(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】X線ビーム形状化機器および方法
(51)【国際特許分類】
H05G 1/00 20060101AFI20240612BHJP
G01N 23/20008 20180101ALI20240612BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20240612BHJP
【FI】
H05G1/00 E
G01N23/20008
G01N23/207
(21)【出願番号】P 2021558944
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2020059683
(87)【国際公開番号】W WO2020201565
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-12
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503310327
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ガテスキ ミレン
(72)【発明者】
【氏名】ハルチェンコ,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ベッケルス デトレフ
(72)【発明者】
【氏名】ノルバーグ,ニコラス
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0307548(US,A1)
【文献】特表2019-519759(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109073902(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00
A61B 6/00-6/58
G01N 23/00-23/2276
H01L 21/64-21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線解析装置に使用されるビーム形状化機器であって、
前記X線解析装置は、傾斜軸の周りの可変傾斜角(χ)でサンプルを保持するサンプルホルダを有し、
当該ビーム形状化機器は、
X線源から入力ビームを受容し、出力ビーム形状を有する出力ビームを生成するように適合されたビーム形状化素子と、
使用の際、前記X線解析装置と動作可能に結合された制御器と、
を有し、
前記制御器は、前記サンプルの前記可変傾斜角(χ)に依存して前記出力ビーム形状の移動を制御するように適合され
、
前記出力ビーム形状は、細長い形状であり、該細長い形状は、長さおよび幅を有し、前記長さは、前記幅より大きく、前記出力ビーム形状は、前記長さに沿って延在する長手軸と、前記幅に沿って延在する横軸とを定め、
前記移動は、回転を含み、
前記制御器は、前記出力ビーム形状の回転を制御し、前記長手軸が、使用の際、前記サンプルホルダにより保持されたサンプルの表面によって定められる平面に対して実質的に平行が維持されるように構成される、ビーム形状化機器。
【請求項2】
前記制御器は、前記サンプルの前記可変傾斜角(χ)と相関して回転するように、前記出力ビーム形状の回転を制御するように適合される、請求項1に記載のビーム形状化機器。
【請求項3】
前記ビーム形状化素子は、前記入力ビーム内で移動可能に配置され、
前記制御器による前記出力ビーム形状の移動は、前記入力ビーム内での前記ビーム形状化素子の移動を制御することにより達成される、請求項1または2に記載のビーム形状化機器。
【請求項4】
前記ビーム形状化素子は、前記入力ビームの軸と一致する軸の周りで回転可能である、請求項3に記載のビーム形状化機器。
【請求項5】
当該ビーム形状化機器は、前記出力ビーム形状の移動を実施するように構成された1または2以上のアクチュエータを有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のビーム形状化機器。
【請求項6】
前記ビーム形状化素子は、マスク素子を有する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のビーム形状化機器。
【請求項7】
前記マスク素子は、X線透過スリットを定める、請求項
6に記載のビーム形状化機器。
【請求項8】
前記制御器は、前記出力ビーム形状の前記移動を制御し、前記傾斜角(χ)の定められた範囲にわたって前記傾斜角(χ)が変化した際、使用時の前記サンプルホルダにより保持されたサンプルに形成された前記ビームのフットプリントの領域および/または形状の変化が、前記出力ビーム形状が静止したままであった場合よりも、少なくなるように構成される、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載のビーム形状化機器。
【請求項9】
前記制御器は、前記出力ビーム形状の移動を制御し、前記サンプルに入射する流束の総量が傾斜角(χ)の定められた範囲にわたって、実質的に一定に維持されるように構成される、請求項1乃至
8のいずれか一項に記載のビーム形状化機器。
【請求項10】
前記制御器は、前記出力ビーム形状の前記移動を制御し、使用の際、前記サンプルホルダにより保持されたサンプルの表面の境界内に、前記ビームの入射フットプリントを維持するように構成される、請求項1乃至
9のいずれか一項に記載のビーム形状化機器。
【請求項11】
X線解析装置であって、
傾斜軸の周りの
可変傾斜角(χ)でサンプルを保持するサンプルホルダと、
X線源と、
前記X線源から入力ビームを受容し、出力ビーム形状を有する出力ビームを生成するように適合されたビーム形状化素子であって、前記サンプルホルダは、前記出力ビームを受容するように配置される、ビーム形状化素子と、
当該X線解析装置と動作可能に結合された制御器であって、
前記可変傾斜角(χ)に依存して前記出力ビーム形状の移動を制御するように適合された、制御器と、
を有し、
前記出力ビーム形状は、細長い形状であり、該細長い形状は、長さおよび幅を有し、前記長さは、前記幅より大きく、前記出力ビーム形状は、前記長さに沿って延在する長手軸と、前記幅に沿って延在する横軸とを定め、
前記移動は、回転を含み、
前記制御器は、前記出力ビーム形状の回転を制御し、前記長手軸が、使用の際、前記サンプルホルダにより保持されたサンプルの表面によって定められる平面に対して実質的に平行が維持されるように構成される、X線解析装置。
【請求項12】
ビーム形状化機器を制御する方法であって、
前記機器は、X線解析装置に使用され、
前記X線解析装置は、傾斜軸の周りの可変傾斜角(χ)でサンプルを保持するサンプルホルダを有し、
前記ビーム形状化機器は、X線源からの入力ビームを受容し、出力ビーム形状を有する出力ビームを生成するように適合されたビーム形状化素子を有し、
当該方法は、
前記X線解析装置から、前記傾斜軸の周りの前記サンプルの前記傾斜角(χ)を表す信号を取得するステップと、
前記得られた信号に基づいて、前記可変傾斜角(χ)に依存して前記出力ビーム形状の移動を制御するステップと、
を有
し、
前記出力ビーム形状は、細長い形状であり、該細長い形状は、長さおよび幅を有し、前記長さは、前記幅より大きく、前記出力ビーム形状は、前記長さに沿って延在する長手軸と、前記幅に沿って延在する横軸とを定め、
前記移動は、回転を含み、
前記制御するステップでは、前記出力ビーム形状の回転を制御し、前記長手軸が、使用の際、前記サンプルホルダにより保持されたサンプルの表面によって定められる平面に対して実質的に平行が維持される、方法。
【請求項13】
コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品であって、
前記コードは、少なくとも1つの物理的計算装置で実行され、
前記少なくとも1つの物理的計算装置は、請求項
12に記載のビーム形状化機器と動作可能に結合され、
前記コードは、前記少なくとも1つの物理的な計算装置に、請求項
12に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線ビーム形状化機器およびビーム形状化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折(XRD)法は、結晶質サンプルの構造および分子特性を分析するための解析技術である。X線反射解析では、一定の入射角でサンプルにX線ビームが照射され、サンプルから回折されたビームが検出器で検出される。ビームの入射角、および入射ビームに対するサンプルの傾斜角の両方を調整することができる。
【0003】
ある種の分析、例えばテクスチャ分析の際、サンプルは、旋回可能なサンプルホルダに保持される。入射ビームに対するサンプルの表面の傾斜角は、傾斜角の範囲を通じて変化する。
【0004】
サンプルホルダにより保持されるサンプルが傾斜すると、サンプルに対するビームの入射射影またはフットプリントのサンプル上の形状、面積および配置が変化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サンプル上のビームフットプリントのこの変化は、一定の照射を維持する上で問題を引き起こす可能性があり、信頼性のある結果にとって重要であることが、本願発明者らにより把握されている。特に、光源に対する傾斜角がより大きな値に増加すると、入射放射線がサンプルの側面から溢れ始める可能性があることが、本願発明者らにより観測されている。この影響は、サンプル上の入射強度がサンプル傾斜角に依存して変化することである。
【0006】
これは、
図1および
図2に示されており、各々には、χ=0°およびχ=80°の2つの異なる傾斜角における、X線ビーム14によるサンプル12の照射が概略的に示されている。χ傾斜軸に垂直な方向(すなわち、
図1および
図2の観点からの左右ではなく、前後方向)におけるビームの入射角ωは、
図1および
図2の各々において同じである(ω=20°)。
【0007】
図1において、高傾斜角度(χ=80°)では、軸方向ビーム幅がサンプル12に対して広すぎ、ビームの溢れ出しが生じる。
図2では、サンプルに対して低傾斜角(χ=0°)での赤道ビームサイズが大きすぎるため、こちらもビームの溢れ出しが生じる。
【0008】
このオーバー照射を回避し、一定の入射強度を維持する通常の方法は、赤道方向および軸方向の両方において、意図的にビーム14のサイズを抑制することである。これは、
図3に示されている。通常の抑制されたサイズのビーム断面サイズは、例えば、1×1mm、または0.5×0.5mmであり得る。一方、形成された総ビームサイズは、通常、1×1mmではなく、1×7mmのオーダーである。従って、総発生ビームの幅のわずかな部分しか使用されず、サンプル12上の入射ビームフットプリントのサイズが低減される。これにより、表面に入射する全放射流束(および放射の強度)が減少し、これは、低い電力出力信号につながる。その結果、信号対ノイズ比が低下する。
【0009】
従って、サンプルのオーバー照射の問題に対する改善された解決策には価値があることが、本願発明者らにより把握されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、請求項により規定される。
【0011】
本発明の一態様による実施例では、X線解析装置に使用されるビーム形状化機器であって、前記X線解析装置は、傾斜軸の周りの可変傾斜角でサンプルを保持するサンプルホルダを有する、ビーム形状化機器が提供される。当該ビーム形状化機器は、X線源から入力ビームを受容し、出力ビーム形状を有する出力ビームを生成するように適合されたビーム形状化素子と、使用の際、前記X線解析装置と動作可能に結合された制御器と、を有する。前記制御器は、前記サンプルの前記可変傾斜角に依存して前記出力ビーム形状の移動を制御するように適合される。
【0012】
本発明の実施形態は、形状化された出力を有するビーム形状化素子を提供することに基づき、この形状化された出力は、サンプルの傾斜に応じて移動するように制御される。出力ビーム形状の移動を導入し、サンプルの傾斜角の変化に移動を結びつけることにより、サンプルの傾斜角に関わらず、サンプルの側面から溢れ出すことなく、ビームフットプリントをサンプル表面に維持するメカニズムが提供される。これにより、サンプルに降下するX線強度は、一貫して可能な限り高く維持されるようになる。
【0013】
制御器は、サンプルの可変傾斜角と相関して出力ビーム形状の移動を制御するように適合されてもよい。換言すれば、出力ビーム形状の移動は、サンプルの可変傾斜角と相関するように制御されてもよい。出力ビーム形状の移動とサンプルの傾斜角度との間には、一定のまたは定められた相関関数または関係が存在してもよい。
【0014】
制御器は、出力ビーム形状の移動を制御し、使用の際、サンプルホルダにより保持されたサンプルのビームに対する入射フットプリントが、サンプルの表面の境界内に維持されるように適合されてもよい。
【0015】
ここで、出力ビーム形状とは、出力ビームの断面形状を表す。
【0016】
制御器は、サンプルまたはサンプルホルダの傾斜軸の周りの傾斜角を表すX線解析装置からの入力信号を受信し、前記入力信号に基づいて(または使用して)、出力ビーム形状の移動を制御するように構成されてもよい。制御器は、入力信号に基づいて、出力ビーム形状の移動を制御する1または2以上の出力信号を生成してもよい。サンプルホルダが、該サンプルホルダに対して固定された位置にサンプルを保持するように適合される場合、サンプルホルダの傾斜角を表す信号により、サンプル自体の傾斜角の指標が提供される。従って、この信号により、サンプルの傾斜角の必要な指標が提供される。
【0017】
制御器は、出力ビーム形状の移動に加えて、サンプルホルダ(従ってサンプル)の傾斜角を制御するように構成されてもよい。
【0018】
当該機器は、X線回折分析を行う際に特に有意である。より具体的には、機器は、X線回折を用いたサンプルのテクスチャまたは応力解析の実施に使用する際に、特に有意である。そのような手順では、通常、ある範囲の傾斜角の周りで、サンプルの回転が行われ、表面に関して異なる結晶方位に沿った解析が可能となる。
【0019】
出力ビーム形状の移動は、回転を含んでもよい。移動は、回転で構成されても、回転であってもよい。制御器は、出力ビーム形状の回転を制御し、サンプルの可変傾斜角と一致して回転するように、構成されてもよい。例えば、制御器は、出力ビーム形状の回転を制御して、サンプルの可変傾斜角と相関して回転するように、すなわち、出力ビーム形状の回転がサンプルの可変傾斜角と相関するように適合されてもよい。出力ビーム形状の回転とサンプルの傾斜角との間には、一定のもしくは定められた相関関数または関係が存在してもよい。
【0020】
回転は、変化するサンプル回転角に対してビーム入射フットプリントを調整するような方法で、サンプルの傾斜に一致してまたは関連して、追従するように制御されてもよい。ビーム形状とサンプルを相互に一致または相関するように回転させることにより、サンプルの傾斜角にかかわらず、照射面積の変化を抑制し、ビームフットプリントをサンプル表面に維持することが助長される。この目的は、傾斜角が変化した際の、照射領域の変化を最小限に抑えることである。これにより、全ての傾斜角において、一貫して高い放射強度が保証される。
【0021】
これに加えてまたはこれとは別に、移動は、並進を含んでもよい。これにより、被照射サンプルにおける入射ビームフットプリントの位置を調整することが可能となる。これは、例えば、サンプル表面の境界内にビームフットプリントを維持し、従って、サンプルに対して一貫して高い放射線強度を維持することが支援されてもよい。
【0022】
1または2以上の実施例では、ビーム形状化素子は、移動可能であってもよく、出力ビーム形状の移動は、ビーム内のビーム形状化素子の移動により、達成されてもよい。より具体的には、ビーム形状化素子は、入力ビーム内で移動可能に配置されてもよく、制御器による出力ビーム形状の移動は、入力ビーム内でのビーム形状化素子の移動を制御することにより達成されてもよい。例えば、ビーム形状化素子は、回転可能であってもよく、出力ビーム形状の回転は、入力ビーム内でのビーム形状化素子の回転により達成されてもよい。
【0023】
ビーム形状化素子は、マスク素子を有してもよい。
【0024】
他の例には、回転異方性光学出力を有するレンズまたは他のレンズ状素子が含まれ、すなわち光学素子の回転に応じて、出力放射パターンまたは形状が変化する素子が含まれる。
【0025】
ビーム形状化素子は、入力ビームの光軸に対して横断方向、または横方向に配向された平面、すなわち光軸と交差する平面に回転可能であってもよい。光軸とは、例えば、入力ビームの中心軸を表し、軸は、入力ビームの伝搬方向を定める。
【0026】
ビーム形状化素子を入力ビーム内で物理的に移動させることは、移動可能な出力ビーム形状を提供する1つの方法に過ぎない。他の例では、ビーム形状化素子は、例えば回転を実現するため、移動を実施する調整可能な内部光学構成を有してもよい。例えば、ビーム形状化素子は、光学素子の秩序化された配置を有してもよく、各々は、個別にアドレス処理可能であり、協働的に配置され、出力ビーム形状の見かけの移動(例えば、回転)は、任意の所与の時点で活性化される素子のサブセットの繰り返し変化により、達成される。これらのオプションについては、以下にさらに詳しく説明する。
【0027】
ビーム形状化素子は、ビームの方向に垂直な平面内で移動可能であってもよい。例えば、ビーム形状化素子は、ビームの方向に垂直な平面内で回転可能であってもよい。
【0028】
ビーム形状化素子は、入力ビームの軸と一致する軸の周りで回転可能であってもよい。入力ビームの軸とは、ビームの進行方向に沿った軸、すなわちビーム伝搬方向と平行であり、好ましくは一致する軸を意味する。
【0029】
ビーム形状化機器は、1または2以上のアクチュエータを有し、これは、出力ビーム形状の移動を実施するように構成されてもよい。例えば、出力ビーム形状の回転を実施するように構成されてもよい。
【0030】
アクチュエータは、ビーム経路内でビーム形状化素子の移動を実施ように構成され、出力ビーム形状の移動が実施されてもよい。例えば、アクチュエータは、ビーム経路内でビーム形状化素子の回転を実施するように構成され、出力ビーム形状の回転が実施されてもよい。
【0031】
有意な例では、出力ビームの形状は、細長い形状であり、長手軸と横軸とを定めてもよい。
【0032】
ビーム形状の長手軸とは、形状の長さに沿って延びる軸を意味する。横軸とは、形状の幅を横断して延びる軸を意味する。
【0033】
ビームが細長い断面(従って狭い幅)を有するようにビームを形状化することにより、大きな傾斜角においても、サンプルの側面にビームが溢れ出ることを回避することが容易となる。サンプルの傾斜角がより大きな値に増加するとともに、サンプル上のビームの投射のため光学的に利用可能な領域(X線源の視線内で「可視」可能な領域)は、狭くなる。従って、狭いビーム形状では、傾斜にかかわらず、全ビーム領域をサンプル表面に誘導することがより容易となる。従って、オーバー照射が回避され、全ビーム断面積を制限する必要がなくなる。
【0034】
細長いとは、その通常の意味を表し、すなわち、ビーム断面が、幅(横方向)よりも長い(縦方向)ことを意味する。ある例では、ビーム形状は、その幅の少なくとも2倍の長さを有してもよい。
【0035】
制御器は、出力ビーム形状の回転を制御して、長手軸が、使用の際、サンプルホルダにより保持されたサンプルの表面により定められる平面と実質的に平行に維持されるように構成されてもよい。
【0036】
ある例では、これを達成するために必要な回転は、一部が、サンプル上のビームの入射角に依存してもよい。それは、一部が、サンプルホルダとビーム源の相対的な方向および/または位置、および/または出力ビーム形状の回転軸に依存してもよい。
【0037】
実質的に平行とは、例えば平行にプラスまたはマイナスの妥当な許容差、例えば平行プラスまたはマイナス5°までの範囲を意味してもよい。
【0038】
前述のように、1または2以上の実施形態では、ビーム形状化素子は、マスク素子を有してもよい。
【0039】
マスク素子は、板、例えばX線不透明板を有してもよい。板は、出力ビーム形状を定める、形状化X線透過出力領域を有してもよい。X線透過出力領域は、マスクを貫通した開放空間であってもよく、またはX線透過性材料を含むウインドウ窓であってもよい。
【0040】
これにより、単純な配置が提供され、製造が容易となり、使用の際、簡単な制御機構が容易化される。出力ビーム形状の回転は、X線ビーム内において、ビーム軸の周りでマスク素子を回転させることにより、達成されてもよい。
【0041】
マスク素子は、X線透過性スリットを定めてもよい。
【0042】
1または2以上の有意な実施形態では、制御器は、出力ビーム形状の移動を制御し、使用の際、傾斜角の定められた範囲にわたって、サンプルホルダにより保持されたサンプルに形成されたビームの領域および/またはフットプリントの変化が、出力ビーム形状が静止したままであった場合よりも、少なくなるように構成されてもよい。例えば、制御器は、出力ビーム形状の回転を実施し、ビームフットプリントの前記領域、またはビームフットプリントの形状が実質的に一定のままとなるように構成されてもよい。
【0043】
この実施形態では、制御器は、傾斜角の変化とともに、出力ビーム形状の移動がなかった場合に生じ得る変化に比べて、サンプル上の入射照射領域または入射照射領域の形状の変化を抑制するように回転を計算する。これにより、一貫して高い入射放射線強度を確実に維持することができる。ある傾斜角において、ビームがサンプルの側面に溢れ出ないようにしたまま、一貫して大きなビームサイズを使用することができるためである。
【0044】
例えば、サンプルホルダにより保持されるサンプルの傾斜は、出力ビーム形状の移動を生じさせずに、使用の際、サンプルホルダにより保持されたサンプル上のビームフットプリントの領域が、傾斜角の定められた範囲にわたって、ある量(例えば、その開始値のプラスまたはマイナスのある百分率)の(例えば最大)変化を示すようにしてもよい。この実施形態では、出力ビーム形状の移動が前記傾斜角の定められた範囲にわたって実施された際に、この変動が低減されるように提供される。
【0045】
これに加えてまたはこれとは別に、サンプルホルダにより保持されるサンプルの傾斜は、例えば、出力ビーム形状の移動を生じさせずに、使用の際、サンプルホルダにより保持されたサンプル上のビームフットプリントの長さ対幅比(すなわち形状)が、傾斜角の定められた範囲にわたって、ある量(例えば、その開始値のプラスまたはマイナスの百分率)の(例えば最大)変化を示すようにしてもよい。この実施形態は、前記傾斜角の定められた範囲にわたって、出力ビーム形状の移動が実施された際に、この変動が抑制されるように提供される。ここで、長さとは、ビームフットプリントを横切る最長寸法を表し、幅は、ビームフットプリントを横切る最短寸法(または、長さ寸法に対して垂直な寸法)を表す。
【0046】
有意な例では、傾斜角の定められた範囲は、例えば、0°から80°であってもよい。他の実施例では、任意の他の範囲の傾斜角が選択されてもよい。
【0047】
制御器は、出力ビーム形状の移動を制御し、サンプルに入射する流束の量が、傾斜角の定められた範囲にわたって実質的に一定に維持されるように構成されてもよい。
【0048】
実質的に一定とは、例えば、前入射放射線流束が、プラスマイナス5%、またはプラスマイナス10%、またはプラスマイナス20%のような、プラスまたはマイナスの妥当な許容誤差で一定に維持されることを表してもよい。これらの数字は、単なる一例あり、任意の所望の誤差が使用されてもよい。制御器は、全入射放射線に対して必要な誤差でプログラム化されてもよい。
【0049】
流束の量は、入射放射線の量、すなわちサンプルに衝突する光子の数を意味する。
【0050】
ある例では、これを実現するために必要な回転は、部分的には、線源に対するビームの入射の角度に依存し得る。これは、サンプル、ビーム源の相対的配向および/もしくは配置、ならびに/または出力ビーム形状の回転に、部分的に依存してもよい。
【0051】
有意な例では、傾斜角の定められた範囲は、例えば、0°から80°であってもよい。
【0052】
これに加えてまたはこれとは別に、1または2以上の実施形態では、制御器は、出力ビーム形状の移動を制御し、使用の際、サンプルホルダにより保持されたサンプルの表面の境界内に、ビームの入射フットプリントが維持されるように構成されてもよい。例えば、制御器は、出力ビーム形状の回転を制御して、ビームの前記入射フットプリントを前記境界内に維持するように構成されてもよい。
【0053】
この例では、制御器は、サンプルの入射表面の端部を超えてビームが広がることを回避するように、出力ビーム形状の回転を定める。従ってこれにより、サンプルのオーバー照射が回避される。
【0054】
本発明の別の態様による例では、X線解析装置であって、
傾斜軸の周りの調整可能な傾斜角でサンプルを保持するサンプルホルダと、
X線源と、
前記X線源から入力ビームを受容し、出力ビーム形状を有する出力ビームを生成するように適合されたビーム形状化素子であって、前記サンプルホルダは、出力ビームを受容するように配置される、ビーム形状化素子と、
当該X線解析装置と動作可能に結合された制御器であって、可変傾斜角に依存して前記出力ビーム形状の移動を制御するように適合された、制御器と、
を有する、X線解析装置が提供される。
【0055】
本発明の別の態様による例では、ビーム形状化機器を制御する方法であって、前記機器は、X線解析装置に使用される、方法が提供される。前記X線解析装置は、傾斜軸の周りの可変傾斜角でサンプルを保持するサンプルホルダを有する。前記ビーム形状化機器は、X線源からの入力ビームを受容し、出力ビーム形状を有する出力ビームを生成するように適合されたビーム形状化素子を有する。当該方法は、傾斜軸の周りのサンプルの傾斜角を取得することと、取得された信号に基づいて、可変傾斜角に依存して出力ビーム形状の移動を制御することと、を有する。
【0056】
サンプルの傾斜角を得ることは、X線解析装置から、傾斜軸の周りのサンプルの傾斜角を表す信号を取得することを有してもよい。
【0057】
ある例では、サンプルの傾斜角を取得することは、X線解析装置から、傾斜軸の周りのサンプルホルダの傾斜角を表す信号を取得することを有してもよい。サンプルがサンプルホルダに対して一定の位置に保持される場合、サンプルホルダのこの傾斜角により、傾斜軸の周りのサンプルの傾斜角の指標も提供される。
【0058】
ある例では、サンプルの傾斜(例えば、サンプルホルダの傾斜による)、およびビーム形状化素子の移動は、中央制御器により制御され、および/または単一の制御プログラムまたはソフトウェアプログラムに従って制御されてもよい。この場合、傾斜角χを取得することは、制御器またはソフトウェアにより、既知のまたは定められた傾斜角を単に参照し、あるいはアクセスすることを有してもよい。他の例では、傾斜角は、例えば、外部傾斜制御器と通信することにより、取得されてもよい。
【0059】
本発明の別の態様による例では、コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品であって、前記コードは、少なくとも1つの物理的計算装置で実行され、前記少なくとも1つの物理的計算装置は、前述のビーム形状化方法において定められたように、前述のビーム形状化機器と動作可能に結合され、前記コードは、前記少なくとも1つの物理的な計算装置に、前述のビーム形状化方法の例において規定された方法を実行させる、コンピュータプログラム製品が提供される。
【0060】
コンピュータプログラム製品は、好ましくは、非一時的なコンピュータ可読媒体上に保管される。
【0061】
本発明のこれらのおよび他の態様は、以降に記載された実施形態を参照し、明確化することにより明らかとなる。
【0062】
本発明をより良く理解し、それをどのように実施できるかをより明確に示すため、以下、一例としての添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】高サンプル傾斜角および低サンプル傾斜角におけるサンプルのオーバー照射を示した図である。
【
図2】高サンプル傾斜角および低サンプル傾斜角におけるサンプルのオーバー照射を示した図である。
【
図3】ビームサイズの低下に基づくオーバー照射を解決するための従来のアプローチを示した図である。
【
図4】X線解析装置とともに用いられる、1または2以上の実施形態による例示的なビーム形状化機器の斜視図である。
【
図5】ブロック図の形式のビーム成形機器とX線解析装置の例を示した図である。
【
図6】1または2以上の実施形態によるビーム形状化素子の例を示した図である。
【
図7】オーバー照射を回避するため、サンプルの傾斜角と一致または相関する出力ビームの形状の回転を示した図である。
【
図8】出力ビームの移動を生じさせない構成と、出力ビームが移動する構成の場合の、傾斜角の範囲でサンプルの表面に形成されたビームフットプリントの例を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図面を参照して、本発明について説明する。
【0065】
機器、システムおよび方法の例示的な形態が示されているが、詳細な説明および具体的な例は、説明の目的のみを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していないことを理解する必要がある。本発明の機器、システム、方法のこれらのおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、および添付の図面からよりよく理解される。図面は、単なる概略図であり、スケールは示されていないことを理解する必要がある。また、同一の参照番号は、同一のまたは同様の部分を示すため、図面全体において使用されていることも理解する必要がある。
【0066】
本発明では、X線解析装置に使用されるビーム形状化機器が提供される。ビーム形状化機器は、X線ビーム源からの入力ビームを処理し、X線解析装置のサンプルホルダにより保持されたサンプルに照射される、出力ビーム形状を有する出力ビームを生成する。出力ビーム形状の移動は、サンプルの変化する傾斜角に応じて制御され、これは、サンプルホルダの傾斜位置により定められる。
【0067】
サンプルの傾斜角に依存する出力ビーム形状の制御された移動の実施により、サンプルの傾斜の変化が補償され、オーバー照射の問題を軽減することができる。特に、これにより、サンプルにオーバー照射することなく、サンプルの照射の最大化が提供される(入射流束または強度の最大化)。
【0068】
図4には、本発明の1または2以上の実施形態によるビーム形状化機器10の一例を示す。例示のため、ビーム形状化機器10は、X線源20を有するX線解析装置内に挿着された使用例で示されている。X線解析装置は、さらに、サンプルホルダ22を有し、これは、サンプル112を保持し、サンプルが傾斜軸24の周りに可変傾斜角χで照射されるように適合される。
【0069】
ビーム形状化機器10は、ビーム形状化素子28と、制御器36とを有し、制御器は、ビーム形状化素子に動作可能に結合され、さらに、X線解析装置の少なくともサンプルホルダ22部分と動作可能に結合される。ビーム形状化素子28は、X線源20から入力ビーム32を受け、出力ビーム形状を有する出力ビーム34を生成するように構成される。ビーム形状化素子は、X線源とサンプルホルダとの間の、X線源20により生成された入力ビーム32の経路に配置される。使用の際、ビーム形状化素子28は、発生した出力ビーム34がサンプルホルダ22のサンプル保持領域に誘導されるように配置される。
【0070】
制御器36は、サンプルホルダ22により保持されたサンプルの可変傾斜角に応じた出力ビーム形状の動きを制御するように構成される。
【0071】
ある例では、サンプルホルダは、該サンプルホルダに対して固定位置(特に、固定角度位置)にサンプルを保持するように適合されてもよい。この場合、任意の時間におけるサンプルホルダ自体の傾斜角を用いて、サンプルホルダにより保持されるサンプルの傾斜角の指標を提供できる。ある例では、サンプルホルダは、サンプルの(例えば、入射表面の)傾斜角が傾斜軸24の周囲のサンプルホルダの傾斜角と常に一致するように、サンプルを保持してもよい。サンプルホルダの傾斜角とサンプルの傾斜角との間に、既知のまたは予め定められた関係(例えば、角度オフセット)が存在する場合、サンプルの傾斜角は、サンプルホルダの傾斜角から直接決定することができる。
【0072】
制御器36は、使用の際に、傾斜軸24の周囲のサンプルまたはサンプルホルダ22の傾斜角χを表す、X線解析装置から入力信号を受信し、前記入力信号に基づいて(または使用して)出力ビーム形状の動きを制御するように適合されてもよい。前述のように、サンプルがサンプルホルダに固定、維持された場合、サンプルの傾斜角に応じて、出力ビーム形状が移動されるという効果が得られる。制御器は、入力信号に基づいて出力ビーム形状の移動を制御する、1または2以上の出力信号を生成してもよい。
【0073】
ビーム形状化素子28は、調節可能な光学的構成を有し、出力ビーム形状の移動位置が定められてもよい。これは、入力ビーム32内のビーム形状化素子の物理的配置、および/または配向を有してもよく、あるいはビーム形状化素子の内部光学的配置を有してもよい。
【0074】
図5には、ビーム形状化機器10の基本部材のブロック図を示す。これは、ビーム形状化素子28に動作可能に結合された、制御器36を有する。
図5には、さらに、前述のようなX線解析装置40を示す。これには、使用の際に、制御器36が動作可能に結合される。制御器は、使用の際、X線解析装置40と動作可能に結合され、サンプル、またはサンプルホルダ22の現在の傾斜角χを表す情報が受信される。
【0075】
図4に示すように、この例では、X線解析装置は、サンプルホルダ22内に保持されたサンプルの傾斜軸24の周りの傾斜が、出力ビーム34の方向を横断する方向に配向された面内となるように配置される。これは、ホルダーにより保持されるサンプルの傾斜が、ビームに対して左右になっていることを意味する。
【0076】
一組の有利な実施形態では、出力ビーム形状の移動は、少なくとも回転移動を含む。回転は、好ましくは、出力ビーム34の方向を定める軸の周りの、出力ビーム形状の軸方向の回転である。
【0077】
制御器36は、特に、出力ビーム形状の回転を制御して、サンプルの可変傾斜角と一致してまたは相関して回転するように適合されてもよい。ここで、出力ビーム形状の回転は、サンプルホルダ22により保持されたサンプルの傾斜角χに関して定められた関係で制御され、傾斜角の変化により、出力ビーム形状における定められれた回転応答が得られてもよい。ある例では、サンプルホルダ22の傾斜角に関して定められた関係で制御されてもよい。
【0078】
定められた関係は、好ましくは、1対1であり、従って、回転角の変化は、サンプルまたはサンプルホルダの傾斜角の変化と等しくなる(すなわち、整合する)ように制御される。ただし、他の関係も可能である。
【0079】
出力ビーム形状のビームの形状化および移動は、異なる方法で実施されてもよい。
【0080】
1つの有利な例は、
図6および
図7により示されている。
図6には、1または2以上の実施形態によるビーム形状化素子28の一例を示す。
【0081】
この実施形態では、ビーム形状化素子28は、ビーム形状化マスクを有する。マスクは、X線不透明シート、またはX線透過スリット46を定めるプレートで形成される。ビーム形状化素子は、使用の際、X線源20により生成される入力ビーム32の経路に配置される。スリット46は、ビームを形状化し、細長い出力ビーム形状を有する出力ビーム34にする。細長い出力ビーム形状は、長手方向寸法に沿った長手軸を有し、これは、X線透過スリットの長手軸48と平行である。ある例では、スリット46の長手方向の長さは、その(横方向の)幅の少なくとも2倍であってもよい。
【0082】
ビーム形状化マスク28は、入力ビーム32のビーム経路内で回転するように制御され、これにより、出力ビーム34の形状の制御された回転が実施される。ビーム形状化素子28の回転は、例えば、1または2以上のアクチュエータを含む回転機構により、実現されてもよい。回転は、入力ビームに垂直な平面内であってもよい。
【0083】
傾斜軸24の周囲で、ビーム形状化素子28の回転を制御し、サンプルホルダ22により保持されたサンプルの回転(傾斜)と合致しまたは相関して回転させることにより、オーバー照射を生じさせずに、出力ビーム34のフットプリント114を、サンプルホルダ22により保持されたサンプル112の境界内に維持することができる。
【0084】
これは、
図7に示されている。図には、サンプルホルダ22に保持されたサンプル112が示されており、これは、
図6によるマスク素子により、細長いビーム形状に形状化された出力ビームで照射される。
図7には、入射ビームの方向(ビーム方向は、
図7の視点では、ページに入る方向)に沿ったサンプルホルダおよびサンプルの図を示す。
図7において、出力ビーム形状の長手軸50は、入射ビームフットプリント114内に示されている。
【0085】
図7には、χ=0°(左)およびχ=30°(右)の2つの異なる傾斜角におけるサンプルホルダ(および、この例では、サンプルホルダにより保持されたサンプル)を示す。図に示されるように、出力ビーム形状は、傾斜角χの変化と一致または相関して回転するように制御される。その結果、サンプル表面上のビームの細長いフットプリント114は、変化する傾斜と一致または相関して回転し、ビームフットプリントがサンプル表面の境界内に留まり、サンプル112の側面にわたるビームの過剰な溢れ出しが回避される。その結果、ビームの入射X線強度は、傾斜角の変化にかかわらず、実質的に一定のまま維持される。
【0086】
サンプル(およびこの場合、サンプルホルダ22も)の傾斜角χがより大きな値まで増加すると、サンプル表面の光学的に利用可能な領域(出力ビーム34の「視線」内の領域)は、よりいっそう狭くなる。従って、出力ビーム34を細長い(すなわち、狭い)形状を有するように形状化することは、傾斜角にかかわらず、ビームフットプリント114を、サンプル112の表面の境界内に維持できる点で有意である。特に、狭いビーム形状では、傾斜にかかわらず、全ビーム面積をサンプル表面に誘導することがより容易となる。サンプル表面にビームを維持するためには、細長いビーム形状の長手軸50がサンプル112の表面により定められる平面と平行に維持されるように、ビーム形状を回転させることのみが必要となる。
【0087】
従って、全ビーム断面積を制限する必要はなく、オーバー照射を回避することができる。
【0088】
また、本発明の実施形態では、サンプル表面に形成されるビームフットプリントの全体的なサイズおよび形状を、サンプルの回転全体を通じて、より一貫して維持できる。これにより、サンプル上の入射放射線強度をより一定に維持することが可能となり、測定の信頼性および安定性が向上する。
【0089】
特に、ある例では、制御器は、出力ビーム形状の移動を制御するように構成され、使用の際、傾斜角が定められた範囲の傾斜角にわたって変化しても、サンプルホルダにより保持されるサンプルに形成されたビームのフットプリントの面積および/または形状が、出力ビーム形状が静止したままである場合に比べて、あまり変化しなくなる。
【0090】
これは、
図8に示されている。図には、(本発明の実施形態による)回転出力ビーム形状を含む構成の場合と、静的出力ビーム形状のみを有する(標準的な)構成の場合とにおける、照射サンプルの表面に形成されるビームフットプリントの例の比較を示す。
【0091】
列Aには、サンプルの一連の傾斜角χで形成されたビームフットプリント(明るい領域)を示す。機器は、固定された出力ビーム形状を有する。行Bには、一連の傾斜角χで形成されたビームフットプリント(明るい領域)を示す。出力ビーム形状は、サンプルの傾斜と一致または相関して回転される。
【0092】
この例におけるビームサイズは、1.5mm×7mmである。
【0093】
図に示すように、回転する出力ビーム形状の使用により、ビームフットプリントの照射領域(サイズおよび形状の両方の観点から)では、傾斜角の範囲全体にわたって、より一貫性が維持される。また、ビームフットプリントは、回転出力ビーム形状構成の場合、より大きな傾斜角度で、サンプル表面の境界内に維持されることがわかる。
【0094】
特に、回転出力ビーム形状の適用により、回転出力ビーム形状を有さない構成と比較して、ビームフットプリントの長さ対幅比(すなわち、形状)の変化が抑制されることがわかる。ここで、長さは、ビームフットプリントを横切る最も長い寸法を表し、幅は、ビームフットプリントを横切る最も短い寸法(または、長さ寸法に対して直角の寸法)を表す。
【0095】
制御器36は、傾斜角、および想定される1または2以上の他の要因に基づいて、必要な回転経路または出力ビーム形状のプログラムを計算するように構成されてもよい。
【0096】
上記の例は、ビーム形状化マスクの形態のビーム形状化素子28を有するが、他の例では、ビーム形状化素子は、異なる形態を取ってもよい。
【0097】
他の例には、例えば、回転異方性光学出力を有するX線レンズまたは他のレンズ状素子、すなわち光学素子の回転に依存して、出力放射線パターンまたは形状が変化する素子が含まれる。
【0098】
ある例では、ビーム形状化素子28は、ポリキャピラリX線レンズを有してもよい。
【0099】
また、上記の例では、出力ビーム形状の移動は、入力ビーム32内でのビーム形状化素子の物理的な移動により実施されるが、出力ビーム形状の移動は、他の方法で実施されてもよい。
【0100】
例えば、ビーム形状化素子28は、光学素子の秩序化された配置を有し、各々は、個々にアドレス処理が可能であり、出力ビーム形状の見かけの動き(回転など)が、任意の時点でアクティブ化される素子のサブセットを繰り返し変化させることにより達成可能となるように、協働的に配置されてもよい。
【0101】
例えば、ビーム形状化素子28は、異なる角度のスリットのカルーセルまたはスライダを有してもよく、この場合、異なる角度のスリットを入力ビーム32の前方で選択的にスライドさせることができる。
【0102】
あるいは、ビーム形状化素子28は、異なる角度のスリットの秩序化されたスタックを有してもよく、この場合、各スリットは、相互に近づいたり離れたりする移動可能なあご部により形成される。特定のスリット配向を選択するため、スリットの一方のあご部を互いに向かって移動させ、これにより、対応する角度にビーム形状化スリットを定める一方、X線ビームが形状化されずにこれらを完全に通過するように、他の全てが開放される。
【0103】
また、上記の例では、スリットを使用して、細長い出力ビームの形状が生成されるが、任意の他の種類のビーム形状化素子を異なる方法で使用して、細長い形状を生成してもよい。
【0104】
上記の例では、回転移動を含む出力ビーム形状の移動スキームを実施することが示される。別の例では、これに加えてまたはこれとは別に、出力ビーム形状を制御して、並進移動による移動が行われてもよい。例えば、出力ビームの形状は、入力ビーム32の方向に垂直な平面内で並進的な移動となるように制御されてもよい。
【0105】
出力ビーム形状の並進の動きを実施することにより、使用の際、サンプル112の照射表面におけるビームフットプリント114の並進位置の調整が可能となる。これにより、ビームフットプリント位置を調整する追加の自由度が提供され、使用の際、サンプル112の表面の境界内に、フットプリントをより容易に維持できる。これにより、使用の際、サンプル112に対する入射放射線強度を一定に維持し、可能な限り大きくすることが可能となる。
【0106】
出力ビーム形状の並進移動は、回転移動に加えて実施されてもよく、あるいは、ある例では、回転移動の代わりに、実施されてもよい。
【0107】
出力ビーム34の形状の並進移動は、
図6の例のような、ビーム形状化マスクの形態のビーム形状化素子28を用いて実施されてもよい。これは、入力ビーム32の方向に対して垂直な平面内のビーム経路内のビーム形状化マスクの並進移動を制御することにより、達成されてもよい。
【0108】
1または2以上の実施形態では、ビーム形状化素子28は、X線レンズまたはX線ミラー配置と組み合わせて提供され、後者は、ビーム形状化素子により実行される形状化に先立って、入力ビーム32の予備形状化を実施し、または入力ビームの方向性を調整してもよい。
【0109】
ポリキャピラリX線レンズを提供し、ビーム形状化素子28により受容される平行入力ビームを形成してもよい。これは、平行ビーム光学系を有する結果として生じる出力ビーム34を提供する。
【0110】
ビーム形状化素子28により受容される入力ビームを形状化し、または誘導する、2D-X線ミラーが提供されてもよい。これは、例えば平行ビームを形成する放物面ミラーであってもよい。これにより、平行ビーム光学系を用いたX線回折解析用の生成された出力ビーム34の使用が容易化され得る。
【0111】
平行ビーム光学系は、サンプルの応力またはテクスチャ分析に特に有意である。
【0112】
本発明の実施形態の目的は、サンプルホルダ22により保持されたサンプルの可変傾斜角に応じた出力ビーム経路の移動を制御し、サンプル112に対する放射の入射強度を可能な限り一貫して高く維持することである。
【0113】
これの達成には、出力ビーム形状の移動を制御し、サンプルに入射されるビームフットプリントをサンプル表面の境界内に維持する(すなわち、過剰な溢れ出しを回避する)ことが含まれ得る。
【0114】
これを達成する単純なアプローチは、例えば、サンプルの傾斜角に整合する回転により、出力ビーム形状の回転を制御することを含んでもよい。ある例では、これは、例えば、サンプルを保持するサンプルホルダ22の傾斜角に整合する回転で、出力ビーム形状の回転を制御することを含んでもよい。
【0115】
前述のように、サンプルホルダは、該サンプルホルダに対して固定位置(特に、固定角度位置)にサンプルを保持するように構成されてもよい。従って、任意の所与の時間におけるサンプルホルダの傾斜角は、サンプルホルダ内のサンプルの傾斜角の間接的な指標を提供してもよい。ある例では、サンプルホルダは、サンプルの傾斜角(例えば、入射表面)が、傾斜軸24の周りのサンプルホルダの傾斜角と常に整合するように、またはサンプルホルダの傾斜角に関して予め定められた角度オフセットとなるように、サンプルを保持してもよい。
【0116】
ある例では、制御器36は、サンプルホルダの傾斜角の受容指標に基づいて、サンプルホルダ22により保持されるサンプル112の表面によって定められる平面の空間的配置を、識別しまたは決定するように適合されてもよい。これは、例えば、出力ビーム34の経路、またはビーム形状化素子28に対する空間的配置であってもよい。これは、サンプル表面の平面の配向を有してもよい。サンプル表面の平面の空間的配置は、モニターされ、検出された配置が変更されてもよい。
【0117】
サンプルの表面が出力ビームに対してどこに配置されるかを把握することにより、所与の時間で、サンプル表面におけるビームフットプリントの配置およびサイズを計算することが可能となる。ある例では、これは、出力ビーム形状の回転を知らせるために使用されてもよい。
【0118】
本発明の別の態様では、X線解析装置40が提供され、これは、本願に記載の任意の実施形態によるビーム形状化機器10を有してもよい。例えば、X線解析装置40は、前述の
図4に概略的に示されたような形態を取ってもよい。
【0119】
X線解析装置40の一部として、ポリキャピラリX線レンズまたは放物線X線ミラー配置が追加的に含まれてもよい。これは、ビーム形状化素子によりビームが受容される前に、入力ビーム32を処理するように配置され、これにより、ビーム形状化素子に平行X線ビームが提供される。これにより、平行ビーム光学系を有する装置を用いて、X線解析を行うことができる。
【0120】
単一の中央制御器36が設けられ、これは、例えば、サンプルホルダ22の傾斜角の変化を制御することにより、サンプルの傾斜角の変化、および出力ビーム34の形状の移動の両方を制御するように構成されてもよい。あるいは、これらの2つの機能を実施する別個の制御素子が提供され、2つは、動作可能に結合され、ビーム形状化素子28の制御器は、サンプルまたはサンプルホルダ22の傾斜角を表す信号を傾斜角制御器から取得し、または受信してもよい。前述のように、後者を用いて、サンプルホルダに保持されたサンプルの傾斜角の表示が提供されてもよい。
【0121】
本発明の別の態様による実施例では、ビーム形状化機器を制御する方法が提供され、機器は、X線解析装置において使用され、X線解析装置は、傾斜軸24の周りに可変傾斜角χでサンプル112を保持するサンプルホルダ22を有する。
【0122】
ビーム形状化機器10は、ビーム形状化素子28を有し、これは、X線源20から入力ビーム32を受容し、出力ビーム形状を有する出力ビーム34を生成するように構成される。ビーム形状化素子は、前述の任意の実施形態または実施例、または本願の任意の請求項によるビーム形状化素子であってもよい。
【0123】
この方法は、傾斜軸の周りの、サンプルホルダにより保持されたサンプルの傾斜角を得ることと、可変傾斜角に依存して出力ビーム形状の移動を制御することとを有する。
【0124】
サンプルの傾斜角を得ることは、X線解析装置から、傾斜軸の周りのサンプルの傾斜角を表す信号を得ることを有してもよい。
【0125】
ある例では、サンプルの傾斜角を得ることは、X線解析装置から、傾斜軸の周りのサンプルホルダの傾斜角を表す信号を得ることを有してもよい。サンプルがサンプルホルダに対して固定された位置に保持される場合、サンプルホルダのこの傾斜角は、傾斜軸の周りのサンプルの傾斜角の指標も提供する。
【0126】
ある例では、(サンプルホルダの傾斜による)サンプルの傾斜、およびビーム形状化素子の移動は、中央制御器により制御され、および/または単一の制御プログラムまたはソフトウェアプログラムに従って制御されてもよい。この場合、傾斜角χを得ることは、単に、制御器またはソフトウェアにより定められた、または把握された傾斜角を参照し、あるいはアクセスすることを有してもよい。他の例では、傾斜角は、例えば、外部傾斜角制御器と通信することにより、得られてもよい。
【0127】
移動は、好ましくは回転を含み、制御器は、出力ビーム形状の回転を制御して(例えば、サンプルホルダ22の傾斜角と一致または相関するように、出力ビーム形状の回転を制御することにより)、サンプルの可変傾斜角χと一致しまたは相関するように適合される。
【0128】
本発明の実施形態によるビーム形状化機器は、X線回折解析を実施する際の使用に特に有意である。特に、機器は、X線回折を用いたサンプルのテクスチャ解析または応力解析を実施する際の使用に、特に有意である。そのような手順では、通常、ある範囲の傾斜角でサンプルの回転が実施され、異なる結晶方位に沿った分析が可能となる。
【0129】
XRD解析を行う際、異なる幾何配置が可能であり、これは、異なる種類の特性の測定に有用である。幾何形状の1つの種類は、平行ビーム形状であり、この場合、平行(すなわち、非発散)X線ビームがサンプルに誘導される。平行ビーム形状は、サンプル応力、テクスチャ解析、および深さプロファイリングに特に有益である。これは、特に、一定ではない表面高さを有する粗いサンプル、または層状化サンプルに対して、高品質の結果を得ることができる。本発明の実施形態は、平行ビーム幾何学的構成における使用に特に有意である。
【0130】
前述のように、実施形態は、制御器を利用する。制御器は、ソフトウェアおよび/またはハードウェアを用いて、多くの方法で実施することができ、要求される各種機能を実行できる。プロセッサは、制御器の一例であり、これには、1または2以上のマイクロプロセッサが用いられる。これは、ソフトウェア(例えば、マイクロコード)を使用してプログラム化され、必要な機能が実行されてもよい。しかしながら、制御器は、プロセッサを用いて、または用いずに実施されてもよく、いくつかの機能を実行する専用ハードウェアと、他の機能を実行するプロセッサ(例えば、1または2以上のプログラム化マイクロプロセッサおよび関連する回路)との組み合わせとして実施されてもよい。
【0131】
本開示の各種実施形態において使用され得る制御器部材の例には、これに限られるものではないが、従来のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)が含まれる。
【0132】
各種実施形態において、プロセッサまたは制御器は、RAM、PROM、EPROM、およびEEPROMのような揮発性および不揮発性コンピュータメモリのような、1または2以上の記憶媒体に関連されてもよい。記憶媒体は、1または2以上のプログラムで符号化され、1または2以上のプロセッサおよび/または制御器で実行される際、必要な機能が実行されてもよい。各種記憶媒体は、プロセッサまたは制御器内に固定されてもよく、あるいは移送可能であり、そこに保管された1または2以上のプログラムがプロセッサまたは制御器にロードされてもよい。
【0133】
当業者には、図面、開示および添付の特許請求の範囲の研究から、クレーム発明を実施する際に、開示された実施形態に対する変更を理解し、実施することができる。請求項において、「有する」と言う用語は、他の要素またはステップを除外するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は、複数を除外するものではない。単一のプロセッサまたは他のユニットで、特許請求の範囲に記載されたいくつかの項目の機能を果たすことができる。単に、ある手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという事実は、これらの手段の組み合わせが有意に使用できないことを表すものではない。前述のコンピュータプログラムについて記載されている場合、これは、光記憶媒体、または他のハードウェアとともに、またはその一部として供給される半導体媒体のような、好適な媒体に保管/分配されてもよく、インターネットまたは他の有線もしくは無線通信システムのような、他の形態で分配されてもよい。特許請求の範囲または明細書において、「適合される」と言う用語が使用される場合、「適合される」と言う用語は、「構成される」と言う用語と等価であることが留意される。請求項における参照符号は、その範囲を限定するものと解してはならない。