってアーク期間及び短絡期間に一定の溶接電流を通電するようにすることが好ましい。このようにすると、短絡期間及びアーク期間の時間長さが変動しても、常に溶接電流の平均値を一定値に維持することができる。この結果、母材への入熱量が一定値となり、ビード外観、溶け込み深さ等の溶接品質がさらに良好になる。
【0037】
さらに、本実施の形態によれば、アーク溶接装置は、不活性ガスを含んだシールドガスをアーク発生部に流すことが好ましい。不活性ガスを含むシールドガスを使用して複合溶接方法を行うと、定電流制御によって溶接電流を通電したときの溶接状態がより安定になる。不活性ガスを含むシールドガスは、例えば、炭酸ガス20%+アルゴンガス80%の混合ガス、アルゴンガス100%等である。
【0038】
さらに、本実施の形態によれば、溶接ワイヤの材質が、アルミニウム又はその合金であることが好ましい。アルミニウム又はその合金の溶接ワイヤを使用して複合溶接方法を行うと、定電流制御によって溶接電流を通電したときの溶接状態が、鉄鋼ワイヤを使用したときよりも安定になる。
【符号の説明】
【0039】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 レーザ光
5 シールドガス
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Fwr 逆送送給速度
Fws 正送送給速度
IR 溶接電流設定回路
Ir 溶接電流設定信号
Iw 溶接電流
Iwa アーク電流
Iws 短絡電流
LF 光ファイバー
LH 加工ヘッド
LS レーザ発振器
PS 溶接電源
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
Vw 溶接電圧
WF 送給機
WT 溶接トーチ