(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-11
(45)【発行日】2024-06-19
(54)【発明の名称】高分子アニオン伝導膜
(51)【国際特許分類】
C08G 65/40 20060101AFI20240612BHJP
C07D 211/22 20060101ALI20240612BHJP
C07D 471/10 20060101ALI20240612BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240612BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20240612BHJP
【FI】
C08G65/40
C07D211/22 CSP
C07D471/10 101
C08J5/18 CEZ
H01M8/0221
(21)【出願番号】P 2022503791
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2020070153
(87)【国際公開番号】W WO2021013694
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-10-26
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オリバー コンラーディ
(72)【発明者】
【氏名】アルチョム マルヨッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド レーグル
(72)【発明者】
【氏名】ジャンルイジ ルッピ
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104829814(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106750303(CN,A)
【文献】特表2019-518809(JP,A)
【文献】国際公開第2017/172824(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/40
C07D 211/22
C07D 471/10
C08J 5/18
H01M 8/0221
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の単位を少なくとも1つ有する化合物。
【化1】
(式中、Xは、C
1およびC
2に結合し、かつ2つの結合を介して、1~12個の炭素原子を有する1つまたは2つの炭化水素ラジカルに結合する、正電荷を帯びた窒素原子からなる構成要素であり、Zは、C
3およびC
4に結合している炭素原子と、1つの酸素原子に直接結合している少なくとも1つの芳香族6員環と、からなる構造要素であり、且つ、前記Zの構造要素は、式(IIIa)の単位である。)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、同一のまたは異なる1~4個の炭素原子を有するアルキル基である。)
【請求項2】
式(Ia)または式(Ib)で表される、請求項1記載の化合物。
【化3】
(式中、Yは、同一のまたは異なるハロゲンであり、Mは、1~500の整数であり、X及びZは、前記に同じである。)
【請求項3】
前記構成要素Xが式(IIa)または式(IIb)の単位である、請求項1
又は2に記載の化合物。
【化4】
【請求項4】
発生した前記構成要素Xうちの50%超が前記式(IIa)または前記式(IIb)の単位である、請求項
3記載の化合物。
【請求項5】
前記R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ、メチル基またはtert-ブチル基である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ、メチル基である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
式(IVa)~式(IVd)の少なくとも1つで表される、請求項1~
6のいずれか1項に記載の化合物。
【化5】
(式中、M
aおよびM
bは、1~500の整数である。)
【請求項8】
式(V)の化合物を式(VIa)~式(VIb)から選択される1つの化合物と反応させる工程を有する、請求項1~請求項7のいずれか1項記載の化合物の製造方法。
【化6】
【請求項9】
アルキル化試薬を使用する工程を有する、請求項
8記載の方法。
【請求項10】
メチル化試薬を使用する工程を有する、請求項
8記載の方法。
【請求項11】
アニオン伝導膜として、またはアニオン伝導膜の製造のための、請求項1~請求項
7のいずれか一項記載の化合物の使用。
【請求項12】
電気化学的プロセス、および燃料電池技術から選択されるプロセスで使用する成分の製造のための、請求項
11記載の化合物の使用。
【請求項13】
請求項1~請求項
7のいずれか一項記載の化合物を含む電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある種のスピロまたはピペリジン構造単位を有する化合物、特に高分子化合物と、その製造方法と、特にアニオン伝導膜としてのその使用と、を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子イオン伝導膜は長い間知られている。特許文献1、特許文献2および特許文献3記載の膜は、高度にフッ素化されたポリマー骨格をベースとしている。
【0003】
特許文献4および特許文献5では、アニオン伝導膜を製造しており、多孔質フィルムに、ビニル基を有する種々のモノマーの混合物を含浸させ、ビニル基の少なくとも1つはハロゲン基(塩素基)を有しており、多孔質フィルム表面をそれぞれポリエステルフィルムで覆い、次いで熱重合を行う。次いで、このようにして得られた材料をトリメチルアミンまたはヨウ化メチルで処理し、その後NaOHで処理する。特許文献6では、トリメチルアミンによる処理の後、Na2CO3で処理する。
【0004】
特許文献7では、ポリスルホンのクロロメチル化と、それに続くトリメチルアミン処理によって得られたポリマーを含むポリマー溶液を硬化させることにより、アニオン伝導膜を得ている。
【0005】
特許文献8は、四級化ピペリジン基を含むポリマーと、その調製方法と、アニオン交換膜と、その製造方法と、を開示している。ポリマーの主鎖は、主にベンゼン環からなり、作製されるアニオン交換膜は機械特性に優れている。側鎖の四級化ピペリジン基(カチオン基)は、耐アルカリ性に優れている。ポリマーの合成方法は簡単で、イオン基の含有量は制御可能であり、前記ポリマーを使用して、優れた機械特性、高伝導性、および強力な耐アルカリ性という利点を持ったアニオン交換膜を製造することができる。
【0006】
特許文献9は、エーテル結合を持たない剛性の芳香族ポリマー骨格に導入された、アルカリ安定カチオンであるピペリジニウムを有するポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーを開示している。これらのポリマーから形成される水酸化物交換膜または水酸化物交換アイオノマーは、従来の水酸化物交換膜またはアイオノマーと比較すると、優れた化学的安定性、水酸化物伝導性、低減された吸水率、選択溶媒への良好な溶解性、そして周囲乾燥状態での改善された機械的特性を示す。ポリ(アリールピペリジニウム)ポリマーからなる水酸化物交換膜燃料電池は、比較的高温において、改善された性能と耐久性を示している。
【0007】
T. H. ファム、J. S. オルソン、およびP. ヤナッシュは、アニオン交換膜用のペンダントN-スピロ環式第4級アンモニウムカチオンを有するポリ(アリーレンアルキレン)と、ピペリジン系第4級アンモニウムカチオンで官能化された水酸化物イオン伝導性ポリ(ターフェニルアルキレン)と、それらの合成と、を開発した(非特許文献1および非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開公報第2005/045978A2号
【文献】米国特許公開公報第2009/325030A1号
【文献】米国特許公開公報第2004/0121210A1号
【文献】欧州特許公報第2224523B1号
【文献】米国特許公開公報第2014/0014519A1号
【文献】欧州特許公報第2296210A1号
【文献】欧州特許公報第2606954A1号
【文献】中国特許公報第104829814B号
【文献】国際公開公報第2017/172824A1号
【非特許文献】
【0009】
【文献】T. H.ファム、J. S. オルシュファン、P. ヤナッシュ、J. メイター、Chem. A、2018年、6、16537~16547頁
【文献】T. H.ファム、J. S. オルシュファン、P. ヤナッシュ、J. メイター、Chem. A、2019年、7、15895~15906頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、アニオン伝導ポリマーとして適した代替化合物、またはアニオン伝導ポリマーの製造に適した代替化合物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、この課題は、以下および特許請求の範囲に記載の本発明に係る化合物によって解決できることを見出した。
【0012】
したがって、本発明は、特許請求の範囲および以下に記載される化合物を提供するものである。
【0013】
本発明は、同様に、そのような化合物の製造方法と、アニオン伝導膜として当該化合物の使用と、これらの膜自体と、を提供する。
【0014】
本発明に係るポリマーは、簡単な方法で調製できるという利点を持っている。
【0015】
それから調製される膜は、高い寸法安定性と相まって、非常に高い機械的安定性と低い膨潤特性を有しているという利点がある。さらに、当該膜は、非常に高いアニオン伝導率を示す。
【0016】
本発明に係る化合物、方法および用途は、本発明が以下の例示的な実施形態に限定されることを意図することなく、以下の例によって説明される。範囲、一般式、または化合物群を以下に規定する場合、これらは、明示的に言及されている対応する範囲または化合物群だけでなく、個々の値(範囲)または化合物を除くことによって得られる部分範囲および部分化合物群の全てを包含することを意図している。本明細書の文脈で文献が引用される場合、それらの内容は、特に言及された事項に関して、本発明の開示内容の一部を完全に形成するものとする。以下に規定されている百分率は、特に明記されていない限り、重量百分率である。以下に平均値を報告する場合は、特に明記しない限り、これらは数値平均である。以下、材料の特性(例えば、粘度など)に言及する場合は、特に明記しない限り、25℃での当該材料の特性である。本発明において化学式(実験式)を使用する場合、規定された指数は、絶対数だけでなく平均値であってもよい。
【0017】
本発明は、式(I)の単位を少なくとも1つ有する化合物を提供する。
【0018】
【0019】
(式中、Xは、C1およびC2に結合し、かつ2つの結合を介して、1~12個、好ましくは1~6個、より好ましくは1個または5個の炭素原子を有する1つまたは2つの炭化水素ラジカルに結合する、正電荷を帯びた窒素原子からなる構成要素であり、Zは、C3およびC4に結合している炭素原子と、1つの酸素原子に直接結合している少なくとも1つの芳香族6員環と、からなる構造要素であり、前記芳香族環は、1つまたは複数のハロゲン、および/または1つまたは複数のC1~C4-アルキルラジカルで置換されていてもよい。)
【0020】
好ましくは、本発明に係る化合物は、式(Ia)または式(Ib)で表される。
【0021】
【0022】
(式中、Yは、同一のまたは異なるハロゲン、好ましくはフッ素であり、Mは、1~500、好ましくは5~250の整数であり、Xは、C1およびC2に結合し、かつ2つの結合を介して、1~12個、好ましくは1~6個、より好ましくは1個または5個の炭素原子を有する1つまたは2つの炭化水素ラジカルに結合する、正電荷を帯びた窒素原子からなる構成要素であり、Zは、C3およびC4に結合している炭素原子と、1つの酸素原子に直接結合している少なくとも1つの芳香族6員環と、からなる構造要素であり、前記芳香族環は、1つまたは複数のハロゲン、および/または1つまたは複数のC1~C4-アルキルラジカルで置換されていてもよい。)
【0023】
構成要素Xは、好ましくは、式(IIa)または式(IIb)の単位である。
【0024】
【0025】
最も好ましくは、本発明に係る化合物中に発生した構成要素Xの50%超、好ましくは75%超、最も好ましくは90%超が前記式(IIa)または前記式(IIb)の単位である。発生率は、例えば、1H-NMRおよび/または13C-NMRによって測定することができる。
【0026】
構成要素Zは、好ましくは、式(IIIa)の単位である。
【0027】
【0028】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、同一のまたは異なる-H、あるいは1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ、好ましくはメチル基またはtert-ブチル基、より好ましくはメチル基である。)
【0029】
本発明に係る化合物は、好ましくは、式(IVa)~式(IVd)の少なくとも1つである。
【0030】
【0031】
(式中、MaおよびMbは、1~500、好ましくは5~250の整数であり、前記芳香族環は、1つまたは複数のハロゲン、および/または1つまたは複数のC1~C4-アルキルラジカルでさらに置換されていてもよい。)
【0032】
最も好ましい本発明に係る化合物は、式(I)、式(Ia)、式(Ib)、式(IVa)、式(IVb)、式(IVc)および式(IVd)の化合物中の芳香族環が、1つまたは複数のハロゲン、あるいは1つまたは複数のC1~C4-アルキルラジカルでさらに置換されていないものである。
【0033】
本発明に係る化合物は、例えば、以下に記載する本発明に係る方法によって得ることができる。
【0034】
本発明に係る方法は、式(V)の化合物を、式(VIa)または式(VIb)から選択される化合物と反応させる工程を有する。
【0035】
【0036】
(式中、芳香族環は、1つまたは複数のハロゲン、および/または1つまたは複数のC1~C4-アルキルラジカルでさらに置換されていてもよい。)
この反応工程を100~300℃の温度、より好ましくは125~175℃の反応温度で実施することが好ましい。最も好ましくは、反応混合物が沸騰する温度で反応工程を行い、攪拌しながら行うことが好ましい。反応工程を不活性ガス雰囲気下、好ましくは窒素雰囲気下で行うのが最も好ましい。生成されたメタノールおよび/または水を反応容器の上部で除去することが好ましい。K2CO3の存在下で反応工程を行うのが好ましい。
【0037】
有機溶媒の存在下で反応工程を行うのが好ましい。好ましくは、ジメチルアセトアミドを溶媒として使用する。
【0038】
好ましくは、本発明に係る方法は、アルキル化試薬、好ましくはメチル化試薬を使用する工程を含む。使用される好ましいメチル化剤は、ヨードメタンである。好ましい本発明に係る方法では、式(V)、式(VIa)および式(VIb)の化合物中の芳香族環は、1つまたは複数のハロゲン、あるいは1つまたは複数のC1~C4-アルキルラジカルでさらに置換されていない。
【0039】
本発明に係る化合物は、種々の目的に使用することができる。好ましくは、本発明に係る化合物はポリマーであり、アニオン伝導膜として、またはアニオン伝導膜の製造のために使用される。
【0040】
好ましくは、本発明に係る化合物は、電気化学的プロセス、好ましくは電解技術、電気透析技術、および燃料電池技術から選択されるプロセスで使用する成分の製造に使用される。
【0041】
本発明の別の態様は、本発明に係る化合物を使用することを特徴とするアニオン伝導膜の製造方法と、本発明に係る化合物を使用することを特徴とする、電気化学的プロセス、好ましくは電解技術、電気透析技術、および燃料電池技術から選択されるプロセスで使用され得る成分の製造方法と、である。
【0042】
したがって、本発明の別の態様は、上記の本発明に係る化合物を含むことを特徴とする電解槽である。
【0043】
以下の実施例は、本発明を例示する目的で記載されているが、明細書および特許請求の範囲全体からその適用範囲が明らかである本発明を、実施例で規定された実施形態に限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0044】
実験例1:ピペリジン含有モノマー(VIb)の合成
内部温度計と、マグネチックスターラー付加熱装置と、還流冷却器とを備える1つの500mL三ツ口フラスコに、150gの酢酸と、17g(0.15モル)のN-メチルピペリドンと、49g(0.40モル)の2,6-ジメチルフェノールと、30gの濃塩酸と、を投入した。続いて、この溶液を撹拌しながら90℃に加熱した。反応時間の経過とともに、生成物のかなりの部分が沈殿した。40時間後、反応塊を室温に冷却した。結晶化した沈殿物を濾別し、少量の酢酸で3回洗浄し、250gの水と400gのエタノールとの混合物に懸濁させた。続いて、懸濁液を80℃に加熱して、懸濁物質を溶解させた。アンモニア溶液を加えることにより、N-メチル-4,4-ビス(3‘,5‘-ジメチル、4‘-ヒドロキシフェニル)-ピペリジンモノマーが沈殿した。室温に冷却した後、これを濾別し、フィルターケーキを水で3回洗浄し、真空中で一晩乾燥させた。
【0045】
実験例2:ピペリジン含有ポリマーの合成
油浴と、メカニカルスターラーと、戻り率を調節でき、凝縮水を除去できる蒸留ヘッド冷却器付き充填カラムとを備える500mL三ツ口フラスコ内で合成を行った。合成開始時、0.09モル(30.51g)のN-メチル-4,4-ビス(3‘,5‘-ジメチル、4‘-ヒドロキシフェニル)-ピペリジンと、0.09モル(19.62g)の4,4‘-ジフルオロベンゾフェノンと、105gのジメチルアセトアミドと、0.135モルの微粉砕K2CO3と、を窒素雰囲気下、室温で1時間かけて混合した。その後、油浴の温度を235℃に上げて、反応混合物を沸騰させた。カラムを使用して、生成された水を除去し、55gのジメチルアセトアミドを反応混合物に加えた。4時間後、追加の50gのジメチルアセトアミドを反応混合物に加え、油浴の温度を190℃に下げた。10時間後、油浴の加熱を止め、反応生成物を室温まで冷却し、水に流し込んだ。生成物をお湯で2回、かつエタノール:水=1:1(体積比)の混合物で1回洗浄した。最後に、それを真空下125℃で一晩乾燥させた。収量は45gで、ほぼ化学量論的であった。
【0046】
実験例3:実験例2のピペリジン含有ポリマーの四級化
実験例2のポリマー(10g)を、50℃で1時間撹拌しながら45gのジメチルアセトアミドに溶解した。ポリマー溶液を30℃まで冷却した後、4.13gのヨードメタンをポリマー溶液にゆっくりと滴下して加え、それをさらに2時間撹拌した。200ミリバールで真空ポンプを使用してポリマーを四級化した後、過剰のヨードメタンを除去し、気相を、30重量%KOH水溶液で満たされた2つの連続配置されたガス洗浄ボトルに通した。
【0047】
実験例4:実験例3のピペリジン含有ポリマーの膜キャスティング
実験例3の四級化ポリマー溶液を、膜の調製に直接使用した。必要量のポリマー溶液をシリンジで吸い取り、0.45μmPTFEフィルタを通して、40℃に予熱したガラスプレートに直接塗布した。ガラスプレートをコーティングするために、ドクターブレードを備えたアプリケーターを5mm/秒の速度でガラスプレート上を自動で通過させた。塗布した湿潤層を、窒素雰囲気下、室温で12時間予備乾燥し、次いで真空下60℃で6時間乾燥した。
【0048】
実験例5:スピロ含有モノマー(VIa)の合成
マグネチックスターラーと、温度制御装置と、コンデンサとを備えた2L三ツ口フラスコ内で、36g(0.26モル)のK2CO3を150mLのEtOHに溶解した。次いで、57.3g(0.40モル)の1,4-ジオキサ-8-アザスピロ[4,5]デカンを800mLのEtOHに溶解し、三ツ口フラスコに移した。その後、温度を35℃に調整した。続いて、150mLのEtOHに92g(0.40モル)の1,5-ジブロムペンタンを入れた溶液を12時間にわたって滴下して加えた。70時間後、反応生成物を室温に冷却し、沈殿したKBrを濾過により分離し、溶液をロータリー・エバポレーターで濃縮した。濃縮工程中に、追加量のKBrが結晶化し、それを濾別した。80℃未満の温度で固化した濾液を濾過し、さらに精製することなく、スピロ含有モノマー(VIa)を合成するための抽出物の1つとして使用した。
【0049】
マグネチックスターラーと油浴を備えた500mL丸底フラスコに、51.5g(0.177モル)の上記分子と、0.44モルの2,6-ジメチルフェノールと、20g(0.21モル)のメタンスルホン酸と、1gの水と、0.90g(0.005モル)の3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウムと、を100℃で70時間撹拌した。混合物を室温に冷却し、200gの水と3回混合した。その後、10ミリバールの圧力で蒸留して、揮発性物質を除去した。スピロ含有モノマー(VIa)は部分的に固化し、水とEtOHの25体積%混合物中で2回再結晶化した。
【0050】
実験例6:スピロ含有ポリマーの合成
油浴と、メカニカルスターラーと、戻り率を調節でき、凝縮水を除去できる蒸留ヘッド冷却器付き充填カラムとを備える500mL三ツ口フラスコ内で合成を行った。合成開始時に、0.01モル(4.89g)の3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-6-アザスピロ[5.5]ウンデカン-6-イウムメタンスルホネートと、0.01モル(2.18g)の4,4‘-ジフルオロベンゾフェノンと、15gのジメチルアセトアミドと、0.0125モル(1.73g)の微粉砕K2CO3と、を窒素雰囲気下、室温で1時間かけて混合した。その後、油浴の温度を235℃に上げ、反応混合物を沸騰させた。カラムを使用して、生成された水を除去し、8gのジメチルアセトアミドを反応混合物に加えた。10時間加熱した後、油浴を止め、反応生成物を室温に冷却し、酢酸エチルに流し入れた。生成物をお湯で3回、かつエタノール:水=1:1(体積比)の混合物で1回洗浄した。最後に、それを真空下110℃で一晩乾燥させた。
【0051】
実験例7:実験例6のスピロ含有ポリマーの膜キャスティング
実験例6のポリマー10gを、50℃で1時間撹拌しながら、30gのジメチルアセトアミドに溶解した。必要量のポリマー溶液をシリンジで吸い取り、0.45μmPTFEフィルタを通して、40℃に予熱したガラスプレートに直接塗布した。ガラスプレートをコーティングするために、ドクターブレードを備えたアプリケーターを5mm/秒の速度でガラスプレート上を自動で通過させた。塗布した湿潤層を、窒素雰囲気下、室温で12時間予備乾燥し、次いで真空下60℃で6時間乾燥した。
【0052】
実験例8:スピロ含有ブロックコポリマーの合成
工程1:
マグネチックスターラーと、加熱装置と、還流冷却器とを備えた100mL三ツ口フラスコ内で、0.02モル(6.72g)の4,4‘-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールと、0.018モル(3.924g)の4,4‘-ジフルオロベンゾフェノンと、を24gのジメチルホルムアミドに溶解した。0.0225モル(3.1g)の粉砕K2CO3を加えた後、すべての抽出物を4時間還流し、窒素雰囲気下で室温まで冷却した。
【0053】
工程2:
メカニカルスターラーと、加熱装置と、留出物除去ヘッド付きカラムとを備えた250mL三ツ口フラスコ内で、0.02モル(9.78g)の実験例5のスピロ含有モノマー(VIa)と、0.022モル(4.79g)4,4’-ジフルオロベンゾフェノンと、0.0225モル(3.1g)の粉砕K2CO3と、を35gのジメチルホルムアミドに混合し、沸騰するまでゆっくりと加熱した。その結果、難溶性の沈殿物が形成され、それは反応の過程で完全に分離された。反応中に生成された水をカラムヘッドで除去した。抽出物の混合物を15時間還流し、次いで窒素下で室温まで冷却した。
【0054】
工程3:
工程1の反応生成物を工程2の反応生成物にゆっくりと加え、25gのジメチルホルムアミドをこの混合物に加えた。装置を窒素でパージし、還流下で撹拌しながら6時間沸騰させた。溶液を窒素雰囲気下で室温まで冷却した。
【0055】
実験例9:実験例8のスピロ含有ブロックコポリマーの膜キャスティング
実験例8のポリマー10gを50℃で1時間撹拌しながら30gのジメチルアセトアミドに溶解した。必要量のポリマー溶液をシリンジで吸い取り、0.45μmPTFEフィルタを通して、40℃に予熱したガラスプレートに直接塗布した。ガラスプレートをコーティングするために、ドクターブレードを備えたアプリケーターを5mm/秒の速度でガラスプレート上を自動で通過させた。塗布した湿潤層を、窒素雰囲気下、室温で12時間予備乾燥し、次いで真空下60℃で6時間乾燥した。
【0056】
実験例10:膜のイオン交換
実験例4、7および9でそれぞれ調製した膜をイオン交換した:膜サンプルを60℃で24時間、1M KOH水溶液中に置いた。その後、膜サンプルを脱イオン水でリンスし、新鮮な脱イオン水中に60℃で1時間ずつ3回置いた。続いて、膜サンプルを新鮮な脱イオン水中で室温で一晩保管した。
【0057】
実験例11:イオン移動度(IC)の測定
実験例10のイオン交換膜サンプルの面内イオン移動度を、従来の4電極配置でインピーダンススペクトル法(EIS)によって測定した。膜サンプルを市販のBT-112セル(Bekk Tech LLC社製)に取り付け、2本の外側Ptワイヤをサンプルの下に配置し、2本の中点Ptワイヤをサンプルの上に配置した。BT-112セルを2枚のPTFEプレートの間に取り付け、脱イオン水で満たした。脱イオン水の温度を水浴で制御し、ポンプで脱イオン水をセルを通して恒久的に流した。膜抵抗(Rmembrane)は、広く使用されているR(RC)Randles型等価回路を使用して、取得したEISスペクトルをフィッティングすることによって計算した。膜サンプルのイオン移動度(σ)は式(1)から得られる。
σ=L/(Rmembrane*A) (1)
(式中、LはPtワイヤ間の距離(5mm)であり、Aは2本の外側Ptワイヤ間の膜サンプルの面積である。)
膜ごとに3つのサンプルに対して測定を繰り返し、平均±標準偏差を計算した。
【0058】
2つの市販のイオン交換膜を同じ方法でテストした。測定結果を表1に示す。
【0059】
実験例12:吸水率(WU)の測定
実験例10のイオン交換膜サンプル(テストした膜ごとに3サンプル)を、吸水率の測定に使用した。すべてのサンプルを40℃、25ミリバールの真空オーブンで24時間乾燥させた後、デシケーターで室温まで冷却し、重量を測定した。吸水率を測定するために、膜サンプルを25℃の脱イオン水中で24時間保管した。続いて、各サンプルの重量を再度測定した。このために、濾紙を用いて付着した水を膜から除去した。各測定を3回繰り返し、平均±標準偏差を計算した。吸水率(WU)は、式(2)から得られる。
WU=(mwet-mdry)/mdry*100% (2)
(式中、mwetは膨潤後のサンプルの質量であり、mdryは乾燥後のサンプルの質量である。)
【0060】
2つの市販のイオン交換膜を同じ方法でテストした。 測定結果を表1に示す。
【0061】
実験例13:寸法安定性(DS)の測定
寸法安定性の測定には、実験例10のイオン交換膜サンプル(テストした膜ごとに3サンプル)を使用した。すべてのサンプルを40℃、25ミリバールの真空オーブンで24時間乾燥させた後、デシケーターで室温まで冷却した。 サンプル長さ、サンプル幅、サンプル厚さなどのパラメータを測定した。膨潤挙動を測定するために、膜サンプルを25℃の脱イオン水中で24時間保管した。続いて、サンプル長さ、サンプル幅、およびサンプル厚さを再度測定した。 このために、濾紙を用いて付着した水を膜から除去した。各測定を3回繰り返し、平均±標準偏差を計算した。長さ、幅、および厚さの膨潤挙動(寸法安定性、DSと呼ばれる)は、式(3)から得られる。
DS=(Xwet-Xdry)/Xdry*100% (3)
(式中、Xwetは膨潤後のサンプルの長さ、幅、または厚さであり、Xdryは乾燥したサンプルの長さ、幅、または厚さである。)
【0062】
2つの市販のイオン交換膜を同じ方法でテストした。 測定結果を表1に示す。
【0063】
実験例14:さまざまな温度の脱イオン水中での機械的強度の測定(DMA)
実験例10のイオン交換膜サンプル(テストした膜ごとに3サンプル)を、25℃の脱イオン水中で24分間保管した。サンプルを測定システム(ウォーターバス付きDMA 8000)に取り付ける前に、各膜サンプルの幅と厚さを測定した。各測定を3回繰り返し、平均±標準偏差を計算した。DMA測定は、次のように実施した;静的予圧した2つの垂直な支柱の間に膜サンプルを取り付ける。サンプルに静的予圧をかけるために、クランプ間の距離(自由行程長さlとも呼ばれる)を取り付け時に約1mm短縮する。試料を2つのステープルの間に固定し、次いで、元の自由行程長さを復元し、試料を引き伸ばす。サンプルが完全に水で覆われるように、テストセットアップ全体を温水浴内の脱イオン水に浸す。測定手順では、室温(25℃)~90℃までの温度範囲、2K/分の加熱速度でサンプルを検査する。この温度間隔内で、膜サンプルを、1Hzの周波数、0.1%の伸び率εで正弦曲線状に連続でロードする。伸び率(%)は、式(4)から得られる。
ε=△l/l (4)
(式中、Δlはサンプルの歪み(mm)であり、lは自由行程である。)
自由行程の長さl=10mmの場合、ε=0.1%で0.01mmの伸びとなる。力センサーにより、特定のひずみに必要な電圧を検出する。
【0064】
2つの市販のイオン交換膜を同じ方法でテストした。測定結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
FAA-3は、FUMATECH BWT GmbH社から市販されているアニオン交換膜である。
ナフィオンN-115は、The Chemours Company社から市販されているカチオン交換膜である。
1:これらのデータは、膜の厚さの変化を示している。
2:これらのデータは、OH-形で測定された膜の伝導率を示している。
3:これらのデータは、H+形で測定された膜の伝導率を示している。
4:すべての膜を60℃でOH形で測定した(ナフィオンはH+形で測定した)
【0067】
表1から、本発明に係る膜は、従来技術の膜のDMA値よりも少なくとも5倍高いDMA値を示していることが分かる。したがって、同等の機械的安定性を備えたより薄い膜を製造することが可能である。