(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】電子内視鏡用プロセッサ及び電子内視鏡システム
(51)【国際特許分類】
A61B 1/045 20060101AFI20240612BHJP
G02B 23/24 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
A61B1/045 618
G02B23/24 B
(21)【出願番号】P 2021060673
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴雄
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087895(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0078625(US,A1)
【文献】特開2016-184888(JP,A)
【文献】特開2014-164661(JP,A)
【文献】特開2014-138691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - 1/32
G02B 23/24 -23/26
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織の撮像画像を取得して強調処理を施す電子内視鏡用プロセッサであって、
生体組織の撮像画像の画素の情報から前記撮像画像中の強調処理対象領域を検出するように構成された領域検出部と、
前記領域検出部で検出された強調処理対象領域に対して強調処理を行うように構成された強調処理部と、
を備え、
前記領域検出部は、撮像画像中の注目画素と当該注目画素を取り囲む画素との信号レベルの差分に基づいて前記強調処理対象領域を検出し、
前記強調処理部は、前記信号レベルの差分が大きいほど強調が弱められ、かつ輝度が高いほど強調が強められるように、前記強調処理対象領域に対する強調処理を行う、
電子内視鏡用プロセッサ。
【請求項2】
前記強調処理は、前記信号レベルの差分に対する第1の係数と、前記輝度の高さに対する第2の係数と、に基づいて、前記強調処理対象領域に含まれる画素の画素値を補正する処理である、
請求項1に記載された電子内視鏡用プロセッサ。
【請求項3】
前記第1の係数及び/又は前記第2の係数は、前記強調処理対象領域に含まれる画素のRGB成分の各々に対して個別に設定されている、
請求項2に記載された電子内視鏡用プロセッサ。
【請求項4】
前記第1の係数と前記第2の係数とを設定又は変更するための入力部をさらに備えた、
請求項2又は3に記載された電子内視鏡用プロセッサ。
【請求項5】
前記強調処理は、前記強調処理対象領域に含まれる画素のR成分及び/又はG成分の値が大きいほど強調が強められるようにして行われる、
請求項1から4のいずれか一項に記載された電子内視鏡用プロセッサ。
【請求項6】
前記領域検出部は、注目画素を中心とした領域を囲むフレームによって囲まれた領域のうち、複数の画素配列方向のうちいずれかの方向において、前記注目画素から最も遠い両側の位置にある2つの最遠画素の信号レベル値に比べて、前記注目画素の信号レベル値が小さい場合、前記注目画素を強調処理対象領域の候補として抽出する候補抽出処理を、前記フレームのサイズを変更して繰り返し、前記サイズの変更によって前記候補として抽出した画素に基づいて前記強調処理対象領域を定めるように構成されている、
請求項1から5のいずれか一項に記載された電子内視鏡用プロセッサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電子内視鏡用プロセッサと、
前記電子内視鏡用プロセッサに接続され、前記生体組織を撮像する撮像素子を備えた電子内視鏡と、を備える電子内視鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の撮像画像を取得して強調処理を施す電子内視鏡用プロセッサ及び電子内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人体内部の生体組織の観察や治療に電子内視鏡装置が使用されている。電子内視鏡装置を用いて生体組織を撮像して得られる撮像画像から生体組織の表面凹凸を観察できるように凹部を際出たせる表面凹凸の強調処理を撮像画像に施してディスプレイに表示することが行われる。生体組織の病変部は、健常部に比べて表面の凹凸が多く存在するため、表面凹凸の強調処理された撮像画像の表示は、病変部を見つける上で有用である。
【0003】
生体組織の表面の凹部を確実に強調表示でき、その結果、僅かな病変部も見落とすことなく確実な診断ができる電子内視鏡装置が知られている(特許文献1)。
この電子内視鏡装置は、スコープの先端に設けた固体撮像素子から読み出される1フレーム分の色画素信号に基づいてビデオカラー信号を生成する。電子内視鏡装置は、1フレーム分の色画素信号に含まれる特定画素に対応する色画素信号の信号レベル値を、所定の画素配列方向において特定画素の周囲に近接する全ての近接周囲画素に対応する色画素信号の信号レベル値と比較する比較手段と、比較手段による比較結果に応じて特定画素に対応する色画素信号の信号レベル値を変更処理することによりビデオカラー信号のカラーバランスを変更させるカラーバランス変更手段と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記電子内視鏡装置は、所定の画素配列方向において特定画素の周囲に近接する全ての近接周囲画素に対応する色画素信号の信号レベル値と比較することで、粘膜のある生体組織の表面凹凸の凹部を抽出し、さらに、この抽出した凹部の画素の特定の色成分の信号レベル値を低減することにより、凹部に相当する部分の色味が変化した画像を表面凹凸が強調された画像として作成する。
【0006】
上記電子内視鏡装置では、凹部の部分を抽出するときに特定の画素配列方向において特定画素の周囲に近接する全ての近接周囲画素に対応する色画素信号の信号レベル値と比較するため、凹部の抽出は、画素信号の信号レベル差に依存する。すなわち、凹部が深いほど凹部とその周囲の領域との信号レベルが大きくなるため、凹部が深ければ深いほど強調がより強くなされるように構成される。しかし、この強調処理方法では、血管やハイライト部分のように、凹部ではないが近傍との信号レベル差が大きい箇所に対しても大きな強調が行われてしまい、凹部を際立たせることができない場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、生体組織の撮像画像を取得して強調処理を施す際、従来に比べて凹部の強調処理を効果的に行うことができる電子内視鏡用プロセッサ及び電子内視鏡システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、生体組織の撮像画像を取得して強調処理を施す電子内視鏡用プロセッサである。当該プロセッサは、
生体組織の撮像画像の画素の情報から前記撮像画像中の強調処理対象領域を検出するように構成された領域検出部と、
前記領域検出部で検出された強調処理対象領域に対して強調処理を行うように構成された強調処理部と、
を備える。
前記領域検出部は、撮像画像中の注目画素と当該注目画素を取り囲む画素との信号レベルの差分に基づいて前記強調処理対象領域を検出し、
前記強調処理部は、前記信号レベルの差分が大きいほど強調が弱められ、かつ輝度が高いほど強調が強められるように、前記強調処理対象領域に対する強調処理を行う。
【0009】
前記強調処理は、前記信号レベルの差分に対する第1の係数と、前記輝度の高さに対する第2の係数と、に基づいて、前記強調処理対象領域に含まれる画素の画素値を補正する処理であってもよい。
【0010】
前記第1の係数及び/又は前記第2の係数は、前記強調処理対象領域に含まれる画素のRGB成分の各々に対して個別に設定されていてもよい。
【0011】
前記第1の係数と前記第2の係数とを設定又は変更するための入力部をさらに備えてもよい。
【0012】
前記強調処理は、前記強調処理対象領域に含まれる画素のR成分及び/又はG成分の値が大きいほど強調が強められるようにして行われてもよい。
【0013】
前記領域検出部は、注目画素を中心とした領域を囲むフレームによって囲まれた領域のうち、複数の画素配列方向のうちいずれかの方向において、前記注目画素から最も遠い両側の位置にある2つの最遠画素の信号レベル値に比べて、前記注目画素の信号レベル値が小さい場合、前記注目画素を強調処理対象領域の候補として抽出する候補抽出処理を、前記フレームのサイズを変更して繰り返し、前記サイズの変更によって前記候補として抽出した画素に基づいて前記強調処理対象領域を定めるように構成されていてもよい。
【0014】
本発明の他の一態様は、前記電子内視鏡用プロセッサと、前記電子内視鏡用プロセッサに接続され、前記生体組織を撮像する撮像素子を備えた電子内視鏡と、を備える電子内視鏡システムである。
【発明の効果】
【0015】
上述の電子内視鏡用プロセッサ及び内視鏡システムによれば、従来に比べて凹部の強調処理を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態の電子内視鏡システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す演算部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す内視鏡による生体組織の撮像の例を説明する図である。
【
図4】(a)~(c)は、本実施形態の演算部が行う処理の例を説明する図である。
【
図5】電子内視鏡システムが行う一実施形態の領域検出処理のフローの一例を示す図である。
【
図6】一実施形態の強調処理の原理を表したブロック線図である。
【
図7】強調処理を行う前後の患部の画像を例示する図である。
【
図8】電子内視鏡システムが行う一実施形態の強調処理のフローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の電子内視鏡システムのプロセッサは、このシステムで生体組織を撮像して得られる撮像画像の強調処理をすべき強調処理対象領域として、例えば生体組織の凹部の領域を検出する。凹部の領域は、種々のサイズのものを含む。強調処理対象領域は、撮像画像中の注目画素と当該注目画素を取り囲む画素との信号レベルの差分に基づいて検出されるが、当該差分が大きいほど強く強調処理を行うと、血管やハイライト部分のように、凹部ではないが近傍との信号レベル差が大きい箇所に対しても大きな強調が行われてしまう。そこで、一実施形態のプロセッサは、上記信号レベル差が大きいほど強調が弱められ、かつ輝度が高いほど強調が強められるように、強調処理対象領域に対する強調処理を行うように構成される。それによって、撮像画像において粘膜の凹凸を強調し、色素散布の場合と同様に病変部をより効果的に際立たせることができる。
【0018】
以下、本実施形態の電子内視鏡システムについて図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の電子内視鏡システム1の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示されるように、電子内視鏡システム1は、医療用に特化されたシステムであり、電子スコープ(内視鏡)100、プロセッサ200及びモニタ300を備えている。
【0019】
プロセッサ200は、システムコントローラ21及びタイミングコントローラ22を備えている。システムコントローラ21は、メモリ23に記憶された各種プログラムを実行し、電子内視鏡システム1全体を統合的に制御する。また、システムコントローラ21は、操作パネル24に接続されている。システムコントローラ21は、操作パネル24に入力される術者からの指示に応じて、電子内視鏡システム1の各動作及び各動作のためのパラメータを変更する。タイミングコントローラ22は、各部の動作のタイミングを調整するクロックパルスを電子内視鏡システム1内の各回路に出力する。
【0020】
プロセッサ200は、光源装置201を備えている。光源装置201は、体腔内の生体組織等の被写体を照明するための照明光Lを出射する。照明光Lは、白色光、擬似白色光、あるいは特殊光を含む。一実施形態によれば、光源装置201は、白色光あるいは擬似白色光を照明光Lとして常時射出するモードと、白色光あるいは擬似白色光と、特殊光が交互に照明光Lとして射出するモードの一方を選択し、選択したモードに基づいて、白色光、擬似白色光、あるいは特殊光を射出することが好ましい。白色光は、可視光帯域においてフラットな分光強度分布を有する光であり、擬似白色光は、分光強度分布はフラットではなく、複数の波長帯域の光が混色された光である。特殊光は、可視光帯域の中の青色あるいは緑色等の狭い波長帯域の光である。青色あるいは緑色の波長帯域の光は、生体組織中の特定の部分を強調して観察する時に用いられる。光源装置201から出射した照明光Lは、集光レンズ25によりLCB(Light Carrying Bundle)11の入射端面に集光されてLCB11内に入射される。
【0021】
LCB11内に入射された照明光Lは、LCB11内を伝播する。LCB11内を伝播した照明光Lは、電子スコープ100の先端に配置されたLCB11の射出端面から射出され、配光レンズ12を介して被写体に照射される。配光レンズ12からの照明光Lによって照明された被写体からの戻り光は、対物レンズ13を介して固体撮像素子14の受光面上で光学像を結ぶ。
【0022】
固体撮像素子14は、ベイヤ型画素配置を有する単板式カラーCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサである。固体撮像素子14は、受光面上の各画素で結像した光学像を光量に応じた電荷として蓄積して、R(Red)、G(Green)、B(Blue)の画像信号を生成して出力する。なお、固体撮像素子14は、CCDイメージセンサに限らず、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサやその他の種類の撮像装置に置き換えられてもよい。固体撮像素子14はまた、補色系フィルタを搭載したものであってもよい。
【0023】
電子スコープ100の接続部内には、ドライバ信号処理回路15が備えられている。ドライバ信号処理回路15には、固体撮像素子14から被写体の画像信号が所定のフレーム周期で入力される。フレーム周期は、例えば、1/30秒である。ドライバ信号処理回路15は、固体撮像素子14から入力される画像信号に対して所定の処理を施してプロセッサ200の前段信号処理回路26に出力する。
【0024】
ドライバ信号処理回路15は、また、メモリ16にアクセスして電子スコープ100の固有情報を読み出す。メモリ16に記録される電子スコープ100の固有情報には、例えば、固体撮像素子14の画素数や感度、動作可能なフレームレート、型番等が含まれる。ドライバ信号処理回路15は、メモリ16から読み出された固有情報をシステムコントローラ21に出力する。この固有情報には、例えば、固体撮像素子14の画素数や解像度等の素子特有の情報、さらには、光学系に関する画角、焦点距離、被写界深度等の情報も含まれてもよい。
【0025】
システムコントローラ21は、電子スコープ100の固有情報に基づいて各種演算を行い、制御信号を生成する。システムコントローラ21は、生成された制御信号を用いて、プロセッサ200に接続されている電子スコープ100に適した処理がなされるようにプロセッサ200内の各種回路の動作やタイミングを制御する。
【0026】
タイミングコントローラ22は、システムコントローラ21によるタイミング制御に従って、ドライバ信号処理回路15にクロックパルスを供給する。ドライバ信号処理回路15は、タイミングコントローラ22から供給されるクロックパルスに従って、固体撮像素子14をプロセッサ200側で処理される映像のフレームレートに同期したタイミングで駆動制御する。
【0027】
前段信号処理回路26は、ドライバ信号処理回路15から1フレーム周期で入力される画像信号に対してデモザイク処理、マトリックス演算、Y/C分離等の所定の信号処理を施して、画像メモリ27に出力する。
【0028】
画像メモリ27は、前段信号処理回路26から入力される画像信号をバッファし、タイミングコントローラ22によるタイミング制御に従い、後段信号処理回路28に出力する。
【0029】
後段信号処理回路28は、画像メモリ27から入力される画像信号を処理してモニタ表示用の画面データを生成し、生成されたモニタ表示用の画面データを所定のビデオフォーマット信号に変換する。変換されたビデオフォーマット信号は、モニタ300に出力される。これにより、被写体の画像がモニタ300の表示画面に表示される。
【0030】
システムコントローラ21には、演算部29が接続されている。演算部29は、生体組織を撮像して記憶されている画像メモリ27からシステムコントローラ21を経由して呼び出された撮像画像の強調処理対象領域として例えば生体組織の凹部の領域を抽出し、この強調処理対象領域に強調処理を行う部分である。
図2は、演算部29の構成の一例を示すブロック図である。演算部29は、領域検出部30と、強調処理部31とを備える。
【0031】
領域検出部30は、生体組織の撮像画像の画素の情報から強調処理を行う強調処理対象領域を検出するように構成されている。領域検出部30は、領域検出処理として、以下に説明する注目画素を中心とした領域を囲むフレームを用いて強調処理対象領域の候補を抽出する候補抽出処理を、フレームのサイズの変更を繰り返して行い、候補として抽出した画素に基づいて強調処理対象領域を定める。ここで候補抽出処理は、注目画素を中心画素にしたフレームによって囲まれた領域のうち、複数の画素配列方向のうちいずれかの方向において、注目画素から最も遠い両側の位置にある2つの最遠画素の信号レベル値に比べて、注目画素の信号レベル値が小さい場合、注目画素を強調処理対象領域の候補として抽出する処理である。したがって、あるサイズのフレームで候補となる画素が抽出できなくても、別のサイズのフレームで候補となる画素を抽出する場合もある。詳細の説明は後述する。
【0032】
強調処理部31は、領域検出部30で検出された強調処理対象領域に対して強調処理を行うように構成されている。強調処理対象領域に対する強調処理は、信号レベルの差分が大きいほど強調が弱められ、かつ輝度が高いほど強調が強められるようにして行われる。より具体的には、強調処理は、信号レベルの差分に対する第1の係数と、輝度成分に対する第2の係数と、に基づいて、強調処理対象領域に含まれる各画素の画素値を補正する処理を含む。
例えば、強調処理部31は、RGBのカラー撮像画像において強調処理対象領域に含まれるRGBの各色成分の注目画素iについて、強調処理前の画素値をIi、強調処理後の画素値をIi’とした場合、以下の式(1)により強調処理を行う。
Ii’=Ii・(αi-βi・D+γi・Y) …式(1)
【0033】
式(1)において、Dは、注目画素iの画素値Iiとその周囲の周囲画素の画素値の平均値との差分値であり、凹部における凹み深さに対応した深さ情報を意味する。Yは、注目画素iにおける輝度情報である。
αi,βi(第1の係数の一例),γi(第2の係数の一例)は、それぞれ強調係数であり、正の値である。αiはベースとなる強調係数であり、βi、γiはそれぞれ、深さ情報D及び輝度情報Yに対する強調係数である。αi,βi,γiは、予め設定された値あるいは操作パネル24から入力設定された値である。αi,βi,γiは、それぞれ画素位置に関わらず一定の値でもよいし、所定の条件に応じて変化する値であってもよい。また、αi,βi,γiは、色成分毎に異なってもよい。
ここで、注目画素iの周囲の周囲画素は、上述した強調処理対象領域を定めるときに注目画素iの信号レベル値と比較した2つの最遠画素、あるいは、注目画素iを上下方向、左右方向、右上-左下方向、及び左上-右下方向で囲む8つの隣接画素、あるいは、フレーム内の上下方向、左右方向、右上-左下方向、及び左上-右下方向において注目画素iに対して最も遠い8つの最遠画素であってもよい。
【0034】
式(1)の右辺の括弧内に示すように、注目画素iに対する強調処理は、深さ情報Dの値が大きいほど強調が抑制され、輝度情報Yの値が大きいほど強調されるようにして行われる。深さ情報Dの値が大きいほど強調が抑制されるため、凹部ではない血管やハイライト部分が強調されてしまうことを防止できる。しかし、深さ情報Dの値が大きいほど強調を抑制しただけでは、高輝度部分に存在する凹部への強調も弱まってしまう。そこで、γiにより輝度情報Yの値が大きいほど強調を強めることで、血管やハイライト部分を強調させることなく凹部へ強調を行うことができる。
【0035】
図3は、電子スコープ(内視鏡)100による生体組織Aの撮像の例を説明する図である。生体組織Aには電子スコープ100から見て奥行き方向に窪んだ凹部Bが存在する。この凹部Bを含む生体組織Aを電子スコープ100が撮像する。
ここで、電子スコープ100による生体組織Aまでの撮影距離によって、得られる撮像画像において凹部Bに対応する領域(凹部領域)の大きさは変化する。
つまり、凹部領域の幅が1画素のサイズの場合もあれば、凹部領域の幅が1画素のサイズを超える場合もある。このように撮影距離に応じて大きさが変化する凹部領域を考慮して、領域検出部30は、領域検出処理を行う際に用いる注目画素を中心画素として、注目画素の周りの領域を囲むフレームを、複数サイズ備える。
【0036】
なお、演算部29は、システムコントローラ21がメモリ23に記憶されたプログラムを起動してモジュールとして形成するソフトウェアモジュールであってもよく、また、FPGA(Field-Programmable gate Array)で構成されたハードウェアモジュールであってもよい。
【0037】
図4(a)~(c)は、演算部29の領域検出部30が行う処理の例を説明する図である。
図4(a)~(c)には、一例として、3×3画素のフレーム33、5×5画素のフレーム55、及び7×7画素のフレーム77が示されている。フレーム33,55,77は、フレームの中心の画素が、撮像画像内の注目画素に一致するように配置される。
図4(b),(c)の画素内に示されている数値は、画素の信号レベル値の例である。注目画素における信号レベル値は111である。
【0038】
領域検出部30は、例えば、撮像画像の注目画素Pfを中心とした領域を囲むフレーム33によって囲まれた領域のうち、上下方向、左右方向、右上-左下方向、及び左上-右下方向のうちのいずれかの方向において、注目画素Pfから最も遠い両側の位置にある2つの最遠画素の信号レベル値に比べて、注目画素Pfの信号レベル値が小さい場合、注目画素Pfを強調処理対象領域の候補として抽出する。一般的に、凹部には、撮像時、照明光Lが十分に行き届かず、また、照明光Lの戻り光が固体撮像素子14の受光面に十分に到達しないので、撮像画像では、暗い領域として現れる。このため、注目画素の信号レベル値がいずれの最遠画素の信号レベル値より低いか否かを調べることにより、凹部に対応する領域の候補を抽出ことができる。
【0039】
フレーム33において凹部に対応する領域の候補を抽出できない場合、フレーム33に代えてフレーム55を用いて、上記処理と同様の処理を行う。この場合、
図4(b)に示す例では、注目画素Pfから最も遠い、上下方向の両側の位置にある2つの最遠画素は、画素Pu,Pdである。フレーム55においても凹部に対応する領域の候補を抽出できない場合、さらに、フレーム55に代えてフレーム77を用いて、上記処理と同様の処理を行う。
図4(b)に示す例では、凹部に対応する領域の候補を抽出できない。
図4(c)に示す例では、左右方向、右上-左下方向、及び左上-右下方向において、凹部に対応する領域の候補を抽出することができる。
なお、注目画像が撮像画像の上下左右のいずれかの端に位置する場合やその近傍に位置する場合、フレーム内の最遠画素が存在しない場合もある。この場合、上下方向、左右方向、右上-左下方向、及び左上-右下方向のいずれかの方向における候補の抽出のための処理は行われない。
【0040】
領域検出部30は、フレームのサイズの変更によって候補として抽出した画素に基づいて強調処理対象領域を定める。例えば、同じ画素について、左右方向、右上-左下方向、及び左上-右下方向の画素配列方向において候補として設定される回数が、予め設定された閾値回数以上である画素を強調処理対象領域として定める。上記閾値回数が1回の場合、候補として抽出した画素はすべて強調処理対象領域として設定される。上記閾値回数が2回以上の場合、候補として抽出した画素の中から、設定回数が閾値回数以上である画素が強調処理対象領域として設定される。
図4(a)~(c)に示す,フレーム33,55,77を用いた例では、
図4(c)に示すように、左右方向、右上-左下方向、及び左上-右下方向において、注目画素Pf(信号レベル値111)から最も遠い両側の位置にある2つの最遠画素の信号レベル値(信号レベル値115,125、信号レベル値120,113、及び信号レベル値117、118)に比べて、注目画素Pfの信号レベル値111は小さいので、注目画素Pfは候補として抽出される回数は3回となる。このため、
図4(c)に示す例では、注目画素Pfは、強調処理対象領域として設定される。
【0041】
図5は、領域検出部30が行う、一実施形態の領域検出処理のフローの一例を示す図である。
領域検出部30は、電子スコープ100で撮像されて画像メモリ27に記憶された現フレームの撮像画像を、システムコントローラ21を介して呼び出して、撮像画像を取得する(ステップS100)。
次に、領域検出部30は、注目画素を定め、この画素の信号レベル値を取得する(ステップS102)。注目画素の信号レベル値をI0とする。
次に、領域検出部30は、変数jを1に設定して、(2・j+1)×(2・j+1)画素のフレームを選択する(ステップS104)。
【0042】
領域検出部30は、設定したフレームの中心画素が注目画素に一致するように選択したフレームを撮像画像上に配置し、注目画素に対する画素配列方向を左上-右下方向に設定する(ステップS106)。領域検出部30は、注目画素から、設定した画素配列方向において、フレーム内の両側に位置する2つの最遠画素の信号レベル値を取得する(ステップS108)。このとき、2つの最遠画素の信号レベル値をI1,I2とする。
領域検出部30は、I1-I0及びI2-I1を計算し、それぞれの差分結果をS0,S2とする(ステップS110)。
【0043】
次に、領域検出部30は、S0+S2の絶対値を計算した結果が、予め定めた閾値TH2未満であるか否かを判定する(ステップS112)。ここで、S0+S2の絶対値は、2つの最遠画素の信号レベル値の差の絶対値であるので、2つの最遠画素の信号レベル値の差の絶対値が閾値TH2未満であるか否かを判定することを意味する。この判定で否定(No)されると、領域検出部30は、注目画素は、設定した画素配列方向において強調処理対象領域の候補ではないと判定して、後述するステップS118に処理を進める。一方、上記判定で肯定(Yes)されると、領域検出部30は、-S0及びS2が閾値TH1より大きいか否かを判定する(ステップS114)。この判定で否定(No)されると、領域検出部30は、注目画素は、定められた画素配列方向において、強調処理対象領域の候補ではないと判定して、後述するステップS118に処理を進める。一方、ステップS114の判定で肯定(Yes)されると、領域検出部30は、設定された画素配列方向において、注目画素は強調処理対象領域の候補(凹部に対応する領域の候補)であるとして、注目画素に対応して画素配列方向毎に設定された画素情報記録領域に凹部フラグを付与する(ステップS116)。
【0044】
次に、領域検出部30は、画素配列方向の全てに対してステップS108~S118を実行したか否かを判定する(ステップS118)。この判定において否定(No)された場合、領域検出部30は、ステップS108~S118の処理を行う画素配列方向を、まだ設定されていない画素配列方向の1つに設定する(ステップS120)。こうして、ステップS118の判定において肯定(Yes)になるまで、画素配列方向を変更してステップS108~118の処理を繰り返す。ステップS118の判定で肯定(Yes)された場合、領域検出部30は、現在の注目画素において凹部フラグが付与された回数が、設定された閾値回数TH3を超えるか否かを判定する(ステップS122)。この判定で肯定された場合、領域検出部30は、注目画素を強調処理対象領域(凹部に対応する領域)として設定する(ステップS124)。この後、注目画素を変更するために、後述するステップS130に処理を進める。閾値回数TH3は、1回であってもよいが、凹部に対応する領域の抽出精度を高めるためには、2回以上であることが好ましい。
【0045】
ステップS122の判定で否定(No)された場合、設定した変数jが7未満であるか、すなわち、15×15画素のフレームより小さい、(2・j+1)×(2・j+1)画素のフレームをすべて選択したか否かを判定する(ステップS126)。この判定で肯定(Yes)された場合、領域検出部30は、変数jを1増やして(ステップS128)、すなわち、フレームサイズを大きくして、ステップS106に処理を戻す。こうして、領域検出部30は、ステップS126の判定において肯定(Yes)されるまで、フレームサイズを徐々に大きくしてステップS106~S124を繰り返す。
【0046】
領域検出部30は、ステップS126における判定で否定(No)された場合、あるいはステップS124で注目画素を強調処理対象領域(凹部に対応する領域)として設定した場合、撮像画像の全画素を注目画素として上記処理の計算を終了したか否かを判定する(ステップS130)。この判定で否定(No)された場合、領域検出部130は、注目画素を隣の画素に移動して隣の画素を注目画素として設定する(ステップS132)。ステップS130の判定で肯定(Yes)された場合、領域検出部130は、領域検出処理を終了する。このように、撮像画像の全画素について領域検出処理を行うまで、ステップS102~S132の処理を繰り返す。
【0047】
このように、領域検出部30は、撮像画像の注目画素を中心とした領域を囲むフレームによって囲まれた領域のうち、複数の画素配列方向のうちいずれかの方向の2つの最遠画素の信号レベル値に比べて、注目画素の信号レベル値が小さい場合、注目画素を強調処理対象領域の候補として抽出する候補抽出処理を、フレームのサイズを変更して繰り返し、サイズの変更によって候補として抽出した候補の画素に基づいて強調処理対象領域を定めるように構成されている。ここで、候補抽出処理は、
図5に示すフローの例では、ステップS108~S120の処理である。このため、撮像画像内の大小様々な凹部について凹部の抽出精度を向上することができる。また、撮像画像の解像度(各画素の一辺の長さが対応する被写体上の距離)が異なっても撮像画像内の凹部を確実に抽出することができる。これにより、従来に比べて多くの凹部の強調処理を行うことができる。
【0048】
図5に示すフローでは、フレームサイズを、3×3画素の最小のフレームから、13×13画素のフレームサイズまでの計6種類のフレームを用いたが、用いるフレームサイズ及びフレーム数は特に限定されない。
【0049】
次に、強調処理部31について説明する。
強調処理部31は、領域検出部30による処理によって凹部に対応する領域として設定された強調処理対象領域の各画素を対象として、強調処理を行う。
図6に、一実施形態の強調処理の原理を表したブロック線図を示す。
図6は、生体組織の撮像画像について、上記式(1)の右辺の各項に相当する処理を行った後の変化を示している。
図6に示す撮像画像の例では、中央に凹部があり、周囲に血管やハイライト部が含まれる。
強調処理後の画像では、強調処理前の画像に対して中央の凹部を強調しつつ、周囲の血管等の強調を抑制できていることがわかる。
【0050】
図7は、(a)従来の強調処理によって得られる画像と、(b)上記式(1)に従って行われる実施形態の強調処理と、を比較する形で例示している。なお、従来の強調処理とは、上記深さ情報Dが大きいほど強調を強めるようにして強調処理が行われる場合を示している。
図7(a)と
図7(b)の比較から、従来の強調処理では、血管が不自然に強調されているのに対して、
図7(b)では、血管やハイライト部分に対する強調が弱められ、凹部が認識しやすくなっていることがわかる。言い換えれば、
図7(b)に示す本実施形態の強調処理では、色素散布した状況を疑似的に再現できていることがわかる。
【0051】
図8は、強調処理部31が行う、一実施形態の強調処理のフローの一例を示す図である。
図8を参照すると、強調処理部31は先ず、電子スコープ100で撮像されて画像メモリ27に記憶された現フレームの撮像画像を、システムコントローラ21を介して呼び出して、撮像画像を取得する(ステップS200)。
次いで強調処理部31は、ステップS200において取得した撮像画像から、領域検出部30によって設定された強調処理対象領域(凹部に対応する領域)内の全画素を対象として、各画素の深さ情報(D)と輝度情報(Y)を取得する(ステップS202)。強調処理部31は、強調処理対象領域(凹部に対応する領域)内の各画素を順に注目画素として定め、強調処理対象領域内の全画素に対する計算が終了するまで、順にステップS204の処理を実行する(ステップS206,S208)。
ステップS204では、強調処理部31は、注目画素iの画素値Iiに対して上記式(1)(つまり、Ii’=Ii・(αi-βi・D+γi・Y))の演算を行い、強調処理後の画素値Ii’を算出する。強調処理対象領域内のすべての画素に対して、ステップS204の処理が終了すると強調処理を終了する(ステップS206:YES)。
【0052】
以上説明したように、一実施形態の電子内視鏡システムのプロセッサ200によれば、撮像画像の強調処理をすべき強調処理対象領域(凹部に対応する領域)を検出した後、強調処理対象領域の各画素に対して強調処理を行うが、その際、信号レベルの差分が大きいほど強調が弱められ、かつ輝度が高いほど強調が強められるようにして強調処理を行う。そのため、撮像画像において、血管やハイライト部分のように凹部ではないが近傍との信号レベル差が大きい箇所に対して大きな強調を行うことなく、粘膜の凹部を強調することで、病変部をより効果的に目立たせることができる。
【0053】
前述したように、強調処理を行うときの式(1)において、強調係数αi,βi,γiは、強調処理対象領域に含まれる画素のRGB成分の各々に対して個別に設定されていてもよい。各色成分に対して個別に設定可能に構成することで、凹部のカラーバランスを変動させ、病変部に色素散布した状況を疑似的に再現させることができる。
また、一実施形態の電子内視鏡システムのプロセッサ200は、強調係数αi,βi,γiを設定又は変更するための入力部をさらに備えてもよい。例えば、プロセッサが操作パネル24を通した、強調係数αi,βi,γiの設定変更の入力を受け付けるための入力インタフェースを備えてもよい。それによって、患者の病変部の観察者が、当該病変部を観察しやすい画像に実時間で設定することが可能となる。
【0054】
上記式(1)では、輝度が高いほど強調が強められるようにして強調処理を行うために輝度情報(Y)に対して強調係数γiを乗算する場合について示したが、その限りではない。高輝度の部分であるほど強調が強められればよいので、式(1)において輝度情報(Y)に代えて、R成分及び/又はG成分の値としてもよい。すなわち、各注目画素の画素値に対して、R成分及び/又はG成分の値が大きいほど強調処理後の画素値が大きくなるようにして、強調処理を行ってもよい。
【0055】
以上、本発明の電子内視鏡用プロセッサ及び電子内視鏡システムについて詳細に説明したが、本発明の電子内視鏡用プロセッサ及び電子内視鏡システムは上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0056】
1 電子内視鏡システム
11 LCB
12 配光レンズ
13 対物レンズ
14 固体撮像素子
15 ドライバ信号処理回路
16 メモリ
21 システムコントローラ
22 タイミングコントローラ
24 操作パネル
25 集光レンズ
26 前段信号処理回路
27 画像メモリ
28 後段信号処理回路
29 演算部
30 領域検出部
31 強調処理部
100 電子スコープ
200 プロセッサ
300 モニタ