(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火材
(51)【国際特許分類】
C09K 21/02 20060101AFI20240612BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240612BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240612BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240612BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20240612BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20240612BHJP
A62C 2/00 20060101ALI20240612BHJP
C09K 21/04 20060101ALN20240612BHJP
【FI】
C09K21/02
C08L101/00
C08L21/00
C08K3/04
C08K3/016
C09K21/12
A62C2/00 X
C09K21/04
(21)【出願番号】P 2021130813
(22)【出願日】2021-08-10
(62)【分割の表示】P 2020541599の分割
【原出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2019154165
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】大月 健一
(72)【発明者】
【氏名】辻井 美香
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平03-503654(JP,A)
【文献】特開2016-164217(JP,A)
【文献】特開平10-095887(JP,A)
【文献】特開2019-119859(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02784260(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/02
C08L 101/00
C08L 21/00
C08K 3/04
C08K 3/016
C09K 21/12
C09K 21/04
A62C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹
脂と、熱膨張性黒鉛と
、難燃剤とを含有する耐火材であって、
前記熱可塑性樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合
体であり、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、酢酸ビニル含量が20質量%以上である、高Vac成分を含有し、
前記難燃剤が、赤リン、リン酸エステル、リン酸金属塩、亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、エチレンジアミンリン酸塩、ホウ素系化合物及び金属水酸化物からなる群から選択される一種以上を含有し、
膨張圧力が3.0N/cm
2以上である熱膨張性耐火材
(但し、酸化亜鉛を含有するものを除く)。
【請求項2】
前記熱膨張性黒鉛の含有量が、
熱可塑性樹脂100質量部に対して20~500質量部である、請求項1に記載の熱膨張性耐火材。
【請求項3】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下である低MFR成分を含有する、請求項1
又は2に記載の熱膨張性耐火材。
【請求項4】
さらに架橋剤を含有する、請求項1~
3のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
【請求項5】
前記難燃剤の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して15~1000質量部である、請求項1~4のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
【請求項6】
さらに熱膨張性黒鉛以外の無機充填剤を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
【請求項7】
基材と、前記基材の片面又は両面に積層された請求項1~
6のいずれかに記載の熱膨張性耐火材とを有する耐火多層シート。
【請求項8】
基材と、前記基材の一方の面に積層された請求項1~
6のいずれかに記載の熱膨張性耐火材と、前記基材の他方の面に積層された粘着剤層とを有する耐火多層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性耐火材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野では、防火のために、建具、柱、壁材等の建築材料に耐火材が用いられる。耐火材としては、樹脂に、難燃剤、無機充填剤などに加えて、熱膨張性黒鉛が配合された熱膨張性耐火材等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような熱膨張性耐火材は、加熱により膨張して燃焼残渣が耐火断熱層を形成し、耐火断熱性能を発現する。
熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性耐火材は、例えば、建築物の開口部に設けられるドア、窓などの建具と、これらを包囲するドア枠、窓枠などの枠との隙間に設けられ、火災時には該シートが厚み方向に膨張して、建具と枠材の隙間を閉塞し、延焼を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性耐火材を用いた場合であっても、火災時において、長期間経過すると、耐火材が剥がれ落ちるなどして、建具と枠との隙間を閉塞し難くなる場合があることが分かった。
そこで、本発明は、耐火材が剥がれ落ち難く、耐火性に優れる熱膨張性耐火材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者は、熱可塑性樹脂及びゴムから選択される少なくとも1種のマトリックス樹脂、及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、膨張圧力が一定以上である熱膨張性耐火材により、上記課題を解決できることを見出した。
また、熱可塑性樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体、及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が特定の構造を有する熱膨張性耐火材によっても上記課題が解決できることを見出した。
さらに、熱可塑性樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体、熱膨張性黒鉛、及び架橋剤を含有する耐火材によっても、上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、下記[1]~[15]に関する。
[1]熱可塑性樹脂及びゴムから選択される少なくとも1種のマトリックス樹脂と、熱膨張性黒鉛とを含有する耐火材であって、膨張圧力が3.0N/cm2以上である熱膨張性耐火材。
[2]前記熱膨張性黒鉛の含有量が、マトリックス樹脂100質量部に対して20~500質量部である、上記[1]に記載の熱膨張性耐火材。
[3]さらに難燃剤を含有する、上記[1]又は[2]に記載の熱膨張性耐火材。
[4]前記熱可塑性樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はポリ塩化ビニル系樹脂である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[5]前記ゴムが、クロロプレンゴムを含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[6]前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下である低MFR成分を含有する、上記[4]に記載の熱膨張性耐火材。
[7]前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、酢酸ビニル含量が20質量%以上である、高Vac成分を含有する、上記[4]又は[6]に記載の熱膨張性耐火材。
[8]さらに架橋剤を含有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱膨張性耐火材。
[9]前記熱可塑性樹脂が、ポリ塩化ビニル系樹脂である上記[4]に記載の熱膨張性耐火材。
[10]さらに、可塑剤を含有する上記[9]に記載の熱膨張性耐火材。
[11]前記可塑剤が、固形可塑剤を含有する、上記[10]に記載の熱膨張性耐火材。
[12]前記可塑剤が、液状可塑剤を含有し、固形可塑剤に対する液状可塑剤の質量割合(液状可塑剤/固形可塑剤)が5/95~60/40である、上記[11]に記載の熱膨張性耐火材。
[13]エチレン-酢酸ビニル共重合体及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下である低MFR成分を含有する、熱膨張性耐火材。
[14]エチレン-酢酸ビニル共重合体及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、酢酸ビニル含量が20質量%以上である、高Vac成分を含有する、熱膨張性耐火材。
[15]エチレン-酢酸ビニル共重合体及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、さらに架橋剤を含有する、熱膨張性耐火材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐火材が剥がれ落ち難く、耐火性に優れる熱膨張性耐火材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】耐火多層シートの一実施形態を示す模式的な断面図である。
【
図2】耐火多層シートの別の実施形態を示す模式的な断面図である。
【
図3】耐火多層シートがパスを通過する一実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[熱膨張性耐火材]
本発明の熱膨張性耐火材は、熱可塑性樹脂及びゴムから選択される少なくとも1種のマトリックス樹脂と、熱膨張性黒鉛とを含有する耐火材であって、膨張圧力が3.0N/cm2以上である熱膨張性耐火材である。以下、本発明の熱膨張性耐火材のことを、単に耐火材という場合もある。
【0009】
(膨張圧力)
本発明の耐火材は、膨張圧力が3.0N/cm2以上である。耐火材の膨張圧力が3.0N/cm2未満であると、火災の際に、長期間炎に晒されると、建具の隙間を閉塞する力が弱くなったり、耐火材が建具から剥がれ落ち易くなるなど、耐火性が悪くなる。
耐火性をより良好にする観点から、熱膨張性耐火材の膨張圧力は、好ましくは5.0N/cm2以上であり、より好ましくは7.0N/cm2以上であり、さらに好ましくは9.0N/cm2以上である。熱膨張性耐火材の膨張圧力は、高ければ高い方がよいが、実用的には20N/cm2以下である。
耐火材の膨張圧力は、後述する熱膨張性黒鉛の配合量、熱可塑性樹脂やゴムの種類、架橋剤の使用の有無などにより調節することができる。
本発明の熱膨張性耐火材の膨張圧力が高くなる理由は、定かではないが、熱膨張性黒鉛を用いつつ、熱可塑性樹脂やゴムのの種類の選択、架橋剤の使用の有無などを適切に調整することによって、火災時に耐火材の一部が炭化して、耐火材の高温時の流動性が低下するためと推察される。
【0010】
本発明における膨張圧力とは、500℃における膨張圧力であり、以下のように測定される。
(1)厚み1.8mm、幅25mm、長さ25mmのシート状の耐火材を準備する。
(2)ホットプレートと、ホットプレートの表面から1.2cm離れた位置にフォースゲージを設置する。
(3)ホットプレート表面を500℃に加熱して、該ホットプレートの表面に上記シート状の耐火材を置き、さらに耐火材の上にセラミック製の板(材質はケイ酸カルシウム、厚さ2mm、幅30mm、長さ30mm)を配置する。
(4)上記耐火材をホットプレート上で、500℃にて、250秒間加熱したときに、フォースゲージで測定される最大の応力を、治具の面積で除した値を膨張圧力とする。
【0011】
本発明の耐火材の膨張倍率は、特に限定されないが、耐火性を良好とする観点から、好ましくは10~500倍であり、より好ましくは50~300倍であり、更に好ましくは100~250倍である。
膨張倍率は、厚み1.8mm、幅25mm、長さ25mmのシート状の耐火材を、600℃で30分加熱し、加熱後の耐火材の厚さを加熱前の耐火材の厚さで除することにより求めることができる。
【0012】
(熱膨張性黒鉛)
本発明の耐火材は、熱膨張性黒鉛を含有する。熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の原料粉末を、強酸化剤で酸処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。強酸化剤としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
熱膨張性黒鉛は中和処理されてもよい。つまり、上記のように強酸化剤などで処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和してもよい。
【0013】
本発明の耐火材中の熱膨張性黒鉛の含有量は、マトリックス樹脂100質量部に対して、好ましくは20~500質量部であり、より好ましくは50~300質量部であり、さらに好ましくは100~250質量部であり、さらに好ましくは110~200質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、熱膨張性耐火材の膨張圧力を高めやすくなる。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、形状保持性、加工性などが良好になる。
【0014】
本発明における熱膨張性黒鉛は、平均アスペクト比が好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上であり、そして通常は1000以下である。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比がこれら下限値以上であると、耐火材の膨張圧力を高めやすくなる。
熱膨張性黒鉛のアスペクト比は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法(長径)と最小寸法(短径)を測定し、これらの比(最大寸法/最小寸法)の平均値として求める。
【0015】
熱膨張性黒鉛の平均粒径は、所望の膨張圧力とする観点から、好ましくは50~500μmであり、より好ましくは100~400μmである。なお、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法の平均値として求める。
上記した熱膨張性黒鉛の最小寸法及び最大寸法は、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0016】
(マトリックス樹脂)
本発明の耐火材は、熱可塑性樹脂及びゴムから選択される少なくとも1種のマトリックス樹脂を含有する。
【0017】
(熱可塑性樹脂)
本発明の耐火材に含まれる熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂などが好ましい。
【0018】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、非塩素系樹脂であるため環境への負荷が少なく、取り扱いも容易である。これらポリオレフィン系樹脂の中でも、耐火材の膨張圧力を高くする観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0019】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂(CPVC)などが挙げられる。
【0020】
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等が挙げられる。
【0021】
(ゴム)
ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。これらの中でも、耐火性を向上させる観点、耐火材の膨張圧力を高くする観点から、クロロプレンゴムが好ましい。
【0022】
本発明における熱可塑性樹脂は、耐火材の膨張圧力を高くする観点から、上記した中でも、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はポリ塩化ビニル系樹脂であることが好ましい。また、本発明におけるゴムは、耐火材の膨張圧力を高くする観点から、クロロプレンゴムを含むことが好ましい。
本発明の耐火材は、膨張圧力を高める観点から、熱可塑性樹脂やゴムの種類に応じて、耐火材の組成を調整することが好ましい。
【0023】
<熱可塑性樹脂:エチレン-酢酸ビニル共重合体>
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、非塩素系樹脂であるため、ダイオキシンなどが発生し難く、かつ、可塑剤を含有させることなく、比較的低温で熱膨張性黒鉛などと共に混練できるため、耐火材に含まれる熱可塑性樹脂として使用することが好ましい。
耐火材が、熱可塑性樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体、及び熱膨張性黒鉛を含む場合は、膨張圧力が高まりやすく、耐火性が向上する。特に、後述する特定の構造のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いることで、膨張圧力が効果的に向上し、優れた耐火性を発揮する。
【0024】
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、耐火材の膨張圧力を高める観点及び成形性を良好にする観点から、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体成分(以下、低MFR成分ともいう)を含むことが好ましい。該低MFR成分の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、6.0g/10min以下であることがより好ましく、1.0g/10min以下であることが更に好ましい。低MFR成分の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、耐火材の成形性の観点から、0.05g/10min以上であることが好ましく、0.1g/10min以上であることがより好ましく、0.3g/10min以上であることがさらに好ましい。
耐火材が、該低MFR成分を含み、かつ後述する架橋剤も含む場合は、膨張圧力をより高めることが可能となる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min超であるエチレン-酢酸ビニル共重合体成分(高MFR成分)を含んでもよい。耐火材の膨張圧力を高める観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体全量基準で、低MFR成分の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
なお、エチレン-酢酸ビニル共重合体の190℃におけるメルトフローレートは、荷重2.16kgにおける測定値であり、JIS K7210:1999に準拠して測定される。
【0025】
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いる場合は、耐火材の膨張圧力を高める観点から、酢酸ビニル含有量が、20質量%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体成分(以下、高Vac成分ともいう)を含むことが好ましい。高Vac成分の酢酸ビニル含有量は、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。高Vac成分の酢酸ビニル含有量は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下である。
耐火材が、該高Vac成分を含み、かつ後述する架橋剤も含む場合は、膨張圧力をより高めることが可能となる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、酢酸ビニル含有量が、25質量%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体成分(低Vac成分)を含んでもよい。耐火材の膨張圧力を高める観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体全量基準で、高Vac成分の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
なお、MFRと酢酸ビニル含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の構造を表す別々のパラメーターであるため、低MFR成分に該当し、かつ高Vac成分にも該当する成分(後述する低MFR高Vac成分)も存在する。耐火材に、低MFR高Vac成分が含まれている場合は、該耐火材には、当然ながら低MFR成分、及び高Vac成分の両方が含まれていることとなる。
【0026】
エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いる場合は、耐火材の膨張圧力をより高める観点から、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下であり、かつ酢酸ビニル含有量が、20質量%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体成分(低MFR高Vac成分)を含むことが好ましい。ここで、低MFR高Vac成分の好適なMFR及び酢酸ビニル含有量は、上記低MFR成分、高Vac成分の説明において記載したとおりである。
耐火材が、該低MFR高Vac成分を含み、かつ後述する架橋剤も含む場合は、膨張圧力を効果的に高めることが可能となる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体全量基準で、低MFR高Vac成分の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0027】
熱可塑性樹脂として、エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いる場合において、熱膨張性黒鉛の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは20~500質量部であり、より好ましくは50~300質量部であり、さらに好ましくは80~150質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、熱膨張性耐火材の膨張圧力を高めやすくなる。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、形状保持性、加工性などが良好になる。
【0028】
(架橋剤)
本発明の耐火材は、架橋剤を含んでもよく、特に熱可塑性樹脂として、エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いる場合は、架橋剤を併用することで、膨張圧力を高めることができ、耐火性が向上する。耐火材が架橋剤を含む場合は、火災の際の熱により、エチレン-酢酸ビニル共重合体の架橋が進行して、粘度が高くなり、それに伴い、膨張圧力が高まるものと考えられる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体と架橋剤を併用する場合は、公知のエチレン-酢酸ビニル共重合体を特に制限なく使用できる。すなわち、架橋剤を用いる場合は、エチレン-酢酸ビニル共重合体のMFR及び酢酸ビニル含量は、特に限定されない。ただし、耐火剤の膨張圧力をより高める観点から、架橋剤を併用する場合であっても、エチレン-酢酸ビニル共重合体は、低MFR成分及び高Vac成分の少なくともいずれかを含むことが好ましく、低MFR高Vac成分を含むことがより好ましい。
【0029】
架橋剤としては、公知のものが制限なく使用でき、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物などを挙げることができる。
有機過酸化物としては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン、2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、3-ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、α,α’ -ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート;ベンゾイルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート等が挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0030】
上記した架橋剤の中でも、耐火材を製造する際に、各成分を混練する温度(例えば70℃~150℃)で架橋反応が生じ難く、火災時の熱により、エチレン-酢酸ビニル共重合体の架橋反応が生じやすいものが好ましい。このような観点から、架橋剤は、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、などが好ましい。
【0031】
耐火材が架橋剤を含有する場合は、架橋剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.5~7質量部であり、さらに好ましくは1~5質量部である。
【0032】
<熱可塑性樹脂:ポリ塩化ビニル系樹脂>
ポリ塩化ビニル系樹脂は、耐火材における含有炭素の割合を低くし、耐火性を高める観点から、耐火材に含まれる熱可塑性樹脂として使用することが好ましい。
【0033】
ポリ塩化ビニル系樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)であっても、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂(CPVC)であってもよいが、ポリ塩化ビニル樹脂を用いることが好ましい。
ポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル単独重合体であってもよいし、塩化ビニル系共重合体でよい。塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能な不飽和結合を有する単量体の共重合体であって、塩化ビニル由来の構成単位を50質量%以上含有する。
塩化ビニルと共重合可能な不飽和結合を有する単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリロニトリル、スチレン等の芳香族ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
また、ポリ塩化ビニル系樹脂は、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂でもよい。ポリ塩素化塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル系共重合体などを塩素化したポリ塩素化塩化ビニル樹脂である。
ポリ塩化ビニル系樹脂は、上記したものの中から1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度は特に限定されないが、好ましくは400以上、より好ましくは700以上、さらに好ましくは1000以上であり、そして、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下である。ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度がこれら下限値以上であると、耐火材の膨張圧力が高まりやすく、耐火性が向上する。ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度がこれら上限値以下であると、加工性が良好になりやすい。なお、平均重合度は、JIS K6720-2に準拠して測定したものである。
【0035】
熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニル系樹脂を用いる場合において、熱膨張性黒鉛の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは20~500質量部であり、より好ましくは50~400質量部であり、さらに好ましくは100~350質量部であり、さらに好ましくは150~300質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、熱膨張性耐火材の膨張圧力を高めやすくなる。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、形状保持性、加工性などが良好になる。
【0036】
≪可塑剤≫
本発明の耐火材は、可塑剤を含有してもよい。特に、ポリ塩化ビニル系樹脂を使用する場合は、可塑剤を用いることにより、成形性が良好になりやすい。可塑剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは20~300質量部であり、より好ましくは50~200質量部である。
ポリ塩化ビニル系樹脂を用いる場合は、可塑剤が固形可塑剤を含有することが好ましい。固形可塑剤を含有することにより、耐火材の膨張圧力が高まりやすく、耐火性が向上する。ここで、固形可塑剤とは、23℃において固体状の可塑剤を意味する。
固形可塑剤としては、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、安息香酸エステル、パラフィンワックス、などが挙げられ、中でも、耐火材の膨張圧力を高めやすい観点から、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体が好ましい。
【0037】
エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体は、エチレン成分、酢酸ビニル成分、及び一酸化炭素成分を含む共重合体である。エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体は、例えば、エチレンと酢酸ビニルと一酸化炭素とを、触媒の存在下、高温(例えば、160~230℃)、高圧(例えば、24,000~27,000psi)下で高速撹拌して共重合させることにより、製造することができる。上記触媒として例えば、t-ブチルパーオキシイソブチレート、アゾジイソブチロニトリル等が挙げられる。
エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体の市販品としては、例えば、デュポン社製「エルバロイ741」、「エルバロイ742」等が挙げられる。
【0038】
上記エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体において、エチレン成分の含有量は、40~80質量%が好ましく、より好ましくは50~70質量%である。酢酸ビニル成分の含有量は、10~50質量%が好ましく、より好ましくは10~40質量%である。また、一酸化炭素成分の含有量は、5~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%である。尚、上記エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体には、必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル等の他のモノマーを共重合させてもよい。
【0039】
固形可塑剤の含有量は、膨張圧力を高める観点及び耐火時間を長くする観点から、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは20~300質量部であり、より好ましくは50~200質量部であり、さらに好ましくは60~140質量部である。
【0040】
可塑剤は、上記固形可塑剤のみであってもよいし、固形可塑剤と共に液状可塑剤を含んでもよい。固形可塑剤と液状可塑剤を併用することにより、耐火材の膨張圧力を高い値に保ちつつ、成形性も良好になる。なお、液状可塑剤とは、23℃において液状の可塑剤を意味する。
【0041】
液状可塑剤の具体例としては、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、又は炭素原子数10~13程度の高級アルコール又は混合アルコールのフタル酸エステル等のフタル酸エステル系可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジ-n-オクチルアジペート、ジ-n-デシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル等の脂肪族エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ-n-オクチル-n-デシルトリメリレート等のトリメリット酸エステル系可塑剤、鉱油等のプロセスオイル等が挙げられる。
【0042】
可塑剤が、上記固形可塑剤と液状可塑剤とを含む場合は、固形可塑剤に対する液状可塑剤の質量割合(液状可塑剤/固形可塑剤)は、好ましくは5/95~60/40であり、より好ましくは5/95~40/60であり、さらに好ましくは20/80~40/60である。このような範囲であると、耐火材の膨張圧力を高めつつ、成形性が良好になりやすい。
【0043】
熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニル系樹脂を用いる場合、耐火材を構成する、ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤の混合物の300℃における粘度は、好ましくは500Pa・s以上であり、より好ましくは800Pa・s以上であり、さらに好ましくは1000Pa・s以上であり、そして通常は50000Pa・s以下である。耐火材を構成する、ポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤の混合物の300℃における粘度が、上記下限値以下であると、耐火材の膨張圧力が高まりやすく、耐火性が向上する。
なお、粘度はレオメーターを用いて測定され、詳細は実施例に記載の方法により測定される。
【0044】
<クロロプレンゴム>
クロロプレンゴムは、耐火材における含有炭素の割合を低くし、耐火性を高める観点から、耐火材に含まれるゴムとして使用することが好ましい。
クロロプレンゴムとしては、硫黄変性タイプ(Gタイプ)、非硫黄変性タイプ(Wタイプ)等も用いることができる。
クロロプレンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、60~120が好ましく、70~90がより好ましく、80~100がさらに好ましい。100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)が上記の範囲にあるクロロプレンゴムは、耐火材の膨張圧力を高めやすい。
なお、ムーニー粘度はJIS K6300に準拠して測定される。
クロロプレンゴムを使用する場合、ゴムとしてクロロプレンゴムのみを使用してもよいし、後述するようにクロロプレンゴムとクロロプレンゴム以外の他のゴムとを併用してもよい。クロロプレンゴムを使用する場合、クロロプレンゴムの含有量はゴム全量基準で、例えば10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0045】
クロロプレンゴムを用いる場合において、熱膨張性黒鉛の含有量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは20~500質量部であり、より好ましくは50~300質量部であり、さらに好ましくは80~150質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、熱膨張性耐火材の膨張圧力を高めやすくなる。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、形状保持性、加工性などが良好になる。
【0046】
クロロプレンゴムを用いる場合は、耐火材は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤としては、上記した液状可塑剤が特に制限なく用いることができるが、耐火材の成形性を高める観点から、脂肪族エステル系可塑剤が好ましく、中でもエーテル結合を有する脂肪族エステル系可塑剤がより好ましく、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルがさらに好ましい。アジピン酸ジブトキシエトキシエチルの市販品としては、例えば、(株)ADEKA製のアデカサイザーRS-107等が該当し、アジピン酸エーテルエステル系と称される。
【0047】
可塑剤の含有量は、クロロプレンゴム100質量部に対して、好ましくは10~80質量部であり、より好ましくは20~50質量部である。可塑剤の含有量がこれら下限値以上であると、耐火材の成形性が良好となり、可塑剤の含有量がこれら上限値以下であると、膨張圧力を高めることができる。
【0048】
クロロプレンゴムを用いる場合、前述した可塑剤とともに、あるいは前述した可塑剤に替えて、液状ゴムを併用することができる。液状ゴムとしては、常温(25℃)で液状であれば特に限定されないが、液状イソプレンゴム、液状ブタジエンゴム、液状スチレンブタジエンゴム等を例示することができるが、成形性を向上させる観点から、液状スチレンブタジエンゴムが好ましい。
【0049】
クロロプレンゴムと液状ゴムとを併用する場合、液状ゴムの含有量は、クロロプレンゴム100質量部に対して、好ましくは5~500質量部であり、より好ましくは10~400質量部であり、更に好ましくは20~300質量部である。液状ゴムの含有量がこれら下限値以上であると、耐火材の成形性が良好となり、液状ゴムの含有量がこれら上限値以下であると、膨張圧力を高めることができる。
【0050】
(難燃剤)
本発明の耐火材は、難燃剤を含有することが好ましい。難燃剤を含有することにより、耐火性が向上する。
難燃剤としては、例えば、赤リン、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、エチレンジアミンリン酸塩等が挙げられる。難燃剤としては、下記一般式(1)で表される化合物等も挙げられる。
【0051】
【0052】
前記一般式(1)中、R1及びR3は、同一又は異なって、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を示す。R2は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は炭素数6~16のアリールオキシ基を示す。
【0053】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。前記難燃剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
本発明の難燃剤としては、ホウ素系化合物及び金属水酸化物を使用することもできる。
ホウ素系化合物としては、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及びハイドロタルサイト等が挙げられる。金属水酸化物を用いた場合、発火により生じた熱によって水が生成し、速やかに消火することができる。
【0055】
前記難燃剤の中でも、安全性やコスト等の観点からから、赤リン、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)等のリン酸エステル、亜リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、エチレンジアミンリン酸塩及びホウ酸亜鉛が好ましい。中でも、亜リン酸アルミニウム、エチレンジアミンリン酸塩及びポリリン酸アンモニウムがより好ましく、亜リン酸アルミニウムがさらに好ましい。亜リン酸アルミニウムは、膨張性があるため、これを含む耐火材は、膨張圧力が高まりやすく、より効果的に耐火性を向上させ易い。
【0056】
難燃剤の平均粒子径は、1~200μmが好ましく、1~60μmがより好ましく、3~40μmがさらに好ましく、5~20μmがさらに好ましい。難燃剤の平均粒子径が上記範囲内であると、耐火材における難燃剤の分散性が向上し、難燃剤をマトリックス樹脂中に均一に分散させたり、マトリックス樹脂に対する難燃剤の配合量を多くしたりすることができる。また、平均粒子径が上記範囲外となると、マトリックス樹脂中に難燃剤が分散しにくくなり、マトリックス樹脂中に難燃剤を均一に分散させたり、多量に配合させたりすることが難しくなる。
なお、難燃剤の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)の値である。
【0057】
本発明の耐火材の難燃剤の含有量は、マトリックス樹脂100質量部に対して、15~1000質量部であることが好ましく、20~300質量部がより好ましく、30~100質量部が更に好ましい。難燃剤の含有量がこれら下限値以上であると、耐火材の耐火性が向上する。また、難燃剤の含有量がこれら上限値以下であると、マトリックス樹脂中に均一に分散しやすくなり、成形性などが優れたものとなる。
【0058】
(無機充填剤)
本発明の耐火材は、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填剤を更に含有してもよい。
難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填剤としては特に制限されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウム等の金属炭酸塩、シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、及び脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
膨張圧力を高める観点や成型性を高める観点から、無機充填材として、酸化鉄、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、中でも酸化鉄及び炭酸カルシウムを併用することがより好ましい。特に、ゴムとしてクロロプレンゴムを用いた場合、前述した無機充填材を配合すると、これらの効果がより顕著に発揮される。
【0060】
無機充填剤の平均粒子径は、0.5~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。無機充填剤は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、耐火材の粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
【0061】
本発明の耐火材が、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填剤を含有する場合、その含有量はマトリックス樹脂100質量部に対して、好ましくは10~300質量部、より好ましくは10~200質量部である。無機充填剤の含有量が前記範囲内であると、耐火材の機械的物性を向上させることができる。
【0062】
本発明の耐火材は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、分散剤、ゲル化促進剤、充填剤、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加剤の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択できる。添加剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
耐火材は、シート状であることが好ましく、その厚さは特に限定されないが、耐火性及び取扱い性の観点から、0.2~10mmが好ましく、0.5~3.0mmがより好ましい。
【0064】
上記したように、膨張圧力が3.0N/cm2以上である本発明の熱膨張性耐火材によれば、耐火性に優れる熱膨張性耐火材を提供することができる。さらに、以下の[13]~[15]に記載の発明によっても、膨張倍率の高く、耐火性に優れる熱膨張性耐火材が得られる。
[13]エチレン-酢酸ビニル共重合体及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、190℃におけるメルトフローレート(MFR)が、8.0g/10min以下である低MFR成分を含有する、熱膨張性耐火材。
[14]エチレン-酢酸ビニル共重合体及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体が、酢酸ビニル含量が20質量%以上である、高Vac-EVA成分を含有する、熱膨張性耐火材。
[15]エチレン-酢酸ビニル共重合体及び熱膨張性黒鉛を含有する耐火材であって、さらに架橋剤を含有する、熱膨張性耐火材。
【0065】
なお、上記[13]~[15]に規定する各成分の詳細については、上記した通りであり、さらに[13]~[15]に規定していない任意の成分についても、上記したものが特に制限なく使用することができる。
【0066】
(耐火材の製造方法)
本発明の耐火材は例えば下記のようにして製造することができる。
まず、所定量の熱膨張性黒鉛、マトリックス樹脂、必要に応じて配合される可塑剤、難燃剤、架橋剤、無機充填材、及びその他の成分を、混練ロールなどの混練機で混練して、耐火性樹脂組成物を得る。
次に、得られた耐火性樹脂組成物を、例えば、プレス成形、カレンダー成形、押出成形等、公知の成形方法によりシート状などに成形することで耐火材を得ることができる。
混練する際の温度及びシート状に成形する温度は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満であることが好ましく、架橋剤を配合する場合は、架橋剤が架橋し難い温度であることが好ましい。そのため、混練する温度は、70~150℃が好ましく、90~140℃がより好ましい。シート状に成形する温度は、80~130℃が好ましく、90~120℃がより好ましい。
【0067】
(耐火多層シート)
本発明の耐火材は、他のシート部材や粘着層が積層され耐火多層シートを構成してもよい。耐火多層シートは、例えば、基材と、基材の片面又は両面に積層される耐火材とを備える。
上記耐火多層シートは、例えば、耐火性樹脂組成物を基材の上にシート状に成形して得ることができる。
【0068】
また、耐火多層シートは、耐火材と粘着層を備えるものであってもよい。粘着層は、例えば、耐火材の片面又は両面に積層されてもよい。
さらに、耐火多層シートは、耐火材と、基材と、粘着層とを備えてもよい。そのような耐火多層シートは、基材の一方の面に耐火材、他方の面に粘着層が設けられてもよいし、基材の一方の面の上に、耐火材及び粘着層がこの順に設けられてもよい。粘着層は、例えば、離型紙に塗工した粘着剤を耐火多層シートに転写することで形成できる。
【0069】
以下、耐火多層シートの好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
本発明の耐火多層シートは、基材と、前記基材の一方の面に設けられる耐火材と、前記耐火材の前記基材が設けられた面と反対側の面に設けられる粘着層とセパレーターをこの順で備える。
図1は、本発明の耐火多層シートの一実施形態を示す。耐火材2が基材1の一方の面に設けられている。粘着層3が、耐火材2の基材1が設けられた面と反対側の面に設けられ、更に、セパレーター4が、粘着層3の耐火材2が設けられた面と反対側の面に設けられている。
【0070】
[基材]
本発明の耐火多層シートの基材は、例えば、織布、不織布、フィルムなどの形態であり、これらは熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー樹脂等により形成されるが、これらの中では熱可塑性樹脂により形成されることが好ましい。また、基材は、ガラス繊維、セラミック繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、熱硬化性樹脂繊維等により形成されてもよい。
基材の好ましい形態は、フィルムである。また、フィルムとして内部に空洞を有するフィルムも好適に使用できる。
【0071】
熱可塑性樹脂の具体例は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリペンテン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン等である。
前記した中では、耐火材との接着性の観点から、好ましい熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリ酢酸ビニルである。さらに、難燃性の観点から、ポリ塩化ビニルがより好ましい。また、内部に空洞を有するポリエチレンテレフタレートフィルムも好ましい。
【0072】
熱硬化性樹脂の具体例は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、尿素樹脂、ポリイミドである。
【0073】
エラストマー樹脂の具体例は、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、クルルスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリイソブチレンゴム、塩化ブチルゴムである。
前記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー樹脂の1種又は2種以上が使用される。
【0074】
基材の厚みは耐火多層シートの厚みの1~20%である。基材の厚みが耐火多層シートの厚みの1%未満であると、基材が耐火材を支持しきれず、破損するおそれがある。また、基材の厚みが耐火多層シートの厚みの20%を超えると、耐火多層シートが湾曲する際、基材と耐火材の剥離と、基材への皺の発生が起き、耐火多層シートの外観が悪化するおそれがある。
【0075】
基材の厚さは、例えば10~500μmであり、好ましくは20~450μmであり、更に好ましくは30~400μmである。基材の絶対的な厚さを下限値以上とすることで、耐火材を支持する強度を基材に付与できる。また、上限値以下とすることで、基材の厚さが必要以上に厚くなることを防止し、耐火多層シートがドアなどの建材として利用しやすくなる。
【0076】
基材の引張伸びは、例えば5%以上であり、好ましくは15%以上であり、更に好ましくは30%以上である。基材の引張伸びを下限値以上とすることで、耐火多層シートが湾曲する際、耐火多層シートに生じる応力が小さくなり、基材と耐火材の剥離と基材への皺の発生が防止される。基材の引張伸びは、耐火材の支持に求められる強度の観点から、例えば、100%以下であり、好ましくは50%以下である。
【0077】
基材と耐火材の接着強度は、例えば5N/10mm以上であり、好ましくは25N/10mm以上であり、更に好ましくは50N/10mm以上である。基材と耐火材の接着強度を下限値以上とすることで、耐火多層シートが湾曲する際、基材と耐火材の剥離と基材への皺の発生が防止される。基材と耐火材の接着強度を下限値以上とするには、例えば、接着する際の加工温度を上げる、プレスするときの圧力を上昇させるなどが考えられる。基材と耐火材の接着強度の上限は、例えば200N/10mmであり、好ましくは100N/10mmである。
【0078】
[耐火材]
耐火材の厚さは、例えば、1000~3000μm、好ましくは1200~3000μm、より好ましくは1400~2700μm、更に好ましくは1500~2500μmである。耐火材の厚さを下限値以上とすることで、耐火多層シートに適切な耐火性を容易に付与できる。また、上限値以下とすることで、耐火材の厚さが必要以上に厚くなることを防止し、ドア部材などの建材として利用しやすくなる。
【0079】
[粘着層]
本発明の耐火多層シートは、耐火材の基材が設けられた面と反対側の面に粘着層、セパレーターを順次備える。
粘着層は、粘着剤により形成された層のみからなる単層(以下粘着剤層ともいう)でもよいし、両面粘着テープ用基材の両表面に粘着剤層が設けられた両面粘着テープでもよいが、粘着剤層からなること好ましい。なお、両面粘着テープは、その一方の粘着剤層が耐火材又はセパレーターに貼り合わせられることで、粘着層を構成することになる。
粘着剤層を構成する粘着剤は、特に制限されず、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。粘着層の厚みは、特に限定されないが、例えば、10~500μm、好ましくは50~200μmである。
両面粘着テープ用基材としては、一般の両面粘着テープに用いられる基材であれば特に制限されないが、例えば、不織布、和紙等の紙、天然繊維、合成繊維等からなる織布、ポリエステル、ポリオレフィン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、アセテート等からなる樹脂フィルム、フラットヤーンクロスなどが挙げられる。
【0080】
[セパレーター]
セパレーターは、例えば、セパレーター用基材と、セパレーター用基材の少なくとも一方の面に設けられる離型層とを備えるものを使用する。離型層は、セパレーター用基材に剥離処理を施すことで形成できる。セパレーターは、離型層が設けられた面が粘着層に接触するように配置させるとよい。また、セパレーターは、セパレーター用基材の両面が剥離処理されて、両面に離型層が設けられてもよい。
離型層は、特に制限されないが、例えば、有機樹脂で構成される。有機樹脂は、シリコーン樹脂ではないこと、シロキサン結合を有さないことが好ましい。有機樹脂としては、剥離剤として公知のものを使用でき、例えば、フッ素系樹脂、長鎖アルキル含有樹脂、アルキド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ゴム系エラストマーなどを使用できる。
セパレーター用基材としては、樹脂フィルム、紙などを使用できる。樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はエラストマー樹脂などから形成されるとよい。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はエラストマー樹脂の具体例としては、樹脂フィルムで列挙されたものを使用できるが、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0081】
セパレーターの厚みは耐火多層シートの厚みの0.3~10%である。セパレーターの厚みが耐火多層シートの厚みの0.3%未満であると、セパレーターが破損するおそれがある。また、セパレーターの厚みが耐火多層シートの厚みの10%を超えると、耐火多層シート湾曲する際、耐火材とセパレーターの剥離と、セパレーターへの皺の発生が起き、耐火多層シートの外観が悪化するおそれがある。
【0082】
セパレーターの厚さは、例えば1~200μmであり、好ましくは2~150μmであり、更に好ましくは5~100μmである。セパレーターの絶対的な厚さを下限値以上とすることで、破損しない強度をセパレーターに付与できる。また、上限値以下とすることで、耐火多層シートが湾曲する際、耐火材とセパレーターの剥離と、セパレーターへの皺の発生を防止できる。
【0083】
セパレーターの引張伸びは、例えば1%以上であり、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、更に好ましくは15%以上である。基材の引張伸びを下限値以上とすることで、耐火多層シートが湾曲する際、耐火多層シートに生じる応力が小さくなり、耐火材とセパレーターの剥離とセパレーターへの皺の発生が防止される。セパレーターの引張伸びは、セパレーターに求められる強度の観点から、例えば、200%以下であり、好ましくは100%以下である。
【0084】
本発明では、上記粘着層とセパレーターに加えて、更に、粘着層とセパレーターが、基材の耐火材が設けられた面と反対の面にこの順で設けられていてよい。
図2は、その場合の耐火多層シートの一実施形態を示す。耐火材2が基材1の一方の面に設けられている。粘着層3が、耐火材2の基材1が設けられた面と反対側の面に設けられ、更に、セパレーター4が、粘着層3の耐火材2が設けられた面と反対側の面に設けられている。粘着層3’が、基材1の耐火材2が設けられた面と反対の面に設けられ、更に、セパレーター4’が、粘着層3’の基材1が設けられた面と反対側の面に設けられている。粘着層3’を構成する粘着剤、粘着層3’の厚みは、粘着層3のものと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。また、セパレーター4’を構成する材料、セパレーター4’の厚みも、セパレーター4のものと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは同一である。なお、セパレーター4’の厚みは耐火多層シートの厚みの0.3~8%である。
【0085】
[耐火多層シートの製造方法]
本発明の耐火多層シートの製造方法は、特定の製造方法に限定されない。本発明の耐火多層シートの製造方法の一実施態様は、以下のとおりである。基材、耐火性樹脂組成物が押出成形、カレンダー成形等により成形された耐火材、両面粘着テープ、セパレーターを、それぞれローラーから繰り出して、この順で積層して熱プレスし、長尺の耐火多層シートをローラーに巻き取る。
本発明の耐火多層シートの製造方法の別の一実施態様は、以下のとおりである。基材、耐火性樹脂組成物が押出成形、カレンダー成形等により成形された耐火材、セパレーターを、それぞれローラーから繰り出す。その際、耐火材又はセパレーターの片面に粘着剤を塗布して粘着剤層を形成する。ついで、これらをこの順で積層して熱プレスし、長尺の耐火多層シートをローラーに巻き取る。
本発明の耐火多層シートの製造方法の更に別の一実施態様は、以下のとおりである。基材、耐火性樹脂組成物が押出成形、カレンダー成形等により成形された耐火材、片面に粘着剤層が設けられたセパレーターを、それぞれローラーから繰り出す。その際、セパレーターに設けられた粘着剤層は耐火材側に向いている。これらをこの順で積層して熱プレスし、長尺の耐火多層シートをローラーに巻き取る。
上記の実施態様のそれぞれにおいて、押出成形、カレンダー成形等によりフィルム状に成形された耐火性樹脂組成物が基材上に積層されて得られる、基材と耐火材からなる積層体が使用されてもよい。
【0086】
巻き取られた耐火多層シートは別の場所に移動され、耐火多層シートを平坦化して耐火多層シートの長さ方向に切り込みを入れる工程等の耐火多層シートへの後処理が施されることがある。これら一連の工程中に、耐火多層シートは、
図3に示されるように、パイプ状のパス5、5’を通過する。その際、パスにおける内外径差により応力が生じるが、本発明の耐火多層シートの基材、セパレーターのそれぞれの剥離は防止され、基材、セパレーターのそれぞれに皺が発生しにくく、耐火多層シートの外観の悪化が防止される。
【0087】
このようにして構成した耐火多層シートは、耐火多層シートが湾曲しても、基材、セパレーターのそれぞれの剥離と、基材、セパレーターのそれぞれへの皺の発生を防止することができる。
【0088】
本発明の耐火材は、及びこれを用いた耐火多層シートは、具体的には、一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設等の各種の建具、自動車、電車などの各種車両、船舶、航空機などに使用できるが、これらの中では建具に使用されることが好ましい。建具としては、具体的には、壁、梁、柱、床、レンガ、屋根、板材、窓、障子、扉、ドア、戸、ふすま、欄間、配線、配管などに使用することができるが、これらに限定されない。本発明の耐火材は、及びこれを用いた耐火多層シートは、特に、窓、扉、ドアなどの建具の隙間に適用することで、火災等の際に炎が隙間を通過して侵入するのを防止することができる。
【実施例】
【0089】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0090】
[評価方法]
(I)膨張圧力
以下の手順で、膨張圧力を測定した。
(1)各実施例、及び比較例の耐火材を所定のサイズとした(厚み1.8mm、幅25mm、長さ25mm)
(2)ホットプレートと、ホットプレートの表面から1.2cm離れた位置にフォースゲージ(マキタ社製、「ZTA-500N」)を設置した。治具は直径1.6cm(面積2cm2)のプレート状治具を用いた。
(3)ホットプレート表面を500℃に加熱して、該ホットプレートの表面に上記シート状の耐火材を置き、さらに耐火材の上にセラミック製の板(材質はケイ酸カルシウム、厚さ2mm、幅30mm、長さ30mm)を配置した。
(4)上記耐火材をホットプレート上で、500℃にて、250秒間加熱したときに、フォースゲージで測定される最大の応力を、治具の面積で除した値を膨張圧力とした。
【0091】
(II)膨張倍率
膨張倍率は、各実施例、及び比較例の耐火材を所定のサイズにした(厚み1.8mm、幅25mm、長さ25mm)。該所定のサイズの耐火材をステンレス製の板(98mm角・厚み0.3mm)の底面に設置し、電気炉に供給し600℃で30分間加熱させた。加熱後の耐火材の厚さを加熱前の耐火材の厚さで除することにより、膨張倍率を求めた。
【0092】
(III)耐火時間
ケイ酸カルシウム板(日本インシュレーション社製)で作製したドアと、ドア枠とからなる耐火時間評価用ドア部材を作製した。該耐火時間評価用ドア部材のドアの側面と、ドア枠とは1cmの隙間が空いている。ドアの側面に、所定のサイズにした各実施例及び比較例の耐火材(厚み1.8mm、幅25mm、長さ1000mm)を取り付けた。次いで耐火炉にて、ISO834の標準加熱曲線に従って加熱して、耐火材が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。剥がれ落ちるまでの時間が長いほど、耐火性に優れた耐火材である。以下の基準で評価した
A:剥がれ落ちるまでの時間が90分以上
B:剥がれ落ちるまでの時間が75分以上90分未満
C:剥がれ落ちるまでの時間が60分以上75分未満
D:剥がれ落ちるまでの時間が60分未満
【0093】
(IV)成形性
ロールで混錬する際、硬すぎて流動しなかったり、柔らかすぎて流れやすくなり、形を保つことが出来なかったりすると収率が悪化する。成形性は、投入した材料のうち、混錬後シート状態で取り出せた収率で下記の通りで判定した。
A:90%以上
B:70%以上90%未満
C:50%以上70%未満
D:50%未満
【0094】
(V)粘度
耐火材に含まれるポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を、各実施例、比較例における耐火材中の配合比率で混合した混合物を150℃で混練した後、130℃でプレスすることにより、厚み1.8mmのシート状の試料を得た。その後そのシートを直径20mmの円状に切り出し、300℃における粘度をレオメーター(HAAKE社製「MarsIII」)により下記条件で測定した。
測定温度範囲:50~400℃
昇温速度:10℃/分
ひずみ周波数:10Hz
【0095】
(VI)巻き取り時外観
実施例及び比較例で作成した耐火多層シートをロールに巻き取った後、巻き取られた耐火多層シートを平坦化して1mの試験片を切り出した。前記試験片の外観を、基材及びセパレーターに皺、剥がれを全く目視できない場合を「A」、基材及びセパレーターに1~5か所の皺、剥がれを目視できる場合を「B」、基材及びセパレーターに6~10か所の皺、剥がれを目視できる場合を「C」、基材及びセパレーターに11か所以上の皺、剥がれを目視できる場合を「D」と評価した。
【0096】
(VII)基材、セパレーターの引張伸び
引張伸びは、JIS K 7113に準拠してAUTOGRAPH(島津製作所製、AGS-J)を用い、引張速度20mm/分で引張り、破断時の伸びを測定して求めた。
【0097】
(VIII)基材と耐火材の接着強度
接着強度は、JIS Z 0237に準拠してAUTOGRAPH(島津製作所製、AGS-J)を用い、180℃ピール試験を引張速度100mm/分の条件にて実施して測定した。
【0098】
各実施例、比較例で使用した各種成分は以下のとおりである。
(熱可塑性樹脂)
1.エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)
・EVA(1) 三井・ダウポリケミカル株式会社製「EV180」
190℃におけるMFR:0.2g/10min
酢酸ビニル含量:33質量%
・EVA(2) 三井・ダウポリケミカル株式会社製「EV260」
190℃におけるMFR:6.0g/10min
酢酸ビニル含量:28質量%
・EVA(3) 三井・ダウポリケミカル株式会社製「V422」
190℃におけるMFR:0.9g/10min
酢酸ビニル含量:20質量%
・EVA(4) 三井・ダウポリケミカル株式会社製「EV550」
190℃におけるMFR:15g/10min
酢酸ビニル含量:14質量%
【0099】
2.ポリ塩化ビニル樹脂
・PVC(1) 信越化学工業株式会社製「TK1000」
平均重合度:1000
・PVC(2) 大洋塩ビ株式会社製「TH-500」
平均重合度:500
【0100】
3.ゴム
・クロロプレン1 東ソー株式会社製「スカイプレンTSR-56」
100℃におけるムーニー粘度ML(1+4):70
・クロロプレン2 東ソー株式会社製「スカイプレン640」
100℃におけるムーニー粘度ML(1+4):85
・SBR JSR株式会社製「JSR1500」
・NBR 日本ゼオン社製「Nipol1043」
・BR JSR株式会社製「BR-01」
【0101】
(熱膨張性黒鉛)
・熱膨張性黒鉛 ADT社製「ADT351」
平均アスペクト比:21.3
【0102】
(難燃剤)
・亜リン酸アルミニウム 太平化学産業株式会社製「APA100」
・ポリリン酸アンモニウム クラリアントケミカルズ社製「AP422」
・エチレンジアミンリン酸塩 AM-GARD社製「AMGARD EDAP」
【0103】
(固形可塑剤)
・エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体 デュポン社製「エルバロイ742」
エチレン含量62質量%、酢酸ビニル含有量28質量%、一酸化炭素共重合体含有量10質量%
【0104】
(液体可塑剤)
・ジイソデシルフタレート 株式会社ジェイ・プラス製「DIDP」
・アジピン酸エーテルエステル系 (株)ADEKA製「アデカサイザーRS-107」
【0105】
(架橋剤)
・ジクミルパーオキサイド 日本油脂株式会社製「パークミルD」
【0106】
(無機充填剤)
・炭酸カルシウム 備北粉化工業社製「BF300」
平均粒子径 8μm
・酸化鉄 チタン工業株式会社製
【0107】
(その他成分)
加工助剤 三菱レーヨン社製「P530」
加工助剤 塩素化ポリエチレン 威海金弘社製「CPE135A」
加工助剤 水澤化学社製「スタビネックスNT-231」
【0108】
(実施例1~11、比較例1)
表1に示す配合にて、熱可塑性樹脂、熱膨張性黒鉛、難燃剤、及び架橋剤をロールに投入して、120℃で5分間混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、100℃で3分間プレス成形して、厚さ1.8mmのシート状の耐火材を得た。評価結果を表1に示した。
【0109】
【0110】
(実施例12~20、比較例2)
表2に示す配合にて、熱可塑性樹脂、熱膨張性黒鉛、可塑剤、難燃剤、無機充填剤、及びその他成分をロールに投入して、150℃で10分間混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、130℃で3分間プレス成形して、厚さ1.8mmのシート状の耐火材を得た。評価結果を表2に示した。
【0111】
【0112】
(実施例21~38、比較例3)
表3及び表4に示す配合にて、ゴム、熱膨張性黒鉛、可塑剤、及び難燃剤をロールに投入して、150℃で10分間混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、150℃で3分間プレス成形して、厚さ1.8mmのシート状の耐火材を得た。評価結果を表3及び表4に示した。
【0113】
【0114】
【0115】
以上の実施例に示すように、マトリックス樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有し、かつ膨張圧力が一定値以上である耐火材は、耐火時間が長く、耐火性に優れることが分かった。
これに対して、膨張圧力が一定値未満である、各比較例の耐火材は、耐火時間が短く、耐火性に劣ることが分かった。
【0116】
(実施例39~47)
表1に示す実施例1の耐火材を形成するための耐火性樹脂組成物を、一軸押出機に供給し、150℃で押出成形して、ロールから繰り出される、表5に示した基材上に積層することで、表5に示した厚さの基材と耐火材を備える積層体を形成した。ついで、ロールから繰り出される、表5に示したセパレーター上に厚さ100μmのアクリル系粘着剤層が形成されている積層体と、基材と耐火材を備える前記積層体を、耐火材とアクリル系粘着剤層が接するように積層して熱プレスし、作成された耐火多層シートをロールに巻き取り、前記される各物性を評価、測定した。結果を表5に示す。
【0117】
【0118】
なお、表5中の基材、粘着層、及びセパレーターは以下のものを使用した。
[基材]
PVC1:ポリ塩化ビニルフィルム(厚み200μm)、アキレス社製、片面コロナ処理有り
PVC2:ポリ塩化ビニルフィルム(厚み200μm)、日本カーバイド工業社製、コロナ処理なし
PVC3:ポリ塩化ビニルフィルム(厚み50μm)、日本カーバイド工業社製、コロナ処理なし
PVC4:ポリ塩化ビニルフィルム(厚み350μm)、日本カーバイド工業社製、コロナ処理なし
PET1:ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み200μm)、東洋紡社製クリスパー、コロナ処理なし
[粘着層]
アクリル系粘着剤:綜研化学社製SKダイン
[セパレーター]
PET1:ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み25μm)、東洋紡社製クリスパー
PET2:ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み10μm)、東洋紡社製クリスパー
PET3:ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み200μm)、東洋紡社製クリスパー
PP1:ポリプロピレンフィルム(厚み30μm)、フタムラ化学社製
PP2:ポリプロピレンフィルム(厚み120μm)、フタムラ化学社製
紙1:剥離紙(厚み50μm)、住化加工紙社製スミリーズ
上記全てのセパレーターとして、フッ素系樹脂離型剤により粘着層に接する面に離型処理が行われているものを使用した。
【0119】
以上の各実施例に示すように、耐火多層シートは、基材と、基材の一方の面に設けられる耐火材と、耐火材の基材が設けられた面と反対側の面に設けられる粘着層とセパレーターを備え、基材及びセパレーターの耐火多層シートに対する厚みが特定の範囲とされている。耐火多層シートを湾曲しても、基材と耐火材の剥離、耐火材とセパレーターの剥離が防止され、基材及びセパレーターに皺が発生しにくくなり、建材として使用可能な耐火多層シートの外観が良好に維持された。
【符号の説明】
【0120】
1・・・基材、2・・・耐火材、3、3’・・・粘着層、4、4’・・・セパレーター、5、5’・・・パス