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特許7503048アルミニウム材の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】アルミニウム材の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C25C 3/06 20060101AFI20240612BHJP
   C25C 3/12 20060101ALI20240612BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20240612BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C25C3/06 Z
C25C3/12 A
C25C7/06 302
C22C21/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021509083
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011413
(87)【国際公開番号】W WO2020196013
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019054223
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「革新的新構造材料等研究開発、アルミニウム材新製造プロセス技術開発」の委託研究成果について、産業技術力強化法第19条の適用を受けようとする特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】布村 順司
(72)【発明者】
【氏名】本川 幸翁
(72)【発明者】
【氏名】兒島 洋一
(72)【発明者】
【氏名】津田 哲哉
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特許第085626(JP,C2)
【文献】特開2014-077188(JP,A)
【文献】特開昭64-017886(JP,A)
【文献】国際公開第2009/007440(WO,A2)
【文献】Jun-li XU,Current efficiency of recycling aluminum from aluminum scraps by electrolysis,Transactions of Nonferrous Metals Society of China,Volume 24, Issue 1,2014年01月,Pages 250-256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 3/06
C25C 3/12
C25C 7/06
C22C 21/02
C22C 21/06
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液中に、Si:1.0~30質量%、Fe:0~1.8質量%、Cu:0~5.0質量%、Mg:0~10.5質量%、Mn:0~1.5質量%、Zn:0~3.0質量%、Ni:0~0.55質量%、Ti:0~0.3質量%、Pb:0~0.35質量%、Sn:0~0.3質量%、Cr:0~0.15質量%、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含有し、かつ板状または平均粒径が1~100mmの粒子の集合体であるアノード電極と、カソード電極とを浸漬させた電解槽を準備する工程と、
電解液中のアノード電極とカソード電極に通電して、前記カソード電極上にアルミニウムを析出させる工程であって、前記アノード電極の表面のSi面積率が90%以下である工程と、
を有するアルミニウム材の製造方法。
【請求項2】
アルキルイミダゾリウムハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物とを含有する溶融塩を含む電解液中に、Si:1.0~30質量%、Fe:0~1.8質量%、Cu:0~5.0質量%、Mg:0~10.5質量%、Mn:0~1.5質量%、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含有し、かつ板状または平均粒径が1~100mmの粒子の集合体であるアノード電極と、カソード電極とを浸漬させた電解槽を準備する工程と、
電解液中のアノード電極とカソード電極に通電して、前記カソード電極上にアルミニウムを析出させる工程であって、前記アノード電極の表面のSi面積率が90%以下である工程と、
を有するアルミニウム材の製造方法。
【請求項3】
電解液を収容した電解槽と、
前記電解槽内に浸漬させた、Si:1.0~30質量%、Fe:0~1.8質量%、Cu:0~5.0質量%、Mg:0~10.5質量%、Mn:0~1.5質量%、Zn:0~3.0質量%、Ni:0~0.55質量%、Ti:0~0.3質量%、Pb:0~0.35質量%、Sn:0~0.3質量%、Cr:0~0.15質量%、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含有し、かつ板状または平均粒径が1~100mmの粒子の集合体であるアノード電極と、
前記電解槽内に浸漬させたカソード電極と、
前記アノード電極とカソード電極間に電圧を印加することが可能な電圧印加手段と、
を有するアルミニウム材の製造装置。
【請求項4】
電解液を収容した電解槽と、
前記電解槽内に浸漬させた、Si:1.0~30質量%、Fe:0~1.8質量%、Cu:0~5.0質量%、Mg:0~10.5質量%、Mn:0~1.5質量%、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含有し、かつ板状または平均粒径が1~100mmの粒子の集合体であるアノード電極と、
前記電解槽内に浸漬させたカソード電極と、
前記アノード電極とカソード電極間に電圧を印加することが可能な電圧印加手段と、
を有するアルミニウム材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用のアルミニウム合金の生産が飛躍的に増大すると同時に、該アルミニウム合金スクラップの発生量が増大し、その処理方法が懸念されている。従来、アルミニウム合金スクラップの大半は、ダイカスト用などの2次合金の用途に用いられていた。しかし、今後は内燃機関を有する自動車の生産量は減少していくと予想され、アルミニウム合金製エンジンの素材であるダイカスト用の2次合金としての需要も減っていく可能性が高い。そのため、アルミニウム合金スクラップをダイカスト用の2次合金以外の用途にも使用可能とする必要があった。従って、アルミニウム合金スクラップのアルミニウム純度を高くすることが望まれていた。しかしながら、一般的にアルミニウム合金スクラップ中に多く含まれるSiを効率よく除去して高純度のアルミニウム材を得る技術は、これまでに提案されていなかった。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2003-277837号公報)には、自動車用アルミニウム展伸材のリサイクル方法が記載されている。しかし、特許文献1の方法はアルミニウム展伸材の多い部分を分別する工程を有するものの、アルミニウム展伸材をそのままリサイクルして利用することを想定したものであり、アルミニウムの純度を高くする工程は有していなかった。
【0004】
特許文献2(特表2009-541585号公報)には、航空機産業で用いられるアルミニウム合金を多く含有するスクラップを溶かした後、偏析させることにより、アルミニウムの純度を高くして再溶融ブロックを得る方法を開示する。しかし、特許文献2の方法では、アルミニウム合金の溶融・偏析のために、高温環境下での複雑な処理が必要となっていた。また、この方法により得られる再溶融ブロック中のアルミニウムの純度にも限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-277837号公報
【文献】特表2009-541585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来の方法では、アルミニウム合金スクラップ等のSi含量の多い材料から、高純度のアルミニウム材を簡易的に製造する、アルミニウム材の製造方法及び製造装置は十分に検討されていなかった。本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、Siを多く含む材料から高純度のアルミニウム材を簡易的に製造することが可能な、アルミニウム材の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願発明は以下の各実施態様を有する。
[1]電解液中に、0.01~30質量%のSi、およびAlを含有するアノード電極と、カソード電極とを浸漬させた電解槽を準備する工程と、
電解液中のアノード電極とカソード電極に通電して、前記カソード電極上にアルミニウムを析出させる工程と、
を有するアルミニウム材の製造方法。
[2]前記カソード電極上にアルミニウムを析出させる工程において、前記アノード電極の表面のSi面積率が90%以下である、上記[1]に記載のアルミニウム材の製造方法。
[3]前記電解液は、アルキルイミダゾリウムハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物とを含有する溶融塩を含む、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム材の製造方法。
[4]前記アノード電極は、Si:0.01~30質量%、Fe:1.8質量%以下、Cu:5.0質量%以下、Mg:10.5質量%以下、Mn:1.5質量%以下、Zn:3.0質量%以下、Ni:0.55質量%以下、Ti:0.3質量%以下、Pb:0.35質量%以下、Sn:0.3質量%以下、Cr:0.15質量%以下、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含み、
前記アノード電極は、板状または平均粒径が1~100mmの粒子の集合体である、上記[1]から[3]までの何れか1つに記載のアルミニウム材の製造方法。
[5]前記アノード電極は、Si:0.01~30質量%、Fe:1.8質量%以下、Cu:5.0質量%以下、Mg:10.5質量%以下、Mn:1.5質量%以下、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含み、
前記アノード電極は、板状または平均粒径が1~100mmの粒子の集合体である、上記[1]から[3]までの何れか1つに記載のアルミニウム材の製造方法。
[6]電解液を収容した電解槽と、
前記電解槽内に浸漬させた、0.01~30質量%のSi、およびAlを含有するアノード電極と、
前記電解槽内に浸漬させたカソード電極と、
前記アノード電極とカソード電極間に電圧を印加することが可能な電圧印加手段と、
を有するアルミニウム材の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
Si含量の多い材料から高純度のアルミニウム材を簡易的に製造することが可能な、アルミニウム材の製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例4における電解終了後のアノード電極表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図2図2は、一実施形態のアルミニウム材の製造装置を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.アルミニウム材の製造方法
一実施形態のアルミニウム材の製造方法は、(1)電解液中に、0.01~30質量%のSi、およびAlを含有するアノード電極と、カソード電極とを浸漬させた電解槽を準備する工程、(2)電解液中のアノード電極とカソード電極に通電して、カソード電極上にアルミニウムを析出させる工程、を有する。上記工程(2)では、カソード電極上にアルミニウムが電析することでアルミニウム材が得られる。従来から電解法によりアルミニウム材を製造する方法は提案されていたが、これらの方法は高純度の薄いアルミニウム箔を製造することを目的としたものであった。このため、従来の製造方法では、高純度のアルミニウム箔を得るために、アノード電極として高純度のアルミニウムを含有する材料を使用していた。これに対して、一実施形態のアルミニウム材の製造方法では、0.01~30質量%の高いSi含量を有する、低純度のアルミニウムの材料(アノード電極)から、高純度のアルミニウム材を得るものである。この点において、一実施形態のアルミニウム材の製造方法は、従来のアルミニウム箔の製造方法とは全く異なる。
以下では、一実施形態のアルミニウム材の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0011】
(1)電解槽を準備する工程
一実施形態の製造方法では、電解液中に、0.01~30質量%のSi、およびAlを含有するアノード電極と、カソード電極とを浸漬させた電解槽を準備する。すなわち、電解槽中に電解液が充填されており、該電解液中にアノード電極およびカソード電極が所定の位置関係で浸漬されたものを準備する。
以下では、工程(1)で使用する部材および条件を詳細に説明する。
【0012】
(アノード電極)
一実施形態で使用するアノード電極を構成する材料としては、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップを使用するのが好ましい。このような材料は低コストで調達できる。アノード電極を構成する材料が合金である場合の好ましいアルミニウム合金組成(アルミニウム合金の構成元素)について以下に説明する。
【0013】
(a)Si
Siは、鋳物材において母材強度の増加、熱膨張率の低下、鋳造性の向上のために添加される。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合などに、該アノード電極を構成する材料中にSiが含まれる。アノード電極を構成する材料中のSi含量が0.01質量%未満の場合、該アノード電極中のアルミニウム含量が元々、高純度であるため、一実施形態の製造方法において高純度のアルミニウム材を製造する必要性に乏しい。一方、アノード電極を構成する材料中のSi含量が30質量%を超える場合、アノード電極の表面上にSiが濃化してアノード電極の表面から電解液へのAlの溶解を阻害したり、アノード電極から電解液中にSiが溶解して電解液の汚染が生じる。従って、アノード電極が、Si含有量0.01~30質量%のSiと、Alとを含有する材料から構成されることにより、低純度のアルミニウム材料から高純度のアルミニウム材を得ることができる。アノード電極を構成する材料中のSi含量は0.1~25質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1.0~18質量%がさらに好ましい。
【0014】
(b)Fe
鋳物材において、Feは金型への焼付防止のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にFeが含まれる。アノード電極を構成する材料中のFe含量が1.9質量%以下、特に1.8質量%以下であることが好ましい。このようなFe含量であることにより、Feがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物がFeを含むことによって膜質が脆くなることを防止できる。アノード電極を構成する材料中のFe含量は0.006~1.5質量%が好ましく、0.03~1.2質量%がより好ましく、0.06~1.1質量%がさらに好ましい。
【0015】
(c)Cu
鋳物材において、Cuは母材強度の増加および切削性向上のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にCuが含まれる。アノード電極を構成する材料中のCu含量が5.1質量%以下、特に5.0質量%以下であることが好ましい。このようなCu含量であることにより、Cuがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物の平滑性を向上させて、Alの回収率を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のCu含量は0.017~4.0質量%が好ましく、0.08~3.3質量%がより好ましく、0.17~3.0質量%がさらに好ましい。
【0016】
(d)Mg
鋳物材において、Mgは母材強度の増加、耐食性向上等のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にMgが含まれる。アノード電極を構成する材料中のMg含量が10.6質量%以下、特に10.5質量%以下であることが好ましい。Mgは本来、Alよりも卑な金属元素であるため、他の金属イオンに誘起されてカソード電極のAl電析物中に取り込まれる傾向がある。しかし、上記のようなMg含量であることにより、カソード電極のAl電析物中に取り込まれるMg量を少なくして、Alの純度を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のMg含量は0.035~9.5質量%が好ましく、0.18~7.0質量%がより好ましく、0.35~6.3質量%がさらに好ましい。
【0017】
(e)Mn
鋳物材において、Mnは高温強度の向上のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にMnが含まれる。アノード電極を構成する材料中のMn含量が1.6質量%以下、特に1.5質量%以下であることが好ましい。Mnはカソード電極のAl電析物中に取り込まれる傾向がある。しかし、上記のようなMn含量であることにより、カソード電極のAl電析物中に取り込まれるMn量を少なくして、Alの純度を向上させることができる。また、Al電析物中のMn含量を少なくして、電析物の回収物を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のMn含量は0.005~1.2質量%が好ましく、0.025~1.0質量%がより好ましく、0.05~0.9質量%がさらに好ましい。
【0018】
(f)Zn
鋳物材において、Znは鋳造性の改良、Mgとの共存による機械的性質、機械加工性の向上のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にZnが含まれる。アノード電極を構成する材料中のZn含量が3.1質量%以下、特に3.0質量%以下であることが好ましい。このようなZn含量であることにより、Znがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物の平滑性を向上させて、Alの回収率を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のZn含量は0.010~2.5質量%が好ましく、0.05~2.0質量%がより好ましく、0.10~1.8質量%がさらに好ましい。
【0019】
(g)Ni
鋳物材において、Niは高温強度の向上、流動性、充填性向上のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にNiが含まれる。アノード電極を構成する材料中のNi含量が0.65質量%以下、特に0.55質量%以下であることが好ましい。このようなNi含量であることにより、Niがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物の平滑性を向上させて、Alの回収率を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のNi含量は0.002~0.45質量%が好ましく、0.009~0.40質量%がより好ましく、0.02~0.30質量%がさらに好ましい。
【0020】
(h)Ti
鋳物材において、Tiは結晶粒の微細化、熱間割れ防止、クリープ特性向上のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にTiが含まれる。アノード電極を構成する材料中のTi含量が0.4質量%以下、特に0.3質量%以下であることが好ましい。このようなTi含量であることにより、Tiがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物の平滑性を向上させて、Alの回収率を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のTi含量は0.001~0.25質量%が好ましく、0.005~0.2質量%がより好ましく、0.010~0.18質量%がさらに好ましい。
【0021】
(i)Pb
鋳物材において、Pbは切削加工性の向上のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にPbが含まれる。アノード電極を構成する材料中のPb含量が0.45質量%以下、特に0.35質量%以下であることが好ましい。このようなPb含量であることにより、Pbがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物の平滑性を向上させて、Alの回収率を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のPb含量は0.001~0.28質量%が好ましく、0.006~0.23質量%がより好ましく、0.01~0.21質量%がさらに好ましい。
【0022】
(j)Sn
鋳物材において、Snは切削加工性の向上、固体潤滑性の付与のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にSnが含まれる。アノード電極を構成する材料中のSn含量が0.4質量%以下、特に0.3質量%以下であることが好ましい。このようなSn含量であることにより、Snがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物の平滑性を向上させて、Alの回収率を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のSn含量は0.001~0.25質量%が好ましく、0.005~0.20質量%がより好ましく、0.010~0.18質量%がさらに好ましい。
【0023】
(k)Cr
鋳物材において、Crは応力腐食割れ防止、耐熱性向上のために添加する。このため、例えば、鋳物材等のアルミニウム合金スクラップをアノード電極に使用する場合には、該アノード電極を構成する材料中にCrが含まれる。アノード電極を構成する材料中のCr含量が0.25質量%以下、特に0.15質量%以下であることが好ましい。このようなCr含量であることにより、Crがカソード電極のAl電析物中に取り込まれにくくなり、回収されるAlの純度を向上させることができる。また、Al電析物の平滑性を向上させて、Alの回収率を向上させることができる。アノード電極を構成する材料中のCr含量は0.001~0.12質量%が好ましく、0.0025~0.10質量%がより好ましく、0.01~0.09質量%がさらに好ましい。
【0024】
以上のように、一実施形態の製造方法では、アノード電極を構成する合金成分が上記範囲内であることにより、高純度のアルミニウム材を安定的に製造することができる。一実施形態では、アノード電極は、Si:0.01~30質量%、Fe:1.8質量%以下、Cu:5.0質量%以下、Mg:10.5質量%以下、Mn:1.5質量%以下、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含むことができる。他の実施形態では、アノード電極は、Si:0.01~30質量%、Fe:1.8質量%以下、Cu:5.0質量%以下、Mg:10.5質量%以下、Mn:1.5質量%以下、Zn:3.0質量%以下、Ni:0.55質量%以下、Ti:0.3質量%以下、Pb:0.35質量%以下、Sn:0.3質量%以下、Cr:0.15質量%以下、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含むことができる。
【0025】
アノード電極の形状は電析に適したものであれば特に限定されないが、板状または粒子の集合体を用いることができる。なお、粒子には、破砕・粉砕した破片状、粒子状、または粉末状のものも含まれる。粒子の集合体から構成されるアノード電極を用いる場合、例えばSUS等のかご状の網を用意し、該網の中に粒子を充填することにより粒子の集合体からなるアノード電極を得ることができる。粒子の集合体を形成する各々の粒子の平均粒径は200mm以下、特に1~100mmであることが好ましく、10~80mmであることがより好ましい。なお、アノード電極を構成する粒子が非球形の場合、該粒子の平均粒径は、粒子の断面における(長径+短径)/2によって算出される。アノード電極を構成する粒子の平均粒径が上記範囲内であることにより、アノード電極全体の表面積を大きくすることができると共に、かご状の網から粒子がすり抜けてアノード電極として機能しなくなることを防止できる。さらに、上記平均粒径の範囲内であることにより、浴中に溶解して蓄積されるSi以外の不純物元素を粒子表面で起こる置換反応で効率的にトラップできるため、カソード電極側で高純度のアルミニウムを電析できる。また、比較的、大きなメッシュのかご状の網を用意すればよいためコスト増加を防止すると共に、効率的にアルミニウムの電析を行うことができる。さらに、アルミニウム製の網をかご状にしたものを用いるとアノード電極を構成する材料であるAl合金中に含まれる合金添加元素や不可避不純物を置換反応でトラップする効果もある。このため、アルミニウム製のかご状網を用いることが好ましい。
【0026】
(カソード電極)
カソード電極を構成する材料はAlを電析可能なものであれば特に限定されないが、例えば、白金、金、銅等の金属材料、チタン、ニッケル、ステンレス等の不働態被膜(酸化被膜)を有する金属材料などを用いることができる。カソード電極として不働態被膜(酸化被膜)を有する金属材料を用いる場合、アルミニウムとの密着性の低さを利用して、カソード電極の表面から連続的に電析したアルミニウム材を剥離させて回収することができる。また、カソード電極を構成する材料は上記の金属材料に限定されるものではなく、カーボン、導電性を付与したプラスチック材料等も用いることができる。また、カソード電極の形状は特に限定されないが例えば、ドラム状、板状などの形状を挙げることができる。カソード電極上に連続的にアルミニウム材を電析可能なことから、ドラム状のカソード電極を用いることが好ましい。
【0027】
(電解液)
アルミニウムは、標準電極電位が-1.662Vvs.SHE(標準水素電極)である。このため、通常、アルミニウムを水溶液から電析させることは不可能である。一実施形態のアルミニウム材の製造方法では、アルミニウムを電析させるための電解液として特定組成のものを用いることが好ましい。この電解液としては、アルミニウム塩を含む混合物である溶融塩、或いは、アルミニウム塩が溶解した有機溶媒を用いることが好ましい。溶融塩は、無機系溶融塩と有機系室温型溶融塩に大別することができる。一実施形態では、有機系室温型溶融塩として、アルキルイミダゾリウムハロゲン化物と、アルミニウムハロゲン化物とを含有する溶融塩を用いることが好ましい。アルキルイミダゾリウムハロゲン化物は、例えばアルキルイミダゾリウムクロリドであって、具体的に1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(以下、「EMIC」と記す)が挙げられる。また、アルミニウムハロゲン化物としては、具体的に塩化アルミニウム(以下、「AlCl」と記す)が挙げられる。EMICとAlClとの混合物は、組成によっては融点が-50℃付近まで低下する。そのため、より低温の環境でアルミニウムの電析を実施することができる。EMICに代えて1-ブチルピリジニウムクロリド(以下、「BPC」と記す)を用いても、EMICと同様にアルミニウムの電析を実施することができる。このように、EMICに代表されるアルキルイミダゾリウムクロリド又はBPCに代表されるアルキルピリジニウムクロリドと、塩化アルミニウムに代表されるアルミニウムハロゲン化物とで構成される有機系室温型溶融塩を、アルミニウム電析用の電解液として好適に用いることができる。電解液の粘度及び導電率の観点から、EMICとAlClとの組み合わせが最も好ましい。なお、EMICとAlClとのモル比(EMIC:AlCl)は、2:1~1:2とするのが好ましく、1:1~1:2とするのがより好ましい。
【0028】
(添加剤)
一実施形態の製造方法では、上記溶融塩に、添加剤として1,10-フェナントロリンを添加することが好ましい。電解液中の1,10-フェナントロリン濃度は1~100mMであることが好ましく、より好ましくは5~50mMである。電解液中に1,10-フェナントロリンを添加することにより、アルミニウム材中のアルミニウムの結晶粒を小さくしてアルミニウム材の機械的強度を増加させることができる。これにより、アルミニウム材の断裂や、カソード電極からのアルミニウム材の脱落が防止され、アルミニウム材の回収率を改善することができる。電解液中の1,10-フェナントロリン濃度が1mM以上であると、アルミニウム材の表面の平滑化の効果を大きくすることができる。また、電解液中の1,10-フェナントロリン濃度が100mM以下であるとアルミニウム膜が硬くなったり脆くなることがなく、カソード電極からのアルミニウム材の脱落が防止されるため、アルミニウム材の回収率を改善することができる。なお、電解液中には、1,10-フェナントロリン以外の他の添加剤を適宜、添加することもできる。他の添加剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンが挙げられる。
【0029】
(2)カソード電極上にアルミニウムを析出させる工程
一実施形態の製造方法では、電解液中のアノード電極とカソード電極に通電して、カソード電極上にアルミニウムを析出させる。この工程では、カソード電極上にアルミニウムが電析する。
以下では、この工程の条件を詳細に説明する。
【0030】
(アノード電極の表面のSi面積率)
アノード電極の表面のSi面積率は95%以下、特に90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。工程(2)におけるアノード電極の表面のSi面積率が上記範囲内であることにより、アノード電極から電解液中へSiが溶解して電解液が汚染されることを効果的に防止できる。なお、アノード電極の表面のSi面積率は、後述する実施例に記載の方法によって測定する。
【0031】
(電解液の温度)
電解時の電解液の温度は25~200℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは50℃~150℃の範囲内である。電解液の温度が25℃以上であると電解液の粘度及び抵抗が低くなり、均一な膜厚のアルミニウム材を得ることができる。このため、特にカソード電極表面の凸部等の特定部位にアルミニウムの析出が進行してデンドライトが形成され、これが脱落してアルミニウムの回収率を下げることを防止できる。また、電解液の温度が200℃以下であると、電解液を構成する化合物の揮発や分解により電解液の組成が不安定になることを防止できる。特に、EMICとAlClとを含有する溶融塩を電解液として用いた場合の電解液の温度が200℃以下であると、AlClの揮発と、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンの分解を抑制できると共に、電解液の温度を保持するためのエネルギーも小さくすることができる。また、電解槽の劣化を抑制できるため、生産効率を向上させることができる。
【0032】
(電流密度)
電流密度は、好ましくは1~400mA/cm、より好ましくは10~200mA/cmである。電析速度は電流密度に対応するため、1mA/cm以上の電流密度にすることで電析速度を速くして生産効率を向上させることができる。また、電析したアルミニウムの特定の部位のみが厚くなったり、その他の大部分の膜厚が薄くなって成膜効率(平均膜厚/時間)が悪化することを防止できる。電流密度を400mA/cm以下とすることで安定的にアルミニウムの電析を行うことができると共に、適度な電析速度を保つことができ、電析するアルミニウム材の膜厚を均一にすることができる。
【0033】
(電解液の撹拌)
電解時には、アノード電極とカソード電極の間に、流速50~250cm/minの不活性ガスを吹き込み、不活性ガスで電解液のバブリングを行うことが好ましい。不活性ガスとしては電解液と反応せず本発明の効果に影響を及ぼさないガスであれば特に限定されないが例えば、アルゴン、窒素などを用いることができる。バブリングにより所定の流速で電解液を撹拌することにより、カソード電極上への、アルミニウムの析出に必須な物質輸送を促すことができる。この際、不活性ガスの流速は、アノード電極とカソード電極を2つの面とする空間内を不活性ガスが通過すると仮定して、不活性ガスの流量(L/min)を該空間の断面積で除して算出することができる。なお、アノード電極およびカソード電極が板状の場合、アノード電極およびカソード電極の互いに対向する面を2つの面とする空間の断面積で、不活性ガスの流量を除することにより、不活性ガスの流速を算出する。また、カソード電極がドラム状、アノード電極が板状の場合、カソード電極のドラムの投影面と該ドラムに対向するアノード電極の面を2つの面とする空間の断面積で、不活性ガスの流量を除することにより、不活性ガスの流速を算出する。アノード電極とカソード電極の互いに対向する面の面積が異なる場合、上記の断面積は、アノード電極およびカソード電極間の中間地点における上記空間の断面の面積とする。不活性ガスの流速が50cm/min以上の場合、カソード電極表面の凸部等の特定部位にアルミニウムの析出が進行してデンドライトを形成し、これが脱落してアルミニウムの回収率を下げることを防止できる。また、電解液の撹拌状態は結晶粒や表面粗さにも影響し、不活性ガスの流速が50cm/min以上の場合、電析したアルミニウム中のアルミニウム結晶粒の形状の均一性、およびアルミニウムの表面粗さを向上させることができる。不活性ガスの流速が250cm/min以下の場合、アルミニウムのカソード電極からの剥離を防止し、正常な成膜を促進することができると共に、アルミニウム中のアルミニウム結晶粒の形状の均一性、およびアルミニウムの表面粗さを向上させることができる。結果的に、アルミニウムの回収率を向上させることができる。なお、電解液の撹拌方法はバブリングに限定されるわけではなく、ジェット噴流等も利用可能である。
【0034】
(3)アルミニウム材を回収する工程
一実施形態の製造方法では、追加の工程として、上記工程(2)の後に、アルミニウム材を回収する工程を有してもよい。この工程では、析出したアルミニウム材をカソード電極の表面から剥離させ、剥離したアルミニウム材を回収ドラムに巻き付けることにより、アルミニウム材を連続的に回収することができる。例えば、アルミニウム材が所定の厚さになった後、電解を一旦停止させ、カソード電極を回転させることによりアルミニウム材を剥離させ、剥離したアルミニウム材を回収ドラムに貼り付けて積層させながら巻き取ってもよい。また、アルミニウム材を剥離すると同時に剥離片としてアルミニウム材を回収してもよい。
【0035】
(アルミニウム材)
電析により得られるアルミニウム材は例えば、膜状であり、その厚さは通常、1μm~20μmであるが、用途によって適宜、その厚さを選択すればよい。例えば、アルミニウム材をリチウムイオン電池の正極集電体として用いる場合には、厚さを10μm以下とするのが好ましい。
【0036】
2.アルミニウム材の製造装置
一実施形態のアルミニウム材の製造装置は、電解液を収容した電解槽と、電解槽内に浸漬させたアノード電極およびカソード電極と、アノード電極とカソード電極間に電圧を印加することが可能な電圧印加手段とを有する。アノード電極は、0.01~30質量%のSi、およびAlを含有する。
【0037】
図2は、一実施形態のアルミニウム材の製造装置100を表す図である。一実施形態のアルミニウム材の製造装置100は、電解液3を収容した電解槽6と、電解槽6内で、電解液3に一部浸漬し回転可能に支持されているドラム状のカソード電極1と、カソード電極1の周面に対向するように配置された板状のアノード電極2とを有する。図2の製造装置100は、カソード電極1とアノード電極2には、直流電源8が接続されている。この直流電源8は電圧印加手段を構成し、カソード電極1とアノード電極2間に電流を流すことができるようになっている。
【0038】
また、回収用ドラム9は、カソード電極1上に電析させたアルミニウム材5を剥離させ、補助ロール11を介して回収用ドラム9上に巻き取るようになっている。さらに、図2に示すように、製造装置100には、電解槽6の電解液3内の温度を調節する機構として、電解液3の温度を測定する熱電対12と、測定した温度を表示するサーモスタッド13と、電解槽6の外から浴槽内を温めるラバーヒーター14が設けられている。また、製造装置100には、通常、外気と遮断された状況下で作業が可能となるようグローボックス15が備えられていてもよい。このような製造装置により、電解液3の気液界面における電析不良が抑制されたアルミニウム材を製造することができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
下記表1に記載の成分組成のアノード電極、表2に記載の組成の電解液およびアノード電極を準備し、図2に示すように該電解液中にアノード電極と、カソード電極とを浸漬させた。この際、アノード電極と、カソード電極は互いにほぼ一定距離をもって離間するように配置した。そして、図2に示す構成の装置を組み立て、電解液中のアノード電極とカソード電極に、電流密度40mA/cm、表2に示す電解液の温度で12分間、通電して直流電流を流すことで、カソード電極上に約10μmの厚さのアルミニウム材を電析させた。より具体的には、EMIC-AlCl、EMIC-AlF、EMIC-AlBr、EMIC-AlI電解浴を用いた場合にはモル比1:2で浴温50℃、AlCl-NaCl-KCl電解浴を用いた場合にはモル比60:25:15で浴温150℃、DMSO-AlCl電解浴を用いた場合にはモル比15:2で浴温110℃のものを使用した。カソード電極としてはチタン製カソード電極を使用した。なお、本発明において、カソード電極は特に制限されるものではなく、アノード電極および電解浴の種類に応じて適宜選択することができ、例えばチタン製カソード電極、SUS製カソード電極、またはCu製カソード電極等を用いることができる。また、アノード電極としては、下記表1に示すSi含量を含有する、Al合金からなるAl-Si合金の板(幅20mm、長さ50mm)または所定の平均粒径の粒子をかご状の網内に充填したものを用いた。なお、電析開始時のアノード電極中のSi含有量はカントメーター(SPECTRO製:LAB)にて分析した。表1において「-」は、アノード電極の成分組成の測定において該当する元素が検出できなかったことを表す。表2において、「板」とはアノード電極としてAl合金からなるAl-Si合金の板を用いた場合を表し、「粒子」とはアノード電極として粒子をかご状の網内に充填したものを用いた場合を表す。また、表2において、「粒径」とは、かご状の網内に充填されたアノード電極を構成する粒子の平均粒径を表す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
上記実施例および比較例について、以下の評価基準に従って評価を行った。
(アノード電極表面のSi面積率)
電解終了後のアノード電極の表面を、SEM(日立製:SU8230)およびEDS(Bruker製:FlatQuad)により分析した。より具体的には、SEMにより、アノード電極表面の視野0.5×0.5mmの範囲の領域を撮影した。そして、EDSによりこの領域中に存在するSiを同定した。この後、画像解析ソフト(三谷商事製:WinRoof2015)を使用して、(Siの面積)/(0.5×0.5mm)×100をSi面積率として算出した。そして、Si面積率が70%以下のものを「◎」、70%を超え90%以下のものを「○」、90%を超えたものを「△」と評価した。
【0044】
(カソード電極上に電析したアルミニウム材中のSi含量)
カソード電極とアノード電極に通電後にカソード電極上に電析したアルミニウム材中のSi含量を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)(島津製作所製:EPMA-1610)を用いて分析した。そして、アルミニウム材中のSi含量の測定結果が0%のものを「◎」、0%を超え5%以下のものを「○」、5%を超え10%以下のものを「△」、10%を超えたものを「×」と評価した。なお、EPMAによる測定では、0.01質量%以下のSi含量については測定不能であるため、このSi含量以下のものについては全てSi含量を0とした。
【0045】
(コスト)
アノード電極の成分組成の測定において、コストメリットを下記基準で評価した。検出された元素の濃度の合計が99.95質量%未満の場合をリサイクルすることによるコストメリットが最も高いと判断し「◎」、検出された元素の濃度の合計が99.95質量%以上でSiが検出された場合をリサイクルすることによるコストメリットがあると判断し「○」、検出された元素の濃度の合計が99.95質量%以上でSiが検出されなかった場合をリサイクルすることによるコストメリットがほとんど得られないと判断し「×」とした。
【0046】
(総合評価)
上記3つの項目について、優れている順に以下のように評価した。すなわち、全ての評価が◎もしくは、◎が2つ、〇が1つのものを「◎◎」(最も優れている)、◎が1つ、〇が2つのものを「◎」(優れている)、△が1つでその他が◎もしくは○のものを「○」(良い)、△が2つでその他が◎もしくは○のものを「△」(普通)、1つでも×があるものを「×」(劣る)と評価した。
上記の評価結果を下記表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
図1は実施例4における電解終了後のアノード電極表面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図1に示すように、電解終了後にアノード電極表面に存在するSiの面積率は少なく5質量%であり、電析したアルミニウム材中のSi含量は0質量%であった。このため、アノード電極の表面から電解液中に安定的にAlが溶解し、高純度のアルミニウム材が得られたことが分かる。
また、実施例1~28では、アルミニウム材中のSi含量が0.01~30質量%であるため、総合評価が「△」、「○」、「◎」、「◎◎」であった。これに対して比較例1は、アルミニウム材中のSiが検出されなかったため、総合評価が「×」となった。比較例2は、アノード電極中のSi含量が多いためSiを除去しきれず、電析したアルミニウム材中のSi含量は高くなった。また、電解終了後のアノード電極の表面がSiで覆われており、Si面積率は95%となり、電析したアルミニウム材中のSi含量も高くなった。この結果、比較例2の総合評価は「×」となった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、自動車等の工業製品に多用される鋳物用のアルミニウム合金スクラップ等をアノード電極として再利用することにより、高純度のアルミニウム材を得る技術に関する。
【符号の説明】
【0050】
1 カソード電極
2 アノード電極
3 電解液
5 アルミニウム材
6 電解槽
8 直流電源
9 回収用ドラム
11 補助ロール
12 熱電対
13 サーモスタッド
14 ラバーヒーター
15 グローボックス
100 製造装置
図1
図2