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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】きのこ培養基用添加剤
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20240612BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240612BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
A01G18/20
C12N1/00 G
C12N1/14 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021540667
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2020027220
(87)【国際公開番号】W WO2021033458
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019150821
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】中村 甫
(72)【発明者】
【氏名】安藤 晃
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-299347(JP,A)
【文献】特許第2673796(JP,B2)
【文献】特開2019-122352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/20
C12N 1/00
C12N 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の混合物を含有するきのこ培養基用添加剤であって、前記アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の混合割合が、それぞれAl、CaO、およびMgOの酸化物換算でCaOの割合が、AlおよびMgOの割合よりも多く、前記アルミニウム化合物が水酸化アルミニウムであることを特徴とする、きのこ培養基用添加剤。
【請求項2】
前記アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の割合が、それぞれ酸化物換算でAlを3~30wt%、CaOを35~60wt%、MgOを3~30wt%である、請求項1に記載のきのこ培養基用添加剤。
【請求項3】
フックス変法による制酸特性として、pH4.0以上を60分以上維持できる添加剤である、請求項1に記載のきのこ培養基用添加剤。
【請求項4】
前記CaOは、原料が水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウムニ水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素一水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム0.5水和物、硫酸カルシウム二水和物、硝酸カルシウムおよび硝酸カルシウム四水和物からなる群より選択される少なくとも一種であり、MgOは、原料が水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸一水素マグネシウム三水和物、リン酸二水素マグネシウム四水和物、リン酸三マグネシウム八水和物、硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウム七水和物、硝酸マグネシウム、硝酸マグネシウムニ水和物および硝酸マグネシウム六水和物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のきのこ培養基用添加剤。
【請求項5】
前記添加剤が、きのこ培養基に含まれることで、初期の培養基pHを0.5以上上昇させる中和作用を有する、請求項1ないし4のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤。
【請求項6】
前記添加剤が、きのこ培養基に含まれることで、培養期間中、培養基pHを0.2以上上昇させる中和作用を有する、請求項1ないし4のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤が、水分調整後のきのこ培養基の重量に対して0.01~3.0重量%の範囲で含まれるきのこ培養基。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤が、きのこ培養基に含まれることで、きのこの収量を8%以上増加させる機能を有するきのこ培養基。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこの人工栽培に用いる栽培用培養基において、きのこの品種によらず収量を高め、安定した収量を得ることのできる培養基用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
きのこの人工栽培のうち菌床栽培は、通常、鋸屑、コーンコブミール、バガス、ビート粕等からなる基材に米糠、オカラ、フスマ等の栄養源を添加して培養基を作製する。しかし、基材の原料の組み合わせによっては、培養基のpHがきのこの生育に適したpH(栽培至適pH)より低くなったり、瓶または袋に充填した培養基が、高圧蒸気滅菌処理を行うまでの間に培養基に含まれる糖分の一部が腐敗等により変質して、培養基のpHが低下したりするため、きのこの収量は低下してしまう。
【0003】
そこで、きのこの栽培期間中もその栽培至適pHを維持できるように制酸性のある無機物等(きのこ培養基活性剤)を添加し、培養基中のpHをきのこの至適pHに調整する技術が提案されている(特許文献1~5)。
【0004】
しかしながら、活性剤として広く利用されている牡蠣殻石灰等の天然石灰や合成無機物は、比較的高い至適pHを要求するきのこ(ブナシメジ、エリンギ、ヒラタケ、マッシュルーム等)や培養基の組成によっては、必ずしも満足のいくものではなく、例えば、合成水酸化アルミニウムや合成ケイ酸アルミニウムといった無機物は、制酸力を発揮する金属カチオンがアルミニウムであるために酸を中和するpHが4.0付近と低く、きのこの種類によっては栽培至適pHよりも低い場合が見られるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平4-7649号公報
【文献】特許第2673796号公報
【文献】特許第4127806号公報
【文献】特開2006-149257号公報
【文献】特許第5916026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
きのこの品種毎に、栽培至適pHがあって、そのために最適な材料の組み合わせが選択されている。例えば、ブナシメジやヒラタケ等では、キノコ種菌を接種するときのキノコ培養基のpHを5.5~6.5付近に保つことが望ましいと言われている。
本発明は、きのこの品種毎に、栽培至適pHに調整し、かつ、その栽培至適pHを維持できるきのこ培養基用添加剤を提供することを課題とする。
【0007】
基本培養基の構成成分として各種の材料が用いられており、例えば、コーンコブミールは鋸屑には含まれない糖分等の固有の成分を含有しており、現実にはpHが5.5未満の酸性に片寄る傾向があることが知られている。基本培養基に混合した制酸化合物はその制酸作用(中和作用)によってキノコ培養基が酸化していくことを抑制する。
本発明は、きのこ培養基に含ませることで、初期の培養基pHを0.5以上上昇させる制酸作用(中和作用)を有し、きのこの収量増加に寄与するきのこ培養基用添加剤を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは様々な制酸剤を試験して、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、及びマグネシウム化合物を原料として、これらを特定の割合で含ませることで前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下の(1)ないし(6)のきのこ培養基用添加剤に関する。
(1)アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の混合物を含有するきのこ培養基用添加剤であって、前記アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の混合割合が、それぞれAl、CaO、およびMgOの酸化物換算でCaOの割合が、AlおよびMgOの割合よりも多く、前記アルミニウム化合物が水酸化アルミニウムであることを特徴とする、きのこ培養基用添加剤。
(2)前記アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の割合が、それぞれ酸化物換算でAlを3~30wt%、CaOを35~60wt%、MgOを3~30wt%である、上記(1)に記載のきのこ培養基用添加剤。
(3)フックス変法による制酸特性として、pH4.0以上を60分以上維持できる添加剤である、上記(1)に記載のきのこ培養基用添加剤。
(4)前記Alは、原料が水酸化アルミニウムであり、CaOは、原料が水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウムニ水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素一水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム0.5水和物、硫酸カルシウム二水和物、硝酸カルシウムおよび硝酸カルシウム四水和物からなる群より選択される少なくとも一種であり、MgOは、原料が水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸一水素マグネシウム三水和物、リン酸二水素マグネシウム四水和物、リン酸三マグネシウム八水和物、硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウム七水和物、硝酸マグネシウム、硝酸マグネシウムニ水和物および硝酸マグネシウム六水和物からなる群より選択される少なくとも一種である、上記(1)に記載のきのこ培養基用添加剤。
(5)前記添加剤が、きのこ培養基に含まれることで、初期の培養基pHを0.5以上上昇させる中和作用を有する、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤。
(6)前記添加剤が、きのこ培養基に含まれることで、培養期間中、培養基pHを0.2以上上昇させる中和作用を有する、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤。
【0010】
また本発明は、以下の(7)、(8)のきのこ培養基に関する。
(7)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤が、水分調整後のきのこ培養基の重量に対して0.01~3.0重量%の範囲で含まれるきのこ培養基。
(8)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のきのこ培養基用添加剤が、きのこ培養基に含まれることで、きのこの収量を8%以上増加させる機能を有するきのこ培養基。
【発明の効果】
【0011】
本発明のきのこ培養基用添加剤を培養基に添加することにより、従来のきのこ培養基用添加剤と比較して、きのこの品種によらず収量を高め、安定した収量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
図2】実施例2のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
図3】実施例3のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
図4】比較例1のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
図5】実施例6のきのこ培養基のpHの経時変化を示す。
図6】試験例1のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
図7】試験例2のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
図8】試験例3のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
図9】試験例4のきのこ培養基用添加剤の制酸特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
きのこの人工栽培のうち菌床栽培は、鋸屑やコーンコブミールなどの基材と米糠やフスマなどの栄養源を混ぜた人工の培地を利用して行われる。現在では、空調管理された室内でシイタケ・ブナシメジ・ヒラタケ・マイタケ・エリンギ・ナメコなどがこの方法で生産される。種菌の接種から収穫までの期間は5~20週程度で、一度収穫した後の菌床は再使用できず廃棄される。室内栽培であるため、害虫や有害菌などの外部環境の影響を受けにくい環境を作り出すことが容易で、安定した収量と品質で周年収穫が可能になる。
【0014】
本発明は、この菌床栽培に用いる培養基に添加するための制酸作用を有する添加物であって、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物を含有し、前記アルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の割合が、それぞれAl、CaO、およびMgOの酸化物換算で、CaOの割合が、AlおよびMgOの割合よりも多い培養基用添加剤である。
【0015】
例えば、酸化物換算でAlを3~30wt%、CaOを35~60wt%、MgOを3~30wt%含むきのこ培養基用添加剤であり、酸化物換算でAlを3~20wt%、CaOを35~60wt%、MgOを5~30wt%含むものが、より好ましい。各元素の含有量をこれらの範囲にすることにより、その制酸作用により、きのこの品種毎にきのこの栽培至適pHを維持できる。
【0016】
本発明の添加剤に含有されるアルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物は、それぞれ、アルミニウム原料が水酸化アルミニウムであり、カルシウム原料が水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素カルシウムニ水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素一水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム0.5水和物、硫酸カルシウム二水和物、硝酸カルシウムおよび硝酸カルシウム四水和物からなる群より選択される少なくとも一種であり、マグネシウム原料が、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸一水素マグネシウム三水和物、リン酸二水素マグネシウム四水和物、リン酸三マグネシウム八水和物、硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウム七水和物、硝酸マグネシウム、硝酸マグネシウムニ水和物および硝酸マグネシウム六水和物からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0017】
本発明の添加剤の原料としては、制酸性の高い化合物が好ましく、カルシウム原料としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、マグネシウム原料としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムがより好ましい。アルミニウム化合物に制酸性の高いものはないが、吸着剤として必要である。
本発明のきのこ培養器用添加剤は、前記した範囲において各元素の含量、原料を変更することにより、きのこの品種毎に、最も適した栽培pHに調整し、かつ、その栽培至適pHを維持できる性能を発揮する。
【0018】
本発明における制酸性の指標となるフックス変法とは、以下の手順できのこ培養基用添加剤のpHの挙動を測定する実験である。
1.pHメーターおよび恒温槽(37±2℃設定)のスイッチを入れる。
2.pH標準液(4.0、7.0、9.0)を使用してpHメーターを校正する。
3.300mLビーカーに0.1mol/L塩酸(f=0.990~1.010)50mLを正確に測り入れ、水温37℃に設定された恒温槽にセットする。
4.滴下量を2.0±0.1mL/minに調整した定量ポンプの吐出ホースの先を、300mLビーカーにセットし、マグネチックスターラーを投入して300rpmで攪拌する。
5.液温が37±0.5℃になったら、正確に測った試料を1.00g投入し、同時にストップウォッチと記録計をスタートさせる。
6.試料投入から10分後のpH値を記録し、直ちに定量ポンプを作動する。
7.0.1mol/L塩酸を2.0±0.1mL/minの滴下量で110分間の間滴下し、計120分間のpHの挙動を測定した。
【0019】
きのこの菌床栽培においては、3~4ヶ月間の培養工程の後、培地を菌掻きして刺激を与えて子実体を芽出しさせ、これを生育させて子実体を収穫する。本発明のきのこ培養基用添加剤は、フックス変法によりpH4.0以上を60分以上維持できる制酸特性を有し、培養基に対して0.01~3.0wt%、好ましくは0.1~1.0wt%を配合することにより、きのこ菌接種後のきのこ培養基のpHの低下を抑制できるため、きのこの収量を8%以上も増加させることができる。
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本実施例ではブナシメジを用いてその培養、栽培実験を行った。
ブナシメジ栽培に使用する培養基材として最も広く一般的に使用されている資材には、コーンコブミールとスギ鋸屑の2種類がある。以下の実施例1~3および比較例1~2ではコーンコブミールを基材とした培養基を使用し、実施例4~6および比較例3ではスギ鋸屑を基材とした培養基を使用し、どちらも配合するきのこ培養基用添加剤の量は、培養基全量に対して0.25重量%とした。
【実施例1】
【0021】
<培養基>
まず、乾燥重量でコーンコブミール124g、オカラ40g、フスマ30g、コメヌカ16gの割合で混合し、水を加えて含水率が65%になるように培養基を調製した。
<きのこ培養基用添加剤>
次に、合成水酸化アルミニウムの含量が18.3重量%(酸化物換算で10.0重量%)、水酸化カルシウムの含量が64.5重量%(酸化物換算で48.9重量%)、水酸化マグネシウムの含量が17.2重量%(酸化物換算で11.9重量%)となるように混合し、本発明のきのこ培養基用添加剤を得た。
【0022】
<きのこ培養基用添加剤の制酸特性:フックス変法>
得られたきのこ培養基用添加剤の制酸特性は、フックス変法により測定した。
実施例1で用いたきのこ培養基用添加剤のフックス変法による制酸特性を、図1に示す。
【0023】
<きのこ菌培養工程>
得られたきのこ培養基用添加剤を前記の培養基全量に対して0.25重量%を配合して十分に混合し、きのこ培養用ポリプロピレン製850mL瓶(株式会社千曲化成・850-58)に約600gずつ充填した。この培養瓶を6本ずつ用意し、121℃で90分間高圧蒸気滅菌後、クリーンベンチ内で常温まで冷却し、ブナシメジ菌(株式会社千曲化成・チクマッシュH-120)を接種した。接種が完了した培養瓶を温度22℃、湿度70%RHの環境下で90日間培養を行った。
【0024】
<培養基pHの測定>
培養工程において、ブナシメジ菌を接種する前の高圧蒸気滅菌した培養基を40g抜き取り、イオン交換水80mLを加え、振とう回数160r/min、振とう時間1時間の条件で振とう後、25℃の環境下でpHを測定した。
【0025】
<マンジュウ掻き>
培養工程が完了した培養瓶の蓋を開け、培養基の上部中央部分の直径約3.5cmを残し、その周りを約1cmの深さで菌掻きを行った。
<芽出し工程>
マンジュウ掻きを施した後、瓶のふち一杯まで水を加え3時間潜水してから余計な水を除去した。続いて培養瓶の表面を厚み0.03mmの透明な有孔ポリシート(大倉工業株式会社製 商品名:有孔農ポリ(苗代用・特殊栽培用))で覆い、照度50Lux、温度14℃、湿度95%RH、CO濃度2500ppm以下の環境下で14日間培養した。
【0026】
<生育工程>
芽出し工程が完了した培養瓶の有孔ポリシートを外して照度300Lux、温度14℃、湿度90%RH、CO濃度2500ppm以下の環境下で8日間培養した。その後、培養瓶から子実体を収穫し、直ちにその重量を測定した。
【実施例2】
【0027】
きのこ培養基用添加剤を、合成水酸化アルミニウムの含量が18.3重量%(酸化物換算で10.0重量%)、水酸化カルシウムの含量が64.5重量%(酸化物換算で48.9重量%)、炭酸マグネシウムの含量が17.2重量%(酸化物換算で8.2重量%)となるように混合した以外は、実施例1と同様に実験を行った。
実施例2で用いたきのこ培養基用添加剤のフックス変法による制酸特性を、図2に示す。
【実施例3】
【0028】
きのこ培養基用添加剤を、合成水酸化アルミニウムの含量が18.3重量%(酸化物換算で10.0重量%)、炭酸カルシウムの含量が64.5重量%(酸化物換算で36.2重量%)、水酸化マグネシウムの含量が17.2重量%(酸化物換算で11.9重量%)となるように混合した以外は、実施例1と同様に実験を行った。
実施例3で用いたきのこ培養基用添加剤のフックス変法による制酸特性を、図3に示す。
【0029】
(比較例1)
きのこ培養基用添加剤を、炭酸カルシウム(日鉄鉱業株式会社製)とした以外は、実施例1と同様に実験を行った。比較例1で用いたきのこ培養基用添加剤のフックス変法による制酸特性を、図4に示す。
(比較例2)
きのこ培養基用添加剤を加えないこととした以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0030】
以上の実施例1~3および比較例1~2の実験結果を表1に示す。子実体の増収率は、比較例2を基準とした。
【表1】
【0031】
表1に示すように、本発明の添加剤を添加した培養基で栽培した場合、子実体の収量が著しく向上した。特に原料として水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムを用いた添加剤を使用した培養基(実施例1)で最も収量が高くなった。
【0032】
以下の実施例4~6および比較例3ではスギ鋸屑を基材とした培養基を使用した。配合するきのこ培養基活性剤の量は培養基全量に対して0.25wt%とした。
【実施例4】
【0033】
培養基を、乾燥重量でスギ鋸屑80g、コメヌカ60g、コーンコブミール30g、オカラ20g、フスマ20gの割合で混合し、水を加えて含水率が65%になるように培養基を調製した以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【実施例5】
【0034】
きのこ培養基用添加剤を、実施例2と同じく、合成水酸化アルミニウムの含量が18.3重量%(酸化物換算で10.0重量%)、水酸化カルシウムの含量が64.5重量%(酸化物換算で48.9重量%)、炭酸マグネシウムの含量が17.2重量%(酸化物換算で8.2重量%)となるように混合した以外は、実施例4と同様に実験を行った。
【実施例6】
【0035】
きのこ培養基用添加剤を、実施例3と同じく、合成水酸化アルミニウムの含量が18.3重量%(酸化物換算で10.0重量%)、炭酸カルシウムの含量が64.5重量%(酸化物換算で36.2重量%)、水酸化マグネシウムの含量が17.2重量%(酸化物換算で11.9重量%)となるように混合した以外は、実施例4と同様に実験を行った。
【0036】
(比較例3)
きのこ培養基用添加剤を加えないこととした以外は、実施例4と同様に実験を行った。
以上の実施例4~6および比較例3の実験結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、本発明の添加剤を添加した培養基で栽培した場合、子実体の収量が著しく向上した。特に原料として水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムからなる活性剤を使用した培養基(実施例4)で最も収量が高くなった。
【実施例7】
【0039】
本発明の添加剤を添加した培養基のpHの経時変化を測定した。
実施例6と同様の実験を行った。実施例6で使用したきのこ培養基用添加剤を、実施例4と同じ培養基全量に対して0.25重量%を配合した。ブナシメジ菌を接種後、約2週間毎に、培養期間中の培養基を40g抜き取り、イオン交換水80mLを加え、振とう回数160r/min、振とう時間1時間の条件で振とう後、25℃の環境下でpHを測定した。
対照として、本発明の添加剤を添加しない培養基を用いた。結果を表3と図5に示す。
【0040】
【表3】
表3に示すように、本発明の添加剤を添加した培養基できのこを栽培した場合、培養期間中の培養基pHが対照と比べて、0.2以上上昇することが確認された。本発明の添加剤を添加することで培養基のpHをきのこの栽培至適pHに調整できることが期待される。
【実施例8】
【0041】
きのこ培養基用添加剤に含有されるアルミニウム化合物、カルシウム化合物、およびマグネシウム化合物の割合を試験例1~4のように変えて、フックス変法により制酸性を評価した、下記の括弧内の数値は、酸化物換算の重量である。%は全て重量%である。

試験例1:水酸化アルミニウムの含量が10%(5%)
水酸化カルシウムの含量が79%(60%)、
水酸化マグネシウムの含量が11%(8%)
試験例2:水酸化アルミニウムの含量が10%(5%)
水酸化カルシウムの含量が46%(35%)、
水酸化マグネシウムの含量が44%(30%)
試験例3:水酸化アルミニウムの含量が10%(5%)
酸化カルシウム50%+硝酸カルシウム4水和物30%(57%)、
酸化マグネシウムの含量が10%(26%)
試験例4:水酸化アルミニウムの含量が10%(5%)
酸化カルシウムの含量が35%(35%)、
炭酸マグネシウムの含量が55%(26%)
【0042】
試験例1~4のフックス変法の結果を、図6~9にそれぞれ示す。試験例1~4の本発明の添加剤は、いずれもフックス変法による制酸特性として、きのこ培養基のpH4.0以上を60分以上維持できるのに十分な制酸作用を発揮した。
【0043】
次に、実施例1のきのこ培養基用添加剤を用いて、培養基全量に対する添加量を変更して栽培実験を行った。
【実施例9】
【0044】

下記材料を、実施例1で用意したものとは異なるロットのものを使用した以外は、実施例1と同様に実験を行った。きのこ培養基用添加剤の量は、培養基全量に対して0.25重量%であった。
培養基:コーンコブミール、オカラ、フスマ、コメヌカ
ブナシメジ菌:株式会社千曲化成・チクマッシュH-120
【実施例10】
【0045】
きのこ培養基用添加剤の量を、培養基全量に対して0.025重量%とした以外は、実施例9と同様に実験を行った。
【実施例11】
【0046】
きのこ培養基用添加剤の量を、培養基全量に対して0.125重量%とした以外は、実施例9と同様に実験を行った。
【0047】
(比較例4)
きのこ培養基用添加剤を加えないこととした以外は、実施例9と同様の実験を行った。
以上の実施例9~11および比較例4の実験結果を表4に示す。子実体の増収率は、比較例4を基準とした。
【0048】
【表4】
【0049】
実施例1と実施例9では、本発明のきのこ培養基用添加剤の組成および添加量が同じであるが、実施例9の平均収量が低くなった。その原因は、培養基に用いるコーンコブミール、オカラ、フスマ、コメヌカ、およびブナシメジ菌のロットが異なっていたためであると考えられる。このことは、比較例2と比較例4においても、同様の原因によって比較例4の平均収量が低くなったと考えられる。
表4の結果からも明らかなように、本発明のきのこ培養基用添加剤を添加した培養基で栽培することにより、子実体の収量が著しく向上した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9