(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】車輪装置
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20240612BHJP
B62B 5/00 20060101ALI20240612BHJP
B60B 19/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B60B33/00 X
B62B5/00 J
B60B19/00 D
(21)【出願番号】P 2021053736
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】村上 順也
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-123120(JP,A)
【文献】特表2018-532638(JP,A)
【文献】実開昭57-191669(JP,U)
【文献】登録実用新案第3141814(JP,U)
【文献】特開2011-152910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00 - 33/08
B62B 1/00 - 5/08
B60B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪装置であって、
前記車輪装置の取付対象に取り付けられる取付部及び該取付部に連なる軸部を有する取付部材と、
前記取付部材をその取付部において受ける受け部材であって前記取付部材の軸部が通された貫通孔を有し、前記軸部の周りに回転可能である受け部材と、
前記受け部材に前記軸部を通る中心線の周りに等角度をおいて取り付けられた、回転軸線を有する3以上の複数の車輪であって各車輪が前記中心線を軸線とする、前記車輪の数と同数の辺及び底面を有する正多角
錐の前記底面に接し、また、各車輪の回転軸線が前記正多角
錐の各
錐面又は各稜線に直交しかつ前記正多角
錐の軸線に向けて伸びる3以上の複数の車輪と、
前記軸部が通された貫通孔をそれぞれ有する、前記受け部材と共に回転可能である回転部材及び前記軸部に沿って移動可能である可動部材並びに前記回転部材に向けて前記可動部材にばね力を及ぼすばね部材とを備え、
前記回転部材及び可動部材は互いに相対する2面を有し、各面が前記軸部の周りに交互に配置され前記軸部に対して放射状に伸びる、前記車輪の数と同数の凸面部及び凹面部と互いに隣接する凸面部及び凹面部に連なる斜面部とからなり、前記2面の凸面部及び凹面部が互いに嵌合可能であり、
前記回転部材及び可動部材の2面の凸面部及び凹面部が互いに嵌合する整合状態にあるとき、前記複数の車輪のうちの任意の1つの車輪が路面上を転動可能の状態におかれる、車輪装置。
【請求項2】
前記取付部材は、前記受け部材に向けて先細に伸びる凸型の円錐台の円錐面と、前記円錐台の先端に位置する円形の底面とを有し、
前記受け部材は、前記軸部の通過を許す、前記貫通孔に連なる窪みを有し、前記窪みは前記凸型の円錐台と同形の凹型の円錐台の円錐面と、前記凹型の円錐台の先端に位置する円形の底面とを有し、
前記取付部材の円錐面と前記受け部材の円錐面とが互いに接し、また、前記取付部材の底面と前記受け部材の底面とが互いに接している、請求項1に記載の車輪装置。
【請求項3】
前記取付部材及び前記受け部材はそれぞれ互いに接する2つの平坦面を有する、請求項1に記載の車輪装置。
【請求項4】
前記2面を構成する前記凸面部又は凹面部はそれぞれ仮想の平坦面上にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の車輪装置。
【請求項5】
前記2面を構成する前記凸面部又は凹面部は、それぞれ、仮想の凸型の円錐面上及び仮想の凹型の円錐面上にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の車輪装置。
【請求項6】
前記取付対象は台車からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の車輪装置。
【請求項7】
前記取付対象は車いすからなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の車輪装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車、車いす等を取付対象とする車輪装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手押しハンドルを有する台車の前部、後部及び前後部間の中間部にそれぞれ三対の車輪装置が取り付けられたものが提案されている。この提案においては、中間部の一対の車輪装置の車輪が、それぞれ、一対の揺動装置を介して、台車の手押しハンドルと共に後部の一対の車輪装置の車輪の回転軸線と平行な軸線の周りに揺動可能とされている。
【0003】
これによれば、手押しハンドルを揺動させることにより、中間部の一対の車輪が揺動され、路面に対して非接地状態から接地状態におかれ、前部又は後部の各対の車輪の段差の乗り越えを支援する働きをなす。しかし、揺動装置は構造的に比較的複雑な機構を有し、また、揺動装置の取り付けのための台車の大幅な改変を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、台車、車いす等を取付の対象とする、段差のような障害の乗り越えを可能とする新たな車輪装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車輪装置は、台車や車いすのような取付対象に取り付けられる取付部材であって取付部及び該取付部に連なる軸部を有する取付部材と、前記取付部材をその取付部において受ける受け部材であって前記軸部が通された貫通孔を有し、前記軸部の周りに回転可能である受け部材と、前記受け部材に前記軸部を通る中心線の周りに等角度をおいて取り付けられた、回転軸線を有する3以上の複数の車輪と、前記軸部が通された貫通孔をそれぞれ有する、前記受け部材と共に回転可能である回転部材及び前記軸部に沿って移動可能である可動部材並びに前記回転部材に向けて前記可動部材にばね力を及ぼすばね部材とを備える。
【0007】
ここに、各車輪は、前記軸部を通る中心線を軸線とする、前記車輪の数と同数の辺及び底面を有する正多角錐の前記底面に接し、各車輪の回転軸線が前記正多角錐の各錐面又は各稜線に直交しかつ前記正多角錐の軸線に向けて伸びている。また、前記回転部材及び可動部材は互いに相対する2面を有し、各面が前記軸部の周りに交互に配置され前記軸部に対して放射状に伸びる、前記車輪の数と同数の凸面部及び凹面部と互いに隣接する凸面部及び凹面部に連なる斜面部とからなり、また前記2面の凸面部及び凹面部は互いに嵌合可能である。前記回転部材及び可動部材の2面の凸面部及び凹面部が互いに嵌合する整合状態にあるとき、前記複数の車輪のうちの任意の1つの車輪が路面上を転動可能の状態におかれる。
【0008】
本発明において、「車輪」とは、その概念上、一輪からなるもの及び二重輪を含む多重輪からなるものの双方をいう。したがって、本発明における「車輪の数」に関して、前記一輪からなる車輪の数及び前記多重輪からなる車輪の数は、いずれも、「1」である。
【0009】
前記車輪装置は、例えば台車の前部及び後部に1対ずつ取り付けられる。前記台車が路面上に置かれるとき、前記回転部材と前記ばね部材のばね力を受ける可動部材とは、これらの2面の凸面部及び凹面部が互いに嵌まり合う整合状態におかれる。このとき、前記車輪装置の複数の車輪のうちの任意の1つの車輪(以下、1つの車輪という。)が路面に接地し、その回転軸線の周りに転動可能の状態におかれ、前記台車は路面上を走行可能の状態におかれる。前記台車の重量及び前記台車に積載される荷物の荷重(積載荷重)は、前記取付部材及び前記受け部材を介して前記1つの車輪に伝達される。
【0010】
前記台車は各車輪装置の前記1つの車輪を介して路面上での直線走行が可能である。前記台車の走行中、その進行方向の前方に進行の障害となる例えば上方に突出する一条の段差があるとき、これに突き当たる前輪である両車輪装置の前記1つの車輪は比較的大きい抵抗を受け、これに起因して、前記受け部材はこれを前記取付部材の軸部の周りに回転させようとする比較的大きい回転外力を受ける。これに伴って、前記受け部材が前記軸部の周りに回転を始め、また、前記受け部材と共に前記回転部材が回転を始める。これらの回転に伴って前記回転部材及び前記可動部材がこれらの2面の凸面部及び凹面部が互いに嵌合する整合状態から、これらの2面の凸面部及び凹面部が互いに嵌合しない非整合状態を経て次の整合状態へと移行する。すなわち、前記回転部材の回転に伴って、前記回転部材の凸面部が、これと嵌まり合う前記可動部材の凹面部から該凹面部に連なる斜面部上を摺動し、前記斜面部に連なる凸面部上に至る。この間、前記可動部材は前記ばね部材のばね力に抗して前記回転部材から離れる方向へと前記軸部に沿って直線的に変位する。次いで、前記回転部材の凸面部は、前記可動部材の凸面部を乗り越えて該凸面部に連なる他の斜面部上を摺動し、前記他の斜面部に連なる他の凹面部内に至り該他の凹面部と嵌まり合う状態すなわち次の整合状態に至る。この間、前記ばね部材のばね力を受けた状態にある前記可動部材は、前記回転部材に向けて前記軸部に沿って直線的に変位する。前記可動部材は、したがって、前記整合状態から次の整合状態への移行の間、前記軸部に沿っての往復運動をする。
【0011】
前記整合状態から次の整合状態への移行の間、前記受け部材は前記回転部材と共に、所定の角度(360度/回転部材及び可動部材の各面上の凹部若しくは凸部の数)を前記軸部の周りに回転し、前記受け部材に取り付けられた各車輪は、所定の角度(360度/車輪の数)を前記軸部の周りに回転する。ここに、前記所定の角度(360度/各面上の凸部若しくは凹部の数)は、前記所定の角度(360度/車輪の数)に等しい。
【0012】
前記軸部の周りの前記受け部材の回転の間、前記車輪装置における前記1つの車輪に隣接する他の車輪が前記段差を跨いで路面上に着地し、あるいは前記段差上に着地し、次いで前記段差上を転動した後に路面上に着地し、これにより前記段差の乗り越えが行われる。前記台車の後輪における段差の乗り越えも、また、前記前輪におけると同様になされる。その結果、前記1の車輪に代わってこれに隣接する前記他の車輪が新たな1つの車輪として路面上を転動可能の状態におかれる。
【0013】
前記取付部材は、前記受け部材に向けて先細に伸びる凸型の円錐台の円錐面と、前記凸型の円錐台の先端面である円形の底面とを有し、また、前記受け部材はその貫通孔に連なる窪みであって前記軸部の通過を許す窪みを有するものとすることができる。ここに、前記窪みは前記凸型の円錐台と同形の凹型の円錐台の円錐面と、前記凹型の円錐台の先端面である円形の底面とを有し、前記取付部材の円錐面と前記受け部材の円錐面とが互いに接し、また、前記取付部材の底面と前記受け部材の底面とが互いに接する。これによれば、前記受け部材が前記軸部の周りに回転するとき、前記受け部材の円錐面及び底面が前記取付部材の円錐面上及び底面上を摺動する。あるいは、前記取付部材及び前記受け部材が互いに接する2つの平坦面を有するものとすることができる。これによれば、前記受け部材が前記軸部の周りに回転するとき、前記受け部材の平坦面が前記取付部材の平坦面上を摺動する。
【0014】
前記2面を構成する前記凸面部又は凹面部はそれぞれ仮想の2つの平坦面上、又は、仮想の凸型の円錐面上及び仮想の凹型の円錐面上にあるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】台車とこれに取り付けられた車輪装置とを示す斜視図である。
【
図5】(a)は2面が整合状態にある回転部材及び可動部材の側面図である。(b)は不整合状態にある回転部材及び可動部材の側面図である。
【
図6】回転部材及び可動部材の2面が整合状態にあるときの車輪装置及び該車輪装置が取り付けられた台車の荷台の一部をその前方から見た正面図である。
【
図7】(a)及び(b)は、それぞれ、車輪装置が取り付けられた台車の荷台の前部の側面図である。ここで、(a)は車輪装置の1つの車輪が路面上を転動し、これにより台車が走行をしている状態を示す。また、(b)は車輪装置の1つの車輪が段差に衝突した状態を示す。
【
図8】(a)及び(b)は、それぞれ、車輪装置が取り付けられた台車の荷台の前部の側面図である。ここで、(a)は車輪装置の1つの車輪が段差乗り越えの途上にある状態を示す。また、(b)は車輪装置の1つの車輪が段差乗り越えを完了した状態を示す。
【
図9】台車に取り付けられた車輪装置の回転部材及び可動部材における複数の凸面部及び凹面部の一部の断面を直線に沿って表した概念図である。ここで、(a)は車輪装置の1つの車輪が路面上を転動しているときに前記凸面部及び凹面部が互いに嵌合した状態を示す。(b)、(c)及び(d)は、車輪装置の1つの車輪が段差に衝突した後に段差を乗り越える途上にあるときの前記凸面部及び凹面部間の相互係合状態の推移を示す。また、(e)は車輪装置の1つの車輪が段差を乗り越えた後に前記凸面部及び凹面部が互いに嵌合した状態を示す。
【
図10】
図9(a)に示すと同様の概念図であって、他の例に係る複数の凸面部及び凹面部の一部の断面形状を示す。
【
図11】
図9(a)に示すと同様の概念図であって、さらに他の例に係る複数の凸面部及び凹面部の一部の断面形状を示す。
【
図12】
図9(a)に示すと同様の概念図であって、さらに他の例に係る複数の凸面部及び凹面部の一部の断面形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照すると、本発明に係る車輪装置が符号10で示されている。図上、2対の車輪装置10が、その取付対象の一例である台車12に該台車の1対の前輪及び1対の後輪として取り付けられている。より詳細には、台車12の板状の荷台14の下面に取り付けられている。台車12は、その後端部に設けられた手押しハンドル16の手押し操作により、2対の車輪装置10を介して、路面R上を走行する。車輪装置10は、例えば車いすを取付対象として、前記車いすの前輪として用いることができる。
【0017】
車輪装置10は、台車12に取り付けられる取付部材18と、取付部材18をその一部をなす後記取付部28で受ける受け部材20と、受け部材20に取り付けられた、回転軸線lを有する3以上の複数(図示の例において4つ)の車輪22と、回転部材24及び可動部材26並びに回転部材24に向けて可動部材26にばね力を及ぼすばね部材27(
図2参照)とを備える。
【0018】
図2を参照すると、図示の取付部材18は取付部28と、該取付部に連なり図上を下方へ伸びる軸部30とを有する。
【0019】
取付部28は、図上、上方に位置する上部分32及び該上部分の下方に位置する下部分34を有する。上部分32は図上を上方に向けて山形に突出し、α=90°の角度で交差する2つの平坦面32a、32bを有する。取付部材18はその取付部28の平坦面32aが荷台14の下面に接した状態で台車12に固定され、これにより台車12に取り付けられる。
【0020】
取付部28の下部分34は、図上、上部分32から下方に向けてすなわち受け部材20に向けて先細に伸びる凸型の円錐台を規定する円錐面34aと、該円錐面の先端に位置する円形の底面34bとを有する。軸部30は取付部28の下部分34の底面34bから伸びている。図示の軸部30はその先端部分に向けて伸びるスプライン部分30aと、その先端部分に設けられた周溝30bとを有する。
【0021】
受け部材20は取付部材18の軸部30が通された3つの貫通孔36(36a、36b、36c)を有し、軸部30の周りに回転可能である。図示の受け部材20は受け部38と、フォーク部40とを備える。受け部38は全体に円柱状を呈し、取付部材18に対向する一方の平坦面38aと、フォーク部40に対向する他方の平坦面38bとを有する。受け部38はその他方の平坦面38bにおいてフォーク部40上に固定されている。
【0022】
受け部38は軸部30の通過を許す窪み42を有し、窪み42は受け部38の一方の平坦面38aに開放している。窪み42は、フォーク部40に向けて先細に伸びる、前記凸型の円錐台と同形の凹型の円錐台を規定する円錐面42aと、該円錐面の先端に位置する円形の底面42bとを有する。図示の例において、軸部30が通された貫通孔36aは受け部38に設けられ、窪み42の底面42b及び他方の平坦面38bに開放している。また、貫通孔36b、36cは、それぞれ、フォーク部40の後記中央部分40aを形成する一対の板体44に設けられている。
【0023】
取付部28の下部分34は受け部38の窪み42に受け入れられ、下部分34の円錐面34aと窪み42の円錐面42aとが互いに接し、また、下部分34の底面34bと窪み42の底面42bとが互いに接している。受け部材20が軸部30の周りに回転するとき、受け部38の円錐面42a及び底面42bが、それぞれ、取付部28の円錐面34a上及び底面34b上を摺動する。取付部28の下部分34及び受け部20については、これらが、それぞれ、凸型の円錐台を規定する円錐面及び底面を有しまた凹型の円錐台を規定する円錐面及び底面とを有するものとする図示の例に代えて、互いに接する2つの平坦面(図示せず)を有するものとすることができる。
【0024】
図示のフォーク部40は、受け部38が固定された中央部分40aと、中央部分40aの周縁から図上を下方へ折れ曲がって伸びる4つの折曲部分40bとを有する。中央部分40aは、図上において上下に間隔をおいて配置され互いに相対する一対の板体44と、両板体44間に配置されかつ両板体44を相互に接続する複数の帯板状のリブ46とからなる。図示の例において、中央部分40aに対する各折曲部分40bの折れ曲がり角度βが135度に設定されている。各車輪22は各折曲部分40bにおいて両板体44間に配置され、その回転軸線lを規定する車軸48が両板体44及び各車輪22を貫通している。
【0025】
4つの車輪22は、
図3及び
図4に示すように、軸部30を通る中心線、より正確には軸部30の軸線上を伸びる中心線Lの周りに等角度をおいて配置されている。各車輪22は図示の一輪からなるもの、あるいは、二重輪を含む多重輪(図示せず)からなるものとすることができる。ここに、車輪22の数は、車輪22が前記一輪からなるものであるか前記多重輪からなるものであるかを問わず、これを1とする。
【0026】
各車輪22は、軸部30を通る中心線Lを軸線P1とする正多角錐の一つである正四角錐Pの底面P2に接している。正四角錐Pの底面P2は、車輪22の回転軸線lの数と同数(4つ)の辺P3を有する。各車輪22の回転軸線lは、正四角錐Pの各錐面P4に直交している。図示の例に代えて、各回転軸線lは、正四角錐Pの各稜線P5に直交しかつ軸線P1に向けて伸びるものとすることができる。
【0027】
車輪22の数は、これらをそれぞれ4とする図示の例に代えて、他の例として3又は5以上とすることができる。車輪22の数が3であるとき、前記正多角錐は車輪22の数と同じ数である3つの辺(P3)により規定された底面(P2)を有する正三角錐であり、また、車輪22の数が5以上であるとき、前記正多角錐は5以上の辺(P3)により規定された底面(P2)を有する正多角錐である。
【0028】
次に、再び
図2を参照して、回転部材24、可動部材26及びばね部材27について説明する。
【0029】
図示の回転部材24及び可動部材26はそれぞれ円板からなり、軸部30が通される貫通孔50、52を有する。これらの貫通孔50、52は両円板の中心に設けられ、これらの軸線が中心線L上を伸びている。回転部材24は受け部材20に固定されている。より詳細には、回転部材24は一対の板体44間に配置され、図上において上方に位置する一方の板体44に固定されている。これにより、回転部材24が受け部材20と共に軸部30の周りに回転可能とされている。
【0030】
また、可動部材26の貫通孔52はスプライン孔からなり、貫通孔52とこれに通された軸部30のスプライン部分30aとはスプライン嵌め合いをなす。これにより、可動部材26は軸部30の周りの回転を阻止された状態での軸部30に沿っての移動が可能とされている。
【0031】
回転部材24及び可動部材26はそれぞれ互いに相対する2面54、56を有する。
【0032】
前記2つの面のうちの1面である回転部材24の面54は、軸部30の周りに交互に配置された複数の凸面部54a及び複数の凹面部54bと、各凸面部54a及び各凹面部54bに連なる斜面部54cとからなる。同様に、もうひとつの1面である可動部材26の面56も、また、軸部30の周りに交互に配置された複数の凸面部56a及び複数の凹面部56bと、各凸面部56a及び各凹面部56bに連なる斜面部56cとからなる。一方の面54の凸面部54a、凹面部54b及び斜面部54cと、他方の面56の凸面部56a、凹面部56b及び斜面部56cとは、いずれも、軸部30に対して放射状に伸びている。ここで、回転部材24の凸面部54aの数及び凹面部54bの数、可動部材26の凸面部56aの数及び凹面部56bの数は、いずれも、車輪22の数(図示の例において4)と同じであり、また、斜面部54cの数及び斜面部56cの数は、いずれも、車輪22の数の2倍(図示の例において8)である。
【0033】
図5(a)に示すように、回転部材24の面54の凸面部54aと、可動部材26の面56の凹面部56bとは互いに嵌合可能である。すなわち、一方の面54の凸面部54aと他方の面56の凹面部56bとが互いに嵌合するとき、同時に、一方の面54の凹面部54bと他方の面56の凸面部56aとが互いに嵌合する。図示の例においては、2面54、56の前記凸面部及び前記凹面部が互いに嵌合した状態、すなわち回転部材24及び可動部材26の2面54、56が整合状態にあるとき、一方の面54の斜面部54cと他方の面56の斜面部56cとは互いに当接する。
【0034】
図示の例において、一方の面54及び他方の面56の前記凸面部、凹面部及び斜面部は、前記円板の中心を取り巻く円周に沿って得た断面で見て、振幅、波長及び周期を同一にする正弦曲線に沿って伸びている。
【0035】
ばね部材27は、図示の例においては、軸部30を取り巻くコイルばねからなる。ばね部材27は、軸部30を取り巻くワッシャ58と、軸部30の先端部の周溝30bに嵌め込まれたCリング60との間に配置されている。ばね部材27は、ワッシャ58及びCリング60間において圧縮された状態(被圧縮状態)におかれ、これにより、可動部材26が回転部材24に押し付けられている。
【0036】
2面54、56が前記整合状態にあるとき、
図6に示すように、4つの車輪22のうちの任意の1つの車輪(以下、1つの車輪という。)22(便宜的にこれに符号22aを付す。また、残りの他の3つの車輪に符号22b、22c、22dを付す。)が路面Rに接し、路面R上を転動可能の状態におかれる。このとき、車輪22aを支持するフォーク部40の折曲部分40bが直立する。他の車輪22b、22c、22dは、軸部30の周りの受け部材20の回転に伴って新たな前記整合状態が生じたとき、順次、前記1つの車輪となる。
【0037】
台車12は各車輪装置10の1つの車輪22aを介して路面R上での走行が可能である。
図7(a)を参照すると、台車12が路面R上を走行するとき、各車輪装置10における1つの車輪22aが路面Rから台車12の進行方向と逆向きに生じる比較的小さい抵抗(路面抵抗)を受ける。このとき、1つの車輪22aを支持する受け部材20が前記路面抵抗に起因する回転外力、すなわち受け部材20を軸部30の周りに回転させようとする外力を受ける。また、このとき、回転部材24及び可動部材26の2面54、56は前記整合状態にあり、回転部材24及び可動部材26はばね部材27のばね力の付与下にある(
図5(a)参照)。このため、回転部材24は、可動部材26により、軸部30の周りの回転を阻害される。これにより、回転部材24が固定された受け部材20は回転することなく、1つの車輪22aを介しての台車12の走行可能の状態が維持される。前記整合状態下における凸面部54a、56a、凹面部54b、56b及び斜面部54c、56cを
図9(a)に模式的に示す。
図9(a)に記載の矢印62は、前記回転外力を受けたときの受け部材20の回転方向を示す。
【0038】
次に、
図7(b)を参照すると、台車12の走行中、その進行方向の前方に進行の障害となる例えば上方に突出する一条の段差Sがあるとき、これに突き当たる各車輪装置10の1つの車輪22aは比較的大きい路面抵抗を受ける。このとき、受け部材20は比較的大きい回転外力を受け、受け部材20と共に回転部材24が軸部30の周りの回転を始める。この回転に伴って回転部材24及び可動部材26がこれらの2面54、56の凸面部54a、56a及び凹面部54b、56bが互いに嵌合する整合状態から、これらの2面の前記凸面部及び凹面部が互いに嵌合しない非整合状態を経て次の新たな整合状態へと移行する。すなわち、受け部材20の回転に伴って、回転部材24の凸面部54aが、これと嵌まり合う可動部材26の凹面部56bから該凹面部に連なる斜面部56c上を摺動し(
図9(b))、斜面部56cに連なる凸面部56a上に至る(
図9(c))(
図5(b)参照)。この間に、車輪22aに隣接する他の車輪22bが軸部30の周りに回転移動し、段差Sを跨いで、段差Sの前方位置において路面Rに接する(
図8(a))。また、この間に、可動部材26はばね部材27のばね力に抗して回転部材24から離れる方向へと軸部30に沿って直線的に変位する。
【0039】
引き続く受け部材20及び回転部材24の回転に伴い、回転部材24の凸面部54aは、可動部材26の凸面部56aを乗り越えて該凸面部に連なる他の斜面部56c上を摺動し(
図9(d))、この他の斜面部54cに連なる他の凹面部56b内に至り該他の凹面部と嵌まり合う状態すなわち次の新たな整合状態に至る(
図9(e))。この間、車輪22aは段差Sの後方における上方位置へと回転移動し、他の車輪22bが段差Sの前方位置において路面R上に着地し(
図8(b))、あるいは段差S上に着地し、該段差上を転動した後に路面R上に着地する(図示せず)ことにより、段差Sを乗り越える。このとき、車輪22bは路面R上を転動可能の状態におかれ、前記1の車輪としての機能を担う。この間、ばね部材27のばね力を受けた状態にある可動部材26は、回転部材25に向けて軸部30に沿って直線的に変位する。可動部材26は、したがって、前記整合状態から次の整合状態への移行の間、軸部30に沿っての往復運動をする。また、さらなる他の段差に遭遇したときは、当該段差を乗り越えた他の車輪22c、22dが順次に前記1つの車輪として機能する。台車12の後輪をなす車輪装置10による段差の乗り越えも、台車12の前輪におけると同様になされる。
【0040】
なお、
図7及び
図8に示すように、路面Rと台車12の荷台14との間の間隔は、回転部材24及び可動部材26の2面54、56が前記整合状態にあるときはh1である。また、2面54、56が前記非整合状態にあるときはh2(h1>h2)である。
【0041】
段差Sの乗り越えの間、受け部材20及び回転部材24は、(360度)/(各面54、56上の前記凹部の数又は前記凸部の数)に相当する角度(回転角度)(図示の例において90度)を回転軸線Lの周りに回転する。また、同時に、1つの車輪22aが、残りの他の車輪22b~22dとともに、(360度)/(車輪の数)に相当する角度(図示の例において90度)を回転軸線Lの周りに回転する。ここに、(360度)/(面54、56上の前記凹部の数又は前記凸部の数)は、(360度)/(車輪の数)に等しい。
【0042】
回転部材24の凸面部54a及び凹面部54bの前記断面形状、並びに、可動部材26の凸面部56a及び凹面部56bの前記断面形状のそれぞれについては、
図9に示す例に代えて、
図10に示すように、形状において合同の関係にある8つの二等辺三角形からなり、平坦面からなる斜面部54c、56cを有するものとすることができる。前記8つの二等辺三角形は直列に連なりかつ交互に山及び谷を規定する。あるいは、また、
図11に示すように、前記二等辺三角形の山の頂部及び谷の底部をそれぞれ切除してなる8つの等脚台形からなるものとすることできる。同様に、前記正弦曲線の山の頂部及び谷の底部を切除してなるもの(図示せず)とすることができる。また、
図12に示すように、凸面部54a及び凹面部54bの前記断面形状、並びに、凸面部56a及び凹面部56bの前記横断面形状のそれぞれの他の例として、直列に連なる同一形状の8つの曲線部分からなるものとすることができる。ここで、凸面部54a及び凹面部54bの前記断面形状について代表的に説明すると、各曲線部分が規定する1つの凸面部54aと該凸面部の両隣に位置する2つの凹面部54bとにそれぞれ連なる2つの斜面54cが異なる長さと異なる傾斜角とを有し、前記1つの凸面部54aに関して非対称である。他方、前記した例(前記正弦曲線、連続する二等辺三角形、連続する等脚台形)では、1つの凸面部に関して該凸面部に連なる2つの斜面部が対称である。
【0043】
前記した例においては、2面54、56を構成する前記凸面部(又は凹面部)がそれぞれ2つの平坦面からなる2つの仮想の面64、66(
図9~
図12)上にある。この例に代えて、例えば、2面54、56を構成する前記凸面部(又は凹面部)がそれぞれ凸型の円錐面及び凹型の円錐面からなる2つの仮想の面(図示せず)上にあるものとすることができる。
【符号の説明】
【0044】
10 車輪装置
12 台車(取付対象)
18 取付部材
20 受け部材
22 車輪
24、26、27 回転部材、可動部材及びばね部材
28 取付部
30 時空部
54 回転部材の面
56 可動部材の面
54a、54b、54c 回転部材の面を構成する凸面部、凹面部及び斜面部
56a、56b、56c 可動部材の面を構成する凸面部、凹面部及び斜面部
L 中心線
l 車輪の回転軸線