(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】容器内の液体の動きを触覚としてユーザに伝達する携帯機器、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20240612BHJP
G16Y 10/65 20200101ALI20240612BHJP
【FI】
G06F3/01 560
G16Y10/65
(21)【出願番号】P 2021070818
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田島 優輝
【審査官】清藤 弘晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098231(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051606(WO,A1)
【文献】特表2011-528537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが把持する手に接触し、容器と一体的に又は側面に構成された携帯機器であって、
容器内の液体量を模した質量mを記憶するメモリと、
容器の水平成分の加速度Aを検知する加速度センサと、
質量m及び加速度Aを用いて、当該質量mが容器底面に作用する水平力である触覚力Fを算出するプロセッサと、
触覚力Fを電気信号Soutに変換する駆動手段と、
電気信号に応じた振動力を発生させて、ユーザの手に触覚を伝達するアクチュエータと
を有することを特徴とする携帯機器。
【請求項2】
プロセッサは、容器が、円筒状側面及び球面状底面を有するグラス形状を有し、球面状底面に対する曲率中心が円筒中心の鉛直線上にある、と模して触覚力Fを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の携帯機器。
【請求項3】
プロセッサは、質量m(kg)と、加速度A(m/s
2)と、当該加速度Aから所定運動方程式によって得られる質点Mの内部流体加速度a(m/s
2)と、当該内部流体加速度aから単位時間で積分した質点Mの速度v(m/s)と、当該速度vから単位時間で積分した質点Mの距離x(m)とを用いて、触覚力F(N)を算出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の携帯機器。
【請求項4】
メモリは、質量比バネ係数k(N/m・kg)及びダンパ係数c(N/(m/s))を更に記憶し、
プロセッサは、バネ-ダンパ振動系モデルをシミュレーションするべく、以下の所定運動方程式によって触覚力Fを算出する
k・m・x+c・v+m(a-A)=0
F=k・m・x+c・v
ことを特徴とする請求項3に記載の携帯機器。
【請求項5】
駆動手段は、触覚力F(N)を、以下のように変換した電気信号Sout(V)を、アクチュエータへ出力する
Sout=G・|F|・Sw
G(1/N):力比利得(Gain per force)係数
Sw(V) :ホワイトノイズ
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の携帯機器。
【請求項6】
駆動手段は、距離xが、容器の円筒中心から内壁までの距離Rに達した際に、電気信号Simpact_inに、運動量m・vに応じた利得を乗算した電気信号Simpact_outを出力する
Simpact_out=Gimpact・m・||v||・Simpact_in
Gimpact(s/N) :運動量比利得(Gain per momentum)係数
Simpact_in(V):衝突時入力信号
ことを特徴とする請求項5に記載の携帯機器。
【請求項7】
アクチュエータは、振動を発生するボイスコイル、スピーカ又はピエゾ素子である
ことを特徴とする請求項6に記載の携帯機器。
【請求項8】
他の携帯機器とネットワークを介して通信可能な通信インタフェースを更に有し、
メモリは、通信インタフェースによって他の携帯機器から受信した質量mを設定する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の携帯機器。
【請求項9】
ユーザが把持する手に接触し、容器と一体的に又は側面に構成された携帯機器
について、容器内の液体量を模した質量mを記憶するメモリを有する当該携帯機器に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
コンピュータに、
加速度センサによって、容器の水平成分の加速度Aを検知する第1のステップと、
質量m及び加速度Aを用いて、当該質量mが容器底面に作用する水平力である触覚力Fを算出する第2のステップと、
触覚力Fを電気信号Soutに変換する第3のステップと、
アクチュエータによって、電気信号に応じた振動力を発生させて、ユーザの手に触覚を伝達する第4のステップと
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
ユーザが把持する手に接触し、容器と一体的に又は側面に構成された携帯機器
について、容器内の液体量を模した質量mを記憶するメモリと、プロセッサとを有する当該携帯機器の触覚発生方法であって、
プロセッサに、
加速度センサによって、容器の水平成分の加速度Aを検知する第1のステップと、
質量m及び加速度Aを用いて、当該質量mが容器底面に作用する水平力である触覚力Fを算出する第2のステップと、
触覚力Fを電気信号Soutに変換する第3のステップと、
アクチュエータによって、電気信号に応じた振動力を発生させて、ユーザの手に触覚を伝達する第4のステップと
を実行
させることを特徴とする触覚発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疑似的な触覚(Haptics)をユーザに伝達するデバイスの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樽内に封入された流体の動きをシミュレーションする樽型デバイスの技術がある(例えば非特許文献1参照)。この技術によれば、樽内に3自由度の直線移動機構を備え、一定量の重りの位置を3自由度で移動できるようにしたものである。
樽型デバイスには、トラッキングマーカがアタッチされており、樽型デバイスの位置や傾きがトラッキングされる。ゲームエンジン内の樽容器オブジェクトに、トラッキングの検出値が適用され、樽型デバイスの動きがゲームエンジン内で再現される。そして、シミュレートした流体の重心位置に応じて、樽型デバイスの重りの位置を更新される。これによって、樽内の流体の動きがもたらす触覚刺激が、ユーザに提示される。
【0003】
また、仮想物体の重力や慣性力を、ユーザに触覚的に表現する技術もある(例えば非特許文献2参照)。この技術によれば、複数のモータによってベルトを巻き上げ、指腹にせん断変形や圧迫変形を提示する機構を備える。容器内における物体の動きをシミュレーションし、それによって生じる重力や慣性力を推定することによってベルトの巻き上げ量を制御し、ユーザに触覚を提示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shahabedin Sagheb, etc、「A Shifting-Weight Interface of Simulated Hydrodynamics for Haptic Perception of Virtual Fluid Vessels」、UIST '19: Proceedings of the 32nd Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology, October 2019 Pages 751-761、[online]、[令和3年4月1日検索]、インターネット<URL:https://dl.acm.org/doi/10.1145/3332165.3347870>
【文献】南澤孝太ら、「バーチャルな物体の質量および内部ダイナミクスを提示する装着型触力覚ディスプレイ」、日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X) vol.13, no.1, pp.15-23, 2008、[online]、[令和3年4月1日検索]、インターネット<URL:https://ci.nii.ac.jp/naid/110008729079>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1及び2によれば、容器内の物体の動きについて物理シミュレーションを演算する。このような物理シミュレーションをリアルタイムに実行するためには、演算処理能力が高いプロセッサを要する。しかしながら、演算処理能力が高いプロセッサを、IoT(Internet Of Things)デバイスのような低廉なハードウェアに搭載することは難しい。
【0006】
そこで、本発明によれば、演算処理能力が高いプロセッサを用いることなく、容器内の液体の動きをシミュレーションし、触覚としてユーザに伝達することができる携帯機器、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ユーザが把持する手に接触し、容器と一体的に又は側面に構成された携帯機器であって、
容器内の液体量を模した質量mを記憶するメモリと、
容器の水平成分の加速度Aを検知する加速度センサと、
質量m及び加速度Aを用いて、当該質量mが容器底面に作用する水平力である触覚力Fを算出するプロセッサと、
触覚力Fを電気信号Soutに変換する駆動手段と、
電気信号に応じた振動力を発生させて、ユーザの手に触覚を伝達するアクチュエータと
を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の携帯機器における他の実施形態によれば、
プロセッサは、容器が、円筒状側面及び球面状底面を有するグラス形状を有し、球面状底面に対する曲率中心が円筒中心の鉛直線上にある、と模して触覚力Fを算出する
ことも好ましい。
【0009】
本発明の携帯機器における他の実施形態によれば、
プロセッサは、質量m(kg)と、加速度A(m/s2)と、当該加速度Aから所定運動方程式によって得られる質点Mの内部流体加速度a(m/s2)と、当該内部流体加速度aから単位時間で積分した質点Mの速度v(m/s)と、当該速度vから単位時間で積分した質点Mの距離x(m)とを用いて、触覚力F(N)を算出する
ことも好ましい。
【0010】
本発明の携帯機器における他の実施形態によれば、
メモリは、質量比バネ係数k(N/m・kg)及びダンパ係数c(N/(m/s))を更に記憶し、
プロセッサは、バネ-ダンパ振動系モデルをシミュレーションするべく、以下の所定運動方程式によって触覚力Fを算出する
k・m・x+c・v+m(a-A)=0
F=k・m・x+c・v
ことも好ましい。
【0011】
本発明の携帯機器における他の実施形態によれば、
駆動手段は、触覚力F(N)を、以下のように変換した電気信号Sout(V)を、アクチュエータへ出力する
Sout=G・|F|・Sw
G(1/N):力比利得(Gain per force)係数
Sw(V) :ホワイトノイズ
ことも好ましい。
【0012】
本発明の携帯機器における他の実施形態によれば、
駆動手段は、距離xが、容器の円筒中心から内壁までの距離Rに達した際に、電気信号Simpact_inに、運動量m・vに応じた利得を乗算した電気信号Simpact_outを出力する
Simpact_out=Gimpact・m・||v||・Simpact_in
Gimpact(s/N) :運動量比利得(Gain per momentum)係数
Simpact_in(V):衝突時入力信号
ことも好ましい。
【0013】
本発明の携帯機器における他の実施形態によれば、
アクチュエータは、振動を発生するボイスコイル、スピーカ又はピエゾ素子であってもよい。
【0014】
本発明の携帯機器における他の実施形態によれば、
他の携帯機器とネットワークを介して通信可能な通信インタフェースを更に有し、
メモリは、通信インタフェースによって他の携帯機器から受信した質量mを設定する
ことも好ましい。
【0015】
本発明によれば、ユーザが把持する手に接触し、容器と一体的に又は側面に構成された携帯機器について、容器内の液体量を模した質量mを記憶するメモリを有する当該携帯機器に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
コンピュータに、
加速度センサによって、容器の水平成分の加速度Aを検知する第1のステップと、
質量m及び加速度Aを用いて、当該質量mが容器底面に作用する水平力である触覚力Fを算出する第2のステップと、
触覚力Fを電気信号Soutに変換する第3のステップと、
アクチュエータによって、電気信号に応じた振動力を発生させて、ユーザの手に触覚を伝達する第4のステップと
を実行させることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、ユーザが把持する手に接触し、容器と一体的に又は側面に構成された携帯機器について、容器内の液体量を模した質量mを記憶するメモリと、プロセッサとを有する当該携帯機器の触覚発生方法であって、
プロセッサに、
加速度センサによって、容器の水平成分の加速度Aを検知する第1のステップと、
質量m及び加速度Aを用いて、当該質量mが容器底面に作用する水平力である触覚力Fを算出する第2のステップと、
触覚力Fを電気信号Soutに変換する第3のステップと、
アクチュエータによって、電気信号に応じた振動力を発生させて、ユーザの手に触覚を伝達する第4のステップと
を実行させることを特徴とする触覚発生方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の携帯機器、プログラム及び方法によれば、演算処理能力が高いプロセッサを用いることなく、容器内の液体の動きをシミュレーションし、触覚としてユーザに伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明における携帯機器同士で通信するシステム構成図である。
【
図2】本発明における携帯機器の機能構成図である。
【
図3】本発明の携帯機器における重力の説明図である。
【
図4】本発明の携帯機器における触覚力の説明図である。
【
図5】本発明の携帯機器における駆動部からの電気信号の説明図である。
【
図6】容器側面に装着された本発明の携帯機器の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、図面を用いて、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明における携帯機器同士で通信するシステム構成図である。
【0021】
図1によれば、携帯機器1は、ユーザが把持する手に接触し、容器内の液体の動きを触覚刺激としてユーザに伝達する。携帯機器1としては、液体(流体物)を注入可能なグラスやコップのような容器形状を有する。ユーザは、容器形状の携帯機器1を把持して左右に揺らすことによって、その容器内の液体の動きを自らの手で触覚的に感じることができる。
【0022】
図1によれば、ユーザaが所持するユーザ端末2と、ユーザbが所持するユーザ端末との間をネットワークで接続したビデオ会議システムによって、ユーザ同士でオンライン呑み会をしているとする。ユーザaは携帯機器1を把持し、ユーザbは遠隔機器を把持している。このとき、ユーザaの携帯機器1は、ユーザ端末2に接続することによって、ユーザbの遠隔機器と通信することができる。
【0023】
例えば対面の呑み会の場合、参加者同士が協調的に動作をする場合がある。具体的には、参加者全員で「乾杯」したり、参加者同士の「お酌」のような行為がなされる。
ここで、遠隔にありながら、例えばユーザbが、遠隔機器のボトルを、ユーザaの携帯機器1のグラスへお酌するような仕草をすることによって、携帯機器1は、遠隔機器から注入されたと想定される「質量m」を受信することもできる。これによって、ユーザaは、容器形状の携帯機器1に注入されたと想定される質量mの液体の動きを、触覚的に感じることができる。このとき、質量mの変化に応じて、ユーザが触覚的に感じる量も変化させることもでき、リアルなコミュニケーションを体現することができる。
図1のようなシステムは、オンラインによる遠隔にありながら、容器形状の携帯機器1を把持するユーザに、少しでも高い臨場感のコミュニケーションを体現させることができる。
【0024】
図2は、本発明における携帯機器の機能構成図である。
【0025】
図2によれば、携帯機器1は、容器と一体的に構成されており、ユーザが把持する手に接触するものである。
携帯機器1は、メモリ100と、通信インタフェース101と、加速度センサ11と、プロセッサ12と、駆動部13と、アクチュエータ14とを有する。これら機能デバイスは、プロセッサを機能させるプログラムとして実行されるものであってもよい。また、これら機能デバイスの処理の流れは、携帯機器の触覚発生方法としても理解できる。
【0026】
[通信インタフェース101]
通信インタフェース101は、他の携帯機器とネットワークを介して通信する。例えば通信インタフェース101は、Bluetooth(登録商標)又は無線LAN(Local Area Network)によって、ユーザ端末2に接続するものであってもよい。ユーザ端末2は、広域ネットワークを介して、他のユーザが所持するユーザ端末や遠隔機器と通信することができる。
【0027】
[メモリ100]
メモリ100は、容器内の液体量を模した「質量m」を記憶する。
質量m(kg)は、予め固定的に設定されたものであってもよいし、通信インタフェース101によって他の携帯機器から受信した値を設定したものであってもよい。質量mは、例えば遠隔のユーザにおける「お酌」の仕草におけるボトル(遠隔機器)の傾きから、お酌された液体量として想定されたものであってもよい。即ち、質量mは、インタラクティブに更新されるものである。本発明によれば後述するように、質量mに応じて触覚力Fが変化し、尤もらしい「お酌された」体感をユーザに伝達することができる。
【0028】
また、メモリ100は、後述するバネ-ダンパ振動系モデルの運動モデルとして、「質量比バネ係数k」及び「ダンパ係数c」を更に記憶することも好ましい。ここで、質量比バネ係数kは、質量mに応じて設定されるものである。
【0029】
[加速度センサ11]
加速度センサ11は、携帯機器1に対する加速度A(m/s2)を、リアルタイムに検知する。加速度センサ11は、一般的なスマートフォンやタブレット端末に搭載されたようなものである。
加速度とは、単位時間当たりの速度の変化である。本発明の加速度センサ11は、携帯機器の揺れを検出する必要があるために、少なくとも水平成分(x、y軸)の加速度Aが得られればよい。
A=[Ax Ay]
加速度センサ11は、検知した加速度A(m/s2)を、プロセッサ12へ出力する。
【0030】
[プロセッサ12]
プロセッサ12は、メモリ100の質量m(kg)と、加速度センサ11の加速度A(m/s2)とを用いて、当該質量mが容器底面に作用する水平力である「触覚力F」を算出する。触覚力Fは、流体が容器底面を押す力における水平方向の分力である。結果的に、触覚力Fは、携帯機器1の容器内で想定される液体の動きを、携帯機器1を把持するユーザの手に触覚的に感じさせる力、となる。
算出された触覚力Fは、駆動部13へ出力される。
【0031】
ここで、本発明によれば、触覚力Fを物理的にシミュレーションすべき演算量が少ない、ことに特徴がある。これによって、極めて低廉なマイクロコンピュータ(例えばEspressif社ESP32)であっても、十分にリアルタイムな演算が可能となる。具体的には、触覚力Fのシミュレーションが、物理モデルの更新頻度100Hz以上で且つ演算頻度32kHz以上で可能となる。
そのために、従来、リアルタイムな触覚力Fの物理的なシミュレーションに、演算処理能力が高いプロセッサを必要としていたのに対し、本発明によれば、極めて低廉なプロセッサしか必要としない。これによって、一般的なIoTデバイスにも十分に実装可能となる。
【0032】
図3は、本発明の携帯機器における重力の説明図である。
【0033】
プロセッサ12は、携帯機器1が想定する容器が、
図3のような液体を注入可能な円筒状側面及び球面状底面を有するグラス形状である、としてシミュレーションする。液体は、容器内で、容器底面に沿って運動する。
また、球面状底面に対する曲率中心は、円筒中心の鉛直線(z軸)上にあると想定する。曲率中心から、曲率半径rの先に底面があると仮定する。
【0034】
これによって、容器内の液体の動きを、最大2次元の「バネ-ダンパ振動系モデルの運動モデル」として簡易にシミュレーションすることができる。演算量を極めて少なくすることによって、低廉なプロセッサ12でもリアルタイムな触覚力Fの演算を可能としている。
曲率中心から質点Mへの角度θ
曲率中心から質点Mへの長さr(m)
距離x(m)(=rsinθ)
垂直方向の重力mg
質量比バネ係数k(N/m・kg)
ダンパ係数c(N/(m/s))
【0035】
プロセッサ12は、バネ-ダンパ振動系モデルをシミュレーションするべく、以下の所定運動方程式によって触覚力F(N)を算出する
k・m・x+c・v+m(a-A)=0
F=k・m・x+c・v
【0036】
ここで、質点Mの(x軸の)内部流体加速度a(m/s2)は、加速度センサ11によって検知された加速度A(m/s2)(水平成分)を所定運動方程式に代入し、質点Mのx軸の内部流体加速度aについて解くことによって算出される。
また、質点Mのx軸の速度v(m/s)は、質点Mのx軸の内部流体加速度aの単位時間の積分によって得られる。
更に、質点Mのx軸の距離x(m)は、質点Mのx軸の速度vの単位時間の積分によって得られる。
【0037】
所定運動方程式の初期状態では、質点Mのx軸の加速度aと、x軸の速度vと、x軸の距離xとは、0となる。ここで、携帯機器1が加速度Aで動かされたとき、慣性力で質量mがその場に留まろうとするために、容器内の座標系から見れば、加速度Aの逆方向の相対加速度で動いているように見える。結果として、以下のように表される。
F=k・m・x+c・v-m(a-A)=0
【0038】
図4は、本発明の携帯機器における触覚力の説明図である。
【0039】
図4によれば、質量mが、鉛直線から距離xの底面位置にあると仮定したとき、触覚力Fは、曲率中心と質量mが結ぶ半径rと、z軸が作る角度θとから、以下のように表される。
F=mgcos(90°-θ)cosθ
=mg/2・sin2θ
ここで、曲率中心から容器底面までの半径rが十分に大きく、且つ、底面の任意の位置にあって2θが十分小さい場合、sin2θは、ほぼ2θと表すことができる。その場合、以下のように表すことができる。
F=mg・x/r
このように、x軸方向の運動は、容器底面の中心部からのx軸の距離xに比例した求心力を伴うバネ機構とみなす、ことができる。また、流体の運動による摩擦減衰を考慮することで、容器底面におけるx軸の運動は、バネ-ダンパ振動系モデルとして考えることができる。
【0040】
勿論、液体が注入された容器の側面は、一般的にグラスやコップのような円周(回転体)であるために、水平成分であるx軸とy軸とは同一の物理モデルとして考えることができる。
Fx=k・m・x+c・vx
Fy=k・m・y+c・vy
F=[Fx Fy]
【0041】
[駆動部13]
駆動部13は、触覚力Fを電気信号Soutに変換する。電気信号Soutとしては、アクチュエータ14が、振動子の場合には電圧値であり、モータの場合には駆動信号であってもよい。そして、駆動部13は、生成した電気信号Soutを、アクチュエータ14へ出力する。
【0042】
図5は、本発明の携帯機器における駆動部からの電気信号の説明図である。
【0043】
液体の運動は細かい粒子の連続であるため、幅広い周波数帯域を含んだ作用力を生成すると想定する。そのために、本発明によれば、駆動部13は、ホワイトノイズSwを基本信号とし、容器に作用する触覚力F(N)に応じて、ホワイトノイズにゲインGを乗算した電気信号Sout(V)を、以下のように生成する。
Sout=G・|F|・Sw
G(1/N):力比利得(Gain per force)係数
Sw(V) :ホワイトノイズ
【0044】
駆動部13は、アクチュエータ14が例えばモータのような動的な力を出力する場合、触覚力Fに応じて電気信号を生成すればよい。一方で、アクチュエータ14がボイスコイルのような振動子であれば、振動子と触覚力Fの周波数特性とが大きく異なるために、そのまま電気信号として使用しても、所望の触感を提示することができない。その場合、触覚力Fに応じた電気信号を、振動子に対応するように変換して出力する。
【0045】
尚、加速度センサ11によって検知される加速度Aが一定の場合(例えばデバイスを静止させた場合)、|F|も一定値になるために、触覚力Fによって伝達される触覚も低質化する。例えば静力を提示可能なアクチュエータであれば、コップを傾けて提示させる場合、その重量感のみを提示することができる。一方で、振動子では、振動信号に触覚力Fに応じたゲインがかけられているため、容器を動かしていないのに振動を感じる、といった事象が生じる。そのために、|F|に、ハイパスフィルタ等を使用して低域成分を除去することも好ましい。
【0046】
質量mまでの距離xが、容器の円筒中心(鉛直線)から内壁までの距離Rに達した際に生じると、容器内壁との衝突により衝突力を持った触感が体感されると想定される。勿論、閾値となる距離Rは、容器の大きさによって設定される。ここで、距離Rは、携帯機器1毎に、固定的に設定されるものであってもよいし、ユーザによって設定可能なものであってもよい。
【0047】
衝突時の触覚は、その衝突の大きさに比例した触覚が体感されると予想される。衝突時に、液体をシミュレーションする質量系の運動量が0になると仮定すると、衝突を表現する電気信号Soutに運動量に応じたゲインGを乗算することで、より真に近い触感が表現される。出力される電気信号Simpactは、x軸及びy軸の速度vを用いて、以下のように表される。
駆動部13は、距離xが、容器の円筒中心から内壁までの距離Rに達した際に、電気信号Soutに、運動量m・vに応じた利得を乗算した電気信号Simpactを出力する。
Simpact_out=Gimpact・m・||v||・Simpact_in
v=[vx vy]
勿論、x軸及びy軸の2次元についてのシミュレーションに限られず、x軸のみ又はy軸のみの単軸についてのシミュレーションであってもよい。
【0048】
[アクチュエータ14]
アクチュエータ14は、電気信号に応じた振動力を発生させて、ユーザの手に触覚を伝達する。
アクチュエータ14は、一般的なスマートフォンやタブレット端末に搭載されている振動モジュールである。振動を発生するボイスコイル又はスピーカであってもよい。
前述した従来技術としての非特許文献1及び2によれば、モータ等を用いて静的な力を出力可能な機構を必要とする。比較的高い電力消費を伴うために、バッテリの観点からも、例えばスマートフォンのような携帯端末であっても難しい。これに対し、本発明によれば、アクチュエータ14としてボイスコイルやスピーカを用いるために、電力消費も低くすることができる。
【0049】
図6は、容器側面に装着された本発明の携帯機器の外観図である。
【0050】
図6によれば、携帯機器1は、容器と一体的に構成されることなく、容器の側面に構成され、ユーザが把持する手に接触する。これによって、ユーザが日常的に使用するグラス(カップやジョッキ、ボトルなど)であっても、ユーザに液体の動きの触覚を表現することができる。
【0051】
なお、これにより、例えば無線アクセスネットワークにおける総合的なサービス品質の向上を実現することができることから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0052】
以上、詳細に説明したように、本発明の携帯機器、プログラム及び方法によれば、演算処理能力が高いプロセッサを用いることなく、容器内の液体の動きをシミュレーションし、触覚としてユーザに伝達することができる。
従来、リアルタイムな触覚力Fの物理的なシミュレーションに、演算処理能力が高いプロセッサを必要としていたのに対し、本発明によれば、極めて低廉なプロセッサしか必要としない。これによって、一般的なIoTデバイスにも十分に実装可能となる。
【0053】
前述した本発明における種々の実施形態によれば、当業者は、本発明の技術思想及び見地の範囲における種々の変更、修正及び省略を容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0054】
1 携帯機器
100 メモリ
101 通信インタフェース
11 加速度センサ
12 プロセッサ
13 駆動部
14 アクチュエータ
2 ユーザ端末